02/06/24 第2回新たな看護のあり方に関する検討会議事録         第2回新たな看護のあり方に関する検討会議事録 日時  平成14年6月24日(月)      15:00〜 場所  経済産業省別館944会議室 出席メンバー  井部俊子、上野桂子、内布敦子、川越厚、川村佐和子、國井治子、         平林勝政、藤上雅子、柳田喜美子(五十音順、敬称略) 発表者     山本あい子 教授 ○看護課長(田村)  ただいまから、第2回「新たな看護のあり方に関する検討会」を開催いたします。委 員の皆様方におかれましては、ご多用のところ当検討会にご出席いただきまして、誠に ありがとうございます。本日は宮武委員、西澤委員がご欠席という連絡を受けておりま す。  本検討会は、坂口厚生労働大臣の指示で設置をいたしましたが、本日は大臣も「是非 委員の皆様方に直接ご挨拶を申し上げ、また、委員の皆様方の忌憚のないご意見を拝聴 したい」ということで、検討会にご出席いただけるというので、時間を確保しておりま す。  それでは最初に、大臣からご挨拶を申し上げたいと思います。よろしくお願いいたし ます。 ○坂口大臣  委員の先生方には、お忙しいところを何回かにわたりましてご出席を賜りまして、心 からお礼を申し上げたいと存じます。本来ならばいちばん最初の検討会に出席させてい ただきまして、委員の皆様方にご挨拶を申し上げるのが本意でございますが、最初の検 討会と国会とが重なりまして、出席させていただくことができませんで、申し訳なかっ たと思っている次第です。また、今日は参議院の本会議がございましたので、私の時間 に合わせていただいて、少し遅い時間で皆様方にお願いしたのではないかと思います が、ひとつお許しいただきたいと存じます。  先日来ご議論いただいております、新たな看護のあり方について、是非とも新しい角 度からいろいろご意見を頂戴しまして、新しいあり方をお示しいただくことができれば と思っております。  看護婦から看護師に名前が変わりまして、新しく出発いたしました。名前は変わりま したが、その中身に規定されている内容を見ましても、診療の補助と療養上の世話と なっております。診療の補助はお願いしなければならないと思いますが、やはり私は看 護師さんには看護師さん独自の分野というものがあるのが当然ではないかと思っている 1人です。そういう意味で、療養上の世話という言葉が漠としておりまして、もう少し 明確な看護師さんの任務のあり方を示す言葉があってもいいのではないかと、私自身そ う思っている1人です。  しかし、法律まで触わるということになりますと、大変なことだと心配されると思い ます。法律に触わらないとしましても、「世話」という中身は一体何なのかということ をもう少し現代的に、21世紀にふさわしい内容のものに規定していただくことが必要 ではないかと、私はかねてから思っておりまして、実は皆に働きかけをいたしまして、 委員の先生方にご出席をいただくことになりました。  私の友人が老健施設に行っておりまして、その人は以前大学の先生をしていた人間 で、介護学なるものを確立させたいので、執筆にかかったので是非見てもらいたいとい うことで、先日彼がまいりました。ご承知のとおり、介護のほうは軸足を片方福祉のほ うに置いておりますから、比較的そういう論理構成がしやすいのではないかと思ってお ります。  片や看護のほうは、片方は医療、医学というのがあって、仮にこちらのほうに介護学 なるものが確立されますと、その間に立って余計に漠としてくる可能性が無きにしも非 らずです。今日はプラスの例等でお話を頂戴するようですが、実際に看護学なるものが あったとしても、現場においてそれが示されていないと申しますか、それにふさわしい 形になっていないと私は思っております。  私も医療現場に若干関わっていましたが、その経験からいたしましても、そんなふう に思えてなりません。そうした意味で、診療の補助というのは当然大事ですが、併せて 看護師さんならではの、看護師さんの独自の分野というものが、もう少し明確にならな いといけないのではないかと思います。  そんなことで、今日はいろいろなご意見を拝聴できると思いますので、大変期待をし てお邪魔をさせていただいた次第であります。今後ともひとつお世話になると思います が、よろしくお願い申し上げます。 ○看護課長  本日は通常の検討会の委員に加えて、兵庫県立看護大学教授でいらっしゃいます、山 本あい子先生にもご参加いただいております。山本先生におかれましては、厚生労働科 学研究の主任研究者として、13年度に「諸外国における看護師の新たな業務と役割につ いて」という研究を取りまとめていただきました。後ほど、その研究結果の概要につい てお話をいただきたいと思います。  それでは、川村座長、議事の進行をお願いいたします。 ○座長(川村)  議事に入る前に、事務局から資料のご説明をお願いいたします。 ○勝又補佐  資料の確認をいたします。まず座席表、議事次第、メンバー表が付いております。次 に、資料1として、検討課題が1枚、資料2として「諸外国における看護師の新たな業 務と役割について」、資料3として「看護の独自の機能について」、資料4として「看 護業務基準」、以上が資料です。それから、先生方のお手元に「前回までの資料」とい うブルーの表紙のファイルを用意しておりますが、今後毎回の資料をこれに綴っていき ますので、適宜ご利用いただきたいと思います。なお、このファイルは事務局に保存い たしますので、お持ち帰りにならないようにお願いしたいと思います。以上が資料の確 認です。何か不足等はありませんでしょうか。 ○座長  お手元のものはそれでよろしいでしょうか。議事に入る前に、前回の討論についての まとめと、今後の会議の方向性などについて説明をさせていただきたいと思います。 前回の会議では、検討課題に関連した内容について、委員の先生方からご自由にご発言 をいただきました。それを私なりに要約してみますと、第1としましては、在宅医療の 推進関連について、医師の指示のあり方、医師と看護師との信頼関係、役割分担のあり 方、薬剤師と看護師との連携のあり方など、多くの議論を深めなければならない議題が 出されました。  第2として、静脈注射のあり方については、法解釈と現場との乖離の実態が明らかに なり、委員の先生方のご意見から推察いたしますと、おおよそ方向性は一致しているの ではないかと考えられます。  第3として、このほかの新たな看護のあり方に関し、この2点に留まらず、幅広い議 論をいただくことも必要だ、というご意見もいただきました。したがって、今後のこの 検討会の進め方については、今回は看護の全体像を見渡した議論を行ったうえで、次回 の検討会では静脈注射のあり方と現場における教育の課題について整理し、それ以降は 在宅医療を含め、議論を進めていきたいと、このように考えております。これでよろし いでしょうか。では、おおよそこのような方向で進めさせていただきたいと思います。  本日は坂口大臣の検討会への期待もいただきまして、さまざまな角度から、さらに幅 広く看護のあり方を検討するために、諸外国の看護業務の動向をはじめとして、3人の 先生方からご意見をお聞きし、議論してまいりたいと考えております。  山本教授から「諸外国における看護師の新たな業務と役割について」お話をいただき ます。そのあと、井部委員と國井委員からも資料をいただいておりますので、それにつ いてご説明をいただきます。質疑のあと、最後に意見交換という次第で進めてまいりま す。それでは山本先生、よろしくお願いいたします。 ○山本教授  それでは「諸外国における看護師の新たな業務と役割について」の研究結果を報告さ せていただきます。 ☆スライド  これが研究メンバーです。 ☆スライド  この研究の目的ですが、諸外国における看護師の業務内容と範囲を調査し、日本にお ける看護師の業務のあり方を検討することでした。データ収集は質問紙を用いて行いま したけれども、質問紙の項目作成は、日本において高度な実践を行っている臨床家への 面接を通しまして、項目を作成しました。 ☆スライド  対象地域は、ヨーロッパ、北米、そしてアジア・大平洋地域で、対象国はそちらに挙 がっています計10カ国で、ヨーロッパはフランス、イギリス、ドイツ、デンマーク、北 米はカリフォルニア、ミネソタ、ニューヨークの各州、アジア・大平洋地域は、オース トラリア、タイ、シンガポール、韓国、中国です。 ☆スライド  ここでは、フランス、イギリス、アメリカ、オーストラリア、タイの5カ国を例に、 各国における新しい試みについてお伝えします、この試みは看護師の業務について、看 護ケアを提供する場について、システムについて、この3項目に分けられるかと思いま す。  最初にフランスの場合ですが、フランスは自由開業看護師の業務と、経済的保障が参 考になるかと思います。イギリスについては、看護師が運営してケア提供をする場と なっているWalk−in Centreと、看護の役割の拡大に関連するNurse Prescriber(看護処 方家)について、さらにアメリカ・オーストラリアの場合は、看護制度や教育を制度化 するためのシステムづくり、あるいは質の保証のシステムに関してです。 ☆スライド  タイの場合は、看護業務等システムに関することについて主に説明いたします。 ☆スライド  それぞれの国の状況は異なるのですが、看護教育、看護実践に関して情報の少ないフ ランスについて、概略を少し見てみたいと思います。フランスの場合は、看護師数はそ ちらにお示してありますように、39万7,506人で、そのうち後ほど説明いたしますが、自 由開業看護師は6万8,150人います。 ☆スライド  看護師の教育ですが、高等学校を修了し、バカロレアの大学入学資格試験を受けるの ですが、フランスには看護大学はありません。