01/11/30 医療と安全文化に関するシンポジウム(第6回医療安全対策検討会議)            医療と安全文化に関するシンポジウム             (第6回医療安全対策検討会議)            日時 平成13年11月30日(金)               10:00〜12:30            場所 国立大阪病院講堂 ○大谷課長  本日は、このシンポジウムに多数ご参加いただきましてありがとうございます。本会 議は、我が国の総合的かつ効果的な医療安全対策を検討するために、本年5月に設置さ れたものでありまして、これまで東京にて5回の検討を重ねてきております。会議は、 東京でも公開で行ってきておるわけですが、医療の安全という問題は、国民全体の問題 でもありまして、その検討状況について一人でも多くの皆様にご覧いただきたく、この 度、大阪にて開催をさせていただきました。  また、今年初めての試みとして、この週をいま「医療安全推進週間」ということで日 曜日から1週間、東京でも各地で重点的に医療の安全のためのイベントをしております 。本日のシンポジウムがそのメインイベントというふうに考えております。委員の皆様 には、大変お忙しい中を大阪までおいでいただきましてありがとうございました。また 、ご参加の皆様におかれましても、時間をお割きいただきましてどうもありがとうござ います。限られた時間でございますけれども、皆様にとって、医療安全という問題を考 えるに当たり、有意義なプログラムになることを期待しております。  本題とは変わりますが、ご関心の医療安全、医療制度の改革というものも、昨夜一応 の整理がありました。私ども医政局というのは中身を担当している部署です。財政も大 切でありますけれども、本当に大切なのは医療の中身であります。医療安全の問題は、 その中でも最重点の課題と考えているところであります。それでは、森座長よろしくお 願いいたします。 ○森座長  私は、医療安全対策検討会議という、この集まりの座長を仰せつかっております森亘 と申します。司会進行を務めさせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたしま す。  本日は天候にも恵まれ、またこういう素晴らしい会場を使わせていただくことができ ました。それから、なによりもこうして大勢の皆様方がお見えくださったことに心から 御礼を申し上げます。どうもありがとうございます。  ご承知のように、ここ数年来日本の中で外国でもかもしれませんが、いろいろな所で 医療事故などの報告が相次いでおります。その度に医療関係者は自ら身を引き締める必 要性を感じ、同時に社会一般の方々は、なんとなく不安を抱かれるであろうかと存じま す。そういう背景の下で、厚生労働省当局では、いままで必ずしも私どもが知っている 事柄だけでなく、水面下でも、随分いろいろと努力をしてこられたと信じております。  この度その一環として、医療安全対策について総合的あるいは効果的なグランドデザ インを設ける必要があるのではないか、さらには安全対策というものを国を挙げて、積 極的に進めていく必要があるのではないかなどの理由から、医療関係者だけではなく、 法律の専門家、報道機関からの代表者、領域を問わず安全管理を普段心がけておられる 当事者、さらには患者の立場を代表する方々などを交えて、医療安全対策検討会議とい うものを本年5月に発足させることになりました。  そして冒頭に申し上げましたように、私が座長を仰せつかり、会合ごとの司会進行を させていただいております。第5回までの会議は、常に東京で行われてきました。しか し、今回は厚生労働省で主催しておられる、「医療安全推進週間」の行事に併せ、大阪 において第6回検討会議を開催することに致しました。その内容としては、今回だけは やや特例として、「医療と安全文化に関するシンポジウム」と銘打って、私どもの定例 の検討会議プラスこのようなシンポジウムを開催する計画を樹てました。それに応えて 、今、このようにたくさんの方々がお見え下さったことは、私どもにとって大変うれし いことでございます。このような集まりを、東京といった一極集中の場だけでなく、い ろいろな場所で開くことには、私も心から賛成でございまして、厚生労働省当局のご配 慮に感謝しているところであります。  やや内輪話をさせていただきますと、先般、糸魚川先生が所長をしておられる社会シ ステム研究所の基盤である原子力安全システム研究所の熊谷所長をはじめとする皆様と お話をしておりましたときに、医学・医療の世界における安全についても話題にさせて いただきました。既に原子力、あるいは原子力発電の世界では、いまから10年も前に国 際原子力機関が主導されたのか、あるいはオーソライズされたのか、その辺りはしかと 存じませんが、いずれにいたしましても安全性に関する問題を最優先にし、その重要性 に応じた配慮を行う組織や個人の特性、あるいは姿勢の総体という意味で、「安全文化 」という言葉を使っておられます。さらには「安全風土」といった言葉も既に使ってお られるということを伺いました。  考えてみますと、決して医療機関だけでなく、原子力に関係した組織、あるいは空陸 海を問わず交通に関係した現場など、方々で「安全」を心がけておられるわけでありま す。実際に行っておられる施策は領域によっていろいろ違うかもしれない、実際に手が けておられる行動は場合によっていろいろと違うかもしれませんが、その根は一つでし て、「安全文化」あるいは「安全風土」といった基本的な考えの一つ一つの現れとして 方々の領域で事が行われている、と理解させていただきました。  したがって本日は、既に原子力の世界ではだいぶ前から使っておられる「安全文化」 という言葉を、私どもが拝借いたしまして、「医療と安全文化に関するシンポジウム」 という名の下に開催させていただいております。こうして医療・医学のみならず、他領 域の方々ともできるだけ意見を交換し、そしてお互いに役だつことがあれば学び合って 、社会全体としての安全度を高めていきたいというのが、私の真意であります。  安全な医療を提供するということは、医療従事者にとって絶対に重要なことでござい ます。同時に国民の医療に対する信頼感を確かなものにしていただく上でも大切なこと です。本日のシンポジウムの、私ども医療関係者にとっての目的は、本日お集まりの皆 様方に、それぞれの職域で安全文化というものを根付かせていただきたい、それを定着 させるための一助としていただきたい。安全文化を根付かせることにより、医療関係者 、患者双方の間の信頼を確立し、より良い医療、そして両方の側にとってより安心でき るような医療の実現に一歩でも近付こう、ということです。  最後になりましたが、本日お話をいただく4名の方々、それから参集してくださいま した委員の方々、また、この場を提供していただき、あるいは実際にいろいろな手はず を整える上でたくさんのご努力をしてくださった国立大阪病院の方々に、それぞれ心か ら御礼を申し上げ、やや長くなりましたがご挨拶とさせていただきます。  ではただいまから、私どもの定例の検討会ならびにシンポジウム合併の集まりを開か せていただきます。本日、委員としては15名の参加です。委員それぞれの方々の自己紹 介は、本日お配りしてある資料をご覧いただくことでお許しいただきたいと存じます。 6名の欠席、やや遅れて参加される方1名、途中で退席される方が若干おられるという ことも伺っております。  こうして非常に多くの方々にお集まりいただいたことは、私どもにとって重ね重ねう れしいことです。フロアの皆様方からもいろいろなご意見を伺ったほうがいいのではな いかということも真剣に検討いたしました。しかし、本来私どもの検討会は、公開では ありますものの、通常、委員の間で議論をし、考えを深め、そしてその結果を国なりあ るいは厚生労働省に対して意見として申し上げることが目的です。従って一般の方々の ご意見を伺うのはまたの機会とさせていただきまして、本日の議論は主として委員間、 あるいは本日お話をくださる方々と委員の間ということに限りたいと存じますので、ど うかお許しいただきたい思います。議事に入る前に、事務局から資料についてご説明が あります。 ○新木室長  配付資料について確認いたします。本日配付しております資料は、「医療と安全文化 に関するシンポジウム」のほかに、座席表、青い紙で本日のスケジュール、医療安全推 進週間についての説明、ポスターの基となっております紙があります。本日使います資 料は資料1から資料4まで、及び参考資料1から参考資料3までです。  参考資料1については、先ほど座長からお話がございましたように、本会議の要綱お よび名簿を載せておりますのでご覧ください。参考資料2は、医療安全対策の当面の検 討課題です。参考資料3は、11月22日にヒューマンエラー部会(矢崎部会長)でおまと めいただきました、インシデントレポートの解析結果です。これについては大部のため 1部委員のみ配付とさせていただいております。そのほかにパンフレット、COMLか らいただきました資料、看護協会からいただいた資料等が委員の先生方に1部配付させ ていただいております。以上です。 ○森座長  これから議事に入ります。本日私どもが議事として掲げておりますのは、「他分野に おける安全対策について」と、「患者さんの視点からみた医療安全」という2つの事柄 です。  医療安全対策を検討していくに当たりましては、他分野の経験、あるいは知恵も大変 参考になると考えております。将来はそういう方々とも一緒に事を進めていきたいとい うのが私の希望です。もう1つ、安全な医療を考えるためには、どうしても医療を受け る側と申しますか、患者の視点が欠かすことのできない事柄です。これらを総合し、事 務局ともいろいろ相談をいたしました結果、本日は原子力安全システム研究所社会シス テム研究所の糸魚川直祐所長、同じ研究所のヒューマンエラー・プロジェクトの作田博 主査のお二方を原子力関係の代表ということでお迎えしております。航空業界の問題に ついては、私どもの委員の1人であられます黒田委員から、また患者からの視点という ことでは同じく辻本委員からお話を伺いたいと考えております。医療の安全・質、医療 情報について、現在国立大阪病院の井上通敏院長が大変研究しておらされ、造詣深くい らっしゃいますので、医療機関の側からというお立場でお話をいただきます。この4名 の方々のお話をこれから順次伺っていくことといたします。  私の希望として、最後のディスカッションの時間をできるだけ長く取りたいという気 持がありますので、まず4名の方から順次それぞれの取組みについてお話を伺い、その 後、総合的にできるだけ活発なディスカッションをいただければと考えております。最 初に、「原子力業界における取組」ということで、糸魚川先生にお願いいたします。 ○糸魚川参考人  原子力安全システム研究所社会システム研究所の糸魚川です。原子発電とその関連産 業というのは、安全性をいちばん重要な課題と考え、いろいろ安全性確保の問題に取り 組んでおります。  いまから約11年ほど前の1991年2月に福井県にあります関西電力美浜原子力発電所の 2号機において、蒸気発生装置の細管が破断いたしました。幸い、緊急炉心安全装置が 正常に作動して事なきを得ましたが、このとき、技術的な安全性の確保に関する研究の みならず、人間科学、社会科学等広く人文社会科学の総力を結集し、原子力発電の安全 性を確保する研究を行わなければならないと関西電力は考え、大阪大学元総長の熊谷信 昭先生にお願いをして研究所を立ち上げました。その研究所には、技術システム研究所 と、社会システム研究所と2つの研究所を置いて、お互いに車の両輪のごとく研究を進 めており、私が2代目の社会システム研究所所長としてその職を行っています。  この機関は関西電力がつくったのですが、一企業のために研究をするのではなく、原 子力発電関連産業全体のために、ひいては産業界、学界に安全の問題に取り組む姿勢で 研究を行っております。我々は研究成果を一般に役立つようにフィードバックすべきだ と考えまして、第三者機関としての研究の立場を全うしております。我々は研究所創設1 0年を迎えて評価をいただいておりまして、そういう点では第三者研究機関として出発 したことの良さを実感しております。  研究所には最高顧問会議というのがあり、森亘先生に最高顧問のお1人になっていた だき、そのほかに学界の重鎮の先生方に御参加いただき、研究所のあるべき姿、方針、 業績の評価等をいただいております。  研究所ではいろいろな研究をしておりますが、本日は時間の関係でヒューマンファク ターを主に取り扱う研究プロジェクトの中心となっております作田主査より研究の大づ かみなところを申し上げて、皆様方のご参考に供したいと思います。 ○作田参考人   原子力安全システム研究所の作田です。               (スライド開始) ☆スライド1  原子力発電分野におけるヒューマンエラー防止対策の現状についてご説明させていた だきます。 ☆スライド2  原子力は、このように例えば品種改良の農業分野、非破壊検査などの工業分野、放射 線診断などの医療分野、放射化分析などの分析分野などで利用されております。本日は 、原子力を電気エネルギーに変換して利用する原子力発電分野、特に原子力発電所での ヒューマンエラー防止活動についてお話をさせていただきます。 ☆スライド3  この図は、日本の原子力発電所におけるトラブルの発生件数と、そのうちのヒューマ ンエラーの発生状況を示しています。この図のとおり、年々トラブル件数が増えていき 、そして56年度をピークにその後は減少傾向にあります。薄いオレンジ色が発電所の数 の増加を示しておりますが、前半の部分のトラブル件数は、発電所の数が増えてきたこ とによる増加、後半の部分は、発電所は増えていますが件数としては減っているという ことで、設備の改良、取り換えなどが進み、設備の信頼性が向上したためにトラブル件 数は減少していると考えております。  ただ、この黄緑色の棒グラフは、ヒューマンエラー発生件数を示しておりまして、依 然ヒューマンエラーは発生しており、今後とも継続的なヒューマンエラー防止活動に取 り組む必要があります。  また、ヒューマンエラーが占める全体の割合は、ピンクの折れ線で示しておりますが 、大体25%ぐらいがヒューマンエラーです。現在51基の発電所が国内にありますが、こ れを年間に換算すると、1発電所当たり約0.2件のヒューマンエラーが発生していると いうことが言えるかと思います。  ヒューマンエラーの内容は、運転中のユニットと停止中のユニットを間違えて、運転 中のものを止めてしまったり、当研究所の設立の契機となりました関西電力美浜2号機 の事故では、蒸気発生器の伝熱管の振れを抑える振れ止め金具が設計どおりに入ってい なかったとか、加圧逃がし弁の駆動用元弁が誤まって閉止されていたなどといった事例 があります。  ただ、この事故は運転員が普段の訓練成果をいかんなく発揮して臨機応変に対応した ことで、事故の影響範囲を極力小さくできたという人間のプラス面も見せてくれた事故 でした。 ☆スライド4  次に、原子力発電所の安全性をどのように確保しているかということについてご説明 いたします。1点目は、原子炉を制御棒で止める。止めた後に、残っている崩壊熱を冷 やす。原子炉の中に内包されている放射性物質を閉じ込める。この3つの大きな安全機 能を発揮できるように、こういった多重保護の設計を行っております。  2点目は、国が審査し、認可している原子炉施設保安規定に基づき、発電所の安全運 転に必要な措置を講じております。  3点目は、原子力版のISOと言われている、原子力発電所の品質保証指針JEAG4101 指針というのがあるのですが、この指針に基づいた厳重な品質管理、入念な点検検査を 実施しております。  4点目は、ヒューマンエラーの防止活動に継続的に取り組んでいるということです。 また、原子炉には本質的に危険な放射性物質を内包しているということで、社会からの 関心が高く、また原子力発電所がトラブルを発生するということになると社会的影響が 大きいということで、原子力発電所に従事している人間は、常にプレッシャーを感じな がら仕事をしています。この辺は、医療関係にお勤めの方と同じだと思います。本日は 、1点目と4点目に絞ってこれからご説明いたします。 ☆スライド5  設備設計ですが、1点目は「耐震設計」です。耐震設計は、一般の建物の耐震基準の 最大3倍の地震を考慮するなど、余裕のある安全設計を考えております。2点目は、例 えば原子力発電所が停電するようなトラブルが発生した場合は、原子炉を停止する役目 を持っている制御棒が自動的に原子炉に入り、核分裂反応が停止するなど、常に安全側 へ作動する設計としております。 ☆スライド6  3点目は、フール・プルーフ設計です。これは、インターロック設計とも呼んでおり ますが、原子炉の安全条件が満足されない状態では、制御棒のスイッチをいくら入れて も引き抜くことができないなどの、誤操作防止を図る設計としております。  次に、人間にやさしい、機械ではなくて人間を中心にした設計を行うようにしており ます。原子力発電所の主要設備を集中的に制御・監視しております中央制御盤の設計に おいては試作盤を作り、実際に発電所の運転員に使ってもらい、使いやすさなどを確認 してもらい、使いにくいところは設計を見直して反映する、といったこともやっており ます。 ☆スライド7  次は人についてご説明いたします。関西電力の例ですが、発電所の運転監視操作に携 わる運転員は、訓練を受けた電力会社の社員で構成されております。当直課長をヘッド に、この図のように約11名で構成されております。当直課長は運転責任者という資格を 保有することを国から要求されております。運転員の教育訓練は重要との観点から、平 成8年には5班3交替制から、6班3交替制ということで体制を充実させ、年間40日間 は教育訓練だけに専念できるように配慮しております。  勤務時間についても、規則正しい勤務時間の維持ということで、長時間の連続勤務に ならないように配慮しております。運転勤務の引き継ぎについても、確実な引き継ぎが 行われるよう時間的な配慮も行っております。 ☆スライド8  運転員の教育・訓練についてですが、これは敦賀市内にあります原子力発電訓練セン ターです。このセンターの中には、発電所の中にあります中央制御盤と全く同じものと いいますか、模擬したフルスコープシュミレーターが設置され、そこでは運転員が一人 前になるための制御員養成コースがあります。約6カ月間、このセンターに泊り込んで 、知識やスキルの習得に努めております。  そのほかにも再訓練コースや、チーム員連携コースといったことで、年間数日は必ず 運転員はこのセンターを訪れて、各自の知識やスキルを再確認しています。  原子力発電所の中には、コンパクトシミュレーターが設置されており、それを用いて 原子力発電の理論教育とか、事故模擬訓練などを行っております。そのほかにも、防災 訓練や、ヒューマンエラー防止のためのヒューマンファクター教育を、新入社員から役 付社員に至るまでの間、体系的に実施しております。 ☆スライド9  この図は、保修員の教育・訓練についてです。保修員の仕事は、運転員とは異なり、 ほとんどの作業は実際のところ協力会社が行っています。電力会社は、管理・監督業務 が主体となっているというのが特徴です。  この写真は、関西電力の原子力保修訓練センターの全景です。この中には原子力発電 所内の設備と同じ設備が設置され、各種訓練が行われております。発電所の放射線管理 区域では、余分な放射線被ばくを避けるため、作業を短時間に効率良く行う必要があり 、このセンターではそういった作業の習熟を図っております。また、協力会社の方にも 施設を開放して使っていただいております。この辺の教育は、運転員と同じ考え方で行 っております。 ☆スライド9−1(配布資料に無し)  これは、保修訓練センターの中の展示室の写真です。これは、過去に起ったトラブル の事例をわかりやすく1枚ごとにパネルを作っておりまして現時点で100枚ぐらいたま っていると思います。また実際に故障した部品そのものを展示し、教育訓練に活用して おります。 ☆スライド10  次は活動紹介ということで、未然・再発防止活動についてご説明いたします。これは 「ハットヒヤリ情報の収集・活用活動」についてです。重大な障害やトラブルを未然に 防止するためには、その陰に潜む「ハットヒヤリ」、つまり失敗に学ぶことが大切であ るという観点でこの活動を実施しております。この活動は、あらゆる産業分野で行われ ていると聞いております。原子力分野では、イントラネットを活用したデータベースを 作ったり、ある所では小集団活動として紙ベースで運用している所などまちまちです。 ☆スライド11  「ハットヒヤリ情報の収集・活用活動」でトラブルが未然に防止できればいいわけで すが、万一ヒューマンエラーに起因するような大きなトラブルが発生してしまった場合 には、根本原因を究明するための分析を行い、対策を実施することが肝要です。この分 析方法は、電力会社各社まちまちの方法でやっています。  国内の全電力会社で発生したヒューマンエラー事例については、電力会社が共同で出 資している電力中央研究所で分析をし、その結果を各電力会社に報告し、各電力会社は 自社の対策が十分であったのかといったチェックに活用しております。国内のヒューマ ンエラー・トラブルの原因・対策については、同じく電力会社が共同で組織している電 気企業連合会が窓口となり、他の電力会社に周知し、対策を展開することとしておりま す。 ☆スライド12  先ほどの分析結果は教訓として残すため、イラスト入りのわかりやすい事例シートを 作成し、協力会社を含め関係箇所に配付しております。これらのシートを活用し、ヒュ ーマンファクター教育や、OJTなどにより活用しております。 ☆スライド12−1(配布資料には無し)  これは、イラスト入りシートの一サンプルです。漫画入りで作ってあります。 ☆スライド13  「モチベーション向上活動」としては、風通しの良い職場づくりの観点から、例えば 発電所長が毎日全所員に対するメッセージをホームページに載せたり、電子掲示板に安 全に関する情報を載せ、情報の共有化を図っているといったこともやっております。  「協力会社とのパートナーシップの醸成」という観点からは、発電所内に設置されて いる電力会社と、協力会社が共同で組織している安全衛生協議会とか品質管理協議会と いったような会議体を活用し、両者間の意志疎通を図っております。  発電所の設備や運用方法などについて改善意見をどんどん出していただくようにし、 出された意見については、電力会社は必ず協力会社にその結果を回答する、といったこ とを励行しております。  投書箱を各発電所に設置し、電力会社に対する不満や要望が自由に気軽に出していた だけるような配慮もしております。 ☆スライド14  これも関西電力の例ですが、現場の活動事例としてこのような事例をご紹介いたしま す。 ☆スライド15  これはサインシステムの導入ということで、病院の中でも既に導入されていると思わ れますが、これは当研究所で研究した成果が現場に反映された成果の一つです。発電所 内には、似たような設備が所狭しと並べられておりますので、いま自分がどこにいるの か、自分の行きたい方向がどちらにあるのか、といったことが咄嗟に判断できにくい状 況にありますので、所内の配置図や、行き先案内をわかりやすく表示しました。 ☆スライド16  この写真も同様なものです。 ☆スライド17  これは、発電所設備の識別化と、操作票色の統一についてです。冒頭でユニット間違 のエラーがあるというお話をしましたが、そのための防止策として、1号機から4号機 までそれぞれ独自の色を決めました。これは、4号機のタービンと発電機の写真ですが 、4号基はピンク色を指定しました。4号基にかかる操作票とか作業票という紙自身も ピンク色に印刷してあります。  3号基は青色という指定があります。ピンク色の操作表を持って、間違って隣の3号 基の青色の所へ行くと、青とピンクということで、これは違うということが気づきやす いような配慮もしております。 ☆スライド17−1(配布資料に無し)  これは4号機のサンプルですが、この紙自身がピンク色になっています。 ☆スライド18  保修員が作業を行う場合には、各作業ステップを記載した作業手順書を作成して携行 することとしておりますが、過去のヒューマンエラーと同種の作業ステップには、その 作業ステップの横に、「ヒューマンエラー防止マーク」を捺印ないし記載して注意を促 すようにしております。  安全上重要な作業ステップについては、事前に定められた確認者の承認がないと、作 業をそれより前に進められないような決まりとし、それを示すマークを作業手順書に記 載することとしております。 ☆スライド18−1(配布資料に無し)  そのサンプルです。例えば、こういうステップで以前にミスがあったとすると、「人 的ミス防止」といったスタンプを押します。これは、各会社によって若干デザインは違 うのですが、こういったものを押します。「電力会社の立会い区分◎」というのは、電 力会社の人間が必ず同時立会で来て確認しないと先へ行ってはいけません、といった意 味を示しております。 ☆スライド19  最後になりましたが、いままでにお話をさせていただきましたポイントを簡単にまと めさせていただきます。