04/01/27 第7回医療安全対策検討会議ヒューマンエラー部会議事録          第7回医療安全対策検討会議ヒューマンエラー部会                        日時 平成16年1月27日(火)                           10:30〜                        場所 厚生労働省共用第7会議室 ○矢崎部会長  定刻を過ぎておりますが、ヒューマンエラー部会を開かせていただきます。委員の皆 様には、大変お忙しい中ご出席いただきまして、誠にありがとうございます。本日は9 名の委員の出席をもちましてこの会を開きたいと思います。堺委員、川村委員、長谷川 委員がご欠席です。本日の議題で、NTT関東病院の小林先生に参考人としてご出席い ただいておりますので、よろしくお願いします。前回の部会以後、事務局の方も人事異 動に伴ってメンバー構成に変更があるとのことですので、岩崎室長からお願いします。 ○医療安全推進室長  8月の人事異動に伴いました変更をご紹介します。こちらは医薬食品局安全対策課長 の平山です。 ○安全対策課長  平山でございます。 ○医療安全推進室長  私は医政局医療安全推進室長の岩崎でございます。よろしくお願いします。 ○矢崎部会長  推進室長が岩崎さんに交替になりましたので、よろしくお願いします。それでは、今 日はたくさんの資料がありますが、確認をお願いします。 ○事務局  お手元の資料を確認させていただきます。議事次第、座席表、出席者名簿が計3枚。 資料1として「医療安全対策ネットワーク整備事業の第6回集計結果」「重要事例情報 集計結果」「転倒・転落の具体的防止策案」ということで、第6回分の資料が3部にな っています。資料2として「第7回の集計結果」「重要事例の集計結果」の2冊。資料 3は「シングルユースの器材の再滅菌使用に関する調査2」で、関東病院の小林先生か らの資料です。それから、小林先生からの追加資料として「2から7」ということで、 こちらは準備ができ次第お配りさせていただきます。参考資料として「厚生労働大臣医 療事故対策緊急アピールについて」「医療安全対策の総合的推進」「『事故報告範囲検 討委員会』検討結果について」、以上3部でございます。 ○矢崎部会長  資料1と資料2にヒヤリ・ハット事例報告の収集結果第6回と第7回がありますが、 今まで明らかになった点、あるいは今後のヒヤリ・ハット部会の方向性なども踏まえ て、橋本委員からお話いただきたいと思います。 ○橋本委員  ヒヤリ・ハットの分析の部会の報告をさせていただきます。第6回と7回が報告すべ き回にあたります。机上に6回と7回の集計結果が2冊あると思います。重複しますの で、6回をゆっくり見て、7回の同じようなことは飛ばしていく方法をとりたいと思い ます。  第6回の1頁です。確認ですが、3カ月ごとに区切って集計をしているということで す。ヒヤリ・ハットの部会で検討するのは、データとしては「全般コード化情報」とい う形で、病院からコンピュータ経由で送られてくるものの分析。「重要事例」と言われ ているテキスト情報で、かなり丁寧に書き込んだものを分析していく。「医薬品・医療 用具・諸物品等の情報」ということで集められているもの。その3つが分析の対象にな ります。1頁の下に書いてありますが、第6回の対象になる3カ月では、それぞれ、 8,740例、1,107例、235例と集まっています。第7回についても同じようなことですが、 少し数が変わります。  3頁ですが、第1番目の「全般コード化情報の分析」というコンピュータで寄せられ たものです。77施設から8,740件が寄せられています。単純集計、いろいろやるわけで すが、過去に5回ぐらいやっていますが、報告事例の多いものは大体わかってきてい て、それについてさらに詳細な分析が既に始まっています。それが3番に書いてありま す。「処方・与薬」「ドレーン・チューブ類の使用・管理」「療養上の世話」あるいは 影響度の大きい事例の割合が高い「医療機器の使用・管理」「輸血」については少し詳 しく見ていこうということです。  5頁です。ざっと見ていきたいと思いますが、「分析結果」が載っています。上から 3つ目に「発見者」が載っています。当事者本人が発見する件数が多い、これは当然だ と思います。このことはこれまでと変わらないということです。その下のパラグラフで すが、患者本人、家族・付添い、他の患者が発見者となった事例が今回の中でも764件 あります。これは数としてはそれほど多くはないですが、この中の議論としては、患者 の参加などの視点が必要なのではないか、という意見が出ました。  次の「経験年数」ですが、22頁の図1−10−2を見ていただきたいと思います。累積 頻度が書かれています。これを見ると、全体が棒グラフで表わされていますが、経験年 数が0年の方のインシデント、ヒヤリ・ハットが多く報告されていて、だんだん減って いくことになります。それが職種によって少し違うことが、累積の分布のカーブでおわ かりになると思います。一般的にここから得られることは、経験年数の少ない方にはき ちっとした初任時の研修、教育がとても大事になります。しかしながら、経験年数が多 くても、一定の割合でエラーの頻度が出てくるという報告がこの図からわかると思いま すが、これについては業務の標準化が大事になるということが示唆されます。  5頁の下のほうに「発生要因」について書いてあります。これは同じ表現が毎回の報 告で出てきますが、発生要因として「確認不十分」という報告が3分の1ぐらいを占め ます。当事者の個人の要因に帰属させる傾向が多いということです。これは答え方の問 題であって、我々の目指しているのは、そこからシステム要因などを引き出したいため にやっているわけですけれども、確認不十分というのは、個人に原因を帰属させている わけで、そこから何か見えてくるかというと、なかなか見えにくい状況があります。こ れについては、インシデントやヒヤリ・ハットと呼ばれているものの見方の教育が必要 なのかもしれません。  少し端折らせていただきますが、6頁の「処方・与薬」。これは、事例の多い、影響 度の高い、という詳細分析ですが、発生内容としては「無投薬」が多い。7頁の「ドレ ーン・チューブ」では、「発生内容」としては自己抜去の問題が出てきています。管理 の問題、もともと適用がどうなのか、ということも議論として出ました。「医療機器の 使用や管理」では、「発生内容」については人工呼吸器による事例が半数以上を占めま した。内容的には「条件の設定忘れ」「組み立て条件設定の間違い」などがあります。 これは、ここには書いていませんが、この辺のミスは、一般的には経験が多くても起こ り得るミスだと言われています。ですから、業務の標準化が進んでいないことの1つの 事例としてよく言われるものです。  8頁の「療養上の世話」です。相変わらず「転倒・転落」が3分の2を占めていま す。いちばん下ですが、時間帯としては延べでみると時間帯にかかわらず発生している のですが、6時から7時、早朝の転倒件数が意外に多い。これは、入院されている方の 日常の行動の中で、このぐらいの時間がどういう意味があるのか。病院の中での業務の 組立ての時間、一般的には手薄になる時間と言われていますが、そこでどうなのかとい う問題が出てくると思います。以上が「全般コード化情報」です。  次が「重要事例」で、59頁です。今回は母集団は一緒ですので、77施設から有効件数 として1,000件余が送られてきました。これをワーキンググループが精査しまして、こ れに対するコメントを付けてホームページに載せて役に立てていただいています。そう いう目的もある事例集です。  分析ですが、62頁です。重要事例の書き方が回を追うごとに上手になってきておりま して、これは6回目にも書いてありますが、7回目も前回よりもいいという、病院が報 告の仕方を学習していることになります。良い傾向だと言われています。中身なのです が、これも毎回同じことが言われていますが「医療従事者間の連絡や伝達ミス」が相変 わらず多い。コミュニケーションの問題は、いつもこの中で指摘されているということ があります。  チューブの自己抜去は、全般コード化情報にも出てきていますが、62頁のいちばん下 に書いてありますが、引き続き報告されています。この中で書いてあることは、アセス メント基準をきちんとつくって対応していく方向が、これからの方向だろう、という言 われ方をしています。それに対して、アセスメントをつくってもなかなか減らすことは 少ないのではないか、という意見も出ています。  それから、第6回はテーマを決めていただいて、転倒・転落の防止策を考えていただ きました。重要事例からそのことを考えていただきました。それが64頁に載っていま す。「転倒・転落を防止するためには、いろいろな要素を踏まえた多角的な視点での事 前評価と、包括的な対応策の検討・実施が必要である」ということです。別紙に、チャ ートが書かれていて、対応策が示されています。こういう検討をいたしました。以上が 重要事例です。  「医薬品・医療用具・諸物品等情報の分析について」は235頁に書いてあります。件 数も235件ですけれども、235件あったうち、有効が231件です。医薬品関連情報が171 件、医療用具が51件、諸物品等関連情報は9件という報告があります。「医薬品関連情 報の要因別の件数」を見ると「規格違い」でのエラーがいちばん多くなっています。こ れは、表現としてレベルが違いますが「勘違い」の要因が次になっています。この順位 は今までと同じです。236頁ですが、用具については「管理が不十分だった」という要 因があります。ここは、本当はもう少し細かくいかないといけないのだろうと思います が。