参考資料3 関係団体ヒアリングの主な意見 1ページ目 関係団体ヒアリングの主な意見 2ページ目 文化庁 令和3年度 障害者による文化芸術活動の推進に関する実態把握事業 (株式会社ニッセイ基礎研究所委託事業)報告書より抜粋 各分野統括団体のヒアリング 調査概要 開催日 2021年9月1日、8日、10日 計3回/各回2時間程度 会場 オンライン 対象 公益社団法人日本芸能実演家団体協議会の正会員団体、及び文化庁の障害者による文化芸術活動推進事業実施団体を傘下に持つ統括団体などから、音楽、舞踊、演劇、美術など各芸術分野の統括団体のヒアリング対象リストを整理し、文化庁と協議のうえ、次の8団体(各団体1〜3名の参加で計15名)にヒアリングを実施した。 一般社団法人 全国美術館会議 公益社団法人 日本グラフィックデザイン協会 公益社団法人 日本オーケストラ連盟 公益社団法人 日本劇団協議会 一般社団法人 日本演出者協会 一般社団法人 全国専門人形劇団協議会 一般社団法人 日本バレエ団連盟 特定非営利活動法人 ジャパンコンテンポラリーダンスネットワーク 内容 ヒアリングでは以下の項目について意見を聴取した。 障害者を対象とした文化芸術活動の先行モデル 障害者を対象とした文化芸術活動の現状や課題 障害者を対象とした文化芸術活動における連携の在り方 障害者の文化芸術活動の推進における文化芸術団体及び統括団体の役割と今後の可能性 3ページ目 調査結果 @障害者を対象とした文化芸術活動の先行モデル 各芸術分野の表現様式や創作者(実演者)と鑑賞者との関わり方によって、モデル活動の方向性や取組内容が異なる。例えば、以下のような事例が挙げられた。 オーケストラやバレエでは、鑑賞の機会の拡大につながる事例 コンテンポラリーダンスでは、創造の機会の拡大、作品等の発表の機会の確保、障害の有無に関わらず文化芸術活動を通じた交流の促進につながる事例 演劇や人形劇では、聴覚障害や重度障害のある方などのアクセシビリティに取り組むことで鑑賞の機会の拡大につながる事例 美術では鑑賞機会の拡大(映像作品の字幕作成や手話通訳の挿入など)、芸術上価値が高い作品等の評価等(障害者の作品の収蔵など)につながる事例 デザインでは、創造の機会の拡大や作品等の発表の機会の確保、障害者の作品の販売や二次使用を通じた芸術上価値が高い作品等の販売等に係る支援につながる事例 主な意見 オーケストラの場合、存在そのものがコンサートを聴いていただくところからスタートしており、基本的に鑑賞型の事業が中心にある。いわゆる障害のある方を対象に鑑賞を目的としたコンサートを、毎年繰り返してきている団体は数多くある。 バレエでは、自閉症や学習障害など、劇場に行くことが困難な方々も気軽に鑑賞できるよう鑑賞マナーのハードルを下げる「リラックス・パフォーマンス」に取り組む団体がある。客席内に多少のざわめきがあることが想定されるので、一般のお客さまにも、あらかじめご理解いただき、いわば堅苦しい雰囲気ではなく、気軽に楽しむという空気を一緒に楽しんでいただく。 コンテンポラリーダンスでは、障害のある人達によるダンス活動の先駆的なオーガナイザーが、90年代前半に海外から障害のあるダンサーを招聘して、全国でワークショップを行った。また、障害者に特化したワークショップを行う団体や、ワークショップをファシリテートする活動を長くされているダンスアーティストが数多くいる。 演劇分野では、障害のあるお子さん、医療的ケアが必要なお子さん、自閉症など、障害の種類に限らずいろいろなお子さんに見ていただけるパフォーマンスを創作する活動がある。また、人形劇では、ろう者と聴者で一緒に活動している劇団で、お客さまの中にも、聞こえる方、聞こえない方、子どもから大人まで、その他にもいろいろな障害を持った方が、一緒になって楽しめる空間をつくっている。 美術館では、映像作品の展示やオンライン配信用にバリアフリー字幕と手話をつけた事例や、例えばワークショップの活動記録を撮った動画などについても字幕を入れるようにしているという取組がある。また、精神障害や知的障害のある方が作った作品を継続的に収蔵している美術館もある。 おそらく障害のある方の絵画を中心とした創作活動が、一番歴史もある。障害のある方のアートを中心とした創作物を、単にアートの価値だけではなく、もう少し違った社会の価値とするために、障害のある方のアートを商品にデザインしてもらい、展示や製品化して販売し、その使用料はアーティストの方にお支払いする事業を行っている。 4ページ目 A障害者を対象とした文化芸術活動の現状や課題 各芸術分野に共通する課題としては、財源不足、人材育成、関係者の理解、以上の3点に集約できる。 財源不足:プロとボランティアの違いや有償と無償の区別が難しい、小規模な活動や個人の活動は自己負担に依存する傾向がある、助成金などの外部資金の有無で活動の継続が左右される、仕事として持続可能な仕組みが必要 等 人材育成:現場に必要な人材やマンパワーの確保が難しい、ファシリテーターのスキルを学ぶ場がない、経験則のある特定の個人に負担が集中する傾向がある、障害福祉分野の専門性のある外部との連携が必要 等 関係者の理解:文化芸術の領域でも関心のある人が限られている、 「合理的配慮」に対する理解が不足している、社会包摂の活動への評価や効果測定が不十分ではないか、障害者の創作活動に経済的価値を導入することへの違和感 等 主な意見 財源不足 一部の先行例となるオーガナイザーにしか資金が行き渡っていない。ということは、その先のアーティストが仕事を得られる機会が少ないのが現状だ。「やりたい」という声は多いが、アーティストのほうでは、ボランティアだけでは続かない。 障害者施設を訪問して上演をするとなると、多くの場合が、ボランティアでされているのが現状だ。プロのアーティストが、そこに赴いて有償で人形劇を上演することの価値を説明するのは、非常に難しい。人件費を支払おうと頑張っているが、団体としては、実際には持ち出しが結構ある。 例えば文化庁から3年間の支援を頂いていても、その財源で3年間はできるが、財源がなくなると事業ができなくなる。財源がなくなり、そこからボランティアで続けられるのかというと容易ではない。 障害者との活動が長年続いているところは、財団や福祉事業団などと連携してやっている。ただ、個人で障害者施設に通っているアーティストは、ほぼボランティアという形になっている。最終的にはアーティストが自己負担をせざるを得ないところが、実際には多いと思う。そこが継続の大きな悩みになっている。 人材不足 体験活動を提供するアーティストをファシリテーターと呼んでいるが、そのような専門家を育てることも、もう一方で課題だ。スキルを学ぶ場が少なく、アーティストに付いてアシスタントとして学んでいくことが狭き門になっている。そういう事業で人材を育成していくことも必要。 音楽を演奏することに関しては専門家だが、子どもたちや障害のある方々に対して、音楽を「どう伝えるか」は、演奏家自身が必ずしも専門性を持っているわけではない。 そういう専門家を、どう育てていけるか。例えば子どもたちや障害を持った方々と接するときのノウハウについての専門性を持つ協力集団が外にあり、一緒にやっていくほうが、現実的かもしれない。 選択肢の1つとして、障害者によるアートの創作活動をサポートする活動も、仕事になる可能性があるので、そういう仕組みをつくる必要がある。今、福祉施設でも、アート活動を中心にやっているところは、福祉系の学校の卒業生から職員を採るのではなく、美大を卒業した方を職員として採って、福祉の資格を取らせるところも現れはじめている。 5ページ目 障害者をテーマとした企画をやる場合、正直に言うと関心を持つ人が結局限られてしまうということもあり、特定の人に仕事が集中するところがあり、持続性や継続性も失われていくため、そこが一つ問題になる。 関係者の理解 合理的配慮に対する理解、どういう対話をしてどのように合理的配慮を現実的にしていくかの理解が、非常に経験則的なところもある。合理的配慮に対応する相手との対話力、聞く力、そしてそれを現実に落としていくことが必要で、なかなか難しい。 障害のある方の美術作品を販売することに対して抵抗感を持つ人たちは少なくない。「お金を発生させることによって公平性が失われていく」、「これまでお金と無縁でやってきた福祉の世界に問題を引き起こしている」という意見もある。 社会包摂の対象となるような人々だけではなくて、働いている職員も含めて、社会との関わり、接点をつくる上で、われわれの表現活動は非常に意味がある。そこへの評価が不十分なのではないか。 B障害者を対象とした文化芸術活動における連携の在り方 障害者を対象とした文化芸術活動は、芸術団体や文化施設の単体では不可能で、外部との連携が必要である。連携の実践例として、演劇分野では地域の鑑賞団体が、地域の障害者の支援団体などと連携する例がある。ダンス分野では、障害者も含めて誰もがダンスに参加できる「コミュニティダンス」のポータルサイトを準備している。 文化庁の「障害者等による文化芸術活動推進事業」のおかげで障害福祉施設、文化施設、NPOなどと協働する活動が可能になった。そこで生まれた活動は、地方自治体、地域の企業、市民などと連携を広げていく必要がある。連携の拡大や強化のためには継続が大事だが、単年度での事業では難しい。また、連携する意味、目指すところ、信頼関係が重要で、意欲を持って持続的な関係を作る人材が両方に必要との意見が挙がった。 主な意見 何らかの協働団体がなければできない。劇団も、NPO団体にしても、施設にしても、そこに予算があるわけではない。文化庁が支援することになったおかげで、事業をやろうと提案できるようになった。その意味では、非常にプラスに作用している。 地域ごとにボランティアで活動されている団体が非常にたくさんいる。このような団体は、地域の福祉団体と密接につながりながら、定期的に上演の機会を持つといった活動をされている。地域の親子劇場や市民劇場などの鑑賞団体だけではなく、地域の手話サークル、ろうあ協会、様々な障害福祉施設と連携しながら、上演をしている。 日本全国でコミュニティダンスに取り組む個人や団体が登録し、そのサイトに行けば、誰が、どこで、どのような活動をしているかを、見たり検索したりすることができる。そういうポータルサイトを、現在準備している。 モデル事業である程度進めるときには、国のお金を使ってやれるのだが、もう少し細かくなっていった場合には、自治体との関係になり、その自治体の予算をどう作れるのか。文化庁や厚生労働省から各省庁、とくに総務省から各自治体に向けて、こうした事業の認知が得られるように発信される必要があると思う。 鑑賞だけではなくいろいろな手法を積極的に採り入れていきたいと思うが、やはり連携するためにも継続が大事なのだが、単年度事業の難しさは連携のつくり方という面でも、非常に大きなハードルではないか。 6ページ目 市民との連携は一番大きい。市民の中で関心のある人に、こうした分野に参入していただき、一緒に学びながら進めていく。連携する意味と目指す姿を共有し、信頼関係を結べる相手先が何より重要なので、持続的に意欲を持ってつくれる人材が両方に必要だ。 C文化芸術団体及び統括団体の役割と今後の可能性 障害者文化芸術活動を推進するネットワークを形成し、成功事例や苦労した経験などの情報を共有しながら、意見交換や学び合う機会を作ることや、職能団体として、障害者文化芸術活動に関わる専門知を育み、文化芸術の社会的な価値を示していくことが、プロフェッショナルとして活動する上で、とても重要だという声が聞かれた。 社会包摂に関する考え方や国際的な潮流、評価や学びの場があるといいのではないか。 文化芸術と社会との関わりを視野に入れた言語化や批評のあり方が課題だとの指摘もあった。 【主な意見】 まずネットワークをつくることが大事だと思う。加えて、互いの情報共有や学び合いが必須だ。こういう活動をできる人を増やして、継続してやっていくということが大事なのではないか。 今はZoomができるようになったので、担当者が一堂に会して「こういうことをやって成功している、うまくいっている」という情報を共有する場ができるだろう。 いろいろな方々の経験を聞きたいと思うし、何か手助けになるならば、苦労や道筋というものも共有できる場があればいい。こういった意見交換の機会やジャンルを超えて勉強させていただくような機会があれば、大変ありがたい。 職能団体として社会に伝えていく。国や企業と連携しながら、文化芸術の価値を高め、社会貢献ができる活動にしていけるように、いろいろな形で貢献ができればいい。 海外の美術館では、エデュケーションやラーニングといわれる、教育に直接関わるところと、エンゲージメントやアクセシビリティの専門性は、別の担当者になっていて、その領域での専門知というのが団体の中でも育まれている。 世の中のSDGsのような考え方やパラリンピックにしても、その背景や国際的な潮流があると思うが、そうした部分の評価や学びの場ができるといいのではないか。 文化芸術と社会の関わりを視野に入れて何かを批評していくという分野が、大学でもほとんどなく、研究者がいない。まずは研修や学ぶ場、知る場をどうやって増やしていくかが、そうした批評の場もつくっていくことにつながるのではないか。 7ページ目 (3)先行モデル団体のヒアリング 調査概要 開催日 2022年2月4日(2回)、7日、21日 計4回/各回2時間程度 会場 オンライン 対象 「各分野統括団体のヒアリング」で情報を収集した先行モデルに加え、専門研究会からの助言や情報提供、インターネット検索等を行い、各芸術分野において障害者の文化芸術活動に取り組む先行モデル団体をリストに整理し、文化庁と協議のうえ、次の15団体及び個人(各団体1〜2名の参加で計22名)にヒアリングを実施した。 愛媛県立美術館 エイブルアート・カンパニー 公益財団法人 東京交響楽団 公益財団法人 日本フィルハーモニー交響楽団 澤村祐司 デフ・パペットシアター・ひとみ 特定非営利活動法人 シアタープランニングネットワーク 宝塚歌劇 特定非営利活動法人 アートワークショップすんぷちょ 新井英夫 公益財団法人 スターダンサーズ・バレエ団 とつとつダンス アーツカウンシルしずおか 特定非営利活動法人 STスポット横浜 一般社団法人 日本障害者舞台芸術協働機構 内容 ヒアリングでは以下の項目について意見を聴取した。 障害者を対象とした文化芸術活動の実績、取り組み内容(鑑賞、創造、発表、交流等)、成果 障害者を対象とした文化芸術活動に必要な配慮や工夫(アクセシビリティ、支援方法等) 障害者を対象とした文化芸術活動に取り組む際の問題点、課題 障害者を対象とした文化芸術活動での連携すべき機関や連携方法(文化施設、障害者福祉施設、障害者芸術文化活動支援センター等) 障害者の文化芸術活動の推進における文化芸術団体の役割と今後の可能性 8ページ目 調査結果 @障害者を対象とした文化芸術活動の実績、取り組み内容 先行モデル団体が実施する障害者を対象とした文化芸術活動の取組内容としては、鑑賞や創造の機会の拡大、芸術上価値が高い作品等の評価や販売等に係る支援、文化芸術活動を通じた交流の促進、関係者の連携協力など、多岐に渡る事業を行っている。 とくに鑑賞機会の拡大では、様々な障害の種別に対応するための合理的配慮や、新たな鑑賞のあり方を開拓するような取組も生まれており、アクセシビリティの向上という側面のみならず、文化芸術ならではの創造的なコミュニケーションが見られる。 主な意見 鑑賞の機会の拡大 大規模集客施設である劇場のバリアフリーでは、この数年で多機能トイレの充実などに取り組んできた。現在は、公演の台本データを入れて、特殊なシールを貼ったタブレットの貸出を行っている。字幕表示とは違い、お客様ご自身でページめくりの操作をしながら台本を見てもらうためのタブレットの貸し出しという形に行き着いた。 舞台芸術関係の、劇場や実演団体の皆さんに向けて、公演鑑賞における障害のある人たちのサポートやサービスのショーケースとフォーラムを開催している。どういったサポートやサービスがあって、どのようにやるのか、予算は幾らぐらいか、そうした情報やノウハウを共有するために取り組んでいる。 通常の劇場で鑑賞することが困難な知的障害児、肢体不自由児、重度重複障害あるいは医療的ケアが必要な子どもたちや、その家族を対象とした「ホスピタルシアタープロジェクト」という演劇の鑑賞活動を行っている。欧米で広がりを見せているインクルーシブをベースとしたイマーシブシアター(体験型演劇作品)だ。 