04/07/30 胸腹部臓器の障害認定に関する専門検討会(胸部臓器部会)第3回議事録 胸腹部臓器の障害認定に関する専門検討会(第3回胸部臓器部会)議事録 1 日時 平成16年7月30日(金)15:30~17:45 2 場所 労働基準局第1、2会議室 3 出席者 医学専門家:奥平博一、奥平雅彦、笠貫宏、木村清延、斉藤芳晃、 髙本眞一、西村重敬、人見滋樹、横山哲朗(50音順) 厚生労働省:菊入閲雄、渡辺輝生、神保裕臣、菊池泰文 他 4 議事内容 ○職認官(菊池) ただいまから第3回「胸部臓器部会」を開催します。横山座長、よろしくお願いしま す。 ○横山座長 大変暑いところを、ありがとうございます。幸いにして台風そのものはちょっと外れ たようですが、関西の先生方はお帰りが大変ではないかと憂慮しています。 まず提出資料の確認をお願いします。 ○障害係 資料を確認させていただきます。資料No.1は「第3回胸部臓器分野専門検討会の主 な論点」です。資料No.2は「胸部臓器分野の障害認定に関する専門検討会報告書(た たき台)」です。資料No.3は前回(第2回)の議事要旨です。また、参考資料として 「『循環器』に関する記述の構成」の素案を添付しています。以上です。 ○職認官 報告書的なものを今回お出ししましたが、今日の資料のいちばん最後に「参考」とい う資料が付いています。最終的に報告書がどういう構成になるかというのは、そもそも 胸腹部全体の中の胸部臓器ということで他分野との調整が当然必要ですから、これは暫 定的なものということですけれども、ざっと循環器だけで見てみますと、最初に「はじ めに」として現行の取扱い、それと循環器に関しては業務上生じ得る疾病にはどういう ものがあるかということで通達が出ていますので、それを前提条件としてご確認いただ く。また、基本的な視点はどういうものかをおさらいした上で、第1というところで具 体的な検討の結果をまとめるつもりです。 第2に「参考」とありますが、先生方には当たり前すぎる循環器の構造、機能、疾病 の病態と治療といったことも、報告書の付録的なものとして記載しておくと、いろいろ な人が見るときに、私どもの職員にしてもそうですが、非常に理解の助けになるという ことで、後半部分に参考資料としての位置づけで掲載したいと思っています。この場で ご議論というわけではありませんが、いずれかの段階で文章をご確認いただいて整理さ せていただこうと思っています。 今日お出しした資料は、こういった全体の構成の中の幾つかの部分が断片的にできて 用意させていただいていますので、だんだんめくっていくと少し飛んでいるような感じ になっていますが、そういうことですのでご了承いただきたいと思います。 今回から、いろいろ経緯はありましたけれども、正確な議事録を起こしていきたいと 思います。完成させる過程で専門用語なども入りますので、起こしたものを一度先生方 に見ていただいて、その上で確定させる手続も必要かと思っていますので、その節はご 協力をよろしくお願いしたいと思います。 ○横山座長 いまの説明に何かご意見、ご発言はございますか。これから日程調整、その他が難し いみたいなことがありますので、今日、お手元に10月分のご予定を伺いたいということ をお願いしています。あまり早くからこれを書いてしまって、だんだん退っ引きならな い用事が飛び込んでくることもありますので、なるべく早く日時を決めてくださいとい うことをお願いしています。ですから、当面どうであるかということを書いていただけ ればと思います。いざとなれば変更が可能であるという場合については、印を付けてお いていただければ調整が少し楽になるのではないかと思います。 これも大人数が集まるとなかなか大変なので、次回、呼吸器の1回目は皆さんにお揃 いいただいて、それぞれの部門での意見の調整を聞いていただいたほうがいいかと思い ます。それから後は呼吸器と循環器と分かれて何回かやった段階で、合同の会議を開く ことも必要ではないかと考えています。その点も予めご承知おきいただきたいと思いま す。今日いただいた10月分の日程については、これから突き合わせでどういうことにな るか、9月は大変難しかったというふうに伺っています。 今日の議論の中でペースメーカの問題が、メンバーの関係で後回しにしていただい て、心筋梗塞についてのご議論をいただきたいと聞いていますが、よろしいですか。心 筋梗塞についてのご議論をいただくに当たって、事務局から資料No.1の2頁からご説 明をいただきます。 ○障害係 (資料読上げ) ○職認官 少し補足させていただきます。これはご議論いただくポイントを抜粋したペーパーで すので、多少文章がこなれていない点はご容赦いただくとして、ご議論いただきたい論 点をまとめたものです。最終的には4頁以下のような形にまとめるのですが、本日は完 成の文章としてどうかということではなく、ご議論のポイントを示してご検討いただく ペーパーであることを、繰り返し説明させていただきます。 少しわかりにくかったかもしれませんが、(2)のイに(ア)(イ)(ウ)(エ)と 4つ並んでいますけれども、(ア)(イ)(ウ)というのは基本的には認定基準の観点 を3つ、案として並べてみたものです。(エ)は性格の違う話になりますが、こういっ た観点で認定基準を作ることが可能性として考えられるけれども、いかがでしょうかと いうことで案を3つ示したという趣旨のものですから、補足説明として申し上げます。 ○横山座長 ざっと読んだのでは、なかなか付いていけないところがあるかと思いますが、段階的 に区切って議論していったほうがいいと思います。これは事務局のほうで全部お書きに なったわけですか。 ○職認官 文章はすべて事務局で書かせていただきましたので、基本的におかしい表現があるか もしれませんが、ご容赦いただきたいと思います。最終的にはまとめますけれども、1 ~3頁の「論点」というペーパー自体は、検討いただくときに中身をご理解いただくた めのペーパーということで、ご理解いただければと思います。 ○課長補佐(渡辺) 今回、心筋梗塞について、最終的には資料No.2の6頁以降のような形にまとめてい くわけですが、私どもがまとめさせていただく中で、ここのところがはっきり分からな ければ、なかなかまとめられないのではないかと思っているところが、この論点という ものです。いちばん最初に出てきているのが心筋梗塞の場合、どこを治ゆにするのか、 どの状態で治ゆにするのかが、1つの大きなポイントになるのだろうと思います。 特にこの関係については、これまで西村先生といろいろご相談させていただき、その 過程で1つの案として左室駆出率という指標があり、これで治ゆの判断ができるのでは ないかという考え方が1つあります。そこで、この考え方でいいのかどうかを論点の最 初に出したということです。 ○横山座長 これは心臓だけでなく呼吸器も含めてなのですが、私が先生方に予めお願いしておき たいことは、今回の検討の結果が相当先まで影響を及ぼすと考えざるを得ないのです。 それが10年か20年かわかりませんが、そのことを頭に置いて進めていただきたいことが 1つと、こういうことは全国レベルで公平に、できるだけ客観的に判定が行われるシス テムであってほしいのです。これはなかなか難しい注文ですが、なるべくその線に近づ けていきたいというか、むしろそうしなければいけないのだと私は思っています。