「諸物品」に関しては「その他」が多いのは分類としての問題があるような気がし ます。以上が第6回です。後で第6回と第7回をまとめた意見を申し上げたいと思いま す。  資料2、第7回をご覧いただきたいと思います。ほぼ同じことですので、ざっと流し ていきたいと思います。第7回は平成15年1月1日から3月31日までの3カ月間のもの です。第6回よりも参加してくださる施設が増えまして、77施設から83施設になりまし た。それに伴って、事例も1万500例で、2,000弱増えたことになります。重要事例情報 も少し増えています。医薬品・医療用具・諸物品等の情報は200例前後で、少し減って います。  5頁ですが、上から3つ目に「患者の性別」があります。これは、現象として、我々 が以前から観察していて男性の報告数が多いのです。ただ、本当にそうなのかよくわか らないのです。なぜわからないのかというと、このデータは医療機関の情報をマスキン グしていますので、その医療機関の特性によって男性患者が多いとか、ヒヤリ・ハット を起こしやすい疾患があるとすればそこに男性患者が多いとか、そういう個別の要因の 蓄積がわからないのです。ただ、非常に大粗なのですが、患者調査の入院患者の性別 を、年齢階級別に見たものと比較すると多いかもしれない、という見方が出ています。 これは慎重に扱わなければいけませんのでもう少しきちんと分析していく必要があるか と思います。6頁ですが、発生要因としての確認不足があります。第6回で申し上げた ことと、ほぼ一緒ですので割愛させていただきます。  「重要事例」について、85頁です。1,100件ぐらいが有効件数でした。これの分析を 88頁以降に書いています。申し上げてしまいましたが、さらに書き方が良くなったとい うことが報告されています。さらには、同じようなことで、コミュニケーション・エラ ーがあります。89頁の「チューブ・カテーテル類の事例」の最後の所ですが、患者の病 態、精神状態も含め、チューブの挿入の必要性についてアセスメントをしましょう、必 要性が低い場合には行わない、という判断があることが1つです。自己抜去が予測され る場合には頻回の観察だけで予防することには限界がある。だから、患者家族の同意の 下、抑制により患者を守ることも選択肢の1つとして検討することが必要である。ま た、セデーションのあり方も検討しなければいけないということです。抑制が悪である というのはそうなのでしょうが、むしろ、短期の入院で患者さんの安全を守るというこ とで、抑制の位置づけをもう少し考えるべきだ、という意見が出ていました。  それから、92頁です。後でまとめたお話をさせていただきますが、業務をしていくと きに分担をはっきりさせるという議論がありますが、それだけではなくて、各人が責任 をもって一環した作業、調剤から薬までという考え方も必要なのではないかという意見 が出されています。これは普通の企業でも同じことで、分業だけがいいわけではない。 むしろ、1つの製品を分割せずにつくっていくことの品質の良さ、かかわる作業者の満 足感というものも、既にこれは古典的な話ですが、報告されています。重要事例は以上 のようなことです。  243頁ですが「医薬品・医療用具・諸物品等情報の分析について」も傾向としてはほ ぼ同じです。医薬品では「規格違い」が3割弱を占めています。後で申し上げますが、 それぞれの問題別のワーキンググループができているということですので、そこに期待 をしたいと思います。  6回、7回を個別に申し上げるとそういうことですが、まとめた議論が少しありま す。いくつかの項目に分けてお話をしたいと思います。「全般コード化情報の分析」で すが、中身によっては本当は要因をもう少し見たいのだが、データ的に見ることができ ないものがある。例えば「処方・与薬」は数が多くて、内服と点滴と注射では少し違う だろうという議論が出ているけれども、その先に踏み込めない状況である。その分け方 をもう一回検討する必要がある、そういう見直しがあってもいいのではないかというこ とです。  それから、これはシステムに関係しますが、医療機関の特性がよくわからない。そう いうルールでやっているからしょうがないという、そこを乗り越える方法がないのかと いうことです。従前にこの部会で定点観測という議論が出たように思いますが、議論が 少し止まっているのではないかという気がしています。  さらに、教育研修、業務の標準化の問題が1つあります。経験が少ない人には教育を きちっとしましょう、ということです。その教育の標準化、そもそも教育は標準化その ものですが、そういう教育がプログラムとしてきちっと準備される必要がある。さらに は経験の多い人のミスは業務の研修だけでは駄目で、業務の標準化とそれに伴う研修が 必要である。いずれにしても、体系的な教育がそろそろ必要になってくるということで す。  また、専門的な人材が要るのではないかという議論、もう少しきちんと広く見れる人 がいるという議論が出ています。専門の人材と統合的な業務体制の区分になると思いま す。例えば、薬に関する報告が多いということで、危険領域であるがんの化学療法に は、専門看護師の制度があってもいいのではないか、そこをもう少し強調してもいいの ではないか、という議論が出ました。しかし、これについては、現時点では賛否両論が あったことを報告しておきます。  重要事例の所でお話しましたが、分業による危険の増大を回避するために、流れや統 合を重視した業務の組立てという意見もありました。それから、いろいろと見ていく と、解決方策に制度要因が絡む、特に診療報酬などが絡んでくるものがあるのではない かという気がします。混注の問題は、このデータ分析だけではなくていろいろ言われて いると思いますが、人材の問題です。いろいろ聞かれていると思いますが、そういう問 題がここにも影を落としている。  それから、部会の中でも少し議論しましたが、薬品の後発品の問題があります。その 問題が重複投与の形で出てきている可能性がある。ここの整理も関係があるような気が します。データ的には出ることがないのですが、おそらく、個別の事例から言うと持参 薬の問題もあります。患者さんが入院するときにほかの病院でもらった薬を持ってく る。その薬の間違いが出ているだろうと考えられますが、これは管理の二重性の問題だ と思います。医療連携や医薬分業、包括払いとも経済的に関係してくる問題がありま す。それと同じように、今日もこれからお話があるリユースの問題がある。そういう制 度要因、診療報酬にかかわるようなところも問題として出てくる可能性があるというこ とです。  部会としての今後の方向についてお話を申し上げたいと思います。医薬品・医療用具 に関することでは、現在、さらに5つのワーキンググループに分かれて検討していただ いています。「規格」「名称類似」「注射薬の外観類似」「輸液」「眼科用剤」という 5つのワーキンググループでそれぞれ検討していただいているということで、その報告 を期待していきたいと思っています。  それから、重要事例に関して同じようなものが繰り返されている、という指摘があり ます。今後の部会でどういう組立てをしていこうかという1つの案としては、ヒヤリ・ ハット事例から解決、予防につながった施設の具体例の紹介、いわゆる成功事例です。 そういうものを紹介していただいて、何らかの形で標準化できないかということを考え ています。具体例に関連した要因を、コード化情報との関連付けの中でもう一度見てい くやり方になると思いますが、それで全国の傾向を見極めていくことを考えています。 いま準備中でございます。 ○矢崎部会長  膨大な資料を手際よくご説明いただきましてありがとうございました。いまの資料に ついてご質問を受けたいと思います。最初に私から質問しますが、先ほど、報告数は6 回と7回とはあまり変わらないというお話がありました。施設数が増えて、コード化情 報は大体20%増えている、重要事例報告を見ると3%の増加、医薬品・医療用具などの 情報では逆に随分減っています。これはどういうふうに評価したらよろしいのですか。 ○橋本委員  2つの時点を比べると、おっしゃるとおりだと思いますが、我々は、前5回を見てい るといろいろと動くので、あまり動きは気にしておりません。 ○矢崎部会長  私は、6回も重なったので、ヒューマンエラーの部分でも減少した効果が大分あった のではないか、と一人悦に入っていたのですが、必ずしもそうは評価できない。 ○橋本委員  それはかなり希望的なことかなと思います。 ○矢崎部会長  それは残念です。 ○橋本委員  重要事例については、必ずしもそこの機関で起こったものでなければならないという 枠をはめていませんので、ある意味では出方が少しフリーであると思います。 ○矢崎部会長  チューブの自己抜去の問題など、そういうものを一例ずつ検討することによってだん だん減っていく傾向があると思います。 ○星委員  いくつかお願い等をしたいと思います。経験年数の問題で、あのカーブを見せられる となるほどと思うのですが、あのカーブには誤解を招く要因があるだろうと。つまり、 経験年数の多い人たちが多い職種とそうではない職種という観点で見ると、あれは単に 度数分布がああいうふうになっているから、という評価は当たらないのではないかと思 うのが1点です。  当然、若い人たちについて言えば、一人あたりの行為の回数は多い可能性がありま す。年をとってくると管理的な業務に移行して、病棟の中でもそういう役割分担がある ことから考えると、単に、経験年数が短いからということだけを要因として考えてしま うと対策を誤る可能性がある。普段しない人が「たまにはやってみるか」というので、 誰も指導的立場の人がいない中で勝手にやられて、自分もできるつもりでやって失敗を する。