障害者による文化芸術活動の推進に関する基本的な計画 平成31年3月 文部科学省 厚生労働省 目 次 第1 はじめに (1)法律成立までの背景や経緯 (2)基本計画の位置づけ (3)障害者による文化芸術活動の推進に当たっての意義と課題 第2 基本的な方針 視点1)障害者による文化芸術活動の幅広い促進 視点2)障害者による芸術上価値が高い作品等の創造に対する支援の強化 視点3)地域における、障害者の作品等の発表、交流の促進による、心豊かに暮らすことのできる住みよい地域社会の実現 第3 施策の方向性 (1)鑑賞の機会の拡大 (2)創造の機会の拡大 (3)作品等の発表の機会の確保 (4)芸術上価値が高い作品等の評価等 (5)権利保護の推進 (6)芸術上価値が高い作品等の販売等に係る支援 (7)文化芸術活動を通じた交流の促進 (8)相談体制の整備等 (10)情報の収集等 (11)関係者の連携協力 第4 おわりに ※注釈は巻末にまとめています。 第1 はじめに  (1)法律成立までの背景や経緯 我が国の障害者による文化芸術活動については、近年、障害福祉分野と文化芸術分野双方から機運が高まっており、平成30(2018)年には、議員立法により「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律(平成30年法律第47号)」(以下「障害者文化芸術推進法」という。)が成立した。我が国の障害者施策は、国際連合が定めた「国際障害者年(昭和56(1981)年)」を契機に、大きく推進され始め、平成7(1995)年に策定された「障害者プラン」においては、障害者の生活の質の向上を目指し、芸術・文化活動の振興も施策の一つとして掲げられ、その後の「障害者基本計画」においても文化芸術活動の振興が施策の一つとして位置づけられてきた。平成13(2001)年には「国連・障害者の十年(昭和58(1983)年〜平成4(1992)年)」を記念し、国は、国連の精神である障害者の完全参加と平等の実現を図り、障害者の国際交流や芸術・文化活動の場、また、広く国民の参加する交流の場として「国際障害者交流センター」を大阪府に設置し、同センターを会場として「第1回全国障害者芸術・文化祭」を開催した。その後、厚生労働省は平成24(2012)年に、全国障害者芸術・文化祭を、原則として「国民文化祭」と同一都道府県で開催することと定め、平成29(2017)年度の奈良大会からは、両文化祭の会期も同一となり一体的に開催されている。文化芸術施策においても、平成13(2001)年に成立した「文化芸術振興基本法(平成13年法律第148号)」で、文化芸術を創造し、享受することが人々の生まれながらの権利であることが規定され、同法を受けて平成23(2011)年に制定された「文化芸術の振興に関する基本的な方針(第3次基本方針)」では、文化芸術は子ども・若者や、高齢者、障害者、失業者、在留外国人等にも社会参加の機会をひらく社会的基盤となり得るものであり社会包摂の機能を持つということが明示された。その後、平成29(2017)年に文化芸術振興基本法を改正して制定された「文化芸術基本法」においては、年齢、障害の有無、経済的な状況又は居住する地域にかかわらず、文化芸術の機会を享受することができるような環境の整備を図ることが基本理念として示され、これを受けて平成30(2018)年に制定された「文化芸術推進基本計画(第1期)」においても、文化芸術による社会包摂の推進や障害者による文化芸術活動の推進環境の整備等が重要な施策として位置づけられたところである。平成20(2008)年に、文部科学省・厚生労働省は、「障害者アート推進のための懇談会」を共催し、障害者による文化芸術活動を福祉的観点からだけでなく文化芸術の観点からも検討する場を設け、美術分野における関係者の意見交換を行い、必要な取組について提言をまとめた。平成25(2013)年には、文化庁・厚生労働省は「障害者の芸術活動への支援を推進するための懇談会」を設置し、主に美術分野の活動を対象とした障害者の芸術活動に関する支援についての「中間とりまとめ」を報告した。平成25(2013)年の「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会」招致決定を契機に、障害者による文化芸術活動への関心や注目がさらに高まり、平成27(2015)年には、文化庁・厚生労働省は、「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた障害者の芸術文化振興に関する懇談会」を設置し、関係者相互の情報共有やネットワークの構築を図るとともに、広く関係者による意見交換を定期的に行ってきた。  厚生労働省では、平成25(2013)年の中間とりまとめを受け、平成26(2014)年度から3年間にわたり、地域における障害者の芸術活動を支援する「障害者の芸術活動支援モデル事業」を実施し、平成29(2017)年度からは、その成果を全国に普及・展開する「障害者芸術文化活動普及支援事業」を実施している。また、文化庁では、障害者の優れた文化芸術活動の国内外での公演・展示の実施や、映画作品のバリアフリー字幕や音声ガイド制作への支援等、障害者による文化芸術活動の充実に向けた支援に取り組んでいる。その他関係省庁においても、障害者による文化芸術活動の施策に取り組んできている。   (2)基本計画の位置づけ 障害者文化芸術推進法は、「障害者基本法(昭和45年法律第84号)」及び文化芸術基本法の基本的な理念にのっとり、文化芸術活動を通じた障害者の個性と能力の発揮及び社会参加の促進を図ることを目的とするものである。障害者文化芸術推進法第7条には、「文部科学大臣及び厚生労働大臣は、障害者による文化芸術活動の推進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、障害者による文化芸術活動の推進に関する基本的な計画(以下「基本計画」という。)を定め」る旨の規定があり、基本計画には基本的な方針、政府が総合的かつ計画的に実施すべき施策、その他必要な事項を定めることとされている。