03/05/28 第1回神経芽細胞腫マス・スクリーニング検査のあり方に関する検討会議事録                    第1回       神経芽細胞腫マス・スクリーニング検査のあり方に関する検討会                 平成15年5月28日              厚生労働省2階共用第6会議室  宮本母子保健課長補佐  それでは皆様おそろいになりましたので、ただいまから第1回神経芽細胞腫マス・ス クリーニングのあり方に関する検討会を開催させていただきます。  本日は大変お忙しい中お集まりいただきまして、大変ありがとうございます。私は厚 生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課長補佐の宮本と申します。座長が決まります まで私の方で進行を進めさせていただきますので、よろしくお願いいたします。  なお検討会でございますが、原則として公開してございます。資料、議事録等も公開 してございますので、その点よろしくお願いいたします。それでは早速議事を進めてま いります。  まず1回目でございますので、委員の御紹介をさせていただきます。五十音順でお名 前だけ読み上げさせていただきますので、それぞれ簡単に御紹介いただきたいと思いま す。よろしくお願いいたします。まず梅田委員でございます。  梅田委員  千葉県健康福祉部長の梅田でございます。私は自治体の立場からということで参加さ せていただきました。よろしくお願いいたします。  宮本母子保健課長補佐  続きまして坪野委員です。  坪野委員  東北大学公衆衛生学の坪野と申します。どうぞよろしくお願いいたします。  宮本母子保健課長補佐  続きまして秦委員お願いいたします。  秦委員  国立成育医療センター研究所の所長をしております秦でございます。専門は小児がん の病理をやっております。よろしくお願いいたします。  宮本母子保健課長補佐  続きまして久道委員でございます。  久道委員  宮城県病院事業管理者をしております久道でございます。どうぞよろしくお願いいた します。  宮本母子保健課長補佐  続きまして前野委員お願いいたします。  前野委員  読売新聞編集局の医療情報部で次長をしております前野です。  宮本母子保健課長補佐  続きまして吉村委員お願いいたします。  吉村委員  産業医科大学の臨床疫学教室の吉村と申します。よろしくお願いします。  宮本母子保健課長補佐  なお、このほかに、本日御欠席の委員が2名いらっしゃいます。東京大学医学部教授 の橋都委員、それから日本医師会常任理事の柳田委員のお2人から、本日は御出席いた だけないということで連絡をいただいております。  続きまして事務局の紹介をさせていただきます。まず雇用均等・児童家庭局長の岩田 でございます。  岩田雇用均等・児童家庭局長  よろしくお願い申し上げます。  宮本母子保健課長補佐  続きまして雇用均等・児童家庭局母子保健課長の谷口でございます。  谷口母子保健課長  どうぞよろしくお願いいたします。  宮本母子保健課長補佐  事務局の御紹介は以上でございますけれども、事務局を代表いたしまして、岩田より 一言ごあいさつを申し上げます。  岩田雇用均等・児童家庭局長  座ったままで失礼いたします。委員の先生方にはそれぞれ大変お忙しい中、こういっ た難しいテーマの委員会の委員の御就任を快く引き受けていただき、また本日は大変お 忙しい中、一部御遠方からおいでいただいた委員もおいででございますけれども、御参 集いただきましてありがとうございます。  私の方から、冒頭にこの検討会の設置に至った経緯を簡単に御説明させていただきた いと思います。先生方の方が御専門ですから、私から申し上げるまでもないのですが、 神経芽細胞腫は小児がんの中では白血病に次いで多い病気であるというふうに聞いてお りまして、早期の発見、早期の治療の必要性が叫ばれておりました。  そしてその有効な対策として、マス・スクリーニング検査という手法が開発されまし て、一部先駆的な地域で、まず自治体が先行する形で取り組みが始められました。  そういう取り組みを受ける形で、昭和59年度から、国の補助制度といたしまして予算 措置がなされまして、その後、今日まで約20年間にわたって実施されてまいりました。  この検査を受けるかどうかということは国民の皆さんの任意でございますけれども、 80%以上という大変高い受検率で今日まで推移をしてきております。この間、神経芽細 胞腫の早期発見という観点からは、このマス・スクリーニングの事業を開始する前と比 べまして、各段に増加をしたというふうに考えております。  また一方では、この病気は、かなりの頻度で自然治癒することがあるといった、特有 の性質もわかってまいりました。そういうことも背景といたしまして、1990年代の後半 からであったと思いますが、海外の調査研究でも議論があったようでございます。国内 的にも、専門家の間で、行政事業としてマス・スクリーニングの検査をやることの効果 について、さまざまな御意見が出されるようになったところでございます。  そういう状況のもとで、昨年、カナダとドイツで、これまでにない厳密な疫学研究の 報告がなされ、その結果、神経芽細胞腫のマス・スクリーニング検査によっては死亡率 の減少効果が見られないという報告がなされたところでございます。  私どもはそういったことを知りまして、もしそれが事実であり、医学的、科学的な評 価はそういうことであるとすれば、強制ではないとはいえ、事実上ほとんど多くの方が この検査を受けておられ、場合によっては病気がわかり、手術を受けられるということ もあるわけでございますが、そういった端緒となる検査である以上、厚生労働省として もこのマス・スクリーニング事業のあり方を本格的に見直す時期に来ているのではない かというふうに判断したわけでございます。  そういうことで昨年来、研究会設置の前段階として、数多くの専門科の先生から個別 にいろいろと教えを請いまして、勉強をしてまいったところでございます。  これまでにこのマス・スクリーニングの有効性に関する国内外の学術論文について、 すべて網羅的にレビューをしていただきましたが、その取りまとめができたということ で、今般、学問的な立場からは一つの作業の区切りがついたのではないかということ で、今回の研究会の立ち上げに至ったところでございます。  行政として判断をするに当たりまして、学術的な観点、あるいはそれ以外の観点もあ ろうかというふうに思いますけれども、さまざまな観点から、率直に忌憚のない御意見 を聞かせていただきたいというふうに思っております。  この研究会は、先ほど宮本補佐の方から申し上げましたように公開をし、国民の皆様 にも御関心を持っていただく中で運営をしてまいりたいというふうに思っております。 そしてできることであれば、なるべく早く御結論をいただければ大変ありがたいという ふうに思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。  宮本母子保健課長補佐  続きまして、本日は最初の会合でございますので、今後の進行のために座長を選出し たいと思います。僭越ではございますが、私どもから久道委員に座長をお願いしたいと いうふうに考えてございます。  先ほど局長からごあいさつ申し上げましたとおり、これまでも久道委員にはさまざま な点で中心的に御相談に乗っていただいておりましたので、座長をお願いしたいと考え ておりますが、いかがでございましょうか。  梅田委員  結構です。  宮本母子保健課長補佐  それでは久道委員に座長をお願いしたいと思いますので、以降の議事の運営につきま してはお願いしたいと思います。それでは座長席の方へお移りいただきまして、進行を お願いしたいと思います。  久道座長  ただいま座長を仰せつかりました久道でございます。この回の運営が円滑に進みます ように御協力をお願いしたいと思います。  それでは事務局から配付資料の確認をお願いしたいと思います。  宮本母子保健課長補佐  皆様方にお配りしておりますのは、議事次第のほか、資料番号が1から7番までの資 料と、参考としまして、神経芽細胞腫検査の実施についてと書かれました通知が2種類 ございます。そのほか、委員の皆様だけになりますが、机上配布させていただきました 資料としまして、坪野委員から提出していただきました資料と、それから1枚紙の神経 芽細胞腫の概要といったものを置かせていただいております。御確認をお願いいたしま す。  久道座長  よろしいでしょうか。それではまず事務局から本検討会の設置に至るまでの経緯と、 検討事項及び現在行われております神経芽細胞腫検査事業についての説明をお願いした いと思います。  宮本母子保健課長補佐  私から資料の1から資料の6までに書かれております内容について順次紹介してまい りたいと思います。  