02/12/25 不当労働行為審査制度の在り方に関する研究会(第13回)議事録      不当労働行為審査制度の在り方に関する研究会(第13回)議事録      1 日時   平成14年12月25日(水) 15:00〜17:00 2 場所   飯野ビル308会議室(3階) 3 出席者  (1) 委員(五十音順)   (1)伊藤 眞(東京大学大学院法学政治学研究科教授)   (2)岩村正彦(東京大学大学院法学政治学研究科教授)   (3)小幡純子(上智大学法学部教授)   (4)菊池信男(帝京大学法学部教授)   (5)諏訪康雄(法政大学社会学部教授)   (6)村中孝史(京都大学大学院法学研究科教授)   (7)山川隆一(筑波大学社会科学系教授)  (2)行政   青木審議官、熊谷参事官、中原調査官、山嵜中労委第一課長、荒牧参事官補佐 4 議事 ○ ただいまから「不当労働行為審査制度の在り方に関する研究会」の第13回会合を開  催する。   本日は、引き続き論点項目の具体的検討を行いたいと思うが、前回までの議論で論  点4の審査体制まで終えたかと考えるので、残りの論点5の「中央労働委員会と地方労  働委員会との関係」、論点6の「司法審査との関係」を議論し、これで論点に関する  議論をひととおり終えたい。それぞれの論点につき、1時間ぐらいずつ議論いただけ  ればと思う。   議論に入る前に、本日の議論の参考として、いくつか資料を事務局に用意させた。  簡単に事務局から資料の説明をお願いする。  (事務局から資料NO.2〜NO.4の説明。) ○ 以上の説明に対して疑問点等はあるか。なければ、さっそく論点5「中央労働委員  会と地方労働委員会との関係」について議論する。どうぞ意見をお願いする。 ○ 再審査される側である中労委から意見を言ってもらったほうがいいのではないか。 ○ では、中労委の側として私の方から2、3点申し上げる。まず、中労委に上がってく  る地労委命令というのは、かなり多様で、地労委ごとにけっこう違うという感じがす  る。事件の性質が違うということもあるが、判断の仕方とか、あるいは審問の進め方  その他も影響していると思う。したがって、中労委というスクリーニングをかけない  で、地労委から裁判所へ行くだけという考え方は、やはり不当労働行為制度という観  点からすると、いかがなものかという感じがする。しかしながら、二点目として、中  労委に対する地労委の不満が相当に強いことがある。それは個人的にも聞くし、会長  会議のような場で審級省略の議論をすると、地労委からは中労委を飛ばすという案が  いいのではないかという意見が相当数出てきたりするけれども、行政委員会として統  一する形になっていないのはいかがなものかという感が残る。それから、三点目とし  て、中労委の委員として感じるのは、先ほどの資料2にもあったとおり、中労委の委  員と職員のかなりのエネルギーが取消訴訟への対応で殺がれている。しかも、事柄の  性質上、取消訴訟への対応というのは、法律家でないとできないので、ロイヤーであ  る委員が相当程度に担わざるを得ない。しかし、現実に裁判所へ行って、指定代理人  として対応しているのは事務局職員だけであり、原則として委員は出ていかないし、  今の非常勤体制ではとてもできない。そこから来る様々な問題点というのがあって、  やはり取消訴訟がこれだけ恒常化していくということになると、本格的な対応が必要  になる。それだけに、もし地労委だけで中労委を飛ばすということになると、地労委  にとって取消訴訟にどう対応するかというのが問題になる。とりわけ、東京や大阪の  ような事件をたくさん抱えているところはかなりの負担になると思う。   都労委の経験からすると、どうだろうか。 ○ 先ほどおっしゃった、各地労委命令の多様性というのを、もう少し具体的に教えて  ほしい。 ○ まず形式から言うと、裁判所の判決と似たような、証拠の摘示をしているのもごく  一部であるが存在する。大部分の地労委ではそういうことをしていないが、そういう  のは目立つ。それから、やはり全体として見ると、事件を扱った経験が少ない地労委  は、いろいろな形で命令に問題があるという印象が指摘されている。東京や大阪のよ  うに、たくさんやっていて慣れているところは委員も職員も経験を積んでいるので、  そんなにとっぴな命令というのはないが、事件処理が少ないところに関しては、時々  あれっというような命令もなくはない。 ○ 中労委は東京のみでやっているのだろうか。つまり、例えば情報公開審査会のよう  に、出張のような形で地方に出ていくということはあるのだろうか。 ○ これまでのところは、原則としてほとんどない。ごくまれに、非常にたくさん同一  事業所の事件があって、しかも現場を見ないとまずいのではないかということで、現  地調査をやった例があるが、きわめて例外的である。現地審問のようなことは全くや  っていないと思う。 ○ ということは、ユーザーの側からすると、必ず東京に来なければならないというこ  とになる。そういう点での使いにくさがあるのではないか。 ○ それはあると思う。地裁であれば、地労委のあるところにそのままあるわけだから  。 ○ 地方にいるユーザーにとってみれば、救済制度としては使いにくいと思う。他の制  度と比較して思いつくのはその点である。 ○ 公正取引委員会などの場合はどうなのだろうか。 ○ 公取は、実際の審問という過程はほとんど現地では行わず、公取の方に来てもらう  。事件数が少ないのもあるし、東京や大阪の大手の会社が多いというのもあるが、大  阪の事件でも東京に来てもらっているということだった。 ○ 例えば情報公開法のときに、常勤が何人かいるからできるのであろうが、委員が何  人か現地に行って、意見を聞くということをやっている。やはり新しい制度は、法律  を作るときに地方から東京へ来るのは大変なのではないかという議論をしている。 ○ 何か巡回制度のようなものが必要だということであろう。 ○ アメリカだと、NLRBの局委員会はワシントンDCに一つしかないが、基本的に地方支  局で審問がなされて、それに対して異議があれば局委員会に行く。