04/04/28 第9回仕事と生活の調和に関する検討会議           第9回 仕事と生活の調和に関する検討会議                   (議事録)             日時 平成16年4月28日(水)                10:00〜             場所 厚生労働省共用第7会議室 ○ 諏訪座長  第9回仕事と生活の調和に関する検討会議を開催いたします。本日はお忙しい中をわ ざわざお集まりいただき、大変ありがとうございます。  本日の議題ですが、まさに山場の1つ「労働時間」のテーマについて皆様とご議論し たいと思っております。どのような具体的施策を短期的・中長期的にとっていくべきか についてご議論いただければと思っております。いつものように、議論の所在として資 料が用意されておりますので、最初に事務局のほうからその説明をいただき、その後、 意見交換をしたいと思います。 ○ 勤労者生活部企画課長  論点を整理したペーパー、資料1について説明いたします。  1として「仕事と生活の調和」を考える上でいろいろな課題がありますが、労働時間 がいちばん重要な課題ではないかということです。特にその際に、仕事と生活の時間配 分について、様々な希望を有する個人個人がそれぞれに合った働き方を選択できるよう にしていくことが必要ではないか。それも、その時々の希望が変わるということがある ので、そうした変化に応じた選択ができるようにすることが必要なのではないかという のが論点の1つ目です。  2つ目は、その際の時間配分を日単位、週単位、月単位、年単位さらには数年単位 と、様々なサイクルで考えていくべきではないか。ある時期は仕事を優先し、子育て期 には子育てを優先する、別の時期には自己啓発や社会参加を優先する、といった長期的 な視点を検討していくことが必要ではないかということです。  3点目として、現状の働き方では、拘束度の高い正社員がいる一方で、仕事時間につ いて自由度の高い非正社員もいるという二極分化の状況があります。こうした中では二 者択一を迫られるわけですが、そうした現状を改めて、できるだけ希望に沿った働き方 ができるようにしていくためには、選択肢をもっと増やしていく必要があるのですが、 そういうことについてどう考えるかです。  4点目は、多くの選択肢を整備していく際に、どのような方向性が考えられるかで す。先般行った意識調査によると、労働時間に対する不満として、「所定外労働時間が 長い」という方が非常に多く、そのほかにも「所定労働時間が長い」「働く時間が選択 できない」というような不満もあり、様々なニーズにどう対応していくかということも 検討する必要があります。  5点目は、様々な形での選択肢を整備する前提として、労働者の働き方にもいくつか のパターンがあります。一方で厳格な労働時間の管理が必要となるような労働者もいる と思われますが、他方、労働時間の管理を労働者に委ね、健康などの一定の担保措置を 講ずることで足りるという労働者もいます。そうした中で使用者に求められることは、 それぞれのカテゴリーの人についてどういうことかということも論点の1つになろうか と考えます。  2としては「中間的な働き方」や「労働時間の短縮」についてです。拘束度の高い働 き方と比較的自由な働き方との中間的な働き方を整備する必要がある。仕事と生活の双 方に適度にバランスがとれた時間配分がなされるという働き方についてのメリットとデ メリットをどう考えるかを整理しておく必要があるのではないかということです。  例えば正社員の側から見た考え方として、そうした中間的な働き方をすることによっ て、家庭活動や学習活動、地域活動に参加しやすくなります。他方、デメリットとし て、その場合に賃金が減少したり、少ない時間の中で多くの仕事上の成果を求められる こともあるのではないかということであります。  企業の側にとっては、家庭や地域社会など、企業外での様々な経験を重ねた従業員か ら、新たな貢献を受けられる可能性もあるといったメリットがあります。その一方で、 そういった変更の際に賃金の変更の柔軟性が確保されないということになると、賃金コ ストの増大ということもあるのではないかということです。  3つ目は社会にとってどうかです。こうした中間的な働き方の整備により、男性を含 めた働く者が家庭や地域で過ごす時間が増え、そうしたことによって、社会がメリット を享受できるのではないかと思います。  2つ目の論点として、こうした中間的な働き方を拡大するためには、現在、総実労働 時間が2,004時間となっている一般労働者の労働時間短縮を進める必要があるのではな いかということ。その前提として、同じ企業や事業所で、一般労働者と、それより労働 時間の短い働き方がある場合に、労働時間の差異を超えた格差が存在することをどう考 えるのかも論点の1つになるかと存じます。  労働時間短縮については、総実労働時間が平成15年に1,846時間まで減っているわけ ですが、これをパートと一般労働者に分けて見ると、パートタイム労働者、一般労働者 ともに、最近は横ばいの状況になっています。総実労働時間が減っている大きな原因 は、一般労働者とパート労働者の比率が変わって、パートタイム労働者が増えたことに よる点が大きいと考えられます。例えば年休を見ると、一般労働者、パートタイム労働 者ともに取得率や日数が横ばいの状況にありますが、所定外の労働時間は、このいずれ もが増加する状況にあります。こうしたことを踏まえて、労働時間短縮についてどう考 えていくか、これも1つの論点になるかと考えられます。  仕事と生活の調和を図るという観点から、あらかじめ予定された時間である所定労働 時間を超えて労働するような場合(所定時間外労働)の抑制についてどう考えるか。我 が国では従来からよく言われておりますが、こうした時間外労働が雇用調整の役割を果 たしている面がありますので、そうしたことを踏まえて、こうした点についてどう考え るかも論点の1つかと思われます。  もう1つ、仕事と生活の調和の観点から、所定時間外労働について、より労働者がイ ニシアチブを発揮して、所定外労働をするかどうかを決められる制度ができないかとい うことも、検討する必要がある点ではないかと思います。  例えば、所定外労働の有無や程度を事前に知らされて、その労働者本人が納得してや るような仕組み、所定時間外労働を事業主が命じる場合の手続を明確化すること、さら に所定時間外労働についての企業の必要性と労働者の生活の都合、そうした必要性を調 整するシステムを何らかの形で設けることができないかということも検討する必要があ るのではないか。  もう1つの論点は、こうした所定時間外の労働が行われた場合に、後でそれを補償す るような仕組みは設けられないかということです。例えば、代償休日のようなものを制 度化することにより、所定外労働をしたことを後で埋め合わせすることができないかと いうことも論点の1つかと思います。  4頁ですが、このような様々な仕組みに加えて、年次有給休暇の取得率が一般労働 者、パートとも低下している状況にあり、年次有給休暇の取得促進をどう考えていくか が1つです。それとともに、現在年休は2年で失効することになっていますが、これを どう考えるか、また、2年間で失効した年休をその後どう活用するか、活用する方法は ないのかといったことも検討課題の1つです。  代償休日、年休の取得促進、失効年休の活用によって、より長いターム、例えば週単 位の休暇が取れるようになるのではないかということも論点の1つだと考えられます。  もう1つ別の観点で、所定時間外労働を抑制する場合に、所定時間の長い人と短い人 で考え方を変える必要はないのか。短い人について、少し過重的に制限する必要はない のかということも論点の1つと考えられます。所定労働時間の短い人には十分長い自由 時間があるという考え方もあるかもしれませんが、他方で、所定労働時間の短い人は生 活重視型の働き方ですので、そうしたことをより尊重する必要があるのではないかとい う考え方もあるかと思われます。所定労働時間の長い人と短い人の間で、所定外の労働 時間についての制度上の扱いについて異なる取り扱いをする必要があるのかどうかにつ いても、検討する必要があるのではないか。  3点目が「自主的な労働時間管理について」です。多様な働き方の1つとして、一定 期間は相当バリバリ集中的に働くけれども、その後はかなり長期の休暇を取りたいとい う働き方もあるのではないか。例えば、ベンチャー企業を創設するときの研究者など は、集中的に働いて、その後で長期に休むという働き方もあり得るのですが、そうした ことについてどう考えるか。  現状の弾力的な労働時間管理制度としては、変形時間制、フレックス制、裁量労働制 などがあるわけですが、こうした制度により、様々な働き方に対するニーズに対応でき ているのかどうか。5頁ですが、希望する方には、より自主的な労働時間管理による働 き方を可能とするような必要性がないのか、ということも論ずる必要があると考えられ ます。  こうした自主的な労働時間管理を入れる場合のメリット・デメリットを十分に考える 必要があるということ、こうした自主的な管理制度について留意する点はないか、とい うことも論議する必要があるのではないか。例えば過重労働の防止、健康確保のための 措置、苦情処理、本人同意等を、自主的な労働時間管理を入れる場合に検討する必要が あるのかどうかも論点の1つかと考えられます。  4点目は、「様々な単位の長期休暇について」も議論する必要があるということで す。例えば6頁に具体例を示しています。所定時間外の労働が行われた場合の代償休日 や年休の計画的付与による長期休暇の実現、一定期間集中的に働いて、その後まとまっ た休暇を取るような働き方、職業生活の節目において年単位のまとまった休暇をとるよ うな仕組みの検討、そういった様々な形の、比較的長期の休暇についてどう考えるか、 それも論点の1つではないか。以上、私どもで整理した論点を説明させていただきまし た。 ○ 諏訪座長  仕事と生活の調和が労働時間の問題とどう関わるか、生活中心や、仕事中心ではなく て両者のバランスを取ろうという中間的な働き方と労働時間の短縮との関わり、自主的 な労働時間管理、長期休暇のあり方、労働時間に関する論点をこういう4点でまとめて いただいたわけです。まず全体的な構図、見通しや展望はこういうことでいいのかどう か、ここら辺から皆さんのご議論をいただきたいと思います。その後で個々的に項目ご とに4点議論したいと思います。最初に清家委員から。 ○ 清家委員  視点と方策と2点あるのです。まず全体の見方ですが、労働時間の問題を考える際の ポイントは、労働時間を絶対的に短縮することなのか、それとも柔軟性を高めることな のか。ここには両方書かれているのですが、この報告書でメッセージとして出したいの は、絶対量としての労働時間の短縮という話を主に前面に出そうとするのか、それとも 労働時間は場合によって長くなることもあるかもしれないけれども、弾力化するとか自 主選択性を高めるとかいうところに力点を置きたいのか。