04/04/16 第8回仕事と生活の調和に関する検討会議            第8回仕事と生活の調和に関する検討会議                   (議事録)             日時 平成16年4月16日(金)                15:00〜             場所 厚生労働省9階省議室 ○諏訪座長  定刻になりましたので、「第8回仕事と生活の調和に関する検討会議」を始めます。 本日はお忙しい中をご参加いただき、大変ありがとうございます。  議題に移ります。今回は「賃金」をテーマとして、「仕事と生活の調和」の実現に関 する問題点を議論していただこうと思っています。とりわけ、今後講ずるべき具体的施 策についての議論をしていただけたらと考えています。その素材として、事務局がお手 元に資料を用意してくださっていますので、最初にそのご説明をお願いしたいと思いま す。 ○勤労者生活部企画課長  お手元に資料1と資料2を用意いたしました。そのうち、資料1についてご説明した いと思います。今回は前回と前々回に引続き、個別論の3回目ということで、賃金につ いて取り上げます。  「賃金に関する論点」ということで、これまでのこの会議での先生方のご議論、ある いは他の場でいただいたご議論を整理し、私どもで論点として整理をさせていただいた ものです。  まず、1.「仕事と生活の調和」と「賃金額の変化」の関係です。3つ○がある中の 1つ目、収入が十分に確保されない状況では、仕事と生活の調和ということを訴えたと してもなかなか労働者の理解は得られないのではないか。やはり、仕事と生活の調和を 図っていく上でも、生活に必要な収入を働くことを通じて得ることが非常に大切なこと と考えられるということです。こうしたことが1つの論点になろうかということです。  2つ目、前回までのご議論でも生涯のいろいろな段階で仕事と生活をいろいろな形で バランスさせて、多様な働き方やキャリアのコースを選べるようにしていくことが議論 されてきたとお聞きしています。そうした選択のときに賃金、あるいは他の処遇につい ての情報を十分に労働者が得られるようにしていくことが大切なのではないか。そうい うことが1つの論点になるのではないかということです。  3つ目は、世帯に関する論点です。これまでは主たる生計を維持する者、例えば夫が 世帯の収入の大部分を稼ぐという形も多かったわけですが、今後はそういうケースばか りではないだろうということが想定されるわけです。パート労働者などが増える中で、 夫婦ともパートといった例も十分考えられる状況です。こうしたとき、世帯としての収 入をどういう形で確保していくのか。あるいは夫婦間の役割分担も、夫が主たる生計を 立てるということばかりではなくて、いろいろな形が想定されるわけです。そうしたも のがどのようになっていくのかということも論点の1つかと思います。  いずれにしても、こういった世帯を含めていろいろな働き方が選択できる。多様な選 択に対して、出来るだけ制度的な障害はないほうがいいと思われるわけですが、そうい った点についてご議論があればお願いしたいと思います。  続いて2.「仕事と生活の調和」と「賃金制度」についてです。これは年功賃金や長 期雇用に代表されるような、日本型雇用慣行がどうなっていくのかということに関する 論点です。資料にあるように、こうした日本型の雇用慣行は我が国の経済の発展、ある いは労働者の雇用の安定に大きな役割を果たしてきたわけですが、経済成長の鈍化や企 業を取り巻く環境の多様化・複雑化の中で、企業経営もその柔軟性の高いシステムが求 められているわけです。  具体的には、2頁の<参考1>にあるように、例えば、日本経営者団体連盟は「硬直 的な人件費管理」を改めて、「業績即応型の人件費管理」に移行すべきではないかとい うことを主張されているわけです。また、多様な働き方ということを考えると、こうし た長期雇用や年功賃金はそういったものを場合によっては阻害する側面もあるのではな いかということも考えられるわけです。  他方で<参考2>にあるように、日本労働組合総連合会においてはこうした賃金制度 の見直しに当たって、従来のような賃金カーブの確保が最低限の取組であるという主張 もされているわけです。  現実にこういった日本型の雇用慣行が、雇用の安定や生活に必要な収入の確保という ことで果たしてきた意味合いも大きかったということもあるかと思います。こういうこ とを踏まえ、日本型の雇用慣行についてどう考えるのか、ということも1つの課題にな るかと考えられます。  これに関して、より具体的にはいちばん下の○にあるように、1社における勤続年数 が長期化するほど賃金水準が上昇する年功賃金については、転職する場合などに不利に なるのではないか。そういった点から、中立性の点で問題はないのかというのが1つの 論点になるかと思います。  また、その下の小さな点(ポツ)にあるように、長期雇用や年功賃金の中では、例え ばよく指摘されるように、長時間労働や遠隔地への転勤といった問題もあったわけで す。これをどう考えるかということも1つの論点かと思います。  3頁の上の○にあるように、逆に能力主義や成果主義になった場合も、生活との関係 で全く問題がないということではない。例えば、成果を上げるために非常に長い時間働 くという形になってくると、生活に相当程度影響が出てくることも予想されるわけで す。こうしたことをどう考えるか。あるいは下の小さな点(ポツ)にあるように、いろ いろな働き方が出てくる中では成果主義といっても、いろいろな働き方の間の処遇を確 保する前提として、評価を客観的公平なものにする必要があるのではないか。これも1 つの論点ではないかと考えられます。  3頁の2つ目の○にあるように、もう1つは賃金の決定のシステムに関する問題で す。賃金については当然、労使間で十分な話し合いが行われることが重要なわけです が、近年、組合の組織率は低下しており、非正社員の組織率は低い状況です。そうした 中で、集団的な労使交渉の基礎を整備する必要性についてどう考えるか。これも論点の 1つかと考えられます。  労働条件が多様化・個別化をする中で、個々の労働者の交渉力を確保するための方策 として、市場でも通用するような能力習得や、個別労使間の合意形成のルールといった ことも整備していくことが必要なのではないか。それも論点の1つになると考えられて います。  最後に、3.「最低賃金制度」です。最低賃金制度については、1つは働く者の賃金 額の変化、あるいは労働組合の組織率の低下、これに伴う労使間の交渉の不均衡の拡大 が心配される中で、賃金が低い労働者の労働条件の改善を目的とする最低賃金制度が、 労働条件のセーフティネットとして十分に機能するようにしていくことが重要ではない かと考えられます。それについてどう考えるかも1つの論点かと存じます。  次に、企業の中で多様な働き方が出てくる中で均衡を考えると、労働時間が長い人、 短い人が出てきた場合でも、最低賃金がある意味で公平な制度として適用されるよう、 時間の長短の間で中立的な制度となっていることが1つの必要な課題であろうかと思い ます。その点についてどう考えるかというものです。  この点については4頁に現状の最低賃金法の制度についていくつかの点を掲げていま す。1つは<参考1>にあるように、現行の最低賃金法の第8条では、所定労働時間の 特に短い社員については適用除外を定めています。  <参考2>にあるように、最低賃金については時間単位、日単位、あるいは週、月単 位で設定することとされているわけです。このような規定になっているのは、例えば最 低賃金を日単位で決める場合もあるわけです。例えば、1日のうち4時間しか働かない 者を同じ最低賃金額とすると、8時間働く人との間で不均衡が出てきてしまう。そうい う問題がありますので、<参考1>にあるような所定労働時間が、特に短い者について の適用除外を定めているわけです。先ほど来言っていますように、労働時間の長さに多 様性が出てくる中で、短い人にもできるだけ最低賃金を適用していくことを考えると、 こうした仕組みでいいのかどうかというのは1つの論点であろうと思われるところで す。  最後に<参考3>は「産業別最低賃金」です。最低賃金法第16条の4においては、労 使の申出による審議会方式の産業別の最低賃金が規定されています。この点について は、政府の「総合規制改革会議」において、こうした設定をする意義には乏しいという 考え方も出されています。他方、労使においてはいろいろな意見があるといった状況で す。以上、賃金の論点について、   私どもで整理したものをご説明いたしました。 ○諏訪座長  ありがとうございました。ただいまのご説明を踏まえ、少し意見交換等をしたいと思 います。最初にいま事務局が説明してくださった部分について、ご質問があったらお受 けしておきたいと思います。よろしいですか。  それでは、意見交換に入ります。どうぞ、お願いします。 ○清家委員  論点は非常によくまとめられていますので、それに沿っていくつか私の考えをお話し たいと思います。まず、今日取り上げる「賃金」ですが、以前、この会議の冒頭でも申 し上げたかもしれませんが、仕事と生活の問題を考える際に非常に重要な縦糸になると いうか、いろいろなところに絡んできますので、賃金の問題を考えることが仕事と生活 の問題を考える際に重要なキーになると思っています。  いくつかポイントがあります。1つは、生活のために労働者は賃金を得ているわけで す。この中にもあったように、いわゆる世帯主モデルに基づく生活給の範囲というのは だんだん小さくなって来る、あるいは小さくなって来ているわけです。つまり従来型の 世帯主モデルに基づく年功賃金カーブが、世帯主が一家を養うのに必要な給料を支払う という意味で、非常に幅広い生活給の範囲を持っていたとすれば、それがだんだんフラ ットになってきて、ここにも少し書かれていますけれども、夫婦共働きの世帯が標準に なってくると、賃金体系の中に占める、いわゆる生活給の部分というのは相対的に小さ くなってきて、それに代わって、いわゆる能力・成果給的な部分が大きくなってくると いう意味では、賃金と生活のリンクが一面で弱まってくるということがあるわけです。  しかし一方で、これはロバート・ライシュなどがアメリカの実態などを見て言ってい ることですが、能力・成果主義的な賃金が一般的になって、結果として賃金の格差が広 がってくると、実は低賃金の人たちは以前の生活水準を維持しようと思ってもっと長く 働くようになる。高賃金の人は、経済学的に言えば働かないことによる「機会費用」が 高くなります。つまり、賃金が高いのであれば、高い評価を得ている間にできるだけた くさん働いて、多くの報酬を得るという形でより激しく働こうとするようになる。結果 として賃金格差の拡大、すなわち生活給的な部分が減って、能力・成果主義的な部分が 増えることが実は結果として労働時間等を長くして、賃金の構造の変化に影響を与えて くる可能性もある。