03/05/22 第4回医療安全対策検討会議ヒヤリ・ハット事例検討作業部会議事録            第4回ヒヤリ・ハット事例検討作業部会                        日時 平成15年5月22日(木)                           10:30〜                        場所 厚生労働省共用第7会議室 ○橋本作業部会長  定刻となりましたので、ただいまから「第4回ヒヤリ・ハット事例検討作業部会」を 開催いたします。委員の皆様におかれましては、お忙しい中ご出席いただきましてあり がとうございます。  本日は18名の委員の出席を以て部会を開催いたします。山路委員は欠席との連絡があ りました。新しく嶋森委員が本部会の委員に就任されましたので、ご報告いたします。  議事次第にもあるように、本日の議事は2件です。1つは、定例の医療安全対策ネッ トワーク整備事業の第6回目の集計結果についての報告と議論、もう1つは、これまで のヒヤリ・ハット事例収集結果から見た転倒・転落の具体的な防止方策について議論し ていただきます。本日はそれぞれの議事について順番に説明、議論を進めていきたいと 思います。  それでは、資料の確認を事務局よりお願いいたします。 ○事務局  資料1は「医療安全対策ネットワーク整備事業(ヒヤリ・ハット事例収集等事業)・ 第6回集計結果の概要について」です。資料2−1が「第6回全般コード化情報の分析 について」です。資料2−2が「全般コード化情報集計結果」です。資料3−1は「第 6回重要事例情報の分析について」、資料3−2は「重要事例情報−分析集」、資料3 −3は「重要事例情報−集計結果」となります。資料4−1は「第6回医薬品・医療用 具・諸物品等情報の分析について」、資料4−2が「医薬品・医療用具・諸物品等情報 集計結果」となります。資料5は「これまでのヒヤリ・ハット事例収集結果等から見た 転倒・転落の具体的防止方策案」についてです。 ○橋本作業部会長  まず、ネットワーク整備事業の第6回の集計結果について議事を進めていきます。こ れは3つに分かれており、「全般コード化情報の分析」については武藤委員から、「重 要事例情報の分析」については嶋森委員から、「医薬品・医療用具・諸物品等情報の分 析」については事務局から、第6回分の集計結果についてそれぞれ説明いただきたいと 思います。その後、質疑応答を行います。 ○武藤委員  資料2−1をご覧ください。全般コード化情報の事例数は今回8,740件でした。単純 集計とクロス集計で分析を行っています。特に、報告事例の多い「処方・与薬」「ドレ ーン・チューブ」「転倒・転落」「医療機器」「輸血」については、該当するデータを 抽出して詳細な検討を行っております。  資料2−2、4頁の図1−2の「発生曜日」について、パターンを見ると月曜日がや や低く、土・日の休日は低い傾向があります。5頁の図1−3−1「発生時間帯」につ いては、8〜9時台にピークがあり、これは全件数のピークがこの時間帯に入っていま す。以前は10時頃にピークがあったのですが、やや早い時間帯へずれてきています。理 由としては、診療情報管理のヒヤリ・ハットが増えていることが影響したようです。6 頁の図1−4「発生場面」についてもパターンは変わらず、「病室」「ナースステー ション」の順です。図1−5「患者性別」も変わらず、やはり男性が多くなっていま す。  7頁の図1−6−1及び図1−6−2は「患者の年齢」とその「発生場面」について ですが、年齢は60代、70代に1つのピークがあるのと、0〜10歳に1つのピークがあり ます。高齢者のピークと子どものピークはちょっとパターンが違い、高齢者のピークは 「転倒・転落」「ドレーン・チューブ」が多く、子どもに関しては「給食」のヒヤリ・ ハットが多かったようです。8頁の図1−8−1「発見者」については、全事例とも当 事者が報告していることが多く、次に同職種者となっています。9頁は発見者と当事者 を職種別に見てみました。図1−8−2ですが、看護師・医師・薬剤師と分けると、医 師、薬剤師のほうが看護師に比べて同職種者あるいは他職種者の発見が増えているとい う、パターンの違いがありました。  10頁の図1−10−1「当事者の職種経験年数」については毎回同じなのですが、0 年、1年、2年と減衰しています。今回、これを11頁の図1−10−2で職種別の累積を 取ってみました。いちばん上の累積グラフが看護師で、次が薬剤師、次に医師となりま す。やはり、経験年数の少ない層の看護師に集積していることがわかります。12頁の図 1−12「発生場面」も毎回変わるのですが、「3大ヒヤリ・ハット」と我々は呼んでお り、第1位に処方・与薬、続いてドレーン・チューブ、転倒・転落の順番で、これは変 わりがありませんでした。  次は13頁の図1−14−1「影響度」についてです。ヒヤリ・ハットは間違いが実施さ れた場合と、実施前に未然に回避した場合の2つがありますが、ここでは間違いが実施 された分が70%ぐらいでいちばん多く、問題は実施前に発見、患者への影響が大きいと いうのが61例あったことです。内訳はドレーン・チューブが10件、処方・与薬が8件、 輸血が5件という順番でした。  18頁からは頻度の高かった処方・与薬、その他ドレーン・チューブについて見ていま す。図2−1「処方・与薬」については、無投薬、過剰与薬、投与速度速すぎが群を抜 いており、特に無投薬の多さには驚かされます。図2−2は「発生時間帯」で、8〜9 時台に1つのピークがあり、16〜19時台に2つ目のピークがあります。  20頁の図3−1では「ドレーン・チューブ」を見ています。自己抜去が圧倒的であ り、続いて自然抜去、接続外れの順となっています。自己抜去については栄養チュー ブ、末梢点滴が多いようです。21頁の図3−3のドレーン・チューブの「発生時間帯」 は、例えば処方・与薬などに見られたピーク性があまりはっきりしておりません。自己 抜去が多いということになるかと思います。同じく21頁の図3−4の「患者性別」は、 際立って男性のドレーン・チューブの自己抜去が多くなっており、男性はあまり我慢強 くないようです。  22頁の図3−6はドレーン・チューブの「患者の心身状態」を表しています。これは 床上安静の患者がいちばん多く、続いて意識障害、痴呆症、痴呆・健忘、せん妄症状と なっています。26頁は「医療機器の使用・管理」についてであり、図4−1のように、 輸液・輸注ポンプ、人工呼吸器の2つが大物となっています。輸液・輸注ポンプの内容 を見ると、条件設定の誤り、誤操作、不適切使用となっています。人工呼吸器について は組立の誤り、条件設定の誤りの順になっています。  同じく26頁の図4−2「発生時間帯」には特徴があります。医療機器等の使用・管理 に関しては、8〜11時台と14〜15時台の2つのピークがあり、内容にも特徴がありま す。朝のピークには点検、破損が入り、午後のピークには不適切な使用という傾向があ るようです。27頁は医療機器の使用・管理の中で「患者年齢」を表しています。全体を 見ると、お年寄と子どもの2つのピークがあります。今回、医療機器に関しては0〜10 歳のピークがかなり挙がっています。  29頁からは「輸血」となります。図5−1の「発生場面と発生内容」とを見ると、輸 血検査と輸血の実施という2つの大物があります。両方とも検体の誤り、患者の取り違 いが見られます。30頁の図5−2の輸血に関する「発生曜日」は、2つの曜日ピークが あり、水曜日と金曜日にそれが認められます。この理由に関しては不明です。33頁の図 5−8「当事者の職種」は、輸血に関するヒヤリ・ハットの報告は医師から挙げられて います。やはり、医師が輸血に関してはかなりセンシティブになっているということだ と思います。  36頁からは「療養上の世話」で、これの2つの大物は転倒・転落であり、全体の3分 の2を占めています。療養上の世話の「発生曜日」に関してはあまりピーク性は認めら れませんが、37頁の図6−3の「発生時間帯」で見ると、6〜7時台の起床時と14〜15 時の午後に見られるようです。38頁は転倒・転落の「患者の状態」ですが、図6−5の ように、歩行障害、下肢障害といった運動障害が要因として挙がっています。 ○橋本作業部会長  次に嶋森委員より「第6回重要事例情報の分析について」、説明をお願いします。 ○嶋森委員  資料3−1に沿って説明いたします。資料3−2は「重要事例情報−分析集」です が、目次に事例のタイトルが出ています。これを参考にして、説明を聞いていいただけ ればわかりやすいかと思います。  収集件数1,107件中1,069件が有効でした。分析方法はいままでと同様で、重要事例を 公表し、参考にしていただけるような事例を分析しました。さらに、分析の対象に該当 するものを選定し、よりわかりやすい表記や修文をして、事例ごとにタイトルとキーワ ードを付けております。専門家からのコメントとして、事例内容の記入の仕方や記入の 際に留意すべき点など、記入方法に関するものを付けており、さらに改善策に関するコ メントも付けております。  全般コード化情報から報告されたデータを事例に付け、背景を正確に把握して分析す るようにしました。選定の考え方は従来どおりであり、具体的な内容や発生した要因、 改善策が記録されております。事例が理解しやすいことと、「発生頻度は低いが、致死 的なもの」「他の施設でも有効な改善策」「専門家からのコメントとして有効な改善策 が提示できるもの」「専門家からのコメントとして参考になるような情報が提示し得る ようなもの」に該当する事例を分析しました。モノについては、モノを改善することで 人の認知的負荷の軽減、記憶の混乱の誘発防止に繋がるということで事例を検討してい ます。キーワードとタイトルは2〜3頁の表に従って付けております。  概要についてですが、全体の中の1,069件が有効な報告であり、改善策として有効な 対策が検討されている事例が前回以上に多く見られました。