03/07/29 第1回医療に係る事故事例情報の取扱いに関する検討部会事故報告範囲検討 委員会議事録              第1回事故報告範囲検討委員会                    議事録                        日時 平成15年7月29日(火)                           10:30〜                        場所 経済産業省別館944会議室 ○榮畑総務課長  定刻となりましたので、ただいまより医療に係る事故事例情報の取扱いに関する検討 部会の事故報告範囲検討委員会を開催いたします。委員の先生方におかれましては、ご 多忙中ご出席いただき誠にありがとうございます。委員長選出まで、医政局総務課長榮 畑が議事進行を務めさせていただきます。  初めに、本検討委員会の委員の皆様方を紹介いたします。第2回医療に係る事故事例 情報の取扱いに関する検討部会において、参考人として出席いただいた稲垣克巳委員で す。稲垣委員のご長男は医療過誤により意識不明となり、20年来自宅療養を続けてこら れました。また、医療の安全を願い、著書『克彦の青春を返して』を出版されておりま す。  続きまして、上都賀厚生連上都賀総合病院名誉院長大井利夫委員、霞ヶ関総合法律事 務所弁護士川端和治委員、読売新聞社解説部長岸洋人委員、日本医師会常任理事星北斗 委員、東京都立大学法学部長前田雅英委員、国立熊本病院長宮崎久義委員、千葉大学医 学部教授山浦晶委員となります。なお、ささえあい医療人権センターCOML理事長、 辻本好子委員は本日欠席でございます。また、本検討委員会の親部会である医療に係る 事故事例情報の取扱いに関する検討部会会長である、東海大学医学部付属病院副院長の 堺秀人委員においては、オブザーバーとして本検討委員会に出席いただくこととしてお ります。  まず開催に当り、医政局長篠崎よりご挨拶申し上げます。 ○篠崎医政局長  本日は第1回事故報告範囲検討委員会にご出席いただき、誠にありがとうございま す。昨日で第156回通常国会が終了いたしました。この国会中においても、医療事故の 問題は大変大きく取り上げられ、私どもも質問に答えてきたわけでございます。また、 4月30日には21世紀における医療提供体制の改革ビジョン案を厚生労働省案として発表 いたしました。この中でいちばん大きなことは、患者の視点に立った医療提供体制の改 革であり、真っ先に上げられているのがこの医療事故対策でございます。  昨年来、オブザーバーである堺委員をはじめとして、医療事故については様々な部会 等で検討をいただいてきております。この1年余の間、いろいろな制度が整い、大きく 変わってきていることを感じております。昨年10月より、全ての病院、有床診療所にお いて、どのような小さな事故であっても院内で報告することが義務付けられたわけで す。本国会中には個人情報保護法案が成立し、その中でカルテ開示が法制的に義務化さ れたという側面もあります。このような中で、昨年7月以来、医療に係る事故事例情報 の取扱いに関する検討部会を堺部会長中心に検討いただき、本年4月15日に報告書をい ただきました。昨年10月からは、どんな小さい事故であっても院内での報告を義務付け られているわけで、それをどのように外へ出し、分析し、予防に繋げるかが非常に大事 なことであると思います。  4月15日に報告をいただいた中で、議論された結論に基づくと、事故報告をいただく 病院については体制の整っているところから始めるとのことで、厚生労働省直営の病院 である国立高度専門医療センター、国立病院、国立療養所、大学病院(本院)といった 体制の整っている医療機関から、起きた事故について外へ出してもらい、さらに第三者 機関に送り、分析し、公表することで事故の予防に繋げることとします。対象医療機関 は決定したわけですが、どのような範囲で出してもらうかが非常に大事であり、数が多 ければいいわけでもなく、やはり分析が大事で、さらにその分析が予防に繋がらなけれ ば意味がないのです。このような制度を立ち上げるわけですから、最初からすべてうま くいくとは限らないと思います。そのような意味を込めて、今回、事故報告の範囲を決 めていただくことが委員の皆様にお願いすることであります。  これは予算にも絡むものでありますから、来年度の予算要求にも繋げなければなら ず、また8月末の概算要求、来年度の予算要求にも繋げたいと思っております。そのよ うなことから考えると、年内に事故範囲について委員会としてのご意見をいただき、で きれば平成16年度より制度としてスタートさせたいと思っているわけでございます。大 変お忙しい皆様方とは存じますが、検討会に参加いただき、忌憚のないご意見をいただ きたいと思っておりますので、よろしくお願いいたします。 ○榮畑総務課長  本検討委員会の開催要綱及び資料について、事務局より説明いたします。 ○新木医療安全推進室長  資料1及び参考資料1から4を確認ください。資料1「事故報告範囲検討委員会開催 要綱」に基づき、本検討委員会の趣旨等を説明いたします。  まず、開催の目的ですが、「医療安全対策のさらなる推進を図るため、国立高度専門 医療センター、国立病院、国立療養所、大学病院(本院)については、一定の範囲の医 療事故についての報告制度を持つべきであるとされたところである。このため、医療事 故の報告範囲に関する検討を行うことを目的として、医療に係る事故事例情報の取扱い に関する検討部会(親部会)の下に事故報告範囲検討委員会(当委員会)を開催するこ ととする」としています。  検討事項については、(1)「国立高度専門医療センター、国立病院、国立療養所、 大学病院(本院)から報告を求める医療事故(重大な事例)の報告範囲に関する事項 」、(2)「報告様式等(1)に関連する事項」の2点です。  運営についてですが、「委員会の委員は別紙のとおり」9名といたします。「委員会 は検討の必要に応じ、適当と認める者を有識者として招致することができる」また、 「委員会は原則として公開で運営する」となっております。庶務に関しては当室が行う こととします。以上が本検討委員会の概要です。 ○榮畑総務課長  次に、本検討委員会の委員長を選出していただきます。各委員の方々の互選とさせて いただきたいと思いますが、いかがでしょうか。 ○川端委員  前田委員を委員長に推薦いたします。前田委員は親部会である医療に係る事故事例情 報の取扱いに関する検討部会において、報告書をまとめる際、起草委員長として尽力さ れた方であり、この報告範囲の決定に当たっても、まさにふさわしい学識経験をお持ち だと思います。前回の起草委員会においても、いろいろと難しい意見の対立がありまし たが、見事にまとめられ、報告書作成に貢献されましたので、委員長として最もふさわ しい方だと考えます。 ○榮畑総務課長  都立大学法学部長の前田委員を委員長にとのご発言がありましたが、いかがでしょう か。                  (異議なし) ○榮畑総務課長  委員の皆様方のご賛同をいただきましたので、前田委員に委員長をお願いしたいと存 じます。