むしろ、そっちのほうが、大きなことになる可能性があるのではないかという視 点が必要です。最後に橋本委員がおっしゃいましたが、年をとった人も含めて、定期的 にリカレントしていくというか、そういう教育の内容が病院の中で標準化されていくこ とが必要なのだろうと思いますが、いまの件は後で評価をしていただきたいと思いま す。  それから、施設で分析をすることの中身が高まってきたというお話がありました。ま さに、それが非常に重要なことだと思います。そして、そのプロセスをお互いに交換す ることによって、さらに能力を高めていくという意味合いにおいて、いまの活動の価値 があるのだろう。つまり、出している医療機関に限らず、その情報を受け取って参考に している医療機関にとっては重要なのだろうと思います。  ただ、手足をとって、こうしろああしろと。こうすればうまく分析できます、という ことを押し付けてしまうと、自分たちの中で考える、自分たちの医療機関に合わせた分 析をする、というところが洩れてしまう可能性もあるので、今後の方向性について言え ば、非常に気をつけなければいけないのだろうと思います。  もう1つ、先ほど部会長からもお話がありましたが、相変わらずだが、そろそろ減っ ているものもあるのではないかと。これは、絶対数では比べられないのだと思うので、 レポート中の特定の行為の比率が、下がることはあり得るのではないかと思います。し かし、そろそろ、どういう介入をしたら、どういう変化があり得るのかということを、 分析できる体制にしておかないといけない。7回やりました、何万件も調査をしまし た、相変わらずです、ということではどうしようもないのではないか。そういう意味に おいて、先ほど定点化の話が出てきましたが、すべての医療機関にとって重要な情報で あることは確かですし、すべての医療機関がこういう取組みをすることは必要です。し かし、闇雲にデータのネタ元が増えると世の中にとっていい、という発想は危険なの で、どういう方法で分析結果を共有し、いま申し上げたようなセンサーとして機能させ るための制度を見直すか、報告の体制あるいは分析の体制を見直すか、という議論をす べきではないかと思いました。  最後に、勝手ながら申し上げますと、前から気になっていることが1つあります。I CUなどに行きますと、年がら年中ピコピコと音が鳴っている病院が多いです。私の病 院も例に漏れずそうですが、ああいうものについて、何らかの現場からの声が挙がって きているのかどうか、それに対する対応がとられているのかというと、あれは我々にと っては当たり前になっている部分があるのではないか。その当たり前になっている部分 について検出するものが、もしかしたら、このヒヤリ・ハットの報告の中にないのかも しれないと思ったりするのです。最後の点は、私がいま考えていることなのですが、皆 さんでご議論いただければありがたいと思います。 ○矢崎部会長  大変議論を深めるご質問をいただきましたが、いかがでしょうか。 ○三宅委員  いまの星委員の意見に私もかなり賛成です。この報告の中にもありますが、橋本委員 も少し触れられまして、確認が大事だということは個人の問題になって、それがシステ ム的にとらえられていないというお話でしたけれども、それを具体的にどうするかがい ちばん大事なわけです。現実には、例えば、矢崎部会長の所の国際医療センターなどが バーコードでいろいろやられています。あのような取組みがいくつかの病院でされてき ている。ほかにもまた別の取組みがあるかもしれない。そういうものを拾い上げて、そ れこそ、それを定点としてほかの医療施設と比較してどの程度有効なのかを検討はどう か。そういうことをやっていけば、IT化も促進していくし、もっとも基本的な確認の 作業が、誰がやっても間違わないシステムをつくっていくベースだと思うのです。です から、そういう情報の取り方をしていけば、世の中が進んでいくのではないかという気 がするのです。 ○原田委員  星委員がおっしゃった経験年数の問題は非常に重要な問題だと思っています。とりわ け、全般コード化情報という、数を使った定量的な分析の限界を見極めることは大変重 要だと思います。それに関しては、2通りの手立てをとっていく必要があると思うので すが、1つは、数で出てきた問題をどう質的なものとくっ付けていくかという点です。 今日は川村委員がお休みですが、川村委員の所では、経験年数によって出てくるエラー の種類が違う、というご研究をなさっていらっしゃいます。特に看護職の場合ですが、 例えば、0年目、1年目に起こるもの、3〜4年目に起こるもののエラーの種類と、今 回出てきている数的なものとの関係から、さらにその数的なものをどう分析していくの か、ということをきちんと見ていく必要があります。このデータだけで何か物を言って いくのは非常に危険ですので、どのようにくっ付けていくのか、ということをアンテナ を延ばしてやっていく必要があると思います。  先ほどの警告音等についても、いろいろな領域で研究があると思われますので、どう いう事例を見ていけばいいのかということをくっ付けていく。そういう、このデータを どう使うのかということです。このデータ自体が何かを物語っている、これで施策が決 まる、というものではないと思いますので、どう使うのかという位置づけをほかの情報 との関係づけから考えていきたい。  2点目としては、それをやっていく際に、今のとり方でいいのかどうかという点を常 に考えていきたいと思っています。つまり、第1段としてデータをとり始めました、こ れだけのことがわかってきました。でも、ここがわからないですよ、というものが見え てきているわけです。例えば、内服と点滴と分ける必要があるのではないか、ただ患者 さんの性別だけをとっていいのか、という問題などが出てきているわけです。そういう 意味で、私は、定期的にフォームを変えていくことを、きちんとスケジュールに入れて いく必要があるのではないか。そのうち何かたまってきたら変えましょう、と言ってい ると、その変えるきっかけに誰がなるのかわからない。例えば、コンピュータシステム は、3年ごとにリプレイスしましょう、というプランを最初に立てて導入していくわけ です。今回のこういうものも、継続的にとっていくのだということであれば、とり方そ のものについての見直しを例えば1年に1回やっていきましょう、という形で、いかに 精度のいいものをとっていくことにするのかというシステムの見直しの手立てを組み込 んだ形で、プランを考えていただければと思っています。そういうようにしていくと、 このデータがどういう位置づけで、何がわかって、これはわからない問題なのだ、とい うことが見えてくるはずだと思いますので、その2点をぜひお願いします。 ○武藤専門委員  ヒヤリ・ハットの、特にコード化が減っていない、増えているという話ですが、この データをとっている構造というのは、ヒヤリ・ハットは、全く報告者の主観、認知レベ ルに依存しますし、報告基準も決まっていませんし、ボランタリーで報告をするわけで すから、必ずしもヒヤリ・ハットが増えても、実際の事故事例が増えているとは言えな いのではないかと思います。逆に言うと、それを言うためには、定点観測できちんとし た報告基準を決めて、全数調査をして実際の事故事例との相関を見ていかないとなかな か言えないのではないかと思うのです。これは今後の問題ですが、そうした定点観測、 精密観測の必要性もあると思うのです。あと、今度始まるカルテ・レビューの中でも、 ヒヤリ・ハットと実際の事故の関係、ハインリッヒの法則が成り立つのかどうかとか、 そういうことも検証していく必要があると思うのです。 ○松月委員  現場レベルから申し上げますと、先ほど三宅委員がおっしゃったIT化を進めること がいいことは、データとして出ているのですが、その機械を買うよりこっちのコンピュ ータシステムを入れてほしいのだ、と言うときには、病院の予算は限られているので す。定点で構わないのですので、そういうことを具体的に出していただけると、すごく インパクトがあるのです。執行部を説得する資料に使えるのです。皆も、できたらそう いうものが出れば良い、ということはわかっているのですが、実際なかなかそのように いかないのは、予算をとるときにもう少し重要なものをという認識のほうが高いもので すから、2番目や3番目になってしまって、わかっているのだけれどもね、という話に なる。何かそういう資料があると現場としてはうれしいなということが1つあります。  それと、ICUのピコピコですが、ICUのナースは24時間モニターを見ているわけ にはいかないので、その音で違うのです。例えば、血圧も音で違うので「あっ、いまボ ーダーラインだな」「この音だから血圧が90を切ったんだな」と、そういう使い方をし ているのです。いまアラームをいくつに設定してあるので、目はそっちに行っていない けれども「この音だから、患者さん、血圧が少し下がりかかってきたな」という認識で 見ていることがあるので、ニュアンスが違うのです。それは病院によって違うのかもし れませんが、私たちは実際にそういう使い方をしていますので、それがインシデントと いえばインシデントかもしれないですけれども、そういうことを思いました。現場で使 えるきちんとした根拠になるものが、この部会から出てくるとすごく使えると思います ので、このレポートのシステムは、この項目は早急に見直していただきたいというのが 強い希望です。薬の事故が多いのだったら薬だけでもいいですから、特化して、現場に マニュアルがあるのか、あなたはルールどおりにやったのか、という辺りもチェックを すれば、ルール違反なのかシステムの問題なのか、分けられるのではないかと思いまし た。 ○土屋委員  橋本委員から説明があった中で、標準化の話とIT化の問題なのですが、本来、例え ばオーダリングシステムは、手書きの場合にフリーになってしまっているものを標準化 できる折角のツールなわけです。しかしながら、そのオーダリングのシステムが全く標 準化されていないというか、基本的なところでの標準がない。  例えば、第7回の重要事例て、252頁をご覧いただきたいのですが、医薬品情報の集 計分の53番の例です。アストミン錠を処方するためにオーダリングで「あすと」と3文 字検索をしたら、アストミン錠が2番目に出たが、3番目にフェアストンという薬がリ ストされているのです。ということは、このシステムは中間一致をやっているのです。 薬の名前の中間一致をやる、こんなシステムがあること自体が危険なのです。「ミン」 とやったらどうなるかという話ですよね。ですから、先頭から3文字を入力しましょ う、というのは1文字では危ない。「アルサルミン」「アルケラン」の事例で、私たち の調査では2文字では11%しかできない、3文字入力すると67%が特定できる、4文字 入力すると91%特定できる、という事例があるのです。ところが、その3文字入力シス テムを採用している所が、日本病院薬剤師会で調査をしたところ、たった5割しかな い。それで全く違う薬を出してしまって、というエラーがある。  これは、3文字入力の利便性は悪くなるのですが、それをやれば防げるのに、そうい うことを標準化していない。まして、こんな中間一致があることは、オーダリングシス テムが本来なすべきことをなしていないというか。この部会もそうですが、オーダリン グ関係のベンダーさん、そういう関係者の検討をする場が全くないわけですので、そこ はすごく問題だと思うのです。  なおかつ、私も処方箋の書き方の検討班におりまして、散剤などは書き方がばらばら だと。これは、今度の研修医制度の中でその教育をどうしていくかという話ではあると 思うのですが、実は、オーダリングで、緊急に調査をしたところ、例えば「注射薬の量 は何を入れますか」というところに対して、ほとんどの施設が「1回量」なのです。し かし、医育機関を含めて「1日量」という施設があるのです。  そうすると、1日量で教育された医師が、普通の病院に行って、2本で1日2回に分 けるとやると、1回1本使うのに「2」でエンターとやると、それで通る。ところが、 それが、次の病院に行って「2」でエンターとやると、1回2本ということになってし まうのです。ですから、今後、入力の標準化すらされていないことが医療事故を誘発す る可能性があるということからいくと、研修指定病院や医育機関のシステムの最低限の 入力方法の標準化をしておかないと極めて難しい。ところが、これが既に動いているシ ステムなものですから、ある日突然これを「1回量」に変えると、Do処方が全部でき なくなるのです。「Do」で引っ張ってきた途端に「2」という数字を引っ張ってきま すから、そういうことができない。  こういうことを含めて、オーダリングシステム、折角の事故防止をするのに役立つで あろうITが、実はそういう穴がたくさん空いているというところを、こういうことで きちんと検討しないと、今後、機械がやってくれるのではないかとか、そう思いながら やっているところでのエラーが増えてくるような気がするものですから、ぜひそこら辺 のご検討をしていただきたいと思います。 ○星委員  いまの件はそのとおりだと思いますので、ぜひとも考えてもらいたいと思います。将 来的な問題として、先ほどからお話があったように、そろそろ、これをどのように使っ ていくか、というところを議論しないとしょうがないのだろうと思います。先ほども現 場からの悲痛な声が聞こえていますが、お金があれば買いたいと思っているのですが、 買えないわけです。機械が万能ではないというお話も今あったように、何が要因で減っ たのか増えたのかという要因分析をするためには、その病院の持っている基盤という か、どういう物があり、どういう医療をしているのか、どんなことをやっているのか、 ということをバックグラウンドとしてある程度持たないといけないのではないかという ことが1つです。  これは、当初、匿名性を高めることでかなり苦労しましたが、そろそろ理解を得られ る時期が来ているのかもしれないと思います。そういう意味では、対話もなかなかなか った。つまり、こちらから、こういうものを出してくれ、ということもあまり言ってこ なかったし、現場とのやり取りが匿名化をしてしまったことによって断たれてしまった 部分があると思うのです。項目の見直しもそうですが、報告のさせ方そのものもそろそ ろ考え直してもいいのではないか。  一方、後で話がありますが、事故の報告の話がまた出てきていますので、その辺りと の役割分担を決めてもらえると、方向性を見出だすのにはプラスになるのではないかと 思います。これを放っておくと、半年間待って8回目、9回目が出てきて大変だなとい うことになると思うので、この議論がすべてここでできなくてもいいですから、次の回 ぐらいには、こういう方向でということが議論できるような小委員会なり、研究班な り、ワーキンググループなりをつくっていただいて方向性について考えていただける と、実りのあるものになるのではないかと思います。 ○矢崎部会長  6回、7回の報告で議論が随分深まったと思います。いまは、情報を収集することに 対しての理解が深まって、情報量としては随分増えています。収集と、その分析が重要 であるというお話をいただきましたし、それを業務の標準化にどう活かしたらいいかと いうことも議論があったかと思います。最終的には、これがヒューマンエラーの防止に つながるという視点がないと苦労が報われませんので、橋本委員におかれましては、先 ほど、何点かにまとめて今後の方向性を示していただきましたが、今後、この情報が業 務とどのようにかかわって活かされて防止につながるかということも議論を深めていた だきたい。定量的な動きにつながる定点観測についても、今後、具体的にどう進めるか ご検討いただければありがたいと思います。それでは、次は医療物品のリユースに関し ての話です。初めに、小林先生からご説明を承りたいと思います。 ○小林参考人  この調査結果をご報告させていただく機会を与えられましたことを心から感謝いたし ます。「シングルユース(単回使用)器材の再滅菌使用に関する」ということで、最初 にお断わりしたいのですが、今日はマスコミの方もたくさんお出でになるようですし、 これをセンセーショナルにだけ取り上げることは、絶対に慎んでいただくことをお願い したいと思います。こういう調査を通して、いかに質の良い医療を追及していくか、そ のために何をすべきか、という観点からこの問題をお受け取りいただきたい、というこ とを最初にお断わりしたいと思います。そのために、急遽、追加資料としてそれに関係 する滅菌の安全性その他の問題に関するものを追加させていただきました。  資料を簡単に説明させていただきますが、本会議の資料3が私の資料ということで、 K1とさせていただきます。今日お配りしたK2という資料が、要点をパワーポイント につくったもののハードコピー6画面で、後で1字訂正をさせていただきます。いま申 し上げましたように、この問題は滅菌の安全性と非常に関係しますので、K3という資 料に「医療現場における滅菌保証のガイドライン2000」、これは日本で初めてできた滅 菌保証に関するガイドラインで、インターナショナルにも十分通用するものです。  K4は「滅菌不良によるリコール回収に関する調査」ということで、これも、詳細は 省かせていただきますが、1998年1年間に滅菌に何らかの問題があって回収されたもの を調査したものです。回答をいただきました50%以上の所で1回以上のリコールをやっ ている。これは、今日の資料の事例集の医療用具の所を拝見しても、ニアミスとしての インシデントとしては0です。これはインシデントとしては非常に大きな問題であっ て、決してアクシデントにつながったわけではないのですが、インシデントとして取り 上げるべき問題だと私は考えております。ただ、それぞれの施設のシステムがしっかり していまして、書類も整っていまして、事に至らない以前に回収されて、安全が確保さ れていることも事実なので、ここを省いてこの問題を取り上げないでいただきたいと思 います。  それから、K5、K6、K7という資料は、日本医科器械学会が2000年から行ってい る滅菌に関する滅菌技士という資格制度を発足させまして、これは今までは何ら資格が なかったのですが、第2種は昨年の10月現在で全国に1,018名認定しています。昨年か ら第1種の認定制度を始めましたが、これは、病院内での滅菌業務のバリデーションが できるという、世界的に見ても大変レベルの高い厳しい制度です。それぞれがどういう 規定になっているかということと、教育カリキュラムに関する資料をお手元に差し上げ させていただきました。病院の中の、目立たない所なのですが、大変重要な部門に関す る認定制度でございまして、将来は公的なものとして国が認める認定制度として安全性 を図っていただければと切望する次第でございます。  さて、本題のシングルユース器材の再滅菌ですが、K2のパワーポイントのハードコ ピーに要約してあります。左のいちばん上ですが、これは2000年の8月に調査をいたし ましたが、ハイリスクなものを含めまして、かなりのものが再使用されている事実がわ かったわけです。翌2001年の12月14日付で、厚生省医薬局長通知で薬事の改正がなされ たわけですが、記載事項として、メーカー側に対する義務として、承認番号を記載する ほか、単回使用の医療用具については再使用禁止と記載することが通知されました。