01/10/31 第5回医療安全対策検討会議 議事録      第5回医療安全対策検討会議 議事録 日時:平成13年10月31日(水)10時00分〜 場所:厚生労働省省議室 ○森座長  定刻になりましたので、ただいまから第5回医療安全対策検討会議を開会いたします 。皆様方、それぞれ大変お忙しいなか、こうしてお出かけいただきまして、ありがとう ございます。また本日は特に講師として4名の方をお招きしておりますが、何卒よろし くお願い致します。私が承っているところでは、本日のご出席は16名です。飯塚委員、 岩村委員、堺委員、長谷川委員、辻本委員が、それぞれ重要なお仕事などのためにご欠 席です。1〜2人、遅れている方もあるようです。また梅田委員は途中で退席されると 伺っております。  本日の議題は、教育、研修ということであると理解しております。医療安全対策に関 する教育とか研修と申しますと、これは医療従事者はもちろんのこと、場合によっては 社会一般に対する啓蒙も必要かもしれません。また、医療従事者に関する限りであって も卒前教育とか卒後研修とか、場合によっては生涯学習とか、そういういろいろな言葉 が実際に使われ、いろいろなレベルでの試みが行われています。  それらのすべてをカバーすることは時間の制約もあって無理ですから、決して他を疎 かにするというわけではありませんが、医師、看護婦の方たち、薬剤関係の方、一応、 その3領域に焦点を絞って、今日、お招きした講師からお話を伺うという段取りです。  今日、お見えいただいておりますのが、聖路加国際病院の副院長であられます石川陵 一さん、看護研修研究センターの所長でいらっしゃる丸山美知子さん、北里大学病院の 看護部長であられる小島恭子さん、そして最後になりましたが、昭和大学病院の薬剤部 長でいらっしゃる村山純一郎さん、この4名の方々です。これから順次、お話をお願い 致します。  いかがでしょうか。お1人、お1人について、ディスカッションいただくというのも 1つの方法ですが、相互にいろいろと関連した事項もおありかと思いますので、まず4 名の方々からお話を伺って、その後で一括して質疑応答も含めて、フリートーキングと いう段取りでよろしいですか。それではご異議なければ、こういうことで進めさせてい ただきます。まず事務局から資料の確認をお願いします。 ○新木室長  本日、お手元にお配りしております資料は3種類ございます。1つは座席表です。2 番目は、第5回医療安全対策検討会議議事次第という綴りから始まるものです。もう1 つ、村山先生から追加資料がございまして、昭和大学病院におけるリスクマネジメント という資料をお配りしています。お手元の第5回医療安全対策検討会議議事次第につき ましては、その後ろに資料1から4及び参考資料が入っています。  資料1として3種類です。資料1−1が研修医のリスクマネジメント教育について、 資料1−2は医療におけるリスクマネジメントと事故防止、資料1−3は聖路加国際病 院インシデント・アクシデント報告用紙の3種類です。資料2は、看護基礎教育におけ る看護・医療事故予防に関する教育状況と提言です。資料3−1が医療の安全を守るた めの教育システムです。資料3−2が継続教育の目標及びプログラムです。資料4−1 が医療安全に関わる薬剤師の研修教育です。資料4−2が病院薬剤師の研修教育活動で す。資料4−3が医薬品等の使用に関連した過誤防止に関する研究です。資料4−4が 病院実習の目標です。  参考資料としては2種類あります。参考資料の1は、医療安全対策ネットワーク整備 事業への協力についてです。これは以前もご説明しましたインシデントレポートにつき まして、このたび10月18日付で、その協力をお願いする通知を発出していますので、参 考資料として載せています。参考資料の2は、第3回医療安全対策検討会議の議事録で す。 ○森座長  ありがとうございました。例によってかなり分厚い資料ですが、お手元に行き渡って いますか。本日の検討課題は「医療安全対策を推進するために効果的な医療従事者の教 育及び研修について」ということで議事を進めてまいりたいと思います。先ほどご紹介 しましたように、まず聖路加国際病院の副院長でいらっしゃる石川さん、よろしくお願 い致します。 ○石川参考人  本日は、このような発表の機会を与えていただきまして、ありがとうございます。私 の病院でも特に研修医のリスクマネジメントに関しては、決して十分なものとは言えな い。まだまだ発展途上にある状態ではないかと思います。参考資料に沿って、スライド で説明させていただきます。 (スライド開始) ☆スライド1  「研修医のリスクマネジメントと教育について」という形で、まとめてまいりました 。発表の内容ですが、私ども聖路加病院での取組みをご紹介させていただきまして、そ れからアメリカの例を少し調べましたので、それもご報告させていただきたいと思いま す。  私ども聖路加病院の取組みに関しては、まず採用時のオリエンテーション、これは1 週間程度かけて、その中でリスクマネジメントについて講義を中心とした教育を行って います。アクシデント報告、これはどこの病院でも同じものだと思います。インシデン ト・アクシデント、あるいは状況報告ということです。さらに研修医のリスクマネジメ ントにおける問題点も幾つか考えてみました。事故防止の課題、さらにレジデントミー ティング、リスクマネジメント委員会、最後にモータリティーカンファレンスという、 幾つかリスクマネジメントの教育に関係しているところの事項を取り上げてみました。 ☆スライド2  最初のオリエンテーションですが、今年度は厚生労働省の科学研究の報告書−患者誤 認事故防止方策に関する検討会議の報告書−を採用して参考にさせていただいています 。内容は、医療事故防止に関する基本的な用語の整理、医療事故防止策の基本的な考え 方、横浜市大の事例を詳しく報告しています。