障害者基本法に基づく「障害者基本計画(第4次)」では、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害者を、必要な支援を受けながら、自らの決定に基づき社会のあらゆる活動に参加する主体として捉え、障害者が自らの能力を最大限発揮し自己実現できるよう支援するとともに、障害者の活動を制限し、社会への参加を制約している社会的な障壁を除去するため、政府が取り組むべき障害者施策の基本的な方向を定めている。文化芸術基本法では、「文化芸術を創造し、享受することが人々の生まれながらの権利であることに鑑み、国民がその年齢、障害の有無、経済的な状況又は居住する地域にかかわらず等しく」文化芸術の機会を享受することが基本理念としてうたわれており、文化芸術推進基本計画(第1期)では、全ての国民があらゆる地域で容易に文化芸術活動に触れられ、表現活動が活発に行われるような環境を整備することが方針として示されている。基本計画においては、障害者基本計画及び文化芸術基本計画における基本理念や方針を踏まえ作成する必要がある。また、基本計画の実現に向けた取組を進めることは、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号)」の趣旨にも適うものである。なお、基本計画における「障害者」とは、障害者文化芸術推進法の規定に基づき、障害者基本法第2条第1号で定める身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。   (3)障害者による文化芸術活動の推進に当たっての意義と課題 文化芸術は、新たな価値を社会に生み出すとともに、多様性を尊重し他者との相互理解を進める力を持っている。障害者が生み出す文化芸術活動には、作品や成果物にとどまらず、表現や創造の過程に魅力があるもの、既存の文化芸術に対して新たな価値観を投げかけるものも多く存在する。また、視覚障害者による美術鑑賞など、従来の参加方法や既存の芸術理解を揺さぶる多様な在り方を示唆するものもある。障害者による文化芸術活動は、それまで見えづらかった障害者の個性と能力に気づかせるだけでなく、障害者を新たな価値提案をする主役として位置づけ、障害の有無にかかわらない対等な関係を築く機会を提供する。また、障害者のアイデンティティ形成、自己肯定感の向上や、自己表現及びコミュニケーション能力の拡大に大きな成果をもたらすと同時に、障害者を取り巻く家族や支援者の考え方を前向きにするなど、障害者本人だけでなく、周りの人々の人生や生活を幸福にするとともに、地域における多様な人々をつなぐことにより、共生社会の実現に寄与するといった報告もされている(注1)。一方で、障害者による文化芸術活動においては、活動の際に生じる制限や障壁、文化・福祉・教育等関連分野の縦割り、障害者本人に十分な支援や情報が届かない、本人の意思が尊重されない、などの様々な課題もある。現状では、このような実態について全国的に把握し、課題や改善策を明らかにするための基礎調査も十分であるとはいえない。また、障害者による文化芸術活動を推進することは、ともすれば「障害者の文化芸術」という分類・枠組みがあるという印象を強め、その他の文化芸術活動との分断を生じさせるのではないかとの懸念があることにも留意する必要がある。本来、文化芸術活動においては、障害の有無に関わりなく、誰もが対等に享受・創造する権利をもっている。しかし、現状では障壁や制限、それによる負担も生じているため、これらを解消するための具体的な対応が必要となっている。障害者による文化芸術活動の推進は、現在生じている文化芸術活動への参加や創造における物理的・心理的障壁を取り除き、誰もが多様な選択肢を持ち得る社会を構築するためのものであり、文化芸術活動全般の推進や向上に貢献し、我が国に新しい価値の提案をもたらすと同時に、共生社会の実現に寄与するものである。 第2 基本的な方針  本基本計画においては、障害者文化芸術推進法の定める3つの基本理念を基本的な視点とし、具体的な施策に取り組むこととする。 視点1)障害者による文化芸術活動の幅広い促進 障害の種別や特性の違いに関わらず、いかなる障害者でも、自宅、学校、福祉施設、文化施設、民間の教室等、地域の様々な場で、幼少期から生涯にわたり、美術、音楽、演劇、舞踊など、多様な文化芸術活動に、全国津々浦々で参加できることが重要である。そのためにも、より多くの障害者が鑑賞、創造、発表等の多様な文化芸術活動に参加できるよう、芸術家を目指す人から日常の楽しみとして行う人まで、幅広い障害者のニーズや多様な特性に応じた環境整備が必要である。また、障害者による文化芸術活動を幅広く促進することは、全ての国民の文化芸術活動の推進につながるものである。 視点2)障害者による芸術上価値が高い(注2)作品等の創造に対する支援の強化 障害者による文化芸術活動の中には、人々が本来有する創造性が発揮され、様々な場面で高い評価を受けるものや、国内外への幅広い発信力をもつものなどもある。このような文化芸術活動は、障害者の個性を活かし自己肯定感を高め、社会参加を促すことからも、創造活動に対する支援は重要な方向性である。また、文化芸術には多様な価値があり、芸術上の価値においても、時を超えて変わらないものもあれば、時代とともに変化し続けるものもあることに留意が必要である。障害者による文化芸術活動には、作品や成果物にとどまらず、表現や創造の過程に魅力があるものや文化芸術に対して新たな価値観を投げかけるものも多く存在し、既存のジャンルに収まらない、新たな文化創造に寄与する作品や活動も多く生まれている。このため、障害者による文化芸術を論じていく際には、このような文化芸術が有する本質的価値、社会的・経済的価値といった文化芸術推進基本計画で示されている多様な価値(注3)を幅広く考慮し、その評価のあり方を固定せずに議論を続けていくことが必要である。 視点3)地域における、障害者の作品等の発表、交流の促進による、心豊かに暮らすことのできる住みよい地域社会の実現 障害者による文化芸術活動は、地域の様々な領域で取り組まれている。同時に、障害者本人のみならず、地域の学校、福祉施設、文化施設、文化芸術団体、行政など様々な主体が関わる活動であり、これらの多様な主体が円滑に活動できる環境や関係者の連携体制を地域に整備することが重要である。