報告が多い事例は従来と同 様で、「与薬」「チューブ・カテーテル類」「転倒・転落」に関する事例が依然として 多く、表のとおり全体の7割以上を占めています。やはり、手技・処置区分が横断的 で、手書き指示の誤読といった指示がわかりにくいもの、指示の伝達の不十分、記載の 誤りなどがありました(オーダーシートに書いたものと伝票とに違う内容が書かれてあ った事例)また、医療従事者間の連絡・伝達ミスということで、医師・看護師間だけで はなく、看護師・看護師間の伝達ミスも依然として多く見られております。  チューブ・カテーテル類に関しては、三方活栓の接続、開栓の忘れ、動脈静脈ライン と自動輸液ポンプや延長チューブなど、使い方が適切でなかったり手順化していない、 また、いつもやっていることをやったつもりがやっていなかったというようなことで、 手順が曖昧なためにエラーが起きていることがあります。このように手順があるにもか かわらず手順どおりに行わないことで、ヒヤリ・ハットが発生しているようです。  引き続きチューブの自己抜去が193件も報告されており、体動が激しい、不穏、せん 妄といった患者の状態によって、自己抜去の可能性がある程度予測されるたにも関わら ず抜去されることがあり、アセスメントのための基準作成が必要だろうと思います。こ れについては、例えばセデーション中にもかかわらずこれが不十分なために抜去される 事例もあります。セデーションを実施するならば、きちっとしたセデーションをするこ とや、医師との連携などをしっかりしていく必要があるのではないかと思います。その ことも含めて、抜去されないような安全で確実な方法を検討する必要があるのではない かと考えます。  与薬に関する事例としては、以前から問題になっていたと思いますが、輸液のバッグ で2つに分かれており、使用直前に開通するというバッグについて、注意書等には書か れてあるようですが、相変わらず未開通のまま実施する事例がみられます。これについ ては、開通しなければ使えないような仕組みを、早目に行っていかなければいけないの ではないかと考えられます。  内服・外用薬については、患者の投与時と看護師による分包時にヒヤリ・ハットが発 生しています。これは、例えば退院時に薬剤部から処方がきているにもかかわらず、そ れをまた広げて分包している間に他の薬と混ざってしまうようなことがあり、調剤済み の薬を、看護師が病棟で分包する必要が果たしてあるのだろうかという問題が議論され ました。そのような意味では、それ以外に、看護師管理の内服薬の場合に、医師が調剤 したものを看護師が改めて分包するといったような問題点があり、この辺りの手順はも う少し簡素化していくことが必要ではないかと思われます。逆に言うと、薬袋を使用せ ず投薬できる状況で届けば、そのまま投薬できるわけで、その方がいいのではないかと いう議論になりました。  調剤については、調剤作業時の薬の量や単位の過不足のみならず、転棟患者の持参薬 が適切に申し送られなかったり、薬袋への記載指示変更の反映がされていないという問 題がありました。例えば、日曜日や夜間に医師から変更があった際、いまある薬を看護 師が分包し直して薬袋に書くといったことからエラーが起きています。これについて は、一旦、薬剤部へ戻し、改めて処方する仕組みを考えなければ防げないのではないか と思われます。内服薬が調剤から患者へ届くまでの間の業務を簡素化し、役割分担を適 切にするという点についてもう少し検討すれば、解決可能なのではないかということが 検討されていました。病院全体の業務の流れを考えていく必要があると思います。  鎮痛剤のMSコンチンは投与間隔が決まっているのですが、患者が寝ていて起こすの は申し訳ないといったことで投薬忘れや、無投薬という事例が起きています。これは、 患者にインフォームド・コンセントを十分行い、定期的に投与が必要なわけですから、 寝ていても起こして投与してもいいのかその場合は抜かすのかといった辺りもきちっと 了解してもらっておけば、このような問題は起きないのではないかと考えます。そのよ うな意味で、インフォームド・コンセントや、患者や家族との互いの了解ということで ヒヤリ・ハットが防止できるのではないかということがわかります。  転倒・転落のヒヤリ・ハットの解決策等については後ほどお話ししたいと思います が、本検討班では過去5回にわたり分析をした86件について提言を行ってきました。転 倒・転落についてはいろいろと問題があり、解決策もいろいろ提案されているのです が、具体的に現場では生かされておらず、相変わらず起きています。これまでの事例の 蓄積を踏まえて、現場で活用するための対策をまとめていく必要があるのではないか、 といった意見が検討班で出ました。それについて少しまとめていこうということにな り、今回、転倒・転落をテーマとして選定し、詳細な分析を行ってみました。  転倒・転落を選定したのは、ヒヤリ・ハットが多いにも関わらず患者自身の問題もあ り解決策がなかなか見つからず、相変わらず起きているということから、問題を整理し てみました。  過去に報告された事例の総数は3,047件中2,509件で、有効事例に対して転倒・転落は 13%を占めています。これはかなり高い率と言えます。今回、188件の転倒・転落があ り、全体は521件で、その割合は16.4%となり、全体的に非常に多いということになり ます。これまで、転倒・転落についていろいろな提案や研究がされていることもあるの で、これを生かしていこうということになりました。  武藤委員からの報告にもあったように、検討の結果は発生状況が1つあるということ です。さらに、リスク要因と対策を検討し、提言していくということになりました。1 つの問題に疾患もありますが、それ以外に薬剤が投与されていること。睡眠剤が投与さ れているにもかかわらず、動いてしまうということ。夜間に転倒・転落が多いといった ことから看護・介護体制の問題があります。医療従事者が介入するかしないかといった ことにも関わっており、療養環境や家族との協力について考える必要があります。 チューブ抜去も男性が多いというような患者の特性といったことなど、臨床的な感覚か ら見ると、患者自身の特性からも、ある程度予想できる問題もあるかもしれないという ことが検討されました。  事前評価に基づき、包括的な対応策が必要ではないかと考えられますが、現時点であ る程度考えられることを、後ほど提案したいと思います。これは案として受け止めてい ただきたいと思っております。これについては、もう少し具体的に現場で使えるような 説明とツールをつくっていくことを考える必要があるのではないかと考えております。 療養環境の整備や転倒・転落を防止するためのセンサー等の機器の整備といったこと も、もう少し積極的にやっていく必要があるのではないかと考えられます。  その他、注目すべき事例としては、手術室での鎖骨下静脈穿刺による、CVカニュー レーションのガイドワイヤーのコーティングが剥がれ、一部が切れて残って肺動脈に達 してしまった事例が最近報告されていますが、これについても、使用書には記載がある が非常に読みにくかったということでした。この辺りも周知徹底する必要があるという ことです。また、輸液ポンプのエラーも相変わらずあり、3倍に設定されたというよう な事例もあり、設定の方法が非常に複雑でわかりにくいといったこともあって、メーカ ー等の積極的な対応が必要ではないかと思っております。  時間で実施される血糖チェックやMSコンチンといったものについては、忘れてしま うという事例がありますので、点滴終了時間が間近になると看護師が何回も部屋を訪ね ることになり、多重な課題を強いられるといったことがあります。これらを検知するよ うな機械があればいいのではないかという議論もされました。MSコンチンなどについ ては、患者との了解といったことも有効な解決策だと考えられます。  薬についてですが、配合禁忌の薬剤を混合してしまう事例もあり、現場で使う医師や 看護師に薬剤についての情報が十分に行き渡らないわけですから、いつでも実施する場 面で確認できるようなITを用いての支援が必要ではないかと思われます。  薬剤名の略称を使うことでコミュニケーションエラーが起きています。その事例とし ては「ドルミカムを10CCに」という医師からの口頭オーダーがあったにもかかわらず、 ”通常2CCを生食8CCに溶かして10CC”にするわけですが、ドルミカムを10CC用意して しまい、危ういことになりそうだったということがありました。そのようなコミュニケ ーションエラーがあり、略した言い方が大きなコミュニケーションエラーの要因になっ ているということで、この辺の統一化が必要だろうと検討されました。  まとめとしてはヒヤリ・ハット事例は1,000件以上あり、転倒・転落に関するヒヤリ ・ハットについては過去の事例も検討しました。報告件数が多い事例は相変わらず同じ なので、分析を続けると同時に、多い事例に関しては、改善策を周知徹底する方策を考 える必要があるのではないかと思います。ヒヤリ・ハットを防止するために、お互いに 仕事をカバーし合うことがあまりいい効果になっていないように思われます。「あの人 がやってくれただろう」とか、患者の転入の際、数人で受けたら確認し忘れて、接続が 不十分で酸素が入っていかなかったという事例がありました。それは誰かがやってくれ ただろう勝手に思いこんでいたことからこの事例が起きています。むしろ、1人ひとり が責任範囲をはっきりさせて行っていくという考え方をしていく必要があるのではない かということが議論されました。  先ほど全般コード化の報告の中にも、エラーが多い時間帯があるとのことでしたが、 特に午前、午後、夕方という特定の時間は業務量が多く、看護師がそれに追いつけない という状況もあると思います。看護提供体制の問題ももう少し検討する必要があると考 えられます。今後の課題としては、事例の記載のことが挙げられます。こちらのフォー マットも、十分書けるフォーマットではないということもあるかと思いますが、記述内 容が不十分で適切な検討ができない部分もありました。