こ れが、2002年の1月14日に施行されて、その下に「2002年」とありますが「2003年」の まちがいで、2003年の1月13日までの猶予期間を経て14日から完全施行されました。こ れはメーカー側に対する規制であって医療現場に対する規制とは受けとれない、という 専門家の意見なのですが、こういうものを踏まえながら現場ではいろいろな問題がまだ 残っているということです。  前回、2000年に調査をしたときは、無作為に抽出していますが、500施設にお願いし まして、377施設、75.4%の回答率でした。中央の滅菌供給部門と手術部と両方で滅菌 業務を行っている所はダブって回答をいただいています。そのために、このときは405 部から返事をいただきました。それに対して、今回は、無作為で抽出しましたが、227 施設、45.4%の回答率しか得られませんでした。これは、こういう調査に慣れて、あま り回答がいただけなかったところもあるかと思いますが、2001年の薬事の改正をはっき り謳って調査をしましたので、あまりはっきりと返事ができないというところから、回 答数が減った部分も無きにしも非ずだと思います。ですから、回答数からパーセンテー ジを考えなければいけないのですが、全体的には再使用の頻度は減る傾向にあります。  左の2番目、真ん中にある内視鏡下手術用具器材の再使用が非常に多いのは経費の問 題があります。ともかく、このシングルユースは、SUDと言っていますが、安全性を 考えなければなりません。3つの観点から考えなくてはなりませんが、まず安全性の面 では滅菌保証の問題があります。2番目に経済的観点から診療報酬の問題があります。 3番目に、シングルユースのものがどんどん増えて、資源の有効活用という意味では非 常に大きな問題になっていると思います。  参考までに、一部、問題になるようなものをお持ちしました。これは内視鏡手術のも のです。パチンとやると弾が出てきますので、紙を挟んでくださるといいと思います。 これが内視鏡の電気メスであったり吸引になったりするものです。どちらも数千円いた します。これが電気メスで、常用されるものですが、再使用されている代表的なもので す。ここにあるのは、再使用するためではないのですが、きちんと洗浄して滅菌してあ りますので汚くありません。これは、トラッカーという、胸腔に穴をあけて、ここから チューブを入れるものですが、きちんとやってあれば再滅菌使用しても安全です。従来 は金属性のもので何回も使っていました。こういうものがかなりの頻度で再使用されて います。  これは、手術点数等との関係で考えていかなければならないのですが、1993年、東大 時代の5月から6月にかけての1カ月間の手術2,555例に関して、使用した薬剤、器材、 麻酔器材すべてをコストとして当時の保険点数で整理してみたものです。人件費は入っ ていません。ですから、人件費を入れると完全に赤になると思います。その前の年に、 いかに手術に物がかかっているか、ということを国立大学全国調査をした資料です。  問題なのは、前回の調査でも今回の調査でも、心臓の人工弁が5施設5部門で再使用 されている。これは、おそらく、開いただけで、サイズが合わないとか、使ったもので はないと思います。回答を見ると「開いただけで使わなかった」という所が必ずしも数 字が合わないのですが、そういうものは現場で血液が付くような状態で再使用している のではないと思います。ただ、ハイリスクであることは間違いないのです。100万円ぐ らいするものを、開けて、サイズが合わなかったということで捨てきれずに、何らかの 形で再使用している。そういうことを考えると、これもいろいろな対策が必要になって くると思います。  私は、3段階ぐらいに考えていくべきではないかと思います。A、絶対に再使用すべ きではないシングルユースのもの。B,十分な安全性が配慮されれば再使用してもいい もの。C,トロッカーみたいに、機能的に大丈夫なうちは再使用してもいいもの。その ぐらいに考えて整理されるべきだと思いますし、この薬事のように、メーカー側が一方 的に再使用禁止ということで、それを我々に押し付けられることは、いろいろと問題が あると思います。今後、メーカーが再使用禁止と記載する段階で、どうあるべきかとい うことをもう少し突っ込んで、しっかりと現場の状況も加味して考えていかないと、リ スクが高まることになるのではないかと思います。  最近は、委託の滅菌業界が非常に進んできていますが、ハイリスクなものはそういう 所に委託をされて、委託された会社が非常に困って、どう受け取ったらいいでしょう、 という相談をときどき受けますが、これもまた大変困った問題です。アメリカではそう いう業者を「サードパーティ」という言葉で呼んでいますが、ここにもいろいろな問題 があるかと存じます。  滅菌技士認定制度によりまして、日本の滅菌技術は非常に進んできています。滅菌技 士が勉強をする機会が非常に増えてきて、病院でも認められていますが、そういう方た ちが中心に滅菌の安全性を非常に考えていますので、ある程度のものは再使用可能にし てもいいと思います。先ほど申し上げたように、3段階ぐらいに分けて、資源の有効活 用、経済性を考えて使っていく。それと同時に、メーカーサイドにも、こういうことを 考えた製品開発を十分に考えていただかなければいけないと思います。また、安全性の 観点からは、構造的に非常に複雑なものは、再使用可能なものでも洗浄が難しいので、 開発時そういう構造的なものもぜひ考えていただきたい。  最後に申し上げたいことは、シングルユースの優秀な器材がどんどん出てきます。そ のことによって、医療の安全性はどんどん進んできています。患者サイドから見れば、 そういう新しいものを使って治療や手術をしてもらいたい気持になるのは当然だと思い ます。しかし、質の良い医療を追及していくと病院は必ず赤字になります。ここのとこ ろを解決しない限り、表面的なことだけを問題にしても、リスク管理に結び付かないの ではないかということを結論として申し上げて私の報告に代えさせていただきます。 ○矢崎部会長  ただいまのご説明で、何かご意見を。 ○三宅委員  私は現場でそういうことを管理している立場の人間ですが、小林先生が最後におっし ゃったことがいちばん大事だと思うのです。今回のシングルユースが問題になったとき に、私どもの病院でもかなり検討したのですが、現場では、トロッカーなどの器材につ いて、きちんと滅菌ができるのになぜ再使用できないのだと。だから、再使用できるも のと再使用してはいけないものをきちんと分けていただかないと、私どもも対応がしに くいと。それから、資源の有効利用です。医療廃棄物はどんどん増えていきますし、非 常に高額ですので有効に資源を使う。ぜひ、最後に小林先生がおっしゃったことを考え て、3段階ぐらいで分けて私どもに示していただけたらと思っています。 ○松月委員  小林先生のおっしゃるとおりだと思います。3種類に分けるのも大賛成です。例え ば、電気メスは確かにディスポなのですが、使って、先端を取り換えれば十分使えるも のですし、私どもの病院でも電気メスは再生していますし、それが現実です。ただ、こ れを見直すときに、製造者責任というか、これは何回までオーケーですよという、安全 性のつくり方によっては、業者から「そこまでは責任はもてません」という話が絶対に 出てくると思います。そうすると、またコストが高くなると思うのです。ですから、す ごく現実的な話ですが、これはそこまでは問わない、現場でよく判断して使ってもい い、というフレキシブルなものにしないと実用的ではないような気がするのです。それ が私の意見です。 ○三宅委員  医療器械だけではなくて、今はこういうディスポのものが非常に増えてきているので す。私どもが最近考えていることは、安全に使えてきちんとした仕事ができればいいの です。ですから、はっきり言えば、レンタルと言ってもいいと思うのですが、使ってお 返しする、メーカーがリユースできるものはリユースしてまた提供してくれる、私ども はその使用料だけを払えばいい。そうしないと、我々は買って、使って、廃棄する。そ のお金は診療報酬に入っていないと思うのです。ですから、私どもは安全にこれが使え れば十分なのです。そこの資源の回収は業者がやるべきではないかと。いろいろとご意 見があると思いますが、私はそのように思っています。 ○星委員  診療報酬の話になってしまうと、いろいろあるのでしょうね、という感じです。物代 が高くて技術料が低い。物代として提供されるものは、ほとんどの場合シングルユース で高価なものです。これをリユースして、物代を二重請求するような話は別とすれば、 物代と技術料のバランスが極めて悪いことが背景にあるのは否定しようがない。これ は、診療報酬の問題というよりは、日本の医療制度そのものの問題だと思うのです。こ れは、ここでどんなに吠えても届きそうもないので、別のところで吠えたらいいような 気がするのですが、その上で、小林先生がおっしゃったように、現時点で「何かあった ら本当に大丈夫なの」というものと「これならば医療機関の責任で滅菌をし、それを責 任もってやればいいのだ」というものと、私は2段階でもいいのかなと思いますが、そ こは誰かに決めてもらうのではなくて、我々が決めていくのではないかということが1 つ。  それから、この間までは、車でも何でも全部つぶして粉にして捨てていましたが、最 近は、回収率何%です、ということを謳っていますし、再生部品が随分使われている。 そういう現状から考えると、医療機関で使っているさまざまな物に関しても、そろそ ろ、そういう世代になり得るのではないか。