たしか、局委員会  は、よほどのことがないと新たに審問を開いて審理することはしないと思う。その意  味では、ユーザーがそんなにしばしばワシントンDCに行くということはない。ただ、  それは前提として、支局にADMINISTRATIVE LAW JUDGEがいて、かなり司法的な手続に  より審理をしているということがあるのだと思う。 ○ 中労委省略理論というのは、どういう理由なのであろうか。 ○ もっともと思われる理由は二つある。一点は、中労委での審査の期間がかかりすぎ  ている、地労委より長いではないかということ。中労委を抜本的に改革できないので  あれば、飛ばすというのが審理の促進にはいいのではないかということである。もう  一点は地方分権論である。地方がそれぞれやっているときに、地方も中央も同じ立場  のはずなのに、中央が地方の処置を改めて審査するというのはおかしいのではないか  という議論である。その他には、もちろん言われていた、中労委は東京に一つしかな  くて不便ではないかという議論とか、裁判所で審級省略するというのは、地裁が証拠  調べ等で重要な役割を担っている現状からすると難しく、むしろ中労委を省略する方  がよいのではないかといった議論が混ざっている。 ○ それは審理や判断の中身とは関係なく、段階を少なくすれば早くなるだろうという  議論であろうが、制度としてどうあるべきだという中身がないのではないか。意味の  ないものが入っているからそれを除けというならわかるが、中身と関係なしに、とも  かくどこかをなくせというのは、制度の改革としての理由付けを書きようがないので  はないか。訴訟の場合を挙げれば、不服申立のときに遠くに行くというのは、交通事  情が改善されたといっても大変なことである。高裁非所在地における不服申立という  のは大変な負担である。当事者は弁護士が出ていく費用も負担しないといけないし、  弁護士費用が高くなってしまう。最高裁判所が一か所でいいというのは、法律審だか  らである。一審も二審も事実審であるという前提で、同じことの積み重ねを繰り返す  ことの意味があるのかということは、確かにあるのではないか。判断の統一といって  も、訴訟のように一審と二審が共に事実審だと、高裁で地裁判決が取り消されても、  それだけで地裁判決がまずい判決だったということにはならない。証拠が補充され、  主張も変わったために取り消された場合は、一審判決が誤りということではない。地  労委と中労委はどちらも事実審だが、事実調べはやっていくときりがないので、初審  で一回だけやり、不服があれば、中労委がその判断だけをすることによって、判断の  統一を図るということなら、わざわざ出て来なくてもいいということになっても合理  性があるであろう。中労委の省略というのは、中労委と地労委の役割分担がどうある  べきか、事実審が二回重なるのは合理的かどうかということが問題の基本なのではな  いか。地方分権のからみで言えば、地労委省略というのは実現可能性として一番難し  いだろう。中労委で1か所というのは、事実調べということだと、それが二番目の事  実審であろうと、当事者からすると使いにくいと思う。今の刑事裁判は、一審で事実  調べが終わっている。一審を充実して、基本的には事後審という構成にしてしまった  わけであり、民事の方も続審制を取ってはいるが、実務運用上は事後審にかなり近づ  いている。ともかく不当労働行為事件が緊急的性格を持つ事件だとすると、事実調べ  は一回勝負で一審充実という方がいいのではないか。ただ、それも事件数がゼロとか  、年に1件とかの地労委だと、どうやって充実した審理がやれるのかというのが問題  だと思う。 ○ 中労委に来る問題で、もう一つあるのは、その次の取消訴訟が東京地裁だというこ  とである。地方からすると、中労委に行くということは、中労委で東京に行かざるを  得ず、しかも最近のように取消訴訟が頻繁にあると、その次もまた東京になる。この  負担もあると思う。 ○ しかし、他の行政庁の行政処分であっても行政訴訟は起きるわけで、問題は行政訴  訟の提起率と取消率である。原処分が支持される比率が高いか低いかということが大  きいのではないか。取消訴訟制度として存在してもあまり件数が多くないというので  あれば、問題はないと思う。 ○ 情報公開法は、被告行政庁所在地の管轄裁判所だけでなく、原告所在地の高等裁判  所も認めるということで法律ができている。新しい制度であるほど、それは意識して  いると思う。救済の訴訟が東京地裁になってしまうというのは、救済を受ける側から  すると、非常に負担が重くなるシステムになっていると思う。 ○ とっぴな話かも知れないが、実質的には補助参加人や参加人の争いであるような事  件について、地労委のある裁判所に裁量移送を認めるというようなことはできないの  だろうか。中労委が実質的な訴訟活動をすべき事件と、そうでない事件があるような  気がするのであるが。 ○ 結局行訴の数が多くて、行訴に持ち込むとかなり目的を達するという制度になって  いる場合、どんどん裁判所に行くことになるのは当然であろう。だから、裁判所での  審査に耐えうるだけの行政処分になっているかどうかというのは、どこの行政庁でも  非常に気にする。そして法務省の訟務局とも密接に連絡を取り、弁護士のサポートも  受けて対応している。中労委のように、指定代理人だけやっているという行政庁は非  常に少ない。国税庁などのように、その省の訟務組織が完備している場合は自前でや  るが、そうでないと、指定代理人を訟務担当の検事とし、あるいは自分のところでも  弁護士を依頼している。中労委でも、なぜ弁護士など訴訟の専門家の力を借りないの  かという感じがする。訴訟の場合、特別の経験が必要なわけで、システム的には使え  ることになっているのに、なぜだろうと思う。事実認定などに問題のある命令が多い  が、専門家に相談するようにすれば、事実認定などはこれでは駄目だということが身  にしみてわかると思う。