02/07/29 第1回医療安全対策検討会医療に係る事故事例情報の取扱いに関する検討部会      議事録                医療安全対策検討会議          医療に係る事故事例情報の取扱いに関する検討部会                    第1回          日時 平成14年7月29日(月)16:00〜          場所 厚生労働省専用第22会議室 ○大谷課長  定刻になりました。ただいまから、「医療安全対策検討会議、第1回医療に係る事故 事例情報の取扱いに関する検討部会」を開催いたします。委員の皆様方におかれまして は、お忙しい中、また大変暑い中、ご出席いただき誠にありがとうございます。私、厚 生労働省の医政局総務課長の大谷です。検討部会長の選出までの間、議事進行役を務め させていただきますのでよろしくお願い申し上げます。議事に入ります前に委員の先生 方をご紹介させていただきます。  日本薬剤師会常務理事の井上章治委員。  日本歯科医師会専務理事の梅田昭夫委員。  霞ヶ関総合法律事務所弁護士の川端和治委員。  読売新聞社解説部長の岸洋人委員。  日本ヒューマンファクター研究所所長の黒田勲委員。  三宅坂総合法律事務所弁護士の児玉安司委員。  日本看護協会専務理事の岡谷恵子委員。  東海大学医学部附属病院副院長の堺秀人委員。  東京大学法学部教授の樋口範雄委員。  東京都医師会理事、医事紛争を担当しておられます樋口正俊委員。  東京都立大学法学部教授の前田雅英委員。  武蔵野赤十字病院院長の三宅祥三委員。  国立保健医療科学院政策科学部部長の長谷川敏彦委員。  日本医師会常務理事の星北斗委員。  ささえあい医療人権センターCOML理事長の辻本好子委員。  なお、辻本委員からは本日欠席の連絡を受けております。  それでは議事に入りたいと思います。まず、本検討部会の開催に当たり坂口厚生労働 大臣からご挨拶を申し上げます。 ○坂口厚生労働大臣  委員の皆様方におかれましては、今日は大変お忙しい中であるにもかかわらず、この 検討部会にご出席を賜りまして心からお礼を申し上げたいと存じます。  医療安全対策は医療政策の重要課題の一つでありまして、行政をはじめとして、すべ ての関係者が積極的に取組むことが必要であると考えております。このため昨年、私か ら「患者の安全を守るための医療関係者による共同行動」、いわゆる「PSA(Patient Safety Action)」を提案いたしまして、医療関係者の意識向上と意識喚起を図ってき たところでございます。  また、本年4月には、今後の医療安全対策の目指すべき方向性と、緊急に取り組むべ き課題を示しました「医療安全推進総合対策」を取りまとめたところです。この総合対 策におきましては、1番目といたしまして、全ての病院等における事故の院内報告制度 などの一定の安全管理体制整備の義務化。2番目といたしまして、医薬品・医療用具な ど事故を起こしにくいものに改める取組みの推進。そして3番目といたしまして、医療 安全に関する教育・研修の充実。4番目といたしまして、患者の苦情や相談に対応する ための相談窓口の設置等に取り組むべきであると指摘をされております。厚生労働省で は、これらの指摘されました事項につきまして取り組みを進めさせていただいていると ころです。本検討部会におきましては、医療事故防止に活用する観点から医療に係わる 事故事例の情報をどのように取り扱うべきかという問題につきまして、委員の皆様の高 い見識に基づき幅広い視点からご意見を賜りまして、活発な議論をいただきたいと考え ているところでございます。  最後に、医療における国民の安心と信頼を確保するために、医療安全対策に対する皆 様方の一層のご理解と、ご協力をお願いを申し上げまして、一言、私のご挨拶に代えさ せていただきたいと存じます。ひとつよろしくお願い申し上げます。 ○大谷課長  坂口厚生労働大臣は、所用のためここで退席されます。 ○坂口厚生労働大臣  本来ならば皆様方のご意見を聞かせていただいて、一日ここで座らせていただくのが 本意でございますが、いろいろなことが立て込んでおりますのでここで失礼させていた だきますが、お許しをいただきたいと存じます。              (坂口厚生労働大臣退席) ○大谷課長  続きまして、事務局を紹介いたします。  医政局長の篠崎です。  医薬局長の宮島です。  医政局総務課医療安全推進室長、本検討部会の担当室長でもございます新木です。  医政局歯科保健課長の瀧口です。  医政局看護課長の田村です。  健康局国立病院部政策医療課高度専門医療指導官の木村です。  医薬局安全対策課安全使用推進室長の伏見です。  どうぞよろしくお願い申し上げます。  それでは、本検討部会の開催要領について事務局より説明いたします。 ○新木室長  それでは資料1を用いて本検討部会の趣旨を説明いたします。本検討部会は、医療安 全対策の更なる推進を図るため、医療に係る事故事例情報の取扱いに関する検討を行う ことを目的とし、医療安全対策検討会議の下に設けられる部会です。  検討事項としては、医療に係る事故事例情報の取扱いに関する事項その他で、これら について年度内を目処にご意見を取りまとめていただければと考えております。  運営については、検討部会の委員は資料1の2枚目にあります「別紙」のとおりで す。検討部会は検討の必要に応じ、適当と認める有識者等を参考人として招致し、その ご意見を伺うこととしたいと思います。検討部会は原則として公開で開催したいと思っ ております。以上です。 ○大谷課長  次に検討部会長の選出ですが、委員の互選とさせていただきたく存じますが、いかが でしょうか。 ○梅田委員  いま新木室長からお話がございました「医療安全対策検討会議」の中におきまして、 「医療安全推進総合対策」の策定にあたり、起草委員会の座長を務められました堺先生 がここにいらっしゃいますので、是非、堺先生を部会長にご推薦申し上げたいと思いま す。 ○大谷課長  梅田委員から、堺委員に検討部会長をお願いしたい旨のご提案がございましたが、い かがでございましょうか。                  (異議なし) ○大谷課長  それでは皆様のご賛同を得ましたので、堺委員に検討部会長をお願いいたしたいと思 います。どうぞよろしくお願いを申し上げます。 ○堺検討部会長  堺でございます。ご推挙いただきまして誠に光栄に存じます。医療安全において、そ の中で医療事故に係わる情報の取扱いにつきましては、現在、まだ我が国の社会で合意 が十分成立していないと私は考えております。この度、各界の委員の方々、さらに広く 国内、あるいは国外における様々なご意見をいただき、是非、形あるものをまとめさせ ていただきたいと思っておりますので、よろしくお願い申し上げます。  本日は第1回ですので、まず、この検討部会の親会であります「医療安全対策検討会 議」がこの4月に報告した「医療安全推進総合対策」の概要と、医療安全対策に関するこ れまでの厚生労働省の取組について、事務局からご報告をお願いします。 ○新木室長  説明に入る前に皆様のお手元にある資料について確認させていただきます。まず、 「医療安全対策検討会議 医療に係る事故事例情報の取扱いに関する検討部会」の第1 回議事次第があります。資料1は、本検討部会の実施要領です。資料2は、「医療安全 推進総合対策について(概要)」という3枚紙です。資料3は、厚生労働省における医 療安全対策に関するこれまでの取組みです。資料4は、医療に係る事故事例情報の取扱 いの現状及びこれまで指摘されている主な事項です。  参考資料1は、医療安全対策ネットワーク整備事業の概要です。参考資料2は、医療 安全推進総合対策の全文です。参考資料3は、関係する規定・通知等です。なお、参考 資料1は、これから先、説明する機会がないと思いますので、この場を借り簡単に説明 いたします。  本医療安全対策ネットワーク整備事業は、医療機関における安全対策を推進するた め、平成13年、昨年の10月から「ヒヤリ・ハット事例」を特定機能病院、国立病院、国 立療養所を対象に収集・分析をし、その結果を広く医療機関等に提供する事業として始 められたものです。収集の対象となるのは「全般コード化情報」「医薬品・医療用具・ 諸物品等情報」「重要事例情報」の3種類の情報です。  参加医療機関から医薬品機構を通じて、厚生労働省にご報告をいただき、そこで分析 し、その結果を国民・医療機関及び業界団体、個別企業等に提供していく仕組みとなっ ています。第3回の集計結果を参考までに載せております。  次に、医療安全推進総合対策及びこれまでの取組みについて説明いたします。、平成 13年5月に厚生労働省に「医療安全対策検討会議」を設置し、今年4月まで12回にわた り検討を行い「医療安全推進総合対策」を取りまとめました。  資料2に基づき内容について簡単に申し上げます。第1点は、医療機関における安全 対策として、すべての病院及び有床診療所に対し安全管理指針をはじめとする安全管理 体制の4項目を整備する。また、特定機能病院、臨床研修病院については、それに上乗 せする形で医療安全管理者の設置等3点を義務付ける、ということで現在準備中です。 