これは、医療の制度との兼合いで、物代で 多少安く仕入れて差益が出ないと医療機関はやれない、という形がおかしいのであっ て、再利用を前提とするならば、三宅委員がおっしゃったような、我々は使用料だけ払 えばいいのだと。その差額が経営原資の一部に充てられるようなことはないのだと。そ ういうような制度にしないと解決しないと思うので、今できることと将来にわたってし なければいけないことを分けて議論していくべきだと思います。  それまでに緊急を要するものとすると、人工弁やペースメーカーが書いてあって、私 も、まさか、人から取り出したものを入れているとは思いませんが、多分、開けて合わ なかったものだと思いますので、ペースメーカーを人から外してまた人に入れたという ことは想像できないのですが、もし、そういうものが存在するとすれば警告をしてもい いのだろうなと思います。それほど常識がないとは思えません。ただ、そういう議論を していくことと、シングルユースのものをリユースする場合に、誰かに滅菌を任せてや るのではなくて、責任をもって病院の中でやることについては、今でもできることだと 思います。 ○小林参考人  ペースメーカーや人工弁は、これは数の上では合わないところがあるのですが、常識 的に考えて、使ったもの、または手術野に出したものを再滅菌しているとは考えにくい ので、星委員がおっしゃったように、その場に出してサイズが合わなかったものでしょ うけれども、それにしても、こういうハイリスクなものに関して、整形外科の人工骨頭 や人工関節もありますが、メーカーとのやり取りでやたらに捨ててしまうわけにいかな いでしょうし、いろいろと検討しなければならないと思います。心臓に使うパッチです が、これは大きい形で供給されているわけで、実際に使うのは1cm角とか2cm角の直径 のものです。それ以外のものを全部捨てることは、資源の上からいっても経費の上から いっても大変なことで、手術野に出さないうちに、切って、それを再滅菌することは従 来から行われていたわけです。その辺を明確にして安全性を考え、かつ、資源の面、経 済性を考えていくことが必要で、どこがどういう形でこれからやるべきかということは わからないのですが、ぜひ厚労省でもお考えいただければと思います。 ○星委員  メーカーに聞いてみるのも1つの手だと思うのです。例えば、開けてしまった、手術 野に出そうと思ったけれども合わないからやめた、自分の所で滅菌するとすれば素材か 何かで滅菌がわからない、それをメーカーに戻せばメーカーが責任をもって戻してくれ る。先ほどの使用料に近い考え方かもしれませんが、そういうことをメーカーサイドで も約束をする。あるいは、パッチに関して言えば、サイズの小さいものを出してくれと いうのも1つのこちらからの提案だと思うのです。ただ、我々は、どちらかというと、 メーカーサイドに文句を言うよりは、案外、器用な連中が多いので自分たちでやってし まうところがあると思うのですが、そういうやり取りができるかどうか、制度上はどう なっているのか。医薬局の方がいるのでわかるかもしれませんが、現実にメーカーがそ れをやるとすればどんなことが問題なのかというのは。 ○小林参考人  アメリカの製品が多いと思うのです。アメリカは、シングルユースのリユースに関し て、非常に厳しい基準をFDAが出していますので、ほぼ不可能に等しいことだと思い ます。日本の中で、第三者の業者がそういうことをやるとすれば。あまりそれを緩める と次から次へとそういうことが出てきても困りますし、そうかといって、資源を大事に することは考えなければいけません。私もそこは随分悩んだのですが、どこまでどうい う形で安全性を考えつつ、星委員がおっしゃったような方向でやっていくか、有効活用 をしていくか、ということも1つ大きな課題ではないかと思います。 ○三宅委員  私も、先日初めて整形外科の手術の材料を見たのです。人工骨頭を入れる、背骨の手 術をするというのは、こういう箱にネジなどが全部入っているわけです。それを全部滅 菌して、その中からネジ、クギを選んで使う。その1本が何万円もするというのです。 おそらく、何本か使って、これは駄目だということはあるのだと思うのです。そういう ことを考えると、使ったものを払って、リユースできるものはリユースしていくシステ ムがないと、非常に無駄なことが起きているのではないかという気がします。 ○小林参考人  整形外科の手術に関しては、もう1つ問題があります。シングルユースのリユースで はないのですが、整形外科だけではないのですが、人工骨頭などがどんどん新しいもの になっています。それに伴う手術器械もどんどん変わっていくわけです。病院ではそれ をいちいち買えないのです。これは、世界的な問題で、業者は人工骨頭は売るけれど も、それに関する器械は貸出しをする。内視鏡手術などにもあることですが、ヨーロッ パでは「ローン・インスツルメント」と言っていますが、そのものがたらい回しされる わけです。そのときの安全性というかリスクというか、これがあちこちでいろいろと問 題になっていまして、業者が使ったまま責任をもって引き受けて、次の所まで滅菌して 供給するシステムを徹底しないといけない。病院で洗ったり、指導に入った所が洗った り、その辺が目茶苦茶になっています。このローン・インスツルメントに対する対策 も、考えていかなければいけない大きな問題で、世界的に問題になっています。 ○星委員  多分、ヒヤリ・ハットだ事故防止だ、ということを超えた議論になると思うのです。 我々がやっている商取引というか、商慣行が、一般のものと大きく異なっている可能性 がある。それは、長年、私たちにも責任があると思うのですが、1回買ったものは戻せ ないとか戻せるとかという薬の問題もありますし、内外価格差なども、そういう商慣行 が支えている部分があるのかもしれません。場合によっては、試薬は売るけれども器械 は借りろ、器械はタダで貸してやるから試薬をどんどん使え、ということで他にもフィ ルムと現像機などのいろいろな話がある。公的なお金が流れていて、それが実際に動く ものでありながら、案外、いい加減にやられてきた部分があるのかもしれないです。  ですから、医政局には経済課がありますので、そういう所で、ぜひとも研究をしてい ただきたい。もしかしたら、先ほどの制度全体の見直しにも資する可能性があるのでは ないかと、今日の議論を聞いていて思います。ここに総務課長も来ていますから、部会 長からも強く言っていただくと。皆、モヤモヤしたものが心の中にあって、いると言え ないなということも含めて、多分あると思うのです。安全ももちろんですが、医療の経 済性、あるいは医療の支払いの仕方そのものに影響を与える可能性がある重要な問題と して、きちんととらえて改善の方策を見つけていくべきだと思いますので、よろしくお 願いします。 ○総務課長  この問題につきましては、先ほども、すぐできることと時間をかけて検討をしなけれ ばいけないことがあるだろう、というお話がありましたが、確かにそのとおりだと思っ ています。そもそも、製造メーカーも使う側もひっくるめたシステム全体をつくり替え ていくことであれば、かなり時間がかかるだろうと思いますし、医療機関の中での使い 方について、ここはこのようにしたほうがいいのではないか、ということを変えていく のであれば、比較的時間がかからずに周知徹底みたいなことができるのだろうと思って います。いずれにいたしましても、今日、いくつかのご指摘をいただきましたから、う ちの局内、関係局を併せまして議論をさせていただいて、どう対応できるか十分に考え させていただこうと思っています。 ○松月委員  私は手術室も担当していますが、今おっしゃっていただいたことは本当にそのとおり です。ただ、この状態は長い間続いていますので、そういうものだということが染みつ くぐらい、矛盾を感じながらやっていたことですので、ぜひ、この機会に、前向きにな れるようによろしくお願いしたいと思います。 ○矢崎部会長  シングルユース器材の再利用は、医療の現場で極めて大きな課題ですが、小林先生に は大変要点を絞って話していただいて、いくつか器材を分けるというお話がありまし た。もう1つは、それをどうするかということで、短期的に決められることと、きっち りした制度設計を行っていくということで、課長からもそれは時間がかかるという話を いただきました。  それは時間がかかっても是非やっていきたい課題ですが、星委員が言われた、これは 我々が決めることができるのではないか、という部分も随分あります。しかし、施設内 で決めるのではなくて、透明性を高めたガイドラインみたいなものを、学術的な立場か ら、メーカーさんと共同で、小林先生辺りで基準みたいなものをつくっていただいて、 もう少し議論を深めた上で、行政的にもそれに対応できるようなサポートのシステムを つくっていただくということでお願いしたいと思います。  この問題は1回の議論ではいけませんし、本当に安全性をきっちり確保するにはどう したらいいかということも、学術的に、かつ透明性を高めて決めさせていただきたいと 思いますので、今後とも、小林先生にはよろしくお願いいたします。 ○小林参考人  どうもありがとうございました。 ○矢崎部会長  今日の最後ですが、事務局から参考資料1〜3がありますので、それに基づいてご説 明いただければと思います。 ○事務局  参考資料1「厚生労働大臣医療事故対策緊急アピールについて」をご覧いただきたい と思います。こちらは、昨年の12月24日に、昨今の医療事故の頻発を受けまして、坂口 厚生労働大臣から、緊急アピールという形で医療機関で取り組んでいただきたいこと、 あるいは厚生労働省として、これから取り組んでいこうと思っているような内容を「人 」「もの」「施設」の3つの分野に分けてお示ししたものです。