04/06/03 第1回職業能力開発の今後の在り方に関する研究会議事録          第1回 職業能力開発の今後の在り方に関する研究会              日時 平成16年6月3日(木)                   10時〜                場所 厚生労働省省議室 ○諏訪委員  ただいまから第1回、職業能力開発の今後の在り方に関する研究会を開催させていた だきます。本日はお忙しいところをご参集いただきまして、大変ありがとうございま す。 ○ 総務課長(妹尾)  まず、上村局長から、研究会の開会にあたりまして、一言ご挨拶をお願いします。 ○ 職業能力開発局長(上村)  能力開発基本計画という法律に基づく基本計画が、5年計画になっておりまして、直 近のものが平成17年度までとなっており、平成18年度からは、どういう形で能力開発を やっていくかということを考えなければいけないわけですので、そのご議論をいただき たいと思います。併せて、いろいろご議論をいただいた中で、これは法律改正をしなけ ればできないなど、いろいろ幅広くご議論をいただけると思っております。ここで出た 議論を踏まえて、次の計画、法律改正等について取り組んでいきたいと思っておりま す。  私は、能力開発の関係では、雇用保険課長のときに諏訪先生や、あるいは樋口先生に 大変ご迷惑をかけ、教育訓練給付を作らせていただきました。あのときにいちばん心配 しましたのは、合成の誤謬で批難を受けるのではないかということですが、幸いそうい う議論は全く出ませんでした。一人ひとりが努力した分が報われるのはともかくとし て、みんなが努力して一体どうなるのかという、それは結局、合成の誤謬で、誰も努力 しないのと一緒ではないか、それはどこに意味があるのだ、という非難を受けたらどう 答えようかと自分なりには一生懸命考えていたのですが、幸いそこの議論はありません でした。  ただ、能力開発は読み書き算盤と同じで、基本的な部分は、みんなが上がれば国力と して上がるということで意味があるのではないか、一人ひとりが他人よりも抜きん出て どうこうというよりは、みんなが努力することによって、国全体として上がっていくの ではないかと思っております。したがいまして、今後どういう方向で、どういう内容の ものを強化したらいいのか、私自身は全く今のところ何もございませんが、ご議論をし ていただいて考えていきたいと思っております。よろしくお願いいたします。 ○ 総務課長  本日お集まりの先生方のご紹介をさせていただきたいと存じます。  座席順に、法政大学大学院の諏訪先生、社会経済生産性本部の北浦部長、専修大学経 営学部の廣石先生、慶應大学大学院の山川先生、法政大学キャリアデザイン学部の上西 先生、東京大学社会科学研究所の玄田先生、政策研究大学院の黒澤先生、慶應大学大学 院の高橋先生、慶應大学商学部の樋口先生です。  なお、東京大学の佐藤先生にもメンバーになっていただいておりますが、今日は急な 大学のご用事が入られたということでご欠席です。  事務局の紹介をさせていただきます。ただいまご挨拶を申し上げました上村職業能力 開発局長、皆川審議官、能力開発課長の室川、育成支援課長の内田、キャリア形成支援 室長の半田、能力評価課長の井上、基盤整備室調査官の木原、総務課課長補佐の森川、 私は総務課長の妹尾です。よろしくお願いいたします。  なお、今研究会の座長ですが、事務局サイドの勝手なお願いで、諏訪先生にお願いを しております。よろしゅうございますでしょうか。                  (異議なし) ○ 総務課長  それでは、座長は諏訪先生にお願いしたいと存じます。では、座長から一言ご挨拶を お願いします。 ○ 諏訪座長  最近はすっかりとぼけておりまして、今回も次々とミスをやると思いますが、どうぞ 皆様の暖かいご支援とご海容でよろしくお願いいたします。  早速議事に入りますが、その前に最近の常で、研究会の情報の公開という問題をお諮 りしておきたいと思います。事務局からご説明をお願いします。 ○ 総務課課長補佐(森川)  本研究会は、職業能力開発局長参集のものでございます。資料3頁にありますが、 「審議会等会合の公開に関する考え方」中にあります閣議決定文書を基に定められた 「審議会等会合の公開に関する指針」により、局長参集の研究会については、情報は原 則公開とさせていただきたいと思います。ただし、2の(1)〜(4)にありますように、例 えば個人に関する、情報を保護する必要があるといった場合には、その都度非公開とす る場合もありますので、ご理解のほど、よろしくお願い申し上げたいと思います。 ○ 諏訪座長  ということでございますが、よろしゅうございますでしょうか。                  (異議なし) ○ 諏訪座長  では、そのように取り計らわせていただきます。この研究会は公開で行い、研究会の 委員の皆様のご氏名、議事録、配付資料などは、後程ホームページにおいても公開され るという方向で進めさせていただこうと思います。  本日の議事そのものに入ります。職業能力開発の現状につき、事務局で資料を用意し ています。本日は、これで共通の認識を持ったところで、最初ですのでフリーディスカ ッションを行い、委員の先生方のお考えをお聞かせいただければと思っております。で は、事務局からご説明をお願いします。 ○ 総務課課長補佐  資料3−1では、職業能力開発政策の動きということで、制度の概要を中心にご説明 申し上げたいと存じます。すでにお詳しい先生方もいらっしゃるかと思いますが、よろ しくお願いします。まず、「これまでの職業訓練基本計画及び職業能力開発基本計画の 概要」について、過去からの経緯について、ポイントだけご説明申し上げたいと思いま す。  昭和33年に職業訓練法が制定され、それ以来、公共の職業訓練、あるいは技能検定等 をやっているわけです。大幅な改正が昭和44年にあり、そのときに職業訓練の基本とな る中期的な計画を定めることとされ、それが第1次職業訓練基本計画として策定されて おります。第2次の職業訓練基本計画は、職業生涯を通じて、職業能力開発の体制の基 礎づくりを進める、「生涯訓練」という言葉がありますが、その確立を基本理念とし て、昭和50年の法改正のときに、第2次の職業訓練基本計画が策定されております。  第3次ですが、4番目の「基本的施策」が、これまでは公共職業訓練が第1番目にき ていたわけですが、昭和56年度からの第3次の基本計画においては、民間活力を活かし た能力開発の積極的な推進ということで、民間がまず第一にきた、これが1つのポイン トであろうかと思っています。  第4次計画ですが、この間の昭和60年に職業訓練法から職業能力開発促進法に改正が なされており、名称も職業能力開発基本計画となったわけです。何が違うかというと、 第3次までの計画は、やはり公共職業訓練基準に基づく訓練が中心ということでした が、そこからいわゆる自己啓発を含む職業能力開発も促進していくという、そこの点が 理念としては大きく変わってきたところです。  第4次から第5次の間については、大幅な法律の改正はありませんが、この間はバブ ル期であり、「3K」という言葉がありましたが、技能離れということで、技能の振興 をきちんとしていかなければいけないということと、ホワイトカラー労働者が増大して きているということから、そういった方々への対策を中心に策定されています。  第6次については、企業が労働者に求める能力がだんだん高度化しているということ があり、法律の改正により、高度な職業訓練を行う大学校等の整備を中心に、計画が策 定されたところです。第7次の考え方については、より詳細にご説明したいと思いま す。  資料3−1の2頁。平成13年の改正の背景としては、長期雇用から労働移動が増加し ているという労働市場全体の流れがあり、企業主導の能力開発だけでは限界があるとい うことと、労働者に求められる職業能力が、内外を問わず通用するものになってきてい るということで、改正の方向としては2点あります。  1点は、労働者の自発的な職業能力開発の促進ということで、具体的な措置として は、事業主が労働者の自発的な職業能力を促進するための措置を明確化する等といった ことを規定したところです。もう1点が、職業能力評価制度の整備ということで、職業 能力の評価に係る客観的・公正な基準の整備は、技能検定というのが従来からあったわ けですが、ホワイトカラー等を含む総合的なものでやっていかなければいけないという ことと、行政改革の流れで、技能検定の業務を行わせることができる民間試験機関の範 囲を拡大したということで、例えばファイナンシャル・プランニングの職種について は、ファイナンシャル・プランナー協会とか、そういった民間の試験機関が実施するこ とができるようになったということです。  この平成13年の改正に基づき、第7次の職業能力開発基本計画が策定されたわけで す。局長の挨拶の中にもありましたように、平成17年度までの計画です。実施目標とし ては、第1の中長期的視点に立った施策の枠組みとして、労働者のキャリア形成支援シ ステム、情報提供システム、能力評価システム、多様な教育訓練を受けることができる システムといったインフラ整備が必要であろうということを謳っています。  当時の状況から、ITに係る能力が必要であるという流れもあり、労働力の需給の動 向に対応した職業能力開発の展開といった機動的な訓練コースの設定等を行うことが必 要であるということ。離転職者の再就職のためには、当然、求人ニーズに即したものが 必要であるということで、訓練コースの弾力化、弾力的な設定を行うことができるよう にすべきであるということ。  2番目として、職業生活の全期間を通じた多様な職業能力開発の推進。職業生活の全 期間を通じた職業能力開発の仕組みとしては、キャリア形成促進助成金などを整備する ということ。また、職業生活の各段階で、就業形態等に応じた多様な職業能力開発の推 進として、中高年、最近で言えば若年者、障害者等、多様な能力開発コースの整備が必 要であるということです。  さらに具体的には、インフラ整備ということで、5つの○があります。