2番目のポイントは、医薬品・医療用具等に係わる安全性の向上です。医薬品の販売名 や外観の類似性等について検討していく場を設けると同時に、医療用具に関しては、人 間の行動や能力その他の特性、いわゆる「ヒューマンファクター」を考慮した設計、製 品を開発していくということです。  3番目のポイントは、医療安全に関する教育・研修です。国家試験の出題基準に医療 安全に関する事項を位置付けると同時に、臨床研修での徹底を図っていきたいと思って おります。また、その環境整備として修得内容の明確化、教育方法、教材の開発等を 図っていきたいと考えています。4番目のポイントは、医療安全を推進するための環境 整備等です。まず最初は苦情や相談等に対応するための体制の整備です。ポイントとし て、二次医療圏内に公的な相談体制を整備するとともに、都道府県に第三者を配置した 「医療安全相談センター」を設置することで、現在調整中です。2番目のポイントは、 医療安全に有用な情報の提供です。「ヒヤリ・ハット事例」の収集を全国的に展開して いくとともに、科学的根拠に基づく医療安全対策を推進するために、調査研究の総合 的、計画的な推進を図っていきたいと考えております。  3頁目に本文の中から「本検討部会」について記載した部分の抜粋を載せておりま す。『「事故事例」についても「ヒヤリ・ハット事例」と同様に収集・分析して事故予 防に活用するため、強制的な調査や報告を制度化すべきとする意見があったが、逆に、 当事者の免責を行うことなく報告を求めることは、法的責任の面で当事者の一方に著し い不利益を生じさせるおそれがあり、かえって事故の陰蔽につながりかねないとする意 見や、係争中の当事者間の関係にも配慮すべきとの意見もあり、今後法的な問題を含め て更に検討することとした。』ここを受けて本検討部会が設置されることになったとこ ろです。  資料3は、厚生労働省における医療安全対策に関するこれまでの取組みの概要です。 1番目として医療関係者への周知徹底です。「患者誤認防止方策に関する検討会」を設 置し、その報告書を取りまとめ配布普及をした他、専門団体・病院団体等の医療関係団 体からなります「医療安全対策連絡会議」を開催し、平成12年3月以降5回開催してい ます。この中で、厚生労働大臣から緊急に「医療安全対策の推進」を関係者の方にお願 いしているところです。また、さまざまな研修会、普及啓発の場を設けると同時に、 「患者の安全を守るための医療関係者の共同行動」を昨年から実施しているところで す。  2番目は、医療機関における安全管理体制の強化です。平成12年4月から特定機能 病院の安全管理体制の整備を義務付けるとともに、国立病院において安全管理体制の徹 底を図っております。  3番目は、医療安全対策ネットワーク整備事業の実施です。昨年10月から開始してお ります。  4番目は、医薬品・医療用具等関連医療事故防止対策の充実です。  5番目は、医療安全対策検討会議の開催です。昨年5月に「医療安全対策検討会議」 を設け、その下に「ヒューマン・エラー部会」「医薬品・医療用具等対策部会」の2つ の部会を設けてこれまで検討を進めてきたところですが、本日第1回の会合を開いてお ります本検討部会はこれに次ぐ3つ目の部会と位置づけられております。また、この 他、今年7月に「ヒューマン・エラー部会」「医薬品・医療用具等対策部会」の下に 「ヒヤリ・ハット事例検討作業部会」を設けております。  6番目は、調査研究の推進です。平成13年度から厚生労働科学研究費補助金におい て「医療安全に関する研究」を進めているところです。  その他、体制整備として医政局総務課に「医療安全推進室」が昨年4月に設けられて おります。以上です。 ○堺検討部会長  ただいま説明していただいた資料について、ご質問等はございませんか。 ○樋口(範)委員  今回の事故情報に関する情報の取扱いの問題という以前に、「ヒヤリ・ハット事例」 について、すでに一定のシステムを設けてやっておられる、というお話がありました。 これについて、もう少し説明を補足していただいて、集めた結果をどういう形で検討 し、ヒヤリ・ハット事例が事故に結び付かないような形で役立てているか、具体的な事 例なども含めて、何か補足していただければと思います。 ○新木室長  それでは、もう少し具体的な事例に基づいて説明いたします。  昨年10月から始めたところですので、その成果の活用状況について十分に検証を行っ ているという状況ではありません。全体としては、延べ1万6,000件ほどの事例が集まっ ております。第3回については、2月、3月分の報告を3月から5月までの期間に収集 し、合計で6,000件ほど集まっております。  報告情報の形態ですが、まず一つが、全体的な傾向を把握する「全般コード化情 報」。これが毎回数としてはいちばん多く集まっており、今回4,800件ほど集まっている という状況です。単純集計の他、クロス集計を行い、どんな場面で多いのか、要因別な どで全体的な傾向を把握する情報として提供しています。  2番目の情報としては、「重要事例情報」。これは改善のために重要と思われる事例 について、各医療機関で分析したものを、記述情報として提出していただくもので、830 件ほど集まっております。集められた事例のうち特に重要と思われるものについて、専 門家が分析を行い、具体的にどのような改善点が更に考えられるのか、また、参考とな る情報にどんなものがあるのか、などのコメントを付けて提供しています。  さらに3番目の情報として、「医薬品・医療用具・諸物品等情報」というのを集めて おります。これについてはどんな所で医薬品の混同が起こったか、医療用具のヒヤリ・ ハットが起こったかなどについてまとめています。  このようにしてまとめた情報について、インターネットもしくはいろいろな普及啓発 の場において、その情報の提供を図っています。  現在「ヒヤリ・ハット事例検討作業部会」において、この収集方法、収集内容、分析 方法等について改善策を検討していただいているところで、来年度には新しい体制で、 さらに対象医療機関の数も増やし収集していきたいと考えております。 ○樋口(範)委員  ありがとうございました。 ○堺検討部会長  ほかに、ご意見、ご質問はありませんか。  ところで、ヒヤリ・ハット事例の収集の対象機関は、どのようなものですか。 ○新木室長  対象機関は特定機能病院82と、国立病院・療養所200、合計280ほどの病院か ら収集をしております。 ○堺検討部会長  今後これを拡大する方針ということですね。 ○新木室長  そのとおりです。 ○堺検討部会長  ほかにいかがでしょうか。ご質問、ご意見ございましたら、随時ご提示いただきたい と思います。  それでは、続きまして現在我が国における事故事例情報の取扱いの現状、それと、こ れまで指摘されている主な事項について資料がありますので、説明をお願いします。 ○新木室長  資料4に基づき説明いたします。資料4は、医療に係る事故事例情報の取扱いの現状 及びこれまで指摘されている主な事項についてです。  まず現状ですが、大きく分けますと「医療機関内の取扱い」、2番目は「行政におけ る取扱い」、3番目は「その他」と3つに分けて記載しております。医療機関内におけ る取扱いとしては、平成12年4月から特定機能病院において院内の事故報告制度を義 務付けました。平成14年10月からは一般の病院、有床診療所についても同様の安全 管理体制を整備していただくために準備をすすめているところです。  (2)は行政における取扱いです。まず医療事故の発生状況の把握は、保健所等への 任意の報告をもとに厚生労働省へも適宜報告をしていただくことになっております。ま た、医療法上、適切な管理が行われていたか否かの確認を、その情報に基づき行ってい ます。さらに、これらの情報を分析し、例えば平成11年に取りまとめた「患者誤認事 故防止のための院内管理体制の確立方策に対する検討会報告書」等により医療事故情報 の各種医療安全対策への活用を行ってきました。  (3)は、その他の団体等での活用状況です。一部の学会や各種団体等において会員 からの協力を得て医療事故情報を集め、それを改善策へ応用している。それを会員へ周 知している状況であると聞いております。以上が現状です。  次に、さまざまな分野で指摘されている医療事故情報の取扱いに関する主な指摘事項 を御説明します。まず最初は、医療機関内での取扱いについてです。医療事故情報の院 内報告については、未だ医療事故情報を院内で報告することが根付いていないのではな いか。また、報告された事例について原因分析が十分にできていないのではないか、と いう点が指摘されています。さらに、院内報告を活用した安全対策の実施がまだ十分に 行われていないのではないか、報告された事例について、患者・家族への説明等十分な 説明がなされていないのではないか、という指摘もあります。  2番目は行政に対する指摘です。大きく分けて、どのような目的でどう活用している のか、そのための環境整備がいかにあるべきかという、2つに大きく分けられると考え られます。