第5回 障害者文化芸術活動推進有識者会議 「障害者芸術文化活動支援センターをめぐる11の施策とNPOの実践から」 令和4(2022)年9月12日 特定非営利活動法人エイブル・アート・ジャパン 代表理事 柴崎由美子 (1) 団体について 【設立】1994年任意団体設立、2011年NPO法人化 【設立趣旨】障害のある人をはじめ、生きにくさを抱えている人たちと共に、主に、障害の種別や有無をこえて、芸術文化活動を通して、自らを自由に表現する場やしくみをつくること、作品を発表し、販売する環境を整えること、美術作品や舞台芸術作品などにさまざまな手段を用いてアクセスするための機会と環境を整える。 【行動規範】「社会の芸術化、芸術の社会化」をキーワードに、さまざまな立場の人やグループ・団体が出会い、交流する機会をつくり、社会変革につながる共感や感動を生み出すことを目標に、〈Empowerment可能性を広げる〉、〈Createつくりだす〉、〈Networkつなぐ・つながる〉、〈Access参加する〉、〈Advocacy支援する〉、の5つの領域をもとに活動する。 【組織と人員構成】会員77人(分野は福祉・文化・教育等/社会福祉法人NPO法人・企業等の団体と個人)、理事・監事13人、職員9人(常勤4、非常勤5) 【拠点】東京事務局(千代田区)、東北事務局(宮城県仙台市) (2) 「障害のある人の文化芸術活動の推進」に関わる取組の実績〜おもに2014(平成26)年以降 【福祉】(ウェブサイトhttps://soup.ableart.org/) ・平成26/27/28年度厚生労働省補助事業「障害者の芸術活動支援モデル事業」(於:宮城県) ・平成29年度厚生労働省「障害者の芸術活動普及支援事業」(於:宮城県) ・平成30/令和元/2/3/4年度「宮城県障害者芸術文化活動支援業務」 ・令和3/4年度厚生労働省「障害者文化芸術活動普及支援事業」南東北・北関東広域センター(宮城・山形・福島・栃木・群馬・茨城) 【文化/鑑賞事業/おもに美術分野】 ・2011年-現在 会員有志による聴覚障害者のミュージアムアクセスを考える「美術と手話プロジェクト」運営。文化芸術基本法施行以降、活動が活発化(令和元年度文化庁事業により手引書作成) (ウェブサイトhttp://art-sign.ableart.org/) ・2017年「Museum of Together展」(主催:日本財団主催)にてラーニングプログラムを企画・運営。視覚障害、聴覚障害、知的・精神障害のある人たちを主体とした鑑賞プログラムを実施、反響を得て美術館等との活動が増加(ウェブサイトhttps://www.diversity-in-the-arts.jp/moto) ・2019/2021/2022年六本木アートナイト「インクルーシブツアー」企画運営(主催:六本木アートナイト実行委員会/文化庁・港区・美術館等)(ウェブサイトhttps://www.roppongiartnight.com/2022/inclusive.html) ・文化庁令和元年度障害者による芸術文化活動推進事業「美術館における聴覚障害者の鑑賞環境整備事業」により『聴覚に障害のある人たちの美術館へのアクセス向上を目指して-美術館関係者のみなさんへ-』を発行・公開(ウェブサイトhttp://art-sign.ableart.org/wp-content/uploads/2020/06/615f942f922e61077fc1a18bcca18232.pdf) ・2020-2021年芸術文化施設等と障害者をつなぐ「アクセスアート・オンライン試行事業」を実施・普及(コロナ給付金寄付プロジェクト福祉・教育・子ども分野助成基金)(ウェブサイトhttps://www.ableart.org/topic/project/202102_accessart_report.html) ・令和3/4年度文化庁障害者による芸術文化活動推進事業「ミュージアム・アクセスアートセンター設立準備事業」。障害のある人と芸術文化施設等をつなぐための課題を調査、活動に必要な仕組みやシステム開発の試行(ウェブサイトhttps://minmi.ableart.org/) 【文化/産業振興】 □障害者の芸術作品の販売/著作権等の整備・保護と市場化(NPO自主事業)(ウェブサイトhttps://ableartcom.jp/) ・1999年に全国で初めて障害者の著作権等の整備に関するガイドライン策定。