そういう視点から、もう少し話を整理したらどうかと思います。  もう1つ、特に年功賃金の変化を考える場合に、これがいわゆる長期雇用と結びつい ているわけです。ちなみに、話がちょっとずれるかもしれませんが、1頁目に「年功賃 金や長期雇用に代表される日本型雇用慣行は」という文言があります。10年前ぐらいで したか、佐藤委員などとご一緒だったと思いますが、「雇用慣行研究会」というものを やりました。そのころから議論していて、これはこれで別にいいのですが、あまり「日 本的雇用慣行」という言い方をしないほうがいいのではないか。今から我々が生み出そ うとしているのは日本的ではないのかというと、日本の新しい環境にフィットした雇用 慣行の整備を行うわけですから、もちろん日本的なわけです。  このように書いてしまうと、これから我々が目指そうとしているのは日本的雇用慣行 ではないということになってしまう。ここで別に揚げ足を取るつもりはありませんが、 用語としてあまりこのような使い方をしないほうがいいのではないか。せいぜい「いわ ゆる」、あるいは「従来型の」と付けていただきたいと思います。  年功賃金というのは、実は長期雇用と結びついているわけです。経済的にいろいろな 説明の仕方があると思います。例えば「人的資本理論」的な説明、企業と労働者が能力 開発のコストをそれぞれ分担して、その収益も分担に応じて受け取るというのは長期の 雇用が前提になっていなければあり得ないわけです。能力開発が行われないとしても、 例えばいわゆるエージェンシー理論というか、若いときに安い賃金で働いた代わりに、 中高年になったら高い賃金を受け取るというのが実は労働者の勤労意欲を高める上で有 効であるという考え方から、年功賃金を説明する場合も長期の雇用が前提になっている わけです。  この年功賃金が崩れてくるということは、ここでも書かれていますが、実は長期雇用 の問題と切り離して考えられないわけです。因果関係から言えばどちらが先かと言え ば、基本的には長期雇用が維持できなくなれば、もう年功賃金の長期的な収支バランス を合わせる約束は維持できなくなるわけです。どちらかと言えばこの長期雇用が説明変 数となって、年功賃金がどう変化するかという方向の説明がまず出てくる必要があるか なと思います。  もちろん、年功賃金が逆に崩れてくれば、今度は労働者として、途中で離職すること によって失われるものが小さくなりますから、それが結果として長期雇用を弱めていく ということがあると思います。両方ありますが、長期雇用と年功賃金の話をもう少しき ちんと整理したほうがいいと思います。  そのときに、年功賃金というのはそのようなコンテクストから言えば、決してこれは 年功賃金から能力主義賃金への転換と読むべきではない。年功賃金ももちろん能力や貢 献に応じて支払われていたわけですが、それは学校を出てから定年までで収支バランス を合わせるという、長期で能力と賃金の収支を合わせる仕組みだった。  それに対して最近言われている、いわゆる能力・成果主義的な賃金体系というのはそ の収支バランスを短期で合わせる。その時々の能力や貢献と賃金を一致させるという方 法です。そこの仕組みがうまく機能するためにはどうしたらいいのか、という話を少し したほうがいいのではないかと思います。  ただ、そのときに、ここにちょっと書いてあることで気になるのは、年功賃金は転職 を不利にしたり、あるいは長期勤続を促すことについてどう考えるかという議論があり ます。原則から言えば、労使が合意している限り、個々の企業がどのような賃金体系を 取ろうと自由だと思います。個々の企業が、自分のところは途中で辞めてもらっては困 るから年功賃金にしたい。あるいは、自分のところはどんどん辞めてもらっていいので フラットな賃金にする。労使が合意している限りにおいては、これは基本的には自由だ と思います。  むしろ、そこのところを問題にするよりは、ここで問題にするとすれば公的な制度、 例えば退職金税制みたいなものです。要するに、勤続年数と退職一時金の給付の控除額 が非常に密接にリンクしているような公的な制度ということです。あるいは、これは必 ずしも長期雇用慣行とはダイレクトには結びついていませんが、先ほど最後のほうに出 てきたパートと正社員の均衡のところで、やはり公的年金制度がどう考えても同じでな いことがパートタイマーを労使の自由な選択以上に増やしているわけです。そういう意 味では公的な年金制度や退職金税制といったところについてまずきちんと言った上でな いと、本来労使が自治で決めるべき年功賃金をどうしろ、こうしろということはあまり こういうところで言うべきものではないというか、説得力を欠くのではないかと思いま す。  もう1つ、これも何度も言って恐縮なのですが、特に雇用政策の役割というのは基本 的には企業の中のことをああせい、こうせいと言うよりは、企業の外の労働市場の機能 を整備し、なおかつセーフティネットをきちんと準備していくということであると思っ ています。賃金について、その観点から言うと、市場機能の強化というのは賃金につい ての情報をもっとよく行き渡らせるようにするということと、例えば個々人の能力につ いての評価、技能評価等の問題が最近少しずつ進んできていますが、個人の賃金のもと になる能力についての情報がもっときちんと市場に行き渡るようにする。  もう1つは市場の機能を強化するという意味でさまざまな差別、要するに能力や成果 以外のもので個人が差別されないような差別禁止のルールを徹底していく。年齢差別禁 止の話もあるでしょうし、パート、均等法のような、就業形態等による格差を是正して いくというものもあると思います。  もう1つは先ほど言ったように、個々の企業がどのような賃金制度を取るか。これは 自由だとしても、あくまでも個人の最低の生活が営める水準が維持された上でのことで あります。そういう面で、最後のところにあった最低賃金制度をきちんと整備、維持し ていくことが大切だという点を是非強調する必要があると思います。特に、労働移動と いうのは日本の国内だけでも完全に自由ではありません。そういう意味で、地域別の労 働市場に応じた最低賃金がきちんと整備されているというのは大切なことであるし、む しろもう少し充実していったほうがいいのではないかと思います。  ただ、これも前にも申しましたが、その中で産業別の最低賃金を「最低賃金法」とい う、刑事罰を伴うような強行法規で行っているというのは、私の目から見るとちょっと 問題がある。最低賃金というのはあくまでも、どのような産業に勤めていようと、その 市場の中で最低限の賃金が確保されることが大切なわけです。もちろん、産業別に賃金 格差があるというのは、産業別労使の中で当然賃金が決まってくるわけですから、それ はあっていいわけです。それを国が強行法規で強制するというのは先ほど言ったよう な、本来、賃金というのは最低基準が満たされれば、あとは労使が自由に決めるものと いう視点から言うと、私はちょっと首をかしげざるを得ない。  そういう面では、むしろ地域別の最低賃金の水準をもう少しきちんとしたものにして いく中で、産業別の最低賃金を見直していく、できれば廃止をしていく。あるいは、そ の前の段階として産業別最賃の手続の部分で、現行制度、ないしは現行制度を多少改良 するような形で、いま私が申し上げたような問題が改善されるような方法が検討できる のであれば、まずそれを早急に検討していただきたいと思います。最後のところは、 「総合規制改革会議」からお願いした部分でもあります。  長期的には地域別最賃を充実する中で、産業別最賃をなくしていくという方向が望ま しいと思っています。短期的には現行制度の中で、あるいは産業別最賃を残した中で、 制度を改定することによってもう少し理屈にかなったような形の改善を行っていただけ ればと思います。 ○諏訪座長  ありがとうございました。非常に刺激の多い、良い冒頭の発言をしていただきまし た。ほかの先生方からもいろいろご指摘をいただけたらと思います。お願いします。 ○武石委員  清家委員に全体的なお話をしていただき、私も同感の部分が多くあります。まず、賃 金の問題を考えるとき、基本的には賃金をどう決めるかというのはやはり労使が話し合 って、個々の企業の中で決まっていくものだと思います。そこに政策としてどのように 関与するかということになれば、1つはセーフティネットということで最賃のあり方を 考えていく。もう1つは賃金の決め方について、労使両方が納得できるようなルール作 りに政策として関与できる部分があるのかなという印象を持っています。  「論点」のペーパーの中でいろいろな問題意識が出てくるのですが、1つにはやはり 働き方が多様になって、生活との調和を図りたいという人が賃金が下がっていく可能性 があるということは確かにそうなのです。下がる人もいるわけですが、反対に上がる人 もいる。それから、非常に高い賃金から、働き方に応じてそこそこの水準の人まで、多 様な選択肢を作っていくというのが、多分この研究会で考えなくてはならないことだと 思います。下がっていく人がいる場合に、その下がり方が生活とのバランスを取るとい う選択のもとで、下がらざるを得ないことが労働者として容認できるかどうか、納得で きるかどうかという部分をきちんと政策として、決まり方に関与していく必要があるの かなという感じがしています。  その意味で、繰返しになりますが、清家委員がおっしゃったように情報の開示とか能 力の評価がきちんとなされていくことなどが必要であると思います。あと、このペーパ ーの中にも出てきますけれども、賃金や処遇に対して不満がある場合に苦情処理が円滑 にできるような仕組みを整えていく。事後的な対応ということになると思うのですが、 事前の市場のルール化に加えて、納得できない場合に苦情を訴える場があるというあた りの整備をきちんとしていく必要があるのではないか。  賃金とは少し違うのですが、収入が下がっていったり年功カーブが変わっていったり する。例えばいま、50代の人の賃金が高いとすると、50代の人は子供の学費でお金がか かるという状況があるわけです。そういう場合の賃金の低下に対する、もう1つのセー フティネットとして奨学金制度をきちんと充実する。周辺的な話になりますが、そうい う部分も社会的な支援の仕組みということで考えていく必要があるのかなと思っていま す。以上です。 ○森戸委員  年功賃金に関しては清家委員と同じでして、基本的には企業が自分の所で良い労働者 を雇いたいように賃金制度を作ることはかまわない。ただ、外の公的な制度については 中立的にする。理論的にはそういうことは文句はないと思います。  その先、例えば現在の退職金税制などが働き方に中立的でないという、それが本当に そうかどうかをもう少し検討する。いろいろな趣旨で、一応何か理由があってできてい る制度、公的年金にしてもそうです。