1点目は、フェイル・セーフ設計や、フール・プルーフ設計な どのような多重防護設計思想の浸透です。2点目は、国の審査・認可を受けた原子炉施 設保安規定に基づいた発電所の安全運転の徹底です。3点目は、訓練センターや、OJ Tなどの訓練による運転員・保修員のさらなる能力向上です。4点目は、風通しの良い 職場づくりなど、職場の安全風土の形成・醸成です。5点目は、ヒューマンエラー分析 による組織構成員の心理行動特性の把握と、適切な対応です。6点目は、意思疎通の活 性化や、情報の共有化による電力会社、協力会社間のパートナーシップの醸成です。7 点目は、発電所長からのメッセージ伝達などによる、社会の原子力に対する関心の高さ に基づく発電所要員のモチベーションの維持向上です。こういったことについてお話を させていただきました。以上簡単ですがご説明を終わらせていただきます。ありがとう ございました。 ○森座長  お二方、大変ありがとうございました。続いて黒田委員にお願いいたします。黒田委 員は、日本ヒューマンファクター研究所の所長でもあられます。 ○黒田委員  ご紹介にあずかりました黒田です。本日は、飛行機分野からのヒューマンファクター のアプローチの話をしてまいります。ただいまお話のありました原子力というのは、ス リーマイル島の後からヒューマンファクターの研究が世界中で盛んになってまいりまし た。それが1980年代でありましたが、航空のほうは1903年に飛行機が飛びましてから、 ヒューマンエラーをずっと続けてまいりまして、ヒューマンエラーにおいては先輩であ ります。いずれにしても、1970年ごろから、ヒューマンエラーに関する大きな事故がた くさんあり、そのアプローチを始めてから約25年になるわけですが、その成果をお話し てまいります。                (スライド開始) ☆スライド1  医療関係のいろいろな問題を考えるときに、航空と大変違うと思いますことは、医療 というのは人命という大変重大なリスクを排除するために、これよりも少ないリスクを 負荷することを許可されている業務というふうな物の考え方をしております。次第に医 学が進んでまいりますと、負荷すべきリスクと、救うべきリスクとの間の差がだんだん 狭まってくるといった危険な仕事がだんだん増えてくる、特異な業務かなという感じが いたします。 ☆スライド2  航空のほうで考えております安全というのは、そもそも安全というのは存在しないと いうことです。空気より重い物が空を飛んでいるわけですから、何かトラブルが起これ ば必ず墜落する。何でもそうですけれども、動いている限り安全などというのは存在し ない。 ☆スライド3  常に存在するのは危険であります。我々は安全の話をしているのですが、実は安全の 話というのは、その危険をどうするかという話をしているわけです。 ☆スライド4  問題なのは、その危険をいかに的確に予測をするかということです。そのためには、 いままでの歴史というのが大変問題になります。しかも、それを確実に防止する努力を いかにするか、ということが安全の上において大変大事であります。 ☆スライド5  しかも安全というのは、別にシステムとかスローガンではなく、行動であります。そ うだとすると、それが一人ひとりにどう浸透し、そこで安全が守られているかというこ とが大変大事であります。 ☆スライド6  航空関係では、事故の事象というものの定義を定めています。事故とか災害というの は、人間と機械、あるいは環境、あるいはシステムというものとの不適合の結果発生す るものであって、多くの因子が連鎖をなして連がって、初めて事故へつながってくると するならば、末端の例えば医療でいうならば看護婦だけの問題ではなくて、その背後に あるいろいろなシステムの問題をよく知らなければ、安全というものは保てないのでは ないかというのが航空の発想であるわけです。 ☆スライド7  我々が考えておりますのは「M-SHELモデル」と呼んでいるのですが、これは人間 を中心としてソフトウェア、ハードウェア、環境、さらに人間と人間の関連をいかにマ ネージしていくかという要因の相互の関連性をまず考えていくという発想が基本にして います。 ☆スライド8  医療関係でもそうですが、我々の所でも「リスクマネジメント」という言葉が大変ポ ピュラーに使われていますが、これは大変範囲が広く、正確な定義が曖昧です。我々は 、事故が発生した後の処理の問題を危機管理、クライシスマネジメント、クライシスコ ントロールという言葉を使っています。それを起きないようにする方法をリスク管理と いうことで、その方法論としてヒヤリハットであるとか、ハードウェアの改善だとか、 安全文化の問題であるとか、技能の問題であるとか、我々はいまどこの仕事をしている のか。起きた後始末をするのではなくて、いちばん大切なのは、起きないようにする。 しかし、この方法は大変差があります。起きたものから起きないようにする、そのつな ぎの問題をどうしていくかということが大変問題だと思います。 ☆スライド9  ヒューマンエラーという言葉がよく使われているのでありますが、ヒューマンエラー の定義は、「達成しようとした目的から、意図せずに逸脱することとなった、期待に反 した人間の行動」というものです。「意図せずに」というところに大変問題がありまし て、誰も事故を起こそうと思って起こしている人などというのは一人もいないわけです 。一生懸命やりながら起こってきているものにどう対応するか、という難しさがあるわ けです。「しっかりしろ」とか、「頑張れ」とか、基本動作の厳守とかいろいろな言葉 がたくさんありますが、そうしたことをやっていながらトラブルが発生したという、そ の背後の要因に対策を講じなければいけない。 ☆スライド10  人間というものを、もう一度考え直してみようということで、これは人間の情報処理 モデルです。コンピューターと大変違うことは、中枢処理が非常に少ない、キャパシテ ィがすごく少ないということです。ですから、たくさんのことがあると、その処理をす るところで必ず間違いをしてくるという基本的な人間の情報処理のメカニズムを持って いるのだということを、まず念頭に置く必要があります。 ☆スライド11  ヒューマンエラーに関して取り組んできた産業の中では、先ほどお話のあった原子力 、化学、建設業、航空などがあります。 ☆スライド12  特に航空の場合に何を考え、どういうふうな方法をやったかということです。これは 、航空事故の発生率です。1960年代は非常に高い航空事故の発生率が約10年間ぐらいで 減ってまいりました。問題なのは、いろいろな努力をしたけれども、1970年代から事故 率が減らないということです。事故率が減らないということは、どんどん需要が伸びて いきますから、事故の件数はどんどん増えていくということです。これは一体どうした ことかということで、この理由の研究がたくさんなされてまいりました。ヒューマンフ ァクター、要するに人間に関連するということで乗務員、パイロット、整備員が大体70 〜80%です。ここに焦点を当てなければいけないというので、1975年ぐらいから、猛然 とヒューマンファクターに関する研究と、その対策が進んでまいりました。 ☆スライド13  その結果、これはこれからの医療の問題の参考になるかと思うのですが、4つの段階 のアプローチをしてまいりました。1番目は個人技能の向上です。2番目は、マン・マ シン・インターフェイスのいろいろな改善、ハードウェアです。3番目は、チーム・パ フォーマンスです。チームワークをしていく、チームでお互いのヒューマンエラーをカ バーしていこうという試み、訓練です。いまやっておりますのは、組織の安全文化の醸 成です。 ☆スライド14  これが、直接医療関係に全部役に立つとは思っていないのですが、個人の技能に対す る教育というのは、医療関係でも随分たくさんやっています。セレクションの問題、教 育訓練の問題、さらに免許だとか資格の問題です。医療関係ではやっていないのかなと 思うのは、資格補充をしてくる、あるいは機種転換をしてくるときの資格条件の保持の 検定です。パイロットは6カ月ごとに検定されるわけですが、この辺は医者とだいぶ違 うと思います。緊急時の対策、後で出てまいりますCRMの問題。資格喪失時のいろい ろな対応。特に事故発生後の責任の問題までの個人の教育、あるいは個人条件の、個人 技能の向上というときには、そこまで考えていかなければいけない。 ☆スライド15  ハードウェアについては、医療関係の中でもいろいろな医療機材の問題、あるいは人 間工学的なパイプを接続する問題あり、薬の形状というような問題と大変関係があると 思います。ここでやろうとしていることは何かというと、人間の情報処理を主体とした 、そのものを機械がどのぐらいカバーをしていくかということです。主体の問題は、人 間の作業量をいかに減らすか。要するに、作業がすごく忙しいからミスがたくさん入っ てくるということで、いろいろな自動化が進んでまいります。もちろん、その中には間 違わないような方式といった、機材の信頼性の問題、人間の作業量をうんと減らすこと です。この主体となっているのは、ダーク・アンド・クワイエット・コックピット・コ ンセプトといいまして、静かに仕事のできるような操縦席をつくろうというのがこの主 体です。いろいろな機材の進みとともにカップリングが始まって、12時間ほとんど何も しなくてもニューヨークの上まで飛んでいける、というような状態になってまいりまし た。 ☆スライド16  問題は先ほどもお話のありました、フール・プルーフ、フェイル・セーフということ です。特に、このフール・プルーフというのは医療関係で非常に大切です。その中身を 分けていくと、Error Preventive、初めから間違いがないようにすること。それから、 エラーが起こりそうになったら、それに対抗するようなインターロック、あるいはスイ ッチが入らないこと。Error Tolerant入ったとしても、ほかのシステムでカバーをして いく。人間というのはエラーを起こす、エラーを起こしてもシステムに影響のないよう にという、そのコンセプトをどう現すかということであります。 ☆スライド17  チーム・パフォーマンスの問題は、1人には限界があるとするならば、そのチームの 中でいかに能力を発揮するようなチームワークをいかにしていくか、というような新た な訓練を始めました。それが、コックピット・リソース・マネジメント(CRM)です 。これは、シミュレーターを使ってライン・オリエンテッド・フライト・トレーニング (LOFT)という訓練を実施し、自分の能力を確かめていきます。それを全操縦士に 普及し、しかもそれが資格条件として採用しようという状態にいまはなっております。 さらに、クルー・リソース・マネジメントから、コーポレート・リソース・マネジメン ト、会社全体あるいは病院全体のマネジメントへと広がってきております。 ☆スライド18  報告制度の中には2つあります。事故が発生したときの報告制度、インシデントの報 告制度ですが、その場合に大変大事なことがありまして、ここで航空関係では失敗して いるのですが、免責制と匿名制です。誰もエラーを喜んで報告する人はいないわけです が、それをいかに取り扱うかといったシステムがすごく大切です。出された報告がしっ かりとした解析がされて、現場へ流れてくるというフィードバックのシステムがどうし ても必要です。報告をした本人にフィードバックするということは、安全推進に対して 大変貢献しているという、自己実現の効果を消してはいけません。それから、簡単に報 告できる方式でなければいけません。報告した人に関する保護を、インシデントレポー トの場合には大切にしております。 ☆スライド19  最後の安全文化ですが、同じ機種を採用していながら、事故を起こさない国、あるい は事故を起こさない航空会社があります。それはどこが違うのかという、無事故の航空 会社、あるいは無事故の航空機の研究が始まりました。その中から浮かび上がってくる 一つの組織が持っている文化に非常に大きく影響されるということがクローズアップさ れております。無事故の成績を維持しているのは何であるのかという検討が始まってお ります。 ☆スライド20  ここに、安全文化の伝統をつくっていくための要件を並べています。風通の良いこと 、素直に報告ができること、責任の所在とその責任の取り方を明確にしていること、柔 軟性があること、学習する文化であることといった条件が、安全文化とは言いながら、 それは一体何かという研究が進んでおりますし、それをいかに評価をするかという研究 がいま盛んに進んでおります。 ☆スライド21  医療事故に対してどういうフィードバックがあり得るのかということです。