03/06/26 第2回神経芽細胞腫マススクリーニング検査のあり方に関する検討会      議事録                   第2回                        神経芽細胞腫マス・スクリーニング検査のあり方に関する検討会                      平成15年6月26日                            経済産業省別館10階1012会議室              宮本母子保健課長補佐  それでは皆様おそろいになりましたので、ただいまから第2回神経芽細胞腫マス・ス クリーニングのあり方に関する検討会を開催させていただきます。  本日はお忙しい中、御出席いただきましてありがとうございます。まずは本日の出欠 をお知らせいたします。梅田委員と吉村委員が御都合により欠席ということでございま す。 それから前回お話ししておりますけれども、幾つかの御意見が検討会に寄せられ ております。この取り扱いにつきまして座長と相談いたしましたところ、このうち、団 体からいただいた御意見が二つございまして、その御意見を詳しく伺うために、日本マ ス・スクリーニング学会から理事長の松田一郎様、また日本小児がん学会から小児がん 学会神経芽腫委員会委員長であられます山本圭子様に御出席いただいております。  また、いただいている御意見の中でもかなり触れられているところでございますが、 神経芽細胞腫マス・スクリーニングプログラムの疫学評価研究を担当されております群 馬大学医学部保健学科医療基礎学教授の林邦彦様にも御出席いただいております。  それでは座長に進行をお願いしたいと思いますが、その前に一つだけ本日の留意事項 がございます。本日、私どもの都合でございますが、マイクの本数が4本ほどになって おります。ですので、それぞれ御発言をいただく際にはマイクをお回しいただくような 機会もあるかと思いますけれども、御容赦いただきたいと思います。それではお願いい たします。 久道座長  それでは議事を始める前に、本日初めて出席なさった委員の方を紹介いたしたいと思 います。自己紹介していただきたいと思います。橋都委員、お願いします。 橋都委員  前回は欠席いたしましたので今回が初めての出席になります。東大の小児外科の橋都 と申します。小児悪性固形腫瘍の臨床をやっている立場から発言させていただきたいと 思っております。 久道座長  続いて柳田委員、よろしくお願いいたします。 柳田委員  第1回目は欠席いたしまして申しわけございません。日本医師会の常任理事の柳田と 申します。日本医師会の方で乳幼児を担当いたしております。よろしくお願いいたしま す。 久道座長  どうもありがとうございます。先ほど司会からお話がありましたように、このマス・ スクリーニングのあり方に関する検討委員会の第1回の検討会が開催された後、学会を 代表する方からの御意見、あるいは個人的な意見という形での意見書が事務局の方に何 通か来ております。そういうことも踏まえて、きょうは学会を代表した御意見をいただ いた中からお2人と、このマス・スクリーニングの研究を主任研究者として進めていら っしゃる林先生にも参考人として来ていただいております。お忙しいところありがとう ございます。  今回も前回に倣って公開の検討会ということですので、傍聴人の方々がたくさんいら っしゃっています。しかもそうそうたる傍聴人の方々ですが、きょうは傍聴人というこ とで個人的に御意見は求めませんけれども、関連学会を代表する方々に、その点も含ん でいろいろと御発言をいただければありがたいかと思っております。  それでは事務局から配付資料の確認をお願いしたいと思います。 宮本母子保健課長補佐  皆様には配付資料といたしまして1番から8番の資料を本検討会の資料としてお配り しております。そのほかに委員の皆様には机上配付資料としまして二つをお配りしてお ります。一つは筑波大学臨床医学小児外科の金子院長先生からいただきましたファクス 2枚のもの、それから西基氏よりいただきました御意見に付随しまして、それについて コピーしたものでございます。このほか参考のために前回の第1回の配付資料をお配り してございます。以上です。 久道座長  どうもありがとうございました。それでは先ほども少しお話ししましたけれども、団 体として学会の御意見をいただいた二つの学会の代表の方に、まずはその御意見を紹介 していただき、その後に個人からいただいた御意見を事務局から紹介させていただきま す。その後に林参考人から、今やっている研究班の研究の状況についての御説明をいた だき、その後にいろいろと御討議をしたいというふうに考えております。  資料については皆さん大丈夫でしょうか。   それでは事務局から前回の検討会に関連した部分について説明をしていただきます。 お願いします。 宮本母子保健課長補佐  まず資料の4、前回の主な議論ということですが、議論と申しましても御意見につい て述べた内容というのはほとんどございません。事実関係としまして、その場で確認が できなかった事項が二つございましたので、それを示しております。  一つは神経芽細胞腫の1歳から4歳における死亡率の減少をどのように解釈するかと いう議論がございまして、それはスクリーニングの効果と治療による効果の両方が考え られるというお話でございました。  また、前野委員より御発言がありました、神経芽細胞腫の発生について民族差はある のかという2点でございます。  まず資料の5をごらんください。これは各国のがん登録事業の中で、神経芽細胞腫に ついてのデータを取りまとめたものを、さらにデータを取りまとめているというもので ございます。IRCが取りまとめたデータをもとにこのデータはつくられておりまして 、グラフは累積罹患率です。14歳までに、人口100万人当たり、何人の方が神経芽細胞腫 にかかるのかといった数値をグラフ化したものであります。  見ていただきますとわかるように、日本が真ん中あたりにあります。各国で低い地域 もあれば高い地域もある中で、真ん中くらいになっています。なおこのデータは神経芽 細胞腫マス・スクリーニング事業が本格的に始まる以前のものであるということです。 これが罹患率に関する各国の状況になっています。  それからもう一つ、治療的な変動をどのように考えるかということで、もちろんそれ について記した答えというのがないところが難しいところでありますけども、筑波大学 臨床医学外科教授であります金子院長先生にお伺いいたしまして、金子先生は難性小児 悪性固形腫瘍に対する新たな治療法の臨床への導入に関する研究という、がん研究助成 金による研究班の主任研究者を務めていらっしゃいます。この中で幾つかのがんのうち の一つとして、進行期の神経芽細胞腫の治療法の開発に携わっておられているようです 。その中で教えていただいたのですが、お配りしてある机上配付資料をごらんください 。なお机上配付資料は中間的内容でございましたので、傍聴の方にはお配りしておりま せん。  ちょうど1985年ごろの化学療法の内容に多剤大量療法といいましょうか、化学療法の 内容を向上させたということがあるということでした。それまでの治療成績としては、 小児外科学会、悪性腫瘍委員会での集計としては、1歳以上の2年以上生存率が病期の 3においては約30%、病期の4においては5%以下ということで、非常に予後が悪い状 態であったということでした。これに対して先生が行われた班研究プロトコールによる 治療成績としては、病期3においては5年生存率が70%以上、病期4については30%に なったということで、かなりの向上があったということです。厳密な比較にならないと いうことですが、小児外科学会の登録している症例が、全体の3分の2から半分程度は 少なくともあるのではないかという推定から、そういった治療の向上ということを考え ていくと、3期の向上と4期の向上を合わせて20人くらいの方は生存が図れるようにな ったことが推定されるということでした。  最後のまとめとしましては、1歳から4歳の神経芽腫患者死亡数の減少についてはマ ス・スクリーニングの効果ということも考えられるが、治療の進歩による影響がもっと も大きいとして説明が書かれています。  また5歳から9歳の神経芽腫死亡率は横ばい(減少)、また10歳以上での死亡の増な ども治療による影響として一元的に説明が可能、つまり5年生存率だけではなく、その 中間的な指標として、2年、3年、4年といったところでも生存率の向上が見られてい るために、死亡が先送りといいましょうか、そういったことによって、このような結果 になっているということも説明が可能だということでした。前回のそういった論点に関 する情報としましては以上でございます。 久道座長  今、前回に議論が出たけれどもすぐに答えられなかった疑問について、関係の先生か ら入手した資料で説明がありました。今の説明にどなたか御意見がないでしょうか。 橋都委員  私は金子先生と立場的には非常に近いといいますか、同じことをやっているわけです 。私の印象としてもやはり1985年以降の強力な化学療法の導入の効果というのは非常に 大きいというふうに思っております。ですからこの会の議論に水を差すようですが、い ったい死亡率の比較でマス・スクリーニングの効果の判定が可能なのかという基本的な 点に私自身はかなり疑問を持っていおります。やはり病ごとの発生率の厳密な比較をし ないとなかなか難しいのではないか、死亡率に影響する要因というのは余りに大き過ぎ るというのが私の臨床家としての感じです。  治療による死亡率の低下というのはどなたも認めていると思いますし、私は神経芽腫 においては非常にこれが大きいと思います。  先ほどの説明にもありましたように、年齢の高いところでは余り低下していないでは ないかということに関しては、かつては神経芽腫の死亡する症例は、治療開始後ほとん ど2年以内に死亡していました。しかし現在ではそれが5年後、あるいは10年後に再発 するという、化学療法が強力になったという一つの効果としてそういう現象があらわれ てきていますので、そういった高年齢層で死亡率が必ずしも低下しないからといって、 それがすべてマス・スクリーニングの効果であるというふうに結論づけるのはいかがな ものかというふうに私自身は考えております。 久道座長  坪野委員は、今の橋都委員の御意見に何か御意見はありませんか。 坪野委員  これは小児神経芽細胞腫に限らず、大人の乳がんや大腸がん検診を含めてのスタンダ ードです。