まず資料の1番ですが、これは今お話しさせていただきましたように、検討会の設置 につきましての経緯について示しておるものでございます。  皆様御承知のとおり、神経芽細胞腫を早期に発見する事業としまして、現在、神経芽 細胞腫マス・スクリーニング検査事業を昭和59年以来実施しておるところでございまし て、6カ月をめどに、すべての乳児を対象に、尿による検査を行っているというところ でございます。  こういった事業を続けております中、欧米におきまして、その有効性に関して疑問が あるという幾つかの報告がなされ、日本においても本事業の実施が与える影響について 検討する必要があるといった状況でございます。  したがいまして、雇用均等・児童家庭局長が参集する検討会を開催いたしまして皆様 にお集まりいただき、神経芽細胞腫マス・スクリーニング検査の今後のあり方について 検討をいただくということでございます。  会議の運営、庶務の担当につきましてはこちらに記してありますとおりで、今後の運 営につきましては座長にお願いをいただき、庶務につきましては私どもが事務局を務め まして、雇用均等・児童家庭局母子保健課が行うということでございます。  検討課題につきましては、神経芽細胞腫事業の今後のあり方について基本的方向性を お示しいただくということでございまして、スケジュールといたしましては、なるべく 早くという趣旨でございますけれども、夏ごろを目途に取りまとめていただければと、 このように考えているところでございます。  資料2につきましては先ほど委員の御紹介をいただきましたとおりでございまして、 省略させていただきます。  続きまして資料の3でございますが、神経芽細胞腫検査事業の概要ということでござ います。これも繰り返しになります部分が多くて恐縮ですけれども、現在行っておりま す事業といたしましては、異常を早期に発見して、できるだけ早い段階で適切な処置が 講じられるようにするために、すべての乳児を対象に6カ月から7カ月の時点で、小児 がんの一種である神経芽細胞腫に対して尿によるマス・スクリーニング検査を行うとい うものでございまして、予算の性格としましては予算補助という形式で行っているもの でございますけれども、費用の負担につきましては国が3分の1、それから都道府県及 び指定都市が3分の2を負担しているものでございます。  事業の実施主体といたしましては、都道府県、指定都市が行っておるものでございま して、創設年度は昭和59年度で、それ以来続いておるものでございます。  予算額につきましては、昭和55年度の予算額は約3億円余りということでございま す。  次のページに事業の流れが図になっておりまして、右下の方にあります都道府県、指 定都市が事業主体になるわけでございますけれども、この丸1から丸2にかけての流れ で検査セットを送付していくということでございます。  市町村は、事業には直接の主体としてはかかわっていないわけですけれども、3番に ありますように乳児検診やその他の機会を通じて市町村に協力をいただいて、保護者に 検査のセットをお送りするという流れで、乳児とその保護者に検査のセットが配布され ます。  6カ月をめどに、検査をしていただいて採取していただいた尿を、まず自治体によっ て定めていただきました検査機関に送付をいただいて、そこで一定の検査を行った後、 その結果をまた保護者にお返しをします。その後、再検査が必要であるといった場合に は、また再度検査を行うようなお知らせが、保健所等を通じまして保護者にまいりまし て、検査を行います。さらに精密検査が必要な方については医療機関になります精密検 査機関に紹介をいたしまして、そこでさらに検査を進めていくといった事業の流れに なっております。以上が資料3です。  資料4に移ります。こういった事業の実施状況ということでございまして、1枚目に ありますのは、経時的にこの事業の概要を示したものであります。昭和59年から平成13 年に至るまで、特に初期の段階において、徐々に受検者数、検査の対象となる方がふえ てきたわけでありますけれども、昨今では出生数に対しまして9割前後の方がこの検査 を受けておりまして、そのうち最近では毎年200名前後の方が神経芽細胞腫と診断され ているということでございます。  2ページ目にありますのは、都道府県ごとの13年度の実績でございますが、ほぼすべ ての自治体におきまして一定の努力をいただいているといった状況がこの中に示されて おります。以上が資料4です。  次に資料5にまいります。資料5は神経芽細胞腫検査事業に関連した経緯ということ で、やや年表のような形でまとめた資料でございます。先ほど昭和59年から事業を実施 しておるというふうに申し上げましたけれども、それ以前の段階で幾つかの自治体が先 駆的に取り組んだという経緯がございます。昭和48年に京都市が始めたのを皮切りにい たしまして、昭和55年に大阪市、昭和56年に世田谷区、札幌市、愛知県、埼玉県、昭和 57年に神奈川県、昭和58年に東京都と、このような順で幾つかの自治体が取り組んでお るという状況に対しまして、昭和58年に旧厚生省が、医師、検査技師、検査技術者、保 健士を対象としまして、神経芽細胞腫研修会というものを開催しております。こういっ た中でマス・スクリーニング事業を含めました対応について講習をして、広めていくと いうことに取り組んでおります。  続きまして、翌昭和59年から現在まで行っております神経芽細胞腫検査に対する補 助、事業というものを開始して現在に至っているということでございます。  それ以降の部分なのですが、かなり期間は飛ぶのですが、平成8年、1996年になりま して、カナダのケベック州で行われました研究において、神経芽細胞腫マス・スクリー ニングの実施と、それによって本来期待される、進行した神経芽細胞腫の発生について の減少が見られないという研究経過が発表されまして、これに前後しまして、さまざま な専門家からこの事業についての意見というのが出始めたというように認識しておりま す。  平成10年度でございますけれども、厚生科学研究費補助金子供家庭総合研究事業にお きまして、厚生労働省といたしましても、こういった事業の評価を行わなければいけな いということで、神経芽細胞腫マス・スクリーニングの評価研究というのを開始してお ります。  この研究成果では、限られた自治体ではございますけれども、後ろ向きに受けた調査 をしまして、スクリーニング検査を受けた方と受けなかった方のその後の神経芽細胞腫 に関する動向というのを調査しております。  この結果によりますと、神経芽細胞腫マス・スクリーニングを受けた方が神経芽細胞 腫にかかって亡くなる可能性が、大ざっぱに言いまして受けなかった方の半分くらいの 可能性であるというデータが示されておりまして、この時点の研究成果を見るかぎりに おきましては有効性を示す研究結果であったということでございます。  ただし研究のデザイン上、さまざまな制約があるということにつきまして、また、い ろいろな立場からの議論もありまして、現在でもまた違った観点からの研究を継続して いるといった状況でございます。  さらに最近になりまして、昨年でありますけれども、ドイツ及びカナダのケベック州 で行われました調査研究が発表されまして、この中では神経芽細胞腫マス・スクリーニ ングと、それから死亡率に関連しての調査の中で、期待した死亡率の減少というものが 見られないといった、さらにより強力なデータが出された段階で、どのように対応する べきなのかという状況のもとに今に至っているというふうに私どもは考えておるところ です。こういった歴史を示しております。  続きまして資料の6番ですけれども、これは神経芽細胞腫のマス・スクリーニングの 事業ということではなくて、神経芽細胞腫そもそもによります死亡の動向といったこと をまとめておるものでございます。  通常、疾患と死亡の関係を見る基本的な資料としましては、人口動態統計ということ で、亡くなられたすべての方の死因が特定されて集計されているデータを用いるのが基 本でございますけれども、神経芽細胞腫については現在の人口動態統計を集計する手法 の中では十分に集計することができず、と言いますのは、腎臓の上にあります副腎に発 生する神経芽細胞腫が一番中心的ですが、それ以外にもいろいろな場所で発生する病気 であるということから、現在の集計方法では性格につかまえることができないという事 情がございます。  そのために厚生労働科学研究におきまして、神経芽細胞腫マス・スクリーニングの有 効性を評価する研究の一部としまして、個別の死亡個票を点検して実際の死亡者数を確 かめるという作業を延々続けてきておりまして、それを1枚目の表で示しております が、現在では40名から50名くらいの方が神経芽細胞腫によって亡くなられているという 状況でございます。  