まず、労働力 需給調整機能の強化ですが、これは職業安定局の施策です。残りの4つのインフラは、 キャリア形成のための支援システムの整備ということで、例えば一昨年にキャリア・コ ンサルティングの能力要件の明確化等をやったところです。職業能力開発の情報収集・ 提供体制の充実強化ということについては、教育訓練給付の講座の検索システム、特に 公共職業訓練がどこにどのようなコースがあるか、という検索システムなどを開発し、 ホームページで検索できるようにしているわけですが、平成17年度をメドに、総合的な サイトを作れるような形で、情報提供体制の整備を目指しているところです。  職業能力評価システムと訓練機会の確保については、後ほど詳細にご説明申し上げた いと思います。  それぞれ事業主、労働者、そういった民間の部分と、国・都道府県で、職業能力開発 促進法上どのような役割分担になっているかという整理をしたものが5頁です。網掛け の部分が、平成13年の改正で新しく付け加えられたところです。事業主が講ずべき処置 としては、職業訓練の実施(OJTも含む)、職業能力検定を受けさせる措置、自発的 な職業能力開発に対する援助。平成9年の改正で、もともと有給教育訓練休暇の付与、 始業・終業時刻等の時間面での配慮の必要な措置というのはあったわけですが、情報の 提供、相談体制(キャリア・コンサルティング)の面と、労働者の配置その他の雇用管 理についての配慮ということが新しく付け加わり、また労働者の自発的な取組みへの援 助というところを、厚生労働大臣が指針で示す、ということが新しく付け加わりまし た。  国・都道府県、行政は何をするかということですが、まずは事業主の取組みへの支援 をするということで、例えばキャリア形成促進助成金等の制度があります。また、求職 者等に対する職業訓練の実施ということで離職者訓練等をやっていかなければいけな い。また事業主、事業主団体が実施できないような職業訓練をやっていくということ で、例えば在職者訓練や、ブルーカラー系の学卒者訓練等が国、都道府県の責任だとい うことです。  労働者に対する自発的な職業能力開発の援助ということでは、例えば教育訓練給付金 等があります。また、技能検定等を実施していくことなどが、国・都道府県の責務とし て、ここで整理されています。次の頁に、具体的に厚生労働大臣の指針が載せてありま す。かなり詳細に規定されたということが、平成13年の改正で新しくなった点です。大 変雑駁ですが、これまでの流れということで整理をしております。  この整理に沿って、実際にどういった施策が行われているかというのを7頁以降に資 料として付けていますので、併せて説明いたします。まず、教育訓練を受ける機会の確 保、そのために行政が行う中心的な手段としての公共職業訓練がどうなっているかとい うところです。  8頁に、公共職業能力開発施設等の種類がありますが、施設は行政改革の関係もあ り、長期的には減少しており、今年の4月で302校となっています。これも法律の中で いくつか細かく分類されています。職業能力開発大学校は、前期2年、後期2年で4年 間を、学卒を中心に、特に高度な職業訓練を行うという施設で、独立行政法人の雇用・ 能力開発機構が整備をしています。例えば、専門課程では、生産技術科などで、応用課 程になるとさらにそこで細分化されており、例えば生産機械システム科、生産情報シス テム科といった訓練コースが設定されています。  職業能力開発短期大学校は、専門課程の2年だけの、これも学卒を中心に対象として いる訓練を行う施設です。これは雇用・能力開発機構が1校、都道府県は、法律上は設 置できるという規定になっており、都道府県の独自の取組みにより、7つの施設が県立 の短期大学校としてあるということです。  職業能力開発促進センターは、ポリテクセンターと言われている施設です。ここは、 2年とか4年といった長期の訓練ではなく、短期の訓練、原則は6カ月以内の訓練を離 職者、在職者に対して実施する施設で、これは雇用・能力開発機構が全国に62カ所設置 しております。  職業能力開発校は、都道府県は設置する、市町村も設置できるという規定になってい ます。地域のニーズに応じて、離職者、在職者に対して訓練を行うもの、また、中卒に 対しては2年、高卒に対しては1年の長期の訓練を行うもの。比較的高度でないものと いうことで、例えば自動車整備や木工科などの科目が設定されています。都道府県が 201校、市町村では、横浜市が1カ所だけ設置しています。  障害者の能力開発施設としては、障害者職業能力開発校が全国に19校設置されていま す。国が設置しているものは、独法の高齢・障害者雇用支援機構が2カ所、埼玉と所沢 に設置されています。ここは主にかなり重度な方、あるいは先導的な障害者訓練を実施 する機関として設置運営されています。国が設置して、都道府県がその業務を委託を受 けて運営しているのが11校、その他に都道府県が独自の取組みにより設置しているもの が全国に6校あります。  職業能力開発総合大学校は、これまで説明したものと違い、職業訓練を担当する指導 員を養成するもので、神奈川県相模原に独立行政法人雇用・能力開発機構が1カ所だけ 設置しております。  多様な施設があり、それぞれの特性に応じた訓練をやっているわけですが、実施状況 については対象者ごとにどれぐらいやっているかというのを次の頁以降で整理していま す。離職者訓練、在職者訓練、学卒者訓練、障害者訓練の実施状況です。  まず、離職者訓練の実施状況です。都道府県が実施しているもので受講者数は施設内 でほぼ2万4,000人程度ということで、横這いになっています。専修学校をはじめとする 民間の教育機関への委託によって実施しているものが、ここ数年ずいぶん増えてきてい る状況ですが、その就職率は、施設内では5割程度の就職率ですが、委託では4割を切 るといった状況です。国の雇用・能力開発機構が実施している分ですが、かなり年度に よって変動があります。例えば、平成13年は土日・夜間も実施するようになったり、ま た補正予算が組まれたりということで、受講者数は変動してきています。施設内は、6 万〜7万人程度、委託の部分が従前に比べて相当拡大してきており、ITの短期(1カ 月以内)も含めると、民間に委託している部分が8割程度になってきています。これを 除いても、やはり半数以上が民間委託、公共職業訓練といっても半数以上が民間で受け ているという状況です。就職率を見ると、施設内が7割弱、委託は4割程度という状況 です。  在職者訓練の実施状況ですが、これも県と機構を見ると、都道府県は6万〜7万人程 度でほぼ横這いになっていますが、機構については減少しています。やはり、民間や地 方でできるものはやらないということで、ここ数年在職者訓練は縮小する方向で推移し ています。  11頁は学卒者訓練です。トータル2万5,000人程度で、就職率は8割以上という状況 です。受講者数の動きですが、専門課程の雇用・能力開発機構は若干減少しており、応 用課程がその分増えてきているという状況です。これは高度な訓練に対応するというこ とで、大学校を基本的に整備していくという流れになったものですから、受講者数の動 きとしては、ご覧のような動きになっています。他方で、都道府県は7,000人程度で、 横這いということです。  普通課程ですが、例外的に雇用・能力開発機構が100人程度(主に公安)、高卒訓練 を実施しています。都道府県が1年課程で1万4,000人程度、中卒については2,000人程 度実施している状況です。対象者が減少していくのは、少子化ということもあります し、やはり地方の行政改革の流れもあろうかと思います。就職率は、いずれも高い状況 です。  障害者訓練の実施状況ですが、全国で19校です。障害者の訓練は、求職者と在職者、 両方をやっています。求職者で施設外で行う分については、1,500人程度で、ほぼ横這 い、在職者も400人程度で、やはり横這いです。委託訓練は、やや拡大してきています。 就職率は6割弱で、一般に安定所の紹介での就職率よりかなり高い状況です。これは全 国で19校ですが、都道府県では17都道府県で、障害者で近くで受けられない方がたくさ んいるわけです。そのために、今年度から一般の県立の訓練校で受入れを始め、また委 託訓練についても、今年度以降、大幅に拡大していく予定です。以上が公共職業訓練で す。  事業主等が行う教育訓練に対する支援としては、14頁ですが、助成金、認定職業訓練 という制度、また訓練実施に対する援助ということで、先程来ご説明申し上げている施 設そのものを事業主に、あるいは事業主団体に貸すということ、あるいは指導員を派遣 するということも行っています。  助成金については、15頁に載せています。平成13年に設立したキャリア形成促進助成 金は、従来のものと違うのは、入職して何年目の方にどういった訓練を受けさせるかと いった計画、それに基づいて年間でどういった訓練を実施するかという計画を策定して いる事業主で、かつ職業能力開発推進者を選任している事業主に対する助成です。職業 能力開発推進者というのは、こういった関係の国とのパイプ、窓口になるような方、労 働者のキャリア・コンサルティングの業務を行う方が法律で規定されていますが、その 方を選任していることが要件です。中身は大まかに5つぐらいに分かれています。  訓練を実施した経費、払った場合はそのときの賃金の、大企業で4分の1、中小企業 は3分の1の費用を助成するというものです。職業能力開発、あるいは職業能力評価、 キャリア・コンサルティングを受けさせるために休暇を与えた場合、受講料や入学料の 4分の1、休暇中の労働者に対して賃金を払った場合には4分の1を支払うという助成 金です。また、長期の教育訓練休暇を導入することを促進するということで、連続1カ 月以上、あるいは5年で1回連続2週間以上、制度を導入することを促進するための奨 励金を設けています。  職業能力評価推進給付金ということで、受験料の4分の3を支援する。キャリア・コ ンサルティングを受けさせる仕組みを導入した場合の助成として、外部にキャリア・コ ンサルティングを委託した場合に2分の1を助成する。