併せて、今後の議事進行を委員長に引き継ぎたいと思いますのでよろしくお願 いいたします。 ○前田委員長  私には荷が課し過ぎているのはよくわかっているのですが、いままでの経緯もあり、 委員長を引き受けさせていただき、できる限りのことをしたいと思っております。皆様 のご協力とお力を借りていくことになろうかと存じますので、何卒よろしくお願いいた します。  早速議事に入りたいと思います。本日は第1回の事故報告範囲検討委員会の開催とい うことで、先ほど事務局より開催要綱及び資料の説明がありましたが、それを踏まえ先 に進めたいと思います。資料1はすでに説明済みですので、参考資料1〜4について、 引き続き事務局より説明をお願いし、その後議論に入りたいと思います。 ○新木医療安全推進室長  参考資料1は、本検討委員会が発足することの提言がされている報告書になります。 本年4月15日にまとまった「医療に係る事故事例情報の取扱いに関する検討部会」の報 告書です。報告書9頁から、具体的に本検討委員会に該当するところとして、医療事故 の情報を安全対策、事故の発生予防・再発防止に活用していくための制度をつくる必要 があるとの指摘を受けています。  本制度発足、運営に当たり、どのような医療機関から事故情報を求めるかと同時に、 どのような事例を集めていくのかといったことが議論になっており、それについては10 頁に書かれてあります。つまり、「上記の対策を講じ、事故事例情報の活用を進めるも のとするが、これと併せて、特に、重大な事例については、例えば、事故の分析体制が 確立されている国立高度専門医療センター、国立病院、国立療養所、大学病院(本院) に対して報告を義務付けるなど、その収集の促進を図っていくべきである。この場合、 報告を求める重大な事例の範囲等について、今後、専門家等の意見を聞きながら早急に 検討する」とされております。このようなことから、事故事例情報の活用が安全対策を 図るために制度として必要であり、当委員会発足の趣旨ともなっております。  報告書をまとめる際に10回ほど検討を重ねておりますが、第9回目の資料が参考資料 2となっております。起草委員会での議論の中で出てきたものですが、報告を求めるに 当たり、「諸外国での状況はどうなのか」、「どのようなものが具体的なイメージとし て例示できるのか」といったことをまとめたのが参考資料2であります。3頁目以降に は、アメリカ、スウェーデン等において入手された情報が出ています。アメリカにおい ては州によっていろいろな収集範囲が設定されているようです。IOMのレポート、米 国科学アカデミーの中にある医学研究所から1999年に出されたものですが、日本語版で も『人は誰でも間違える』として出されているものであり、その中から引用した資料で ございます。 コロラド州以下10州ほどの収集範囲が示されておりますが、コロラド州 を例に取ってみると、報告を求めているのは全認可医療施設からであり、「麻酔による 合併症(死亡、脳・脊髄の損傷、生命への危険)」「輸血ミス・輸血の拒否反応(生命 への危険)」「機器の誤作動・誤用」「原因不明および疑わしい状況での死」の4項目 についてとなっております。同様に、フロリダ州でも3項目、マサチューセッツ州では 7項目となっています。○及び●は事務局で付けたものですが、○は比較的明確に事象 を規定しているもの、●はそれに比べると広い範囲というか、必ずしも明確な言葉で規 定されていないもの、範囲が紛らわしいものとも言えるかと思います。  マサチューセッツ州では明示的なものとして、「薬物の投与ミス」「輸血ミス」「手 術における患者の取り違い・部位の間違い・器具などの置き忘れ」「重大な身体傷害・ その可能性がある医療機器などの誤作動」「出産・中絶後90日以内の妊婦の死亡」、そ の他範囲が必ずしも明瞭でないものとして、「死亡又は重要な追加的な診断・治療を要 する身体傷害」となっております。我が国での議論内容に比べ、少々ニュアンスが違っ てくる感じがしたものを黒ポツで記してありますが、「自殺による患者の死亡」といっ たことで7項目が述べられております。州によっては10項目以上のものを挙げていると ころもあり、もっと少ないところもあるのが状況です。  2頁目は米国での「全国医療の質会議(National Quality Forum)」によって推奨の あった、州政府が情報として収集したほうがいいものが「イベント、追加詳細項目」と して示されています。イベントが事象の簡単な説明、もう少し詳細な説明を追加として 述べています。「手術の事象」「器具・機器事象」「患者防御事象」「ケア管理事象」 といった4分類になっていますが、各々については、先ほどの各州の状況同様の手法で 範囲が規定されています。手術事象では「誤った部位への手術」「誤った患者への手 術」「患者に対する誤った手術処置」等々が載っております。以下、20項目を超えるも のが規定されております。  参考資料3は、医療や病院の質を評価する非営利組織である米国JCAHOが報告を 求めるもの、ここでは「センティネル・イベント(警鐘事例)」といった言葉を使って 表しています。つまり、何かこのようなことがあったならば、十分な警戒、分析が必要 であるといった趣旨と理解できるのですが、大きく2つあるとされています。1つ目は 「患者の病状およびその根本的な原因に起因することのない、予期せぬ死亡や重大な障 害が結果として生じる状態」とされ、比較的広い範囲のものを規定しています。2つ目 は「結果が死亡、もしくは重大な障害でない場合の状態」として「患者が24時間ケアを 受けるような施設における患者の自殺」等々5項目を具体的、かつ明瞭に規定しており ます。  米国の「退役軍人病院(ベテランズホスピタル)」と呼ばれる国立病院では、報告の 対象として、破滅的、つまり「患者が死亡するような状態に近いもの」と「それに次ぐ ような重度のもの」といった状況による2つのグレードを規定しています。同時に、そ の各々について具体的な事象は、患者(可能性)として、「死亡又は身体の永続的損失 で、もともとの病状の自然経過および基礎疾患に関連しないもの」等々、いくつかのも のが規定されております。  参考5にはスウェーデンにおける医療事故報告の範囲が載せられています。スウェー デンには「Lex Maria(マリア法)」という法律があり、これに基づき報告すべきものと して、「患者が重大な傷害又は罹患の被害を受けたとき、又はそのような危険があると きになされなければならない」とされ、「傷害又は罹患の被害とは、予見し得ないもの 及び通常の危険とは言えないものをいう」と規定されております。  このような状況を踏まえ、当時の検討部会に提出した資料では、例示として2つのも のを挙げました。1つは、明らかに間違った医療行為により、患者が死亡した、若しく は患者に永続的な高度な障害が発生した事例です。具体的なものとしては「患者の取り 違え」「手術・処置等の部位の間違い」「医薬品の種類、量、投与ルートの間違い」 「輸血製剤の取り違え」「医療機器の誤った使用・誤作動」といったことを例示してお ります。  