この連携によって、新たな活力が地域に生まれると同時に、地域における障害への理解が進み、誰もがお互いを尊重し合う豊かな地域社会の基盤が生まれる。それぞれの地域で等しく、このような支援基盤を整えると同時に、広域的な連携やネットワークの構築も必要である。また、国民一人一人も、地域社会の一員として関わっていく役割を担っている。 第3 施策の方向性   基本計画は、障害者基本計画及び文化芸術推進基本計画における計画期間を踏まえ、平成31(2019)年度〜34(2022)年度までに下記の施策に取り組み、障害者による文化芸術活動の推進を図るものである。 (1)鑑賞の機会の拡大  文化芸術の鑑賞は、本来、誰もが参加できるものであり、鑑賞の機会に当たって物理的・心理的な障壁が改善されれば、より多くの人が参加しやすくなることから、より一層の環境整備の充実が求められる。具体的には、文化施設等のハード面の整備のみならず、情報保障などの障害特性に応じた配慮やサービスの提供等の利用しやすい環境の整備に加え、適切な対応ができる人材の育成、施設間のノウハウの共有や、実演芸術分野における鑑賞サポート等が求められている。   @ 利用しやすい環境整備の推進  障害者が文化芸術を鑑賞する際の情報保障(日本語字幕、手話通訳、音声ガイド、ヒアリングループ等の整備)や多様な障害特性に応じたサービスの提供、施設の利用環境の整備等、利用しやすい環境の向上を図る取組を推進する。   A 文化発信・交流の拠点としての文化施設の活動・内容の充実  文化発信・交流の拠点として、美術館や博物館、劇場、音楽堂等の活動・内容の充実を図る際、障害者による文化芸術活動への支援を推進することにより、文化施設が社会包摂の拠点としても機能するよう取組を進めることが重要である。例えば施設の催しの内容を市民に興味深く、かつ障害の特性に配慮した情報保障や環境整備などの対応を含めた情報を提供することで、多様な事業が展開されるような手法の開発を推進する。加えて、文化施設内や文化施設を利用するための最寄りの公共交通機関等の対応状況等の情報発信も推進していく。   B 文化施設の大規模改修に関する障害者への配慮  地域の美術館、博物館、劇場、音楽堂等の機能向上等に向けた施設整備を促進するため、施設の大規模改修を行う際には、障害者の意見を十分踏まえた対応がなされるよう推進していく。 C 鑑賞に対する支援体制の整備  国は、地方公共団体等と連携し、地域における障害者の文化芸術の鑑賞支援に関する相談、関係機関や専門家の紹介及び専門的知見によるアドバイス等を行う支援体制の整備を進める。障害者へ鑑賞の機会を提供する者等に対して、障害への理解、鑑賞の支援方法等に関する研修や現場体験プログラムの提供などを積極的に行うとともに、障害者やその家族、福祉や芸術等の専門家、事業所や文化施設の職員、行政職員、教育関係者、研究者など、分野や領域を越えて、鑑賞の在り方や鑑賞機会の確保が考えられるネットワーク形成を進める。 D 地域における鑑賞機会の創出  国は、地方公共団体等と連携し、障害者による文化芸術活動の裾野が広がるよう、地方公共団体における障害者等の作品展、舞台公演、映画祭などの鑑賞の機会の拡大に努める。それらの全国各地の企画を全国障害者芸術・文化祭と連携する取組を進める。これらの機会において、鑑賞支援の整備に取り組み、より多くの障害者の鑑賞機会を創出する。 E 顕彰の実施  障害者に配慮した鑑賞のサポートや発表機会の提供等の取組を積極的に行う独立行政法人、地方公共団体、文化芸術団体、文化施設、企業等の民間事業者、芸術家、学校等、社会福祉施設、非営利団体、中間支援組織、文化ボランティアなどの関係諸機関等について表彰を行い、優れた取組をより広く発信する。 F イベント等における先導的取組の実施   我が国の優れた美術、音楽、舞踊、演劇等の芸術を世界に発信するため、海外発信力のあるイベントの開催、海外の音楽祭や演劇祭への参加、国内における舞台芸術イベントの開催、海外の芸術団体との共同制作などの取組を一層推進するとともに、こうした国内外における美術や舞台芸術等の様々なイベント等において、障害者の鑑賞に配慮した取組を進めていく。特に文化庁が実施、支援する際は、他の先行事例となるよう先導的な取組を実施する。 G 義務教育における取組  障害者の鑑賞機会を確保するため、国及び地方公共団体は、地方公共団体における自主事業等も含め、全国の小中学校及び特別支援学校等の子供たちに対する優れた文化芸術の鑑賞・体験機会を充実させる。 H あらゆる地域で文化芸術活動に触れる機会の創出  障害者が主体的に参加し、学ぶことができる体験型プログラム等のさまざまな取組や地域の学校、非営利団体、福祉施設等の関係機関等と連携したアウトリーチ活動などそれぞれの機関が主体的に取り組む文化芸術活動等を通じて、あらゆる地域で多彩で優れた文化芸術活動に触れることができるようにする。 I 国民文化祭と全国障害者芸術・文化祭の一体的な実施  国は、地方公共団体と連携して、国民文化祭及び全国障害者芸術・文化祭を効果的に活用し、文化活動への参加の意欲を喚起し、新しい芸能、文化の創造を促すとともに、障害の有無にかかわることなく国民の参加や鑑賞機会の充実を図るため、国民文化祭と全国障害者芸術・文化祭を一体的に開催していくこととし、併せて名称の統一についても検討する。 J 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を契機とした文化プログラムの推進  障害の有無に関わらず、全ての人が芸術文化に親しみ、優れた才能を活かして活躍することのできる社会を実現するため、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を契機に、障害者による文化芸術活動や社会包摂に資する文化芸術活動の拡充に向け、「日本博」などの文化プログラムを全国で展開してい併せて、成熟社会にふさわしい次世代に誇れるレガシーの創出に資する障害者による文化芸術活動を含む文化プログラムを認証する「beyond2020プログラム」を通じ、文化事業・活動へのバリアフリー対応等を促し、共生社会の構築を図る。 