2枚目にありますのは、死亡率、人口に対比した死者数ということで、そういった動 向をグラフにしておりますものですが、この中で特徴的なのは、一番上の方で、黒い線 で右肩下がりになっておりますものは、1歳から4歳における神経芽細胞腫による死亡 率の変化でありまして、一貫して減少している傾向が見られるということです。  一番上の部分の、丸い点をつないでおりますグラフは、神経芽細胞腫マス・スクリー ニングの受検率の平均を示しているものでありまして、有効性を主張する観点から見ま すと、スクリーニング事業の発展に伴って死亡率が減少しているということでございま すし、また一方での議論としましては、治療技術の向上による一般的なあらわれだとい うことを、どちらの立場からも主張されるものということでございます。  そのほかの年代については、0歳のところは平均的には減少の傾向が見られますが、 1歳から4歳ほどの明確な傾向というのはちょっとはっきりしないということです。  そのほか、それ以上の年代ではほぼ横ばいということで、さらにはっきりしない傾向 が出ているということでございます。このような全体の状況ということでございます。 私からは以上です。  久道座長  はい。どうもありがとうございました。何か御質問はないでしょうか。それではまた 戻って質問をされても結構ですので、前に進めたいと思います。  次に資料7に関連して説明をいただきますが、これは神経芽細胞腫マス・スクリーニ ング検査についてという資料でございます。これまで発表されてきた文献の調査を行っ てまとめたということでありますが、この作業にかかわった、きょうの委員の1人であ る坪野委員に説明をお願いしたいと思います。よろしいでしょうか。  坪野委員  それでは説明をさせていただきます。久道委員、吉村委員、私、また何人かの先生に 御協力をいただきながら、神経芽細胞腫マス・スクリーニングの有効性に関する文献的 な検討を行いました。  がん検診の有効性を評価するというときには、一般的に三つのステップがあります。 一つはそのマス・スクリーニング検査の精度が十分高いかどうかということです。  もう一つは、同じがんでも検診で見つかったがんの方が、症状が出てから病院で診断 されるものよりも生存率が高いという生存率の評価があります。  そして3つ目のもっとも重要な評価というのが死亡率の減少効果があるかということで ありますけれども、この三つのステップが全部共通して効果があるというような検診も ございますし、中には最初の二つはクリアーしたのだけれども、最後ははっきりしない というような場合もあります。  今回の文献の検討におきましては、第1と第2の段階、つまり検査精度、それから検 診で見つけた神経芽細胞腫の方が生存率が高いということは既に確立しているというふ うに考えましたので、そこのところには余り深く立ち入っておりません。  もっとも重要な第3ステップの、検診を行った集団の死亡率が減少するのか、あるい は特に神経芽細胞腫の場合、自然退縮例を見つけることで過剰診断に結びついている可 能性があるということがありますので、検診を行うと、過剰診断あるいは罹患率がどの くらいふえるのかといった点を、ダイレクトに問題にした文献を検索して調査いたしま した。  では、以下は資料7に基づいて説明させていただきます。まずは要旨ですが、神経芽 細胞腫マス・スクリーニングの有効性に関する文献調査を行い、以下の結論を得た。  1、検診による死亡率減少効果は明らかではない。これまで我が国で行われた研究の 一部は、死亡率減少効果を示唆する結果だった。しかしこれらの結果は観察研究や記述 研究であり、多くはピア・レビュー、つまり専門家の審査を経ずに報告書に掲載された ものです。そのため、種々のバイアスの影響を受けている可能性がある。  一方、最近報告されたドイツとカナダにおける前向きの地域介入研究は、死亡率減少 効果について否定的な結果を示している。死亡率減少効果があるとした研究で、ドイツ とカナダの論文をしのぐ研究デザイン、研究方法で行われたものはこれまで存在しな い。これは後ほど詳しく説明いたします。  2番目、検診による相当程度の過剰診断が存在する。乳幼児期における神経芽細胞腫 の累積罹患率が、検診の導入により2倍程度に上昇することがこれまでの研究で共通し て示されている。この知見は、検診実施地区と対照地区の比較、検診の受診者と未受診 者の比較、あるいは検診実施前と実施後の時期の比較など、研究方法の相違を問わずに 共通して認められている。  また、検診による死亡率減少効果を認めるとする研究でも、認めないとする研究で も、共通して示されているということであります。  3番、がん検診を行政による公的施策として行う際には、死亡率減少効果があり、か つ大きな害のないことが、いずれも十分に確認されていることが原則である。しかしな がら神経芽細胞腫スクリーニングは、死亡率減少効果は明らかではないにもかかわら ず、相当程度の過剰診断が存在する。したがって、現行の検診事業をこのまま縦続する ことは適切でない。  4番、今後の課題として現行の検診を中止した場合、その後の神経芽細胞腫の罹患率 と死亡率の動向を縦続的に監視する必要がある。このために、地域がん登録を初めとす る既存の登録事業をさらに精度を向上させる方策を講じながら活用すべきである。  また、臨床の場における神経芽細胞腫の早期診断法と治療法の確立、自然退縮を含め た自然史の解明等について、適切な研究デザインを用いて研究を続ける必要があるとい うことです。  以下は1番目の死亡率減少効果、それから2番目の罹患率の上昇、過剰診断の問題に ついての具体的な文献調査の結果について御報告いたします。  ページをめくっていただきまして、目的とありますが、神経芽細胞腫マス・スクリー ニングの有効性に関して、次の四つの論点を明らかにする目的で文献調査を行ったとい うことであります。  対象と方法でございますが、詳細は省略いたしますけれども、医学文献に関するデー タベースを用いまして幾つかのキーワードを使って候補文献を検索しました。その中か ら該当する文献を選び、また専門家への照会等を通して必要な文献を追加したというこ とであります。その結果ですけれども、1、死亡率減少効果に関する研究のaになりま す。  死亡率を指標とする研究。神経芽細胞腫マス・スクリーニングと、神経芽細胞腫によ る死亡率との関連は、12編の論文で検討されていました。この表は後ほど説明いたしま す。先に本文を読ませていただきます。このうち、検診の実施地区と対照地区との比較 を行った介入研究が2編、検診の実施地区における受診者と未受診者との比較を行った 観察研究が5編、検診の実施前の時期と実施後の時期の比較を行った記述研究が7編で した。  2編の論文では幾つかの解析を同時に行っていました。全体で14件の分析のうち、統 計的に有意な死亡率の減少を示したのは4件であります。この4件の研究のうち、専門 家の審査がある専門誌に原著論文として報告されていたのは1件のみでありまして、他 の3件は厚生労働省研究班の報告書の形で掲載されたものでした。  次にこれらの研究を研究方法ごとに見てみますと、検診の実施地区と対照地区との比 較を行った2件の研究、これが一般論としてもっとも妥当性が高いわけですが、これは ドイツとカナダで行われておりました。いずれも、検診を実施した地区での死亡率減少 を認めませんでした。  次に検診の実施地区における受診者と未受診者との比較を行った5件は、すべて我が 国で行われていました。おおむね、受診者における死亡率の低下傾向を示した。統計的 に有意な死亡率の低下を認めたのは、このうち25道府県における報告と、全都道府県に おける報告の2件でした。  3番目の方法として、検診の実施前の時期と実施後の時期との比較を行った7件につ いてもすべて我が国で行われました。このうち大阪府で行われた2件では死亡率の低下 を認めなかった。さらにこのうちの1件は、英国と大阪府における神経芽細胞腫の死亡 率の比較を行っていますが、英国と比べて大阪で死亡率が下がるということは認めませ んでした。大阪府以外で行われた5件は、おおむね検診実施後の時期に死亡率が低下す るという傾向を認め、特に定性法による時期よりも定量法の時期でその傾向が大きかっ た。ただし、統計的に有意な死亡率の低下を認めたのは札幌市の報告と、それから7府 県市の地域がん登録を求めた報告のみだったということであります。  引き続き本文を先に読ませていただきます。b、進行がんの罹患率を指標とする研 究。検診の実施により、神経芽細胞腫の死亡率が低下するとすれば、その前段階として ステージIVなどの進行がんの罹患率が低下することが期待される。そこで死亡率の代理 指標として、進行がんの罷患率を用いて、神経芽細胞腫マス・スクリーニングとの関連 を検討した論文が8編ありました。