看護学校で3年間の教育を受け、その後 国家試験を受けます。これは地方ごとに別々の日程で行われているようで、どこで何回 受けてもOKということのようです。国家試験に合格しますと、看護師の国家資格が得 られることになっております。  スペシャリストへの道ですが、フランスの中でのスペシャリストは、小児看護師、麻 酔看護師、手術室看護師があります。小児看護師は臨床経験がなくても、12カ月の専門 コース受講後に国家試験に合格しますと、国家免許が付与されます。麻酔看護師と手術 室看護師は、それぞれ2年以上の病院勤務経験の後に、専門のコースを受講し、小児看 護師と同じように国家試験に合格すると免許が付与されます。  先ほど小児看護師、麻酔看護師、手術室看護師はスペシャリストだと言いましたが、 管理職もスペシャリストとみなされます。いくつかの管理職がありますが、こちらは臨 床経験と規定の教育を受け、同じように国家試験、もしくは書類審査を経て、国家免許 が与えられるという道になっています。一般看護師からスペシャリストになった場合 は、一般看護師に戻ることはフランスではできないそうです。それは、基本的にはスペ シャリストになることによって昇格していきますので、もう一度一般看護師に戻ると、 それは降格を意味することになるということのようでした。 ☆スライド  フランスの看護師の活動ですが、看護師独自の判断で実施する活動と、医師のプロト コールに則り実施する活動と、医師の処方に基づき、医師がそばにいる状況下で実施す る活動とに分かれています。いま映っているパワーポイントですが、看護師独自の判断 で行なう活動の中には、清潔に関するケア、栄養管理、褥瘡のケア、バイタルサインの チェック、尿中の糖、ケトン、蛋白、潜血などのチェック、血糖のチェック、心理的な 援助などが含まれています。 ☆スライド  これは医師のプロトコールにより実施する活動で、単独で実施が可能ですが、注射、 点滴、採血・採尿、カテーテル・ゾンデ・カニューレの挿入及び交換、ワクチン接種、 創部の処置、心電図・脳波の検査などが含まれています。  医師の処方に基づき、医師がそばにいる状況での活動ですが、これは除細動器の使 用、輸血、術直後患者の経過観察、中心静脈への鎮痛剤の注入、脱アルコール治療など が含まれています。 ☆スライド  開業看護師の仕事ですが、具合の悪い患者さんが医師の所へ行きます。そうすると、 医師が診断、処方がある場合には処方をします。患者さんは処方箋を持って薬局に行 き、そして薬剤が出た場合はそれを持って開業看護師の所に行きます。フランスでは診 断及び処方は医師が行い、その処方に沿って予約や処置を実際に行うのは看護師という ふうに、業務がはっきりと分けられています。開業看護師の活動場所ですが、こちらに お示してありますように、自宅だったり開業のオフィス、あるいは患者さんのお宅にお 邪魔したりというような活動が行われています。 ☆スライド  こちらの写真ですが、これはビルの5階に外科医のオフィスがあり、その下が婦人科 医のオフィスがあり、さらにその下の階に理学療法士のオフィスがあり、そして看護師 のオフィスがあって、あとは共通の受付があるというような形で、それぞれの職種が集 まってこのような医療ケアを提供している所です。 ☆スライド  開業看護師の収入ですが、こちらは基本的には健康保険と患者さんの自己負担の両方 で成り立っています。看護報酬としては、これは健康保険からの支払いですが、看護師 が行う行為1つ1つに点数が決められていまして、年間の上限は2万3,000点と決められ ているようです。2つ目が移動費で、こちらのほうは健康保険からの支払いで、1回1. 50ユーロ、約200円ぐらいだと思います。3つ目が、患者さんの自己負担分からの報酬 で、この3つの合計が開業看護師の収入となります。 ☆スライド  「看護報酬」の中身は、看護師の行為は2種類に分類されていまして、1つは、医療 技術、もう1つが生活援助に分けられています。医療技術の例ですが、筋肉注射1点、 静脈注射2点、褥瘡の処置が4点というふうに決められています。1点が大体2.90ユー ロ、350円から400円ぐらいでしょうか。生活援助のほうですが、こちらは基本的に1点 が2.40ユーロで、活動の内容ですが、身体の保清、あるいは褥瘡予防のケアとなってい ます。年間で700万円ぐらいと上限で決められています。 ☆スライド  次に、イギリスの場合です。イギリスの医療サービスの特徴はそこにお示してありま すが、この中で特徴的なのは、(2)の地域医療の中のWalk−in Centreです。これは看 護師が管理、運営を行う簡単なクリニック機能を持つ施設で、人々が利用しやすいよう に町の中に設けられています。看護師は簡単な処置や、制限内の薬の処方や、必要時に はほかの医療機関や専門医への紹介も行います。このようなシスケムが出てきた背景に は、医療施設を受診するためには、イギリスの場合は長いウエイティングリストがあり まして、医療ケアへの人々のアクセスを改善するための方略として、Walk−in Centreが 取られています。これは1999年からイギリス国内の36カ所で、パイロット事業として行 われています。イギリスでは、これが成功してよければ、ほかの地域等にも波及してい こうと考えているようです。 ☆スライド  イギリスの看護のスペシャリストの1つに、(2)上級資格とありますが、そのうち の(5)に、Nurse Prescriberというのがあります。これはNurse Prescriber Formularyと いうリストがありまして、お手元にこれはお配りしてあると思います。そのリストに掲 載されている薬剤の処方が可能です。例えば皮膚保護のための各種軟膏、解熱鎮痛剤、 抗真菌剤、緩下剤、浣腸液、鎮痛剤、点鼻及び点眼剤、禁煙補助剤などが含まれていま す。今年の4月から軽い疾患、軽い創傷、健康増進ならびに緩和ケアの4つの領域をカ バーする広範囲な薬剤処方へと拡大していまして、Nurse Prescriber Extended Formularyが出されています。お手元の分は、それ以前のものかと思われます。参考資料 の5頁になります。  Nurse Prescriberの資格は認定で、イギリスのThe Nurse and midwifery Councilとい う審査会が認定を行っています。この組織は、看護職の教育と資格の認定をするところ ですが、Nurse Prescriberの研修コースの機関はいくつかありまして、一定ではありま せん。 ☆スライド  次はアメリカの場合です。まずアメリカの看護教育についてご説明いたしますが、看 護の基礎教育は3年もしくは4年の教育を受けて、各州の免許試験の合格により、国家 免許の取得となります。スペシャリストですが、こちらは国家免許ではなく、認定の資 格で、各州によって規定されていますが、基本的には看護系大学院の教育を受けて、そ して各州の看護協議会、Board of Nursingという所が認定しています。 ジェネラリストとスペシャリストの業務範囲は、これもお手元の資料で提示しておりま すが、カリフォルニアの例で出ているかと思います。資料の11頁です。左側の2つ目が 登録看護師で、そこから4つのコラムは、こちらが上級の資格、スペシャリストになり ますが、IとかII−aというのは、看護師が判断し、決定し、実際に実施できるというの がIですし、II−aというのは医師の指示で看護師が単独で実施する、と表の下に説明が あります。右側のスペシャリストに行くほど、看護師が独自で判断、決定、実施が可能 になっています。アメリカにおける認定のシステムというのは、いくつかの機関によっ て行われています。 ☆スライド  これがアメリカにおける試験、免許の発行、更新などに関連している体制です。全米 レベル、各州レベル、アメリカ看護師認定センターの3つに分けてあります。全米レベ ルは、全米アメリカ評議会連盟と訳していますが、もしかしたらこれは全米看護審議会 と訳したほうがいいのかもしれません。ここでは看護免許の試験、看護業務規則との関 連における政策分析の実施と統一化の推進、あるいは各州によって免許が違いますが、 それを相互に認められるようなモデルを考えたりしています。  各州レベルですが、各州ごとにBoard of Nursingというのがありまして、ここも各州 で安全な看護ケアのスタンダードの確立とか、看護免許の発行・更新・登録などをして います。それと、看護実践法(Nursing Practice Act)がありまして、これも各州ごと に看護実践を法律で規定していまして、若干州ごとに異なるそうです。  アメリカ看護師認定センターですが、こちらは独立した組織で認定を行っています が、最近は病院の評価も実施し始めているということを聞いています。これは、看護師 や患者にとっての良い病院の評価を行い、提供される医療ケアの質を保証しようという 試みです。ちなみに、ANCCはアメリカ看護協会が母体で、いまはそこから切り離さ れているようです。例えば全米の看護評議会とか、各州の看護評議会というのは、公的 な機関に比べると、設置主体としては私的になるというところが違うようです。 ☆スライド  次は、オーストラリアの場合です。オーストラリアは看護師は国家免許で、教育は、 3年の大学教育、もしくは3年の病院付属の看護学校の教育を受けて、そこから先は編 入等の道はありますが、基本の看護基礎教育はここで行われます。その後は、Post Graduate Courseとして、助産師、公衆衛生、癌看護などがありまして、そのあとでさら に2年の修士課程がありますが、オーストラリアの場合は修士課程では研究の修士を育 成するというふうに、はっきりと分けているとのことです。 ☆スライド  こちらが、オーストラリアの看護職の教育と資格の認定・登録機関に関してお示して います。各州看護協議会では、登録・看護教育カリキュラムの認定などを行っていまし て、これは法的に各州に置かなければならないと決められています。ただ、ここは看護 師が看護協議会に入っていまして、その登録料によって運営されていますので、公的な ものではありません。  例えば実践の場で新たな健康ニードを見つけた場合、看護ケアのニードに応じて、看 護師が企画書を協議会に提出し、それが必要だと協議会が認めると予算が付いて実施が 可能になるというシステムがあります。これは実践の中のニードベースで新しい試みが 実施されていくシステムです。  オーストラリアの場合は、基本的にはすべてにわたって医師の指示が必要で、看護の 実践に関しては、Nurses Actと、Poison Actという法律があって、それによって各州で 規定されています。 ☆スライド  最後になりましたが、タイの場合です。タイの看護基礎教育は、4年制のみです。4 年制の中で看護師と助産師の教育が行われていまして、今年から免許の更新制を導入す る予定になっているということです。スペシャリストですが、タイの看護評議会が認定 を行い、スペシャリストとして、小児看護、精神看護、地域看護、周産期看護、メディ カル&サージカル看護の5分野があります。 ☆スライド  看護業務の現状ですが、看護に関する業務というのは単独判断・実施が可能ですし、 検査指示、薬剤処方も、場合によっては単独で可能です。ただし、死亡の診断、気管内 挿入、注射行為等は不可です。先ほど述べましたが、スペシャリストであっても、一般 の看護師と業務範囲はほとんど変わらないという実情があります。 ☆スライド  裁量権ですが、こちらは看護に関する業務のほぼ全般に裁量権があります。これは施 設内に関してです。コミュニティですが、ここは慢性的な医師不足を抱えていまして、 医療に関係した業務でも看護職の裁量で実施する場合が、実際では多く行われていま す。この中には他科受診の指示、病院紹介、限られた範囲内での薬剤処方などが入って います。 ☆スライド  以上、まとめますと、諸外国が模索している課題や方法論として、看護業務の範囲や 裁量権の拡大の可能性、看護ケアの提供の場の可能性、教育や免許、あるいは提供され るケアの質の保証に関連する制度やシステムづくりが行われています。看護実践と裁量 権拡大の鍵となる要件ですが、医師との関係性、法整備、健康保険との兼ね合い、教育 といったものがあります。  看護職の新たな役割を模索する際の方略としましては、イギリスやアメリカに見られ るように、パイロットスタディを行って、その結果によってほかの地域や施設などに取 り入れていく方法、あるいはオーストラリアで見られるように、実践の場に存在する ニードベースからの実績を基に、法的な整備へとつなげていく方法、アメリカ、オース トラリア、タイに見られるように、評議会や審議会、あるいはアメリカ看護師認定セン ターなどの、公的あるいは私的機関による看護教育や制度を制定するためのシステムづ くり、あるいは看護師とスペシャリストの教育や業務範囲のルールづくりを模索してい ます。アメリカのANCCが行っているように、質の保証に関してもシステムをつくろ うとしています。看護ケアの提供者に対する経済的な保障に関する検討も行っていま す。  以上が調査結果です。ご静聴ありがとうございました。 ○座長  どうもありがとうございました。大変たくさんの内容を要領よくまとめてご説明をい ただきました。何か質問がございましたら、どうぞ。 ○井部委員  フランスの場合ですが、「医師のプロトコールに則り実施する活動」という、その 「医師のプロトコール」はどんなものかということですが、それが現在この検討会で検 討課題となっている包括指示というものに近いのか違うのか、その辺は何かお考えがあ るのでしょうか。 ○山本教授  お手元の参考資料の1頁に、「看護職実践・職業行為に関する法令」とありまして、 例えば第5条、これは看護職独自の役割として、このようなことをやりましょうと。第 6条がいまご質問をいただいたところだと思いますが、医師の処方または医師により明 文化されたプロトコールを要するということで、これらの項目に関して細部は医師との 連絡等の中で決めていくだろうと思います。第8条、これはフランス語から日本語への 訳で、私たちもこれが合っているかどうかはわかりませんが、合っているかなんて言っ たらいけませんね。専門家にお願いしてありますので、日本語的に少したどたどしい部 分はありますが、基本的に医師が近くにいればできますというようなことです。第9条 は、医師が行うときに介助に参加するということで、逐一法的に決められていて非常に 明確になっていると思います。ただ、この細部に関してどのようにやっていくかという ことは、双方の話し合いかと思います。 ○井部委員  もう1点、医療機関の中と開業看護師との間の業務の違い、権限の違いというのはな かったでしょうか。 ○山本教授  医療施設で対応する患者さんの状態と、地域で開業しているときに対応する患者さん の状態というのは違うと思いますが、基本的には医師の処方等に基づいて、技術提供と いうのは全部看護師がしますので、それに関しては一切変わらないと思います。ですか ら、調査に行った者がフランスの開業看護師に、「看護過程でやっていくということは なさるのですか」と言ったら、「考えることは医者がします。医者が診断し処方します ので、私たちはそれを実施するのです。医師のほうは自分が注射をするとは一切思って いらっしゃらないようで、医者は医者で、『どうして僕があるいは私が注射をするので すか』と。それは看護師の役割です」という答えでした。  国民の方々も、医師は注射ができないということを知っているので、もちろん医者の 所には行かないし、そういった意味で技術的なことは看護師が全部カバーしているの で、技術的なことをやるという点に関して非常に国民の信頼を得ているという報告で す。 ○平林委員  フランスの例について、私も興味深く聞かせていただきました。いまの井部先生のご 質問に加えていくつかご質問をしたいと思います。1つは、看護師の独自の判断で行う 活動についてですが、ざっと第5条だけを見た限りにおいては、限定列挙的な書き方を しています。要するに、ここに書いてあるケアを行うのであって、それ以外のケアにつ いてどのように考えていらっしゃるのですか。これは先ほど大臣がおっしゃられた「療 養上の世話」というものの中身をどう考えていくか、それをどのように構築していくの かといったときに、非常に参考になる事例だと思いますが、このように限定列挙的に書 かれた意味、あるいは、フランスの看護師さんが業務を行っていくうえで、これで差し 障りがないと考えていらっしゃるのかどうか、まずその点についてお聞きしたいと思い ます。 ○山本教授  1つは、国の状況が違う点があると思います。どういうことかといいますと、フラン スでは看護師は職業だとみなされています。もちろん日本でもそうなのですが、技術を 徹底的に学んでそれを提供していく人だという考え方が、ヨーロッパ全体にあるかと思 います。それ故に、多分大学教育で行われていないという点が1つあるのではないかと 思います。  それと、調査に行った人たちのコメントですが、「自分たちのしていることに一切不 都合、疑問を持っていない。私たちの役割はこれです」と、はっきりおっしゃられてい たということを聞いております。 ○平林委員  それに関連して2つ目の質問ですが、先ほど来話が出ておりましたが、フランスの場 合は、看護師に独自の判断で行為を行うことができるという裁量権が認められていない と考えてよろしいのでしょうか。 ○山本教授  ここに挙がっていることに関してはやれるので、それに関してはやらなければいけな いし、それに関しては判断をしながらやらなければいけないのだと思います。これはお 答えになるかどうかわかりませんが、例えば開業看護師の場合は医師が処方を出しまし て、患者さんが薬剤師の所へ行って何か薬剤を持ってきます。そして、それを開業看護 師の所へ持って行きます。それに対しておかしいと思ったときに、医師もしくは薬剤師 に問い合わせをしなければ、三者の罪になります。そういった意味では、判断を問われ ているだろうと思います。 ○坂口大臣  フランスの場合ですが、単独でできる項目がいくつか出まして、その中に心理的ケア というのがありました。この心理的ケアというのは、医師がこういうことをやってほし いという処方箋が示されて、それに従って心理的ケアをやるのでしょうか。それとも、 心理的ケアはある程度ナースの方に任されている部門なのか、それを第1点目として聞 きたいです。  もう1点は、点数の上限が2万3,000点ということですが、日本円で700万円ぐらいに なるかと思いますが、これは1人の上限ですか。それとも、ナースが1年間なら1年間 に保険で通用する上限のことなのでしょうか。その2点をお伺いしたいと思います。 ○山本教授  最初の心理的ケアのところですが、先ほどの「看護職実践・職業行為に関する法令」 の2頁の「精神衛生のため、看護師は以下の行為を行う」というところを見ますと、セ ラピー的な活動というのが入っていて、それをするのかと思います。詳細に関しては、 すみません、わかりません。  得点に関しては、基本的に開業看護師が年間大体700万円ぐらいの収入の枠を決められ ているということは、自由競争の中で医療ケアが提供されていかないようにという枠づ くりだと聞いています。医師が処方をし、それ以外はできないということです。 ○上野委員  フランスの場合ですが、開業看護師は1人で、グループではないのですか。 ○山本教授  わかりませんが、調査に行った者が尋ねさせていただいた方は、1人でなさっていま した。開業してから23年間1日も休んだことがないとおっしゃっていました。 ○上野委員  それで700万円ぐらいの収入で、休みなくずっと働くということですね。 ○山本教授  そうだと思います。 ○井部委員  もう1点、フランスの資料の参考資料の1頁の冒頭に、雇用連帯省2002年2月11日制 定ということですが、その前はなかったことなのでしょうか。まさか研究に行ったから 突然決めたということは。 ○山本教授  それはないと思います。前からあったとは思いますが、これは確認させてください。 ○井部委員  改訂なのでしょうか。 ○山本教授  そうですね。制定だったら制定になりますよね。 ○座長  お金のことで私も質問したいと思いますが、患者さんの自己負担というのは、これは どういう内容になりますか。 ○山本教授  具体的にですか。 ○座長  開業看護師の場合です。 ○山本教授  すいません、これもわかりません。後ほど確認してお伝えするということでよろしい でしょうか。 ○座長  はい。 ○上野委員  看護師の死亡判定をしている国が2つぐらいあったと思いますが、死亡判定をしてい る国はアメリカとタイですか。特に在宅の場合ですが。 ○座長  タイは死亡診断はしないと書いてあります。 ○山本教授  タイはしていません。 ○座長  では、調べていただいて、もし可能であれば、このあとの最後の討論でご発言いただ きたいと思います。もし無理ならば、そのあとでということでお願いしたいと思いま す。  続きまして井部委員から「看護の独自の機能」についてお話をいただきたいと思いま す。20分程度でお願いできればと思います。 ○井部委員  それでは、資料3に基づいてご説明したいと思います。今日は大臣もいらっしゃるの で、看護界がありたいと考えていること、あるいは基礎教育であるべきこととして学ん でいる内容についてレクチャーしたいと思います。  1頁目は、これはヘンダーソンの理論ということで、看護職が必ず聞かされる内容で す。「看護の独自の機能」として14の基本的なニードがあるということです。上の囲み に書いてありますが「看護の独自の機能は、病人であれ健康人であれ各人が健康あるい は健康の回復(あるいは平和な死)の一助となるような生活行動を行うのを援助するこ とである。その人が必要なだけの体力と意志力と知識とをもっていれば、これらの生活 行動は他者の援助を得なくても可能であろう。この援助は、その人ができるだけ早く自 立できるようにしむけるやり方で行う。」ということです。具体的なことはその下に書 いてありますが、「正常に呼吸する」から始まって、「正常な成長発達」という14項目 の独自の機能があると述べております。これは、日本の看護職が非常に大きな影響を受 けているものです。  2頁目は、これはオレムの看護論として知られている看護論です。テーマは「セルフ ケア不足」に関する看護です。「個人のセルフケア能力が下回ったとき、看護師がセル フケア不足もしくは依存的ケア不足を補完する」ということです。依存的ケアというの は、いずれにしてもセルフケアができない高齢者、障害者がおりますので、そうした依 存的ケアを必要とする人たちについて看護が関わるということです。「セルフケアと は、自己の生命、統合的機能および安寧に役立つように、自己の機能を規制するために 自己または環境に向けられる行動」ということです。  セルフケア要件は下に書いてあることです。これはすべての人間に共通に見られるも ので、「空気摂取、水分摂取、栄養摂取、排泄、活動と休息、孤独と社会的相互作用、 人間の生命、機能、安寧に対する危険の予防、人間の潜在能力、既知の能力制限、及び 正常でありたいという欲求に応じた、社会集団のなかでの人間の機能と発達の促進」と いうのが、ユニバーサルセルフケアと言われているものです。  次は発達的セルフケア要件ということです。「生命と成熟の過程を助長し発達を阻害 する諸条件を予防したり、それらの影響を軽減するもの」、3番目が健康逸脱に対する セルフケア要件です。これは疾病もしくは傷害によって、新たにセルフケアを学ばなけ ればなりませんので、それに関するセルフケア要件ということになります。  3頁は、パトリシア・ベナーの看護論で、現在いろいろな看護の研究などに応用さ れ、あるいは実践に適用されている考え方です。臨床看護実践の研究、事例分析を通し まして、7つの分野と31の看護能力を抽出しています。7つの分野は援助役割、指導/ 手ほどきの機能、診断機能と患者モニタリング機能、急速に変化する状況における効果 的な管理、治療的介入と療法を施行し、モニターする質の高いヘルスケア実践をモニ ターし、保証する、組織化の能力と仕事役割能力ということで、具体的な内容について 以下に示しています。特に大きいものは援助役割でありまして、癒しの関係や存在す る、側にいるということが重要だということや、痛みをコントロールをするというよう なことも含まれています。また、情緒的サポート、情報提供的サポートといったような ものがあります。  指導/手ほどきの機能について、特に私が気に入っているのは、上から3つ目の 「・」の病気について患者が解釈していることを引き出し理解するというところです。 患者が思っている思いを大切にするというのが看護の役割の1つとして挙げられている 点を私は注目しております。  4頁は診断機能と患者モニタリング機能です。この中で特に、「患者の状態から重要 な変化を検出し記録する」ということは、診断が確定される前に悪化を予知するといっ たようなこともここに含まれております。  次は、急速に変化する状況における効果的な管理ということで、極度の生命の危機に さらされているときにどうするかということや、不測の事態に素速く資源を調整して活 動するといったようなことが含まれております。あとは治療的介入で、ここはかなり医 行為に関連することが含まれています。  次が、質の高いヘルスケア実践をモニターし、保証するということです。2つ目の 「・」にある、医師の指示から何を除き、何を加えると安全になるかを査定する。医師 から適切で時宜を得た応答を得るといったようなことも、このモニターの中に含まれて います。  最後は組織化の能力です。看護職はこれが非常に巧みなわけですが、多少の人手不足 でも、うまくやり抜けるという強い能力があります。  5頁はちょっと話が変わって、「NANDA」と書いてあります。NANDAとは 「何だ」と言われるのですが、これは看護診断分類といわれているもので、一部の実践 家、あるいは研究者の間では非常に注目されていることです。NANDAはNorth American Nursing Diagnosis Associationの略で、看護診断のタキソノミーを検討して いる所です。  この看護診断は、そもそもアメリカ看護師協会のその下に書いてある「看護」の定義 に則っていると思われます。「看護とは、現にある、あるいはこれから起こるであろう 健康問題に対する人間の反応を診断し、かつそれに対処することである」ということで す。看護診断開発のための概念的な枠組みは、少し前まではユニタリーパーソン・モデ ルでしたが、現在はヒューマンレスポンス・パターンということで、人間がどのように 反応するかというところに注目しているということです。  もう1つの動きは、看護実践国際分類というものです。私たちの間ではICNPと呼 ばれているものです。これは看護現象、看護行為、看護アウトカムの分類で、以下に示 されているとおりです。それからこれはICN(国際看護師協会)などが協力して行っ ているICNPです。  3番目は、これに関連して、看護介入分類と看護成果分類というものがあって、NI CとNOCというふうに呼べば、合言葉のように看護界では通じるものです。ですが、 これはまだ開発途上で、必ずしも完全にできているわけではありません。  6頁が、NANDA、看護診断が、どのような枠組みでできているかということで す。看護診断については一時誤解があって、看護師が医学的診断をするのはけしからん ということがありましたが、看護師が行うのは看護診断であって、医学診断ではないと いうことは、ご覧になっていただければおわかりいただけると思います。  これは、13の領域、ドメインの分類から構成されていて、ちょっと省きますが、1番 目は「ヘルスプロモーション」、2番目が「栄養」、3番目が左下にある「排泄」、4 番目が真ん中にある「活動/休息」、5番目が右側の「知覚/認知」、6番目が右下の 「自己知覚」、この中には孤独とか自己同一性、絶望、無力といったようなものも入り ます。  7頁が役割関係で、この中には介護役割、家族関係、役割遂行などといったようなこ とが含まれます。  8番目はセクシャリティー、左下ですが、性同一性、性的機能、生殖に関連すること が含まれます。  真ん中の上が9番目の、コーピング/ストレス耐性といったことで、心的外傷後反応 などがここに含まれます。  10番目は右側の上のほうで、生活原理で価値・信念といったようなものが入ります。 11番目は「安全/防御」ということで、感染や身体損傷といったものが入りますし、8 頁目の12番目が「安楽」、13番目が「成長/発達」といった領域に分類されて、看護診 断となります。  最後は、10頁に引用の題名が書いてあります。アメリカのジャーナリストのスザン ヌ・ゴードンが、医療現場、これはボストンのベス・イスラエル病院で、3年間、3人 の看護師に密着して書かれた『ライフ サポート』からの引用です。この中に9頁に書 いてある、ナース・プラクティショナーの活動の研究が書かれています。