04/07/29 胸腹部臓器の障害認定に関する専門検討会(腹部臓器部会)第4回議事録      胸腹部臓器の障害に関する専門検討会(第4回腹部臓器部会)議事録 1 日時  平成16年7月29日(木)14:30〜16:30 2 場所  中央合同庁舎第5号館 労働基準局第2会議室 3 出席者 医学専門家:尾崎正彦、戸田剛太郎、戸部隆吉、望月英隆 (50音順)       厚生労働省:菊入閲雄、渡辺輝生、神保裕臣、菊池泰文 他 4 議事内容 ○医療監察官(神保)  ただいまより「胸腹部臓器の障害認定に関する専門検討会第4回腹部臓器部会」を始 めます。それでは戸部先生、よろしくお願いします。 ○戸部座長  お忙しい中、暑い中をお集まりいただきまして、ありがとうございました。それでは 討議に入る前に、事務局から提出資料の確認を願います。 ○事務局  提出資料ですが、資料No.1が「腹部臓器部会(第4回)の論点」、資料No.2が「腹 部臓器分野の障害認定に関する専門検討会報告書(たたき台)(案4)」、資料No.3が 「膵臓の取扱い(たたき台)」、資料No.4が「肝臓の取扱い(たたき台)」、資料No. 5が「胸腹部臓器の障害認定に関する専門検討会(第3回腹部臓器部会)議事要旨」で す。 ○戸部座長  大変ご苦労があったと思いますが、今回、第3回の議事録を作成していただき、事務 局、ありがとうございました。この議事録を読んでみますと、問題点や討議の内容、そ の結論がよく分かります。こういうものを残しておきますと、20年先、30年先、社会の 情勢が変わったり、医療の進歩があったり、治療の状況が変わったりしたときに、今回 の脾臓の問題などの参考になると思います。ただ、一人ひとりの先生方のご発言が誤解 されないように、よく校正していただいて、それをまとめれば、これが非常にきちんと した報告書にもなりますし、いいのではないかと思います。繰り返し読んでみますと、 同じことを何回も繰り返して、無駄な討議をしていることもよく分かります。そういう 意味で、やはり議事録はしっかりと取っていただいて、残していただくことが大切かと 思います。どうぞよろしくお願いします。  今回は、まず前回論議いただいた食道の基準について確認していただいた後、時間の 関係で少し残していた腹壁ヘルニア、鼠径ヘルニアの取扱いについても、論議したいと 思います。また新たな課題として、膵臓や肝臓の取扱いについても、時間の許す限り論 議したいと思います。  それでは食道を損傷した場合の取扱いについて、事務局より説明願います。 ○医療監察官  まず資料No.1の1頁、「腹部臓器部会(第4回)の論点」です。食道については前 回もご議論いただきまして、自覚症状があること、客観的所見が必要だということでし た。そして客観的所見については、消化管造影検査によることが適当だというご議論を いただきました。  それでは具体的にどういう要件で認めるのがよろしいかということで、前回のご議論 を踏まえ、事務局で食道の1、「食道狭窄を認める要件」としてこのようにまとめまし た。  以下の(1)と(2)の要件をいずれも満たすものに限り障害として評価します。(1)とし て「本人が通過障害を自覚していること、あるいは自覚症として訴えていること」、 (2)として「消化管造影検査により食道に狭窄が認められること」です。この場合、 「『食道に狭窄が認められる』とは、以下のいずれかの要件が医師の所見により認めら れることをいう」ということで、2つ書いてあります。これもやはり前回のご議論で す。1つは、生理的狭窄部位以外の場合は、生理的狭窄部位よりも狭窄していれば狭窄 と言えるのではないかというご議論がありました。また、生理的狭窄部位がさらに狭窄 する場合にどうするかということで、その場合には造影剤のうっ滞ということです。こ のいずれかの要件を満たす場合は、食道に狭窄が認められるということでよろしいかど うかということを、まずご議論いただければと思います。 ○戸部座長  これは「食道に造影剤のうっ滞が見られ、明らかな狭窄が認められること」というこ とで、生理的狭窄部位云々はあまり。生理的狭窄ぐらいの広さがあれば、十分に物が通 りますから。生理的狭窄より狭いから「狭窄」と言うのでなくて、「造影剤がうっ滞し て明らかな狭窄が認められる場合」という表現のほうがいいと思います。労災保険法に おける治ゆ、障害、アフターケアの取扱いに関するフローチャートが今回の討議のいち ばん基本になると思うのですが、食道狭窄の場合も外科手術をブジーによって、あるい は保存療法によって治療するということを、まず加えていただいて、「治療によっても 改善の認められない場合、あるいは改善の期待されない場合に認定する」ということ を、1項入れていただいたほうがいいのではないでしょうか。食道狭窄というのは、い ろいろな治療の結果として起こった障害ではありますが、一応もう一度治療をする、そ してその治療によっても改善が認められない場合、あるいは治療によって改善が期待さ れない場合に認定すると。望月先生、どうでしょうか。 ○望月先生  例えばブジーなどもあるということを踏まえてのご発言だと思いますが、よろしいか と思います。 ○医療監察官  ブジーの関係については、前々回の議論を踏まえ、資料No.2の7頁の4の(1)で、 「手術ないしブジーの措置により狭窄部の改善を試みるのが通常」ということを書いて おりますので、ここに、それでも治らない場合にということを、もう少し明確に書いて おくということですね。 ○戸部座長  はい。そういう「手術療法、保存療法によっても改善が認められない場合、あるいは 改善の期待されない場合に認定する」ということですね。ですから食道狭窄を認定する 場合、「本人が自覚症状として訴え、客観的に通過障害が認められ、さらにそれを治療 しても治らない」という1項を加えておいたほうがいいかもしれませんね。ここは補償 課長も前に問題にされましたね。 ○補償課長(菊入)  やはりそこまではっきり書いておいたほうが、問題はないですかね。 ○戸部座長  だんだん社会情勢が厳しくなりますから。 ○医療監察官  「食道狭窄を認める要件」の表現で、まず「本人が通過障害を自覚していること」と いう事務局案をさせていただいているのですが、始まる前に座長から教えていただいた (1)の表現としては、「本人が通過障害を自覚症として訴えていること」という表現に 修文させていただくということで、よろしいでしょうか。 ○戸部座長  やはり自覚症として訴える、物が通らないから苦しいのだという訴えがあるというこ とが第1です。第2に、それが客観的に造影剤のうっ滞が見られ、明らかに狭窄を認め ることというのが、まず食道狭窄の第1の条件でしょう。それに対して治療をしても治 らない、あるいは改善が期待されない、手術も治療も非常に難しいというものは、明ら かに認定すべきでしょう。 ○医療監察官  それから「生理的狭窄部位」云々という所は削除して、「造影剤のうっ滞が認めら れ、明らかに狭窄が認められること」、あるいは「造影剤のうっ滞が認められる等」と いうことですか。「狭窄により造影剤のうっ滞が認められること」というほうが正確な のでしょうか。 ○戸部座長  はい。 ○医療監察官  そうすると、「狭窄により造影剤のうっ滞が明らかに認められること」というのが、 食道に狭窄が認められるという客観的所見であるということで、よろしいでしょうか。 ○戸部座長  そうです。客観的にはうっ滞が認められるから、それによって狭窄が診断されるわけ です。 ○医療監察官  次に、逆流性食道炎の関係です。通過障害だけが障害として議論されていたけれど、 それには漏れがある、逆流性食道炎についても障害として残る場合があるので、これも 障害として評価すべきだというご議論が、前回ありました。これを受けて資料2の6頁 でアンダーラインを引いている所の中ほど以下ですが、「また、食道の切除後において 逆流性食道炎が生じることがあり、そのときには投薬によりその症状を軽減することは できるものの、根治は非常に困難であり、逆流性食道炎の症状が残ることが通常である 」と書かせていただきました。そして8頁に、どういう場合に逆流性食道炎を障害とし て評価するのかを書きました。こちらも前回、やはり自覚症状があるということと、客 観的所見が必要だというご議論をいただいたわけです。  実は、前回はあまりご議論いただけなかったのですが、逆流性食道炎の中には、胃液 が非常に分泌するということで食道内に逆流する場合と、胃の噴門部などを損傷して起 きる術後逆流性食道炎があって、業務上のもののみが障害補償の対象になるということ からすると、術後の逆流性食道炎について検討すればいいのではないかと。