通常の演劇公演では観劇が難しい、重度障害や自閉症の子どもたちなどに向けて、触覚、音感、時には味覚やにおいなど、五感をフル活用し、俳優とのコミュニケーションを通じて、演劇を純粋に楽しめる「多感覚演劇」の創作と上演を実践した。多感覚演劇の特徴は観客が非常に少人数で、4組から6組の家族を対象に上演している。 視覚障害者との対話型鑑賞法をきっかけに、絵画をどのようにして視覚障害のある方と一緒に楽しむことができるのか、触図(平面作品に凹凸を付けた絵画)を使った展覧会を開催した。また、触覚に残る記憶で作品作りに取り組んでいる造形作家を招き、そういう作品があることを皆さんに知ってもらった。 創造の機会の拡大 オーケストラの楽団員が、特別支援学校の参加者と音楽を一緒に作るという音楽ワークショップを行った。つくり上げたモチーフを一つの曲にして、音楽祭の本編のプログラムの中で、プロのオーケストラが演奏するというプロジェクトを英国の団体と連携して実施した。 アーティストや哲学者などが関わり、認知症の高齢者や認知的な障害のある方々と一緒に作品づくりやワークショップで、さまざまな舞台や展覧会などの企画をしている団体と地域の老人ホームが協働し、コーディネートをする立場の人とアーティストが連携をとりながら、長年プロジェクトを行っている。 ご高齢のろう者の方々と一緒にやっていくプロジェクトで、子どもの時の遊びの絵を描いていただき、それをさらに身体を使ったパフォーマンスにしていただくというワークショップを行った。お話を伺うことで、自分たちの表現もアップデートされていくし、新たな知見を得ることができる。 9ページ目 芸術上価値が高い作品等の評価等 各地の障害者の公募展で審査員の業務を請け負っており、いわゆる優れた芸術表現を紹介する活動をしている。その一方で、裾野を広げる活動もやっていて、表現とすら見られない活動も、表現未満として認めていこうという活動などを支援したり、いわゆる間をつなぐこともしている。 芸術上価値が高い作品等の販売等に係る支援 障害のある人がアートを仕事にできる環境をつくるため、障害のあるアーティストの作品データをデジタル管理する著作権活用のエージェントを設立。公募による登録アーティストの作品をWeb上で公開することで企業とのマッチングをし、グッズ化や印刷物への活用などを通じて仕事の機会を増やしている。 文化芸術活動を通じた交流の促進 演劇、ダンス、音楽など様々なワークショップを展開している障害福祉施設がある。利用者が生き生きと生きるため、利用者の魅力に支援者が気付くため、もしくは、支援する・されるという関係を打ち破った関係をつくるために必要だという考え方や、地域住民と交流するなど、地域に開く活動も特徴的である。 関係者の連携協力 NPOの立場で助成金の事務局を担当する中で、特別支援学校・学級の子どもたちと出会う機会があり、地域の福祉に関わるアート活動が非常増えた。県とNPOがパートナーシップを組んで共同事業で基盤整備をして、その後、厚生労働省の「障害者芸術文化活動普及支援事業」で県の支援センターを担当することになった。 助成事業や伴走支援を行う中間支援組織として、一番大事にしているのは「みんなが表現者になる」ということだ。今年度の助成先には障害福祉関係が3団体ある。アーティストが絡むプログラムが多いが、障害のある子どもたちと家族、支援者と一緒に、本人たちのより良い日常生活につなげるという考えで、伴走支援を行っている。 A障害者を対象とした文化芸術活動に必要な配慮や工夫 先行モデル団体の個別の取組では、障害のある方やその家族に対しても、細やかで丁寧な配慮や工夫に努められている。そうした配慮や工夫の前提として、障害、障壁、困難は一人ひとり異なり、また環境によっても異なっていることや、活動に関わる人たちが情報や感覚の共有が重要である。 そのうえで、障害のある方、家族、支援者との信頼関係と丁寧な説明、視覚や聴覚などに障害のある方への情報保障、文化芸術と障害福祉の「翻訳」や丁寧なコミュニケーションが求められている。 主な意見 配慮や工夫の前提となる考え方や姿勢 障害のある方に対して、そもそも鑑賞機会が平等ではないというところからスタートしている。公演へのお誘い、ご案内は、特別支援学校や、普段あまり劇場への興味の扉を閉ざしているご家庭に向けての難しさもあるが、より丁寧にやっていかなければならない。 障害のある方に限らず、高齢者の方や、小さいお子さんもセットで考えるようにしている。その中で、車椅子や杖をついていらっしゃる方は見たときにわかるが、例えば耳が不自由な方は、外からは見えない。同じ場所にいろいろな人が来られて、それぞれの事情をどう斟酌して対応していくか、そこが一番難しいところだ。 10ページ目 鑑賞に当たっての障害、障壁、困難を取り除くことが求められるが、何が困難かは、その人によっても、その環境によっても違う。公平性は鑑賞機会をサービスする立場では大事だが、障害のある方に対してはそれだけではいけない。いかに障害のある方とダイレクトにつながって、ご希望を吸い上げるのがとても大事なことだ。必要な配慮や工夫は一言では言えない。一人ひとりオーダーメードのサービスや配慮をポイントに考えている。 すべての音楽家が、障害者や障害のある子どもたちと一緒に音楽をつくったり、ワークショップをしたりすることに長けているわけではない。メンバーの人選では、コミュニケーションの仕方が非常にフラットな視点を元々持つ人に声をかけた。 障害者の文化芸術活動に関わる人たちは多岐に渡るので、それぞれでのゴールの持ちようが様々だ。このような活動をするたびに、情報や感覚を共有させることが一番の大きな課題で、外せないところだと思う。 いかに多様な人が参加できるかということを評価の一つに取り入れている。ハンディキャップを持った人が参加できる環境をプログラムの中にいかに入れているかということを常に問い続けている。 障害の特性に応じて、どういうアイデアを出すと楽しんでもらえるかを考えて、稽古でクリエーションしていくことが、とても楽しい取り組みだ。配慮といえば配慮だが、障害による特性が、私たちのクリエイティビティも刺激をするところもある。 障害のある方や支援者との信頼関係と丁寧な説明 特別養護老人ホームなのでワークショップをする場合、常に看護師や介護士の専門家の方が一緒にいてくれて、お任せすることができるように、アーティストやコーディネートの事務局は、信頼関係を築きながらやるのがまず大事だ。その場の日常や職員の方のルーティンワークや生活習慣を邪魔しないようにしている。 障害のある人のアートをグッズや印刷物に活用する際に、契約を丁寧にすることは心がけている。仕事としてアートを使うことに関して、例えばグッズとして展開するためにはデザインの変更もあり得るなど作家の皆さんに説明し、時間をかけてヒアリングをする。作家の権利を一番大切にしたいと思っている。 インクルーシブシアターで申し込みを受けた時に、お子さんの障害の種類、程度、苦手なもの、必要な配慮を確認する。とくに自閉症の子たちのために、今日は何を見に行く、誰に会う、何が起こるという資料(ソーシャルストーリー)を事前に伝えることで、心の準備をすることができる。 自閉症のお子さん向けの公演の場合は、必ず事前のヒアリングで「こういった取り組みで、こういう素材や小道具が出てきます。苦手な物はないですか?」ということを聞く。私たちの準備のためでもあるが、ご家族の方の安心にもつながる。 劇場での公演鑑賞では、暗い中でご覧いただくので、場面によっては精神的に不安定になって声を出してしまう方もいる。それに遭遇された周りの方が、どう受け取ってもらえるか。残念ながら、大変厳しいお言葉をおっしゃる方も、出てくる。 健常児の親御さんから「落ち着いて音楽を聞きたかったのに」という意見が時々くるが、逆に障害児の親御さんからは感謝される。障害のあるお子さんを抱えている家族は、ひたすら迷惑をかけたと謝っている。子どもたちを疎外しない、親が謝らなくて済む環境を準備しなければいけない。 11ページ目 障害のあるお子さんを持つ親御さんとお話しすると、疎外感や取り残され感を持つ方が少なくない。そのため、文化芸術活動の機会を周知するにしても、そういう情報を集めるというアンテナがないのかもしれない。 視覚・聴覚に障害のある方への情報保障 ワークショップなどの活動の際に、見えていない方々に、今どのような状況なのかが分かるように、参加者の人数や、どういう部屋なのかという安心材料などを、できるだけ言葉で伝えるように配慮している。 公演では情報保障として手話通訳に付いてもらうことが重要になる。開演前の「地震が起きたときには落ち着いてスタッフの指示に従ってください」と言うアナウンスでは、舞台上でアナウンスの内容を手話で通訳していただくことが多い。ワークショップなどを行うとき、ろう者の方も必ずしも手話だけではないので、音声による日本語のみならず、体を使った表現や、表情を豊かに使った表現で情報が行き渡るように、心掛けている。 各地のろう者の方にも人形劇を楽しんでもらうため、地域ごとに協力してくれる方々を募って一緒に公演を作るスタイルを長年続けてきたが、それが今は難しくなってきている。主にスマートフォンなどのデバイスやIT技術によって情報保障が進む反面、地域の手話サークルや、ろうあ協会など、ろう者と聴者が一緒にイベントをつくることが、今は非常に弱くなってきている。 移動支援が必要な人は、ガイドヘルパーや同行援護者を申しまなければならず、支援を受ける時間も各都道府県や市町村で決まっている。そのため、割と大都市で行う事業では、視覚に障害のある人たちのために時間を決めて駅までの送迎をし、客席まで手引きをして連れて行く。 介助者と動くことが多い視覚障害者は、介助者の申し込みがあり、1カ月前くらいには予定を組む。そのため開催日より1〜2か月早めに情報が届くように心掛けている。情報の伝達手段としては、通常の広報物では届かない場合もあるので、視覚障害者協会にお願いして、連絡網などを使って発信していただいている。 視覚や聴覚の障害のある方に対しては、文化芸術の鑑賞機会のための情報サービスや、鑑賞の際の情報保障が大事だ。同時に、文化芸術の体験を通じたコミュニケーション、意思疎通を図る支援も必要ではないか。 視覚障害者に対して、メールで写真などの画像で送られると、PCやスマートフォンの「VoiceOver」という音声ガイド機能では情報を読み上げてくれない。送られてきたエクセル、ワード、それからテキストファイルは読むことができるのだが、写真が混在したものは難しい。 劇場での視覚障害者向けの音声ガイドで、ガイドの量が多すぎると、演劇や音楽に集中できなかったりして、その辺が難しい。 文化芸術と障害福祉の「翻訳」、丁寧なコミュニケーション 障害者を対象とした文化芸術活動で、とくに福祉系の支援団体には文化芸術寄りの言葉をきちんとかみ砕いて伝えて、福祉側の言葉に置き換えられるものは置き換えている。 12ページ目 「翻訳」が重要なキーワードだと思う。文化芸術の関係者が自分たちの言葉だけで話し続けてしまうと溝が広がってしまう。「アート」や「アーティスト」を振りかざすと相手も警戒してしまう。相手の求めているものに寄り添う態度でスタートしている。 障害者の文化芸術活動に関する相談支援で、精神障害や発達障害のある方から、誰かに見てほしい、認めてほしい、仲間とつながって一緒に楽しみを広げたいという相談がある。なるべくお話を聞いて、コミュニケーションに満足していただけるようにと思っている。 B障害者を対象とした文化芸術活動に取り組む際の問題点、課題 各分野統括団体のヒアリングでも述べられたように、多くの場合が単年度での助成金に頼らざるを得ず、不安定な財源のために継続性に問題が生じているという意見や、障害福祉に携わる人々の文化芸術に対する理解や関心の度合いによって、社会に向けて活動を伝えること、広げることが難しい状況もあるという意見が聞かれた。 また、文化施設のハード・ソフト両面の障壁によって、障害者が受け入れられる場として認知されていないこと、著作権や肖像権などの制度と運用で課題が聞かれた。 主な意見 不安定な財源と継続性の問題 例えば特別支援学校でのワークショップを年間で5、6回して最後に成果発表をやったとして、いい関係ができて「来年またお願いします」と言われても、行けるかどうかは助成金の採択やコーディネーターとのマッチングがうまくいくかなどの問題があって、継続性が難しいケースが多い。 どうしても予算と現場の体力が必要になる。「今回はとても良かった、楽しかった」で終わらずに、この先どうしていくのか、3年、5年、10年と地味に続けていく信頼関係が必要だ。それだけの継続した予算と、現場の体力がないと続けていけない。 文化施設の側では、予算が非常に限られていて、ワークショップの企画を立てられるとしても、子ども向けか、障害者向けか、高齢者向けの選択肢の中から1本しかできないという縛りの中で仕事をされている事情がある。 鑑賞機会を特別支援学校のような所へのお声掛けをしたいと思うが、単年度ごとの助成金が財源になると、3月末頃に採択結果を頂いてから劇場などに相談すると、その時点で予算は決まっているから何もできない、というケースがある。 障害者の文化芸術活動に取り組んだあとの課題よりも、取り組む前の課題の方が大きい。1つ目は資源で、人的あるいは経済的資源が限られていて、どんなにいい機会やチャンスが目の前に転がっていてもそれを拾う余力がない。2つ目はネットワークで、関心がある方や必要とする方とつながることが難しい。ニーズは潜在的にはあるが、具体的なニーズとのマッチングが必要。 文化芸術に対する理解や関心の度合い 障害福祉施設の側では、「文化芸術」という言葉の解釈の幅が狭いことがある。多様な表現のあり方が許容できるかは、そういった文化芸術に職員が触れてきているかという問題もある。 障害者を対象とした展覧会で取り上げられるのは、障害福祉施設や絵画教室に所属している作品が非常に多く、パターン化した表現が非常に多い。また、評価する人や発見者が、表現として認知できないこともある。 13ページ目 障害者の周囲の人たちが表現行為の支援者やサポート役になっているのか、それとも表現行為に対して反対や無関心かによって、当事者の文化芸術活動を大きく左右する。障害福祉サービス事業の一環として取り組むためには、障害者の普段の生活支援と文化芸術活動をつなぐ視点が重要である。 障害福祉施設の方も、文化芸術活動が良いとは分かっていても、それを外に発信しづらいことが課題だ。障害のある方の文化芸術活動の社会的効果が、まだあまり示されていない。今後、この活動の意義を、アートやケアの文脈を超えて、言語化や映像化して、伝えていく必要がある。 地域に広がっていくような活動を展開している障害福祉施設はあるのだが、周囲の施設の理解の広がりや活動の波及効果がなかなか見られにくい。 文化施設のハード・ソフト両面の障壁 ホールの客席内の階段など、人的な配慮ではいかんともしがたい障壁なので、その辺りは施設管理面から全国的に改善いただけるといいと思う。 美術館の施設整備に関わることとして、視覚障害者向けに音声案内や展示印刷物などを作るとなると、やはり費用がかかるということが、今の問題になっている。 障害のある子どもたちの週末のおでかけや家族のレクリエーションの中に、家族で劇場に見に行くという選択肢が入ってこない。公立の施設でも配慮が整っていないところがあり、むしろ「私たちをどこが受け入れてくれるのだろう」と思っている。地域の中で、舞台芸術を家族で見る、アクセスするというシナプスがつなげることが重要だ。 障害者の方にどういう形で参加してもらうのかという中に、文化芸術活動の場を維持するという視点がこれから要るのではないか。著作権、助成金、指定管理の問題などもあるが、集約すると、場所をどのように維持していくのかになると思う。 今まで、障害のある人たちが一度も行けるような環境がなく、「字幕を付けたので来てください」と周知しても来ない。「やはり来ないじゃないか」と言われても、それは来ないだろう。劇場はこういうところだということを練習する学びの機会もないのに、変化は期待できない。 リラックス・パフォーマンスの場合は、その当日までどういう方がお見えになるのか分からない、というのが難しい点だ。それはチケット販売委託のシステムと密接につながっていて、主催者が販売段階で障害のある方の座席をコントロールができない。もし事前に把握できていれば、購入した方に事前の情報も確実に届けることができる。 著作権や肖像権などの制度と運用 演劇公演でろう者用の台本データのタブレットの貸し出しで、台本及び既成の音楽の歌詞を生じする場合に著作権の処理をしている。