事故事象 を正しく理解していく必要がある。パイロットも医者と同じように誇り高き集団でした から、失敗をすると、猿も木から落ちるという諺がありますが、パイロットの集団では 木から落ちた猿は猿でないのだという排除をしながらやっていくという誇り高き集団が 陥るトラブルがあります。それが変わってきた、ということが大変大事なことだろうと いう気がしています。ヒューマンエラーというものの正確な認識をしていく、それの背 後要因に至るところから転がり込んでくる連鎖をいかに止めていくか。エラーを誘発す る要因を排除していく方法。インシデントレポートをフィードバックしながら予防に使 っていくこと。クルーパフォーマンスの向上の訓練(CRM)、高次元の安全文化の醸 成の問題。最後に、誇りを傷付けない配慮、これは誇り高き集団に対して大変大事なこ とだと思います。 ☆スライド22  To err is humanというのは、アメリカの医学研究所が出した本の中の表題になって おります。この言葉はAlexander Popeという人の詩なのですが、続けてto forgive divi neという言葉が付いています。誤りを起こすというのは人の常だ。しかしながら、それ を許し給い、それを直していくのも人間というものに与えられたる技であるということ です。是非ともヒューマンファクターのアプローチというものの中から、最も有効な方 法を取り入れて、素晴らしい医療の安全を確立されることを心からお祈りをいたします 。どうもご清聴ありがとうございました。 ○森座長  大変わかりやすくお話をしていただき、ありがとうございました。次に井上先生、お 願いいたします。 ○井上参考人   本日は、大阪病院にお越しくださいましてありがとうございます。医療安全週間にお いて、このような会議を本院で催すことになりましたことを大変光栄に思っております 。安全対策会議で、安全な医療を提供するための10の要点というのが出ております。本 院ではこれをコピーし、全職員に配付して安全に努めているところです。                (スライド開始) ☆スライド1  いずれの病院においても、この数年来医療の安全対策については大変熱心に取り組ん でいるところです。近畿には25の国立病院・療養所がありまして、そこを近畿厚生局が 管轄しております。ここで、全部の病院からインシデントレポートを集めて分析してみ ようということで、平成12年5月に国立南和歌山病院の副院長である林先生を委員長と する委員会を立ち上げました。平成12年8月10日つまり3カ月の間に合計5,833件のイ ンシデントレポートが集まりました。それを分析し、平成13年4月に報告書を出してお ります。  報告書の中身は、インシデントレポートのさまざまなレベルの分類、原因の分類で、 それぞれについて各病院が立てた個別の対策を全部一覧表にしました。特に、医薬品に 関していろいろ間違いが多かったわけですから、間違いやすい医薬品一覧も付けました 。最後に、各施設の反省を含めて、「事故防止に向けての30の提言」を出しております 。このことは、近畿厚生局のホームページに載っておりますので、本日はこれ以上詳し いことは申し上げません。 ☆スライド2  本日の私の話は、そのインシデントレポートよりもう少しその背景にある安全文化、 日本の医療そのものについて少し考えてみたいと思います。  日本の医療は全体に平均としては良いと思うのですが、一方で研究室医学に傾いてい るのではないか、あるいは学閥医療という弊害があるのではないか、パターナリズムが 非常に強いのではないかという指摘もあります。なにより医療が不透明であり、データ が出てこない。これは、院長をしていてもよくわかるこです。自分の病院の医療を十分 評価するデータがなかなか出てこないというところがあります。  医療そのものについての評価が曖昧だし、その評価方法、例えば病院をどう評価する か、医師をどう評価するか、それぞれの診療行為をどう評価するかということについて の評価方法がまだまだ未熟だと思います。 ☆スライド3  日本の医療は全体としては良いのですけれども、数えるといくつかの欠陥があります 。例えば病院間、医師間で診療のプロセスだとか、結果において大変大きなバラつきが ある。よく指摘されているように、在院日数が大変長い、病床数が非常に多い。ところ が1床当たりの職員数、医師・看護婦数は外国に比べると大変少ないということがあり ます。外来が非常に混雑していて、外来診療依存の病院が多い。その割に夜間・休日の 救急医療は大変手薄だという指摘もあります。カルテの管理、診療録の管理が不十分で あることは、昨今大変きつく指摘されているところであります。質を評価できない密室 性と、先ほど院長の立場から述べました。  それから治験だとか、臨床試験というのは、医学を進歩させていく上で大変重要です けれども、この研究機能が外国の病院に比べて、日本の病院は大変遅れています。研修 医の教育も、平成16年度から必修化されるので大変重要ですけれども、果たして教育を する十分な機能が病院に備わっているかどうかということが問われると不安であります 。安全管理の未熟さというのは、言うまでもないことであります。こういったいろいろ な欠陥が起こってきたというのはなぜかというと、日本の医療に規範的な存在が欠けて いたのではないかと感じております。 ☆スライド4  規範的な医療を示す存在は、そもそも国立大学病院、大学病院に役割があったわけで す。伝統的に日本の大学医学は、ドイツ医学から出発していますので、どうしても研究 室中心、研究論文中心になっています。研究室での、動物実験に基づくデータを非常に 重視してきたわけです。  それがために、一方で病院医学というのでしょうか、臨床経験を重視して、例えば臨 床試験だとか治験を一生懸命やることや、医はアートだといいますけれども、そのアー トの部分、そういった人間性、社会性といった点がやや欠けていたのではないかと思い ます。こういった規範をこれから早急に作る必要があります。 ☆スライド5  その結果、1つの例として、いろいろなバラつきが起こったということです。いま医 療改革のことが言われておりますが、バラツキを左へシフトしてとがった形にできない であろうかということです。こういったことが、安全性にもかなりかかわってくること だと考えております。 ☆スライド6  バラつきの1つの例を申し上げます。在院日数は、安全性とは関係がないので、罪の ない1つの指標であります。バラつきを考える1つの例であります。急性心筋梗塞の在 院日数ですが、私が班長をしております国立病院24施設から集めております。2年間で9 97例というすごいスピードで集まっております。これは、ホスプネットというネットワ ークが国立病院の間には存在するからであります。その平均在院日数が26日ぐらいで、 左の図のようなかなり幅の広いバラつきになっています。  ところが、これを病院別に見ると、A病院は16日、B病院は26日、C病院は30日、D 病院は35日です。同じ急性心筋梗塞であります。この調査では、退院後6カ月後の生命 予後を調べておりますが、その生命予後はA病院、B病院、C病院、D病院の間に全く 変わりはありません。  医療費は、大体この在院日数に比例すると考えていただいたらいいと思います。つま り、A病院は結果は同じだけれども、D病院よりも医療費はかなり安い、バラつきも小 さいということです。これは在院日数の問題で、あまり安全ということとは関係ないか もわかりませんが、こういったバラつきの現状を国民が目にすれば、大きなバラつきを 、なんとか、左側にシフトしてとがらせるという方向に持っていくのが医療改革の目標 ではないか、そのほうが医療の質も良くなり、かつ医療費も安くなると指摘されるので はないかと考えております。 ☆スライド7  いま小泉総理も改革、改革と言っていますけれども、医療改革についても同じです。 改革をやった結果を、どのようにして測るか。こうして測るのだということを事前に示 してやることが大変大切なことです。その測り方を示すと、人々は大変能力があるわけ ですから、それに向かって一挙に努力を傾けることができるわけです。私が考えている 測り方の一つは、こういう分布を小さくするということが、マクロに医療の質を測る上 で一つの重要な指標ではないかと考えております。  改革をしていくための手段として、あるいは力としての一つが自主努力であります。 自主努力で結果が出ないなら、外圧を受けて、市場原理でもって変えていく。公権力で 変えるというのは最後の手段として、できるだけ避けたいということです。 ☆スライド8  自主的な努力としてどういうことがあるか。いま、原子力だとか航空のほうからもご 指摘を受けましたが、まずは医師、看護婦が患者の立場でという意識改革が必要であり ます。インシデントレポートは、報告するだけではなく、これを分析し、対策を立てて 行動に移すことが必要であります。マニュアルを作るということも大切であります。特 にシステム、チーム医療、それからEBMを取り入れる。最近はどこの病院でも取り入 れているパス法なども大変効果があると思います。しかし、これから安全をもっともっ と追求しようとすると、この決め手となるのがIT、電子カルテの問題ではないかと考 えております。そのほかに教育、研修、情報共有、さらには情報公開で市場原理が働い ていくことも重要だと思われます。 ☆スライド9  いま、政府も電子カルテという言葉を盛んに言っておりますが、電子カルテというの は決してペーパーレスということを意味しているわけではありません。電子カルテのい ちばん重要な目的は、医療の品質管理に役立つということでなければならないと思って おります。例えばコンピューターにできることというと、標準的な正しい用語を使わせ るということは簡単にできます。診断の根拠を確認する、例えば狭心症、本当にそれが 狭心症であるのかどうかいろいろな段階があるわけです。それが、いまの紙カルテでは なかなかチェックできない。電子カルテで狭心症と医師が入力すると、胸痛だけで狭心 症と診断したのか、心電図も見たのか、あるいはニトログリセリンの効果を見たのか、 さらには冠動脈造影もして確認したのか、いろいろな段階があるわけです。そういうチ ェックリストを示してチェックさせるということも可能なわけです。  間違った処方を受け付けない。これは現在のオーダリングシステムが既に実現してお ります。さらには適正な検査や治療の選択を誘導するということも、ちょっと工夫して 電子カルテを設計すればできることであります。さらに医療の過誤の中に情報伝達のミ スがかなり多いわけですが、これについても指示・確認など、これは電子カルテを使う ことによって正確にできます。アメリカでは、処方を手書きからオーダリングシステム でキーボードで入力することによって、インシデントが3分の1に減ったという報告も あります。 ☆スライド10  自主努力がいちばん大切ですけれども、もっともっと透明性を増して、社会から比較 評価を受けて競争原理が働いて、駄目なものは駄目で淘汰されていくという選別が行わ れて質が向上していく、という道筋も重要ではないかと思います。  ただ、医療においてはなかなかこういった市場原理が働かないところがあります。1 つは情報が公開されないということであります。もう1つは、ハイクオリティに対して 、必ずしもハイリターンが用意されていないということであります。私の個人的な意見 としては、ドクターフィーだとか、ホスピタルフィーというものを設けるということを 考えていくべきだと思っております。 ☆スライド11  アメリカでもバラつきがあります。これは手術件数ですが、年に1回しかしていない 人と、25回以上する人とでは、その死亡退院率が12.4%から1.5%までというバラつき があります。日本でもおそらくあるでしょうけれども、アメリカの偉いところはこうい うことをちゃんと情報公開できるということですが、日本はとてもここまでいきません 。こういうことがあって、初めて市場原理で正しい方向に医療が動いていくのだろうと 思います。 ☆スライド12  病院評価についても、アメリカの病院評価は結果のところまで踏み込んでおりまして 、危険性を補正した死亡率だとか、合併症の発生率ということが評価の1番、2番の項 目に入っています。 ☆スライド13  できれば避けたいのは、公権力の介入ということです。保険者権限強化ということが 言われておりますが、保険者というのは必ずしも患者の味方ではない。支払いの額を少 しでも少なくするために医療を歪める危険性を持った組織でありますから、こういうこ ともなるべく避けたいと思います。  初期研修の必修化とは制度ができましたから、できた限りは是非充実してやらなけれ ばいけない。