資料1 視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律 基本計画 素案 目 次 I はじめに 1.法律成立までの背景や経緯  2.基本計画について 3.視覚障害者等の読書環境の整備の推進に係る意義と課題 U 基本的な方針 1.アクセシブルな電子書籍等の普及及びアクセシブルな書籍の継続的な提供 2.アクセシブルな書籍・電子書籍等の量的拡充・質の向上 3.視覚障害者等の障害の種類・程度に応じた配慮    V 施策の方向性 1.視覚障害者等による図書館の利用に係る体制の整備等(第9条関係) 2.インターネットを利用したサービスの提供体制の強化(第10条関係) 3.特定書籍・特定電子書籍等の製作の支援(第11条関係) 4.アクセシブルな電子書籍等の販売等の促進等(第12条関係) 5.外国からのアクセシブルな電子書籍等の入手のための環境整備(第13条関係) 6.端末機器等及びこれに関する情報の入手支援、情報通信技術の習得支援(第14条・第15条関係) 7.アクセシブルな電子書籍等・端末機器等に係る先端的技術等の研究開発の推進等(第16条関係) 8.製作人材・図書館サービス人材の育成等(第17条関係)    W おわりに T はじめに 1.法律成立までの背景や経緯   令和元(2019)年6月21日、議員立法により、「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」(令和元(2019)年法律第49号。以下「読書バリアフリー法」という。)が成立した。  我が国は、平成26(2014)年に、国連の「障害者の権利に関する条約」に批准した。同条約は、「障害の社会モデル」(*1)の考え方を示しつつ、締約国に対して、障害者があらゆる形態の意思疎通によって表現及び意見の自由についての権利を行使できるようにすること、障害者の生涯学習の機会を確保すること、障害者が利用しやすい様式を通じて、文化的な作品を享受する機会を確保することなどを求めている。また、同条約の締結に向け、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(平成25(2013)年制定、平成28(2016)年施行)をはじめとする様々な国内法制度が整備され、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向けた取組が進められている。  こうした大きな流れがある中で、特に「読書バリアフリー法」の成立に向けた動きの契機となったのは、平成25(2013)年6月27日の世界知的所有権機関(以下「WIPO」という。)による、「盲人、視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約」(以下「マラケシュ条約」という。)の採択である。  平成30(2018)年の第196回通常国会においては、「マラケシュ条約」の締結の承認とともに、著作権法の改正が行われ、一部の条項を除き、平成31(2019)年1月1日に施行された。これにより、視覚障害者等のために書籍の音訳等を著作権者等の許諾なく行うことを認める権利制限規定(著作権法第37条第3項)において、同規定の対象者として、視覚障害者や発達障害者のほか、肢体不自由により書籍を持てない者等が含まれることが明確になった。また、権利制限の対象とする行為について、コピー(複製)、譲渡やインターネット送信(自動公衆送信)に加えて、新たにメール送信等も対象とされた。さらに、視覚障害者等のために書籍の音訳等を権利者の許諾なく行える団体等についても、障害者施設や図書館等の公共施設の設置者や文化庁長官が個別に指定する者に加え、新たに、一定の要件を満たすボランティア団体等も対象とされることとなった。  さらに、この改正著作権法に係る国会での審議の際、衆議院・参議院の両委員会において、「視覚障害者等の読書の機会の充実を図るためには、本法と併せて、…(略)…当該視覚障害者等のためのインターネット上も含めた図書館サービス等の提供体制の強化、アクセシブルな電子書籍の販売等の促進その他の環境整備も重要であることに鑑み、その推進の在り方について検討を加え、法制上の措置その他の必要な措置を講ずること。」