それは決めたほうがいいかな という気がしました。  もう1つこの中にあまり書かれていないと思ったことは、労働時間を短縮したり弾力 化したりすることには様々なコストが伴うわけですが、そのコストを一体誰がどういう 形でシェアするか。ここに書かれているものを見ると、労働側の都合をもっと優先すべ きだということが前面に出てきていまして、それはそれでいいのですが、企業のコスト 負担はどうしてくれるのかということが出てくると思うのです。  例えば二極分化と言う場合に、パートの時間賃金が安いという中には、パートはかな りフレキシブルな時間を選んで働いているのだから、その分のコストを労働側が一定量 負担しているという考え方も成り立つわけです。逆に言えば、正社員は拘束がきつい し、残業もしなければいけないのだから、その分賃金が高くてもいいのだという解釈も あるわけです。それを更に進めるとすると、何らかのコスト負担がある。もう少し言え ば、残業などというのは、伝統的な解釈によれば、人数単位での雇用調整をあまりしな いでいいように普段から残業をしておいて、仕事量が減ったときには残業時間を減らし て、人は減らさないで済むようにしましょう、というのが長期の雇用を保障するための 1つの手段と解釈されてきたようなところもあるわけです。残業は基本的にやらないと かいう話になれば、「仕事量が減ったときにはどんどん辞めてもらってもいいんですね 」と。そこまで極端ではないとしても、賃金や雇用保障の面で労働側がどういう形でコ ストシェアをするのかという話が見えてこないと、実現可能性が低いと思います。これ が2つの基本的な視点です。  方策がいろいろ具体的に後半のほうに出てきて良いと思うのですが、その整理の仕方 として、1つは、現行制度の下でかなり対応可能な部分、例えばサービス残業に対して の監視や摘発を強化する。いちばん大切だと思うのは、年次有給休暇が制度としてある わけですが、それが毎年半分しか支払われないというのはどうか。給与が半分遅配され たら、みんな大騒ぎするわけです。有給休暇も報酬の一部ですから、報酬の一部が毎年 半分しか支払われていないというのは異常な事態なので、ここのところは早急に現行制 度の下で何とかしなければいけないと思います。  もう1つは制度の改革を伴う部分です。1つは割増率の問題をどうするか。もう1つ は、ホワイトカラー・エグゼンプションに代表されるような、労働時間の柔軟性を担保 するような規制の改革があるので、その辺は少し分けて、すぐにできることと、時間を かけて労使合意を得ないとできないこと、というような形で分けていったほうが現実的 だと思います。 ○ 諏訪座長  明確なので整理するまでもないのですが、今おっしゃってくださった3点の1点目 は、労働時間の絶対的な短縮なのか、それとも柔軟化なのかという問題で、私もこれは 非常に重要な問題だと思っています。それから、短縮や柔軟化のコストの分担関係をど うするか。さらに、制度を見直していくときに、現行制度の下でやれることと制度改正 をしなければいけないこと、さらには制度改正の中にも、短期的にできるものと中長期 的でないと難しい問題とを分けて議論したほうがいいだろうという、誠に適切なご指摘 をまずいただきました。一通り委員の皆様方からご意見をいただこうと思いますので、 まずは佐藤委員からお願いします。 ○ 佐藤委員  清家委員のコメントを受けると、全体の議論すべき点は、「労働時間の短縮」が重要 ではないという意味ではないのですが、今回の「仕事と生活の調和」という観点から言 えば、時間面での多様な働き方ができる、ということに優先順位を置くのだろうという 気がしています。  働く人たちのライフスタイル等々が多様化してきているときに、固定的な労働時間管 理だけでは、働く人たちが働くことに求めている希望は実現できなくなる。そのこと は、働く人たちが意欲を持って長期に働いてもらうということからすると、経営にとっ てもマイナスです。ですから日々、あるいは職業生涯を見て、その時々の仕事と生活の 時間配分のあり方について、働く人たちの願っていることを、経営が全部そのとおりに やれという意味ではないわけですが、ある程度受け入れられるような働き方を経営側と してどのようにつくっていったらいいか。あるいは、そのための法整備として何を見直 す必要があるのかをまず議論する必要があると思います。  そういう観点から読むと少し気になるのは、時間面で多様な働き方を用意するという ことがポイントなのですが、例えば中間的な働き方をつくるというような議論が出てく る場合に、中間的というのは何かというと、拘束度が高い正社員と自由度が高い非正社 員の真ん中である、という議論なのです。これが気にかかって、「中間的な」という と、ほどほどの働き方をつくるというような感じが私はするのです。  また、正社員・非正社員という枠組みがまだ残っている中で議論しようとしている感 じがあると思っています。時間面で多様化するといえば、現状では、正社員の働き方を 選ぶとフルタイムで残業もある。時間が短くて、残業もないというと、パートしかな い。これが問題なわけです。そうすると、これを直すのが中間的なということなのかど うかということです。時間の面と、有期と無期のことが混ざってしまっているのです が、ここは時間の議論をするのだから、正社員とか非正社員の議論はなくていいはずな のです。それがとても気にかかるのです。  もう少し整理すると、従来の正社員の働き方は、経営側は「雇用を保障しますよ」 と。ですから、無期です。その代わり、例えば時間について言えば、所定労働時間が40 時間でも、残業がある日は残業させられますよね。仕事についても、この仕事だけでは なくて、仕事がいろいろと変われば異動もさせますし、それに合わせて教育訓練をやっ て、新しい仕事をやれるようにしてくださいと。大企業であれば異動もありますから、 経営側の必要で、転勤もしてくださいねと。  つまり、雇用保障をする代わり、その他については、強い人事権を経営側が持つ。そ ういう意味では、経営側の裁量の幅が大きかった。ですから、無限定的な働き方、つま り、雇用期間が無限定な代わりに、時間についても、どういう仕事をするかについて も、勤務場所についても、働く人からは決められなくて、経営側に任せてしまう。  そうではなくて、これから大事なことは経営側の裁量権をもう少し縮める。逆に言え ば、私はこの仕事しかしません、私はこの時間しか働きません、私は残業しません、と いうことを認める代わり、経営側も、ある点では雇用保障はそんなにしませんよと。私 はこの仕事、私はここしか勤務しない、私はこの時間しか働かない、そういうものを少 し認めていこうということだと思うのです。  これが中間的な働き方なのかというと、私は少し違うのではないかという気がしてい ます。仕事の時間、種類、勤務地について、「私はこういう契約で働きます」と言える ような状況をつくっていくことだろうと。そういう意味では、多様な働き方です。その 中で、時間についても選択肢が増えていく。それは中間ではなくて、もう普通になって いくことだろうという気がしています。ですから、その辺が少し気になることです。  そういう議論をしたときに、働く人たちにとって、時間について選択できるようにし ておくことは経営側にとってメリットがある、ということをどう議論するかということ がすごく大事だと思います。  清家委員は有給休暇のことも言ったのですが、有給を100%消化できるような仕組み をつくるほうが経営側にとってプラスになることを実証的に言わなければいけないわけ です。例えば、有給を取らないで仕事を長時間やっていると、どこかで病気になる。有 給取得は計画化できるわけですけれども、有給を計画的に取ってもらうときの短期的に 発生するコストと、病気で休んでしまったときのコスト。つまり、病気は予測できない のです。ですから、有給をきちんと取らせたほうが病気が少ないとか、私は、こういう データは集められるのではないかと思うのです。あるいは、有給を取ったほうがリフレ ッシュして創造性が高いということもあるかもわかりませんが、もう少しわかりやすく 、有給を取ったほうがヘルシーに働ける、その結果、病気も少なくて、病気のコストよ りも計画的に有給を取ったほうがトータルのコストが安い。そういうことをきちんとや っていくことが必要なのかなと。  特に長期の有給は大事だと思うのです。今は10日有給を取ると2週間休めるのです。 そういうものを年に2回ぐらい取ると、よく言われていることですが、有給を取ってい る間は長いわけですから、その人の仕事を誰かに割り振らなければいけない。それが教 育訓練になったり、職場の情報共有が進むのです。日本は、集団で仕事をしているから 職場の情報共有が進んでいるという議論がありましたが、私は、それはすごく嘘だと思 っています。特に最近は、一人ひとりの仕事を明確にして割り振るようになってきて、 隣の人が何をやっているのかよくわからなくなってきている。私は、意識的に職場での 情報共有を進めたり、隣の人の仕事を手伝えるような仕組みをつくることは経営にとっ てすごくプラスだと思うのです。そういう意味でも、長期の有給休暇を取らせることは すごくプラスになるように思います。清家委員が言うように、有給取得や長期休暇が経 営側にとってどういうメリットがあるのか、ということをもう少し具体的に議論するこ とはすごく大事だと思いました。 ○ 諏訪座長  その「中間的」という名前は、いろいろな人がひっかかるところだと思いますので、 ネーミングの問題、それ以上に大事なのは将来見通し、これからの政策哲学の問題とし て、後ほど議論してみたいと思います。 ○ 北浦委員  清家委員と佐藤委員のお話に重要な論点が全部出てしまっていますので、重なる部分 があると思います。私も、これを見ていちばん思ったのは、働く側の都合についてはよ く整理できているなという感じがいたしますが、それを実現するために、企業側の対応 をどう考えていくか、企業側にどのように誘因をもたらすか、この辺のところが大きい 点だと思います。  そういう意味では、そもそもそれが経営にとってプラスである、ということを力説し ていくこともあろうと思いますし、そういう点を論証していく点が1つあると思うので すが、もう1つは、阻害要因という目で分析をしていく。時間短縮の場合のこの論議は かなり古い論議でありまして、生産性の向上が先か後かということで古典的な議論がず っときているわけですが、企業の現場の中においては、これは相変わらず解決していな い問題であるわけです。その阻害要因であるところ、おそらく、生産性の問題に帰着し ていくのだと思うのですが、そこのところをいろいろな意味で丁寧に分析してやらない と、これがなかなか実現できないのではないか。  その場合に、年休取得とか、いろいろな方法論のところにつながっていく形で、例え ば、有給の取得の方法が日単位であることが非常に阻害しているのだとすれば、そこの ところを改善することがあり得るのではないかとか、あるいは、まとまって取るという 取り方の問題に何かあるのかとか、そういう阻害要因を見ることによって、方法論のと ころの各論的論議が生まれてくるのだろうと思っています。  