要因のところで、「確認不足」 「大丈夫だと思った」「思い込み」といった表現が相変わらずあるのですが、逆にこの ようなことの背景要因というのをもう少し検討する必要があるという視点で、報告する ことを周知していく必要があると思うのです。  組織的な背景や要因を分析する視点がまだまだ十分ではなく、これを私たちはやって いきたいわけですが、なかなか情報が足りないので、もう少し今後検討していく必要が あると思います。記載用紙のフォーマットについても、引き続き報告しやすい形式にし ていく必要があるのではないかと考えています。 ○橋本作業部会長  事務局より「医薬品・医療用具・諸物品等の情報の分析」について、説明をお願いい たします。 ○事務局  資料4−1ですが、今回の総事例数は235件で、医薬品情報のうち4例ほど重複事例 と考えられるものがあったので、分析対象から外してあります。分析対象事例数として は総数431件で、内訳は医薬品関連情報171件、医療用具関連情報51件、諸物品等関連情 報9件が報告されています。  2は「医薬品関連情報の要因別件数」で、今回いちばん多いのは29.2%の「規格違い 」でした。「規格違い」は前回も22.9%と2番目に多く報告されておりました。次に 「その他」の15.2%、「薬効類似」の10.5%、「勘違い」の14%、「剤形違い」の7% という順で報告されています。今回、医薬品情報のうち、「その他」が26件あります が、伝達ミスによると思われるものが7件含まれております。  資料4−2には実際に報告されたそれぞれの情報がありますが、5の事例は医師から の指示と違うものを扱っているといった、伝達ミスと考えられます。32の事例も口頭指 示による間違いということで、これも伝達ミスと考えられる事例です。その他、131は、 持参薬の取扱いについての事例が報告されています。95の事例はオーダリングの入力時 による間違いで、何件か報告されています。20頁では「医薬品関連の調剤機器の整備不 良」といったものが2件ほど報告されています。  資料4−1に戻り、2頁の3で「医療用具関連情報の要因別件数」の分析が行われて います。今回も「管理が不十分」が39.2%と前回同様多く報告されており、続いて「そ の他」が27.5%、「欠陥品・不良品」が9.8%、「故障」が9.8%と報告されています。 実際の医療用具情報については、資料4−2の22頁以降に報告されていますが、この中 に医療用具ではなく、諸物品と思われるものが7件ほど含まれております。また、医薬 品情報のところで持参薬の問題がありましたが、4については医薬品情報が医療用具情 報として報告されています。  医療用具の情報の中で、資料4−2の27頁には「故障」あるいは「欠陥品・不良品」 といった事例が5件報告されていますが、26はフィルター部分で液漏れが起こったもの で、これについてはフィルターとチューブの接続の不具合ということで、現在は品質が 改善されており、旧製品は回収が行われています。27は接続部の薬液漏れで、接続部分 の肉厚増による強化が行われ、旧製品については回収が行われております。  30からは故障していたという事例が5件ほど報告されており、31については部品の劣 化ということで、定期的な部品の交換を検討していかなければいけないとのコメントが あります。32は回路の問題が考えられるので、現在メーカーのほうで全品の点検が行わ れております。煙が出たということがありますが、機械の内部にほこり等が入る可能性 があるので、定期的な点検・清掃を行ってほしいとのお願いをしているところです。 33、34は、医療用具ではなく調剤機器の事例が2件ほど報告されています。  32頁49の事例はガイドワイヤーの問題で、金属針との組み合わせについては、添付文 書の中に「禁忌事項」としてすでに記載がされていますが、本年1月よりすべての医療 用具について添付文書を整備することになっており、その中で禁忌・警告には赤枠等で 目立つような記載が行われているところです。医療機関においては、添付文書を読んで いただくことと同時に、企業においては添付文書の記載を整備する、あるいは適切な情 報提供をしてもらうことが重要かと考えております。  最後に、資料4−1、2頁に「諸物品情報」が9件ほど報告されていますが、資料4 −2、34頁に実際に報告された9件が出ております。1については医療用具関連情報と しても報告があり、資料4−2、24頁の15の事例で、フィルターの接続部にクラックが 入っていた破損ということで、こちらにも報告がされております。現在企業においてそ の原因について調査をしているところです。 ○橋本作業部会長  何かご質問、ご意見があればお願いいたします。転倒・転落については2番目の議事 なので、その部分については必要な事項にとどめていただきたいと思います。  報告のあった11頁、1−10−2は、「職種別に見た経験年数の累積の割合」ですが、 報告されているものの50%は、看護師の場合は「3年未満」と見るのですか。 ○武藤委員  そうです。 ○橋本作業部会長  そのようなことが言えるということなので、教育といったことが非常に大事になると いうことだと思います。ただ、これらの職種の全体の経験年数の分布で構成しなければ 本当は見えないことになりますが、大ざっぱな言い方をするとそのような言い方が可能 かと思います。 ○原田委員  事故の領域別で「患者年齢」を見たときに、なかなかおもしろいデータだと思ったの ですが、ちょっと気になったのは、すべて10歳単位になっていることで、これはいまの コード化情報がそのようになっているからだと思うのですが、取りわけ、0〜10歳まで で、例えばドレーン・チューブ類の事故が多いことの原因を特定していく際、10歳まで というのはちょっと幅が大き過ぎるのではないかと思いました。この次コードを変えて いくときに、どの辺の年齢を基準にして分けていくことが必要なのか、是非現場の先生 方の意見を伺いたいと思います。 ○武藤委員  おっしゃるとおりなのですが、場面の中でNICUといった年齢が特定されるところ もありますので、それを参考にはできると思います。 ○橋本作業部会長  NICUは結構多いという知見はあり、その部分はわかるということです。元々デー タを入力する際、区分データで入っているのですか。0〜10でチェックしているのです か。実年齢が入って、コンピューター的に再区分しているということではありません か。もしそうであれば、割合簡単だと思います。 ○武藤委員  わからなかったのは、輸血のところでなぜ水曜日と金曜日にピークがあるのかという ことです。これはどうしてですか。オペ日ということですか。 ○原田委員  1年分のデータでも同じような偏りがあったので、とても不思議だと思っています。 ○橋本作業部会長  輸血業務が多くなる曜日があるということで、それはオペ日だというわけです。 ○武藤委員  無投薬が非常に多いのですが、原因は、やはり中止や変更、持参薬といったことで しょうか。一体何が原因なのでしょうか。 ○松月委員  忘れてはいけないからということで、自分のカートのところに置いておくわけです。 お昼に行く予定で、それが今日からだった、しかし、昨日まではなかったので忘れてし まったというような、本当にヒューマンエラーといった部分が多いのです。私どもでも 無投薬が多いのですが、原因はそのようなことで、次に必ず気が付くので投与がされて いるのですが、その時点では無投薬という報告が上がってくることが多いです。量の関 係で中止のままでいいとなれば、場合によっては無投薬という報告になるのです。 ○土屋委員  先ほど指摘もありましたが、食事との関係で投与されることが多いのに、時間的な関 係の他に、保存条件というか保管場所が冷所であるとか金庫の中だとかといった、いろ いろな意味での病棟での場所が複数化してしまうために、その種のものを忘れたという 事例はかなりあると思います。そういったところの在り方論にもなっていくのかという 気がします。 ○嶋森委員  一緒にいろいろな仕事をしているので、薬を投与する時間を忘れてしまうことが割と 多いと思います。分析の中でもそういったことと、もう1つは場所が変わったり、オー ダーが変わったとき、そのオーダーも開始時間を過ぎてオーダーが伝わったり、薬だけ が渡っていなかったりとか、情報の伝達のタイミングがずれていることもあると思いま す。看護師同士もあるし、医師と看護師との間でもあります。1回分は投薬忘れという 形で出てしまうのではないかと思います。 ○原田委員  土屋委員のご指摘に関連して、特殊な薬の保存場所が分散することに加えて、病棟等 でいろいろ見せていただいた後、薬剤を確認して混注作業するまでというのはほぼ完璧 と思われるくらいに丁寧に処理されているのですが、混注し終わった後、部屋別に分け て、後はするだけという状態の後の保存の場所や仕方が、そのとき、そのときで変わっ ていたり、定型化されていない印象を持っております。最終的にやるまでのところの最 後の保存場所というのが、やはり1つのポイントかと思っております。  もう1点は確定したことではないのですが、以前1年分のデータを分析したときに、 曜日とか時間によって無投薬が増える部分と、過剰投薬とか早過ぎる投薬になったり と、増えるほうにエラーが起こる部分とが、曜日とか時間で分かれていたような記憶が あります。その辺をもう少し詳しく分析してみたいと個人的に思っております。 ○橋本作業部会長  それは仮説としては、業務の流れと関係があるといったことですか。 ○原田委員  そうだと思います。月〜金のウィークデイとウィークエンドとでは変わっていたとい う記憶があります。 ○山本委員  資料2−2の43頁、表7で、医療機器の使用・管理の件で、「機器の誤操作・その他 」と、「機器の不適切使用」「機器の誤作動」とあり、機器の問題なのか、使用者の間 違いなのかが不明です。例えば、誤操作というのは不適切使用とは違うのかどうなの か、誤作動は故障と同じかどうか。さらに、「機器の点検・管理ミス」と「使用・管理 エラー」、「機器の修理ミス」というのも区別が判然としない感じがします。