との付帯決議がなされたことが、その後の読書バリアフリー法の制定の動きを加速化した。 2.基本計画について (1)位置づけ  読書バリアフリー法は、「障害者の権利に関する条約」や「障害者基本法」の理念に則り、障害の有無にかかわらず全ての国民が等しく読書を通じて文字・活字文化の恵沢を享受することができる社会の実現に寄与することを目的とするものである。  読書バリアフリー法第7条には、「文部科学大臣及び厚生労働大臣は、視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する基本的な計画を定め」る旨の規定があり、基本計画には、基本的な方針、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策、その他必要な事項を定めることとされている。    また、同条では、基本計画を策定するときは、あらかじめ、「経済産業大臣、総務大臣その他の関係行政機関の長に協議」することを定めているとともに、「視覚障害者等その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずる」ものとされている。加えて、第18条において、国は、施策の効果的な推進を図るため、関係者による協議の場を設けること及び関係者の連携協力に関し必要な措置を講ずるものとされている。これらの規定に基づき、本基本計画は、関係者協議会を設置し、関係者から聴取した意見を踏まえて、策定されるものである。    なお、基本計画は、視覚障害者等の読書環境の整備を通じ、障害者の社会参加・活躍の推進や共生社会の実現を目指すものであり、障害者基本法に基づく「障害者基本計画」の基本理念や方針を踏まえて作成する必要がある。また、基本計画の実現に向けた取組を進めることは、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」の趣旨にも適うものである。 (2)対象期間  本基本計画は令和2(2020)年度から令和6(2024)年度までを対象とする。基本計画の策定後は、定期的に進捗状況を把握・評価していくものとする。 (3)構成  本基本計画は、この「T はじめに」、「U 基本的な方針」、「V 施策の方向性」及び「W おわりに」で構成される。  「U 基本的な方針」では、本基本計画全体の基本理念を示すとともに、各分野に共通する横断的視点や、施策の円滑な推進に向けた考え方を示している。  「V 施策の方向性」では、読書バリアフリー法第9条から第17条に規定される9の分野の基本的施策それぞれについて、本基本計画の対象時期に国が講ずる施策の方向性を示している。  「W おわりに」では、計画に基づく取組を進めるにあたり念頭におくべきことなどを示している。 (4)基本計画の対象  読書バリアフリー法において、「視覚障害者等」とは、「視覚障害、発達障害、肢体不自由等の障害により、書籍について、視覚による表現の認識が困難な者」と定義されており、基本計画においても、これらの視覚障害者等を対象とする。  なお、視覚障害者等以外の、読書や図書館の利用に困難を伴う者への配慮も必要であることに留意する。  また、読書環境の整備にあたっては、乳幼児期から高齢期までの様々なライフステージにおいて必要とされる内容の書籍を考慮しつつ取り組む必要がある。なお、読書バリアフリー法において、「書籍」には、雑誌、新聞その他の刊行物も含むこととしている。 3.視覚障害者等の読書環境の整備の推進に係る意義と課題  読書は、幼児・青少年期、成人期、高齢期の一生涯にわたって、個人の学びや成長を支えるものであり(*2)、教養や娯楽を得る手段のみならず、教育や就労を支える重要な活動である。    一方で、我が国において視覚障害者等(*3)が利用しやすい書籍等はいまだ少なく(*4)、障害の有無に関わらず全ての国民が文字・活字文化を等しく恵沢できる状況とはなっていない。  視覚障害者等の読書環境の整備を推進するため、読書バリアフリー法は、「視覚障害者等が利用しやすい電子書籍等の普及が図られるとともに、視覚障害者等の需要を踏まえ、引き続き、視覚障害者等が利用しやすい書籍が提供されること」等を定めている。  「視覚障害者等が利用しやすい書籍」(以下「アクセシブルな書籍」という。)