2つ目として、手術、検査、処置(麻酔を含む)が原因となって患者が死亡した、若 しくは患者に高度な障害が発生した事例で、当該行為実施前に予期できなかったもの。 具体的な例として、全身麻酔下における手術中、誤った手技により患者が死亡した事例 などで、当時、事例や例示案を出し議論されたものです。事務局としては委員の方々の 同意が得られたというよりも、議論の過程で、イメージとして議論いただいたと考えて おります。  参考資料3及び4については、親部会でも何回か議論になった、平成13年10月より17 カ月ほど行い、すでに5万件を超える事例を集めた「ヒヤリ・ハット事例」であり、今 後全国的に展開していくに当たり、新しい記載案を参考までに載せております。特に、 参考資料3の記述情報については、具体的なケース分析で用いる記述部分が参考になる かと思います。参考資料3について、今後ヒヤリ・ハット事例を集めるのを1.の基本 項目とし、分類的なことを集めた他、ヒヤリ・ハット事例の中で特に重要なものは (2)の「記述項目」であると考えました。つまり、(1)どのような事例であったのか、 (2)そのような事例が発生した背景や要因が何なのか、さらに実施した、もしくは考え られる改善策としてどのようなものが挙げられるのかを記載すると同時に、医薬品や医 療用具等が原因と思われるものについては、その名称を具体的に挙げていくといったこ とにより、ヒヤリ・ハット事例収集の改善、充実を行っていきたいと思っております。 参考資料4は、同時に行うコード化情報についてとなります。 ○前田委員長  ただいまの説明について、何か質問等があればお願いいたします。委員会に参加され た方が多い反面、今日初めて参加された方もいらっしゃるかと思いますので、何か気付 かれたことがあればお願いいたします。 ○星委員  資料1について、脱字ではないかと思うのですが、3行目の「制度」を、新木室長は 「報告制度」と言われました。ここで言う「制度」は「報告制度」と理解してよろしい のでしょうか。 ○新木医療安全推進室長  おっしゃるとおり、ここでの制度は「報告制度」の意味です。 ○山浦委員  参考資料2について、いくつかの外国の事例が集められているのは大変参考になるの ですが、この事例はこれを規定する目的が、今回我々が目指している目的と一致してい るものかどうかが重要だと思います。我々としては、もちろん予防といったものにゴー ルがあると思いますが、外国の事例は、予防というゴール以外に処罰や処分といったも のもあるところが見られるので、そっくりは参考にはできないと思うのです。目指すと ころがはっきりしている場合は参考になるかと思います。 ○新木医療安全推進室長  ご指摘のとおり、諸外国における報告制度にはいろいろな目的があるように思いま す。IOMでまとめたものは比較的予防のためと聞いておりますが、その他の部分につ いては、必ずしも予防だけではなく、それ以外の目的で行っているものもあるように思 います。例えば、スウェーデンの事例では、当初は処罰のために報告を求めていたが、 国内においての様々な議論の結果、現在では予防のためといったことに変わっていると のことです。予防のためだけなのかどうかについては詳細を把握しておりませんが、他 の趣旨で行っているものもあるようです。米国の場合は、比較的予防のためといった趣 旨で行っている例が多いと聞いておりますが、確かに、諸外国のものがそのまま目的等 も同じとは限らないことを事務局としても認識しております。 ○前田委員長  山浦委員指摘の点は十分留意したつもりですが、事故情報を集めるに当たり、目的は ともかく、どのような集め方をしているのか、外国ではどのような知恵があるかといっ たことで集めていただいたのです。それを選んでいく際は、我々の目的に合ったものと いった観点から絞り込んでいくことになるかと思います。 ○星委員  いまの発言と関連しますが、目的もそうですし、どのような活用をされているのか、 その活用にどんな制限がかかっているのか、あるいは報告に対する萎縮医療といったも のに結び付かないような対応がどのような形で取られているのか、その上での報告制 度、報告項目であり、それがある程度明らかにされなければ、議論を進めていくときの 方向がぶれる可能性があると思います。また、外国と比べて甘い、辛いといったことを 安易に言うことはできないと思いますから、事務局には目的や活用のされ方、報告を出 させるための何らかの保護措置などがどのように取られているのかを明確にしていただ きたいと思います。 ○川端委員  諸外国の制度をざっと見たとき、全認可医療施設を幅広く対象にしている制度が多い ように思います。今回検討を求められているのは、国立高度専門医療センターや大学病 院等に限って、報告を義務付け、その求める報告の範囲を決めようということです。事 故の分析体制が確立されていることからこれらの医療機関が選ばれているわけで、報告 を求める範囲に大きな縛りがかかっていることも、おそらく適切な報告範囲を決めるこ とに重大な関係がある事実ではないかと思うのです。従って、外国では一体どの範囲の 医療機関にどのような事故報告を求めているのか、といった関連があると思いますので 調査していただければと思います。 ○前田委員長  比較する際、基礎となる事実というか、制度をつくっていこうとする目的によって比 較の視座が違ってくるので、そこは十分注意し、資料集めをしていただきたいと思いま す。参考資料1の9〜10頁で、当委員会の役割としては、それだけに絶対限定しなけれ ばいけないわけではないかもしれませんが、川端委員指摘のように、国立高度専門医療 センター、国立病院、国立療養所、大学病院(本院)といった特定の機関に対して報告 を義務付ける、その内容を具体化していくことが基本であり、それに尽きると言ってい いと思うのです。  医療事故の範囲と言えば、広く一般に、医療機関全般に対し、医療事故情報を求め、 それを第三者機関等がどう処理していくかはおそらく関心のあるところかと思います が、まずこの経験を活かし、分析し、国民に返していかなければならないと思うので す。そのためには、早急に報告を義務付ける中身を固めていくと捉えていいと思いま す。それに合った形で、外国の制度なり、いままでのデータその他、ヒヤリ・ハット事 例などの見直しも、その視点から整理していくことを確認したいと思います。 ○山浦委員  病院の範囲について、体制の整っているところからまず始めるといったニュアンスで 受け止めたのですが、将来的に、ここに挙げられていないすべての病院を含むという意 味と理解していいのですか。掲げられている病院群での患者数は、全体数からいけば、 それほど多いものではないと思います。おそらく10%か20%ではないかと考えます。つ まり、ここにはマジョリティーは入っていないことになるわけで、医療の安全を考えた 場合、もちろん、やりやすいという面でこれらの病院から始めることに異議はないので すが、将来的には、ここにないようなすべての病院を含めるかどうかで、持っていきか たにだいぶ違いが出てくると思うのです。 ○新木医療安全推進室長  その点については、参考資料1の10頁に、「当面、上記の医療機関に報告を義務付け るなどの方針で、事故事例の情報の活用を進めるものとするが、今後とも本制度の充実 を検討していくものとする。