西村 先生、お考えを少し述べてください。 ○西村先生 この案は私が相談して、まとめていただいたものです。心筋梗塞という診断が付いた 患者の予後を左右するいちばんの因子は何か。幾つかあるのですが、私自身は残ってい る左心機能ではないかと思います。これをいちばんの核に据えて、定量的にも方法は幾 つかあるのですが、どこでも簡便に測定できるというメリットがあります。そこに私自 身は不整脈の程度と、虚血が残っていれば虚血の程度と、全体的な心肺機能を見た運動 対応能の4つの指標で考えます。左心機能を真ん中に据え、不整脈と虚血と運動対応能 があるなしぐらいで3段階ぐらいに分ければいいのかなと思います。たぶん、これはあ る面をクリアカットにしますので、どこか切り捨てる部分があるのですが、客観性、簡 便性、将来残っていく可能性を考えて、いろいろな指標の中からこの4つを選び出し、 そして心機能を中心に据えて考えようという考え方です。 あと、基準をどこにするかはもう少し議論して、3段階に分けて7級、9級、11級に 分けるというのは私も非常にいいと思います。5級は外したほうがいいと思います。7 級のところで心機能が悪ければその人は7級にして、9級、11級のところに心機能が1 つのカットオフで、1つの例として40ですが、40以上のときに虚血がある、不整脈があ る、運動対応能が落ちているとしたら、それは7級に上げるかどうか考えて、何もない ような人で50%以上の人であれば11級にしてしまう。9級のところを組み合わせで2つ あれば9級にするとか、1つだけのものは11級にするとか、割と定量的にいけるのでは ないかという素案を持っています。是非、笠貫先生、髙本先生のご意見をお聞きしたい と思って、これは相談して作ったものです。 ○横山座長 笠貫先生、何かご意見はありませんか。 ○笠貫先生 西村先生がお話になりましたように、心機能でするというのは私も賛成です。いちば ん大きなファクターだと思いますし、心筋梗塞後の生命予後を考えるという意味では心 機能がいいと思います。突然死を起こすかどうか、心不全症を起こすかどうか、もう1 つ西村先生が3番目に挙げられた虚血があり、再梗塞を起こすかどうか。この3つが死 に関わることですので、治ゆを生命予後で見るのでしたら心機能が悪ければ生命予後が 悪いということははっきりしているわけですから、突然死という意味で心室性不整脈の 話が入って、再梗塞という意味では虚血があるかを考えて、入れられたのだと思いま す。運動耐応能というのはQOLという意味でしょうか。 ○西村先生 全体の評価です。 ○笠貫先生 全体の評価ということで入れられたのだと思いますので、私も今の4つを入れれば、 評価としていいかなと思います。少しわからなかったのですが、カテーテル治療をした ときと、冠動脈バイパス手術をしたときに、こういう形で処理しますか。 ○西村先生 心筋梗塞のバイパス手術をした人がいて、その後がこの範疇に入るのかどうか。 ○職認官 バイパス手術とか再建術が行われれば、基本的にその虚血は解消するのではないかと いう認識なのですが、違うのでしょうか。治ゆの場合にはアフターの対象になるという ことで、個別の術式が行われたことをもってということではないですから。 ○笠貫先生 カテーテル治療も、いまは30%前後は再狭窄が起こります。これから新しいカテーテ ルが出て、それがゼロパーセントに近くなるかという問題は置いておいたとして、その カテーテル治療をして再狭窄を起こす場合と、あるいはバイパス手術をしても、バイパ スしたグラフトが閉塞してしまう場合をどうするかです。一度冠動脈疾患を起こしてし まうと、再狭窄、あるいは治療したグラフトの閉塞というトラブルではなくても、動脈 硬化巣というのは、いわゆるプラークができては消え、できては消えるという繰り返し で、どこかでラプチャーすると血栓ができて、狭心症や心筋梗塞が起こるという連続し たスペクトラムにあるかもしれません。そうすると病気としてどこで切るのかというこ とと、ある程度の生命予後として確率論でいくのか、その点がわかりません。 ○職認官 まさに治ゆをどう考えるかという問題だろうと思います。ものすごくベーシックな言 い方をすると、労災保険において治ゆというのは、再三ご議論いただいていますけれど も改めて申し上げると、完治ということではなくて、症状が固定・安定している、か つ、治療効果がないと、この2つの条件を満たすときに治ゆですと。 ただ、特に内臓疾患に関しては、本当の意味での症状の安定・固定というのを強いガ チガチの条件にすると、実質的に治ゆではないかと思うものまで排除されかねないと思 いますので、中長期的にはわずかに機能が低下していく、あるいは状態が悪化していく というものは、場合によっては治ゆにすべきではないかということが、一般的にあり得 ると思っています。 広く言えば、この心筋梗塞発症後の症状の推移というのも、そういう中でどう考える べきか。その場合に私の理解でものすごく単純に言ってしまえば、確率論的に予後がこ うなりますという問題の設定の仕方をすると、その確率を想像させるものは何だろう か。一定以上であればそれは症状が安定しているとは言えない。実際、当然に不整脈が 起こったりということも多く出るでしょうけれども、単に何年後に何人生きている、死 んでいるという話だけではなくて、実際の症状自体も必ずしも安定しているとは言えな い。あるいは機能の低下のスピードも、もちろん悪ければ悪いほど速いというところを 踏まえて、一定のところでここで案として示したのは、左室駆出率40%という線で、そ こ以下は安定しているとは言えない。それ以上は基本的には安定と言えるのではない か。そこは割り切りですが、そこで治ゆを切り分けたらどうかという提案です。 したがって左室駆出率40%というのは、多少はしようがない割り切りを踏まえても、 なお無理があるということであれば、違う観点での切り口が要るかもしれませんし、基 本的には確かに予後を最も規定する因子だということについて、ご賛同が得られて、あ る程度の簡便性も踏まえれば、こういうことかなというご意見をいただけるのかもしれ ません。 ○西村先生 例えば心筋梗塞のもとにある冠動脈硬化症とかは取らないわけですよね。心筋梗塞と いう病名が出てそれが落ち着いたら、そこで畑を作ってしまうという考え方ですよね。 ○職認官 はい。重要な因子でこれが抜けていますよというのがあれば別ですが、すべからく症 状を正確に全体像を把握して、総合的に評価しましょうというのは、実際に全国の私ど もの現場の職員が先生の診断を踏まえてやることではありますが、あまりに多様な項目 をチェックしてというのは運用上難しいところもあります。 ○課長補佐 この治ゆという問題はいつも出てくるのですが、なぜ私どもがここで治ゆにこだわる かというと、治ゆがなければその後、どの状態を障害として評価するかが決まらない。 これは治ゆでないというひどい症状がたぶんあるのだろうと思いますが、私どもがやろ うとしているのは、その状態を評価する話ではなくて、治ゆと認め得る状態をまず想定 して、それを何段階かに切り分けるのかどうかもこれからの話になります。そのために 治ゆを整理しなければいけないということで、その後、アフターを行うからどうのこう のとか、そういったことにあまりこだわっていただかなくてもいいのだろうと思ってい ます。 