職業能力評価の推進給付金が、 助成率が他と比べてかなり高いわけですが、考え方としては、やはり訓練などを受けさ せるときには、必ず評価はセットなのだろうという考え方により、ここをなるべく促進 するということで、助成率が高く設定されています。  このほかに、事業主に対する金銭面での支援として、認定職業訓練という制度があり ます。これは法律に規定されており、都道府県が公共職業訓練基準に合致すると認定し たものについて、補助金を都道府県が払いますが、その2分の1を国がみる。都道府県 が3分の2をみたときは、全体でみれば国が3分の1を負担するという格好になってい ます。認定職業訓練というのは、大企業で短大校や能力開発校を設定している所もあり ますが、中小企業主は、なかなか学校は設置しにくいものですから、中小企業団体が設 置することについても、補助金を支給するという措置があります。こういった企業の在 職者に対する訓練は、全国で22万人程度が受けており、そのための施設が1,400程度あ ります。これまでが事業主に対する支援です。  労働者個人に対する援助としては、教育訓練給付制度、大臣指定の教育訓練講座を受 けて修了した場合に、費用の4割を支給するというものがあります。平成14年度で38万 人の方が利用されています。講座の指定数は1万4,000講座という状況です。18頁にグ ラフが出ていますが、2万2,000講座をピークに、ずいぶん縮小しています。雇用の安 定や、政策効果の向上、不正受給防止のために、講座指定を重点化していったという経 緯があり、現在では1万4,000講座程度となっています。  19頁、20頁は、もう1つのインフラである職業能力評価の制度です。現行の技能検定 は、ブルーカラー系が多いわけですが、現在137職種で、主に能力開発協会が実施して います。そのほかにも指定試験機関が実施しています。この制度に合格すると「技能士 」と称することができます。受験資格等は、公共職業訓練等とリンクしています。この ほかに、大臣認定のもので、社内検定認定制度というのがあります。これも技能振興上 奨励すべきものとして、現在36企業で128職種の検定を大臣が認定しています。  ビジネス・キャリア制度というのは、どちらかというとホワイトカラー向けの制度 で、評価制度というよりは、ホワイトカラー労働者が職業に役に立つ講座を受講するこ とを奨励するために、大臣が認定しているものです。  YES−プログラムというのは、今年度から若年者の事務・営業について、マナーや パソコンの習得講座などを認定していくもので、それを修了した者には、大臣名の証明 書を発行するという制度を、新しく設けました。  そのほかに平成13年の法改正以降、大きく力を入れて取り組んでいますのが、幅広い 職種を対象とする評価制度ということです。これは、業界団体の方にご協力をいただき ながら、その業界のあらゆる職種について職務分析を行い、それに必要な能力を基準と して定めていこうというものです。現在のところ、ホワイトカラーの職種についてはひ ととおり整備したところです、そのほかに電気産業や10業種以上で取り組み中です。以 上が職業能力開発施策の主な概要、実施状況です。  3−2は、やや補足的な資料ですので、簡単にご紹介をさせていただきたいと思いま す。  「1.能力開発の重要性」では、積極的な実施についてはご覧のような下部決定文書 で指摘がなされています。例えば、2003年度改定の「構造改革と経済財政の中期展望」 の中では、雇用創出の強化という中で、能力開発・職業訓練政策を重点化すること、民 間のセキュリティを活用するということが指摘されています。  他方、役割分担についてもいくつか指摘があります。3頁の規制改革関係で、職業訓 練については、一層の民間委託を進めるということで、民間教育訓練機関の育成を図る ということなどが指摘されています。  特殊法人改革の関係で、雇用・能力開発機構に関する指摘として、在職者訓練につい ては、機構は真に高度なものに限定して実施、地方や民間で可能な訓練は速やかに廃止 ということが指摘されています。離職者訓練についても、機構の行う離職者訓練は、民 間では実施できないものに限定して実施ということが指摘されています。そのほかに も、民間の外部講師の活用ということがいわれています。  労働市場の動きについても、これはあくまでも参考資料ですが、職業別の就業者数の 推移については、平成10年度の職業安定局の推計で、傾向としては、やはり専門的・技 術的職業従事者と、サービス職業従事者は増加していくだろう。技能職、管理職といっ た職種については減少していくであろうということ。  雇用形態の多様化は、業種別に見ておりますが、10年前と比べると、非正規といわれ る方々、いわゆるパートやアルバイトと呼ばれる方々との比率が、1982年には15%程度 でしたが、20年後には30%を超えるような状況であるということです。  企業や労働者の取組みを促進する措置がいくつかありましたが、それが現行どうなっ ているかということです。企業内の教育訓練は、データとしては平成10年のところで調 査の仕方が若干変わっています。10年以前は事業所で、12年以降は企業ということにな っていますので、一概に単純に比較するわけにはいかないのですが、例えば企業のOF F−JTというのは、平成14年に「実施している」というのは半数を切るような状況に なってきております。従業員についても、OFF−JTを受講したという方が3割を切 るような状況になってきています。では、自己啓発をどれぐらい実施しているかという と、比較は難しいのですが、30%ぐらいでほぼ横這いという推移です。何でそういうこ とになっているのかは、いくつか資料を探してみたのですが、企業が能力開発等に積極 的でない理由として、トップにきているのが時間がないということ、指導する人材が不 足ということが、日本商工会議所の調査で出ています。  自己啓発にあたっての問題点は、やはり「忙しくて自己啓発の余裕がない」というの がトップで、「費用がかかる」は4分の1程度の方となっています。大変雑駁な説明で したが、以上です。 ○ 諏訪座長  かなり丁寧に職業能力開発の政策の流れ、あるいは現状をご説明いただきましたの で、聞いていてよく分からなかったところや、もう少し説明がほしいという部分もあろ うかと思います。最初にそういう部分を中心に、疑問を出していただいて、事務局の側 からお答えをいただき、その後でより広く皆様のご意見、あるいはお考えをお聞かせい ただくということで進めてみたいと思います。最初に質問がありましたらお願いしま す。 ○ 山川委員  事業主の役割に関して、さまざまな努力義務であれ、休暇等、あるいは配置に関する 配慮といったことが最近出てきているのですが、事業主の役割をもう1回、考えていく 必要がありそうな感じもしております。そのためには、現在、事業主にとって能力開発 のための努力義務で定められていることが、メリットがあるとか、インセンティブがあ るとか、そういうことを検証していく。あるいは、ベストプラクティスのようなものを 示していくことがあり得るのか。私は、専門外ですが考えているのですが、例えば、休 暇や配慮措置についての実態は把握されているのでしょうか。 ○ 総務課課長補佐  最後にご報告申し上げた調査ぐらいしか、実はないと思っています。生活時間調査の ようなものはありますが、それが具体的に職業に役に立っているものかどうかというと ころはよく分かりません。おそらく、最後に説明したものだけだろうと思います。 ○ 山川委員  何かやはり、この企業では、能力開発プログラムを事業主として実施してうまくいっ ているとか、そのための要因としてはどういうことがあるのかとか、その辺が把握でき ればいいのではないかという印象を持ちます。 ○ 樋口委員  私も素人なので局長と同じで申しわけないのですが、ちょっとお尋ねしたいと思いま す。1つは、公共の職業訓練のタイプが、離職者訓練と在職者訓練となっており、離職 者というのは、言葉をそのままとれば、今まで仕事をしていた人が辞めたということで すね。新規に労働市場に参入しようという人なども、離職者訓練の中に入っているのか と思うのですが、失業者という言い方はやめているわけでしょうが、この内訳がどうな っているのかをお聞きしたいのです。 ○ 総務課課長補佐  行政内部で慣用的に「離職者」と整理しているだけで、法律上は「求職者」という形 で整理されています。したがって統計も、新たに参入される方はすべて含まれていま す。 ○ 樋口委員  離職者訓練という、その内訳は分かりますか。今まで勤めていて、まさに離職者で訓 練を受けた人と、定義は難しいのかもしれませんが、新規参入の方とが、どれぐらいに なっているのか。例えば、失業保険を受給している人が、離職者の中のかなりウエート を占めているのかと思いますが、そういう分類はあるのでしょうか。 ○ 総務課課長補佐  おっしゃるとおり、求職者に対する訓練は、すべてハローワークの受講指示なり、斡 旋という形で行われており、そこのところできちんと把握できればいいのだろうと思い ますが、実はほとんどが離職者だろうとは思われますが、そこのところはきちんとした 整理はなされておりません。 ○ 樋口委員  この後で議論をしていく上で、訓練の対象者をどう考えるかといったときに、例えば インターンシップまで含めて、在学者、在校生まで含めての議論をしていくのか、ある いはここで言う、厳格な意味での離職者というところにターゲットを当てていくのかど うかというのが、重要なポイントになっていくと思いますので、そういうデータがあっ たら教えていただきたいと思います。  もう1つは、財源の話なのですが、多くの公的機関というのは、特別会計でなされて いるわけですね。この訓練に関する費目、特別会計と一般会計と、どれぐらいの額がそ れぞれ出ているのか。きれいに分けることは、教育訓練給付金などというのは難しいの かもしれませんが、そこのところは、こういう議論をする上で、何となく特別会計に頼 りすぎているという印象も持っていたりするので、対財務省との折衝の中で、そういう 議論が出て資料を用意されているということであれば、それも含めて教えていただきた い。