時間の関係もあります ので、緊急アピールの本体自体は割愛させていただきますが、今、述べたような内容に ついて大臣からアピールという形で出していただいています。  2頁に、大臣からのアピールそのものとしては、事故が多い状態を受けて、医療現場 での安全管理対策のさらなる推進にご尽力をいただきたい、そういったメッセージで す。厚生労働省の対策としては、2頁の中段以降からになりますが、これをまとめたも のは参考資料の5頁、6頁に具体例も含めて記載しております。「人」「施設」「もの (医薬品・医療機器・情報等)」を軸とした施策、この3つのカテゴリーに分けていま す。  新聞等の報道にもありましたが、1の「『人』を軸とした施策」では、「医師等の資 質向上」ということで、例えば来年度から臨床研修が必修化になりますが、そういう機 会を活用しての安全意識の徹底や生涯教育に資する講習会の受講を奨励する。あるいは 「刑事事件とならなかった医療過誤事件にかかる医師法等上の処分及び刑事上、民事上 の理由を問わず処分された医師、歯科医師の再教育」ということで例として2つ掲げて います。このような内容について、これから検討をしたり、施策として進めていくとい う話です。  2の「『施設』を軸とした施策」ですが、1番は「事故報告の収集・分析・提供シス テムの構築等」ということで、こちらも、委員の方々からも何度か話にありましたが、 来年度平成16年度の4月から始まる事故報告の収集システムについてです。そのほか 「小児救急システム」「周産期医療施設のオープン病院化」こういった問題が掲げられ ています。  最後の「もの」になります。こちらでは、先ほどからITの導入・活用という話も多 々出ていますが、そういった内容。少し前後しますが「薬剤等の使用に際する安全管理 の徹底」ということで、ワーキンググループというお話も先ほどありましたが、その中 でも2次元コード・ICタグの利用という話も出ておりました。こういった内容につい ても、今後、研究あるいは実証を総務省などが始めることになっていますが、そういっ た形で取り組んでいく。あるいは、「輸血の管理強化」ということで、先日、厚生労働 大臣から輸血に対しての施策の発表もありましたが、そういう内容で進めていきたいと いうものです。参考資料1は以上です。  参考資料2,予算関係を説明させていただきます。「医療安全対策の総合的推進」と いうことで、平成15年度に6億5,000万円であったものが平成16年度として9億8,000万 円を予定しております。これの主なものは、1番にありますが、1つ目が「『第三者機 関』の運営費」ということで1億1,500万円、これは新規です。2番目としては、平成 15年度より行っていますが、「『医療安全支援センター』への総合支援」ということで 約1億円になっています。  「その他」として、約7億6,000万円ほど計上していますが、その中で主に増額した ものをご説明させていただきます。1点目は、2枚目のいちばん上にある、厚生労働科 学研究費として1億6,000万円を増額しています。上から4番目に、大臣官房地方課に 載っているワークショップの経費として1,400万円。これは、従前、本省で予算をとっ ていたものを大臣官房地方課に予算を移し替えをした経費です。そのほか、医薬品機構 として、収集体制の整備ということで1,600万円の増。国立病院部の医療事故防止対策 経費として、専任のリスクマネージャーの配置をするための経費として2,000万円の増 となっています。  参考資料3「事故報告範囲検討委員会の検討結果について」をご報告させていただき ます。こちらは、この4月から始まる事故報告の範囲、具体的に事故とはどういう範囲 なのかとカテゴリーをしっかり決めて、その範囲に該当するものについて報告していた だくということです。事故報告範囲検討委員会ということで、東京都立大学の前田先生 に座長になっていただきまして、この範囲の検討をしていただいています。  次の頁ですが、「事例の範囲について」大きく3つのカテゴリーに分けております。 1つ目、「明らかに誤った医療行為や管理上の問題により、患者が死亡若しくは患者に 障害が残った事例、あるいは濃厚な処置や治療を要した事例」ということです。例につ きましては、下に掲げているようなものがあります。  2番は、1の明らかに誤ったに対しまして、「明らかに誤った行為は認められない が、医療行為や管理上の問題によって、死亡等障害が残った事例」になります。3番目 として、「その他、警鐘的意義が大きいと医療機関が考える事例」ということで、例に ありますように、「間違った保護者への新生児の引渡し」あるいは「説明不足により、 患者が危険な行為をおかした事例」等です。これは、結果にかかわらず、例えば患者さ んが死亡したとかではなくて、そういう事が起こったプロセスをとっていただくという ことです。この3つのカテゴリーについて報告をいただくことになっています。  2頁ですが、「報告範囲の考え方」を記載しております。先ほど、事故報告とヒヤリ ・ハットの報告での整理が必要だというご指摘もありましたが、一応、概念的な考え方 としてはこういう整理にしております。1、2の所で、上段、患者重症度ということで A〜Cに分かれています。このA〜Cの部分が事故報告の範疇になります。いちばん右 に、「軽微な処置・治療を要した事例または影響の認められなかった事例」が今回のヒ ヤリ・ハット事例として報告される範囲となります。従来、ヒヤリ・ハット事例は処置 や治療を要しなかった、影響の認められなかったものが定義になっていますが、事故で 濃厚な処置・治療を要した事例からということになると隙間ができてしまいますので、 今後は軽微な処置・治療を要した事例は、ヒヤリ・ハット事例として報告をしていただ く形になるという議論でございます。  3頁ですが、これは「報告範囲の具体例」について記載をしたものです。また後ほど ご覧いただければと思います。以上でございます。 ○矢崎部会長  大臣からの緊急アピール、予算、検討委員会の結果ですが、何かコメントがございま すか。 ○星委員  言っても仕方がないことなので、言わないでおこうかと思いましたが、やはり言わせ てもらいますと、国立病院には専任のリスクマネージャー、特に高度医療センターとし て確かに必要なことだろうと思うし、予算措置をすることも大切なことだと思います が、一般の医療機関が実質マイナスの改定の中で、厳しい思いをしている中にあって、 こういう所だけが、矢崎部会長の所が入っていますからあまり大きな声では言えません が、お金が付いて人が付く。これは、一方では、人が重要であることを厚生労働省が認 識をしているのだ、しかし中医協の場面でのやり取りでは0査定だった、ということだ けは申し上げておいて、その上で、安全対策を考えることは非常につらい中での議論な のだ、努力なのだ、ということだけは知っておいていただきたいと思います。 ○矢崎部会長  確かに。我々が要求した筋のものではないかと存じますが、医政局としては。 ○総務課長  今のことはすべて重く受けとめさせていただきます。 ○矢崎部会長  それだけに、国立高度専門医療センター等に事故が起こったら言い訳が立たないとい うことに。逆に、ものすごいプレッシャーだと思うのです。 ○楠本委員  私も言わないでおこうかと思いましたが、緊急アピールを拝見しても、医療従事者の 働く環境に関して産業医等の活用の辺りしか触れられていない。欧米諸国に比して著し く貧困な医療提供、医療密度の薄さ、そういうものに関して、厚生労働省として何をど う考えているのかという辺りをきちんと認識しながらも、この辺も検討課題だというこ とを記載してほしかったと思っております。  もう1つ、ヒューマンエラー部会ですので申し上げたいのですが、ヒューマンエラー あるいはヒューマンファクターに関して、事例の分析等からもありましたが、個人の責 に帰しているような分析が多いことがあります。医療従事者間でもそういう認識にある 中で、このヒューマンエラー、ヒューマンファクターを、国民に向けてどう啓発普及す るかというか、あの点では患者さんの参画がないとやっていけないという、教育ないし 啓発普及をどうしていくかという辺りもこの課題にしなければいけないのではないかと 思っています。ともすれば、マスコミも含めて、ヒューマンエラー、ヒューマンファク ターに関して言及すると「それは医療従事者の言い逃れではないか」というとらえ方を されたり、被害にあった患者さんや家族の身になれば、こんなことは大きな声では言え ないということかもしれませんが、事例分析の中では「そういう意見も出たが」という ところで留まっていますので、それはシステムに起因する問題が非常に多いのだという 辺りも、もう少しこの部会で取り上げて、どう対処していくべきかというところを、踏 み込んでいただけたらと思っております。よろしくお願いいたします。 ○矢崎部会長  それは以前からの課題で、先ほどの事例報告集のまとめのときにも、もう少しわかり やすくご理解いただけるアピールというか、そういうものをまとめさせていただければ と思います。 ○星委員  今後のこの会のあり方について、一言、お願いを申し上げたいのです。1つは、ヒヤ リ・ハット報告そのもののあり様を変えていくというご発言があって、それについては 受けとめていただいたと思うのですが、実は、後半で重要な議論が行われていて、尻切 れトンボになりそうな気がするのです。今ご発言があった内容について議論するのであ れば、この報告については脇に退けておいて、そもそもどのようにしていくか、という ことを議論してほしいと思います。  私は、ここ数年で医療事故に関する考え方が随分変わったと思います。この取組みを 始めた時点と今とは相当変わっているのだと思うのです。