このため、医療従事者に対する事故の分析に関する普及啓 発などにより、医療機関内の分析体制の充実を図る」とあり、将来的に、どのような形 で充実させるかの検討の必要を指摘されているので、その方向で検討していきたいと 思っております。具体的にどのようにするかは、現在、報告の対象となっている4種類 の医療機関での状況等も見ながら、今後検討していきたいと考えており、現時点では、 具体的な充実の方向を決めているわけではありません。 ○前田委員長  将来どこまで広げるか、いつの段階でどのように広げるかの目処が立たなければ、現 段階で、どのような範囲について、どう報告を求めるかが厳密には定まらないのではな いか、といった指摘もあり得るのだと思います。しかし、国民が求めている重大な事故 についての分析結果を早急に出すためにも、収集できるところから動き出してはどうか と思います。他の医療機関の対応状況もおそらく刻々と変化していくわけですから、そ れを見ながら、範囲を広げるかどうかは別途考えていくと捉えていいのではないかと思 います。この辺は非常に重要なポイントだと思います。 ○篠崎医政局長  山浦委員が言われた事故の本質といったものについては、諸外国でも行っているよう ですが、カルテを調査し、どのような事故の発生があるかが基本的な事故の質の調査に なると言われており、それも並行して行っていきたいと思います。 ○新木医療安全推進室長  その件については、主任研究者であり、オブザーバーでもある堺委員より説明を受け たほうがいいのかもしれませんが、報告書11頁にある「事故事例情報の活用に関する調 査研究の実施」の(1)の「事故の発生頻度の調査」をはじめとして、いくつかの提言を いただいております。その中で、我が国ではどのくらいの事故があるのか、どのような 事故があるのかについて、諸外国で行われている診療録等の抽出推計調査を参考にしな がら、我が国においても事故の実態がわかるような調査を現在お願いし、検討していた だいており、厚生労働科学研究として今年度より行っております。 ○岸委員  調査対象が「重大な事例」といった言い方で表現されていますが、重大なるものの概 念規定が、実は明確ではないように思います。重大な事例の「重大」とは一体何を意味 するのかは、きちんと議論しておく必要があると思います。ちなみに私は、結果の重大 性だけではなく、広く他に影響を及ぼす、あるいは発生するであろうといったことを眼 目に置いていただきたいと個人的には考えております。おそらく、他の委員の方には別 の考え方もあるかと思いますので、その点を確認しておきたいと思います。 ○前田委員長  いまの点は1つのキーワードであり、この委員会が検討していく報告を求める事例の 枠を決めることの基本は、「重大な事例」であるとのご意見です。前の委員会でも、必 ずしも十分に時間を取って議論できているわけではないかと思います。これについては いろいろな意見があるかと思いますし、「医」の側と「法」の側との間に若干違う感触 もあるのではないかと思います。 ○大井委員  私もいちばんわからなかったのは、やはり「重大な事例」の範囲なのです。報告すべ き重大な事例とは、何をもって意味するのかがわからなかったのです。長く医療事故の 報告などに携わってきた経験から、重大な医療事故には大きく分けて対物と対人の2つ があると考えています。対人の中に患者と職員、あるいはその他患者の家族があると思 います。アメリカなどで、そのほとんどが対患者に絞られているのは、訴訟などが絡む からであり、病院の中では対職員の重大事例も結構あります。最近はとみにそのような ことが多くなってきています。「重大な事例」を対人あるいは対患者に絞るなど規定し て話し合っていただかないと、共通の議論に入りにくいと感じております。その辺をま ず明確にしていただきたいと思います。  医療事故はどんなに正しいプロセスを取っていても、結果的に重大なことがありま す。また、身体に重大な結果を及ぼさなくてもプロセス自体に非常に問題があるものも あり、その後エラーに繋がる可能性を持っているものもあります。岸委員の言われたよ うな事柄を明確にしてから話し合っていただけると、効率的ではないかと思います。 ○前田委員長  「重大」の内容について整理したときに、現在、少なくとも2つの違った軸があるよ うに思います。前提として対物と対人。対人の中での対患者、対職員があるかと思いま すが、その点と、岸委員の言われた結果なのか、ここで前者について確認をしたいと思 います。いままで何となく対患者の意識で言ってきましたし、この議論が出たきっかけ も、患者に対して重大な結果が起こった場合、どのように考えていくのかから動き出し た面があると思うのです。ただ、医療全体のシステムということで考えると、対職員や 対物も重要だと思います。私は基本的に対患者と考えてきましたが、堺委員はどのよう にお考えですか。 ○堺委員  私の部会でいろいろな議論が出た際、私は何度か繰り返し申し上げたことがありまし た。それは、完全を期することは非常に大事なことではあるが、何か具体的なものがで きてこないと、社会に還元しにくいだろうということです。私が部会長を務めている部 会の方々にご理解いただいたのは、まずできるところからやっていこう、それをだんだ んに広げていこうといったことです。やはり、最初から完璧にすべてのものを網羅しよ うと思うのではなく、多くの方々が最も大事だと思うところからスタートすることが、 実際に役立つものが早くできるのではないかと考えます。 ○前田委員長  対患者関係を念頭に置きながら、それを踏まえ、「重大な」というのは何の重大性 か、結果の重大性なのか、プロセスなのかといった問題があるようです。また表面に出 た結果は小さくても、実は非常に危険な手技を行っているといった問題もあります。こ れについて何かご意見があればお願いいたします。 ○星委員  いまの話に進む前に一言申し上げたい。患者に対する危害、事故というものを、まず 以て考えるべきだということに関して反論する気はありません。しかしながら、病院の 中で起こっているリスクマネジメントが、いまの風潮からすると、どうも患者に対する ものに偏り過ぎているようなきらいを持っているのも事実であります。それほど多くは ないのかもしれませんが、病院内の暴力といった、従事者に対する様々な危険もあると 言えます。いずれにしても、患者と医療を提供する私たちの間にある様々な誤解、ある いはいろいろな理解不足といったものを補うためには、患者のことを第一義に考えるこ とがあった上で、これらの問題が見過ごせないものなのだ、といった意識を私たち自身 が持つ必要があるのではないかと思います。事故報告の範囲の中に火災、暴力、レイ プ、賄賂といったものがありますが、直接的な議論をここでするかどうかは別にして、 我々としては、そのような現状も理解してもらう努力をするべきだと思います。 ○前田委員長  非常に大事な指摘であり、それが医療全体、ひいては国民の利益に繋がることは間違 いないわけで、その視座を常に持っていることを踏まえていることが必要かと思いま す。