特に、財源といった場合に、今までのは助成金の話ですが、もう1つ税金の問題で あるとか、あるいは最近議論になっているバウチャーの議論とかがあると思います。基 本的な考え方として、どういったメリット、デメリットがあるのかということを考える 上で、それが必要かと思います。  もう1つは、公的の中で、内訳が国と都道府県と2つに公的機関がなっていますが、 何を基準に、どの部分を国がやり、どの部分を都道府県がやるということになっている のか。国のほうは特別会計でしょうが、都道府県のほうは地方税から出ているというこ とですね。財源の分権化の話、三位一体改革の議論の中で、こういうのはどうなるのか ということがありますので、分かったらで結構ですが教えていただきたいと思います。 ○ 総務課課長補佐  正確な数字は後ほどご報告させていただきたいと思います。基本的な考え方として は、財源については雇用・能力開発機構の部分は、ご指摘のとおりほとんど特別会計の 雇用勘定です。ただ、民間に委託する部分で若干、例えばITの部分で一般会計が入っ ている部分があります。また、都道府県の財源ですが、ご指摘のとおり地方税、地方の 独自財源で手当されている部分と、法律上必置規制、県に必ず訓練校を置きなさいとい う規定をかけている関係もあり、国から交付金という形で流れております。交付金の中 身については、これは対象者が、離職者、在職者、学卒者がありますから、一般会計と 雇用勘定を両方入れた形で、交付金として地方に支出しているということです。障害者 の訓練校については、雇用勘定は入れておりません。一般会計が中心です。 ○ 樋口委員  地方との住み分けの基準というのはどうなのですか。 ○ 総務課課長補佐  基本的な考え方として、学卒者訓練については、まず学校別で都道府県が比較的基礎 的なもので、中卒で2年、高卒で1年です。機構のほうが、基本的には高度な職業訓練 ということで、2年ないし4年の訓練課程のものという住み分けです。  離職者、在職者については、最後はセーフティネットということで、離職者に関して いえば、国の役割だということですが、先ほどの特殊法人の整理合理化計画にもありま したが、基本的に地方とか民間でできるものは地方等に渡すということです。考え方と しては地域の産業ニーズに合った方の育成、例えば地場産業のために必要な人材の育成 は、都道府県のほうにお願いしているという状況です。 ○ 総務課長  補足させていただきます。いま樋口委員のご質問の最初にあったと思うのですが、こ の研究会の議論の対象、訓練の対象をどう考えるかということで、学校にいる間、先生 は「在学者」とおっしゃいましたが、そういう方に対しての職業能力開発、職業に関す る教育や訓練はどういうふうなものが必要かとか、現状にいま何が欠けているかという ことも含めて、ご議論はいずれお願いしたいと思っておりますし、そのための資料など も用意していきたいと思います。  どういう訓練が必要かという議論をしていただくのと、例えば、厚生労働省や機構 が、直接手を出して、それを訓練するかという議論とはまた別だろうと思いますので、 教育訓練の制度、在り方としては、当然そういうものを含めてご議論をお願いしたいと 思っております。  国と県の住み分けの話で、三位一体ということが最後にありましたが、国から交付金 という形で、県に財源を出しております。交付金ですので、補助金と違って、県にとっ て非常に使い勝手がよく、何に使ってもよいということになっておりますので、一般的 にいわれている補助金の一般財源化というカテゴリーの中の議論、つまり県の自由度が 低いんだという観点からいけば、交付金である以上は県の自由度は高いと思っておりま す。事実関係としては、都道府県、知事会などからの一般財源化の要望のリストが膨大 に出されておりますが、その中に訓練に関する交付金も一般財源化してもらいたいとい う要望のリストに入っております。そういう状況でございます。 ○ 上西委員  事業主が行う職業能力開発を促進するための仕組みをご説明いただいたのですが、制 度をつくって提供した場合に、事業主の側がどれくらいそれに乗ってきているのか、利 用されているのかというデータが、現在いただいている資料にはなかったと思うので す。資料3−1の15頁に「キャリア形成促進助成金」の制度が書いてありますが、こう いうものが実績として、単に金額という意味ではなく、どの程度の事業主に利用されて いるのかというデータがあるとありがたいと思います。 ○ 総務課長補佐  平成14年度の数字ですが、キャリア形成助成金、特に訓練の給付に使ったという部分 が、19万人分です。開発休暇給付金が100人程度分、長期の教育訓練休暇制度導入奨励 金が10人分くらい。それから能力評価の推進給付金が2,000人程度。それからキャリア コンサルティング推進給付金がやはり10件程度です。 ○ 諏訪座長  いろんなデータは、それぞれのところを議論するときに、是非事前にもどんなデータ がほしいかということを、委員の先生方にも打診しつつ、揃えていっていただきたいと 思いますが、今日は最初ですから、この際だからというように思うこともあろうかと思 いますから、常々疑問に思っていたことを、もうしばらく質問を受けて、その後ディス カッションに入りたいと思います。 ○ 北浦委員  これはいろいろ意図的にということだろうと思いますが、能力開発基本計画の項目の 中で、必ず「国際社会への貢献」ということで、「人づくりへの協力」という部分があ るわけです。これは、国内政策だけに限定して議論しているのかもしれないのですが、 非常にグローバルな視点を考えて、アジア全体を考えてみると、日本においてはかなり 縮小している技能だけれども、近隣諸国においては大変有意義なものがあったりするわ けです。そういうものを、例えば、国内的にどう温存していくのかという観点と、もう 1つは、それを海外にどう使っていくのかという、技術協力の側面があるわけです。こ れは、国内政策が中心の議論だと思うのですが、いまの時代背景を考えていくと、この 部分はかなり重要になってくるし、国際場面における日本の貢献で期待されているのは ここですね。  今日は全く資料が入っていませんし、項目にも出ていないので、どこかの場面でやは り触れていただきたいという要望です。 ○ 黒澤委員  民間委託の方法ですが、いろいろ地方自治体、そして雇用・能力開発協会の各センタ ーでも、違ったやり方をなさっているところがあるのではないかと思うのですが、そう いったことについての情報はお持ちでしょうか。 ○ 総務課長補佐  機構のやり方も都道府県のやり方も、地域によってかなりさまざまで、例えば委託先 を開拓するときに、訓練校の職員が開拓するのか、都道府県の能力開発課の職員が開拓 するのか、あるいは機構でいえば、都道府県のセンター、助成金の窓口などをしている 所が開発するのか、やり方はさまざまです。  いずれにしても、委託の実施方法については、通達のほうで統一的にするようにして おります。  それから、委託の単価等についても、統一的なものとなっています。 ○ 黒澤委員  つまり、何が問題意識があるかというと、民間の活力を活用すると言っても、民間の 活力というのはどこから出てくるのか。現勢を考えた場合に、やはり競争があるからこ そ、能力を高めようという、そのインセンティブが湧くという部分だと思うのです。  単価を一律にして、1人当たりこれだと、そのアウトカムと、その単価が、向こうに とっての報酬ですが、それが何の関係もないような形で委託されるのであれば、民間の 活力を最大限に活用しているやり方とは必ずしもなり得ない。  いろいろなところで制約とか監視とか管理をなさっていると思うのですが、そういっ たやり方に、地方自治体の権限はないということでしょうか。 ○ 総務課長補佐  競争促進という観点ですが、確かにご指摘のように、上限が定められていて、その中 で必要な積算がされて、場合によっては競争入札にかけるということもありますし、今 年度からは就職実績に応じて、委託単価の上限を変えていくというような仕組みを取り 入れております。  同じ県内で機構と都道府県が競合するということもあるので、そこのところはある程 度ルールは統一的に考えたほうがよいと思っております。  なお、都道府県の財源でされる部分については、国からどうしてもこうしろという強 制力はないと思っております。 ○ 諏訪座長  何で能力開発というと、ものづくりの、製造の現場だけが能力の開発で、実際の就業 人口からいえば、サービスとか、そういう所のほうがずっと多いのに、公立の訓練学校 等は、全くそういうコースというものをつくってこなかったのでしょうか。ものすごく 不思議でしょうがないのです。これは何が原因だったのでしょうか。  そのような点も含めて、疑問は多々あろうかと思いますが、議論を皆様ともっとフリ ーにしていきたいと思います。 ○ 廣石委員  意見のほうでお話させていただきますが、感想も含めて4点ということになります。 職業能力開発ということを考えたときに、座長と全く同じ感覚です。セグメントごとに 全部施策は違うはずなのです。ですから、ブルー、ホワイト、中高年、若年、離職者、 そして在学者まで含めると、それぞれ全部資格は違うはずなのに、いままでブルー系、 技能系中心で行われてきている。そういったことで、それぞれのセグメントごとの施策 という切り口というのも1つあるのかと考えていたところです。  2番目は、「職業生活の中において」という言葉にやはり引っ掛かりを感じます。先 ほど樋口委員もおっしゃったように、在学生の問題、本学でキャリアデザインなどとい う科目をもったり就職指導員をした経験からすると、大学生になってはじめて、職業と いうことを考えるというのが何かおかしいんですね。ですから、大学でその職業意識を もたせようとすること自体が、あまりにもtoo lateかもしれない。それ以前の中学校・ 高校を含めた学校教育、ある意味では家庭における職業意識というものをどのように植 えつけるかというところまで本当は考えないと、20歳にもなって、「何で働かなければ いけないの」という、素朴な疑問が出されて、大学の教員としては非常に戸惑いを覚え ているというところがあります。  