令和6年度 厚生労働省 障害者等のICT機器利用支援事業 第2回 ICT利用支援会議 議事録 【テーマ: 外部専門家と連携するICT機器の利用支援】 * 日時 2024年9月20日(金)14:00〜16:00  TKP新橋カンファレンスセンターホール15C+オンライン(Zoom)のハイブリッド開催 * テーマ詳細 テーマ:外部専門家と連携するICT機器の利用支援 発表者: * 一般社団法人日本作業療法士協会 生活環境支援推進室長 田中 勇次郎様 * 一般社団法人 日本言語聴覚士協会 /医療法人社団芳英会 吉野内科・神経内科医院  副主任 山本 直史様 国立大学法人新潟大学 自然科学系附置 人間支援科学教育研究センター /(新潟市障がい者ICT サポートセンター) 特任講師 山口 俊光様 (氏名 五十音順) オブザーバー: * 国立障害者リハビリテーションセンター研究所 福祉機器開発部長 井上 剛伸様 * 横浜市総合リハビリテーションセンター 副センター長 渡邉 愼一様 * 日本福祉大学 健康科学部 福祉工学科 教授 渡辺 崇史様 (氏名 五十音順) オブザーバー:(厚生労働省) * 厚生労働省 社会・援護局障害保健福祉部企画課自立支援振興室 情報・意思疎通支援係係長 小畑 和博様 * 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課自立支援振興室 今野 晴菜様 * 内容 1. 開会挨拶 2. 検討委員会・ワーキンググループの進捗報告 3. 事例共有@ * 「外部専門家と連携するICT機器の利用支援」日本作業療法士協会   一般社団法人日本作業療法士協会 生活環境支援推進室長 田中 勇次郎様 4. 事例共有A * 「外部専門家と連携するICT機器の利用支援」日本言語聴覚士協会   一般社団法人 日本言語聴覚士協会    /医療法人社団芳英会 吉野内科・神経内科医院 副主任   山本 直史様 5. 事例共有B * 「新潟市障がい者ICTサポートセンターの活動」新潟市障がい者ICT サポートセンター 国立大学法人新潟大学 自然科学系附置 人間支援科学教育研究センター /(新潟市障がい者ICT サポートセンター)   特任講師 山口 俊光様 6. 休憩 7. 意見交換 8. 事業紹介、事務連絡、閉会挨拶 * 関連事業の紹介「支援機器の開発・普及のためのモデル拠点構築に資する研究」  国立障害者リハビリテーションセンター研究所 福祉機器開発部長 井上 剛伸様 * 事務連絡 * 閉会挨拶 * 議事概要 1. 開会挨拶 ○事務局(平良) それでは皆様、お時間になりましたので、これより障害者等のICT機器利用支援事業第2回「ICT利用支援会議」を開催させていただきます。  本日の会議は、「外部専門家と連携するICT機器の利用支援」をテーマとさせていただいております。私は、本日の司会進行を務めますICTサポートセンター連携事務局/エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所の平良と申します。どうぞよろしくお願いいたします。  本日のオブザーバーと発表者を紹介させていただきます。恐れ入りますが、お名前を御紹介させていただきました後、皆様、一言御挨拶をいただければと思います。  まず、会場より、日本福祉大学健康科学部福祉工学科教授、渡辺崇史様に御参加いただいております。よろしくお願いいたします。 ○日本福祉大学(渡辺様) 皆さん、こんにちは。日本福祉大学の渡辺と申します。今回はオブザーバーとして参加しておりますが、検討委員会の委員をしております。皆さんといろいろな意見交換ができればと思います。どうぞよろしくお願いします。 ○事務局(平良) ありがとうございます。  続きまして、一般社団法人日本作業療法士協会生活環境支援推進室より、田中勇次郎先生に御参加いただいております。よろしくお願いいたします。 ○日本作業療法士協会(田中様) 田中です。こんにちは。今回発表の役を承って、うまく皆さんに伝えられることができるかちょっと心配なのですが、よろしくお願いいたします。 ○事務局(平良) よろしくお願いいたします。  続きまして、一般社団法人日本言語聴覚士協会/医療法人社団法人芳英会吉野内科・神経内科医院副主任、山本直史様に御参加いただいております ○日本言語聴覚士協会/吉野内科・神経内科医院(山本様) 皆さん、こんにちは。山本といいます。言語聴覚士をしております。  今日は事例共有ということで、私がいつも関わっている神経難病の方のコミュニケーション支援ということで発表させていただこうかなと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。 ○事務局(平良) ありがとうございます。続きまして、国立大学法人新潟大学自然科学系附置 人間支援科学教育研究センターの特任講師、山口俊光先生に御参加いただいております。 ○新潟大学/新潟市障がい者ICTサポートセンター(山口様) 新潟市障がい者ICTサポートセンターの山口といいます。今日は、事例の話を1つさせていただこうと思っています。よろしくお願いします。 ○事務局(平良) よろしくお願いいたします。また、本日はオブザーバーとして厚生労働省様にもオンラインで遠隔より御参加いただいております。よろしくお願いいたします。  それでは、早速、検討委員会・ワーキンググループの進捗について事務局より御紹介させていただきます。 2. 検討委員会・ワーキンググループの進捗報告 (掲載対象外) 3. 事例共有@ ○事務局(平良) 続きまして、事例共有に移ります。初めに、一般社団法人日本作業療法士協会生活環境支援推進室より、田中勇次郎先生に御紹介いただきます。田中先生、よろしくお願いいたします。 ○日本作業療法士協会(田中様) 最初に私からの話になります。作業療法士がICTに関してどのような取組をしているかから入って、後はICTサポートセンターの関わりに関してお話をさせてもらおうと思います。  私は今、東京都作業療法士会という会の会長もしていまして、そのことも加えさせていただきます。  こういう関わりに私が進んでいった経緯を簡単に述べさせてもらいます。ちょっと古い話になりますが、1985年、東京都立神経病院という病院に勤務していた頃です。その頃、ALS患者さんが人口呼吸器をつけて生きることを選択された場合に、しゃべることができない、動作的なこともできない、人に自分の意思を伝えることが難しくなることが大きな問題になっていました。  作業療法士として最初に関わったのは、コミュニケーションの中の意思を伝える、看護師さんを呼ぶためのコールの工夫が最初だったのです。ナースコールを押せない方がどんどん入院してくる。こういう関わりの中から、正確に思いを伝える手段として意思伝達装置開発に至りました。「目で打つワープロ」を、NHK放送技術研究所と竹井機器との共同開発で1985年に完成させました。それが一つです。  もう一つは、進行性筋ジストロフィーのデュシェンヌタイプのお子さんへの作業活動の支援です。この子たちも人工呼吸器をつけないと生きていけない状態になります。この事例は15歳のときには人工呼吸器を着けて入院していました。主治医から、生きがいを持った生活をさせてもらえないか、そのため作業療法をお願いしたいと言う処方が出ました。  スライドの絵を見てもらった方がいいですね。  MSXコンピューターというコンピューターを利用してお絵描きをする。ただ、操作をするジョイスティックコントローラーの代わりになるこの子に合うコントローラーが世の中にありませんでした。これを作ってあげないといけない。自助具を作ることは作業療法士の仕事の一つなので、タッチセンサースイッチの電極を指の動きに合わせて配置して電極を指でタッチしたら作動できるものを作りました。この子は小さい頃、絵を習っていたことがあったので、それを生かすことができた子なのです。下書きも何もなく絵を描けるようになっていきました。  このスライドは、OTジャーナルという雑誌の表紙絵の募集がこの時期にあったので、この子に応募しないかと声かけして、5〜6枚描いて送ったら3枚採用されて、連続して表紙に使ってもらえ喜んでいました。  本人はこれで十分満足していたのですが、この絵に対する謝金が送られてきたことで、お母さんがすごく喜びました。お母さんが言った言葉をスライドにも書きましたが、「まさか、この子がお金を稼ぐことができるとは全然思っていなかった。」と言われました。自分の力で絵を描いて、それがお金になったことがとても嬉しかったようでした。時代は多分こうなっていくなと感じました。デジタル機器が、重い障害を持った方の就労に繋げるツールになるはずだと、この時点で確信したのです。そして、作業療法もこの辺のことを広げていく必要があるという思いを持った事例です。  後に作業療法の範囲が厚労省から示されたのですが、福祉用具は作業療法士の業務の一つである。就労にも関係するし、作業療法士として関りを強めていく。そこにデジタル機器も入ることを訴えていかなくてはいけない、仲間を増やさなければいけないと思った時期でした。  これは2005年なのですが、総務省から、「障害者IT利活用支援の在り方に関する研究会」の報告書が出たのです。