当面、この会として報告を出し、具体的に国民に返していくことができる、実のあ る、わかりやすい結論も急がなければならないという面もあります。対患者の問題につ いて先ほどの流れに戻しますが、何を重大な事故、事例と考えるかについては、どちら かと言うと、医療の場としては結果の重大性よりも内容、プロセスの重大性にウエイト があることがいままでの部会などで議論が出たような気がします。 ○稲垣委員  初めて重大な事故について報告をさせる、という画期的なことを具体化するわけです が、報告させるいちばんの目的は予防することではないかと思うのです。そのような意 味からいくと、結果の重大性より、むしろ他の参考になる、他山の石となる、つまり一 つの医療の世界の資産として活用できるケースといった観点で「重大」を解釈したほう がいいのではないかと思います。 ○山浦委員  全く違った観点から発言します。報告が出て、それを処理しなくてはならなくなると 思いますが、処理能力はどのくらいと考えればいいのでしょうか。その能力について は、どんな数が出てきても処理できる場合と、かなり限界がある場合とがあるかと思い ます。一例一例深刻に考えなくてはいけないということであれば、初めからはっきりと 的を絞る必要があるように思います。何万と来ても処理できないと考えます。 ○前田委員長  事故事例情報を活用する主体、分析の主体は全体の構造、つまり今後第三者機関をつ くっていくとか、医療安全センターとの役割分担などといったいろいろな問題があるか と思います。これについて事務局からの説明をお願いいたします。 ○新木医療安全推進室長  活用方法に通じるところですが、前提として検討部会で報告していただいたのは、他 の参考になるといった趣旨と理解しております。自分の医療機関の中で、できるだけ分 析していただいたものを報告いただき、さらに必要な分析を加え、皆様に活用していた だくことになります。医療機関の中で、ある程度の分析が行われていることが前提と考 えております。  ただ、それを踏まえ、必要な、若しくは不足している分析、あるいはさらに深めるべ き分析をしなければならないことがあるかと思います。これについては、現在予算要求 で、分析や提供を行うことができる第三者機関の設置を検討中なので、現時点で、処理 能力に関して年間10件まではOKとか、100件まではOKといった具体的なことが言え るレベルにはありません。しかし、できるだけ出していただければ、その中で特に重要 なものを見定めて、処理能力の中で優先順位をかけた上で分析していくといった体制に なるかと考えます。それが何件出てくるのか、何件処理できるかによらず、再発予防の 観点から、出てきたものに一定の順位付けをし、重要なものから分析していくといった ことを漠然と考えております。 ○大井委員  医療機関に携わる者としては、報告すべき事例とは、重大なものも何もかも含めてす べてだと思っています。ただ、事例をすべて報告すべきと言われると非常に抵抗があ り、事例が集まってきても、おそらく範囲などはなかなか決めがたいと思いますし、集 まったものが本当に有効に活かされるかと言われると非常に難しいと思うのです。事故 事例の他に、ヒヤリ・ハット事例はすでに集めており、ここに挙げられている医療機関 についても、少なくとも事故に関してはすべて分析をしていると思うのです。総括した 報告、事故報告は別個に出していただき、その中で、患者が不幸にして亡くなったと か、恒久的な障害が残存してしまったという事例について、さらに別個に事例報告をす ることを私は考えており、また、そのようにすることが実際的ではないかと思っていま した。事故事例と、医療機関で総括したものをまとめて出してもらうといった2本立て にすると集計しやすく、外部にも参考になるのではないかと思います。 ○前田委員長  総括報告のイメージを事務局側でどのように捉えるかなのですが、少なくとも各病院 で出された報告を完全に集約し、整理してといったことは、ここに挙げられた医療機関 に限ったとしてもいまのところはないわけですか。 ○新木医療安全推進室長  十分に内容を捉え切れてはいませんが、総括報告といったものを集める仕組みが現在 ないことは事実です。そのようなものと個別のものとを合わせるのか、まさにその辺を 検討会で議論いただければと思っております。総括報告にしても、総括の中に含める範 囲は、また範囲の問題が出てくるので、いずれにしても範囲の問題も何らかの形で整理 していただくとありがたいと思っております。 ○前田委員長  岸委員提案の「重大な」について、このような場合は必ず両面が入り、結果、死に至 るような場合を軽視していいということには必ずしもならないわけですが、基本的には 再発予防ということで、学ぶべきものを含んでいることが重大さの柱であり、それを中 心に考えていく必要があるかと思います。外国の例を踏まえていくつかの議論が出てき た中では、やはり結果として起こった重大性といったことも入ってこざるを得ない感じ を持っています。  刑事の世界では、まず死体が上がったところから始まるといった感覚があり、途中の 経過はわからないのが原則であり、確実なところから逆算していく癖がどうしてもある のです。結果的にはここまでに至らなかったが、ヒヤリとしたことがこれだけあったと いうことがきちっと出て、それが把握でき、原因が探究でき、それを改善に繋げられれ ばベストですが、現に起こったことが重大であれば、そこを踏まえて考えていく癖が私 などは強いのです。しかし、そこも最後には残るのではないかという気がしています。  最終的に、何が重大な事例なのかといった具体的な形を明確に決めていくことが、こ の委員会の最大の課題になっていくと思いますから、形を変えて何度も議論させていた だくことになろうかと思います。 ○星委員  我々、実際に医療をしている側からすれば、その結果の重大性とは、患者さんの側か らすれば当然議論されるべきだと思うのですが、一体その因果関係はどうなのか、とい うところがまさに不透明なので、いろいろな意味で誤解を生むのです。我々もそこに逃 げ込むというと言葉が変かもしれませんが、そういうことにもなりかねないと思うので す。ですから、結果の重大性というのは一つの視点であるけれども、明らかにこういう ことだというものを定義するほうがむしろ誤解が少ないのではないか。結果の重大性と はつまり、亡くなった、あるいは障害が起こった、これは外国の制度にも事もなげに、 48時間以上の治療を要したもの云々などと書いてあります。しかし、またその定義をし なければならないのです。それは事実上きわめて困難な作業になりますし、その報告を 遅らせる理由あるいは報告が隠れてしまう原因にもなりかねないのではないかというこ とも、私は危惧をします。  したがって、前田委員長や冒頭に岸委員がおっしゃったように、その考えの中に結果 の重大性を入れることはもちろん必要だと思いますが、まず第一義的に明らかに「これ は」というものについてしっかり定義をし、それがきちんと分析され、集められ、活用 されるという仕組みを作っていくことがいちばんの近道ではないかと思っています。 ○川端委員  安全対策のための報告ですから、プロセスに問題があると考えられる事由の報告が重 要になるというのは、そのとおりだと思います。ただ私も、委員長が言われたとおり、 結果が重大であったものはむしろ必ず入れなければならないと思うのです。と言います のは、私自身の経験ですが、ERCP後の重症急性膵炎でお亡くなりになったというこ とで医療過誤訴訟で争ったわけです。医療側は、重症急性膵炎はERCP後に一定の確 率で起こり、重症急性膵炎になってしまえば死亡率は非常に高い、ですからこれはいわ ば予期された正常なプロセスの中での死亡という結果だということで争われたのです。 しかし結局、高等裁判所で確定した判決は、ERCP後の膵炎が発症したとわかった段 階での治療行為が不十分であったために重症化したという認定で、医療側の過失を認め たわけです。  ERCP後にアミラーゼ値の上昇等の膵炎発症のサインがあった場合、どの程度の対 策をどの時間内にとらなければいけないかという意味では、この事例は将来の事故防止 のために非常に重要な情報になるわけです。病院側がある程度やむを得ない結果だとい うことで、結果が重大ではあるが報告を省いてしまうということになると、本当は予防 上重要な情報を含むのに同じような形で落ちてしまう事例があるのではないかと私は思 うのです。ですから、とりあえずその結果が重大であったものも必ず報告範囲に含む、 ということは必要なのではないかと思います。 ○前田委員長  まさに、その辺がいちばん議論が必要なところだと思うのです。いまの話なども、非 常に具体的な例だったと思うのです。今後もまた具体的に重大事例を決めていく中で議 論を進めていきたいと思うのですが、手続きというか手技の逸脱の程度なのか、結果な のかというのは、二律背反ではないような気がします。おそらくこれは、委員にほぼ共 通の認識だと思うのです。  ただ、この制度はどうしても誤解されやすいのです。重大な事故があったことを全部 外に向かって出していく、外に向かって報告していくということではないと思うので す。そこはやはり、世の中に向けて明確にしておかなければならないのです。その制度 は別途考えているわけで、再発予防のために分析をする対象をどのように選んでいく か、それが国民にいちばんメリットになるようにするためにはどうするか。ただ我々の 感覚としては、それを決めるときに着眼点として、結果が重大なものも残しておいてい ただいたほうが何となく安心だということなのです。  そこはまた議論をさせていただきたいと思います。本日の段階では、いままでの分科 会の議論を踏まえて、これが出来てくる流れに関してのご質問でも結構ですし、今後の 検討の方向性、運営の方法でも結構ですが、ご意見があれば是非出しておいていただき たいと思います。 ○宮崎委員  星委員のご発言に関連して私どもの病院の取組をご紹介します。レポートを上げるよ うにしているのは医療に関するものだけではなく、物に対するアクシデントや患者さん から職員に対するアクシデントなどすべてです。必要な医療に関する報告に関しては、 それが事故であれば報告するという体制をとっています。その中で、本日のこの会の目 的をお聞きしますと、いちばん明確にできるのは、重大な結果を起こしたものがそこに 該当してくるのではないかと思います。それにどのようなプロセスがかかってきたかと いうのは、また別な議論ではなかろうかという感じもするのです。これは非常に難しい 議論になっていますが、結果はかなり重要視するべきであろうと思っています。  もう一つの相対的な暴力や器物破壊といったようなものは、星委員がおっしゃったよ うにどこかで検討する機会を設けるべきだと考えます。病院を管理していると、一方で は職員を守らなくてはいけないということもあると、非常に理屈に合わないようなこと も医療の現場で起こることもあります。そういうものにおいても、またどこか他の所で 議論になっていたと思っています。結果は非常に大事だと私は思っています。 ○前田委員長  ありがとうございました。ほかにありますか。 ○星委員  私は、川端委員とはいつも意見が合わない部分があるのです。これは本当に議論をす べきところだと思いますので、やはり声を上げておくべきだと思います。  その結果というものに関して、ERCPの話がありましたが、例えば食道への損傷 や、最近は減ったと言われますが、内視鏡使用時の穿孔などのように、ある意味である 確率であることが起き得る、それは手技の技術水準にもよるのだろうと思います。そう いうものを結果だけをもって含めてしまうことによるマイナスというものも、私は考え ておくべきだと思います。もちろん結果が重大であることについて我々が放置すること は許されないことですが、これらについては既にさまざまな機会にいくつかの取組をし ていますし、その標準的な考え方あるいはその発生頻度に関するさまざまな報告もして います。  そういうものと今回ここで議論すべきものとは、例えば医療手技が未熟であったため の、あるいはその水準や時間が、アミラーゼの上昇を何分おきに測るのかというような ことを問われるような事象を含めてしまって、そして因果関係を明らかにしないまま、 結果の重大性だけをその報告の範囲として規定した場合のさまざまな反応というもの は、ある程度考えておかなければならないだろうと思います。プロセスに間違いがあっ ても結果が軽微で済めばいいのではないかというのも誤りだと思いますし、結果が重大 だからそのすべてを表沙汰にするというのも、このもともとの制度の、あるいはいま検 討しようと思っているものの目的には沿わないのではないかと思います。ですから、そ ういったことも俎上に上げて議論すべきだと思います。 ○前田委員長  まさにいま議論が集中しているところが、この委員会で議論すべきいちばんの眼目に なってくると思います。星委員がおっしゃるとおり、非常に重大なミスをしても、たま たま結果が軽微であればそれで見過ごしていい、という問題ではないということも間違 いはないし、逆に、重大な結果があっても不可抗力に近いものについてまで取り上げ て、それを外に出してどうこうということが妥当でないというのもそのとおりだと思う のです。  問題は、どういうものを集めて分析するかというときに、これが非常に重大な手続き 上のと言いますか、手技上の問題。手技と言うと医療の世界ではまたニュアンスが異な るかもしれませんが、プロセス上重大な逸脱であるかどうか。医療水準から見て問題が あることをしたかどうかということの明確性と言いますか、そこよりは結果というのは 非常に明解なもので、そこから遡ってある程度逆算しておくところが重要であるという こと。又、ここまでは不可抗力に近い、ここからは過失に近いというような線が必ずし も明確でないと言いますか、動いているところがあろうかと思うのです。そういう部分 についてこういう場で検討していく素材を集めていけば、結果だけに拘っていると取ら れ過ぎるとまずいのですが、まず、ここで情報を集める一つの徴候、目印としては、重 大な結果が起こったところから逆算して考えていくというのも、一つ考えられます。