職業生活以前という話になると、文科省との関係とか、いろいろとあるのかもしれま せんが、やはり議論は広くすべきだろうと思います。  3番目として、いろいろな能力の評価制度や助成金などありますが、特に私はビジネ スキャリア認定試験に問題作成委員としてかかわったというような経験もあるので、そ れがはたして企業にとって魅力ある制度なのかと、しみじみ思ったことがあります。  つまり、企業に活用したいと思わせるようなシステムになっているのかどうか。例え ば評価試験をいろいろとやっている。ではこの評価を、能力評価制度で、ビジネスキャ リア、ビジネスプログラム等々やっていますが、証明書があったから、わあすごいな と。では企業では、こういった人を積極的に採用したいと思わせるものがあるのかとい うと、「ああ頑張ってね」くらいで終わってしまうのかもしれない。  企業の現場から評価される、有意義だと思わせるような施策に、全体的になっている のかという疑問が常々ありました。  4番目、感想になりますが、企業内研修育成という意味からすると、技能者について はIHI、東芝、デンソーといったところが技能の伝承ということについて、一生懸命 個別ですがプログラムを設けている。  それから経営者育成プログラムという意味からすると、松下、東レ、小松、それぞれ いろいろと考えている。そういったものが、なかなか統計としては出てこないけれど も、個別にいろいろな企業がやっていることを参考にして、全体的な計画に落とし込め るものがあるのかということも考えてよいと思います。とりあえず感想を含めて4点で す。 ○ 高橋委員  廣石委員、樋口委員のお話の延長線上で言わせていただければ、要するにターゲット ・セグメントをどのあたりに置いて、どこに特に重点を置く施策でいくのかということ は、本当にいまお話のように非常に重要ではないかと思います。  私も研修などに出ていると、選抜研修で、将来の経営幹部候補などというプログラム を作ったりするのですが、企業の中には、事業主に対する助成金を使っている企業があ るのです。経営者の育成に税金を使うのもどうかということで、企業のほうが賢いとい えば賢いのでしょうけれども、その辺がどういうターゲットに使われているのか、本当 に我々が狙っているようなターゲットにいっていて、かつ有効に使われているかという ことは、ちょっと実態が知りたいという気がしました。  ターゲットというのはいろんな置き方があると思うのです。離職者とか求職者とか、 いろんなものがありましたが、もう1つ重要と思うのは、特に公務員系というか、この 辺の話は、あまり具体的なターゲットとして挙がっていなかったという気がするので す。いちばん昔から重要だったのは、自衛隊だと思うのです。膨大な離職者が、どのよ うにして民間に再就職させるかという努力とノウハウがものすごくたまっているのでは ないかと思うのです。  自衛隊だけでなく、郵政の問題も、いずれ雇用の問題に大きく影響してくるでしょう し、それから特殊法人で、特殊法人になった後に、明らかに競争力がなくて、どうしよ うもなくなってくるというケースがあります。これから5年、10年の間にダーッと出て きたときに、その人たちをどうするのか。  それこそ、長野県で田中知事が脱ダム宣言をすると、いままでこの道何十年とダムを やってきた人のキャリアをどのようにして、例えば介護とか、全然新しい行政のニーズ の分野に振っていくのかとか、あるいは、民間にどんどん流失できるような形に支援し ていくのかというのは、1つのターゲットイメージとして見ると、そういう人たちがう まく乗っかっていかないと、世の中の行政改革が、そこでみんなストップしてしまう。 極論ですが、そういうイメージももちますので、何かいくつかターゲットとして、特に 重点的なターゲットというものを考えたほうがいいのかという気がしました。  もう1つ思ったのは、ずっとこの法律の変遷を見てくると、やはり人材の流動化とい うか、終身雇用の崩壊というのが1つの大きな柱になってきていると思うのですが、私 が感じるのは、雇用そのものが流動化しているということ以上に、職務内容が流動化し ているということが、もっと深刻になってきているのではないかと思うのです。  雇用の流動化だけだと、例えば、ある会社で旋盤工をしていました。ところが景気が 悪くなってクビになりました。違う会社に行って、また旋盤工になって就職しましたと いう話の間をどうつなぐかということでした。  それに比べると、例えば秘書という仕事を認定するという資格をつくって、秘書とい うのはこういう仕事ですよと可視化して、そこに向かっていきましょうと言って、エン プライビリティを高めて、ほかの会社へ行っても秘書ができるという話と、そもそも、 これだけIT化が進んでくると、秘書という仕事自体がもうなくなっていくという話が あるわけです。  あるいは、秘書という仕事があったとしても、求められる能力がどんどん変わってく る。  それを、これからなくなっていくような仕事を可視化させて目指させても、身も蓋も ないというところがあって、職務内容が非常に変わってきている。だから、スナップシ ョットみたいに、すべての職務を、全部「この仕事」という形で固定化して、記述して 見せていくという仕方がもう無理なのではないか。特にホワイトカラー系の仕事でです ね。そういう感じがしました。  資格イコール職業ではないのです。FPをとったら、FPという職業で食えるかとい うと、そんな人はあまりいないわけで、それは、キャリア・コンサルタントもそうなの です。キャリ・アコンサルタントとFPの両方をもっている人が、2つのシナジーを生 かして、こんな仕事を一部でしていますというように、結局、資格イコール職業ではな いわけです。職業そのものを固定化できないときに、何かもうちょっと可視化するもの をバラバラにして、これから必要なスキルのようなもの、そのスキルは、いろんな仕事 の、ある一部で必要だけれども、これが全部揃うと、この仕事ができるという部分まで は、なかなか固定化して定義しづらいのではないでしょうか。  雇用の流動化というよりも、仕事の中身の流動化にどうついていって、フレキシブル にどんどんキャリアチェンジしたり、仕事の内容を変えていくということに人々がつい ていけるような能力をつけさせてやるべきです。  私は、エンプロイアビリティという言葉ではなくて、キャリア・コンピタンシーと前 から言っているのですが、これは、人によっては人間力と言ったり、マザー・コンピタ ンシーと言ったり、似たような言葉でいろいろ言われるのですが、何かそういうものが ないと意欲も湧いてこないし、キャリア・チェンジにもフレキシビリティがない。ある 一瞬で秘書というスキルをエンプライビリティさせて持ったとしても、それが5年後、 10年後にもたないということがやはり深刻であるという感じがいたします。 ○ 樋口委員  高橋さんの話に触発されて、さらに延長させていただきますと、そういうように職務 内容が非常に流動化する中で、行政がどういうような訓練をするかということを決めて いく。ある意味ではマンパワーポリシーで、どのような人材を、日本全体でどれくら い、何万人必要であるかと、したがってそれに向かって施設をつくっていく、講座を用 意していくというようなことが、ある意味では限界にきているのかなと思っています。 民間の活力といっても、いまのところは講座の指定を行政が行って、どのようなものが 必要ですかということですから、ある意味ではマンパワー・ポリシーの延長線に乗った 民間の活力ということになっていると思うのです。  それがはたして、時代の流れの中で、今後も続けることができるのか、あるいはその 有効性はどうなのかということを考えていくと、そこに民間の活力という、本当の意味 で、柔軟性をどう高めていくか、市場が必要とする内容の教育訓練といったものをどう 提供していくか。こういったものが必要になってくるのかと思います。  重要なのは、いままで助成金を中心に、いろんな施策を打ってきたと思うのですが、 助成金とともに、情報とか知識、さらには時間の問題、時間がないために教育訓練を受 けさせられないというような企業の比率が非常に高くなっているということですから、 そういった資金面での援助とともに、知識・情報の援助を具体的にどうしていくか。  休みを取れるような、キャリア・ブレイク制度のようなものをどうしていくかという ようなことも、この議論に上ってきて、その上で、いろんな情報が得られた上で、個人 がこういう訓練を受けるとか、企業と相談して、あるいはコンサルタントと相談して受 けていくという選択、こういうシフトがもしかしたら必要な状況になっているのではな いかと感じています。そういう意味では全体の仕組みをどうするかという根本的なとこ ろまで、まさにキャリア形成をどうするかということになってくると思います。 ○ 諏訪座長  まさにそういうところにさしかかってきたということなのだろうと思います最初です から、いまはできるだけ大きな全体構造を、次の時代を考えて、いまやった我々の研究 会がよい方向転換のオリエンテーションを示したなというような、そうしたものになれ ばと思っておりますから、ご意見を活発にいただきたいと思います。 ○ 北浦委員  過去からの基本計画の流れをご説明いただいたときに感じたわけですが、この能力開 発基本計画というのは、もともとは沿革的には、雇用対策基本計画との連携の中でつく るという枠組みになっていて、政策論的には雇用政策、あるいは雇用対策という枠組み があって、その中の能力開発という位置づけで出発したのです。  それが大体ここに色濃く出ているわけです。ですから、そういった意味では非常にテ クニカルというと語弊がありますが、能力開発という手法についての体系を、いかに整 備するか、こういう整備計画的な色彩になっていたことと、そのターゲットというもの が、この中で自立的ではなくて、まさに雇用対策のターゲットによって規定されていく という性格づけがあったのだろうと思うのです。その意味では、ターゲットが不明にな るというのは、確かにそうだと思います。  