このうち検診の実施地区と対照地区との比較を行っ た介入研究が2編、検診の実施地区における受診者と未受診者との比較を行った研究が 4編、それから検診の実施前の時期と実施後の時期との比較を行った記述研究が3編で した。全体で9件の分析のうち、統計的に有意な進行がんの罹患率の低下を示したもの は1件のみだったということです。残りの8件では罹患率の低下を認めませんでした。  以上述べましたことを、今度は表を見ながらもう一度簡単に解説したいと思います。 12ページに表の1というものがありますが、これは検診をすることによって神経芽細胞 腫の死亡率が減少するかどうかという、もっとも核心的な部分についての研究を行った ものです。大きく分けて3通りの研究がされています。  がん検診の有効性、死亡率減少効果を評価するためにベストな方法というのは、ラン ダム化比較試験の方法であります。つまり対象集団をランダムに二つに分けて、一方に は検診を行い、もう一方には行わないで、その後の死亡率を比べるというものですが、 神経芽細胞腫のスクリーニングに関しましては、このベストの方法であるランダム化比 較試験の報告というものはありませんでした。  それ以外に大きく三つの研究方法がされていたわけですが、おおむね上にあるものほ ど、一般論として研究の精度が高く、下にあるものほど低いということであります。  一つは検診地区と対照地区の比較ということでありまして、これは一番上の2002年の ドイツの例をお話しするとわかりやすいと思うのですが、この研究ではドイツ全土を二 つの地域に分けています。その分け方はランダムに分けるやり方ではなく、恣意的に二 つの群をつくったということです。一方の群を検診群とし、他方の群をコントロール群 としまして、検診群に対して定期的な検診を行って、死亡率の減少効果を見たというこ とであります。  それから2番目のやり方は、検診受診者と未受診者の比較ということです。これは同 じ検診を行っている地域で、自発的に検診を受けた人とそうではない人で、神経芽細胞 腫の死亡率を比べるというものであります。これはすべて日本で行われているわけです が、受診率が9割を超えるような、要するに大半の子供が検診を受けているという状況 の中で、あえて受けていないグループと比べるということになりますので、さまざまな バイアスの可能性があるわけです。例えばもともとの罹患リスクが違うということであ りますとか、あるいは仮にもともとの罹患リスクが同じであっても、症状が出てからお 母さんが病院に連れて行く行動のスピードとか、そういったものが違うというようなバ イアスの可能性があります。  それから3番目の、検診の実施前と実施後の時期の比較というものは、これはもっと も相対的な精度の低いものであります。要するに先ほど事務局から出た資料6のよう に、ある地域における神経芽細胞腫の経時推移を見て、検診をやる前とやった後でどう 違うかということをまず検討するわけでありますが、これは検診を始めてから死亡率が 下がっているというようなことが出た場合にも、それが検診の効果をあらわしているの か、あるいは治療法の進歩などによる自然経過を見ているにすぎないのかということを 十分に区別できないという問題があります。  大きくはそういった3種類の研究がされているわけですが、詳細を一つ一つ話します とちょっと切りがないので、全体として結果がどうだったかということを見ていただき たいのですが、表の一番右のところに死亡率の比という数字があります。例えば一番上 のものですと、1.17とか1.08というふうに書いてありますが、この比の分母は、比較群 における神経芽細胞腫の死亡率になります。それから分子は、検診を行った群、あるい は検診を受けた群、あるいは検診を実施した後の時期における神経芽細胞腫の死亡率と いうことになります。ですから検診をやった群の方が比較群と比べて死亡率が低いとい う場合には、この数字が1より低くなり、0.5や0.3になります。逆に検診をやってもや らなくても死亡率に差がないということになりますと、この比は1になるわけです。で すから1より小さければ効果を示唆していて、そうではなく1に近いというような場合 には効果がないことを示唆しているということになります。  そうしますと、先ほど来、お話がありますドイツとカナダの二つの研究は、この数字 を見てわかりますように、いろいろな解析をしているのですが、1よりはっきりと下が っているというようなデータは認められておりません。  それから2番目の検診の受診者と未受診者を比べた研究ですが、これを見ますと、お おむね1より低い傾向にはありますが、先ほど言ったように、受診者と未受診者の関係 がもともと違うというバイアスの可能性も同時にあります。  ただし、この中で統計的に有意に1より下がっているというものとしては、真ん中の あたりに0.415という数字がありますが、これが厚生労働省の研究班で行われた後ろ向 きの25道府県の研究でありますが、これが一つです。それからもう一つ、同じように 厚生労働省で行った前向きの研究の0.249という、この2件です。  それから3番目の方法としては、検診をする前の時期の死亡率を比較群として、検診 をやった後の群の死亡率を比べたというものですが、それを見ますと、数値としてはお おむね1より低い数字を示しております。この中で統計的に有意に差があるというの は、下の方の0.4と書いてあるものですが、これは7府県市のがん登録のデータを使っ たものでありますし、それからもう一つはその少し上の0.17という札幌市のデータに有 意差があります。  ですから検診をやる後の時期の方が死亡率が減っているということを示すものが一部 あるわけですけれども、先ほど言いましたように、これは検診の効果なのか、それとも 治療法の進歩などに伴う自然経過なのかということは十分に区別できないので、解釈に はかなり留保が必要であるということになります。  次に表の2をごらんください。これは死亡率ではなく、死亡率の代理指標としての、 進行がんが減ったかどうかということを調べたものでありますけれども、ほとんどは表 1に出ているものと同じ研究でありますが、その研究の一環としてこういった解析も やっているということであります。  先ほどと同じように、表の右側の罹患率の比というところを見ていただきたいのです が、こちらを見てみますと、これが1より低ければ、検診を受けたグループで進行がん の罹患率が下がっているということを意味するのですが、ほとんどの研究で、はっきり した進行がんの罹患率の低下ということを認めておりません。唯一の例外が上から3番 目の0.342という、厚生労働省の研究班で行われた25府県の後ろ向きの研究であります。 これを唯一の例外として、余りはっきり進行がんの罹患率が下がっているということは 観察されなかったということであります。  以上が死亡率、あるいは代理指標としての進行がんの罹患率を指標とする研究です が、続きまして検診によって罹患率はどのくらい上がるのか、つまり過剰診断はどのく らいあるのだろうかということを調べた研究について御報告いたします。  本文の3ページの一番下の2のところに戻っていただきたいと思います。2、罹患率 の上昇に関する研究。a、乳幼児期全体における罹患率の比較。神経芽細胞腫マス・ス クリーニングと、それから検診実施時期から実施後にかけての乳幼児期全体における神 経芽細胞腫罹患率との関連は12編の論文で検討されていました。このうち実施地区と対 照地区との比較というものが2編、それから検診の実施地区における受診者と未受診者 との比較を行っているものが2編、検診の実施前の時期と実施後の時期との比較を行っ ているものが9編でした。1編の論文では複数の解析をやっていたということです。  なお、年齢階級別の罹患率のみが報告されている論文では、可能な場合に、報告数値 より累積罹患率を堆計しました。要するに、例えば子供が生まれてから6歳になるまで に検診をやった場合とやらない場合で、神経芽細胞腫と診断される人がどのくらいふえ るのかということを見るためには、年齢階級別の罹患率ではなく、累積率を見た方がい いということで、このような推計を行いました。  その結果ですが、全体で13件の分析のすべてで、検診群における罹患率の上昇を認め た。上昇の鞄囲は、比較群の1.35倍から3.62倍だった。検診方法ごとに見ると、定性法 では1.35倍から2.17倍、定量法では1.43倍から3.62倍の範囲だった。定性法は定量法よ りも感度が低いと言われているのですが、それにもかかわらず、検診群における相当程 度の罹患率の上昇があったということであります。  b、検診実施の年齢における罹患率の比較。上の12の論文のうち11編では、検診を 行った直後の年齢における罹患率もあわせて報告している。  検診をするので当然その年代での罹患率は急激に上昇しますが、そのこと自体が悪い ということではありません。