結局がん検診には二つのコンポーネントがあって、一つはスクリーニング検 査によってどれだけ早期発見ができるかということと、それから早期発見したものをど れだけ救命できるかという、検査の分野と治療の部分の二つになります。どちらも重要 ですが、スクリーニング検査のテクノロジーとして評価する場合には、まずは検査の精 度が重要になりますが、最終的にテクノロジーではなくてプログラムといいますか、特 にこういった公的施策として行われている場合には、スクリーニング検査の精度と治療 の影響の両方を込みにして、それで最終的に死亡率が減るかどうかという形を最終の評 価指標にするという形が、一応スタンダードとして確立しているかと思います。 橋都委員  それは確かにそうだと思いますが、問題はこの神経芽細胞腫マス・スクリーニングは 既に全国で行われているということです。ですからマス・スクリーニングをしているグ ループとしていないグループとの比較ができないわけです。そうしますと、死亡率の比 較という場合に、どうしても治療の進歩ということをある程度評価に入れないと判断が できない。その治療の進歩をどの程度見積もるかということで結果が非常に大きく変わ ってきてしまうわけです。ということで、現在全国的に行われているこの神経芽細胞腫 マス・スクリーニングにおいて、死亡率の比較で結果が出るのかということに私は非常 に疑問を感じているということです。  これから前方視的に死亡率を比較するというのは、当然これはマス・スクリーニング の最終目的ですから、非常に当然でリーズナブルだと思うのですが、既に全国的に行わ れているこのマス・スクリーニングにおいて死亡率を比較するということがそもそも可 能なのかということに私は疑問を感じているわけです。 坪野委員  私も基本的に先生の意見には同意するのですが、そういう中で、あえて9割受けてい る人と1割受けていない人との比較ということで、いろいろと御苦労をされていると思 いますけれども、現在は日本の子供の大半がマス・スクリーニングを受けているという 状況の中で、死亡率が経年的に下がっていなければ検診の効果はないと言えるわけです が、仮に下がっていたとしても、そこには治療の影響といったことなどが含まれてくる ので、人口動態統計の形で死亡率が下がっているからといって、それをすぐに検診の効 果に結びつけることはできない、治療の影響といったことを考慮しなくてはいけないと いうことは前回の会議でも問題になりましたし、それはそういった整理で適切ではない かと思います。 久道座長  こういった有効性の評価のときには、やはり先生のおっしゃっているような問題点が あり、いろいろなファクターが関係してきますので、時系列による研究は限界がありま すが、それではどうするかということはなかなか難しくて、今おっしゃったように9割 と1割というのは果たして比較をすべき対象になるかどうかということも本当は問題が あります。  そもそものベースとして、いろいろな生活習慣だけではなく、治療に早めに行くか行 かないかといったバイアスもかなり違うだろうということもあり、この研究が非常に難 しいというのはそういうことだろうと思いますが、その中でいろいろと苦労しながらや ってきている日本の研究者がたくさんいて、いろいろなデータを出しているわけですが 、そういう研究手法と違った形で、外国のものがこの数年の間に出てきたということで 、恐らくそういう研究成果も踏まえて議論しようということになったのだと思います。  今事務局から説明があったことに関してほかに御質問はないでしょうか。  なければ、続いて本検討会に寄せられた御意見についていろいろと検討したしまして 、その後にまとめて御議論をいたしたいと思います。  まず日本マス・スクリーニング学会の御意見について、松田参考人から御説明をお願 いしたいと思います。よろしくお願いいたします。 松田参考人  皆様方のお手元に意見書として出してございますが、これに至った経過を少し説明し たいと思います。まず上の方に書いていますように、国政の施策の一環として行われて きた乳児の神経芽細胞腫マス・スクリーニングの見直しが行われることになったという ことが知らさまして、28日に第1回の検討が行われたということも承知しております。 そのときの資料も手もとにございまして、見させていただきました。それにつきまして どのように我々が対応したかといいますと、すぐに理事会を開こうと思ったのですが、 日にちが迫っていたことと、それぞれお忙しい方ばかりですので、一応メールという形 で意見の交換をいたしまして、最初の原稿を皆さんに見てもらって、それから皆様方が 手直しをして返ってきた部分を書き足しまして、でき上がったのが今回お出しした意見 書となっています。  どのくらいのまとまりかと申しますと、21名の理事と幹事がいらっしゃいますが、そ のうちの19名からのお返事をいただきました。このうちの2名の方は御自身で御意見を 出してくださるということでございまして、1人の方は既にここに出ておりますのでい いと思います。もう1人の方はまだだと思いますが、結局19名のうちの17名の方が、今 回の我々の意見書ということでまとめたものでよかろうということであると御理解いた だきたいと思います。  最初は隣の山本先生にも我々の趣旨を御説明しましたけれども、我々がやっているの はスクリーニングであって、実際に患者さんを見ている方々というのはまた別の意見が あるだろうと考えましたので、やはりそれは実際にスクリーニングで見つけた患者さん を見ているという立場からスクリーニング事業をどのように考えてらっしゃるかという 御意見を伺った方がよろしいだろうと思いましたので、我々はそういう考えに基づいて 分けて提出するというふうにいたしました。  私たちの基本的な態度として一つ言えることは、今まで行われてきたものに関しては 、我々は丁方に認めてきたわけですけれども、ここで一応線を引いて考えようという態 度にはみんな賛成するという意見です。読ませていただきます。  今回の検討会は、これまで長年にわたって厚生労働省の指導下に進められてきたこの 事業に携わってきた医師、検査技師などにとっても大きな関心事であり、今後どのよう な展開になっていくか、注意深く見守っていきたく存じます。  現在、厚生労働省の厚生科学研究で、隣にいらっしゃる林先生を班長とする神経芽細 胞腫の前向きのコホート研究が進行中であり、その最終結果はまだ出されておりません 。これは、これまで行われてきた後ろ向きコホート研究とちょうど対をなすものであり 、科学的にも極めて重要な研究だろうというふうに我々は判断しています。  特にこの研究は北米、ドイツなどから報告された神経芽細胞腫スクリーニングに関す る結論と日本のそれとを比較するという意味でも、この前向きのコホート研究というの は非常に大事だろうと思っております。  場合によっては人種差ということもあるかもしれませんので、それを裏づけると言い ますか、それに対する回答を出せるかという課題にもなるかというふうに思っています 。  先ほどからマス・スクリーニングの意義ということが大変問題にされておりましたけ れども、現在世界中が新生児スクリーニングのミッションとして罹患率、死亡率の低下 を図るというように認識しています。  これまで我が国の後ろ向きのコホート研究では、調査対象地区や調査対象数が異なり 、必ずしも意見が一致していません。  対象人数を最も多く取ったのが厚生労働省の研究でございまして、この報告書を久繁 報告書と我々は呼んでおりますが、この報告書では、神経芽細胞腫スクリーニングを受 けたグループでの乳児期の死亡率は、それを受けなかったグループに比較して、有意に 低かったということが発表されています。  確かに本症の場合には自然治癒する症例も決して珍しくありません。また、後ろ向き コホート研究のいずれにつきましても、そのあり方に問題があることも承知しています 。  先ほど問題になっておりましたように、受けている方の数がかなり多くて、受けてい ない方の数が少ないという問題がありますので、それを果たして同列に比較していいか どうかという問題、それから受けた方たちは確かに非常に神経質と言いますか、そうい うことに対して気を使ってらっしゃる方でしょうし、受けていらっしゃらない方は割と のんきな方と言いますか、そういうこともありますので、必ずしもフェアじゃないとい う意見が出されていましたけれども、それも考えられるかもしれません。  そういうことを全部含めて考えると、本スクリーニングについては再検討をする時期 に来ているという判断には同意いたします。  しかし、スクリーニングを受けたグループにおける神経芽細胞腫死亡率の低下という 報告がありまして、それが誤りである、間違っていたということを示すデータがない限 り、こと人命に関する問題であることを考慮すると、現時点で直ちにこのスクリーニン グ事業を中止するということには慎重にならざるを得ません。  少なくとも現在行われている林先生を中心とする神経芽細胞腫の前向きのコホート研 究によって科学的な根拠が提出される以前に、早急に結論を急ぐことは避けるべきであ ろうと考えております。その後、林先生が出された結果によって、いろいろな選択肢が あるだろうというふうに我々は考えています。  そのうちの一部として、こういった選択肢も採れるかもしれないということは、そこ に書いてありますように、例えば実施時期を変更する、またはシステムとしては残すけ れども、これはがん検診ですので費用については自己負担にするとか、場合によっては やはりどう考えても余りいいものではないので中止するなどいろいろとあると思います 。場合によってはドイツのように一時中止して、最初から研究を組み直してはっきりさ せないといけないという考え方もあろうかと思います。  いずれにしましても現時点で早急な結論を出すのではなくて、ここで線を引いて、何 がもっとも大事なのかということをディスカッションして決めるべきであろうというの が私たちの基本的な考えです。御清聴ありがとうございました。以上です。 久道座長  どうもありがとうございました。続いて日本小児がん学会の御意見を山本参考人から お願いいたします。 山本参考人  私どもは小児がんについて臨床的あるいは基礎的に研究し、あるいは診療を行ってい ますが、神経芽腫はもっとも重要な腫瘍でございまして、ずっとその対象としてまいり ました。  その中でマス・スクリーニングについても議論してまいりましたので、このたびこの ような検討会が持たれるということになった場合に、学会ではどう考えているのかとい うことを示すということは社会的な責任であろうと思い、このような意見書をつくらせ ていただきました。