つまり、障害という治ゆ後の評価を決めるにあたって、その治ゆとはどの状態かとい うのがなければ、その後が決まらないだろうということで治ゆにこだわっている。そこ がはっきりしないと次に進めないのではないかということです。 1つの案として、この左室駆出率が40%以下になると、もう継続して治療を行う必要 があるという考え方に立ちますから、40%以下になった人は治ゆといった状態ではない ということが言えるのであれば、一旦、そういう考え方で整理して、そうすると40%を 超えるような人の状態で、それが幾つか分類されるのであれば、こういう状態は何級、 こういう状態は何級という作業をやるのがこれからですから、治ゆというものにこだわ るというか、まずそこが決まらないと次に行かないのかなと考えています。 ○横山座長 いまのお話ですが、ここにいらっしゃる先生方は皆さんそうだと思いますけれども、 診療の責任者として治ゆという言葉を使うのに大変躊躇されると思います。あなたは治 ったのですよと患者にお話して、特に心筋梗塞などの場合、そう言った翌日からひどい 発作が起こって亡くなってしまうことも起こり得るわけです。責任のある医師としてな かなか治ゆという言葉を言いにくいので、治ゆという言葉はこういうものを言うと、し かも一般の人にもわかっていただけるようにはっきり定義して、その上で議論しないと いけないのではないかと思います。 左室駆出率という言葉は我々は普通に使っていますが、一般の診療の第一線にある先 生方が、それをボンと表に出されたときに困ってしまう、ということがあってはいけな いと思います。その辺、どうでしょうか。 ○課長補佐 治ゆについては、この検討会で何度かお話が出て、奥平先生から貴重な資料もいただ きました。その中にも出ていましたが、治ゆという言葉にはいろいろなレベルがあるの だろうと思っています。私どもの労災保険の中では、これはある意味で法律用語なので す。法律では「治ったとき」として「治った」という言葉を使っていますが、それと同 義で、それは法律に書いてある言葉です。その法律に書いてある「治った」というの は、何度も申し上げているように完治ではないということで、私どもは昭和22年から運 用しています。どういうことかというと、考えられる治療を行ってもこれ以上改善しよ うがない、そして安定しているという状態が治ゆです、ということだと思います。 ○横山座長 それはよくわかるのですが、特にこういう時代になってくると、患者の家族なり何な りが納得できるように、これは法律用語ですよと言ったのでは通用しないと思うので す。特に第一線の診療に携わっている医師が治ゆという言葉を使って、これは法律の定 義に従えばこうなんだと言っても、なかなか世の中は通らないと思うので、その辺のこ とをもう少しはっきりしておかないといけないと私は思います。 ○医療監察官(神保) ご参考になるかどうかわかりませんが、実は腹部のほうでは時間がなくてご議論いた だけなかったのですが慢性肝炎について、治ゆにすると。慢性肝炎はウイルスに持続的 に感染している状態なので、徐々に悪くなってくるというのは間違いない。心筋梗塞も だんだん悪くなるという意味ではそうですが、ただ、悪くなる進行度合いが非常に緩や かなど、一定の要件があれば、治ゆにしたらどうだということです。 今回、この駆出率40%に着目したというのは、40%以下になると1つは心機能低下の 度合いは非常に速いのではないか。もう1つは、40%以下になると心室頻拍、心室細動 などの致死的不整脈を合併することが多いと言われている。症状の進行度合いもひどい し、出る症状としても緊急の対応をしなければいけないことからすると、症状が安定し ているとは言えないのではないか。逆に、正常な人でも50%台というのはいらっしゃ る。そうすると40%で分けるのが、病気の進行度合いという点から言っても1つの目安 になるのではないか。 ただ、左室駆出率だけではなくて、運動対応能が非常に落ちている方というのは、こ の報告書の中でもNYHAの4であれば、治ゆにすべきではないのではないかというこ とで書いています。まず心機能に着目すると、左室駆出率が40%以下であれば、病態の 進行度合いもかなり速いので、一般的には治ゆになったとしても、こちらについては治 ゆにすべきではないのではないか、という形でご提案をさせていただいています。 ○横山座長 ですから、法律用語としての治ゆはこうだ、医学用語としての治ゆはこうだとお互い に開き直っていてもしようがないので、医学の専門家でない患者や患者家族の方たち に、こういうことを言っているということが分かるような表現が取れないのだろうかと いう気がするのです。冒頭から治ゆ判定云々ということが文章に出てきても、なかなか 納得しかねる面があるのではないかという気がします。例えば症状が固定し安定化した と。 ○医療監察官 症状が安定していて、お薬だけでもいいような状態というのが、基本的に私どもで考 えている障害を打っていい状態だと。逆に言いますと、お薬以上のことをやらなければ いけないのは療養の段階と私どもは考えています。月1回ぐらいの処方をするだけでい いような状態、大体落ち着いたので月1回だけ来てくださいというような状態です。し かも急速に悪くなることはありませんというものを念頭に置いているのです。 ○横山座長 それが難しいところだと思うのです、特に心筋梗塞などの場合に。いまの話だと、内 科の医師はあまり治ゆという判定はできないことになってしまうのですが、それはそれ として、いつ次の発作が起こるかわからないというのがこの病気の特徴でもあると思い ます。だからその点を踏まえて上手な文章にしておかないと、混乱を招くことになるの ではないかという気がします。笠貫先生、何か解決策はありませんか。 ○笠貫先生 横山先生が言われたように、法律用語として絶対動かせないかどうか、いつも議論に なりますが、最終的なご判断はそちらになると思います。医療サイドとしてはいつもそ こに抵抗感を持ちながら、話は繰り返しになると思います。そこのところはお許しいた だくとして、いまの慢性肝炎と違うところは、慢性の経過を辿るのではなく、心筋梗塞 は突然発作として起こります。そこをどういうふうに治ゆとして我々が判断できるか が、いちばん難しいところだと思います。 最初に生命予後を考えた場合に、不整脈の突然死か、あるいは心筋梗塞の再発での突 然死かです。いまでも心筋梗塞は30%は死亡します。運び込まれるまでに20%は死亡し ます。そうすると心筋梗塞になった人は再梗塞の可能性は普通の人より高く、20~30% は急性期に死んでしまうという状態を治ゆという言葉にするには、非常に抵抗があるこ とは間違いありません。そこをどこで線を引くのかというときに、先ほど西村先生が指 摘された4つの条件を生命予後として議論するとしたら、どこで切りを付けるか非常に 難しくなります。そこの約束事について医学サイドでもコンセンサスが十分得られない と、いくら法律用語であったとしても非常に難しいと思います。 例えば医師が治ゆと判断して、何級ですと認定をしたとします。EFが50%で再梗塞 で死にましたと。それは労災で心筋梗塞が起こって、治ゆとした途端に突然再梗塞が起 こって死にましたとなったら、治ゆとしたのが妥当であったかどうかの問題はすごく残 るのです。 ○課長補佐 それは当然だと思っています。私どももそこは考えなければいけない問題だと思いま す。