とは、「点字図書、拡大図書その他の視覚障害者等がその内容を容易に認識することができる書籍」と定義されており、例えば、点字図書、拡大図書、音訳図書、触る絵本、LLブック(*5)、布の絵本などがある。  また、「視覚障害者等が利用しやすい電子書籍等」(以下「アクセシブルな電子書籍等」という。)とは、「電子書籍その他の書籍に相当する文字、音声、点字等の電磁的記録であって、電子計算機等を利用して視覚障害者等がその内容を容易に認識することができるもの」と定義されており、例えば、音声読み上げ対応の電子書籍、デイジー図書(*6)、オーディオブック(*7)、電子データなどがある。  視覚障害者等による、これらのアクセシブルな書籍・アクセシブルな電子書籍等(以下「アクセシブルな書籍等」という。)の利用に関する状況と課題については、「借りる」と「購入する」の2つの側面から捉えられる。  「借りる」に関しては、主に点字図書館と一部の公立図書館が、ボランティア団体の協力を得つつ、アクセシブルな書籍等の製作(*8)・貸出・対面朗読・郵送サービス等の障害者サービス(*9)に取り組んできており、視覚障害者等の情報保障の支えとなってきた。また、視覚障害等のある学生が在学する大学や高等専門学校においても、学生からの求めに応じ、書籍等の製作が行われているとともに、盲学校の一部においてもサピエ図書館との連携により、在学する児童・生徒が書籍等を利用できるよう環境を整えている。  一方で、これらのアクセシブルな書籍数が、ニーズに対して不足していることに加え、点字図書館と公立図書館においてアクセシブルな書籍等の製作等に協力するボランティア人材が減少してきており、今後の継続的な提供体制には課題がある。また、製作される書籍等の質が必ずしも担保されていない場合があること、サピエ図書館や国立国会図書館を含む、各図書館が所有する様々な形態の書籍等が、十分に共有されておらず、全国の視覚障害者等が効率的に利用できる仕組みになっていないことが指摘されている。  「購入する」に関しては、点字図書館や公立図書館が製作する電子書籍等に加えて、合成音声読み上げ対応や、文字が拡大できる電子書籍が、少しずつ市場に出回ってきている。点字図書等の印刷物の利用者としては視覚障害者が中心となるが、電子書籍は、読み上げや文字の拡大が可能であるなど、発達障害、肢体不自由等の視覚障害者以外でも利用がしやすく、電子書籍の発展に期待が大きく寄せられている。  その一方で、視覚障害者等にとってアクセシブルでない電子書籍も少なくないこと、印刷本の出版と同時に販売されるものは少ないこと、紙市場に比して電子書籍の市場規模は2018年時点で2割弱であり(*10)、日本における普及ははじまったばかりであるなど、多くの課題が残されている。なお、視覚障害者等のために、自社発行物の巻末に電子データの引換券を添付するといった取組も存在するが、ごく一部の出版社に限られているのが現状である。  また、電子書籍等に加えて、点字本や大活字本等の印刷物についても引き続き多くのニーズがあり、より多くの書籍等が発行されることが望まれている。  平成30(2018)年第196回通常国会における著作権法改正および読書バリアフリー法において、視覚障害者や発達障害者のほか、肢体不自由により書籍を持てない者等が対象となり、アクセシブルな書籍等へのニーズが拡大していることを踏まえ、近年の先端技術を活用した、効率的で持続可能な仕組みを構築する必要がある。 *1「障害」は個人の心身機能の障害と社会的障壁の相互作用によって創り出されているものであり、社会的障壁を取り除くのは社会の責務である、という考え方。 *2 「文字・活字文化振興法(平成17(2005)年法律第91号)」は、「文字・活字文化が、人類が長い歴史の中で蓄積してきた知識及び知恵の継承及び向上、豊かな人間性の涵養並びに健全な民主主義の発達に欠くことのできないもの」であることに鑑み、すべての国民が、生涯にわたり、身体的な条件その他の要因にかかわらず等しく豊かな文字・活字文化の恵沢を享受できる環境を整備することを基本理念として謳っている。また、「子どもの読書活動の推進に関する法律(平成13(2001)年法律第154号)」は、「子どもの読書活動は、子どもが、言葉を学び、感性を磨き、表現力を高め、創造力を豊かなものにし、人生をより深く生きる力を身に付けていく上で欠くことのできないもの」であることに鑑み、すべての子どもが自主的に読書活動を行うことができるための環境を整備することが基本理念として謳われている。 *3 日本における視覚障害者は、平成28年度「生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)」によると、約31.2万人(うち、点字識字者は約3.9万人)、上肢障害者は約63.2万人いるとされている。また、読字障害者(ディスレクシア)の正確な人口は把握されていない。 *4 国立国会図書館が2017年度に全国の公共図書館を対象として行った調査(回答率約83%。『公共図書館における障害者サービスに関する調査研究』(https://current.ndl.go.jp/node/36508参照。)によれば、全国の公共図書館が所蔵するアクセシブルな書籍・電子書籍等は約170万点である。国立国会図書館に所蔵する出版物全4,400万点の1%にも満たない。 *5「LL」とはスウェーデン語の「L?ttl?st(分かりやすく読みやすい)」の略で、「LLブック」とは、読むことに困難を伴いがちな青年や成人を対象に、生活年齢に合った内容を、分かりやすく読みやすい形で提供すべく書かれた本のことである。 *6 「DAISY」とは、「Digital Accessible Information System」の略で、「アクセシブルな情報システム」。特徴としては、@目次から読みたい章や節、任意のページに飛ぶことができる、A最新の圧縮技術で一枚のCDに50時間以上も収録が可能である、B音声にテキストや画像を同期させることができる、等がある。 *7 オーディオブックとは、書籍などのテキスト文書を読み上げて、聞くことによって情報を得られる音声コンテンツの形式にした電子ブックのことである。文字(テキスト)を読んで情報を得る電子書籍とは異なり、オーディオブックは視界を占有しないため、発音や息遣いなどを駆使した表現が可能といった特徴がある。 *8 著作権法第37条第3項では、「視覚障害者等の福祉に関する事業を行う者で政令で定めるもの」が、視覚障害者等のために録音図書等の製作等を行うことができる旨が規定され、政令で、(1)障害者施設や図書館等の公共施設の設置者、一定の要件を満たすボランティア団体等、(2)文化庁長官が個別に指定する者が定められている。 *9 視覚障害者等に対するサービスのこと。 *10 公益社団法人全国出版協会の発表「2018年の出版市場規模発表」(https://www.ajpea.or.jp/information/20190125/index.html)によれば、紙市場は1兆2,921億円、電子書籍は2,479億円。 U 基本的な方針  1.アクセシブルな電子書籍等の普及及びアクセシブルな書籍の継続的な提供  市場で流通している電子書籍が少なかった時代には、著作権法第37条第1項又は第3項本文の規定により製作されるアクセシブルな書籍(以下「特定書籍」という。)が視覚障害者等の情報保障の中心となっていたが、今後は、それに加えて、市場で流通する電子書籍等と、著作権法第37条第2項又は第3項本文の規定により製作されるアクセシブルな電子書籍等(以下「特定電子書籍等」という。)を車の両輪として、両面から取組を進め、アクセシブルな電子書籍等の普及を図る時代となっている。また、アクセシブルな電子書籍等を利用するための機器等を、視覚障害者等がより円滑に使える環境を整備することも必要である。    なお、視覚障害者等の利便性の推進にあたっては、著作者・出版者の権利擁護とのバランスに配慮することが重要である。    また、障害の状況によって電子機器を使えない場合や、紙や布といった現物の書籍が必要とされる場面・ニーズもあるため、引き続きアクセシブルな書籍の提供を継続するための取組も必要である。さらに、書籍利用のためのアクセシビリティのみならず、書籍の入手や利用にかかるアクセシビリティの改善・向上にも合わせて取り組む必要がある。 2.アクセシブルな書籍・電子書籍等の量的拡充・質の向上  利用者の視点からは、アクセシブルな書籍等の「量的拡充」及び「質の向上」の両方のニーズがある。  