K 文化財での対応  障害者が広く文化財に親しむことができるよう、障害特性に配慮した情報保障や環境等を整備し、文化財の内容や状況に応じた対応を進めていく。 (2)創造の機会の拡大  障害者による創造活動は、学校や福祉施設にとどまらず、文化施設、社会教育施設等や民間のダンス教室、美術サークル、劇団など、多様な場において行われるものであり、それぞれの場において、環境や内容の充実が望まれる。近年、芸術活動において、作品はもとより、創造過程そのものに着目した表現など、既存の芸術ジャンルに収まらない多様性が見られる。このような活動の場やジャンルの多様性にも対応できる支援体制、創造活動の現場と障害者をつなぐ支援者やコーディネーター等の育成も求められている。また、学校教育における創造の機会のより一層の充実とともに、希望する障害者が卒業後も創造活動を行うことができる場を創出・確保していくことが課題となっている。多様な人々が創造活動に参加することで、文化芸術の新たな価値や優れた作品を生み出す契機となることや、人々の心のつながりや相互理解、多様性の受け入れなどにつながる可能性に鑑み、様々な主体が創造活動に参画できるような環境の醸成が期待される。 @ 創造活動及び発表機会の拡大に向けた支援の充実  芸術水準の向上の直接的な牽引力となることが期待される優れた活動や、独創性に富んだ新たな創造活動など、国内で実施する芸術創造活動の支援に当たっては障害者の活動への配慮を行う。美術、音楽、舞踊、演劇等の各分野の将来を担う芸術家等に対する国内外での研修や活動成果を発表する機会の充実を図るに当たっては、障害特性や活動内容に応じて支援を行うことが可能な者やコーディネーターを確保することなどにより、活動の障壁となるものを取り除くための配慮を行い、障害者の創造活動及び発表機会の拡大に向け支援を行う。 A 創造の機会の拡大  我が国の優れた美術、音楽、舞踊、演劇等の芸術を世界に発信するため、海外発信力のあるイベントの開催、海外の音楽祭や演劇祭への参加、海外の芸術団体との共同制作など更なる取組の推進を図っていく。また、こうした美術や舞台芸術等の様々なイベント等に向けて、障害者が創造の機会を拡大する取組は重要であることから、国内外を問わず、作品等を創造する機会を設ける。 B 障害者による文化芸術活動についての調査の実施  障害者の文化芸術活動において、これまで作品として認識されづらかったもの、既存の形式や枠組みにとらわれないもの、創造過程そのものに魅力があるものなど、新しい価値の創出につながる取組事例を調査し、それらの評価方法、また社会的価値等の波及効果などについての研究を大学等と連携し、新たに行う。 C 特別支援学校等においての取組  特別支援学校学習指導要領等を踏まえ、特別支援学校等において芸術に関する教育の充実を図っていく。 D 余裕教室、廃校施設、社会教育施設等の活用  学校教育に利用される見込みのない教室や廃校施設が、様々な用途への転用が可能となっていることを踏まえ、障害者が創造活動を行う際にその活動拠点として、また、文化芸術作品等の保存場所としての利用を引き続き促進する。併せて、各地域の美術館、博物館、劇場、音楽堂等の文化施設や公民館等の社会教育施設について、障害者が創造活動を行う際にも、円滑に利用しやすい運営を促進する。 E あらゆる地域で文化芸術活動に触れる機会の確保  障害者が主体的に参加し、学ぶことができる体験型プログラム等のさまざまな取組や地域の学校、非営利団体、福祉施設等の関係機関等と連携したアウトリーチ活動など、それぞれの機関が主体的に取り組む文化芸術活動等を通じて、あらゆる地域で多彩で優れた文化芸術活動に触れることができるようにすることで、創造活動への関心を喚起する。 F 多様な創造活動の促進  国は、地方公共団体等と連携し、地域における障害者の活躍の場を広げ、様々な人との交流が促進されるよう工夫した創造活動の場を創出するとともに、芸術家や専門家が福祉施設等を積極的に訪問・巡回し、利用者等と共に行う多様な創造活動の取組等を促進する。 G 環境整備の促進  地域における相談支援、ネットワーク形成、人材育成等に取り組むことにより、より多くの障害者が、個性と能力を発揮することができる創造活動の環境整備の促進を図る。 H 国民文化祭と全国障害者芸術・文化祭の一体的な実施  国は、地方公共団体と連携して、国民文化祭及び全国障害者芸術・文化祭を効果的に活用し、文化活動への参加の意欲を喚起し、新しい芸能、文化の創造を促すとともに、障害の有無にかかわることなく国民の参加や創造機会の拡大を図るため、国民文化祭と全国障害者芸術・文化祭を一体的に開催していくこととし、併せて名称の統一についても検討する。 (3)作品等の発表の機会の確保  作品等の発表の場は、障害者やその支援者等の創造活動のモチベーションの向上につながり、また障害者が多様な関係者や地域社会等と交流する機会としても重要であるが、現在そうした発表の場が少ないことが課題となっている。中でも、音楽、演劇、舞踊などの実演芸術分野に関する発表の場が少ないことから、これらの分野での充実を図ることが必要である。また、作品発表の目的は、芸術水準の向上や日頃の活動の成果発表など、様々である。それぞれの立場で発表の機会が増え、その機会が多様な人々の交流や相互理解につながっていくことが望ましい。 @ 発表機会の拡大に向けた支援の充実  美術、音楽、舞踊、演劇等の各分野の将来を担う芸術家等に対する国内外での研修や活動成果を発表する機会の充実を図るに当たっては、障害特性や活動内容に応じて、活動の障壁となるものを取り除くための配慮を行い、創造活動及び発表機会の拡大に向け支援を図る。 A 障害者による文化芸術活動の発表の機会の拡大  我が国の優れた美術、音楽、舞踊、演劇等の芸術を世界に発信するため、海外発信力のあるイベントの開催、海外の音楽祭や演劇祭への参加、海外の芸術団体との共同制作、海外における舞台公演、美術展などを通じた障害者の作品の海外発信や障害者による文化芸術活動を通じた海外との交流など更なる取組の推進を図っていく。