基本的な用語に関しては、医療事故、い わゆるアクシデント、医療過誤、インシデント、エラー、誤認といったような、ごく基 本的なことから研修医に教育を進めています。  基本的には、ハインリッヒの法則、つまり1つの大きな事故の背景には29の小さな事 故がある。さらに、その背景には300のインシデントがあるといった、事故というのは 起こり得るものだという考え方で進めています。  医師の取組み方については、特にスタッフや患者さんと気軽に診療内容について質問 とか確認ができるような人間関係を充実させるように指導しています。指示に関しては 口頭はなるべく避けて分かりやすく指示をする。これもごく当たり前のことですが、さ らに医師が出した指示が適切に行われているか、それを見守っていくことも大切であろ うということを教育しています。横浜市大の事例に関しては、厚生労働省の出されてい る報告書を、なるべく忠実に発表して検討しています。 ☆スライド3  もう1つ、大阪府で出されている医療事故防止対策ガイドラインも採用しています。 こちらの項目は、医療事故防止に向けた対応と医療事故発生時の対応です。医療事故防 止に向けた対応では、患者さんへの対応は普段から信頼関係を保つように努力をする。 あるいは患者さんをお呼びする時も、名字だけではなくてフルネームでお呼びするよう にする。それから他部門への対応、特に医師からナースへの指示で、いつもと違った指 示の場合には特に注意を要するということ。  医師間の相互の対応についても、上級医が中心になって自由な発言や、治療方針に対 して建設的な議論ができるような雰囲気をつくっていく。自己の研鑽の対応というのも あります。これは自ら技術、知識を高めるということ。自己の力量を過信しないという ことがまとめられています。  事故発生時の対応についてですが、まずやることは患者さんあるいは家族への対応、 最善の処置をして、責任者への報告を早急に行う。必要があれば警察署への報告、ある いは保健所、関係行政機関への報告ということについてまとめています。 ☆スライド4、5  3番目が、私どもが病院の中の教育委員会としてまとめてやっているものです。これ は資料1−2に詳細を示しました。主にやっていることは研修医としての態度です。卒 業して医者になったばかりの人たちですから、まず自分の研修のためにということは捨 てていただく。自己中心的にならないように、患者さんを通して教えていただくという ような態度を、まずとっていただく。これは非常に大切なことだと思います。エレベー ターの中や廊下を歩きながらの、外来者、第三者にあらぬ誤解を招いてしまうような不 用意な言動は避けるように特に注意しています。現実にそういったことで投書を受けた こともあります。日常の診療では、いつも慣れていることでも確認は大切であるという ことを教えています。  診療録は、POSで記載することを原則としています。診療録でやってはならないよう なこと、たとえば診療録を自分のメモノートと間違えているような研修医が時々います 。感想文であったり反省文であったり、ひどい場合は連絡事項であったり、同僚あるい は上司との間の治療方針、その他の議論、誹謗中傷とも取りかねないような記載をする 場合があります。これは厳に慎むような教育をしています。特に第三者に見られても誤 解を受けないような、読みやすい記載を心がけるように教育しています。  診断書の発行に関しては、たとえば死亡診断書の記載の他、規定の用紙あるいは院内 書式で出すような診断書に関しても、最初のうちは特に診断名、治癒の見込み、症状固 定などで、はっきりしない場合には必ず上司、主治医に相談することを徹底しています 。私ども病院ではアテンディング制度を採用していまして、主治医と担当医とは異なっ ています。アテンディングというのは、入院、退院権の資格を持つ医師で副医長以上の 医師に限られています。ですから、それ以外の研修医の先生、研修中あるいは医員の先 生方が入院を決められても、必ず主治医のチェックを受けてから入退院を決定するとい う形で行っています。  医療事故発生時の対応についてですが、先ほどの厚生省の資料にもありましたように 、まず第1にやることは適切な対応処置をすること。その場で謝罪をしたり責任問題の 言及は避けるということ。適切な処置をした後、すぐに上級医あるいは主治医に報告し て対応を相談するということで進めています。  医療倫理問題ですが、これは院内の研修医に限らず、院内の医療従事者、職員全員に 倫理的に問題がある場合には、総務課の事務局に文書で提訴する、あるいは医療倫理委 員会のメンバーにも提訴していただいています。以前には、看護婦さんからお医者さん の対応について、こういったことでいいんでしょうかという形で提訴があり、倫理委員 会で討議されたこともあります。  研修医としてのマナー、エチケットも、私どもの院長は普段から非常に注意していま して、規律を感じさせるような服装を指導しています。はだしでサンダル履き、靴の踵 を踏みつけて歩く、手術衣を着たまま1日病棟に出る、汚れた白衣などは厳禁にしてい ます。  医療事故の事例ですが、実例から学ぶところというのは非常に多いと思います。古い 実例を個人が特定されないような形で出して、共に考え、共に学ぼうとしています。実 際、私どもの病院で起こった事例なのですが、お恥ずかしい話ですけれども、ご紹介し ます。 ☆スライド6  熱メスと言うのは電気メスのような形でメスになっています。切開時の出血を防ぐた めの電気メスのようなものですが、それの事故の報告が過去にありました。患者さんは5 0歳代の女性で、乳房の手術直後に腹部の火傷に気が付かれた。熱メスが通電した状態 で腹部に置いたままであったか、手術台から腹部に落ちたためだったのか、どちらかは っきりしませんけれど、とにかく火傷をされた。対処としては、執刀医は火傷の処置を して、退院後は本人に処置をするように指導したということでした。家族への説明では 、手術中の火傷であり、消毒、軟膏塗布により上皮化を促すようにする。