医師の免許制度を見直せという方もいますが、これもパイロットと同じよ うにそうすべきかどうかということは今後検討すべき課題だと思います。医療監査の強 化、警察の介入というところまで来ると、医療者も大変惨めになってまいりますので、 できるだけこういうことになる以前に、自らの手で変えていく必要があります。公権力 にお願いしたいのは、安全性だとか、医療の質の向上というのはただではできない、お 金がかかるということで、これに是非公費を投入していただく。このことを国民に理解 していただく必要があるのではないかと思います。 ☆スライド14  我々は品質管理と申しておりますけれども、医療の対象は未知なる生体で、しかも一 人ひとりが異なるわけです。それを神ならぬ人間が行うわけですので限界というものが ある。どこまで許容してくれと言うのはおかしいのですけれども、結果としては自動車 や時計といった人工物の生産品質管理のようにはなかなかいかないということも、国民 ・患者の皆さん方にもご理解いただく必要があるのではないかと考えております。以上 です。 ○森座長  ありがとうございました。続いて辻本委員にお願いします。辻本委員は、ささえあい 医療人権センター、医療COMLの代表でもあられます。 ○辻本委員  COMLの辻本です。COMLの活動については、主催者の了解をいただき、資料を 配付しておりますので後ほどご覧ください。               (スライド開始) ☆スライド1  今年で12年目になりました。この11年間、毎年届く電話相談の総数を単純なグラフに しております。1995年のところに小さな山がありますが、これは阪神・淡路大震災のと きで、1日に200件ぐらい届くという状況でした。1997年をポイントにグッと右肩上が りで、2001年は既に4,500件を超え、天井を突き抜けています。  この右肩上がりのグラフから何が読み取れるかというと、1つは患者の権利意識の高 まりです。もう1つは1997年の第3次医療改革の中で、医療費が倍負担になった。その ことからコスト意識にかかわる不平不満の相談が非常に増えています。現在、月平均40 0件ぐらい全国から電話相談が届いています。 ☆スライド2  これは、2000年の相談をグラフにしたものです。医療不信が非常に増えました。この 上にあるのが、弁護士を紹介してほしい、裁判にしたい。最近は、病院と直接示談交渉 をしたいのだけれども、そのためにはどうしたらいいかといった究極の不信の相談。全 体の3分の1が医療不信にかかわる相談です。  先ほどの折線グラフの右肩上がりの中から、権利意識、コスト意識、もう1つはこう した相談の変化から見えてくるものとして、患者の世代のニーズが、70〜80代のお任せ の方、50〜60代の権利を振りかざす戦後民主主義の申し子、非常にアクセス能力の高い3 0〜40代、COMLに電話をしてくる前に、既に十分情報を手にしているなどに世代の 違いで相談内容が随分変わってきております。  不信感の増大の中で見えてくるもの、それは根拠に基づく説明が十分になされていな い医療現場の実情です。しかし、現在のことですので、説明がなされていないわけがな いと思うのですが、おそらく一方通行。いわば医療者側の自己満足型のインフォームド ・コンセントにすぎないのではないかということを感じます。  患者側の訴えとしてどういう言葉が届くか。おそらく、ハインリッヒの法則でいえば 微小災害に位置するようなことを特に取り上げますが、急変したときに速やかな対応が なかった、あるいは予測以外の状況になったときに、根拠に基づく誠意が感じられるよ うな説明がなかった。さらには、急変直後に誠実だった対応が医療側の、後日の話合い の場で急変した。「誤ったりなどしておりません」と硬化する姿勢。そして、症状を訴 えているのに聞く耳を持たずといった現場の対応。これはナースなどによくある苦情で す。同じくナースへの訴えでよく届くのが、大げさだと言われて取り合ってもらえなか った。先入観、自己判断というものがそこにあるように思います。そして重大な場面、 急に破水したというような場合に、医療者が不在だったり、放置されたといった相談が 届きます。  コスト意識ということでは、差額ベッド料の相談が筆頭なのですが、差額ベッド料以 外の医療費ということで、保険外の実費徴収の問題があります。例えば、小遣管理料が 月に4,000円、神奈川県のある精神科病院では月に5,000円という相談がありました。そ れからおむつ代。3カ月転院で相談のあった家族から、これまでは大体月に3万円で済 んでいたのに、今度の病院は6万円以上かかるが「どうして?」という問い合わせです 。その病院では、「たまには車椅子で散歩させてやってくれ」と言うと、車椅子使用料 が1回100円、ヘルパーがシャンプーをしてくれると1回100円と手を差し出されるが、 支払わなければいけないのか、という相談が非常に多くあります。この方は、医事課の 職員に尋ねているのですが、医事課の職員に説明能力がほとんど身に付いていない。さ らには、サービス精神が欠落しているといったことも併せて見えてくるような気がしま す。  来月のCOML誌に掲載しますが、実費請求に関するアンケート調査をいたしました 。COMLのアンケートに答えてくれたのは24の病院。その中でおむつ代は最低月2,00 0円、最高額が月5万4,000円、電気代が最低月200円の病院があれば、一方に最高月に6, 000円という病院がありました。入院保証金ということで、最低が2万円、最高額は7 万円といったバラつきがあるということが1つ医療不信の種になると思います。  医療がファジーである以上、患者がこうした医療費にまつわる問題に不信の目を向け てしまうだけで、すべてのことが怪しげに見えてきます。患者の不信感や不安というも のは、本当に思いがけない、ほんの些細なところにも潜んでいるということを感じさせ られます。 ☆スライド3  これも医療費の相談ですが、糖尿病で月に1度受診している女性です。200床以上の 病院で払う3割の窓口負担920円です。しかし、診療所に変わったら1,990円。「不正請 求では」という相談。私どもで分析し、内容をともかくわかりやすく、一生懸命解説す る対応で納得していただきました。こういったことが、なぜ病院の中でサービスとして 行われないのか、といった不満を私どもも感じております。 ☆スライド4  患者がいまも、そしてこれまでも、さらにはこれからも医療に、あるいは看護に望む こと、それは非常に単純でシンプルです。安全であってほしいということと、自分が安 心し、納得したいということです。その安全を担保していただくためには、まずは確か な技術を提供していただくこと。そして私が安心できる、納得できるという背景には、 やはり個別性を尊重していただくということにあると思います。確かな技術は、知識、 経験、哲学、情熱と思っているのですが、そこには一定レベルの基準があります。個別 性の尊重となると基準がありません。電話相談にも十人十色、百人百様のニーズが潜ん でいます。  一人ひとりの「安全・安心・納得」には、情報提供と情報開示、そしてコミュニケー ション、即ちこのことはわかってくださいという思いで知る情報、そして、その情報の 中身を十分に吟味確認し合うやり取りがあって、最後には患者が知りたいということに きちっと向き合っていただく対応、コミュニケーションが不可欠な要素になっているこ とを痛感させられます。 ☆スライド5  ところが、医療を提供する側と受ける側、そこには深くて渡りきれない大きな川が流 れております。向こう岸の日常と、私ども患者側である医療現場の日常は全く違い、使 う言葉すら違います。そうした渡りきれない大きな河を、はさんで、お互いに大きな声 を張り上げていても埒はあかない。やはり、そこに橋を架けていくことが必要です。そ の橋こそが情報提供とコミュニケーション、即ちインフォームド・コンセントです。た だ橋は片方から架けていく工事ではありません。先ほど井上院長から意識改革というお 話がありましたが、まさにいまこそ医療者も患者も意識改革をして、半歩ずつ歩み寄り 、これまでよりも一歩分近しい新たな人間関係を創造していくという時代。協働作業と いう医療を築き上げることが、安全文化をつくっていくことにつながると思います。  向こう岸から架けられる特にナースのなにげない言葉で傷ついたという不満がよく届 きます。「もう駄目って言ったじゃないですかぁ」とか、「なにやってるんですか」。 言いたくなる気持はわかるのですが、話しかけるほうも、かけられるほうも自分の世界 に閉じ込もっていて、お互いに勝手なことだけをしやべっているというコミュニケーシ ョン不足、つまり相手の心に届くような呼びかけをしていないという現実が不信感の種 となり、そこに事故、ミスの種が潜んでいるようにも思います。 ☆スライド6  患者は、電話相談で40〜50分、中には1時間以上にわたって不平・不満を吐き出しま す。そして最後に辿り着くのが不安という要素です。その不安の裏側に何が潜んでいる か。知識、情報、経験がないことの不安。しかし、いまは知識、情報をあふれるほど手 にしたことによって、不安という相談が届くようになっています。  さらには、自分には権限がないと思っている、自己決定権の放棄。確かに手術台の上 に乗ってしまえば、お任せするしかない状況を余儀なくされるわけですから、患者の不 安は尽きることがありません。そして、誰も代わってくれない苦しみ、痛み、孤独感、 家族にすらもう愚痴はこぼせない、これ以上心配をかけたくないからといった声が届き ます。こうした患者の裏側からも事故、ミスの種が見えてくるような気がいたします。 ☆スライド7  患者たちが電話相談でどういう医療を望んでいるかというと、大きく分けると次の5 つで(1)「私」が知りたいという気持をどんなに尊重してくれる医療であるか。(2)私が 理解できるようなわかりやすい説明があるのかないのか。(3)プライバシーを守ってほ しい。生まれたときから子供部屋を与えられるような世代がどんどん医療現場に参画し ています。プライバシーの概念というのはいままで以上に、本当に驚くような厳しさを 持って要求している声が届きます。  そして、この医療者の前ならばバッド・ニュース・テリング、いやだ、あるいは前言 撤回、そんなことも遠慮なく言ったその後に、さらにやり取りが進んでいけるような医 療者、(4)遠慮なくノーといえる医療機関であってほしい。そして、(5)セカンドオピニ オンは当たり前のことだという、意識を持った医療機関、医療者と出会うことを患者は 強く願うようになってきています。 ☆スライド8  1990年1月末に、日本医師会生命倫理懇談会がインフォームド・コンセントを、「説 明と同意」と訳しました。そこには患者は不在でした。「説明と同意」というのは医療 者を主語にした責務す。今は私たち患者も半分の責務を引き受ける時代で、主体的な医 療参加が求められる時代です。医療者から受けた説明内容を理解する努力、そして最終 的に十分にリスクも引き受けた上で、自発的にはっきりと意思表示をする、選択、自己 決定、すなわちそれを受けてはじめて合意に辿り着くのです。  インフォームド・コンセントはたった1度の儀式ではなく、医療のすべての場面にお いて、横並びの人間関係の中でお互いがわかり合いたい意識を持つことが必要です。医 療安全の基本は、やはりインフォームド・コンセントの“徹底”にあると思います。協 働作業申し上げた中で、今は患者がリスクの共同管理者になることが必要になってきま した。変だなと思ったときに、医療者に遠慮なく伝えたり、指摘・確認ができるような 人間関係、コミュニケーションがなにより必要です。そうした患者の変わりたいという 思いを引き受けていただける医療現場の意識改革を急いでいただきたいと思います。  そして、患者がその指摘・確認をするということになると、医学・医療に素人の私た ち患者が自己管理できるような、見てわかるようなシステムが必要になってきます。医 療者と一緒になってエラーを防止する努力が患者にも求められる時代なのですから。ま さしく患者がインフォームド・コンセントに主体的に参加する意識です。しかし人と人 、仕事と仕事、情報と情報のつなぎ目に発生するインシデントレポートを十分に吟味し ていただくと、患者とのコミュニケーションギャップ以上に、医療者同士、院内コミュ ニケーションの悪さが明確に浮かんでくるはずです。  この度安全な医療を提供するための10の要点をこの度厚生労働省が発表いたしました 。ひょっとすると「いまごろこんなことを宣言しなければならないほど現場は基本的な ことも十分にできていないのか」と、かえって患者が不安になるかもしれません。