読ませていただきます。  神経芽腫は代表的な小児がんであり、その進行例の予後は極めて不良でございます。 我々は治療成績を改善すべく臨床的基礎的研究に取り組んでおり、早期発見を目的とし た、神経芽腫マス・スクリーニングの効果に関する疫学調査に関しても、多くの議論を 行ってまいりました。  1984年以来スクリーニングが実施されている我が国では、スクリーニングによる神経 芽腫発生率の増加が見られております。しかし死亡率に関しては、有意に低下したとす る報告と、そうでないとする報告がございます。  海外では、カナダは1989年から1994年に実施しましたが、発生率が増加して、死亡率 は低下しなかったこと、ドイツでは1995年から2001年に実施されておりますが、同様に 発生率が増加して、中間報告ではございますが、死亡率は低下していないことが報告さ れております。このような背景から、我が国のスクリーニングのあり方に関して検討会 が開催されたことは意義あることと考えます。  スクリーニングに関しまして、我が国の評価が海外に比較して不明確で、結論がおく れている最大の理由は、海外ではがん登録がありましたり、スクリーニングが非実施地 域を対象とする研究として実施されていたりすることに対しまして、我が国では人口対 のデータを示し得る全国規模の小児がん登録がなく、当初から保健事業として実施され 、かつ長い間、全国的な検討の態勢が構築されなかったことにあると思います。  現在幸いにも我が国では、厚生科学研究による前方視的な研究として、1995年から200 2年までに出生した全国の小児を対象として、神経芽細胞腫マス・スクリーニングプログ ラムの疫学評価という、林先生の御研究が進行中でございまして、この研究から得られ る最終の結果をぜひとも考慮に入れていただきたいものと思います。  一方、スクリーニング実施以来、基礎的臨床的知見が蓄積されまして、現在では神経 芽腫には自然退縮や神経節腫への変化が見られる極めて予後良好なタイプと、急速に進 展して極めて予後不良なタイプと、その中間型の3型があると考えられております。  臨床の立場から見ますと、統計学的には有意でなくとも、スクリーニングによって確 実に死を免れた小児は存在すると考えています。しかしながら、最も予後不良で死亡率 の高いタイプの腫瘍は早期発見例が少なく、自然退縮する可能性のある腫瘍を多く発見 していることも事実でございます。  我が国のスクリーニングの今後のあり方を決定するに当たりましては、海外の報告を 参考にするとともに、我が国の状況を十分に検討して、正しい結論に導いていただくこ とを切望しております。そして、もしスクリーニングが中止される場合には、中止した ことによる神経芽腫の人口対の発生率と死亡率の変化が観察可能な登録システムを構築 する必要があると存じます。つまり中止したことがよかったかどうかということもわか るべきであると思うからであります。  また、時期を変更したスクリーニングによる早期発見の可能性、あるいは治療法の確 立、自然史の研究等も行っていくべきだと思っております。  続きまして、ただいまの意見書は学会としてつくりましたものですけれども、その御 説明といたしまして私自身が資料をつくらせていただきましたので、それを見ていただ きたいと思います。  資料7になります。ここには神経芽腫の専門家の先生もおいでになりますが、必ずし も専門ではない方もおいでになると思いまして、非常に常識的なことではありますけれ ども、御説明のためにつくったものでございます。  まずマス・スクリーニングの実施のことですけれども、国内では1984年に全国的に行 われるようになりましたが、89年から1991年にかけてHPLCが導入されまして、定量 法というのが用いられるようになり、現在に及んでいるのは御承知のとおりでございま す。  海外では、カナダで1989年5月から開始されまして、5年間行われ、その報告がなさ れました。方法としては、薄層クロマトグラフィーという方法で、日本では最初は定性 法と呼ばれているものを1984年から始めたわけですが、1989年に開始したカナダでは、 日本で定性法と呼ばれているものよりもよいということで、これを採用したものと思わ れます。しかし日本では1989年から定量法に移っておりまして、この点でカナダの方法 は現在の日本のものよりも精度が劣るということで問題にされているわけでございます 。  そのころこの神経芽腫マス・スクリーニングは興味を持たれまして、世界じゅうで試 みられました。特にヨーロッパ諸国では、1990年から、イギリス、ドイツ、オーストリ ア、フランス等で行われました。このときは日本と同じように、カナダ、ヨーロッパと も1歳以下を対象として行われております。続いて1995年5月からドイツで開始されま した。これは前回のときに御紹介がありましたように、コントロールの地域をつくって 行われましたが、1995年から始まったので、日本と同じようにVMAとHVAとの定量 法が用いられました。そして日本のマススクリーニングで発見された1歳以下の症例に 過剰診断があるのではないかということが云われ始めておりましたので、対象は1歳児 とされたわけでございます。  続きまして神経芽腫の特徴について述べさせていただきたいと思います。  マス・スクリーニング開始当時には、神経芽腫は1歳末満で予後良好で、1歳以上では 予後不良、早期例は予後良好、進展例は予後不良であって、1歳末満では早期例が多く、 1歳以上では進展例が多いから、1歳末満で症状が発現する前に早期例を発見すれば、神 経芽腫の進展例が減り、全体として神経芽腫の予後が改善されると考えられていたわけ でございます。  2枚めくっていただいたところにあります表1が、そのころ日本の大きな研究班でま とめられた患者さんの分布でして、病期と年齢が書いてあります。その下にCCSGA とありますのは、米国のグループスタディーで、同じような結果になっています。  この表に示されるように神経芽腫というのは一つの病気であり、年令が小さいうちで 病期が進まないうちに発見すれば、年長になって進展する例が減るであろうという推定 が成り立ったわけでございます。  このころも、神経芽腫には病期VISという特殊な型があり、乳児の早期の著しい肝腫 大などの遠隔転移があるけれども、自然退縮し、あるいは最小の治療で治癒するという 特徴があることは知られていましたが、これは頻度が少ない例外的な現象というふうに 考えられていたと思います。  1980年後半から、というのはマス・スクリーニングが始まりましてから1990年前半に 、神経芽腫の腫瘍の染色体やDNA、がん遺伝子などの研究成果が数多く報告されまし た。その結果、神経芽腫は多様性のある腫瘍であって、乳児期の予後良好な腫瘍と、年 長児で進展例として診断される腫瘍は別のサブグループであると考えられるようになり ました。  これは資料4の5ページになりますが、上の図が腫瘍の染色体を示しておりまして、 図1がマス・スクリーニングで発見される方、図2が臨床的に診断された方で、非常に 進展しているもっとも悪いタイプです。右は染色体の数も46本であって、いろいろな矢 印がありますように異常があるタイプです。左側はマス・スクリーニングで見つかるこ とが多いもので、染色体の数がふえているだけで、染色体の構造に変化はなく、数がふ えて、平均すると3本になっているというタイプでございます。左側のタイプが次第に 移って右側のタイプになるということは考えにくいということから、両者は別のグルー プであろうということが早くから言われ始めておりました。  その後、いろいろな研究の成果がございまして、今ではその下にあります図のように 考えられていると思います。矢印の一番上にあります3nというところが上の図1に当 たりまして、細長くなって線が引いてありますのは、分化して、神経細胞と神経繊維に なっていくということです。その下にアポトージスとありますが、これは腫瘍が消えて いくということです。それから下の段の矢印が二つに分かれておりまして、一番下は非 常に急速に進んで、予後が非常に悪いもの、Nmycという癌遺伝子が増幅しているも ので、途中で矢印が上に上がっていますのは、その中間型というように考えられるよう になりました。  このようなことがありまして、マス・スクリーニングで見つけている腫瘍は、予後良 好な腫瘍なのではないか、もしくはそういうものが多く含まれているのではないかとい うことがだんだん明らかになってきましたので、治療をしないで様子を見ていこうとい うことが行われるようになりました。  第1例は、1990年に報告されました。当時は、無治療ということは冒険だというよう に感じられましたが、その後、1994年ごろから相当の数の報告が行われるようになりま した。  この神経芽腫の特徴に関しまして、1990年のドイツのマス・スクリーニングでは、ス クリーニングの根拠としては先ほどの左側の表にありましたように、日本で根拠とした のと同じようなデータを掲げております。表2になります。  ですからドイツで1990年に始めたときには、まだ日本のスクリーニング開始時と同じ ように、神経芽腫は一つの塊の腫瘍であって、早期にスクリーニングで発見すれば予後 が改善されるという考えがあったということ、その後神経芽腫に対する考え方が変化し ていったということを申し上げたいと思います。  疫学評価は前回の検討会のときに詳しく述べられましたけれども、過剰診断はどの報 告でも一致して認めており、死亡の低下については一致しないということは、疫学の専 門家でない我々から申しますと、過剰診断は大きい、死亡の低下があることは絶対には 否定できない。あるとは思うけれども、多分少ないのではないかというのが解釈でござ います。  海外ではどのように考えられていたかと申しますと、会が開かれ、コンセンサスとし て雑誌に報告されたものですが、1990年と1998年にございます。  1990年のときは、このマス・スクリーニングが世界的に広まっていたときでして、そ のときの主張は、まだ結果が出ていないから意義はわからない、どんどん広げるのはい かがなものか、人口対の死亡率の低下を明らかにすべきであるということが言われたと 思います。  1998年のものは、当時ドイツで1歳児におけるマス・スクリーニングが行われている ときでしたので、1歳以下のマス・スクリーニングと1歳以上のマス・スクリーニング を分けて意義を考えるというようなまとめ方をしていまして、1歳以下のマス・スクリ ーニングには過剰診断があって、死亡率の抵下はないか、あっても少ないから、保健事 業としては推奨できないというふうに結論づけています。  