職場の現状を見ると、個人個人の管理にはなっていますが、依然として、人数が少な い中において生産性を高めようと思うと、どうしてもチームを組ませる傾向になってし まうのです。論理的には個人単位で課業を与えることにしているのですが、補完してい く、1足す1は3であるという効果を狙うという、小さい集団の中でもチームを濃密に つくってしまうという、どうしてもそういう傾向に動いてしまうのです。その中で、お そらく、この働き方に対して、休まれることのデメリットは強烈に出てくることがあり ますので、そういう企業側の状況を阻害要因という目で見て分析していくと、これがい ちばん大きいのだと思います。  それでは企業に何と言うべきなのか、というのはこれからの議論だと思いますが、コ ンプライアンスなのだと割り切っていくのも1つのやり方なのかもしれません。思い切 ってそういうことでもしないと進まないという面はあるのかもしれません。そういう意 味では、法令的な改正、制度的に、社会的に、こういうコンセンサスを得て実現するの だと、こういうようにいくのも1つの方法なのかもしれないと思いました。  あと、細かいといいますか、むしろ、これはいろいろとご論議のあるところだと思い ますが、3つだけ申し上げます。清家委員がおっしゃった短縮なのか柔軟性なのかとい うのは非常に重要な問題だと思いますが、これを対立概念で考えるのか。あるいは補完 といいますか、例えば、ILOなどのレポートを見ると、柔軟性、弾力化を図ることに よって短縮が実現できるのだと言われています。そんなことでやってみるけれども、裁 量労働性を見てみると結果は逆ではないかというのが現状だと思いますので、現象的に は別概念として見るのでしょうが、そこの、いわば弾力化を通じての短縮があるのかど うか。この辺は、もう少し論議を深めるべきではないかと思っています。それがあれ ば、逆に、弾力化ももっと強調できるのだろうと。  2つ目に、現場の中において、残業の取扱いのところで典型的に出てきたホワイトカ ラーとブルーカラーの場合の残業の意味合いの違いが結構ある。ブルーカラーの場合 は、雇用直結型になっているところがありますが、ホワイトカラーの残業も、派遣社員 などに需要が行ってしまうという問題もあると思うのですが、多少、残業の質の違いが ある。その辺の視点が1つあります。  それから、休暇の取得の問題について労働時間の問題、これはペーパーにも出ていま すが、日常的に発生していくような折合いの付け方と、ある時期に必要になってくる場 合と、その時で違ってまいります。ですから、そこの日常的な折合いの付け方はかなり 真剣に考えてやっていかなければいけないけれども、例えば10年に1度あればいいとい うものについては、それなりの考え方をする。そこのところを分けて考えてやらないと いけないと思います。その辺が、長期休暇の問題として出てくると思います。 ○ 諏訪座長  非常に重要な補足的なご意見をいただきました。 ○ 武石委員  3人の委員の方々でほぼ出尽くした感はあるのですが、労働時間の短縮か柔軟化かと いうことについては、今、北浦委員がおっしゃった点があると思います。この研究会で は、労働者が働きたいように働けるような環境をどうつくっていくか、という部分が1 つの重要な点で、そこに新しい施策があるのだと思うのですが、古典的な問題として、 労働時間が長いという部分に何もしないというわけにはいかなくて、長い労働時間を普 通にするだけで仕事と生活の調和がかなり図れると思うのです。ですから、平均で2,000 時間というデータがありますが、バラつきがあって、結局、週60時間以上働いている人 が2割いる。週60時間だと、1年間で3,000時間ぐらいになるわけですから、その人た ちを何とかしなければならない、そこは、1つ大きな課題ではないかと思います。  この関係資料にもデータがありますが、労働時間が長いと健康の面で問題があると か、いろいろなところに皺寄せが来ていますから、労働時間が長い人についての健康管 理の問題とか、そういうところの対応をきちんとやっていく。3,000時間の人たちが2 割から0になることによって、仕事と生活の調和が全体としてかなり進むのではないか という気がしています。  それと関連して、今の長時間労働を是正するためには、現行法制をきちんと適用して いくことでかなり対応可能な部分があると思うので、労働時間の短縮の問題は現行法制 を守っていく、そこを徹底することでかなり解決するのではないかという気がしていま す。  それから、柔軟な労働時間に関しては、新しい対応が必要になってくるのだろうと思 います。それは、今、いろいろな先生方がお話をされたようなことになるわけですが、 そこで1つ重要だと思うのが、今の社会保障の仕組みです。例えば、1年間休めるよう な制度ができた場合に、社会保険などはどうなっていくのかという辺りがきちんと対応 されなければ、安心してそういう働き方を選択することができないことになると思うの で、そこの部分の対応が必要だと思います。  それと、この論点の中で、誰が労働時間を管理するのかということで、事業主が厳格 な管理をする場合と労働者の自主裁量に委ねる場合と両方あると思うのですが、労働者 の自主裁量に委ねていった場合に、この研究会でも何度か議論になっていますし、先ほ ども言いましたが、健康管理の問題が放置されてしまうと問題だと思うのです。次回以 降も健康の問題を取り上げるということなのですが、メンタルヘルスも含めた健康の問 題は考えていく必要があるという気がしています。  これは細かい話なのですが、短時間で働くとか、一時バリバリ働きたいような人が出 てきたときに、副業の問題が出てくる気がしています。副業を2つ3つの雇用主の下で 働くことに関しては、一定の法律の考え方がありますが、あまり現実にそぐわないよう な考え方になっていると思いますので、その辺も整理していく必要があるのではないか ということです。 ○ 諏訪座長  社会保険や周辺制度にも及んでいくというのは、大変重要なご指摘だと思います。そ れでは、最後はいつも法律家が受け身といいますか、以上を受けて法律論はというよう になるのですが、森戸委員、お願いします。 ○ 森戸委員  私も皆さんと基本的には同じで、特に、武石委員が最後におっしゃいましたが、一言 で言うと、現行法のルールを貫徹するのが先だということがいちばん思うことです。そ れで、全体として、今日のテーマは「労働時間」ということなのですが、「中間的な働 き方」という言い方が良いかどうかは別として、そこで言われていることは何かなと考 えると、佐藤委員に説明していただいたとおり、正社員だと無期で雇用が保障される代 わりに無限定でいろいろ応じなければいけないことがある、パートや有期の社員だとそ うではないということが、特に明確にされずに、何となくそういうもんだよねとラフに 思っている。ただ、個別の職場では、企業側と労働側が自分の働き方に対する認識がは っきりしていなくて、あるいはずれて、それが問題になってしまったということだと思 うのです。そうすると結局、これは労働時間も含めて、契約内容なり、自分の働き方の 要素、義務や権利がどういうものであって、ほかの人と内容が違うからこういう違いで 報酬がこうなっている、ということが明確になっているかどうかという話の中の一部だ と思うのです。だから、労働時間だけの話ではないのかもしれないと1つ思いました。  それから、もう1つは、労働時間の短縮か柔軟性かというポイントも非常に鋭いと思 ったのですが、確かに、柔軟性のほうを議論すべきなのでしょうが、現実には時短とい うか、私も休暇の点が非常に気になる。つまり、この論点では4に休暇があるのです が、もちろん休暇もいろいろと問題点が指摘してあるのですが、仮に、このままの形で 報告が出ると、結局、サービス残業もそうですが、現行法上の有給休暇の取得率が50% ぐらいであるということはそれでいいのかと。大して問題ではなくて、それを前提に、 その小さい枠のところで柔軟性や仕事と生活の調和を考えるのだと読めてしまう気がす る。  そうではなくて、現行法上、少なくとも、違法ではないにしても、休暇をこれだけ取 れるはずなのに皆が半分しか取っていないという前提で、ほかの面で柔軟性などと言っ ているのはおかしいのではないか。本当は、休暇も別の論点かなという気もしますが、 そうすると、今日の論点が全部なくなってしまうので、それはまずいのですが、有給休 暇を50%しか取っていない範囲で柔軟性を考えるのではないとすれば、皆が休めるだけ 休むという前提で、その次に柔軟性を考えるのが筋であろうと。  あるいは、今の政策の方向と全然逆なことを言って恐縮ですが、10日しか取らないと いう前提だから20日あげているけれども、本当は20日全部を取られるとまずい、という 現実が暗黙にあるならば、今まで苦労して増やしてきたのに、18日に減らす代わりに全 部取ってもらいますよという、冗談みたいな話ですが、そういうことも議論しなければ いけないのではないか。つまり、何となく半分しか取らない、という前提で政策を考え てしまっているとしたら、それはおかしい。  そのためには、あまり人気がないにせよ、例えば計画年休などもあるわけで、計画的 に付与することはどうなのかということを議論していくことが先なのではないかという 気がするのです。それで、サービス残業を前提とする政策は別に考えないわけで、それ は違法なものとして取り締まるしかないのでしょうが、有給は、何となく50%しか取ら ない、という前提で話が進んでしまう感じもするので、それはおかしいのではないかと いう気がしています。だから、言いたいことは武石委員と同じなのですが、現行法上の ルールの中でできることなり、まだきちんとしていないところがあって、そこを整備し た上で個々の働き方の調和なりの観点に行くべきだというように思います。 ○ 山川委員  もう追加的なことぐらいしか言うことが残っていませんが、中間的な働き方というの は、長期的に、あるときはバリバリ働いてあるときはゆっくりということは確かにある のですが、通常の正社員でも、仕事と生活の調和や労働時間の問題があるので、別に、 中間的な働き方を考えない場合でも重要な問題ではないかと思います。例えば、自分の 経験からいっても、週3日はバリバリと忙しくしていても、1日やそこらはゆったりと したときがないと疲労が蓄積しますので、そういう仕組みをどうするかということも検 討に値するように思います。  あと、企業側の事情ということから言えば、成果主義などが非常に進展してきている という話でありまして、理論上は成果主義で労働時間と関係ないということは、柔軟な 働き方や個人の選択を重視しても成果だけあげられれば企業にとっては構わないという 環境整備ができつつあるはずなのですが、現実がそうなっているかどうか必ずしもよく わからないということがあります。