まず、目的別にどのように活用していくべきかについては4つのことが指摘 されています。(1)は医療事故の実態把握であります。医療事故の実態を把握するために 医療事故報告を義務付けるべきではないかという指摘がある一方、報告基準を策定する ことが困難である。また、報告を義務付けることは法的に不利益を一方的に生じさせる のではないか、というご指摘もありました。(2)は医療事故の原因究明についてです。患 者・家族に事実を知らせるためにも個別の医療事故を調査し原因を明らかにすべきでは ないか、というご指摘がある一方、当事者間の問題に行政が介入することにより、当事 者の一方に不利益を生じさせる、また、係争中の当事者の関係にも配慮すべきではない か。さらに、司法制度改革の一環として、現在医療過誤訴訟の迅速化等について検討さ れている事項ですので、それに屋上屋を重ねるようなことになるのではないかというご 指摘がありました。(3)は医療事故情報を改善対策、改善方策に活用するということで す。医療機関における安全対策を支援するためにも「ヒヤリ・ハット事例」と同様に、 医療事故事例を収集・分析の上、改善方策を医療機関へ提供すべきではないか。その際 には提供者に不利益が生じないように配慮した仕組みが必要なのではないか、というご 指摘がありました。(4)は医療機関や医療従事者に対する処分です。適切な行政処分や再 教育を実施すべきであるというご指摘がある一方、それを行うためには十分な根拠等が 必要であるけれど、それが果たして十分得られるかどうか、というご指摘がありまし た。  このような4つの点からの活用にあたっては、環境整備として4点ほどのご指摘があ るのではないかと考えております。1つは「第三者機関の設置」です。(1)〜(4)を適切 に実施するためには第三者機関を設置すべきではないかというご意見がある一方、第三 者機関の設置に伴う予算、組織、人員、これに見合う十分な効果があるのかどうか、と いうようなご指摘もあったかと思います。  2つ目は「医療事故情報の情報公開」です。第三者への開示範囲等を制限すべきでは ないかというご指摘がある一方、医療の透明性を確保する観点から医療事故情報はもっ と積極的に出すべきである、というご指摘があったかと思います。  3つ目は、「医療事故情報の提供者の保護」です。医療事故情報を提供した際に提供 者に保護措置と申しますか、免責等の配慮をする必要があるのではないかというご指摘 がある一方、保護措置というのは患者の側から見て患者に不利益を生じさせるのではな いか、というご指摘もあったかと思います。4つ目は、「医療事故の定義」の問題で す。医療が人体に対する侵襲性がある行為であるということから事故の定義、判断が非 常に難しいのではないか。また、事故と非事故といいますか、事故と事故以外の境界的 な例が非常に多いことが、この問題を複雑にしているのではないかというご指摘があり ました。  この他、関連する指摘として、損害保険会社等が保有する医療事故情報の提供の問 題。また、医療事故情報を踏まえた医薬品・医療用具の改善に活用すべきである、とい うご指摘があったところです。  以上が医療安全対策に関するご指摘でありますが、このほかに(注)として記載して おります医療安全対策のための医療事故情報の活用には該当しないものの、医療事故が 発生した後の事後処理対策として指摘されているものとしては、医療事故の紛争処理、 被害者に対する救済を検討すべきではないかというご指摘がありました。  また、異常死、異常な死体を検案した場合の医師の届出についての議論もなされてい るところですが、これについては別途、場を設けて検討しているところです。  以上、簡単ですが現状と各分野でさまざまな指摘を取りまとめたものを説明いたしま した。 ○堺検討部会長  ありがとうございました。現在の状況、これまでに指摘されたさまざまな事項につい てご報告をいただきました。今後この検討部会で論議を深めていただくことになるかと 思います。委員の方々はもとより、様々なお立場の方々のご意見も伺って論議を進めら れればと考えております。  それでは、資料4に沿いまして、ご意見、ご質問を頂戴したいと存じます。まず、医 療事故情報の「医療機関内における取扱い」についてです。これについて何か、ご意 見、ご質問はございますでしょうか ○新木室長  ご議論の前に黒田勲委員からご提出いただきました資料を別途、いちばん最後に付け ております。ご紹介を忘れましたので申し添えます。 ○堺検討部会長  お手元にございますでしょうか。「事故報告のシステム、デザイン要件」ですが、黒 田委員がご提出いただきましたA4判の2枚紙でございます。  それでは黒田委員、この資料のご説明をお願いします。 ○黒田委員  これまで、いろいろな事故報告制度の成立の経緯を見ましても、先ほどお話がありま したように、大変な矛盾があります。医療事故の報告制度を考えていくときには、処罰 をすべきであるというのと、防止をすべきであるという2つの道筋を達成していなくて はいけない。そこの食い違いを他分野ではどのようにして処理してきたのか、というこ とをご紹介しようと思います。  まず第一に、行政機関では、発生した事故に対して懲戒し処罰をしていく権限を持っ ているし、これを行使しなければならない組織です。と同時に、そういうものを含めて 再発防止をしなければならない。これら2つの目的を持っているわけです。とすると、 この報告はどちらを主体にするのかをはっきりしなければいけない。報告というのは懲 罰のためなのか、防止のためなのか、という目的によってアプローチの仕方が全く別な ものになります。その矛盾をどういうふうにしてつなげるか、というようなことが大変 大切でしょう。  形態としては、今まで話がありましたように、強制の報告は法律的な根拠をちゃんと 作らなければいけない。それと自発的というのは、目的が達成されメリットがなければ 消えていくという可能性を持っております。また機関が報告するのですか、個人が報告 するのですか、ということをはっきり分けなければいけないでしょう。  対象ということですが、先ほどからも話がありましたように、どこまでが事故で、ど こまでがインシデントで、どこまでがヒヤリ・ハットか。その区別をどこに引くかを しっかりしないとそれぞれの報告の数に非常に差が生じることになります。  また、事故の軽重をどういうふうに線を引くのか。例えば、医師の診断書ですと、重 傷であるとか軽傷であるとかという言葉があります。療養日数なのですか、医療費なの ですか、というような1つの物差しをしっかり持たなければいけない。航空事故では、 大・中・小事故、その他の事故というような損害額であるとか、生命の危険とかという ものを主体にしております、労働災害においても区別をしっかり持っております。こう いうことをしっかりしなければいけないでしょう。  報告様式ですが、これは持たなければならない「5W1H」ということが書いてあ る。特に「なぜ起こったのか」ということなのですが。先ほどヒヤリ・ハットの事例の まとめがありましたが、「分類を統一する必要」があります。簡便性に主体を置くと分 析するには頼りないデータが出てまいります。非常に表層的なことしかわからず、ただ まとめて統計を取るだけのものにしかならない。ヒヤリ・ハット事例を再発防止のため に集めようとするならば内容が詳しくなければいけないわけですが、詳細を要求すると うまく集まってこないというジレンマがあるわけです。  「匿名性」とか「免責性」という話が出ておりますが、これは事故、ヒヤリ・ハット という線をどこに引くかということによって変ってきます。事故であるならば責任がな いわけではないですから、「免責性」ということはありません。「匿名性」は可能です が、「免責性」を法的にどこに線を引くことができるのか、ということをはっきりしな ければいけない。これは先ほど言いました、事故、ヒヤリ・ハットの分類に直接係わっ てくることです。『いかなる場合においても免責』ということはあるわけがないので あって、どこに責任というものの線を引くかをはっきりしなければいけない。  調査をしていくときには4つの方式があります。皆さんよくご存じの刑事の訴訟があ りますし、民事訴訟もありますし、行政も処罰の権限があります。少なくとも厚生労働 省は医師等に対する行政処罰の権限を持っています。これを実施しておりますのは、海 難においては海難審判庁で、これは行政処分を主体とするところの組織です。海難審判 法の第1条と、8条の2もそうですが、目的として海難事故の「防止」ということが 入っていて海難審判庁はいま大変困っています。処罰を主体として明治29年から作って きた海員懲戒法なのですが、これは再発防止も謳ってあって、この両方を達成するため に大変困っているのです。厚生労働省が事故報告を収集しようとするときに、同じよう にぶつかる問題でしょう。  再発防止を主体としてやっている組織に、国土交通省の航空・鉄道事故調査委員会が あります。これは処罰のためにこの報告を使ってはならない、要するに、処罰のためで はないということをはっきり謳っております。