あと、どう いう場合に逆流性食道炎を認めるのかということについては、(1)は本人に胸やけや胸 痛などの逆流性食道炎に起因する自覚症状があること、(2)は前回、尾崎先生からご指 摘いただいたものですが、内視鏡検査で見た場合、食道にびらんや潰瘍などの逆流性食 道炎に起因する所見が認められること、この2つが必要だと。(3)は前回は出なかった のですが、術後逆流性食道炎に限定したときに、(3)の要件が必要なのか、あるいは 「術後」と書いておけば(3)は必要ないのか、ご議論いただければと思います。 ○戸田先生  本人の自覚症状と、客観的に内視鏡検査で食道のびらんなどの所見があるという、こ の2つを満たさないといけなくなっていますね。ところが逆流性食道炎の診断基準で は、自覚症状だけで診断できる基準があるのです。内視鏡検査で逆流性食道炎という診 断が、いちばん確実なのですが、本人に自覚症状がない場合もあります。一方、点数制 で、いろいろな自覚症状で診断するという診断基準があったように思いますが、やはり 内視鏡所見で食道炎の所見が必要ですか。 ○戸部座長  あります。しかし内視鏡の所見がないといけないでしょう。労災認定ということにな りますと、自覚所見だけでは根拠が乏しいですね。6頁の下のほうの文章で、「また、 食道の切除後において」とありますが、これは「食道の切除再建手術後において」で す。再建手術によってできてくる。「根治は非常に困難であり、逆流性食道炎の症状が 残ることが通常である」ということですが、根治する場合もありますので、「根治は非 常に困難な場合が多い」のほうがいいのではないでしょうか。 ○戸田先生  自覚症状だけで逆流性食道炎を診断して、もし申請のときに「診断基準から言えば、 逆流性食道炎があります」と言ってきた場合、「内視鏡検査で異常がないから駄目です よ」と言ってしまうことが出来るかどうか。 ○戸部座長  やはりそうしておいたほうがいいのではないでしょうか。普通の人でも、我々でも酒 を飲んだ後に胸やけをしたり、いわゆる逆流性食道炎を一過性に起こすことはよくあり ますから、それを内視鏡で確実に把握して、そのフィルムぐらいは添付しておいてもら わないと、労災認定ということになると、ちょっと困るのではないでしょうか。 ○医療監察官  参考になるかどうかは分からないのですが、例えば握力低下というのは、いろいろな 原因で起こるわけで、握力低下が起こること自体は、私どもも分かっているのですが、 ご本人が真剣にやらないとどれだけ落ちているのかが分からないということで、私ども では握力低下そのものは、障害として評価しないことにしているのです。内視鏡検査以 外で何かこれがあれば確実だというものがあればよろしいのですが、これだけ特異的な 症状が出るというのであれば別ですが、特異的な症状でもないものが出て、「私はこう なんです」と言われてしまいますと、「はい、そうですか」と言うわけには、なかなか いかないのではないでしょうか。 ○尾崎先生  所見を書かなければいけない場合、必ず検査所見などの何か客観的なデータを書かな ければいけないらしいのです。ですから何かしらの客観的な所見を付け加える必要があ るだろうと思って、いつも書いています。 ○戸部座長  課長、問題はないですか。 ○補償課長  そういうようにしていただいたほうが、いいと思います。これは前回も出ましたが、 やはり障害として認定する以上、一般のどの人が見ても症状として評価できる程度のも のがないといけないので、客観的なものを是非やっていただけないかと思います。 ○戸部座長  そうですね。今回の討議は、客観的なデータをできるだけ付けることという大きな目 標がありますので、数値とか客観的なデータとか、評価できるものはやはり大事でしょ うね。望月先生、よろしいですか。 ○望月先生  はい。 ○戸部座長  これには11級の9というのが出されていますが、これはまた後でもう一遍整合性を考 えるとして、大体妥当ですか。 ○医療監察官  不快感のようなものと思うものですから、それで職種制限というのは、なかなか考え にくいのではないでしょうか。 ○戸部座長  そうですね。とりあえずここに書いてあるような、(1)(2)の表現でよろしいでしょう か。逆流性食道炎を障害として認めるのに、1つには自覚症状がある、もう1つには内 視鏡検査でこういう所見が認められるときであると。あと(3)が必要かどうかという話 ですが。 ○尾崎先生  (3)は通常、胃のほうの部分が増えてくるのではないですか。治療対象が胃のほうだ から、そんな気がします。食道の所に入れるのは、場所が違うような気がします。です から(3)に関しては胃のほうで、例えば胃の術後で逆流性食道炎の症状を示したら、 「食道の項の逆流性食道炎に準ずる」というほうがいいかなと思うのです。 ○戸部座長  食道に関しては、これでよろしいですか。これで3回ぐらい後戻りしましたが、もう 後戻りしなくてもいいですか。では食道の項は、一応これで終わりということでよろし いですね。では次に進んでください。 ○医療監察官  次は、若干漏れていたヘルニアの関係です。資料No.1の1頁から2頁にかけてです。 まず、障害として評価する必要があるかどうかというところから、ご議論いただければ と思っています。腹壁瘢痕ヘルニアについては、ヘルニア門が開いたままになっている ということで、どういうときに出るのかということでやりますと。横隔膜ヘルニアや内 ヘルニアの痛みが出るようなものについては、治療の対象であるということでご議論い ただいたのですが、腹壁ヘルニアと鼠径ヘルニアは、実はまだご議論いただいていない ところなのです。  腹壁ヘルニアと鼠径ヘルニアについては、一旦、業務上になるのは確かですが、業務 上でヘルニアになって治した後、ヘルニア門は基本的に閉じているものだと。それが出 やすくなるようなことがあれば、障害として今後評価しなければいけないわけですが、 治ってしまえば障害として評価する必要がなくなるということですから、まず還納して 手術してしまったというときに、その後再発しやすくなることがあるのか。こういうと きにヘルニアが出やすくなるということがあるのか、もう基本的には治ってしまうもの なのか。もう治ってしまうというのであれば、治るのだということだけ書かせていただ いて、障害として評価する必要はないと書かせていただくものですから、まずこれにつ いてご議論いただければと思います。 ○尾崎先生  瘢痕ではなく、腹壁ヘルニアですか。 ○医療監察官  腹壁ヘルニアと鼠径ヘルニアの関係なのです。 ○戸部座長  普通、ヘルニアは原則として手術すべき疾患です。再発しても手術するのです。手術 によってほとんどが完全に治る疾患です。根治手術の術式がありますが、根治というの は、その手術をすれば治るという意味です。しかし数パーセントぐらい再発することが あり得ます。ただ、老人の場合は縫い付ける組織が非常に弱って、また再発してくるこ とがあります。もう1つは、重い物を持ったりする職種の人も再発してくる場合があり ます。鼠径ヘルニア、定型瘢痕ヘルニア、すべてにおいてそうです。そういう場合は、 やはり作業関連疾患として、手術をした後に業務を変えてあげなければいけないと思い ます。ヘルニアそのものは、よほどのことがない限り治療の対象で、治療をしても再発 を繰り返すような素質のある人、特にお年寄りぐらいが問題になるのではないかと思い ます。望月先生、どうでしょうか。 ○望月先生  ヘルニアをどのように障害認定するかというのは、非常に難しいなと思っていたので すが、いまご説明いただいたことで、非常にすっきりしたように思います。すなわち、 ヘルニアは、まずは手術対象になります。そこで治ゆさせたにもかかわらず業務の影響 で、あるいはもともと先天的な素因があったために再発してしまう、これを修復しても 同じようなことが起こるだろう、だから職種を変えなければいけないということですよ ね。そうしますと条件としては、とにかく一旦治療をするのだと。した後で再発する、 あるいは再発しやすいような条件を見つけて、それに対して障害認定を与えるという考 え方なのだろうと思います。 ○戸部座長  論議の中でもヘルニア門がどうかとか、一旦出たらどうかとか、痛みがどうかとか、 随分いろいろ言いましたが、結局はまず治療の対象として考えて、それで再発してくる 場合に認定を考えるということで整理したほうが、実際には分かりやすいのではないか と思うのですが、尾崎先生、どうでしょうか。 ○尾崎先生  先ほど食道で座長が言われたように、治療による改善が期待されない場合と、治療に よる改善が認められない、それが再発ということですが、その場合に初めて認定に入る わけです。