上演は比較的許諾を取りやすいが、タブレットで台本を表示するのは出版に該当してハードルが上がり、さらに外国の楽曲の場合、許諾を得るのが実質的に不可能な場合が多い。その結果例えばミュージカルでも歌詞が表示できないため、鑑賞の質が落ち、そのことでクレームも受けてい るのが実情。現場の努力ではカバーできない法制度上の課題である。 施設の中での取り組みなので、閉じた活動になりがちで、どこまでオープンにする必要があるのかの議論も必要で、なかなか広く知っていただくことが難しい。美術と比較すると、ダンスなどの舞台芸術では著作権や肖像権の認知が低いと感じることもある。特に口頭での意思確認ができない相手との著作権や肖像権が課題である。 14ページ目 C障害者を対象とした文化芸術活動での連携すべき機関や連携方法 先行モデル団体が今までに取り組んできた活動から、博物館、美術館、劇場、ホール等の文化施設との連携が必要で、とくに鑑賞機会での合理的配慮には連携が不可欠だと言える。一方、障害福祉施設、特別支援学校、当事者団体、支援団体との連携では、情報の収集や発信、地域の支援の輪を広げることが期待されている。 また、文化芸術や障害福祉という分野に限らず、市民活動や生涯学習、地域のNPOなどに連携先を広げることや、経済的な側面では企業と、教育や研究的な側面では大学等との連携を望む意見が挙がっている。 主な意見 博物館、美術館、劇場、ホール等の文化施設との連携 類似する活動を行う美術館や博物館に視察に行き、どういう活動をしているのかという取り組み事例などの情報を共有しているが、分野に限ることなく、いろいろな団体と何か連携や情報交換ができるといい。 劇場が合理的配慮にどう対応していくのか、避けて通れない問題だ。公共劇場と民間劇場の交流の場がほとんどない。それぞれやっているノウハウの共有は個人に依存しているので、そこをいい形でつなぎ合わせてくれる場があるといい。 文化施設の合理的配慮について、何らかの基準が要るのではないか。例えば、合理的配慮に積極的に取り組む事例が紹介されて「こういうことができた施設は優良施設ですよ」と認定されるものが考えられる。そのような制度があれば利用者に安心してもらえるかもしれないし、文化施設側も、取得することでモチベーションも湧いてくる。 考えられる基準として、ハード面では、工事をして済むような部分は、ある程度、施設改修などでできるのではないか。ソフト面では、職員研修を定期的にやっているか。サービス介助士などの資格を持つ人がいて、研修のリーダーになって職員に情報共有していくことで、資格取得者を増やし、業務従事者全体に広がると思う。 リラックス・パフォーマンスでは連携したい機関は劇場やホールだ。劇場・ホールとの提携の有無や関係の密度で、リラックス・パフォーマンスの結果にも影響が出てきている。芸術団体から福祉施設や特別支援学校などにアプローチをしても、信頼してもらえない感触があるが、劇場・ホールから自治体や教育委員会を通じて社会福祉施設にアプローチすると信頼されることもある。 劇場やホールなどが「忙しい、手が割けない、コストの問題」は必ず出てくると思う。そういったときに、どこかが専任して必ずやらなければいけないのではなく、民間団体と協働することで配慮の輪が広がっていく。 障害福祉施設、特別支援学校、当事者団体、支援団体との連携 近所の障害福祉施設や近隣の市町村からまず情報交換や連携を取ってみるのも大事だ。その一方で、遠方にでも活動の趣旨に賛同する施設があれば、国内外を問わず遠くのところと連携しようという感覚を両方持ち合わせておきたい。 地域的にも柔軟に小回りが利くような対応するためには、地域に根ざした活動ができる地盤が必要。文化芸術にアクセスするための福祉施設側とのネットワークが築けるといい。そのためにも行政との連携や、行政の先の施設と、どうネットワークをつくっていくのかが課題だ。 15ページ目 障害者支援団体や特別支援学校などとは連携をしながら取り組んでいる。そういう立場から障害者の社会状況の情報収集や、活動の助言をいただき、併せて情報発信などをさせてもらっている。 障害種別での家族の会が必ず全国にある。同じ障害を持つご家族同士の連携が強いことが分かってきた。そういった家族の会など、小さいネットワークに働きかけることで、針の穴から大きくするように地道に続けている。 ろう者関係のネットワークは、基本的にろう者同士のネットワークであることが多い。そういったところとは関係のない団体、例えば親子劇場、地域の文化施設、近隣で商店を営んでいる方などを巻き込まないと、多様な観客が集える空間はつくれない。 情報提供では、特別支援学校当事者の組織などと連携している。聴覚障害、視覚障害の方にご来場を呼び掛けるときは社会福祉関係機関だ。 文化芸術側でいうと、支援者との連携が一番大切になってくるかと思う。サポーターであるご家族とも一緒に周囲も支援していくようなスタイルが大切だ。 市民活動、生涯学習活動、NPOとの連携 劇場やホールが地域課題解決という形でワークショップやアウトリーチをやっていても、本当に地域のニーズに合って地域の細かな市民活動まで手が届いているのか。施設が全部背負ってやるのではなくて、市民活動のようなものと細かに連携していけないだろうか。 障害や芸術文化に限らず、生涯学習や地域の中の活動、市民活動のようなところまで範囲を広げても、障害のある方の芸術文化にまつわる活動はたくさんある。そこまで視野を広げて、連携の幅を広げていけるといい。 障害者との文化芸術活動の機会をつくる場合は、芸術関係に限らず、現場に根差した活動をされている草の根の市民活動やNPOの方々と活動をつくったほうがいいも のができる。 企業との連携 障害者にとって経済的自立をどう図っていくか。つまり、表現活動をどう仕事にしていくかが大きな問題だ。障害者の芸術作品の国内の販路がなかなかないので、きちんと作品を評価してギャラリーと契約し、販路を開拓するのが課題の一つだ。 障害者の作品をデザインの素材として扱っていく窓口も開いていない中で、その窓口を担う可能性として、広告代理店とつながってもよいのではないか。広告代理店の理解やネットワークはもっと必要だろう。 障害のある人のアートを広げていくために、企業と一緒に動くことで広がっていく可能性がある。アイデアを一緒に考えていけるような企業やクライアントとの協働が大事ではないか。 大学等の教育機関との連携 地域の芸術系大学とのリンクも重要だ。セミプロからプロの活動に展開できることを望んでいる。 大学のような教育機関が巻き込まれていくことによって状況が変わると思ってきたが、社会的に根付いているかというと、まだそういう地点には至っていないというのが正直なところだ。 16ページ目 D障害者の文化芸術活動の推進における文化芸術団体の役割と今後の可能性 文化芸術団体が障害者の文化芸術活動を推進していくためには、文化芸術と障害福祉といった縦割りの分野を横断し、越境するような協働に意欲を持つ意見や、障害のある方が生み出す多様な表現との出会いによって、アーティストや文化芸術団体の創造性が高められるという意見が聞かれた。また、文化芸術が有する社会的な価値を提示するモデルやムーブメントとして、障害者の文化芸術活動を広げていくことが必要との意見が挙がっている。 主な意見 分野を横断、越境するような協働 例えば、福祉の資格はないけれども福祉の施設にアーティストが関わったり、教員の免許はないけれども教育の現場にアーティストが何か関わったりするような仕組みがあるとよいと思う。社会全体が、専門化していく視点だけではなくて、多分野で協働する仕組みをもう少し考えていけるようになるとよい。 フリーの立場やアーティストやNPOは、縦割りの分野やジャンルを横断、越境できるところが、強みだ。 障害のある人たちも参加できるような環境をつくるために、福祉的な側面を強化することももちろん大切だが、芸術的な側面を強化して、結果として多様な人たちが参加できるような環境になるという道もあるのではないか。 多様な表現との出会いによって文化芸術の創造性が高められる アーティストの本質として、未知のものをいかにして楽しめるかという部分はすごく大事な部分だと思う。アーティストが関わることによって、課題のように思われる事態に創造力や表現力で、それ自体が素敵かどうかという判断がされる世の中になれば、寛容な場が広がっていく。翻って芸術団体にとって、芸術とは何かをと問いかけて、自分たちの創造性を押し上げるきっかけにもなる。 ミュージシャンで、ご自身が主催するライブの際に、共演相手として精神障害のある人たちとコラボレーションしている人がいる。こうした活動を通じて、アーティスト自身のクリエーションに還っていくこともあり得ると感じている。 自分自身はアーティストであると同時に、障害のある人と同じように生きづらさや偏りがあると思う。だから自分は表現をやる人間という生き方を選んでいるのだ、と共感してしまう。人のためにやらなければという感じではなくて、みんなが享受していくようになれればいいと思う。 芸術だからこそ障害のある方と一緒にできて、社会にお伝えできることがあると思っている。芸術の実践の中に、多様性の包含があることは面白い。それは障害のある方との取り組みをしてあらためて感じている。芸術団体にとって、障害のある方に伝えて一緒にやることは、とても本質的なことだ。ここを促進し、関心を持ってもらう機会としても、芸術団体の役割があるのではないか。 文化芸術の社会的価値を提示するモデルやムーブメント 視覚に障害のある演奏家として、文化庁の支援の下で学校公演に行かせてもらえる機会があれば、やはり盲学校などにも積極的に出向いていけたらと思う。同じ立場でプロとして活動している先輩がいるということ、何かの道で勉強して頑張れば、生きる道があることを知るきっかけになると思う。 17ページ目 ピラミッドの頂点を目指すような優れた芸術作品を生み出す活動も大事だが、日常の中から生まれているものを表現として認めて、いかに裾野を広げていくか。地域の中で、「それが表現だ」と認める発見者の存在を増やすことで、地域でのアートプロジェクトのマネジメント人材の育成にもつながる。 芸術面においても経営面においても、通常の文化芸術団体に要求することが不可能な、ある種のモデル事業だ。文化政策や福祉政策を動かすロビー活動も不可欠なのかもしれない。これまで舞台芸術分野の障害者と関わる団体はまとまりを欠いてきた。大きなムーブメントをつくるためにはまとまらなければならない。 18ページ目 関係団体ヒアリングの意見 令和4年2月 「文化庁 令和3年度障害者等による文化芸術活動推進事業」により実施したヒアリング 議事録より抜粋 (ヒアリング順に掲載) 一般社団法人全国手をつなぐ育成会連合会(久保厚子会長、田中正博専務理事) <第1期障害者文化芸術活動推進基本計画期間の現状認識について> この計画には当会会長の久保も委員として参加しており、先ほど紹介したオリ・パラネットの、全国の28団体だったり29団体だったりしているが、相当数の皆さまの声を反映して方向性を強く訴えている。基本的には施策の方向性は詳細に示されているし大変充実していると思う。しかしながら施策が多様であり、まだ十分に整っていない点もあると認識している。具体的には、この検討会の手前のときに用意されていた、文化芸術活動の推進に関する施策の総合的かつ効果的な推進のために、厚生労働省と文化庁のそれぞれの担当の皆さんが、現状では残念ながら独自に施策を展開しつつあるのではないか。それぞれ足並みをそろえていただくことが大事なので、より一層連携強化をしていただければと思う。資料にも書いたが、2018年以降、両省で集まっての文化芸術活動推進有識者会議が開かれていない。ぜひこの会議を再開して、それぞれが結節点を見いだしていただければと思う。 また残念ながら、地方自治体において障害者の文化芸術を推進する基本計画策定や予算確保が、十分に進んでいない実態がある。それぞれ資料に数字を挙げているが、低調な感じになっている。これらに関しては、障害者が多様な文化芸術活動に全国どこからでも参加できることが大事だと思うので、国の責務、地方公共団体の責務を明確にして。 先ほどもお伝えした、厚生労働省と文化庁の文化芸術の推進に関する連携会議を開いて、この地方公共団体の動きをフォローしていただきたい。また財政措置の施策に関するアドバイスも頂きたい。 それから行政と福祉業者の民間団体などとの連携が不可欠となっている。現状ではこれらのパートナーシップも残念ながら十分整っていないのではないか。特に、障害者芸術文化普及事業団体における全国連携事務局などと、私たちのオリ・パラネットは、残念ながらまだ十分に出会っていない。私たちとしては全国組織を連ねているところで、ハブとして役立ちたい。ぜひ活用してほしいと思っているので、積極的につながりを持っていただければと思う。きょうようやくこのウェブ会議で出会えたのでよろしくお願いする。 最後になるが、施策を講じる際に重点的に取り組む事項としては、鑑賞・創作・発表などの場や機会をつくる過程において、障害当事者が積極的に参画できる体制整備がある。日本博においても、そういった視点で創造的に創造するということで、皆さんと一緒に取り組んできた成果をレガシーにしていければと思う。一部の取り組みで優れた実践が展開されている、で終わらないようにしていく必要があるかと思う。ぜひその点で私たちは現状を把握していると理解いただきたい。 <第2期障害者文化芸術活動推進基本計画に期待すること> 今回オリ・パラを契機とした日本博が3年間にわたって全国の7つのブロックで展開されたので、展示・鑑賞・発表の場が広がった。残念ながらコロナによってリアルでの開催が難しい側面もあったが、逆にウェブ配信機能などに力を注いで、世界の皆さんには来てもらえなかったけれども、伝える機会にはなったかと思う。そこはより強化していきたい。基本的にこういった大きなイベントがあると、知名度が上がることは実感している。今後のこうしたアピールの機会については、日本博も引き続き文化庁で予算を取って進めると聞いているので、続けて関わっていきたい。 一方で障害者芸術文化の裾野を広げる全国各地の動きについては、障害者団体によるもの、障害福祉現場での対応、創作・創造活動が活発に行われていくということに関して、きょうご参加の皆さんも方向性は一致している。上手にこれらのつながりをつくっていただき、活発に行われ続けるということについて。現状認識でもお伝えしたが、特に障害者芸術文化活動普及支援事業は、ブロックレベル、全国レベルで位置付けていただいている。福祉現場に立脚した地道な活動であり、まだまだ日常のプログラム、事業所のプログラムなどであり、障害者が芸術文化に接する機会が少ないところがある。その役割を担っている皆さまには、身近なところでやれることをブロックレベルで、全国レベルに関しては、私たちのようなつながりがある団体と上手に接して、さまざまな角度で関わりを持っていただければと思う。その意味では、当事者団体が芸術文化に関する展覧会や発表会などに取り組むことに関しても、当事者参画ということで、都道府県の支援センターが開催する支援の仕組みを整え、あるいは質の高い展覧会が行えるように、経費助成の面でも文化庁や厚生労働省にご配慮いただければと思う。 また、障害者が地域の中で日常的に、当たり前に文化活動ができるように、継続的に活動できる複数の拠点を、福祉現場だけでなくさまざまな公共的な場所が活用できるよう、仕組みを工夫していただければと思う。そこは展覧会機能も担えるし、創作活動も行われるというイメージを持っていただければと思う。これには社会教育施設、美術館、芸術、音楽堂といったさまざまな公共施設もあるが、映画館でも今回バリアフリー映画などを上映しているので、その位置付けの中で、利用しやすい映画館が誰でも行ける場所になるという視点も含めて、開かれた場所と理解して、活用できるようにしてほしい。 障害者の鑑賞・創造・体験する多様な機会が今回基本計画の中でさらに生かされていくように、第2期においても強調していっていただきたい。先ほどDPIの尾上さんからもお話があったが、障害者差別解消法が改正されたので、遅くても令和6年までには、民間事業者における合理的配慮の義務化が徹底される。芸術文化などを障害のある立場で鑑賞する際の、公設・民営を問わずの、美術館、映画館、劇場、音楽堂などにおける車椅子対応の改善。映画館における情報保障の拡充。知的発達障害の方たちにおいては特性の理解などが必要になるので、ビッグ・アイが行っていたような、芸術文化などを提供する事業者に対する研修を再度復活して、さらに全国レベルで強化して展開することで、さまざまな人たちが使いやすい環境を得られるのではないか。 