6次計画あたりから少し、今次の7次計画というのは、かなり色濃くその色彩から脱 却しているわけですが、能力開発そのものをするこの中においての1つの自立的な政策 体系というのがようやくできてきている。  そこのところを考えて次のステップを考えた場合に、いままでの雇用対策との枠組み ではなくて、基本哲学をしっかり据えるべきだろうと思うのです。  それは、先程来、各委員がお話になった、キャリアという考え方をベースにした柱 で、この基本計画を考えていく、あるいは政策体系を考えていくという時期にだんだん 来たのだろうと思うのです。  そういう視点で考えると、新しい方向づけなのです。その目で見てみると、まだまだ この政策体系のご説明なり、この体系というのは、あくまでも政策を供給する側の手段 の体系になってしまっているところがあるのです。もう少し受け身の、先程来あったよ うに、ターゲットというように、人の視点、その人というのも、対象であると同時に、 変化するもの、まさにキャリアを展開していく、そういう人であるという側面から組み 立て直すというのが、大事なのかなと思います。  もう1点は、それに関連していうと、そういう視点が少しあったのは、三次計画のと きに、このときの1つの流行りであったと思いますが、いわゆる生涯訓練という形で、 労働者の生涯にわたる政策づくりというのは、この時期の1つの背景になっていたわけ です。このときの「生涯」という、「生涯の学習」とか「生涯の訓練」というのが出始 めて、人の視点というのは出てきているわけです。  ただ、このときに言われていたイメージというのは、まだまだ長期安定雇用の世界の 中の、その中のキャリア形成を前提とした、つまり「生涯能力開発」とか「生涯学習」 というのは、そういう世界の中での「生涯」という位置づけなので、その「生涯」の意 味合い自体が、いま全部ガラッと変わってしまっている。  そこのところの整理というのが、きれいにできないまま、いま引きずってきている感 じがあるので、さっき申し上げた「キャリア」という考え方で組み立てるということ は、非常に意義があるのかなと思います。  もう1つ考えていかなければいけないのは、常にこの横にある教育という部分、これ は他省庁の政策になるのかもしれませんが、それと無関係ではなかったというわけで す。  ところが、そこの部分との関係で一定の切り分けをして、個々の政策をつくっている ところの限界というのが、在学の問題とか、先ほど言ったようなご指摘のところにあっ たと思うのです。  現実の世界を考えていったときに、やはり学校の存在というのは能力開発にもすごく 大きいわけです。それに学校の存在も視野に入れて考えていかなければいけないのが1 点。それからもう1つは民業、民間におけるいろいろな教育の産業があるわけです。そ ういったところも視野に入れてやっていく。現実に、この位置づけはみんな委託訓練と か、そういう用語で語られていて、まさにお金の出し方と政策の中にはめ込んでいるの で見えなくなっているので、先程来のような疑問も出ていると思うのです。是非そこの ところを組み替える意味で、もう少しカテゴリーを、そういった角度からの議論という ものも見えるような形で議論していったらいいのではないかと思います。 ○ 諏訪座長  重要なご指摘だったと思います。簡単にいえば、雇用政策というのは政府の全体の経 済政策の中の雇用という、いわばかなり部分的な、請負的な色彩があり、その雇用政策 の中で、この訓練政策とか能力開発政策というのは、そのまた孫請けみたいな色彩があ ったから、非常に独自の考え方が出せなかった。  しかも、この中にはっきりと見えるのは、すべてサプライサイダーの考え方であっ て、ディマンドの側、需要の側のそれは、受身でなかった。  例えば「生涯訓練」というのは、生涯教育ですから、教育する側、教え育てる側、訓 練する側であって、最近言われるような、「生涯学習」という、自分自身が学ぶという 需要の側というのと、同じことを言っているけれども、裏表の関係にある。我々は、従 来のこういう供給サイド型で体系をつくってきたのが、それではいけない限界にもうぶ つかりつつあって、しかもその供給は、さっき言ったように、これだけサービス業が盛 んなのに、サービスに関する供給はほとんどしてこなかった。  こうした基本体系をどのようにつくり変えていくか。といっても、一遍にガラッとは 変えられませんので、旧来のものは、しっかりと維持しつつ、その脇に新たな政策の仕 組みを付けていき、かつ、あまり矛盾しないようにするにはどうしていったらいいかと いう、こんな議論をこれから展開していかなければいけないのだろうと思います。 ○ 玄田委員  いま座長がおっしゃったことに、反対意見に近いことになるかもしれません。そのタ ーゲットをどこにするのかということに対して、私の理解では第6次計画くらいからか なり変更があって、第7次計画でかなり明確になっていると思うのです。政府がターゲ ットを決めても失敗するので、本人に任せよう。それが、失業なき労働移動の時代の中 で、労働者の自発的・主体的な能力開発を積極的に支援していこうという。そういう意 味ではサプライサイダーもそうだけれども、ディマンダーのことに対して、全く軽視し ていたわけではなくて、時代の背景としては、やはりそれも当然考慮していくべきだと いう方向に流れてきていて、それは一定の支持は得てきたのだろうと思っています。  私が言いたいのはここからで、実際には個人の主体性を生かすということに対して、 はたしてどこまで成功したのかということに対して、かなり疑わしさを感じていて、デ ィマンダーそれ自体が、「もういい加減に、主体性、自発性ばかり言わないでくれよ」 と言っている声が私には聞こえる気がする。  それはもっと言えば、「主体的に能力開発をしろと言っても、俺なんかにできるわけ ないじゃないか、あんまり言わないでくれ、しんどいんだよ」という声が聞こえるよう でしょうがないわけです。  そういう言い方をすれば、能力開発を主体的に詰めていくための前提が、いまかなり 揺らいでいるのではないかという認識が必要で、「また自己責任で選べというの」「本 当に主体的に自分の力で能力開発しろって、キャリア、もういい加減にしてよ、誰か考 えてよ」と言っている声がものすごく強まっている気が個人的にしています。  それは原因はよくわからない。さっきから出ている学校教育制度の仕組みの中で、イ ンセンティブに働く、何か自分から考えようとすることを、どちらかというと諦めてい るのかもしれないし、いろいろあると思うのです。  ですから、私は、第8次のことを考えるときに、第7次の延長をそのまま自然にやっ て、もっと労働者の主体的な能力開発を進めていこう、バウチャーでも何でも自分で選 んでもらおう、政府は何もできない、行政は何もできないから、本人に選んでもらおう という方向にずっと邁進するかどうかということに関しては、私はそのとおりいきまし ょうというのは、どこかに躊躇があるというのが正直なところです。  だから、どうするのかということはわかりませんけれども、いまのキーワードとして は、もう1回原点に戻ったほうがいいのではないかという感じもとてもしています。 「キャリアとかコンピタンシーとか言うなよ」「そんな難しいこと言われたって、私は かなわないよ」って。「少なくともそう考える人は、自分のお金でやってよ」「私たち お金がない人間は何をすればいいの」「大企業は自分たちでやればいいけれども、私た ちはそんなこと無理ですよ。キャリア・コンピタンシーって言われたって、困っちゃう よ」という気がしている。  だから、どうすれば一人前になるか、どうすれば段取りを組んで人を育てられるかく らいのことを、何か具体的に教えてくれと言っているような気がするし、失業対策も含 めて、いまの能力開発のキーワードには、「地域」という言葉を入れていかないと、う まくいかないという感じがするのです。私の中では、個人の主体性ということに対し て、それを否定するということは、時代の流れとしていけないだろうけれども、やはり それと、企業や地域とのかかわりをどうしていくのかという答えが見えないまま、巨大 な発言をしてみました。 ○ 諏訪座長  従来のやり方とか、いろいろうまくいっているものを潰して、何でもかんでも個人の 主体性なんて言っている人はどこにもいないのではないかと思うのです。そんなことは 非現実的な議論ですから。  逆に言えば、個人のそういう主体性を全く無視して押しつければいい、結果がよけれ ばそれでいいじゃないか、「何お前文句を言うんだ」というのも、やはり玄田委員も、 それを肯定しているわけではありませんから、現実には、どこら辺に重点、力点を置く か、あるいは速度をどういうふうにするかというときの、全体のインフラとのバランス でのサジ加減なのだろうとは思います。  そういうサジ加減における一種の目配りをしておかないと、何もインフラがない中 で、さあ1人でやってみろと、砂漠のど真ん中に何一つそこでの生き方を教えてもらっ ていない人が、放り投げられてやって、「やっぱりくたばったか、自己責任だ」とい う、こういうような議論がいけないという意味で、私は全くそのとおりだろうと思いま す。  いろいろご意見をほかにもいただきたいと思います。 ○ 樋口委員  非常に大きな問題だろうと思うのですが、経済学の流れでいうと、「市場の限界」と いうか、「市場の失敗」ということがすこぶる言われてきたわけです。言われてきた結 果、逆に政府のほうに計画的な流れというものを求めるというようなことがあって、今 度は「政府の失敗」というのがすごく主張され、強調されるようになってきたわけで す。  これはどちらも完全なもので、二極対立の話ではないのかというふうに思うのです。 むしろ、政府は何をすべきなのか、あるいは市場、個人、企業、それぞれは何をすべき なのかというような、その役割分担をやはりはっきりさせることが、いまの段階では必 要なのか。  そうしたときに、いま、みんな疲れているというところがあると思うのですが、いま までと同じように、では国に指導してもらいましょうという流れには、ならないのでは ないかと思うのです。