マス・スクリーニング発見例の臨床ですけれども、私たちは学会の中に神経芽腫委員 会をつくりまして、当初から発見された症例を登録、集計しております。  それをごく簡単に申しますと、1998年度までに発見した例として1947例が集計されて おります。そのうち月齢6から8カ月までで83.3%、原発部位は副腎が51%、病期はIが3 9%、IIが31%、IとIIで全体の70%ということです。  I、IIといいますのは、Iは腫瘍そのものの中に局在している。IIというのは腫瘍のご く近くに浸潤やリンパ転移があるものをいいます。もっとも予後不良なタイプにみられ る癌遺伝子、Nmycの増幅は2%に見られました。Nmycの増幅というときには、 何倍以上の増幅かということがいわれるのですが、治療上本当に予後が悪いとされるの は10倍以上ですが、10倍以上の増幅は0.6%に見られました。  全摘出、部分摘出を含めまして、手術で腫瘍が摘出されたのは90%、化学療法が行わ れたのが60%、発見5年後の生存は98%で、死亡は2%でした。総じて非常に予後がよい ということでございます。  最後に、マス・スクリーニングの今後に関しましては、過剰診断の不利益と死亡率低 下の利益の比較が大事なのではないかということです。死亡率の低下があるかないかだ けではなくて、その大きさということが大事なのではないかと思います。 久道座長  ありがとうございました。ちょっと確認なのですが、学会のコンセンサスの一つとし て、過剰診断があるということは認めていて、死亡率減少の効果は少ないのではないか というふうな発言をなさったように聞いたのですが、それは日本におけるコンセンサス ですか。 山本参考人  死亡率低下が少ないのではないかということは、解説として述べた私の意見でござい ます。 久道座長  そうですか。 山本参考人  ただ死亡率が統計学的に低下しているかどうかは、学会としてはわからない。しかし 死亡を免れた患者さんはいると思っている。これがコンセンサスです。 久道座長  そうですか。それから先生が出された資料の3ページに、文献という項目があります が、その8番目にマス・スクリーニングで発見され、無治療で経過観察された神経芽腫8 2例というタイトルがあるのですが、この82例はどうなったのですか。 山本参考人  これは1998年に、それまでに行われた無治療の例を集めたものです。ですから条件等 をそろえて行ったものではありません。ただ大体において同じような条件で行われてい るということがあります。その82例のうち、結局途中で手術をしようということになっ て手術をして摘出しましたのが23名で、残りはそのまま観察されています。途中で手術 をした例といいますのは、一つはやはり腫瘍が大きくなってきたので取った方がいいと 思って取ったものもありますし、小さくならないから取ったというものもありますし、 小さくなったけれども、やはり取ったというものもありますので、余りきれいなデータ ではないのですけれども、残りのものはそのまま見ていって、尿中のVMA値でいえば すべて正常化しています。腫瘍が消えたかといえばそうではなく、消えたものもありま すし、消えないものもあります。 久道座長  死亡した例はありますか。 山本参考人  死亡した例はありません。それから非常に進展して、多くの化学療法を必要とする状 況になったという例もありません。 久道座長  途中で手術した23例にも死亡例はございませんか。 山本参考人  ありません。 久道座長  そうですか。それでは今の山本先生のお話について、すぐに質問したいことなどはあ りますか。 橋都委員  今の先生の御意見をお聞きしていると、私と同じで、少なくとも現在の6カ月のマス ・スクリーニングは余り意味がなくて、中止してもいいというように聞こえるのですが 、先生の個人的な考えとしてはそういう考えだと考えてよろしいのでしょうか。  死亡率の低下は非常に少ないであろう、過剰診断はあるであろうということになりま すと、科学的にいえば、これは少なくとも現在の6カ月のマス・スクリーニングは中止 すべきだという結論になるのではないかと思いますが、先生の個人的な御意見はいかが でしょうか。 山本参考人  その前に、それをお決めになるのが、この会議ではないかと思いますが。 橋都委員  もちろんそうですが。 山本参考人  あえて私個人の意見をとおっしゃるのであれば、そのように思います。弊害と効果を 比べた場合に、やはり続けることは適切ではないのではないかというのが個人的な意見 です。 久道座長  それではほかの御意見もありますので、事務局の方から少し紹介をしていただけます か。 宮本母子保健課長補佐  個人からいただきました御意見が三つほどございまして、ただいま御説明がありまし た小児がん学会からの意見について載せておりますので、ごらんいただきたいと思いま す。  まず一つ目が西基医師よりいただきました点でございまして、概要を説明いたします と、現在の1歳から2歳における死亡率の低下というのは、マス・スクリーニングの有 効性をもっとも明確に示しているデータである。もし事業を中止した場合には、現在得 られているデータからすると、死亡率の上昇が見られるであろうということです。  また、5歳から9歳、それ以上の年代についても、HPLCスクリーニングの検査法 の向上が行われた時期の影響をおくれて受ける集団であるということから、出てくるの ではないかというふうに述べてございます。  続いてカナダの研究に対しまして、感度が劣る方法を用いているということを指摘さ れておりまして、続いてドイツの研究につきましては、発生率、死亡率の低い集団を対 象として比較している点において、スクリーニング無効の結論を導くということが行わ れているという指摘をされ、一方でドイツの結果については、非常に精度が高いデータ を出しているのではないかという指摘をされています。  また、我が国で行われてきた後ろ向きのコホート研究に対しては、各種のバイアスを 検討しても結論がひっくり返るというほどのものではないということを示されています 。  まとめとしては、今は中止どころか実施月齢や回数などを検討すべき時期と考えてい るということで、まずは検討することを前提として、実施月齢、回数を検討することな どを示されております。やめるかどうかではなく、そういった方向での議論がされるこ とが大事だということです。  続きまして、成瀬浩氏よりいただきました意見書の内容を紹介させていただきます。  やはりドイツとカナダの研究に関しましてコメントがされておりまして、カナダの研 究に対しては感度が低いということについて指摘をされております。  それからドイツの研究に対しては、もともと死亡率などについて、長期間かけて行わ れる研究であるということを言われていたという点を指摘されております。  スクリーニング事業に対する全般の御意見ですけれども、現在行われているスクリー ニングの事業において、臨床症状が発現する前に発見されて、早期治療により救われた 方もいるであろうというふうに主張されています。  そのような状況のもとで、スクリーニングの意味、有効性を否定するような資料が必 要であると指摘されております。  日本の疫学的な研究においても質の高い研究を行うことは可能であり、その研究の結 論を待つことも重要であるというふうに述べておられます。それから当面の必要な対応 策としまして、神経芽細胞腫マス・スクリーニングの陽性者に対する全国統一のプロト コールをつくることによって、過剰な治療を減少させていくようなことも必要であると 指摘されています。また、スクリーニングを受ける方への説明ということで、親御さん に対して今の問題をわかりやすく説明する文書をつくり、詳しく説明することが必要で あるというふうに述べておられます。  それから当面の課題としまして、本当の悪性の方を良性の方から区別する方法を確立 するための研究推進ということを述べておられます。  また、神経芽細胞腫以外も含めまして、マス・スクリーニングを実施するまでに非常 に反対意見が強かったけれども、実施をするにつれてプラス面が認識され、今や反対だ った方、地域も含めた多くの国で行われているということで、適切な結論を出していた だくということを希望するという形でまとめられております。  続きまして澤田淳氏よりいただきました御意見ですけれども、スクリーニング事業を 開始したきっかけとしまして、診断のおくれと適切な治療法のなさが原因で、非常に悲 惨な結果になる方が多かったということに対応したものであるということを述べておら れます。  またスクリーニングで明らかになったことと対応として、スクリーニングで発見され る方について、従来のような強力な治療は不要と考えた結果、治療プロトコールが作成 され、治療の軽減化、時間の短縮が図られているということで、不必要な治療は避けら れるべく努力をされているということ、それから治療の向上などや予後因子が明確にな るにつれて治療関連死は減少しているということを述べておられます。  また、海外の研究についてもやはり検討されておられまして、ドイツ、カナダの研究 ともに感度が低いという内容を主に示していらっしゃるのだと思いますが、そういった 精度、感度が示されない限り、信用しがたいものであり、一方我が国の現状を見ると、 1歳から4歳の死亡率のスクリーニングによる効果と考えるのは妥当であって、これを 治療の進歩と評価するのは奇妙であるということを示唆されておりまして、このような 傍証がある状況において、スクリーニングをやめなければならない理由はないというふ うに指摘されています。  またスクリーニング発見例には、自然治癒例が含まれている可能性があるという点に ついては認めておられますが、ただ、この発見というのも、見つけなくてもよい、過剰 診断である、ということは言えないといった主張をされております。  それから疫学がこの事業に持つ意義ということで、最初にスクリーニングを始める際 に、疫学的観点を抜きにして、1人でも多くの神経芽細胞腫の患者さんを救いたいとい う臨床上の必然性から始めたという点について問題があったことについてはおわびをし たいというふうに述べておられます。  今後の問題についての対応ということで、6カ月のスクリーニングがこれまでの所見 から時期が不適当であることは納得できる。