次回、外来受 診まで処置を続けてくださいと説明しました。 ☆スライド7  その後の経過ですが、外来診察時にご主人と同伴されて、病院の対応に対してクレー ムをされてきました。熱メスがお腹に落ちるというのは、どういうことか。胸の傷が治 っても手落ちのためにお腹の傷が残っているではないか、元どおりになるのか、この先 も診療に通わなければならないのかと。 ☆スライド8  火傷の薬代も請求されている。こうして言わなければ病院として何の対応もしてくれ ないのか。本来ならミスがあった時は、すぐに院内の管理者に報告が回るべきで、然る べく対応がされて当然ではないかと。実は病院側に報告があったのは、このクレームさ れた当日でした。この後、院内の紹介医の誠意ある対応で、患者さんのお怒りはとりあ えず収まって、補償の話を進められたという非常に苦い経験を持っています。 ☆スライド9  問題点としましては、事故報告書が提出されたのは患者さんが外来へ来院した当日で あるということ。医師が故意に無視したのか、術中の火傷事故について何とも思わない ほど、問題意識を全く持っていなかったのかは非常に大きな問題で、医師のほうが深く 反省して、ここから学び取らなければならない事故であったと思います。手術は非常勤 の嘱託医と研修医で行われました。事故は紹介医である院内主治医には、全く報告され ていませんでした。このため治療費の減免といった措置がとられてない。お叱りを受け る状況になった状態です。 ☆スライド10  もう1つご紹介します。60歳の糖尿病の女性ですが、脳梗塞の精密検査入院中に、吐 き気止めの注射と誤って、他のあまり問題にならないものですが注射をされたようです 。事故発生時に看護婦が研修医に事故報告書が必要ではないかと話したところ、「この 1件は私に一任してください」ということであった。事故は上級医あるいは所属長、主 治医にも報告されずに、患者さんがそのまま退院しています。 ☆スライド11  事故発生から3週間後、患者さんが院内のよその科の診察を受けた時に、間違って注 射されたということを相談して事故が発覚しています。患者さんはその当時、意識が少 し朦朧としていたということですが、研修医と看護婦のやり取りをちゃんと見聞きして いたわけです。  病院が事故を確認してからどう対応するかというのが、非常に大切なことです。事故 発覚の当日、主治医、当事者、研修医、受け持ち看護婦、病棟婦長を伴って、患者さん のお宅に謝罪に行ってまいりました。 ☆スライド12  その後の処置ですが、医療事故隠蔽に関しては賞罰委員会が開かれて研修医の処分が 決まりました。故意に事故を隠すことは過失よりも厳しく処罰されることを忘れてはな らないことを、明確に示すことが重要です。 ☆スライド13  資料3にアクシデント報告書を示しました。患者影響レベル2以上のアクシデントは 事故後直ちに報告するか、あるいは当事者の勤務時間内に報告を、所属長を介して院長 へ提出する。この患者影響レベルに関しては、必ずしも聖路加病院のオリジナルではあ りません。皆さんの病院で使われているようなものです。レベル0というのは、間違っ た事は発生したけれども、患者さんには実害がなかった。レベル5というのは、事故が 原因で死因となってしまった。  レベル2以上、つまり事故により患者さんへの観察の強化の必要性とバイタルサイン に変化が生じたり、あるいは検査の必要性が生じた場合を、速報という形ですぐに報告 して院長まで伝わるようにしています。 ☆スライド14  インシデント・アクシデントの状況報告に関しては、その後に詳細、あるいはそれ以 下のニアミス、いわゆるインシデントですね。それについても、すべての報告を翌日ま でに所属長を介して院長に提出するシステムになっています。 ☆スライド15  研修医のリスクマネジメントの問題として、まず事故報告を特に医師はしたがりませ ん。看護婦さんのほうがもっとしっかり進んでいるように思いますが、マイナス評価を 非常に恐れているのではないか。また当事者のみの報告では本当の原因が何であるか、 分かりにくいことがあります。当事者が書く報告書なものですから、肝心なところがぼ けてしまっている。そういった意味では、複数の関係者から報告を出してもらって、多 角的な面からの原因究明が必要ではないかと思います。リスクマネージャーのような第 三者を中心とするような調査、聞き取りも当然必要だろうと考えています。 ☆スライド16  事故の防止の課題としては、まず事故防止の自己努力と言いますか、知識、技能の修 練を進める。事故防止のための教育、マニュアルの作成。さらに事故防止のシステムを つくる。個人の努力では何ともならない部分が多々ありますので、新しいルールづくり を進めていく。  事故というのは作業の引き継ぎ時に発生することが意外と多いようで、作業分担とい うのは、できれば必要最小限に押さえていくべきではないか。その中でもコミュニケー ションの重要性、気軽に声を掛け合えるような関係が大切です。看護婦さんがお医者さ んに向かって、こういうオーダーで本当にいいんですねと、普段から話し合えるような 環境づくりが、医師の側に強く求められているのではないかと思います。 ☆スライド17  あとは院内のリスクマネジメントに関係するようなミーティング、その他のご紹介を いたします。現在、前期研修医が、2年目までで40名います。後期研修医が41名、総勢8 0名います。レジデントミーティングは、特に前期研修医は院長直属になっています。 普段は各科ローテーション科の管理責任者に所属しているのですが、院長との直接対話 の機会を月に一度設けて、研修医の研修環境、寮の問題、カンファレンスの問題、すべ てを話し合う機会を作っています。この時にリスクマネジメント委員長が、前月のイン シデント、アクシデントの報告をまとめて、実例について詳細を説明するということで フィードバックを行っています。 ☆スライド18  リスクマネジメント委員会ですが、事故報告書の分析、対応策の検討、結果を部長会 、管理協議会、医師幹部会、レジデントミーティングで、院内のそれぞれの各層に行き 渡るような形でフィードバックしています。  メンバーですが、副院長・看護部長の方が委員長で、リスクマネージャーは専任の婦 長が1名です。医師は内科、外科、小児科、婦人科、麻酔科の5名、看護婦が2名、検 査技師の方が1名、ケースワーカー、事務のほうで2名ですが、1人は弁護士との連絡 係と相談係になっていただいています。 ☆スライド19  モータリティーカンファレンスは、研修医にまでは広がっていっていないのが現状で 、クローズシステムになっています。副医長以上の上級医、先ほど話しましたアテンデ ィングが参加してやるモータリティーカンファレンスで、これは副院長が毎月、交代で 症例を選択して司会を務める。その内容に関しては各科の出席者が、それぞれの医局に 戻って、彼らの言葉で更に研修医に伝えていただくという形を取っています。死亡症例 の中から医療レベルや医療倫理上、問題となりそうな症例、あるいは患者さん、家族と のトラブル症例を選んで検討しています。主治医からの経過報告とディスカッションを 行っています。 ☆スライド20  最後に、米国レジデントのリスクマネジメント教育について少し調べました。データ ソースは、ワシントン大学の内科の大学院在学中の種田先生、ユニバーシティ・カリフ ォルニア・サンディエゴ校の小児科のクリニカルフェローの斎藤先生、ノースカロライ ナ大学のリスクマネジメントについてはインターネットで調べました。 ☆スライド21  調査項目は、(1)研修開始前のオリエンテーションで、リスクマネジメントの講義が 行われているか (2)リスクマネジメントのマニュアルがあるのか (3)リスクマネジメ ントに関するカンファレンスが、定期的に行われているか (4)事故報告書はどのよう に処理されて、当事者へはどのようにフィードバックされるかの4点です。 ☆スライド22  リスクマネジメントの講義はワシントン大学、UCSDで行われていました。事故防止に 関する講義よりも、むしろ事故発生時の対応について、重点が置かれているようです。 ☆スライド23  リスクマネジメントのマニュアルは、三大学ともありました。ワシントン大学では「T he Risk Management Program」というのがあり、そのプログラムの終了時に16問程度の ミニテストがあって、終了者にヘルス・サイエンス・リスクマネジメントの認定証を交 付しています。ノースカロライナ大学では、レジデンシー・トレーニング・リスクマネ ジメント・ハンドブックというのが、インターネットでも見られるようになっています 。インターネット上でID、パスワードを入力して、プロフェッショナル・ライアビリテ ィー・イグザミネーション、これはレビュー・クエスチョンですけども、それを受ける ようなシステムになっているようです。 ☆スライド24  カンファレンスは、どちらの大学でも定期的に行われています。モービディティ・モ ータリティ・カンファレンスが月に1回の頻度で、行われていました。問題ケースを取 り上げて、問題点を明らかにし、次に生かすような努力がなされています。 ☆スライド25  ワシントン大学の実際の半年分のタイトルです。赤で記載したところは2カ所ともメ ディケーション・エラーについて、それ以外は、もうちょっとアカデミックな面が中心 になっています。こういったメディケーション・エラーについても定期的に取り上げて 、ディスカッションされているようです。 ☆スライド26  事故報告はどのように処理され、どのようにフィードバックされるかということです が、UCSDでは、特定のフォームでクォリティ・バリアンス・リポートというのを記入し て、クォリティ・マネジメント・アシュアランスに提出される。その後、第三者の特に 看護婦さんが中心のようですが、評価されて問題点、解決策や処分などが決定されて各 科にフィードバックされているようです。モービリティ・モータリティ・カンファレン スでも、何が問題であったかを明らかにしているようですし、多くの場合は当直明けで 注意が足りなかったとか、面倒くさがってやらなかった事が、後で大きな問題を引き起 こしてくるような症例を取り上げているそうです。 ☆スライド27  ワシントン大学でも、インシデント/アクシデント/クォリティ・インプルーブメン ト・リポートというのを、スーパーヴァイザーを介してリスクマネジメント・オフィス に提出しているようです。クォリティ・インプルーブメント・コミッティで、メディカ ル・エラーをレビュー、分析して、委員長が関連部署すべての職員にフィードバックし ているということです。 ☆スライド28  週刊医学会雑誌で、リスクマネジメントを隠すことは何もないと、現在、ボストン大 学の大学院の田中先生のリポートがありました。最良のリスクマネジメントとは、非常 に手厳しいのですが、医療者が傲慢さを捨てることであろうということです。 ☆スライド29  内容も少しご紹介しますと、現代医療で事故が大事に至るのは、個人のミスというよ りは組織のチェック機構が機能しなかったためということが多い。アメリカの消費者団 体では、入院したら自ら自分を守るために薬や処置について、いちいちお医者さんに質 問しましょうと呼び掛けをしているそうです。素人に何が分かるかという医療者にあり がちな傲慢さを捨てて、隠し事をしないということが最も大切です。 ☆スライド30  ミスは許されるけれども、嘘は弁明の余地がなくなっていく。どんなに動転、狼狽し ていても嘘だけはついてはいけない。過失だけとは比べものにならないほどの厳しい処 置が取られる。多くの病院では服務規程で、虚偽の記載報告、陰蔽工作などをした医者 には辞職を勧告すると定められているそうです。 ☆スライド31  大切なことは、事故の防止努力と、起こった時の対処の仕方、ミスを起こし得ること を謙虚に認め、心から謝罪し、それから学ぶということが最も大切であるということで す。以上です。