そこ のフォローアップをよろしくお願いします、とお願いしたわけですが、しかしこれを見 てわかるようにやはり基本です。基本を大切にするということです。  企業では微小災害、すりむいた程度の災害ということをいかに共有するか。その基本 を大切にしているというお話を伺いました。現在、私ども患者が望む医療の安全チェッ クとして何をチェックしていったらいいか、という作業を進めております。転倒、転落 、薬、機器、その他という項目の中で、来年早々に発表していこうと思っております。 ☆スライド9  賢い患者になりましょうということで始めたCOMLの活動は、いまもその理念を変えて はおりません。賢い患者、それは医療者と対立する患者ではなく、自分の病気は自分の 持ちものであるという「自覚」をし、私はどういう医療を受けたいかという「意識化」 、そしてその思いをきちっと言葉に置き換えて医療現場に伝える「言語化」、さらには 信頼関係を共に築くという「コミュニケーション能力」を患者も身につけること。そし てさいごは「1人では悩まない」、誰か相談できる人、心の杖を持つという、主体性を 身に付けた患者を賢い患者とイメージしております。 ☆スライド10  『医者にかかる十カ条』については、1997年当時の厚生省健康政策局医療課のお手つ だいということでかかわらせていただき、いまはCOMLが小冊子の発行・普及という 努力をしております。18万冊以上の普及になっております。 ☆スライド11  本日は医療関係者が多数ご参集ということを伺いました。これからますます私たち患 者の自立が厳しく求められる中で、具体的な環境整備ということで次の3点を提案しま す。「リソースセンター」の整備で患者の学習権を支援していただくこと。なんでも相 談のできる、ホテルのコンシェルジュのような役割の方が窓口に座っていただく「よろ ず相談窓口」の設置。そして「チーム医療の再構築」です。誰に質問しても、確認をし ても、きちっと向き合って必要な情報を提供していただける、安全という面、さらには セカンドオピニオンを院内で満たすという医療費の削減ということも含めた意味合いか らも、チーム医療の再構築ということを是非お願いしたいと思います。  一人ひとりの患者の声を大切にしていただくこと。そしてできることとできないこと をはっきりさせていただくこと。してはいけないことはしないで、しなければならない ことは必ず行う、これが医療の安全文化に不可欠の要素と、患者の立場からのお願いを 込めてのお話をさせていただきました。ありがとうございました。 ○森座長  どうもありがとうございました。これで4名の方々のお話を終わります。これから質 疑応答に入ります。演者の方々は、それぞれいろいろな角度からよいお話をしていただ いたと思います。1時間弱の時間が残されておりますので、活発な討議をしていただき たいと思います。 ○岸委員  井上先生にお伺いします。私は医療保険改革に絡めて前々から、医師免許制度につい て考えていました。前に読売新聞の社説にも書いたことがあるのですが、日進月歩の医 学に対応し、たった1回だけの試験で生涯免許を与える医師免許制度というのは非常に 疑問があると素人ながらに考えておりました。  公権力の介入は抑制すべきだというふうに井上先生はおっしゃいましたが、免許を停 止するとか、返上させるための試験ではなく、医師の技術料の評価と連動させて、例え ば5年に1度、その時代によって新しいこと、例えば薬の副作用が新たに発見されたも のとか、禁忌なものであるとか、新しい治療法などがどんどん進歩しますので、そうい うものを5年に1度ずつぐらい試験をして、それをクリアすれば医師の評価を上げてあ げる。  いまよく言われていることですが、研修医も、30年、40年のベテランの医師も同じ技 術料というのはいかにも不自然である。それならば、研修医をゼロとするならば、5年 ごとに更新をして、それをクリアされた方にはそれなりのフィーを加算するというよう な形で免許を更新していく。もし更新されなければ返上するのではなくて、その方は加 算ができないというだけである、というような形のもの。それを厚生労働省に新たにや れというのではなく、むしろ日本医師会であるとか、標榜科目の問題もありますから、 それぞれの学会が標榜科目などとも連動してやる、というようなことは井上先生の発想 の中ではあまり好ましいものではないのでしょうか。 ○井上参考人  いまご指摘のことは全然反対ではなくて、私もそういうことがいいと思っております 。力を付けるということは大切だし、その力についてそれ相当の評価をするということ がいまの近代社会では不可欠な方針でなければいけないと思います。医師免許制度につ いては、免許証ということはちょっと外しまして、それぞれの医師にランクを付けると か、病院にランクを付けるといったことを、どういった所が行うかという社会的な仕組 みは是非これから考えなくてはいけないことです。何でもかんでも政府、厚生省がやる ということがいいかどうかということについては、今後よく議論すべきではないかと思 います。  もう1つはリターンの問題というのでしょうか、良い評価を得た人が、これはお金を 欲がっているわけではないのですけれども、何らかのリターンということを考えなけれ ばいけない。そうなってきたときにもう1つ難しいことは、医療というのは公平性が非 常に要求されるので、良い医者は誰で、良い病院はどこだということが情報公開されて くると、そういった医者、そういった病院に患者が殺到するというのは目に見えている わけです。  そのときに、いろいろな混乱が起こってくるので、それをどうしたらいいかというこ とがあります。私は、たまたま国立病院におりますので、公的な病院、国立病院がどう いう役割を演じるかということを大変心配していただいております。私はそういうセー フティネットを担保する機能として、公的な病院を考えていく必要があるかと思ってお ります。 ○森座長  ただいまの問題提起は非常に大きな意味を持っていると思います。堺先生、三宅先生 など医療の現場の方がおられますが何かコメントいただけませんか。 ○堺委員  私は、医師の評価のシステムが非常に薄いというところに問題があるかと考えていま す。いまのお話は、その評価とそれに対する処遇と両方のお話があったかと思います。 まず評価を行って、その評価に基づいてどういう処遇をするかということを考えなけれ ばいけないと思います。  自分の所で恐縮ですが、私どもは医学部のすべての医師について評価制度を来年4月 から試しに行おうとしております。これのいちばんの根本になりますのは、すべての医 師がすべての医師を評価するということです。当然医師だけではなく看護婦、あるいは 患者といった医療にかかわるすべての方々の評価を頂戴しなければいけないと思ってお りますが、まず医師相互の評価から始めようとしております。  今後の将来を見据えますと、一体どうやったら患者からの評価を頂戴できるようにな るのだろうか。正直申し上げましてまだ模索中です。しかし、将来そういうことが行え るようになりたいと考えております。 ○森座長  日本の社会で評価というと、どっちかというと悪い人を罰するような暗い面をみんな 思いつくかと思いますが、明るい意味の評価、前向きの評価ということですね。 ○堺委員  これは自分の所で恐縮ですが、若手の医師に、「君たちは一体どういう評価をしても らいたいのだ。自分たちが評価してもらいたい方法を考えろ」というところからスター トしました。まだ評価法を練っているところですけれども、やがては処遇に結びつくわ けです。私が彼らに、「君たちはどういう処遇を受けたいんだ」と聞いたら、「もちろ ん給与とか賞与のようなお金の面での差をつけてくれることも望むけれども、組織の中 での昇進の物差しにもしてほしい」ということを全員が申しましたので、それを踏まえ ての検討をいま行っております。その辺が若い医師の本音ではないかと思います。 ○森座長   三宅先生もご発言なさいますか。 ○三宅委員  私も、医師の評価というのは、これからは避けて通れないと思っております。この評 価というのは非常に難しい問題がたくさんあります。決して医師の評価を考えたときに 、技術的な問題だけではなく、その人の人間性といいましょうか、先ほど来井上先生の 話にもいろいろありましたけれども、コミュニケーション能力とかいろいろな能力が評 価されます。そういうものを、トータルとして評価しなければいけないということです 。それが何らかのインセンティブが働くような仕組みを作らなければいけないというこ とです。  ところが、現在の大部分の公的病院、私どもの病院は独立採算ですけれども、一応公 的病院ということで、給与体系というのは非常に固い決められた枠の中ですので、成果 主義としての金銭的な形での評価を返すことはできません。それをどういう形でインセ ンティブを付けるか、ということは非常に難しいことだと思っております。  私は、リスクマネジメントの観点からも、一人ひとりの医療従事者のトータルとして の能力というものが問われていると思います。そういった意味で私がいま考えているこ との作業をしておりますけれども、非常に限られた条件の中でできることとして、医療 人として求められる人間像というものをきちんと医療従事者に明示する。それは、決し て技術的なことだけではなく、人間的な側面だとか、ある程度の管理能力だとか、そう いったものを含めて、こういうことで医療人を評価していきますと。そういうことで医 療人を育てていくという観点からの評価が必要なのではないか。  本当は、何らかの金銭的なものが付けられると非常にいいと思いますけれども、現状 では昇進とか昇格といったところに使えるのではないかと思っております。いずれにし てもそのような評価が必要なことだろうと思います。 ○森座長  いまの世の中、尊敬とか敬慕といったことはわりに重視されていないように思います が、私個人としては、評価の結果が尊敬につながればいいなという気持を持っておられ ます。岸委員からのご質問に対してほかにお答えになる方はおりますか。 ○岡谷委員   看護の立場から一言述べさせていただきます。医師の評価というのはやったらいいと 思います。安全ということを守っていくのに、一人ひとりの医療者の能力の向上という のは非常に重要なことですので、研修の義務化というようなことが始まっていくという のも非常にいいと思います。  看護婦は昔から病院の中で新人教育も含めて、いわゆるラダーシステムのようなもの を作って、3年目になればどういう能力を持っていなければいけないのか、5年目にな ればどうなるのかということで、院内でそういう教育の仕組みを作ってラダーを上がっ ていくということで、看護婦の能力の維持向上ということを、かなり積極的にやってき ている面があるのだと思います。そういうことをやっても、なかなかインセンティブが 働かない。ラダーを上がったからといって給与が上がるとか、何か評価が上がっていく というようなことが、いまの医療体制の中ではなかなかできにくいということは医師と 同じなのかなと思います。  個人の能力の評価も必要なのですが、医療というのはチームでその成果を出していく ということがあります。例えば、医師が1人いても良い医療はできないわけです。そう いう意味では、チームのパフォーマンスというか、チームの成果というか、チームの評 価をどうやっていくのかということも考えていくべきことではないかと考えております 。 ○森座長  ありがとうございました。それでは次のご質問なり話題の提供をお願いいたします。 ○桜井委員  リスク管理というのは、一つの科学技術的な手法だと思います。先ほどの井上先生が 、電子カルテのことにお触れになられましたので、これの功罪についてお伺いします。 先般、私は60数歳の日本の女性にお会いしました。この方は食道がんで10年ぐらい前に 、アメリカのメーヨークリニックで手術を受けたそうです。日本人がアメリカの病院で 病気を治すという窓口をボランティアでやっておられます。その方に、日本の医療とア メリカの医療と、どこがいちばん違うように思われますかという質問をしてみました。 私はその答えを聞いて非常に感銘を受けました。  その人は1人で向こうへ行って、1人で手術を受けて帰ってきたそうです。全部が全 部そうかどうかわかりませんが、アメリカの病院では誰か1人にあることを言うと、そ れが全体に伝わっている。たとえ話ですが、「私は納豆が嫌いです」と言うと、レジス ターナースも、そうでないいろいろな階級が向こうにはあるのだと思いますが、そうい う人たちが全部、「あの人は納豆が嫌いだ」ということを知っている。だから、「あな たは何が嫌いなのですか」という質問をいちいちするようなことはない。  日本の場合はそうではなくて、みんな来る度に「あなたは納豆を食べますか」「あな たは納豆を食べますか」という質問をする。