2007年から実践的に障害のある人のライセンスビジネス「エイブルアート・カンパニー」事業をスタート(3NPOによる協働事業)。現在、全国29都道府県120人1万2千点超の作品をデータベース化。弊法人は東京、東北事務局を担当。 □地域行政/文化財団との協働(ウェブサイトhttps://soup.ableart.org/) ・平成28/29年度仙台市市民協働提案事業制度「障害者とデザイナーの協働」(仙台市産業振興課/仙台市障害者支援課) ・平成30年度「仙台市クリエイターの異分野協働機会創出事業」(仙台市地域産業支援課) ・平成30/令和元/2/3年度「仙台市文化プログラム〜障害者の芸術文化活動の推進に係る取組」(共催:仙台市、仙台市市民文化事業団) ・令和4年度「持続可能な未来へ向けた文化芸術環境形成事業」によりオープンアトリエ&人形劇採択 【社会教育・生涯学習】 □新型コロナウイルス感染症における緊急支援(ウェブサイトhttps://www.ableart.org/topic/project/202009_atrierecipe.html) ・2020年障害児者が参加するアトリエ&スタジオのコロナ禍の現状を調査後、オンライン化対応のための試行事業を実施、レシピ集を開発・公開普及(TikTok新型コロナウイルス緊急支援助成プログラム) ・2020-2021年障害者の生涯学習とIT化支援に関する実践研究(ファーウェイ東日本大震災応援基金) □地域の行政との協働(ウェブサイトhttps://soup.ableart.org/) ・文部科学省令和3/4年度「学校卒業後における障害者の学びの支援に関する実践研究事業」(共催:仙台市教育委員会、せんだいメディアテーク/公益財団法人仙台市市民文化事業団) □障害のある人とない人がともに活動するアトリエ&スタジオ活動(NPO自主事業) 【東京】@1995-現在〈アトリエポレポレ〉ファシリテーターサイモン順子/20人規模/おもに知的障害/ボランティア5名程度/毎月2回実施、A2011-現在〈エイブルアート芸術大学〉ファシリテーター中津川浩章/20人規模/おもに精神障害・発達障害 /ボランティア5名程度/毎月1回実施 【仙台】@2018-現在〈アトリエつくるて〉ファシリテーター佐竹真紀子・しょうじこずえ/20人規模/おもに知的障害・精神障害・発達障害/ボランティア3名程度/毎月1回実施、A2018-現在〈みんなでつくるよ!広場の人形劇〉ファシリテーター工藤夏海/サポーター佐々木桂・正木千尋/20人規模/おもに知的障害・精神障害・発達障害/ボランティア3名程度/毎月1回実施 (3) 基本計画の改定に向けた検討の方向性について 「文化施設などへのアクセス改善」「文化と福祉のさらなる連携促進」についての具体例 □せんくら・リラックスコンサート/2022年8月28日/仙台市・日立システムズホール仙台(青年文化センター)交流ホール ・2006年から仙台市市民文化事業団が事務局を担い実施されてきた音楽祭「仙台クラシックフェスティバル」(通称:せんくら)。3日間で約80公演・500曲・平均4万人が音楽を楽しむ。低価格(一般1300円〜、18歳以下700円〜)、赤ちゃんや小さな子どもが楽しめるコンサートもあるが、障害児者の参加は少ないという分析から、2022年に音楽振興課によりはじめてリラックスコンサートが企画された。4月に支援センターに相談があり、開催までの4か月間のあいだ次のような準備で協働した。 ・音楽振興課はリラックスパフォーマンスの国内の実践のリサーチ、支援センターは障害児者の芸術文化へのアクセスにたちはだかる物理的・心理的壁を想定し提案。@「からだを揺らしても・自然に声がでてもOK!小さなお子さまも障害のある方も、みんなで一緒に音楽を楽しむコンサートです」と大きく表示、途中入退場可、イヤーマフOKなど、ウェルカム感を込めたチラシやウェブサイトを作成。A「仙台市政だより」を通じてすべての市民へ広報、仙台市の教育委員会を通じて市内の支援学級および市立支援学校に児童・生徒数分のチラシを配布、仙台市障害企画課と宮城県障害福祉課から福祉施設向けの一斉メール配信。