労働委員会だからというのではなく、そういうことをすれば  どこの行政庁であっても負けるというのが分かるのではないか。だから負ける率が高  いということが問題だと思う。訴訟でも、高裁所在地以外の地方の当事者や弁護士に  とっては、控訴するというのは大変な負担である。アクセスの悪いところで、事実審  の2回目をやるというのは、ユーザーから見たら大変だと思う。そういう制度にしてお  くのであれば、先ほども話が出たように、巡回裁判所のように近いところでなぜでき  ないのか、おかしいではないかという声が出てきてもおかしくない。 ○ 地労委と中労委の関係であるが、事件の多いところだと、正直言って中労委を飛ば  して地裁に持ち込まれるということが増えると、予算等の手当をしてもらわなければ  、とてもではないがやれないというのが実情だと思う。都労委の場合は、行訴が起き  たときは弁護士をつけているので、まだ対応できないわけではない。そうはいっても  、職員も訴訟などというのは自分ではやったことがないわけであるから、いきなり指  定代理人になって行けと言われても、本当は大変であるというのが実情だと思う。そ  う言う意味で、本当に中労委を飛ばすという話になるのであれば、東京・大阪等は別  途手当をしないと、とてもやれないというのが正直なところであると思う。他方、先  ほど指摘されていたが、事件数の少ない地労委というのは、そういうことについての  現実感がないのだと思う。それで中労委を飛ばすという話になるのだと思うが、都労  委などでやっていると、そうなったら本当に公益委員は常勤というふうにしないと対  応できない。これは、個々の地労委組織の問題でなくて、全体としての地労委制度の  在り方の問題でもある。他方で、これは中労委の体制の在り方というのがあるという  、その二つの側面があるという気がする。だから、例えば中労委も東京に一つではな  く、地方事務所で不服審査の活動ができるようにするとかいったことが考えられるの  であれば、少し発想が変わってくるという感じがする。あるいは、そこを拠点にして  、必要に応じて委員が出張するという形を取る。しかし、そうなると、やはり常勤の  委員がいないと無理という気がする。いずれにしろ、地労委の全体の組織体制の問題  と、中労委の組織体制の問題と、どちらかをいじらないことには整理がつかない。 ○ 実態はそのとおりであるが、やや違う観点から申し上げると、私は地方分権推進委  員会の専門部の委員をしていて、地域づくり部会だから法ではないが、地方労働委員  会について知るようになった。考え方として、労働紛争について、本当に地域性があ  るのかどうかという議論は、もちろん大前提としてあるのだろうが、一応その地域ご  とにあってもよいだろうという整理ができていると思う。そのときに、救済制度の建  て方というのは、必ずしも地域性だけでは決まってこないが、慣れない者がやってい  る地方労働委員会の決定が危ういということで中労委を置くというのは、地方分権の  考え方からすると逆で、自治事務になったのだから、それは育てていかないといけな  いものである。だから中労委を置かないといけないというのは、今回の地方分権全て  においての霞ヶ関の理屈である。しかし、そこは自治事務になった以上、それぞれの  県で予算をつけたりして、工夫してやりなさいというのが本来のシステムであるわけ  だから、最終的に裁判所にも行けるわけだし、それは中労委が存在するという理屈と  しては合理性がない感じがする。そこまで一足飛びに行かないとしても、書面審理で  やるような、法律審的な中労委があるということであれば、当事者はかなり楽だと思  う。地方で駄目だったものを、東京に行って裁判所で別途同じことをやらなければい  けないかというのは、自治事務になっている意味があるのだろうかという感じになっ  てしまうかもしれない。 ○ 先ほどの意見は、一つは不当労働行為制度という準司法的判断からする観点、もう  一つは以前、委員の一人が、不当労働行為の審査を自治事務化するなどもってのほか  だと憤っていたが、そういう視点から見るか、あるいはまさに言われたような、地方  分権の観点に立つかで、すごく違ってくる。地労委の会長たちの意見としては、基本  はその論理になるのだと思う。   他に何かあるだろうか。 ○ 今の話は、実際上の対応能力の問題と原理的な問題があり、原理的に言うと、自治  事務化されたという点で、労働紛争も調整と判定で違うのかなという気がする。調整  は地方の実情が大きく影響するが、判定は、法の解釈・適用という作業であり、純粋  な地方分権とはやや趣旨が違うという感じもある。逆に言うと、法の解釈・適用とい  う部分に焦点を当てたような機能を中労委が持っているという方向は、また別のこと  としてありうるのかなという感じがする。法の解釈・適用といっても、個別事案に関  するものではあるが、これはある意味で司法審査とも絡むが、政策形成というか、一  定のルールを打ち出すという役割があるわけで、それが地方ごとに違ってくるという  のはいかがなものかという感じがする。そういうものを中心に担う役割という形が将  来的にはありうるのかなという感じがしている。 ○ 労組法7条の解釈について、先ほど言われたように、今は労働委員会の中で解釈が  ばらばらで、全体を見た上で統一的な方向を打ち出すという仕組みは全くない。中労  委が事件に対する命令を通じてその判断を示す以外にないわけだが、やはり、行政組  織としては、7条の解釈の重要な問題については統一的な見解を打ち出すという仕組  みがないといけない。どこでも本省が統一的見解を出している。普通は、そこで行政  解釈と裁判所の解釈が違うかという議論になる。地労委レベルでの解釈が全部ばらば  らで、多数決で決めるという議論でもないし、それでいいのだろうかという気がする  。また、研修とか、事件処理のやり方についてもう少し中労委が指導性を出せる仕組  みになっている必要があると思う。地労委と中労委がそういう形で役割を分担すると  いうようなことであればわかるという感じがする。 ○ 先ほど、自治事務化などとんでもないという話が出ていたが、先ほど言われたよう  に、一審で済ませるというなら、そこでしっかりしたものを出すというのが非常に重  要である。その判定機能の強化というのが非常に大事で、そのレベルで準司法的な機  関だと言う限りは、やはり全国的に統一された基準で判定されることが不可欠である  。それからさらに裁判所で審級省略だということを言うと、もっとそれが高いレベル  で要求されることになる。そうなると、自治事務化した中で、地労委の審査にそれが  どれだけ期待できるのかということが根本的にある。それだったら、判定をやめてし  まったらどうかという意見にもつながってくると思う。判定的機能に関しては、中労  委が一括して、それを地方事務所に行ってやる。そういうのも一つの考え方としてあ  るのではないかと思っている。 ○ 都労委に関しては、東京都でやる事件なので、そんなにユーザーの負担はない。少  し全国的な視野で考えると、ユーザーの不満が出てくる感じだが、それだと役割分担  した方が良いということになる。そして、その場合、中労委が判定的機能を持つとい  う形で役割分担するのであれば、中労委が地方に展開しないといけないということで  あろう。 ○ 前に、労働委員会の自治事務化をめぐって議論したことがあるが、そのときにみな  が言っていたのが、先ほど言われていたことと同じで、自治事務化して全て地労委に  まかせればいいという話をしてしまうと、各地労委で労組法7条の解釈が違うという  ことが起きてしまう。そうすると、ある県ではある行為をしても不当労働行為になら  ないが、隣の県でやると不当労働行為であるということになってしまう。それはやは  りおかしいのではないか。その統一を裁判所に委ねてしまうというのも、労組法の趣  旨から言って適切かというと、私はそうは思わない。そうすると、判定とか労組法の  解釈とかについては、中労委で全国統一的な基準を設けてやる必要があるのではない  かということが言われていた。あとは、地労委と中労委の役割分担であろう。地労委  の現状を見たときに、本当にこのまま各県に置くということで考えていくのかどうか  。調整は各県にあっていいと思う。ただ、判定に関しては、現状から言って各県に置  いておく必要があるのかというのは、少々疑問である。しかし、仮にそうすると、今  度は中労委と同じような議論が出てしまう。例えば、判定を高裁所在地に合わせて置  くということになると、それを中労委の支部に持っていくのか、合同事務にするのか  はわからないが、結局常勤の人を置いて、必要があれば各県に赴くという形にしない  と無理だという気がする。交通の便のいいところならいいが、そうでないところだと  非常に大変だと思う。その辺は別途手当を考えないといけない。 ○ 今、少なくとも地労委が各県にあるが、それがいろいろな理由でシステムを変えて  、判定について自分の県ではできず、ブロックの高裁所在地のようなところに行かな  いといけないということにする地方事務所案というのは、おそらくどんなに作っても  各県より細かく置くことはできない。それは現実問題として、今実現可能性というこ  とを考えるととても言い出せる議論ではないのではないか。地労委を、ブロックごと  に全国8か所か10か所に集約して、判定機能に関してはそこに行かないといけないと  いう制度にしようとすれば、猛烈な反発が出るだろう。そういう制度ができた方が良  いのだという合理的な説明が十分できたとしても、利便性を後退させて何のための制  度改正なのだという主張が出るだろう。労働委員会の内部の事情や、実際にどういう  職員や委員が得られるのかということや、事件数もないということから考えていくと  、どうしても集約論になるだろうが、しかし、それは、一番大きな世の中全体の流れ  だとか、国民の利便ということからどういう議論に対して対抗できるのかという点を  考えていくと、とても心配な議論になっているという感じがする。 ○ 私は、中労委の方を、法律判断と書面審理というふうに割り切って、自治事務化は  流れなので仕方ないから、そういうふうにすれば中労委をかなりスリム化できると思  う。実際にはかなり和解勧告などもやっているわけだが、それをやめて、訴訟に関し  ては中労委が支持したのであれば、原処分主義で地労委が対応すればいいと思う。中  労委が地労委命令を支持していないのであれば、それに関してのみ対応するというこ  とで割り切って、そういう人員配置をすればいいのではないか。 ○ 時間がないので一点だけ。法律判断に関して、中労委の三者構成というのはどうな  のだろうか。あまり意味がなくなるのではないか。 ○ 裁判所の参審制のような対応になるならそれなりに意味はあるかも知れないが、た  しかに今よりはかなり薄れると思う。 ○ 三者構成の意味がずいぶん変わってくるのではないか。和解はないし、あてはめの  部分について役割を果たすということになるのだろう。 ○ 裁判所の参審制にしても、法律の専門家だけでなくて、他の分野の専門家も入れて  いこうのが今の流れだし、判定機能だけだから三者構成はいらないという理屈にはな  らないのではないかと思う。 ○ 役割の在り方を考え直すということが必要になるだろう。 ○ 法律判断だって、何が不当労働行為になるかということについて、労働者側と使用  者側の意見も聞きながらという感じである。 ○ 公益委員だけでやる方が良いのだという説明は難しいのではないか。今、三者構成 が良いと言っているのは、調整のことだけ言っているのではないと思う。 ○ ただ、地労委の三者構成とは意味が違ってくるということだろう。 ○ そうすると、かなり司法審査の問題ともオーバーラップする議論が出てきたが、要  するに自治事務というのを一つの前提として考えていき、他方で判定機能に関しては  全国の統一的な一元性が必要だというふうに考えると、一つは地労委と中労委で機能  を分けるという方法がある。もう一つは、先ほど言われたような、中労委を法律審的  、一種の事後審的な判断に変えていくという制度改革をするのはどうかということで  ある。