一応数字としてまとめたということであります。  すべての研究で、検診群における罹患率の上昇を認めた。上昇の範囲は、比較群の 1.39倍から23.33倍であるということです。検診方法ごとに見ると、定性法では1.39倍 から6.62倍、定量法では3.41倍から23.33倍の鞄囲だったということです。これも表で 説明させていただきたいと思います。  まず14ページの表の3を見ていただきたいと思います。これは乳幼児期全体にわたっ て、神経芽細胞腫の罹患率が、比較群と比べて検診群ではどのくらい高くなるか、要す るに検診を行うことで、神経芽細胞腫と診断される人の数が何倍程度になるかというこ とを示しています。  ほとんどの研究は表1、表2に出てきたものですけれども、一番右の罹患率の比とい うところをごらんください。例えば一番上の1.94というのは、検診を行わなかったグル ープと比べて、検診を行ったグループでは、神経芽細胞腫の罹患率が1.94倍、ほぼ2倍 近くにふえているということです。  以下、数字をずっと見ていただきますとわかるように、すべての研究で1.5倍から3 倍くらいの罹患率の上昇を認めている。これは非常に共通した知見として認められまし た。つまり研究方法の違いでありますとか、死亡率が減ったかどうかというような違い にかかわらず、すべての研究で一致して、検診をやることで相当程度、罹患率がふえる ということを示唆する結果が出ました。  表4は、同じ罹患率の比でも、検診をやった直後の時期における罹患率の上昇を見て いるわけですけれども、これは当然のことながら、より大きな罹患率の上昇が認められ たということであります。  以上、もっとも重要と思われる死亡率減少効果、それから罹患率の上昇に関する研究 の概要を取りまとめて御紹介いたしました。続いて考察に移らせていただきます。4ペ ージのテキストに沿ってお話ししたいと思います。  1、検診による死亡率減少効果はあるか。a、がん検診における死亡率減少効果の考 え方。がん検診事業の有用性を評価する方法として、検診発見がんと臨床診断がんの生 存率の比較、死亡率減少効果、経済効率に関する評価などがある。このうちもっとも重 要なのは、検診による当該がんの死亡率減少効果を明らかにすることである。  がん検診の死亡率減少効果を評価する際には、さまざまな研究デザイン、研究方法が あり、結果の妥当性も異なっている。一般に科学的妥当性がもっとも高いのは、対象と なる個人または地域をランダムに割りつける無作為割付臨床試験である。  次に妥当性が高いのは、無作為割付を行わずに対照群を設定する前向きの介入研究で ある。  その次に、自発的な検診受診者と未受診者を比較するコホート研究や、がん死亡例と 対照群の過去の検診受診歴を比較する症例対照研究、こうした観察研究が位置づけられ る。  検診を実施する前後の時期での死亡率の経時的な変化を比べる時系列研究などの記述 疫学研究は、一般論として、もっとも妥当性が低いと考えられています。  b、神経芽細胞腫スクリーニングの死亡率減少効果に関する研究。神経芽細胞腫マス ・スクリーニングの死亡率減少効果に関する文献調査を行ったところ、無作為割付臨床 試験の報告はなかった。無作為割付を行わずに検診地区と対照地区を設定する前向きの 介入研究としては、ドイツの報告が1編あるのみだった。  また、1地区に検診を行い、対照地区における同時期の死亡率と比較した前向きの介 入研究がカナダのケベック州から報告されていた。  このような無作為割付を行わない介入研究というのには問題もあるわけです。つまり その検診地区と対照地区の間で、もともとの罹患率に差があるとか、あるいは医療水準 が異なって、神経芽細胞腫の致命率、生存率に差があったりすれば、適切な比較が行わ れない危険性がある。  具体的な事例として、ドイツで行われた前向き介入研究について考察する。この研究 では、ドイツ全土16州を、無作為割付を行わずに検診地区と対照地区に分けた。検診地 区では、生後1年の乳児に対してHPLC法、定量法による検診を行った。その結果、 検診地区の受診者と対照地区での累積率を比べると、全病期の罹患率は1.94倍に上昇し たにもかかわらず、ステージIVの進行がん罹患率は低下せず、死亡率も低下しなかった という結果でありました。  これが最近報告された死亡率の減少効果を否定する研究ですが、この研究の問題点と して、次の2点が考えられる。  1、検診地区と対照地区を無作為に割りつけておらず、研究開始前の時期の累積罹患 率は、検診地区の方が、対照地区よりも、もともと若干高いというふうになっておりま す。そのため、仮に検診に死亡率減少効果があった場合に、その大きさを過小評価する 危険がある。  第2の問題点としては、このドイツの研究の本来の研究計画では、死亡率に関する追 跡調査を2008年まで行う予定であるということです。今回報告された数値は2001年まで の追跡調査にもとづく暫定値であって、最終的な結果ではありません。したがって、 2008年までの追跡調査にもとづく最終結果で、検診による小さな死亡率の減少を認める 可能性は否定できない。  ただしこの場合でも、検診地区における2倍程度の罹患率の上昇、過剰診断は引き続 き観察されるものと思われる。  したがって、ドイツで行われたこの研究は、今まで行われた研究の中では質的にもっ とも高いものでありますが、しかしこれは無作為割付臨床試験ではありませんので、そ れなりの問題点もあるのだということをここで指摘したわけです。  一方、日本でこれまでに行われた研究はすべて、自発的な検診の受診者と未受診者で 死亡率を比較する観察研究か、あるいは検診の実施前と実施後の時期の死亡率を比較す る記述的な研究だった。  コホート研究では、自発的に検診を受ける受診者と未受診者の間で、もともとの罹患 率に差があったり、あるいは神経芽細胞腫の徴候が出現した後の医療機関への受診行動 に差があったりすれば、適切な比較が行われない危険性がある。  また、我が国のコホート研究の大半は、検診が行われて一定期間が経過してから事後 的に研究を始めた後ろ向き研究である。この場合、受診者と未受診者の同定、あるいは 神経芽細胞腫の罹患例と死亡例の把握、あるいは神経芽細胞腫症例の検診受診に関する 情報などに、その精度などに問題が生ずる可能性がある。そのため、結果の解釈にあた っては、相当の留保が必要になる。  また3番目のやり方であります時系列研究も検診が行われて一定期間が経過してから 事後的に研究を始めたものなので、後ろ向きコホート研究と同様の問題がある。さらに 加えて、検診の効果とは関係のない、罹患率の自然な経時的変化や、治療の進歩による 生存率の改善によっても影響を受ける。そのため、結果の解釈にあたっては、相当の留 保が必要になるということです。  具体的な事例として、25道府県における後ろ向きコホート研究について考察する。こ の研究では25道府県で生後6カ月児に行っていたHPLC法マス・スクリーニング検査 を、自発的に受診した者と受診しなかった者に分けて、後ろ向きの追跡調査を行った。 その結果、1から4歳の未受診者を基準とする受診者の相対危険度は、全病期の罹患率 で0.454、ステージIVの罹患では0.342だった。  また、全年齢の未受診者を基準とする受診者の死亡に関する相対危険度は0.547だっ たということで、つまり検診の受診者、自発的に受けた人は、そうではない未受診者と 比べて、全病期の罹患率、それからステージIVの罹患率、死亡率が、いずれも低いこと を示唆する結果だった。  この研究の問題点として、次の5点が考えられる。  1、これは研究班の報告書に掲載された研究であって、ピア・レビュー、専門家の審 査を経て専門誌に掲載されたものではありません。  2、自発的に受診した者と受診しなかった者を比較しているので、選択バイアスの可 能性がある。この場合は受診者と未受診者で、もともとの罹患リスクに大きな差がある とは考えにくい。しかし、対象集団の80%を超える者が参加する検診を受診しない者で は、神経芽細胞腫の徴候が出現した後の医療機関への受診がおくれ、その結果として生 存率が低下するというようなことが考えられる。受診者と未受診者にこうした差があれ ば、検診の効果を過大評価する可能性がある。  3、対象集団の人数から受診者の人数を差し引くという形で、未受診者の人数を算出 しています。そのため、受診者と未受診者の人数が把握されているだけで、どの個人が 受けて、どの個人が受けなかったという、個人レベルでの把握がされていません。  これは通常のコホート研究で行われている場合には、個人レベルで、だれが受けて、 だれが受けていないかということを確認するのですが、そこがなされていないというこ とです。  4、そのため、神経芽細胞腫症例の検診受診の有無を、事後的な調査で確認してお り、その精度に疑問がある。