「量的拡充」に関しては、今後のアクセシブルな書籍等のニーズの拡大に対応するため、公立図書館、点字図書館、大学及び高等専門学校の附属図書館、学校図書館、国立国会図書館において、各々の果たすべき役割に応じ、アクセシブルな書籍等が充実されることが重要である。また、アクセシブルな書籍等を全国の視覚障害者等に届けるための仕組みとして、製作されたアクセシブルな書籍等の共有に向けた図書館間の連携やネットワークを構築することが重要である。  「質の向上」については、書籍等の製作に係る基準の作成や、製作に従事する者の研修が必要である。  また、「量的拡充」及び「質の向上」のいずれにおいても、これまで製作された書籍等について、書籍・電子書籍の形態を問わずアクセシブルなものにし、長期的にデータ保存するための取組や、製作者が効率的に作業できるよう出版者から製作者に電子データを提供する仕組みを構築することが効率的である。    なお、書籍等のコンテンツや用途によって、「正確性」が求められる場合、「速報性」が求められる場合など様々であり、双方の観点のバランスを取りながら進めていくことに留意する。 3.視覚障害者等の障害の種類・程度に応じた配慮  視覚障害者等の障害の種類及び程度によって、アクセシブルといえる書籍等の提供媒体及び利用方法は異なる。このため、読書環境の整備を進めるにあたっては、個々の障害に対応したニーズを的確に把握し、特性に応じた適切な形態の書籍等を用意することが必要である。    なお、視覚障害者等が特定書籍・特定電子書籍等の利用を希望する場合に必要となる障害の認定については、これらの特定書籍・特定電子書籍等を視覚障害者等の利用に供する機関が確認及び管理を行うことが適切である。 V 施策の方向性 1.視覚障害者等による図書館の利用に係る体制の整備等(第9条関係) 【<基本的考え方>  公立図書館、大学及び高等専門学校の附属図書館、学校図書館(以下「公立図書館等」という。)並びに国立国会図書館について、点字図書館とも連携して、アクセシブルな書籍等の充実、アクセシブルな書籍等の円滑な利用のための支援の充実、その他の視覚障害者等によるこれらの図書館の利用に係る体制整備を図る。  また、点字図書館については、アクセシブルな書籍等の充実、公立図書館等に対する利用に関する情報提供、視覚障害者による十分かつ円滑な利用の推進を図る。】 (1)アクセシブルな書籍・電子書籍等の充実 ・ 公立図書館、大学及び高等専門学校の附属図書館並びに学校図書館(以下「公立図書館等」という。)において、地域の実情を踏まえ、点字図書館や他の図書館等と連携しつつ、アクセシブルな書籍等を充実させる取組を促進する。 ・ 国立国会図書館において、学術文献の録音資料やテキストデータの製作を促進するとともに、公立図書館等で製作される特定電子書籍等を収集し、アクセシブルな書籍等の充実を図る。   ・ 点字図書館及び点字出版施設(以下「点字図書館等」という。)が、今まで培ってきたノウハウを生かし、引き続き障害の種類及び程度に応じたアクセシブルな書籍・電子書籍等が充実するよう製作の支援を行う。 (2)円滑な利用のための支援の充実 ・公立図書館や学校図書館において、各館の特性や利用者のニーズ等に応じ、傾斜路や対面朗読室等の施設の整備、アクセシブルな書籍等の紹介コーナーの設置、拡大読書機器等の読書支援機器の整備、点字による表示、インターネットを活用した広報・情報提供体制の充実及び職員等による障害者サービスの充実を図る取組を促進する。 ・ 点字図書館において、公立図書館や地域のICTサポートセンターなどとの連携を図り、視覚障害者等に対して、様々なアクセシブルな書籍等や支援機器を活用して読書の機会を提供するなどとともに、地域の視覚障害者に対するアクセシブルな書籍等の円滑な利用のための支援を引き続き推進していく。 ・ 点字図書館が担ってきた音訳図書の製作やアクセシブルな書籍等の利用に関する情報提供などの機能が、視覚障害者以外の視覚による表現の認識が困難な者の読書環境の整備の推進に役立つものであることから、地域における公立図書館等との連携を推進するとともに、地方公共団体や関係団体等の意見も踏まえながら、点字図書館等の利用対象者の拡大及びそれに伴う受け入れ環境の整備・アクセシブルな書籍等の充実について検討する(*11)。 ・ 全国の大学及び高等専門学校の附属図書館において、それぞれが保有するアクセシブルな書籍・電子書籍等の所在情報を共有し、視覚障害者等による円滑な利用を促進する。