ただ国土交通省の組織ですので、実は若 干の問題があるわけです。  次に、事例情報を分析する組織ですが、これは公正、中立、信頼される組織でなけれ ばいけない。また、高度の専門性を持っていなければいけません。例えばヒヤリ・ハッ ト事例で情報が不十分な場合は問合せを行いますが、自己に不利益な情報は証言しなく てもいいことになっておりますから、組織の中立性や先ほどの「免責性」等の問題に しっかり線を引かないと、実施は困難です。  こうした組織の作業量ですが、航空事故調査委員会の件数、あるいは海難審判庁の場 合、年間800件ぐらいありますのでワークロードをどういうふうに考えていくのか。また もし処罰を対象とするならば公聴会をしっかり持っていなければいけないでしょう。さ らに、分析の結果をもとに、背後要因を追いかけていきますと、一件一件に対する対策 ではなくて、共通している対策が出てきます。一件一件の対策以外に、組織の問題等、 共通した問題にも対策を講ずるだけの能力がなくてはいけない。  事故率を安全度の評価に使っていますが、医療の場合においては、この事故率をどう 考えていけばいいのか。何を母数とするか。母数は危険の暴露数なんですが、それをど ういうふうに取るのですかということです。航空の場合は100万離陸が単位ですし、労働 においては「度数率と強度率」を作ってありまして、100万延べ労働時間というものを分 母に持っております。  懲戒をもし目的とした場合においては、事故の原因と同時に、その原因が法令に違反 をしているかどうかも見る必要があります。違反している程度を決めて量刑に反映させ るわけですが、それをどこが行うのかということも考えていかなければいけません。第 三者機関という言葉は何でもできる機関の代名詞のように使っているのですが、先ほど のお話にもありましたように、お金と人員といろいろなものがかかるわけです。第三者 機関としてはまず、行政組織法の3条機関で内閣に直接所属する組織と、第8条機関つ まり各省庁に所属する組織が考えられます。航空・鉄道事故調査委員会の設置の際にも かなり検討されましたが、結局、第8条機関になったわけです。ただ、この場合、航 空・鉄道事故調査をやったときに、国土交通省はそれの行政をやっているわけです。そ うしますと、国土交通省は航空事故調査の対象になる組織であるわけです。例えば、こ の前の日本航空のニアミスの時の管制官は国土交通省の職員です。国土交通大臣に提案 をしていくわけですが、この組織の位置づけが問題になってくる可能性があります。ア メリカのNTSBはダイレクトに大統領にぶら下がっていますから、これは3条機関に 相当するわけです。またこの他にも、第三者機関というのは、独立行政法人や特別行政 法人にするのか、あるいは民間なのかということをはっきり考えておかなければいけま せん。それによって動きが全く違うわけです。  それと、対策の策定をするときに、一般に8つの条件があります。「適中性」である とか、「永続性」であるとか、「普及性」であるとか、こういうものをしっかりと踏ま えた対策でなくてはいけないわけです。そのためには背後要因を追いかけていく方法論 をしっかりと持たなければいけないでしょうし、同じことをやっていて事故の起きない ところの研究を行う必要があります。それと費用対効果、一体この投資は、医療事故防 止にどのぐらいの効果があるのか。これはリスク・アセスメントの話ですが、そういう ことも大変大切でしょう。  対策の実施は、行政指導をしているからには対策の実施に対するプロモーターでなく てはいけないわけです。もちろん報告書の作成はする。これは報告者に対するフィード バックであり、報告に対する御礼です。そのフィードバックはどういう形でするのか。 対策実施機関をどういうふうにするのか。例えば、いろいろな報告書の後ろには必ず勧 告であるとか、提案であるとか、要望であるとかというのがあるのですが、これには ちゃんと実施責任の縛りをもたせなくてはいけない。  航空事故調査委員会ですと「勧告」を国土交通大臣に出すわけです。勧告で言われた ことについて、大臣は行政を通じてどんなことをやったのかを委員会に通知することに なっています。勧告、提案、要望というものが、実施に移されるという裏付けをどうい うふうに作っていくのか。それと事故予防のためのシステム的なアプローチをどうして いくのか。予防のための教育訓練とか資料をどういうふうにしていくか。これから事故 を踏まえて作っていくのか、それを普及させるシステムを作っていくのかということ。  「有効性の追跡、評価」は、日本の行政の中でいちばん弱いところです。やりなさい というのは良いのですが、どんなふうに実施され、どういう成果が出ているのか。実際 に事故発生の状況はどのように推移してきているのか、というようなことをきちんと フォローアップしていかなければいけない。事故調査報告の制度をつくるのだったらそ のためのシステムやデータベースなどもしっかり持たないといけないでしょう。  いまディスカッションをされていることは、日本のいろいろな組織の中において10 年、あるいは20年前に、行われてきたことです。その辺を踏まえてしっかりした組織を 作っていく必要があるのだと思います。曲り角の方向性を間違えますと、おそらく報告 システムはつぶれてしまう可能性がある。皆が協力をしながら報告を出し、再発防止が できるようなシステムを是非とも作っていただきたいと思います。 ○堺検討部会長  様々な問題点を包括的に示してただき、ありがとうございました。この後は資料4の ご質疑に戻りまして、それぞれの立場からのご発言や今後どのように進めるべきかにつ いてのご意見も頂きたいと思います。  その前に、いま黒田委員のお話にご意見、ご質問はございませんか。  それでは資料4に戻ります。資料4の1頁目が「医療事故情報の取扱いの現状、医療 機関内における取扱い、行政における取扱い、その他」です。ここについて何か、ご質 問、あるいはご意見はございませんか。ここに記されていることは今後検討の土台に なっていくと考えております。 ○前田委員  私、総会の議論を十分存じませんので、初歩的な質問になるかもしれません。医療事 故の報告が義務付けの仕方そのものについて、どの程度のものにするとか、どういう形 でということは、これから検討していくということなのでしょうか。それとも院内報告 は、もう決まった形があって今年中に動き出すということなのでしょうか。 ○新木室長  特定機能病院については、すでに院内の報告システムが動いております。そのほかの 病院及び有床診療所は、10月から動き出すべく、現在最終的な準備をしているところで す。この院内報告システムについては、4月に親会におまとめいただきました報告書に 基づき、すでに実施に向けて別途作業を進めているということです。 ○前田委員  院内では、事故情報は、統一的にほぼ網羅的に集まってくると考えてよろしいので しょうか。それを行政のレベルから見て、どう処理していくかや、どう利用していく か、ということがこの検討部会の主要な議論になってくるということなのでしょうか。 ○新木室長  院内では、医療安全対策の観点から改善方策の立案等のために、院内報告制度を実施 していただくことになりますが、それを外部に出すことは違う議論がありますので、そ この部分を中心にご議論いただければと考えております。 ○前田委員  先ほど、黒田委員のご発言にもありましたように、まさに情報は外に出れば出るほど 良い面もあるわけですけれども、国民の最大限の利益につながるようにするには、それ によって医者の側に委縮効果が出てもまずいわけです。そのバランスをどうとっていく かとか、刑事免責の問題などいろいろ微妙なところがありますから、そこに議論を集中 するというのは非常によくわかります。  裁判で非常に時間がかかりすぎる云々というような議論は、ちょっと射程の外に置い て、医療情報をどう利用していくか、という側面から議論を考えていく、ということで よろしいわけですね。 ○堺検討部会長  この対策検討部会は、医療に係る事故事例情報の取扱いということに主眼を置いてお りますので、資料4の3頁のいちばん下の(注)のところにありますように、「医療事 故の紛争処理及び被害者に対する救済」これも大変重要な事項ではありますが、この対 策検討部会のテーマとしては、また別にしたいと考えております。 ○樋口(範)委員  前田委員のご質問に触発されてなのですが、院内報告の義務付けのあり方という点に ついて2つご質問します。  1つ目は、院内報告は特定機能病院で、例えば国立大学病院であるとすると、情報公 開法の適用される団体ということになると思います。こういう院内報告が集積されてい るので、それを公開してもらいたいというものが来たときに、これはヒヤリ・ハット情 報についても、どういう形で判断して対応しているのか。  2つ目は、この院内報告で、院内だからというので法人としての病院の責任というよ うなものはまた別の話だと思いますが、医師個人の立場からすると、院内であれ何であ れ、こういう形で報告がどこかでまとまるということは、つまり自分に不利益な事柄に ついて、院内で報告をするということになるはずです。