そこに、赤字で示したのですが、リハビリテーションの分野では作業療法士が既にこのことに取り組んでいるし、この分野で仕事としてやりやすいのは作業療法士であるという内容の報告書が出たのです。  これに対して、個人のレベルでなくて、OT協会が全体にこの取組をしなければいけないと考えて、2005年から国内でIT活用支援を実施している仲間に声をかけて集めて、後にIT機器レンタル事業説明会に結び着く活動を開始しました。助成金事業で冊子を作ったりして、仲間集めのために全国を回って、IT活用支援事業の説明会を開催してきました。  ちょっと細かい文字で見づらいと思いますが、これが例です。この様な物を作って47都道府県を回って説明することにしました。当初は私が関わっていた神経難病の方々への支援に関する説明が多かったのですが、子供の分野で遊びの一部としてデジタル機器を使って活動している仲間もいたので、このことも含めて広げたほうがいいと考え発達分野のメンバーも増やして活動するようにしました。現在も活動を継続しています。その写真が少しスライドに載っています。一番下はミーティングの時間です。  さて、東京都の障害者IT地域支援センターとの関わりですが、私がこういう活動をしていたこともあるし、ここの所長の堀込さんとは、いろいろな研修会で顔を合わせ個人的につながりがあって、連絡を受けて相談に乗ったりしていました。今もそのような関わりが続いています。組織同士の連携でなく個人的な繋がりです。東京都作業療法士会としても関係を深めていったほうがいいなという思いを持っています。  就労支援に関する相談はこっちからすることが多いです。それは堀込さんが東京コロニーという就労支援事業所に関わっていることもあって、ご相談することがあります。ここに示したSMAの方は、幼いころ私が担当していた子が成人になって、B型のテレワーク勤務で収入を得ている方の例として載せました。  センターのほうから御連絡頂いた例としては、在宅でこういう方がいて、姿勢がこれで良いのか、こういう就労の仕方で問題ないのかという相談を受けて一緒に自宅に行ってアドバイスをしたことがありました。  次に挙げたのは新たなセンサーはどのような方に適応か、評価をしてもらえないかと言われて、センターに出向き、ニューロノードというセンサーを見せてもらって、適応になる方について考えを伝え、価格が高いので、違った物との比較も必要になることなど、いろいろとセンサーを開発した企業担当者も加えて意見交換しました。  最後、一番多いのは、操作スイッチの適合に関する相談です。こういう画像が送られてきて、それを見て判断することになりました。センターに私がいて常に関わることができればもっと短時間でできるのですが、相談を受けてから、次に予約を取るなどしているうちに時間がどんどん過ぎてしまうのです。写真を見るとリストが下がり過ぎた状態になっていて、物を操作することがすごく大変そうでした。指を開くと緊張度はどうなるか、手関節を背屈方向に伸張させられないか、そしてその位置を保持させることができないかなど、評価が必要になってくるのですが、これができないことが歯がゆかったです。  リハの基本的な考えは、二次的な障害が起こらないようにしなければいけないのです。「可抗力的二次的障害の最大限の予防」と故津山先生が言われました。この状態でやっていて変形が起こったりしないかということを考えなければいけないし、効率がいいのか、悪いのかの判断をしなければいけない。リストが下がっているのは手の機能的な位置ではないのです。ただ、リストを背屈させるために引っ張って持ち上げて痛みが起こるのかどうかの評価をしなければ分からないのです。その判断は実際に触らないと分からない。そこに一緒にいられる仕組みができるといいなと思いました。今はまだできていません。  リストを上げた状態を保つために装具を作るということも作業療法士の仕事です。装具を作製してリストを上げておいて機能的にして動かしやすくする。この装具が適応できるかどうかも、実際に見て触れてみないと分からないです。  次に、DAAと作業療法士。この会議の資料をいただいたら、ICTのセンターに所属する方の基本的な知識として、デジタル・アクセシビリティー・アドバイザーの知識を持っていると良いと記載されてします。このことにも触れさせてもらい終わろうと思います。  このスタンダード版を私とIT活用支援事業を実施している仲間で、作業療法のことを書いています。作業療法士がこのぐらいの知識を本来は持っていないといけない。本当は養成校教育の中でやれば良いのですができていないのが現状です。