もう少しその辺は突っ込んで、そのような制度が どういう趣旨でどう成り立っていて、しかし実際にはどう動いているかというのはもう 少し細かく検討しないといけないと思います。年功賃金自体の検討というよりも、その 外側にある制度をもう少し深く見る必要があるのではないかと思うことが1つです。  これは質問すればよかったのかもしれませんが、1頁目、1.の2つ目の○の「働き 方の選択に当たって個々人が賃金等の処遇について十分に知ることができるように」と いうところは、具体的にどういうことをイメージされているのかなと思いました。「労 働条件をきちんと明示しなさい」という労基法の義務とか、「就業規則を見せなさい」 というレベルの話ではおそらくなくて、こういう働き方をしたら賃金はこのようになる けれども、こういう働き方をしたらこう、ということがイメージできるようにしろとい うことかなと思っていました。しかし、必要性は否定はできないが、例えばどういうこ とが頭にあるのかが思い浮かばなくて、少し皆さんのご意見をお聞きしたいと思ってい たところでした。  3頁目の真ん中あたり、「集団的な労使交渉の基礎を整備する必要性について」です が、ここは非常に突き放した言い方をすると、組織率の低下などということが現実とし てあるわけです。しかし、他方で労働組合を作る自由は誰にでもあって、作ろうと思え ば作れるし、作れば交渉力の面においてだけではなくて、法律上、憲法にまで戻って、 一定の保護を受けている団体を作れるわけです。そうしたものを作って交渉するという 道は、ある意味用意されているといえば用意されているわけです。それでも、そういう 道は取らないという人がいるわけです。作りたくても作れないというのがあるのかもし れませんが、そう考えると、そこで何かほかに集団的な枠組みを用意しましたよ、とい うことを、果たしてする必要があるのかということも考えなければいけないと思いま す。そもそも、組合以外のものをここでは想定しているのかどうかということも少しお 聞きしたいところです。  最低賃金に関しては、産別等の話は清家委員がおっしゃったのですが、時給と日給の ところは非常にわかりづらい。むしろ、誤解を招いているところもある。つまり、労働 時間が短かければ別に最賃を下回ってもいいと思っている節があるところもあるので、 もっとシンプルにできるのではないか。産別などとの関係も整理するという意味も含め て、もう少しシンプルな制度にできる気がします。  法律的な話だけではなくて決め方、地方に最賃の審議会があって、中央にあってとい う、一応それで決まっているわけです。よく知らないで言うのも何ですが、それだけの 労力と手間をかけてやる意味があるのかどうか。そういうことも考えたらいいのではな いかと思います。 ○諏訪座長  いま、質問にわたる部分が3点ほど出ていました。そこだけとりあえず事務局からお 願いします。 ○勤労者生活部企画課長  まず第1点目、働き方を改める場合の明示すべき事項ですが、先生がおっしゃられた ように仕事を選択するときに、現行法で働き始める当座の労働条件のようなものは示す ような仕組みがあるわけです。ある程度長く働くことを考えると、将来どうなるかとい うことは必ずしも、いまの仕組みの中では示されるような仕組みにはなっていないとい うことがあるのではないかというのが1つです。もう1つは途中で雇い入れられるとき とか、労働契約を締結するときだけではなくて、同じ企業で途中で働き方を変えるよう な場合はどうなるのか、私どもの中で議論しているときには1つの課題としてあるのか なと考えていたところです。  あと2つの点については特段、私どもとして明確なイメージを持っているわけではあ りません。3頁の2つ目の○に関して言えば、賃金ですから現行で言えば労働組合が中 心で、いろいろ団体交渉をしたり、契約を締結するということがあります。そこにある ように、未組織の労働者も増えている中でどうしていくか。考え方の枠組みとしては、 労働組合が賃金の交渉をするという考え方もあると思いますし、もう少し広げてという 考え方もあるかもしれません。 ○諏訪座長  ほかにご意見はいかがでしょうか。 ○山川委員  1頁目、先ほど森戸委員が言われた点と関係するのですが、「働き方を改めた場合、 収入の低下につながる場合が多い」ということで、働き方を改めた場合に収入の低下に つながるかどうか、というところがある意味で問題になるような気がします。というの は、働き方の改め方がどのようなものであるかによって変わってくるわけです。  例えば短時間正社員のようなものを作るとした場合に、前回の議論とも関係があるの ですが、一体会社の中にどのような勤務形態、「勤務形態」と言うとちょっと言葉が足 りないかもしれません。キャリアのテーブルのようなものが会社の中に制度化されて、 選択が容易になるような制度であれば、それと賃金制度を結びつけて明示しておくとい うことはあり得るのかなという感じがしています。どこかで聞いたところでは、例えば 総合職と一般職という、善し悪しはともかくとして、極めて基本的な制度も必ずしも就 業規則の中に書いていないということがあるようです。言わば、キャリアの類型の契約 化と言えるかどうかわかりませんが、制度として明示して、それと賃金を結びつける。 さらに、労基法第15条が「労働契約内容の変更のときには適用されない」という解釈だ と思いますが、その辺をどう考えていくかという問題につながると思います。  そのような発想は、実はほかのところとも関わってきます。つまり、どういう賃金制 度がいいかというのは既に皆さん方がおっしゃったとおり、企業ないし労使の選択の問 題で、別にどちらが正しいというものではないと思います。1つは情報提供ということ がありますし、もう1つ、現実に問題として現れるのは労働条件の変更として現れると いうことだと思います。そのルールをどうするかということになると思います。  ただ、これは労働契約法の問題かもしれません。例えば労使の協議というのも、現行 の判例では就業規則を変更するときに、労使の協議がきちんとされているかどうかを1 つの要素としています。そのようなルールを作っていく、あるいは作るように推進する ような政策を取るというところが現実には課題になるのではないかという気がしていま す。  もう1つ、情報提供という点では、仕事と生活の調和と必ずしも直接関わるわけでは ありませんが、最近、いろいろなところでよく使われている手法が「ベスト・プラクテ ィス」というものです。何をもってうまくいっていると見るか、あるいはそういう評価 ができるのかというのは別途問題にはなるのですが、「こういう成果主義はうまくいっ ているのです」といったベスト・プラクティスの紹介、あるいはそれを推進していくよ うな何らかの支援のようなものがあり得るのかなと思っています。  これは必ずしも成果主義の問題だけではなくて、ある意味では「仕事と生活の調和」 と「賃金制度」の組み合わせについてのベスト・プラクティスという、よりスペシフィ ックな話にもなり得るかもしれません。以上です。 ○佐藤委員  仕事と生活の調和を図ることが賃金についてどう機能するかというと結構難しいと思 います。1つは働き方が多様化するということは、働く人たちの生活について考え方が 変わってきたということもありますが、同時に企業も雇用する人全員に同じような働き 方を求めるのではなくて、社員にいくつかの働き方を求めるようになってきたと思いま す。  例えば、この仕事をクリアする能力があればそれ以上は能力開発しなくてもいいと。 ある仕事だけきちんとやってくださいと。ある人たちについては仕事で給料を支払う。 この人たちについては、その仕事をする能力が必要だというだけではなくて、そのあと どれだけ能力を高めるかによってアウトプットが違うとすれば、どれだけ能力を高めた かを評価するような仕組みにする。つまり、両者で企業が社員にどういう働き方をする かという期待が違いますから、当然賃金の評価の項目が違ってくる。ですから、賃金制 度が違ってくるということです。どういう能力を求めるかということもあります。例え ば転勤がある・ない、あるいは管理職を目指すのか、専門職でいくのか、あるいは時間 の長短、フルタイムかパートか。フルでも残業をするか、しないか。  働き方について、社員もいろいろ選択するということもありますが、会社もいろいろ な働き方を求めてきている。そうすると、企業のほうとしては、社員に期待する働き方 に応じて賃金の制度を作ってくる。それが多分、多立型賃金制度という、日本経団連が 言っていることだと思うのです。企業の側からすればそのようになってくる。  そういったときに問題になるのは何かというと、1つはそれぞれの働き方に応じて、 先ほどのように賃金制度を作るのは労使が決めればいいことだということはあるわけで す。しかし、何でもいいのか。やはり、働き方に応じて合理的な賃金制度になっている かどうか。法律で決めるかどうかは別として、合理的な賃金制度ができる仕組みを担保 する仕組みとして、先ほど「労使が」という話もありましたが、働き方に応じて合理的 な賃金制度が作られるかどうかが1つ課題になると考えます。  もう1つは、違う働き方の間での賃金水準の違いです。例えば、先ほど山川委員が総 合職・一般職と言ったとき、転勤の有無をメルクマールにしたときに、転勤する・しな いということが賃金水準で見たときにどれぐらいの格差が合理的なのか。多分、これは 法律で決められない。でも、水準の納得ができるような、働き方に応じて水準が違って きたときに、働き方の違いと賃金水準というものがある程度納得する範囲内にあるのか ということは新しい問題になるだろう。  この辺の問題について、法律でどうこうということはなかなか難しいと思います。納 得した賃金制度ができる、あるいは納得した賃金水準になるという仕組みをどう考えて いくかということと、「おかしい」と思ったときの苦情処理のような仕組みを合わせて 考えていくことが、仕事と生活の調和といったときに出てくる1つのことだろうと思い ます。  もう1つは、働き方が多様化してくるというのは多様なライフスタイルの人が出てく るということだと思います。そのときに、会社が自由に賃金制度を設計してもいいわけ です。そのとき、例えば先ほど清家委員は「世帯主モデル」というお話をされました が、実態は多様化していってるにも関わらず、賃金の制度を設計するときに世帯主モデ ルだけを想定して作っていく。いまは配偶者手当の問題などがあります。  そういうことについて、仕事と生活の調和というか、男女共同参画ということも重な るかもわかりませんが、多様なライフスタイルが展開されているにも関わらず、特定の ライフスタイルだけを想定している賃金制度が多様なライフスタイルに応じた多様な働 き方に合っていればいいのですが、そうではないとすれば問題になるだろう。  そうしたときに、例えばそれに関わるような法律上の制度がもしあるとすれば、それ も議論しなければいけない。