ありがとうございました。 (スライド終了) ○森座長  ありがとうございました。皆様方、いろいろとご質問もあろうかと存じますが、先ほ ど申しましたように、まず、4名の方々から続けてお話を伺いたいと思います。次に、 看護研修研究センターの所長であられる丸山さん、お願い致します。 ○丸山参考人  看護基礎教育における看護・医療事故予防に関する教育状況と提言を行わせていただ きます。私が所属する看護研修研究センターは、全国の看護教員の養成と、看護教育に 関する研究を行っています。今回、報告する教育状況は、厚生科学研究費の特別研究事 業によって行いました調査結果に基づくものです。 (スライド開始) ☆スライド1  今回、提言内容としまして4つほど考えました。1つ目は看護・医療事故予防に関す る看護基礎教育カリキュラムの試案です。2つ目が卒後教育、3つ目が看護・医療事故 予防に関する教育方法の検討、4つ目が看護教員に求められる能力、について提言させ ていだたきたいと思います。  まず提言内容に入ります前に、日本における看護基礎教育の現状というものを、お話 させていただきたいと思います。  私どもはこういった調査をする前に、過去10年間の看護学校・養成所が使用している テキストについて、事故防止あるいは医療過誤について、どんな内容で記述しているの か分析・検討をしました。その結果、安全を守る技術については、看護婦自身への注意 の喚起ということに非常に重きを置いており、その延長線上として、看護の責任あるい は看護の倫理観を強調しているものが主です。また、これまで看護・医療事故は、褥瘡 裁判など、主に裁判あるいは訴訟を通して捉えてきています。そして、事故は確かで正 確な技術を行えば予防ができるという前提で技術教育を重視して行ってきたと思われま す。  次に教育方法ですが、看護の専門分野毎に各看護教員が事故予防について教育をして おり、必ずしも事故予防に関する教育を整理し系統立てて行っていないというのが現状 だと考えます。  しかし、現在、事故に対する考え方が個人の責任志向から原因志向に変わっています し、人はエラーを犯しやすい存在であるということが認識されるようになってきており ます。このような状況を踏まえて、やはり看護基礎教育においても、新しいパラダイム を模索すべきではないかということで、私どもは検討しました。 ☆スライド2  この図1は看護・医療事故予防のための能力を育成するには「安全文化」を基盤にし て、「倫理」に関する能力、「判断」に関する能力、「技術」に関する能力、これらの 能力が総和されて、「安全な看護の実践力」が成立するという概念枠組みを考えました 。  事故予防として特に求められる「判断」に関する能力として、6つの能力を挙げまし た。1つ目は、対象の情報から医療事故につながる危険因子を査定する能力、2つ目は 、看護行為をすることで、あるいはしないことで対象に与える危険性を予測する能力、 3つ目は、医師の指示あるいは看護計画に対して批判的に思考する能力、4つ目は、看 護行為をする上でジレンマを感じた時に勇気を持って発言・主張する能力、5つ目は、 看護行為の安全性、効果、方法を実行し、評価する能力、6つ目は、危険を回避するた めに看護行為の優先度を決定する能力です。  次に「倫理」に関する能力として5つの能力を挙げました。1つ目は、対象が不利益 を被らないように、対象の人権を守り代弁する能力、2つ目は、対象が自己の感情、考 え、意思をスムーズに表現できるように支援する能力、3つ目は、対象が受ける治療、 処置に伴う有益性あるいは危険性について説明できるようにする能力、4つ目は、対象 に不利益な状況が生じている場合に、対象に情報提供ができる能力、5つ目は、看護を 実践する前後に生じた疑念あるいは誤りについては、隠さずに正直に言える能力です。  次に「技術」に関する能力として、1つ目は、確実な技術の習熟、2つ目は、自分の 考えと行動を知り調整する能力、つまり自己モニタリング機能を働かせる能力をあげま した。以上のように看護・医療事故予防のための能力として、これらの能力が育成され る必要があります。  全国の看護学校・養成所の看護教員の先生方に対し、これらの能力に対する認識と、 その教育の実際について調査をしました。准看護学校・養成所を除く大学、短大、養成 所941校でそのうち、426校の回答がございました。調査結果について簡単に説明させて いただきます。 ☆スライド3  まず「判断」に関する能力です。「判断」に関する能力で重要と認識している能力を 上位3つ、そのうち最も重視し教育している能力を1つ、卒業時到達が困難と考える能 力を上位3位を、それぞれ選択していただきました。 ☆スライド4   その結果、判断に関する能力についての教員の認識ですが、「批判的に思考する能力 」、あるいは「発言・主張する能力」「優先度を決定する能力」は重要度の認識が低く 、教育の実施率も低く、卒業時点での到達が困難であるとにんしきされていることが分 かりました。 ☆スライド5  次に「倫理に」関する能力に関する教員の認識ですが、「情報提供ができる能力」は 重要度の認識が低く、教育の実施もなく、卒業時の到達も困難であると認識されていま した。なお、「人権を守り代弁する能力」あるいは「有益性、危険性を説明する能力」 は重要だと認識はされていますが、卒業時点での到達度が困難であると認識されている ことがわかりました。 ☆スライド6  次に、これらの能力に関して、どういう教授形態あるいは教材活用がなされているか ということをレーダーグラフにしました。「判断」に関する能力の教授形態は講義が中 心で、次いで実習が多く思考訓練や疑似体験が少ないという状況です。 ☆スライド7  次に教材活用ですが、市販のテキストが中心で、次いで事例を教材にしているがビデ オの活用が非常に少ないのが現状でした。 ☆スライド8  同じように「倫理」に関する能力の教授形態は講義中心で、次いで実習が多く、思考 訓練や疑似体験が少ないのが現状でした。 ☆スライド9  次に教材活用ですが市販のテキストが中心で、判例あるいはビデオによる教材が少な いのが現状でした。 ☆スライド10  次に技術に関する能力について説明させていただきます。看護技術におきまして、リ スクの要因あるいは判断ができるためには、ミスを犯しやすい箇所や状況に対する理解 が必要です。つまりエラー要因を起こす要因の教育が必要だろうと思います。今回は与 薬について述べたいと思います。  なお、「与薬」のエラー要因としては、川村治子先生の文献を参考に5項目の要因を 取り上げました。(1)患者誤認、(2)薬剤名、(3)薬剤量の間違い、(4)与薬方法・日時、( 5)与薬速度等の「間違いを起こす要因」に関する教育は、9割以上の学校・養成所で教 えておりました。 ☆スライド11  次に「与薬」のエラー要因の教授形態は「判断」や「倫理」に関する能力の場合とほ ぼ同様に、やはり講義が中心で、思考訓練、疑似体験は少ないのが現状でした。 ☆スライド12  教材活用も市販のテキストが中心で次いで事例でした。学習体験事例、事例が少なく 特にビデオが非常に少ない状況でした。 ☆スライド13  これらの調査結果を踏まえまして、看護・医療事故予防に関わる看護基礎教育のカリ キュラム試案について述べたいと思います。最初に示しましたように、新しいパラダイ ムを模索する方向で、判断、倫理、技術という観点から、特に事故予防に求められる能 力と教育の現状について述べさせていただきました。  これらの能力育成を、どのようにカリキュラムとして考えていくのかということを、 試案段階ですがお示しします。  最初に看護基礎教育の事故予防に関するカリキュラムの基礎分野、専門基礎分野の学 問として、認知心理学あるいは行動科学、人間工学、安全学、環境学などを位置付けま した。  縦軸に、事故予防の中で特に必要な能力として基礎教育、あるいは後で述べますが、 卒後教育の中でも深めていく能力として全部で5つを挙げました。(1)意思決定能力、(2 )オートノミー、(3)安全、(4)技術、(5)安全な看護の実践力としました。  意思決定につきましては、批判的思考あるいは状況判断、行為の選択のレベルがあり ます。オートノミーは調査結果の卒業時到達困難な能力を見ても重要である、相手の立 場にたつ、あるいは相手の話を引き出すということや、共感、人権擁護、そして自己コ ントロールが必要です。安全ということでは危険情報を収集し、査定するとともに、危 機を予測し、回避する必要があります。技術には、確実な技術と自己モニタリングでき る能力を育成する必要があります。そのためナレッジベース、ルールベース、スキルベ ースレベルがあります。初学者レベルから、習熟というレベルにまで深めていくという ことが求められています。これらの能力を統合して、場の状況や患者個々の状況に適用 ・活用ということが可能になります。つまり、安全な看護の実践力が育成されると考え ました。  なお当然ながら看護・医療事故予防に関して、基本的に知っておかなければならない 知識を、横軸に挙げております。看護・医療事故の概念、ヒューマンエラー、看護の倫 理、看護の責任と責務、看護・医療事故の種類と発生要因、看護・医療事故の予防と看 護の方法論、発生時の対処、安全のシステムを挙げています。  次に提言の2つ目として卒後教育についてです。今、看護基礎教育のカリキュラムの 試案の中でも述べましたが、卒後教育では、これら5つの能力の意思決定、オートノミ ー、安全、技術、安全な看護の実践力を卒業後も、ずっと生涯、これらの能力を追求し ていく必要があろうと思います。  特に卒業時の到達が困難だと認識されている能力、例えば「判断」に関する能力では 、「批判的に考える能力」「発言・主張する能力」「優先度を決定する能力」、また「 倫理」に関する能力では、「有益性・危険性を説明する能力」「情報提供ができる能力 」「人権を護り代弁する能力」は、卒後教育の中において体系的に強化していくことが 重要だと考えます。  特に倫理に関する教育は、看護基礎教育では重要性は認識されていても、実施状況は 低いことから、卒後教育での比重は高く、教育内容や方法の開発を急ぐ必要があると思 っています。  提言の3つめである教育方法です。先ほどレーダーグラフで示しましたように教育方 法は講義中心で、思考訓練や模擬授業といったものが、あまり実施されていませんでし た。これらの調査結果の理由として考えられることは、まず1つは、看護教員が事故予 防について何を、どのように教えるかということ自体が、まだ明らかになっていないか らではないかということが1点目です。またビデオやシミュレーションも含めまして、 事故予防に関する教材の開発がまだ十分になされていないのではないかと思います。そ の結果が看護基礎教育の中においても表れていると思います。  そこで、幾つかの提言をさせていただきたいと思います。1つ目は事故予防に関する 能力を養成するには、医療事故の状況を、より具体的にイメージする必要があろうかと 思います。事故の重大さ、危機感を体感するとともに、自分のこととして考えていくと いう教育方法が必要ではないかと思います。2つ目はまた判断や倫理に関する能力は、 講義中心の知識伝達では限界があります。臨地実習あるいは疑似体験、思考訓練の演習 が必要です。その際に教材として、ビデオ、事例、学習者自身の体験事例などを活用し た教育が必要だろうと考えています。  3つ目として、また技術教育におきましても、現実感を持って学習できるようなもの 、そして学生自らがヒヤリハットによる学習体験事例などを基に、自らの認知行動のモ ニタリングができるように育成する必要があると思っています。をすることができるよ うな育成が必要なのではないかと思っています。特に自ら事故を起こす存在であるとい う認識と事故予防するための行動変容するためには、シミュレーションを使った教育方 法開発を、今後、さらに促進していかなければならないと思います。 ☆スライド14  最後の提言である看護教員に求められる能力について、お話をしたいと思います。看 護教員に求められる能力は、これまで話してきたことを中心に、そしてもう1つ、私ど もは190例の看護に関する事故事例を選択して質的・機能的に分析して看護・医療事故 の構造に関する内容分析を明らかにしました。そして事故防止のために、どういう教育 内容が必要なのかを検討してきました。  その結果、看護教員に求められる教育内容として図に示しました能力が抽出されまし た。(1)「看護・医療事故の概念」ということで、事故自体を、どう捉えていくのかと いうことについての教育や、(2)「人間の行動とヒューマンエラー」ということで、人 間の認知機能とメカニズムはどうなっているのか、あるいは行動の不確実さについて教 育をしていく必要があるのではないか。  それから(3)「安全文化」については、先ほども話しましたが病院という特有な文化 というものを、どのように考えていくか。安全とは、また、人権、安全の価値づけとい うことを教育していく必要がある。  (4)「看護・医療事故の分析法」では、看護の分野では事故についての研究が少しず つなされてきていますが、看護事故の分析方法として適切な方法を研究し、理解すると ともに、分析をする能力が必要ではないか。  (5)「看護医療事故の種類と構造」では、事故の分類と事故がおきる原因・背景は何 なのかその構造を明らかにする能力が必要である。  (6)「看護・医療事故を予防するための方法」では、安全を護る知識や技術、あるい はシステム管理に関する知識・技術が必要である。  (7)「医療事故発生時の対処」では、事故に対する対処(判断・行為)事故からの学 びなどは教育内容としては必要と考え、7点を挙げさせてもらいました。  看護教員に求められる能力についてまとめますと、看護事故予防について、どのよう に教育をしたらよいのか、そのための教育方法はどうあったらよいのか、教材活用はど うしたらよいのかといったことを、明確な意図を持って選択できるような能力が、非常 に求められていると思います。時間が限られておりますので、これで終わりたいと思い ます。 (スライド終了) ○森座長  ありがとうございました。続いて、北里大学病院看護部長の小島さんからお願い致し ます。 ○小島参考人  本日は、「医療の安全を守るための教育システム」ということで、特に私どもの病院 で展開しております北里大学病院の看護部卒後教育の中のレベルIの「新人教育」を中 心にご紹介させていただきたいと思います。 (スライド開始) ☆スライド1  私どもの病院の概要をご説明いたします。病院の理念は、「患者中心の医療」という ことでして、これは私どもの病院が開設したときから大切に育んできた理念です。 ☆スライド2  特定機能病院です。病床数は、ただいまは1,069床で、平均在院日数は17〜19.5日ぐ らいで推移しております。看護職員数は、保健婦・助産婦・看護婦で827名ということ ですが、これは多少動きます。看護単位は全部で38看護単位あります。大変巨大な組織 です。看護の体系ですが、新看護体系の2:1Aというところで進めております。 ☆スライド3  それでは、次に継続教育の中の位置付けについてご紹介させていただきます。私ども の病院は、卒業して新卒者がまいります。この人たちを一人前に育てるために、多くの システムを入れております。 ☆スライド4  これは継続教育を卒後教育と現任教育に分けており、卒後教育は大学院で修士、博士 課程で行われるもの、教育機関としては日本看護協会や厚生労働省等で長期に渡って行 われる教育と位置付けております。  現任教育(inservice education)ですが、院外での教育と院内の教育に分けていま す。院外の教育では、日本看護協会の主催、あるいは厚生労働省の主催、文部科学省の 主催といったように、2週間とか1カ月、あるいは2日、3日といったさまざまな研修 やセミナーがありますが、そういうものを含めています。  院内教育は、特に現任教育の中では力を入れていますが、病院全体のもの、看護部だ けのもの、あるいは病棟単位、看護単位に限定しているもの、いろいろなものを組み合 わせてあります。  次にご紹介するのは、私どもの現任教育の組立てです。現任教育の組み立てで、私ど もが特に院内教育の中で力を入れているのはこの3本の柱です。特に新人教育ですが、 毎年100〜150人ペースでの新採用者を採用しますので、新人教育が大きな柱の1つです 。もう1本は、現任の教育ということで、新人教育をレベルIと位置付けてありますが 、レベルII、レベルIII、レベルIV以上の、それから非専門職も含めて現任教育を大き く位置付けています。もう1つの柱は、看護研究という柱です。これは研究者になるわ けではありませんが、職場の中でたくさんの疑問点、課題が出てきたときに、それを研 究的にアプローチして課題を解決していく。そして英知と実践が行き来をすることで真 の実践を進めていくといった観点で強化しており、この3つの柱を日々大切にして展開 することを組み立てています。 ☆スライド5  次にご紹介するのは、「臨床実践能力習熟段階」です。梯子をだんだん昇っていくと いうことでクリニカルラダー制度ということもあります。これはパトリシア・ベナーの 習熟モデルをベースにしています。新人(Advanced Beginner)、一人前(Competent) 、中堅(Proficient)、達人(Expert)という段階を、それぞれレベルI、レベルII、 レベルIII、レベルIVというように対応させ、クリニカルラダーの習熟段階のシステム をつくっています。  資料3−2に私どもの「継続教育の目標とプログラム」をご紹介していますのでご覧 ください。レベルI、レベルII、レベルIII、レベルIVは、いまのような考え方で設定し て、それぞれの到達目標が書いてあります。  