例えばいまのお話で申し上げると、一旦治ゆになったとしても、その人が再梗塞を 起こして、それが原因で死亡に至ったという場合には、たぶん業務上ということで遺族 補償の支給の対象になるのだろうと思います。ですから、一旦治ゆにしてしまったら、 その後は治療もしません、発作を起こして死亡してもそれは知りません、という線引き に使うものとしては考えていません。極端な話、心筋梗塞については治ゆはありませ ん、一生涯治療ですと。ただし、そうなると、かなりいろいろなハンディキャップを負 いながらも何の補償もありません、出るのは療養補償だけですということになります。 この病気の性質から考えると、そちらのほうがよりマッチしているという考え方も当然 あると思います。 ただ、症状の重い人については治ゆにならないだろうと思っていますが、心筋梗塞で も軽くて、その後の日常生活に支障のない人で、それでもハンディキャップとして何ら かの補償をしたほうがいい人がいらっしゃるのではないか。そういう人に対して後遺障 害に対する補償という形を。後遺障害ですから後で発作を起こしたり梗塞を起こすの を、どの程度と評価するかを考えるのが、いまお示ししている案の基本的な考え方で す。ですから私どもは決して、そのようにすべきだと考えているのではなくて、軽い人 について何らかの後遺障害に対する補償、という形で持って行ったほうがいいのではな いかと思うわけです。そのほうが患者のためになるのではないか。そこをきちっと明ら かにしたほうがいいのではないか。 逆に、心筋梗塞については治ゆということはないとして、治ゆがなければ後遺障害が ないというのが私どもの考え方です。後遺障害という観点で補償はしないで、療養に対 する補償だけをやればいいと。その療養というものもわずかなわけですが、そこだけを 補償すれば心筋梗塞という病気に対する労災の補償としては、そっちのほうがいいのだ という考え方は当然あるのだろうと思います。どちらがいいのかという、そこからの本 当の議論になるかもしれません。 ○笠貫先生 根本的な問題ですね。考え方としては、確かに治ゆがなければ後遺症の補償は出ない ということで、療養補償しか出ないから、その人にとっては金額的には少ないかもしれ ません。しかし、考え方を変えれば、心筋梗塞になった人は一生心筋梗塞を背負い、少 なくとも薬は一生続け、定期的に必ず医師にかからなければいけません。そういうこと から言ったら後遺補償は要らない。むしろ療養補償をずっともらったほうが、心筋梗塞 の患者にとってはハッピーかもしれません。医療に従事する者にとっても、そのほうが 病態としては合うかもしれないという考え方はできると思います。 ○課長補佐 実は心筋梗塞についても「アフターケア制度」というのが、もう既に設けられていま す。これは治ゆした人を前提として、その人に対して一定の薬剤の支給と検査を行って いて、それは既に担保されているのです。 ○医療監察官 お手元の必携の325頁以下に、いま補佐のほうからご説明いただいたアフターケアの 関係が(10)に、「虚血性心疾患等に係るアフターケア」ということで出ています。ど ういう対象がアフターケアの対象になるのかが325頁に、326頁に内容ということで、原 則は1カ月に1回程度診察が受けられます、検査も認めます、保健のための薬剤の支給 もしますと。これは治って落ち着いた段階で、障害をもらった段階でもこういうことは するということです。当然、これでも手に負えなくなれば再発と認めますということで すから、障害を打ったから何もなくなってしまい、労災から何も出ませんということで はない。 ○笠貫先生 これ、でも治ゆ後3年で切れるのです。 ○医療監察官 医学的に必要だということであれば、この3年というのはリミットではなくて、引き 続き更新を繰り返すことができますということです。 ○笠貫先生 どちらが患者にとって安心できるかということです。心筋梗塞再発にも、精神的なス トレスが大きいわけです。一生療養補償されているという安心感と、いまの治ゆという 形で後遺症の補償を受けて、アフターケアを受けて、ドクターの判断によってはまた延 ばしていく、再発したときにはまたという1つ1つのプロセスを踏むほうが、患者にと って安心感があると考えています。精神的なケア、精神的なサポートという意味で、ど ちらが効果があるかというのも、非常に大事な側面だと思います。 西村先生とご一緒に、労災の基準を考えるときに虚血性心疾患でも、精神的ストレス を重く取ったり精神的ストレスの荷重を非常に重く評価しました。 そうすると、その後の補償においても、そこを捉えた場合に、この病気の性質上、ど ちらがいいだろうかというのは根本的な問題にも入るので、私もどちらがいいか考えて いたのですが、西村先生、どうでしょうか。 ○西村先生 これは選択肢がたくさんあって、それはある程度労働者が、そのときの医師の判断で 選べる。でも私の経験で労災病院にいましたが、アフターケアをやっていた人は心臓関 係では1人ぐらいだったような気がします。頭は結構いらっしゃる。 ○課長補佐 調べてみたのですが、心臓のアフターケアは確かに非常に少ないのです。 ○西村先生 それは医師のほうの捉え方もあります。 ○課長補佐 多くが治ゆという判定をしないで、ずっと療養を継続しているケースがたぶん多いの だろうと思います。 ○西村先生 圧倒的です。 ○課長補佐 ただ、中には軽くて月に1回ぐらい病院に行けばよくて、あとはほとんど心配ないと いう方がいらっしゃったときに、その人に対して何らかの補償をしたほうがいいのでは ないかというのが、基本的に我々の考え方なのですが、それはあまり適当ではないとい う考え方ももちろんあるのだろうと思います。 ○奥平(雅)先生 先ほど神保医療監察官がお話になったことを、まずお話させていただきたいのです が、慢性肝炎という病気は特に治療しないで、10年、20年すると肝硬変になり、その後 肝癌になる。そのときに業務上疾病の救済方法としては、肝硬変になったときに再発と 見るという考え方で患者は救済されていくのだそうです。そうすると、慢性肝炎のとき には多くの人は仕事もしている。仕事をしているときに慢性肝炎という障害を持ってい るための補償を受ける。障害の等級によって補償を受けるシステムになっている。これ を心筋梗塞で考えると、先ほど笠貫先生が言われたように、私も監察医務院にいて心筋 梗塞の解剖例が非常に多いのですが、わかっていることは、心筋梗塞は1回の発作で亡 くなる人は解剖してみるとほとんどいない。何回も発作を起こし、時期を異にして発作 を起こしている。要するに心筋梗塞で亡くなった人の心臓には新しい梗塞巣もあれば、 うんと古い梗塞巣もあるのが実態なのです。 そうすると、いまのお話に関連して、いわゆる梗塞を起こす基になる病気を持ってい るわけですから、それを治ゆとみなすのは、急性の心筋梗塞後に安定した時期があれ ば、業務上疾病の場合、それを労災保険上は治ゆとみなして障害等級に応じて補償を続 けていく。その後でいつ心筋梗塞を起こすかわからない。これも当然なのですが、その ときには再発という概念で対応していくということでよろしいのですね。再発というこ とで対応できるから、いわゆる安定している時期は治ゆとして労災補償上の処置を取ろ うというのが、行政のお考えなんですか。 ○課長補佐 そういうことです。 ○笠貫先生 それは理解できるのですが、慢性肝炎のときには進行度の速い人と遅い人があったと しても、その進行度は必ず連続性のあるものです。