先ほどの「個人の選択を重視する」ということから しても、企業の中で、時間と賃金の切り離しがなぜ進まないのか、なぜサービス残業が なかなかなくならないのかという公権的な施策も必要なのでしょうが、そういう改善策 を話し合う場があって、何らかのインセンティブを与えたほうがいいのではないかと思 います。  追加的なことですが、時間短縮という側面からした場合には、通常はワークシェアリ ングと絡んで議論することが多いようです。選択というと少し別ですし、ホワイトカラ ーの場合はワークシェアリングをやりにくい事情もありますが、企業もワークシェアリ ングをやるという観点からは、ここでもそういう視点で一言ぐらい入っていると有益な 面もあるのではないかと言えるかもしれません。 ○ 諏訪座長  5つか6つぐらいの論点が出ました。清家委員が出されて、北浦委員などが補足的に ご意見をおっしゃっていた絶対的な労働時間の短縮という問題。あるいは、それととも にといいますか、柔軟化という問題をどう考えていくか。これとのかかわりでは、先ほ どの武石委員の週60時間以上働いている人たちの問題があります。この一連の論点が非 常に重要な論点だと思います。  週60時間ぐらい働いて柔軟性があれば、これは自営業の人、専門職の人の働き方にか なり近づきます。しかし、柔軟性がないままに60時間労働みたいなものを続けると非常 に問題になる。先ほど、武石委員はこういう60時間を0にすればと言われたけれども、 これはあまり現実的ではないですよね。我々を見ていても週60時間ぐらい働いている人 ばかりでその我々がここで議論をしているのです。  学者や専門職の人は、どこの国の集計でも年に大体3,000時間ぐらい働いているので す。経営者は皆そうなのです。問題は、その場合には柔軟性、自分の裁量の余地がかな りあるからもつのでありまして、例えば大学の教師が、昼間、こんな所に来たりしてい るから暇そうだと思われるのですが、その代わりに、夜中に働いていたり朝も働いてい たり、土日にも働くわけです。ただ、それは自分なりにペースを作れる。  専門職の場合も、そういうところがあるから持つわけです。仕事を3,000時間しない で、専門職としてプロでバリバリやれる人は見たことがないですね。いないだろうと思 います。それは、音楽家でも芸術家でもスポーツ選手でもそうです。ボクシングは1ラ ウンドたった3分で、15ラウンド45分であんなにもらっていると言うけれども、あれ は、日ごろどれぐらい練習をしているか見たらすごいものです。うちの近くにジムがあ りますからよくわかります。  そういうわけで、柔軟化と短縮化という問題。そういう中で、しかし他方、短縮化も 必要であろうという部分もあるだろう。そこら辺を議論することが1点目の重要な問題 だと思います。  同じように、清家委員が言った、コストの分担関係をどうするかという問題。これ は、その後、佐藤委員も、北浦委員もおっしゃっていたと思いますが、コストというこ とは、逆に言えば、その反面でベネフィットがあります。そのベネフィットのある所に コスト負担も、という考え方が基本だろうと思いますので、この配分をどうするかとい うことが2点目です。  それから、これも清家委員が問題提起されたのですが、現行法の下で、少なくとも、 著しくおかしくないにもかかわらず、そういう制度が不合理とは言えない制度なのに実 現できていないとすると、それは一体なぜなのか。どうやって実現するか。これは、各 委員とも触れられた部分です。もう1つは、中長期的に制度改革の必要な部分は何なの かという、こういうことが3点目の議論だと思います。  4点目はかなり哲学的な問題にもかかわるわけですが、「中間的な働き方」というも のにクエスチョンマークが出た部分です。これは中間的なのか、それとも、これからの 時代の1つのモデルになるような多くの人たちが望む働き方なのか。あるいは、流行り の言葉で言えば「持続可能な働き方」。人間的なリズムを持った働き方、生活のリズ ム、仕事のリズム。そういうように考えると、それを何と呼んでいったらいいのだろう かという問題が4つ目にあったと思います。  5つ目にありましたのは、こういうように考えていくと、いろいろな阻害要因があり ますから、理想論としては良いと思っているものがうまく実現できないでいるわけで す。その阻害要因の特定がもう少し必要なのだろうということです。前の4点の中にも 含まれていたのですが、そうした阻害要因、経営的な阻害、社会的な阻害、子どもの教 育上の問題もあるかもしれませんし、いろいろあり得るわけですが、こういうことをど う考えるか。  6点目として取り上げたほうがいいと思うのは、休暇、休業という問題は労働時間そ のものとは少し違う側面があるのではないか。つまり、労働時間は長くしないというこ とを言っているわけですが、休暇に関しては長くしなければいけない。ここでは、IL Oの3週間でまとめて取れという長期休暇の考え方で、仮に分割しても2週間と1週間 だという条約があるにもかかわらず、日本ではそういう方向に全然行かない。また、半 分しか取れない。世界的な流れとしては、これは経営側が責任を負って、その代わり に、経営側が基本的に、いつあなたは休みですよと、ちょうど、非番の日と同じような 扱いでやるのに対して、有給休暇に関しては労働側が取れるという形にした結果、かえ って取りづらくなっているという、この矛盾を一体どういうふうに処理していったらい いかという問題などがありますので、これらについて、もう少しご議論いただきたいと 思います。その前に、事務局の側も用意してくださって、いろいろと聞く一方ですと欲 求不満が溜まっていると思いますので、ここら辺で少し、こういう点についてのお考え がありましたら、お願いをしたいと思います。 ○ 勤労者生活部長  完全に整理は出来ていないと思うのですが、おぼろ気ながら整理した点を申し上げま す。まず、第1点の時間の総量規制か柔軟性かという点の判断なのですが、実は労働行 政、あるいは制度全体として1,800時間を達成するということで、総量規制を標傍して 間違いなくやってきたという事実があります。そんな中で、政策の変化に関して言え ば、いわゆる生産性とか、あるいは効率性を多少考えながらやらないと、この1,800と いうもの自体を単純に追求すると、我が国全体のあり様から問題ではないかと。そんな ところが前川レポートに仕組まれていたという関係もあると思いますが、それ以前の政 策から比べると、労働時間について様々な弾力的な労働時間制度を、多分にかませて達 成できないだろうかというようなことをいたしました。  そういった対応をする中で、実は8時間所定労働、20日なら20日の年休を前提とした 1,800時間目標システムが、まず所定については生産性を考慮してくれるのであれば、 清家委員の言われるコスト・ベネフィット関係なく、使用者側のコストをある程度抑え ることがいちばんの生産性への直結だということで、残業をやる。その残業のところ も、多分に言われるサービス残業的なものを増やすことで、世の中が動いてきた。その 跳ね返りとして、所定の年休の未消化という状況が起こって、いわゆる総労働時間の抑 制が利かなくなってきているというふうに分析しました。  現行法のあるべき姿が守られない要因とすれば、これに関係する直接の当事者、労使 における意識の部分での問題があった、ないし今もあるということです。これは俗に言 われるグローバル経済化の中で競争が激しいのだから、ということを前提に、かつ、我 が国における労働組合が企業別労組という宿命を負って、その中での一定の企業経営者 への理解ということを旗頭に、意識部分での覚醒がもう少しされていないといったよう な関係で、こういう状況が起こっているという面もあるのではないかと思っています。  さはさりながら、行政としては、これらを改める必要があるということで、例えば年 次有給休暇などについては資料にありますが、計画年休制度を使って取りましょうと か、意識改革しましょうという、いわば昔の言葉でいえば、遵法精神を掻き立てるため の政策、最近ではコンプライアンスというふうなことが言われてやってきていますが、 25頁を見ていただくとわかりますように、企業及び労働者双方が完全取得のために必要 と考えているトップは何かというと、「管理者に対する意識改革教育」という話です。 法律には書いてあるのですが、これが浸透していない。意識改革が出来ていないという ことをトップに挙げ、その次の対策として「計画的付与」とありますので、それをやっ てきているのではないかと思っています。  そうは言っても、今の現状が回復できないということで、例えばスローガンとして解 決する意味で、「しっかり働き、たっぷり休む」という言葉に象徴でき るような対応 をしてはどうかというふうに整理できます。なぜかというと、裁量労働、みなし労働が 効率性等考えてやったところ、ある意味で、サービス残業的なものにシフトしやすい環 境を作ってしまったということがあります。ですので、今後の政策展開の主要な目標は 「柔軟な働き方を認める」ということを第一義的な目標として追求することで、今まで の裁量労働制、みなし労働制といった対応を積極的に認知し、さらにいろいろな働き方 を認める中で、いわばそれのマイナス的な使い方、つまり裁量労働、みなし労働がある から残業をしやすくするということに関しては、歯止めをかけるということ、つまり残 業についての割増し等、企業側の負担をかけることで、結果として柔軟性を追求する中 で、絶対的な労働時間が減るという効果が狙えないか。あるいは、しっかり働き、たっ ぷり休む中で年次有給休暇の今までの水準をもちろん確保しながら、代償休暇とか、未 消化のいわゆる権利が消滅するものについて、もう少し活用が図れる方途を講ずること で、しっかり働いた後、たっぷり休むところで、年間の総労働時間が抑えられる工夫が できないか。そういう意味で、新たな道具立てというか、仕掛けをもう一回加えること で、関係労使の意識の向上を図る。それを通じて、多様な労働をすること、あるいは柔 軟な労働を認める中で、いろいろな仕掛けをして、再度、結果として総労働時間を抑え ることができないかというふうにできないかと、先生方のお話をお聞きして思いまし た。  そうすることで、結局、人生生活の中での仕事拘束時間帯をある程度圧縮し、プライ ベートの生活を増やし、まさに仕事と生活の調和が図れるという効果が狙えないかと。 仮に今の流れというか、整理がある程度いいのではないかとしていただけると、問題の 置き方ももう少し整理できるのではないかと思っています。  もう1つ、コストの話に関しましては、労働時間を結果として縮めると、その分、給 与等が減るということで、労働者は非常にナーバスな取組みを今までやってきました が、ここ最近の春闘や労働運動を見てまいりますと、賃上げ、基本的なベースアップを 抑制する効果が出ていまして、ある意味では、基本的な所定労働時間と給与の関係は、 従前に比べれば相当弾力的な要素が出てきているということで整理がされつつあるので はないかと思います。  