これはエール 大学法学部のサフリットという人の研究であると紹介されていますが、ナース・プラク ティショナーと医師では、どのように患者へのかかわり方が異なるかということが書か れています。  9頁の下の段の真ん中辺りに、その事例が載っています。この事例について、医師501 人とナース・プラクティショナー298人に、あなたはどうするかというインタビューをし ています。この事例は「初診の男性があなたのオフィスにやってきました。刺し込むよ うな痛みが断続的に上腹部(胃)にあるのでなんとかしてほしいということです。その 痛みは食事をするとおさまり、胃に何も入っていないとひどくなります。患者は他の州 から引っ越してきたばかりで、1カ月前の内視鏡検査の結果をもってきており、そこに は中等度に広がる胃炎の所見があるが潰瘍ではないと記載されています。この時点で、 あなたなら何か治療しますか、あるいはもっと他の情報を必要としますか」という事例 で、ナース・プラクティショナーの2倍の医師が、これ以上の情報は得ずに治療を始め ると答え、63%の医師は処方を出すということです。回答者は、次にあるようないくつ かの情報をさらに持っていて、アスピリンを飲んでいるということや、息子が交通事故 で亡くなっていることや、1日に5杯のコーヒーを飲むことや、昼にたくさん食事をす ることや、タバコを2箱も吸うことや、お昼に2杯のカクテル、夜にワインを飲むとい うことが情報としてあるのですが、医師はほとんどそれに関心を示さなかったというこ とです。8割のナース・プラクティショナーは、この情報を求めたということで、カウ ンセリングを勧めたということです。  10頁に、このエイボンの調査についてまとめてあります。2行目で「医師よりも看護 師の方が、患者の現在の状況から聡明な治療計画を立てるのに必要な基本の病歴情報を 引き出せている」ということと「ケアの質の面、あるいは費用の面からも見逃がせない 示唆がある」といったような研究結果を出しています。ナース・プラクティショナーと 医師のアプローチの違いというものを、この研究は示しているということです。以上が 私のほうの、「看護の独自の機能」についての説明です。 ○座長  すぐご質問に移りたいところですが、國井委員からの「看護業務基準」についてのお 話を伺ってから、お2人の先生に対するご質問をいただきたいと思います。 ○國井委員  この「看護業務基準」というのは、日本看護協会が、私たちの看護業務の範囲とか権 限、業務の中身、責務というのは、保助看法と、それ以外に医師法とか医療法で定めら れていますが、それ以外に、いわゆる専門職として、社会的な仕事としての価値観とか 倫理観に基づいて、自らのあり方というか、行動の、看護提供の指針となるようなスタ ンダード、基準をつくって広めているということのご紹介です。  資料4をご覧ください。2の「看護業務の範囲」ですが、あらゆる健康レベルが対象 であって、その実践の場というのは、保健・医療・福祉の領域で展開されて、個人・家 族・集団・地域社会が対象であるというふうに規定しております。この看護業務基準と いうのは、看護実践とともに、その実践を提供するための組織、システムを含めて看護 業務というのだということで、そのための水準を一定にする基準を定めたものが、この 「看護業務基準」だということです。  1頁の下の段に、実際の基準の内容が紹介されていますが、看護業務基準で実践の内 容とはどういうことかというと、1)看護を必要とする人に身体的、精神的、社会的側 面からの手助けを行う。2)看護を必要とする人が変化によりよく適応できるように支 援するということで、実際に治療や検査を受けているとき、いろいろな訓練のときに、 それに安心して患者さんが自ら治療に参加できるような支援をすることも、看護の非常 に重要な仕事と考えております。  3)看護を必要とする人を継続的に観察、判断して問題を予知し、対処する。いまま で井部委員などの話にもありましたが、いわゆる観察して、これから起こり得ること、 健康状態の変化を予知して対処するということも看護の重要な業務と考えております。 次の頁の4)緊急事態に対処する効果的な対応を行うということで、極度に生命が危機 にさらされている状態では、実際に必要な処置及び必要な人的・物的資源を整え、的確 な救命処置活動というのも、看護の重要な機能と考えております。  5)医師の指示に基づき、医療行為を行い、その反応を観察するということで、この 医療行為というのは、保助看法で定められているところに基づいて、医師の指示が必要 なのですが、医師の指示があれば何でもいいとは考えていませんで、看護師独自の判断 が必要であるということで、1つには、医療行為の理論的根拠とその倫理性を判断し て、おかしい場合には医師に「おかしくないか」と問う、そういうことも必要なことと 義務づけております。それから、それは患者にとって適切な手順かどうか、医療行為に よる患者さんの反応の観察とその対応の仕事も、独自の機能と考えております。  実際にその提供する方法としては、6)専門的知識に基づく判断ということで、この 専門知識というのは、看護の領域に限らず、あらゆる関連する分野の学際的な知識も広 く求められているということです。  7)系統的アプローチを通して個別的な実践を行うということで、看護を必要とする 人に個別的な、その人に合った看護を提供するためには、健康状態とか生活環境を査定 して、必要とする援助内容を明らかにし、それに基づいた計画・実行・評価ということ が必要であるというものです。  8)看護実践の一連の過程は記録される。9)全ての看護実践は看護職者の倫理規定 に基づくということで、本会では、世界看護協会(ICN)の倫理規定を参考にして、 日本看護協会での「看護師の倫理規定」というものを定めております。ここに表現され ている1番から10番までの中には、この倫理規定に基づいて、私たちの行動指針として 私たちの仕事は展開されるということで、時間がないかもしれませんので読むのはやめ ますが、1)から10)まで定めております。  続いて3頁の中程に、「看護実践の組織化の基準」ということですが、これらの看護 の実践の内容をどのようにして提供していくか、その組織化の基準ということで、1) 継続的かつ一貫性のある看護を提供するためには、その組織化が必要であり、その組織 は理念をもたなければいけない。それから、2)看護実践の組織化並びに運営は、看護 職管理者によって行われる。3)看護職管理者は看護実践に必要な資源管理を行う。 4)看護管理者は、看護スタッフの実践環境を整える。5)看護職管理者は、看護実践 の質を保障すると共に、看護実践を発展させていくための機構をもつ。6)看護職管理 者は、看護実践及び看護実践組織の発展のために継続教育を保証する。こういうシステ ムに支えられて、看護実践は提供される必要があるということで、本会が、この看護業 務基準を定めて全国の施設等に配布して、この実践を広めているところです。  次の5頁に「看護業務区分表」というものがあります。これは、いままでいろんな海 外の例の紹介がありましたが、日本の看護が実際にどんな行動をしているかということ で、看護行為ごとに調査で洗い出して、それを看護婦の機能別に分類したものが、この 5頁の表です。  その1つには、日常生活の援助とか療養生活の支援、そこがここに書かれた、1の食 事からはじまって、11の準備・後片付けまでの11項目です。2番目が、「診療場面にお ける援助」ということで、指示受けからはじまって、いろんな指示を受けて行った与薬 や注射の後片付けまでとか、こういう形で看護行為が分類してあります。  そのようにして分類すると、看護婦がどういう役割をもってこういう行為をしている のかということがちょっと見えにくいので、次の6頁に、これは大変小さな字で読みに くいのですが、これらの看護業務を看護師の独自の機能に着目して項目立てをして分類 していくと、こういうふうになるということで、これは横浜市立病院の看護業務指針の 抜粋ですが、参考までにご紹介したいと思います。  1つには「患者さんの状態(変化)のモニタリング」という機能があって、その実際 の内容というのは、患者さんの状態について経過を観察して判断するということで、例 えば測定とかいろんなモニターの観察、それから患者さんの自覚症状を伺うとか、他覚 症状の観察とか、それらの情報を判断して、必要な場合には責任者とか医師に報告す る、モニタリングという重要な機能をもっていると思います。  2つ目は「患者さんの状態に応じた人的・物的サービスの調整」ということで、その 患者さんの状態に変化があった場合には、医師に報告することも含めて、いろんな人 的・物的な資源の調整をするということで、それには看護判断、いろんな今後の予測も 含めての判断に基づいて行う、患者さんのそばに24時間いる看護職ならではの独自の機 能なのではないかという分類です。  3番は、「検査・治療処置の補助」ということで、診療の補助行為ですが、これも患 者さんが安心して効果的に行われるように、その患者さんの治療参加を促しながら行う 行為。  4番が、「対症看護」ということで、患者さんの病態の変化からくるいろんな症状の 緩和とか、ストレスを緩和するために必要な看護処置を判断して実施する。  5番目は「入院生活の援助と療養生活の世話」で、いろんな疾患によって日常生活能 力が低下したり、いろんな検査・治療に伴う生活制限に関して、その患者さんがそれな りの生活が保てるように、いろんな援助内容を判断して実施する。  6番目が「安全の確保」。7番目が「安楽の確保」。8番目が「患者さん等への指 導」。9番目が「病床の調整」。10番目が「いろんな病棟や病床の環境整備」というふ うな形で看護業務を分類すると、看護独自の機能がおわかりいただけるかなということ で、ご紹介いたしました。 ○座長  お2人には、我が国の中のことをお話いただきました。お2人の委員にご質問があれ ば伺いたいと思いますし、また、あわせて3人のレクチャー、つまり看護の世界各国、 我が国の現状を基にして、ご意見をいただいていければよいと思います。いかがでしょ うか。  では、ご質問も間に折り混ぜていただくということでも結構です。山本先生、先程の 質問について何かわかったでしょうか。 ○山本教授  この5カ国の中で、死亡の診断をしているのはイギリスとアメリカです。 ○上野委員  アメリカは全州ですか。州法で違う。 ○山本教授  そうですね。今回調べたのはニューヨークとカリフォルニアとミネソタです。いま手 元にあるのはカリフォルニアの資料で、それには看護師が死亡の診断をするというのが あります。 ○平林委員  それは死亡診断というのか、あるいは死亡の宣告というのか。アメリカの場合でも、 どの看護師もそれをすることができるわけではなくて、とりわけナース・プラクティ ショナーが州によって死亡の宣告ができるというようなことを前に勉強した覚えがある のですが、それは随分昔の話ですので、あるいは現在ではもう少し進んで、死亡診断ま でされるようになっているのかどうか。ちょっとそこら辺を確認させていただければと 思います。 ○山本教授  カリフォルニアの場合でお答えします。死亡の判断、宣告、死亡診断書の記入に関し ては、スペシャリストのうちでもナース・プラクティショナー、看護麻酔師がしていま す。あと、ナースミッドワイフもしています。 ○座長  ほかにいかがでしょうか。そろそろご意見をいただければと思います。 ○坂口大臣  井部委員、國井委員と、お2人からお話を伺って、これだけ立派なことがやれている なら、別に新しいことを付け加えることはない、じゃあ、もう日本の看護は足りてる じゃないの、十分じゃないのという気がしたのです。  いまおっしゃった、井部委員にお示しいただいたこの「看護診断」のたくさんある内 容を拝見させていただいて、この看護診断というのを、先ほどの療養上の世話とは、こ の看護診断のことだと置き換えて読めば、もうこれは十分すぎるくらい十分な中身であ る。  けれども、私が認識している、どちらかといえば地方の小さな病院の看護婦さんの、 廊下を走りながらやっている人たちと、大きい病院でおやりになっている、いわゆる看 護業務というものとは、かなり違いがあるのかもしれないという思いもしながら、いま 聞かせていただいておりました。  それで、この看護診断なるものが、これは、たくさんの看護に対する学説があって、 先日も私は、紀伊國屋へ行って、看護とは何かという本をあちらこちらめくっていた ら、随分たくさんいろいろな学説があって、こんなにたくさんいろいろな説があるのか と思いながら拝見してきたわけです。  それで、この看護診断なるものが出てきて、これが医療の現場で役立っているなら、 もう言うことはないぞという気持になりつつあるわけです。  ドクターは忙しいものですから、患者さんといちばん長い間接している人というのは 看護師さんだと私は思うのです。ですから、この看護師さんが、その患者さんから何を 読み取り、そしてそのことを医師が診断することに、そこに何を材料として提供してい るかということは、大変大事なことだと私は思います。  しかし、いまのままで、これはもうできているというなら、私はもう何も言うことは ありませんし、しまったな、こういうお忙しい先生方に寄っていただいて、わざわざす るまでもなかったかなというふうに一面では思いながら、一面においては、しかしそう は言うものの、現場はそうなっているか。率直に言ってそういう心配も実はあるわけで す。  先ほどから聞きながら、それだったらと、こちらへ心が揺れてみたり、どうも先ほど から私の心はあちらこちらへ揺れながらこのお話を聞いているというのが率直な気持で す。  それでお聞きしたいのは、現状でいいのか。それとも看護師さんの立場で考えれば、 いやそうだ、こういうことなんだけれども、もう少し足りないことがあるんだというふ うにおっしゃるのか。そこについて、率直なご意見を私はお聞きしたいのです。 ○井部委員  私は冒頭に非常に意味深い言葉を申し上げたのですが、看護界が「ありたい」と考え ていること、あるいは、このようなことが「あるべき」として基礎教育を行っている内 容について申し上げたいと言いました。必ずしもこれが現実に行われている、あるいは 行われる環境であるというふうにはなっていないということがあります。あるべき論と 実態との乖離というのは明らかにあると思います。大臣がおっしゃるように、検討会を 開く意義はあると思います。 ○座長  この点についてもどうぞご意見を。今日は看護系の委員の方々がよく発言しておられ るので、柳田先生、藤上先生、川越先生、どうぞ忌憚のないご意見をいただければと思 います。いかがでしょうか。 ○川越委員  井部委員から出されたケース、ナース・プラクティショナーを指示する方のご意見と いうところで、これを読んで非常にわかる気がするのですが、多分普通のドクターがこ れを見たら、あまり同感しないと思うのです。ナース・プラクティショナーのほうが総 合的な診断においては優れていたというか、そういう結論だろうと思うのですが、私は こういう考え方は、特に在宅をしているとすごくよくわかります。  ただ、実際問題として、医師の仕事というのは非常に専門的というか、やはりここで 出てきたようなことが、こういう患者さんがもしいらっしゃった場合は、やはり内視鏡 を見るとか、胃潰瘍のことをまず考えて、十二指腸潰瘍のことを考えて、そのことを チェックしていくということになると思うのです。  問題は、その診断で胃潰瘍がないからいいとかということではなくて、だけどそれを 掘り下げてみる。それを掘り下げるときに、看護師さんの力というのが必要なわけで、 それを総合した形で1つの大きな意味での診断というものができるような格好にしなけ ればいけないなというようなことを思っております。  私がこういう考え方をもつようになったのは、いわゆるホスピスケアということにか かわるようになって、Interdisciplinary Approachということがよく言われています ね。学際的なチームケアというようなことが。ですから、そういう中で、つまりイン ターということは、それぞれの専門職が互いにインタラクションというか、相互作用を 行いつつ、1つのある意味での真理というか、そういうものに近づいていくということ であるわけです。私は、ここまでの仕事が医師で、ここまでが看護師で、それがどちら が正しいかというようなことは、あまり考えないほうがよいのではないか。多分私が 言っていることは、井部委員はおわかりだと思いますが、ともすれば医師の診断は一方 的で、看護師さんたちのほうがもっと広く見ているんだという、それはもう確かにその とおりだと思いますが、それだけだったら議論にならないのではないか。それをより統 合する形で考えていただきたいなということが1つお願いです。  もう1つは、先ほど大臣がおっしゃったとおり、これは看護診断NANDAなんてい うことを知っている方はほとんどいないと思います。医師はまず誰も知らないと思いま す。  それで、確かに、例えば在宅で患者さんの話を聞くときは、よくこのことはわかるん ですね。こういうことを頭に入れてはいませんが、自分が聞いたことを後で照らし合わ せたら、いまのことなどはすごく、ドメインのことなどはよくわかるのですが、実際そ ういう聞き方というのはできませんし、ここに紹介されたのはあくまで外国の基準で、 やはり日本の看護業界というのはこうありたいとおっしゃっていますが、現実はやはり まだまだだと思います。  これは、看護の仕事をなさっている方がたくさんいる中で、非難するというわけでは ないのですが、実際の現場はもっともっと、我々が目指しているところとのギャップが かなりあるということを認識して議論していかないと、立派な基準ばかりできて、現実 が追いつかないということが起きる可能性がありますので、是非注意していただきたい のです。 ○座長  ほかにいかがでしょうか。 ○藤上委員  先ほど大臣がおっしゃいましたように、あるべき論と、実際の現実との乖離というも のがあるのではないかと、私もそう思います。例えば看護を行うということは、患者さ んに常日頃接しながら、何を読み取って、それを他の職種、医師とかほかの医療職種に どう伝えるかということと、それからそれを受け取った側がどういうふうにそれを活用 するかということではないかと思います。 ○井部委員  結局、理想は高く現実は低いというようなご指摘なのですが、そのようになっている 現実は一体どうしてなのかということについて、是非私はいろんな立場の方にご意見を 出していただきたいと思っています。  それが、裁量権なのか、保助看法の診療の補助と療養上の世話という、いわゆる包括 的な内容の文言なのかどうかわかりませんが、川越委員のような医療職が対等に話合い をすることを容認する医師ばかりではない現実があるので、それはなぜそうなっている のか。医師法が優位にあるのか、医療法がどうなのか。何かそういう制度による規定が あって、なかなか私たちの理想やあるいは目標としているものが実現できないのかどう かというところは、是非教えてほしいと思います。 ○座長  いまのお話は、どなたかに質問ということですか。 ○井部委員  そうです。ボヤキですが、平林先生、教えてください。 ○平林委員  全部についてお答えすることはもちろんできないのですが、法制度の問題かというふ うに井部委員はおっしゃいましたので、法律を勉強しているの者として、私が日頃考え ているところをちょっと述べさせていただきたいと思います。  