後づけでいいから、スタンダード版ぐらいの知識を持たせてICT支援を進めるべきだと思いOT協会に提案し、今年度、重点事項に挙げてくれたので、今後この活動が進んでいくと思います。  最後に一つ。デジタル機器の活用は、今まで作業療法現場では意思伝達や絵画制作および知育用具などになっていますが、最近は障害者eスポーツが盛んに行われており、東京都も障害者施設においてeスポーツを取り入れた事業を実施しています。東京都作業療法士会もこの事業に関わっています。デジタル機器がスポーツという概念の中に入ってきて、障害を持った方もスポーツを楽しめるということもあるし、交流が広がるということを東京都も考えて動いていますので、作業療法士がデジタル機器のコントローラーを正確に適合できる知識・技術を持つべきだと考えています。  以上で終わりたいと思います。ありがとうございました。 ○事務局(平良) 田中先生、ありがとうございました。 4. 事例共有A ○事務局(平良) 続きまして、一般社団法人日本言語聴覚士協会/医療法人社団芳英会吉野内科・神経内科医院副主任、山本直史先生より御紹介いただきます。山本先生、よろしくお願いいたします。 ○日本言語聴覚士協会/吉野内科・神経内科医院(山本様) では、始めたいと思います。言語聴覚士協会からですが、ふだんは吉野内科・神経内科医院というところで言語聴覚士をしております山本といいます。よろしくお願いいたします。  私が勤めているのは神経難病専門の小さなクリニックなのですけれども、リハビリとしては外来リハビリと訪問リハビリを行っています。ということで、私が今ICT機器の利用支援ということは神経難病を対象とした支援を行っていますということをお話しさせていただいて、これから実際にふだん支援させてもらっている状況などを動画とか写真を使って紹介したいと思います。  主なICT機器ということで、私は意思伝達装置を中心に支援させてもらっているのですが、伝の心、次も伝の心、TCスキャン、向かって右側のiPhone、下の段に行って、この人も伝の心、iPhone、iPadというふうに、その方が何をやりたいか、何をするのかということをしっかり患者様と話し合って決めています。  さらに、それを操作するためのスイッチも様々なものがありますので、進行に合わせたスイッチを選び、患者様に使っていただいております。進行していきますので、このスイッチがずっと使われるわけではありませんので、その都度、進行に合わせたスイッチを適合するようにしています。今は自分で持っているiPhone、iPadをコミュニケーション機器として使用している方もたくさんいらっしゃいます。  動画で簡単に流しますが、今、視線入力というものがあります。miyasuku、OriHime eye、eeyesというものがあるので、同じ視線入力ですけれども、使い勝手が全く違いますので、これも先ほど言ったように患者様の希望に合ったもの、やりやすいもの、見やすいものを適合しながら選択しています。  今、いろいろ導入の画像とか動画を見ていただいたのですけれども、僕が一番気にしているのは本人が何をしたいのかというところです。よく家族から意思伝達装置を入れてほしいとか、スタッフから話が分からないから意思伝達装置を入れてほしいという話があるのですけれども、本人はしたくない、別に要らないということであれば、導入しても全く意味のない飾り物になってしまうことがとても多いです。なので、私は、同じことを言いますが、本人がやりたいという方でなければ、なかなか導入を勧めるようなことはしないかなと思います。目的の明確化ですね。  それから、先ほども言いましたが、適切な手段、何の機種、何のスイッチ、これもとても大事だと思います。  最後ですけれども、サポートがとても大事だと思います。継続したサポートが大事なのですけれども、私は進行性の神経難病なので、例えば1年間同じスイッチを使える方もいれば、1週間で変わってしまう方もいらっしゃるので、この辺を継続的にサポートすることで、ICT機器、意思伝達装置を継続的に使用できるのではないかなと思っています。  1人の例ですけれども、スイッチ検討です。ALSの方ですけれども、当院の施設に入居したときはフィルムケーススイッチというものを使用していました。左の人差し指でカチカチカチとやっていたのですが、その後だんだん動かなくなってきて、力が入らないという話が出てきたので、PPSスイッチをピエゾセンサーにしてみました。  まだまだ動かせる力がありますので、反応はとてもいいのですけれども、患者様からは、疲れるとか、何かを握っていないとスイッチを押した気にならないとか、不安だという要望がやはりあります。