とりわけ検診で一度正常と判定され、その後症状が発現し て検診外で診断された症例、いわゆる見逃し例、偽陰性例ですが、これを誤って検診未 受診例に分類してしまう危険がある。この場合には、検診偽陰性例を未受診例に誤分類 するので、検診の効果を過大評価する危険がある。  5、検診実施年代における進行がんの罷患率を、検診群と対照群で比較した研究はこ れまで8編あり、全体で9件の分析が行われています。これは先ほど紹介したとおりで すが、このうち本研究だけが検診による進行がん罹患率の有意な低下を示しており、他 の研究はいずれも有意な低下を認めていない。本研究だけがこの点を正しく検出したと いう解釈ももちろん不可能ではないが、本研究の特異性について慎重な配慮が必要だと 思われるということであります。  c、死亡率減少効果に関する結論といたしまして、これは先ほど読んだとおりですけ れども、検診による死亡率減少効果は明らかではない。これまで我が国で行われた研究 の一部は死亡率減少効果を示唆する結果だった。しかしこれらの研究は観察研究や記述 研究であり、多くは報告書に掲載されたにとどまるものである。そのため種々のバイア スの影響を受けている可能性がある。  一方、最近報告されたドイツとカナダにおける前向きの地域介入研究は、死亡率減少 効果について否定的な結果を示している。死亡率減少効果があるとした研究で、ドイツ とカナダの論文をしのぐ研究デザインで行われたものは、これまで存在しない。  続けてよろしいですか。  久道座長  はい。  坪野委員  はい。2番目の考察として、検診による罹患率の上昇、過剰診断はどのくらいあるか ということでありますが、それではこちらもそのまま読ませていただきます。  a、過剰診断の考え方。検診による過剰診断とは、放置しても個体の死に結びつかな かったはずのがんを、検診によって不必要に診断してしまうことを言う。過剰診断に よって、検診を行って診断しなければ、本来不要だったはずの治療を行うことになる。 過剰診断は本来不要だったはずの治療を行うという点で有害であり、また、その治療に より合併症が生じる可能性がある点でも有害である。がん検診による過剰診断が生ずる 原因として(1)進行速度の遅いがんの存在、例えば前立腺がんの場合など。あるいは(2) 競合的死因が存在するために、直接の死因とならないがんの存在、例えば肺がんはあっ たのだけれども、それが診断される前に脳卒中で死亡したというような、競合的な死因 の影響を受ける場合など。そして(3)自然退縮例の存在などがある。  神経芽細胞腫の場合、特に(2)の自然退縮例の影響がもっとも大きいと考えられる。 一般にがん検診を行えば、一時的な罹患率の上昇は必ず生じる。もしも過剰診断が全く なければ、一時的な罹患率の上昇の後に罹患率の低下が生じる。一定期間を経過した後 の累積罹患率は、検診を行わない場合と同じになる。  つまり過剰診断が全くなければ、がんとして診断される人の総数というのは、検診を 行っても行わなくても同じ人数になるということになります。しかし、どのがんの場合 でも、検診を行えば大なり小なり必ず過剰診断は生じる。逆に言えば、過剰診断が全く 生じないがん検診というのはあり得ない。ただし、程度はがん検診によって異なるとい うことであります。  したがって神経芽細胞腫スクリーニングの場合も、他のがん検診の場合と同じように 過剰診断は存在する。したがって問題は過剰診断があるかないかという点にあるのでは ない。むしろ過剰診断の度合いはどの程度かという点を問題にすべきである。  少し飛ばしまして、bの結論のところにいきます。過剰診断に関する結論。検診によ る相当程度の過剰診断が存在する。乳幼児期における神経芽細胞腫の累積罹患率が、検 診の導入により2倍程度に上昇することがこれまでの研究で共通して示されていること を先ほど紹介しました。この知見は検診実施地区と対照地区の比較、受診者と未受診者 の比較、検診実施前と実施後の時期の比較など、研究方法の相違を問わずに共通して認 められている。また、検診による死亡率減少効果を認める研究でも、認めない研究で も、共通して示されているということであります。  3、現行の検診事業をどうすべきか。がん検診を行政による公的施策として行う際に は、死亡率減少効果があり、大きな害のないことがいずれも十分に確認されていること が原則である。しかしながら神経芽細胞腫スクリーニングは、死亡率減少効果は明らか ではないにもかかわらず、相当程度の過剰診断が存在する。したがって、現行の検診事 業をこのまま縦続することは適切でない。  4、今後何が必要か。今後の課題として、現行の検診を中止した場合、その後の神経 芽細胞腫の罹患率と死亡率の動向を縦続的に監視する必要がある。このために、地域が ん登録を初めとする既存の登録事業を、さらに精度を向上させる方策を講じながら活用 すべきである。  また、臨床の場における神経芽細胞腫の早期診断法と治療法の確立、自然退縮を含め た自然史の解明等について、適切な研究デザインを用いて研究を続ける必要があるとい うことです。次ページの結論は今までのことをそのまま写したものです。以上です。  久道座長  どうもありがとうございます。大分詳しい説明をいただきましたけれども、今、御報 告をいただいた神経芽細胞腫マス・スクリーニング検査についてという資料7というの は、実は私もかかわりましたけれども、谷口母子保健課長に、私的に勉強をしたいとい う意向があって、それに対して何人かの研究者が、では一緒に勉強をしましょうという 形で、数カ月間掛けて、今報告があったような文献調査を、国内外の最新のもの、それ から研究デザインのきちっとしたものを含めて、ピア・レビューのような形で、批判的 なレビューの仕方をしながらまとめたものを今説明していただいたものです。  ですから特別に今回の検討会の設置を前提にしてまとめたものではありませんので、 言ってみればこれはまだ正式なものでもないという判断でよろしいのですね。  谷口母子保健課長  基本的にはおっしゃいましたような形で、昨年から私が課の方で専門家の先生の御意 見を聞くという形でやらせていただいておりましたので、その方の扱いについては、正 式だという位置づけでももちろん結構でございますけれども、今後この検討会で議論を いただくベースとなるようなものとして御理解をいただければいいと思います。  久道座長  そういう理解でこの報告を聞いていただいたと思いますが、委員の先生方には初めて 聞かれた方も多いと思いますけれども、何か御質問、御意見などないでしょうか。は い、梅田委員どうぞ。  梅田委員  私はこういう疫学といったことは全くわかりませんので、本当に直感的にお聞きしま す。この神経芽細胞腫のスクリーニングは、検査対象としては6カ月及び7カ月の乳児 に対して望ましいというふうになっています。資料6を見ますと、この研究自体がどう かということはありますが、この研究で見ますと、5歳から上の死亡率はほとんど変わ らない。しかし1歳ないし4歳の死亡率を見ると非常に下がっているように見えるので す。とすると、この検査は6カ月ないし7カ月児のあたりで、発生しかけている者に対 しては効果があるけれども、ある程度年齢を重ねて、ランダムに発生したものに対して は全然意味がないのではないかということは考えられないのでしょうか。  坪野委員  それももちろん一つの解釈の可能性だと思います。特にこういった資料6のようなも のは非常にわかりやすい話で、受診率がふえるのと同じ時期に死亡率が下がっていくと いうことがあります。  ただ、いろいろなほかの臓器の検診の事例なども含めて考えますと、これはそのよう に検診によって死亡率が下がったというデータとしても読めるけれども、検診以外のさ まざまなファクター、治療の進歩といったものによって起こっているという別の解釈の 可能性も常に否定できないので、これはまさに時系列研究の一つですけれども、今後の 解釈に当たっては、即座に検診の有効性ということと結びつけることには相当慎重にな らなくてはいけない。やはり検診を行った地区と行わない地区の個人を対象にした研究 が必要だということが、がん検診の評価の領域ではコンセンサスになっているかと思い ます。  例えばこれを見ますと、検診を導入する前の時期から下がり始めているわけです。検 診を始めて急に下がっているのではなく、一貫して死亡率の低下傾向ということがあり ます。  ですから検診をやってもやらなくても、昔から一貫して下がってきていたのだという ふうに読むことも可能なデータというわけですので、このデータ一つで即座に結論する というのではなくて、さまざまな研究方法で行われたものを総合して勘案する必要があ るということだと思います。  久道座長  恐らく梅田委員は、同じような治療の進歩があったとしても、なぜこの年齢のところ だけにと、同じ治療法の進歩であれば、ほかの年齢でも出るのではないかと、そういう お話ですよね。  