例えば、残業の割増率には配偶者手当は入っていないと思 いますが、残業の割増しの対象の賃金の中に手当類が除かれてしまうと、逆に言えば企 業からはそういう要求で手当が出てくるわけです。そういうものがあるとすれば、働き 方が多様化してくるとすれば、そういうことも見直す必要があるかなと思います。  3つ目は、いろいろな働き方を選んでも、少なくともある一定水準の時間働けば、あ る生活が維持できるというものも必要だと思います。そうしたとき、最低賃金というの は大事になってくるだろうと思います。最低賃金についていろいろな制度があると思う のですが、いまの最賃の見直しのあり方、数字の見直しのあり方というものが現行のや り方でいいのかどうか。例えば春闘が行われて賃金が上がる。その結果を調査して、最 賃のカバー率、これだけ上げたらどのぐらい影響するかということを考えてここまで引 き上げよう、という形でやっていると思います。  例えば、春闘でも賃金が上がるという状況ではないわけです。そうすると、放ってお くと上がらない。最賃とはどういうものかということが多分背景にあると思うのです が、それをきちんともう一度議論して、それを踏まえた上でどのように地域最賃の水準 を見直していくかその仕組みも考えなければいけないかもしれない。日本の場合、比較 的適用対象は広いわけですが、広くなるような決め方をしているわけです。ある一定水 準をカバーされるように最賃の水準を決めているという側面もあるので、そのような決 め方でいいのかどうかというのは少し考えていく必要があるかと思います。 ○諏訪座長  ありがとうございました。 ○北浦委員  遅れて申し訳ありませんでした。清家委員のお話が聞けなかったので、重なる部分、 あるいは聞き落としたがためにおかしい発言になる部分があったら、それはお許しいた だきたいと思います。  3つございます。1つはやはり仕事と生活の調和ということで考えていった場合に、 生活の事情から言っていろいろな形での収入形態を選んでいくという話が先ほどからあ りました。そういうときに賃金の違いが出てくるものについて、どのように合理的に決 めるかという問題があります。  先ほど山川委員のお話があったように、キャリアの類型ごとにどう賃金に結びつける か。そのような労働条件的なもの、それは別に法定ではないにしても、そういうものを きちんと労使で話し合って決めていくルールを作る、ということは非常に重要なのだろ うと思います。  既に正社員と非正社員の問題でも出ていますが、例えば仕事と生活の調和の問題とい うことで考えていくと、例えば時間の概念、先ほど佐藤委員からもあったように転勤が できるかどうか。そういった要素によって、それが合理的な格差というか、均衡するよ うな違いの賃金の差ができるかというのは非常に大きな問題だろうと思うわけです。た だ、そういったものの考え方で賃金を決めること自体、まだまだ日本はそこに行ってい ないわけです。その意味では、両方を含めて論議をする必要がある。  もう1つ、これも佐藤委員がおっしゃったメルクマール、まさにそういった情報とい うものがあまりないですし、政府の統計上もそういうものが出てこない。そのような情 報を提供することによって、合理的な賃金決定に資するものを作っていく。これは非常 に重要なことではないかと思います。  2点目は「賃金の問題」と出ていますが、賃金は何のためにということになると、や はり生活上の必要経費であります。当面の生計費もありますが、やはり将来においての いろいろな準備という要素もあるわけです。ここでは「賃金」とだけ書いてあって、退 職金や年金への言及はしていないわけです。おそらく、そういった問題も含めて違いが 出てくる。退職金であれば、賃金後払い説を取るかどうかは別にしても、やはり賃金と のリンクなどもあるわけです。例えば、毎月の所得の中から一定の保険料を払うという ことであれば年金も関係あるわけです。退職金や年金も含めた、そういった関係で論じ ないといけないと思います。  その場合にあるのはやはり仕事と生活の調和で、就業形態が非常に多様化し、あるい はいろいろな事情により、働き方が変わることで賃金所得が変わることがいま申し上げ た、長い目で見ていろいろなものに影響するのかどうか。例えば年功賃金なり、賃金が 安定していることを前提にして組み立てた制度が結構多いわけです。ある時期におい て、賃金が非常に不安定に変動する。あるいは、ある時期は空白になる。そういったこ とがいろいろな意味で、何か不都合を生ずるようなことがないのか。そういったところ も少し考えていく必要があるのではないかと思います。例えば社会保険の制度などにお いて、お金がなくて掛けることができない場合にどうするか。そのような問題がいろい ろあるのだろうと思います。そういうものを含めて、変動があったときに社会制度がい かに対応できるか。こういった観点の検討というものがあるのだろうと思います。  そのときに1つ考えられるのは、特に年金の問題は非常に重要なことだろうと思いま す。いま、例えば日本において確定拠出年金がかなり進んできているわけです。これは 年金として捉えていますので、米国の401kのように、60歳より前の段階での引出しと いうのはできない。そういうことになると、老後の生活を安定させるというのは大変大 きな要素で、そのための貯蓄が大きな要素としてあるわけです。不時の備えとして、あ るいは何か目的を持ったものに対しての貯蓄というものの考え方があるのだろうと思い ます。ここでは論点はあまり出ていませんでしたが、おそらく厚生労働省の施策として は勤労者財産形成促進制度などもあるでしょう。あるいは、先ほど申し上げたような教 育のための投資を奨学金として作るのも結構ですが、自己資金として形成していくよう な措置がないと、「仕事と生活の調和」と言っているところの「生活」で考えようとし ていることが、おそらく神がかり的な形でないと実現できないということにもなってし まうのかなと思います。そういう自助努力を奨励するような措置があるのかなと思って います。財形にはそういった思想もあったように思います。そういう面も含めて考えて いく必要があるのかなと思います。  最低賃金については、ここは最低賃金を論ずる場ではありませんし、仕事と生活との 調和という限りにおいて制度論をここで論ずるのはあまり得策でないような気がしま す。最賃は最賃としての制度論として、その事情の中で論議したほうがいいと思ってい ます。  1点だけ申し上げます。最低賃金も大事なのですが、今、就業形態の中でいわゆる自 営型、あるいは請負型というところになっていくと、最低賃金という縛りではなくて、 逆に言うと発注した単価で縛っていくという考え方がある。例えばアメリカだとリビン グ・ウェッジというものがあって、官公需の場合にそのような考えがあるわけです。特 に電気業界などを見ると、アウトソーシングが進んできています。最賃の規制力という ものもまだまだありますが、それ以上にアウトソーシングの部分において底抜けしてし まう。こういったことが問題になっています。  これは直接の問題ではないかもしれませんが、やはり多様な就業が生まれていくし、 いろいろな働き方をしていく場合には、そういったところのセーフティネットを自営業 型のところにも持っていく意味で、最低賃金という枠組みをもう少し大きく捉えて、就 業全体のセーフティネットという枠の中でどう構成できるか。そのような議論も課題的 にはあろうかと思っています。喫緊のところは、ここに書かれたような問題点ではない かと思っています。以上です。 ○諏訪座長  ありがとうございました。いま、ひと渡り総論的にご議論いただいたのですが、指摘 し忘れたとか補足したいということはありますでしょうか。 ○清家委員  補足というか、ほかの委員の先生の意見について2点あります。1つは森戸委員が言 われた点、私も言い忘れていたのですが、最低賃金ルールの中で短時間就労についてち ょっと紛らわしい感じの部分があります。できれば、すっきりと、時間単位に一本化し たほうがいいのではないかというのは森戸委員のおっしゃるとおりだと思います。  もう1つは少し大きい点で武石委員が言われたことと関連して私もちょっと言いたか ったのですが、要するに「仕事と生活の調和」という話を他人が読むときに、それほど うまい話はあるのだろうかと必ず思うし、私も思うわけです。その場合、むしろ出すべ き論点というのはもう少し、仕事よりは生活を重視したい人の選択が認められるように したほうがいいのではないかという話なのだと思います。そのときに、生活を重視した い人はどういうコストを払うのですかということを明示的に出したほうがもっと説得的 だし、フェアな書き方ではないか。  勤労者は生活の自由のために、収入の低下ということもあるかもわかりませんけれど も、経済学的に言えば収入が低下した分だけ余暇が増えれば、効用は低下しないわけで す。そういう面で、必ずしも一方的にトレード・オフと考える必要はないのですが、生 活の自由のために少なくとも金銭的な、マネタリーなロスを勤労者はどこまで、あるい はどういう形で支払うかというストーリーが明確に出ていたほうがいい。両方OKとい うことはあり得ない。もうちょっとインパクトのある話にするのであれば、そこはもう ちょっと明示的にしたほうがいいのではないか。  武石委員が言われた趣旨とはちょっと違うかもしれませんが、先ほどの意見に触発さ れて私もその辺を強調しておきたいと思います。 ○諏訪座長  ほかにいかがでしょうか、よろしいでしょうか。もしよろしければ、いま総論的に議 論をしていただいたのですが、ここでも3点、賃金額の問題、その裏側には、仕事を取 れば賃金額は上がる、生活を取れば賃金額は下がる可能性がある。このようなトレード ・オフ関係をどのような視点で位置づけるか、という問題をいま言われたと思います。 それをめぐって、そのほかに合理的な格差であるかどうか、あるいは情報の開示のよう な新たな視点、いろいろなことが言われた。これが1点目でした。  2点目はむしろ賃金制度、システムをどのように組むか。あるいは、その組み方に政 策はどう関与すべきか。それから、セーフティネット中のセーフティネットである、最 低賃金制度をワークライフ・バランスという視点から見るとどういうことが言えるかと いうものでした。1点目と2点目はちょっと似ているのですが、3点目は少なくともか なり別の政策的な次元だろうと思います。そこで、1点目と2点目はワンセットにして 少し議論していただきたい。切り離さないほうがいいと思います。3点目はあと回しに して議論をしたらどうかと思います。  そこでワークライフ・バランスを考えるときに、それが持つベネフィットの裏側にあ るコストの問題、正確に言うと関係者の間でそのコストをどう分担していくかという問 題なのだろうと思います。客観的にコストの問題はあるわけです。いまはそれをどのよ うに配分しているのか、それをこれからどういう形でバランスを取っていったらいいの かという議論になるのかなと思います。