それから、もう一つは、いずれにせよもう少し現地にサービスが届くような工  夫が必要なのではないかという意見などが出てきた。それらと関係して、委員の常勤  化の問題と、参与委員の在り方の見直しなどがあるということであろうか。それから  もう一つ、自治事務化との関係では、職員の専門性の確保という問題も忘れてはなら  ない、繰り返し議論されてきたことである。   では、まだいろいろあろうかとは思うが、司法審査との関係という、最後に残され  た大きなテーマについて議論していただきたい。 ○ おそらく、これにはいくつかの側面があって、私も思いつきの域を出ないし、行政  訴訟との関係ではよくわからないことも多いのだが、一つは従来から議論があるよう  に、審級省略という議論である。特に中労委で一度審査したのであれば、高裁でいい  のではないかという話である。もう一つは、先ほども出ていたが、取消訴訟をどこで  提起するのかということである。中労委に行ったら東京地裁ということになってしま  うのか、それとも原処分主義で元に戻ってということになるのか。それから、もう一  つは、行政訴訟の在り方を全く無視してという議論になるが、裁判所における労働委  員会命令のレビューの仕方の問題である。何か考える余地がないのだろうかという感  じがする。私が労働委員会でやってみて思うのは、労使関係というのは非常に流動的  で、命令を出した後もそうであるということである。そう言う意味で、労働委員会命  令というのは、以前から言われているように、仮処分的なものということにはできな  いのであろうか。今の裁判所の審査というのは、労働委員会命令というのは終局判決  で、それで当事者の権利義務関係が完全に確定してしまう。だから厳密に司法審査を  やるのだという形になっているが、実際に労働委員会でやっていることと合わない気  がする。労働委員会命令の執行の認可などが裁判所で行われるというのもおかしな話  なのではないか。これは煮詰まっていないので、単なる思いつきにすぎないが、本来  は緊急命令がそうであったはずである。それが全然機能しなくなってしまったので、  今は取消訴訟で判決が出るまで何もないという状態になってしまっている。本来の不  当労働行為の救済の在り方と大きくずれていると思う。それは最終的には、裁判所が  どういうスタイルで労働委員会命令をレビューするのかということとも関係するし、  それはさらにさかのぼれば、労働委員会命令に対する信頼性の問題だということにな  ってしまうのかもしれない。 ○ 労働委員会の命令は、ごく初期のころは、労使関係が今以上に流動的だったので、  スポーツの試合におけるアンパイアのような役割が期待されていた。それは急いでや  るものだから、ミスもきっとあるだろう。しかし、全体の試合の流れを損なわないと  いう意味では、迅速対応の方がいいということだった。アンパイアが判定を差し違え  たときはどうするかというと、それは後でチェックする。それが中労委であるという  ようなアイディアだったと思う。ところが、どういうわけかどんどん形式化し、どん  どん裁判所の判断のようになっていった。元々はさっさとやるということだったから  、労働委員会命令というのはある意味では権威があまりない。直ちに何かできるとい  うものではない。それには一応従って、ゲームがさっさと前に進めばいいという発想  であったのではないかと思う。このあたりの変化を労働委員会としても、取消訴訟の  在り方としても、どういうふうに再編成していくかという問題があると実感する。 ○ 今言われたように、だから疎明になっているのだと思う。疎明という手続になって  いるのに、なぜこのように訴訟以上に形式的で、しかも漂流型の当事者本位の進行と  いうことになっているのかと思う。また、現在、行政処分については取消訴訟が起こ  せるという仕組みの下、三審制が採られているという状態になっているわけだが、そ  こで不服のチャンスを減らすということについては、当事者の裁判を受ける権利の保  障という点から、どういう議論が出てくるだろうか。実際問題として、実質的証拠法  則などの問題の前に、司法審査の機会についての回数を今より減らすというのが、行  政訴訟全てではなく、労働委員会に関してのみ行うという説明が果たしてつくのだろ  うか、そして、それが通る見込みがあるのだろうかと思う。あまりその先は考えてい  ないが、そこが大変心配な問題であると思う。 ○ 今年の全労委総会の第二議題というのが、まさにそれで、段々に流れが変わってき  ていた。審級省略というのは、一つは事件処理の期間を短くしようということである  が、労働委員会の命令でこんなに長く掛かっているときに、裁判所における審級省略  で短くしようというのはないのではないか、まず自らが裁判所並みか、それ以上に短  くしてからの話なのではないかという流れが出てきて、今後の課題はこうしたものの  見直しということになった。命令書の書き方等も含め、検討していこうとなった。地  労委ごとの工夫なども、全体として情報共有していこうということであった。しかし  、なぜこんなに時間が掛かるようになったのか。一つは、当事者が労働委員会で何で  も聞いてもらいたい。そして、何でもそれなりの判断をしてほしいという、精密準司  法とでもいうべきものに対する期待。それに漂流型で、必ずしもプロでない人、ある  いはフルタイムでない人がよってたかってやるということで、時間が掛かるようにな  ってしまったという気もしている。他の論点に関しても何かあるだろうか。 ○ 労働委員会命令に執行力をつけたら変わるだろうか。つまり、今だと労働委員会が  緊急命令を申し立てないと執行できないが、普通の行政処分と同じように、執行力を  付与すると、逆に使用者が執行停止の申立をしないと止まらないということになる。  それで何か変わるだろうか。 ○ そもそも、多少の矛盾をひめた法律の仕組みだと思う。 ○ たしかに、行政処分の法則からいうと、本来は執行力があるのが普通なので、使用  者側が執行停止を申し立てるはずである。