おそらく腹部臓器は全部、その観点でいかないといけないのではないかと思 います。 ○戸部座長  このことは、はっきり労災認定のフローチャートに書いてありますね。その原点を遵 守しましょう。 ○尾崎先生  スタートはそこだと思うのです。確かに、今はどんなメッシュを使っても、やはり 1、2%は通常の生活でも再発率はありますので、それに関してだけの認定だろうと思 います。 ○戸部座長  この前、課長はそこをだいぶ疑問点として出されましたが、どうですか。 ○補償課長  ちょっとピントが外れているのかもしれませんが、1%ぐらい出るというのは分かる のですか。 ○尾崎先生  予知できるかということですか。 ○補償課長  このぐらいの人はというのは。 ○戸部座長  できないから、そういうようになったときに認定しようという考え方です。 ○補償課長  起きたときにですか。 ○尾崎先生  そうですね。あるいは年齢からいっても、手術としては、もう手術の対象にはならな いのではないかという形です。 ○補償課長  私も前回から疑問だったのです。通常の生活をしていても1%ぐらいの人は再発する というか、何かなってしまうのか、いまのお話のように、そうではなく、ある程度職種 を変えていれば、通常の生活では出てこないと。結果として同じ仕事をして力仕事をし たら出てしまうのか。それによっていつ認定したらいいのか。要するに起きてしまわな いと認定できないということになると、認定実務上非常に大変なのです。 ○医療監察官  とりあえず起きたときに手術をして治してあげて、また再発したときには、もう1回 手術を認めてあげればいいだけなのか、あるいは2回目、3回目になると、もう手術は できませんということで、出やすい状態になってしまいますと。ですから、神経などを 圧迫して嫌な感じがするとか、嫌な感じを伴う疼痛が出るのか、あるいは腹壁ヘルニア や鼠径ヘルニアは、一旦治ってもう1回再発したら、もう1回手術をするだけなのです ということであれば、それはもう障害ではなく、療養の対象として認めてあげればいい と。 ○補償課長  もっと言うと、例えば生理的にこういう一定のレベルの細胞がないと、治療してもま たちょっとしたことですぐになってしまうということが仮にあれば、そういう状態の人 は障害として評価してもいいのではないか。 ○戸部座長  普通、手術をする先生は必ず、「後はこういうことに注意しなさい。重たい物を持っ たりしては駄目ですよ」とか、「お年寄りは組織が弱くなっているから、こういうこと に注意しなさい」とか、「腹帯をしなさい」とか、いろいろ注意をしますから、ほとん どの場合、再発しません。そういう手術を外科ではやっているわけです。ですからヘル ニアは、ともかく手術をして治すのが原則です。しかし、そうは言っても数パーセント 以下、もっと少ないと思いますが、やはり再発してくる場合があります。その場合、も う一遍手術をするわけですが、そのときの認定をどうするかです。 ○医療監察官  もう一遍した手術を労災で見てあげれば。 ○戸部座長  健康保険なのか。 ○医療監察官  医療費とその休みの期間を見てあげて、また職場復帰をすると。そうしたら特段、障 害として評価する必要はないのではないかという感じがするのです。認めないというこ とだと、当然障害として評価してあげなければいけないのですが、もう1回なれば当 然。 ○戸部座長  もう1回再発した原因が労災でなった場合、やはり労災でしょうね。 ○医療監察官  当然労災として。 ○戸部座長  重い物を持つとか。しかしよく注意して、お年寄りで、組織が弱っていて再発したよ うなときは、やはり健康保険でしょうか。 ○医療監察官  基本的に労災を問題にしている方ですと、特に重い物を持つというと、それなりの年 齢だろうなと。お年寄りで重量物を持つというのは、あまり考えにくいものですから、 40歳とか50歳ぐらいの人が持って起きるということで、よほどの高齢者の方を問題にす ると起きやすいような、手術もなかなか難しいということがあるのでしょうけれど、60 歳以下ぐらいを考えると、もう1回再発したら治療をしてあげればいいというだけであ れば、それこそ治療の対象ですとだけ言い切ってしまえばいいのかなと思います。 ○望月先生  確かにご指摘のように、再発すればまた治療の対象です。それは労災で治療をカバー すればいいわけです。それでもさらに再発してくることもあり得るわけです。そのとき に、もう治療ができないと。例えば外科医が、これはもう治療をしてもしようがない、 もう治りませんよとか、職種を変えなければどうしようもないですよという診断書があ れば、障害認定をするというのはいかがでしょうか。何回再発しても治せるということ で治された場合は、医療費のカバーをするという形で、もうこれは何回やっても駄目で すという診断書が出てきた段階で、障害認定をするという形にしたらどうでしょうか。 そうすると基準が担当している医師の主観と言いますか、能力にもかかわってきてしま いますが、すべて平等に基準をつくるということはなかなか難しいので、そこは担当し た医師の判断に任せるという形にすれば、実際的にはそれで済むかと思うのですが、ど うでしょうか。 ○医療監察官  その場合は手術ができないので、一定の場合には出やすくなるという状態が残ってし まうことがあるというわけですね。 ○尾崎先生  それも先ほど言った「治療による改善が認められない場合、初めて認定の対象になる 」ということではないですか。 ○戸部座長  そうです。それはやはり労災の補償の。 ○尾崎先生  確かに何回でもやろうと思えば、期待ができればやります。 ○戸部座長  治療によっても改善が期待されない場合というのは、労災の補償の根本的なことでは ないでしょうか。確かにお年寄りの大きなヘルニアというのは、再度手術を勧める気に はならないですね。 ○補償課長  ヘルニアに関して言えば、手術に限定して書いてしまってもいいのですか。「手術に よる改善がもう認められない」と。 ○尾崎先生  再発も含めてすべて、そういう場合に初めて対象ということであれば。 ○補償課長  今までにそういう基準というのは、ないのです。ですから手術と限定するしか対応が ないと。 ○戸部座長  例えばお年寄りで鼠径ヘルニアの場合、ピンポン球やボールをここへ付けて治療して いる人がよくあります。保存治療によって症状が治まる方がありますが、それで文句を 言わない方もあります。しかし、それはどうなのでしょうか。ともかく根治手術とい う、ヘルニアの場合は大抵、根治手術という術式がありますから、その術式で治療をし て治らない場合、改善が見られない、改善が期待されない場合だけ認定するという形 で、ヘルニアはいいのではないでしょうか。 ○医療監察官  これは前回のご議論と言いますか、望月先生に教えていただいたことですが、疼痛を 残すときに評価をしたらどうかと。鼠径ヘルニアについては、ヘルニア内容が締め付け られたというと、ほとんどイレウスに近い話なので、治療しなければいけないのです が、その疼痛は、基本的にヘルニア内容が周囲の神経を圧迫していることによって起き ていると言っていただいたのですが。 ○望月先生  いま医療監察官がおっしゃったことを障害認定とすると、多少おかしなことになりま す。疼痛を生じた状態でヘルニアが治ゆすることはあり得ないわけです。ヘルニアが治 ゆしてしまえば、疼痛はないはずです。ヘルニアを治すために手術をして、一時的に腹 壁が緊張して違和感を感じることは、一過性の症状としてはありますが、それはそのう ちに慣れてしまいますから、ヘルニアが治ゆした状態で疼痛を生じることは、まずあり 得ません。  前に私が説明させていただいたのは、ヘルニアを治ゆさせようとして治療をしても、 それが完治しないでヘルニアが再発したような状況がある、ということをお話したので す。その際、ヘルニア門の所に腸が出たり入ったりするときに痛みを感じたり、違和感 を感じたり、不快感を感じたりするという、そういう説明をしたつもりなのです。ヘル ニアが完全に治ってしまえば、疼痛はまずなくなります。 ○医療監察官  再発したときに、治り切らないので手術ができないです、となったときに障害認定を すると。そのときのポイントとして、何も症状がないときは、障害として評価する必要 はないのではないか、痛みが生じているときに、障害として評価すべきではないかと。 では、どういうところから痛みが生じているかというと、周りの神経を圧迫している。 ○望月先生  しかしヘルニアが治らなければ、やはり痛みがなくても力仕事はできませんよ。です から、必ずしも痛みがなくても、やはりヘルニアが再発しているということをもって、 障害認定をしてあげなければいけないのではないかと思います。