そんな中で、所定を超えた労働については、突発的なものということで整理しますな らば、その負荷については使用者側にかける。しかし、基本的な所定労働が減ることに ついては、多大なメリットは労働者が享受できるわけですから、そこの賃金バランス は、ある程度労働側が我慢することで整理するほうがより整合性がある、そういうふう に整理することも可能なのかなと思いました。 ○ 諏訪座長  ありがとうございました。第2ラウンドに入りたいと思います。 ○ 佐藤委員  この中間的な働き方について、少し追加的に説明させていただきますと、従来の正社 員の働き方は私のときは無限定社員でした。つまり、雇用期間も長期で、時間も勤務地 も仕事も限定されていない。もちろん、そういう社員は企業経営上必要なのですが、そ れをもう少し少なくしてもいいのではないか。働く人からすると、時間、勤務地、仕事 の範囲を限定する、契約をその点きちっとしていくということが大事で、そういう意味 では無限定社員が減って限定社員が増えていく。限定社員というのは例えばパートがそ うでしょう。時間が短い有期で、仕事が限定されている働き方です。従来の正社員の中 にもこうした限定社員を作っていくということが大事です。ですから、それは中間では ないと思います。  全体としては、無限定社員が減り、限定社員が多くなる。限定の仕方はいろいろあ る。今は労働時間を議論しているわけですが、そのときに、例えば「私は転勤してもい いです。でも、仕事は経理の仕事をやりたい」、「私は転勤しなくて、だけどフルタイ ムでいいです」、「私は短時間だけど、この店舗であれば、いろんな仕事をします」、 こういうのが出てきます。でもこれはどれが中間的かではないと思います。どれが偉い とか、偉くないとかいうことではないわけです。中間というと、どこか別にちゃんとし たものがあって、そうじゃないという感じがするのですが、私はそれぞれ相互に比較で きないと思います。例えば、それぞれの時間の中では一生懸命働くわけです。中間とい うと、働くのがほどほどというイメージがありますが、それぞれはその時間なり、仕事 については、やはり経営にとって期待する仕事をちゃんとやってもらわなくてはいけな いのです。その点では、みんな同じように働いてもらわなくてはならない。  でも、ある人はこの仕事しかしませんとか、ある時間働きませんとか、私は残業はし ますとか。それは契約が違うのです。そういう、いろいろな時間以外についても、きち っと契約していって、「私はこういう働き方」というものを経営側とネゴシエーション してやっていくような仕組みを作っていくということは、私は目指す方向だと思いま す。そうすると、やはり「中間的」という言葉には、ちょっとこだわりをもってしま う。  これまで議論されていなかったことで、仕事と生活のバランスというと、私は平日の ゆとりというのが非常に大事だと思います。メリハリのきいた働き方という議論がある わけですね。週休2日制が入るときに、土曜日が休みになる。ですから、月曜〜金曜は 少し仕事を急がされてもしかたがないだろうという議論があったわけですが、働いてい る人たちの生活時間調査のデータを見ると、どういうことが起きているかというと、週 休2日制が導入された後もう少し長期で見ると、やはり平日が忙しくなっている。でも 週休2日制になって、土日にレジャーしたり、スポーツしたり、劇に行ったりできるよ うになっているかというと、実はそうなっていないのです。平日が忙しいと、土日は疲 れて寝ているだけなのです。  では、土日にちゃんとスポーツなり、劇に行ったりしている人はどういうことかとい うと、やはり平日にゆとりがある人です。つまり、1日ぐらい定時で終わる。そして、 スポーツに行くとか、劇や映画、コンサートに行くということができてはじめて、土曜 日もどこかに行こうかということになるのです。平日のゆとりというのは非常に大事で す。メリハリといったときに土日休む、じゃあ平日は少し忙しいというだけでなくて、 私は平日もどこか1日ぐらいゆとりが取れるようにならないと、実は土日の多様な使い 方ができないというのが2番目です。  3番目は有給の点なのですが、いま有給を残しているのは法律上、これはどうしよう もないのですね。これをどう攻めていくかなのですが、清家委員が、賃金が遅配されて いたら問題になるのではないかと言われたのですが、私はその辺が非常に大事だと思い ます。  ある日本のソフト会社が外資に買収されたのです。それで、財務状況などを調べた。 親会社が何と言ったかというと、これは有給を消化させなければ駄目だと。これは負債 だと。つまり、ある時期みんな20日とか、40日ずつ取ったら、会社が動かなくなってし まう。つまり、使われるべき有給が使われていないというのは負債だと。これは、みん なが取ったら経営が動かなくなるようなことをやっているのだと、株主に説明できな い。これは取らせなければ駄目だというふうに本社が言ってきた。  確かに会計上、有給未消化は経理上負債と見ている所はあるのです。退職金と一緒で す。会計基準で、国によっては有給未消化分を負債として計上するというようなのもあ るようです。もしかしたら、そっちから攻めていくのもあるのかなというような気がし ないでもないです。法律の先生はどうおっしゃるかわかりませんが。 ○ 諏訪座長  有給休暇の議論に流れてきましたが、その議論をいたしますか。それとも、ちょっと 有給は置いておきますか。私は、日本でなぜ有給休暇を取らないかというと、簡単で、 それは本当にあのとおりに運用したら、非常なコストがかかってくるシステムとして設 計されているからだというふうに思っています。そうすると、コストが現実に可能にな るためにはどうするかというと、ちょうど週休日というのは、企業がこの日は仕事をし ない日としているわけですから、出て来たら、原則としておかしい。もっと正確に言え ば、非番の日などもそうです。そういうような扱いで処理をしない限り、誰もが好きな ときに取れて、それでいて、それに対応する要員を絶えず用意しておくなんてできっこ ないのですね。非常に非現実的な設計であったと思っています。  サービス残業が問題になるのと同じように、実は年休の不消化というのは、休暇の不 消化でありますから、一種のサービス残業です。サービス休日出勤を制度上許すように やっているのです。非常に不公平なやり方であります。ですから、持論ですが、欧米と 同じように経営者側が指定をする、ただし、そのときにおいては労働者の意見を聞く、 本人の意見を聞くなどして調整をする、というふうに逆転するということがいちばん正 しいと思っています。  これが持つ意味は、とりわけ週休2日になった現状では、長期休暇を取って、まさし くそこで生活と仕事の間の調和を取るという考え方の原点に戻るべきだろうと思ってい ます。1日8時間働いたら、残った16時間は自分の時間である。1週間のうち、5日な り6日働いたら、残った日は自分のフルに使える時間になる。同じ考え方で、有給休暇 も、国際的な考え方は52週のうち、49週働いたら3週は自分の週になるという考え方で 設計されてきているのに対して、日本は全くそうはならなかった。  これは戦前来の公務員から始まった賜暇という考え方ですね。それの残滓を引っ張っ ているのだろうというふうに私は個人的に思っています。ですから、中長期的には制度 をそういう方向に持って行かない限りは、うまくいかないだろうと思いますし、または 税制だとかその他で、もしそれができないのであれば、こういうものを残していたら、 マイナスになるようなペナルティをかけないといけないと思っています。あるいは2年 間で有給休暇が失効するという制度そのものを変えなければいけないのかもしれないで す。というような、いろいろなことで、これは制度を基本的に見直しませんと、こんな 不公正をいつまでも放置しているというのは、制度としては基本設計が全く誤っている のではないかというふうに個人的には思っています。  では変えられるかと言ったら、大変ですね。こういう考え方は審議会の場で言って も、労使はなかなか乗ってこないですね。むしろ、半日休暇、1時間休暇というのを取 らしてくれという声のほうが強くなっていますので、なかなか難しいと思います。 ○ 勤労者生活部長  佐藤委員は、有給休暇未消化は負債だと言われましたね。退職金の企業の引当てのほ うは、これは負債で高くなるかというと、引当てを下げることで、その企業の健全化を 図ると言われましたが、有給のほうは先ほど言われたように、我が国は法定されている わけです。逆手を取って、企業の社会的責任の中のステークホルダーに社員を入れて、 社員に対する債務未履行だと。そういうものが積み上がること自体は、企業の健全性を 損ねるんだというところから解きほぐして、未消化率をなくせと。その未消化率が今の 2年では溜り具合が少なければ、いま言ったように3年とかに延ばして、うんと高まる ようにセットして、消化を促がす。頭の中の体操ですが、そういう論理構成をしていた だいて、企業の社会的な責任の中に明確に位置付けるということを少し先行していただ くということもあり得るのかなと思いました。そうすると、未消化について、年休を消 化する期間を延ばすという理屈に入りやすくなるのではないでしょうか。そんな気がし ますが、どうでしょうか。 ○ 清家委員  私も諏訪座長と同じように、実態としてちょっとみっともないと思いますので、これ は何とかする必要があると思います。ただそのときに、企業側に実現不可能なことを社 会的責任だと言っても、なかなか難しい面があるので、おっしゃるとおり、一方で佐藤 委員のアイディアのような形で、例えば社会的責任だというのを強く言いながら、やは り諏訪座長が言われたようにもうちょっと企業が休暇を取得させやすいようにルール改 正を行うことが重要だと思います。  例えば、アメリカでブルーカラーの場合には、大体先任権で勤続年数の長い人がいち ばん子どもの休暇と合わせやすいようなところを取って、入りたての人は真冬の、どこ に行っても空いているような時しか取れないとか、そういうルールを決めてやっている わけです。だから、そういうことを企業側にも認めさせないと、ちょっと難しいかなと いうのと、場合によっては有給休暇の場合、労働側は病気とか、子どもの突発的な病気 のときのために取っておくというのがありますから、そういう用途には、有給休暇は充 当させない。今だってファミリー・フレンドリー企業というのは様々な目的別休暇を与 えています。逆にいえば、そういう目的別休暇を与えた分だけ、一般の有給休暇を減ら してもいいということにしてもいいのではないかと思います。  そういうことも含めて、企業側にもう少し取らせやすい環境を一方で整えないと、企 業の社会的責任だというだけでは、ちょっと難しいのではないかと思います。 ○ 諏訪座長  制度の基本設計に構造的な欠陥があるからこういう問題が起きているということを無 視して、いろんな策をいくら言ってみても、非常に難しいと思います。