確かに保助看法の5条で、看護師の業務が療養上の世話と診療の補助というふうに規 定されております。そして、「療養上の世話」というのが、本当に看護師の業務内容と して適切な言葉であるのかどうかということも、最初に大臣がおっしゃったように、私 も問題があろうかと思います。  しかし、その法律があるから、看護の現実がこうなっているんだというふうにはなら ないだろうと思います。というのは、昭和23年に、現行の保助看法ができたときに、そ れ以前の看護の業務内容が医師の介助を中心としたものであって、それではまずいの で、療養上の世話というものを看護本来の役割としてきちんと位置づけて、これこそが 看護の業務であるというふうな形で、確か入ってきたと思うのです。  そうであるとするなら、まさにその療養上の世話という業務内容、その業務の中にど ういう内容を詰めていくか。それがまさに看護に問われていたのではないか。  もちろん、現実は、にもかかわらず川越先生のようなお医者さんばかりではなくて、 法律が変わったにもかかわらず、従前の「医師と看護師との関係」という意識をもった お医者さんが少なからずいたという、現実もあっただろうと思います。  しかし、その法律があったから、現実とあるべき看護論が食い違ってしまったという ふうには、当然には言えないと思っております。その点だけ、お答えになったかどうか はわかりませんが、申し上げさせていただきます。 ○内布委員  その「療養上の世話」の件ですが、拡大解釈をして、この中にいろんな役割を私たち が入れたい役割をどんどん入れていって、場を獲得していくとか、実績を積んでいって 社会に認めていただくとか、そういう形で役割がつくれるような環境であったなら、も うなっていただろうと思うのです。  いま、わずかですが、いま全国で32人、専門看護師という人たちが巣立っていて、そ の人たちは修士号をもっています。確かに能力があるので、同じ保助看法の下で動いて いるにもかかわらず、1つの病院の中で役割を確実につくっていっているのです。それ でもう、周りは認めていて、薬についてはある程度、それでもやはり医師に進言すると いう形でしかないわけですが、でも、生活に関する処方的なこととか、そういうことは もうみんなが認めている。その人がやることに関しては認めている人たちもすでにいる のです。  ですから、力がある人たちは、一部そういう活動をすでにしていて、そういう「療養 上の世話」という漠とした言い方であっても、そういう能力があって、しかもそういう 人たちは、ある程度環境が整った所へ行きますので、そういう所であればつくれると思 うのです。  ですが、やはり、井部委員から見せていただいたこの内容は、私たちが教育で全部網 羅しているものなのですが、学生に言わせると、大学を出ていったら臨床では使わな い、使わせてもらえないという状況が、非常に強固にあるので、それを使えるように保 証していくのが、やはり制度だと思うのです。そういう、保証していくためにどういう 制度づくりが望ましいのかという議論をもっと具体的に。ですから、やはり「世話」で は駄目で、「療養上の世話」という規定の解釈はこうしますよということで、ある程度 コンセンサスが得られないと、やはり動かしていただけない、動けないという状況は続 くだろうと思います。ですから、やはり保証は必要だろうと思います。 ○平林委員  確かにおっしゃるように、「療養上の世話」という言葉が適切でないということも、 先ほど申し上げたようにそのとおりだと思いますし、そういう看護本来の、独自の機能 を果たし得るような制度上の保障をつくっていかなければならないというのもそのとお りだと思いますが、ただ、しかしいまでもやろうと思えば、法律のタガははまっていな いわけです。  先ほどフランスの例で、限定列挙的な規定をされているけれども、それでよろしいの ですかというような質問をさせていただいたのは、そことも関連があって、むしろ限定 列挙しないで、「療養上の世話」−この言葉にかわる看護本来の業務内容を表す言葉が あれば、それを教えていただきたいのですが、−そういう抽象的な広い枠組みをつくっ て、その中に、看護のそれぞれの時代の進歩に従って中身を充実させていく、そういう 法制度をつくっていくというのが、私は看護の専門性とか独立性とか自立性ということ を考えるときには、より適切だろうと思っています。限定列挙ではなくて、もうちょっ と包括的な規定の方がいいのではないかと考え、さっきちょっと質問させていただいた わけです。 ○井部委員  そうすると、平林委員がおっしゃるのは、フランスのように挙げるのではなくて、日 本の「療養上の世話」といったような広い概念のほうが、私たちが動きやすいというこ とですか。 ○平林委員  私はそのほうが動きやすいと思います。お医者さんたちでも、別に「医行為とは何 か」ということが法律で規定されているわけではなくて、「医師でなければ医業をなし てはならない」という医師法17条があって、その解釈の中で「医行為とは何か」という ことが議論されていくわけですが、具体的な医行為の内容は医学の進歩に従って決まっ ていくわけですから、看護についても同じような枠組みができれば、そのほうがずっと 看護としてはやりやすいのではないか。法律で決めなければ何も動けないというのは、 私はやはりおかしいというのが、いつも申し上げていることです。 ○柳田委員  私も、先ほど川越先生がおっしゃったご意見と、同様なことを思っているのですが、 いま医学の世界では、EBM(Evidence Based Medicine)に基づいた診療の必要性が論 議されていますが、今のお話を聞くと、もう医師は要らないのではないかというような 感じもあります。第三の医療の場と言われる在宅医療者の看護が始まったのは、大体 1970年代半ば頃からで、そこそこ20年くらいであるわけです。そこで、訪問看護を行う 場合に、どのような行為を決めていかなければならないかということですが、現在の状 態は、訪問看護者ごとに、また訪問看護ステーションごとに行われていて、ときには許 容範囲を逸脱している事例もあるというふうにお聞きしています。  それで、平成元年の「厚生科学研究」に「医療行為及び医療関係職種に関する法医学 的研究」というのがあります。  参考までに申し上げますと、「医療施設外の医行為は、医療施設内の場合よりも指示 の期間を含め、より個別的、具体的に行われる必要があるとしている」。そしてさらに 医学的な検討が必要としながらも、医行為の具体例を挙げています。これは原文のまま ですが、これと、フランスの例とか外国の例を比較すればよいのではないかと思うので す。「医師の指示を必要とする医行為」というのが、包括的指示による医行為、これが 安静度(入浴、排便など)、食事指導、理学療法、浣腸、経管栄養管理、バルーンカ テーテル交換、膀胱洗浄、導尿、人工肛門管理、吸引、ネブライザー、包帯交換、褥瘡 管理となっています。  また、具体的な指示による医行為として、静脈採血、心電図、与薬(経口、経鼻、経 皮膚、膀胱内)、注射(皮下、筋肉)、点滴の交換、生命維持管理装置の操作(在宅酸 素、人工呼吸器、CAPD)。  それから、医師の指示を必ずしも必要としない医行為例(包括指導監督は必要であ る)として、バイタルサインの検査(脈拍、体温、呼吸数、血圧)、採尿、褥瘡の予 防、内服薬管理となっています。これは1つの研究報告であって、国の公式の見解では ありませんが、ある地方では訪問看護制度モデル事業を始めるに当たって、これを基準 として、医行為を始め、現在も継承して用いているところもあるようです。  ですから、やはりどうしても訪問看護師さんが行う医行為というものを、やはり具体 的に検討する必要があるわけで、まさにそれをいまやっているわけですが、また、ある 所で、例えば、ちょっと具体的になりますが、養護学校が、医療法の17条とか保助看法 の31条、37条に抵触するおそれがあることから、養護教諭を含めた教職員が、なかなか 対応できないということで、在宅医療では、患者本人による自己注射とか、家族による 経管栄養、酸素療法などの操作が許されているのですが、大部分の養護学校において、 原則的には保護者によって対応がなされているのですが、学校に看護師を配置したり、 訪問看護を利用している事例も出てきているわけです。  それで、秋田県で、「養護学校における医療的ケアのあり方に関する調査研究報告」 ということで、「医療的ケアが必要な通学児童生徒学習支援事業」として、学校で看護 師による医療的ケアの実施が可能と学校医が判断して校長が認めて、主治医の適切な指 示の下に実施できる場合に限って行う。そして看護師は緊急事態を除き、指示書以外の 医療行為をすることは許されていない。こういうようなことですが、こういうことでも 現在、議論が行われているような状態であるということで、こういう問題もあるという ことを一応ご報告申し上げておきたいと思います。 ○平林委員  私が申し上げたのは、療養上の世話についての議論で、いま柳田委員がおっしゃった のは、むしろ診療の補助と医行為との関係の議論ですので、その点だけ申し上げておき ます。 ○井部委員  いまの議論の中で、療養上の世話と診療の補助というのは、二極分化で、並列で論じ られるのですが、実は現場はそういうことではなくて、療養上の世話の中に、かなり医 行為が入るし、医学的な判断をしなければならない。病人ですから、そういうことがた くさん含まれているのです。これは療養上の世話なのか、診療の補助なのかという、二 極分化して考えること自体が非現実的であるわけです。  ですから、「世話」の中に「医行為」が入り、「医行為」の中に「世話」が入るとい うような、非常に込み入った現実があって、そこが私たちのフラストレーションになっ ている部分かもしれないと思います。 ○座長  ほかにご意見はないでしょうか。前回のお話では、静脈注射の問題については、法の 解釈というものと、現実、これは看護婦・看護師だけが行っているということではなく て、医師も指示をされている。両者が行っている現実ですね。それとの乖離があるんだ ということが示されて、その乖離について一応皆さんが了解されたというような検討が あったと思いますが、いかがでしょうか。そういうようなことも含めてどうぞご意見を お願いします。 ○柳田委員  私が情報をもっている限りでは、医行為というものは、医師の医学的判断及び技術を するのでなければ、人体に危害を及ぼし、または及ぼす恐れのある行為と定義されてい るわけです。  それで、医行為のうち、医師または歯科医師が常に自ら行わなければならない高度な 医行為を「絶対的医行為」といい、その他は「相対的医行為」と言っています。  ですから、相対的医行為は医師以外の医療従事者にも行わせることができますが、 個々の行為を行わせるか否かということは、医療従事者の能力を勘案して医師の判断に よるというふうにされているという、現在はそういう状況であるということを、情報と してはもっております。 ○座長  いまの御発言は情報提供というようにおっしゃったところですが、いかがでしょう か。 ○上野委員  いまの論点とちょっとズレるかもしれませんが、今回は指示の問題だと思うのです。 これは本当に些細な事例ですが、訪問看護ステーションが抱えている問題で、1つは、 ちょっと知能レベルが低い方が独居でいらっしゃったのですが、その方は糖尿病があっ て、管理ができなくて入院された。それで退院されるに当たって、病院の医師が入院中 にインスリンで治療を行って、インスリンは自己注射ができないので内服に切り換え て、内服の管理を訪問看護ステーションに依頼をしたという状況だったのです。  ところが在宅に戻るので、その後は開業医の先生にお願いするという形になったので すが、その方は、何とかバスで開業医までは行くことができるという状況で、開業医の 先生は、バスで来れるので、「訪問看護は必要がない」とおっしゃるんですね。  ところが、この方の生活レベルとか、生活歴から見ると、訪問看護がきちんと入っ て、内服をきちんとチェックしていかないと、保健指導、健康管理のことができないだ ろうという予測ができるわけなのですが、ところが医師は、それが医師法と保助看法違 反だとおっしゃるんですね。それがどういうことかと言うと、例えば、在宅療養の指示 を出す、老人の場合は寝たきりまたは寝たきりのおそれにある人という条文があります し、それから1つは医師の指示によるというのもあるのですが、寝たきりでもなくて、 寝たきりになるおそれもあるわけではなくて、バスで通って来れるのではないかと。そ ういう人には私は指示は出せないとおっしゃるのです。そうすると、訪問看護としては どうしてもその人にとって看護は必要なんだと言っても認めてもらえなければ、みすみ す悪化してまた再入院することが予測されるのに、手を引かなければいけないのかとい う現実の問題が出ているわけです。ですから、医師が例えば訪問のステーションに指示 を出すというところの指示のあり方とか、それからそれを医師法と、保助看法の違反な どと言われたら非常に困ってしまうのですが、その辺りをどのようにこれから捉えてい くのかと。本当にローカルではありがちな情報提供なのですが、現場はそういうところ でも困っているということです。  それと、柳田先生が先ほどおっしゃっていた「訪問看護における、許容範囲を逸脱し た行為」と言うのは、例えばどのようなことだったかをちょっとお伺いしたいと思いま すが。 ○柳田委員  その内容は詳しくはわからないのですが、そういうようなものもあったとお聞きして いるのですが。ですから、例えばしてはならない行為とか、そういうことだろうと思う んですが、現在のその基準といいますか。例えば、医療的ケアというのは何を示すのか というのは、実際あいまいであるわけで、明確な定義がないわけですね。  例えば、全国の養護学校におきまして医療的ケアとして実施されているのは、癲癇の 発作時の坐薬の挿入であるとか、あるいは経管栄養であるとか、鼻腔、口腔の吸引とい うのが多いのですが、これが果たして医行為に相当するのか、これもはっきりしていな いわけです。これらの行為を医療行為とみなした所は看護師をまず秋田県辺りでは配置 して、そうでない場合は教員に行わせているという状況が現実にあるわけでして、その 辺がまだあいまいですから、これからまた議論を押し深めていかなければならないこと だろうと思いますが、そのような現実があります。 ○座長  大変ありがとうございました。これから議論する課題が見えてきたというところがあ ります。最後に折角大臣がおいでくださいましたので、何かこの検討会に対してのご期 待なり、また何か感想をお聞かせいただければ幸いです。 ○坂口大臣  いろいろな角度からご議論いただいて、かなり話はつまってきたという感じがいたし ます。厚生労働省の考えでなく、私個人の考えを失礼ですが申し上げますと、私は看護 婦さんというのは決してリトルドクターになることではないと思っております。先ほど 申しましたように、ベッドサイドで最も患者さんに近い存在でありますので、やはり ナースの皆さん方がお持ちになる情報というのは医師の診断にとりまして、これは大変 な存在であり、そして大きなものであると、私は率直に思っております。先ほど川越先 生がおっしゃったように、チーム医療になってまいりますと余計でありまして、これか らどういうチームを作って、その中の役割をどうしていくかということが問われるので はないかと思います。そのときには、柳田先生がおっしゃったように、いわゆる行き過 ぎてしまうと申しますか、リトルドクターの分野に入り過ぎてしまうといけないので、 むしろいろいろの医療上の補助はやりながらも、しかし看護師さんに必要な分野という のは私は大きいというふうに思っていまして、そこをこれからどのように確立をしてい ただけるのか。それはあるいは厚生労働省をはじめ役所の側にもいろいろ問題があるの かもしれない。それは我々も考えて行かなければならないだろうと思っております。し かし、そうしたことをそうしたこととしながら、現場におきましては、やはり大きなこ とでなくてもいいからこういうことをやろうという現場の積み重ね、医師なら医師に対 してこういったことを主張していこうという何か積み重ねみたいなものも私は必要では ないかという気がしております。  いままで看護婦さんの運動と聞いて、私が知っている範囲は限られていますが、かつ て、時間内に早く帰る運動であるとかいろいろ運動があったように思いますが、しか し、看護師さんとして何をして行くかという前向きな、これを1つ我々は取り組んで行 く、これを1つやって行こうというところを、不幸にして私はいままで聞いて来なかっ たものですから。いや、それはたくさん皆さん方の中にはあるのだと思いますが、その 辺のところも今後お考えをいただけるように役所の側も協力をしていかなければならな いと思っております。  医師のやりますことには、例えば、診療報酬には点数が付いておりますし、薬剤師さ んは薬剤師さんで処方していただく処方料というのでしょうか、点数が付いているし、 あるいは検査技師さんには検査技師さんとしての点数が付いている。看護師さんの場合 も付いてはいるのでしょうが、頭数で処理されていると言ったら少し語弊があります が、そういう面もある。これらの点は若干我々も考えて行かなければならない今後の課 題ではないかと、先ほどから思いながら少し聞いています。柳田先生がご指摘になりま すように、医師の行うことの範囲の中に入り込んで行くというのは、私はいろいろの問 題があると思いますので、そうではなくて「助言する」という言葉がいいのかどうかわ かりませんが、医師に対して患者さんの状況について常に報告する、あるいは状況を伝 える、そうした中に私は看護師さんの本来の仕事というのは育っていくような気がして おります。これは私の個人的な意見でありますから、ひとつその上でお聞きいただきた いと思います。今日はいろいろと平林先生からもご意見いただきました、「療養上の世 話」という言葉をあまり具体的にしてしまうと、できにくくなってしまうというご意見 も、なるほどそうかなという新しい角度からお話をいただいて、大変参考になりました し、そうしたことも私もこれからまだまだ充分ではありませんので、皆さんと一緒に考 えさせていただきたいと思っております。今後ともお世話になりますが、どうぞよろし くお願いいたします。 ○座長  大変ありがとうございました。大臣におかれましては2時間という長丁場を、この委 員会でお過ごしいただけまして大変ありがたいことと存じております。  これで終わりにしたいと思いますが、事務局のほうから何かご連絡がありますか。 ○勝又補佐  次回の検討会の予定について、お知らせをしたいと思います。  次回は7月24日水曜日の午前10時から開催したいと考えております。テーマは「看護 師による静脈注射の実施について」ということで、検討をさせていただきたいと考えて います。場所等が決まり次第別途正式なご案内を発送いたしますので、よろしくお願い いたします。  なお、第4回につきましては、前回ご連絡しましたように8月19日月曜日の午後2時 から開催する予定ということにしておりますのでよろしくお願いいたします。 ○座長  本日はこれで閉会にいたしたいと思います。大変お忙しいところ、長い時間ありがと うございました。 照会先  厚生労働省医政局看護課  課長補佐  勝又(内線2599)  保健師係長 習田(内線2595)  ダイヤルイン 03-3591-2206