反応はしているのですけれども、このスイッチはこの患者さんには合っていないなということです。  では、次にどうしようかなということで、PPSの空気圧式の先端を100円ショップとかでも売っている物で、「握っているのですけれども、どうですか」みたいな感じでいろいろやります。この方は握るのですけれども、ちょっと不安なので落っこちてしまう、不安ということで、何かを手に巻きつけてほしいという要望もありましたので、ちょっとタオルとか、細長い風船があるのですけれども、そういうものを使っていろいろ試した。  全部反応します、操作もできますけれども、この方にとってはしっくりこないということなので、さてどうしようということで、ウレタンマットの切れ端をその方の手の大きさに合うようにくり抜いたり、あと、この患者様は皮膚感覚がとても敏感な方で、何かを触っていると痛いという要望もあったので、柔らかい布を買ってきて、それに巻きつけたりしてやりました。なかなかオーケーが出ない方です。検討している間にも徐々に進行していきますので、スイッチの方法もそうですけれども、動き方もその都度変わってきますので、それも考慮しながらスイッチの検討が必要になってきます。  これは現在です。これもエアバッグというのを利用して、100円ショップの金魚の水槽に使うぶくぶくのチューブを口に加えていただいて、かむことでスイッチにしています。この方は、自分のiPadにトーキングエイドfor iPadというアプリを入れているのですけれども、これで全てコミュニケーションも取っていますし、家電製品、ビデオ、テレビ、エアコンなども全部御自分で操作しています。最近、少しずつ顎の筋力も落ちてきたので、また新しいスイッチを検討しなければいけないなと思っています。  このように、1回のサポートでは駄目なケースがとても多いと思いますので、機器を紹介するだけとか、1つのスイッチを紹介するだけではなくて、継続したサポートがとても大事かと思いますので、どんな動きがある方にはこんなスイッチが必要だというのもしっかり頭に入れながらサポートしていかなければいけないのかなと思っています。専門知識もそうですけれども、やはり患者さんの体の動きとか病気のことも少しずつ理解していかなければいけないのかなと思っています。  こんな感じで、今日の事例紹介を終わりたいと思います。ありがとうございました。 ○事務局(平良) 山本先生、ありがとうございました。 5. 事例共有B ○事務局(平良) 続きまして、国立大学法人新潟大学自然科学系附置人間支援科学教育研究センター特任講師、山口俊光先生より御紹介いただきます。山口先生、よろしくお願いいたします。 (以下の議事録には、当日使用したスライドに合わせて見出し(行頭に#を用いて表現)を追記した) # 新潟市障がい者ICTサポートセンターの活動 ? 地域リソース間の連携を通して考える ○新潟大学/新潟市障がい者ICTサポートセンター(山口様)  ## はじめに  私は、新潟市障がい者ICTサポートセンターの山口と申します。当センターは新潟市からの委託事業として新潟大学構内に設置されており、私は大学教員の立場で業務にあたっています。  今日は、私たちの活動のキーワードである「連携」をテーマに紹介します。辞書をひくと「連絡を密に取り合い、一つの目的のために一緒に物事をすること」とあります。つまり、明確な目的を共有し、それぞれの専門性を持ち寄って実現していくことです。  私は医療や福祉の国家資格を持つ専門職ではありません。だからこそ、作業療法士や言語聴覚士、医師、教員といった専門家の方々と協働しながら、アシスティブテクノロジーを用いた支援に取り組んでいます。 ## ICTサポートセンター × 医療 ### 大学病院眼科での取り組み  新潟大学医歯学総合病院眼科では、毎週金曜日に「ビジョンサポート外来」が開かれています。これは病気の治療を主目的とする外来ではなく、低下した視力をどう活かして生活をより良くしていくかを相談する外来です。  私は最終金曜日に参加し、視能訓練士や眼科医とともに、患者さん一人ひとりにアシスティブテクノロジーに関する情報提供や操作練習を行っています。相談内容の中心はスマートフォンやタブレットです。LINEの通知が分かるようにしてほしい、返信できるようにしてほしいといった日常的な困りごとが多く寄せられます。職場のパソコンを持参し、具体的な設定を一緒に確認する方もいます。ICT機器が生活の必需品になった今、こうしたサポートの重要性はますます高まっています。  この取り組みは十年以上続いており、毎月10名弱、延べ数百人に対応してきました。