必ずしもそうでないものもあるかも しれませんが、多くはそうだと思います。10年という時間経過でだんだん悪くなってい きます。しかし、心筋梗塞の場合にはある日突然、いつでも起こり得ることが病気の特 徴だと思います。だから一度心筋梗塞を発症して、しかもそれが業務に起因する心筋梗 塞で、かつ、また業務に復帰しなければいけないという人は、いつでも発作を起こし得 ることになります。そうすると治ゆとしたことが、患者にとっても医師にとってもスト レスにならないでしょうか。 ○奥平(雅)先生 治ゆとすることによって、その人が持っていた職業に復帰するという契機にはなると 思います。 ○笠貫先生 心筋梗塞で療養を受けていても職場には復帰するわけです。そこのところで違いが出 るのは、療養に対しての補償としてずっと一生続けるのか、そこで治ゆとして再発する まで、明日再発するか10年後かわからないにしても、再発するまでの間は療養の補償は 受けないで、その間は後遺症の補償を受けるかどちらが患者にとって是とするかどうか という1つの選択があります。先ほど西村先生のお話を聞いていて可能性としてあるの は、こういう場合には治ゆとして後遺症補償を受けられるという、むしろそちらを例外 的にすることも考えられます。実態としては、心筋梗塞を起こした人でアフターケア制 度を受けていないということは、ほとんどが治ゆでなくてずっと診ているのだと思いま す。それが実態なのは、この病気の性質上医師もそう判断するし、患者もそのほうが安 心というか不安がないのだと思います。 ただし、おっしゃったように非常に軽い人の場合、あるいは自分のキャラクターの問 題もあるでしょうし、病気の重さの問題、社会的地位の問題もあるでしょうけれども、 やはり治ゆという形で後遺症補償をもらったほうがいいと思う患者、あるいは、それが いいと医師が判断した場合は治ゆと判断することもできる、というような意味合いぐら いにしておくならば、医師としては受け入れやすいと思います。いまのものでいくと、 例えば左室駆出率が40%以上の人はみんな治ゆでいいのかというと、ほかの3つの条件 があったとしても、医師にも異論が出てくるし、患者にも、それだと不安になってくる 人もいるかもしれません。 治ゆとすることが患者にとって不安でないという人と、逆に不安になってしまうとい う人のいることは、精神的ストレスを考えるときは、その人のキャラクターが大きい要 素になります。そこに患者の選択というか、意思というものがあってもいいのではない かという気がするのです。法律的に難しいかどうかはわかりませんが、インフォームド ・コンセントという概念をこの中に入れないと、今の時代は馴染まないのかなという気 もしないでもありません。 ○奥平(雅) いまの笠貫先生のお話は非常によくわかりました。ただ、虚血性心疾患で年間15万人 ぐらいの人が亡くなっておられて、患者としてはその何倍かわかりませんけれども、そ の中で業務上疾病であると認定される人はごく一部ですよね。非常に少ない人数ですか ら、そういう人たちには、いまのお話のように、どちらを選択しますか、というような 道が残されていいのかもわかりませんね。対象が非常に少ないから。 ○横山座長 髙本先生、ご意見をまだ伺っていないのですが、何かありますか。 ○髙本先生 治ゆという法律の概念と、一般の医師の概念が確かに違う。治ゆとはこうなのだと説 明しても、実際にそれを適用する医師が、なかなか理解できない。やはり一般的に理解 されているというところをある程度勘案していないと、法律はこうだと言っても、現場 で混乱が起こるのではないか。ここでこういう議論をしている人たちばかりならいいけ れども、それを実際に申請するような人たちは全国に散らばっているわけですから、そ ういうところから言うと、完全に治ゆとしてしまうのは、この病気の性質上、なかなか 大きな問題があるのではないかと思います。 ○西村先生 笠貫先生がおっしゃったように、いつ起こるかもしれないという危険を内在している 病気ですから、そのリスクを想定できる非常に低い人たちを認定する。それで、心機能 障害も少ないと。だから、この40が妥当かどうか。これは普通の心機能障害を潜在的に 持っているところで切っただけですから、これを50にするほうがいいのか、さっき言っ た、条件を全部クリアしている人の条件として11級ぐらいを1つつくるのか。その辺 を、心筋梗塞の病気の特殊性ということで、ほかの病気との横並びというとまだ議論が 出るかもしれませんが、そういう考え方にするのか。 ○奥平(博)先生 治ゆというと、確かに医師の言う治ゆと患者の考える治ゆと違うかもしれません。そ のほかにも法律的な治ゆがいろいろあるわけです。そうしたら、治ゆという言葉だけで は状態の把握が難しいということになるわけですから、治ゆという言葉を使わないで、 例えば「労災保険による治ゆ」とか、「法的な治ゆ」とか、治ゆに形容する言葉を付け 加えれば、治ゆという言葉単独でいろいろ考えるより、もっと病態とか実態がわかりや すくなるのではないかと考えるのですが。 ○横山座長 問題がかなりはっきりしてきました。今日はペースメーカーの話を飛ばしてやってき ましたので、残った時間をペースメーカーの問題提起に使っていただければと思いま す。 ○職認官 ペースメーカーについては、前回、笠貫先生にご指導いただきました。本日は、一応 こんなまとめ方でいかがでしょうか、という案文を提出させていただいています。今日 お出しした資料では10頁になりますが、読み上げさせていただきます。 ○障害係 (資料読上げ) ○笠貫先生 これは、そのあとの運動制限も全部絡むのですが、身体障害者の認定の場合には、機 械が故障した場合どうなるか、命取りになるということで、ずっと1級になっていまし た。ペースメーカー植込みの患者さんは一生1級です。それが今回の場合にはそうでは ないというのは、この前議論した上でここで決定したことです。それを前提として、治 ゆはそういうことで結構だと思うのですが、運動制限の場合に、「整形外科分野におけ る『治療材料』と位置付けられる」というのは誤解を招いてしまいます。治療材料をど のように分けるかというと、生命に直接かかわるというか、生命維持装置かどうかが大 きな問題なので、そういう意味では、整形外科とは違っているので、入れるとしたら、 例えば人工弁とか、そういった直接生命にかかわる治療材料を入れていただきたいと思 います。 それから、イの中の電磁波障害ですが、私は今、電磁波に関して総務省のペースメー カーの電磁波障害に関する班でいろいろやっているのですが、思わぬものがたくさんあ るのです。例えば、電子商品監視機器にも影響を受けるということがわかっています。 電波は世の中にたくさん使われていて、電波の共生というのは非常に難しいのです。ペ ースメーカーは、必ず個体外から設定条件を変えたりチェックしなければいけないとい うものなのですが、電波は世の中にたくさんあって、思わぬものがお互いに干渉し合う し、未知のものもたくさんあります。そういう意味では、(4)のほうにも絡むのです が、特殊な職業とか運動ということだけではなくて、日常生活の中で非常に制限を受け ます。携帯電話がいちばん身近のものかもしれません。そういう意味で、日常生活の制 限ということをこの障害の中にどう入れていくかですが。 