19ページ目 また、使い勝手が悪い背景には各省庁の制度の谷間があって、その谷間に落ち込む問題が差別解消を阻むのではないかともいわれている。文化芸術活動におけるワンストップ相談窓口についても、先ほどの厚生労働省と文化庁の連携会議などを強化して、そこに留意するような段取りをお願いできればと思う。 最後になるが、学校教育におけるバリアフリー演劇やバリアフリー映画の鑑賞、障害者による舞台芸術公演の鑑賞の機会は、今文科省に推進してもらっている。ぜひその機会をより強化していただいて、若年からの共生社会の実現が、インクルーシブ教育だけではなくて文化芸術活動でも行えるようにしてほしい。 20ページ目 一般社団法人日本発達障害ネットワーク(大塚晃副会長) <第1期障害者文化芸術活動推進基本計画期間の現状認識について> 今の基本計画期間の現状認識ということだが、1つは障害者の芸術文化活動というものが、法律の施行、そして基本計画作成ということでスタートした点を評価したい。1つの国全体として動き始めたところは素晴らしいと思う。スタートしたばかりなので、さまざまな形で国全体としてこの活動をどのように盛り上げていくか、あるいは普遍化していくかが、あらためて課題になっているのではないか。先ほどもあったように、地方公共団体での計画の作成が進んでいない。令和2年の文化庁の調べだと都道府県レベルで234%、政令指定都市で20%、中核市で167%、市町村は06%ということだ。この基本計画をまずは各都道府県でどのように行っていくか、検討を進める必要があると認識している。法律も含めて基本計画上には、国と地方公共団体とだけ書いてあるのだ。地方公共団体と言っても、このように都道府県もあり、政令市もあり、あるいは市町村もある。特に小さな市町村においては、どのような計画を作っていくかというモデルがまだない。だから作りづらいのかもしれない。ある意味で県レベルでは大体方向性が出たかもしれないが、そのような点でこれからモデルというか、標準的なものを示していく必要があるだろう。またこれまで作られた各都道府県レベルの計画も、インターネットでちょっと調べてみるとそれぞれ多様だ。もちろん多様性は素晴らしいものだが、そればかりで比較検討をしながら、なかなかまだ標準的なものは何かという議論はなされていない。少しまだ多様性が高いと認識した。もう少し基礎的なものと、それプラス各地方の固有性、あるいは特色を示せるような2段階の基本計画作りが必要かと思う。 もう1点は、基本計画とともに芸術活動を知らしめて、全国で障害のある方の芸術を盛り上げようという機運が高まっている。これもまた素晴らしいことだ。ただやはり、それの推進役としての支援センターの位置付けもまた多様だ。ご存じのように、この多様性はいいのだが、これからは標準的な支援センターの役割というものを、もう少し吟味していく必要があるかと思う。 最後だが、基本計画、国の障害福祉計画などもそうだが、なかなか評価という観点からいくと難しいのだ。「PDCAサイクル」ということはずっといわれているが、では実際どのように評価していくかということを、やはりもう少し詳しく示していくこと。例えばアウトプットとアウトカムは異なるだろう。美術館に何人足を運んだかは客観的に評価できるが、一体全体それによってその人の生活がどのように変わったか、地域共生社会がどのように変わったか。あるいは生きがいとしてどうなったか。 コミュニケーションのことはどうか。まさに個々のことまで含めて考えるとなかなか難しいのだが、これはこれから取り組んでいかなければならないだろう。基本計画とともに、基本計画の命はやはり評価なのだ。どのような結果が生じて、それがどのように障害のある方に還元されたか。そして生活が豊かになったか。QOLの課題にもなるかもしれない。そのようなことを少し統一化していく必要があるのではないかと認識している。 21ページ目 <第2期障害者文化芸術活動推進基本計画に期待すること> 幾つか観点があるのだが、この計画が推進役、エンジンとなって全国で芸術文化活動を進めることを目指すというのは、皆さんが一致していると思う。個々のいろいろな課題については皆さんとともに考えていきたい。例えば先ほど小川さんがご指摘された「芸術的価値の高い作品」表現が生む誤解などがある。私も福祉のほうをやっているので、違和感がある。だがもう法律に入っているし、認めるとしても、では価値が低い作品はどうするかも含めて、非常に大きな課題だ。同じく常生活の中のアートという言葉もあった。むしろ私たちがこれを基に、価値という観点から測っていいかどうかは分からないが、障害のある方の多様な作品を認めていくのだと。文化庁的には「価値にもいろいろあるのだ」と説明されているが、そういうことを実践していって説明したいと考えている。非常によい意見だと思う。 もう1つは、これからの時代はやはり連携やネットワークだと思う。アーツカウンシルみやざきが、支援センターは行政の下請けになっているとおっしゃった。確かに、都道府県行政と支援センターとの関係だろうか、うまく一体的にやっているところもあれば、なかなかちょっと、おまえがやれなどと言って進めているところもある。そうではなくて、もう本当に一体的に連携しながらやっていくようなモデルをどのように示せるか。市町村ともそうだが、そうすれば支援センターももっとやりやすくなって、いろいろ創造的なものが出てくるのではないか。もっと力はあると思う。支援センターは人材の養成も含めた拠点なのだ。今の状況においては、例えば福祉施設側から見ると、協力できる連携先として支援センターはほとんど考えていなかったという調査結果もある。 全然考えていないというのは非常に衝撃的だ。日本全国を考えると、そのようなことはない、支援センターにはいろいろな人がいて、やはり協力してくれる、何かあったときは見てくれるのだという支援センターに持っていきたい。特に現場の話の中では、例えばコーディネートしてくれる人、あるいはアドバイスをしてくれる人が欲しいと痛切に思っていると聞く。ちょっとした手助けをしてもらえれば、もっと現場におけるアート活動が推進できることも調査結果から出ている。支援センターがそのような人材養成のことも含め予算も必要だろうという部分も含めて、センターと一体的にと思っている。 それから、この後でDPI日本会議の尾上さんがご発言されると思うが、合理的配慮の観点だ。障害者差別解消法の改正とともに、本格的に芸術活動においての社会的障壁という課題が出てきた。既に研究はなされていると思うが、阻むものは何なのか、いろいろな障壁があると思う。それを一つ一つどのように解決していくか。もちろん建設的対話などによってやっていくのだろうが、例えば各都道府県においては、障害者差別解消法の条例を作ったところが多い。そういうところでは国と同じように、各都道府県で挙がってきた、例えば「社会的障壁としてこのようなものがあったが、このように解決した」という事例をどんどん情報提供することによって「自分たちも解決できるのだ、こういう日常的な障壁あるいは制度的な大きな障壁もあるのか」など、そういう仕組みなどもだんだん分かってきた。同じように文化芸術活動における社会的障壁を取り除き、そして合理的配慮を保つような仕組みづくりを、行政は各地方レベルにおいて、支援センターを中心に協力してやっていくべきだと思う。それから発達障害の観点からだけではないが、やはり権利の保護、権利擁護ということがあった。これは著作権の問題、課題ということで出てきたものだが、特に私はそれだけではなく、障害分野の、例えば施設・事業所などにおける虐待がまだ非常に多い状況がある。結構発達障害の方たちが、芸術性の高いものを目指してだろうか、あるいは指導か、よく分からないが、やはり、 強制されてとは言わないが、「何か作品を作れ」などと強いられることが結構あるのではと危惧している。これも時代は意思決定支援と言っているわけなので、今後の文化芸術活動推進活動、作業所などにおいては、きちんと本人の意思決定に基づいた作品作りなどを根付かせる必要があるだろう。 22ページ目 文化芸術活動は、共生社会の実現、多様な社会の実現、そして権利の擁護だと思っている。人権の擁護だ。あらゆるハラスメントも含めたそういうものを福祉社会からなくしていく力を持っていると思う。よって、本人の意思決定を大切にした文化芸術活動を推進したい。 23ページ目 認定特定非営利活動法人DPI日本会議(尾上浩二副議長) <第1期障害者文化芸術活動推進基本計画期間の現状認識について> 障害者文化芸術推進基本法は制定までにかなり苦労した思い出がある。いろいろな先生方にお願いして、他の団体とともに2年越しで何とか制定にこぎつけたということで、非常に私どもとしても思い入れのある法律だ。それだけ重要なものだとは理解しているが、一方施策の展開という点では、先ほど大塚さんもおっしゃったとおり、地方自治体での基本計画の策定率はものすごく低い。こういう状況だと、やはり実際に地域の中で具体的に活動していくときに、なかなかこの法律の存在感を実感する機会がないと思った。特に先ほど、これまでの調査のまとめのエッセンスをご報告いただいたが、一方で地域のニーズはあるという回答が結構あるのに対して、それに対する取り組みはほとんどされていない。特に劇場や音楽堂などは非常に低い。この落差は、やはり今の施策の展開状況の結果として表れているのではないかとあらためて思った。こういう現状を踏まえて、やはり厚生労働省、文化庁が一体となった取り組みをぜひ進めていただくと同時に、自治体でこういう基本計画を策定し施策を具体的に展開していく。そのための自治体への財政支援も含めたバックアップが不可欠ではないか。 もう1つ、これは次のパートで詳しくお話しするのだが、昨年5月に改正障害者差別解消法が成立した。民間事業者の合理的配慮も義務付けされる。この改正障害者差別解消法とも連携した施策展開が、今後ますます重要になるのではないか。特にこの施策を進めていく際、多様な障害当者の参画の下で計画を作る。そして評価し見直しをしていく。その当者参画ということを今後より一層進めていただくようお願いしたい。 <第2期障害者文化芸術活動推進基本計画に期待すること> 私どもDPIは、バリアフリーや、先ほどから話題になっている障害者差別解消法などにも取り組んできた。その立場から申し上げると、東京2020オリ・パラ大会の開催を契機にして、わが国のバリアフリーは大きく前進したと考えている。その一環として、この文化芸術分野で言うと、劇場等の観覧席に関するバリアフリーガイドラインが2015年に策定された。これで、例えば障害のある者と同伴者が一緒に楽しめる座席配置というものが初めて書かれたのだ。これはある意味で非常に遅れた課題であるということも表していると思うが、まずはオリ・パラを契機に一歩前進している。このオリ・パラを契機にしたレガシーをどう引き継ぐかが、この第2期における非常に大きな課題ではないかというのが基本視点である。というのも、私も車椅子を使っていていろいろな映画館や劇場に行く機会があるけれども、そういうガイドラインができても、いまだに多くの映画館や劇場では車椅子席は最前列の端っこにある場合が多い。そうすると映画を見ている間に首が痛くなって、もう映画を楽しむどころではなくなってしまう。あるいは同伴者と、友達と一緒に、私の場合だと夫婦で一緒に行こうと思って行ったら、障害のある者と同伴者が離ればなれの席になるようなこともある。またバリアフリー映画についても、だんだん作品は多くなってきたが、上映される回数や曜日、時間帯はまだ限られている。一方、私も講演などで舞台に立つというか、登壇者のようなことで関わることがあるのだが、楽屋側にバリアフリートイレがあるところは非常に限られている。あるいは楽屋に入れず、出演を待つ間どこにいればいいのか、打ち合わせはどこでやったらいいのかというようなこともしばしばあるのが現状だ。そういう意味で、この法律の基本理念に書かれている、「障害者が文化芸術を創造し享受する」ためにはまだまだバリアだらけだという現状認識を、しっかりまず書き込んでいただきたい。その上でこのオリ・パラのレガシーを引き継いで、第2期の計画期間中、遅くとも2024年までには改正障害者差別解消法が施行されることになっている。すなわち、民間事業者も含めて合理的配慮の提供が法的義務になるわけだ。そのことを意識した計画でなければならないだろう。この文化芸術における合理的配慮の義務化と、そのための環境整備の推進ということも、第2期基本計画の重点施策として盛り込んで展開していただきたい。特に映画館や劇場、音楽堂、美術館等における車椅子座席が多様な席から自由に選択でき、同伴者とともに楽しめるようにする。あるいは舞台や楽屋側からのバリアフリー化を行う。 24ページ目 また、映画館における字幕や音声ガイドなどの情報保障体制や、先ほど育成会の田中さんがおっしゃっていたように、いろいろな人がみんなで一緒に楽しめるような鑑賞機会の提供も含めて進めていく。障害の有無に関わらず、文化芸術を創造し享受できる権利を行使できるようにしていただきたい。ここまで申し上げたことはどちらかというと鑑賞環境に係る話が中心だが、もう1つ、コンテンツ、プログラムに関して申し上げる。 いまだに邦画のDVDや、あるいは最近だとオンライン配信が広がってきているが、字幕や音声ガイドを付与しているものがまず限られている。確かまだ1割ぐらいだ。その上、付与されているかどうかすら情報提供がされていない。つまり、購入したり借りてみて初めて、字幕が付いている、これは付いていなかったというような状態なのだ。こうした文化芸術のプログラム、コンテンツにおけるバリアフリー化が進むような施策もしっかり盛り込んでいただきたい。ちょっと手前みそではあるけれども、その際には私どもも関わった。誰もが楽しめる文化芸術のための合理的配慮ガイドラインなども、好事例ということで広く紹介し、普及する施策を盛り込んでいただければ幸いだ。 それから2つ目のパートで申し上げたが、極めて低い策定率にとどまっている自治体の基本計画に関して、その策定実施を推進していくために、財政支援も含めて国としてバックアップをお願いしたい。またその計画の策定や実施に当たっては、障害者団体、障害当者が積極的に関与・参画できるような体制を整備しながら進めていただければと思う。 25ページ目 社会福祉法人日本肢体不自由児協会(吉原芳徳事業推進部長、黒岩嘉弘常務理事) <第1期障害者文化芸術活動推進基本計画期間の現状認識について> この障害者文化芸術活動推進基本計画に対してはやや勉強不足なこともあり、皆さまのお話をきょういろいろ聞いているところです。最近の私どもの課題として、なかなか他の団体との連携が弱いことがある。しかしオリ・パラネットワーク等に参加するようになり、いろいろな情報が入ってくるようになった。きょうはこの後もまた皆さまのお話を聞いて勉強したい。 <第2期障害者文化芸術活動推進基本計画に期待すること> 私どもの団体は主に子どもたちに目線を置いているので、この第2期計画の中で、子どもたちに対する施策を盛り込んでいただければありがたい。なかなか先ほどの皆さまのお話のように、トップアスリートではないが、トップの方たちの養成ではなく、子どもたちが文化芸術活動に参加できるような施策を、この中に重点施策として盛り込んでいただくことを希望する まだ近年では、文部科学省が進めていたGIGAスクール構想によって、1人1台端末が実現しつつあると聞いている。私どもの展示会でもコンピューターを使ったデジタルアートが非常に増えてきた。これもその影響かと考えられるのだが、このデジタルアートに取り組む子どもたちの多くは比較的重度である。そういった子たちも取り組める、自分たちの工夫や支援機器によって絵を描く、書をやるにしても、絵筆や筆は持てないが、コンピューターなら使えるという方の作品応募も非常に増えてきた。そういったデジタルアートの支援等についてもこの文化芸術活動の推進基本計画の中に盛り込んでいただければ、私どもとしても非常にありがたい。また子どもたちの希望にもつながっていくかと思う。 26ページ目 社会福祉法人日本身体障害者団体連合会(佐藤加奈事務局次長) <第1期障害者文化芸術活動推進基本計画期間の現状認識について> 大変お恥ずかしい話だが、あまり内容については把握していない。ただ、先ほどご説明いただいたアンケートの結果を踏まえた、感想になってしまうが、まずこの計画はもちろんのこと、法律自体の認知度が大変低いというのは、自分たちの団体にとっても反省点であり、この法律の大切な目的を広く皆さんに知っていただけるようなにつなげていく必要があると感じる。