そこの部分については、どうい うところでクリアして、こういう制度設計がなされているのかについて説明してくださ い。 ○新木室長  国立の機関における情報公開ですが、厚生労働省では国立病院を所管しております が、そこでの情報公開の事例がこの春ございました。その考え方については、国立病院 部からご説明いたします。 ○国立病院部政策医療課課長補佐  医療事故報告書に関しましては、国立病院部に報告されているわけですが、情報公開 法による開示請求というのがございます。情報公開会審査会の答申に沿い、個人情報は マスキングした形で開示したという経緯があります。 ○堺検討部会長  補足させていただきます。現在の日本の医療現場では、ほとんどの場合、特に重篤な 疾患の場合には、医師が個人で医療に当たるということは稀になってきております。い わゆるチーム医療ということがいわれておりますが、いま樋口委員がご懸念になられた ようなことは、現場では少なくなっているというふうにご理解いただきたいと思いま す。 ○三宅委員  いま樋口委員がおっしゃったような、院内報告といえども医師の個人の責任にかかわ るようなものというのはなかなか出てきにくい、ということはあると思います。今回の この検討部会で、いかにそういうレポートが出やすい環境をつくるか、ということが一 番のテーマではないかと考えています。いまおっしゃったところは1つのポイントでは ないかと思います。 ○堺検討部会長  事故とはなんぞや、ということになろうかと思います。重大な事故は報告が上がって まいります。比較的軽い事故の場合の報告がまだ十分ではないのではないか、という三 宅委員のご指摘でした。これは、今後ここで十分論議されなければいけないと考えてお ります。 ○星委員  樋口委員のお話を聞いていて、まさにそうなのだろうと思いました。私たちは医療を やっていて、何かトラブルを起こしてしまったといったときに、事もなげにそれを報告 しなさいと言っているけれども、現実には自分にとって都合の悪いことを申告しなけれ ばならないわけです。  部会長がお話になったように、チーム医療だからといっても、最後に注射器を持つの は看護師だったりするわけです。そのときに報告をしなさいと言われるときに、かなり 抵抗があることは事実なのですが、現実には、患者の生命がかかっている、あるいはす ぐに何かの対処をしなればならない、あるいは再発防止のためにそういう情報を集める 必要がある。それを強く認識をしているからこそ、比較的受け入れられているのだろう と思います。  医療機関は、ある意味で自分に不利が起こるということを認識しつつも、そういった 大義のためにやっているのだ、ということは是非ご認識いただきたい。もしかして法律 論で突き詰めていくと、院内報告制度そのものもある意味では憲法違反なのではない か、というお話が出るのかもしれません。表に出すということも一つ大きな事柄でしょ うけれども、集めてしまえば、あとの表に出すか出さないかという判断は、当事者の判 断ではなくて、法律で決まったり、あるいは組織のあり方によって決まってしまうもの です。今回はいいチャンスですから、その点の議論も必要だと思います。 ○堺検討部会長  資料4の2頁から3頁にかけて、これまでに指摘された主な事項があります。本日 は、個々の事項についてご討論いただくわけではありません。本日は、全体的なご意見 を頂戴したいと存じますが、事務局から何かありますか。 ○新木室長  先ほどの件に関連して、院内報告制度についてその根拠となる法的な枠組み等につい てご説明いたします。現在、特定機能病院については、医療法に基づいて院内報告制度 を義務付けているところです。その根拠は医療法第4条の2になります。この中で特定 機能病院の承認の条件として、「高度の医療を提供する能力を有すること」となってお ります。施行規則(省令)の解釈通知で、「高度の医療を提供する能力というのには、 安全管理のための体制を確保していることを含む」と書いてあり、これを受けて、具体 的に院内報告制度を行う、ということを義務付けているところです。  なお、今後これについて管理者の責務というような形で、これからは他の病院及び有 床診療所についても同様に、医療法に基づく制度としていきたいと考えているところで す。以前の話題になりますが、説明させていただきました。 ○堺検討部会長  資料4の2頁と3頁は、極めて多岐にわたります。個々の案件については、今後いろ いろご議論いただきますが、全般的なこと、あるいは今後の検討部会の進め方等につい てご意見を承ります。あるいは、いまの時点での各委員のお考え、ご意見、これは必ず しも全般的なことでなくても結構です。今後、皆さんでのご討議の参考にさせていただ きたいと存じますので、お一方ずつご意見をいただけますか。 ○井上委員  本日、前田委員と樋口委員のご意見を新鮮な思いで伺っておりました。これは日本だ けでなく、米国の例でもヨーロッパの例でもそうなのですが、医療関係の事故が何件起 こっているのかは、実際にはわからないです。それに対して対策を立てていくというの は非常に難しいことです。  ヒヤリ・ハット事例や事故事例の報告の収集などを薬剤師会の中でお願いしています が、事故を起こしてしまったら、それが重大な事故であればあるほど、あまり人に知ら れたくないと思うのが人間の本質だと思います。そういったことも踏まえて、医療の中 での事故報告をどう処理していくのか。また、予測されていない副作用が起こった場合 は、果たして事故なのかどうか、薬物相互作用でも1つとか2つという簡単な相互作用 であればいいのですけれども、数十種類の薬を投薬されている患者の中で、実際に副作 用や相互作用が起こって、それが事故だったのか、事故ではなかったのかということが あります。医療の特殊性というのは、危険が不可避なもの、まだ知られていないもの を、チーム医療も含めて実行していくわけです。みんなで協力をし合いながら、その危 険をできる限り除去して、治療という一つの目的に向かっていくわけです。普通の工場 生産と医療がちょっと違う点は、予測不能なことが起こるわけです。それを、客観的に それが事故だったのか、事故でなかったのかということを、どういうふうに判断してい くのかというのは非常に難しいことであります。また自らが事故報告をするということ になると、日本の場合はまだまだその内容が明確ではないところがあります。  米国、ヨーロッパでも、強制的な報告制度は難しいようですし、この部会は今後大切 な部会になると思っていますので、私も積極的に参加をさせていただき、意見を取りま とめさせていただきたいと思っております。 ○梅田委員  私も、前田委員から出ました質問に対して大変共鳴をしていました。星委員からもお 話がありましたが、この10月から一般病院及び有床診療所ということになると、どうい う形で報告システムが作られるのか。歯科の事故は非常に少なかったわけで、安心して おりましたら先日の埼玉で麻酔の事故がありました。  そういうことで、私どもも油断するわけにはいかないのだということと、卒前教育を もっとがっちりやらなければいけないということ。もちろん、卒直後の教育も必要で す。もしおわかりでしたら教えていただきたいことですが、有床診療所、歯科の病院と いうのは何百床もあるわけではありませんで、せいぜい50床が多いところです。特定機 能病院と同じような報告の形になるのかどうか。事例を報告するのに、星委員が言われ ましたように、これは自分の失敗例ですから、それを堂々と公表できるようなムードが できるのかどうか、その辺が非常に心配になります。 ○新木室長  ただいまご質問のありました、院内報告制度ですが、最初に申し上げたいのは、あく までも院内の改善活動といいますか、安全対策を向上するという観点から、安全管理委 員会、もしくは管理者等へ事故を報告するということで、公表、公開とは大きく分野が 違ってこようかと思いますので、その一点を冒頭にご説明させていただきます。  2番目として、特定機能病院と同様というお話ですが、これまで特定機能病院で行っ てまいりました4点の安全対策、安全のための管理体制と同様のものを10月からそのほ かの病院、有床診療所に体制を整備していただく、ということを考えております。  そういう意味では、特定機能病院は、さらにそれに3項目上積みという形ですので、 これができたときに特定機能病院と全く同じになるということではありませんが、現在 特定機能病院でやっている4項目と同様のものを、病院及び有床診療所に整備をしてい ただくということになろうと思います。 ○岡谷委員  看護師は最終行為者になりやすい。いろいろな報道などでも看護師がかかわる事故の 事例が多いです。日本看護協会では、去年からそういう事故が起こった病院に関して は、都道府県の看護協会を通じて、そこの管理者の方々に事故の状況、背景など情報を 取るシステムを動かしています。  やはり病院によって、事故が起こった途端に今は話せないということで箝口令が敷か れてしまって、ほとんど内部の情報が取れないような状況があります。一方で、いろい ろ情報が取れるということもあります。