例えば電磁波障害といっても、ノンパルスといって、完全に刺激が出なくなるという ものもあるのです。ノンパルスという全くペースメーカーが作動しないという電磁波障 害があって、そうすると、ペースメーカーは完全に止まってしまって、命取りになりま す。出力が全く出ないわけです。また、運動でリードが損傷された場合、完全に離断し た場合というのは、自分の脈が出なければそこで命取りになってしまいます。直接生命 の危機になるようなことが常に起こり得ます。それが日常生活での電磁波障害でも起こ り得るということから考えると、この9級が妥当でしょうか。 先ほど言われた身体障害者の1級であるということの重さと、ペースメーカーが入っ ているから大丈夫と言いながら、そのペースメーカーは、実はいま言ったリードの問題 もあるし、いまでも不具合情報がたくさん出ているように、ペースメーカーというのは 常に故障し得るもので、その故障は命にかかわるものです。それから、日常生活の中に 電磁波障害というのはたくさん存在して、それがペースメーカー機能を、いちばん重い 場合には出力停止にして、死を招いてしまうこともあります。それから、職業の制限も あります。そういうことで、9級でいいかどうか。問題になる感じがします。 ○課長補佐 考え方としては、労災の障害認定というのは、労働能力が健常人と比べてどのぐらい 落ちているかを評価するという考え方なのです。ですから、私どもの基本的な考え方と しては、どのぐらい仕事で制限しますか、ということなのです。例えば、世の中にある 仕事のうちの半分に就いてはいけない、と医師が患者に言うのか、こんな仕事だけです よと言うのか。あるいは、何が起こるかわからないから外へ出てはいけない、家の中だ けの生活にとどめなさい、ということになると、これは3級とか2級の範囲になると思 う。基本的には、そこのところで評価されるべきものだと思います。 それと、生命が危ういという話。そこは、それぞれの制度でどういう考え方を持つの かという話がありますが、例えば労災でいうと、ペースメーカーを入れている人が、ペ ースメーカーが故障して死んでしまったという場合には、それは業務との因果関係があ る死亡ということになって、その死亡に対して遺族補償なりの支給の対象になってくる と思う。もしお亡くなりになったらそちらの面で補償します、という体系になっていま すので、そのことを直接に障害の評価として入れるのは適当ではないのではないかとい う感じがするのです。そちらはそちらで別の考え方で補償する、という考え方があるわ けです。身障者という観点からすると、死ぬということも評価の対象にして格付けをし ましょう、という話ですが、私どもの考え方でいくと、それで死んだら別の補償体系に 入りますから、そこは後遺障害の問題とは別だという整理をしたほうがいいのかなと、 今お話を伺って思いました。 ○笠貫先生 確かに等級で見ていくと、目がどうとか、手足がどうこうというのは、もともとの障 害補償だと思います。ただ、生命というものを無視して、労働にどれだけ影響するの か、就労の制限はどうかという話になったときに、日常の業務の中で、目が見えない、 手がどこか動かないということと、それが万が一駄目なときに命にかかわるというも の、それをどう組み込んでいただけるかというのは、これからのことだと思うのです。 どこを見ても、その文章はないのです。それを組み込んでいただける方策はないのかな と思うのです。 先ほど、就労についてどうかということは日常生活とはあまり関係ない、というお話 でしたが、実は、日常生活の延長上に就労があるのです。例えば、ここに挙げたよう に、変電設備などの極端な就労業務というのはあると思うのですが、そうでなくても、 日常の生活でも起こるということは、仕事場は常にそういう危険を伴っているというわ けです。そうすると、監視装置のところに常にいるような人たちというのは、制限され てきてしまうわけです。そうすると、今いろいろな監視をしていますというような職業 も、本当は危険だという話になってくる。そこを詰めていくとなると、かなりの職業と いうのは制限されてくる。それが今オープンにされていないというか、1年間に1つか 2つの種類の機器をチェックしていっているわけですから、どういうものがどれだけ出 てくるかはまだわからない。そうすると、今わかっている特殊なものだけではなくて、 日常の中だと思われていたものが非常に重大な電磁波障害を起こすということがわかっ てきた。それが実は日常生活の延長上にあるという話なのです。 ○職認官 大きく分けて、突然機器が故障なりをして死んでしまうリスクの問題と、電磁波障害 の問題と、2つのご指摘をいただいているわけですが、電磁波のリスクの問題は、もの によって、ほとんど大丈夫なのだという書き方のものもあるし、わずかな可能性を考え れば避けるに越したことはないという意味で、あらゆることに注意したほうがいいとい う感じで書いてあるものもあります。それは、解明された上でそういうことなのか、そ れとも、よくわからないから避けたほうがいいのか。今わかっている実情を噛み砕いて ご説明いただくと、どんな感じなのでしょうか。 ○笠貫先生 監視装置については、世界で何例か報告がありました。しかし、それを実際にきちん とファントムで実験したのは、この4月に報告書が出ると思うのですが、それが初めて なのです。そういうことについてのエビデンスはないのですが、それで非常に大きな事 故になったものは報告されます。しかし、実際にお金をかけて実験をやるというのはな かなかなく、そういう意味で、頻度を出しなさいということになると、非常に難しいの です。しかし、理論的にあり得るものを挙げるとしたら、非常に多く、それが実際にど ういう障害を起こしてくるかになると、会社によっても違うし、機器によっても違いま す。 それでどういう影響を患者が受けるかというと、患者にも、自分の脈に少しは影響が 出るという人もいるし、全然出ないという人もいます。そういう組合わせで生命にかか わる重大なものが起こるかどうかということは違ってくると思います。世の中に出てく るのは、本当に重大なことが起こってきたものです。理論的には非常にあり得ますし、 実験をするとそういうものはかなり出てきます。それでは実験したものが社会で実際に 出ているかというと、そうはいきません。それでは、エビデンスは何かを出そうという と非常に難しくて、実際はできないのかもしれません。そのため、非常に重く書く場合 と非常に軽く書く場合の両方あるのだと思います。 ○髙本先生 電磁波がペースメーカーに当たった場合、レートが例えば30ぐらいでフィックスする のですか。あるいは、ゼロになることもあるのですか。 ○笠貫先生 出力停止もあります。 ○髙本先生 それは機種によるのですか。 ○笠貫先生 電磁波の種類にもよると思います。 ○髙本先生 完全に止まる場合もあるのですか。 ○笠貫先生 あるのです。設定条件が書き換えられてしまうというのもありますが、出力停止を起 こすのもあります。 ○髙本先生 私は30ぐらいでフィックスしてしまうのかと思っていたのです。ペースメーカーの種 類と電磁波の種類の組合わせでいろいろな組合わせが出てきますが、その中でどれぐら いあるのですか。 ○笠貫先生 出力停止になるのは、ものすごく少ないと思います。 ○髙本先生 こうやって電磁波が世の中にいっぱいあるようになってくると、電磁波で出力停止に なるようなものは不良品と言わざるを得ないのではないですか。 ○笠貫先生 確かに、ペースメーカーの機種によってかなり違ってくるのです。いま不良品として 全部それを排除できるかというと、そういう排除できるシステムはなくて、ある条件を 満たしたものは製品として販売されるわけです。 ○髙本先生 製造者責任を問うような時代になって、世の中にこんなに電磁波がいっぱいあるとこ ろで、もし死んだら、家族はペースメーカー屋を訴えることはできるわけでしょう。 ○笠貫先生 訴えることはありえますね。 ○髙本先生 やはり最低30は保証するとかね。30なら、ちょっとフッとなるぐらいで、生きてはお れるわけですから。 ○笠貫先生 ますます難しい話になってきましたね。 ○医療監察官 ちょっと話がずれるかもしれませんが、身障者法では確かに先生がご指摘のように1 級なのですが、日常生活なり労働の制限の程度で、旧厚生のほうで見ている国民年金・ 厚生年金の障害のほうでは、私どもでいう7級ぐらいの、3級相当ということになって います。あとは原疾患などとの関係で症状の程度に応じて、3級だけではなく、1級や 2級に認定できることになっておりなす。 今のお話を聞くと、場合によっては7級のように、職種だけではなくて、いろいろな 業務で制限があるのだということは言えるにしても、ペースメーカーを入れているだけ で仕事が全くできないということにはならないのではないか。そうしますと、7級なの か9級のいずれかになると思われます。あとは、これも前回ご指摘があったように、ほ かとの絡みで、もっと上がっていくのか、あるいは今日のお話のように、そんなプラス するようなものは治ゆではないのだということで持っていくのか。 ○笠貫先生 今のように7級の可能性があるか、基礎疾患として、ほかの病気があるか、失神発作 があったか、そういうことで級を分けることもあり得るのでしたら、それも1つの考え 方だと思うのです。一括して9級ということにするのは、人によっては抵抗があるので はないか。ペースメーカーを入れる、不整脈の起こる原因になった病気によって、少し 上に上げるということがあっていいと思います。 例えばペースメーカーのときは原則9級にして、それにこういう条件のときは7級に するとか。ここにも書いてありましたが、除細動器は作動するとものすごい不快感があ ります。ペースメーカーは不快感はないですから、全く感じないというのが通常で、埋 込型除細動器のときには、日常生活で突然強烈なショックを受け、しかも、それが誤作 動で。不整脈が起こっていないのに電気ショックが起こり、その誤作動の原因電磁波障 害によることもあるわけです。機械が非常に複雑なものですから、電磁波障害も複雑に 影響を受けて、何もないのに電磁波障害で電気ショックがかかってしまうのです。 そういうこともあるので、ペースメーカーは全く電気刺激を感知しない、埋込型除細 動器は作動したときにはすごいショックを受けるということで、ペースメーカーと除細 動器は級を分ける。あるいは、除細動器でも、心筋梗塞とか心不全という非常に重い病 気の場合と、不整脈だけの人とで、それぞれ2段階に分けるなど、そういうことを考え ていただければ、よろしいのではないかと思います。 ○職認官 除細動器については、前回の終わり際に笠貫先生が、作動上のショックが大きいので 治ゆにすること自体がいかがなものか、というご発言がありました。そこで、治ゆにな るのかならないのか、見られるのか見られないのかというところも検討すべきかと思っ たのですが、治ゆそのものは、基本的にはペースメーカーと同様に、状態としては安定 してしまえば安定するということであれば、治ゆはいいと。ただ、グレードは当然別で あるというご意見であれば、そういうことを前提にして、今のお話の趣旨も踏まえて、 文章にしてみたいと思います。 原因疾患によって等級を分けるというのは考え方として馴染みがどうかと思うところ があるのですが、ほかの疾患がこういうふうに残っていますというときに、セットでど う評価するかということは、いろいろ可能性があるのかもしれません。それは内部でも 検討の上、例えば典型的にはこういうふうになるということを、書ければ書きたいと思 います。 依然として難しいと思うのは、機器のリードが突然切れたなどということによって死 んでしまうというリスクをずっと持っていることをどう評価するか、ということです。 先ほどの心筋梗塞でも、似たようなリスクを負っている。肝硬変のように長期的に徐々 に悪くなるだけではなくて、死んでしまうということがそれなりの確率としてある。そ の死ということをどう評価するかなのですが、基本的には労災保険においては予後は評 価の対象ではありません。なぜかというと、症状が安定していて、その状態を評価すれ ば足りると。典型的に想定している疾病が、胸腹臓器のものは想定が薄いというところ はあるのかもしれませんが、基本的にそういう整理で来たものですから、もしそこを評 価しようとすれば、枠組み論として我々の内部でも大議論が要るような話になります。 ですから、少し中期的な宿題のような格好にさせていただかなければならないかと思 うのですが、現状の整理では相当違和感のある考え方になるでしょう。先ほどの、突然 に心筋梗塞の再発作が起こって死んでしまうリスクを見ないのかと。私どもとしてはそ れは再発として見ている、障害のグレードとしてはそれは反映させない、ということと 枠組みとしては全く一緒の話なのですが、そこに異議があるというお話ですと、本当に 大議論が要る。ご説明だけは、そのようにさせていただきたいと思います。 ○髙本先生 ペースメーカーが労災の適用になるという疾患というのは、やはり心筋梗塞ですか。 ○笠貫先生 心筋梗塞もそうですし、心筋症もそうかもしれません。 ○髙本先生 心筋症は、もともとの病気でしょう。 ○笠貫先生 心筋梗塞以外でも、突然死が起こったという場合に、蘇生される場合もされない場合 も、業務に起因するものであれば労災になるわけです。それまでにどんな病気があるか ないかは問わなくて、業務に起因するという考え方でよろしかったのですね。そうしな いと、冠動脈疾患とか動脈硬化が業務に起因してそうなっていくというのと違って、不 整脈が突然起こった場合には、基礎に何かがある場合が多いわけです。それまで何も起 こらなくてずっと来たのが、過重労働がきっかけで発作が起こったときは、労災として 扱うということが基本的にあります。そうすると、最後のトリガーになったものが業務 だという位置づけとしては、いろいろなものが起こり得ます。労働時間というものと精 神的なストレスというもの、しかも1週間ではなくて少し長い時間とるようにして、3 カ月とか6カ月とかとその重さは変わってきても、そういうものを入れてくると、心臓 発作というのはほとんどのものがそこの議論に入ってきてしまうと思います。それが業 務と非常に色濃く因果関係があるものが労災として認定されてくると、失神発作を起こ すものは、いろいろな基礎疾患というか、バックにもともと病気があったということを 想定していいのではないかと思います。 ○補償課長 逆に言うと、基礎疾患そのものは業務には関係ないわけですよね。そうすると、その 基礎疾患そのものによって評価が変わるというのは、よくよく考えてみると疑問符が付 くわけです。