04/08/19 第3回職業能力開発の今後の在り方に関する研究会議事録          第3回職業能力開発の今後の在り方に関する研究会                        日時 平成16年8月19日(木)                           13時30分〜                        場所 厚生労働省省議室(9階)                  ┌――――――――――――――――――――┐                  |(照会先)               |                  |厚生労働省職業能力開発局        |                  |総務課企画・法規係           |                  |TEL:                |                  |03−5253−1111(内線5313)|                  |03−3502−6783(夜間直通)  |                  |FAX:                |                  |03−3502−2630        |                  └――――――――――――――――――――┘ ○諏訪座長  ただいまから「第3回職業能力開発の今後の在り方に関する研究会」を開催いたしま す。本日は大変お暑いところをお集まりいただきましてありがとうございます。事務局 内において異動があったそうですので、ご紹介願いたいと思います。 ○総務課長補佐(佐々木)  7月に事務局内で人事異動がありましたので、異動があったメンバーをご紹介いたし ます。三上基盤整備室長、久保村能力開発課長、能力開発課長から異動になりました室 川育成支援課長、担当補佐の佐々木と申します。よろしくお願いします。以上です。 ○諏訪座長  では議題に入ります。本日は企業の現場に関するヒアリングを予定しております。職 業能力開発の実態を把握するために、企業並びに労働者の皆様から、企業における人材 育成の在り方やその問題点、既存の施策や今後必要な施策に対するご意見をお聞きして いこうというものでございます。  そこで本日は、積極的にキャリアカウンセリングに取り組んでいらっしゃる伊藤忠商 事株式会社の浅川正健様、及びOJTを軸に人材育成を行っている株式会社エージーピ ーの竹淵和男様にお越しいただいております。それぞれ短い時間のご報告をお願いして いて大変恐縮ですが、是非委員の先生方との間で有益な意見交換をさせていただければ と思っています。そこで、まず事務局のほうから浅川様のプロフィールを簡単にご紹介 いただきまして、その後で浅川様からお話をお願いしたいと思います。 ○総務課長補佐  伊藤忠商事株式会社人事部キャリアカウンセリング室長の浅川様について簡単にご紹 介いたします。浅川様は1973年に入社され、最初、エネルギー本部にご配属、その後、 ロンドン、メルボルンなどで海外勤務をご経験され、1990年から東京の本社で人事部に ご配属になられております。1997年、会社内会社のエネルギー・化学品カンパニーで人 事総務チーム長にご就任されまして、2001年から人事部のキャリアカウンセリング室長 にご就任されています。その間、2000年にCDA(キャリア・ディベロップメント・アド バイザー)を取得され、また、2001年12月にJapan-APT認定MBTIユーザーとなられ ております。その他、日本キャリア開発協会会員、全米キャリア開発協会会員、日本産 業カウンセリング学会会員でもいらっしゃいます。 ○諏訪座長  それではご説明をお願いしたいと思いますが、大体25分ほどご説明をいただいた後で 質疑応答というふうに予定をしています。よろしくお願いいたします。 ○浅川氏  伊藤忠商事の浅川でございます。よろしくお願いします。  こういう貴重な機会をいただきまして誠にありがとうございます。後ほどまた話題に なるかもしれませんが、私は人事部内にキャリアカウンセリング室を作りまして、今そ の室長を務めております。厚生労働省には本当に日頃お世話になっておりますし、皆さ んの講演を伺ったりご本を読ませていただいて、これまで大変勉強になりました。逆に こういう立場でお話をさせていただくということで少し緊張しておりますが、今日は少 しでもお役に立てばと思ってまいりました。よろしくお願いします。  私は、今ご紹介にありましたように、1973年、オイルショックの年に伊藤忠商事に入 りまして、今でいうエネルギー部門(当時は本部)に所属しました。それから17年間、 ロンドン、メルボルン、シドニーという9年間の海外の駐在を含めて、90年まで営業を 務めてきたというところでございます。  それから人事部に移りまして、最初は総括という所で、フレックスタイム制度を作っ たり、リフレッシュ休暇制度を作ったり、そういう新しい風を入れるというようなこと でスタートしました。その後たった2年間ではありますけれど、新入社員研修から部長 研修までを担当しました。当時は「新生き方名人講座」という名前をつけまして、中高 年研修を企画・運営し、自分で事務も講師もやってまいりました。それ以外にもMBA とか語学研修というあたりも担当した経緯があります。途中から人事部の研修チームが 伊藤忠アカデミー、キャプラン、伊藤忠人事サービスというように、母体の名前はしょ っちゅう変わりました。皆さんにも講師をお願いしておりますので、そのあたりを詳し くご説明申し上げました。  その後は、93年から97年まで、長として厚生チームという所で7,500名の福利厚生全 般を、住宅融資から財形貯蓄、社宅、寮、保養所、食堂、亡くなった社員のご遺族の フォロー、ありとあらゆることをしておりました。先ほどご紹介にあったような会社内 会社、ディビジョンカンパニー制度というのが97年にできまして、エネルギー・化学品 ・生活資材に関与する大体600人のカンパニーの社員の入社・採用から退職までを人事 担当、人事総務チーム長としてフォローしておりました。82年から84年まで労働組合を やっていたこともあります。海外委員長とか、専従で書記長も務めました。今、そうい う仕事が少し活きているかなという気がします。99年1月4日に、日本経済新聞でキャ リアカウンセリングのことが話題になりました。牧野昇さんと小野憲さんの対談です が、そこでこのようなことに初めて気付いたという大変なひよっ子でして、まだ5年 ちょっとしか経っておりません。その次の年、第1期生でありますが、日本マンパワー のCDAという資格を取得し、それから、MBTIの認定ユーザーの資格も取りまし た。そして、私がカウンセリングに気付いた2年後の2001年7月から、トライアルで社 内にキャリアカウンセリング室をスタートさせました。後ほど時間があったらもう少し 触れたいのですが、当時の丹羽社長にもこのことに気付いてもらってサポートを受け、 2002年7月から正式にスタートした部屋であるという位置づけを最初にお話しておきま す。この部屋の中では、完全にキャリアカウンセリングというものをやっております。 それをまとめて、経営との関係でやりとりするときにコンサルティング的にやっている という経緯がありますので、ときどきキャリアコンサルティングという話をしてしまっ たらお詫びしたいと思います。あらかじめ知っておいていただきたいと思います。  今日は伊藤忠のキャリアカウンセリング室という所で、どのように考えてどのように 動いているかのお話をしたいのですが、伊藤忠においてもまだまだキャリアカウンセリ ングは絶対のものではありません。以前と比べるとかなりの社員が、そして上司が理解 をしてくれるようになってきたというレベルです。でもそれが、数百人とか、本当に千 人に近いような人達が、気付いたり、キラキラしていくのを日々見られる仕事というこ とで、1つは誇らしい、そちらに向かって一斉に動き出したということはお話できるか なと思います。ただ、まだまだ日々悶えながら進んでいるというのが現状です。  それではレジュメに従ってお話をしていこうと思います。会社概要はほとんど不要だ とは思いますが、ただ、分かっていただきたいのは、伊藤忠商事というのは江戸時代安 政年間にできた会社でして、近江の繊維商人がスタートです。経営そのものは、2004年 7月に、丹羽前社長から、今年1月に55歳になったばかりの小林社長に引き継いだとい うことで少し話題になりました。従業員は、10年ほど前は7,500名いたのですが、今は 4,000名を切りそうな状態になっています。もう6割も切って5割になっていこうとい う状況です。他の大商社と比べると伊藤忠はまだまだ数字でがんばらないと相手にされ ないというところもありますから、経営数字はとても大事なのですが、一方で数字以上 に大事なのは、社員の心、顔、意気込み、そういうやりがいというところでして、その ことにこのキャリアカウンセリングということが何かお役に立つのではないかというこ とについて、丹羽さんは反応してくれたと。環境づくりという意味ではまさにこれから が大事なときではないかと思います。  3頁の1「企業における人材育成のポイント」、ちょっと生意気なことを書きまし た。どんな思いでやっているかを先に触れさせてください。  我が社では、「組織と個」、「経営と社員」、どちらも大切にすることを重視してい ます。どの企業でもスローガンは同じだと思うのですが、それを現場の社員が実感でき るようにしたいということです。経営から、人事部から、何かすばらしい手法や制度を 指導していく、発信していくということに腐心するだけではなくて、どうしたらこの厳 しい業界の、また、職場の環境の中で、社員だけでなく上司も気持ちよくキラキラと働 けるようにしてあげられるかと、そのサポートだと思っているのです。社員の活性化、 女性の活性化、若手社員の活性化と、わざわざスローガンを掲げなくても、そういうカ ルチャーができていけば会社は活性化する、ということを日々の仕事を通じて感じてい るというのが現状です。  4頁の2「キャリア・コンサルティング導入への着目点」ということですが、私が考 えたのは、まずは経営者の理解というのが必要なのではないだろうかと。ただ、通常 は、我々一兵卒にはチャネルがありませんから、まずは正規のルートで言い続けるこ と、これが1つだと思います。しかし、一方で、地道に実績を上げ、キャリアカウンセ リングをやるといいのだと、あそこで困っていた人が本当にいい顔になった、いい働き 方をしているというような、評価してくれる方を増やしていくこと、これを同時に行わ ないといけないということなのですね。そして、日頃チャンスがあれば、キャリアカウ ンセリングの意味をお話していく中で、この方はという経営者、スローガンだけではな くて人を大事にするという経営者を捜していくことだと思います。流行で部下に指示を する、キャリアカウンセリングをやったらどうだ、うちに部屋を作ろう、カウンセラー をつくれというような指示をする経営者のケースが散見されますけれど、ブームが過ぎ てしまうと、組織やカウンセラーがいても機能しないで、社員もカウンセラーも見殺し にされてしまうのではないかということを恐れるわけです。  もう1つ大きなポイントは2番目に書きましたが、「上司支援の重要性」ということ です。上司を支援するということに経営や人事部の目がいくかどうかということです。 