そこで得られた知見は、地域の眼科医会の研修や専門誌の記事を通して「デジタルビジョンケア」として発信し、医療者全体に広げています。 ### 小規模拠点でも広くサービスを届ける「中間型アウトリーチ」  当センターは常勤1名、非常勤2名の小さな組織です。新潟市全域に個別訪問(アウトリーチ)することは到底できません。そこで、病院のように利用者が集まる場所に出向き、そこを拠点に支援を行う「中間型アウトリーチ」を続けてきました。大学病院眼科との協働は、その代表例です。 ### 在宅療養での支援 ? ALS患者のケース  医療との連携でもう一つの事例は、在宅療養中のALS患者さんとの長期的な関わりです。この方は「伝の心(国産の意思伝達装置)」やTobii社の視線入力装置を併用して生活しておられました。 最初の出会いは、病気の進行でそれまで使っていたスイッチが使えなくなったことに関する相談でした。訪問PT(理学療法士)の方と一緒に新しいスイッチの選定に取り組みました。 その後、身体の変化に応じてスイッチの部位や種類を変えたり、入力方式をスイッチから視線入力に切り替えたりしながら、十年以上にわたり支援を続けてきました。冬場に足でのスイッチ操作を試したものの「寒くて続かない」と一瞬で使えなくなったこともあれば、数年間使えたスイッチもあります。  2013年頃には「特例補装具(通常制度では対象外の機器を、特例的に補装具として認める仕組み)」を活用し、経済的な負担を抑えながら視線入力装置を導入できるよう支援しました。申請の際には、装置の重要性を理解してもらうため、24時間×10日間の利用状況を詳細に記録しました。朝5時に起きて照明やエアコンを操作する、体位変換を依頼する、夜には就寝姿勢を整えてもらう。生活のあらゆる場面が装置に支えられていることをデータで示し、医師の意見書と合わせて申請した結果、高額な装置の導入が特例補装具として認められました。  最期の支援は、利用者さんが亡くなった後のことです。意思伝達装置としての役割を終えた機器を“普通のパソコン”に再設定し、家族が集う場で、本人が生前に作ったフォトアルバムや電子書籍の本棚を振り返れるようにしました。アシスティブテクノロジーは単なる機械を超えて、人生の記憶をつなぐ存在にもなり得る??そう実感させていただいたケースです。 ### 医療分野での知見の共有  こうした経験は、私一人の財産に留まりません。眼科医会での研修に加えて、作業療法士会や難病相談支援センターと共催する研修を通じて、多職種と共有してきました。 重度障害の在宅療養では、訪問看護師やヘルパー、リハ職などが患者さん宅のホワイトボードやノートを介して情報を交換し、当たり前のように連携しています。そこにICTを活用した支援を組み込むノウハウを提示することも、私たちの重要な役割だと考えています。 ## ICTサポートセンター × 教育 ### 福祉と教育の間で  当センターは障がい福祉課の委託事業として運営されていますが、学びに困難を抱える子どもたちを支えるためには、教育委員会や学校との連携が欠かせません。 肢体不自由のある中学生の事例では、アイトラッカーを導入してノートテイクや家庭学習の環境を整えました。担任や特別支援学級の教員、作業療法士、介助員が役割を分担し、設置や片付けの手順まで共有して運用しました。 学習障害(LD)のある生徒の事例では、公立高校受験を視野に、ペン型スキャナー、代読、キーボード入力、必要に応じた手書きを組み合わせた試験環境を整えました。この際には本人を中心に、通級指導教室の先生や所属中学の先生と連携し、本人にとって最も力を発揮できる方法を模索しました。最初は「周囲と違うやり方はちょっと…」とICT活用に消極的だった本人も、中学の定期試験で成果が見えるにつれて受け入れるようになり、合理的配慮を受けて受験し、高校進学を果たしました。 ### GIGAスクール端末とアクセシビリティ  新潟市内の児童生徒には1人1台のiPadが配備されています。iPadには拡大表示や読み上げ、スイッチコントロールなど、多様なアクセシビリティ機能が標準搭載されています。つまり、支援技術はすでに子どもたちの手元にあるわけです。  文部科学省が2020年に示した「特別支援教育におけるICT活用について」では、ICT活用の視点として、@教科指導の効果を高めること、A障害による学習や生活上の困難を改善・克服すること、の二つが挙げられています。しかし現場では@は理解されやすい一方、Aは十分に意識されていないと感じています。このアンバランスを、支援技術の活用を推進する私たちと教育側の間でどうすり合わせるかが大きな課題です。 ### 教育分野での知見の共有  学校では定期的に校内研修が行われています。そこに呼ばれて、ICTを活用した学習支援について話をする機会が増えてきました。研修では支援技術の展示も行います。太軸のシャープペンシルや少し工夫された定規といったローテクな文具から、高度なICT機器までを並べて紹介します。  先生方にとって身近な文房具の延長線上にICTがあることを示すことで、支援技術を自分の教室に取り入れるイメージを持ちやすくなるよう工夫しています。 ## まとめ  ここまで、医療と教育それぞれの現場での実践と、そこから得られた知見を研修や普及につなげてきた経緯を紹介しました。最後に、講演のまとめとして提示した三つの視点を改めて強調しておきたいと思います。  第一に、目的と連携。  明確で具体的な目的を共有し、専門職と力を合わせて支援に取り組むことが大切です。  第二に、ICTサポートセンターのプロフィールと地域特性。  私たちは大学に拠点を置いているため大学病院との連携が比較的しやすい立場にありますが、他地域ではNPOや社会福祉法人がICTサポートセンターを担っている場合もあります。センターの成り立ちや地域によって、連携の相手や形は変わっていくはずです。  第三に、「福祉」と「教育」。  利用者にとって、その区別はほとんど意味がありません。期待されているのは、自分に役立つ支援や情報が滞りなく届くことです。大人の事情で線引きをするのではなく、利用者の視点に立ち、滑らかな支援を実現することが求められます。  私たちICTサポートセンターの活動は、現場での実践を通じて知見を得て、それを広げていくサイクルの連続です。これからも「連携」をキーワードに、地域の中で役割を果たしていきたいと考えています。 ○事務局(平良) 山口先生、ありがとうございました。  それでは、これより休憩に入ります。再開は15時20分を予定しておりますので、お時間となりましたらお席にお戻りいただけますようお願いいたします。 6. 休憩 7. 意見交換 ○事務局(平良) 皆様、お時間となりましたので、第2回「ICT利用支援会議」を再開いたします。  今回のテーマは、「外部専門家と連携するICT機器の利用支援」です。皆様の課題が少しでも解決できればと思いますので、各自治体やセンターで実施している事例や取組、活用している地域資源について意見交換をいただければと思います。  外部専門家の知見・サポートが必要な場面や、連携方法についても課題は多くあるかと思います。外部の専門家とどのように連携しながら支援につなげていくか、その場面、連携方法についてお話しいただきたくお願いいたします。  今回は、現地の会場が2グループ、オンラインの会場が3グループ、計5グループに分けております。各グループにはICTサポートセンターの方と自治体、自治体の中でもセンター未設置の自治体様、設置済みの自治体様が混在しておりますので、ぜひセンターとしての観点、自治体としての観点をお話しいただければと思います。  また、現地の会場のグループには、本日御発表いただきましたオブザーバーの先生方にも御参加いただく予定でございますので、ぜひ御意見を頂戴できればと思っております。  それでは、本日のテーマを2つ御紹介させていただきます。1つ目のテーマは、「外部専門家との連携を必要とする事例」です。既に外部の専門家と連携をしながら相談対応に取り組んでいる事例を持つセンターの方々がいらっしゃるかと思います。その場合、どのように専門家の先生とつながりを持つことができたか、連携内容など、ぜひ事例を御共有いただければと思います。また、外部の専門家と連携することが可能であれば取り組んでみたい課題や、今後つながりを持ちたい外部の専門家がいらっしゃいましたら、ぜひ御共有をお願いいたします。  2つ目のテーマは、「外部専門家との連携時における留意点」です。外部専門家と連携するに当たっては、どのように連携体制を取るか、どこまで依頼をするか、個人情報はどのように取り扱うかなど、懸念事項や連携時における留意点をお持ちの方がいらっしゃるかと思います。ぜひ懸念事項や取組の方法を御共有いただき、皆様で解決手段について意見交換をできればと思います。  本日、オンラインで御参加いただいている方は、事務局のメンバーがファシリテーターとして参加しております。オンライン参加で御意見をいただける方は、挙手ボタンまたは音声のミュートを解除の上でお声がけをいただければと思います。  意見交換は15時45分ごろをめどにメインルームにお戻りいただくようになっております。オンラインの方もこれからブレークアウトルームを使って各グループに分かれていただきますので、15時45分をめどにメインルームにお戻りいただければと思います。  