そこが違う。それが本当のサービスで、そ れがリスク管理にもつながると思うのです。患者の心、特性を大げさに言うと病院全体 が知っているというような状態が醸し出されるということをその方が言われました。日 本の病院はそうかなということを、私も臨床をやっていた経験がありますので感じるわ けですが、電子カルテでそういうことができますか。 ○井上参考人  桜井先生がご指摘されたことは重要なことで、それがいまキーワードとして言われて いる情報の共有ということだろうと思います。日本の病院とアメリカの医療と比べたこ とはありませんけれども、日本の病院においても情報の共有ということをできるだけ進 めていますが、これは何でもかんでも共有するということでは決してありません。必要 な情報を共有するということです。そのときに電子カルテが役立つかどうかということ は、十分検証する必要があると思います。私は、役立つような電子カルテを設計すべき であると考えております。ことに、それをネットワークと結び付けた地域医療等々で情 報を共有するという場合には、こういった技術を医療も積極的に取り入れていくべきだ と思っております。 ○森座長  これについても、ほかの委員の方々のご意見を伺いたいと思いますが、私も一言申し 上げさせていただきます。私も患者の1人ですが、例えば主治医の井上先生にはこうい う事柄を申し上げるけれども、それを医療界という限られた社会であっても、一般の医 師までみんなに知られてしまうのはちょっと恥ずかしい、というようなことはないので しょうか。 ○井上参考人  個人情報保護という問題が出ておりますけれども、そういう問題を病院の中で管理を する、病院から他の病院へ患者の情報を送るというようなことについて、患者がそれを 全部コントロールする権利があるわけです。例えば、私が患者から得た情報を誰かに伝 える場合には、必ず患者の許可を得てからでないと駄目です。臨床研究という良いこと に使う場合であっても、必ずそれを守らなければいけないということです。インフォー ムド・コンセントの一種ですが、そういう情報の扱い方は必要です。 ○辻本委員  私どもの電話相談でも、あの人に言ったことが、いつの間にやら翌朝になると全部が 知っていた、患者が「どうして」と思うようなことがよくあります。先ほど、深い河と いうことでお示ししたスライドのように、医療現場にとっては日常で当たり前のこと、 常識が患者にとっては全く非常識と思えるようなことが多々あります。その中の一つに 「情報の共有」という問題もあろうかと思います。  患者が十分に利用し、活用できる情報は、よほど十分な説明をしていただかないと、 さらなる混乱が出てくるのではないかという危惧も感じております。 ○森座長  いまのことに関連して、何かご発言はございませんか。電子カルテというのは将来の 大きな問題です。 ○井上委員  電子カルテも階層別で、医療関係者がどこまで患者の情報を共有し、患者情報を患者 本人に公開するのか、というようなこともある思うのです。それ以前に、いまの医療現 場で大事なのは、医療関係者同士のコミュニケーションが非常に難しい状況にあるとい うことなのです。患者の情報を、他の職種間同士で共有するトレーニングができており ません。  もう1つ大事だと思いますのは、事故ということに限って申し上げますと、大体医療 事故はこの前の厚生労働省の発表では約3分の1が1年未満の就業の方が起こしておら れます。特に、医師が当事者の場合、3分の2が1年未満の事故発生率であるというこ と。医療関係者はいろいろな職種の専門の大学から卒業し、医療の現場に就職しますが 、そのときに、初めてほかの医療職種と会う。患者に会う直前に、ほかの医療職種と初 めて会って、そこでいきなりコミュニケーションをとることになると、他の職種とのコ ミュニケーションをとるのに非常に難しいものがあるわけです。  先ほど大変勉強になりましたのは、原子力関係で、6カ月間主任者研修をやられると いうこと。疑似のシミュレーションまでやるということでした。医療関係者である病院 の関係者が一同に集まって、例えば6カ月間模擬患者を使ってコミュニケーションを図 る。そんなに長い期間でなくてもいいのですが、そういうトレーニングをやって、そこ にツールとして電子カルテなどが入ってくるという、ちょっと理想的すぎる話かもしれ ませんが、そういうトレーニングが医療関係の初任者のときに必要なのではないかとい う気がいたします。 ○矢崎委員  本日は作田主査、黒田所長のお話を伺って大変勉強になりました。そこで私が感じた ことは、原子力発電とか、航空機の運用というのは、医療従事者と共通しているところ は、大変高い知識とか能力が要求されるということです。相手が設備、機器と言ってよ ろしいのでしょうか、ところが医療従事者の場合は相手が患者という、いわゆるヒュー マン・トゥー・ヒューマンになります。  私の立場から医薬品のことで興味を持ったのは、もし事故が起きたときの危機管理の 問題です。医師が処方箋を発行する段階で、システムが充実してきますと警告とか禁忌 というようなことで処方の不備をチェックすることはできると思います。  ところが、同じ薬剤が処方された場合に、Aという患者の場合はなんともない、だけ れどもBという患者のときにはこれが重篤な副作用につながるような場合もあるわけで す。そういう事故というのは、どうしてもヒューマンエラーという範囲を超えて避け難 い問題だと思うのです。  先ほどお話をいただいた原子力発電とか、航空機の場合の、いわゆる危機管理、そう いう事故が起きたときの対応、あるいはそういう危機管理について何か我々が参考にで きるようなことがあるかどうかを伺いたいと思います。 ○糸魚川参考人  医療と原子力発電関連産業ではかなりの程度違います。しかし、人間が介在して、あ る行為をなして安全性を確保しなければならないという原則を考えますと一緒だと思う のです。そのときに、原子力発電の立場から申しますと、まずは情報の開示、そして情 報の共有ということがいろいろな点で大切だと思うのです。ただし、我々の場合は医療 の場面と同じだと思いますが、感じるところもっと社会全体が一つの事象トラブルに対 してすぐリアクションをしてくる。我々が県に対して、国に対していろいろな事象事故 の報告の義務を当然負わされている。そうなると情報の開示、共有性が世間一般の人の 間では相当程度早くしなければならなく、かつ監視の目も一般に厳しい。  しかし、原子力発電で事故をなくすための第一は、従事者が相互に、具体的に申しま すと各チームだとか、発電所間とか、そういう人の間で相当程度きちっとした情報の共 有と対応がなされて、そしてその枠組みの中で、一般の世間の人との情報の開示と、そ の共有性が多層になされていないと、混乱がもたらされている可能性がある。ですから 、情報の開示というのは絶対に必要であって、そのための、しなければならないいくつ かの手段、法則というものがあると思っております。 ○黒田委員  大変難しい質問です。航空機がときどき事故を起こします。原子力の人からよく質問 があるのは、航空機は事故を起こしても、ちゃんとお客様が乗るのだけれども、うちは どうしてずっと反対されているのだ、その差は何だという話があります。確かにそのと おりだと思います。  一つ大きな差は、どこまで安全ならば安全か。どういうふうに航空機は造られている かという、そこのところに大変長いディスカッションがあります。100%安全な飛行機 はできないのです。ですから、ここをターゲットにして航空機というのは造られていま すよという、ハウ・セーフ・イズ・セーフになっています。どこまで安全ならば安全と いえるかという、そういう世界的な一つの設計ターゲットがあるわけです。安全はここ まで、こういう危険は残されているという、その常識というものがまずある。  もう1つ違うところは、事故が発生したときにどう対応するかというのは、各航空会 社は痛い目に遭っているものですから、そういう歴史を持っています。発生の直後から どういう対応をしていくかというルールを持っています。  もう1つは、事故が発生したときに、それを調査してくれる場所があります。それは 昭和46年の雫石の事故以降、中立独立の事故調査の場所をつくりましょうということで 、航空事故調査委員会ができました。今年から鉄道も入るわけですが、そういう起こっ たものをしっかりとした中立の目で見ていただくという場所です。確かに、事故に対し てはいろいろな問題がたくさんあるのですが、それに対してどういう科学的な、独立し た、公平な目で、事故を起こした側に対しても、あるいはその被害を受けた方々に対し てもつくっていくか、というようなものをつくっている点が大変違うと思います。  アメリカのNTSBというのもその1つのシステムですが、最近あそこにはパッセン ジャー・サポート・ディビジョンというのができまして、被害者をずっと保護する。そ のディビジョンも安全の委員会の中で一つの大きなウエイトを持ったセクションになっ ています。事故の科学的な調査だけではなく、事故の被害に遭った方々の人間のケアも するような状態にいまなりつつあるのだということであります。リスクがないとは絶対 に考えられない組織が何をしなければならないのかという点において、いろいろ学ぶべ き点があるのではないのだろうかという気がいたします。 ○森座長  責任追及の場というよりは、場合によっては免責してでも真実を明らかにするといっ た姿勢は、医療過誤については必要かもしれませんね。 ○堺委員  辻本委員に教えていただきたいことがあります。患者に医療に参加していただくとい うことは、これからますます広げていただかなければいけないと考えておりますが、実 際にこれを病院で行っていくと問題も起こってまいります。  いま、私どもが困っておりますのは、入院した患者に薬を飲んでいただくわけですが 、ここへ薬剤師を行かせて服薬の指導、薬の説明、飲み方の説明を十分行った上で、患 者に自分で薬を飲んでいただくということをやっております。ところが、私どもの予想 以上に薬を飲み忘れる、あるいは1度飲んだのだけれども、それを忘れてまた飲む、と いうことがかなり起こっております。  私どもは、こういうことに関してはさらによく説明し、薬剤師や看護婦が小マメに見 回るということしかいまのところ打つ手がないのです。患者の側から見て、こういうふ うにしてくれたら、もっとそういうことは起こりにくいのだということがありましたら 是非教えていただきたいと思います。 ○辻本委員  非常に難しい質問です。先ほども申し上げましたように、患者の意識というのは10人 いたら10人、100人いたら100人みんなバラバラに違いますし、その意識のあり様も違い ます。ただ、病気になる前のところでの患者教育というようなシステムを一つ持つこと 。それから、医療は常に家族を含めた2世代を同時に安心納得させなければいけないわ けですが、逆に言えば家族を協力者に巻き込むこともできる。独りぼっちにさせない支 援システムがあれば、患者は少しずつ目覚めることができるという背景になると思いま すので、そんなシステムを考えていただくことも一つかなと思います。  健康なときから医療についての学習ができるシステム作り。これは厚生労働省のほう にもお願いしたいことだと思うのですが、もっともっと患者が主体的に医療参加する、 意識を喚起する、社会の積極的な取組がますます必要になってくると思います。 ○井上委員  与薬それから服薬管理については病棟での管理は、看護婦と協力しながら薬剤師がや っている現状があります。最近、病棟に薬剤師が進出しており、それぞれ一人ずつ患者 の与薬管理、副作用のチェック、医師が処方する薬の処方設計に私どもが、医師から助 言を求められれば助言をする、という作業を病棟ではしております。  もう一つ在宅の管理もしております。在宅訪問服薬指導ということで、薬剤師が患者 の家に行き、地域の開業医の先生方と、在宅訪問支援センターの保健婦等と協力し、も ちろんいま辻本さんが言われたように、家族の方の協力と、患者本人の協力も大切です 。例えば薬剤師が服薬のカレンダーを作り、そのカレンダーには日毎のポケットがつい ており、そのポケットに朝、昼、晩と薬を1回分ずつ入れております。これは家族の方 の協力が要るのですが、それでお薬を忘れずに飲んでいただいた後、今度は飲んだ空の パッケージをそのカレンダーに入れておきます。ゴミ箱に捨ててしまうと、どれを飲ん だか飲まなかったかわからなくなってしまうことがあります。脳血管性痴呆の初期の方 などはそういうことが多いものですから、在宅での服薬に関し、薬剤師がこの様な協力 をさせていただいております。  