ま た明々白々、結果は起こらなかったけれどもこんなひどいミスをやっていていいのか、 ということがいろいろ明らかになってくれば、それを集めるということも当然だと思う のです。  問題はより具体的な、数少ないと言っても全国でこれだけの規模の所に一斉に義務付 けて報告をしていただくための基準をどう作っていくか、どういう病院がどういうもの についてこの報告を義務付けていくか。義務付けと公表の問題とはまた少し違うわけで す。外に出していくというのとは違ってこのレベルではまず、強制的に集めて、分析を して、返していくということです。情報を集めて、ここがよく事故の起こるところであ るというような問題は、また別個のシステムとして整備していかなければいけないとい う議論になっています。まずこの委員会では、分析体制が確立したところで、つまりそ れは分析して、いまの医療の世界でこういうところに問題があるから各病院は注意しま しょう、と反省する。資料の集めやすい所からまず集めて、そのときにどういうスクリ ーニングをして集めていくか、という基準をどう作っていくかということだと思うので す。それは医療の具体的な議論を踏まえなければ作れない部分があると思いますので、 専門家の先生方にお集まりいただいて議論を進めていきたいと考えています。  その際、稲垣委員にも加わっていただいているのは、この制度はもちろん国民全体に 対して知らしめることが目的ではありませんが、一連の議論の出発点を考えても、何ら かの形で最終的には国民に返していかなければいけないし、説明できるものでなければ いけない、そういう面もあろうかと思うのです。だからどうだということを言い過ぎる とまた議論が少し複雑になりますので、そのくらいにしておきたいと思います。  本日は、会の構成を決めて今後の方向性についてのとりあえずのご意見を伺ったとこ ろで、今後の方針は、事務局で委員のご意向を踏まえて作成していただきたいと思いま す。 ○星委員  もう一つ、その際に気をつけていただきたいファクターがあります。情報の公開とと もにプライバシーを守るというようなことについて、相当程度考えていただかないとい けないと思います。これは第三者機関の体制の問題でもあります。例えば国立病院の中 で内部資料としてそのようなレポートを作成したときに、情報公開法に基づいて請求を されれば実名のまま出てしまう可能性がある。あるいは病院名がわかる形で出てきて、 大学病院などの事例もありましたが、どこそこの病院は何件というようなことが安易に 知らされて、結果的にはその本来目指すべきものに到達できないというようなことが起 きる可能性が処々にあり得るのだと思うのです。ですから、特に国立病院や国立大学病 院などの情報公開の対象になっているような医療機関においては、かなりそういう部分 も気をつけなければいけないだろうと思います。  したがって、どういうプロセスでどういうものが集められ、院内でどのような議論が あって、どういう形でその報告をされるのかということを考えながらこの議論をしてい くのだとすれば、そのプロセスごとにそういう漏れがないかどうか、現実に国会で質問 趣意書を出されて、どこそこ病院は何件というものが出て大変な混乱を招いたというの は、皆様は既にご承知のことです。あれを隠すかどうかということの是非ではなく、あ れが出てきてそれを誤った形で認識されるということが問題だと思うのです。そういう ものではないと言うのであれば、そういう使われ方ができないような秘密の保持と言い ますか、それは申し出をする医療機関に対する保護ということになるのでしょうが、そ の辺りは是非とも一緒にお考えいただきたいと思います。 ○前田委員長  非常に重要なご指摘だと思いますので、制度化の中でこの分析した結果の公表の仕方 等は慎重に行う必要があると思います。もちろん情報公開とは言っても個人情報は完全 に守られていると思うのですが、病院によってA国立病院で何件というのは、ランキン グ表などのように興味本位で捉えられることが問題だという指摘はもちろんあろうかと 思います。 ○星委員  もっと具体的に言うと、この制度のためにA病院で作っているというのは明らかなわ けです。外から見た場合に、A大学病院あるいはA国立病院の何月分の報告を出すよう にと言ったときに、守れるのか否かということがあります。仮にこれを全部しらみつぶ しに当たれば、実施者を抜いてその患者さんの氏名を塗りつぶしたとしても、何病院は 何件、何病院は何件と出てくると思うのです。ですから、そういう問題をきちんと議論 しつつ、この議論を進めていただかなければならないと思います。個人情報の保護の関 係は都道府県の知事の権限で決まります、それは我々の検討の範囲ではありません、と いうようなお返事では、我々とすれば安心して「皆さんで頑張ろう」ということを申し 上げられない、ということを申し上げておきたいと思います。 ○前田委員長  これはまた検討課題として、一つの重要な柱になると思います。情報をどこまで出し ていくか。これは立場によって知りたがっている部分もあるわけです。国民の側からす ればこの程度までは出していいのではないかというようなご議論もありまして、そのす り合わせだと思うのです。それはまた具体的なご議論をきちんとしてまいりたいと思い ます。ほかにありますか。 ○大井委員  星委員のおっしゃったことはよくわかります。私は、医療事故情報などを表に出し検 討していくというのは、患者さんの安全などをできるだけ担保していきたいという関係 者の気持がいちばん強いためであろうと思います。  しかし、もうひとつは、医療における医療現場の信頼性の確保ということもあると思 います。そのためにいちばん基本となるのは、もちろん先ほど星委員の言われたことは 十分に考えるとしても、透明性と説明責任(アカウンタビリティー)であろうと思いま す。それがなければ医療の安全文化はつくることができないのではなかろうかと思って いるのです。そのための方法として先ほど提案したのは、総括報告というものを一つ入 れてほしいということです。そうしなければ、誰が重大だと判断するかという問題が 入ってきてしまいます。良い病院はこうだなどということではなくて、そういうことを 総括してまとめていただければと思います。  例えば、プロセスがどれほど正しくても患者さんに対して非常に大きな影響を与えて しまうような事柄は、マスとして捉えてこないとなかなかわかりにくいのです。それが 患者さんあるいは医療提供者の側にも必ずプラスになると思いますので、総括報告とい うものを入れ、同時にその報告書を考えれば良いわけです。事例報告は先ほど主張しま したが、不幸にして亡くなられたり恒久的な障害が残ったといったような事例は、別個 の事例報告書を作って出していただく。私は、ヒヤリ・ハット事例の重要事例検討班の ほうにも携わっていて非常に参考になったのですが、意外なことがわかりました。  ヒヤリ・ハット事例の報告書の中に、どのような改善をすればいいかということを報 告者に書いていただいています。ところが、その検討委員会で集まると、それをはるか に超えた意見が出るのです。こういうところに目を配ったら防げるなど、そういうもの が大変参考になるわけです。  