本当は「上司」という社員が苦しんでいる、というのが現状ではないかと私は思いま す。現場を本当によく知っている経営者や人事部なら、上司を助けないと実は何にも変 わらないということはよくご存じなはずです。ところが、スローガンだけ、ご自分の部 下にしっかりとやれというだけの偉い方が多くて、上司も悩んでいるという事実がある ように思います。そこに、個別の相談にのって差し上げたり、部下や課長の研修などで できるだけ支援して差し上げるという機能がこのキャリア・コンサルティングにあると 思います。  3つ目は、「社員・上司への研修の必要性」であります。具体例を多くして、自らの 問題として一緒に考えてもらうということだと思っております。我々研修を実施する側 が間違ってはいけないのは、研修で理論やツール、問題点を教えてあげるというだけで はなくて、本当に気付いてもらい、「これはいかん」と感じてもらう。そして、「どう したらいいのか」、「なるほど、周囲もそんなに問題が起こっているのか」、「事前に 動くことが大事だ」、「それではどこに行ったらいいのだ」というあたりまで気付かせ てあげることではないかと思います。いまの人材育成、能力開発、研修が、上司や社員 が本当に気付いて、参加してよかったと言ってくれる研修になっているかどうかがポイ ントだと感じております。  4つ目はなかなか難しい問題ですが、「メンタルヘルス専門家との連携」という所で あります。これはとてつもなく大きな問題なのに、これまで企業の中で放置されてきて いて、国や企業が大事にしようと言うと、「そうだ、大事にしろ」という掛け声だけ で、自らが率先してその組織をよくしよう、健康で安全な職場づくりとは何か、何が本 当は問題なのか、どう手を打てばいいのかと、真剣に検討を始める方が少なかったので はないかというふうに思います。  昨年8月、当時の丹羽社長が社会経済生産性本部のメンタルヘルス大会で講演をした 際も、周囲からそのお話をうちの社長や人事部長に聞かせたいという声がとても多く上 がりました。また、メンタルヘルス関係のセミナーでお話をしますと、人事部、総務 部、健康管理室、健康保険組合、労働組合の方々、皆さん真剣に考えておられますが、 一般には人事部や経営などで現場目線でない方々が、何から動いていけばいいのか分か らないという問題が大きいのではないかなと思います。  職場の安全と健康についての研修・セミナーはとてもたくさんあります。でも、現場 は、国が指導するからとか、法律だからとか、就業規則で、という語り口では動きませ ん。現場の社員の目線で、何をカルチャーとし、どんな組織があれば、どんなカウンセ ラーがいれば社員が安心するかを見るということだと思います。要するにルールや規定 と現場の両方だと思うのですね。ちなみに4月に、今年初めて新入社員研修の場でお話 をしました。アンケート回答の内容を見ると、会社が社員を大事にすることがよく分か ったとか、困ったら相談に行きますとか、うれしいものが圧倒的に多かった状況です。  5頁の3、「相談室のあり方」ですが、相談室についてのご相談は企業からも大学の 方々からもいただきます。そのときは、「本当に社員が、そして上司が気軽に相談に行 ける部屋だろうか、ご自分が行ってみたいかどうかで判断してください」と、基本的に はいつもこうしたことをお話させていただいております。人事部の中がいいのか外がい いのかは状況次第です。人事部の中に置いたら様々なメリットがあります。例えば情報 を入手しやすい、上司の相談も受けやすい、人事部が今どんな人材戦略を持っているか など自動的に分かります。また、もちろん守秘義務には気をつけますが、現場で起きて いる問題を人事部や組織の問題として聞いてくれます。  一方、人事部だからということで来にくい方もいるわけです。それには丁寧に手を打 っていきます。社内の広報、研修、口コミ、部屋の中でお話をしていきます。また、内 部のコンサルタントの場合は逆に専門性を高めないと駄目だと思います。外のコンサル タントなら相談に行きやすいか、イエスもあるしノーもあります。社内のことがまるで 分からない状態で、社員からの文句・愚痴を聞いているだけでは、ご家族もお医者様も カウンセラーも本当のところが分からないことが多いと思います。私は社内に設置した ストレスマネジメントルームの外部の先生には、初めに来ていただいたとき、150年近く に亘る伊藤忠の歴史から特徴、先輩や上司の部下へのアプローチの仕方、指導の仕方、 トラブルの特徴までじっくりとお話をしました。今ではその先生と人事部長とお弁当を 食べながらというような会合を月に1回スタートさせております。  さて、「キャリア・コンサルタントの人間性・資質が大切」というところです。自分 のことだし仲間のことだからとてもお話しにくいのですけれど、企業内にこうした部屋 を作ろうとしたときにどうしても人事・労務の経験者に目がいきます。それも1つの見 識だと思います。でも、私が重視しているのは、自らカルチャーの違う海外や地方の企 業への出向などで苦労してこられた方、相談に来た社員の痛みがわかる方、そうした目 線を持っている方かどうかです。そういう方が50歳近くになってもしっかりと勉強し、 相談者のお役に立ちたいという姿勢があるかどうかで、カウンセラーとしての資質があ るかどうかが決まるのだと思います。また、相談室にそうした方を多く配置できれば社 員は安心して相談に来られるというわけです。当室のもう1人の総合職の有田室員はそ ういう中の1人でして、今年の初め、日本能率協会のHRDの大会でも話をしてもらっ ています。  さて、6頁、4つ目の伊藤忠のキャリアカウンセリング室についてお話をしようと思 います。先ほど話したように、この部屋は2001年7月にトライアルで立ち上げたもので す。でも、その当時は転職支援が主たる業務という位置付けでした。私はそれだけでは 嫌で、社員一人ひとりがキラキラすることを目的としたいと考えて、女性、決して女性 を差別しているのではなく、なかなか目が向けられないという意味ですが、外国の方 も、障害を持った方も、若い社員でも、誰でも来てくれる部屋にしたいと考えました。 また、キャリアカウンセリング室を運営していくに際しては、経営者との関係も大事で す。伊藤忠では丹羽さんという前の社長が気付いて、サポートしてもらえましたのでこ こまで来ました。  次に2番目の「6つの役割」という所です。1つ目は個人の、社員のキャリアカウン セリングです。メールを打ったり、部屋に何度も来られたりする方もおられます。日頃 忙しい上司と落ちついて話せない、あまりコミュニケーションがお得意でない上司、仕 事ができてもご自分の奥様にきちんと思いを伝えられない社員、どちらに問題があるか ということはどうでもよくて、要はちょっと聞いてほしいということが問題の解決につ ながります。それもできないで、悶えながら朝から晩まで仕事に打ち込んでいて、さて 自分はどこに向かってがんばっているのだろうという方に、自分のキャリアについて少 しお話を伺っていくという姿勢です。これがいまとても大事だと思いますが、まだあま りそう思っておられない方が社員にも上司にも多いのです。相談の中身というのは、ご 質問の中にもありましたから、後ほどお時間があればお答えしますが、非常に多岐にわ たります。上司とうまくいかないとか、考課・評価が納得できないとか、今言われてい る異動の話はとても辛いけれどもどうしたらいいか、果ては会社を辞めたい等、様々あ ります。そういうときにキャリアカウンセリングを通してキラキラしてもらいたいとい うことです。  2つ目は、上司も本人も、社外に働く場を本当に求めたい、社内に働く場がないとい うことであれば、キャリアカウンセリング室では全力で、専門的に転職のお手伝いをす るということです。そのために外で職域の開拓もしているということなのですね。履歴 書の書き方とか、面接のポイントだとか、契約書、アフターケアまでやっていると。で も、本当に大事なことは、ご本人が本当に新しいキャリアに挑戦したいと思われている のかどうか、挑戦した方が得だと思っておられるかどうかです。それ次第で喜びにもつ ながるし、恨まれることにもなりかねない、会社として絶対にきちんとすべきところだ と思っています。  3つ目は、当然キャリアカウンセリングを通してライフキャリアデザインを社員が考 える、自ら絵を描くときのお手伝いとして私がとても大事にしているメンタルヘルスの ことです。専門家との連携であって治療ではありません。4,000名の社員の中には、公 私を問わず何か悩みを抱えていない人は1人もいませんが、従来、会社も社員も甘えて はいけないと考えて、話を持っていく先もなく苦しみ、結局仕事に支障が出ていたので はないかということです。少なくとも話を聞いて差し上げて、必要に応じて専門家をご 紹介し、さらに組織・上司に一定の問題があると考えれば動くということです。逆に、 先ほど話したストレスマネジメントルームに行った方が、キャリアの問題だということ でこちらに話が回ってきて解決をしたなどというケースもあります。今、そういう連携 がとても大事なのではないかなと思います。  4つ目は、社員のカウンセリングという対処療法のみではなくて、根本的なカルチャ ーづくりには絶対忘れていけないのは上司に理解してもらうということであり、研修だ とか個別の相談で、上司に気付きを差し上げることだと考えています。先ほどお話した ように、実はいま「上司」という社員がいちばん痛んでいるのかもしれません。私はそ こに注目をしています。ですから、新任部長研修とか新任課長研修という場でできるだ け具体的な話をもとに一緒に考えてもらう、決して指導をしたり教え込むというスタイ ルではありません。この部屋の意義に気付いた組織の長はすぐに、翌日飛んで来られ る、メールを打ってこられるということです。来週も新任部長研修があります。これも MBAなどと同じで、若い人にキャリアを意識させたり、研修をしても、部署に戻る と、上司はキャリアを大事にするという意識がまったくなくて、仕事だ、銭だ、数字だ と言っていると、その社員を辞めさせようとするのと同じになってしまいます。そうい う問題があるのではないかなという姿勢で研修をやっております。  5つ目はグループ企業、4万人のサポートです。これは丹羽さんが、「グループ経営 なのだからちゃんとやれ、こういうカルチャーはもっと広げろ」と、こういうことなの ですが、一人ひとりのキャリア・コンサルテイングはとても無理ですから、社長とか人 事部長のご相談、もしくは30人、50人集まる場でお話をするということ、8月にも1つ そういうグループの会でお話をしてまいりました。  最後に6つ目、社会貢献です。あの伊藤忠がと皆さんに笑われるかもしれません。ち ょっと格好よすぎますが、当時社長の丹羽さんがスローガンで「清く正しく美しく」と か、「夢と感動を持って仕事」と言ってくれていたので、それに乗って、絶対にこれが 大事ですとアピールして、大学や高校や、こういう場でお話をさせていただいておりま す。それから、企業の方々、大学の方々が相談に来られる、少しでも新しい部屋を作っ ていくというときのお手伝いになればということで今やってきているということです。  さて、もう時間が来ました。お話を終えるにあたって、私なりに一企業のキャリアカ ウンセラーという立場から、職業能力開発ということについて考えていることを少しお 話して終わりたいと思います。  