欧米に、有給休 暇の消化率がなぜ100%なのかという調査をしに行った人たちが、例えば、もし取らな かったら課長の問題になりますというのを聞いてきて、それで向こうは進んでいるとい うレポートを書いたのです。法的には、向こうは取らせるのは、使用者側が指定するこ とになっているわけですから、例えば、休日や非番の日をうまく割り振ることのできな い管理職が責任を問われるのと、全く同じ構造になっているわけです。  そこを見ないでレポートを書いたら、全く無意味でありまして、日本みたいに労働者 側が取るという形になっていて、しかも、好きなときに取れるという形になっていなが ら、要員対策なんてやろうったって無理なのです。計画的に要員対策ができる形にしと いてあげなければ、それはできないのは当たり前で、結局はそうすると、業務上の支障 があるからという形で先送りしてしまうという時期変更権行使という形になってしまう わけであります。やはり、そういうようなところを次のステップとしては絶対に考えな いと、駄目だろうというふうに思います。ですから、ある意味の考え方でいえば、有給 休暇の日数を増やす措置、前は6日だったのを10日にするとか、いろんなことをやった ときに、増やす部分は実は最初から使用者側が指定する代わりに必ず取らせなければい けない日というふうにすべきだ、という主張を私などは以前からしたのですが、残念な ことに法改正のときは通りませんでしたし、今さらそういうことはなかなかできないの で、どういうふうに制度を切り替えたらいいか、非常に難しいのですが、こういう制度 を取っている限りは、何をしたって非常に難しいのではないかというのが率直な感想で す。 ○ 勤労者生活部長  いまのことについての感想なのですが、諏訪座長のおっしゃるのは、まさに年休権を いわゆる労働者の権利行使の対象ではなくて、使用者の義務というか、そんなもので再 構成という提案に聞けるのですが、実は自分としては、今の基準法の中で、その組替え はすごく難しい面があると思うのです。というのは、今の基準法は典型的に言われるの は、工場労働のようなものをイメージしているところがあるのですが、これはもっと抽 象的に申しますと、働く場所と働く時間が雇用労働というのは拘束されると。その見返 りとして、言われた雇用保障とか、いろんな形で動いていて、その拘束の度合につい て、労働側が過度に拘束されないように、あるいは使用者の責任を明確にするようにと いうことで、場所的拘束に関しては、例えば安全衛生というような意味での管理につい て基準法で規定し、労働時間については拘束することはやむを得ないとしても、過度に 規制するのはいけないということで、残業抑制をかけています。  年休というのはそれからの解除ですから、当然それを請求するのは労働者だろうと。 だから、使用者はそこまで義務化していないという体系であるのではないかと思いま す。ところが、この法体系でカバーされる方々が今どんどん減っていまして、むしろ典 型的には在宅ワークやテレワークみたいに、場所や時間に拘束されないで、実際に労働 を供給するという形態が出てきていて、いわゆる民事的な請負とか、委託ではないとい う範疇で労働契約という着物を着ながら、実際の今までの工場労働のようなものでなく なってきた。そうすると、ここで安全衛生といって、使用者の管理義務を課そうとして も、それを実行できる場所がないのです。  労働時間についても、いわば現認する、検証する、目で見ることで労働時間を管理し ていたのが、間接的な電子情報あるいは成果を見ることで時間管理することに変わって いますから、時間についてはみなし労働等が出てきているし、場所については事業場外 という概念で基準法にあるものがだんだん現実化している。そうすると、これらを見直 していく上で、まさに先生方が言われているように契約法制、つまり労使が結ぶ契約に ついてルール化し、事前に情報を得てどういう処遇になるかをここで判断して、そこで チェックをかける。その際に必ずや健康維持部分については請負や委託にない概念を噛 ませてやる中で、この類の契約法制でカバーする労働者は、むしろまとめて年次有給休 暇などは使用者側に一定の義務というかノルマとして課するようにすると、もう少し整 理ができるのではないかという気がします。いわゆる権利なのか義務なのかという価値 観の置換えも、できれば契約法制を議論する中でしっかりやっていただければと思いま す。その前座として、今ある企業の社会的責任という議論の中で、この組替えを準備す るためにしっかり意識変革をやるという位置付けが必要なのではないかと思います。 ○ 諏訪座長  念のために言うと、私は別に労働者の権利でなくなるとは全然思っていません。行使 の仕方、与え方の制度の組直しを言っているだけです。 ○ 佐藤委員  私も諏訪座長が言われたように、いまの基準法の枠組みではなかなか経営側にやらせ るのは難しくて、経営側がある程度契約に取らせられるように仕組みを変えなければい けないと思います。それもそのとおりだと思いますが、ただ一方で、法律を変えないと やれないのかというと、先ほど外資に買収されたソフトは親企業がやれと言ったらやれ たわけです。一般的に外資系企業のほうが、有給取得率がとても高いです。ほぼ100% の所が多いと思います。だから、やれないわけではない。経営側が、そうしたほうがメ リットがあると思ってやっているわけです。あるいは、親企業がそうしているからとい うのもあると思います。  例えば外資系の銀行も、ちゃんと取っています。面白かったのは、なぜ取っているか と聞いたら、会社は社員が不正を起こしたときにそれを担保する損害保険に入ってい る。社員が不正を起こしたときの賠償してもらうための条件として、年に1回長期の有 給休暇を取らせていなければ駄目だと。つまり、2週間ぐらい休んでいれば、不正が普 通はわかるはずだと。それを経営側がやっていて、もし不正を起こしたら損害会社が払 う。それは経営上必要だからやっているわけです。だから長期に取らせたことが、経営 にとってプラスになる。例えば社員の不正を防ぐとか、能力開発になるとか、情報が共 有されるとか、そういうことを言うだけでも違うのではないかという気がして、社会的 責任も含めて経営にとってプラスになるといいながら、一方で法律を見直すことを並行 してやっていくことは当面必要かと思います。 ○ 諏訪座長  法律家として山川委員のご発言をいただいたあとに、有給休暇ばかりの議論はできな いので、前の3つにも戻りたいと思います。 ○ 山川委員  現行法を前提とする限りでは、いいアイディアは難しい感じがしています。ヨーロッ パ等においても年休は労働者の権利であることは変わりがないですから、ヨーロッパ型 の仕組みにすることも十分にあり得るのではないかと思います。いま、それに近いのが 計画年休ですが、不思議なのはなぜ計画年休があまり進んでいないのか。それのインセ ンティブを与えるようなものが現実的な策としては、とりあえず考えられるかと。もし インセンティブを法律上考えられるとすれば、それは労働者の時期指定権を廃除できる メリットがあるからこそ、協定によって違法性を解除しているわけですが、前提として 労働者が時期指定権を行使しないので、あまり解除のメリットもない構造になっている ということですから、別のメリットを計画年休制の中に考えていく。年休手当を割り引 くなどというのは暴論かもしれないのでなかなか難しいのですが、何かメリットを考え 出していくことはあり得るかと思います。 ○ 諏訪座長  年休の問題はこの辺にしてよろしいですか。前のほうの論点についてもう少し議論を したいと思います。とりわけ重要なポイントは、絶対的な時間の短縮なのか柔軟化なの か、柔軟化というのは、むしろ短縮化にもつながるのか、という論点をもう少しだけ議 論をしようと思います。この点は先ほど北浦委員が発言されていたので、その続きをお 願いできますか。 ○ 北浦委員  先ほど松井部長がお話になったように、政策的な流れとしては労働時間短縮になっ て、その実行の中において効率性という議論が出て、いまの裁量労働制の問題が出てき たという流れになっていることは事実だと思います。その流れが進むと、さらに労働時 間短縮につながる絵姿になればいいのですが、現状はそこが分裂して、片方では長時間 労働が生まれ、片方はなかなか進まない。労働時間規制の問題が依然として残業という 問題で残っている。これが現状だろうと思います。そこのところを抜本的にチャネルを 逆に変えていくことができるかどうか。ここはなかなか難しいですが、それは経営管理 そのものをどう変えていくかという根本問題に入ってしまうので、これを法制的に誘導 するのは難しいと思います。  一方において、生まれてきているのは佐藤委員がおっしゃったように、こういう柔軟 な働き方、弾力的な働き方をすることがかえって企業経営にとってプラスであるという のは、見方としては十分に出てきているとは思っていますので、その中において、さら にもう一歩それが労働時間短縮に本当につながるのかというところをどのように担保し ていくのか、ここの問題になっていくと思います。そうすると、話としては元に戻って しまいますが、やはりそれは外側の規制でないと枠ははめられないわけで、どこかで労 働時間の短縮という動きをきちんと作っていき、その中で弾力化を進めるという枠組み でないといけないので、結論からいえば二兎を追うような政策を取らざるを得ないのだ ろうと思います。ですから、裁量労働制そのもののメリットであり、論理的にはそれが いつかは労働時間短縮につながるのでしょうが、それを経営に任せていると多分なかな かならないだろうから、労働時間短縮や総量規制をきちんとやっていく論法になってい くと思います。ただ、そのときに、ならないだろうからといっても放任できないわけ で、基本的に効率的に働かせることは、労働者にとって自主的に働くということで負担 感を減らすという、それ自体の効果もありますが、効率ということは企業にとってでき るだけ短い時間で仕上げていただくことであるから、労働時間短縮を実現させるのだ と。そこを訴えていく形もやっていきませんと、二兎を追っていても、それが別々のも ので終わってしまうと思います。そこはなかなか回答は難しいですが、1つあるかと思 います。  労働時間短縮の兼合いの問題で、先ほどの中間的な働き方にもつながりますが、日本 で1つの実験があったのは、半ドンという制度です。半日働いて半日休む「半ドン効果 」というのがあって、これは完全に仕事と自由を両立させた。企業によっては、どこか で半ドンを1回作ろうかという所もありましたが、現実にはなかなか難しいようです。 しかし、そう考えてみると、日によっての短時間勤務があってもいいだろう、何も毎日 が同じ時間でなくてもいいだろう、という発想をもう少し考えてみる。ただ、おっしゃ っているように中途半端な取り方をすると、年休と同じような形で、全部企業側の都合 で決まってしまうことになるので、労働者のニーズは必ずしも反映できない面もあるか と思いますが、少し柔軟な時間管理、毎日が同じではないという発想をするだけで、か なりインパクトが出てくる感じはしています。  