年に5回程度の頻度で、かなり繰り返し起こっ ている事故や、新人の看護師による誤薬の事故について予防対策を中心にして、こうい うことを注意していくべきではないかという具体的な対策を「医療・看護安全管理情 報」というポスターにして、全国の看護職に配布しています。  そのときに感じるのは、本当に事故が起こった要因、原因が、ある程度はっきりして こないと、結局一般的な予防対策というようなものしか、そういうところには載せられ ない。通常言われているような、あるいは教科書に書いてあるようなことを中心に予防 対策として掲げていくことになりますが、それで果たして本当に事故をなくする効果が あるかどうかということを、いま非常に感じているところです。そういう事故が起こる 要因、原因ができるだけ明らかにされないと、本当の意味での予防対策にまではなかな かつながらないのではないかと思います。  また、ヒヤリ・ハットにおける報告は、看護の場合には古くから取り組んでいまし て、看護職のヒヤリ・ハットの報告はたくさん出てきます。ただ分析の方法がまだ未熟 なために、十分な予防対策にはなりきれておらず、、同じような事故が続いていくのか なということで、きちんと原因、要因がわかるような報告にするにはどうすればよいの か、その仕組みをつくるというのは非常に重要なことではないかと考えております。 ○川端委員  私は、医療事故の被害者の代理をすることが多いのですけれども、その仕事を通じて 痛感するのは、被害者には一体何があったのか、事実をきちんと知りたい、という要求 がまず第1にあるということです。事実を知って納得したい、という気持があるのに、 それを実現しようとすると、まず証拠保全という手続を取ってカルテのコピーを入手し なければなりませんし、それから相手が過失を争えば、非常に費用と時間がかかる民事 裁判をしなければならないという状態にあります。  しかも、現在はカルテについて統一的な規格というものも何もなく、非常に様々な様 式での記載がされていて、普通の人が読んですぐに分かるという内容でもないわけで す。しかも、裁判所に証拠保全を申し立てるときの要件がありまして、これは保全しな ければならない必要性があるということになっています。裁判所には、過去に幾多のカ ルテの改ざん事例があるということで、保全の必要性を認めていただいているという状 況があります。  つまり、カルテでさえきちんと整った形で、改ざんなしに保存されている保証が何も ないというのが、いまの日本の状況です。私は、前にハワイで医療過誤事件をどのよう に扱っているかという調査に行ったことがあります。ハワイで原告側の代理人をやって いる弁護士の話では、カルテについては病院に要求すれば、すぐコピーを実費で渡して くれるということでした。医療側がカルテの改ざんをする心配をしなくてもいいのです かと尋ねたら、そんなことをしたら医者は医師免許を剥奪されるから、そういうことを する人はいませんという答えでした。  実際問題として、現在の日本の医療の状況だと、医局全員が黙示の共謀をすれば、病 院長には全然事実が知らされないという事態が現実に起こり得るわけです。報告を徹底 しようとすれば、何らかのサンクションを与えて強制するしかないのかなとも思います けれども、そのサンクションの与え方によっては、また別の問題を起こすということ で、この検討部会になったのだろうと理解します。  ただ、私の現実の経験でいいますと、病院の内部調査では全く真実を語らなかった人 が、警察の取調べで初めて医療記録を改ざんした、ということを認めたという事例もあ ります。非常に残念ですけれども、現在は刑事手続が事実解明の重要な制度と現在は なっているということは認識しておく必要があるのではないかと思います。  民事裁判についても同様でして、被害者にしてみれば大変費用のかかる裁判になり、 しかも勝訴率はほかの民事裁判に比べると半分程度ということで大変低いわけです。し かも、オール・オア・ナッシングですから、勝訴か全面的な敗訴かしかない。しかし被 害者の救済という意味では、現在この制度しかないという現実があるわけです。  その辺の問題を抜きにして、事例報告の確保だけを優先しようとすると、それはまた 問題が起こるだろうし、逆に事例をきちんと報告させようとすれば、何らかの工夫が必 要になるということではないかと思います。非常に難しい問題だと思いますけれども、 医療の被害者というのは、一体何があったのかということを、まずきちんと知りたいと 思っているという、その事実を踏まえたような対策がここで検討結果として出来上がれ ば素晴らしいことになるのではないかと思います。 ○岸委員  医療事故とは何なのか、というようなことを極めて技術的に詰めた場合に、この制度 を設計するのは難しいだろうと正直なところ感じております。いま、一連のお話を伺っ ていても、そういう問いかけが既になされています。  ただ単に事例を集めればいいとか、数字を出させればいいといった意味合いでこの制 度が設けられるわけではないわけです。基本的には、事故再発防止をどうやって担保し ていくのか、その一つの手段にすぎないのでしょう。あるいは、この制度がもし構築で きなくても、それに代わる事故防止策が打ち出されるならば、それはそれでこの部会の 意味があろうかと思います。  医療現場に携わっている方から、常に医療事故というものにはグレーゾーンがあると いうのことを伺います。私も、確かにそうだろうと思います。現在の医療技術の水準の 中で、これは過失なのか事故なのかわからないケースは多々ありますが、私の気持の中 ではそういうものも含めて事故であろうと思っています。こうした事例があったのだと いうことを明らかにして、どういうふうにしたらそういう事例をなくすことができるの か、というスタンスでみんなが考えてくれる、みんなが検討するようなシステムなり、 意識なりを持っていただけるようなことが、いまの医療現場に求められているのだろう と思います。  それぞれいろいろな技術論を述べ合うと、おそらくこの話はなかなかまとまらないだ ろうと思いますが、少なくとも患者の立場に立って、とにかく事故を減らそうではない か、という立場で皆さんのご意見を伺いたい、私もその立場でお話をしていきたいと 思っております。 ○堺検討部会長  黒田委員からは、先ほど詳細なご意見を頂戴いたしましたが、もし補足、追加のご意 見がございましたらお願いいたします。 ○黒田委員  医療事故の話をすると、どうしても医療関係者と患者というのは相対しているみたい な感じで話が進むのですけれども、そうではなくて一緒になって医療の安全というもの を、患者が安心して見られるような方策は何かという、もっと次元の高いところから話 す必要があります。  確かに医療の現場を見ると、我々人間工学屋から見ると、よくヒューマンファクター がこんなに少なくて済むなと思うぐらい、人間の能力にものすごく頼っているところな のです。ということは、対策がものすごく難しいと思うのです。ヒューマンエラーをい かに減らすか、そのためにすごく大事なのはマネジメントです。安全に関するマネジメ ントの方策、これは労働災害においても、労働安全マネジメントシステムがあり、 ISO9000があり、ISO14000があるというような、1つのマネジメント、組織として安全を どうやって保っていくか、高めていくかという動きの中にどんどん移ってきています。  まだ、個々の問題をピックアップするだけでは済まない大きなシステム、その辺のア プローチの仕方というものも、是非とも一緒に進めていただけると大変ありがたいとい う気がいたします。いずれにしても、ヒューマンエラーが非常に起きやすい環境をつ くってしまっていることだけは事実だと思うのです。この例に出てきている薬の名前に しても、いろいろな面でもっともっと根本的に手を打てるところがたくさんあるのでは ないのだろうか。そういうことを事故の中から早急に手を打っていただけると大変あり がたいという気がいたします。 ○児玉委員  私は、数年前に、公の席で病院側の代理人としては異例の発言だということで随分お 叱りを受けたのですけれども、「医療事故はあってはならない」などといって欲しくな いと申し上げたことがあります。あってはならない、とんでもない話だ、毎日起こって いるではないか。毎日現に起こっている医療事故をどうしたらいいのか、というふうに 発想を転換していただかない限り、もはや対応は小手先の対応でどうこうできる限界を 完全に超えている、ということを申し上げたことがありまして、ここ数年間そういうこ とを申し上げ続けているわけです。  申し上げたいことはたくさんあるのですが、ちょっと視点を変えて、我々の身近な事 故として、例えば交通事故というものがあります。交通事故と医療事故で議論をすると きに、私は大きく違う点が2つあると思います。1つは、交通事故については何が事故 なのか、どういうパターンで事故が起こるのか、そして良くない事故というのは何なの か、例えば交通三悪というのは何なのか。飲酒は良くない、スピードの出し過ぎは良く ないというような、どういうリスクファクターがあり、またどういう事故が起こってい るのか。