障害のある人にとり、こういった活動に参加したい、もしくは鑑賞したい、触れたいといったご希望がある中で、なかなかそれに対応する提供側のほうが追いついていないということがアンケート結果にはっきりと表れてきていると思う。その辺りの課題については、今回のヒアリング対象は障害関係団体等々に限られているので、ぜひ、施設・提供側の方々の考え等を伺える場をつくっていただき、実際の声として具体的な問題点を拾い上げていただけるといいのではないかと考える。 <第2期障害者文化芸術活動推進基本計画に期待すること> 第2期基本計画に期待することについて、まず、都道府県においては計画の策定が努力義務になっているが、実践の場は地域になる。現在の基本計画の策定数はまだまだ少なく、努力義務から義務化に近づけられるような、つまりこういったことが当たり前に捉えていただけるようなことも必要ではないかと思うし、期待しているところだ。 本日は、アート展のことがお話としては多かったので、少し別の視点で、例えば音楽鑑賞の機会など、いわゆる一つには機会の拡大ということがあるかと思うので、過去の経験を含め、また、期待を込めてお話しさせていただく。経験として、数十年前になるが、障害者とその家族を対象にクラシックコンサートのお仕事を手伝わせていただいたことがある。これは自治体と一緒にさせていただいた事業で、ハード面ではまだまだ20年近く前でホールのバリアフリー化が遅れていて、車椅子スペースが足りないので、人力で見やすい場所に移動したり、聴覚障害の方には音楽に合わせて椅子が振動して体感できるシートを準備したり、当時のできる限りのサポート体制で対応した。いろいろ障害の特性に合わせた楽しみ方を提供させていただくクラシックコンサートとして、交響楽団や指揮者、ホールの方にも協力いただき行ってきた事業である。事業に携わったなかで、忘れられないことがある。知的障害の方のお母さまの言葉で、ご本人はとても音楽を聴くのが大好きで、特にクラシックは大好きで、機械があればいろいろなところに連れていきたいが、静かに聴くことが難しく、嬉しいと大きな声を出したりするため、どうしても一般のコンサートには連れて行ってあげられない。先程のアンケート結果に「気が引ける」という回答があったように、「うれし過ぎて興奮して大きな声を出してしまったり、多動で、どうしても連れていきたくても行けない」と。でもこのコンサートはそういったことを全然気にせずに、みんなと一緒に楽しめる。だから大好きで楽しみにしているというお話を聞いた。法律の第9条に鑑賞の機会の拡大が記されている。 27ページ目 鑑賞のためのバリアフリー整備や情報保障に加えて、こうした要望に応えられるような、機会の提供の場を増やす環境整備についても検討いただければと思う。先程、事例紹介をした時に、オンラインを使うことも可能になってきた話をさせていただいた。こういう鑑賞方法についても、音楽も含めてオンラインを活用し、間口を広げて提供していくということもぜひ計画の中の一つと捉えていただき、検討していただけると嬉しいと思った次第である。ぜひ、こうしたことも含め、いろいろな関わりの中で、さらに計画を進めていただけることを期待している。 28ページ目 公益社団法人全国精神保健福祉会連合会(小幡恭弘事務局長) <第1期障害者文化芸術活動推進基本計画期間の現状認識について> 私たちとしてもこの第1期の計画自体をつまびらかにいろいろ把握して何かやれているかというと、正直そこができていないということ自体が課題かと思う。文化芸術活動というと、一般的には商業的な部分で宣伝されているようなイメージが圧倒的に強いということもあり、あとはどちらかというと、精神分野で言うと作業療法などの中で絵画をしたりというように治療の一環と捉えられてしまうということがあって、自由闊達(かったつ)にその人たちが表現をしていくという取り組みを創出するにはなかなか土壌が育ち切っていないと感じているところだ。そういった意味では、障害者団体のみならず一般の市民活動なども含めて、縦横無尽にいろいろな取り組みがクローズアップされるような場をいかに提供できるか。そのためにはこういう計画も含めてだが、具体的な取り組みの周知、告知ということが共有化できるといいのではないかと感じている。何か具体的な手立てが展開できてはいないので、申し訳ないなと思っている。 <第2期障害者文化芸術活動推進基本計画に期待すること> 今度の第2期の計画については、今少し佐藤さんも触れられていたが、私たちとしても障害種別を越えるだけではなく一般市民の方との交流ということを考えていったときに、これまでの芸術文化のマナーがバリアフリーになっていないというか、障壁になってしまっている場合がある。これをどのように融和させていくのか、検討する必要があると考えている。どの回もバリアフリーにということではなく、例えば映画だと、最近はミュージック映画などであればコンサートのように一緒に歌ってもいいよという回がある。そういう参加しやすい環境にする部分もつくることができればと思う。また特に舞台などの俳優さんになるときに、意外と障害を持たれている方は障壁となって、俳優としては活動できない、舞台に立てないということも実際にある。絵画などは出来上がった作品について評価されたりすることはあるかと思うが、自分たちの身体表現なども含めたところでのいわれのないというか見えない障壁のようなものが、そういう各分野のところでなくなるような、鑑賞についても、発表するにしても今まで是とされていたものの見直しという何かアクションが、第2期計画なども通じて発信できると、障害者だけの問題ではなく、一般芸術活動全般との接点が築けるのではないかという思いがある。そういった交流や合作を望みたいということが一つある。 また先ほど、作品なども常設であるといいというお話も幾つか出ていたかと思うが、蓄積されたそういった作品や表現活動が、きちんとアーカイブのように残されて、一箇所にまとまるようなこともあっていいのではないかと思っている。見逃してしまったときに見られるようにしたり、この人の作品に触れたいと思ったときにはその展覧会が終わるともう二度と見られないということではなく、こういったことがあったよというのがきちんとどこかにまとめられていると、今後ますます後世にも伝えられるシステムになるのではないか。そのようなことが次の計画の中にどういう形で組み込めるかということはあるが、意識していただいて、取り組みが展開されることを期待したい。 30ページ目 社会福祉法人全国社会福祉協議会 全国身体障害者施設協議会(三浦貴子制度・予算対策委員長) <第1期障害者文化芸術活動推進基本計画期間の現状認識について> 2番目の項目に関しては、せっかくのヒアリングの機会なので、うちの協議会で短いアンケートを採ってみようということになり、本当に短期間でコロナクライシスのど真ん中だったので回答率は高くないが、90ほどの施設がフリーアンサーで丁寧に答えてくれた。それを集約したものがこの2番目の項目である。私どもの資料で挙げている「評価できる点」としては、文化芸術に関する活動の情報量が増えているというこ と。NHKの「人知れず表現し続ける者たち」、「no art, no life」というのはかなり全国にインパクトを与えた。後ろの作品は松本寛庸さんの作品だが、熊本県でもこの番組は相当なインパクトがあって、皆さんに評価周知されるきっかけになっている。 一方でまた美術館等のバリアフリー化が進んでいるという実感をこの1期の期間に持っていて、これはバリアフリー法の改正もあるし、また差別解消法との相乗効果ではないかと見ている。また創造するということに関して、表現すること、創造するということの価値で、例えば絵がうまい、絵を描くということではなくて、創造、表現という言葉でその人たちのアートが表現されてくる時代が来ていて、また作品の発表の機会が確保されてきたということが、施設で生活される利用者にとっても自己表現や創作意欲の向上につながっているという意見があった。ただ課題としては、現実的に基本計画の内容が十分に周知されているとは言いがたいこと。うちの会員施設からはこのアンケートをもって初めてこの計画を知って、とてもうれしかった、励まされたという意見もあった。福祉施設も含めてだが、社会に浸透していく必要があるということと、地域と連携しないと施設の中だけで作品を展示していても仕方がないというご意見、それから交流が必要、あと地域の資源をどう巻き込むかという辺りを課題と捉えている。なお人材育成のところも、専門的な助言などが欲しいと。人材と、福祉施設が美術系やその他の文化系とどうつながるかということ、また専門家との連携が欲しいということもアンケートの中に表れてきた課題である。 <第2期障害者文化芸術活動推進基本計画に期待すること> 第2期に期待することに関しては、現状、非常にやはりコロナ禍で外出制限がきつくなり、具体的に外へ行って鑑賞できないという状況があるので、オンライン鑑賞など外出が困難な状況でも鑑賞できる環境づくりをという要望が多かった。実は四肢まひで、なかなか施設から出られない方々も多いのが私どもの協議会利用者の特徴でもあるので、できれば施設にいて生の芸術が見られるというような設定、私たちは移動美術館というのをずっと事業としてもやってきているが、そういうことを求める声もあった。 31ページ目 もう一つ、人材育成と配置というところに関して、先ほどNHKさんが言われたことはとても方向性として素晴らしいことだと思っている。美術等の文化を専門とする人たちが人をサポートする分野に来て、人は介護だけでは生きられないので、心も生きられるように、自分が表現して生きられるようにサポートする。その道筋をつなぐ人という意味での他分野連携的なもので私はやれると思っている。ずっと10年ほど活動をやってきて、芸術活動の市民団体に参加している新聞記者さんや社会福祉の研究所に勤めていた人たちが学芸員の資格を取って、むしろ今度は別分野から美術への参入というようなことも起こっている。私たちは大きな団体とは関係なく、熊本県立美術館にジャン・デュビュッフェの作品が収蔵されているので、デュビュッフェに見守っていただきながらアールを発進しようという方針をみんなで立てたので、一緒に展示する。だからアール・ブリュットを使うが、その分野から例えば福祉関係の人がアートの専門性も身に付けていくということも可能だし、既にある専門分野がつながる。つながることにもお金もそれから時間もスキルも要るので、その辺りが具体的に何か評価されていく、保証されていくというようなことが今後の計画には欲しいなと思う。私たちがヒアリングペーパーに書いていることは、本当に実感している効果である。家族や支援者の考え方を前向きにする。それが質のいい生活支援にもつながっていっている。あとは、いわゆる芸術活動というものは自立しているが、生活は自立していないと。だから創作活動以外は全介助だという方々も、知的身体障害含めて多い中で、その生活を支える側の人たちも、本人が自己実現していくことによってすごく意欲が高まってくる。これはむしろ福祉の人材定着にもつながるものだと私たちは見ている。 また、幼少期からのさまざまなステージがつながっていく。展覧会には支援学校の時の先生方も来て、幼稚園の時はどうしてもこの子の言葉も心も分からなかった、絵を見て初めて分かったような気がするという感想も残されているので、そういう人と人とをつなぐ役割が大きい。2期においては人材をつなぐということを中心として、そういうものを織り込んでいただければなと思う。NHKのヒアリングペーパーに、日比野さんの言葉が書かれていて、たぶんこの方だなという方が熊本にいらっしゃるが、メディアが評価してくれて生きやすくなられた。地域メディアも含めて新聞などにその方のことが書かれたので、その方の近所のクリーニング屋さんが展覧会を見に来て、その感想が、いつもお母さんのそばで大きな声を上げている変わった青年だなと、少し不安になるときもあったと。でも作品を見て、これからは自分から声を掛けようと思ったという言葉が残された。その人を通してその人の力を見ることによって地域が変わる。結果、その人が地域において生きやすくなる。そのことが私たちの目標かなとも思っている。その辺りも第2期計画に含まれることを期待している。 32ページ目 一般社団法人日本精神科看護協会(草地仁史業務執行理事) <第1期障害者文化芸術活動推進基本計画期間の現状認識について> まず精神障害者の文化芸術活動に関しては、マスメディア等を通して世の中に認知が広がってきているということは現状として評価できるところかと思う。ご承知のように文化芸術促進に関しては、障害の有無にかかわらず、われわれもそうだが全ての国民の皆さまが文化芸術に親しみ優れた才能を生かして活動することのできる社会を築いていく、このことについては言をまたないわけだが、他方でやはり先ほども少しご意見が出ていた、この障害者文化芸術活動推進法が施行されて4年ほどになるけれども、この本法やその計画等に関して国民の認知はまだまだ十分とは言えないということは課題として考えている。 次に基本的な方針にも掲げていた、文化芸術活動の幅広い促進に関して、主に作品等の発表の機会の確保ということだが、先ほどの資料でもセンターの現状の取り組みということで、「行っている」が861%、これについては一つ評価できる数字ではないかと思っている。しかし現場というか現状としては、やはり各施設や団体個々で努力しているところがあり、なかなかわれわれの個々の努力だけでは活動を継続するのが非常に難しいということがあるので、活動にまで発展させることが容易ではない実情について、一つは課題として何かしらの解決策を講じていただけたらと思う。 最後に、連携協力というところでは主に人材に関することになると思うが、精神障害者の特徴というか、健康状態についても見えづらさがあるということをよく言われる。このような方々を支援するためには、やはり作者のような活動の中心となる人の障害について、正しく理解している協力者が必要だということもあるので、そういう点も踏まえて人材育成に関してご検討いただけたらと思う。 <第2期障害者文化芸術活動推進基本計画に期待すること> 先ほどからの皆さまの意見にも非常に重なる。そこで強調する点に関して少し加えさせていただけたらと思う。先ほども挙がっていたが、やはり発表の機会の確保等についても、国や地方自治体が主体となって積極的に行っていただくことはもちろん、その年その年で今年は非常にそこに力を入れたけれども、翌年はどんどん活動が縮小されているといったことがないように、やはり継続的な文化芸術活動を推進していくような仕組みをぜひ整えていただきたいと思う。 それからもう一点は、先ほど協力者が必要だということで人材を多く輩出することの重要性についてお伝えしたが、そのためには文化ボランティアの方々や、あとは地域住民の皆さまからも積極的に育成を図っていく必要があるのはもちろんのこと、加えてそこに例えば直接アーティストの方がしっかりと参画していただくようなことができれば、障害の有無というような垣根を越えて、アートそのものが非常に脚光を浴びるようなことになるのではないかと思っているので、そのような点で人材育成の観点からも充実することを願っている。 34ページ目 一般財団法人全日本ろうあ連盟(堀米泰晴理事) <第1期障害者文化芸術活動推進基本計画期間の現状認識について> 第1期の基本計画の期間中の現状認識ということでお話しさせていただく。私たちの全日本ろうあ連盟が課題として抽出したのは、これからお話しする5点ある。 まず1番目に支援者の育成の強化という点を挙げた。聞こえない、聞こえにくい人たちの観劇サポートについて、字幕の付与、あるいは手話言語通訳をつける。あるいは、磁気ループ。ヒアリングループ。それを敷設するというところの情報発信を行うことなどがここにかかるが、それぞれの人材を育成するということ。あるいは、育成し、機械を敷設するための予算、これらが課題になるかと考えている。字幕を提供するためには、字幕の制作、あるいは翻訳。作業のために非常に時間がかかるし、スキルも必要になるため、そういった点がこの1に該当する。 次の2番目は、観劇サポートに特化した助成金制度の創設の必要性。現状の支援金の制度については、講演の申請をするときに観劇サポートの予算をさらに付与しなければならないが、助成金の申請がないために、そのサポートのための予算を自己負担しなければいけない。そういうところでなかなか実施できないという現状がある。