ここに参 加していない人たちに説明するのにわかりにくいので、機器の問題かどうかという点を はっきりしたほうがわかりやすいという気がします。 ○武藤委員  ヒヤリ・ハットは報告者の認知が影響していますから、実際には、使用方法によって 誤作動に見えたがそうではなかったという場合も、誤作動として報告することもありま す。客観的な事実と区別して報告することは、なかなか難しいのではないかと思いま す。 ○橋本作業部会長  それは難しいでしょうが、その前の段階として、これに入力してもらうときの入力の 定義というようなものが、もう少しきちっとできればいいという議論はあります。いず れにしても、もう一段階、ヒヤリ・ハットの分析が精度を増していくことが検討されて いますが、そのためには入力の方法などといったトレーニングを含めて行わなければな らないという内部的な議論があります。 ○増子委員  22頁の患者のドレーン・チューブの抜去などにしても、患者の心身状態を表現するの に「床上安静」というのが抜きん出て高いわけですが、その下の分類が意識障害があっ て、その人が床上安静中に起こっているのかといった辺りについて、このような分類で 表現するようになっていたのでしょうか。 ○武藤委員  これは複数回答なので、複数を付けたものを同定することは技術的にできないのでは ないかと。 ○増子委員  意識障害のある人が睡眠中といった、ちょっと分類の中身が違うので、今後の検討課 題かと思います。 ○武藤委員  26頁の医療機械の話なのですが、始動時というか8時台からと午後の2つのピークが あり、それぞれパターンが違うというのです。午前中は点検・破損、午後は不適切使用 となっており、この辺りも何かこのようなパターンが見えてきたと思うのです。これは MEとの関連もありますが、多分始動時の整備されていない中での人工呼吸器、輸液ポ ンプなどを使った際のヒヤリ・ハットだと思うのです。 ○橋本作業部会長  始業点検の際の人員の配置の問題、メンテナンスの問題といったことに、少し配慮し なければならないのかと思います。特に、国立病院から来ているデータが多いので、そ のような意味では、実態としてはMEの配置が少ないという状況はあると思います。 ○目黒委員  機械を整備する側から申し上げますと、基本的にはこの時間帯に問い合わせが、例え ば機械の修理とか、誤動作があったとか、そういう問い合わせが私たちが仕事をしてい て多いということではないのです。  ですから、多分この8時、9時は申し送り後や、あるいは次の日の指示が終わった、 次の条件設定とか、そういう指示があって変更したりするときの時間帯かなと、私はふ と思ったのですが。それではないのですか。これは予想の域を出ないのですが。  あとは、14時、15時というのもちょっとわからないのですが、午後の先生たちの指 示、あるいは術後患者さんが帰ってくるとか、そういうときの状況変化に対応しきれて いないのかなという感じがするのです。  機器の故障に関していえば、参考意見として前回も言ったかと思いますが、今年4 月、新人の方々に、うちは107名おられたのですが、それを2週間かけて、少人数の20 人前後でずっと機器の取扱い、呼吸器と輸液ポンプ関係でヒヤリ・ハットの事例として 上がってくる分について、集中的な新人教育をしてみました。  昨年と随分違うことがわかりました。やはり、使用に関する問い合わせなどは、昨年 より随分少ないということがわかっているので、多分これは経験年数と教育の問題が絡 んでくるかとは思います。一応参考意見として。 ○橋本作業部会長  そうですね、私どもの所でも同じようなことをしていまして、そういう意味では、現 場の看護師たちの機器の取扱いに関する能力がすごく上がるという、その情報がきちっ と伝わっていなかったとか、教育が伝わっていなかったというこれまでの反省があるの だろうと思います。 ○佐野委員  先日ME関連の学会で、多くのメーカーの方々が参加していたところでME機器の安 全の話をしていたときに、いま言われたようなユーザー側の教育というのは非常に大事 だということで、もちろんメーカー側のサービスの人たちの意見を聞くだけでなく、実 際の現場のナースとかドクターとか、あるいはME関係の人たちに対する指導も大事だ ということが1つです。  もう一つは、今回のヒヤリ・ハットのところの医療機器の仕様に関してもそうなので すが、例えばメーカー側で、アラーム設定をたくさんつくって、トラブルがあったらす ぐに止まるような機器になったよというのですが、ところが、機器が止まったその後は どうなんだということなのです。アラームを鳴らすだけでいいのか。その後、医療者は どうするのか、メーカー側はどうなんだと、そこのところの突っ込みが、ちょっといま 一つ足りないような気がするのです。  例えば、体外循環が回っていて、アラームが鳴って止まったときその後どうするんだ というようなこととか、あるいは、透析の機械が実際に作動している最中に止まってし まった、その後どうなのか。誰がどうするんだというようなところの対応がどうも、 メーカー側のほうは非常に希薄だなという気がするのですが、いかがでしょうか。それ が、今回、ヒヤリ・ハット事例の中では、実際には事故が起きていない、気づきがあっ たりして、でもその陰には、非常事態に対するいろいろなことが現場では起きていたの だろうと思われるわけです。アラームを鳴らしさえすればそれでよいのではなくその後 の対応が、実は非常に大事な部分ではないかという気がするのです。 ○石川委員  いまのは警報とかの件だと思うのですが、業界のほうではどういうふうにしているか というと、確かにご指摘のようなこともあるのですが、この後で出てくる重要事例も読 ませていただくと、アラームに関してのことが随分書かれております。それを私たちは いま参考にしながら勉強しているのですが、なければ困るし、あっても種類が多すぎる ということもある。それから、患者さんから見た場合の問題も考えなければいけない。  もともと誰のために、何のために、なぜこのアラームはあるのか。要するに、機械が 途中で止まってしまったのか、それとも電源が抜けただけなのか。どういうことなのか ということがわからなければいけないというところを、いま勉強しようというか、再度 見直しをしようとしています。そのためには、臨床工学士の先生方、看護師の方々のご 意見を聞いて、いまやろうとしている最中です。  あまりにも、防護するために、また鳴ればいいということだけではなく、お使いにな る方々のことも考えながらやらないと、ただ、たくさん音が出るだけでは、どの音かと いう、音の種別というのは区別できませんので、そこらあたりを何か、ITの世の中に なりましたので、検討しなければいけないかなという状態にあると思います。両方で協 力しながらやらないと、多分一方通行ではまた同じことになるかと思います。 ○橋本作業部会長  うちでも人工呼吸器の研修をしたときに、アドバンストコースでは、これ何の音とい うテストをしていたのですが、ちょっとマニアックで、私はいやだなと思っているので す。確かに、いろんな音を聞き分けなければいけない医療現場というのは、あまりいい 状況ではないですね。  それからちょっと聞きたいのですが、患者さんにとって云々というのは、どういうこ とでしょうか。 ○石川委員  患者さんのそばで、健常の方が多分主だと思うのですが、やはり途中で、アラームで はなくても、音が鳴っているものがありますね。そうすると、それが夜中じゅう鳴って いるとすると、朝起きたときに、先生から「ご気分いかがでしたか」と聞かれたとき に、「体の調子はいいんだけれども、うるさかったね」とは言いづらいのでということ は聞こえてきますので、そういう意味で、患者さんのことも少し考えなければいけない のかなと思うのです。  ただ、夜勤の場合に、看護師のほうとか、詰め所にちゃんと行かなければいけないだ ろうということもあるし、聞こえなければいけないということもあるのでしょうけれど も、そういうことも少し頭に入れて考えなければいけないかなという意味でです。 ○橋本作業部会長  その辺はちょっと難しいような気がしますね。 ○石川委員  難しいです。 ○橋本作業部会長  昔、リストバンドがどうかという議論が10数年前にあって、あれは患者さんにとって 非常に無礼なものだろうという議論がありました。いまでも多分そういう議論があると 思いますが、しかしながら、横浜市大が発端ですが、ああいうことがあってから、やは り患者さんに聞くと、リストバンドは不愉快ではないというのです。守られていれば、 余程そのほうが安心だというのは、ベースがちょっと違うのかもしれません。  それから、足の裏に名前を書くことも、しょうがないのではないかと甘受する姿勢が あるので、あまり鳴らないほうがいいとは思いますが、音が控え目で事故が起こるより は、よほど鳴ってくれたほうがいいかなという議論や、意見もあると思います。 ○嶋森委員  そのアラームのことですが、多分夜などは、アラームがたくさん鳴っても、アラーム に対応できる体制が非常に大きな問題で、部屋で鳴っても、よその部屋に入っていると 聞こえなかったりという問題もありますから、やはり、アラームの鳴るような医療機器 を使う患者の多い所には、それに対応できる体制も検討しなければいけないことではな いかという気がします。 ○松月委員  私たちは非常にアラームに埋もれたような所で仕事をしていますので、患者さんから は「眠れない」と非常に苦情が出ます。それですので、そういう方向で取り組んでいた だくことは大歓迎です。  それでちょっと思うのは、最近ですと、例えば、アラームではなくて、故障した場所 が文字になって出るというスタイルのものがありますね。アラームというのは、モニタ ーの音はピッピッピッピしていて、それにアラーム音が聞こえるわけですから、本当に 騒音の渦なので、どちらかというと、音に頼らずに、そちらの方向に。例えば最近ナー スはそれぞれ一人一人が持っていますね。そこへ、何番の誰々が電源コードが外れたと か、何か出てきたらいいかなと思うのです。