追突という事故がある、あるいは追い越しのときの事故がある、スピードの出 し過ぎの事故がある、いろいろな事故のパターン、みんなイメージが共有しやすいよう に思います。  ところが医療事故に関しては、同じ医療事故という言葉を使っていても、どういう事 故をイメージして議論をしているのか、その対象そのものが必ずしもはっきりしないと いうことがあって、論点が拡散してしまうようなことがままあるのではないかと思いま す。  私の事務所は、いま若手の弁護士が何人も私の下で働いてくれていますが、大体司法 研修所を終わって、最初の年に医療事故の何らかの形の報告書や事例を、大体年間に300 件ぐらい見せます。最初の100件ぐらいの間は、とにかくいろいろなパターンがあるとい うことで目を白黒させていますが、200件、300件と見せますと、医療というのはこうい うパターンで事故が起こるのか、ということが大体見えてくるように思います。  そういう意味でいうと、実はドクターでも、もちろん自分で年間200件も事故を起こす ような人がいれば、医療事故のエキスパートと言えるかもしれないのですが、一般には 専門性の高いドクターほど医療事故のことをご存じないという、非常に逆説的な構造が あるわけです。例えば、ここの議論のテーマに持ってくるのでさえ、医療事故というの は一体どういうものであるのか、ということから議論しなくてはいけないというのが、 医療事故というものを取り扱うときの一つの大きな問題点かと思います。  一例だけ申し上げますと、人が目の前で心停止したというときに、これはいつも医学 生にパッと聞く質問なのですけれども、最低限いますぐ生命を助けるために必要な薬剤 としてボスミン、メイロン、アトロピン、リドカインの4つの薬剤があります。このう ち、事故で人が死んだり、植物状態等が起こり続けているのがリドカインという薬剤で す。なぜかというと、リドカインには100mgのアンプルと1,000mgのアンプルと非常によ く似たアンプルが2つあります。100mgを使えば、不整脈が止まって助かります。1, 000mgを使えば、その場で心臓が止まります。そして、治ってもせいぜい植物状態で、ほ とんどの場合は死亡してしまいます。  この事故でも背景要因は山ほどあります。このパターンの事故を、私は5年間あらゆ る講演の場面でしゃべり続けていますけれども、まだ起こり続けています。なぜ止まら ないのか。こういう医療事故特有の、具体例を踏まえて初めて出てくる医療事故そのも のの複雑さ、深刻さというのがあるのではないかというのが1つ目の論点だと思いま す。  2つ目ですが、一般の方でも交通事故を起こしてしまった、人をはねてしまった、あ るいは車をぶつけてしまった、その瞬間に自分は何をしたらいいのか、ということを多 くの方はご存じです。交通事故に関して警察に報告して、事故証明を取る、というよう なこともある程度多くの国民の方は、みんな常識としてご存じでしょう。交通事故の報 告制度については、医療事故の報告制度についても先例として非常に参考になる部分が あろうかと思います。  かつて、これは自己免罪拒否特権ないし黙秘権の侵害ではないかということで大変な 議論がありまして、最高裁の判決を踏まえて法令が改正されたという経緯もありまし た。医療事故について、事故が起こった瞬間に、医療従事者がどう行動すべきなのかと いう、行動準則ガイドラインが必ずしもはっきりしていないこと。それから、どの程度 のときに、どういう行動をすると、どれぐらいのサンクションが出てくるのか。つま り、自分がどういう事故を起こして、どういうふうな行動をとったときに、どういうふ うに自分は取り扱われるのかということが、交通事故に比べて医療事故ははるかに安定 しておりません。  有り体に言って、本来そんなに叩かれるべきでないものが非常に叩かれていたり、逆 にもっと問題視されていいのではないかというものが、社会的には見過ごされていた り、そういうバランスの崩れた社会的なサンクションの状況があるのではないか。それ が、逆に医療従事者の行動そのものを歪めている側面が出てきているのではないか。こ の辺は具体的な議論の中でまたお話をさせていただきたいと思います。  いずれにしても、目標とすべきところは、もはや医療機関を守って患者を守らないな どということはあり得ない。患者を守らない限り医療機関は守れない、というのが病院 代理人の私の認識であります。患者の安全というのは、まず何よりも医療従事者の願い であってしかるべきである。その観点から、医療従事者はどういう行動ガイドラインを 築いていったらいいのか、ということをこの検討部会を通じて、いろいろな先生方のご 意見を伺いながら、私自身もよく勉強させていただきたいと思っています。 ○長谷川委員  現在この場で議論していることというのは、人類史的に最先端の、かつ新しい課題で あるように思います。国際的に見て、この3年間国際的な事故対策の研究をさせていた だきました。この5年間の間に、事故に対する考え方はものすごく大きく変わってきた ことを感じます。  特に、米国の『To Err is Human』という本が3年前に出て、そこで事故に対していく つか新しい考え方で考え直す必要があるとされています。人は間違うものだ、事故は起 こる。したがって、事故から学ぼう、起こったことから学んでいこうということ。実際 には、個人が事故の引き金を引くのですけれども、しかしその背後にシステム的な問題 点がある。したがって、事故を予防するには、個人を責めるのではなくて、システムの 分析をする必要がある、といった物の考え方があります。  医療界でこういう考え方が重要である、しかもそれが国際的なコンセンサスになりつ つあるのは、はっきり言ってこの数年間であります。そのように考えますと、本日冒頭 から議論になっているのは、片一方で被害に遭われた方を、どのように個人的に救済し ていくかということと、最近とみに国際的に認知されてきた、事故に対する新しい考え 方の矛盾をどういうふうに解決していくか、というふうに思われます。  つまり、前者においてはどういうきっかけで、どういう経緯で、誰がどのように事故 に遭ったかということで、責任者を個人的に追跡し、同定し、その過程で個人を救済し ていく。後者は、その事実関係について報告し、それを分析をして、どこに問題があっ たかということをしていく。  しかも、事故の発生の原因等の追求については、それを自由に報告をし、みんなで一 緒に考えるということ自身が事故予防につながる。いわゆる安全文化の醸成ということ が言われております。そうすると、ここに根本的な矛盾が生じる可能性がある。一方で 個人の責任を追求するのではない、みんなで報告しようという文化と、片一方に個人を 同定していくという事実関係を明確にしていこうということ。  長々と申し上げましたが、この課題はほかの国でも大きな課題になっていて、おそら くここで知恵が要るのではないでしょうか。ここの委員、ないしはそのほかの方々のい ろいろな知恵を借りながら、これをどう解決していくかという問題になっていくのでは ないかと思います。  それに関連した提言ですが、最終的にこの情報の取扱いということは、この情報をど う使うかということが大きな課題になろうかと思います。誰が、それをどのように分析 するのか。えてして報告に終わっている残念な傾向があるようですけれども、実際には 報告をして、分析をして、改善をするというワンシステムで捉えていく必要がありま す。  そうしますと、先ほどから議論になっているレベル、つまり院内のレベルなのか、院 外にグループのレベルなのか、あるいはパブリックに情報を公開していくのか。報告を し、分析をするレベルがいくつかあるのではないか。そういうふうに考えていくと、先 ほどの課題も少しは整理がつくのかなと思います。 ○樋口(範)委員  私も2つ申し上げます。1つは大きなテーマという話で、現実と理想ということで す。いま長谷川委員からもあったように、私も比較的最近、アメリカで医療事故の防止 について、政府機関が報告書を出した題名が『To Err is Human』ということで、「過ち は人の常」と訳せます。これには驚きまして、こんなにはっきりと、こういう形で表題 を付け、問題を把握してやっているのかなという感じがあります。  やはり、自分に不利益なことは、すぐにはしゃべりたくない。そういう現実を踏まえ た上で、何らかの方策を立てる必要があるということだと思うのです。  他方で、事故の防止ということだけでいえば、それは医者にとっても事故を起こした くはない、患者にとってはむろんのこと。損害保険の会社の人だって、事故が増えれば 困るわけです。事故が少なければ少ないほど、みんなにとっての利益になる。だから、 目標地点をそういう形で抽象化して捉えると、みんながそのために知恵を出し合うなり 何なりということができるのではないかと思いたいということです。  もう一点は、そのために事故報告のシステム・デザインというのが、どういう形で寄 与できるかというお話だと思うのです。