もう手術でヘルニアは 治しようがないのだと診断されてしまった場合は、痛みがあろうがなかろうが、やはり 職業の内容を変えなければいけない可能性があります。そうなりますよね。脱出するこ と自体、好ましいことではないわけです。リスクを伴います。 ○医療監察官  場合によっては嵌頓したりということがあるので、出るような腹圧をかけることを避 けなければいけない、要は腹壁瘢痕ヘルニアと同じような考え方で、どういう状態で出 るのかと。 ○戸部座長  それは無関係です。ヘルニアが出るということ、再発するということが問題なので す。痛みがあるとか、小さいとか、大きいとか、どこから出るということではなく、ヘ ルニアというのは腹壁や鼠径部など抵抗の弱い所、抵抗減弱部に腹膜をかぶって内臓が 飛び出してくる、腸間膜が飛び出してくるものを「ヘルニア」と言うわけです。ですか ら、ヘルニアが出ること自体が問題なわけで、それが出た場合、必ず手術をすることを 原則とする。治療の対象になる。さらに、それでも再発するとか、手術が期待できな い、治療が期待できない場合に認定しようというわけです。ですからヘルニアそのもの は治療の対象であって、認定の対象ではないので、再発した場合でも手術できるもので あれば、手術をして治してしまったらいいわけです。それは痛いとか何とかという問題 ではなく、飛び出すその状態を目で見るというのが、ヘルニアの認定なのです。 ○望月先生  その際、どの程度で出るかということで等級を決めようというわけですね。 ○医療監察官  前回の腹壁瘢痕ヘルニアで言えば、出る腹圧の程度で決めていったわけです。今回も 痛みとは関係なく、どういうときに出るのかと。 ○望月先生  等級の決め方をどうしたらいいかというご質問ですね。 ○戸部座長  最後の認定のところの等級ですね。 ○医療監察官  出る出ないが問題なのだと。出てしまうと、それによっていろいろなリスクがあると いうことからすると、これも同じだという。 ○望月先生  私は共通のところで決めてよろしいのではないかと思います。腹圧でいいのではない かと思います。 ○医療監察官  腹圧ということで、痛みというのはもう関係ないのだと。出ることによって非常にリ スクが出るので、どういうときに出るかというと、前回と同じように、よほどやらない と出ない、立位にすると出る、いつも出ている、ということでしたらどうかということ ですね。そうすると同じ並びですね。 ○戸部座長  それをあまり複雑にしないほうがいいですね。 ○医療監察官  それは鼠径ヘルニアでも腹壁ヘルニアでも同じだということですね。 ○尾崎先生  もう1回議事録で、ヘルニアを全部これでまとめてしまったほうが、すっきりします ね。 ○医療監察官  そこのところはかなり治療できるということを書きつつ、最後に残ったときには同じ 考え方でやるということで、もう一度まとめさせていただいて次回に。 ○課長補佐(渡辺)  1点だけ質問させてください。「改善が認められない」とか、「改善が期待できない 状態」というのは、一般化できるのでしょうか。つまり、そこが治ゆの時期というか、 障害認定の時期なわけですが、いまのお話ですと改善が認められない状態、あるいは改 善が期待できない状態になったときに、その状態だと。これは言葉で言ってしまうとそ うなのですが、実際問題、各先生方はそれで皆さんスッと同じ判断が可能なのでしょう か。 ○望月先生  実際問題、外科医の実力や経験によって違うと思いますが、それを一定化すること は、なかなか難しいですよね。 ○戸部座長  おっしゃるとおりだと思います。ですから望月先生が手術されたら良くなるのに、実 力のない先生がやったら治らないとか、そういうことはあり得ると思います。 ○課長補佐  さっさと匙を投げてしまう先生だと早いし、頑張る先生だとなかなか。 ○戸部座長  しかし一般的に、例えばお年寄りで非常に組織が弱く、縫っても筋膜がまた裂けてし まうような、これは改善が期待できないということはあり得ると思います。 ○望月先生  私は厚生労働省の厚生省のほうの仕事で、障害認定の臨時委員をやっているのです が、例えば直腸機能障害で、人工肛門を作りますね。直腸がんの場合、人工肛門を作る ことは多々あるわけですが、それはもう、やる医師の実力によって、直腸のどんなに低 い部位のがんも人工肛門を作らないでつなぐことができる医師と、直腸のかなり高い部 位のがんなのに、つながないで人工肛門にしてしまう医師とがいて、それは医師の実力 で違うのです。しかし、そこまではもう踏み込みようがないということで、医師の判断 に任せてしまう面があるのです。これは私はもうしようがないのではないかと思いま す。 ○課長補佐  多少差はあっても、医学的に極端な差はないという理解はできるということですね。 ○補償課長  やはりきちんと最後までやることは、皆さんやって。 ○戸部座長  おかしいところがあったら、徹底的に討議しておいてください。 ○課長補佐  私どもがいちばん危惧するのは、あちらの医師に行けばみんな認めてくれるとか、こ ちらの医師だと全然駄目だという話になると。 ○戸部座長  まず、それは性善説に従って、いま望月先生がおっしゃったとおり、一般的にそう無 茶はないと思います。 ○課長補佐  分かりました。 ○戸部座長  最終的には監督署できちんと論議されるわけでしょう。 ○補償課長  医師からきちんと診断書を書いていただく、それが証明書ですよね。 ○課長補佐  主治医の先生から、これはもう駄目だ、これ以上はもう無理だねという意見書をいた だいて、それでは障害の認定をしましょうということになるのでしょうね。 ○補償課長  それしかないでのす。いまのお話ですと、先生にきちんと名前入りの証明書を書いて いただくというのが前提ですね。 ○医療監察官  そうしましたら今の議論を踏まえて、次回までに修文させていただいて、この部分は もう一度ご提案させていただくということで、よろしくお願いします。  次に、膵臓のほうに入らせていただきたいと思います。膵臓については今回初めてで すので、読み上げてご提案させていただければと思います。19頁以下です。 ○事務局  (資料No.3読上げ) ○戸部座長  最初の1と2の、現行の認定基準がないということと、膵臓の構造と機能、業務上の 疾病による影響、これはよろしいですね。たいていの場合は交通災害、落下災害、下に 何か物があって、堅い物と脊随の間で膵臓が挟まれて損傷を受ける場合が多いですね。 交通災害の場合はハンドルで相当ひどく膵臓の場所を打撲して、後ろの脊随で断裂する 場合が、実際、具体的に多いです。ですから、外傷による膵臓の障害のことを考えれば よいと、大体これでよろしいですね。いかがでしょうか、望月先生。 ○望月先生  私は不案内なのですが、肝臓と違って膵臓には薬剤性の障害というのはございません か。 ○尾崎先生  ケミカルなものでは聞いたことはありません。 ○戸部座長  それは労働基準局の方のほうがよく知っておられるでしょう。私は労働衛生コンサル タントの試験に通ったのですが、薬物による障害は、肝臓はありましたが、膵臓はあり ませんでした。 ○尾崎先生  アルコールは違いますものね。 ○戸部座長  一度調べてみてください。 ○医療監察官  はい。 ○戸部座長  「検討の視点」ですが、「膵臓が外傷により損傷された場合、どのような時期に障害 を認定するのが適当か」。これは大事ですね。「膵臓をどの程度切除した場合に機能障 害が生じ、障害として評価するに値する症状を呈するのか検討する」。これは切除と障 害とどの部位が障害されているかで随分違ってくると思うのです。例えば、膵頭部と膵 尾部との損傷によって、随分違ってきますね。膵尾部だったら切除でもほとんど問題が ありませんが、膵頭部になりますと、再建の方法によって随分変わってきますし、外傷 の場合は合併する十二指腸などの傷害によっても変わってくると思いますので、これも 検討の必要があるでしょうね。「膵臓は内分泌機能と外分泌機能の2つの機能を有して いるところ、機能障害の程度は双方の機能に着目しなければならないのか、いずれの機 能障害に着目することで足りるか」ということです。外分泌機能の程度が、なかなか判 定しにくいのです。内分泌機能のほうは血糖値の測定で容易です。 ○尾崎先生  両方を一緒に同じ病態で検討したというのを探したのですが、そういうペーパーはな いのです。動物実験で何パーセント切除になってというのがあって、私が見たのでは75 %ぐらい膵を切除すると、内分泌機能が落ちる。80%切ると外分泌機能も落ちてくると いうことでいけば、障害の程度というか、グレードを考えると、内分泌機能のほうが優 先されるのではないかとしたのです。