まさに家族、本人、薬剤師、保健婦、看護婦、地域のドクターの協力の輪があって、 服薬管理がある。一つの医療業務に、いろいろな方、医療職種の協力が現在必要になっ ております。さらに在宅の方の場合には、家族の協力が不可欠です。 ○森座長  いまの事柄でどなたかございますか。 ○梅田委員  いま、糸魚川先生ならびに黒田先生から大変良い情報をいただきましたので、私もあ りがたく思っているわけです。薬につきましては個人個人によって違うというのは当然 です。例えば同じ人でも、2ヶ月前と同じ薬を出したら副作用が起こった。それは、患 者が飲みすぎたのか、あるいは飲む時期を間違えたのかそれはわかりませんが、そうい うことを調査しても人間の体は大変複雑でして、ただ単に一つでは片付けられない。  糸魚川先生あるいは黒田先生からお話をいただきましたが、そういった面では十分理 解ができたと思っております。 ○中村委員  薬の服用のことですが、処方の回数というようなことも、患者の薬の飲みやすさとい うことに関係するのではないかと思っています。1日3回とか、1日4回こういうふう に飲みなさい、朝昼晩飲みなさいというのは、ある意味で医療者側からの要求だと思う のです。でも、患者の生活のペースなどを考えると、例えば1日1回で済むものは1回 飲めばいい、あるいは夜寝る前に飲むだけで済むのだったらそれでいいという、どうす れば生活のペースの中で患者が飲みやすい状況が生まれるのかということを考えてみる 。みんな一律に1日3回朝昼晩ということではなく、もちろん薬効等も考えなければい けないのですが、患者の生活のペースということも考えての処方の仕方を工夫すること も、コンプライアンスが上がっていく大きな要因になるのだろうと思います。 ○森座長  この話題についてほかにないようでしたら次の話題に移ります。 ○中村委員  話題が変わりますが、折角の機会ですので参加の皆様に訴えたいと思います。最近、 医療界のことがいろいろ取り上げられていろいろなことが言われています。その中の一 つに、どうも護送船団方式で守られている最後の砦ではないのだろうか、ということが あります。  我々医療界も自ら変革していることがあります。例えば医療機能評価、情報の開示、 環境への取組み、今年から新しく医療安全対策推進をやってきております。他の業界に 決して負けていないと思います。昨年WHOから、日本の保健医療サービスの評価があ りましたが世界でナンバーワンです。平均寿命、健康寿命も長い。乳児死亡率も低い。  一方、国民医療費はGDP比で世界の18番ぐらいに落ちてしまったのではないでしょ うか。そういうことでマンパワーから見ますと、医療環境は極めて厳しいです。しかし 、私の目で見ますと非常によく頑張っていると思います。  私は医師会の会長をやっておりますので、看護学校を持っております。つい先日戴帽 式をやったばかりです。ナイチンゲール精神を説きますとともに、こういう話をしなけ ればならないのです。ある心やさしい実習生が自分の受け持ちで、しかも亡くなられた 患者の前で涙を流していたのです。それを見た家族の方が、「何かやったんじゃないか 」と。涙を流してはいけません、というようなことを注意しなければいけないという悲 しい現実があります。  実習生の話ですが、ある部屋に通りかかったときに、「おい、君々、看護婦さん」と いうように声をかけられたのですが、実習生ですから、自分ではないなということで通 り過ぎてしまったのです。ところが、非常に間の悪いことにその患者はかなりの有力者 だったのです。怒鳴り込みまして、病棟主任、婦長、最後には病院長にまでその話が行 きました。病院長は平謝まりされたのですが、どういう状況であったかというと、患者 は目が見えなかったのです。実習生と看護婦がわからなかったのです。実習生は、当然 私のことではないと思いましたので通り過ぎてしまいました。こういうこともあるから 用心しなさいよと。  良い看護学を学ぶ前に、用心することばかり教えないといけない、この現実も非常に 厳しいのではないかと思います。厳しい環境の中で頑張っている医療人もしっかりいる わけですので、良いところは褒めていただきたい。最近、日本人というのは褒め方が下 手なのではないかと思うのです。小さなことでも結構ですから、「よくやった」「感動 した」などと言っていただくと、我々は本当の励みになります。  私の病院のことで甚だ言いにくいのでありますが、昨年日経新聞の2000年度優秀先端 事業所賞を獲得しました。今年も受賞した病院があります。いままでこのような賞に目 が向いておりませんでしたが、チャレンジする病院がいっぱいあります。そういうこと も、決して我々が古い殻の中に閉じ込もっているのではないということを理解していた だきたいと思います。  医療安全推進週間に先立ちまして辻本先生に講演をしていただきました。看護職の方 が大変感動しておりました。ドクターは、ちょっと出席率が悪かったのですが、そのよ うにして、我々もいろいろな面で一生懸命取り組んでいるという事実をご理解いただき たいと思います。 ○森座長  いまのことに関連して、梅田先生、手短かにお願いします。 ○梅田委員  私は、井上院長の講演に大変感動いたしました。ことに日本医療の欠陥として、病院 間あるいは医師間のバラつきというものを非常に強く考えられておられました。これを なんとか解消する方法がございましたらお教えいただければ大変ありがたいと思ってお ります。 ○井上参考人  先ほどそのことを申し上げましたが、3つの力を上手に使って、できれば自主努力で やっていきたいということです。しかし、そのバラつきの実態自体を、まだ我々も知ら ないし、一般の国民もよく知らないので、もう少し実態を公開していくということが大 切だと思っております。その点は、アメリカのほうが進んでいると感じております。そ れが第一歩ではないでしょうか。 ○川村委員  糸魚川先生と黒田先生というヒューマンエラーの大家の先生と同席できることはめっ たにないことでございます。私は、2年前から研究をさせていただいておりまして、そ の当初に産業事故防止から学びたいということで、鉄道や原子力の事故について研究を している方や、化学プラントの事故防止をされている方、認知工学の学者さんを、日本 の平均的な看護現場にお連れいたしました。そこで17時間ずっと業務を見ていただきま した。産業現場と医療はどこが違うのか。産業界から学べるものは一体何で、学べない ものは何なのか、医療界独自で行うべき研究は何なのかを知りたいと思ったからです。  いらっしゃった方々が何時間か見ていて、「産業界とはかなり違う」と言われました 。どう違うかといいますと、情報がどう流れて、どういうふうに業務が動いているかが 見えない、つまり一般的な病棟業務を考えましても、1人の主治医が何人もの患者さん を受け持って、何人もの看護婦に指示を出し、その看護婦がまたいろいろな患者の異質 の業務を同時にこなしている状況ですので、産業現場とかなり違うと感じられたようで した。  原子力も、航空業界も、マンマシンのシステムですけれども、マシンが非常に巨大で す。中央制御盤であったり、コックピットだったりします。そういう意味ではマシンの ほうを改善することにより、かなり防げる現場だと思うのです。ところが医療というの は、一つひとつの行為が非常に細かくて、同時発生をし、途中中断もよく起こります。 対象が患者さんであるがゆえに、黒田先生が何度か言われたワークロードが頻繁に日常 的に発生する現場でございます。そういう違いをご理解していただいた上で、私たちが 、皆様方から学んでいくために、どういうふうに研究を推し進めていかなければならな いのかという御示唆をいただけたらと思います。 ○森座長  これは難しいことで、あるいは我々自身で考えなければならないことかもしれません が、何かお言葉をいただければと思います。 ○黒田委員  大変難しい質問なのですが、我々のほうから見て大変不思議なことがたくさんありま す。確かに作業の内容が違うのですが、我々がなんの気もなしに使っている「情報」と いう言葉があります。「情報」というのと、「データ」というのはどこが違うのか。情 報は「なさけあるしらせ」と書いてありまして、データではないのです。情報がたくさ んあるというのは、それをいかに有効化するかという物の考え方、その中にはプライバ シーの問題があったり、いろいろな問題があると思います。「情報」という言葉をもう 一度考えてみていただきたいという気がするのです。それが、流れの中で目に見えなけ ればいけないのですよ。飛行機だと、管制官との間のいろいろな情報の中にはきちっと したシステムがあるわけです。  もう1つ「コミュニケーション」という言葉があります。コミュニケーションが難し いのは、まったく違った人に同じイメージを伝えるために話し合うからです。「コミュ ニケーションという言葉を簡単に使いなさんな」と我々は盛んに言います。コミュニケ ートというのがどのぐらいものかに焦点を当てた対策を講ずる。  もう1つは「教育訓練」です。この言葉も何の意味なしに軽い気持で使っています。 先ほどからお話がありますように、医療過誤は1年未満の人で起こっているケースがあ るというのはとんでもない話です。皆さん初心者から始まっていくのです。初心者がト ラブルを起こすとするならば、対策は熟練するまで事故を起こしてもいい、という許可 しかないはずです。それでなければ、初心者を削っていく以外に手はないのです。  要するに、初めてやる人がうまくないのは当たり前のことであって、それに焦点を当 てた教育訓練というものがなぜ行われないのですか。我々のところから見ると、そうい う大変な疑問があります。パイロットになり立ての人と、30年の経験のある人が同じ安 全性で飛行機を操縦していく方法は何かという問題について、医療の関係でもたくさん データが出ていると思います。そこの焦点をきちっと絞りながらやっていく対策がこれ からは非常に大事ではないかという気がいたします。 ○糸魚川参考人  一言だけ申し上げさせていただきます。確かに医療現場と原子力発電の安全というの は違うのですが、先ほど申しましたように共通性を探していくのがいいと思うのです。 そのときに医療現場ではチームをつくっていますし、我々もチームをつくって運転して いまして、相互におかしいと思えば言える雰囲気づくりが大切だと思います。そのこと だけは申し上げたいと思います。 ○森座長  私どもの仲間でも外国に留学して帰ってきてから話すと、その国と日本の共通点ばか りを話す人間と、違いばかり強調する人がいます。いずれにしても2つの国の人間がよ く話し合って、知識を交換したり、経験を交換し合うことは有益であることには違いあ りません。本日は、医療から考えれば別の世界の方をお二方お招きしてお話を伺ったこ とは、そこに共通点を見出そうが、差異に気づこうが、いずれにしても有益だったと感 じております。この点は、もちろん川村先生もご同意くださることと思います。  本当はまだまだ続けたいところですが、予定した時間になってしまいましたのでここ までにしたいと思います。1つご紹介したいのは、医療安全推進週間に関連し、日本看 護協会のほうでグッズをご用意くださったということです。岡谷委員からご説明くださ い。 ○岡谷委員  日本看護協会では、常日ごろから医療安全対策を心がけて活動していっておりますけ れども、特にこの安全週間は今年初めての試みでもあります。安全な医療を提供するた めの10の要点ということを、基本に立ち帰って医療関係者、特に看護職が意識をしてい くということで、クリヤファイルとか、胸に差せるような小さなボールペン、シールな どを作りました。病院の中で、看護職がこういうシールを体のどこかに付けて、病院内 で安全の意識を高めていくことに貢献してもらいたいということで、こういうグッズを 作っておりますので、是非活用していただきたいと思います。 ○森座長  ありがとうございました。次回の日程等について事務局からお願いいたします。 ○事務局  次回の日程については、12月14日の14時からお願いいたします。テーマは「医薬品医 療用具に関連した医療安全対策の推進について」等についてご議論いただきます。 ○森座長  本日は、お立ちになっている方もいらっしゃるほどたくさんの方においでいただきま してありがとうございました。医療の安全ということについて皆様方、多分の関心をお 持ちくださっているということがよくわかりましたし、私どももこれからできるだけの 努力をしてまいりたいと存じます。本日は、こちら側にいらっしゃる方々も、また、外 からお見えくださった方々も本当にありがとうございました。これをもって終了させて いただきます。 問い合わせ先 厚生労働省医政局総務課医療安全推進室 企画指導係 内線 2580