先ほどの休暇との関係の感想ですが、先ほども出ていましたが労働者側の事情で健康 配慮、病気や不時の備えとしてというところが結構あって、少し余す、あるいは結果的 に全部余してしまうことになっている部分があるので、先ほどの目的別にという議論は 非常に重要だろうと思います。目的と考えたときに、それを休暇で取らせるのか、短時 間勤務として実現していくのかという方途があるわけで、それがさっきの企業側とのコ ストのシェアの問題にも関わってくるのだろうと思います。  例えば育児であれば短時間勤務は認められていますが、そういう形の領域を増やすこ とによれば、逆にいうと年休というのはピュアになっていく部分もあるだろうし、病気 休暇のようなものは、どこかにありましたが貯蓄制みたいなものを考えることで別建て にしていく、別のところにプールしていく。そうすると、またピュアに使える。こうい うこともあるので、目的から見ていくということはあると思います。その結果、森戸委 員がおっしゃったように、日数を減らせという議論もあるのかもしれませんが、なかな かそれは抵抗も大きいとは思いますが、全体としてそういう自由度が高まる中での1つ の選択もあるので、今まで何でも年休に押し込んできたものを、もう少し分解をしてあ げるという発想があると思います。そのことがさっき申し上げた、日常の勤務の柔軟性 にもつながっていくかと思います。 ○ 諏訪座長  この問題についてさらにご発言いただきます。 ○ 武石委員  有給休暇に絡めて目的別という話が出たのですが、柔軟化を進めていくときに労働者 が好きなように柔軟化をするというのも1つの考え方ですが、もう1つ目的という考え 方もあるかと。資料の32頁にもあるのですが、例えば地方公務員の法律を改正して、育 児・介護、修学や高齢者の部分休業というところで短時間勤務を認めていきましょうと いう話があります。理想型としてはいろいろな理由で柔軟化が進めばいいのですが、段 階的なステップとして、いま育児・介護の部分で柔軟化があるわけです。例えば、勉強 したいという人に関してそういう柔軟化を進めるとか、そういうところを突破口にしな がら少しずつ柔軟化を進めるという方向も1つあるのかと思いますが、それは地方公務 員のこの制度が非常に参考になるのではないかという気がしています。  総量規制の話で、年に3,000時間働きたい人は働けばよくて、それがゼロになること はないと思うのですが、そのときに時間を誰が管理して、そこに何らかの対応をしてい くという部分は大事かなという気がします。いちばん心配なのは健康の問題です。かな り自由裁量で働ける人はいいかもしれませんが、そうではない場合に、そこがきちんと 管理されて、健康の悪化につながらないような歯止めをしていく必要がとてもあるので はないかという気がします。  柔軟化について言うと、裁量労働がなかなか広がっていかない、フレックスタイム制 度を導入しても、最近、それをやめる企業が出てきている、という動きがある中で、フ レックスタイムをやめる企業は、結局、従業員の時間管理がルーズになってしまって、 酒を飲んだ次の日はゆっくり来るとか、結構、労働者の意識の問題もある気がします。  海外の話を聞くと、アメリカでフレックスというのは、朝早く来て早く帰るのに使う 人が多い。それは佐藤委員がおっしゃった平日のゆとりにつながっていくわけです。時 間を有効に使おうという労働者のライフスタイルが確立していないところでこういうこ とをやっても、結局、柔軟な制度といっても、それが悪用とまでは言いませんが、有効 に機能していかない部分があって、法律で解決できる話ではないですが、そこの問題指 摘もあるのかなという気がしています。 ○ 山川委員  特に現行法ではいろいろなメニューがあるけれども、必ずしも活用されていないとい うことの1つは、いま武石委員のおっしゃった点もあると思います。例えばフレックス タイム制を入れた場合の通常の労働時間制との効果の違いが大きすぎるという、そし て、それしか認められないという形なので、かえって一旦導入したものが廃止されてい る状況にある。うまく使えばフレックスタイム制などは裁量労働制に行かないような職 務、職種、地位等においても、労働時間短縮にもつながるし、仕事と生活の調和も図れ るというメリットがある気がしますので、場合によって厳しすぎることもあるのではな いか。  例えば、会議をもっときちんと設定できるようにするために、1週間のうち何日かだ けフレックスタイム制にするとか。それはいま認められていないと思います。行政解釈 で認められていなくて、学説はかなり反対しているのですが、清算期間を超えてプラス ・マイナスが生じたときに貸借制を認めるとか。労使協定がかかっているからフレック スタイム制はそんなにおかしなことは生じないのではないかと思いますが、もっと会議 をやりやすくするように、一部固定時間制をつくれるようにする。ある意味であまり厳 しすぎてかえって使われなくなっている部分は改めてもいいのではないか。その際の手 続などをどうするかというのはまた別ですが。 ○ 諏訪座長  非常に重要なポイントだと思います。日本の基準法というシステムが持っている硬直 さが今の現実と合わないということは、ありとあらゆる所でみんなが指摘していること であります。ただ、先ほど松井部長もおっしゃられたように、理屈からいくとどうして もこうなってしまうのです。そこをどうするかという非常に重要な問題ですが、今日は そこまで大きな問題にはなかなか入れません。最初に清家委員が問題提起してください ました、労働時間の短縮か柔軟化か、この部分に関していろいろな委員のご意見を聞い たあとで、清家委員、いまの段階でどういうふうに思いますか。 ○ 清家委員  私はただ、どちらにするか決めたほうがいいのではないかということで、特に意見は ないのです。ただ、皆さんがおっしゃっているように、明らかに拘束のきつい仕事、雇 い主からきちっと管理されている仕事については、量的な縮減を図っていく。一方で、 自己決定がかなり可能な、あるいは雇い主からの拘束が低い部分については、それを雇 い主がそうだと言って悪用しない方途を講じた上でですが、そこについてはあまり時間 を短くしろとか、そういうことは言わないほうがいいのではないか、という仕分けはあ る程度コンセンサスがあるかと思いました。 ○ 勤労者生活部長  4頁で議論していただきたいところの問題です。所定外労働時間を抑制する場合の方 途ですが、ここで書いてあるのは、所定外の割増しを高めることはどうだろうかと。も う1つは、パート労働者のような所定労働時間そのものが短い方は、いま法定労働に満 たないと残業手当は出ないケースが多い実態がある訳ですから、そこをもう少し抑え る。これは直接労働時間を規制するのではなくて、むしろパート労働もひとつの労働形 態だということを認知する意味合いにできないかという整理をしたのです。それが当初 の考えだったのです。  今、柔軟性と総量規制の両方を追うというふうに言われたものですから、別の議論と して、例えばみなし労働時間制や、裁量労働を通じてのみなし労働時間制を取るときに は、所定労働を決めなくてはいけないのですが、こちらのコースのときだけ所定を超え ると割増しを出すように仕組む。  その議論でいきますと、実は今の基準法制ですと、所定労働時間が極端に短い方につ いては、まずもって年休権などについても認知されてない。一定時間を下回ると社会保 険の適用対象にしなくていいという形で、労働を制度として認知していない。しかし、 少なくともこの方々の予定を壊す長時間労働については、所定を超えれば割増しを出す ということで、正規の労働として認めていくための第一歩だという整理をしてやること で、柔軟性と総量規制を足したような位置づけができないかと、ふと思ったりもしたの です。そういうことも含めて議論していただけるとありがたいと思います。 ○ 諏訪座長  そういう問題提起を受けましたので、少し議論してみたいと思います。残業の規制 は、ある意味では平日におけるゆとりという問題にも重なりますし、こういうコストと ベネフィットのフェアな配分の仕方はどうあるべきかという問題にもかかわっていくの だと思います。従来は、こういう時間外に関しては、専ら金銭的な割増しのディスイン センティブを考えてきたわけです。もう1つの考え方は、余分に働いたら時間で返すと いう、ご存じのとおりドイツやいろいろな国で行われている考え方。そして、そこへ割 増しを付けるわけです。例えば5割の割増しだったら、10時間の時間外をやれば15時間 の自分の時間を確保できるようにさせてあげる。こういう形でやるとか、いろいろな発 想があり得ると思うのですが、少し皆さまとご議論してみたいと思います。 ○ 佐藤委員  残業のことより少し広がってしまうかもわかりませんが、今の基準法の有給休暇で す。これは日にちで与える形になっています。それは基本的に、毎日同じ時間働いてい る人だという前提で何日と与えられているわけです。時間が多様化してくると、極端な 話、月曜は5時間、ほかの日は何時間というふうに毎日働く時間が違う。そうしたとき に、日にちで有給休暇を与えるというと、変なことになるわけです。時間が長いときに 有給を取ったほうが得だと。  ですから私は、毎日働く時間が違うということからすると、有給も時間というのはあ り得るだろうと。例えばヘルパーなどはそうです。毎日働く時間が違う。こういう人た ちに有給を与えるというのはどうしたらいいのかということが問題になってくるので、 これは何時間の有給のほうが実際の働き方に合っているのかもしれない。  あるいは週3日しか働かない人の有給で言うと、この人について働く日にわざわざ有 給を取らせるのか。有給の買上げは駄目だということになるわけですが、実際上、週に 月・水・金しか働かない人で、計画的にだったらわざわざ水曜日に有給を取る必要はな いのです。ほかの日は休みだから。そういう場合に取らせるとしたら、月・水・金の人 は月・火・水・金と働くように計画を立てておいて火曜日に休むと、これは有給を与え たことになるのです。そうであれば、これは買上げと同じです。初めから月・水・金だ けで、与えた有給分だけ金額を払うのと一緒なのです。  ですから、従来と違う時間で働く人が出てきたときに、現状の基準法は合わないので す。月・水・金しか働けない人についても、水曜日とかに有給を取ると言ったら取らせ る。もちろん病気で休まなくてはいけないこともあるかもわかりませんが、そういうこ とではなくて、私は取る必要はないと。別に火曜日も休みだし、あるいは仕事のある日 は日にちを替えて火・水・木にすると、週3日働けばいいのだから、という働き方の人 も結構出てきているわけです。とすれば合わないのです。実際上どうしているか。法律 どおりにやるためには、わざわざ働かない日を働くというふうにしておくわけです。そ こで有給を取る。でも実際上、これはお金を払っているのと一緒です。