身体障害者補助犬の訓練・認定の実態に関する調査 概要 本調査研究では、全国の身体障害者補助犬の訓練・認定施設における訓練・認定の実態や課題を把握することを目的として、アンケート調査並びにヒアリング調査を実施した。 ○訓練事業者・指定法人に対するアンケート調査 全国の身体障害者補助犬の訓練・認定施設における訓練・認定の実態や課題を把握することを目的に、訓練事業者・指定法人を対象としたアンケート調査(郵送配布・郵送回収)を実施した。 調査実施期間  2019(平成31)年1月 回収 介助犬・聴導犬訓練事業者票 22件/27件(81.5%) 介助犬・聴導犬指導法人票 7件/7件(100%) 盲導犬訓練事業者票 10件/11件(90.1%) 盲導犬指定法人票 10件/11件(90.1%) 調査項目 訓練事業者:適性評価の実施状況、訓練の実施状況、人材育成の取組状況、関係機関との連携状況等 指定法人:審査の実施状況、フォローアップの状況、適正な評価実施のための取組等 【調査結果からわかったこと】 ?介助犬・聴導犬の訓練事業者では次の実態・課題が明らかになった。 ・事業者によって職員数や訓練士の経験年数に大きな幅があり、必ずしも身体障害者補助犬の訓練について 養成を受けた訓練士が確保されていない。 ・過去3年間の相談件数や認定頭数が0件の事業者が散見されるなど、身体障害者補助犬の育成・認定に係る経験やノウハウの蓄積に差がある可能性がある。 ・適性評価において医療機関や指定法人等と連携している団体は3割未満であり、障害の評価等が不十分である可能性がある。 ・訓練やフォローアップに関する記録、契約書の取り交わし、マニュアルや手順書等の整備は、高くても5〜6割程度に留まっている。 ・公共の場での訓練に際し、事前に許可を得ずに訓練をしている場合がある。 ・身体障害者補助犬の実働する年齢について必ずしも上限設定が設けられていない。 ・なんらかの方法でフォローアップは実施されているが、利用者からの連絡があった場合のみ対応している事業者が少なくとも3件あり、適切なフォローがなされていない可能性がある。 ・社会参加の状況に関するフォローアップの実施割合が相対的に低い。 ・使用者から苦情が寄せられた経験がある訓練事業者は約2割であったが、その要因までは明らかにできていない。 ?介助犬・聴導犬の指定法人では次の実態・課題が明らかになった。 ・認定頭数にばらつきが見られた。また、審査会1回当たりの認定件数も1.0〜2.6件と幅があり、1件当たりに要している時間や審査内容が指定法人によって異なっている可能性がある。 ・基礎訓練の動作検証のうち、屋外での排泄について未実施である指定法人が1件あり、衛生管理の確保への提供が懸念された。 ・フォローアップの実施頻度が年1回未満の指定法人があった。 ?盲導犬における訓練・認定に関しては次の実態・課題が明らかになった。 (盲導犬においては訓練と認定は同一法人で行うこととなっているため、訓練と認定についてまとめて記載する) ・団体によって認定頭数に幅がある。 ・盲導犬の実働する年齢について上限設定を設けている団体は8割、使用者と契約書を取り交わす団体は9割など、質を担保するための取組がなされていたが、必ずしも全ての団体で実施されていない。 ・なんらかの方法でフォローアップは実施されているが、社会参加の状況に関するフォローアップの実施割合が相対的に低い。 ・また、フォローアップの頻度が年1回未満と回答した団体が1件あった。 ○訓練事業者・指定法人に対するヒアリング調査 身体障害者補助犬のうち、特に介助犬・聴導犬の訓練や認定方法等の実態や課題についてより具体的に深堀りすることを目的として、訓練事業者・指定法人を対象にヒアリング調査を実施した。 調査実施期間  2019(平成31年)1月〜3月 調査対象機関  訓練事業者10件、指定法人7件 調査項目・・・訓練:訓練の流れ、質を担保するための取組、フォローアップの方法、課題等、認定:認定の流れ、適正な評価・透明性確保のための取組、フォローアップの方法、課題等 【調査結果からわかったこと】 ?訓練事業者における実態・課題として以下が明らかになった。 ・大まかな訓練の流れはあるものの、訓練の内容は必ずしもマニュアル化されておらず、訓練士の経験等に基づいて実施されている場合が多い。 ・記録の作成・保管やチェックシート、動画等を活用して訓練士間の質の平準化、外部機関による助言・評価への活用等を行っている訓練事業者もいるが、その必要性や有用性を感じていない訓練事業者もいる。 ・医療機関と連携することで適性評価、訓練計画の立案、訓練の実施を適切に行おうとする訓練事業者がいる一方、医療機関とのつながりがなく、連携を取ることができていない訓練事業者もいる。 ・人材育成に関して、「人」よりも「犬」の知識や訓練に偏重している傾向がある。 ・訓練事業者同士の横のつながりがなく、訓練の技術やノウハウの共有が難しい。 ・利用相談や訓練、認定後フォローアップ等に要する経費を自弁している。また認定に至らない場合や申請期間に合わない場合は身体障害者補助犬育成事業の助成金が降りないため、安定的な事業運営が難しい。 ?指定法人における実態・課題として以下が明らかになった。 ・記録の作成基準や各種様式、認定基準、認定方法等が指定法人によって異なるが、指定法人同士で情報共有する機会がない。 ・指定法人によって認定審査会1回当たりの審査頭数や動作検証に要する時間が異なっており、認定の質に影響を及ぼしている可能性がある。 ・訓練事業者からみて、認定基準が不透明であり、同一指定法人内であってもばらつきがあるとの意見がある。 ・必ずしも本人に直接フォローアップを行っていない。また、訓練事業者が廃業したことで本人と連絡が取れなくなった事例がある。 ・業務量が多く、指定法人を増やす必要があるとの意見がある。 ?その他実態・課題として以下が明らかになった。 ・現状では利用者自らが訓練事業者等に問合せをしてきている。 ・病院や障害福祉の担当者、行政職員等における身体障害者補助犬の認知度が低く、潜在的な利用者に対する身体障害者補助犬の紹介や訓練事業者等への橋渡しがなされていない。 ○考察 今回の調査により、訓練や認定の実態や課題を一定程度明らかにすることができた。より質の高い訓練・認定制度の実現に向けて、更なる調査検討が必要である。 ?訓練内容や認定方法の、身体障害者補助犬の質への影響に関する検証 ?利用者や周囲の人を対象とした、認定後の問題に関する詳細な調査 (データ表 省略)