時期の変更を考えてほしいということで、 多少のリスクはあるが18カ月に移動するということを述べられています。  付随しまして、臨床的には以前のように進行例に会うことが少なくなったという印象 があるということを述べておられます。  まとめとしまして、日本での進行中のデータがありながら、決定的でない疫学的不備 を問題として結論を出さないでほしいということ、また小児がんの正確な疫学が必須で あり、国の事業としてシステムを確立してほしいというように述べられております。  以上が個人からいただきました三つの御意見でございます。 久道座長  どうもありがとうございました。それぞれの意見書は委員の方々には資料として事前 配布して読んでいただいていると思いますので、今の説明がそれから比べると不十分で あるということは御理解をいただきたいと思います。  それでは御意見をいただく前に、林先生が現在分担研究者として行っております、疫 学評価研究について御説明をお願いしたいと思います。 林参考人  お手元の資料8をごらんください。まず厚生省の研究班ですけれども、実は班として は小児スクリーニングの全体を見るという、徳島大学の黒田先生が主任研究者をされて いる研究の中で、神経芽細胞腫のマス・スクリーニングの研究班ということで平成13年 度から始まり、今年度を最後の年として進行中のものであります。  その中でスクリーニングの有効性を疫学的評価しようということで、現在大きくは三 つの研究を実施中であります。  一つは資料の8にありますように、全国の平成7年以降生まれの小児を全員対象にし た形で、平成13年までの死亡の中から、神経芽細胞腫の死亡を人口動態統計の死亡票 で死因を確認し、見ていこうという研究計画になっております。  研究の大枠としては、資料8の5ページにあります図の1を見ていただくと大枠が書 いてありますが、平成7年生まれの小児から始まって毎年、中には当然受診、未受診の 両方のお子さんが出ておりますが、それぞれ全員を対象に平成7年以降、現在のところ 、平成13年の死亡までが観察できたという形であります。  目標としている人年、もしくは観察対象の人数は、事前計画した対象者の数にほぼ到 達して、現在のところ、観察人年としては2300万人年という数が達成されているという ことになります。  続きまして表の2になりますが、実際に平成7年以降に生まれた小児の中で、平成13 年までに死亡したことを確認できた例として、合計で107人のお子さんの死亡が確認され ました。そのうち6カ月未満で死亡したお子さんがいらっしゃいまして、このお子さん は6カ月のスクリーニングの効果を判定するという目的からは対象にならないお子さん たちということで、実際に比較の対象になるお子さんのケースは89例ということになり ます。現在はこのお子さんたちの受診、未受診の確認を、各都道府県で行われている検 査リスト等で確認しているということです。  多くの場合、検査リストは検査をされたお子さんのリストが残っており、未受診者の リストが残っているということはほとんどありませんので、未受診者のお子さんの住所 移動の可能性がある場合は、転居がその間にあったかということ、もしくは小児慢性特 定疾患・意見書での情報等を確認しながら、受診、未受診を確認するということであり ます。これが先ほどからお話が出ている、前向きのコホート型で比較をしようという研 究の一つです。  また、この研究班では、同時に行っている研究があと二つばかりあります。いわゆる 観察的な疫学研究、つまり実験的な比較をするということではないので、いろいろな意 味でバイアスが入ってくる可能性があります。一つの研究でバイアスがどれくらいあっ たかということは直接確認ができないので、幾つかの研究デザインを組み合わせて、そ のバイアスの程度を推定するということが必要になるわけです。その中で一つの研究と して、神経芽細胞腫で死亡したお子さんをケース、ほかの死因で死亡されたお子さんを コントロールと考えまして、疫学の研究ではケースコントロール型と呼ばれる研究でそ れぞれのお子さんの受診、未受診を見る。もしも神経芽細胞腫で死亡したお子さんで受 診、未受診の間に違いがあるということであれば、ほかの死亡ではどうなのか、ほかの 死亡では受診、未受診に差がなくて、唯一神経芽細胞腫の死亡だけに差があるというこ とであれば、スクリーニングの受診、未受診で違いがあるというふうに判断できます。 ということで、ケースコントロール型の研究を今、進めております。  そして3つ目の研究として、ケースによって特定されたお子さんを検査リストで受診・ 未受診を特定していくという作業を進めているわけですが、その中にも当然いろいろな 意味でのバイアスが入ってくる可能性がありますので、全く一般の集団のお子さん、つ まり神経芽細胞腫ではないお子さんで、同じ特定の仕方、同一の手順を踏む形で受診、 未受診を確定ことを行っております。  今回のこの研究での受診、未受診の特定の仕方の中で、何か大きなバイアスが入るか どうかということを、そういった形で確認するという、大きく三つの研究が現在進行中 であります。  先ほどからいろいろと議論がなされておりますが、種々の疫学研究はいろいろな意味 で研究が困難な場面、もしくは研究自体にいろいろと制約があります。一つは神経芽細 胞腫での死亡という事象を考えた場合に、これは非常にまれなので、比較をしようと思 ってもまず対象となる観察の人年、もしくは観察者の数において非常に大きな数が必要 になるだろうということがあります。  そして統計的に明らかに有意差があるということを示せればいいのですが、逆に差が ないといったことを統計的に仮説検証するということは非常に困難でありまして、基本 的には統計的に差があるかないかということよりも、もし死亡を減らしているのであれ ば、どれくらい減らしているのかという定量的な値を得るということを最終的な目標に しているというのがこの研究の特徴になっています。  また、日本は現状としては神経芽細胞腫マス・スクリーニングが既に9割近く導入さ れ、かつ20年近くたっているわけですから、本来ならばドイツで行ったような、介入を する形で、例えばソークワクチンのようなフィールド・トライアルのような形で行うと いうことも研究デザインの可能性としてはあるわけですが、基本的に既に導入されてい る中で、しないグループ、するグループと割り付けるのはなかなか実施困難であろうと いうことがありました。  ですから現状としては観察的な研究を行って、その中での比較を通じて、定量的なも のを進めていこうという研究になっています。  もう一つの特徴は、日本もこのスクリーニングを導入してから歴史的に非常に長い時 間がたっていまして、いろいろと御議論が時系列の年代の変化と死亡率に関してはある わけですが、やはり時系列で見ている限りは、先ほども御議論がありましたように、ス クリーニングの効果、治療の効果、年代の変化というものをきれいに分離することは無 理なので、基本的には同時期における、受診のグループと未受診のグループのお子さん とを比較するといった同時比較を行うということを研究の骨子にしております。  現状としては89例の死亡が特定されたという段階で、この89例のお子さんの検査の受 診、未受診を特定中ということであります。 久道座長  どうもありがとうございました。ただいまの林先生の報告、あるいは参考人の意見も 含めて、委員の方から何か御質問はございませんでしょうか。 秦委員  林先生に伺いたいのですが、先ほど死亡率が低下したかしないかという問題で、定量 的な値でとおっしゃいましたが、それはどういうことでしょうか。 林参考人  そもそも死亡率が低下したかしないかという議論は非常に難しいであろうということ で、下がったか下がらないかということを決定する一つの要因としては、統計学的に有 意かどうか、つまり自然の変動の中でたまたま下がったのではないという範囲かどうか を見るという統計学的な評価をするわけです。統計的に有意かどうかということを指標 にしまして、2千数百万人年の観察が必要であろうと。今申しましたような、4歳から 5歳までの、もしかすると死亡率が低下しているかもしれないという年代だけに限って いうと、その間に全員が同じ時間の観察ができたとして、恐らく500、600万人のお子さ んが観察の対象として必要かと思います。  実際にドイツもそれくらいの数が今、対象となっていると思いますし、ただドイツの 場合は2008年まで観察される予定だと思いますが、非常に大規模な数を対象にしなくて はいけないということがあります。その中で恐らく議論としては、スクリーニングの効 果といった意味で評価される場合に、統計的に有意な差があるかないかということも一 つの大きなデシジョン・メイキングの指標にはなると思うのですが、もう一つは実際に どれくらい下げているのかという数字の大きさが必要だろうと思います。  その場合も当然、大きな数の対象者から得た数字でなければ、なかなか偶然の変動を 乗り越えるような推定ができないというような問題があり、難しさがあるかとは思って います。 久道座長  ほかに御意見はございませんか。 橋都委員  私は臨床ですから、疫学的な問題には疎くて、よくわからないのですが、ただ神経芽 腫による死亡の同定が本当に可能なのかどうかということ、死因としてはどういうもの を拾うのかということですが、当然神経芽腫でも、治療関連死として、肺炎などで亡く なる方がいると思います。その中でも、肺炎が助かった場合にそのまま生存できる人と 、肺炎が助かってもその後に神経芽腫で亡くなる人がいるわけです。そういったものを きちんと区別できないと、神経芽腫による死亡を正確に出すということは難しいと思う のですが、この死亡というのは腫瘍死だけを拾っているのか、あるいは治療関連死も拾 えるのか、治療関連死の中でも神経芽腫で亡くなると予想される人、腫瘍からはキュア されて長期生存すると想定される人が区別できるのかどうか、それをお伺いしたいので すが。 林参考人  御存じのように、通常こういった死因をたどっていく場合はICDのコードを探って いくわけですが、残念ながらICDのコードの中に神経芽細胞腫の死亡というのはあり ません。ですので、可能性があるであろう小児の疾患で、特に腫瘍ですので部位でたど っているわけですが、可能性のある部位を一応すべて候補として引っ張り出して、20歳 以下のお子さんの死亡を全て拾い出すということをしました。  