基本は、企業内といえども社員自らが自分のためにキャリアを大切にするから、自分 のキャリアを開発する、研修を受けたいという、そういう位置付けにできないかという ことです。決して「開発してあげる、研修に来い、指導する」ではなくて、「会社は社 員を大事にする、だから研修を用意する、だから来たければおいで、嫌なら来なくてい い、でも、それで困るのはあなた自身だから一緒に考えよう」という姿勢、そういうメ ッセージが出せないかということです。もちろん最低限の集合の研修は必要です。  次に、こうした形で自主的に自らのキャリアを大事にしていけば一人ひとりが魅力あ る社員になり、例えば倒産だとか、業界がなくなる、傷病、家族の事情など、何か突然 のハプニングがあっても慌てずに対応できる、エンプロイアビリティというかどうかは 別にして、社会にとってもとても大切なことなのではないかと思っています。日々相談 にのっていますと、これまであまりに会社人間をしすぎて、それに反省もなければ今後 への危機感もない、もしくはあきらめている、というようなもったいない方々がとても 多かったのです。たったここ2、3年の話です。企業も社会も今手を打たないと手遅れ になるという焦りがある。しかしながら、まだまだ形だけが先行していないかというこ とです。  本当の最後ですが、いま、多くの企業、大学でキャリア・コンサルタントの資格を取 得した方々がそれぞれの組織の中で理解者がいないために本当に苦しんでおられます。 成果が上がっていても理解できる上司が少ないということがあるように思います。山ほ どご相談が来ます。  こうしたキャリア・コンサルタントが実際増えている。キャリア・コンサルタントが 増えていけば企業としての職業能力開発へのきっかけを社員にもあげられる、そして、 研修でリードできると思うのですが、実際にそうやって大事な方々が次々に職場を離れ ていかれても気が付かない。これで何年か経って、キャリアカウンセリングが必要だか らといって、社内・学内のことが分からない外部の人を求めていくということが起こっ ていくのは残念だと思います。是非いろいろな形でこのキャリアカウンセリング、コン サルティング、コンサルタントのサポートが進むように、また、サポートしていただけ れば有難いと思います。  まずはこちらからのお話はここまでにします。ありがとうございました。 ○諏訪座長  ありがとうございました。大変要領よく、時間内でご説明をいただきました。質疑応 答の時間に入ります。上西委員、佐藤委員、黒澤委員から事前にご質問をいただいてい ます。そこで、先にそれらについてお答えをいただいた上で、この後質疑応答とさせて いただきます。 ○浅川氏  どなたがどの質問かわからないので、番号でお答えしていくということでよろしゅう ございますか。 ○諏訪座長  はい。 ○浅川氏  時間配分その他あるでしょうから、1つずつお答えし、何かあればその後にご質問を いただければと思います。  1番目として、内部のカウンセラーの経歴ということです。先ほどお話しましたが、 いま3人います。総合職2名、一般職で1人います。総合職のもう1人は、営業からき た方で、実は私のカウンセリングを受けてカウンセラーになりたいと言った営業32年の 人です。資格を取り、勉強をして、日々この仕事をやっています。  もう1人は、営業で25年間部長席(秘書)をやっていました。組織の中に、フワッと したいい雰囲気で、誰でも来やすい場所を作りたかったので、そういう女性を選んで来 てもらいました。その人も、そういう仕事をするのであれば資格を取りたいということ で資格を取りました。そういう意味では、今3人とも有資格者ということです。  2番、具体的な相談内容です。この話を始めると3、4時間かかってしまうので、ポ イントだけをお話します。社内研修や社外セミナーでお話する際には、理解していただ きたいのでできるだけ具体例でお話をしています。ただ、そのときには守秘義務があり ますから、特にマスコミの取材を受けてこれまでに書いたものなど、ほとんどが本人の 了解を取っています。逆にキャリアカウンセリングをやって、キラキラした方は、もっ と私を材料に使ってくれとか、浅川が呼べばどこへでも出ていって、後輩社員に話をす ると言ってくれる人が多いので、その辺は安心してお話をしているとお考えください。  個別の問題については、質問があれば後ほどいくらでも例は出しますが、基本的に、 もともとこの部屋は転職の支援でしたから、(統計も取っているのですが、)ザッと6 割程度が中高年の転職です。本人が言って来る、上司が言って来る、いろいろなケース があります。  グングン増えてきているのは若手・女性です。先ほども少し触れましたが、若手・女 性が、上司とのコミュニケーションがうまくいかないとか、考課の問題、異動の問題、 どんどん派遣が増えてきている中で何を考えたらいいか、どういうやり取りをしたらい いか、そういうようなことが多いかと思います。また、非常に増えてきているのは、メ ンタルの問題での周囲の方、同期、上司、最近では役員までが相談に来る部屋になった ということです。  3番にいきます。相談内容はどの程度人事部に伝えられるか、従業員はそれを事前に 知っているかということです。非常に難しい点ですし、これから情報管理その他でも非 常に難しい、気をつけなければいけないところです。基本的に、本人が最初に部屋に来 られたら、私は守秘義務を伝えます。私はしゃべらないということです。ただ、しゃべ るなと言っていて状況が変わらないというのは無しですと。最初はゆっくりと話を聞い ていろいろ進めます。その間に好奇心で誰かにしゃべるということはありませんが、あ なたが本当に動きたいとか、体調で困っている、家族の問題で困っているというのに守 秘義務と言ったら、私はガス抜きだけになります。それはおかしいということで、きち んと対応するためには人にしっかりと話をしていかないと動けないということを知って いてくださいと伝えていきます。  ただし企業内のキャリアカウンセラーですから、組織を全く無視するわけにはいきま せん。組織にプラスになることがないと、4,000人いる内の数十名、数百名のことを フォローしておしまいということになってしまいます。そういう意味で、従業員支援制 度(EAP)などでもやっていますが、今、この組織で特に起こっている典型的な問 題、それが組織の問題からきているのか、業界の問題からきているのか、その部署特有 の何かがあるのかということについては、その時その時で考えます。そうしながら、個 人名を挙げるのではなく、その組織長(経営企画部長、人事担当、人事部長など)と直 接ありとあらゆる角度で工夫をしながら、その組織のカルチャーを変えるように具体的 に動いたほうがいいというお話をしていきます。もちろん事件性のあるものについては 守秘義務ではなく、きちんと動くということです。  社員からの疑いは何かというと、偉そうな人事部、大声で電話で話す営業の部長、君 だけにと言ってすぐに内緒話をしてしまう人、プライベートを面白おかしく酒の肴にす る、こういうことが過去にあったからだと思うのです。だから、キャリアカウンセラー が本当にあなたとの2人だけの秘密である、奥さんを含めて3人だけの秘密であるとや っている限り、彼らは信頼してくれると思います。逆に信頼できなかったら来てもらっ てもしょうがない、こういう姿勢で進めているということです。  4番です。キャリアに関する相談とメンタル面の相談が切り離せないというところで す。他に相談室があるかということについては、先ほど触れましたように、2002年7月 に部屋を作って、8月に人事部長と健康管理室長との相談の中で、外部から臨床心理士 であり、中級の産業カウンセラーに来ていただいて、週に1回、ストレスマネジメント ルームというのをスタートしました。大変に盛況です。大阪は昨年9月からトライアル で作りました。大阪はなかなかカルチャーがありまして、そう盛況ではありませんが、 必ず盛んになると信じています。なぜなら、私のところには相当相談に来ているからで す。大阪に出張したときも、相談にくる中に必ずメンタルの問題があるということで す。要は連携が必要ということなのです。  先ほどからお話していますように、切り離せないことが大変多く、病気なのかメンタ ルなのかの判断がつかないところで、皆さん苦しんでおられます。そのときに、少なく とももし専門家を紹介してほしいというのなら、健康管理室の精神科医、もしくはスト レスマネジメントルームの先生をご紹介でき、必要ならば、社内は嫌だということであ れば、メールカウンセリングでこういうところがあります。あるいは、お宅の近くでこ ういういい先生がいるから紹介しましょうか、というところまでしています。この話か ら、どんどん事前の対応の大事さに持っていき、組織に気付きを差し上げることによっ てカルチャーを作っていきたいなと思っています。  次は、上司に相談すれば済む内容まで持ち込まれていることはないかという厳しいご 質問です。上司の部下育成、相談力の低下が背景にあるのではないでしょうかというこ とですが、これはあります。残念ながらそのとおりです。ここを無視をして、きれい事 では済みません。だから研修が大切、それもやりなさいという押し付けの研修ではな く、「まずいな」とか、「なるほど、そうすればいいのか」ということを感じさせてあ げるということだと思います。相談力の低下という評価ではなく、上司の厳しい環境へ の思いが経営に不足していないかということを痛感しています。  実際に問題が起こると、大変な時間とお金を遣いストレスを抱え、家に帰って「あい つのために仕事にならん」と言っている人が山ほどいるはずなのです。余裕がなくなっ てきている、仕事が複雑化している、人員が減ってきている、能力主義・成果主義が入 っている、制度が変わる、そういったときに上司をサポートしないで、業績の長期的な 向上などはあり得ないという思いです。  実際にはそういう厳しい状況の中で、上司を支援する、伸ばしてあげるということを その上司がもっとちゃんとできればいいのですが、できないとしたら、スキルアップの ための研修はどこでできるか、相談窓口はどこにあるかというのが、経営の重要課題で はないかと私は考えております。  カウンセリングによって相談者の得る情報とはという辺りも、かなり厳しい問題で す。お答えとしては、どういう相談に来られるかで差し上げる情報は変わるので、これ も区分けをすると山ほどあります。例えば上司とのトラブルでは、方法から入ります が、自己分析のお手伝いとか、上司についての分析です。原因がどういうところにある のか。日頃は、「お前は怪しからん、駄目だ、馬鹿だ」と言われてしまうところを、「 それは大変だ、私だったら我慢できない」という辺りから入っていくことによって、冷 静に「実は私が悪いところもあるんです」みたいな話になってきたら、解決に一歩も二 歩も近付くのではないかと思います。それから情報を差し上げることになるかどうかは 簡単には分かりません。  その中で同年代、同じような人達の中で起きていること、自分だけではないという辺 りの情報というのは貴重です。制度などに絡む話であれば、その説明とか、調べ方、ど こへ行けばいいのか。ご自分が何でそういう問題で相談に来るぐらいになったのかとい うことについて、今までのようなやり取りで気付きを差し上げるということが1つで す。  