裁判所が執行停止しない限りは執行しない  といけないということになると思う。 ○ だから、民間の機関が「それはいけない」と言っているのとあまり変わらない面が  ある。 ○ それは救済機関だからということなのであろう。普通の行政庁の処分ではないから  、救済申立に対して応えると。しかし、中労委もあって、あれだけ審問をやっておき  ながら、審級省略もないし、せいぜい裁量を尊重するぐらいの程度である。今の審査  の進め方は、ユーザーに対して多少サービス過剰なのかなという気がする。 ○ 一審重視だったら、間違っていることもあるだろうが、それで執行力を生じさせて  しまって、それが間違っていたら変えるということでいいのではないか。継続的な関  係である労使関係の中での紛争の迅速な解決という役割を果たす制度だからそれでよ  いのではないか。 ○ 労働裁判所のような、専門的な裁判所という建て方で行くと、審級省略の一つとい  うことで、今の最高裁は上告を制限しているから、実際上三審まで行かないことも多  いし、そうすると早く終わるという感じがする。いまでも労働部はあるが。 ○ しかし、労働部は東京と大阪にしかない。 ○ そこで、使用者がヒアリングで言っていたが、なぜ中労委に持っていくかと言った  ら、中労委の判断を仰ぐということもあるが、その先東京地裁の判決が得られるから  である。もし、そうでなかったら、地方の専門部がない裁判所で判断がされてしまう  。それに対する危惧があるということを言っていた。それは、先ほどのように分けて  いったときの、反対の側面の問題点かもしれない。   それから、将来は変わるかも知れないが、今の問題として、労働事件を詳しくやれ  る弁護士の地域的な偏在ということがある。 ○ 本来の救済の迅速性という点からすれば、課税処分のように一方的に処分を行う方  が当然速いわけで、労働委員会のように、これだけいろいろな手続を踏んで命令を出  して、それを裁判所がもう一度広汎に審査するというのは、結局のところ、手続を遅  くする仕組みを作ったということになるのではないか。使用者の利益を侵害する処分  を行うから慎重にするということで、あえて課税処分とは違う形で仕組んだという説  明もあるが、本来はそういう意図で仕組んだのではないと思う。しかし、何も工夫を  しないとそういうことにもなりかねない。そうすると、処分を速くするということに  加えて、司法審査の仕組み自体を考えるということもある。実質的証拠法則は現状で  は厳しいと思うが、少なくとも新証拠の提出制限はあってもよいと思う。 ○ 理屈的には、建て方の問題もあるが、できると思う。 ○ 審級省略よりは、そちらの方が実現性から言うと楽だと思う。 ○ 独禁法のように、新証拠の提出制限などを、ずばりと法律に書き込むことに耐えら  れるかという問題はある。 ○ さらに、使側が非常に反発すると思う。 ○ もう一つは、先ほど言われたように、新証拠の提出制限をどこかでうまく仕組んで  もらえるといいという気がする。地労委段階では全然証拠を出さず、裁判所で出すと  裁判所がそれを受け入れてしまうので、使用者も最初からそれを考えて、地労委では  そういう対応しかしなくなってしまう。 ○ だから、新証拠が出てきて命令が取り消されたという場合、ある意味でそれは取消  の数の中に含めるべきではないのではないか。あるいは、取消率の計算も別途行うべ  きなのではないかという話を事務局としたことがある。というのは、かなりそういう  事件が多いからである。新証拠による場合、労委側も負けたという感じがあまりしな  い。 ○ 普通の行政庁は、元の判断が維持されなかったら負けであると思っている。負けた  部分について負けたと思うから、それを繰り返させないようにしようということで、  行政処分一般の取消率が低くなっていると思う。大体、事実認定で負けるのは恥であ  る。事実認定は、常識があれば誰でもできるはずのことであり、しかも、全ての行政  処分が事実認定を前提とするのであるから、事例研究などをしてなぜ負けたのかとい  うことを研究する。事実認定と、判断の合理性については、裁量の問題ではなく、そ  こで負けるというのはまずいと思う。 ○ ただ、普通一般の処分と違うのは、普通の行政庁の場合は、行政庁の方で職権で調  べて、事実を収集していく。ところが、労働委員会の方はそういうことがない。使用  者が証拠を出さないと言ったら出てこない。 ○ しかし、行政手続の証拠収集というのは基本的にそうなのではないか。それに、民  事訴訟は全てそうである。刑事訴訟のように強制で、捜査という手段があるわけでは  ないから、資料収集は全て任意でしかできない。間接的なペナルティーがあるだけで  ある。 ○ それをやられると、地労委あるいは労働委員会で手続でコストをかけたことの意味  がなくなってしまう。 ○ 使用者の側から言わせると、なぜ出さないかというと、出してもそれが正当に評価  されない。ないしは、正当に評価されない上に、労働者側でそれに対する対応を工夫  してきて、結局無駄である以上に自分の側に不利になってしまう。だから、もっと信  頼できる裁判所へ行ってから出そうということになる。正当化の根拠としては、おそ  らくそういうことを言うのであろう。結局、労働委員会の審査体制の問題に回帰して  くるのではないか。 ○ 裁判所で十分に審査できた方が良いという理屈であろう。一方の極には、公正取引  委員会のような、実質的証拠法則や新証拠の提出制限を全部法律にきちっと書き込み  、審級省略しているというのがある。それが労働委員会には全然ない。やってできな  いことはないだろうが、法律に書けばいいというのは、現状ではどうなのだろうか。 ○ そもそも法律に書けるかというのが一つ。これは理論ではなく現実だと思う。 ○ 既に各県ごとに労働委員会があって、もう一度再審査の申立てができるという手続  に乗ってずっと運用しているというのを変えていくというのは難しいと思う。国民の  側からの視点ということが必ず出てくると思う。 ○ 実質的証拠法則であるとか、審級省略というのは、労働委員会にどの程度の能力や  専門性が求められるのだろうか。信頼度を裏付けるものがそれなりにないと、認めら  れないのではないか。 ○ やはり公取のような、常勤のしっかりした組織が必要であると思う。今の中労委を  考えると、ちょっと厳しいという感じがする。 ○ 結局人の要素になるわけで、委員と事務局職員の役割分担ということを考えるとし  ても、結局のところ、委員については増員、常勤化と専門的研修、事務局の方も同じ  ものが必要である。事務局職員で、自治体の中で非常に特殊な事務ということになる  。ローテーション人事の中で専門家育成と言っても実理は実際上なかなか難しいと思  う。職員も委員も人の問題に帰するわけだが、手続の回数を減らすために人を増やす  というのは、難しいのではないか。 ○ アメリカのNLRBで実質的証拠法則が採られていることに関して、その基盤はどこに  求められるのであろうか。 ○ やはり、実質審理を行うのが行政法審判官で、法曹資格を持っていることではない  か。現に審問においては日本以上に司法的である。それから、局委員会においてもメ  ンバーは必ずしも法曹資格を必要としないが、リーガルスタッフがいる。ロースクー  ルの卒業生が専門職として行政庁に行ってそこに数年いて、そこをやめた後は今度ま  た弁護士実務の方で活躍できるとか、そういう市場が形成されている。日本において  もそうなれば別かも知れないが、今の段階ではたしかに難しいと思う。 ○ 改革はいつでも人の問題である。 ○ 増員とか、結局職員の専門性の問題とかを考えていくと、事件数の問題が出てくる  。事件がこれだけあって、次から次へと来るから、いい人を見つけて増やしていくと  いうことができるとしても、事件がないところに増員しろと言っても、それは難しい  。 ○ ワンセットでやらなくても、例えば新証拠の提出制限だけやると、それが跳ね返っ  てきてこちらも変わるという可能性もあるのだろうが、そうすると先ほどの中労委や  地労委の関係の話が全てリンクしてくるのだろう。 ○ 時間が掛かるということに関しては、やはり執行力を付与するということが手とし  てはあるのだろう。執行といっても、行政処分の執行なので、民事判決を執行すると  いうのとは別になるのだろうか。例えば、金銭のバックペイであっても、執行は過料  によるということでいいのだろうか。最終的には裁判所が、非訟事件手続法でという  ことになるのか。 ○ 今の例でいえば、バックペイは過料しかできないだろう。 ○ とすると、やはり何らかの形で裁判所が関与してくる。先ほど言っていた、裁判所  の認可というのと似てくると思う。 ○ ただ、そうすると、執行停止の申立をしたときに新証拠を出されてしまうと、結局  意味がなくなってしまう。実はこういう証拠があって、この命令はおかしいのだとい  う話になってしまうと、同じことになってしまう。 ○ というか、普通の行政処分であれば、執行停止は申し立ててもほとんど認められな  い。ドイツの場合は逆に執行停止が原則であり、税金などが例外になっている。日本  は、執行不停止が原則で、例外的に執行を停止する。しかし非常に認められにくい。 ○ 命令を行政処分一般に引きつけられるのかはわからない。どうも民事的に行くよう  な気がするが、そうすると、執行停止の申立をした段階で新証拠が出てきてしまうの  ではないかと思う。 ○ ただ、今行訴法の改正作業中であって、執行停止のあたりも若干変わる可能性があ  る。今まではほとんど執行停止せずに、結局は何をやっても出来上がってしまってい  てどうしようもないということが多すぎたので、逆に言うと、少しは執行停止を認め  ないといけないのではないかということになっている。実際に法改正まで行くかはわ  からないが、行訴法の場合の執行停止は、仮処分ではないので、必ず本案とセットに  しないといけない。取消訴訟と一緒に執行停止を求めるということになる。 ○ 執行力の生じる範囲であるが、必ずしも行政処分の全体について暫定的に執行する  必要はないのではないか。アメリカはそういう形でやっている。 ○ もう一つの考え方は、審査全体とも関係するが、実効確保の勧告を仮処分的にやれ  るという話になると、ずいぶん変わってくると思う。例えば、組合委員長が解雇され  た場合、とにかくそれは止めてくれと言えるだけでも、ずいぶん違うと思う。 ○ 今それをやるとしたら、裁判所に地位保全の仮処分を求めるという形になってしま  う。 ○ ただ、執行力を付与するという話も、先ほどの実効確保の勧告の話もそうであるが  、総会にかけるというメカニズムによって全部駄目になってしまう。結局一回もやっ  たことがない。三者がいて、合意をして、というメカニズムの上に乗せてしまったと  いう問題もあるのではないか。 ○ 労働委員会の公益委員だけでは難しければ、裁判所の判断を経由させるという方法  もあるのではないか。そうすれば抵抗が弱まるのではないか。 ○ それは一つの考え方だと思うが、かませ方にもよると思う。それをまたトータルし  てレビューするという話になると、結局元に戻ってしまって、仮処分を申請した方が  早いということになる。 ○ しかし、裁判所は労働委員会の事実認定にかなり疑問があるという話だったので、  やはり全部見直そうという感じになってしまうのではないか。 ○ 何もしないで執行力をつけるということになると、そうなってしまうと思う。 ○ それをしようと思うと、労働委員会での事実認定もそれなりの力があるという形に  する必要がある。それは執行停止の段階で詳しく調べるということだろうか。 ○ あと10分ぐらいであるが、この問題について議論をとりあえずまとめておきたい。  今日は今まで議論していなかった、新しい論点がいくつか出てきた。その問題につい  てはまた事務局の方にまとめてもらうが、それとは別に、この間、労使からのヒアリ  ング、あるいは裁判所からのヒアリングをして、それぞれ違った意見が出てきた。だ  が、全部の枠が重なる部分があったと思う。