その辺を中心にまずご議論いただければと思っ ています。いま清家委員がおっしゃったのは、武石委員のご趣旨と、基本的にはそんな に違っていないと見てよろしいのですか。 ○武石委員  はい、整理しておっしゃってくださったと思います。 ○諏訪座長  だとしますと、これは非常に重要なポイントです。清家委員がおっしゃったのは、こ ういうコストをどのように配分していくかということです。あるいは、そこから出てく るベネフィットかもしれませんが、そういうものが今のような配分の仕方では、どうも 問題ではないかというのが、みんなに共通する問題意識だろうと思うのです。この辺に 関して、政策という観点からすると、では一体どこをどのように問題提起していくべき かということについて、ご議論いただけますか。 ○清家委員  先ほど山川委員が言われたこととも、ちょっと関連するかもしれません。やはりルー ルを明確にすることだと思うのです。つまり一義的に、パートだから時給が安くてもい いとか、一般職だから給料が安くてもいいというのではなく、その理由をもっとスペシ フィックにする。  例えば転勤をしなくてもいいという部分のディスカウントはこれだけ、あるいは会社 の言いなりに、どこでも行きますというプレミアムはこれだけというように、どちらの やり方をしてもいいのですが、パートタイム労働者だって、転勤してもいいと言う人も いれば、嫌だと言う人もいるでしょう。フルタイムの人だって、転勤してもいいと言う 人もいれば、嫌だと言う人もいるでしょう。また自分の好きな時間を選択して働きたい という人が、いわゆる高度な、専門的な仕事をしている人の中にいるかもしれないし、 一方、そうでない仕事をしている人の中にもいるかもしれない。  しかし最初からレッテル貼り的に、総括的に、パートはこの部分安くてもいいとか、 一般職はこの部分安くてもいいというのではなく、少なくとも具体的にこういう部分で 個人の自由を認めている分、賃金を引き下げているのですというのが明示されるような ルールにするのが、まず一つの前提かなと思います。ただ、それをどのぐらいディスカ ウントするかというのは、労使が決める部分が大きいと私は思います。 ○諏訪座長  では、まずこの問題提起をいただいて、これを中心に、しばらく議論してみたいと思 います。先ほど山川委員は、少し法律学的な観点からおっしゃってくださったので、も う少し敷衍してご議論していただけますか。 ○山川委員  労働契約の中身になるかどうかはともかく、特に仕事と生活の調和ということを考え ると、キャリアの形みたいなもの、いろいろな働き方というものが出てきます。これま でそういうものを契約の内容として考えるということは、あまりなされていなかったよ うに思うのです。契約の内容であるとすると、当然それは明示しなければいけません。 労基法第15条で明示するかはともかく、どういう契約なのかということを相互が認識し て、「私はこういうキャリアパターンに変わります」と言えるようにすると、そこで賃 金の決定ルールみたいなものも明確にしていくという形になる。それを法律でどこまで 強制するかというのは、また別の問題かもしれませんが、こういう働き方を選びますと いうのが、はっきり自分で決められるような制度を、少なくとも企業としては作ってい くのが望ましいのではないかと思います。 ○諏訪座長  森戸委員、法律家としていかがですか。 ○森戸委員  私がいま思っていたことは、法律家としての観点ではないのかもしれません。例えば 仕事が100だと生活が0になってしまう、生活を100にすると仕事が0になってしまうと いうのは、それはそれでいいけれど、問題はその中間なのです。仕事が30ぐらいで生活 が70になるのなら、トレード・オフで、合わせて100でいいのかもしれないけれど、こ こで仕事を30にすると、生活も30ぐらいしかいかなくて、結局中間的なものを選ぶと、 60か50ぐらいしかいかないことが問題なのです。  中間的なものを選んで、100であるべきかどうかは別として、100に近いほうが望まし いだろうということで、そこのところを政策的に、もしくは法律的に明確にする努力を する。何か例を示して、こういうように整理していくと、この場合はいくら中間的な選 択肢を選んだとはいっても、いろいろな部分が不利になりすぎているのではないか、と いう計算ができればいいのではないかと思って聞いていたのです。ただ簡単に数字にで きる話ではないので、すごいイメージの話になりますが。 ○諏訪座長  佐藤委員、人事労務管理の専門家として、こういう面についてはどうですか。 ○佐藤委員  先ほど山川委員が「キャリア」と言われたことと重なるのですが、私などは「雇用区 分」と言っています。会社の中で社員にどういう働き方を期待するかというのは違って いて、同じ働き方を期待する人たちが、1つの雇用区分なのです。ですから、この人た ちについてはいろいろな仕事を覚えてもらって、もし複数事業所展開であれば、転勤も 可能だろうし、必要があれば残業もしてもらう雇用区分の人たちというように、いくつ かの雇用区分があるわけです。そのときに同じ雇用区分の中で時間が短くなる場合は、 基本的に時間比例だろうと。問題は、その雇用区分が動いたときです。全く同じ仕事で も、例えば残業をする、しないとか、転勤をする、しないというのが変わったときに、 これを賃金水準としてどう見るかということが、これまでの日本の企業の中では、あま りはっきり議論されてこなかったわけです。ですから、そこをきちんと議論する。  もう1つは、確かに同じ雇用区分であれば時間比例は、正直言ってあまりはっきりし ていないのです。ですから、この両方の議論をきちんとさせていく。同じ雇用区分の中 で言えば、短時間になっても転勤があるとか、6時間を超えて働く場合もあり得るとす れば、私は基本的に8時間から6時間になっても、時間比例でいいのではないかと思う のですが、そのことについてもきちんと議論されておらず、短くなったら賃率が下がっ てもいいのではないかというのがあります。その辺も少し議論していく必要があるので はないでしょうか。  あとは時間を短くしたときの水準です。あまり生活を自由にしたら、食べていけなく なるのではないかというところです。例えば単身で考えたときに、一生涯毎日10時間働 いて食べるようにしなければいけないということはないと思うのです。一つのキャリア の中で、ある時期短時間を選べるようなことを選択して、その時期に収入が減っても、 ほかの時期にストックした部分で食べられるような水準があるということが、基本的な 考え方でしょう。例えばいまフリーターやアルバイトをやっている人たちが、60歳まで アルバイトをやっていても食べられるような最賃にしろなどというのは、めちゃくちゃ な話ですから、私はやはりそういう話ではないだろうと思うのです。ある時にある程度 短い時間を選んで、例えば大学院へ行くことが選択できるような、それまでに稼いで蓄 えておけるような賃金水準であるかどうかです。そのときは減ってもいいと思うので す。そういうことが時間を減らしたときの賃金水準という場合は、大事だと思うので す。これが今度世帯になればカップルですから、カップルでそれぞれ時間を短くして も、1.5ぐらいの時間である程度食べていけるかどうか、議論する必要があるのではな いかという気がしました。 ○諏訪座長  いまの1.5というのは1.5時間ではなくて、例のオランダモデルの1.5ですね。この点 について皆様の意見を少し整理してみますと、やはり今は選択肢が少なく、別の選択肢 を取ろうとすると、選択する側にカクンとコストが全部行ってしまうということがあり ます。そうした選択肢の少なさやモデルの硬直性が、あまりにも問題だと言われてきた と同時に、今度はこういう選択肢を取ったときの格差と言いますか、比例的に配分する ときの考え方を、どういう考え方で整理していったらいいのか。いま佐藤委員は、そこ における雇用区分というお考えを入れておっしゃったわけです。さらに言えば、ワーク ライフ・バランスにおけるワークキャリアの設計の仕方とか、キャリアデザインの仕 方、夫婦で働く場合には夫婦それぞれの、これに対応した処遇のシステム、オランダモ デルみたいなものをどう考えるかといういくつかの論点が関わって、おっしゃっていた だいたと思うのです。  悩ましいのは、法政策として何ができるかです。あまりにもモデルが少ないではない かとか、あまりにもカクンと落ちすぎてはいけないのではないかというのは、いくらで も言えるのですが、市場メカニズムの下における労使自治という問題を考えると、国が こんなものもつくらなければいけないとか、あんなものもつくらなければいけないとい うのは、なかなか難しいですよね。オランダモデルにしても、国が勝手にやったのでは なく、ちゃんとした労使の基本的な合意の上で、その後、立法措置などを取っているわ けですから、そうした合意もないまま、オランダモデル的なやり方を日本に入れようと しても、非常に難しいのではないかと思われます。行くべき方向は、どの先生もほぼ一 緒だと思うので、一体どうやったらそちらへ行くのかということについて、お考えがあ ればもうちょっとお聞かせいただきたいと思います。何かうまいアイディアがあります か。 ○北浦委員  アイディアはないのですけれど、先ほどの議論の中で、やはり賃金の問題になってい ますが、生活収入ということで考えていった場合、どこでも生計費は要るわけですか ら、収入は確保されていないといけないわけです。ここを前提にした政策には何がある のか考えてみますと、先ほど佐藤委員もおっしゃったように、これはまさに時間軸で考 えなければいけませんから、ある時期になくても蓄えがあれば、それでやっていくとい う完全な自助努力的な世界もありますが、それを保障しているのが、ある意味で言うと 保険制度なのです。今ですと公的な場合であれば、雇用保険というのがあります。た だ、これは失業時ということになりますから、ここに該当するかどうかは分かりません が、例えば休暇のときの手当てがあったとしたら、それも一種の補填措置になっている わけです。そういう公的なものがいいかどうかは別にして、何かしらの保険機能という ものを同時に政策的につくる。これは法制度としてというのではありませんが、政策論 としてはあり得るのではないかと思います。そういうものがあれば、ある時期に蓄えて おいて、ある時期にどこかの保険に転化して、その時期に使えるという状態であれば、 いろいろな形の可能性が広がってきます。この問題が私は一つあるのではないかという 感じがいたします。  もう1点、先ほど来ある雇用区分、あるいはキャリアの類型という中で決められる条 件決めをどう決めるかというのは、労使自治というか、それぞれの形における人事制度 の違いや、その中の労使間における労働条件の決定の違いで決まってくるのだろうと思 います。