それでは、これよりお時間を取りますので、よろしくお願いいたします。 ※現地の会場が2グループ、オンラインの会場が3グループ、計5グループに分かれて意見交換を実施 ※各グループからの主な意見は次の通り テーマ1つ目:「外部専門家との連携を必要とする事例」 * ロービジョンの相談者が視覚を使わなくてもできるだけ元の生活スタイルに戻せるよう、状態に応じた訓練の実施や、拡大読書器やスマートフォンのアクセシビリティの利用方法について、視覚障害者生活訓練等指導員の資格保有者が個別に指導することが可能なNPO法人と連携している事例が共有された。 * 医学的知見からこれ以上治療しても効果の望みが薄いとされるロービジョンの方に対して、眼科医会や病院がICTサポートセンターへ連絡を取って、連携体制を取りながら支援する事例が共有された。 * ケアマネ、保健師、作業療法士、理学療法士、医師らが必要に応じて関与し、環境設定等の支援をALSなどの方に対して個別に実施している事例の報告があった。 * ITを活用してICT機器利用の支援ができないかと作業療法士から提案があり、LINEグループが開設された事例が共有された。(例:ICT機器の利用方法について質問が入った際、LINEグループのメンバーが回答する) * その他、外部専門家や外部機関と連携を取りたいが、対応可能な外部機関が分からない、連絡先の入手方法が分からないといった課題の声もあった。 テーマ2つ目:「外部専門家との連携時における留意点」 * 教育現場へICT活用支援を行う際は、ICTに取り組みたくない支援者を説得するのではなく、ICTサポートセンター自ら学校や病院に足を運び、ICTへ理解のある支援者を探して連携することが重要であるとの意見があった。 * 教育現場で外部専門家と連携する際は、支援者間の役割分担を明確にした上で学校と年間契約を結び、継続した支援を可能とする体制を構築する必要があるとの意見が挙げられた。 * 外部専門家によっては、利用者からの申し出が無ければICT機器のニーズは無いと捉える場合もあるので、ICTサポートセンターから当事者団体や職能団体に対して、積極的に情報提供を行ったり、研修会を開催することでICT機器に関する理解を得ることも重要であるとの意見もみられた。  * 自治体としてICTに対する結びつきが希薄であったり、組織内でも教育は教育、福祉は福祉と縦割りの意識を持っているケースがあることが確認された。また、県と市、県と福祉関係団体との連携に課題を抱えることもあるため、自治体内における連携を構築することが必要な場合もあるとの意見が挙げられた。 * ICTサポートセンターの職員が現場で常に同席することが可能とは限らないため、利用者の支援を行う施設の職員、看護師など生活に関わる方々がICT機器を扱えるようにすることが重要であるとの意見があった。  * どの関係者に対して、どこまでの内容を共有するかは、本人や家族の合意を得るようにしているとの事例が共有された。また、最初は限定的な情報共有であっても、支援を進める中で徐々に共有範囲が広がっていく場合もあるとの意見があった。 * ICT機器について分からないことが多いと、利用者は支援者との距離を置こうとする傾向にあるため、一緒に取り組んでいく姿勢を示すことや、普段から利用者と関わる支援者も一緒に考えてもらうことが大事であるとの意見があった。 * 教育分野であれは学習指導要領を判断基準としているが、他の分野は異なる判断基準を持っていることから、連携先の判断基準や文化を把握したうえで、連携を進めることが重要であるとの意見が挙がった。 ※各グループからの主な意見は以上 8. 事業紹介、事務連絡、閉会挨拶 ○事務局(平良) それでは、会場の皆様も、オンラインの皆様も、大変活発な意見交換をいただきまして誠にありがとうございました。  既に外部の専門家の方々と連携を取って支援に取り組んでいらっしゃる皆様も、また、これから取り組んでみたいといろいろ考えていらっしゃる皆様からも、大変貴重な御意見をいただけたかと思います。今後のICTサポートセンターの支援にぜひつながればと思っておりますので、本日は貴重な意見交換に参加いただきましてありがとうございました。    それでは、皆様、本日は長時間にわたり御参加いただきましてありがとうございました。また、事例共有をいただきました先生方につきましても、本日は現地に御足労いただきましてありがとうございました。  これにて、第2回「ICT利用支援会議」を終了とさせていただきます。本日は御参加いただきありがとうございました。 以上