様々な角度からのものの見方、書籍、雑誌などの紹介、ライフキャリアデザインとい うような発想のお話、ご家族との関係ということも、差し上げられる情報かと思いま す。それで最後にお答えするところの、社外での能力開発、自己啓発につなげられれば すごくいいと思っています。心身の問題、例えば健康の問題で相談に来られる方につい ては、先ほどお話したようないろいろな関係者をご紹介するということがあります。そ ういう中で、社内の制度であればイントラ、こういうところを見たらいいということも 出てきます。  外部のことですが、当然アドバイスをします。そういう中には、実際に受けたのは私 ではなく有田というもう1人の室員ですが、それはエニアグラムのあそこへ行くと自分 が見えるとか、私が行ったときはこうだったというような話をします。あるいは、書庫 にだいぶ本が置いてありますから、そういったものを持って来る。それから生産性本部 なども、皆さんの研修のことで相談があればお話をします。要するに自分の弱いと思う ところがあったら、治すようにすればいいし、本を読めばいいし、セミナーへ行けばい いし、強いところをもっと伸ばしたかったらやったらいいでしょうということで、あな たはここが駄目というのではなく、どこを伸ばしたいのか、どこが強みでそれを売りに したいのか、そんな話に持っていくようにしています。  次は、カウンセリングがその後相談者のどのような「主体的な行動」に結び付いてい ると思われますかということです。7、8割の方は、わりとすぐに主体的に行動できる ように変わっていきますが、中には1年、2年経たないと変わらない人もいます。もし くは結局変わらない方もいます。でも、ほとんどの方が主体的に行動するようになりま す。  社内で上司が「あいつ最近変わったね」とか、「こういうふうになってきたけど、ど んな格好で話をしたの」というような形で聞いてくるケースもあります。実際に社内で いい仕事に移ったり、社外に出向したりというときに、その社長がどういうコメントを するかということなどが、主体的に動けるようになったかどうかの一つの判断になりま す。  それをもっと広く言えば、奥様がこんなふうにコメントされたとか、息子さんとやっ と話ができるようになったとかという辺りも出ます。地域、マンション、そんなことも 出てきます。「最近こんな本を読んだから」というメールが1本入ってくるだけでも、 まるで違うということが分かると思います。  若者についても、上司批判をしていたところから、「最近やっと気が付きました。自 分でやってみたらこんなことがありました」と言ってきたりします。私は、キャリアカ ウンセリングをしている中で、「あなたがもし上司だったら、あなたをどう使うか」と いう質問をよくします。そうすると、今度はメールの中で「使いにくいでしょうね」と かいう話が、出てくるのです。女性についても、異動したいという人はいっぱいいま す。いっぱいいますが、それは何のためかと言うと、この状況から変わりたいというだ けであって、では、あなたがあそこの部長のところへ行きたいと言って、あの部長は「 お出で」と言ってくれるでしょうかと聞きます。ノーだとしたら、それはなぜですかと 聞きます。こういうふうにどんどん質問していくと、自分の欠けているものを自分でこ ちらに語ってくれるようになるというケースが非常に多いということです。気が付いて くると、「今度経理のこういう勉強をしたいのですが、どこか紹介してください」と か、次の行動につながってくると思います。結構そういう人たちが大勢出てきます。  相談を受ける際、相談者の経歴、人事データをカウンセラーは保有しているのかとい うことですが、キャリアカウンセラーが人事部内にある良さがこれです。人事部にある データをしっかり確認すると、本人の気付きにもとても役に立ちます。特に50歳代の方 々はもう昔のことは関係ないと感じておられますが、大変大きな影響力があります。  例えば大学の頃に書かれたものなどを見ますと、その頃に何を感じていて、本当に伊 藤忠に入りたかったのか、仕方なく来たのか、鉄をやりたかったのか、エネルギーをや りたかったのか、それが叶ったのか、30年経ってどうだ、というような話を次から次へ とやっていくのです。すると、本当に昔物語りをしているような感じで、トラブッたケ ースは、ほとんど同じようにご自分の性格からだとか、それは親父さんのトラウマがあ るとか、いろんなことが見えてきます。それは私が見えるというよりはご本人が見え て、新しい転職先、新しい部署に移っても、放っておけばまた同じことをやるよねとこ ちらが言わなくても、ご自分が気付くということであります。ただ、個人情報について は使用・管理がとても難しい時代になりますから、ほとんどの方は喜んでいただけます が、一部そういうことで、「結局俺に商売見つけてくれないじゃないか」と思う人達 が、「個人の情報を勝手にどこかへ流してるだろう」などと言われる可能性が十分にあ るので、これからは本当に気を付けなければいけないところだなと思っています。  カウンセラーにとってのカウンセリングの目的はということですが、私はこの話を理 論ではなく、伊藤忠の企業内のキャリアカウンセラーの目的というふうに理解させてい ただいて考えました。今朝もある大学の方が、インターンシップで1時間半ほど来られ たのですが、「やりがいは」とか、「目的は」とか聞かれました。ほとんど同じことを 言ったと思いますが、社員一人ひとりをキラキラさせること、そしてそれによって、会 社にとって、上司にとっていい環境を作り出すことをサポートして業績向上につなげる こと、そうしたカルチャー作りをしていくことが目的です。  少し補足すると、これによって今後リテンションの問題、エリートや若手が辞めてい くという問題も防げると思うのです。実は中高年への扱いとか、2、3年先輩の目の輝 きを見て、若い人たちは本当に辞めたくなるというケースが起こるわけです。10年後、 20年後にあんなふうになりたくないという人が出てきてしまっているわけです。そこに 手を打たないで、どうしたら辞めないかというのは本末転倒の仕事ではないかと思いま す。  また、こういうことによってカルチャーができてくると、新卒・中途の採用に際して も、あそこの会社に行くと自分が伸びる、やりがいがあると感じられるということにつ ながると思いますし、社員や女性の活性化につながると思います。  何で活性化と言わなければいけないか、それも女性と限定的に言わなければいけない かという辺りは、通常はどうあったらいいのかがもっと当たり前にできるようになって いくと、変わっていくのではないかと思います。残業の問題についても、結局、人事 部、経営、上司は減らせという指示で終わっているのではないだろうか、どうしたら減 るのかについて本気で考える流れが、伊藤忠には絶対に必要だと思って騒いでおりま す。  共通質問事項にいきます。「業界単位の職業能力評価基準の策定について、どのよう な考えをお持ちでしょうか」については、キャリアカウンセリングをやる中での個人の 意見ということでお聞きいただきたいと思います。業界というのを総合商社ととらえた ときに、一定の基準があればいいとは思いますが、会社のカラーとか、その年度に期待 する特徴を超えて一定の基準を策定することで得られることというのは、会社がその基 準をどう取り扱うか、その哲学が見えるという点ではないかと思います。  また、私はYESのプログラムでは採用の際に両者がどこに着目するのだろうかとい う辺りについて、頂いた細かいデータまで追いかけながら見ていきました。先ほどお話 をしたことで分かっていただけると思いますが、浅川なら、いま非常に低いポイントに なっているストレス耐性を、絶対にもっと上に上げていくと思います。いま本当に、上 司も、本人も、若手も、ストレス耐性のところを軽く見ているという感じがします。職 場の現状が分かれば分かるほど大きな問題かなと思っています。商社ですから、当然コ ミュニケーションや語学、そういうものが入ってくるとは思います。  ただ、本当にこれをどういうふうに今の採用に使っていって、もしくは学生の方々が こういう資格を持っている、こういう勉強をしてきた、こういう基準をクリアしている から、そこを採用基準にしようということがなかなか見えにくくて、どういうふうに入 っていくのかなというのが、私もまだ不勉強で見えていないというところです。  2番目の、職場での実地訓練を組み込んだ企業向け契約訓練のコーディネートを行政 が実施する可能性ということですが、以前と比べたら本当に環境は整ってきていると思 います。公開をしない、コンプライアンスという問題がなかった頃、リスク管理といっ ても表面だった頃と比べると、もうオープンしないと携帯やパソコンであっという間に そこに何が起こっているかが外に出るような時代になってきていますから、どうぞ誰で も来てくださいと言わなければいけない時代だと思うのです。そういうオープンな、公 開性のある企業がいいと思うのです。  ただし、今、何が起こっているかと言うと、例えば伊藤忠の例ですが、限られた少な い人数で外を飛び回り、海外を飛び回り、要するに数字を上げなければこの組織は潰れ てしまう、それよりはいいと言って、必死になってみんなが働いている状態で、いま若 手社員への指導のレベルが下がるということもありうるわけです。そこの中に、社会の 現場、仕事というものを知る機会として、本当に今の段階でですが、総合商社をうまく 使ってもらえるのか、まだまだそうした人材育成とか、社会への貢献という点で遅れて いるのかもしれません。  ただ、発想としてはとても大切ですし、今朝もそういう形でインターンの方とお話を し、また今日人事と話していたら、またインターンを採るということを聞きましたが、 もっと積極的に取り組むべきだと思います。この話をすると、おそらく「時間がないか らごめんね」という営業の部署が多いと思うのですが、時間がないということで、本当 に自分のことも、家庭のことも、部下のこともどこかに置いてきたことが、今、企業、 社会を狂わせているのかなという気がします。  3番目、OJT、Off−JTの対象となる従業員に変化は見られるでしょうかとい うことですが、これはちょっと質問がよく分からなかったので、それでよければという ことでお答えしておきます。OJTであれ、Off−JTであれ、従業員が社内の研修 をどういうふうに考えているのかとご質問を理解すると、30年前の私が入社した頃で も、ある上司は丁寧、ある上司は放ったらかし、その上司に合わせて社員がそれぞれに 力を付けていったということなのです。丁寧に教えてくれるから伸びる、放ったらかし だから一生懸命やるから伸びる、いろいろあったわけです。  また、よく我々は研修のときに言ったのですが、OJTでもOff−JTでも部下の 習熟度合に合わせて、新入社員に教えるものと、経験を積んだ社員とで教え方が変わら なければおかしいと人事部が指導をしてきたわけです。でも、どんどん上司の置かれる 環境が厳しくなってきていて、そういう柔軟な対応をする心の余裕と、スキルがなくな ってきています。だからそれを教えなければいけないと、こうなっているわけです。受 ける従業員側も、社会の変化から、育ってきた環境の変化から、学校で授業を受ける状 況の変化から、会社にさまざまな変化が持ち込まれてきているという状況だと思いま す。  