ただ問題は、それを決めるときの決め方のルールをどうするか、決め方のルー ルに労使がどう噛むかという、集団ルールの話があります。例えばそれを変更するとき にどうかとか、あるいはその際に明示をするとか、まさに個別労働契約ではありません が、企業の中での労使条件決定や変更のときのルールというのは、法的に馴染むのかど うかは別にして、やはり議論になるのだろうと思います。それはまた別の所で議論して いる話かもしれませんが、おそらくそういったものと絡めれば、その辺のセーフティネ ット的な安全装置は、出来上がっていくのではないかという感じがいたします。 ○諏訪座長  この点をめぐっては、もう少しほかの先生方からもご意見をいただければと思いま す。 ○山川委員  特に法律で実体的な中身や権利義務関係を強制するというのは、非常に難しい面があ ると思います。そこで手続きなり情報開示なりということになったり、補助金というの は、今あまり評判がよくないのかもしれませんが、支援のための何らかの仕組みをつく ることになります。手法の1つとしては、先ほど来佐藤委員や北浦委員がおっしゃった ように、仕事と生活が調和できる働き方を選ぶのは、ずっとというよりも、ある一時期 です。例えば世帯で考えれば、夫婦でそれぞれ交代して、そういう働き方を選ぶことも あるかもしれない。ということは、一旦Aという働き方からBという働き方に移って、 それから戻ってくるというような仕組みがあると、安定的な職業と生活の調和が図れま す。おそらく育児休業や介護休業というのは、ある意味でその一種なのかもしれませ ん。  そこで若干敷衍してくると、部分休業みたいなものがあり得るとすれば、短時間正社 員への切換えみたいなものかもしれません。今度、地方公務員法が改正されると、これ までは育児だけだったのが介護休業と、例えば社会人大学に行ったりするための自己啓 発休業が、部分的にできるようになります。ただ、それは公務員だから条例で決めれば いいことで、企業にそこまで強制するというのは、現在のところ、かなり難しいのでは ないかという感じもしていますが、そういう方向の推進は何かあり得るのではないでし ょうか。  おそらく難しいのは、一方的に部分休業に移行しますというときと、さらに難しくな るかもしれないのが、労働者が自分の好きな時期に戻ってくるとなると、人事管理の調 整がなかなか大変になるという感じがしますので、それをどのようにうまく仕組めるか というのが問題になるのではないかと思います。あまり面白くもない結論になるのかも しれませんが、発想としては何らかの工夫を検討していくとか、一定時期に働き方を選 択することが容易になるような仕組みの支援ということではないかと思います。仮に世 帯主モデルで言うと、配偶者がバリバリ働いて、奥さんがパートや仕事を辞めてしまっ ていたけれど、男性のほうがやはりゆっくりした働き方にしたいと思って、奥さんが40 歳ぐらいで再就職したいと思っても、実際にはパートぐらいしか行き場がないというこ とを改める。ちょっと遠いかもしれませんが、ある意味では中途採用市場の活性化とい うことも考えられるのではないかと思います。 ○佐藤委員  法制面の整備だと、日本でも働く人たちの労働時間の選択権みたいなものを、少し議 論するかどうかです。いまは育児と介護ですが、自己啓発という面も含めて、合理的な 理由があれば経営側は拒否できるけれど、そうでない限り認めなければいけないという ようなものを、少し広げていく必要があるのではないでしょうか。ただ、これはかなり 議論しないといけないのかもしれません。時間の選択権ですよね。それをある範囲内で 労働者が選べるようにしていくことが、仕事と生活の調和という点では大きな論点にな るかと思います。  仕事と家庭の調和というと、いろいろな働き方が出てきます。いろいろな働き方の1 つには、労働時間ですよね。もう1つは、多分有期で働く人も増えるでしょう。そうす ると先ほどの賃金についての合理的な格差ということに関わって、2つの問題がありま す。1つは、同じ雇用区分と言ってもいいと思いますが、基本的に同じ働き方、同じキ ャリアの中で時間が短くなったときは時間比例、逆に言うと合理的な理由がない限り、 時間が短くなったことだけをもって賃金のレートが下がるわけではないという考え方 は、多分日本にはないでしょう。他の条件が一定であれば、時間が短くなったときの賃 率は時間比例であるという考え方がないのではないか。時間以外が何も変わらなけれ ば、賃金レートについては基本的に時間比例で、賃率は変わらないという考え方が大事 ではないでしょうか。前にもお話した日本のパート労働法というのは、フルとパートの 処遇の比較ではないのです。パートタイマーと正社員なのです。ですからフルとパート という考え方にはなっていないのです。  もう1つは有期と無期です。他の条件が一定で、雇用契約期間だけが無期か有期かと いうことで、この処遇についてどう考えるかです。これも法律上どうなっているかは分 かりませんが、有期か無期かというのを労働条件に反映させるときにどう考えるかとい うのも、議論になるのではないでしょうか。ですから法律的なことは分かりませんが、 時間比例という考え方と、有期・無期というのをどう考えていくかというのが、結構大 事ではないかと思います。 ○森戸委員  大きく2つあります。1つは、法律的に、政策的にどうしたらいいかという話は、山 川委員などがおっしゃった以上のことはないのですが、スローガン的には、今まで流動 化時代で、転職しても不利にならないような法制度の整備とか、公的制度の整備などと 言っていたのが、会社を替わるということだけでなく、まさにキャリアブレークという か、転職の間に休んでも不利にならない制度の整備というような整理をすれば、皆さん がおっしゃったようなことが、全部入ってくるのではないでしょうか。つまり企業年金 や税制などもそうかもしれませんが、いままでは転職しても不利にならないようにと か、転職、転職ということで、ずっと働いているというイメージでいろいろつくってき た気もするのです。しかし、その間に一時休んでもいいではないか、もちろんそのとき に金がもらえないというのは、それでいいのだろうけれど、また戻れるような支援があ ってもいいのではないかという観点が、必要ではないかと思ってうかがっていました。  もう1点は全然違うことです。やはり賃金に関する論点がきていて、先ほど最低賃金 のところだけ何か違うと言いましたが、なぜ違和感を持っていたのかが、ようやく分か ってきたのです。要するに最低賃金の話は、賃金の話なのです。しかしそれ以外のとこ ろは、やはりちゃんとレポートに書いてあるように、賃金等の処遇についての話なので す。「賃金」という名前で呼ばれるかどうかはともかく、働いたことに対してもらえる 金だけでなく、雇用保障的な処遇も全部含めての話なのです。それがいろいろな働き方 を選択したときにどう変わるか、どのぐらい不利益、あるいはトレード・オフみたいな ものが出てくるかという話なのだと。ですから、1と2のところでは、おそらく賃金に 関する論点と言うよりも、もうちょっと広い話をしていたと思うのです。それらを佐藤 委員に整理していただいて、よりクリアになったのです。  やはり有期・無期というのも、実際上は非常に影響が大きいと思います。賃金が手取 りでもらえる額は多いけれど、その代わりあまり雇用保障的なものはない、やはり何か あれば、すぐ最初に首が危うくなるというような、そういうパッケージの処遇もあるで しょうし、賃金的にはそう変わらないけれど、やはり正社員的な人には雇用保障的なも のがあって、そういう安心感というのも処遇の一部かと思うのです。そういうように整 理してくると、キャリアのテーブルを用意するという形は取りずらくなってきますが、 賃金も含めた処遇全体が仕事と生活の調和、あるいはトレード・オフの中でどう変わる かというように考えなければいけません。特に「賃金等」と言うと、やはり有期・無期 も含めた雇用保障的なものを一緒に考えなければいけないのではないかと思ってうかが っていました。 ○武石委員  佐藤委員がおっしゃっていた、同じ雇用区分で同じ仕事をしている人には、時間比例 で同じ賃金を払うというのは、大変重要な考え方だと思うのですが、多分、時間比例で 同じ賃金水準というと、短時間勤務というのは、ある意味で強制的なやり方を取ればや らざるを得ないのですが、企業がそういう制度を導入するかというときに、やはりすご く導入しにくい、ハードルが高い、企業にとってはコストが高いというイメージで、や はりなかなか広がっていかないのではないかという気がしますので、多少賃金が下がっ てもしょうがないという気が、私はしているのです。  ただ、その場合「6時間しか働かない」と言っていた人が、7時間、8時間の残業を しなければいけないときに、例えば割増率を上げるという形で、そこのバランスを取る というやり方もあるのではないでしょうか。基本的な考え方としては、同じ賃金水準と いうのが正しいのですが、実際にそういうものを広げようとすると、非常にハードルが 高いわけです。もうちょっとほかの、そういう割増率みたいなところの救済もあり得る のではないかという気がして、そこは私も悩んでいるところなのです。 ○諏訪座長  今の佐藤委員と武石委員のご意見は、私はそんなに違ったことを言っているわけでは ないと思うのです。原理的に考えるとそうなる、しかし武石委員は、もしその原理を現 実にそのままやると何が起きるかというと、短時間が広がらないだけだということです ね。短時間が広がらなくてもいいのならば、そういうものを原理主義で言い続ければい いけれど、やはり短時間が広がることが、ワークライフ・バランスの中では重要で、選 択肢が広がるというように考えると、そこはもうちょっと現実的な何らかの匙加減をし ていかないと、現実化しない。こう考えると、そんなに違った議論をしているわけでは ないのだろうと思います。  社会保険料など、人を雇うときのその他の基本コストというものがありますから、そ れを時間で割って考えると、やはりその分だけ賃率に影響するのは致し方ない。しかし よく考えると、先ほどから何度も出てきているように、それは合理的な格差であり、説 明可能な部分なので、次はそのコストを労使間にどのように分担させるのがいいか、あ るいは社会がある部分を引き受けるのならば、どういう形でそれを処理するか、こうい う設計になるのではないかと思います。 ○勤労者生活部長  いま議論を聞いて、私なりに思いついたことを言わせていただきたいと思います。こ こでこういう議論が起きるのは、働いている方がもらえる賃金を含めた処遇について、 皆様方が合理性を持たせなければならないという問題意識を持っていただくからこそ、 こういう議論が起こっているのではないでしょうか。そんなものはどうでもいいとなれ ば、こういう議論は出来ないのではないかと思ったわけです。  