検査的にも内分泌機能のほうが楽ですし、客観デ ータとしては取りやすいだろうと思います。 ○戸部座長  「膵臓に機能障害が認められる場合、どのような状態は療養を要する場合であり、ど のような状態は治ゆとし、障害等級を認定することが適当か」。「膵臓の機能障害によ りどのような症状が生じるのか明らかにするとともに、何級として認定するのが適当か 検討する」。 ○望月先生  後遺症状の中に内分泌機能で判断するという言葉が書いてあって、それはよろしいの ですが、後遺症の中に膵液瘻がどうしても閉じないというのがあると思います。これは 必ずしも治療の対象としなくてもいいような状況もあると思います。それは今回の中に 入っていないので、どのように位置づけるかということです。 ○戸部座長  膵液瘻は非常に大事な問題ですね。 ○望月先生  (3)の「膵臓の外傷による後遺症状」の中に入るかと思います。 ○尾崎先生  膵液瘻のまま治ゆというのもなかなか勇気が要るのですがね。 ○望月先生  ただ、普通にご飯を食べられるような状態になっていても、お腹の一部に管が入って いて、どうしても入ったままで、そのまま日常生活を送りなさいなどという人もいると 思います。 ○戸部座長  膵頭十二指腸を手術したあとでも膵液瘻ができると、なかなか治らないですね。 ○尾崎先生  それは、日常生活をしていても管が入っていると治療対象なのではないかという考え があります。 ○望月先生  治療対象だから障害にはしないのだということなら、それはそれで結構だと思いま す。 ○尾崎先生  膵液瘻を術後で診ていますと、非常に厄介ですね。時々皮膚がただれたりして、結局 ずっと診ざるを得ないだろうと思いますので、治療対象にしてしまったほうがいいと思 います。 ○戸部座長  治療対象でしょうね。膵液瘻が出来ると皮膚や周囲組織がただれ、水分と電解質が喪 失するので明らかに治療対象で治ゆにはなりません。外傷などの場合、膵液瘻を作る危 険性が非常に多いですね。 ○医療監察官  障害認定の時期は「概ね4か月」というのは。 ○尾崎先生  私が4か月と書いたのですが、それはいま先生がおっしゃった膵液瘻というのも、大 体術後を診ていますと、3、4か月で軽快に向かわないものは慢性化してしまうのが臨 床的には多いと思われたので、4か月ぐらいが1つの目処ということと、戸部座長が言 われたように、膵頭十二指腸切除の場合、膵管あるいは膵実質と吻合した場合の術後の 吻合部狭窄からくる二次性の閉塞性の慢性膵炎様症状は、大体4か月ぐらい、文献的に も3か月で繊維化が出来上がることがあって、4か月ぐらいで1つの目処かなというこ とで4か月ぐらいだと思ったのです。 ○戸部座長  文献に4か月という記載がありましたか。 ○尾崎先生  いいえ、もし膵管閉塞があった場合には、3か月ぐらいで病的な繊維化が始まるとい うのが羽生先生の文献か何かにあったので、そういうことからいくと、合併症も含めて 膵液瘻を考えると3か月で、根拠は希薄なのですが、1か月を足して4か月ぐらいが1 つの目処かと思ったのです。ただ、術後で退院の時期で判定されても、膵液瘻がそのま ま治療対象となる状況なら、そんなに時期にこだわらなくてもいいかなという気がしま す。 ○望月先生  膵液瘻を治療の対象として認定から外すか、膵液瘻がある程度治ゆしたと考えて認定 するか、大きな違いですね。 ○尾崎先生  そう思って、時期も大きく変わるかもしれない。膵液瘻が治療対象ということになれ ば、おそらく初期の治療からそんなに時期を置かないで認定に入っていいのではないか という気がします。 ○戸部座長  膵液瘻がない場合についてということですね。 ○尾崎先生  ええ。あったら治療対象ですからね。 ○戸部座長  そうですね、膵液瘻ができると治療対象で、これははっきり書いておいたほうがいい ですね。皮膚などがただれて、ひどい状態になりますし、ずっと治療しなければいけま せんから。 ○課長補佐  原案の中では、膵液瘻は全然意識していないそうなので、私どもは膵液瘻についての 知識はほとんどないのですが、その状態は、いつかは治ゆするのですか。もう永久にそ の状態が続くのでしょうか。 ○戸部座長  治ゆは難しいですね。 ○課長補佐  一般的な話でも結構なのですが。 ○戸部座長  膵癌に対する膵頭十二指腸切除術という手術術式があるます。膵頭部癌に最も多く行 われます。膵頭部を切除して、膵臓の残った部分と腸管を吻合するのです。そのときに いちばん縫合不全が起こりやすい。縫合不全というのは縫った所が付かないわけです。 膵液は蛋白質も脂肪も炭水化物も全部分解する酵素を含んでいますから、皮膚がただれ てしまって、みじめな状況になります。また、水分と電解質の喪失が起こります。膵臓 がんの手術の初期はそれがいちばん大きな問題だったわけです。いまでもそういうこと はあります。ですから、外傷が十二指腸に近い膵頭部に起こったか、膵尾部の脾臓に近 い部分で起こったかによって全然違うわけです。膵頭部で起こると膵液瘻を起こしやす いし、膵尾部だったら切除して取ってしまえば、主膵管の処理を確実に行えば問題は少 ないはずです。 ○尾崎先生  膵尾部でも似たようなことになりますね。 ○望月先生  膵体部を挫滅して体尾部を取ってしまった後、膵体部の断端の処理が十分できない場 合がありますから、そこから膵液瘻ができるのです。たぶんそれを抱えたまま一生を終 わる方も中にはおられるのではないかと思います。 ○課長補佐  でもほとんどは治る。 ○望月先生  大体治りましょうけれども、数年かかる人もいます。 ○尾崎先生  2年ぐらいはずっと流していて、だんだん量が減ってきて、いつか思い切ってその管 を抜いたら出なくなったというのが実情です。 ○戸部座長  それをいつ治ゆとするか。 ○医療監察官  いまのお話ですと、膵液瘻と言われる状態が続いている限りは療養対象です。「もう 抜いていいですよ」というときになって初めて、治ゆにします。 ○戸部座長  それを記載しておいてください。 ○医療監察官  それを前提にすると、いまは4か月ということで。 ○尾崎先生  膵液瘻さえ治療対象にしてしまえば、あまり時期にはこだわらなくてもいいかもしれ ませんね。 ○医療監察官  時期というよりは、「急性期の治療が終了し、症状が安定したとき」という程度の表 現にしておけば、ほとんどの先生方は分かるということですね。 ○望月先生  21頁で糖尿病型の判定基準が書いてありますが、OGTTを2回やらなければいけないと あります。 ○尾崎先生  これは内科学会のものをそのまま写したのです。 ○望月先生  22頁の(4)「障害等級」のアの中段の「切除した部分が相当程度に及ぶ場合であっ ても、耐糖能異常が認められず、正常型に分類される場合には、特段症状が出現しない ことから、障害に該当しないとすることが適当である」と書いてあります。ここだけを 見ますと、この中で境界型と違う、糖尿病型とも違うということで分かるのですが、ほ かの臓器との整合性を考えますと、例えば16頁から17頁の胆のうで、胆のう摘出の場合 は障害等級11級の9と書いてあり、脾臓も8級です。実際問題として、消化器外科医の イメージからすると、膵臓の外傷があって膵臓に手術を加えたことがある場合は、胆の うを取った者に比べると、ずっと大きなことをやったように感じます。それが膵臓に関 しては全く障害の対象にならずに、胆のうと脾臓はなっている。ここはほかの臓器との 整合性を考えていかなければいけないのではないかと思うのです。 ○医療監察官  障害等級は基本的には機能障害の程度に応じて定めることとされています。これは省 令がそうなっているからということですが、胸腹部臓器の機能が低下して、身体に何ら かの影響を与える程度に応じて障害等級を決めていきます。そうは言っても、臓器を1 つ取ってしまったことによって、何らかの影響が出るなら、多少見ましょうと。仮置き で11と書いてあって、括孤内の13というのは、もう少し低くてもいいのではないかと。 場合によってはゼロということもあり得るのです。 ○望月先生  胆のうのほうは見直すのでしょうか。 ○医療監察官  そうです。11なのか13なのか、ゼロにするのかというのは、最後にご議論いただくと いうことです。 ○望月先生  胆のうに関しては、ほとんど副作用というか後遺症はないと考えていいと思いますの で。 ○医療監察官  例えば胆のうが11だとすると、正常型でも相当程度切れば、少なくとも同じかそれ以 上ぐらいだというのが常識ということでしょうか。 ○望月先生  そういう印象があります。確かに耐糖能異常では引っ掛からなくても、機能障害があ ることは間違いないと思うのです。それは水面下で起こっているだけなのです。ただ胆 のうなどの場合には、水面下などというものではなく、ほとんど後遺症はないと考えて いいのだろうと思います。