梅田委員  そうです。この年齢だけが下がっていて、その検査対象が6カ月、7カ月のところな ので、本当に感覚的にですが、そう思いました。  秦委員  よろしいですか。  久道座長  はい。  秦委員  同じく資料6に対する質問ですが、先ほど宮本課長補佐から少し御説明があったと思 いますが、これは何をベースにした死亡数ということになるのでしょうか。例えばある 一定の人口に対する死亡数の推移なのか、この数はどのようにして出されたものなので しょうか。  久道座長  日本全体かどうかということですか。  秦委員  そうです。要するに絶対数ということでしょうか。  宮本母子保健課長補佐  1枚目にありますのは絶対数だというふうに理解しています。2枚目にありますの は、その世代の、その時点での人口に対する死亡率ということでございます。  秦委員  そうすると神経芽細胞腫による死亡であるということ、要するにほかの病気で亡くな ってはいないということは確実なのでしょうか。  宮本母子保健課長補佐  もちろん限定的な情報であるということはあるわけですが、人口動態統計のもともと の基礎となります死亡個票に類するものをすべて一網打尽にしまして、その中から該当 したものを集計しているというふうに聞いています。  久道座長  これは全国の実数ですね。  宮本母子保健課長補佐  はい。  久道座長  梅田委員からの質問は、なぜ治療法の進歩がこの年齢だけに傾向として見られるよう になっているのか、それは治療法の進歩だけではなくて、この年齢にマス・スクリーニ ングをやった効果の一つとして見ることはできないかという質問ですよね。  梅田委員  そうです。  久道座長  それはどうでしょう。  坪野委員  そういう解釈の可能性はもちろんあると思います。ただ、先ほど言いましたように、 検診を導入する前の時期から一貫して下がっているということがありますので、逆に検 診の前の時期からの死亡率の低下ということは当然検診によっては説明できないわけで ありますので、そういった反証というか、違う説明をすることも可能ではないかと思い ます。  久道座長  御意見ないでしょうか。前野委員、何かございますか。  前野委員  はい、二つ質問があります。検討された論文は、ドイツとカナダのケベック以外はす べて日本なのですが、基本的に海外でこういうマス・スクリーニングの検査が国レベル の制度として実施されているのかどうかということが一つ目です。もう一つは、発生に おける民族差といった研究がされているのかという2点をお願いします。  久道座長  海外のマス・スクリーニングの実施状況はどうなっているか。宮本さん、どうです か。  宮本母子保健課長補佐  公共の事業としてされているということはないというふうに一応聞いています。た だ、これまでに目を通した資料の中に、断片的に、やはり研究的に行われたものが幾つ かの地域であるというふうに補足されていて、それはここに出ていますドイツやカナダ 以外にも、アメリカの一部の地域ですとか、オーストラリアといったところで試験的に 行ったものがあるというふうに、ある程度以前の記述ではありますが、そういうものを 見たことがありますので、関心を持ってトライしていた時期が少なくともあるというふ うに思っています。ナショナルプログラムとして実施しているのは日本だけという状況 ということです。  久道座長  もう一つは民族差という御質問でしたが、そういったことがわかるデータは何かあり ますか。  宮本母子保健課長補佐  調べたものがあるというふうには聞いていますので、また確認して紹介できるとは思 います。先ほどの、世代の間で低下傾向にあるという話も、ほかの民族集団といいます か、ほかの国でも同様の傾向が見られるということもあったというふうに聞いています ので、そういったものも整理して紹介できるのではないかと思います。  久道座長  ほかに御質問は特にないでしょうか。  岩田雇用均等・児童家庭局長  医学的な知識は全くございませんので、私がお尋ねするのも不適切かもしれませんけ れども、今の御説明を伺って二つお尋ねしたいと思います。まず1点目は過剰診断の関 係ですが、がん検診は過剰診断があるかないかの問題ではなくて、その程度の問題であ るという御説明がありました。今回の論文調査研究の結果、検診の導入で2倍程度、累 積罹患率が上がったというお話があったのですが、ほかのがん検診においては、こうい った検診の導入によって累積罹患率というのはどの程度上がっているのでしょうか。そ れと比較して2倍という数字は非常に高いということでしょうか。  二つ目は、神経芽細胞腫については自然退縮例の影響が大きいという御説明がありま したけれども、神経芽細胞腫においての自然退縮例というのはどの程度観察されている のか、それは日本の医療関係者の間ではっきり認識されているのか、あるいは認識され るようになったのはいつごろか、そういったようなことがもしわかりましたら、お教え いただければと思います。  久道座長  一つ目は私から答えますと、ほかのがん検診で長年やっているがん検診の場合は、過 剰診断というのはほとんど出なくなります。過剰という表現がおかしいと思うのです が、ある一時期、罹患率が上がる場合がありますが、それは決して過剰ではなく、例え ば今まで全くがん検診をやっていない地域で、ある種のがん検診をやったとします。肺 がんでも子宮がんでも何でもいいのですが、普通でしたら、がん検診をしなければ症状 が出てから見つかりますが、ところが自発症状がない時期に早期のがんを見つけるわけ ですから、普通だったら3年後に見つかるようなものまで、前もって見つかってしまう わけです。  これは有病率という表現を使っているのですが、普通は毎年新しく発症する患者の率 のことを罹患率と言います。有病率というのは、ある時点でその病気を持っている人の 率を言います。ですから実際は病気を持っているのですが、検診を受けないために発見 されない。発見されないと罹患率に上がってきません。  あるいは同じ胃がんでも方法、モダリティを変えますと、その時点で必ず上がりま す。例えば胃のレントゲンだけをやっている集団に対して、ある時期から内視鏡だけで やりますと、内視鏡でしか見つからないような早期の胃がんのいわゆる有病者をさらっ てしまいますので、その時期には上がります。それが2倍になることはまずないのです が、かなり上がります。しかし、毎年同じ方法でやると、翌年から下がります。普通 だったら翌年に見つかるはずの胃がんが前に見つかってしまったために下がるわけで す。そして、そのがんの発育速度によりますが、3年後か5年後あたりに前の数値に 戻ってきます。自然退縮がない場合には当然そうなります。  ただし、自然に退縮するようながんというのは、例えば血液の病気などでもあると思 いますが、特にこの神経芽細胞腫についてはあると言われておりまして、このパーセン トは人によって違いますが、北海道の西先生は、30%くらいであったか、40%くらいで あったか、秦先生は御存じですか。  秦委員  パーセントはわかりませんが、神経芽腫というのは極めて不思議ながんで、がん細胞 ではありますが、特に発生年齢が低いほど、そのがん細胞自身が成熟、分化する能力を 持っているわけです。それはいろいろな分子生物学的、あるいは細胞生物学的な検討で わかっているわけですが、そういうがんは、退縮ないしは成熟と言いますけれども、要 するに良性の腫瘍になってしまう。つまり最初は悪性のような顔をしているけれども、 時間がたつにつれて良性の腫瘍に変わってしまうという性格を持っているのが、この神 経芽腫の極めて特異な性格だと思います。  具体的に、マス・スクリーニングとは別に自然退縮が見つかる例として一番顕著なの は、ステージ4Sという種類の神経芽腫があるのですが、これは、原発は副腎で非常に 小さい腫瘍ですが、骨髄や肝臓皮膚などに多発性に腫瘍が転移しますけれども、年齢に つれて自然にそれがなくなってしまうという腫瘍です。そういうものは自然退縮です。  久道座長  発症する年齢によって自然退縮の率が違うというふうに言われていますね。ですから 専門家の間では、検診をする年齢を少し変えたらどうかという意見も一方ではありま す。秦先生、自然退縮というのはそういう理由があるのですかね。  秦委員  そうだと思います。  久道座長  多分そうですね。ほかに何かございますか。  吉村委員  秦先生にお尋ねしたいのですが、先ほどの梅田委員からの御質問は、秦先生が年齢に よって異なると言われましたが、ある意味ではそういう説明ができるのでしょうか。0 歳や1歳、4歳などの非常に若い年齢においては退縮例が非常に高い、しかしながら、 それ以降では余りないわけですね。そういったことが、先ほど梅田先生がおっしゃった ことにかかわってくるというような解釈というのはできるのでしょうか。  