先ほどお話しましたように、今年の新入社員研修で70名に話をしましたら、ザッとし か見ていませんが、おそらく7割ぐらいの方から前向きのコメントが返って来たという ふうに思います。キャリアというものに目覚めているのは若手のほうが早いかなという 気がします。  最後に準備をしてきていない件ですが、「企業として自己啓発を支援することに対し てどのような考えをお持ちでしょうか」ということですが、これまで会社は、自己啓発 に対する支援を結構一生懸命やってきたと思います。メニューを揃えて、素晴らしい先 生をお呼びして、自分でやりたければ是非これを受けなさいと、こういうことだったの です。しかし、もっと大切なのは「自己啓発をしろ」とか、MBOに自己啓発という欄 を入れたりするということではなく、したほうが得だというメッセージを送り続け、そ ういうことをした人間が後で本当に得をするようなしっかりしたアセスメントをし、ロ ーテーションをし、CDPによって、将来どういうことをして、どういう異動をしてい くかということを見えるようにしてあげることだと思います。  成果主義での怖さは、目先になってしまい、部下を育てたら自分の上司になってしま うというようなことです。我が社では昨年38歳の部長が2人出ましたが、38歳の部長が 50何歳の人の転職先を探さなければいけないという状況が起こっているわけです。そう いう中で自己啓発をどんどん進める、ある程度心を仕事から離すということを進めると いうことの難しさというのは、当然あります。今後も伊藤忠は積極的に進めていくと思 いますが、自己啓発に努力する社員、そしてそれをどのような形でもいいから会社の業 績や評価につなげるような発想ができるということが、企業という意味では求められて いくと思います。ここにも組織と個という問題があるのではないかと思います。 ○諏訪座長  時間があと5分ですので、お一人かお二人からご質問をいただきたいと思います。 ○樋口委員  多分(1)は私の質問なので、(1)に関してご質問させていただきます。カウンセラーと いう仕事は専門的技術・知識が求められる職種かと思うのです。例えば伊藤忠の場合、 設立してから3年経たれたわけです。そうすると、そろそろローテーションというか、 浅川さん自身が配転されるかもしれない。これまでのところは希望を取って、希望を持 っている方がここに配属されたということなのでしょうが、このカウンセリングの位置 付けが専門的な部署であるとすると、そこは特定の人が賄っていくのだという形で進め ていくのか、それともローテーションの一環として、たまたま浅川さんが来ましたが、 この後は別ですという形で組織が作られていくのかどうかという点はいかがなのでしょ うか。 ○浅川氏  この部屋を作ったときから、私が丹羽さんや人事部長に言っておりますのは、明日浅 川が死んでもいいようにしたいということなのです。誰でも来られる部屋にしたい。で きれば、私は本当は日本の社会がそうであり、社内がそうだったら、特別職になって、 室員の評定をするとか上司に報告する時間をもっと違うことに割きたい。では、どうす るかというと、早く人数を増やしてくださいと。増やせるかというと、イエスです。  いま、社内には人事部が命じたわけではなく、10数名キャリアカウンセリングの資格 を取った人がいます。しかし、全く違う仕事をしています。営業の部門長代行がいた り、担当課長がいたり、支社の営業がいたり、女性がいたり、IT関係がいたり、人事 もいます。そういう人たちが早くやりたい仕事をできるようになればいいのですが、ま だ社外も社内もこの企業内のキャリアカウンセリングは意味がある、是非やるべきだと いうところまでいっていないのです。その辺りが、今苦しいところです。方向性として はローテーションをすべきですし、できれば早く、浅川のキャリアカウンセリング室で はなく伊藤忠のキャリアカウンセリング室という形にしたいという思いでやっておりま す。 ○諏訪座長  廣石委員、どうぞ。 ○廣石委員  伺いたいことがたくさんあるのですが、まず第1点、キャリアカウンセリングの意味 からすると、自分がどんな仕事を将来していきたいか、要するに先ほど異動という話が ありましたが、不満があって異動するのではなく、自分がさらに学習したいという思い を持って異動申請をするといった相談があった場合、キャリアカウンセリング室とし て、例えば異動などについて人事に対して働きかけをするのか。キャリアカウンセリン グ室として能動的に何か動くことがあるのかどうかを伺いたいと思います。  2番目は、先ほどストレスマネジメントルームのお話がありましたが、従業員として 相談窓口がたくさんあると大変なのではないだろうかということです。セクハラについ ても、多分他に窓口があるでしょうし、そのようなことに個別に対応していくと、実は 根っこが他のところにあるとか、いろいろな問題があると思います。それぞれの窓口と の連携、窓口がたくさんあると従業員としても非常に混乱するのではないかということ で、どのように対応しておられるか。  3番目に、現在のカウンセリング体制で足りないところは何なのか。もし、浅川様と して、本来はこうありたいけれどなかなかそれができないというような、足りないとこ ろがあるとすればどういったところか。  それから、これはできればですが、カウンセラー自身もストレスがたまると思いま す。カウンセラーのカウンセリングはどう考えておられるか。出先が外国に多いと思い ますので、外国駐在の人間のカウンセリングは、やはりメールでしかやりようがないの かということです。あとの2つは補足として、時間があればお答えいただきたいと思い ます。 ○諏訪座長  最初の3つで時間がない感じがしますが、折角ですのでよろしくお願いします。 ○浅川  切り口だけでいきましょう。自分がどのような仕事をしていきたいかというところを 考えて動いています。ただし、それは彼がそう言ってきたから動かしてということだけ ではなく、日ごろ上司が相談にきていたりすると、組織にどういう人が欠けていてどう したいかが見えますから、それについて、こんな人間はどうですかと言って動かしたケ ースがいくつかあります。具体的には、また別の機会にお答えしようと思いますが、場 合によっては能動的に動くということです。  ストレスマネジメントルームを含めて、窓口が多いという意見は最初からありまし た。私は逆です。窓口が多くても、どこへ行ってもいいです。ただ、どこへ行っても受 け止めて、どこか正しい所へ、もしくは本人にとっていい所へ振ってくれるかどうかが 大事であって、だから連携が必要という受け止め方をしております。その件は十分分か った上で、セクハラやパワハラなどあらゆるものがありますが、私の所でいいですよ、 でもそちらへ行ってキャリアの問題で振ってもらってもいいと、このように話をしてお ります。  体制で作りたいのは、やはり人がもっといないと私はひっくり返ってしまいます。3 年前、トライアルのときから、私はこれでは死んでしまいます、キャリアカウンセラー はひとりでたくさんの案件をやってはいけないのだとお話しておりますので、体制づく りが絶対必要ということです。  体制ができてくると丁寧な準備ができますし、いいカウンセリングができますし、時 間を長くできますし、ご家族や周囲の人にも対応ができて、統計を作ったり、その組織 の傾向値やいろいろなものが見えますから、準備ができます。キャリアカウンセラー本 人のストレスについては、スーパービジョンが絶対に必要で、これからいろいろな人に そのようなものを増やしていく必要があるということで、様々な先生とお付き合いをし ながら、私が甘えているときもありますし、同じ部屋の人間にも私が自分の悩みをぶち まけて発散させてもらったりする。様々な自分なりの方法を見つけていかないと、浅川 の場合はボランティア活動や家族や犬との時間や庭で発散することも含めて、自分で考 えていないとキャリアカウンセラーはつぶれてしまいます。  最後の海外のことについては、とても多いです。海外を問わず、支社・支店、子会 社、それ以外の出向中の方もフォローしています。海外の方とは、長いメールで東欧や アフリカ等ともやりとりをしますが、一時帰国や奥様の相談など、ありとあらゆるパタ ーンがありますが、まだいろいろなことができる入り口、緒についただけという感じで す。よろしいでしょうか。 ○諏訪座長  大変残念なのですが、時間を少しオーバーいたしました。竹淵様のお話も大変興味深 いところでございますので、浅川様からのヒアリングはこれまでとしていただきます。 どうもありがとうございました。  次のヒアリングといたしまして、まず竹淵様のプロフィールを事務局のほうからご紹 介いただき、そのあと同じような要領でお話をしていただきたいと思います。よろしく お願いします。 ○総務課長補佐  株式会社エージーピーの教育安全・品質保証部教育安全グループ長次長竹淵様につい て簡単にご紹介させていただきます。竹淵様は、1973年に日本空港動力株式会社にご入 社されまして、大阪事業所にご配属となりました。2000年9月に、ご入社された日本空 港動力株式会社は現在の株式会社エージーピーという社名に変更されております。1976 年に、東京本社工務部にご異動され、1992年に成田事業所にご配属となりました。その 後、1995年東京本社に再びご配属となりまして、現職である教育安全・品質保証部教育 安全グループ長次長にご就任されております。以上です。 ○諏訪座長  それではよろしくお願いいたします。 ○竹淵氏  今、皆様方にパンフレットを見ていただいておりますが、私どもの会社は、航空機の 運航を支援するサービスをする会社でございます。株式会社エージーピーは、はっきり 申しますとあまり有名でない会社であるということを頭に入れておいていただきたいと 思います。そのような会社が、このような席に招かれましたことを大変喜ばしく思って おります。  私は、年間約18〜20ぐらいのコースを1人で担当しております。グループ長という肩 書きがついておりますが、実際には私1人だけで全部をこなしています。ですから、新 入社員教育から部長・支店長研修まで私がやっております。もちろん、施設の申込みや 予約、資料を作ったり教材を作ったり、それを揃えたり、そして終わったらお金の清 算。事務局からインストラクターまで全部1人でやっているという状況であります。そ のぐらい人手がないということになると思います。  4月は、新入社員教育を大体23日間ぐらいかけてやっております。夏休みと冬休み は、原則として研修は行いません。なぜかと言いますと、夏休みや冬休みは家族で一緒 にどこかへ行こうという楽しみを、企業が勝手に奪うようなことをして家庭がガタガタ になってしまったのでは、お父さんとしては、会社に来て気持ちを集中させて一生懸命 能力を発揮することは、おそらく期待できないだろうということです。ということは、 残りの9カ月間で18〜20ぐらいをこなすというわけで、月に2回、各週ごとに研修を行 っております。ただいまちょうど夏休みということで研修はございませんが、来月にな りますと始まります。  では、教育についてどのように考えているかを、皆様方にご紹介いたします。教育に は、まず哲学が必要です。そして、芸術性がなければ駄目です。哲学というのはどうい うことかと言いますと、簡単に言えば、それで儲かるのかということは一切問いませ ん。