B80人2回公演で合計160人定員の公演には、1か月半の募集期間で610人もの応募、うち131人の約2割が障害のある人と家族・支援者。抽選方針の検討、当選・落選通知のデザイン、事前ガイドとして会場までのアクセス情報や当日の流れやできごとのストーリーを提供。C開催までに、出演者・舞台関係者・事業団職員・支援センター職員は綿密な準備と打ち合わせを行い、当日は約100人の2回公演を実現。幼児と親、障害児ときょうだい児、精神障害のある青年の集団、91歳高齢の方と3世代家族など、多様なコミュニティと家族の姿があった。 ・ここに至る背景には、2018年からはじまった仙台市市民文化事業団との連携(共催事業)、事業団職員との学びの会(種まき事業・社会包摂部会への参加)、後述の宮城県と仙台市が参加する協力委員会や催事の実践によるところが大きい。 ・11の施策のうち、おもに「1.鑑賞の機会の拡大」「7.文化芸術活動を通じた交流の促進」「8.相談体制の整備等」「9.人材の育成」「10.情報の収集等」「11.関係者の連携協力」の連続した業務と、「第3期宮城県文化芸術振興ビジョン」による実践。 ・2022年度支援センターは、さらに劇場・音楽堂等との研修2件、舞踊領域のワークショップ1件にも関与。これらはすべて、地域のアートNPOや全国区で活動する舞台芸術分野のNPOからの、一本のメールや電話相談からスタートしている。 □宮城県障害者芸術文化普及支援事業協力委員会/2022年9月9日/宮城県自治会館 ・きっかけは、〈仙台市在住〉の〈宮城県立支援学校生徒〉には、仙台市主催のチラシが配布されない!?問題から ・支援センターの主要な支援対象である「障害児者とその家族・支援者」。行政の壁により、情報や参加体験の不利益があってはいけないと協力委員会を再設置 ・宮城県と仙台市、行政のさまざまな課を超えた連携〜福祉・文化・教育・経済・文化振興財団・NPO中間支援組織など ・仙台市市民文化事業団の助成事業や、せんだいメディアテークのアートノード事業を通じた文化関係者の連携や人材の掘り起こし ・NPO中間支援組織が参加することにより、さまざまな領域のNPOのネットワーク化(障害福祉、美術・音楽・演劇・舞踊・生活文化、若者支援、子ども支援、生活困窮者支援、多文化共生等) ・令和4年度の委員会のハイライトは「文化施設との連携」「障害者の生涯学習」。生涯学習からのアプローチを通じて、支援学級/支援学校やPTA協議会、市民センターや社会教育主事、とのネットワークが深化 ・この委員会と日々の具体的な実践を通じて、障害福祉施設や障害福祉団体に留まらず、文化、生涯学習、多様なNPOセクターとの連携が活発化 (4) 視点「文化芸術には人が生きるのを助ける力がある〜共生社会づくりに中間支援・ネットワーキングの力の活用を」 【支える仕組みの再検討】 ・障害者芸術活動支援センターは中間支援組織。地域のさまざまな資源をつなげていくネットワークハブ。今はない仕組みを分析し、具体的な実践を通じて、環境をつくる。すなわち社会の状況と構造をかえるための仕事をする組織である。各都道府県の支援センターの質の向上が必要、エンパワメントが必要 ・全国7つの物理的エリアによる広域センターがあるが、施策や分野に応じた中間支援も重要。例:〈障害者芸術文化に関する情報〉〈舞台芸術のアクセス〉〈ミュージアムのアクセス〉〈作品等の販売〉〈著作権の保護と活用〉など ・このテーマを協議する協議会の運営、研修内容の調整、アーカイブと発信などのとりまとめ機能が重要 【地域や分野の偏りがない取組の推進】 ・都道府県・自治体による予算格差の見直し ・地方の取り組みの情報収集〜様々な機能が関東と近畿に集中することが多い。北海道、東北、甲信越、東海、中国、四国、九州、沖縄への視座が必要 ・ミュージアムの統括団体やそれに準じる組織へのアプローチと協働が必要〜例:ミュージアム・リサーチ・センター(仮称)との連携 【文化芸術活動の意義や役割の見直し〜ウェルビーイングの視点の確認、評価測定の見直し】 ・推進法に規定する「B心豊かに暮らすことのできる住みよい地域社会」づくりにむけた視点や連携の必要性。心の平穏や、幸せと感じる状況をつくるためには、社会教育・生涯学習からの視点が必要 以上。