また、大学等の図書館と障害学生支援を担当する部局との情報共有を促進し、相互の連携を強化する。 ・ 特別支援学校高等部学習指導要領において、「障害のある児童・生徒に対して学校教育段階から将来を見据えた教育活動の充実」と規定されていることも踏まえ、各教育委員会の指導主事に対し、視覚障害等のある児童・生徒が、生涯学習の場である図書館の利用について学ぶ機会を設けることの重要性について周知を図る。 ・ 公立図書館は、視覚障害等のある児童・生徒を支援するため、学校図書館と連携を図る。 (3)その他  ・ 国立国会図書館において、点字図書館との技術的実験で得られた知見を活用する等により、図書館におけるアクセシブルな電子書籍作成の取組を支援する。 2.インターネットを利用したサービスの提供体制の強化(第10条関係) 【<基本的考え方>  インターネットにより視覚障害者等に提供する全国的なネットワークの運営に対する支援を行い、アクセシブルな書籍等の十分かつ円滑な利用を推進する。  また、国立国会図書館、上述のネットワークを運営する者、公立図書館等、点字図書館及び特定電子書籍等の製作を行う者の連携強化を図り、インターネットを利用したサービスの提供体制の強化を図る。】  ・現在、国立国会図書館においては、自ら製作した「学術文献録音図書」の音声デイジーデータや、公立図書館等が製作し、国立国会図書館が収集した視覚障害者等用データを、個人、公立図書館等及び点字図書館に送信するサービスを実施している。一方、サピエ図書館においては、全国の点字図書館等で製作された点字、デイジーデータを、個人や会員施設等がダウンロードすることができる体制を整えている。また、双方のシステム間の連携も図られており、視覚障害者等が全国にあるアクセシブルな書籍等を統合的に検索できるシステムも国立国会図書館により整備されている。これらのシステムの十分な周知・活用を図るとともに、視覚障害者だけでなく視覚による表現の認識が困難な者も利用できることも含めて、関係機関・団体間の連携等を通して周知を図る。 ・地域における点字図書館等と公立図書館等との連携を図り、研修会などを通じて、公立図書館等に対して、国立国会図書館やサピエ図書館のサービスについての周知や連携に必要な情報提供を行い、多くの視覚障害者等が視覚障害者等用データの送信サービスやサピエ図書館を利用できるよう会員加入の促進等の取組を進める。 ・サピエ図書館の運営は、加入団体からの会費や寄付、国の補助金で実施しているところであるが、会員加入の促進を図り、将来的な会員の拡大等の状況や国の役割も踏まえ、引き続き安定的な運営を支援していく。 3.特定書籍・特定電子書籍等の製作の支援(第11条関係) 【<基本的考え方>  特定書籍・特定電子書籍等の製作支援のため、製作に係る基準の作成等のこれらの質の向上を図る取組について、支援を行う。】 (1)製作基準の作成等の質の向上のための取組みへの支援 ・アクセシブルな書籍等の充実やサピエ図書館におけるアクセシブルな電子書籍の充実、これらの質の向上を図るため、その製作手順や仕様の基準の作成について、サピエ図書館を運営する者への支援を行い、特定書籍や特定電子書籍等の製作を行う者への共有を図る。 ・地方公共団体と連携して、地域における点字図書館と公立図書館等との連携を支援し、特定書籍や特定電子書籍等の製作のノウハウや製作された書籍等の情報の共有による製作の効率化を図る。 ・出版者に対し、特定書籍及び特定電子書籍等の製作に係る基準の作成等のこれらの質の向上を図るための取組に資する情報提供や助言等を行う。   ・特定電子書籍等の質の向上に資する製作支援技術を含めた障害者等の利便の増進に資するICT機器・サービスに関する研究開発を行う者への支援を引き続き実施する。 (2)出版者から製作者に対する電磁的記録等の提供促進のための環境整備への支援  ・出版者から特定書籍又は特定電子書籍等の製作を行う者に対する電磁的記録の提供の促進に資する情報提供や助言等を行う。 4.アクセシブルな電子書籍等の販売等の促進等(第12条関係) 【<基本的考え方>   アクセシブルな電子書籍等の販売等が促進されるよう、技術の進歩を適切に反映した規格等の普及の促進、著作権者と出版者との契約に関する情報提供その他の必要な施策の推進を図る。  