その中で、当然死亡診断書の中で、アからイ、ウと死因がたくさん書いてありますが 、多くの場合は、そのもとになっているであろう疾患の名前をコード化していただいて いる形ですので、なるべく広く当たって、実際の死亡診断書を見て確定していくという 作業をしています。  ただ、絶対に100%がとれているかどうかという保証はありません。今はたどれる限り たどって、その中で特定しているということです。この方法は、ヨーロッパなどの死亡 診断書をもとにしている論文や統計とほぼ同じやり方を行っていますので、比較は可能 だと思います。 橋都委員  少なくとも腫瘍死だけではなくて、ほかのものも拾って、その中である程度判定する ことはできるということでしょうか。 林参考人  はい。 橋都委員  ありがとうございました。 久道座長  ほかにございませんか。 柳田委員  いろいろな研究報告や御意見を聞きながら思ったのですが、がんを放置していてよい のかということ、それを見分ける方法がまだ解明されておりませんし、異常なしとされ ても、1歳を過ぎると悪化する腫瘍が発生するというようなことから、効果を確かめず に、客観的なデータもなくて、この検査が欧米の研究等から日本にも導入されたという ことでしょうが、それを今さらどうということもできませんけれども、とにかく現在は 国家事業として続けているということでありますので、やはり国民が納得できる根拠を 示すということがないままに中止をした場合、だれが責任を追うのでしょうか。例えば この検討会が責任を負うのか、あるいは厚生労働省が責任を負うのか、その辺は大変難 しい問題でありまして、私は今の段階では、なぜ今その結論を急がなくてはいけないの かということが非常に気になっております。  先ほど示されました厚生科学研究の方は、そんなに時間もかからないでしょうから、 その成果を待って各々の立場からご意見を持ちよって、結論を出していただきたいとい うふうに、慎重な態度を取らざるを得ないと思います。以上です。 久道座長  今のお話の中には難しい質問もありましたね。どこが責任を取るのか。多分この委員 会は取らなくてもいいと思います。  結論を急いでいるわけではありません。ほかのがん検診もそうだったと思うのですが 、内外の研究から知り得た情報で、現在日本がやっている方法に対して反対の意見が出 たときの対応をどうするかという問題と同じだと思うのですが、それを議論もしないで 放置しておくということも別の意味での責任があるのではないかということだろうと思 います。  かといって、外国のデータが来たから、その意見に倣ってすぐに中止をしようという ことではないと思います。  そういった意見もあるということを踏まえて、国内での議論をしようという立場では ないかと思っているのですが、何か厚生労働省では今の柳田委員の発言にお答えできる ところがありますか。 谷口母子保健課長  今はまだ検討の真っ最中でございますので、あえて私の方から結論めいたことを申し 上げる必要はありませんし、それをしてはいけないと思いますけれども、責任問題につ きましては、これは最終的には行政が決めざるを得ないことですので、当然行政の責任 ということになります。  万が一、この検討会の責任だということになったときに、そのせいで検討会の結論が 変わるようでは、逆に我々としては大変困りますので、そこは気になさらずに、最後は 行政に責任を取れとおっしゃっていただいて、基本的には先生方も国民のお1人でいら っしゃいますので、そういう視点からどうすべきかという御判断をいただければよろし いのではないかと私は考えています。 久道座長  ほかに御意見はございますか。 橋都委員  私は最初に申し上げましたように、すでにマススクリーニングが行われている死亡率 でこのマス・スクリーニングの効果を判定するのは無理があるのではないか、やはり病 期ごとの発生率で判定すべきだというのが基本的な考えなのです。私はドイツのシリン グの論文というのを意味で非常に評価していたわけです。  ところが今回、何人かの個人からの御意見で、あの論文にはバイアスがあり、政治的 な意図すら感じるというような極端な意見まであって、私はある意味で非常に衝撃を受 けました。  この委員会にも疫学の専門家の方がおられるので、そのあたりについて、本当にそん なに問題になる論文なのかという御意見をどうしても頂戴したいと思うのですが、よろ しいでしょうか。 久道座長  それでは坪野委員からお願いします。 坪野委員  幾つかの段階に分けて話す必要があると思いますが、まずこのドイツの研究といえど も、金科玉条として絶対視すべきものではないということはおっしゃるとおりです。と いうのは、ほかのがん検診も含めた検診の中で、無作為に割りつけて、検診を行うグル ープと行わないグループに分けて、罹患率や死亡率を比べるという方法がもっとも精度 の高い方法ですが、これはやられておりません。ドイツの方法はそういうことではなく 、ドイツの全土をランダムではない二つのグループに分けて、そのうちのコントロール 群の、研究を始める前の罹患率が若干低いといいますか、多少バランスがとれていない という問題点は当然あります。  特に前向きにやった介入研究としてはドイツとカナダのもののみですけれども、それ だけをかがみとするというようなことではないと思います。  ただ何人かの先生たちから、ドイツのものは検査精度が低いので日本の研究とは比べ られないというような御指摘がありましたけれども、前回に資料7として配った先行研 究のレビューの14ページの表の3を見ていただきたいと思います。  これは前回も説明しましたが、橋都先生もおっしゃっているように、死亡率にはいろ いろと問題があり、罹患率のデータが重要であるということに対する一種の答えを提供 しているのではないかと思います。  一番右の罹患率の比というのは、要するに検診をやらなかったグループ、あるいは検 診を行わなかった時期の発生率と比べて、検診をやったグループ、あるいは検診を受け た時期での発生率が何倍になるかということを示しています。  一番上がドイツですが、これは精度が低いという批判があるにもかかわらず、検診を やったことによって、検診をやらなかったグループよりも1.94倍という、大幅な罹患率 の上昇があるわけです。  2番目のカナダの研究も、精度が低いという批判がありながら、2.17倍という2倍近 い罹患率の上昇があります。  以下は日本でこれまでに行われたさまざまな研究ですけれども、そういったものでも 同程度の罹患率の上昇が見られています。  ですから、もし精度が低くて死亡率減少効果が出なかったのだとすれば、なぜ逆にド イツやカナダ、あるいは日本の研究において、これほど共通して大幅な罹患率の上昇が 出ているのかということが、なかなか説明しがたいと思います。  むしろ検診をやることによって罹患率が大幅に上昇するということは、国や研究方法 を問わず、あるいは死亡率減少効果を認めたか認めないかを問わず、あるいは精度が高 いか低いかを問わず、非常に一致して認められている状況だと思います。  これはやはり重要な知見として、軽視すべきではない。死亡率に関する結果が非常に 不一致なことと、検診をやらない場合に比べて検診をやったことによって、非常に対照 的に、がんと診断されている方が2倍近くにふえているということはかなりはっきりし ていることではないかというふうに思います。 久道座長  よろしいでしょうか。ほかに何かございますか。 秦委員  私は全く疫学がわからなくて、大変的外れなことを伺うのかもしれませんが、林先生 が新たに始められた研究で、これまでの日本で行われてきたデータと質的にどのように 違う研究成果が出てくるのかということがよくわかりません。  要するに、多くの方が林先生の研究の成果を待ってということを言われているので、 その点はどういうふうにお考えなのか、教えていただきたいと思います。 林参考人  なぜ待たれているのかはわからないですけれども、日本国内で今まで行われてきた研 究と何が違うかというと、まず全国が対象になるということが一つです。  また、データの取り方として、今まではある意味でホスピタルベースが多かったと思 います。つまり病院に来る患者さんの情報が源となって、その情報を集めている。とこ ろが今回のデータはそうではなくて、亡くなったという事象は当然全国の人口動態統計 で一律に取っているわけですから、それをベースに考えているというものです。  また、受診、未受診の確定を、受診者リストの資料で確定していくことも今までのも のと少し違うと考えています。  だからといって、今までの議論で言われているようなバイアスが全部なくなるという 意味ではなく、バイアスは相変わらずありますが、そういったことが今までと少し違う かと思っております。 久道座長  89例のケースが集まって、その分母となる人年が2500万でしたか。もう数は集まるわ けですよね。 林参考人  はい。今のケースで一応満たされるはずです。つまり89例の受診、未受診が確定でき れば比較できると思います。 久道座長  分母となる人たちの人年についても、これが未受診かどうかということについては、 未受診のデータはないので、受診の名簿をその地域の出生数から引くという形になるわ けですね。 林参考人  はい。 久道座長  そのことについては何か問題などはないですか。 坪野委員  基本的に久繁先生がなさったものを、時期を変えて、規模を大きくして行っていると いう理解でよろしいでしょうか。 林参考人  久繁先生の行われた前向きと後ろ向きの観察の、前向きの継続です。 坪野委員  その前向きというのは、後ろ向きでやったことを時期を変えて行っている、規模を変 えて行っているという理解でよろしいですか。 林参考人  久繁先生の後ろ向きと呼ばれている研究は、先ほど出ましたように25道府県のデータ ですが、それはホスピタルベースであって、つまり発生から始まったデータを収集して いるので、死亡個票等を閲覧しているのではありません。そこが少し違うと思います。 坪野委員  そのことは恐らくメリットとデメリットがあるかと思いますが、一つはホスピタルで はなくて人口動態のデータを取るということですが、逆に言うと今回の研究は罹患率に ついては全く情報が得られないわけです。  つまり山本先生が先ほど過剰診断の不利益と死亡率低下の利益の両方を合わせて考え るべきであるとおっしゃっていましたが、例えばこれまでのドイツなどでの研究、ある いは日本の研究でも、検診を受けたグループで、罹患率がどのくらいふえて、死亡率が どのくらい減ったかということをセットで出していますが、今回の林先生の研究に関し ては、一切わからないので、死亡率のデータしか得られないということですか。 