芸術性というのは、やはり感動や共感などが伝わらなければいけない。そういう意 味で、芸術性という言葉を使っております。  私たちが会社の中でよく使う言葉の中に、「技能」というものがあります。この「技 能」をどのようにとらえているかについてボードに書き出しますのでご覧ください。  私どもの会社では、技能をこのように整理してとらえております。まず「思考」と 「行為」の2つに分かれます。そして、「思考」の部分は「意識」と「能力」、「行為 」の部分は「知識」と「実技」に分けております。大事なのは実は「意識」の部分で、 私どもはこの部分に非常に力をかけております。これは何かと言いますと、心的態度や 価値観など、いわゆるモラルに関係するところです。この「意識」に力をかけてやって いるというのはどういうことか、結論から言いますと、その人の将来が豊かになるよう に技能を身につけてもらう。企業がそこで発展するのは、後からついてくるものなのだ というとらえ方です。  1番目の「社員を育てる」に入ります。私どもの会社は、先ほども申しましたとおり さほど有名な会社ではございません。これは私が勝手に思っていることなのですが、エ ージーピーという会社に入りたくて入ってきた人ばかりではないだろうと。どこかに就 職しなければいけないのではないかと、入社した者も中にはいるかも知れない。それで も入ってきた人間が、最後には俺はこの会社に入りたくて入ってきたのではないか、と 勘違いをするぐらいまでに育ててみようということです。ですから、知識や価値観、倫 理観はバラバラです。  新入社員のときに、いちばん最初に心的態度、価値観や倫理観をしっかりと教えるこ とからスタートさせております。それから教育、そして訓練。つまり訓練は、この構図 では知識と実技のところに当たります。知識が入って、それを応用して実際にやってい く。そこにいくまでの前段階として、働くというのはどういうことなのか、お金をもら うというのはどういうことなのか、世の中に貢献するというのはどういうことなのかを しっかり教えてから、実際の「行為」という部分に入っていきます。これが順番を間違 えますと、あとで修正するのに非常に苦労をします。これは、もうすでに私どもの会社 は経験をしました。  そして、質の高い技術者を養成する。仕事ができればいいという技術者ではなく、い ろいろなことや状況の認識性を持って、周りがどうなっているかをきちんととらえ、感 性を高くし、様々なことに気付き、そこで正しい行為ができるようにという形で、質の 高い技術者を養成することを目指しております。  2番目の「自社の社員は自社で育てる」。私どもの会社は38年経ちましたが、負の遺 産がものすごく大きな形で座っております。代表的なのは、やはり何と言っても不平不 満です。このようなものに正面から向かっていい方向に向けることは、やはり同じ釜の 飯を食った人間でなければできないだろうということで、人を育てることに関しては社 外の教育機関には一切お願いをしておりません。自分の所で責任を持って育てる。そし て、そのベースができたらば、自己啓発のためにいろいろな社外の教育機関に行って、 さまざまな知識を吸収して高めてもらおうと考えております。  「仕事をさせるために教える」「育てるために教える」、これはどういうことかと言 いますと、仕事をさせるために物事を教えるのなら、「行為」の「知識」と「実技」だ けで十分です。しかし、人を育てるということになりますと、この意識の部分、価値 観、倫理観、モラルもしっかり植えつけていかなければなりません。人を育てるという のは、やはりとても大変です。簡単に言いますと、仕事をさせるために物事を教えるの であれば、上の人間は楽ができます。できなかったら、「何やってる、馬鹿」と叱責を していればいいわけです。しかし、人を育てるには、人を責めることを外さなければな りませんから、非常に大変なことになります。  3番目は、「原理・原則を学ぶ」とあります。私は1995年からこの仕事に入りまし た。会社としてそれまでの教育は一応ありましたが、これでは駄目だと感じまして、最 初に教育原理の勉強をしました。これは先生になるためのものではないかと思われます が、決してそうではありません。それから行動科学、皆様方はあまり馴染みがないと思 いますが青年心理学なども学び研修のプログラムをどのように組んでいけば、感動や共 感を与えることができるかを勉強しながら走りました。原理・原則の大切さを、まずき ちんと教えていこうということです。「『どうしたらよいか』ではなく『何が必要か』 」、これがまさにそうなのです。  いま、コーチングというのが非常に流行っております。では、コーチングをやるには 何が必要なのかということになります。私どもの会社も、過去は世の中で流行っている ものを取り入れて、どこかで成功したと聞くと、その手法をそのまま持ってきてやって いました。環境が全然違いますから成功するわけがないのです。結果は駄目だとなって も、世の中で流行っているものを一応取り入れると、目のつけどころは悪くなかったと いうことで、まあいいということになります。  私は、いま実はそれに逆らった路線を走っていますので、これが失敗すると、ほら見 ろ、世の中でちゃんと認められていることをやらなかったから駄目になったではない か、と袋だたきにあうかもしれません。しかし、原理・原則を学んでいくと、そのとお りにやっていれば絶対に大丈夫だという自信があります。エージーピーは、過去に原理 ・原則を学んで教育をするということをしなかった会社です。ですから、今度はそれを やってみようというわけです。How Toは、やはり条件が同じでないと適応できないので す。  私どもの会社は空港の中で働いています。車両の事故が非常に多いです。どうしてこ の事故が起きたかというのは、後追いでやります。しかし、この後追いはほとんど役に 立ちません。次に起きる事故は、同じ条件で起きるかというと起きないのです。という ことは、それを先取りしていかなければいけない。そのためにも、原理・原則は非常に 大事になってくるということです。  4番目、「人間についての学習」。家庭も企業も人間の集まりなのに、私たちは人間 というものについてほとんど何も知らないで、コミュニケーションが大事だとかリーダ ーシップなどと言っています。エージーピーも、まさにそれをずっと突き進んできまし た。何か起きると、「あいつは」とか「あの野郎は」と、いかにもその人間の性質のよ うにとらえて、だから駄目なのだと幕を下ろしてしまう。  ところが、人間についていろいろと勉強していきますと、実は人間だったからあのよ うな行動をとったのだということがだんだん分かってきます。そうすると、その環境の 中に入ったときには、自分にもそのようなことが起き得るのだと、つまり、あいつなの ではなく、人間だからそうなったのだということを皆で勉強して、その部分はお互いに 認め合いましょうと、人間がこのような環境に入るとこのような行動をとりやすい、だ ったら、そのような環境を作らないように先に手を打っておきましょうということを学 んでいく。このようなことも研修の中に入れております。人間であるが故に行動すると いうことをたくさん学びましょうということです。  いろいろとシステムづくりをやっていますが、やはり人に馴染むシステムづくりのほ うが長い期間使えます。今は、どちらかというとパソコンのような機械に合わせてシス テムを作ってしまっています。ですから使いにくい。俺は嫌だなど、いろいろな問題が 出てきます。このシステムづくりに関しては、研修のプログラムも人に馴染むシステム でもって作っていきましょうということで進めております。  5番目は、「教えることのできる人」を養成する。私どもの会社は、過去はあの人間 はこの国家資格を持っている、だからこの人がインストラクターになれば、ちゃんと物 事が伝わるだろうと、教える人間の人選は常にそのような基準で選び出してきました。 ところが、勉強していきますと、これはとんでもない話です。やはり、教えるにも知識 が必要で、技術が必要になってきます。そこのところがしっかりできていないと、折角 の我が社の財産が次の世代に伝わっていかない。だんだん薄くなっていってしまいま す。特定の人を養成するのではなく、みんなに勉強してもらって、ちょっとしたことで も教えるときに、そのような概念をもって教えてもらおうということでやっておりま す。手順書と業務知識があればそれでOKかというと、決してそうではありません。大 切なのは、誤解を防ぐ教え方です。そして本当にその人が理解をしたかどうかが確認で きる技術を持っていないと、「分かったな」「はい、分かりました」「じゃあ次にいく ぞ」というスタイルでは、どんどん薄まってしまいます。人にものを伝えていくとき に、先々にいって、これは駄目だ、もう少し戻ってここからやり直しをしようとするこ とは、企業にとっては大きな損失になります。ただ、それが数字で見えてこないだけの ことです。  6番目、「断片的な目先の効果を追わない」。人を育てるというのは非常に大変なこ とで、年数がかかります。いろいろな角度からいろいろなことを知識として入れて、そ の中で自分に合ったものを見つけて、そこからだんだん思考が深まっていきます。です から、例えば私どもの会社は、関連会社を含めて500人ぐらいおりますが、その人達に そのようになって行動を変えてもらうためには、やはり非常に時間がかかるということ です。  これは、1サイクルを20年と考えておりまして、1996年にスタートし、今年で9年目 に入りました。最初の10年は基盤づくりです。先ほども申しましたが、私どもの教育体 制が理論をベースにやったことがないので、理論をベースにして基盤を作っていく。そ して、後半の10年はそれをベースに、今度は加速をさせていこうという形でやっており ます。これはいろいろなところで言われておりますが、辞めたら困る人間を育ててい く。他の会社に行っても通用する人間が、本当は自社で採用に値する人間ではなかろう かということで、今このような形で研修を進めている段階であります。以上で、このレ ジュメに沿っての説明は終わりにしたいと思います。 ○諏訪座長  ありがとうございました。竹淵様にもあらかじめご質問が出ていますので、同じよう な要領でお答えいただければと思います。 ○竹淵氏  1番目の「社内で教育する立場の人間の教育能力を高める」という方針を立てるに至 った背景について、これは、私の経験です。私が仕事を教えてもらったときは、先輩が 「点検表を持って現場へ行って点検表に書いてあるここの部分はこうやってやるんだよ 」などと、そのときに思いついたことを順番にパッパッパッパッと言われました。「分 かったな」と言われます。新入社員ですから「分かりません」などとは言えません。 「分かりました」と言います。「では、明日からできるな」。しかし、できません。緊 張して聞いているので10%ほどしか覚えていません。翌日突っかかると、「何聞いてた んだ」と、すべて教わる側がたるんでいるからということで幕が下りてしまうのです。 これが1つです。  私は、今社員研修をやっていますが、その中で必ず「職場を取り巻く問題点」を挙げ てもらい、それに関してのフリーディスカッションをやらせています。特に入社して1 年目、5年目ぐらいまでの人間に必ず出てくる問題は、忙しい人はものすごく忙しいけ れども暇な人は暇をしているという、そのように見ているということがあります。  