ですから、もし重要事例を各医療機関で判断してしまえば、そういうものが表に出て こなくなるし、何らプラスにならないのではないかと思うのです。ですから、委員長の 言われたその結果だけは非常にはっきりしているわけですから、そういう事例は全部事 例として報告する。ただし、その中から必ず抜けていく全体の把握というものは、何と か捉えられるようにしていただければ非常に参考になると思います。 ○前田委員長  ありがとうございました。先ほどの外国の例なども一つの素材ですが、本日出た議論 なども踏まえてどのようなものを報告していただくか、そのときに総括報告のようなも のもまたどのようなイメージに捉えるかです。  まさに何についてご報告いただくかということは、いままでの分科会の議論を踏まえ た上でということになりますが、ただ、新たに構築していくわけですから、いろいろな 可能性があり得ると思います。もちろん星委員のようなご懸念もあります。それをすり 合わせて、最後は現実に国立病院や国立療養所で出していただけるかどうかというとこ ろも非常に重要なのです。先ほど堺委員がおっしゃったように、現に動きだして役に立 つものが返ってくるかどうかということがある意味ではいちばん重要です。  ただ、そうは言っても、国立高度専門医療センターや国立病院は、説明責任や情報を 開示していくというメリットを十分に認識されていると思います。そこはそれを踏まえ て具体的な、実現可能なものを。  局長は、タイムスケジュールを先ほどおっしゃいましたか。お願いします。 ○榮畑総務課長  私どもは、4月にこの検討部会の報告書をいただきまして、医療事故事例情報の収 集、分析、活用の仕組みを作っていくというふうに、具体的に議論しております。今後 のタイムスケジュール的なものは、先ほど局長も申しましたが、現在、ここで平成16年 度の概算要求の作業をし、この概算要求の中で事故事例情報の収集、分析、提供システ ムというものを作りたいと、いま省内で大変熱心に議論しているところです。  したがって、概算要求を何とか厚生労働省から財務省に持ち込んで、財務省と当然厳 しい折衝があると思いますが、その過程で年末にはこれを予算化できないかというつも りでおります。  平成16年度にこの具体的なシステムを動かしていきたいと思っておりますが、そのた めにも義務としてご報告いただく機関というのは4分類ですが、重大な事例の範囲につ いてある程度議論を整理していただきたいと思っておりますが、私どもとしては、でき れば年内ぐらいまで、それもできるだけ早いほうがありがたいのですが、ギリギリでも 年内ぐらいにはこの範囲をこの委員会の中で議論、整理してとりまとめていただけれ ば、それに沿って暮れの予算セット、平成16年度早々からのスタートに向けてまた諸準 備にかかれるかと存じます。そのようなつもりで、私どもでは、いまスケジュールを考 えさせていただいております。よろしくお願いいたします。 ○星委員  どのような報告制度にするのかは厚生労働省内部の検討に委ねられていて、範囲のと ころだけ人の意見を入れて決めますよというのは、私は片手落ちではないかと思ってい まの話を聞きました。急いでやりたい気持もわかりますし、その必要性も感じますが、 第三者機関の議論の場面でもイメージが随分異なっていたし、第三者機関が果たす役割 というものも委員の中でも随分ズレがあったと思うのです。8月に概算要求があるから それに合わせてとりあえずというのは、前の都道府県の医療安全支援センターの話も同 様でした。固まらないままに動いて非常に誤解を持ってスタートしたがゆえに、かえっ てスタート地点で用意ドンとならないということもありました。是非とも、公開性を 持って、どういうものを厚生労働省で議論しているのかを我々にもきちんと教えていた だかないとこの議論は進まないだろう、と思うのが1点です。  先ほど私がアカウンタビリティーを無視しているような発言に聞こえたとすれば、そ うではありません。私は、警察に届けたり、記者会見をして頭を下げるというのがアカ ウンタビリティーだと思っていません。患者さんに対して起こったことをきちんと伝え て、ということを私は説明責任と理解しています。その点においては、私は100%する べきだということは申し上げておきます。  ただ、先ほど私が申し上げたのは隠すか隠さないかの問題ではなく、皆のためにそう いう情報を活用しましょうというお話をしたときに、本当に皆さんに理解してもらって 協力をしてもらえるようなものにしなければ絵に描いた餅になるのではないですか、と いうことを申し上げただけの話です。  3つ目です。現時点でいま我々が対象にしようとしている病院が、どのような基準で 院内の報告制度を持ち、院内でどのような事例についてどのようなクライテリアで検討 し、あるいは分析をしているのかということは、我々は漠然と、ここは分析体制ができ ていますと言ってスタートしておりますが、その辺のところは事実関係をきちんと把握 しておかないと前に進めないと思いますので、事務局には是非ともこれらの大学病院あ るいは国立病院、国立高度専門医療センターで行われている院内での基準、規定といっ たものについてできるだけ幅広くお集めいただいて、提出をしていただきたいと思いま す。以上です。 ○榮畑総務課長  いまの星委員のご指摘の第1点目です。お話はよく承りました。節目でまたご報告さ せていただいて、またご議論の材料に供したいと思っております。 ○前田委員長  また、最後の点もよろしくお願いいたします。国立病院等の現状です。お手数だとは 思いますが、できるだけわかりやすい形でお願いします。現状でここまでは既に行われ ているというものがありましたら、是非お願いしたいと思います。 ○榮畑総務課長  はい。 ○前田委員長  他にいかがですか。今回は1回目ですし、もちろんいろいろな資料等が出てきた上で ご議論いただくほうが生産的な面もあります。ただ本日は、これだけの説明に関してこ れだけご議論いただけたというのは非常にありがたいと思っております。  先ほど、タイムスケジュールを大きな流れとしてご説明いただいたと思うのですが、 次回の具体的な予定は少し調整させていただいて、各委員の日程調整をさせていただい てからご連絡を差し上げたいと思います。  最後に何か委員からご希望と言いますか、ご指摘いただくことがあればお願いしま す。  なければ、事務局から何かありますか。 ○新木医療安全推進室長  1点ご説明をいたします。本日、検討部会のほうの参加ではなく、本検討委員会から ご参加いただいた委員の方々には、稲垣委員から著書を配付させていただいておりま す。冒頭、課長からご説明がありましたが、『克彦の青春を返して』という本をいただ いて配付しておりますので、ご報告申し上げます。 ○前田委員長  ありがとうございました。それでは、本日はこれで閉会させていただきます。どうも ありがとうございました。                      (照会先)                       医政局総務課医療安全推進室指導係長                       電話 03-5253-1111(内線2579)