資料3 第2期「障害者による文化芸術活動の推進に関する基本的な計画」の 検討に向けた構成員意見の整理 (1ページ目) 1.基本的な考え方 (文化芸術推進活動の意義等) ○これまで障害者の文化芸術活動は、生きがいの創出、趣味、芸術性の追求、就労の機会等の文脈で考えられてきたが、この表現活動の持つ大きくて深い可能性に目を向けなければならないのではないか。表現の主体だけではなく、活動をサポートする側、鑑賞する側があらゆる機会を通して文化芸術の意味を問い直し、その可能性を追求して広げていくステージに来ているのではないか。 ○今や社会の課題とどう向き合うかというのは現代アートの非常に中心的な課題であり、多くのアーティストが社会問題とどう向き合っていくかと考えているし、 LGBTの問題も非常に主要な課題になっている。もう少し現代の表現の多様性を全体として見ていく必要があるのではないか。 ○障害当事者やそのような分野に関わる人たちの関心は高まっているが、一般社会、障害等に特に関係ない人たちへの波及効果については難しい部分。大きな展望として、健常者側にどのような効果をもたらすのかといった、大きな見通しを入れていくと更に一歩進むことができるのではないか。 ○「被支援・支援という枠を打ち破っていく」ことがこの障害者芸術推進の最終目標ではないか。当事者マインドを持った人が関わることが大切。 ○障害のある人が関わることで、どのように新しい文化芸術活動が生まれていくのか、そこにある価値というものはどういうものなのかをもっと議論し、計画に盛り込んでいくような視点があると良いのではないか。 (共生社会・ウェルビーイング) ○劇場・音楽堂、美術館、アーツカウンシルといったアートの現場では、まだ障害者の芸術文化活動に関する認知度は低い。狭い意味の障害福祉だけではなく、共生社会の創造という枠組みでウイングをどう広げていくのかを考えることが最も重要。 ○今まで生涯学習、共生社会、障害者の文化芸術、SDGsなど色々なことをそれぞれのところでやっているが、そういったものを繋げて一緒にやっていくことが必要ではないか。まだ障害者文化芸術も浸透していないことがあり、どう繋げて、皆さんに知っていただくかがまず大事であり、そこから地域を変えていく力になっていくのではないか。 ○地域社会から文化芸術活動を捉え直す観点からは、障害者の文化芸術活動のウェルビーイングにつながることが最も肝心。その実現に向けてウェルビーイングの考え方を総論としてしっかり位置づけるということが必要。 (2ページ目) ○ 共生社会を作っていく、社会的包摂を支援していくための文化芸術活動の促進は、どのような形があり得るのか。「ケア」と「アート」というそれぞれの枠組みを持っていたものを、連携することによってその枠組みを変えていくというような力があるのではないか。 ○ ノウハウを更に蓄積し、次世代につないでいくとともに、ウェルビーイングや、高齢者、LGBTなど他の分野との連携も視野に今後入れていくことを考えると、国が主導で文化と福祉の政策をつなぎ、調査研究や活動支援を行う、例えばアーツカウンシルのような専門家組織やそれに準ずるものを組織できないか。 ○ 障害のある人以外の社会包摂的な取り組みへの領域横断性。障害のある人以外の社会包摂的な取り組みに対して、この計画の中でどう取り扱っていくか、今後どのようにこうした取組の基盤となるものを作っていくことができるかということは検討していくべきではないか。 (地域における推進体制等) ○ 劇場・音楽堂のハードの整備については、設置者である自治体と両輪で進め、ソフトの面の改善については地域の様々な活動主体と共に推進することが必要。劇場・音楽堂がすべて単体で推進することは無理であり、地域の多様な主体との「つながり」を持ち、ファシリテートをしていくことが求められている。今後草の根的に障害者アートを推進するのであれば、基礎自治体における施設に障害者アートの普及啓発を積極的に推進する人的体制の整備と財源措置を講ずる必要がある。 ○ 基本的な計画の文言について改定することは必要だが、その基礎となる情報や全国の実施状況の把握が必要ではないか。都道府県や市町村がより良い計画を作れるような具体的な計画の実施のための基礎の考え方を都道府県に示すべきではないか。 ○ 地方公共団体の計画策定率が極めて低い。計画策定を進めていくためにどのような方策が考えられるのか検討したい。ユニバーサル公演等がより進むように学校教育での取組や公立文化施設のバリアフリー化等が関係するため、地方公共団体の計画に関して推進していく観点で検討したい。 ○ 計画が地方公共団体で策定されていないと美術館の学芸員が何かしたいと思っても、それを後押しする根拠がない。地方公共団体が計画を策定するように様々な方面から刺激を与えていかなければならない。 ○ 地方公共団体における計画策定状況を見ても、文化と福祉という溝を感じざるを得ない。多数の都道府県で計画の位置づけがまだ障害施策の計画の一部であり、文化芸術として連携されていない。 ○ 各地方自治体で文化条例を整理もしくはそれをもとにいろいろな制度を組んでいこうとするときに、その場に当事者の方が決定権のある立場で関わっていけるようにすることも今回の方針の中で、できるだけ具体的にしていけると良い。 ○ 全国にある支援センターの更なる機能強化が必要。事業の質、職員の環境整備等、質の強化が求められている。全国の支援拠点の横の繋がりの強化や更なる仕組みづくりが必要。社会全体で障害者の文化芸術活動を支えることが必要で、障害者の文化芸術活動について、無関心な層への普及啓発活動も考えて良い。 (3ページ目) ○ 障害者文化芸術支援センターの設立や運営に携わる際に感じるのは予算が足りないこと。 (横断的な事項) ○ 障害、健常の垣根を越えて、高齢化あるいは重度化の中で、地域あるいは生活の中で表現を楽しむのをどう支えるかが、ニーズとしても増えていくのではないか。既に様々な活動に取り組んでいる地域の方々をどうマッチングしていくか。マッチングすること自体が創造的、あるいは革新的なことになることもあり、議論していきたい。 ○ イベントも大事だが、仕組みを作っていくことが大切。文化施設や、支援センターのような中間支援のあり方、人材育成の重要性。また、鑑賞サポートやこういった分野で活動していくための予算の仕組み作り。そういった仕組みについて、積極的に提案していく計画にしていかねばならない。 ○ 障害者の文化芸術活動を支える統括団体の機能強化が必要。具体的にどの部分をどのように改善すればより発展させていくことができるのか、支援者のみならず、障害を持って活動を行っている方自身の主体的な意見が反映されることが重要。 ○ 障害者団体からは、財源が少ない、推進する人材がいない、発表の場がないというような意見がまだ多くある。美術館や劇場、映画館の合理的配慮もまだまだ進んでいない現状がある。 ○ 障害者差別解消法が合理的配慮の提供を民間事業者も含めて法的義務に改正され、遅くとも2024年までに実施される。特に他の者と一緒に楽しめる、障害のある者とない者が共に楽しめるという観点から合理的配慮の義務化とそのための環境整備の推進を、第2期の基本計画の重点施策として盛り込みたい。 ○ 障害者差別解消法の改正、障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法の施行により、障害の特性に応じた情報の保障や環境整備が一層重要となり、文化芸術活動においても充分な配慮を進めていく必要がある。 ○ 東京オリピック・パラリンピック競技大会のレガシーを引き継ぎ、大阪・関西万博に更に繋ぎ、発展させていく視点で検討を進めたい。万博で障害者文化芸術の常設展示や世界へ発信が出来るような展開に繋げられると良い。 ○ 「様々な団体が意見を出しながら計画を進めていく」という進捗の共有方法は大変重要。今回の計画ができた後も1年に一度は、障害者文化芸術活動推進有識者会議などで進捗のモニタリングができれば良い。 