普通の人の声に「一生懸命教えているんです。だけれども、何かちゃんとやってくれ ないんですよね」というものがあります。相手が悪いということは言っていません。し かし、自分が悪いということも言っていません。ですから、これは普通の人なのです。 こういった人がいるということは、やはり物事がきちんと伝わっていないからではない でしょうか。  私は、新しいことを覚えるとはどういうことかチラッと考えたのです。赤ちゃんは生 まれてからお母さんと一緒にコミュニケーションを交わしたぐらいで、どんどん言葉を 覚えていきます。これは、なぜ覚えるのだろうか。赤ちゃんはお母さんを絶対的に信頼 しているからだと思います。つまり、お腹が空いたら何かを食べさせてくれる、眠くな ったら添い寝をして眠らせてくれる。つまり、満足感が味わえる。安心感が味わえる。 お母さんは常にそういうことをやってくれている。そういう絶対的な信頼があるからど んどん言葉を覚えていくのだろう。であれば、先輩と後輩も同じである。まずそこに信 頼感がなければ駄目だ。では、この信頼感とは何か。5時を過ぎたら赤ちょうちんに連 れていって、そこでいろいろなことを教えて、飲ませて、支払いは先輩がやって、そう いうことが信頼感だろうか。決してそうではないと思います。  物事を伝えるところでの信頼感というものが、先ほども出た誤解を防ぐような教え方 をきちんとやってあげるということ。そして、本当に分かったか分からなかったかを教 えた側が確認して、その先へ進んでいく。物事をきちんと理解して、積み重ねでもって 先へ進んでいけば、次のことがどんどん理解できます。そうすると、自信がでます。自 信がでることは満足感につながります。つまり、信頼関係とはこういうことであろう。 であるならば、物事を伝える知識と技術というのは非常に大きなウエイトを占めるので はないか。  決定的なものがあります。1998年に山一證券が自主廃業をしたとき、NHKで「山一 證券最後の100日」というテレビ番組が放映されました。その中に山一證券を創設し た人の直筆の社訓が書かれていました。「営業の大方針は、利益の多からぬことを求む るよりも損失の少なきことに期せられるべし」。まさに損失をなくしていくことが積み 重ねた利益を食い崩していかない一番の方法であろう。それにはやはり物事をきちんと 伝えていかなければいけないということで、これは今も続けております。  2番目、「現場の管理職によるOJTを支援する仕組みがあるかどうか」です。これ は、特別に現場の管理職を対象にしたものはありません。ただし、OJTはやっており ます。レッスンプランというものを作り、それに則ってやっていくという形をとってお ります。もちろんこのレッスンプランも、先ほどお話をしましたように教育原理や行動 科学、青年心理学というものを踏まえてそのフォームを作っております。そして、レッ スンプランを使って教えることのできる人が教官養成という、教えるために必要な知識 と技術を学んだ人でなければできないと一応限定しております。  3番目の「部下育成が上手な上司と下手な上司の違いはどこに起因するのか」です。 これは行き着くところ、部下に関心を持っているかどうかだと思います。心の整理がし てあげられるような上司であるか。私たちは普段あまり思っていませんが、心の整理を 一番やってくれる場所はどこかと言うと、家庭だと思います。家庭の中でみんなが集ま ってワイワイガヤガヤいろいろなことを話している中で自然と心の整理がなされて、そ して次の日、また会社へ行ったり学校へ行ったりということで、会社の中でも同じで す。やはり上司がそういう心の整理をしてあげることが大事だと思います。体は、心の 道具として心を表します。同じように体は、心の道具として心を隠そうとすることもし ます。言葉は嘘をつきますが、体は嘘をつくことはありません。  学校に行きたくないという子どもがその日の朝になると頭が痛くなる、お腹が痛くな る。お医者さんに行っても、「特に何でもありませんよ」と言われて帰ってくる。これ はまさにその心の状態を体が正直に表しているものだと考えております。このようなこ とが分かる上司が部下育成が上手なのだと思います。  以上が共通以外の質問です。答えになったかどうかわかりませんが、これで終わらせ ていただきます。 ○諏訪座長  共通質問事項も続けてお願いします。 ○竹淵氏  共通質問事項です。1番の「業界単位の職業能力の評価基準」は、私も少し不勉強で 申しわけありませんが、ビジネスキャリアという形で特にホワイトカラー族の人の客観 的な評価をきちんと見ていきましょうということでされている、これをとらえているの ではないかと見まして、こういうものは私は非常にいいと思います。  ただし問題は、ちょっと正直に申し上げますが、それぞれの企業が本当にこれに対す る価値をきちんと理解できるかどうかなのです。これは簡単な話です。例えば社員が 「こういう公的な資格を取ってきました」という場合、会社の中で「ああ、そう」とい う程度で終わってしまうと、それは少しも活かされないということになります。企業が そういうものをどこまで認めていくのかというところにかかってくるような気がしま す。  2番目の企業向けの契約訓練のコーディネートについて、私はこのように解釈しまし た。時間は作るのでどこかでいろいろなことを実習してほしい、そういうものを組合せ でもってやってください。そういうものができたら国がそういう所に派遣させます。  このコーディネートを考えるときに是非ともお願いしたいのは、思考です。知識と実 技に終始しないようにしていただきたいのです。この思考の部分、価値観、倫理観、モ ラル、こういうものについてもしっかりと技能という1つの枠組みの中で教えられるよ うな、そういう体制にしていただきたいと思っております。  「OJT、Off−JTの対象となる従業員に変化がありますか」ということです が、これは1996年にスタートして現在、9年目に差しかかっています。ようやくここ 2、3年で20歳の後半から30歳の半ばぐらいの人間が「こんなことでは自分たちは大変 だ。だからこういうふうにやっていこう」と自分たちで物事を変えていくという行動に 出ています。これがはっきりと見えはじめました。これは、上からの指示ではありませ ん。あくまでも自分たちのできる範囲の中でです。権限というものがありますから権限 を超えることはできませんが、自分たちができる範囲のことをやっていこうということ で、これが実際に出ています。  どんな所で出ているのか、1つだけ申し上げます。最近、事故が減少しています。車 の運転や物を扱う操作などは、すべてその人の品格に関わってきます。ということは、 若い人が自分の一生を見据えて、自分はやはり品格の高い、人間らしい、いい人間にな っていこう。そのためにはどうしたらいいのか、何をしていくのか。というようなこと が形になって現れてきたものだと確信しております。この人たちが将来管理職になった ときには、今度は会社全体がグッと変わるのではないか。いまは若い人たちができる範 囲の中でやっていますから、部分的に変わっているだけなのです。そういう期待が持て るということです。  4番目の「企業として自己啓発を支援する」ですが、私は大賛成です。やはりベース は自分の一生です。会社の一生ではありません。自分の一生をどのように設計して、そ してどこの会社に関わって世の中に貢献していくかということ、これがベースになりま す。  キャリア権を会社が握っていたころは、1960年代だと思いますが、一応年功序列、終 身雇用、退職金もきちんと出るので帳尻が合うからまあいいか、ということで我慢をし ていたと思うのです。しかし、これからの時代はそうではないとなれば、やはりその人 の一生を見据えてということを考える。  自分がこういうことを学びたい、こういうものを身につけたい。多くの人が複合的な 専門知識を身につければつけるほど、会社を取り巻く環境がグッと変わったときに迅速 にそれに対応できるということになり、それは会社にとっても非常に有益なことだと思 います。要するに従業員にとって有益であり、会社にとっても有益なのです。ただ問題 は、その人がそこに留まるだけの魅力のある経営がなされるかどうかだと思います。  人間の行動を考えると、最初に知識が入り、それを認識し、最後は価値観で決まりま す。それが自分にとって得なのか損なのか、これで決まるということ。これは絶対に間 違いのないことだと、私は信じております。  私の会社で煙草を吸っていた人が健康診断で「いま煙草とお酒を止めなければ、1年 後の健康診断のときに私は責任を持てません」と言われたら、ピタッと止めました。 「周りの人の健康を考えなさい」などと言われても、そんなことは本人にとっては価値 のないことなのです。止めたことによってストレスのかかるほうが損なので止めませ ん。しかし、自分の体がおかしくなると専門の医者から言われたらどうか。要するに、 最終的には価値観で決まるということです。ですから、その人がそこに留まるかどうか はその人の価値観で決まります。  私は、会社の経営に魅力があるかということをお話しましたが、別に経営者がその経 営を担っているわけではありません。そこにいる私たち全員がそれを担っているわけで すから、その会社を魅力あるものにしていくのはやはり自分たちであるということだと 思います。そういうことで私は、会社が企業として自己啓発を支援することに大賛成な のです。  以上です。どうもありがとうございました。 ○諏訪座長  ありがとうございました。もしご質問がありましたらこの場でお出しいただいて、竹 淵様にお答えいただければと思います。 ○佐藤委員  どうもありがとうございました。私も、やはり教育というものは原理・原則をきちん と教えて人を育てていく、そういう意味では非常に時間がかかるということだと思うの です。それを始めてから9年、1サイクルが20年ということですから、かなり続く、ま だ先があるわけですね。しかし、これではすぐに成果が出ないということでHow Toなど をもう少しきちんと教えたほうがいいのではないか、あるいは本当に20年やって成果が 出るのかなど、こういう考え方の教育についての議論はこれまで社内にあったのかどう か。あったとすればどのようにそういうものを説得してきたのか。その辺について少し 教えていただければありがたいのですが。 ○竹淵氏  これは非常に幸せだと思っておりますが、それで成果が出るのか、そんなに長い時間 をかけてそれでいいのかというような議論はありませんでした。いちばん最初に全員 に、そういう原理・原則に基づいて理論で説明をしました。「エージーピーは過去にこ ういうことをやったことがないでしょう。でも、今までどうでしたか。皆さん方は、上 司になって大変でしょう。もっときちんと育ってくればもっと楽なんですよ」と。これ は、人の才能や価値観で決まるということです。要するに、自分が楽にできるんだった らいいかもしれないと思ったのではないでしょうか。  経営者の人達も、毎年教育訓練について本社が持つ予算は満額回答をいただいており ます。そういう意味では、そのことに対する負荷になるようなものはまず私は感じたこ とがないのです。したがって、非常に幸せな環境の中にあったのではないかと考えてお ります。 ○諏訪座長  よろしいですか。では黒澤委員、どうぞ。 ○黒澤委員  ありがとうございました。