また、こうした美術や舞台芸術等の様々なイベント等において、障害者による発表の機会を拡大する取組は重要であることから、国内外を問わず、作品等を発表する機会を設ける。 B 国民文化祭と全国障害者芸術・文化祭の一体的な実施  国は、地方公共団体と連携して、国民文化祭及び全国障害者芸術・文化祭を効果的に活用し、文化活動への参加の意欲を喚起し、新しい芸能、文化の創造を促すとともに、障害の有無にかかわることなく国民の参加や発表機会の拡大を図るため、国民文化祭と全国障害者芸術・文化祭を一体的に開催していくこととし、併せて名称の統一についても検討する。 C 地域における発表機会の創出  国は、地方公共団体等と連携し、障害者による文化芸術活動の裾野が広がるよう、地方公共団体における障害者等の作品展、舞台公演、映画祭などの発表の機会の拡大が図られるよう取り組む。また、それらの全国各地の企画を全国障害者芸術・文化祭と連携する取組を進める。更に、地域における障害者の活躍の場を広げ、様々な人との交流が促進されるよう工夫し、専門家等と連携を図り質の高い芸術文化活動につながる展示、体験プログラム、公演等のより多くの発表機会を創出する。 D 全国高等学校総合文化祭における発表の場の提供  全国の高校生が文化芸術活動の発表を行う祭典である全国高等学校総合文化祭において特別支援学校の生徒による作品の展示や実演芸術の発表の場を提供する等により、発表の機会を創出し、併せて情報保障等の整備を行うことによって障害を持つ生徒が参加でき、全ての高校生が共生社会への認識を深める機会とする。 E 顕彰の実施【再掲】  障害者に配慮した鑑賞のサポートや発表機会の提供等の取組を積極的に行う独立行政法人、地方公共団体、文化芸術団体、文化施設、企業等の民間事業者、芸術家、学校等、社会福祉施設、非営利団体、中間支援組織、文化ボランティアなどの関係諸機関等について表彰を行い、優れた取組をより広く発信する。 F 余裕教室、廃校施設、社会教育施設等の活用 学校教育に利用される見込みのない教室や廃校施設が、様々な用途への転用が可能となっていることを踏まえ、障害者が作品等の発表を行う際にその活動拠点として、また、文化芸術作品等の保存場所としての利用を引き続き促進する。併せて、各地域の美術館、博物館、劇場、音楽堂等の文化施設や公民館等の社会教育施設について、障害者が作品等の発表を行う際にも、円滑に利用しやすい運営を促進する。 G 発表機会の環境整備の促進  地域における障害者の文化芸術作品等の発表に際して、相談支援や連携・協力のできるネットワーク形成等を行い、より多くの障害者が適切、安全、円滑に発表の機会を享受できるよう環境整備の促進を図る。 (4)芸術上価値が高い(注4)作品等の評価等  障害者による文化芸術活動については、作品はもとより、創造過程に着目した表現など、既存の芸術ジャンルに収まらない活動も含まれる。それらの成果には、海外に発信できる芸術の創出や販売につながるもの、未来の文化芸術のあり方を創造するもの、活動に関わる人々の自己肯定感を育むもの等、多様な価値が含まれる。そのような価値が見い出され、成果が生まれるためには、多様な活動が排除されず、受け入れられていく必要がある。また、作品の評価に当たっては、その創造過程を切り離して評価を行うことができないものもあることや評価のものさしが人によって異なること等に留意すべきである。そのため、評価のあり方は文化芸術が有する多様な価値(注5)を考慮する必要がある。 @ 障害者による文化芸術活動の評価の機会の拡大  我が国の優れた美術、音楽、舞踊、演劇等の芸術を世界に発信するため、海外発信力のあるイベントの開催、海外の音楽祭や演劇祭への参加、海外の芸術団体との共同制作など、更なる取組の推進を図っていく。また、こうした美術や舞台芸術等の様々なイベント等において、障害者が発表の機会を拡大する取組は重要であることから、国内外を問わず、作品等を発表する機会を拡充させるとともに、障害の有無に関わらず、作品そのものに対する評価を受ける機会の充実にもつなげていく。 A 海外への発信  国内外の専門家の育成・交流促進を通じた理解増進に加え、世界的な美術展やアートフェア(見本市)等の機会を通じて、世界において評価を高めていく取組を進める。障害者が生み出す文化芸術活動の中には、既に海外に発信しているものや販売につながるなど、一定の評価を得ているものもあるが、今後は実演芸術等を含め、更に海外への発信や共同した取組を進めていく。 B 障害者による文化芸術活動についての調査の実施【再掲】  障害者の文化芸術活動において、これまで作品として認識されづらかったもの、既存の形式や枠組みにとらわれないもの、創造過程そのものに魅力があるものなど、新しい価値の創出につながる取組事例を調査し、それらの評価方法、また社会的価値等の波及効果などについての研究を大学等と連携し、新たに行う。 C 作品や芸術家等に関する情報収集・発信と環境整備  国は、地方公共団体等と連携し、地域における障害者の作品や障害のある芸術家等に関する情報を収集・発信するとともに、それらの情報が有効に利活用されるよう全国的なネットワーク等と連携するなどの環境整備の促進を図る。 D 保存等の取組  美術、実演芸術等の作品のアーカイブは、新たな文化や価値を創造していくための社会的基盤となるものである。障害者の作品についても、将来にわたって保存・継承を図ることが重要であることを踏まえ、収集・保存及びデジタルアーカイブ化等を情報保障等に配慮して促進するとともに、文化施設等の関係機関と連携しつつ分野横断的整備を検討する。また、作品を単純にアーカイブとして保存するだけではなく、人材育成、情報の共有化、教育・研究分野など、幅広い分野での応用・活用に向けた取組を目指し、障害者の作品等についても更なる取組の推進を図っていく。 E 顕彰の実施【再掲】  障害者に配慮した鑑賞のサポートや発表機会の提供等の取組を積極的に行う独立行政法人、地方公共団体、文化芸術団体、文化施設、企業等の民間事業者、芸術家、学校等、社会福祉施設、非営利団体、中間支援組織、文化ボランティアなどの関係諸機関等について表彰を行い、優れた取組をより広く発信する。 (5)権利保護の推進  創造された作品等には、著作権(著作者人格権や著作隣接権を含む)といった知的財産権や所有権などの様々な権利が伴う。これらの諸権利についての認知度が低いため、普及啓発活動等を通じて、意識の向上等が図られる必要がある。また、障害者が文化芸術活動を行う過程でも、様々な関係者が関わり作品の諸権利の帰属が不明確になりやすいため、これらの諸権利について、まずは本人の意思を尊重するとともに、福祉施設や周囲で支援に携わる者も認知かつ理解していくことが必要である。なお、自らの意思表示に困難を伴う障害者に関しては、特段の配慮が必要である。また、必要に応じて成年後見制度等の知識や手続きに関し、専門家へ相談できる体制づくりや研修等を行うなど、環境整備を進めていくことも必要である。なお、権利の保護により作品等の利活用が損なわれることがないよう、不断に現場のニーズをくみ上げ、必要な対応を行っていくことも望まれる。 @ 知識の普及と意識の向上  著作権に関する対象者別セミナーの開催、文化庁ホームページを利用した著作権教材の提供など、様々な方法を通じて、福祉施設や周囲で支援に携わる者に対し、作者の権利行使や権利保護のために必要な知識に加え、手続き等に関する知識の普及と意識の向上を図る。 A 学校教育における取組  学校等の教育において活用できる著作権教育用の教材の開発・普及等に取り組む際には、特別支援学校等での活用等においても十分に配慮を行う。 B 権利保護に関する研修等の実施  国は、地方公共団体等と連携し、自らの意思表示に困難を伴う障害者に関わる権利保護や意思決定の支援方法に関する研修等を行うとともに、権利保護に関する情報の普及を促進するための環境整備を進める。 C 全国での支援事業の展開  中堅・中小企業等の障害者による文化芸術活動に係るものを含めた知的財産に関する悩みや課題に対しワンストップで受け付ける相談窓口での対応や、関連する制度についての普及啓発を行う。 (6)芸術上価値が高い(注6)作品等の販売等に係る支援  文化芸術は、本質的価値、社会的・経済的価値などの多様な価値(注7)を有するものであり、様々な価値が社会において活かされることが望ましい。作品等の販売などにより、文化芸術活動が、市場を通じてその経済的価値を発揮する際には、障害の有無に関わらず、その対価は適切に還元されるよう配慮すべきである。 また、自らの意思の決定や表示が難しい障害者もいることから、販売や出演等における支援が必要であり、取引に関するノウハウの提供等を行う相談体制や中間支援の整備等も重要である。同時に、自立と社会参加の観点からも、文化芸術活動が障害者の生活支援や就労・雇用の選択肢の一つとして用意されることが望ましい。 @ 地域における支援体制の促進  国は、地方公共団体等と連携し、障害者の文化芸術作品等の販売や二次利用、商品化等に関する相談支援や人材育成、連携・協力のできるネットワーク形成等を行い、より多くの障害者が適切、安全、円滑に作品の販売や舞台作品等への出演が行われるよう、地域における支援体制の促進を図る。 A 企業等における環境整備や販路開拓の促進  企業等における障害者による文化芸術活動を推進していくための環境整備や、販路開拓の手法に関する成功事例の収集等を通じて、新たなモデルの構築のための検討を行い、その促進を図る。 B 企業等との新たな連携強化  障害者による文化芸術活動について、市場(マーケット)の育成、他分野への活用を促すことにより、新たな価値を創出し、その新たな価値が文化に再投資され、持続的な発展につながる好循環を構築することを目指す。また、企業等との新たな連携を構築していくため、そのあり方についても検討する。 (7)文化芸術活動を通じた交流の促進   文化芸術活動は、障害の有無に関わらず多様な人々の出会いの場を創出し、お互いを知り理解し合う機会を提供する。また、特別支援学校、特別支援学級、福祉施設等への芸術家派遣や福祉施設同士の交流、文化施設と福祉施設の交流などにより、新たな発想、気づき、価値が創出されている。また、地域内での交流に加え、地域を越えた交流や国際交流などの広域の活動が障害者による文化芸術活動に大きな成果をもたらしている。一方で、障害者による文化芸術活動の交流においては、文化、福祉、教育等の各分野の連携が十分とはいえず、分野ごとの垣根を越えた交流を一層進める必要がある。 @ 関連分野との有機的な連携  日本全国で開催される芸術祭や地域の行事を核とした文化芸術事業が充実・発展するよう、地方公共団体が民間企業とも提携しつつ、観光、まちづくり、食文化、国際交流、福祉、教育、産業その他の関連分野と有機的な連携を図ることが重要であり、障害者の文化芸術関係の事業においても、関連分野との有機的な連携のための更なる取組の推進を図っていく。 A 地域におけるネットワークづくり  国は、地方公共団体等と連携し、地域における障害者による文化芸術活動に関わる人材が連携・協力し、多角的な面から障害者による文化芸術活動について考えられるよう、障害者やその家族、福祉や芸術等の専門家、事業所や文化施設の職員、行政職員、教育関係者、研究者など、分野や領域を越えてさまざまな関係者とネットワークづくりを進める。    B 広域的・全国的なネットワークづくり  国は、障害者による文化芸術活動に関わる関係者の広域的・全国的な交流や意見交換の場を設け、課題や成果を共有し、より連携・協力できる環境を整備する。   C 学校における交流及び共同学習を通じた障害者理解(心のバリアフリー)の推進  障害のある子供と障害のない子供の交流及び交流学習は、障害のある子供にとっても、障害のない子供にとっても、経験を深め、社会性を養い、豊かな人間性を育むとともに、お互いを尊重し合う大切さを学ぶ機会となるなど、大きな意義を有する。このため、学校において、障害のある子供と障害のない子供の文化芸術活動等による交流及び共同学習を推進し、障害者理解の一層の促進を図る。 D 文化芸術による子供の育成  特別支援学校において文化芸術団体による実演芸術の公演や、芸術家の派遣により、特別支援学校の子供たちに対し文化芸術の鑑賞・体験等の機会を提供する。また、全国の小中学校等の子供たちに、障害のある芸術家等を派遣し、交流する機会を併せて提供する。 