そうしますと、整合性の問題で見直さなければいけないので はないかと思います。 ○課長補佐  整合性の問題と関連するのですが、胆のうの場合には全摘で何もない状態にスポンと 取ってしまう。膵臓の場合には全摘はあり得ない。全摘してしまったら治ゆがあり得な いということなので、全摘と部分切除は相当違うのではないだろうか。機能的な問題と いうよりもメンタル的なものもあるのではないかと思います。 ○尾崎先生  外傷性の場合の膵尾部切除では脾臓を取りますよね。だから、脾臓の認定がどのぐら いにくるかによっても違って、膵臓まで取ってしまった場合は、本当は1つ上でいいか なという気はします。 ○望月先生  内分泌機能にはほとんど障害が出なくても、膵頭部切除をした場合は栄養障害が結構 尾を引くことがあります。ただ、それは治療の対象にならなくて、健康のときの体重は 維持できないが、社会生活はできるということは、よく見掛けることですから、機能障 害はやはりあるのです。 ○戸部座長  これは外分泌の機能障害を判定するのは非常に難しいですから、原案には書かれてい ませんが、外分泌機能の欠落による自覚的な障害はすごく大きいのです。ですから、膵 頭十二指腸を切除したら、必ず消化酵素をずっと与えないと、特に腹痛や下痢、脂肪 便、背中が痛いなどいろいろな症状が出てきます。ただその判定が難しいのです。 ○医療監察官  部位に着目して、膵頭切除した場合とそれ以外で分けるのはいかがでしょうか。 ○尾崎先生  膵臓だけは術式によって、ある程度ベースを決めてしまうほうが分かりやすいですか ね。膵頭部切除と膵体尾部切除で2つに分けて、これをランクを変える。そこに少なく とも内分泌機能をどう評価するかですが、その障害が加わったら、これが1つずつ上が るとか、それが加わっていなければ術式のランキングとして。 ○戸部座長  それは特に自覚症状で出てきますね。 ○尾崎先生  そうすればある程度シンプルにカバーできるのかもしれないですね。それで膵臓は別 個扱いということで、全摘は私も経験がないし、ないと思いますが、膵頭部切除と膵体 尾部切除で。ほかは術式であまり言っていませんが、膵臓に関しては、そういう考え方 のほうが皆さん分かりやすいのです。 ○望月先生  全摘は別扱いでしょう。全摘の場合には治療の対象になってしまいますから。 ○尾崎先生  PDかDPかということで、そうすると意見書は書きやすいですよ。 ○医療監察官  あとは内分泌機能でプラスしてやればいいということですね。 ○尾崎先生  そうすると、あまり議論にならずに分かりやすく。今まで等級分けの中に術式でとい うのがありませんでしたからね。 ○課長補佐  それと何が障害なのだということを一応付けないと。 ○戸部座長  損傷の部位が膵頭部か体尾部か。また、その再建の手術はやはり考慮すべきでしょう ね。それと自覚症状で、いちばん大きいのは外分泌障害による下痢、脂肪便、消化不良 は、少し取り上げなければいけないのではないでしょうか。しかし、外分泌機能を客観 的に評価するのは難しいですね。 ○医療監察官  いまご議論いただいて、シンプルにいけばベースの外分泌の消化障害みたいな部分 は、切除の部位で、例えば体切除であれば、それだけで11級で、それに内分泌が加われ ば9級、膵体尾部であれば13級で、それに加われば11級にするという形に。 ○尾崎先生  術式によるのか損傷部位によるのかで、ハンドル外傷をパンと切れると、レット・ア ンド・ウィルソンとか切除しないで再建します。ですから、体尾部損傷か頭部損傷かと いうのでも大きな分かれ目で。私も最近は切除をできるだけしないで、もう1回つなぎ 直すようにしています。損傷部位が頭部か体尾部かで術式も大体予想がつくと思いま す。今まではそういうのがあまりなかったので。 ○戸部座長  だから切除範囲ではなくて、損傷部位によって、膵頭部か体尾部か。それによる手術 術式によって等級を決めるほうが妥当でしょうね。 ○望月先生  脾摘も合併して行うことがよくありますから、損傷部位と術式ですね。 ○尾崎先生  再建と取ったのとは別に同じで構わないとは思いますが。 ○課長補佐  非常に幼稚な質問ですが、部位というのは画像で客観的に分かるのでしょうか。書面 の請求をするときには、ここをやったのだというCTなりを一緒に添付してもらって、 それをうちの認定の先生が見て、「これは頭部だね」と分かるのでしょうか。 ○尾崎先生  あるいは処置した術式で損傷部位もほとんど想定できます。あるいは膵損傷があって も手術に行かない場合もありますが、損傷部位は想定できます。 ○望月先生  膵疾患の中で、いわゆる偽性嚢胞(pseud cyst)ができたときは治療の対象となるか ら、それは障害にはならないのですよね。 ○尾崎先生  このぐらいでずっと経緯していればそのままです。治療対象になったときに再発にす るのですね。 ○望月先生  再発という形にすればいいわけですね。そうすると、それは障害の対象にはしなくて もいいということになりますかね。 ○尾崎先生  そう思いますが、どうですかね。あるいは1、2年経ってなることもないとは言えな いので、そのときに再発扱いになるのでしょうね。 ○望月先生  それは治療が必要だということになれば。 ○尾崎先生  小さいシュードシストは、そのまま置いておくことがよくありますが、その場合には 治療対象でなければ治ゆで見てしまって。 ○望月先生  それは障害対象にはなりませんかね。悪さをすることがあるわけですが、それを手術 で治そうとすると再発という形になりますが、そうではなくて、例えば食事制限をさせ るなどということでシストの増大を防ぐ、あるいは症状の出現を抑えるとか、予防する などということもあり得ると思うのです。つまり、膵臓が損傷すると、漏れた膵液が、 そこで組織を融解して液体が溜った嚢胞を作るのです。それを偽性嚢胞というのです が、それに対しての記載もないので、それをどうするかという問題提起をさせていただ いたのです。 ○戸部座長  記載しておいたほうがいいでしょうね。 ○尾崎先生  例えば、先ほどの膵機能障害と同じようなところで、1つ項目を設けるということで すかね。 ○望月先生  そうすると、それは手術をしなければいけないほどの症状が出たときは治療対象のと ころで再発という形にするし、治療対象ではない場合で、しかしながら、何らかの日常 生活の制限が生じる場合もありますね。 ○戸部座長  やはり記載しておいたほうがいいでしょうね。 ○望月先生  障害対象の一角になりますか。 ○戸部座長  なりますね。 ○医療監察官  それは治療するまでもないときには、食事に気を付けるなどということになるのでし ょうか。 ○望月先生  脂肪制限食を食べるとか、アルコールを飲んではいけないとか。 ○尾崎先生  脂肪便やそういう自覚症状と同じような項目のところに1つ入れておけばいいかと思 います。損傷部位のグレードに1つ加わるかもしれない要素になります。 ○補償課長  脂肪便などというと、まさしく障害が出るということですか。 ○尾崎先生  そうはならないと思います。 ○補償課長  例えば、あまり太ってはいけませんよ、食べてはいけませんと言われると。 ○尾崎先生  嚢胞というのは画像ではっきり出ます。望月先生がおっしゃったのは簡単に見付かり ます。 ○補償課長  ただ労働というようなことに関して言えば、さほど影響はないだろうと。 ○戸田先生  機能障害と形態的異常は別々に考えていかないといけないのでは。外分泌機能障害に ついては何も記載がないのですが、例えば、外分泌機能障害には先ほど戸部座長が言わ れた脂肪便、下痢などがありますが、それについては何も書いてないのです。ファンク ショナルなディスターバンスと仮性嚢胞などといった形態学的な障害は、別々に扱うの も1つの考え方ではないかと思います。そのような形態学的な異常があって、それに加 えて外分泌機能障害などが出てきた場合には、治療の対象になると思うのですが、まず は膵機能障害があるかどうかが最も大切な気がするのです。ですから、術式によって分 けるのもいいのですが、大切なのはファンクショナルなディスターバンスがあるかどう かだと思うのですが、いかがでしょうか。 ○医療監察官  なかなか外分泌も分かりにくいので、そこのベースは膵体尾部なり膵頭部なりが損傷 されたことだけで一定の評価を与えることでどうでしょうかと思うのですが。 ○戸田先生  外分泌障害だと脂肪便あるいは下痢などで、例えば高脂肪食を食べると痛くなる、あ るいは下痢をしやすいという症状が出てくるわけです。それが出てこない外分泌機能障 害というのは治療の対象になりますかね。 ○戸部座長  食道狭窄の場合、まず患者が飲み込めないという症状を訴えて、それを客観的に見 る。それと同じように膵障害も、いちばん最初は腹痛や背中が痛い、下痢、脂肪便など の自覚症状が先行するでしょうね。そのときに外分泌障害の客観的検査方法が難しいの で、ここにあまり述べられていませんが、自覚的な障害としていちばん大きいのはそう いうものでしょうね。それは膵頭部の損傷か膵尾部の損傷かによって、ある程度推定す るということがあって、それプラス内分泌障害がこれだけ出ているから、これだけ等級 をという考え方のほうが、実際の障害の立場からいえば分かりやすいのではないでしょ うか。 ○医療監察官  基本的には自覚症状プラス客観的所見ですが、脂肪便が出るとか、下痢などといった ものがあって、プラス膵頭部なり膵体尾部損傷で1つの障害として見ていきましょう と。プラス内分泌のほうは耐糖能検査でやる。そこまでは大体ご議論があって、あとは 嚢胞の関係をどうするのか。戸田先生からは、これが機能的なものと関係しているのか ということなのです。 ○戸田先生  嚢胞になった場合はどうなのですかね。 ○戸部座長  やはり腹痛とか、腹部の異常感を訴える場合がありますから、それは自覚症状として も出てくる可能性は十分あると思います。 ○医療監察官  そのときに膵体尾部なり膵頭損傷で11級なり、仮に13級としたときに、プラスをしな ければいけないようなものなのか、あるいは似たような症状止まりなのかということな のです。 ○戸部座長  これは治療の対象になるのだからということですね。 ○医療監察官  治療の対象になるのだからというよりは、それが認められる場合には、認められない 場合に比べて出る症状が重いのか。膵機能低下は激しいのだということなのか。嚢胞が 認められる場合と認められない場合を比べたときに、症状の程度が激しいと膵機能の障 害の程度が激しいと言えるのか。言えなければ、悪くなれば療養の対象として認めてあ げればいいだけで、障害として評価する必要もないのかなと思います。 ○戸部座長  障害として軽くはないですね。どれだけ重くするか、重くする必要はないかというこ とですね。 ○補償課長  プラスの部分にしなくても、そもそも土台のところで評価を1回しているわけで、そ の中に包含されるのではないでしょうか。 ○望月先生  その際、膵損傷を受けたら、無条件で評価されるのですか。いくら画像上、膵損傷が あったということが分かっても、全く外分泌機能も正常で症状もなければ、それは評価 の対象にならないのです。そういう群もありますよね。その部分に、例えば仮性嚢胞が あって、例えばハンドル外傷で仮性嚢胞だけができて、脂肪をたくさん食べるとお腹が 痛くなるとか、そういうことを起こす人はいると思います。その際には、1つの段階を 上げるというか、それが全くなければゼロだったものを、何らかの等級を付ける対象に なるのではないかという問題提起です。ほかのほうでカバーされていれば必要ないと思 います。 ○医療監察官  外から一定の力が加わったことは間違いないのですが、画像上は損傷しているとは見 られない。 ○戸部座長  その外傷を受けたときはね。 ○望月先生  損傷があっても症状としては順調に経過してしまって、「もう治ゆでいいですよ」と 言った時点で、仮性嚢胞ができてくることはあるわけです。 ○課長補佐  いまの障害の対象は、部分切除と慢性膵炎様病態の2つだけなのですが。 ○医療監察官  いま書いているのがそうなのですが、仮性嚢胞が書かれていないので、その扱いにつ いてどうするのかというご提起が望月先生からあって、ほかで評価されていればタブル カウントする必要はないが、ほかで評価されない場合にきちんと評価すべきではないか という先生のご提起なのです。 ○課長補佐  いまの仮性嚢胞というのは、慢性膵炎様病態とはまた別で、要は膵臓の炎症を起こし ているような、自己消化をしているようなものとは別の話で、膵臓のほかに溜ってしま っているような状態を、当然に評価されるべき話なのだろうという気がしますね。 ○戸部座長  評価されるべきですね。 ○戸田先生  職種制限のことを聞きたいのですが、例えば、外分泌機能が障害されて下痢、脂肪便 などがあって、栄養摂取が十分できず、痩せてきたという場合は、過激な肉体労働を伴 う職には就けないわけですね。 ○課長補佐  例えば、20kg、30kgの重量物を1日中運搬するというのは実質的には無理でしょう ね。 ○戸田先生  あるいは長距離のトラックなどは無理でしょうね。そういう職種制限にはなるわけで すね。 ○課長補佐  そこまでは一般的には考えていません。それは極めて特殊な職種だろうということな のです。一般に体力が落ちたから、極めて重量物を1日中運搬するような仕事はできな いというような。 ○戸田先生  長距離トラックを運転して事故に遭って、もし外分泌が障害された場合、元の職には 戻れないわけですね。 ○課長補佐  それは体力が落ちたからということですね。 ○戸田先生  体力が落ちて、しかもどんどん痩せてきたという場合です。肝臓のときにそれがちょ っと気になったのでお聞きしたのです。著しい肉体疲労を伴うような職業には就けない となると、職種制限になるのではないかという気がするのです。 ○戸部座長  膵外傷のほかの後遺症で、嚢胞のほかに何かありますか。膵液瘻は別として、やはり 後遺症を概念に入れておかないといけないでしょうね。 ○尾崎先生  例えば、等級はともかくとして、考え方としては開腹例と非開腹例、手術例に分けて しまって、開腹例のほうは術式か損傷部位でグレードを付けていく。非開腹例に関して は打撲だけでも膵機能が損傷されるかもしれない。そういう機能面と、膵嚢胞や仮性嚢 胞ということで、1つの等級として考えれば分かりやすいかなと思います。確かに望月 先生がおっしゃるように、最近はだいぶ温存で診ていますので、ただ開腹例と明らかに 分けて考えなければいけないのかなと思います。開腹例と非開腹例か、手術例と非手術 例でもいいのですが。非手術例は外分泌機能も内分泌機能も含めて機能障害というとこ ろに仮性膵嚢胞という項目を入れておく。手術例のほうは部位と術式によって、ある程 度グレードが決まり、そこに膵機能が加算されるかどうかというように。 ○戸部座長  そうですね、かなりすっきりしますね。 ○尾崎先生  私は書く立場ですから、非常にシンプルに書けるほうがいいなと思うのです。 ○戸部座長  重症度でしょうかね。 ○尾崎先生  ただ重症度も、診る医師によって、これは保存的にできるだけ頑張ろうと言って乗り 切る場合もありますし、早めに開けてドレナージをやってしまう場合もあるかもしれな いので、その辺は事実として分けやすいのは手術例か非手術例かで分けて、非手術例だ ったら、残るのは機能か仮性膵嚢胞程度の1つの障害として残るだろうし、開腹例は何 かしらの手術的アプローチをしますので、そちらで事実評価できるのではないかと思い ます。 ○戸部座長  分かりやすいのですが、ほかの臓器との中で膵臓だけをそのような形ですると、受け 取る側に奇異に感じる面もありますね。 ○尾崎先生  おそらく肝臓も、いま肝外傷を開腹してやる場合と非開腹で押さえ込んで胆汁バイロ ーマみたいなものを作るのとあります。同じ開腹例と非開腹例という考え方をどこかで 導入しないと、実質臓器はなかなか判断しにくくなってしまうのかと考えています。肝 臓はかなりTEなどで止まってしまえば。 ○望月先生  そうですね、実質臓器はそういう分け方をすれば分かりやすいですね。 ○尾崎先生  そうすると、非手術例は画像診断と機能診断ということで、グレードがある程度決ま ります、手術例のほうは損傷部位と術式という分け方である程度イメージが湧いてくる かなと思ったのです。 ○医療監察官  それで分かりやすいと思います。非手術例の機能障害は行きつ戻りつみたいなところ がありますが、内分泌機能とそれから。 ○尾崎先生  外分泌機能に伴うと考えられる自覚症状、下痢、脂肪便、体重減少などでしょうね。 ○課長補佐  内分泌がいくつか等級が分かれて、外分泌のほうは自覚症状だから11か13ぐらいのも のだけを作る。それのほうがすっきりしそうな気がしますね。 ○尾崎先生  だから、自覚症状と並行して仮性膵嚢胞が存在しているというのは、1つの他覚的な 症状です。実質臓器はそのように分けないと頭の中がこんがらがってきてしまうと思い ます。治療方針がすごく多岐にわたっているので、それを一括してどうこうというと、 かなり難しいのです。 ○戸部座長  今までいろいろな機能や診断の面からいっていたのを、いきなり治療で分けてくるだ けですから、表現が難しいですね。 ○医療監察官  手術例も含めて、逆に機能だけでいくのは難しいですね。 ○尾崎先生  あまりにバリエーションが多すぎますね。 ○医療監察官  要は非手術例について、例えば、内分泌が、境界型が11とか、正常型が13、あるいは 11で9という形で、外分泌だったら11なのか13なのかと。非手術例でそうであれば、手 術例についても同じようにしても良いような感じもするのですが、手術例のほうは術式 プラス内分泌でオンしたほうがいいだろう。そちらのほうがどこをやったかということ で、非常に客観性が担保される。 ○尾崎先生  重症度でベースが高いことで分かりよい。 ○戸部座長  糖尿病型を起こすような膵外傷であれば、ほとんど手術を必要とするでしょうしね。 ○尾崎先生  実際問題はそんなに難しくはならないだろうと思います。 ○医療監察官  そうすると、非手術例になるようなもので糖尿病型というのは、むしろ私病のほうを 疑うという感じなのですね。 ○尾崎先生  むしろ仮性膵嚢胞をどこかの形で入れるとすれば、確かに副膵管損傷ぐらいだと、こ んなのはできますから、かなり保存治療で、とりあえず見た目は治ってしまいますが、 多少の制限は付いて、ちょっと症状が出るぐらいです。 ○補償課長  いちばんの問題は、どう評価するかという程度の問題だけですね。 ○戸部座長  ただ手術するかしないかも、術者の個人差が非常に大きいですから、それをいきなり 前に出してしまうと、何となくこういう基準にそぐわないような気もするのです。重症 度や何かそのときの所見で表せないかと思います。 ○補償課長  逆にどのぐらいになっていたら手術対応になるのですか。例えば再発という概念で、 悪くなって手術対応しないとまずいのではないかとなるのは、自覚症状が出るのです か。 ○望月先生  自覚症状の場合もありますし、増大傾向が明確に認められてくる場合もあります。 ○補償課長  大きくなってくるのですか。 ○望月先生  普通の生活をしているとだんだん大きくなってしまう。食事をやめて中心静脈栄養を やっていると大きさが止まるという場合には、どこかで手術をしないと、いずれ破裂し てしまう恐れがあります。 ○補償課長  自覚症状が出てというと、自覚症状の程度で何となく評価ができやすいと思うので す。 ○望月先生  自覚症状も出ます。大きくなってくるときというのは、食後にお腹が痛いとか腹痛を 訴えます。 ○補償課長  大きさは分かりませんが、仮にこのぐらいの状態で止まっているとすると、何も出な いのですか。 ○望月先生  何も症状を訴えずに、その大きさのままで止まっていれば普通の生活をしていても構 わないわけです。 ○戸部座長  それは治療の対象にならないというので、いいのではないでしょうか。だから膵液瘻 と同じように、やはり合併症として治療の対象となるようなのは労災で治療したらいい し、全く症状もない場合は、特に認定しなくてもいいのではないでしょうか。 ○望月先生  そういう考えもありますね。私は、なくても、いずれ症状が出てくる可能性があるか ら認定の対象にすべきではないかというインプレッションを持っていたのです。 ○医療監察官  症状が出たときには治療対象にするというのだったら、もう障害として評価する必要 はないかなと。 ○戸部座長  だから、どのように取り扱うかは記載をしておかなければいけないでしょうね。それ から膵臓のどの場所に嚢胞かできるか。端のほうとか、場所によって違うでしょうね。 ○医療監察官  そうすると、非手術例も基本的に仮性嚢胞を前提にしたご議論だと、また元に戻っ て、どこを損傷したかというのと、内分泌機能でプラスするということで、仮性嚢胞に ついては症状が出てくるようであれば治療の対象として療養の対象にするのだというこ とを書けば、もうそれで済むのかと思います。 ○戸部座長  記載としては、障害の程度は膵臓の損傷の部位によって違うということと、その治療 のときの手術術式によって違ってくる、一様でないということは記載しないといけない でしょうね。合併症としての膵液瘻と仮性嚢胞は手術あるいは治療の対象です。治療の 対象になるときは治療をする。残った障害が自覚症状を主とする外分泌障害と検査によ る内分泌の障害、それによってある程度等級が付けられるのではないかという記載が妥 当ではないでしょうか。 ○医療監察官  ご議論を踏まえて次回までに修文をさせていただいて、もう一度ご提案をいたしま す。 ○望月先生  仮性嚢胞があった場合に、それが悪くなったときに治療対象となるから再発という形 でいいのですが、そこに至るまでの経過は全く無視していいのかどうか、私はちょっと 引っ掛かりますね。 ○戸部座長  それは記載しておかなければいけませんね。後遺症としてこういうものがあり得る。 膵液瘻や仮性嚢胞、特に仮性嚢胞としては、時期を追って進行する場合がある。そのこ とをどう取り扱うかというのは必要でしょうね。 ○戸部座長  外傷を受けてから再発するまでの期間は、普通はどのぐらいありますか。 ○望月先生  仮性嚢胞ができるまでに数週間です。障害認定が4か月後ということであれば、ある ものはちゃんと画像で分かると思います。 ○戸部座長  それ以降に出てくることは考えられないですね。 ○尾崎先生  そうですね。早いのは1週間ぐらいで、経口を始めたら出てきます。絶食の間は出て こなくて、食事を始めたら膵液が溜ってくるというのが普通ですから。 ○戸部座長  たいていの場合はCTを撮っていますからね。 ○補償課長  止まる場合もあるのですか。 ○尾崎先生  止まる場合もあるし、どんどん大きくなる場合もあります。 ○補償課長  どんどん大きくなってくれば治療をしなければ駄目ですね。 ○尾崎先生  そこで治療に入るかどうかというのは症状との兼ね合いなのです。 ○望月先生  これもヘルニアと同じようにというか、治せるものはとにかく治すという前提で考え るならば、治療の対象にならない間は障害認定の対象にしなくてもいいのかとも思いま す。 ○戸部座長  それでいいのではないでしょうか。それと認定の時期が大体何か月かということがは っきりしていれば、その時点ではっきりするでしょうしね。大事な問題ですが、そうい う考え方のほうがすっきりするのではないでしょうか。 ○望月先生  ちょっと混乱していますから、またまとめていただいたものを拝見させていただきた いと思います。 ○戸田先生  それから内分泌機能ですが、糖尿病にはインスリン欠乏によるものとインスリン抵抗 性によるものとがありますが、この二つを区別するためには、インスリンを測定すれば 良いわけで、外傷による糖尿病はインスリン欠乏によるものですから、単に糖負荷試験 だけではなく、血中インスリン測定も診断基準に入れるべきではないですか。 ○戸部座長  そのほうがいいかも分かりませんね。インスリンは定量できますからね。 ○尾崎先生  インスリン濃度が正常以下かどうかということですね。 ○戸田先生  そうです、正常以下だと、おそらく外傷によって内分泌機能が損なわれたのであろう ということになりますからね。 ○戸田先生  ある意味では、膵外傷も自覚症状が後遺症として大きいでしょうね。外分泌機能障害 を簡単に評価する方法がないのです。下痢だったら1日何回とか、どういう下痢かとい うことも、ある程度大事でしょうね。 ○尾崎先生  その辺は、慢性膵炎の診断基準の中の自覚症状をピックアップして書くのがいいので すかね。欧米では入っているのですが、日本の慢性膵炎の診断基準には外傷性の慢性閉 塞性膵炎は、病態としては入っていないのです。 ○戸田先生  外傷によって慢性膵炎が起きるとは思っていませんでした。 ○尾崎先生  外傷によって膵管が繊維化して、それで出てくる病態です。ですから、日本の慢性膵 炎には入っていないのですが、アメリカの慢性膵炎の基準を見ると、慢性閉塞性膵炎と いう病態も慢性膵炎に入れているのです。ですから、症状だけをピックアップするので あれば、慢性膵炎の臨床の診断基準の症状を記載することで、外分泌の機能障害の自覚 症状の程度は表現できるのです。 ○戸田先生  そうすると、検査でアミラーゼとリパーゼも上がってきますよね。 ○尾崎先生  アミラーゼはそんなに上がりません。リパーゼだけです。 ○戸部座長  一応は膵臓の後遺症状もここに書いてありますね。 ○医療監察官  膵臓はだいぶご議論がございましたので、もう一度整理し直しまして、次回、お諮り させていただきます。次回は、9月30日(木)午後2時30分からお願いしたいと思いま す。 ○戸部座長  それでは、どうもありがとうございました。事務局は大変ですが、よろしくお願いい たします。 照会先 厚生労働省労働基準局労災補償部補償課障害認定係     TEL 03−5253−1111(内線5468)     FAX 03−3502−6488