本社での採用において新規学卒の形での採用が多いのか、 中途採用が多いのか、定着率はどの程度なのかについて教えていただきたいのです。 ○竹淵氏  新規採用と中途採用ですが、パーセンテージからすると新規採用のほうが多いです。 もちろん中途採用もあります。これはやはり辞めていく人がいるということと、新しい 事業が急に目の前に来てそれに即対応しなければならないためです。  本当にそうなのかどうか私はまだはっきりつかんでおりませんが、近年、辞めていく 人間が少なくなってきています。それは間違いありません。ただし、世の中が不景気な ので出て行くと損をするからとりあえず留まっておこうかというのもあるのかなという ことは、一応頭の中に入れております。しかし、そうやって留まってくれるのであれ ば、その人の一生を見据えて、その人が「あっ、やっぱりこのままここに留まったほう が俺は得だな」と考えてもらえるように教育をしていこうと考えております。 ○北浦委員  御社の場合、教育安全・品質保証部という名称、組織立て、この辺が多分経営方針に 非常に反映していて意味合いがあるのだと思うのです。  先ほど何回も出ていたようにポイントになっているのは「教官」という名前ですが、 教える方を養成するということに非常に特徴があります。そうするとOff−JTに非 常に重点を置いているように読み取れるのですが、教えられるその内容は、どちらかと 言うと安全や品質保証などの専門教育的な要素が非常に強い。そこを教えるときにそう いう教官養成というものが働いているのかどうか、その辺を教えていただきたいので す。  もう1つ。先ほども少しお話をいただきましたが、OJTがかなり重視されていると 思います。管理職によるOJTのための訓練は、具体的なものはないにしても、管理職 研修の中でそういうトレーニングをしていくことはかなりおやりになっているのかどう か、御社の場合の人数から考えて現場の管理職が全部教官を志向させられているのかど うか。こういったところを教えていただきたいのです。 ○竹淵氏  順番が逆になりますが、まず管理職によるOJTですけれども、管理職のトレーニン グには、非常に一般的ですが階層別研修というものがあります。管理職、いわゆる課長 に昇格するとそこで実施をするということをやっております。最初の質問と少しダブり ますが、あくまでも専門的なHow Toはほとんど行っておりません。要するに、そのHow Toを生み出すための前段階に必要なもの、そのものの理解をどんどん深めていくという ことを主体にやっております。  実は、学習したことの内容や概念を正しく知ることができなければ、類似したものに 対しての応用も利かなければ、他の知識と組み合わせをして新しく起こったことに対し ての対処もできないのです。こういうことをベースに考えておりますので、短い時間の 中でやるのであればそのHow Toを生み出す前段階のところをやっていく。ここにいま、 重点を置いております。  ただし、いくら原理・原則と申しましても例が出てこなければなかなか理解できない のです。もちろんそういう例を出すこともありますが、それはあくまでも一般的な例で あって、その職場に適した例ではないということです。 ○北浦委員  おっしゃっていることはよくわかるのですが。そうすると、いわゆる訓練部分にはき ちんとしたトレーニングのプログラムがあるわけですね。 ○竹淵氏  はい、訓練そのものは全部現場でやっております。 ○北浦委員  では、訓練は全部OJT型でやっているということでよろしいですね。 ○竹淵氏  はい。 ○北浦委員  先ほどのような部分についてはOff−JTの役割として原理・原則論を考えると、 こういう整理だということですね。 ○竹淵氏  そのとおりです。 ○北浦委員  もう1つ。たぶん安全と品質保証が一緒になっていると思います。いわゆる従業員教 育というか安全だとかなり、安全教育などのいろいろな部分がありますが、その部分の 教育とは融合させているのでしょうか。 ○竹淵氏  融合させております。いままではどちらかと言うと、安全は安全の教育ということで 分離してやっておりました。  しかし、人の行動を勉強した結果、その人の品格が行動に出てくる。そうすると、自 分自身を高めるということで注意しよう、用心しよう、気を付けようというものが出て くる。そういうことで社員教育の中に安全を取り込む。  もう1つ。後追いでないということを先ほどお話しましたが、こういう事故が起きる とすればそれはどういうときなのかという、どちらかと言うとトップダウン的思考をベ ースに物事を考えていく。TBMの中でも「足を踏み外すとすればそれはどういうとき か」、「あなたの作業の中で足を踏み外すとすればそれはどういうときなのですか」と いう形で考えていくと、最初に出てくるのは、まず人間としてとりやすい行動をパーッ と引っ張り込んできて、そして「ああ、こういうときに足を踏み外すんだな」と分かっ てきます。  1つの例として、例えば上から声を掛けられたときがあります。そうすると人間は、 どうしても上のほうを向いてその人間が見えるように移動をします。そうすると、足下 に注意がなくなります。そういうときに転落をするのです。そうであれば、絶対に上か ら声を掛けないようにするということで、そのときの作業に出る前に即席にルールを作 ります。「声を掛けるときには下の人間と同じレベルの所まで下りていって声を掛けよ う」という形で事故防止をしていくということをやっております。 ○北浦委員  今のはよく分かりました。ちょっと確認します。先ほど申し上げたのは、教官は管理 職と一致するのかどうかといったことですが。 ○竹淵氏  これは一致しません。教官養成研修というのは、特別な人間を養成するのではなく、 皆にそれを知ってもらうということです。 ○諏訪座長  他に何かありますか。 ○樋口委員  私は、業界のことがよくわからないので業界の図式を教えていただきたいのです。6 頁のパンフレットの中に「エージーピーの強み」とあり、「幹線空港におけるGPU固 定方式をほぼ独占」と書いてあります。例えばこの業界ではどういった所が競争相手な のか、存在するのかしないのか、それとも「ほとんど100%うちのマーケット・シェア です」というような話なのか、その辺はどうなっているのでしょうか。  その下に「価格競争力」とあって「競争」という言葉が初めてここに出てきているの ですが、これは競争相手が存在するのですか。例えば入札か何かをして、いくつかの会 社からお宅に発注しますよという方式になっているのか、これはどういうものですか。 ○竹淵氏  まずパンフレットの写真に出ているGPUという機材ですが、これで電気を供給して おります。私どもの会社は三動力と申しまして、電気とエアコンとジェットエンジンス タートのためのニューマティックパワーという、それぞれのエアラインが持っていたも のを一緒にしましょう、ということで出来たのがそもそもの会社です。地上から供給す るこの設備に関してはいまのところ独占で、競争相手はほとんど存在しません。もちろ ん「こういうことができます」という所が入ってきますが、こちらから出す仕様書、 「このような形でメンテナンスをやって、このような物を確保していきます」といった ところで入札後、大体、当社が取っています。  価格競争についてです。動力の供給以外に手荷物搬送設備、搭乗橋というものがあり ます。手荷物搬送設備とは、お客様の荷物を目的の飛行機の所へ種分けをする。搭乗橋 とは、ビルから飛行機に乗り移るときに風雨に当たらないようにブリッジのようなもの がスーッと出るものですが、そのようなものもメンテナンスをしております。これに関 しては競争相手が出てきています。そういう意味で価格競争があります。  もう1つ。ジェット機には、飛行のためのエンジン以外に機内の電気やエアコンを供 給するための動力を作るジェットエンジン、要するに発電をするためのジェットエンジ ンが付いています。飛行機は外国社と私どもの親会社(JALとANA)のものなので す。そこの使っている飛行機のAPUと当社が供給している設備との価格競争も出てき ています。 ○総務課長(妹尾)  ご説明の前の辺りで、自己啓発が非常に重要だとおっしゃっていたと思います。具体 的に社員の自己啓発を促進するような制度というか、そういう環境を会社としてお作り になっているのかという点と、もしそういう制度があればそれを利用する社員の方がい らっしゃるのかどうか、教えていただければと思います。 ○竹淵氏  まず、自己啓発に関する会社側の支援です。現在のところ、いろいろな資格を取るた めの勉強、資格を取るための費用ということで、会社側がある程度お金を補助しますと いう形でやっております。  行く行くは10年に入ったところで1つ、2つ、例えば課長でも10年目の人でも誰でも 参加できる研修を作りたいなというような構想は、私自身がいま持っている段階です。 どういうものを選んだらいいかというのはこれからの話です。いわゆる大会社で行われ ている自己啓発から見ると、まだまだ狭い範囲での自己啓発というところに留まってい るというのが現状です。 ○総務課長  資格補助のようなものは、相当程度の社員の方がご利用になっていますか。 ○竹淵氏  はい。どれだけの人間が来て、どれだけ補助金を出しました、そして結果、これだけ の人間が合格しましたということを総務より聞いております。これは、かなり活用され ています。 ○総務課長  ありがとうございました。 ○諏訪座長  ほかに何かありますか。 ○廣石委員  1つだけ。こういった理念に基づいたシステムを作っておられるということになる と、いま竹淵さんがお一人でなさっているというお話がありましたが、後継者と言いま すか、この理念を受け継ぐ人間がいないと長期間の研修プログラムは立てられないの で、後継者づくりは当然念頭に置いておられるのだと思います。その辺を少しお聞かせ ください。 ○竹淵氏  3年ほど前から、「そろそろ後継者を寄こしてください」と声を出して言ってきまし た。  私も、定年までにあと2年と半分ほどしかありません。「今年の4月がもう限界です よ」ということで話をしましたが、残念ながら後継者は来ませんでした。 ○諏訪座長  まだまだご質問したいことはたくさんありますし、また浅川様のほうにも更にご質問 したいようなこともあろうかと思いますが、本日はこの程度にさせていただきたいと思 います。竹淵様、大変ありがとうございました。 ○竹淵氏  どうもありがとうございました。 ○諏訪座長  最後に事務局から、次回以降の日程についてご説明をお願いします。 ○総務課長補佐  次回、9月の開催を予定しております。詳細な日程はまだ決まっておりませんので、 また後日ご連絡させていただきます。次回とその次の会、併せて2回ぐらい、また同じ ように企業ヒアリングをさせていただきたいと思っておりますが、対象企業はまだこち らでいろいろ当たっているところですので、決まり次第、こちらについてもご連絡させ ていただきたいと思います。その際には、また今回と同じような形で、ご質問されたい 事項等がありましたら事前に事務局宛ご回答いただければと思いますので、ご協力、よ ろしくお願いします。 ○諏訪座長  以上をもちまして本日の研究会を終わらせていただきますが、浅川様と竹淵様には改 めて深く感謝を申し上げます。大変ありがとうございました。  以上で終わりにいたします。皆様方、お暑い中をありがとうございました。