やはり従来とは違った国の役割で、そこで助成金を使ってという ことではなく、いろんな情報提供や時間的なサポートがあるのではないかと思って、こ こで、そういう役割分担を議論していただきたいと思います。 ○ 黒澤委員  北浦委員のほうから、能力開発そのものを、自立的な政策目標に立てるという今後の 考え方の1つの案が出されて、それから玄田委員のお話を伺っていて、4月に1カ月ほ どニューヨークで、職業能力開発施策にかかわっている方々何人かにインタビューをし たこともあって、ちょっと浮かんだことです。アメリカのWIA以降というのは、それ こそ自己責任で、情報を全部与えて、「バウチャーあげるから、自分で選べ」というよ うな形になったと言われているのですが、現場に行ってみると、「そんなことができる 人間だったら、そもそも失業なんかしてないよ」と一言で言われて、そういう意味にお いては絵に描いた餅というか、そういう機能というのは働いていない。  しかしながら、そういった情報を出させることというのは、バウチャーの認定される という意味での行政側の管理として、クォリティ・コントロールとして必要であるとい う話だったんです。  ではそういう求職者、失業者たちはどういうことがいちばん必要なのかというと、向 こうでは一対一のカウンセリングがものすごく重視されているのです。いわゆる、向こ うのお医者さんもそうなのですが、アポイントメントを何時にとって行って、それで何 時間も話をして、名前で呼び合うような間柄になってというような形ですね。  日本で振り返って考えた場合に、能力開発そのものの自立的というのは、それは在職 者で、これからキャリアを自分で考えているときに、管理職になろうと専門職になろう と、そのときのキャリアアップという意味での能力開発というのと、失業してしまうと か、自分は失業の可能性が非常に高いから転職しようと思っているその求職者に対する 能力開発の施策というのは、やはりある程度違っていいのではないか。  特にそういった求職者に対する能力開発政策においては、やはり、「情報をあげるか ら自分で決めなさい」「能力開発しなさい」という能力開発ありきではなくて、やはり 雇用政策であり、職を見つけなさいうこと。その職を見つけなさいというときに、いち ばん最初に、やはりあなたのキャリアはどうで、どういうことをしたいのかという、カ ウンセリングというか、相談があって、それが非常に重要であり、その延長線として、 あなたの状態であれば、何らかの能力を付加する必要があるよと。あなたのいままでの 経歴であれば、こういった能力を付加するのがいちばんいいのではないかということ で、付加されるということで、2段階目としての能力開発があるという捉え方というの もあると思うのです。 それがいまの日本では、その部分を飛び越えて、はい、訓練指導、これでいきなさいと いう形で、ハローワークでなされてしまうような傾向があるのかと、最近特にハローワ ークが混雑化していますので、そういった状況もあるのかと思われるので、そこら辺の 考え方ということについても議論できたらいいのではないかと思います。 ○ 高橋委員  いまの玄田委員のお話、実は基本的にはアグリーというか、合意するのです。逆に言 うと、みんな「そうだ、キャリア・コンピタンシーだ」なんて頑張るんだという状況に なっているとすれば、そんなことを言う必要もないという部分もあるので。それでおっ しゃるとおりの部分が結構あります。  私もいろいろ研修とかで個人ベースの人たちに接して、集合研修のような形でキャリ アを考えさせるようなものをファシリテートをよくやって、そこでお話を聞いたりする のですが、しんどいというように思う人もいるだろうし、何か前向きには考えているの だけれども、どうしたらいいかわからない。あるいは、私の「キャリア開発論」という 講義をとっている学生たちからの質問を見ても、そこにはやはり、どうしていいかわか らないという部分はすごく感じます。  逆に私が申し上げたかったのは、自立的にキャリア形成をするといっても、急には無 理なんだから、いろいろ支援してやらなければと言っても、今度は経営者が、自立的キ ャリア形成だろう、どうして自立なのに会社が支援する必要があるんだというものの言 い方をする人がやはり出てくるのです。  それは非常に問題で、これまでさんざん縛っておいて、考えなくてもいいんだとやっ ておいて、いきなり今度は丸抱えだったものを丸投げにしてしまうんですから、それで は、ソフトランディングなんか全然できないという議論が、やはり結構必要ではない か。それは国としてもそうだし、企業側もそういう責務を負っているのだろうというこ とになると思うのです。  いま黒澤委員もおっしゃいましたが、これ選びなさいというカフェテリアのような所 にいきなり行く前に、私はやはり何かモチベーションのような問題があって、学生から の問題かもしれませんが、それもアップサイドとダウンサイドのモチベーションがあっ て、両方必要だと思うのです。何かを自分で考えたり、自主的に動かないとまずいこと になるというのと、そうすればいいことがあるという両面がやはり揃ってくるというこ とと、それから、何か慌ててもしょうがないので、自分が取ろうとするアクションをど うしたらいいかということを可視化されるものも必要でしょう。そのプロセス全体を支 えてアドバイスしていく、いまのお話のキャリア・カウンセラーのようなものや研修的 なものから、そういうインフラ的なものがあって、全部揃ってくるとやっと餌に食いつ いてくるという状況にきっとなるのだろうと思うのです。  しかし、そこがまだよくわからない。どこがいちばん問題だから動かないのかという あたりの議論が結構重要で、重点的に政策的に何かできないのかという感じがします。  そういう意味からいくと、いまのお話には、基本的に全然反論するつもりはないので す。 ○ 上西委員  若年の問題について、ちょっと付け加えさせていただきたいのですが、ターゲットを 若年のほうまで広げることが必要だというのは、皆さん共通認識だと思うのです。その 場合に、問題として顕在化した部分を何とかしようということは、いまだんだん、厚生 労働省の施策としても進んできていると思うのです。  ですが、問題化して顕在化しないように、うまく学校から職業への移行をどうつくる かというところは、なかなかまだ取り組みがなされていないというか、問題が表面化し てきた時期なのでということもあるのですが、まだできていないと思うのです。  それで、だんだん安定した雇用に入るまでの若い時期が延びてくる、長期化してく る。そのときに、大学に行くなり専門学校に行くなりということが、個人の責任に任さ れる。あるいは家庭の責任に任される。その個人の意識なり家庭の経済力なりによっ て、その人がよい雇用機会に就けるかどうかが大きく左右されるということが、はたし てこのままの状況でいいのかという気がするのです。  では何をすればいいかというところまで、私はいま言えないのですが、若い人が自分 の職業能力を開発できる場にどう社会として彼らを受け入れる体制を整えられるかとい うところも、大きな意味で職業能力開発という施策の課題だと思うのです。  ただそれは、採用とか雇用形態が多様化しているのをどうするかというような、ほか の行政のことともかかわることだと思うのですが、そういう視点をお話させていただき ました。 ○ 玄田委員  30代くらいを能力開発で応援するというのをどこかに入れませんか。2010年くらいを 目途にするときに、やはり団塊の世代と言われる人たちが60歳くらいで、定年延長にな るので、引退される方がどのくらいになるかわかりませんけれども、そのときに、いま 中間管理職か中間以下くらいの人たちが、社会の中でリーダーとして育っていかなけれ ばならない時期として、非常に重要な役割をもっている。  ただ、はたしてその中間管理職とか30代くらいの人たちが、元気よく未来に対して、 自分たち自身をスキルアップしているかというと、ちょっと怖さがある。1つ、まずわ かるのが、労働時間統計から見えているような、非常な忙しさの中で、忙しく自分を一 人前にするというようになっていればいいけれども、はたしてそんなにうまくいってい るかという不安感があると思うのです。  もう1つは、この前の研究会で高橋さんが発表された、30歳くらいで、ABCか何か あって、本当に諦めている。普通だったら、30歳くらいになって一人前になって、自分 でいろいろ考えるべきところの人が、そうなっている人もいるけれども、一方でもう、 何かもう疲れきっているというような人たちがいる可能性があって、ただそれについて は、全く見えていない。  例えば若者の問題のときに、例の七五三離職とか、フリーター人口がということで、 いろんな社会の問題提起があって、その間いろんな議論が進んだのに対して、いま30代 の疲れ加減というか、くたびれ加減とか、能力開発に関する諦め加減みたいなものは、 まだよく見えない。  ただ、2010年くらいを考えたときに、やはり30代、20代後半くらいも含まれているか もしれませんが、その人たちがいまどういう状態にあって、もしかして支援がなまじ必 要なのではないかという問題提起をすることは、さっきのターゲットとか、優先順位と かを考えるときには、ものすごく重要な問題になっているかもしれない。若者の問題も もちろん大事だけれども、比較的、若者でもない、年輩でもない、中間にいる人たち に、いまライトを当てる時期かもしれないということです。 ○ 諏訪座長  いまのはとても重要な点だろうと思います。これまでの能力開発では、ここは何か放 っておいてもやっているというような感じがあった。つまり、いちばん企業内、職場で 上り坂を元気よく上がっているんだから大丈夫というものがあったような気がするので すが、どうも最近そうではないということを、いろんなところで感じるわけです。  例えば社会人大学院にいまいちばん行こうとしているのは、玄田委員がいま言ったと ころなんですね。20代の終わりくらいから30代前半くらいの、この10年くらいの層が、 非常に社会人大学院に行きたいと言う。