そこが問題点として浮上しているため、助成金がないと観劇支援もなかなか進まない。そこを公費でぜひ整備していただけるといいのかなという考えでご提案している。 3番目、聞こえない、あるいは聞こえにくい方が芸術文化を学ぶ機会の保障の強化。現状で言うと、一般向けの演劇等の公開講座にはこういったような手話言語通訳をつけて参加するという状況になるが、手話言語の通訳をつけるためにはやはり費用がかかる。それをどうやって負担するのかというのが課題となっている状況である。ろう者自身がその予算を確保しなければいけないという話を実際に聞いている。文化芸術を通したところでの言語手話通訳の派遣を公費として求めていきたいと考えている。実際に各地域では意思疎通支援事業として派遣が行われているが、地域によってその扱いも異なっている。例えば、成果が認められているところでも、勉強のために学習を継続していかなければいけないというところで言うと、手話通訳を1人確保して、同じ人が手話通訳するというのはなかなか難しい現状にある。 次に4点目である。歌詞における著作権の改正についての課題である。現状では、演劇のサポートの中で台本を貸し出しするというサービスは、聞こえない人自身が観劇をするときに台本を見ながらサポートを受けるということもあり、最近は増えてきている。しかし、この中で著作権の問題が浮上している。特に歌詞の部分が白紙になっているという現実がある。歌詞も非常に大事な情報になる。例えば宝塚などではほとんどが歌なのに、その歌詞が台本に載っていないというところだと、歌詞が分からないままサポートするというのはなかなか難しいというふうに考えられる。聞こえない方たちの情報アクセスとして考えると、著作権の早急なる改正が必要かなというふうに考えてここの提案をさせていただいている。 35ページ目 最後に5つ目として、演劇や古典芸能の観劇、映画等の映像コンテンツの情報保障の拡充である。先ほどお話しした歌詞をタブレットで見ること。あるいは、スクリーンに歌詞を上映しながら観劇をするということ。あるいは、字幕眼鏡、バリアフリー観劇をするというところが少しずつだが増えてきている。また、インターネットなどでも映像のコンテンツも増えてきているが、ほぼほぼ字幕がないというのが現状である。聞こえない、聞こえにくい方たちが芸術に触れる機会がまた現場でかなり制約されているという課題がある。それに対して、芸術、古典芸能の観劇、あるいは映画等のコンテンツに関する情報保障のアクセスを求めなければいけないというところの現状課題がある。以上5つの点について課題として認識しているため、提案させていただいた。 <第2期障害者文化芸術活動推進基本計画に期待すること> 第2期の基本計画に期待することということだが、聞こえない、聞こえにくい人たちの文化芸術活動に、鑑賞する側として、また、アーティストとして活動することに関しては、提出した資料のとおり、やはり手話言語通訳の派遣等の情報アクセスやコミュニケーションの部分の保障が前提になってくる。鑑賞するサポートの支援者の養成、また、助成金、手話言語通訳等の公的派遣の制度化。これが成功すれば、聞こえない、聞こえにくい私どもの文化芸術活動の幅が広がることを大いに期待している。また、私ども連盟としては、いま、デフリンピックの東京招致運動に向けて活動している。世界各地にいるデフリンピアンの関係者が東京に一堂に会する機会である。その機会に文化芸術活動のPRもできるのではないかと思っている。 36ページ目 一般社団法人日本自閉症協会(今井忠理事長) <第1期障害者文化芸術活動推進基本計画期間の現状認識について> 第1期期間の評価だが、第1期の基本計画がどう現場で実際に影響したか、直接的なつながりを実感することは難しい。だが、きっと影響したのだろうと思うところを申し上げる。従来は、障害者、特に発達障害、自閉症の人のアートは展覧会場などで展示され集客して鑑賞してもらうということが多かったが、最近は、人通りのある街の中で、生活圏で行われることが多くなった。きっとそこには行政の何らかの後押しがあるのだろう。そういう意味で、第1期計画が一定程度現場に影響しているのであろうと推測している。その関係は直接的にはなかなか見えにくいが。残り時間は3番目のほうに回させていただきたい。 <第2期障害者文化芸術活動推進基本計画に期待すること> これまで芸術活動を行ってきた中で、やはりここは乗り越えたいという部分を今から説明する。ひとつは寄付控除である。多くの各地域などで開催するときに、額縁を付けたり、キュレーターさんを呼んでこなければいけなかったりなど、どうしても一定のお金がかかる。企業さんからお金をいただく場合、公益法人の場合には税控除があるが、一般の団体では、寄付控除の対象にはならない。そこで、障害者の文化芸術に限った寄付に関しては、提供してくれる企業側に寄付控除の仕組みを入れられないか。 それから2つ目は、基本施策の4番目に相当すると思うが、特に障害者アートに関して、これは国が決めるというようなものではないが、その価値をどこに求めるのかについて共通認識が形成されると良いと思っている。一般の芸術は歴史があって、その評価体系があるわけだが、知的障害や発達障害の人のアートは、そのような従来のアートとは異なり、主張というよりもそれをしていることが楽しいということそこに価値があると思っている。また、私たちは、この人たちはこのように世界が見えているのかということをアート作品を通じてコミュニケーションできるということにも価値があると思っている。そこで、芸術系の大学においても、障害者アートというのは何のために、誰のために行っているのかということについて研究が進み、障害者アートを理解した人材が育成されることが必要だと思っている。 次は著作権問題である。知的障害者や発達障害者の場合、何かのキャラクターを描くことが趣味の人は結構多い。キャラクターを描いたものを展示会に出すと引っ掛かる。永谷園の袋を描きたいなど、国内の場合は、ほとんど電話をすればオッケーということになるそうだが、海外のディズニーのキャラクターなどだと、ほとんど回答が来ないそうだ。一種の二次使用になるという扱いだと思うが、あらゆる場合というわけにはいかないだろうが、障害者の場合のこの辺を何か整備する必要があるか、あるいは、そのようなことが簡単に相談できるところがあるといいと思う。そうしないと、大きな団体でないとこういう問題は処理できない。そこがお願いである。 37ページ目 それから、人材育成のお願いだ。先ほども少し申し上げたが、障害者アートというのは、素材だけぽんとあっても良さ面白さが見えない。視野狭窄(きょうさく)の人が描いた絵ということを理解した上で作品を見るかどうかですごく変わる。それを手助けするのがキュレーターさんで、そういう意味で、間に立つ人材をいかに育てるかということがとても大きいと思っている。 最後に、一般の人のアートなら習い事として自費だが、障害者アート活動を法内の福祉事業で行うのは自立訓練ではないからおかしいという意見が一部にあると聞いた。私は障害者のアート活動は障害者福祉の重要な一部だと考えている。なぜかと言うと、特に自閉症、発達障害の人にとって、自由な時間を楽しく穏やかに過ごせることは重要な生活上のスキルであるからだ。それがある人とそうでない人では安定度が違う。もっとも大事なことであり、障害者アート活動の価値について共通認識が形成されることもお願いしたい。 38ページ目 公益財団法人日本知的障害者福祉協会(太田和男常任理事) <第1期障害者文化芸術活動推進基本計画期間の現状認識について> 配布した資料を読み上げる。当協会の地方組織にお願いし、上がってきた情報を基に少し整理させていただき、現状認識というような形で報告させていただく。ここに掲載させていただいたように、施策の方向性のうち、次の4つについて報告させていただく。 まずひとつ目として、作品などの発表の機会の確保についてである。最初の@で、障害者文化芸術活動推進法の立法以前から、県などの地方会組織では芸術展・美術展を開催しており、この立法化以後にさらに発展しているというような状況が見受けられる。北海道、静岡、愛知、宮城県といったところである。またA、地方会組織が地方自治体の支援を受けて美術・芸術展開催の中心的役割を担っているというところがある。それは、先ほどと重複するが、愛知県。そして、記載を漏らしてしまったが、ここの区分に広島県も加えておいていただけるとありがたい。B厚生労働省の補助事業、障害者芸術文化活動普及支援事業の支援センターとして活動する当会の会員法人がある。岩手県、山形県、福島県といったところである。また、自治体が中心となって進めておられる芸術祭などの実行委員として地方会会長などが参画しているのが京都府、奈良県、三重県といったところである。また、他団体だが、知的障害のある方の保険の関係をサポートする団体で、一般社団法人、全国知的障害児者生活サポート協会が支援されているアート展と共同して展示会等を開催しているのが、山形県、福島県、愛知県、大阪府といったところになる。このサポート協会の都道府県の会長さんが当会の地方会の会長さんと併任されているところが多く、その関わりで開催されているところがあるように感じる。その下に書いたが、地方自治体の力量によって、美術・芸術展の規模や範囲、各種団体 の連携に結構差がある印象だ。そして、現状はそれぞれの地域で優れた作品の発掘に重点が置かれているが、まだまだ多くの人にこういった取り組みがあるということを浸透する必要があるのではないか。 2つ目に、鑑賞の機会の拡大についてである。これは、情報をいただいた範囲からの意見として聞いていただきたい。一般の美術館などでの作品鑑賞は、興味を持ってもらうことがなかなか難しい。知的障害がある方が利用するとしても、多少ハードルが高いように感じるという意見。また、ワークショップなどのイベントが付随するような参加型の鑑賞の場があると参加しやすいのではないか。そして、進んでいる障害者の美術・芸術展は鑑賞の場としても必要な場で、参加がしやすいので良いというような意見があった。 3つ目に、人材の育成については、文化芸術活動に力を入れる法人では、大学などで美術・芸術を専攻した人材を採用しておられる。そういった形で従来から力を入れておられるところは、生活支援員の中でこういった方々が活躍されているというような現状がある。障害者芸術文化活動普及事業における人材の育成は、情報を含めて支援が届いていない、情報を知らないという施設がまだまだあるというようなところがあった。 39ページ目 最後に4番目の、関係者の連携についてというところで、美術・芸術展を積極的に進める地方自治体は多くの関係者を巻き込んで開催している。障害関係団体だけではなく、理解のある企業なども巻き込んでいるという状況がある。地方自治体のマネジメント力に差があることと、関係団体や事業者の考え方によっても、美術・芸術展の開催などによる連携がまだ十分に取られていないという地域があるというようなところが聞かれた。全体的には第1期の基本計画は進んでいると思うが、さらなる充実が必要ではないかという印象を持っている。 <第2期障害者文化芸術活動推進基本計画に期待すること> 提出させていただいた資料のBのところになる。次期基本計画に期待することとして6点書かせていただいている。まずひとつ目が、推進法および基本計画は会員施設事業者においても広く理解されているとは言い難い状況にあることから、次期計画では、関係者、さらには国民に広く浸透させる手立てが必要ではないかというところである。その方法はいろいろあるかと思うが、例えば、障害者週間とは少し離れたところのほうがいいかと思うが、特定の週間や月間を定めて、集中的に啓発活動を展開するなどを定めてはどうかというところである。 2つ目として、文化芸術活動を施設・事業所の特色に掲げて活動する施設・事業所がある。そこでは、美術や芸術、デザイン、音楽などを大学で専攻した人材が生活支援員として活躍している。これらの職員を技能のある専門職として認知していただくことで、これらの技術を持った職員を含め、多才な技術を持つ職員の配置が進み、さらに文化芸術面での支援が増大することが期待できるのではないかと考えている。 具体的には、生活支援員というのは細かな規定はないが、報酬制度の中に特定処遇改善加算というのがある。そこでは、経験・技能のある職員ということで、介護の資格を持っている、社会福祉士の資格を持っている、保育士の資格を持っているというようなところで限定されている。そういった方は当然生活を支えるコアな人材としては必要だが、さらに厚みのある多様な生活を確保していくために、先ほど掲げたような方々もそこに認めていっていただければ、より一層広がるのではないかという意見である。これは厚生労働省の障害福祉課のほうがご担当になるかと思う。 3番目に、知的障害のある方々へ文化芸術活動を拡大するためには、人材の育成にとどまらず、生涯学習のような形で知的障害のある方々へ直接提供することを検討していただいてはどうかというところである。現状では、特別支援教育の場や、先ほど申した文化芸術活動を積極的に進める施設・事業所に所属しているとそういう支援を受けられるが、そういうところにいないと文化芸術活動の機会にもなかなか恵まれない状況にある。例えば、自宅やグループホームなどで生活される方々へも届くようなアウトリーチ型の生涯学習を提供できるような仕組みもあったらいいかということである。 40ページ目 4番目に、地方自治体における文化芸術活動への取り組みにかなり格差があるようである。全国のさまざまな取り組みについて集約した情報の提供。探せばあるが、もっとアクセスしやすい、分かりやすいように情報を集約して提供するような仕組み。また、地方自治体に温度差があるというのは、担当職員に温度差があるということなので、そういった地方自治体職員向けのセミナーを厚生労働省ないしは文化庁主催で開催していただくような方向も模索いただけたらどうかというところである。 5番目に、文化芸術活動を広めるために、さまざまな団体がより一層の連携を図れるような促進策を検討していただけないか。少し考え方が違うと、なかなか一緒にできないというような状況もあるようだ。その垣根を越えていけるような取り組みが一層必要ではないか。 最後に、芸術的な能力のある方々の活躍の場の確保や拡大はかなり進んできたと思うが、地道に活動する方々や、地域の文化伝承を担う伝統工芸品や民芸品。ここに写真を載せているが、こういったものの制作を行う障害福祉サービス事業利用者にもスポットが当たるような取り組みに期待しているところである。画面の写真は、福岡の施設で川崎学舎というところがある。隣町に英彦山というところがあり、そこの英彦山神社の「英彦山がらがら」を作っているようである。地域に根差した伝統品ということで、こういうものにもスポットが当たるとありがたいと思っている。 41ページ目 特定非営利活動法人全国地域生活支援ネットワーク (水流源彦理事、丹注ハ文事務局長) <第1期障害者文化芸術活動推進基本計画期間の現状認識について> 現状認識については私のほうからご説明させていただく。当ネットワークは、日頃よりDPI日本会議とは、全国手をつなぐ育成会連合会、また、バリアフリー映画研究会等々、さまざまな制度や施策についての意見交換を密に行っている。今回のこの意見書についても、いろいろ協議したものを記載している。そのため、別日のヒアリングでのDPI日本会議からの意見と一部重なる部分もあろうかと思うが、発表させていただきたい。 まず、第1期計画については大変充実した内容となっていると認識しているが、多種多様な施策を実現する体制について課題がある部分も認識している。 まずは、厚生労働省と文化庁が独自に施策を講じているように伺え、より一層の連携強化が必要と考えている。具体的に言うと、両省庁等が開催する障害者文化芸術活動推進有識者会議も、2018年12月18日以降開催されていない。 また、地方自治体における障害者の文化芸術を推進する基本計画策定や予算確保が不十分であると考えている。基本計画の策定率においては、都道府県が234%、政令市が20%、中核市が167%。市町村は、政令市、中核市を除くと06%といった現状である。こうした状況を踏まえて、障害者が多様な文化芸術活動にわが国の隅々で参加可能とするためには、この法律において定める国の責務、および、地方公共団体の責務に基づいて両省庁等がさらなる連携を図り、地方公共団体へのフォロー、必要な財源上の措置を図るなどの施策の強化を行うべきであると考えている。 <第2期障害者文化芸術活動推進基本計画に期待すること> 全国地域生活支援ネットワークの丹羽です。第2期の活動推進基本計画に期待することをお話させていただく。 まずは、障害者が地域生活の中で当たり前に文化芸術活動に参加するために、地域の中で継続的に活動できる複数の拠点が必要であると考える。社会福祉施設や社会教育施設。あとは、美術館や劇場、音楽堂といった公立文化施設。または、映画館や民間の文化施設など、地域における複数の場所がそれぞれに拠点機能を担って、障害者の鑑賞、創造を体験する複数の機会を確保することが求められている。 2つ目に、障害者差別解消法の見直しによる合理的配慮の義務化の徹底が必要である。美術館や映画館、劇場、音楽堂における車椅子対応の改善。車椅子席の場所はもとより、よく車椅子の周りにある柵や手すりの位置。場所によっては鑑賞することの妨げになっている場合もある。また、映画館における情報保障の拡充が必要だ。 42ページ目 続いて、現在文化庁さんのほうで行われている文化芸術による子供育成総合事業のユニバーサル講演事業などのように、学校教育におけるバリアフリー演劇の鑑賞であったり、バリアフリー映画鑑賞、障害者による舞台芸術講演の鑑賞の推進が必要かと考える。 また、障害者文化芸術活動について知らない福祉施設従事者等が存在していて、知っていても参加する必要性を感じていない支援者が存在している。障害者福祉施設に福祉と芸術文化がつながることの魅力が周知されることを期待する。障害のある人に文化芸術の情報が届いていない現状があり、障害者に芸術文化活動の情報を届けるための取り組みが行われることを期待している。いろいろなホームページ等も作られているようだが、なかなかそのホームページ自体にたどり着けないというような人たちも多くいらっしゃる。その情報提供の在り方もしっかりと考えられる必要があるかと思う。 最後に、障害者文化芸術活動の多様化によって、情報リテラシーや編集スキルなど、多様なノウハウが支援者に求められている。障害のある人の文化芸術活動を支援する支援者への学習機会の提供等の支援が推進されることも期待する。 43ページ目 特定非営利活動法人日本相談支援専門員協会(川村圭理事、M口直哉政策委員) <第1期障害者文化芸術活動推進基本計画期間の現状認識について> 相談支援専門員として地域で活動していると、やはり、皮膚感覚としてというか、障害をお持ちの方が芸術に触れるさまざまな機会が増えてきているように感じる。例えば、施設の中での取り組みとして、今、香川県では、瀬戸内国際芸術祭という大きな芸術フェスティバルが何年間に1回かずつ開催され続けている。そこで集まってくるいろいろなアーティストの方たちに高松市内の施設に定期的に行っていただき、1年間を通じて一緒に活動するというようなこと。それから、それを発表する機会などもできてきている。この間は高松市のほうがなかなかポップなチラシを作っており、そのようなものを見ていると、非常に普及が広がっていることを感じる。当協会としては、ここの第1のはじめにというところを書いたが、先ほど大澤さんにご説明いただいた資料の中の11の項目の部分だと思うが、特に鑑賞、創造、発表、それぞれの機会。それから、権利保護。それから、文化芸術活動を通じた交流の促進。それから、相談体制という辺りが相談支援専門員には特に関心が高い項目だと考える。全国の相談支援専門員にさらに関心を持ってもらえるように周知に注力していきたいと思っている。 先ほどのろうあ連盟さんのご提案なども、まさしくご提案いただいたああいうものが制度化されたり資源化されたりしていくことは、私たち相談支援専門員はそれをご本人たちと一緒に使っていく側なので、そういうものが整っていくのは非常にありがたいと思っている。また、それができたときには、各都道府県、各市町村のそれぞれのところに分かりやすく伝わって、地域によってその運用に差がないように伝わっていくことができたらありがたいと思って聞かせていただいた。 <第2期障害者文化芸術活動推進基本計画に期待すること> 第2期の計画に期待することとして、当協会においても、地域共生社会の実現に向けて、地域づくりというのは大きなテーマになっている。文化芸術活動に限らず、障害をお持ちの方が地域の中で働いたり、学んだり、集ったりなど、つながりを持ちながら、時には支援を受ける側だけではなくて支援をする側にも回りながら地域の一員として活動していく。それを支えていく相談支援専門員でありたいと考える。その中で、文化芸術活動のニーズのある障害をお持ちの方が、それぞれの地域で、望む芸術活動を選択して参加できるようになっていけたらと思っている。 一方では、地域づくりということで広がっていくのももちろんだが、例えば仮に文化芸術活動が先行して、そこでいろいろな地域でのつながりの広がり、それが地域の中で文化芸術活動以外のところにも波及していくようなことがあってももちろんいいのだろうと思っている。むしろ文化芸術活動というのはそういうことができる可能性のあるものだろうと思っている。そのためにも、要は縦割りを越えて連携していける計画になっていくことを期待している。最後に濱口さんに補足をお願いする。 44ページ目 改めて今回のところで、地域づくりの中での文化芸術活動はすごく大きいと思っている。そのような中で、ご本人さん一人一人の持つ強み、ストレングスというところがしっかりと地域の方に伝わるというところにスポットを置くことができたら、本当に地域の中で差別のない社会ができていくのかなというふうに思ったりする。そういった意味でも、本当に地域づくりという一環の中で進めていくことができたらと思っている。われわれ相談支援専門員は、日々市町村が行っている地域自立支援協議会といったような活動に参加している。今現在はそういった自立支援協議会の中で文化芸術活動についての議論というのはそれほどされていないのが現状だが、そうした議論しながら地域をつくっていくことができたらと感じている。そういったことも考慮しながら進めていただけたらと思う。 45ページ目 社会福祉法人日本視覚障害者団体連合(橋井正喜常務理事) <第1期障害者文化芸術活動推進基本計画期間の現状認識について> 今回の基本計画は令和元年から始まったと聞いている。私は中央の役員をしているので、基本計画というか日本博を契機としたものに関しても、情報は知っている。私どもはいろいろなツールを使いながら多くの視覚障害者団体、5万人の会員がいる60の加盟団体へ流している。 だが、基本計画ということで、あまりにも言葉自体が抽象的。何をしていいのか、何をしてくれるのかということでは、まず理解ができていない。私も文化芸術に関しては疎い人間なので、どこまで対応できるか自信がなかった。基本的にプロの方など、そういった方が文化芸術の対象になると思われた方が多いと思う。今まで皆さまの発表等を聞いていると、地域でいろいろなことはされているし、ピンポイント的にもされてきているから、素晴らしいなと感じながら、こういった情報関係をいかに私たち視覚障害者に伝えていくか。また、視覚障害者は鑑賞するという受け身型もあるが、積極的に文化芸術にいそしむ人、あるいは仕事として文化芸術に携わっている人もいる。そういうところでは先ほども言ったとおり、やはり移動がネックになる。せっかく行きたいものもできない。先ほどからいろいろとオンラインでの鑑賞もしているということだが、ICTを視覚障害者、特に高齢者がどのぐらいパソコンやiPhoneによるオンラインでアクセスできるかというと、まだまだ少ないと思っている。 それと、先ほどの調査報告では結構博物館やいろいろな所へアンケートをとっているが、私は、実は地域で障害者団体の役員もしているのだが、博物館自体の障害者に対する認識が低いと感じている。名古屋でことし2月で終わったのだが、公募でやっている第56回障害者作品展示会で、展示した博物館の方たちの障害者に対する認識があまりにも少ないと感じた。文化芸術活動の中では、接遇や対応、それこそ障害者差別解消法などについて職員の方はどのぐらい理解しているのかと。もっと理解していれば、私たちが安全・安心に楽しく博物館なり美術館なり、あるいはそういった文化芸術に携わることができたのかなと思っている。3点目のところでその辺も皆さまにお話ししたい。 <第2期障害者文化芸術活動推進基本計画に期待すること> 日本視覚障害者団体連合の橋井である。第2期の基本計画に期待すること。これは大変、どこの団体さんも期待していると思う。それは逆にいえば、厳しく言わせてもらうなら第1期のものがあまりの体たらくである。私ども視覚障害者としては、まず大きく分けて3点ある。 46ページ目 まず移動の保障。最初に少し言ったが、同行援護を使ってどこに行くにも、読み書き・移動の不便さがどうしてもある。中途失明になればなるほどそうで、今のところは白杖(はくじょう)ひとつで歩くのはなかなか大変。それは同行援護を使って行くのが一番いいのかなと思う。これは自治体によって頂く同行援護の時間が全然違う。格差がある。文化芸術といって自治体がそれを認めてくれるかが心配。余暇としては36時間をもらっているが、上乗せ等をしてもらえればと思っている。 2つ目は支援者の確保。これは同行援護と一緒で私たちが文化芸術をする中では支援者がいない限り、特に視覚障害を理解した支援者がいないと務まらないのかなと思っている。その方とのコミュニケーションができない限り、何かを創作するに当たっても壁にぶち当たるのかなと思っている。 3つ目はやはり皆さまからも出ているが、情報保障。視覚障害者は読み書きが苦手と何度も話しているが、やはり子どもの頃からの方だと点字も読める。弱視の人なら文字を大きくすることで判読できる。だが、中途失明の者にとってはそれがなかなかできない。そういう中では音声、あるいはパソコン関係ならデータで頂くことが必要。世の中にいろいろなチラシはあるが、ほとんどが視覚障害者向けにはできていない。ましてや音声や点字などはまず作ってくれるところが少ない。そういうところではそれに代わるものや、それより充実したものが欲しいと思っている。特に私がこの文化芸術を大事にしたいというのは、今は中途失明の方が本当に多く、40〜50代になってやはり仕事を辞めざるを得なくなり、自死に向かう方もいる。その中ではこの文化芸術によって立ち直ることもできる。簡単にいえば話芸。落語を聞いたり、音楽鑑賞をしたり。あとは美術鑑賞では、私なども中途失明なので、自分の知っている絵画を説明してもらうとだんだん頭の中によみがえってくる。そういったことをすることによって幅広くなるのかなと思っている。 最後だが、やはり何をするにもどのようなものでも発表するところが必要。先ほどもダンスなどを発表するところが本当に、20年もやっていたのになくなったと聞いた。やはりどのような作品でも、絵でも習字でも、一生懸命作ったものを発表するところがないといけない。そういったものを今後、著作権などを使いながらでもそうだが、どんどん企業に売り込む。そういったことも私は大事かなと思っている。最初にも申し上げたが、博物館や美術館などいろいろな所で視覚障害者や障害に理解がある人たちは本当に少ない。やはり職員のそういった対応要領というのだろうか。障害者に対応する対応要領。そういうものをもっと自治体や民間の企業にもやってもらわない限り、障害者イコール特別なものという感じで見受けられるところが、今なおある。今後やるときには、例えば視覚障害者に特化した特性が分かるようなアンケート調査。先ほどのアンケートには、本当に一番大事なところが抜けている。そういったものをきちんとやってもらいたい。これはお願いして、私の発言を終わりたい。 47ページ目 一般社団法人全国肢体不自由児者父母の会連合会(石橋吉章副会長) <第1期障害者文化芸術活動推進基本計画期間の現状認識について> 全肢連では当事者会員の持つ、先ほども説明したがひたむき・触れ合い・温かさから楽しさを学び、共感し合える作品を通じ、人としての成長や自立心を確立・支えることを目的に文化芸術活動に取り組んできた。しかし、残念ながら今回のヒアリングの機会を頂き、初めて文化芸術活動の推進に関する法律、基本計画の概要を知ることができた。全国都道府県ブロック別に文化芸術活動普及支援事業を行っていたこと自体、その認識は残念ながらなかった。それが第1期に関する現状認識である。 <第2期障害者文化芸術活動推進基本計画に期待すること> 端的に第2期に期待することについて話したい。基本方針になっている、全国都道府県レベルの支援センターを通じた活動支援が期待するところだ。だが、当会のような全国組織の障害福祉団体の活動に対しては単体――要するに県単位やブロック単位。そういうところへの対象の支援策も、ぜひこの計画の中に考慮してもらいたい。そういうことを期待して終わる。 48ページ目 公益財団法人日本ダウン症協会(JDS)(清野弘子専務理事、水戸川真由美業務執行理事) <第1期障害者文化芸術活動推進基本計画期間の現状認識について> 具体的に制度のことがどうかではなく、今感じていることをお話ししたい。映画の試写会などに行った時に、ダウン症の特性などをお話しする機会がある。どのように対応したらよいかという点は、不安を抱えているように感じた。知的障害のある人の障害の特性理解が進んでいなかったり、配慮であったり、対応の仕方によって、それが対応する人によって違っているということで当事者が混乱を起こしてしまうこともあると分かった。適切な対応ができる人材の育成に加え、偏見や思い込みにならない情報を、誰もが知っていてほしいと感じている。機会があれば正しい情報をお伝えしていきたいと思っている。ダウン症がある方の中には、ダウン症に加えて聴覚や視覚の障害を抱えている方も一定数いる。大きな音が苦手だったり、本当は楽しみたいのに映画館の中に入れなかったり。舞台なども見には行くのだが、途中で大きな音がすることで外に出てしまい、「結局は、最後まで見ることができなかった」という声を聞くことがよくある。音に対する配慮――上演中、大きな音が出るとあらかじめ分かっている演目であれば、それに配慮しながら、それを鑑賞することができるかもしれないと思っている。 それから創造活動の場と障害者をつなぐ人材の育成について。これはダウン症だけに特化せず、知的障害の方全般にいわれることだと思うが、地域の通所施設等でアートの取り組みなどは進んでいるように思われる。だが、制作費の問題や指導者がいないこと。それから職員の日常業務が大変なため、負担になっていることが考えられる。そこに専門性を持った方が加わってくれることで、良い作品が生まれてくるのかなと感じている。まだまだそういうところへの配慮や支援が不足していると感じている。 発表の場の創出について。限りある予算の中で、ダウン症協会として毎年いろいろなイベントを開催していくのは、本当に容易ではない。この助成金が取得できないと開催できないのが現実。こういうところにも的確な形で支援をしてもらえたらいいと思っている。 それから、通常の暮らしの中で鑑賞の機会を得ることは、少しずつだが広がっていると思う。特別支援学校などの学齢期の鑑賞の機会は、本当に機会が増えて提供されていると感じている。特別支援学校に通っている方たちは、こういう鑑賞会があったと耳に入ってくる。学齢期は意外と充実しているのかなと思っている。ただ、卒後は本当に広く全般に鑑賞の場が提供されているとは思えない。通所先を巡回しての開催や、地域でまとまった合同開催で演劇の鑑賞などの機会が増えたらいいと思っている。誰もが参加し楽しむことができるよう、指導者の確保と提供があればと思っている。 49ページ目 <第2期障害者文化芸術活動推進基本計画に期待すること> JDSが行っている各地の活動は親が中心となっているところが多く、指導者の不足や会場の確保に大変差を感じている。継続して行いたいのだが、中心となる親や指導者がいなくなると、その活動自体ができなくなってしまう。そのようにならないためにも、生涯学習といわれるように学びの場が多くあってほしいと思っている。 日常はダウン症のある方だけで過ごしているわけではない。幼稚園や保育園で通常発達のお子さんたちと一緒に過ごしながら、多くのことを学び成長する。学齢期は専門の教員に学ぶ機会があり、大きな伸び代を見せてくれている。学校卒業後はそれぞれの生活の場に進んでいく。どうしても縦割りの仕組みの中で生涯にわたる楽しみや学ぶことにつながっていかなくなり、創作活動や鑑賞の場から遠ざかってしまうのではな いだろうか。昨年10月に秩父で開催された日本博文化芸術フェスティバルで、一般社団法人スマイルウオーキングさんとコラボでファッションショーを開催した。