2.施策の方向性 (鑑賞の機会の拡大) ○ 鑑賞の機会について劇場・音楽堂で進まない一つの原因は予算的な問題。また、ノウハウが少ないということもずっと言われている。 (4ページ目) ○ 鑑賞支援に関しては物理的なサポートだけではなく、心理的なことがハードルになって劇場・音楽堂に行けない方も多くいる。特に知的・発達障害のある方は、一緒に行く親の考えや支援者の方の心理的なハードルをどのように取り払うかという具体的な取組があっても良い。 ○ ろう者、難聴者の方が自分で鑑賞サポートについて様々な劇場に問い合わせる動きが増えているが、どこに聞けば良いのか分からない、断られてしまっている状況があり、個々のストレスの負担をなくす取組が必要。観劇サポートに特化した助成金制度の創設、専門知識を持った人材育成と確保、鑑賞サポートの観点からの著作権の問題、稽古通訳費等の負担の解決が必要。 ○ 博物館や国公立施設に行っても、解説の映像に手話や日本語の字幕が付いていることもあまりない。そうした状況を、制度または補助金をつくることで、変えていけるのではないか。 ○ 障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法もできたことにより、公的な機関だけではなく、商業演劇であったり、エンターテイメントであったり、社会により広がるような取組があると、鑑賞に関する支援の必要性について、社会の意識向上につながっていくのではないか。 ○ 日本の美術教育は作ることが重視されてきたが、鑑賞を障害者に対しても開いていくことが重要ではないか。美術館には評議員会や協議会があり、障害のある当事者に美術館の運営に関わってもらうことも各館で取り組んでいけることではないか。 (創造の機会の拡大、作品等の発表の機会の確保) ○ 重度の障害のある方たちが先端技術を活用できるような取組により、物理的なハードルを取り除くような創造、発表の機会が生まれるのではないか。 ○ 障害のある俳優のツアー公演に関する介護のように、制度上はみ出してしまう介護に対して、障害のある人自身が必要な介護であるにも関わらず、全額負担しなければならない。障害のある人が文化表現に関わることが趣味や娯楽の範疇と捉えられる限り、この問題は続くのではないかと懸念している。 ○ 発表の機会を障害のある人々や支援者は求めている傾向がある。地域の色々な社会資源、文化資源を使って発表の機会を増やしていくことが大事。美術館だけでやるよりは、既に地域のNPOや市民団体、様々な団体と連携してアウトリーチが行われており、その連携によってより豊かな活動ができるのではないか。 (芸術上価値が高い作品等の評価等) ○ 障害のある人の表現は、芸術上の価値や評価のあり方そのものを問う表現・活動ではないか。そもそもの価値を問うような企画を美術館側が行う、あるいは地域社会でどのように美術館が存在するべきか、という中で障害者の表現を考える、という発想を持つと、地域の特性や課題にアートを通して向き合うことができるのではないか。 ○ 芸術上の価値の多様さを捉える視点に関する更なる調査研究や、研究の実践への還元がこの分野を更に発展させると考えられ、今後の推進体制について構築が必要。 (5ページ目) ○ 芸術的価値を既存の価値観で問うべきではないという意見もあるが、一方でその価値を問わなければ、オーソドックスな美術の研究者が意識を変えず、オルタナティブな施設がやれば良い、現代美術の範疇でやれば良いということとなり、自分たちは関係ないと考えてしまいがちになるため、優れたものは優れていると言っていくことも重要。 ○ 障害のある方等による文化芸術活動の評価基準やキュレーションの手法が一般化・共有されていない。障害のある方の文化芸術活動に関わる学芸員や職員の情報共有を更に進める必要があるのではないか。日本のこれまでの文脈では、障害のある方等による文化芸術活動は、福祉施設が創造また発表の中心を担ってきており、1施設の実践報告を超えた活動に対する批評や、分析・調査が不足しているのではないか。 (芸術上価値が高い作品等の販売等に係る支援) ○ 美術分野を想定していると思うが、障害者の就労手段は作品の販売だけに限られない。舞台芸術分野では、障害のあるアーティストが仕事として活動を行う上で必要となる支援にかかる経費や手配の負担を、本人または仕事相手のいずれかが負うしかないのが現状。 (相談体制の整備等) ○ 文化芸術団体等が障害のあるアーティストに仕事を依頼しやすくするために、障害に関連することの支援に関わる負担をできる限り軽減するような支援制度や相談窓口の整備等、障害のある人の文化芸術分野での多様な就労を支援する仕組みづくりが必要。 (人材の育成等) ○ 学芸員や劇場の制作スタッフだけでなく、例えば舞台技術者のような、場を安全かつ魅力的にコーディネートする人材や、こうした方々の統括団体への更なる実践的な啓発が必要なのではないか。 ○ 美術館等で様々な来館者を想定したプログラムが増えてきたが、次のステップは運営側にどれだけ当事者が入っていけるのかという部分。芸術や学芸員の仕事について常識的なことを問い直す、新たな価値観を創出していくという意味で、その障害がある人が学芸員資格を取れる環境を整備していくことも課題のひとつではないか。 ○ 人材育成の課題もあり、色々な意味で裾野を広げるという意味で、今後は芸術文化に関わる者は、例えば手話を必ず学ぶといった機会を作ることが大事なのではないか。 ○ 現状、芸術大学の美術学部の入試を視覚障害者が受験するのは難しいが、既存の視覚芸術の意味を問い直す意味合いでも入試制度というものを少し問い直していくこともあっても良いのではないか。 (6ページ目) ○ 育成はサポートの人材だけではなく、障害のあるリーダー的な位置づけに置いていくことも必要。障害のある人自身が社会の中で文化芸術の中で何ができるのかを考えていくフェーズ、障害のある表現者がただ守られるのではなく自身を問う段階に入っている。 ○ 生活支援員の方々の特定改善加算の様に芸術文化・福祉、両輪の能力を持つスタッフは、そのような加算制度を設けても良いのではないか。 ○ 多くの美術大学がAO入試などの個性重視型の入試制度を備えており、そのような大学に普通に障害のある人が入れるような仕組み作りが目指されるべきではないか。 ○ 学芸員になる人の大半は、大学や大学院で専門に学んでいるが、芸術と福祉の関係や、共生社会における芸術の役割などを学べる機会はほとんどない。学芸員養成課程の必修科目の中にも、共生社会の実現に向けて博物館が果たすべき役割を学ぶための科目はない。芸術を評価する役割を担っていく若い人たちに対して、共生社会における芸術の意義とか役割を考える機会を充実させていく、ここも急務ではないか。 ○ アクセシビリティや障害者芸術に関する授業を学芸員課程に位置づけることと、障害当事者がいかにその学芸員資格を取れること。欠格条項がなくなり、視覚障害や聴覚障害の人も制度的に学芸員資格は履修できるが、実習の受け入れ先がなく、その資格取得を断念するという話がまだあるため、障害当事者が、学芸員資格を取れる体制作りも、考えていくことが大事。 (情報の収集等) ○ 障害のある個人に届ける情報の発信について、もっと推進していく必要があるのではないか。 (関係者の連携協力) ○ 障害を持っている方の作品を見る機会を美術館も増やしていく必要があり、様々な施設や作業所等との連携等も増やし、色々な形で企画する側が必ず視野に入れていくことが必要ではないか。 ○ 文化庁事業や文部科学省生涯学習事業について意欲的な都道府県とそうでない都道府県があり、格差を感じる。どこがどのような形で全体的に底上げをしていくのかを考える点でも連携が必要。 ○ 障害者アートの広がりを更に推し進めるためにはコレクティブインパクトという手法が最も適しているのではないか。人と人、団体と団体がより一層繋がっていく社会関係資本を発現する仕組みが求められている。