私のところの学部を卒業後3〜10何年くらいま でを調査したときに、大学院だけとは限りませんが、7割以上が行きたい、勉強したい と言っているのです。  では実際はどれくらい来るかといえば、それはもう本当に指で折れるくらいの数しか 来ない。しかも社会人大学に入ってきた人たちに調査をしてみると、会社に黙ってき た、職場に黙ってきたというのが圧倒的に多いのです。なぜかというと、いじめられ る。現にカミングアウトして、いじめられて、つまり、「そんな暇があるならもっと会 社の仕事をやれ」というようなことを言われて、退学していく人が毎年いるのです。  こういうところを考えていくと、日本の将来、あるいは個々人の将来、場合によって はその企業の将来ということで、かなり暗澹たる気分になります。  社会人大学院がなぜ日本の場合はアメリカのようにたくさん次々に出てこないのだろ うかというと、この大学院のつくり方に問題があるわけです。社会人大学院的なものか ら、かなり30歳代前半層の訓練などには、いちばんかなったシステムの1つなのです が、日本にはそこが文科省の下に全部入ってしまっていて、しかもそこで中心になるの が、アカデミックスの人たちなものだから、現実にどういうものが必要なのかわからな いわけです。  アメリカだったら、例えば葬儀屋さんの「葬儀学」の大学院の修士課程が2つあると か3つあるとか。あるいは、検眼士の課程も大学院にある。  こういうふうなことを聞くと、我々はおったまげるのですが、考えてみたら、向こう では大学院とかそういうものをつくりやすくて、いわば日本の特区構想において、デジ タルハリウッドが大学をつくったり、大学院をつくったり、レックが大学院をつくると いうのと同じように、業界が、これが必要だと思えば、マーケットのそれを踏まえてつ くれるメカニズムで、このようなことを、実は能力開発の中で考えていかないと、サー ビスとか新しい動きに対応した適切な訓練士の供給というのはできないのではないかと いう気が、すごくしております。ちょうどいま玄田委員がおっしゃったので、お話させ ていただきました。  きっと昔は、企業内でキャリアが貫徹する場合がかなりあって、そこでは若い頃一生 懸命頑張っていれば、後で多少使いものにならなくても悪いようにはしないよというこ とがあったのかもしれませんが、いまはともかく、30代のときどれくらい頑張っていて も、あっという間に短期消滅事項で、40代くらいになったら忘れられて、いま何できる かと言われて、「お前できないじゃないか」といって、たちまち冷たい目に遭う流れに なってきているわけです。やはり、そうした若い人、30代、場合によっては40代の大き な転換点、こうしたものにそれぞれ沿った、まさに生涯学習、あるいは生涯キャリア発 達のメカニズムを、我々は考えていく必要があるのかと思います。 ○ 廣石委員  いま若手・中堅という話、それから社会人大学院というお話を伺って、やはり職業能 力開発をしろと言って、そしてデマンド側の人の立場に立ってみると、能力開発をした ら、どんないい目があるかというところが、やはり見えなくなっているのだろうと思う のです。  いまの話で、中堅というお話になると、例えば早期選抜という1つの流れがあるとす るなら、その選抜に漏れてしまった人間は、もう職業能力開発といっても全然ピンとこ ない。  転職という話も、いまのご時世では、なかなかプロと言われるくらいにならなけれ ば、転職というのはそう容易ではない。そういう感覚があるとすると、誰が職業能力開 発をするだろうか。  若手にとってもそれは同じで、能力開発をしたら、どんな夢があるんだよというもの が提示できないと、やはりモチベーションにならない。例えば、こういった生き方、あ あいった生き方というメニューを提示できるかどうかというのが、1つのポイントかな と思いながら、いまの話を伺わせていただいた。とりあえず感想を。 ○ 樋口委員  いろいろな能力開発の基本的な財源というのは、雇用保険にずっと求められてきたと 思うのです。雇用保険に入っている人たちについては、教育訓練助成金とか、主体的な 助成というのがあるわけですが、それに入っていない人たちの数が、特に20代、30代前 半くらいで、急速に増えてきている。バブルが崩壊してもう13年経って、そういった中 で、急速にフリーターが増えてきて、最初にフリーターになった人たちが、その後定職 に就いているかという追跡をしたのですが、必ずしも就いていない。まだフリーターの ままという人たちがいて、その人たちが結婚しようと思っても、まさに定職がないとい うことで、なかなか結婚できない。  では、個人で能力開発、多分会社ではなかなかそういった人たちに対して、能力開発 というようなチャンスを与えてくれないので、個人だという。  ただそこのところは、今度は個人だと言っても、お金もないしということがあるわけ で、雇用保険に入っていない人たちも、ターゲットの1つとして、セグメントの1つと して、何か考えられないかということです。例えばバウチャーなどというのも、議論と しては出ているわけで、この中に、税金の問題というのもあるか、あるいは奨学金制度 みたいなものですね。職業教育奨学金制度、こういったものは一般財源から考えること ができるというようなこともあるわけで、それではそういった人たちに、キャリアカウ ンセラーを行っていくというような仕組みをつくっていく、やり直しができるというよ うな社会をどういうようにつくるかというところでは、その視点というのをやはり入れ てほしいと思います。 ○ 北浦委員  いまの樋口委員のお話に関連して。おっしゃっているように、確かに雇用保険依存に なっているわけですが、逆にいうと、その雇用保険の性格が、政策を規定してしまうこ とがあって、現実的には、能力開発事業という事業主負担の事業が、施策の多くの財源 になっていたのです。  そうすると、さっき言った個人主導といってもなかなかできない。その中の流れとし て、労働者負担を求めるものとして、給付という形で教育訓練給付が出ているけれど も、これをどこまで拡張できるかということです。  そうすると、労働者も負担したような形の事業というものがあるのかどうか、そんな 雇用保険制度の仕組みでも考えない限り、なかなか現実論としてはないだろう。だから こそ、一般財源をどうこうするかという問題だろうと思うのですが、現実的に一般財源 は、やはり就職困難者対策的な色彩が非常に強くなってきているので、おっしゃったよ うな意味に拡張していくのは、多分大変な努力が要ると思います。おそらくその辺の政 策を考えていく上では、財源構造との関係を絡めて議論していくことは大事だろうと思 っております。  もう1点言えば、あと、給付金行政的なものには、やはり結構依存していますし、金 額はかなり大きいわけです。それだけではやはり限界だろうと思うので、例えばさっき 言った大学院の話が出ましたが、そういうような、規制を緩和することによって自由な 形ができるようなものがあるのかどうか。そういったような制度を促進させるような、 社会的規制とか、そういうことも含めたような政策メニューをもっと考えていったらい いのではないか。そういう感じがいたします。 ○ 高橋委員  さっきの20代後半から30代の話は私も同感なのですが、背景にあるものの1つとし て、比較的大きい企業などの場合、昔は管理職を目指せばいいという、非常にわかりや すいルートがあったものが、学卒でも管理職になれる確率が非常に減っている。著しく 減りつつあるということと、もう1つ、管理職になってもあまり幸せそうに見えない。 となったときに、一体何をどう頑張ればいいのかというような、企業側がうまくイメー ジを提供できていないという部分が多分にあるように思います。  一方で、さっき座長がおっしゃったように、勉強に行こうとすると、何か後ろ指ささ れるとか、あるいは社内公募で移ると、「あんなやつの送別会やるか」と、部長がプッ と怒ってしまうような、そういう企業というのはまだまだ多いのです。  一方で、私の所の研究会に来られているように、会社として自立的にキャリアをつく ろうとする人たちを、お金を使って支援しようじゃないかということが、ここ2、3 年、やっと動き出しはじめている。急速にそういう研究会に対するインクワイアとか参 加したいという企業が出はじめて、でもまだまだ少数ですが。  彼らもまだ人事が率先してやっていて、経営者がどこまで理解しているのかというの は、まだちょっとクエスションの部分が多い。  この波を何かひとつ、企業側がそういう形に変身していくのをグッと押せるようなも のをどこかに入れたいなという感じがします。 ○ 諏訪座長  それでは今日は現在の政策の流れをひとわたり見た上で、先生方からかなり大きな哲 学、基本の軸にかかわる問題、さらには個別の政策における財源という非常に重要な問 題、そしてどの世代、どの年代にターゲットを置くかとか、いろいろさまざまなご指摘 がございました。  こうしたものを踏まえて、順次次回以降、具体的な政策論、あるいは法改正につなが るような道を、皆さんと一緒に探っていきたいと思っております。  私が聞いている限りでは、ニュアンスの差は個々人にありますが、基本的にバランス をもってこの問題を考えていこうということでは、大きな違いはないと思いますので、 是非みんなで知恵を寄せ集めて、よりよい政策の提言ができればと思っております。  それでは次回の日程について、事務局からご確認いただきたいと思います。 ○ 総務課長補佐  大変貴重なご意見ありがとうございました。次回の日程は6月29日の火曜日の16時か ら、この場所でまた開催したいと思います。第2回については、今回いただいた大変貴 重なご意見、問題点について、さらに議論を深めてまいりたいと思います。  また、ご要望の資料はなるべく事前に用意させていただきたいと思いますので、事前 にまた事務的にお伺いさせていただきたいと思います。  それからまた、今後ご要望に応じて、企業の人事担当者とかキャリア・コンサルタン トの方とか、現場で能力開発をしておられる方からヒヤリングを行うことも考えており ますので、よろしくお願いいたします。 ○ 諏訪座長  それでは以上をもって終了させていただきます。どうもありがとうございました。