秦委員  この資料6の説明が、自然退縮のためだということかどうかは実際にはちょっとよく わかりません。  吉村委員  これは経年変化を見ているものですから、直接はどうかと思いましたが、先ほどの御 説明の中で、年齢によって、とにかく基本的にはみんな一様ではないということです ね。  秦委員  はい。逆に言うと、日本のマス・スクリーニングをやったおかげでそれがわかったと いうことも実はあります。  久道座長  そうですね。  秦委員  マス・スクリーニングの実施によって、神経芽腫の極めて特異な性格というものが明 らかになってきたという側面があり、そういうことが基点になって、この事業を見直そ うという動機にもなっているのではないかというふうに私は考えております。  梅田委員  それから治療法の進歩というお話がありましたが、実際にどのような治療法の進歩が あったのかということをお聞きしたいのですが。と言うのは、私は昭和55年に、非常に 短い臨床経験の中でこの病気の子供を持っておりまして、そのときに使っていた薬と余 り変わらないと思ったのですが、もう全く臨床を離れていますので、どういう治療法の 進歩があったのかということをお教えいただければと思います。  久道座長  これは秦先生しかわからないのではないですか。  秦委員  きょう欠席されている橋都先生が一番お詳しいと思いますので、私が余りわかったよ うなことは言わない方がいいと思います。  宮本母子保健課長補佐  私もわかったようなことは言ってはいけないのですが、病期ごとの生存率の向上とい う形で治療成績の向上ということが示されるかと思いますが、そういった点で一定程度 は向上が見られているというふうには聞いております。  久道座長  その進歩の種類は薬ですか。それとも手術などの方でしょうか。梅田先生がおっしゃ っているのは、薬が変わっていないということだと思いますが。  梅田委員  はい。薬は変わってないのですが、その使い方などについて、きちんとしたプロトコ ルができたことによって向上したということがあるのか、また手術もきちんとした術式 が確立されて向上したということなのかなと思いまして、お聞きしたいと思いました。  谷口母子保健課長  うろ覚えではございますが、去年、臨床の先生方にお聞きした話の中で、一つはN− mycという、遺伝子といったようなものでやると、重症度の判断というのが割とわか りやすくなってきたということがあって、それによって、これまでであれば手術プラス 化学療法併用で行っていたものが、手術だけでよくなったとか、そういったこともあっ たというふうに私は記憶しておりますが、きょうは橋都先生がいらっしゃらないので、 その辺は次回にまとめて御発言をいただければと思います。  久道座長  そうですね。そういった進歩はあったのだろうと思いますが、専門の先生に聞いてみ ないとあやふやですので、次回あたりにでもそれはお聞きしたいと思います。ほかに何 か御質問はないでしょうか。  それでは私から局長さんに、この検討会の位置づけについての質問ですけれども、普 通は局長さんから諮問されてつくる委員会としては何らかの要項などがありますが、そ ういったものはないのでしょうか。  そして、ここで意見や何かを出せと言われると思うのですが、ただみんなで集まっ て、勉強会をして議論をしましょうということではないと僕は思っているのですが、 はっきりと言われていないような気もします。  それからこの検討会がしかるべき、例えば厚生科学審議会というような何らかの部会 に出して、何らかの意思決定というか判断をするのかどうか。  そういったことも含めて、あるいはここでいろいろ議論した上で、従来の研究、従来 のデータだけで判断していいものかどうか。  あるいはここではとてもまだできないから、もう少ししかるべき研究を早急にやった 方がいいとかそういったことになるのかどうか。  余り先のことを言っても何ですが、この検討会の位置づけといったことを少しお聞き したいと思ったのですが。  岩田雇用均等・児童家庭局長  要綱は資料の1でございまして、これ以上のものはございません。実はこのマス・ス クリーニングの事業というのは、私どもの立場から言いますと地方自治体に対する予算 補助事業なのです。ですからそれを引き続き今のまま続けるかどうかという判断を、厚 生労働省としてしないといけないということがあろうと思います。その判断をするのは 厚生労働省、最終的には厚生労働大臣の責任で判断いたしますけれども、それに先立っ て専門家の御意見をちょうだいしたいということでございます。したがいまして、この 後また審議会にお諮りするというような手続きは、今のところは考えておりません。  御議論の結果は何らかの形で、やはり報告書でまとめていただきたいというふうに 思っております。  今のまま継続すべきなのか、中止すべきなのか、追加調査が必要なのか、あるいは別 のやり方でやった方がいいのか、予断を持っているわけではございませんので、御意見 をまとめていただければと思います。  久道座長  何らかの判断がこの検討会でできた場合の、その結果の影響の度合いまでは気にする 必要はないということですね。わかりました。そこまで気にすると、なかなかやれなく なるものですから。  いかがでしょうか。これまでの討論の中で、まだ御質問などはございますか。  より専門的な先生が委員になっていらっしゃるのですが、きょうは欠席されていると いうこともあって、少し深い議論まではいけないところがありました。  それから、この検討会のたたき台としてつくりました、坪野委員から説明のありまし た資料7についても、突然のような資料という形で目を通された方もいると思いますの で、これを一たん持ち帰っていただいて、何か問題がないのかどうか、あるいはこれ以 外にいろいろな資料等があればまた提出していただくというふうな形で次回の議論に 入っていきたいと思うのですが、よろしいでしょうか。  梅田委員  結構です。  久道座長  はい。それでは事務局の方から何かありますでしょうか。ありましたらお願いしま す。  宮本母子保健課長補佐  はい。次回の日程につきましては今のところまだ確定できておりませず、各委員の日 程を調整中でございます。6月下旬ごろと考えておりますが、決まり次第またお知らせ いたします。  また、次回ですが、今座長から指示がございましたけれども、何か御要望ですとか御 意見をお持ちだというようなことで、あらかじめ資料や御意見をいただけるような場合 には、私どもまで御連絡をいただきたいというふうに思います。  また、この検討会の中だけではなく、これまでスクリーニング事業に関連しましてさ まざまな活動をされてきた団体や皆様がございます。実はそういった方からも既に、御 意見を出したいという御連絡がありますので、そういった御意見などもまた紹介させて いただきまして、皆様にも御検討いただきたいと思っております。  また、そのほか一般的な部分といたしまして、そのほかの専門家ですとか、関心のあ る方からいただきました御意見といったようなものがありましたような場合にも、また 皆様に御紹介をしたいというふうに思っております。  久道座長  議事録はまとめるのですか。  宮本母子保健課長補佐  議事録は最終的には公開いたしますが、次回の議事の資料の中に、本日検討いただき ましたものについて論点を整理して出していきたいというふうに思っております。  久道座長  議事録はホームページにも載せるのですね。  谷口母子保健課長  はい。時期はずれると思いますが。  久道座長  はい。何か事務局に御意見、あるいは御質問はございますか。  吉村委員  先ほどお話に出ましたこの検討会の進め方ということですが、現行のものがどうなの かということが第1点ですね。それだけ先に議論をして、次のオプションというふうに 考えていくような形になるのでしょうか。その先にいろいろなオプションがあるような 気もするのですが。  久道座長  はい。議論を整理するためにはその方法がいいでしょうね。まずはきょう出された、 たたき台と同じように、現行のやり方についてどういうふうな評価をするかということ を先に議論して、その上で固まった時点でその後をどうするかということの方がいいの ではないでしょうか。先のことまで議論すると、やはりちょっと混乱しますので、そう いった方法でいきたいと思います。  ほかにございませんか。それではどうもありがとうございました。きょうは終了いた します。                    照会先:雇用均等・児童家庭局 母子保健課                         03−5253−1111(代)                             宮本(内線:7933)                             柏木(内線:7939)