一人一人がプロのモデルとして輝き自分の役目を果たす姿や、舞台に立つまでの厳しさは練習の中から伝わってきた。代表の高木真理子さんは「ウオーキングのレッスンだけではなく、レッスンを通して一人一人に『できる』ということを伝えながら、社会に積極的に出ていく気持ちを育てる」と語っていた。このように関わってくれる方が増えていくことや、発表の場ができることが望まれる。学齢期から青年期、成人期へと移る中での活動は仕事ではない豊かな暮らしの中で、心の安定がつくられていくように感じる。ある青年が自信をなくし自分の殻に閉じこもってしまい、無気力な状況が長く続いていた。東京学芸大学で行われていたオープンカレッジ東京に何度か参加する中の体験は、彼が自信を取り戻す大きなきっかけとなった。例題を元に自分で考えを導き出していくという学習に取り組む中で、自己肯定感を持つことができ生き生きと過ごすことができるようになった。 まさに知的に障害があっても、生涯学び続けられる政策が続けられることが必要だと痛切に感じている。ダウン症の人たちの多くがアート、音楽、ダンス、スポーツなどを仕事や趣味として、活動の幅は以前では考えられないほど広がってきている。そのようなダウン症のある人たちの活動が、今以上に広く行うことができること、そして障害があってもなくてもお互いが分かり合うことができるようにたくさんの出会いの場の 提供があればと感じている。今後のこの活動の推進に期待を寄せている。 50ページ目 一般社団法人ジェネシスオブエンターテイメント(坪田建一理事長、吉田実納) <第1期障害者文化芸術活動推進基本計画期間の現状認識について> まず、この法律について。長年、文化芸術を通じてということで当会はやってきたので、まずこの法律の存在についても知っていた。だが、多くの方がこういうものがあるという情報を、自分で取りに行かないと得られないというのは、やはり裾野を広げる上ではまだ課題はやはり大きい。それを痛感している。それが前提としてある上で、例えば人材の育成、障害の理解、参画する人の裾野が増えれば、おそらくさまざまな障害の分野に関して関心のある人が、文化・芸術を通じて支援できる。そういう体制に入っていくのかなと思っている。 第1次については厚労省の支援センターのことや、文化庁の京都の推進本部のこと。こういう活動をしているので、情報は取りに行って見てはいる。だが、当会が活用できるのは何かとなったとき、少し課題が多いので申請もできない状況。そこはまた後ほどお話ししたい。ただ、この2年間に関して、コロナ禍が始まった状況下の中で次の計画についてのことを考えたときに、当会で今起きていることでいうと、車椅子ダンスの教室を20年間やってきた場所は、もうまったく使えなくなった。そこに通っているグループホームの人、それから重度障害で移動サービスを受けている人、市内から移動介助ができない人。要は市内からサービス事業提供者が出ないなどで、この2年間は極めて障害のある人の文化芸術に触れる場はコロナ禍によって今、分断されている。それに関して、特にやはり当会には子どもたちが多いので、今は集まってズームなどで教室をやっている。これをもう一回元に戻していこうと考えたときに、何年ベースでかかるかなと思っている。これは文化・芸術、障害に関わって活動されている諸先輩方が、地域でやられていることで絶対に全て起きていると思う。従って、次の項目で述べるが、次期の計画を考えたときに、この2年間で後退している分をどう手厚くフォローしていくのか。おそらくこれがまず前提になるのかなと感じている。 <第2期障害者文化芸術活動推進基本計画に期待すること> 先ほどお話しした、コロナ禍による影響での練習場所という問題。今、私たちは本番を迎えるに当たり、公共の施設にお金を払い、どこなら車椅子でも受け入れてもらえるか。「床が傷付く(から駄目)」「車椅子用トイレがない」。そのような状態の中でずっとやってきている。そういう施策の中で、練習場所や拠点を柔軟に対応してもらえる施策を作ってもらいたい。 51ページ目 私たちは障害のある人が文化・芸術を通じて社会に貢献する一つのモデルをつくろうと思っている。障害のある人は何かをやってもらう側だけではなく、障害のある人は体に障害があったとしても、子どもの未来を案じて子どもを幸せにしたいと思っている。そういう障害のある人はたくさんいる。その可能性として技術が高くなっていって、そこで頑張っている人たちを守れるような練習場所、活動拠点をもつことができる。そういう支援制度・施策が欲しい。 あとは、基本施策の6番と7番。ここの「販売」と「交流」が極端に低い。これに関してはこのとおりだと思う。機会をつくり、参加できる。そういう場をこの3年間いろいろな方がしてくれたから、だいぶ可能性は広がったと思う。しかし先ほどいわみ福祉会さんが言ったように、障害のある人の文化芸術の価値はやはり低い。どうすれば障害のある人が、人の何倍も時間をかけて覚えてきたものに対して、それに対しての正当な評価や対価を得ることができるか。そういうことをこれから見つけていくことが、やはり必要なのではないかと思っている。 それから次に、私たちは文化芸術活動で学校訪問という活動をやっている。年間80日学校に行くのは、健常者でもできることではない。身体障害の重い障害のある人が、日給・月給でそこをやっていく。当会の健常者のダンサーたちもそうだが、それを支援する人たちの生活をどう守っていくか。先ほどいわれた支援者や理解者だが、そういう人たちをどう伸ばして守って継続できるような体制を、制度として作っていくかというのが鍵になると思う。従って、そういう部分を例えば次の制度のところで、やはり何とか作っていってもらいたいなと思っている。 とがった身体状態がいい、芸術性が高いというだけで評価してはいけない。重度のメンバーがダンスを愛し、いろいろな人たちの前で発表の機会を得て自分を表現することの素晴らしさは、本当に素晴らしいと思う。そういう評価の基準は多岐にわたり本当に難しいとは思う。だが、当会の課題だけでいうと、自分たちの団体の自発性、個人の思い。そういったものだけにこういう活動の継続が委ねられるのは危うい。そのようにならないように、例えば国には次の制度のときには柔軟に――「この靴に合わせてやってくれ」ではなく、その活動に合った靴をという柔軟に対応してもらえる制度があればと本当に願っている。期待しているし、私たちでできることであればいつでも協力したい。よろしくお願いしたい。 52ページ目 特定非営利活動法人バリアフリー映画研究会(大河内直之理事長) <第1期障害者文化芸術活動推進基本計画期間の現状認識について> バリアフリー映画研究会の大河内である。第1期の現状認識についてお話しする。映画、それから舞台芸術のバリアフリー化に際しては、これは障害当事者、それから専門家と書いてある。これは制作者、演出家、研究者という人たちと一緒に、障害者文化芸術活動推進委員会というものを設置して、その中で議論を重ねることにより、誰もが映画や舞台芸術を等しく鑑賞できるようにすること。例えば、バリアフリー化。字幕制作や音声ガイド制作に当事者が関与できるという仕組み。それからさらにはその障害当事者が表現者として舞台に立つということも含めながら、制作に関与してバリアフリー化を推進してきている。先ほど話したUDキャストも、こういう議論の上に構築された。現在取り組んでいる舞台芸術のバリアフリー化も、同様の形で取り組んでいるところ。 しかしながらこういう取り組みをすればするほど、次の3番で申し述べるが、まだまだ大きな課題が見えてきている。特にこの文化・芸術の推進をさらに加速させればさせるほど、社会的な障壁がたくさん見えてきている。その辺について、次の「期待するところ」で具体的に申し述べたいと思う。 <第2期障害者文化芸術活動推進基本計画に期待すること> 4つの話をしたい。ひとつ目は映画のアプリについて。今映画業界ではUDキャストとハロームービーという2つのアプリによって、音声ガイドとバリアフリー字幕が提供されている状況。実はこの2つのアプリに同じ作品が提供されていないという問題が、ここ2年ぐらい起きている。この問題は映画業界側の都合でこういうことになっている。これはどちらも同じ作品をきちんと提供してほしいとユーザーからずっと要望が出て いるが、いまだに改善がされていない。特にUDキャストはもともと最初からあったアプリで、視覚障害者でも使いやすいとずっとされてきたもの。どちらにも同様の映画の作品情報が提供されることを、われわれ研究会としても引き続き要望していく。これは行政からもぜひ指導してもらいたいという、大きな期待を持っている。ここが解消されないと、当事者の混乱はなかなか収まらないというのが1つ目。 2つ目は、映画の望ましいバリアフリー映画の鑑賞の在り方について。今アプリによって映画がバリアフリー化され、聴覚障害者や視覚障害者が鑑賞できるようになった。これがバリアフリー化の完成形だと思われている関係者も多いと思うが、実はそうではない。スマートフォンやイヤホン、それからヘッドマウントディスプレーといった機械を必要としなければ、字幕や音声ガイドは取得できない状況。われわれが考えている本当のバリアフリーの在り方は、そういう眼鏡やイヤホンがなくても音声ガイドや字幕が他の人と同じように取得できて、一緒に鑑賞できることを目指さなければいけない。特に字幕については、現在「焼き付け字幕」といって映画館で普通のスクリーンに日本語字幕を出す技術は確立されている。だが、これは基本的に社会的な障壁によって、今でも提供できない状況にある。こういう社会的な障壁、特に意識の面の障壁を解消することにより、こうした機械を使わなくても一般の人と同様に映画コンテンツを楽しめるようにすべきと思っている。こういうところにも引き続きわれわれも働き掛けするし、業界からもこういうことへの働き掛けを期待したい。 53ページ目 3つ目は劇場のバリアフリー化について。今、劇場には車椅子席は増えてきていると認識している。しかしながら、例えば車椅子の方が2人で一緒に並んで鑑賞すること、あるいはご家族で車椅子を利用している人とそうでない人が一緒に鑑賞することは実はできない劇場がほとんど。「席があることで合理的配慮がなされている」といわれているが、決してこれは合理的な配慮の状況ではないと考えている。やはりさまざまな場所で、しかも車椅子席は一番前のほうに設置されていて、いつも首を上に上げて首が痛い状態で映画を鑑賞するという声が聞こえてきている。こういうさまざま環境でもアクセスできる席を設けることが一つ。それから先ほども話に出ていたが、やはり視覚障害を持った人たちの、例えば移動について。劇場にたどり着くことも大変だが、劇場にたどり着いて中で例えば安心してトイレに行かれる。また、受付に安心して行かれることについても、劇場側で少し配慮すればできるようになることはたくさんある。そういう意識の改革を、コンテンツだけではなくてしていかなくてはいけない。そういう働き掛けもぜひ期待したい。 最後に4つ目。ホームページや座席の予約システム等々の仕組み。これについても視覚障害の人が自力でどのような映画や演劇をやっているかという情報を得るのは、なかなか今でも難しい状況にある。もちろんしっかり取り組んでいる事業者もあり、一部は自力で予約をすることや、映画の上映情報が得られることもある。だが、大手の映画サイトはなかなかそうなっていない。これも少しの改善で実現することなので、こういう意識改革をぜひ、われわれも働き掛けたいと思うので行政からもぜひ働き掛けをしてもらいたい。期待している。もう一つ重ねて言うならば、最近はオンライン化といってコロナ禍でさまざまな取り組みがなされている。それはとてもいい部分もあるかと思う。視覚障害の移動の不便がオンラインで解消することは、確かにそのとおりかもしれない。ただし、例えばこのICTがなかなか使いにくい方、高齢の方。あるいはオンライン化することによって、これまで文化芸術活動に参加できていた盲ろう者がほとんど参加できなくなっているという状況にある。こういうことも勘案して、ICTの使い方、活用の仕方も再度見直しながら、第2期の文化芸術基本計画に期待したい。 54ページ 全国社会福祉法人経営者協議会(社会福祉法人いわみ福祉会理事 岩綾子、同渉秀之) <第1期障害者文化芸術活動推進基本計画期間の現状認識について> 私どもの支援センターがこのたび島根県内の施設へアンケートを行った。その結果から見えてきたことを、この基本施策のカテゴリーに沿って述べてみたい。鑑賞の機会について。当事者の方たちが本物の芸術に触れる機会がやはり少ないと感じている。このことは、よく週末にイベントなどが行われると思うが、支援する関係者の方たちが実際にする移動支援や、一緒に行動すること自体がもはや困難が起きている状況も見受けられる。 創造の機会、作品等の発表の機会について。絵を描く絵画の取り組みはたくさんやっている。それ以外の舞台芸術については、当事者である利用者さんの関心のばらつきも大きく、支援する方法が課題となっている。 芸術上価値が高い作品等の評価について。評価する側である専門性を持っている方との、やはり関係性、ネットワークが大いに不足している状況がある。 権利保護や販売。支援する現場においては、著作権などに関する知識やスキルがかなり不足している。また、成功事例が見えてこない、実感できないという点も大きくあると思う。 文化芸術活動を通じた交流の促進。地域のレベルで見たときに、この地域を起点として交流していこう、促進させようとするリーダー的な存在が地域に少なく、マンパワー不足にあると思う。 相談体制の整備等について。私どもをはじめ、支援センターの機能について浸透が不足している。そもそも支援センターが頼られる存在にまだなりきれていない現状がある。 人材の育成、情報の収集、関係者の連携協力。日中活動においては、生産活動や生活介護などをされているが、この文化・芸術活動をバランスよく取り入れたよいモデル事例があまり共有されていない気がする。従って、文化芸術活動を取り入れることがいいことなのだという実感ができていない。あとは、文化芸術活動に焦点に当てた研修情報。 これは自分から探しに行けばたくさんあるのだが、支援者から見ればそこまでの余裕がない。もう少し気楽に研修情報が下りてくるほうがいいのかなと感じている。 総合的にまとめると、障害福祉サービス事業所等においては文化芸術活動に対して基本的な情報不足が挙げられる。それは派遣してほしい講師が分からない、謝金を幾らに設定すればいいのかといったそのような基本的なことが分かっていない状況が多くある。そうするとどのくらいの年間予算を組んで準備すればいいかが結局分からない。文化芸術活動をしてもその費用対効果も見えづらい。結局、分からないことが多くて活動資金を充てることにも消極的になってしまう。イベントのある週末は人を張り付けるこ とができない。そのような負のイメージが多くて、結局思いきって前に進めない現状が あるのかなと感じた。 55ページ <第2期障害者文化芸術活動推進基本計画に期待すること> 第2期基本計画に期待すること。キーワードは、私は地域だと思っている。地域には福祉施設、特別支援学校、普通の学校、あとは地域の拠点である公民館のようなコミュニティー施設。また、文化ホールのような施設がある。福祉施設さんや特別支援学校さんが持っている文化芸術活動に対するニーズ。それを地域の拠点である公民館や文化ホール、文化施設でいえば講師の方やアーティストさんなどのネットワークは、もちろんつながりがあると思う。また鑑賞をサポートする技術や、ライブ配信をする技術を持っているかもしれない。そのような強みと福祉サイドのニーズ。もちろん在宅障害の方も含めて、そのような地域の中でお互いが連携し、支え合う仕組みづくりが起きると、少しずつ共生社会への道が近づくのかなと感じている。 そしてまた地域にはその地域ならではの文化や伝統芸能があるわけで、改めて地域の視点で地域のことを知る。そこに暮らす障害のことを知るという作業が、結局はお互いを認め合っていく大事な作業なのかなと感じている。また、地域には一般企業もある。企業の中には、そこのパッケージ商品のデザインに障害者アートを利用するというような社会貢献活動をしたいという会社さんもあると思う。あとは、官公庁では障害者優先調達推進法を進めているが、そのような法律と障害者アートとの連携などもあってもいいのかなと思う。 そこに至るまでに結局、ボランティアの存在はとても大事だと感じている。ボランティアの方の発掘。支援者となるであろう人材育成。このようなところにも少しずつ目を向け、体制が整ってくると非常にいいのかなと感じている。