労使でそういったことをしていただくことが大事で、その中で佐藤委員が言われるい ろいろな具体例で考えるということになりますと、労使に考えさせるという動機づけ を、法律でできないかと思ってみたのです。先ほど言われたパート労働法のときは、パ ートと正社員についての均衡を考えて配慮してくださいということを、法律で努力的な 配慮義務を課したことでその議論が起こり、処遇について実務的に考えていただいたわ けです。そういうことで、自分が雇っている全労働者について、合理的にするという命 題を与えてはどうかと。合理的というのは、考えてみれば客観的に「合理的」と言いま すが、関係する労使の均衡が取れていて、つまりバランスが取れていて、納得がいくよ うなものを考えてください、あるいは考えるべきではないですか、ということを法律で 発してはどうかと。そして後の中身の付け方は、いろいろ労使で工夫するということで す。  均衡や合理的な賃金ということを考える前に、収入の確保がないとできないと言われ ましたが、収入の確保のほうは法律レベルではなかなかいかないのです。例えば雇用対 策で言えば、雇用を起こして働けるようにするということで確保して、その後で処遇に ついて考える、あるいは自営業であれば、いろいろな起業や産業起こしをして、そこで 起業化できるようにするということを通じて収入を確保し、そこでのバランスを取るわ けです。そういうように整理すると、今まさにやるべきことは、使用者として対価を払 うときに、均衡を考慮するということです。表面的に単に時間が短いか長いか、有期か そうでないかということだけで一律に処遇を決めるのではなく、その辺のことを書き込 めないかという気がしました。  あと、いろいろな手当てや休業と言われたことについて裏返して考えると、収入を確 保するための個々の手当て、いま全体は入れないけれど、部分部分で手直しをするとい う動きが起こっていますから、それらは別途また休むということ、あるいは仕事からの 拘束を離れるということが、仕事と生活のバランスを取るために、勤労者にとって重要 だというメッセージを出すことで、総合化するような宣言文みたいなものを、法律レベ ルで書けないかという気がしたのです。そういう意味で、いま法律事項をあえて出すこ とが出来ないかと思い始めたのですが、いかがでしょうか。 ○諏訪座長  確認しておきますと、いままで先生方から出てきたのは、額をいくらにするとか、こ ういう制度にするということを法がやるのは、基本的な骨格からして非常に難しい問題 を抱えているだろう。しかし、情報の開示といったことは、どの程度何を含むかはいろ いろ幅があるけれど、もっと政策的にやれるだろうということです。とりわけ傍から見 たら変ではないかという差があったときは、その説明をしなさいと。例えば募集採用に 当たって年齢で差を付けるときは、それをちゃんと説明しなさいというのが、今度新た に法案で出ているのもこういう考え方なのです。こういうものが1つでしたね。  それから決め方や変更の仕方に関してのルールを、もう一度見直す。ワークライフ・ バランスという観点からすると、いまのような就業規則の決め方、いまのような労使協 定の決め方、いまのような組合の協約の決め方だけでいいのか、あるいはそれをもう少 し変えるにはどうしたらいいかという点などが出ているわけです。また、その上に足し て、今それ以外にいくつかご意見が出ていた中で、勤労者生活部長が言われたようなや り方で労使に考えさせる。均等法の「均衡に配慮して」みたいなものを出してみること でも、少しは活性化するのではないかというのも、一つのアイディアだろうと思うので す。清家委員、そういうものは経済学的に見ると、いかがでしょうか。 ○清家委員  先ほど森戸委員が言われた点が、この会議の最初からの一つの大切なポイントだった と思うのです。つまりワークライフ・バランスが100と0とあったときに、100と0を選 択する人や、0と100を選択する人だっているわけで、それはもうかなりいいわけです。 問題は、100と0の間を選択しようとしたときに、それを足して100にならなくて、50と か60ぐらいになってしまうというところで、いま諏訪座長が言われたように、きちんと 情報を開示し、ルールを決めていくということなのです。つまり会社でトップになる人 というのは、100に決まっているわけでしょう。そんな人が生活とのバランスなど考え たら、トップになど行けっこないし、そんな人が行ってもらっては困るわけです。です からそういう人を基準に、中間の人も考えてはいけませんよというのを明示することが 必要かなと思います。  また先ほどから出ている、人生の途中でバランスを取るというのも、とても大切だと 思うのです。私は別に話を混乱させるつもりはないのですが、ワークライフ・バランス は大切だけれど、仕事が高度化していくということは、もし高度な仕事をしたかった ら、人生のどこかでめちゃくちゃに仕事に特化するような時期がなければ無理でしょ う。研究者などを考えてみればそうでしょう。例えば大学院生が、「デートもしなが ら、いい論文が書きたい」と言ったら、「ふざけるな」と言いますよね。ですから、そ ういうのはあってもいいと思うのです。もちろん自分はそんなに偉くなりたくないよ、 いい論文も書きたくないよという人がいてもいい。  ワークライフ・バランスというものが、すべての人のすべての人生に通じてあること が必要だという話ではなく、ある人の人生の一部にそれが可能になるような、しかも先 ほどから出ているように、それを一旦選択すると、元の頑張る人生に戻れないというこ とがないようにしましょうという点なのです。そういう面で言えば、まさに情報の開示 とルールの明示化というのが、法律的に何らかの形で担保できることが、経済学的にも 非常にいいのではないでしょうか。ただ、もう1つ言えば、法律的にできることは、例 えば企業側がワークライフ・バランスを崩すために払っているコストが安すぎるという ことがあるとすれば、休日労働に対する割増率を上げることなどが考えられるのではな いでしょうか。 ○諏訪座長  休日労働とか、出向したまま年休が放っぽりぱなしになっているとか。したがって本 来は逆であるはずなのに、取りずらくすれば、かえって得をしてしまうという。 ○清家委員  そうです。ただ、なぜ私がそういうことをあまり言いたくないかというと、労働組合 が真面目にそういうものを獲得するために闘争していないときに、勝手に国がお節介し てそういうものをやるのは、あまりよくないと思うからです。割増率などをやってほし ければ、もっとストライキでも何でもやって、それからにしてもらいたいというのが、 私の個人的な意見なのです。 ○諏訪座長  個人的な感懐はさておき、1番目と2番目の論点は、それなりに方向が見えてきまし たね。細部を詰めていくのは、最後の報告書のときにやることにして、もう1点目の似 ているけれど違うことが明らかになってきた最賃の問題について、残った時間でご議論 いただければと思います。かなり違うということを見抜いた森戸委員、先ほどのご意見 などをもう少し発展させたような問題提起をお願いできますか。 ○森戸委員  私は問題提起と言うほどではなく、最低賃金制度の趣旨というのは、それこそ経済学 者の先生などにご説明いただきたいところですが、短時間労働者のところは条文だけ見 ると、非常に誤解を招く感じがするので、それを直してほしいということです。あとは 決め方の問題で、最低これだけの時給は必要でしょうというルールであれば、産別と地 方とがあって、さらに中央でもあって、いろいろな決め方が複合していてというのが、 本当に必要かどうかというところで疑問があるということを申し上げたわけです。 ○諏訪座長  はい。先ほどから出ているのは、今まさに森戸委員がおっしゃったようなことです が、今言っていただいた最賃の趣旨というのは、すごく大事だろうと思うのです。おそ らく最賃制度に関しては、いくつかの歴史的な考え方があるわけです。1点目は、これ がいちばん当初の考えだと思いますが、いかなる働き方であろうが働いている以上、専 ら最低生活の維持が可能になるようにすべきだという理念ですよね。働いても生活でき ないような苦寒賃金ではいけないというのが1つだろうと思います。  しかし最賃制度にはもう1つ、公正な賃金という考え方があります。そうなりますと 先ほどの産別賃金や職種別というのが出てきます。ところが、ここにはやはりマーケッ トにおける決定や労使自治というものが出てきます。ヨーロッパなどでは産別協約でそ れを決めさせて、今度はそれを刑事罰ではなく、一種の民事的な効力だろうと思うので すが、協約の拡張的適用という形で処理していくわけです。  この2つの系列があるわけですが、先ほどの清家委員のご意見は、刑事罰を付けてま で保護するのは、最低生活の維持という人間的な生活の維持の方ではないか。だとする と、それはいくつもあるわけではないから、1本でいいのではないかということです ね。産別のほうは、刑事罰などを付けてやるのはおかしいと。確かにそのとおりだろう と思うのですが、民事的な何かを考えながらというのもいけないのでしょうか。それは いいのでしょうか。どうですか。 ○清家委員  講義みたいになってしまうとよくないのですが、最低賃金法の根拠には、いろいろあ ると思います。要するに労働市場理論的に言うと、こういうことだと思うのです。つま り賃金というのは、需要と供給の関係で決まります。その場合、通常は右上がりの供給 曲線と右下がりの需要曲線になる。つまりあまり賃金が安すぎると、供給が増えず、供 給が過小になることによって、賃金がまた上がっていくという力が働くというのが、市 場理論で言っているところですが、労働市場の場合は市場全体で見ると、供給曲線が右 下がりになる危険性があるわけです。有名なダグラス=有沢の法則というのがあって、 例えば世帯主の所得が下がると、追加的な労働供給が出てきて、労働市場全体で見る と、実は賃金の下落がさらなる供給増を招いてしまい、供給曲線が右下がりになってい くわけです。そういう場合は市場理論的にも賃金の均衡点は、下方に拡散してしまうわ けです。  先ほど諏訪座長は、生活が成り立たないような賃金では困るとおっしゃいましたが、 生活が成り立たないような賃金というのは成立し得ないのです。なぜなら、そういう人 はもう死んでしまいますから、市場から消えてしまうのです。したがって問題なのは、 死ぬギリギリぐらいのところで賃金が決まってしまうことです。これを「最低生存費」 と言います。この最低生存費のようなところに賃金が張り付いてしまう、つまり市場理 論的に言えば、「コーナー・ソリューション」と言うのですが、もうそれ以上は物理的 にも生物的にも下がり得ないという所に賃金が張り付いてしまうと、従来経済学が想定 している需要と供給の関係で、フェアに市場の中で均衡が成立する条件が担保できませ んので、少なくとも最低生存費よりも上のところで均衡点が決まるように、その枠を決 めるのが最低賃金制度の趣旨だと思うのです。  