あくまで希望でございます。 ○橋本作業部会長  それはきっと考えておられますよね。誰にどう出すかというところの整理がもう一つ 必要かもしれないですね。 ○目黒委員  現場ですが、私たちは生体情報に関しても人工呼吸器に関しても、適切な設定であろ うというアラーム設定をして、病棟に貸し出したりしますが、先ほどの話のように、夜 うるさいとか、患者さんの意識障害の問題等もありますが、暴れたり、音で反応する患 者さんがおられたりするということで、アラームを切られてくることが多いですね。設 定を変えて、アラームを切るということです。  それと、先ほど人工呼吸器の件でもお話ししましたが、最近は人工呼吸器のアラーム をナースコールに連動するという形のものがあるのですが、条件設定を適切にしない と、頻繁にアラームが鳴り、ナースステーションではうるさいということで、場合に よっては外してしまうことも、なきにしもあらずではないか。実際には、処置をすると きにも、アラームが鳴りますので、そういう場合にはどうしてもうるさくなるので、接 続部分を抜いて処置を行うこともありますので、後で接続忘れが起こるのかなという心 配もあります。現状としては、そういうことがあります。 ○橋本作業部会長  大変小さな話になるかもしれませんが、抜くという行為自体が、ちょっとよくわから ないのですが。例えば、設定を一時的に鳴らないようにして、時間が経てば戻るという ようなことを普通は考えそうなのですが、そういうことはしないのですか。 ○目黒委員  人工呼吸器のほうから、アラームが自動的にナースコールに連動するケーブル、スイ ッチがありますね。そのナースコールにつながっている配線上の接続、壁のほうのナー スコールの接続部分から抜いてしまうという。 ○橋本作業部会長  そこはやはり、ボタンを押すと一時的に保留できて、時間が経てば自動的につながる という、そういうほうがよほどいいのではないかと思いますが。 ○目黒委員  ええ。 ○嶋森委員  先ほど申し上げましたが、結局、アラームを受け取る体制が不十分だということです ね。私はだいぶ前に、アメリカにCCUのステップダウンユニットに行ったときに、モ ニター室というのがあって、患者さんのモニターの画面が全部1つの部屋に出て、それ をMEの人が見ていて、異常波が出ると、受持ちナースのピッチに連絡するというよう な仕組みになっているのを見ました。  日本の医療体制では、なかなか難しいとは思いますが、そのくらいのことを考えない と、アラームを受けて、アラームというのは緊急事態なわけで、ですから、場所にもよ りますが、アラームが頻回に鳴って、しかも生命に異常のあるようなアラームが鳴るよ うな患者さんがたくさんいる所は、それに適応できる体制を今後は検討していく必要が あるのではないかと思います。 ○橋本作業部会長  そうですね。そこが根本だと思います。 ○土屋委員  アラームの件については、ここは参考にすべきだというのは、やはり航空機のところ かなという気がするのです。昔から計器がたくさんあって、非常時にはボンボン全部つ いてしまう。どうしたらいいかということで、いまのCRTによる総合監視システムみ たいなものができているわけですから、やはり、いまの医療機器というのは、どうして も1品目ごとの承認になりますので、そういう総合というものがなかなかないと思うの ですが、今後、アラームについてはそういう重み付けをした上での、総合監視システム みたいなものを開発していくということが、やはり必要になってくるのかなと思うので す。  最新の飛行機はエンジン火災が起きていても、それをわざと、ある一定の速度を超え たら滑走路内では止まれない。ところがそれを知らせてしまうと、滑走路で止まろうと して起きている事故が多いので、いっそというので、そのスピードを超えたら上空へ 行ってしまうまで教えない。そして上空へ行って、高さがきたら「火事ですよ」と言っ て教える、そこから手順がずっと出てくるというふうになっている機種があるわけで す。  いまの1つは、アラームであっても、そのときにアラームを出すべきかどうかという 検討が、航空機ではすでになされているわけですから、そういうことを今後考えていく ことは、すぐにはできないと思いますが、やはりそういうことを考えておく。あれは、 やはり1つの機械の中で、全系統が1つになっているというメリットがあるので、他社 のものをいろいろつなぎながら、はたしてそれができるかという話は、ただこういう ネットワークの時代ですし、そういうことを今後何年間かけて検討していってもいいの かなという気はします。 ○橋本作業部会長  そういう考え方というのは、つまり体系的に整理できますか。かなり困難な、医療そ れ自体が、いろんなリスクを勘案しながら、ある便益に向かっていく行為じゃないです か。それは、大きく医療そのものとかかわってくる可能性があるわけですね。 ○土屋委員  ただ、逆に言うと、アラームの設定の、どういうことをやっているかという実際の マップをつくり、そしてそれについての患者さんの状況との関係でのマップをつくって とか、そういうことは昔に比べたら、いまは随分やりやすくなっているわけですから、 完璧なものとは、逆に今度はそういうものができると、それができない限りは、鳴って いなかったから気にしなかったという、こういうことがまた起きてしまうのですが、た だ、やはりそういう研究を一方でさせないといけないのではないかという気がします。 ○橋本作業部会長  大きな問題を提起していただきました。  では次に移りましょうか。2番目の議事である、これまでのヒヤリ・ハット事例収集 結果から見た、転倒・転落についての対策ということを考えてみたいと思います。先ほ ど少しお触れになりましたが、検討班の嶋森委員から資料の説明をいただいて、その後 ご意見を伺いたいと思います。 ○嶋森委員  資料5のA3の大きな図を見ていただきたいと思います。私も今回初めて、班長にな りまして、ここでも4例の転倒・転落の事例を分析したのですが、そのほかのものも含 めて、似たような問題があるということ。それから状況が非常に似ていて、しかもここ に参考文献を4つほど挙げていますが、転倒転落防止についていろいろ提案されていま す。しかし、同じような転倒・転落が多いので、整理して、現場で実際に使えるツール を作る必要があるのではないかという意見が出まして、このように整理してみました。 川村先生もいらっしゃいますので、いろんな方からご意見を伺って、今後の検討を深め ていきたいと思っています。  左の2つの図ですが、この重要事例として報告されたものから見ると、トイレへの移 動時のベッド・車椅子からの転倒が、依然として多くみられます。できると思って、 ちょっと離れたら、その間に転んでいたというふうなことが相変わらず多い。夜間排泄 時と、せん妄状態で、頻回に発生しています。注意していても一瞬目を離した隙に発生 するという場合も多く、アセスメントが不十分なんだろうと考えられます。  また、患者さんやその家族は、自分の身体能力を過信しているように思われます。誰 でも、自分は人に助けてもらわないで動きたいわけですから、そういう心理が働いて、 どうしても年齢よりも体力があるつもりになるし、病気になる前の体力のつもりで動い てしまうということがあります。そういう状況を医療者側が把握していないということ も問題だと思います。  事例を検討してみると、リスク要因としては、痴呆も含めて、不穏があること。転倒 歴がある。年齢が高い。それから、向精神薬投与中であることなどがあります。起きて しまう。術後のせん妄状態でも起きています。また患者さんとのコミュニケーションが 不十分な場合もあります。患者さんに伝えたつもりが、十分に伝わっていない。患者さ んの思惑を十分把握していないために、「後で来ますから動かないで」と言っても、ご 自分で動かれるというふうなことが起きています。  それから、療養環境に変化が生じたばかりの時にも起きています。これは「入院した ばかり」「転棟したばかり」ということで、環境が変わったような状況で起こる、これ はリスク要因として、文献でも出ていると思います。  対応策として考えたのが、その右側の枠です。まず、患者さんの特性と状態をきちっ と見るということ。そして薬剤等の影響がどうなっているか、それから看護体制はどう なっているか。また、医療従事者からの介入がされている事例かどうか。療養環境がど うであるか。家族の協力が得られるのかどうか。患者自身の性格や行動特性。これはご 自分でなさりたいという方は、どうしても身体能力が落ちているにもかかわらず動いて しまう。こういうことを見ていく必要があるだろうということです。  具体的な対応策としては、1つは、看護者、医療従事者の介入が絡む転倒・転落への 対応策と、もう一つはそれが絡まない場合の対応策ということです。視点としては、療 養環境の整備と、適切なケアプランを立てていくことが必要です。そして、患者さん、 家族へのインフォームド・コンセント、スタッフへの教育。患者さんへのケアの提供体 制の検討が必要だということです。この5つの視点から、具体的なケアプランを立てて いく必要があると考えられます。  看護師の介入が絡む事例と絡まない事例でいうと、1つは、療養環境の整備について は、介入が絡まない転倒・転落への対応については、その患者さんがご自分で動かれる わけですから、動くのに適切な環境を整える必要があります。障害物を除去したり、 ナースコールの配置の検討をしたりということです。  介入が必要な場合には、それに応じた環境を整えるということです。適切なプランの 策定については、看護者が介入する場合には、個人の特性や病歴、リスクへの理解度と いうことをアセスメントする必要があります。介入が絡まないで、看護者が知らない所 で起きてしまうということについては、せん妄や不安を引き起こす病態というようなこ とをきちっとアセスメントしたり、そういう状態がある場合には、専門施設の防止策の ノウハウを活用していくということも、考えていく必要があるだろうと思います。  