そのときに、いま児玉委員から交通事故の話、 黒田委員からは航空・鉄道事故調査委員会等、つまりほかの事故でも、あるいは最近で いえば健康食品についていろいろなことが問題になっていて、テレビの報道などを見る と、報告を義務付けている。  そのこと自体で、みんなが変だなとは思わないわけです。そういうシステムで事故報 告を求めて、何らかの形でそれに対処していくというような種類のものと、ここは何ら かの形で、さらに別個の効力が必要なのだろうか、ということを比較検討する必要があ るのではないかという気がいたします。 ○樋口(正)委員  私は、大きく2つ意見を述べさせていただきます。1つは、医療の高度化が進んだた めに事故が必然的に起こりやすい状況ができているということで、事故を減らす根本的 な方策は、ヒューマンファクターによるものを防ぐことである、ということ。  その中で医師法第19条による「応召義務等」によって、患者が来れば受け入れなけれ ばいけないという状況があって、患者の数が膨大に増えている。医師が診察できる物理 的な量というのは決まっていると思うのです。そのボリュームを制限しない限り事故は 止まらないと思います。黒田委員がおっしゃったようなヒューマンファクターのデザイ ンをして、ひょっとすると医師1人が診る量、看護師が1人を診る量を制限しないこと には事故は止められないという現実があるのではないかと常々思っております。  また、今は医療者側に医療行為というのは、すべて心身に対する侵襲行為であるとい う認識があまりないような感じがするのです。医学生のときからきっちりと、一行為こ れ全部侵襲だよ、事故が起こるかもしれないよ、ということを認識させるシステムがい まは欠けている。そういう教育が、根本的に事故を減らす対策ではないかと思っており ます。  情報を集めるシステムは、現在5つルートがあると思うのです。まず院内報告制度、 内次に部告発ルート。内部告発者保護条例みたいなものができれば、どんどんそれを活 用すれば、どんどん集まるのではないかと思います。それから、受診者からの苦情相談 ルートが1つあると思います。4番目に刑事告発ルート。最近はそれが非常に多くなっ て、私は現場でものすごく困っています。ちょっとしたことも、すぐ警察へ駆け込む と、警察は必ず捜査に入りますから、医療の現場は混乱するということが、毎日のよう に起こっています。このルートも、最近はコンシューマー側から活用されているので、 なにも内部から報告しなくても、それを活用すればどんどん出てくると思います。5番 目は証拠保全ルートです。  5つのルートがありますが、我々がここで院内情報をどうするかというような甘いこ とだけではなくて、他にこういう4つの別のルートがあるということもPRすることに よって、逆に我々が自発的に出すよということもリコメンドすることができるかもしれ ません。 情報を開示する、あるいは処理をどうするかということに関して、その4つ のルートも併記してリコメンドすることによって、医療者側の認識を改める必要がある かと思います。 ○星委員  先ほど、院内報告制度そのものも考え直すべきだと申し上げましたが、これは駄目だ とかどうこうという意味ではありませんので、誤解のないようにしておきたいと思いま す。  いま、現場で大変混乱をした状況の中で、矢継ぎ早にいろいろなことをしなさいと言 われている。何かあれば警察が入ってくる、証拠保全になるということで、医療現場は 大変混乱をしています。この状況をどうやって解決していくのかということがずっと議 論されているわけです。  日本医師会の基本的なスタンスは、患者にきちんとした説明をするということです。 改ざん、隠し立て、陰蔽というものについては、医師自身の問題として、誰かに強制さ れるのではなく、医の倫理の問題としてこの問題は正面からかかわらなければいけな い、あるいは推し進めていかなければいけない問題だと考えています。  いずれにしても、混乱の度合いが深まることは、必ずしも患者にとっても、医療従事 者側にとってもいいことではありませんので、何らかの形で私たちの日々の診療がもっ と豊かになること、そして患者たちがその資源をもっと有効に活用できるような、そん な話し合いができれば大変ありがたいと思います。 ○前田委員  大変有意義なお話をたくさん伺いましたが、そんなに対立点というのはないのかもし れません。基本的な考え方として、医療情報がたくさん出てきて、制度が良くなって、 国民にメリットがあることは疑いないのですが、それは道路を非常にうまく造れば交通 事故が減っていくという議論に似ていまして、どんなに良い道を使っても、居眠り運転 をしたら事故は起こるのです。  緊張関係みたいなものを維持することについて、情報をチェックしていくことが一定 の意味を持つだろうなという気がします。医療の世界には、意図的な、犯罪的なという ことはないわけですけれども、一定の緊張感みたいなものを制度で縛り上げることが必 要でしょう。また倫理教育とか、医師国家試験の問題に出していくとかいろいろなやり 方で、内的に作り上げていくということもあるでしょう。最後の担保として、ある程度 制度的なチェックで、ミスをすればある程度公になってチェックが働く、というシステ ムも必要になる。  医行為が侵襲行為であるといっても、人を救うためのものである。だから、大きなミ スをしたけれども、医師をこのまま無罪にして出して、社会のために貢献させるのがい ちばん正しい道だ、という判決が30年前、40年前にはあったわけです。でもいまは、そ ういう議論は通用しない。その大きな流れの中で、先ほども申し上げたのですが、縛り 上げて無理やり情報を出させるやり方は、決していちばん良いとは思いませんし、医療 が非常に委縮してしまうというマイナス効果も伴うでしょう。第一線の先生方の具体的 な経験を踏まえた、具体的な議論の中でガイドラインを作っていく必要があります。  私は、100%解決できるような案が出来上がるというのではなくて、一歩前に出る、例 えばいままでより一歩厳しい情報公開が進むみたいなものでも、この検討部会をつくっ た意味はあるのだと思うのです。  やはり、具体的な議論を踏まえた実現可能な案、これが長い目で見ていちばん重要だ と思います。 ○三宅委員  あくまでも事故報告というものは、事故の再発防止に活かす、という原点は変わらな いと思います。なかなか事故の情報が集まりにくい、というのは事実だと思います。こ れを、いちばんよく把握しているのは、先ほども出ていましたが損保会社ではないかと 思います。  損保会社に情報が入る手前に、先ほど出ていたような第三者機関が入って、個人の過 失の程度を公正に判断し、ある程度の判断を示す。これらの報告が法的に守られていれ ば、医師も安心して報告しやすくなると思います。最も大切なことは、施設内の報告制 度を法的に守ることだと思います。施設内の報告制度が円滑に運営され、施設内の改善 活動が持続しやすいような体制整備が必要です。  もう一つは、よくいわれているセンチネルイベントというような、ある基準を設けた 重大事故については、強制的に報告をしてもらって、詳細に検討するということから、 そういうものの再発防止につなげていく、ということが必要なのではないかという気が しております。 ○堺検討部会長  委員の皆様から大変示唆に富む貴重なご意見を多数頂戴いたしまして、誠にありがと うございました。まだまだご議論は尽きないと思いますが、時間が参りましたので、こ れで議事は閉じさせていただきます。今後のこの検討部会の進め方に関して、これまで のご意見を踏まえ、私からご提案申し上げたいことが2点あります。  1点は、我が国の現在の医療現場で発生している、医療事故に関する情報の取扱い、 その実態についてさまざまなお立場の方から参考人等の形でご意見を伺うべきではない かと思うのですが、いかがでしょうか。  2点目は、医療以外の、他の分野で事故事例の活用によって安全対策がどのように進 められているかということ。諸外国において医療事故情報の取扱いがどのようになって いるか、ということを専門の方から意見を伺えればと存じますが、以上2点いかがで しょうか。                  (異議なし) ○堺検討部会長  それでは、私のほうで事務局と調整して進めさせていただきます。  これで、本日予定しておりました議事はすべて終了いたしました。今後の日程につい て事務局から報告いたしますが、委員の先生方におかれましては、さまざまな資料をお 持ちかと存じます。今後、事務局のほうにお届けいただきまして、活用させていただき たいと思います。 ○新木室長  次回の日程については、9月中を目処に、委員の皆様方のご都合を事前に伺って調整 し、その上で決定し、ご連絡させていただきます。なお、先ほど堺検討部会長からお話 がありましたように、より充実したご議論をいただくために、各委員から資料のご提供 等がございましたら、事務局にいただければ配付させていただきたいと思いますので、 よろしくお願いいたします。 ○堺検討部会長  本日はこれで終了させていただきます。皆様お忙しいところをありがとうございまし た。 (照会先) 医政局総務課医療安全推進室企画指導係 電話 03-5253-1111(内線2579)