そういう意味で最低賃金制度というのは、実は市場均衡を成立させるためにとても大 切な、市場の枠組みとして不可欠なものだというのが、私の基本的な見方です。もちろ ん経済学者の中には、「そんなものは要らない」と言っている人もいるのですが。  ただ、そのときに市場の中で最低生存費よりも上のところで、どういう賃金が決まる のかというのは、これはもう需要と供給の関係、あるいは労使合意のところで、いかよ うにも決めればいいわけです。そこの枠のところが、仮に地域別最賃で、もうすでに担 保されているとすれば、その内側で個々の産業別に均衡点が異なるのを、強制力を持っ た法律で決めるというのは、いま言ったような理屈から言うと、納得がいかないなとい うことなのです。ですから別に2つのうちのどちらかというのではなく、最低生存費以 上のところで賃金が決まるということが、すなわちフェアな均衡賃金が決まるための条 件なのです。  ただし、そのときに産業別の賃金が、少なくとも地域の最低生存費以上のところで決 まっているのであれば、それをまた別途強制する必要はないのではないでしょうか。逆 に言えば、どこかの産業の最賃が決まったときに、それより地域の最賃のほうが低いわ けだから、それを適用されている人は、なぜ産業別の最賃よりも低い最賃でいいのかと いう説明が、ちょっとしにくくなってしまうと思うのです。もちろん諏訪座長が言われ たように、産業別の賃金格差というのは、それぞれの産業の競争力や労使の力関係に応 じて、格差があってもいいわけですので、その産業の中で、例えば組合に組織されてい る人たちとそうでない人との間に、今度は格差が生じるとアンフェアであると考えるの であれば、それについては労働協約を産業の中で拡張適用すると。これは強行法規では なく、それに反した場合は不法行為になるという形で、訴え出ることが労働者の利益に なるような形にルールをつくることは、当然あって然るべきだと思います。 ○勤労者生活部長  いまのご議論のためではないのですが、資料2の25頁以下を見てください。いちばん 初めに「最賃制度の目的」というのがありますし、地域別最賃と産別最賃の実際のカバ ー数については、いちばん下の4にありますように、5,000万人と400万人というオーダ ーになっています。あと、27頁にイメージ図がありますが、協約方式的なものは最賃法 の中で、ある程度の要素は組み込まれているのではないでしょうか。罰則がかかるとい う点はありますけれど。それから最低生活の保障という部分で、31頁の最低賃金の月額 と生活保護の受給月額を見ると、理念から多少どうかなという状況もあるということを 踏まえて、議論していただければと思います。 ○諏訪座長  非常に基礎的な講義をしていただくと同時に、いま基礎的な情報を提供していただき ましたから、これを踏まえて少しご指摘いただければと思います。いかがでしょうか。 パッと見て、我々の中でこういう問題がわかるのは北浦委員ぐらいでしょうか。 ○北浦委員  最低賃金の必要性については、清家委員からいまご講義いただいたわけで、共通に一 致するところではないかと思うのです。ただ最低賃金の制度のあり様について、いろい ろ論議があるのだろうと思います。確かに産業別最低賃金がどうかというのは、問題が ありますが、16条方式、いわゆる審議会方式の中に位置づけてありますように、産業別 最低賃金については、一応労使の申し出と必要性の審議という手続を取っていること で、辛うじて16条1項の最賃とは、つまり国の主導する、政府の主導する最低賃金とは 一線を画しているというところで、今まで読み取ってきたわけです。  問題は、それでも実態としてどうなのかということで、いまの議論があるのだろうと 思います。一応そういう流れの整理の中で、産業別最低賃金は労使の発意と必要性とい う担保があって、まず必要性の審議がクリアされて、その業種をつくることについて合 意を得たという、地域における一種の擬似的な社会的合意があって、それを根拠につく ることになっているので、手続的には一応それで何とかなっているのだろうと思うので す。ただ現実的にはここにあるように、非常に接近している場合とか、ボイスのない人 たちのところは産業別最低賃金がつくれず、ボイスのある人だけに高いものが出来ると いう問題もあるのかもしれませんし、どうしてそこだけつくるべきなのかという問題も あるのかもしれません。つまり最低というのが二重底になることの一種の問題点という のは、前からもいろいろ指摘されていますし、経営者などはそこをいちばん問題視して いるのだろうと思うのです。  現実論から考えますと、おそらく産業別のあるところは、先ほどの諏訪座長の整理に よるところの、いわゆる労働組合の比較的ある部分であって、労使協定によって一つの 賃金決定をしたところを未組織に対して波及させていくような位置づけで、産別最賃が 機能していたということがあると思うのです。逆に言うと、産別最賃なしに地域別最賃 ということになりますと、労働協約の地域における底上げをしていくという機能が、地 域最賃との間では差がありますので、そこのところで弱まっていきます。それはこの制 度論としてではなく、機能論として見れば、賃金の秩序というところで賃金をできる限 り波及させて、向上させていこうというムーブメントが弱まってしまいます。つまり低 いほうの地域最賃だけに、逆に引っ張られてしまうということが、多分あったのだろう と思うのです。  この問題について言えば、「賃金秩序」とも呼んでおりますが、そういった賃金の実 態面なども含めて、必要性論を論議していかなければいけません。制度論としての良し 悪しもあると思いますが、そういう実態面も含めて、私はもう少し議論を尽くしたほう がいいのではないかという感じがいたします。私自身がどちらということではないので す。刑事罰でやることについての何となくの違和感は、確かにあるのだろうと思います が、いま申し上げた機能ということでは、やはり現実の制度として定着している面もあ ると思いますので、その面も含めて論議をしていったほうがいいのではないかと思いま す。仕事と生活の調和に関して言えば、私は産別か地域かというよりは、最低賃金その ものの意義というものが、オール・オア・ナッシング的に、いま否定されようとしてい ますから、むしろそういうところでもう一度確認するということでいいのかなと思って います。 ○諏訪座長  この問題でほかに何かご意見はございますか。 ○森戸委員  要するに産業別最低賃金というのは、最低賃金制度の1つだと思うとおかしいけれ ど、一種の団体交渉や労働条件決定システムのサポートシステムだと思えば、そういう ものがあってもいいのかなという意見もあるわけです。そうすると今、そういうシステ ムとして機能しているかどうかと考えると、別の意味で疑問ということになるのだと思 うのです。ですから刑事罰でという話とも絡みますが、同じ法律の中にあるけれど、お そらく基の機能としては清家委員がおっしゃるように、協約の拡張適用といった別の話 を、労使交渉なりをもうちょっとサポートするような意義が、本来だったのではないか と思います。 ○諏訪座長  だんだん問題の核心が明らかになってきたような気がするのですが、この点に関し て、ほかにご意見はございますか。 ○武石委員  私は最賃制度をほとんど知らないので、素人考えですが、仕事と生活の調和という視 点で、やはり最低賃金制度というのは、セーフティネットとしてまず必要だと思いま す。この最低賃金額が適当かどうかということを考えるとき、先ほど佐藤委員がおっ しゃっていたように、それで生活ができるのかどうか、この決まり方が生活を保障して いるかという視点よりは、これに違反する企業がほとんどないようにということで決ま っているとすれば、この研究会での考え方として、最低賃金のあり方というものを、生 活を保障するということを出す必要があるのではないかという気がします。  それと最賃違反をすると、たしか罰金が2万円という話を聞いたのですが、やはりあ まりにも低いのではないかという気がします。最賃というのはある程度の生活を保障す るものであって、それをみんなが守ってくれなければ意味がないわけで、罰則のあり方 というのも、問題提起をしておく必要があるのではないかということです。やはり最賃 の考え方をきちんとしておく必要があるだろうということです。 ○山川委員  最賃そのものの問題としては、ここのペーパーにもありますように、確かに所定労働 時間が特に短い者の適用除外の位置づけという問題もありますし、先ほど来お話のあ る、特に産別最賃に刑事罰まで課すのがいいかという問題もあるかと思います。それは そうなのですが、これが一体仕事と生活の調和にどう関わってくるのか。確かにセーフ ティネットではあるのですが、現実に例えば「私はもっとゆっくりした働き方がしたい 」と言う人が、すぐに最低賃金のお世話になるような事態がどれだけあるのだろうかと いう点で、その位置づけをどうするかという点が、なかなか頭に入りにくいところがあ りました。  いまのお話を聞いて、若干啓発されたのですが、労使の取組によって仕事と生活がで きるような賃金を、地域に拡充させていきたいとします。それを最賃でやるか、労働組 合法18条でやるかは別ですが、そこは労使の取組みに委ねると言うべきか、期待すべき か、どちらにするかは分かりませんが、そういう主体的な意思決定は労使でしてくださ いという位置づけですと、生活と仕事の調和との具体的な関わりも、何となく出てくる のではないかという感じがします。 ○諏訪座長  そういうわけで、今日も議論百出でしたが、今日はかなり収斂の方向が見えるのでは ないかという感じで、よかったなと思っております。ほぼ時間になりましたので、今日 はこの辺りで留めさせていただき、これを整理させていただいて、報告書に作成すると きにまた詰めて、さらに検討してみたいと思っております。  そこで次回のご案内です。今日もかなりその問題に入り込んできましたが、「労働時 間」と「仕事と生活の調和」という問題について、事務局では次はこれをやってみたい と言っております。この労働時間は広義の労働時間だと思いますから、休日とか有給休 暇などの各種休業なども含んだ、あるいはその他これに関連した問題も含んだ概念だと いうように、広くお考えになっていただいて、次回は「労働時間」をめぐってご議論い ただきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。それでは次回に関するご案内 を、事務局からお願いします。 ○勤労者生活部企画課長  次回は4月28日の水曜日、午前10時から12時まで、この建物の5階の共用第7会議室 で開催したいと考えておりますので、よろしくお願いします。 ○諏訪座長  それでは是非ご準備のほど、どうぞよろしくお願いしたいと思います。皆様、どうも ありがとうございました。 照会先:厚生労働省 労働基準局 勤労者生活部企画課法規係(内線5349)