患者さんへの説明や指導については、どんなときに転倒するかということを考える と、ご自分でお風呂に入ったり、排泄したりする場合に起きています。転倒の重要事例 の分析の中でも、下着を着換えるからと、ベッドの上で着換えるだけは大丈夫だろうと 思って目を離したら、ついでに履物を履こうと思って転落したというようなこともあり ますから、ご自分がどの程度できるかというあたりを十分、お互いに了解しあっていく 必要があるということと、スタッフ教育、患者へのケアということを検討していく必要 があります。  特に、私たちが知らない所で転倒していくケースについては、機器や用具の整備をき ちっとしていく必要があるだろうと思われます。点滴台にすがって歩いていて、点滴台 が動いてしまうというような事例もありますが、点滴台を杖代わりに使うのはどうかと いう問題がありました。歩行補助具やベッドの高さ、膝より高いベッドだと、下りよう として転倒するというようなこともありますから、適切な高さのベッドを準備する。。  転倒・転落の影響緩和のためのマットやプロテクター、離床センサーなども考える必 要があります。しかしこれも高価で全員の患者さんに使うというのはなかなか大変とい うことで、もう少し安いもので良いものを開発していただく必要があると考えます。  患者さんが、ご自分の身体能力の評価が高い場合には、それに応じたパワーリハビリ といいますか、もう少し能力がアップできるように、筋力アップのためのリハビリとい うようなことや、ADL向上のための訓練が必要だろうと思われます。  もう一つ、今後研究開発をしていく必要がある点としては、医療現場で活用可能なア セスメントツールの開発・研究が必要です。現場でも使っていますが、評価もきちっと されていないようです。使っているわりには、転倒・転落が減らないということなの で、多分有効に使われていないのだろうということです。このあたりの研究は必要だろ うと思います。  また、有効な対策に関するエビデンスの収集のための研究の推進。それと、療養環境 や安全確保のための機器に関する研究の推進。これは療養環境研究会などでもやってい ただいていますが、この辺のことも、少し具体的な、現場につながるような研究をして いく必要があるだろうと思います。現場で実際に起きていることを防止するために、基 礎的な研究を現場につなげる研究というのが必要かと思います。  少ない事例で検討結果ですが、川村先生はかなりたくさんの事例を検討してくださっ ているので、まだいろんな示唆がいただけるのではないかと思っています。同じような 転倒・転落がどんどん続くのを、少しでも防止したいという、事例検討班での検討の結 果を一応このように整理してみましたので、是非ご意見をいただきたいと思っていま す。 ○橋本作業部会長  いま、ヒヤリ・ハットの重要事例からだけではなくて、転倒・転落については、いろ いろ報告されていて、なかなか少なくならない。しかも、有効な解決策がなかなか見え てこないという状況の中で、きちっと整理してやりましょうということだろうと思いま す。  川村先生が相当分析されていることは皆さんご存じだと思いますが、少しコメントを いただければと思います。 ○川村委員  参考文献の1番に挙げていただきましたので、ちょっと僭越ですがお話をさせていた だきます。私が平成11年度に、看護のヒヤリ・ハット1万事例を集めた中で、転倒・転 落は注射に次いで多くて、1,700くらいありました。そのうち1,500は、情報上分析可能 で、その分析事例を基にして、いろいろ考えたわけです。  たくさんの事例を見ると、非常に重要なことがわかりました。それは、先ほど嶋森委 員もおっしゃったように、発生状況に看護者の、「看護者」とあえていうのは、付添い のお母さんなどもちょっと影響することがあるので、多くは看護師ですが、看護師の介 入が絡んでいる転倒・転落と、絡んでいない転倒・転落があります。  絡んでいるというのはどういうことかといいますと、例えば検査台とか処置台とか、 そこに観察している看護師がいても、それらの台上から転落するのを防ぎ得なかった り、台の上り下り時の転落とか、あるいは、乳幼児のベッド柵の上げ忘れで、乳幼児が 転落したり、また生活行動を介助していて、車椅子への移乗を介助していて、残念なが ら転倒させてしまった。あるいは人手が不足するから、トイレの間だけは一人でしてい ただき、後でコールを押してくださいと言って離れたら、その間に一人で降りて転んだ などといった事例です。そういった、看護師が直接・間接的にその発生状況にかかわっ ている転倒・転落が、約4分の1でした。  あとの4分の3が、私たちにとって非常に困難な課題なのですが、患者さんが自ら自 力で動かれた中で起こる転倒・転落でした。それが4分の3を占めるわけですが、その 4分のうちのまた4分の3は、看護師の視野の外で起きていました。つまり、起きた後 発見したり、誰かが教えてくれたとです。そういう意味では、看護師の視野の外で起き る転倒・転落を看護師に防ぎなさいというのは、これはあまりにも酷だなというふうに 感じたわけです。  看護師の介入の絡む事例というのは、看護技術を上げるなど、いろいろな方法がまだ かなりあって、努力もしやすいのです。一方、自力、自発行動における転倒・転落とい うのは、また2群に分かれます。その1つは、比較的判断力が保たれている方の、目的 が明確な行動における転倒・転落と、不穏、せん妄、痴呆といった、環境のリスクなど が自ら判断できない方々の転倒・転落に分かれます。ほぼ判断力をおもちの方が6割 で、4割が判断力をもっておられない、痴呆とせん妄などの方々です。  さらに、目的をもって行動される、判断力がある程度維持されている方も、2つの行 動グループに分かれます。それは、排泄行動とそれ以外です。なぜ排泄行動とそれ以外 という分け方が大事かというと、排泄行動は、かなりの重症の患者さんでも、ベッドサ イドのトイレに動いて座るということをしなければならないですから、それ以外の行動 の事例よりも、はるかに重症者を含みます。それから、排泄は生理的な切迫感を伴っ て、夜間でも行動しなければなりませんので、易転倒性をおもちの方が不利な条件下で 行動されますし、排泄というのは自尊心にかかわるので、自らができる能力と、したい 行動に乖離が生まれてしまいます。ベッドサイドに下りるのがやっとの方でも、トイレ だけは1人で病棟のトイレに行きたいと思います。  特に悪性腫瘍の患者さんなどが非常にこだわられます。ターミナルステージの方が病 棟のトイレまで歩いている中で、よく転んでおられます。多分それは、ターミナルの方 にとっては、まだ病気に負けていない、これをやれている限りはまだ回復のチャンスが あるということで、非常にこだわられます。それだけ排泄行動というのは、患者心理に もかかわる、非常に複雑な問題をはらんでいました。  1つの考え方ですが、自力、自発行動における転倒・転落というのは、先ほど申し上 げましたように、看護師の視野の外で起きるということを考えます。いかに患者さんの リスクと行動を予測して、そして行動を阻害しないような、サポートできる環境を整え ていくかというこです。判断力が落ちている方に対しては、その行動を早期に察知する ようなセンサーのようなもの、人が増える状況でなければ、そういったものをどう整備 していくかということではないかと思います。  でも、いくらそれらをしたからといっても、発生を防ぐことには限界があります。自 力行動というのは、一部の事例を除いて、患者さんの離床意欲ですので尊重しなければ ならない行動です。動かなければ転倒・転落はないわけですから、動かないでほしいと 言うのは本末転倒で、やはり、そういった行動というものは尊重してあげなければなり ません。  そうすると、行動に伴う転倒・転落のリスクというものを、あえて容認して、いかに 適切に、限られた看護資源の中で、よりリスクの高い人に、より上手な行動や環境をサ ポートするような体制をつくるかということを、予測の中で行わなければならないと思 います。防止に限界がありますから、むしろ起こることを想定した対策、被害を軽減さ せるような、被害というのは、骨折と頭蓋内出血がいちばん重要になりますが、そうい ったことを起こさないような、転んでも怪我だけはないようにというような、2段構え で対策を考えていかなければならないと思います。  介入のある転倒・転落というのは、それだけ問題点も明確で、人的な問題でできない こともあったり、方法論はある程度わかっています。問題は4分の3を占める自力行動 の転倒・転落です。  平成12年度に、そういったことがわかりましたので、平成13年度に、それぞれの病院 でどういった対策をしておられるのか、良いものは共有したら、楽ではないかというふ うに思いまして、老健施設も含めて、アンケートをさせていただきました。その結果、 それぞれの病院で、良い対策をしているわけではありませんが、一つ一つの項目に、10 施設くらいは何か知恵を絞ってよい対策を立てておられるのです。特に痴呆の患者さん の転倒・転落には、老健施設で非常によいアイディアをおもちになったりします。各病 院が、自分たちはよいことをしているとは思っておられないわけですが、よい対策をう まくドッキングさせて、ある一定のするべきこととして、これだけのことをというよう な形で、標準化した対策を示して、皆さんにやっていただくということが重要ではない かと思います。  私が申し上げたかったことは、介入のない、自力行動の転倒・転落というのは、発生 防止と障害防止の2段構えでやっていかなければならないということです。特に、環境 での改善が非常に大事ですし、やはり人的資源が必要になります。排泄行動と意識障 害、認知機能に障害のある転倒・転落で、8割が夜勤帯に起こっていました。そして同 じく8割が高齢者です。ですから、夜間の高齢患者問題で、そういった介助人員の問題 とは切り離せない問題でもあります。  人は増えないなら物、しかし、物もまたお金がかかるということで、なかなか医療現 場はここまで、お金が割けなくて悩んでおられることも多いような感じがします。 ○橋本作業部会長  ありがとうございました。なかなか難しい問題ですね。安全の中でも、転倒・転落は すごい問題です。  いかがですか、ご意見はありますでしょうか。私も成功事例のようなものの紹介は大 切だと思っているほうですが、いまのお話の中にあった、よいアイディアがところどこ ろに見られるということの中では、介入ができるところと介入できないところの事例が 両方あるわけですか。 ○川村委員  それぞれあります。施設グループで、いろいろな対策を見てみると、転倒・転落対策 では、やはりリハビリテーション病院が、いちばんいろいろな工夫をもっておられて、 全国のそういった病院のノウハウを集めて生かせば、急性期の病院にかなり役立つので はないかというふうに感じました。 ○橋本作業部会長  アセスメントというのは、実際に役に立っていますか。 ○川村委員  限られた看護資源ですよね。いまや高齢の患者さんばかりで、半数くらいが高齢の患 者さんで、もっと増えていて、福祉領域の方、医療は福祉の患者さんにプラス医療が加 わった方が入っておられるわけですから、そのすべての方に、最高の転倒防止メニュー を提供する余裕はない。そうしたら、重みづけというのがどうしても必要になります ね。  そのアセスメントツールが、いま疾病群で点数評価とかいうやり方をしているのです が、臨床的に、もう少しよいものがあれば、よいものになると思うのですが、アメリカ の文献などを読むと、余計に、疫学的な研究をして、有意差をもってデータを出してお られるのですが、いまひとつ臨床的ではなかったりします。  いまのところ、いろいろな本を見ますと、過去の転倒歴、直近1年くらいの転倒歴が 非常に重要な、転倒リスクを評価する項目としてよいとか、そしてあとは、意識障害、 認知機能障害の患者さんが、非常に重要ではないかと思います。そういったツールを、 よりよいもの、臨床的に使いやすいものをつくるということも、1つの課題ではないか と思います。 ○武藤委員  転倒・転落のアセスメントですが、例えば、さっき男女差が、例えばチューブ・ドレ ーンの例の中にあったのですが、男のほうが多い。転倒・転落なども、男女差というの はありますか。女性のほうが多いですか。 ○川村委員  私は、あまり男女差を考えていなかったものですから。骨折した人に関しては、実際 は私の事例でも、約1,000例のうち20数例が骨折していますが、そのうち12例くらいが、 大腿骨頸部骨折といって、転倒と深くかかわった骨折で、それは圧倒的にやはり骨粗鬆 症の関連で女性が多かったです。 ○武藤委員  特にスウェーデンなどではヒップバンドが普及しているのですが、あれが日本で普及 しない理由というのは、何かあるのですか。 ○川村委員  それは、ちょうど大腿骨の大転子の所に衝撃が当たると、より骨折が起こりやすいと いうことで、あそこにシリコンみたいなクッションをピタッとくっ付けるためには、パ ンツがピタッとしていないといけないのです。そうすると、女性が若いときに着るガー ドルみたいなもので、着脱が大変で、高齢者の方が、トイレで間に合わない。装着する と骨折は少ないのですが、ただ、コンプライアンスが非常に悪くて、普及しにくいとい うことらしいです。 ○武藤委員  ガードル形式。 ○川村委員  普通の高齢者のパンツでも、ちょっと私たちが使っている肩パットでもくっ付けてお けば、少しは役に立つかもしれません。 ○橋本作業部会長  それは、骨折を防ぐ効果はあるのですか。 ○川村委員  このヒッププロテクターは、北欧で開発されて、有名な医学雑誌に載った根拠のある 研究で、老健施設で付けさせたら、圧倒的に大腿骨頸部骨折は減ったそうです。付けれ ばいいんです。 ○橋本作業部会長  コンプライアンスが悪い。 ○川村委員  そうです。付けるのが大変なのです。 ○橋本作業部会長  メーカーの努力で、何かコンプライアンスのよいものを作れればいいですね。企業側 に、そういう情報があまり伝わっていないのかもしれないですね。そういう問題がある かもしれない。 ○嶋森委員  転倒・転落のもう一つの方向としては、1つはリハビリして動かせる人はいいのです が、術後とか、意識が鮮明でないけれども、人工呼吸器とか、大事なチューブが入って いる事例に、自分で抜管するという事故も同時にあります。このとき議論になったの は、セデーションをして、救命が必要な場合、抜管されたり転したりすると危ないです から、セデーションの適切な仕方というものも、検討すべきではないかという意見があ りました。  ですから、急性期で、治療を中心にしなければいけない場合の安全ということも、も う一方で考えなければいけないと思いますが、その辺はいかがでしょうか。 ○川村委員  先ほどの判断力が低下した患者の転倒・転落のケースの中の、半分は高齢者の術後と か、急性期の循環器疾患等の、身体疾患に伴う不穏の方々なのです。その方たちは、多 くは生命ラインともいえるチューブが入っている方です。ですから、転倒・転落、特に ベッドからの転落になりますが、転落ということは、すなわち、チューブの外れや抜去 につながり、生命にかかわる事故に発展します。  ですから、そういった方には、セデーションも含めて、抑制、許される身体拘束とい うのが適用になる方々ですが、現場では、最近の身体拘束廃止という動きの中で、急性 期の看護師の中にも、できるだけ緩やかな拘束とベッド柵で対応しておられて、やはり そこから乗り越えられて落ちて、ドレーンが外れて、再手術などというケースが出てき ます。これが転倒・転落の中で最も悩んでいる課題ではないかと思います。  そういう意味で、許される身体拘束というものに対するお墨付きみたいなものを与え ていかないと、どっちつかずでより重大な事故に発展するようなケースが見られまし た。 ○橋本作業部会長  どっちつかずの、やはり拘束はしたくないという基本的なベースはあると思うのです が、それで現場は揺れているのですか。 ○嶋森委員  揺れています。 ○橋本作業部会長  そこは、少し何か足さなければいけない。三宅先生いかがですか。 ○三宅委員  いま川村先生がおっしゃったことは大変重要で、私どもの看護師でも、むしろいま世 間的に、慢性期の患者さんを拘束することはよくないということはよくわかるけれど も、むしろそういう急性期の病態では、拘束しないと治療できないという状況はかなり あります。ですから、むしろこういう状態では拘束が許されるということを明確にし て、それを世間的にもきちんと認知するというか、それが非常に大事ではないかと思う のです。  ですから、そういう状況がわからないと、患者さんの家族が見舞いに来たときに、拘 束しているという抗議をするのです。だから、そこらは非常に混乱を招いているという ふうに私は思います。 ○松月委員  現場では、でも看護師はやはり抑制はよくないことだと言いつつ、患者さん、ご家族 の方に承諾書をとったりしているわけですが、はっきり言って、全員の方にいただくわ けです。そういうことがあるのですが、でも、絶対にしてほしくないという方も、中に はいらっしゃいます。そういうことには、個別の対応をするのですが、私たちがとる処 置として、抑制ができないということになると、強いセデーションをかけることになる わけです。  そうすると、術後、早く、当然意識をそういう状態にしなくてもいい人でも、そうし なければいけないという現状があって、やはり回復が遅くなる。そうするとやはり在院 日数が延びるということがあるので、安易にセデーションすることと抑制することとい うのは、重症・集中の部分でも同じように考えていますので、かえってそれが弊害にな るということがあるので、それを承知していただく、認知していただきたいというの は、本当に現場の思いです。転落の前に、重要な気管内チューブの自己抜去というの は、非常に数が多いです。  ですから、これは何とか認めていただけると、私たちも非常にインフォームド・コン セントが得やすいなと思っております。 ○目黒委員  私たちのほうに、よく看護師のほうから、離床並びに体動を検知するセンサーみたい なものはないですかという話があって、私もちょっといろいろ見てみたのですが、探し きれませんでした。やはり、そういう部分で、それがあってどれくらいのパーセンテー ジを防止できるかどうかわかりませんが、そこら辺の、機器の整備も、まだ不十分なの かなという気もしているのです。 ○松月委員  それについては入れていますので、もちろん患者さんが一定時間ベッドから離れた ら、アラームが鳴るようになっているので、それで防げるものもありますが、それが対 象になるのは、やはり慢性期の患者さんになるかなと思います。 ○嶋森委員  離床センサーについては、先ほどもちょっと触れましたが、危険のある人全てに使う のはお金がかかって、入れられないというのが現実だと思います。一時、ベッドサイド に下りたら鳴るというマットがありましたが、あれはベッドから下りないと鳴らないの で、転落防止にはならない。  いま、寝衣にナースコールを付けて、外れると鳴るというのと、ベッドから離れると 鳴るという、離床センサーというのがありますが、それは、転落防止にはなると思いま すが、それはやはり値段がちょっと高いので、安くできないかと思います。 ○目黒委員  そうですね。メーカーではないので、そういうふうな意味で、これだけの数が多く出 てきているものであれば、もしかして採算性が合う部分で、コストを下げることができ ていくのかなという感じもしたものですから。 ○橋本作業部会長  あと、予防という意味合いではないけれども、障害防止というか、フェールセーフと か、フェールソフトリーとかという領域だと思いますが、そこら辺はどうなんですか ね。いまの、マットの問題というのは、確かに障害を減らすんだと思いますが、あれ は、落ちないときは結構蹴つまずく要因になりますよね。あれはあれで、また危ないな と思っているのですが、むしろ床材の問題、ちょっとお金がかかってしまいますが、そ ういう話なのかなという気がします。 ○川村委員  怪我ということを考えたときに、急性硬膜下血腫とか、生命にかかわる頭蓋内出血が いちばん困るわけです。その次に、大腿骨頸部骨折です。寝たきりのきっかけになって います。ほかの骨折は、上腕骨とか橈骨などは、苦痛ではあっても、それで大きくAD Lに影響が出るものではないので、私は、2つが重要な障害防止のターゲットだと思う のです。  先ほどの痴呆、不穏、せん妄といって、いちばん困っているケースの事例というの は、多くは、身体疾患の方で臥床しておられます。その方が、柵を乗り越えて落ちると き、大体、横に、臥位に、落ちてきますから、頭から着地することが多いのです。歩い ているときの転倒などは、前に転んでも後ろに転んでも、頭よりも先に別の所が着きま す。防御反射もあります。  ところがセデーションしていたり、臥位になった人が乗り越えて落ちるときは、もろ に頭から落ちます。それで実際にそのグループの事例の8割は、ベッドサイドの転倒・ 転落、ほとんど転落なのです。転落の事例が非常に多いです。そうすると、そのグルー プに頭蓋内出血という重症の障害が起こる可能性を秘めています。そうなると、先ほど のつまずく云々という話もあるのですが、まずベッドの高さ、そして衝撃緩衝のマット みたいなものは必須ですね。  また、高低を簡単に変えられるようなベッドは高いので、低かったら看護師たちの処 置が非常にきついということもあって、いろいろお金のかかることばかりなのです。 ○橋本作業部会長  先ほどご説明があったがんの患者さんで、排泄に行くときにという、例えば排泄に行 く、移動の仕方のトレーニングみたいなことは無理なのですか。そこら辺はあまりない んですかね。 ○川村委員  かなり重症ですから。 ○嶋森委員  可能な人は、多分パワーリハビリでいいと思いますが、先生がおっしゃった事例は、 逆にどんどん体力がなくなっていくので難しいと思います。 ○橋本作業部会長  私の頭の中では整理されていないのですが、例えば、こういう安全の問題よりももっ と前にやっていた、トイレ誘導を積極的にやっていく長期の施設というのがあったじゃ ないですか。ああいう所では、安全に移動できるという技術みたいなものは、あそこで は検討されなかったのかなと思いながら、いま聞いていたのですが、そのようなものが ないのですか。  トイレ誘導と、尊厳の問題と関係するので、結構進めていますよね。トイレ誘導とい う技術体系を適用して、自力でトイレに行けるようなことというのは。その中に少し、 「安全」という視野が入ったトレーニングの方法があるのかなというふうにも考えてみ たのですが。 ○嶋森委員  それについて私も臨床にいるときに経験があります。動ける人を動かさないでベッド にいろと言って、柵を乗り越えて落ちるという事例が結構ありましたので、できるだけ 動かす、定期的にトイレとかに行って動かすことによって、転倒・転落が実際に少なく なる感じはあります。日常そういう活動性を増してもいいケースについては、対応の可 能性はあると思います。  むしろベッドの上にいなければいけない人と、身体能力は十分でないけれども、まだ 精神的に、自分を健康で保ちたいという認識のズレのある人、それらの人達への対応が しきれていない。患者さんの気持がわかっていないために、言ったらわかるはずだから お願いしたんだけれども、自分で動いてしまって転倒という事例が現場では結構あるよ うな気がします。 ○増子委員  先ほど川村先生から、リハビリ病院がかなりそのノウハウを持っているというお話を いただいて、もう7、8年前になりますが、私の所で、私が現職のときに調査をした 際、特に回復期の患者さんが、例えば骨折にしても何にしても、重症から多少回復に移 るときに、動いてしまう。特に整形のリハ関係の患者さんが、やはりまだ動いてはいけ ない、十分に負荷を足にかけてはいけないという状況の中で、結構、もう自分は動きは じめていいという先生の許可が出たから、できるというふうに自信をもってしまうので す。  リハビリが開始された当初の患者さんの転倒・転落がすごく多いというデータを集め たことがあって、そういうケースをマニュアルの中に記載した記憶があるのですが、そ ういう、いま橋本先生が言われたように、排泄誘導のことや何かも、かなりリハ病院な どは訓練みたいなものがあるのかなと思ったのですが、そういうことではないのでしょ うか。 ○川村委員  リハビリテーション病院というのは、回復期、回復状態にある方がおられるので、ま ずベッドサイドのポータブルトイレに座って、次に病棟のトイレというそれなりの訓練 はあると思います。私たちの事例でもポータブルトイレに行く間での転倒・転落事例が 4分の1ありました。  これは、急性期の医療現場の、トイレ、大体プラスチックの軽量化したトイレです。 関心のある施設では、トイレがまず違うのです。大体持ち手と、足びきスペースといっ て、便器の下に踏み込めるスペースがあります。できるだけ便器に近づいて、持ち手を 持ちながらトイレの前で回転できるような形です。そしてバーをベッド柵に取り付け て、トイレの近くまではものにつかまりながら行けるというような整備をしておられま す。  ところが急性期の現場は、そのあたりまではなかなか余裕がなく、そういったトイレ は大体が2万円くらいしますので、備えられない。せめて、そのトイレとベッド柵に連 動する移動バーを取り付けてあげることで、4分の1くらいのケースは、何とか無事に いけるのではないかという感じがします。  福祉施設にこの前お邪魔したときに、ほとんど、柵の付いたトイレにしておられまし たので、やはりポータブルトイレの改善は、いちばんとりやすい対策ではないかと思い ます。 ○橋本作業部会長  ほかに何かご意見ございませんか。よろしいですか。この問題については、ご提案い ただいたということもあって、嶋森委員を中心に、もう1回整理して検討していただく ということになっていますので、なかなか難しい問題だなと思いますが、よろしくお願 いいたします。  資料5の表にこういう絵が描いてありますが、何か、この点が足りないとか、ここを もうちょっと検討してくれというような要望はございますか。  よろしいですか。大体こういう見取図で進めていただければと思います。それではよ ろしくお願いしたいと思います。時間がちょっとありますが、何か追加的にご意見ござ いますか。 ○土屋委員  今回の医薬品でも目立ったのですが、以前申し上げたように、いわゆるオーダリング システムが絡むものについて、実はあれは医療用具でも何でもないので、業界の方もこ こにはいらっしゃいませんし、実際形としては今回のように選択エラーとか、実際はあ とは情報伝達ミスの中に、結局手書きの文化が機械化されることはとても大事なことな のですが、一方でそれによって情報が二元管理になってしまうわけです。  ですから、そういう意味での伝達エラーとか、やはりこれから先どんどん普及してく ると増えるであろうエラーというものがあり得るので、そこについて何らかの形で、や はりオーダリングシステムとか、電子化というのも含めて、そういったものの何らかの 基準というか、マップをつくるというか、添付文書があれば、それこそ使用上の注意 で、このシステムではこういうことが起きるから気をつけろとかということが言えるの だと思うのですが、それもないので、何かしておかないと、今回などはそういうのが結 構出てきていますので、今後の検討課題として、何らかの形でオーダリングシステムに ついての、別途検討班をもつのかどうかやっておかないと、これから先、間に合わない ことになってしまうのかなという気がします。 ○橋本作業部会長  いまご要望が出ましたが、IT化に伴う云々という、安全上の問題についての研究班 というのはあったんじゃないでしょうか。 ○事務局  ちょっと事務局のほうで調べてみます。 ○橋本作業部会長  わかりました。 ○武藤委員  それに関連して、医者の処方の書き方で、いつも問題になるのが、1日量か1回量 か、それから成分量か製剤量か。これは何か、その標準化はどこかでしているのでした か。 ○事務局  現在研究班で、社会保険中央総合病院の斉藤院長の所で、この部会からも何人かの先 生にお願いして、現在アンケート調査等をして、実態把握をしています。おそらく今年 度中にまとまって、何らかの標準化に向けた成果を出していただけるのではないかと 思っています。 ○原田委員  そのオーダリングシステムの件もですが、まずそういう政策を検討していくというの もあるのですが、実際にどういうエラーが起こりつつあるかということを、一箇所にま とめるというところがまず必要だと思いますので、いまのところちょっといろいろ分か れているので、オーダリングシステム関係と、あともう一つ、点滴バッグの輸液開通忘 れの話が重要事例で出てきましたが、これは医薬品、医療器具のほうでは、いまのとこ ろまとまった形では出てきていないわけです。  医薬品ではなく、医薬品の形の問題ですが、そういうエラーがかなりあるというお話 は、私もあちこちでお伺いするのですが、この委員会で上がってくる事例として、これ だけあったという形では出てこないということで、そういう情報がいま必要な部分に関 しては、適宜まとめて中継するというようなことを、是非ご検討くださればと思いま す。 ○橋本作業部会長  よろしくお願いします。ほかにございませんか。それでは、時間ですので、本日の議 論はこれまでとしたいと思います。次回の日程について事務局のほうからお願いしま す。 ○事務局  次回の日程については、委員の皆様のご都合を調整させていただいた上で、後日改め てご連絡させていただきたいと思います。 ○橋本作業部会長  次回の日程については調整するということです。本日はこれで閉会いたします。お忙 しいところをありがとうございました。                       (照会先)                       医政局総務課医療安全推進室指導係長                       電話 03-5253-1111(内線2579)