医療は万全ではないというも のを最初に説明して、患者さんにも安全について協力してもらうということは、当初は あまり考えなかったと思うのです。自分たちに根性出せ、気合いを入れろ、確認をし ろ、ということを一生懸命言ってきたのですが、いよいよ限度があって、患者さんたち にも参加してもらわなければいけないことがわかってきたし、それを口に出せるように なってきた。しかし、そのときに具体的にどうすればそういう関係がつくれるのか、と いうことについてはまだまだ踏み込みが不足している。  例えば、新聞の報道のされ方や病院の事故後の対応の仕方などを見ても、随分変わっ てきていると思うのです。そういうことを含めてやるかどうかは別ですが、ここから先 の議論について言えば、当初の我々が考えていたものとは違う議論が想定されるので、 一度、フリーにいろいろな問題点を持ち寄って、論点を抽出する作業をやっていただけ ると前に進むのではないかと思いますので、よろしくお願いします。 ○矢崎部会長  確かに、今のお話のように、ヒューマンエラーは個人だけではなくて、周りの状況、 環境、患者さんあるいは家族との協力で避けられる部分が随分ありますし、医療関係の 業界の方々もだいぶ協力していただいておりますが、さらに、土屋委員から言われまし たように、薬の誤投与の問題ももう少し抜本的に変えるという議論もあるかと思いま す。数回前の部会で星委員から「努力努力、安全一本化だけではいかない部分があっ て、それをもう少し整理して議論したほうがいいのではないか」というご意見をいただ きましたが、今のことに関して何かご意見ありますか。 ○三宅委員  私、先ほどからそれに追加したいと思っていたのですが、土屋委員がおっしゃったこ とは以前から言われていることにつながっているのです。例えば、処方箋の書き方や薬 の何倍散など、間違いやすい要素がたくさん指摘されているのですが、それが一向に改 善されない。そういうことは非常にベーシックなことで、それをきちんと変える、全国 統一してこういう書き方にする、ということを決めるだけで、随分変わってくることが いくつかあると思うのです。そういうことがどうしてきちんとできないのか、私は不思 議でしょうがないのです。それこそ、行政サイドとして「安全のためにはこうしましょ う」と提示していただいたらいいと思うのです。  それから、土屋委員がおっしゃったようなオーダリングにおいて、安全のためにはこ ういう方法が考えられるというときには、ただ「ITを導入するときには補助金を付け ます」、「電子カルテを導入しなさい」と言うのではなくて「それにはこういうことを 全部クリアしてください」と付けて押し進めることが必要だと思うのです。そういう方 向性を明示して行政を進めていただきたい、ということを私は感じるのです。 ○矢崎部会長  処方の書き方の統一は行政的な問題ではなくて、我々医療従事者がガイドラインを決 めて、それを徹底する仕組みを考える必要がある。 ○三宅委員  薬剤師会ではしょっちゅう問題になっているのです。私どもも問題にしているのです が、どこで誰が決めるのかわからないのです。 ○矢崎部会長  決めるシステムがあるのでしょうか。 ○土屋委員  医師法施行規則の解釈通知というものが、保険だけが出しているのです。保険制度が すべてを決めていて、本則の通知がないのです。そうすると、そこに何を書くのかとい うのは、保険が「1日量」を書くからそこに書くのだという規定はあるのです。レセプ ト上は、そうでなくてはいけないという決まりがある。しかし、本来はそれと全然違う やり方が行われているのです。オーダリングもそうなのですが、結局、レセプトを正し く出すためにつくられてきたシステムなものですから、保険制度に由来するところが多 いのです。  それは、昔は手でやっていたから、レセプトに書くときに全く同じ書き方をしたほう が楽だったということがあると思うのですが、例えば、日本だけが1日量を書いて、回 数で割って1回量を計算するのです。世界の流れは、1回量を書いて基本的に掛け算で いくのです。割り算をやっているのは日本だけに近いのです。でも、通知として言え ば、当時は1日薬価をとるから1日を書かなければいけないのです。今は、1回量を書 いて回数が書いてあれば1日薬価がとれるわけです。  それから、坐薬などは全量を書いている施設がたくさんありますが、「1回1個・1 日3回・14日分」と書いたら、掛け算をすれば42と出ます。手でやっていたから大変 だった時代の名残りがいまだにあって「外用薬は全量で書くのです」、「それが書き方 だ」と実しやかに誤解されている例がたくさんあるのです。  ですから、保険制度に合わせるための処方箋の書き方と、本来医師が処方して、薬剤 師が間違いをおかさないように、患者さんにも間違をおかさないように書かせるやり方 は、本則の施行規則の解釈が、きちんと出ないといけないのではないかという気はする のです。そこら辺は、保険との整合性をどうとるのかということがあると思いますが、 規定があっても解釈通知がないというか、そういうことが原因なのです。先ほど、星委 員が言われた、制度的なというか、レセプトの話というか。 ○矢崎部会長  制度的には決められていないのです。だから、我々が「こうしましょう」と言えば決 まるわけです。 ○土屋委員  そのようにすればいいのです。ただ、今までそう出てきているので、そこを変えると なると、オーダリングシステムはなくても、レセコンを入れている開業医の方がたくさ んいるわけです。レセコンはレセコンですから、レセプトのための使用になっています ので、それに無理やり合わせるようになっているのです。ですから、もう導入してしま った所の変更のしにくさとか、そういうことが今度は出てきてしまう。  それは、既存のシステムをどう変えていくかということですが、どこかで1回断ち切 らないといけない。過去の例が使いたいから、ということでいつまで経ってもやってい ると「Do処方」が使えなくなる。電子カルテと言われているものの多くは、メディカ ルレコードをどう記録するか。一部の例としてレセプトも正しく出せますと。でも、今 までのオーダリングシステムは、レセプトを正しく出すためには、発生源である医師が 入力するのがいちばん確実なのではないか、という発想ですからベクトルが全然逆なの です。まさに、これから電子カルテができるときに、基本的な基準をきちんと決めて、 こうやっていくべきだとやっていく。そして、研修医制度ができるところですから、最 低限、研修医が研修をする医育機関や研修医指定病院のオーダリングシステムはこの基 準を満たさなければ駄目だ、という基準をきちんとつくることが、結局、これからの医 療安全を広めていくことになるのではないかという気がするのです。 ○矢崎部会長  大学病院はどうですかね。 ○土屋委員  大学病院すら、先ほど言ったように、1日量を入力したり1回量を入力したり。それ は、主義主張があって、私どもも処方箋の書き方の本をつくってきたのですが、そんな ものが使えるかと言われたこともあります。そこら辺が、東と西で多少違うとか、そう いうことが言われていまして、今回、調査をして本当にそうだな、という実感を得たの です。でも、それを進ませていたのでは、今後、初心者教育から始めるときに、いまだ にそのルールが決まっていなくて、研修医制度は本当に大丈夫でしょうか、ということ があると思うのです。もうそろそろ決めないと本当に駄目なのではないかと思います。 ○矢崎部会長  ごく簡単なところも、ヒューマンエラーと片づけられている部分がこういうところに 起因しているところがあるわけですね。わかりました、と私がわかっても意味がありま せんが、先ほどの予算の所で、星委員から、国立病院部だけが出ているのはいかがなも のか、というお話がありました。4月から国立病院機構で独法化するのです。まとめま すので、これは我々の所には来ないのではないか、ナショナルセンターだけに行くので はないかと思うのです。私は、例えば、カルテは表紙から必要な部分、退院サマリーま では全国統一にして、耳鼻科や眼科などの特殊な診療科はそこにカルテを挟む、しかし 眼科は全国で統一する、という仕組みを考えているのですが、今の処方の書き方に関し ても、国立病院機構154施設はみんな同じ方式で書く。そういうことは、それこそ、頭 の意識改革の1つの問題ですので、やってみて、次の機会に「それは統一できました」 とか、我々で決めてできる問題をピックアップして、大学病院は大学病院でできるだけ 統一化していただきたいと思います。  今日はいろいろご議論いただいて、課題も多くあって、医政局に投げかけた課題もい くつかありましたので、適切に対応していただきたいと思います。予定の時間ですの で、本日の議論はここまでとしたいと思います。委員の方々からご議論があった前向き のフリートーキングで議論を整理して、このヒューマン部会の将来の運営にもかかわる 問題ですので、皆様が一堂にお会いすることも必要だと思いますが、事務局で委員の 方々のいろいろな考え方の情報を集め、吸収して、皆様にこれからの方針を提案してい ただければと思います。よろしくお願いいたします。 ○事務局  次回の日程につきましては、委員の皆様の日程を調整した上で後日ご連絡したいと思 います。 ○矢崎部会長  今のことも含めて、次回の日程をよろしくお願いいたします。本日は、大変お忙しい ところをお集まりいただきましてありがとうございました。これで部会を終了いたしま す。                     (照会先)                       医政局総務課医療安全推進室指導係長                        電話 03-5253-1111 (内線2579)