また、出版者からの視覚障害者等に対する書籍に係る電磁的記録の提供を促進するため、その環境の整備に関する関係者間における検討に対する支援その他の必要な施策の推進を図る。】 (1)技術の進歩を適切に反映した規格等の普及の促進  ・アクセシブルな電子書籍の販売が促進されるようにするため、昨今の新たな技術(特に情報通信技術)の動向を分析し、視覚障害者等の読書環境の整備に向けた取組を検討する。 (2)著作権者と出版者との契約に関する情報提供  ・出版者は、著作権者との出版に関する契約において電磁的記録の提供について含まれていない場合、著作権者から改めて許諾を受ける必要がある。このため、アクセシブルな電子書籍等の販売等に関する著作権者と出版者との契約に資する情報提供や助言等を行う。 (3)出版者から書籍購入者に対する電磁的記録等の提供促進のための環境整備に関する検討への支援 ・出版者が書籍に係る電磁的記録の提供を行うことその他出版者からの視覚障害者等に対する書籍に係る電磁的記録の提供を促進するため、その環境の整備に資する情報提供や助言等を実施する。また、電磁的記録の提供に関する課題や具体的方法については、引き続き検討していく。 (4)その他 ・音声読み上げ機能(TTS)等に対応したアクセシブルな電子書籍を提供する民間電子書籍サービスについて、関係団体の協力を得つつ図書館における望ましい基準の整理等を行って、図書館への導入を支援する。 5.外国からのアクセシブルな電子書籍等の入手のための環境整備(第13条関係) 【<基本的考え方>  視覚障害者等が、盲人、視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約の枠組みに基づき、アクセシブルな電子書籍等であってインターネットにより送信することができるものを外国から十分かつ円滑に入手することができるよう、その入手に関する相談体制の整備その他のその入手のための環境の整備を図る。】   ・アクセシブルな電子書籍等の受入れ・提供のための国内外の連絡・相談窓口として中心的な役割を果たす機関(国立国会図書館及び特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会等)において、外国で製作されたアクセシブルな電子書籍等の円滑な入手及び海外への提供を促進する。学術文献については、大学関係機関との連携を強化し、環境整備を進めていく。 ・円滑な入手を促進するため、当該機関の連絡先や入手に当たっての手続・留意事項等について引き続き丁寧な周知を行うとともに、その運用状況も踏まえつつ、必要に応じて更なる環境整備を行う。 6.端末機器等及びこれに関する情報の入手支援、情報通信技術の習得支援(第14条・第15条関係) 【<基本的考え方>  アクセシブルな電子書籍等を利用するための端末機器等及びこれに関する情報、これを利用するのに必要な情報通信技術を視覚障害者等の入手及び習得支援のため、必要な支援等を行う。】 ・視覚障害者等の書籍の利用が促進されるよう、以下の取組を推進する。 @ 点字図書館による、公立図書館や地域のITサポート支援センターと連携し、視覚障害者等に対して、様々な読書媒体の紹介やそれらを利用するための端末機器等の情報入手に関する支援。なお、読書困難者の読書を支援する、拡大読書機、ルーペ等の拡大補助具、点字ディスプレイ、デイジープレイヤー等、個々の状態に応じた機器の活用に留意する。 A 点字図書館と公立図書館が連携し、パソコン、タブレット、スマートフォン等を用いて利用される、国会図書館の視覚障害者等用データの送信サービス、サピエ図書館等の利用方法に関する相談や習得支援、機器の貸出等の支援。 B 地方公共団体による、アクセシブルな電子書籍等を利用するための端末機器等の給付。    ・上記の取組を推進するため、ICTサポートセンターの普及の支援や端末機器等の習得支援等を行う公立図書館等の職員などに対する研修を実施し、視覚障害者等が身近な地域において、端末機器等の利用に係る講習会を受けることが可能となるよう、施策の促進を図る。 ・特別支援学校学習指導要領において、「情報活用能力の育成を図るため、各学校において、コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用するために必要な環境を整え、これらを適切に活用した学習活動の充実を図ること」と規定しており、各教育委員会の指導主事等を集めた全国会議等の場において新学習指導要領の趣旨を説明するなど、周知を図る。 