E 全国高等学校総合文化祭における発表の場の提供  全国の高校生が文化芸術活動の発表を行う祭典である全国高等学校総合文化祭において特別支援学校の生徒による作品の展示や実演芸術の発表の場を提供する等により、他の学校の生徒等との文化芸術活動を通じた交流を行う。 F 教育機関等との連携  芸術系大学等の有する教員や教育研究機能などを活用し、福祉施設等と連携しつつ、障害者による文化芸術活動に係る教育及び研究を促進する。 G 海外への発信、共同した取組  我が国の優れた美術、音楽、舞踊、演劇等の芸術を世界に発信するため、海外発信力のあるイベントの開催、海外の音楽祭や演劇祭への参加、海外の芸術団体との共同制作、海外における舞台公演、美術展などを通じた障害者の作品の海外発信や障害者による文化芸術活動を通じた海外との交流などの取組を一層推進するに当たり、障害者による文化芸術活動についても、国内外を問わず、作品等を発表する機会を設け、海外への発信や海外の芸術団体と共同した取組を進めていく。 (8)相談体制の整備等   障害者や障害者を支援する団体が文化芸術活動を始める、または、進めるに当たって、鑑賞や創造、発表等の支援や取組方法など、様々な疑問に対応できる地域の支援体制が整っていない現状がある。これらの現状に対応し、より多くの障害者が円滑に文化芸術活動に参加するために、全国各地に相談や支援体制の整備が必要である。 @ 地域における相談体制の整備  国は、地方公共団体等と連携し、全国各地において、障害者による文化芸術活動の支援方法、創造環境の整備、権利の保護、鑑賞支援、作品の販売・公演、記録・保存、地域・国際交流等に関する相談を受け付け、関係機関や専門家の紹介や専門的知見によるアドバイス等を行う支援の体制を整備する。 A 文化芸術活動に関する相談体制の整備   障害者による文化芸術活動の分野等に応じた相談体制の在り方を検討するため、情報の収集・提供方法などについて、調査研究を行う。その後、研究を踏まえ試行的な取組を行う。 B 障害者による文化芸術活動に配慮できる人材の養成・確保  地域の文化拠点であり、文化芸術の継承、創造、発信する場である美術館、博物館、劇場、音楽堂等において、専門的な研修等を通じて、障害者による文化芸術活動にも対応できる人材の養成・確保に向けた支援を行う。 (9)人材の育成等  障害者による文化芸術活動を理解し、鑑賞や創造、評価など様々な場面で、適切に支援することができる人材や地域におけるコーディネーターなど多様な人材の育成等が求められている。更に、障害者による文化芸術活動に関わる、文化、福祉、教育等の各分野における人材が、既に持っているそれぞれの専門知識に加え、他分野に関する知識や理解、経験を深め、障害者による文化芸術活動に関する専門性を高めると同時に、各分野をつなげる人材を育成することが重要である。そのほか、専門家の活用や連携、大学等における人材育成等も視野に入れて進めていく必要がある。 @ 文化施設等に求められる人材とその研修の充実  近年においては、美術館、博物館、劇場、音楽堂等の文化施設が社会包摂や地域創生の礎となることが求められており、専門性の向上に加え、教育活動等の更なる充実も必要である。質の高い活動を支える人材を確保するために、職員向けの研修を充実させていく中で、障害者による文化芸術活動についても専門的な対応ができる人材を育成する。併せて、地方公共団体においても同様の取組が推進されるよう促していく。 A 芸術活動の指導や支援を行うことができる人材の育成  新進芸術家や演出家、舞台技術者、アートマネジメント人材などの芸術活動を支える人材、芸術活動の指導を行う人材を育成していく中において、障害者の文化芸術を理解し、その活動に対する指導や支援を行うための人材の育成を図る。併せて、全国の芸術系大学のネットワーク等を活用し、基本計画の周知等を図っていく。 B 海外と日本の人的ネットワーク構築と人材育成  海外における舞台公演、美術展などを通じた障害者の作品の海外発信や文化芸術活動を通じた海外との交流等を継続することを通じて、障害者による文化芸術活動に関する海外と日本の人的ネットワーク構築と人材の育成につなげる。 C 地域における多様な人材の育成  国は、地方公共団体等と連携し、地域における障害者による文化芸術活動に関わる多様な関係者を対象に、様々な支援方法や専門知識に関する研修、現場体験プログラムの提供などを行い、分野や領域を越えたネットワークの構築を図りながら、地域の人材の育成及び確保を進める。   D 教育機関等との連携による人材育成や研究  障害者による文化芸術活動のアートマネジメント等に関する専門的人材を養成するための先導的な取組を推進するため、地域の劇場、音楽堂等が行う事業や、芸術系大学等の有する教員や教育研究機能などを活用していく。また、大学等の教育機関や文化施設等における障害者による文化芸術活動に係る教育及び研究の充実を図る。 E 顕彰の実施  障害者に配慮した鑑賞のサポートや発表機会の提供等の取組を積極的に行う独立行政法人、地方公共団体、文化芸術団体、文化施設、企業等の民間事業者、芸術家、学校等、社会福祉施設、非営利団体、中間支援組織、文化ボランティアなどの関係諸機関等について表彰を行い、優れた取組を行う人材について広く発信する。 F 「障害者の生涯学習支援活動」に係る文部科学大臣表彰  障害者の生涯学習(教育やスポーツ、文化芸術を含む)を支える、優れた活動を行う団体等に対し、文部科学大臣表彰を行う。また表彰事例集を作成し、ホームページへの掲載等を通じ、全国の優れた取組を関係者に周知、普及する。 (10)情報の収集等  障害者による文化芸術活動に関する企画や取組、地域における支援等の情報が、障害者本人や活動を行う人のところへ十分に届いていないという現状がある。また、障害者による文化芸術活動の取組状況については、実態が十分に把握されているとは言い難い。よって、国内外における障害者による文化芸術活動に関する情報収集と発信を進める他、全国的な基礎調査や実態把握などを行い、情報の共有・活用を行うことが必要である。 @ 客観的根拠に基づいた政策立案機能の強化  国は、客観的な根拠に基づいた政策立案の機能を強化する必要があるため、文化芸術政策に関する国内外の情報や各種データの収集・分析、将来推計等の調査研究、また施策効果の評価研究等、障害者の文化芸術政策について必要となる調査研究を実施していく。 A 多様な情報の収集・発信・活用  国は、地方公共団体等と連携し、障害者による文化芸術活動に関する展示や公演などのイベント情報、文化芸術活動の実態把握、作品・作者に関する発掘など、全国各地の文化芸術活動や海外の取組に関する情報を収集・発信するとともに、得られた情報の活用を図る。 B 文化芸術活動に関する相談体制の整備【再掲】  障害者による文化芸術活動の分野等に応じた相談体制の在り方を検討するため、情報の収集・提供方法などについて、調査研究を行う。その後、研究を踏まえ試行的な取組を行う。 (11)関係者の連携協力  障害者による文化芸術活動がより一層推進されるためには、障害者を中心に、支援者、地域住民、福祉団体、文化芸術団体、教育機関、行政等が連携し、ネットワークをつくりながら地域の支援体制を整えるとともに、各地域の活動をつないで、広域的な連携を図ることが重要である。 @ 意見交換の場の設置   国及び地方公共団体の関係機関、障害者による文化芸術活動を支援する社会福祉法人その他の団体、大学その他の教育研究機関、事業者、文化芸術活動を行う障害者本人等が、各地域の障害者による文化芸術を取り巻く状況や活動の実態、文化芸術振興のための課題等について、情報や意見の交換を行うことができるよう、積極的に意見交換の場を設けていく。 A 地域におけるネットワークづくり  国は、地方公共団体と連携し、地域における障害者による文化芸術活動に関わる人材が連携・協力し、多角的な面から障害者による文化芸術活動について考えられるよう、障害者やその家族、福祉や芸術等の専門家、事業所や文化施設の職員、福祉・文化関係のみならずまちづくり等に関わる行政職員、教育関係者、研究者など、分野や領域を越えてさまざまな関係者とネットワークづくりを進める。そのため、鑑賞に対する支援体制の整備、多様な創造活動の促進及び発表機会の創出等の各項において記された地域の支援体制や必要な環境整備を全国的に展開する。 B 広域的・全国的なネットワークづくり【再掲】  国は、障害者による文化芸術活動に関わる関係者の広域的・全国的な交流や意見交換の場を設け、課題や成果を共有し、より連携・協力できる環境を整備する。 C 学校卒業後における障害者の学びの支援に関する実践研究  学校卒業後の障害者について、学校から社会への移行期や生涯の各ライフステージにおける文化芸術活動を含む様々な学びについて、効果的な学習に係る具体的な学習プログラムや実施体制等に関するモデル開発を行い、全国の関係者に普及する。 第4 おわりに 基本計画は、文化芸術活動を通じて障害者の個性と能力が発揮され、社会参加が促進されることを目的とし、障害の有無にかかわらず、全ての国民が文化芸術を創造し又は享受する環境を整備すること、多様な人々がお互いを尊重し合いながら、文化芸術活動に関わる社会を構築することを目指している。文化芸術活動においては、障害の有無はかかわりないと捉えつつも、現状では障害があることにより文化芸術活動に困難が生じているため、基本計画では、これらにかかる課題を解消するための第一歩となる当面の目標を示した。今後、さらに実態把握について調査研究等を進め、より具体的な目標やその達成時期等について検討を行っていく。 基本計画に基づき取組を推進していく際には、文化、福祉、教育等の分野を越えた協力が必要となるため、各省庁及び地方公共団体との連携や情報共有を継続し、民間や現場の関係者とも意見交換を行いながら、施策の実行及び検証を行うとともに、新たな課題や視点にも柔軟に対応することが必要である。なお、これらの施策を推進するに当たっては、必要な財源の確保に努める。また、地方公共団体においても、障害者の文化芸術活動の取組を促進する際には、組織内の各部局の枠を越えて取り組むことが重要である。基本計画の対象期間には、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催され、それに伴う文化プログラムの実施により、障害者がより一層活躍の場を広げることと思われる。大会終了後には、大会を契機とした活動基盤や活動体制が、レガシーとして全国各地に根づき、障害者による文化芸術活動が引き続き、振興されていくことが期待されている。今後も、障害者による文化芸術活動が、社会や文化芸術活動全般に新たな視点や活力をもたらし、全ての国民が相互に尊重し合いながら共生する社会の実現に向けて、文化芸術推進基本計画及び障害者基本計画や障害者文化芸術推進法に基づく地方公共団体の策定する計画等とも連動しながら、基本計画の目的を達成していく必要がある。   注1「平成29年度障害者芸術文化活動普及支援事業報告書」 注2 文化芸術は多様な価値を有しており、価値の尺度も様々であることから、「芸術上価値が高い」という表現により、ある特定の価値や評価軸を前提としてしまわないよう、留意が必要である。 注3 文化芸術基本計画(第1期)において、文化芸術は以下のような本質的及び社会的・経済的価値を有しているとされている。 (本質的価値) ・ 文化芸術は、豊かな人間性を涵養し、創造力と感性を育む等、人間が人間らしく生きるための糧となるものであること。 ・ 文化芸術は、国際化が進展する中にあって、個人の自己認識の基点となり、文化的な伝統を尊重する心を育てるものであること。 (社会的・経済的価値) ・ 文化芸術は、他者と共感し合う心を通じて意思疎通を密なものとし、人間相互の理解を促進する等、個々人が共に生きる地域社会の基盤を形成するものであること。 ・ 文化芸術は、新たな需要や高い付加価値を生み出し、質の高い経済活動を実現するものであること。 ・ 文化芸術は、科学技術の発展と情報化の進展が目覚ましい現代社会において、人間尊重の価値観に基づく人類の真の発展に貢献するものであること。 ・ 文化芸術は、文化の多様性を維持し、世界平和の礎となるものであること。 注4 注2参照。 注5 注3参照。 注6 注2参照。 注7 注3参照。