そうであればも う少しそういうのを認めてもいいのではないかという気がします。 ○ 北浦委員  先ほどの柔軟な働き方をした場合、例えば裁量労働のようなみなし労働時間のとき に、所定を超えた場合に割増しという、それは1つのアイデアだと私も思います。た だ、現実論を考えていった場合に、フレックスタイムの場合ですといいのかもしれませ んが、裁量労働の場合ですと、自己管理に合った労働者に対して所定外という割増しを することが、企業側にとって相当抵抗があるのではないかという感じがするわけです。 ある意味で、勤務管理がかなり任されているわけですから、これは本当に個人事情によ って業務量が非常に多いので、本来それはオーバーしたのだということであれば、これ は本当はみなし労働時間そのものを見直すと、こういう議論に労使関係の中ではなって しまうのだと思うのですが、現実にはそれは難しいとしても、やはりそこの抵抗感はひ とつ考えておかなくてはいけないのか。  ただし、よく考えてみると、そういう裁量労働的な世界にもしなっていった場合に、 本当にこれはエグゼンプションみたいな世界になって、自由におやりくださいという場 合もあるでしょうが、その一歩手前とか、中間的な場合でもしやっていったとすれば、 そこのところについて何かしらの規制はしていかないといけない。そうするとその配慮 を所定外という手当という形ではなくて、そこのところにむしろ長時間結果として働い ていたのであれば、それの見返りとして代償の休日を与えるとか、そちらで処理をして いくほうが素直な発想だと思うのです。その根拠はと問われれば、結果として業務量が オーバーしていたのだから、その分については、つまり休日でもって贖うのだという発 想と、もう1つは、みなし労働時間でも裁量労働でも消えないのは、労働者に対しての 健康配慮というのがあるわけですから、長時間労働になった場合の健康回復のためだと いう休暇の基本的思想ですが、そういったものから時間で返していくという発想のほう がむしろ素直なのかという感じはします。ただし、その場合に1日単位で見ていくの か、どの期間で見ていくのか。ある意味で言えば自己フレックスタイムだと考えると、 そういう生産期間的なものをどう見ていくかというところで考えないと、この議論は難 しいかと思います。 ○ 清家委員  これは労働経済学の教科書などによく書いてあることなので確認ですが、要するに時 間外割増率の経済学的意味というのは、企業が人を雇うときに時間に連動して動く賃金 だけではなくて固定費があるために、実はその固定費の部分というのは、労働時間を長 くすればするほど時間当たりの固定費は安くなってしまうわけです。それで、非常に長 時間労働をさせる誘引が雇い主に働きやすいわけです。  だいぶ前だと思いますが旧労働省で労働時間の研究会をやったときに、その当時の固 定費、福利厚生費とか様々なフリンジベネフィットを、おそらく正社員だと思います が、それについて試算すると、たしか60何パーセントの割増率にしないと、企業にとっ てはどんどん時間を増やした方がコストが安くなるという試算があったのです。  おそらく今は、企業にとっての固定費は少しずつは小さくなっていると思いますし、 もう一方で、雇用の多様化の中でむしろ固定費が非常に安い人が増えていますから、そ うなってきますと、実は理論的にどのぐらい割増率を上げなくてはいけないかというの が、労働者の、それこそ働き方というか労働契約別に異なってきているという実態が、 経済理論的には出てくると思うのです。  そのときに今度は、従来の正社員だけの時代であれば、先ほど言った60何パーセント がいいかどうかは別として、少なくとも雇い主に変な誘引を与えないために必要な割増 率だということが一時的に設定できたのですが、労働契約が別々になると妥当な割増率 も別々になってきて、そういうのは法律上はどうなってくるのかというのは、これは興 味本位の話ですが出てくると思います。  いずれにしても、割増率の議論はそういう固定費がある以上は必ず必要だという視点 で、もう1回事務局で計算していただけると有り難いです。福利厚生費調査など、固定 費の調査をやっていますよね。特に福利厚生費の中で労働時間に関係なく企業が支払わ なくてはいけない、例えば通勤交通費などといった、社会保険料はかなり賃金に連動し ていますから労働時間と連動している部分もあるのだけれども、しかしそこのところが どのぐらいあるかというのを1回調べていただくと、議論がわかりやすくなるかと思い ます。それが中間を入れるかどうかは別として、パートと正社員別にどのぐらい違うか とか、それを出していただけるといいかと思います。 ○ 諏訪座長  重要な問題として、要するにこういう時間短縮や柔軟化、あるいは仕事と生活の調和 のコストをどういうふうに労働者本人、企業、使用主側、社会の間で分担していくかと いう問題。ざっと考えれば三方一両損だか一両得みたいにそれぞれに担当するというの が1つの考え方だと思いますが、現実的にはなかなかそうはならない構造の中で、この 問題を少しだけ最後に議論しておいていただきたいと思います。これは必ずしも時間だ けに限らないのですが、この問題はちょうど時間でわかりやすいと思いますから、ご議 論いただければと思うのですが、どなたか御意見はありますか。 ○ 清家委員  このコスト負担は、もちろんいま諏訪座長が言われたようにいろいろなコストがあっ て、しかもその負担の仕方はいろいろあると思うのです。1つ間違いなく発生するの が、いま言った労働時間を短くすることによって時間当たりの固定費負担が企業にとっ ては高くなってきますから、ここのところをどのように手当てするのかということが1 つ理論的にはあるのです。  これは先ほど山川委員も指摘された、ワークシェアリングの議論のところで必ず出て くるものです。要するに1人を2人でやることになれば、通勤費は2倍払わなくてはい けないとか、訓練コストを2倍払わなくてはいけないわけですから。当然ワークシェア リングというのは同じ時間賃金率でやったら、1人の仕事を2人に分けましょうという のはあり得ないわけです。その場合、労働者は安い賃金を受け入れるという形でワーク シェアリングを引き受けるか、それとも社会全体がそれを必要だと思ったら、例えば賃 金の補てんを雇用保険とか、例えばワークシェアリングで失業が減るのであれば、雇用 保険とか一般財源で補てんするとかいう話が出てきますので、一般的にまず総量的に労 働時間を短縮した場合の時間当たりのコスト増を労使、社会がどういうふうに分担する かというのは、理論的には1つある。  一方、柔軟化については、実は労使双方にコストになる部分もあるしベネフィットに なる部分もあるので、一概にコスト負担になるかどうかはわからないわけです。つまり 企業は、今まで用もないのに人を使わなければいけなかった部分を、柔軟化によって削 減できるとかいったことはあるかもしれません。用がなくても所定労働時間をいつも払 わなければいけなかったのが、そうではなくなるとか、そのようなことがあれば、もち ろんコストの削減にもつながるわけですから、こちらは一律的にコストが高くなるとか 増えるとかということではないと思います。むしろ一般論から言えば三方一両得という か、これはうまくいけばですが、雇用の多様性、あるいは労働時間の多様性は、個人の 選択肢が広がる一方で、企業にとっての雇用のポートフォリオが増えるわけですから、 その中で硬直的な雇用形態しか認められなかった場合に比べれば、コストを節減できる 余地もあるので、これについてもできれば少しデータを整理しておくと、議論に説得性 が出てくるかと思います。 ○ 北浦委員  いまお話があったようにコストだけでなく、結局ベネフィットと両方を見ていくとい う話だと思うのです。それでこの議論をしていくのだと思いますので、その結果どうな のかということだと思います。そのときにもう1つポイントとしてあるのは、清家委員 もおっしゃったのですが、コストは短期的に見える場合があるけれども、ベネフィット は短期では見えなくて中期的に見えるという場合が結構あると。特に経営の場合はそう いうところが多い可能性もあるわけです。そうすると、そこのところは中期と短期を比 較するのはすごく難しいわけで、ベネフィットとコストをやるとどうしてもコストが勝 ってしまうという議論になってくる。そのときに中期的なものも換算して考えたほうが いいというふうに持っていかないと、短期議論でいくと、常にコストのほうが強調され ると、どうしても不利が労働者のほうに行ってしまうということがあるのかという感じ はします。その辺は抽象的な言い方ですが肝心だと思います。 ○ 山川委員  確かに柔軟な時間制度は、労使双方にメリットをもたらすことが多いと思います。そ こは最初に申し上げたことにかかわるのですが、なかなか一律に決まらないので、労使 でどうやっていくかと。それは結局、仕事のやり方の問題自体とかかわると思いますか ら、その職場で決めてもらうのがいちばん合理的になるのではないかと思います。  ただ、健康確保とか過重労働というのは別の問題で、コストとはやや切り離して考え てもいいのではないか。どういう措置を採るかについては、裁量労働制などで実績もあ るでしょうから何が有効かというのはあるにしても、健康確保は柔軟性や多様化という ことと別次元で、言わば労働時間規制の長さをなぜ規制したかというと、最終的に健康 を守るためというのが本来的な19世紀初頭からの話だったと思いますから、それはこの 考慮も要るかと思います。 ○ 諏訪座長  まだ議論しなくてはいけない点はたくさんあり、残されているのですが、どうも時間 が来てしまいました。せっかく時間を扱うのにオーバータイムになるのは非常によろし くないという気がしますので、何か言い残した点がありましたらご発言をいただいて、 大体このあたりで今日は終わりにしたいと思うのですが、皆さまよろしいですか。                 (一同異議なし) ○ 諏訪座長  今日は大変活発に時間の問題をご議論いただきました。事務局ではこれを踏まえて最 終報告書に反映していただきたいと思います。  次回ですが、各論の最後の回として、健康確保対策、在宅勤務・在宅就業といった働 き方、マルチジョブ、さらに退職金税制や企業年金制度など、これまでに議論が十分に なされてこなかったテーマを一括して扱いたいというふうに事務局はお考えのようで す。なかなか全部一度にやれるか難しいのですが、ひとつペーパーと資料をしっかりと 揃えていただいて、当日はポイントを絞って議論できればと思っています。  それでは会議の日時についてご連絡をお願いします。 ○ 勤労者生活部企画課長  次回は5月14日(金)午前10時から12時まで、場所は、この建物の5階の専用第13会 議室で開催をしたいと思いますので、よろしくお願いします。 ○ 諏訪座長  準備のほどを改めてお願いしまして、以上をもちまして本日の検討会議を終わりま す。大変活発なご意見をありがとうございました。 照会先:厚生労働省 労働基準局 勤労者生活部企画課法規係(内線5349)