林参考人  そうです。 坪野委員  だとすると、少なくとも過剰診断があるかどうか、あるいはどの程度あるかというこ とに関しては、林先生の研究を待っても新しい情報は得られなくて、既にあるデータの 中で考えなくてはいけないということになるのではないかと思いますが、いかがでしょ うか。 林参考人  御指摘のとおりで、先ほど山本先生が言われていたように、過剰診断と死亡の減少を 天秤にかけましょうといったときに、死亡の方だけを推定しようということだと思いま す。 坪野委員  ですから過剰診断あるいは罹患率の上昇による不利益というのは、我々は今あるデー タで判断する必要があると思います。  もう一つは、これは適切な質問かどうかわかりませんが、仮に先生の今回の研究で、 検診受診群の死亡率が半分に下がったというような結果が出たときに、それは今までの ドイツやカナダの研究、あるいは日本の研究でも、死亡率の減少効果はないという結果 があるわけですが、そういったものにすべて反証して、決定的な証拠になり得るのかど うかということについて意見を伺いたいと思います。  というのは、私自身の考えとしては、今回の研究は非常に大規模ではありますけれど も、本質的には久繁先生のなさった後ろ向き研究と同じであって、受診者、未受診者の 比較、しかも受診者と未受診者が個人ベースで同定されないというように、いろいろな 特徴が非常に似ておりますので、非常に重要なデータにはなるだろうと思いますが、こ の論争に決着をつけるような、証拠としての強さがあるかどうかということについては 、少しどうなのかなという感じがしております。 林参考人  事業の継続もしくは中止というデジション・メイキングにどれだけ役に立つかという ことは、先ほども言ったように死亡の推定が正確にできますということしかないと思い ます。ただ一つ統計学的に有意かどうかというような論点よりも、例えば1学年120万人 くらいのお子さんがいらっしゃって、そのお子さんたちをスクリーニングにかけて、ど のくらい死亡をセーブすることに寄与しているかという数がもし正確に出れば、ある意 味で少しは貢献できるのではないかと思います。  必ずしも統計的に有意かどうかという話ではないと思います。  また、先ほど坪野先生がおまとめになった表の中で、死亡率に関しての比較の表が12 ページに出ていますが、この中で、日本国内で非常にいろいろな研究がなされてきてい るのですが、統計的に有意かどうかというと、いろいろと違う結果が出ているのですが 、少なくとも推定される効果の大きさに関しては、それほど大きな違いはないというこ とがあります。  ただ、特に久繁先生の後ろ向きの研究のときに議論になったのは、未受診と受診の確 定の仕方に関してはいろいろな情報が入っていますので、例えば親や家族からのインタ ビューの結果とか、そういったことに関しては大きなバイアスが入る可能性があるので はないかということがありました。今回はそういったバイアスを減らすということを行 っているというふうに思っています。 久道座長  ほかのがんでもそうですが、恐らくポジティブであろうとネガティブであろうと、今 までの研究を決定的に覆すような研究デザインは今の日本ではとれないんですね。  そういう意味からすると、それでは何をやってもだめだということでは話になりませ んので、少なくとも今、林先生がおっしゃったような形で、死亡率の変化、あるいは死 亡数の減少から、年間に110、120万生まれる赤ちゃんが、死なないで済むような措置を どのくらいしているかということは、この研究で出せるのではないかと思います。  それから今言われたようにいろいろなバイアスがありますが、リストに書いてあるこ とは事実として認めていいのではないかと思いますので、例えば母親の記憶の間違いに よるバイアスといったものは恐らくなくなると思います。  従来と同じような研究デザインであっても、大規模であるということと、死亡の根拠 となる診断の仕方が、ホスピタルベースではなくて人口動態統計であるということ、人 口動態統計の死亡診断書というのは別の意味で不明瞭なところがありますが、ただ先ほ どの林先生のお話は、死亡診断書を丹念に見て、死亡に関連するいろいろなデータも含 めて検討した上で数に入れていくということでしたので、恐らく従来の研究よりもいろ いろな意味で精度が高いといいますか、かなり内容のいい資料として、参考になるので はないかと思います。  ただ、その結果を待たなくてはいけないのですが、林先生、見込みはどうですか。こ れは今年度が最終で、今年度といいますと来年の3月までですよね。出ますか。 林参考人  今年度で終了することを目途としてやっております。今は先ほど申し上げたようにケ ースが特定されていますので、今後やることとしては、検査リストから特定するという ことです。  ただリストの特定は、母子保健課の方々と協力してという形を取らざるを得ないのと 、またケースコントロール型での追加研究では、改めて人口動態統計の閲覧許可を申請 しています。きのうも逆に人口動態統計の方から、どれだけ厚生行政に資する研究なの か示せと言われまして、返事に困っているところです。  幾つか手続き上で時間がかかるところもあるのですが、今年度中を目標に研究してい ます。 久道座長  それから過剰診断というのが、例えば検診を受けたグループと受けないグループの罹 患率の差から、検診を受けたグループの何倍ということが出ますね。それはすべて過剰 診断としていいのでしょうか。  山本先生、例えば本当の不利益になるような手術をして、本当にそれでよかったのか ということがあるのだろうと思いますが、いわゆる過剰診断という意味での不利益を、 専門の先生方の考え方としてはどういうふうにとらえているのでしょうか。それがわか らないと、過剰診断による不利益の命の価値とか、あるいは命ではなくても、効用値と いった費用効果分析を含めたメリット、デメリットを考えるときに、必ずそこにいきま すね。それはどうなりますか。 山本参考人  大変難しいと思います。頻度が上がった分が過剰診断であるというのは一つの言い方 として正しいと思います。  スクリーニングを受けなければ医療機関を受診せずにすむ人ということですので、た だ良性腫瘍であっても普通は手術をするのであるから、良性腫瘍を見つけたからといっ て、それを過剰診断とする必要はないという考えもあるので、定義を定めて使用するべ きと思います。 橋都委員  マス・スクリーニングの初期には、マス・スクリーニングで発見された症例で、手術 死や化学療法死といった治療関連死が実際にあったわけです。ただ最近は幸いなことに 治療関連死ということはほとんどなくなってきていると思います。  それはマス・スクリーニングの発見例の性格ということがよくわかってきましたので 、あえて危険な手術はしない、腫瘍が一部残っても構わない、あるいは化学療法もそれ ほど強力にやらないということで、治療関連死亡は、少なくとも減ってきていると思い ます。  ただ山本先生がおっしゃるように、良性であっても手術をするという考えもあります ので、その手術が余計な必要ないものである可能性があります。あるいは経過観察例で あれば定期的にCT検査を受けて放射線を浴びる、そういったことをいつまで続けるの かというような問題もありますし、もう一つは経済的に、そのコストを国民が負担して いるわけですから、そういうことも最終的には計算に入れなくてはいけないのではない かというふうに思います。 久道座長  良性でも手術するということがよくわからないのですが、どういうものであれば良性 でも手術するのですか。 山本参考人  例えば、おなかや胸に腫瘍があるとわかった場合に、外からの診断では良性腫瘍であ るか悪性腫瘍であるかわからないわけですので、良性腫瘍であっても摘出して、良性で あればその後の治療、フォローはしないというような経過になることはしばしばありま す。 久道座長  術前診断がつかないから、良性かもしれないけれども手術をするという意味ですか。 山本参考人  そういうことです。 久道座長  わかりました。 前野委員  次の質問をよろしいでしょうか。 久道座長  どうぞ。 前野委員  私はマス・スクリーニングの有効性の有無とともにマイナスの影響が非常に気になり ます。過去の記事について、検索をしてみましたら、96年12月の新聞の記事で、日本小 児がん学会で神経芽細胞腫委員会が報告されている中に、スクリーニングを始めた10年 間余りで1182人の腫瘍が見つかっていて、その中で死亡したのは17名、そのうちの6人 は手術死だったと掲載されていました。私はそれを見て非常に衝撃を受けました。今ま でのお話ですと、自然退縮するケースも数的にかなりあるということですので、もしか したらスクリーニングしなければ自然治癒していた可能性も考えられるわけです。どれ くらいの手術死がいまだにあるのかということが1点目の質問です。  もう一つは手術を行うことによる、いわゆる合併症の弊害も懸念されます。病巣とそ の周辺だけではなくて神経節や副腎を切除する場合もあるというふうに聞いております が、それに伴う合併症や、その他諸々の、命に別状はないけれども手術に伴うリスクと いうものはあるのではないかと思いますが、いかがなものでしょうか。 山本参考人  おっしゃるとおりだと思います。まず死亡の方では、当時はそのようなデータが出た と思いますが、現在のデータはきょうは持ってきておりませんけれども、先ほど橋都先 生がおっしゃったように、過去の方が多くて現在は減ってきていると思います。  また、手術の比較的直後に亡くなった方というのは、手術が大変だった方が多かった と思います。ですから、その人の腫瘍が自然退縮する腫瘍であったかどうかは今となっ てはわからないわけですけれども、どちらかと言えば退縮するような可能性は少なかっ たと想像しています。  また、手術によって死亡しないまでも何かの障害が起こるということに関しては、あ るとき神経芽腫委員会で調査しましたところ、手術の合併症は10%あると出ました。し かし、これは非常に軽症なものを含んでいます。腸閉塞など、その後治るものもありま すし、ある程度永久的に残るものもあると思います。  放置すれば死亡するような神経芽腫であった場合には容認されるような合併症もある わけで、簡単に言うのは難しいと思います。  そのような合併症がなくても、手術をしないで済む人に手術をしていることはあると 思います。 