そこを急激に増悪させて、おっしゃるとおり、その部分に業務が非常に関 連しているということであれば、それは労災として見ましょうと言っているわけで、そ この部分についてどう評価する、それに対してどう対応するということについては、労 災はやります。しかし、あなたは基礎疾患があったので、この基礎疾患は後遺障害の評 価をするときにプラスアルファーですというのは、やはり矛盾するのです。厳密に言い ますと、私はそこを見てはいけないのだろうと思います。 ただ、いままでずっと議論をお聞きしていましたが、私どもは、治ゆということにも のすごくこだわって、ある一点に来たら医師がすべて治ゆを判断して、この人は続け る、この人は労災から切れ、ということを言っているわけではないのです。治療といっ ても保健上の措置ぐらいのもので、実際の積極的な治療はもう要りません、心筋梗塞に しても、いつ起こるかわからないけれども、それについては薬を与えて、あとは食生 活、あるいは日常のストレスを解消するということをやっていただいて、なおかつ定期 的に状況を見るということになれば、医師も、もう積極的な治療ではないという判断を すると思うのです。そういう積極的な治療でないものを、どう判断するか。私どもとし ては、それはもうある程度症状が固定して、それ以上改善が見込めなくて、継続的に観 察をしているだけだろうということで、それは労災の積極的な治療、イコール労災医療 という範疇からは離れるのではないか、という基本的な考えを持って対応しているわけ です。 ところが医師が、この人はまだ症状が固定しているとはいえないから治ゆしない、と 言われれば、私どもは、それでも治ゆにしなさいということは言わないと思います。そ こは、医師の判断にお任せしています。私どもの事務方がずっと申し上げているのは、 そういう状態になって、本人も職場復帰をされて、しかしながら一定の障害が残ったと いうことによって、やはり障害の評価をきちんとして、それが補償されるべきではない か、という層が一方にいるとすると、その層に対しては評価をしなければいけないし、 ちゃんと支払いもしなければいけない。その層をどのぐらいの層として見たほうがいい でしょうか、ということなのです。私どもは、最初からその層をつくって、これでやれ ということを言っているわけではないのです。 例えば心筋梗塞について、労災で言う治ゆという概念でも、医療上の治ゆという概念 でもいいですが、それを持ち込むのはこの病気についてはまずいのではないかというお 考えであれば、私どもとしては、無理に治ゆという概念を持ち込んで、全部それで補償 していこうという中には入れるつもりはないのです。そこは、私どもは無理に引っ張ろ うということはない。その辺を疑問に思われるのならば、医学的な立場から見ても、こ の辺の層というのはカバーしてあげてもいいのではないかという層を、先生方にある程 度見ていただければと思うのです。心筋梗塞になっている人をAかBかに全部色分けし ようということは、絶対思っていません。補償してあげたほうがいい層がいるのに、 我々が手をこまねいて全然やらないというのは問題だという意識ですので、医学的に見 て、その層も将来にわたって診ていったほうがいいということであれば、そこは範疇か ら外してもいいのではないか、我々の治ゆという概念を無理に持ち込むことはないので はないか、と思っているのです。 事務方が言っているのは、障害として評価する場合に、どの時点からそう評価してい いかということを法的に判定させないといけない、ということなのです。法的な治ゆと いう形で安定した状態を認めないといけない。動いている段階では障害の評価はできな いわけですので、障害として評価するためにはどこで分けるのが良いでしょうか、とい うことで言っているわけです。初めに治ゆありきということでボンと締めているわけで はないので、その辺は、よろしくお願いしたいと思います。 ○笠貫先生 それは理解しているつもりです。今の時代には、これは違った意味で、インフォーム ド・コンセントということが言われています。これは新しい概念かもしれませんが、い ろいろな意味で、労災になった患者のハッピーさはどういうふうに担保するかというこ とになると、その人その人によって価値観が全然違うところがあります。それはあり得 るのですか。 ○補償課長 それは労災の難しいところだと思うのです。よく引合いに出されるのが、ピアニスト の小指の話です。ピアニストにとっては小指は非常に意味がありますし、一般の人以上 の価値がある。しかし、私どもはそうではなく、平均的に見て人間として指を使うとい う上でどうか。ピアニストであろうと、全然楽器のひけない人であろうと同じ評価をせ ざるを得ないというやり方をとっています。そういう点からすると、ペースメーカーも もう少し考えさせてもらわなくてはいけないというところもありますが、ペースメーカ ーを入れているということに伴う制限をどう評価するか、平均的に見た場合にそこをど う評価するかというのがまず中心になるのだろうと思います。その上で、もうちょっと 派生する問題があって、先生がおっしゃるように、今の時代の中、いろいろなことをも っと考えなければいけないということであれば、そこは入れていかなければいけません が、そこまで評価すると、本当は評価ができればいいのかもしれませんが、形態がいろ いろありすぎるし、個人によって違うだろうし、評価がなかなか難しい。そうすると、 ある程度平均のところでやらせていただかなければいけない、という部分があるのでは ないかと思っています。 ○横山座長 予定した時間が来てしまいました。課長が締括りをしてくださいましたが、これは報 告書にする段階でいくらでも手直しができますので、先生方にお持ち帰り願って、表現 その他をご検討願いたいと思います。医学的、法律的というだけではなくて、社会的に も通用するような報告書にまとめたいと思いますので、よろしくお願いします。本日 は、大変お忙しいところを、ありがとうございました。 ○職認官 9月までの予定を事前にいただきましたが、全く合わない状態です。10月の早い時期 に合えば、そのころにと思っていますが、10月も合わなければ、どういうやり方をする かも含めて、座長とも相談させていただきながら、来週いっぱいぐらいには何かしらご 返事ができるようにさせていただきたいと思います。今日の会議が始まる前の段階で は、そろそろ循環器と呼吸器に分けて、それぞれがワーキンググループをつくって進め るというご提案をさせていただこうかと思ったのですが、今日のように、治ゆの話をど うするかということがやや消化不良のままで分かれるのはいかがなものか、という気が します。いかがでしょうか。 ○横山座長 今日の議論は、循環器だけの問題ではなくて呼吸器にも通用する問題なので、次回は 一緒にお願いしたいと思います。どうしても日程が合わない場合には、おっしゃってい ただけば、少しご無理を願ってでも、全員出席して開催できるようにしたいと思いま す。ある程度煮詰まってきた段階で分かれることにして、効率を上げるということも考 えていかなければいけないと思いますが、よろしくお願いします。事務当局から日程を 変えてくださいと言われましたら、できるだけのご協力をお願いします。今日はありが とうございました。 照会先 厚生労働省労働基準局労災補償部補償課障害認定係 TEL 03-5253-1111(内線5468) FAX 03-3502-6488