7.アクセシブルな電子書籍等・端末機器等に係る先端的技術等の研究開発の推進等(第16条関係) 【<基本的考え方> アクセシブルな電子書籍等及びこれを利用するための端末機器等について、視覚障害者等の利便性の一層の向上を図るため、これらに係る先端的な技術等に関する研究開発の推進及びその成果の普及に必要な施策の推進を図る。】 ・アクセシブルな電子書籍及びこれを利用するための端末機器も含め、広く障害者等の利便の増進に資するICT機器・サービスに関する研究開発やサービスの提供を行うものへの資金面での支援及びその開発成果の普及について引き続き実施する。 8.製作人材・図書館サービス人材の育成等(第17条関係) 【<基本的考え方>  特定書籍・特定電子書籍等の製作及びアクセシブルな書籍等の利用のための支援に関する人材について、これらの養成・資質の向上及び確保に係る支援を行い、円滑な利用の取組を推進する。  また、公立図書館等及び国立国会図書館において、アクセシブルな書籍等の円滑な利用のための支援の充実のため、司書等を対象とした研修及び養成において、視覚障害者等に対する図書館サービスについて取り上げ、資質の向上を図る。】 (1)司書等の資質向上  ・司書等を対象とした研修及び養成において、視覚障害者等に対する図書館サービスについて取り上げ、資質の向上を図る。 (2)点訳奉仕員・音訳奉仕員、テキストデータ製作の人材の養成 ・公立図書館等の職員・ボランティアが障害者サービスの内容を理解し、支援方法を習得するための研修や、読書支援機器の使用方法に習熟するための研修等を行う。また、ピアサポートができる職員・ボランティアの育成や環境の整備を行う。 ・点字図書館等や公立図書館等、ボランティア団体における点訳、朗読、テキストデータ化、データ編集等に携わる人材について、製作基準の共有やノウハウなどの習得に係る研修の取組を支援する。 ・これら点訳や音訳、テキストデータ製作のボランティアに携わる人材の不足が課題となっている。そのため、アクセシブルな書籍等の製作においては、この分野における人材の確保が必要であり、点字図書館のみならず、地方公共団体が一体となって計画的に取り組むことが必要であり、その取組の支援を推進する。  一方で、技術進歩による新たな支援機器や合成音声の活用などの取組も併せて検討していくことが必要である。 *11 点字図書館等は制度上、視覚障害者が利用する書籍等を製作し、それらをその利用に供することなどを目的とした施設であり、利用対象者は視覚障害者とされている。 W おわりに  本基本計画では、視覚障害者等が読書を通じて文字・活字文化に触れることのできる環境整備を行うための第一期の計画として、当面の取組の方向性を示した。今後、さらに実態把握を行い、より具体的な目標や達成時期等についての検討や定期的な評価を行っていく。    基本計画に基づき取組を推進していく際には、多くの関係者の理解が必要であり、国において、引き続き、関係者間による協議会を設置し、課題の解決に向けた取組を実施していく。また、関連施策の実施にあたって、国は必要な財源の確保に努める。  また、地方公共団体においても、本計画がより具体的に進展するよう、取り組むべき事項や課題ごとに、組織内の枠を超えた取組や関係者間で連携した取組が行えるような体制の構築を図る必要がある。特に都道府県は域内全体の視覚障害者等の読書環境の整備が図られるよう市町村に対して必要な指導・助言等を行うものとする。  国は、基本計画を踏まえ、地方公共団体における計画策定が円滑に実施できるよう、好事例の周知をはじめとした策定支援を行っていく。  基本計画に基づく施策の推進を図る際には、視覚障害者等についても、盲ろう者等、様々な特性があること、視覚障害者等のみならず、聴覚障害者、知的障害者、高齢者、外国人等、様々な状況により読書や図書館の利用に困難を伴う者への配慮も必要であることを認識して取り組むことに留意する。  この基本計画に基づく施策の推進により、全ての国民が文字・活字文化の恵沢を享受できる社会が実現し、真の共生社会の実現に寄与することが期待される。