橋都委員  ただいまの御質問にある程度お答えができると思いますが、これは小児がん学会での 集計ですけれども、平成8年までのマス・スクリーニングの発見例、1953例を集計した データがあります。そのうち平成10年の時点で、生存が1339例、98%で、死亡が31例あ ります。そのうち腫瘍死が8例、治療関連死が15例です。  そのほかにMDSといって、これもやはり治療関連死に含めてもいいかもしれません が、要するに骨髄に異常が起こって死亡したものが2例あります。  それから二次がんがありますが、これは治療に関連したものか、本人がもともと持っ ていたものが原因となっているのかはわかりませんが、1例あります。他因死が3例、 残り2例が不明となっております。  ただし、この時点で一番新しい1996年の1年間に発見されたマス・スクリーニング症 例は全部で180例あります。まだ観察時間は短いのですが、そのうち177例が生存してお りまして、死亡は1例のみです。この1例の死亡の原因はわかりません。  ですから、最近では治療関連死が非常に減少していて、ほとんどゼロに近くなってい ることは事実だと思います。  ただ、かつてはその程度の数の治療関連死があったということです。 前野委員  合併症に関してはまとめた研究データはないのですか。 橋都委員  残念ながら、この集計では合併症までをまとめられたものがありません。生存と死亡 だけです。 久道座長  手術合併症、手術関連死亡が最近では減ってきた原因ですが、手術の適用をいろいろ と変えてきているのか、あるいは別の原因があるのかということはいかがでしょうか。 橋都委員  マス・スクリーニング発見例の予後が良好だということが浸透していきましたので、 例えばマス・スクリーニング発見例でも、おなかの中央で腹腔動脈とか上腸間膜動脈を 巻き込んだ腫瘍ということもあるわけですが、これを完全に摘出するためにはかなりの リスクを伴います。  しかし最近ではそういう腫瘍であれば、あえて手術をしなかったり、あるいは部分切 除にとどめたりして、リスクを減らすという方向に向かっておりますし、化学療法にし ても、腫瘍が残存しても強力な化学療法はやらないという方向になってきておりますの で、その結果として治療関連死が減ってきているということが言えると思います。 久道座長  治療関連のマイナスの部分がかなり減っているという印象ですね。 橋都委員  それはそのとおりだと思います。 久道座長  ほかに何か御意見はないでしょうか。 坪野委員  過剰診断という言葉はいろいろな意味があるので、注意深く使う必要があると思いま すが、ただ治療関連死がある、合併症があるという問題だけではなくて、先ほど御意見 が出ましたが、本来検診をしなければ診断されずにそのまま経過した人に治療を行うと いうことも、一つの重要な問題であるというふうに思います。  そういった点から、繰り返しになりますが、これまでの研究では、例えば今、日本の 子供が100万人いたときに、その人たちが小学校になるまでに、検診をやらなければ大体 100例の子供がいろいろな契機で神経芽細胞腫と診断される。けれども今までのデータを あわせて考えてみると、検診を導入することによって100例だった子供が200例にふえる ということはほぼ確実だと思いますので、それをどのように意味づけるかは別にして、 検診によってそれだけ症例が増加しているということは、やはり重要な問題として受け とめる必要があるのではないかと思います。 久道座長  ほかにございませんでしょうか。きょうの検討会で何か結論を出すということではあ りません。きょうはいろいろな方から御意見をいただいた中で、学会を代表する形でお 2人の方に来ていただきました。  それから多くの意見書の中に述べられている、今、行われている研究班の成果をきち んと見るべきだというふうなことでしたので、主任研究者である林先生にも来ていただ きました。  今年度が研究班の最終年度だということで、今までとは少し精度が違い、少しポジテ ィブな意味で期待できるかもしれない結果が出る可能性はありますが、しかしその結論 はまだわからないという状態でのきょうの御議論だったと思いますが、次回も予定され ておりますので、今後どういったスケジュールで議論するかということも含めて、事務 局とも相談したいと思います。  何かここで、そのことについて触れてもよろしいですし、あるいは委員の先生方から 、ぜひこういう方の御意見を聞きたいといったことがございましたら、おっしゃってい ただければと思います。 橋都委員  私はもちろんこのマス・スクリーニングが有効かどうかということを結論づけるため には、疫学的な調査が一番重要だというふうに思っておりますが、それ以外に基本的な 考え方の問題があると思います。少なくともマス・スクリーニングで現在も見つかって いる症例のほとんどが予後不良因子のない症例なわけです。マス・スクリーニングが有 効だと主張される方は、それによって予後不良な例も救えるということで有効だとおっ しゃっているわけですから、そうだとすれば、神経芽腫は途中で形質が変換するという ことが証明されない限りは、現在のマス・スクリーニングが有効であるということは言 えないと私は思います。  外国の臨床家と話をすると、彼らもやはり疫学はわかりませんから、疫学の結果から というよりも、途中で悪性に転換するということが証明されない限りは、マス・スクリ ーニングは有効ではないということで、これに対して批判的なわけです。  ですからやはり疫学だけではなく、そういった細胞生物学的な証拠というものが本当 にあるのか、あるいは経過観察例の中で、本当に悪性になったものがあるのか、そうい った証拠を集める努力も必要なのではないかというふうに私は思っています。 久道座長  そうですね。そういうことも含めて、先ほど82例を経過して、23例は手術をして、そ れ以外での死亡はないというお話がありましたが、あれは何年たっているのですか 山本参考人  最低で4年はたっていると思います。 久道座長  それはずっと今後も追いかける予定になっているのでしょうか。 山本参考人  はい。 秦委員  よろしいでしょうか。 久道座長  どうぞ。 秦委員  若干そのことに関してですが、未治療のいわゆる経過観察後の摘出腫瘍を、山本先生 が中心になって集められた症例の病理組織像を見た者の1人として申し上げます。  一つの神経芽腫の予後因子として、年齢と組織像というのを加味して調べると、予後 と非常に相関するということが明らかで、国際的にも認められているわけです。腫瘍を 取った症例の手術時の月齢が10カ月から53カ月にわたっているのですが、16カ月を契機 にして、ほぼ良性の腫瘍になっているという成績があります。  それ以前の年令症例に関しては、もちろん限られた症例ではありますが、成熟する方 向へ向かっているような組織像を示す例がほとんど全てであるという結果が出ています 。  これらの症例の中には、予後不良因子を示すような組織像、あるいはその他の予後不 良を示す生物学的な要因はないといった結果になっています。 久道座長  それはもう発表になっているのですか。 秦委員  はい。これは小児がんの2002年の方に出ております。 久道座長  そうですか。自然退縮するようなものが、例えば遺伝子レベルでわかるというような 研究をやっているということは今あるのでしょうか。先ほどNmycのものは非常に予 後が悪いといったお話がありましたが。 秦委員  どういう腫瘍が悪くなるかということは比較的によくわかるのですが、よくなってい くものはどういうものかということに関する客観的な指標は年令と組織像を組み合わせ たもの以外ないのではないかと思います。 山本参考人  よろしいでしょうか。 久道座長  どうぞ。 山本参考人  橋都先生がおっしゃったことの中で、最初はよい性格を持っているものが悪くなると いうことが証拠立てられなくてはならないのではないかとおっしゃったことに関して意 見が違います。  最初はいいとしましても、臨床的にはステージが進んでおりませんので、生物学的な 性格が仮に悪くても、予後がいいということも否定はできないと思います。  いわゆるNmycが増幅しているほど悪いものは2%しかございませんけれども、そ のほかに、いわゆるトリプロイドではないものは、進行が進展するけれども緩やかに進 展するという性質を持っていたとした場合には、臨床的に見つかったときにはステージI Vであることもあり得ると思います。そういう意味での研究はやっています。 橋都委員  ただ、Nmycという予後因子を考えても、マス・スクリーニング症例はプラスが2 %ですか、そのうち10コピー以上は1%以下ですね。しかし進行例では10コピー以 上は30%、それより少ないものを含めれば50%近くあるわけですので、腫瘍の性格が、 どこかで変換するということがないと、本当の意味でマス・スクリーニングがそういっ た症例をキャッチできるという理論的根拠に乏しいと私は思います。  しかもNmycの増幅というのは、12カ月から18カ月くらいの年齢層、そのあたりが 非常に高いわけですよね。としますと、12カ月くらいのところで、そういった良性のも のが急激にNmycを増幅したものに変換するということでなければ、少なくとも今の 6カ月のマス・スクリーニングは有効とは言えないのではないかというふうに考えてい ます。 久道座長  議論はまだまだあると思います。今、お2人で議論していることもそうですし、治療 関連の合併症等についてのデータも、先ほど橋都先生からお示しいただきましたけれど も、少し資料として整えて出してもらうということで、これは前野委員も恐らく期待し ているのではないかと思いますので、ぜひ次回までにお寄せいただくということにした いと思います。 それから、委員の方々とは次回の検討会のあり方について、どういう方をお呼びした らいいかということも含めて御相談をしたいと思います。それはきょうではなく、事務 局を通じたやりとりでやっていきたいと思いますが、それでよろしいでしょうか。  それではきょうの検討会の議論はこれで終わりたいと思います。事務局から御連絡が ありましたらどうぞ。 宮本母子保健課長補佐  次回の予定ですが、7月14日月曜日の午後3時ということでお願いします。場所は厚 生労働省のあります合同庁舎5館の17階です。以上です。 久道座長  それではこれできょうは閉会いたします。どうもありがとうございました。 照会先:雇用均等・児童家庭局 母子保健課     03−5253−1111(代)     宮本(内線:7933)     柏木(内線:7939)