それは自分自身も反省するところである  が、要するに公益委員に対する不満・不信である。労使が公益委員のことを悪く言う  のは分かるし、裁判所もいろいろあるとは思う。しかし、これを全部足すと、イコー  ル制度に対する大変な不信、したがってここをどうするかに踏み込まなくては、いか  なるものでも改革というのをみなが認めてくれないという問題がある。したがって、  公益委員制度をどう変えるかというのがかなりな程度重要なポイントで、常勤化・専  門化というだけでもずいぶん違うのではないかという感じがしている。それとは別に  、これは労働委員会制度全体を変えないとどうしようもないが、結局労使の立場が逆  転するということがない。いつでも片方が攻める側、もう片方が守る側となる。こう  した構図も、かなり制度に対する不信を生むのではないか。不信感が圧倒的に強いの  は使側である。使用者側が労働委員会に対して厳しい批判をしている。経営側の弁護  士もそうである。こうした問題に関してはどう考えたらいいのだろうか。例えば、全  て東京地裁に行きたいと使用者が言う意味を忖度すると、どんな改革論を出しても経  営側にはそう簡単に賛成してもらえない。実質的証拠法則は完全にそうだろうし、実  効確保もそうだし、執行力も間違いなくそうであろう。最後に、こういうことに対し  て意見があればいただきたい。 ○ 前回も言ったと思うが、一つの手は、労働者側の弁護士と、使用者側の弁護士がそ  れぞれ公益委員に入るというのがあると思う。 ○ 単独で審査をするということであろうか。 ○ 単独で審査するかどうかはともかくとして、今は中立の人しか入っていないので、  そうではないという形で一歩踏み込む。ただ、そのためには労使を相当説得しないと  、どうにもならないとは思う。 ○ たしかに、実務家の専門家がどこにいるかと言えば、労使それぞれの弁護士という  ことになるだろう。 ○ 一審充実ということは、迅速な審理ということとセットだと思う。疎明である手続  であることを前提としてその限度で充実と促進をやって、それだけやったのだから、  しかも制度本来の趣旨からいけばその段階の争いの中できちんと従ってもらって、労  使関係が改善される方向がすぐに出ないと意味がないということは、建前論としては  反対が出にくい部分なのではないか。常勤化ということになると、今いる委員の人た  ちでもやめてしまう人が出てくると思う。弁護士をやりながら常勤の委員はやらない  と思うし、大学の先生もどうかと思う。しかも増員ということになるとどうなるのだ  ろうか。それに比べれば、事実審は一審のみ、一審の充実という方向はまだ現実的だ  と思う。 ○ しかし、そのアイディアで行くと、自治事務化した地労委に対してというのはなか  なか難しいのではないか。 ○ いたるところでぶつかる話ばかりであるが、地方分権を批判する議論というのは今  無理で、それは良かれ悪しかれそのことを前提として考えないといけない部分の一つ  なのではないだろうか。それに、使い勝手の良い制度になれば、事件数は増えるはず  だと思う。ゼロ件とか1件とかいうのは、今の制度がニーズに応えていないというこ  となのではないか。 ○ 現役の裁判官を委員に入れるのはどうであろうか。裁判官というのは、今でも中立  性ということに厳しいし、公益委員が特に使側から中立性がないのではないかという  不信の目で見られていることはたしかであるので、それを払拭するものを打ち出さな  いと難しいのではないか。それで裁判官を入れるというのは一つの考え方ではないか  と思う。 ○ 退職した裁判官であれば問題はないが、現職の裁判官ということになると、兼職の  問題などがあるし、そういうことを抜きにしても、実際上裁判所には外に人を出せる  だけの余裕があるかどうか疑問である。 ○ 裁判所にとっても、その方がいいのではないかという気がするが。 ○ 行訴対応ということで言うと、訟務検事を国の負担で人事交流するというのはあり  うるのではないか。 ○ それはたしかにそのとおりで、一つの論点であるが、ともかくあちこちから引き合  いがあるので、訟務検事もそう簡単には確保できないのではないか。 ○ 行政組織のいろいろなところから裁判官・検事を出してくれという話が来ているの  が現状で、話を持ちかけても、いろいろな理由から難しいのではないかと思う。 ○ 先ほど、常勤化というのは、かけ声としては良いけれども、実質的には難しいとい  う話があったが、たしかに全部の常勤化は無理であろうが、例えば会長と訴訟担当と  か、部分的に常勤化するというだけでもかなり違うのではないかという気がするのだ  が、その点はどうであろうか。 ○ 常勤化していい人が確保できて、人を増やせるという見込みがあるのであれば、そ  のこと自身が悪いわけはないと思う。ただそれが現実には逆にならないかという危惧  を持っているだけである。 ○ 日本の労働市場を前提とすると、キャリアの途中で行くというのが非常に難しい。 ○ そうすると、ある意味では60をいくつか過ぎたあたりの人材の活用ということにな  る。そして、定年を少し見直すというやり方でいくと、人材がそこからは供給される  という感じがする。   それでは時間も過ぎたので、本日はこのあたりで終わりたいと思う。7の「その他  」というところで、他に何か論点だけでもお気づきの点があったら、今まで議論して  きたことでも、あるいはこの論点ペーパーに載っていたことで何かあったらご指摘い  ただきたい。   では本日のところは以上とさせていただく。これで、おおむね論点については一渡  り検討したということになると思うので、来年になったらこれまでの議論を踏まえた  上で、事務局に基本的な考え方を整理していただくという段階に進む。次回以降はそ  の整理したものに基づいて、さらにみなさんに意見をいただくという作業に入りたい  。                                      以上 照会先 政策統括官付労政担当参事官室 村瀬又は朝比奈 TEL 03(5253)1111(内線7752)、03(3502)6734(直通)