まずレベルIは、大きく申し上げますと、ガイドラインなど、さまざまな手順を見な ければ何もできないといった段階です。レベルIIになりますと、だんだん自分で判断が できて、やっていけるようになります。レベルIIIは、かなり自己判断でモデルになる ような仕事ができていく。レベルIVになりますと、瞬時にしてその場に立って、さまざ まなことを統合して判断して行動できるということです。レベル別研修の項目の桝の中 に1、2、3、4と書いてありますが、1がいわゆる看護実践の側面です。メンバーと して、リーダーとしてという組織的なこと、管理的なことの側面が2になります。3が 教育的なことで、どういう学習を積み重ねていくかということです。4は研究的な側面 で、課題に研究的に取り組む。そしてその英知と実践を結び付けて行動していく。いず れの段階もこうした側面を持っています。  レベルIからII、III、IVとラダーを上って、IV以上になると管理職、あるいは専門職 の領域に進んできますので、管理職にはマメージメントのラダーを作ってあり、主任、 婦長、課長、部長となってきます。専門職のほうの領域はCNSや、そのほかの認定看 護士や北里の中で育てている専門看護婦等がそこに入ってきます。このようなことを教 育の目標とプログラムで組んでいます。 ☆スライド6、7  それではまたレベルに戻ります。次の資料に移りますが、これは私どもの現在のクリ ニカルラダーのレベル別の構成です。これはスタッフの比率ですので、いま申し上げま したように、婦長以上、あるいは部課長以上は含まれておりません。レベルIが16%、 レベルIIが49%、レベルIIIが25%、レベルIVが10%という構成です。レベルIIという のは一人前ですから、一人前がいちばん多い。中堅が次に多く、その次には新人のレベ ルIが多く、達人のエキスパートが10%です。その上にさらにCNSあるいは婦長・主 任がいるといった考え方でご覧にいただければと思います。  次は、基本となる臨床看護実践能力の習熟段階です。いま申し上げましたようにレベ ルIからレベルII、レベルIII、レベルIVと設定しており、さらに領域は看護実践の側面 、管理の側面、教育の側面、研究の側面ということです。このレベルのフォーマットが 基本になりますが、例えば、レベルIを縦に見てみますと、看護実践では指示や手順や ガイドに頼らなければ何をすることもできません。基本的実践能力の育成と管理的側面 ではメンバーの役割の習得、教育的側面では研修を通して知識を深めていくということ です。最後の研究的な所は、院内で行われているさまざまなプログラムに自発的に参加 し、研究的発想を身につけて、日常実践にある課題を研究的にどう解決できていくのか といったことを見てまいります。  レベルII、レベルIII、レベルIVは、そこにご紹介してあるとおりですが、レベルII になりますと、意志決定ができ、レベルIIIになると、ロールモデルをすることができ 、レベルIVになると教育的な役割ができるようになります。  管理では、メンバーの役割がIでできますと、IIでは看護のチームの中でリーダー的 な役割がとれていきます。次は医療チームの中のリーダーシップがとれていき、最終的 には管理行動がとれるというようにしています。  教育に関しては、院内での研修で知識を深める。IIになると、院内だけではなく、外 に出掛けてまた研修をして実践に活かしていく。IIIになると、後輩や学生の指導がで きるようになっていき、IVになると自分の属している病棟なり単位の教育指導ができる ようになっていきます。  研究的なところでは、だんだん自分で研究に取り組むようになってきて、IIIになる と研究を実践して、看護が深められるようになっていきます。IVになると、研究を開発 したり、実際に変革を推進するというようなところを狙って、これを基本に据えていま す。 ☆スライド8  レベルI、新人の研修ですが、看護部、中央における教育と各病棟における個別の教 育と大きく2つに分けています。看護部においては、新採用時のオリエンテーションと 1カ月目、3カ月目、6カ月目としております。なぜ1カ月なのかと言いますと、1カ 月目は最も混乱をし、戸惑っている時期なので、それを表出してもらって、フォローア ップします。また、入職時の技術チェックを行っておりますので、苦手なところはプリ セプターがよく押さえていくような仕組みになっています。  3カ月というのは、非常にリアリティーショックの強い段階で、技術、知識、学校で 学んできたことがうまくできないために、ショックを受けて落ち込んでいる時期です。 この時期に丁寧に問題整理を援助することで、大変勇気を得て、また活き活きと活動で きるようになってきます。  次に、自分で判断してだんだん動けるようになってくるのが6カ月目ぐらいです。こ こでも適応状況を見て、フォローアップしていきます。  一方、各病棟では新人を支えるためにプリセプター制度を導入していますが、このプ リセプターが安全を守るために指導者としてかかわってまいります。あとでご紹介させ ていただきます。 ☆スライド9  次は、私どもの「平成13年の新採用者の看護職員の教育背景」です。今年は126名の 新採用者ですが、大体100〜150人ペースで採用しています。もう1つ700mぐらい離れ た所に東病院がありますが、そこも合わせると、大体150人、あるいは200人近くの新採 用者を採用しています。グラフで示しましたように、私どもは4年制大学の卒業生が62 %、75名ですが、そのほか3年制の短大の卒業生が16%で19名、3年制の高等看護学院 の卒業生が14%で17名。2年制の短期大学の卒業生が4%、5名、進学コースという学 校がありますが、進学コースの2年制、3年制の卒業生が4%、5名ということで、さ まざまな教育のバックグラウンドを持った方たちが入職してきます。それぞれに合った 教育を展開して、安全を守ることに教育システムを絞って進めております。 ☆スライド10  次は、「新人ナースの到達目標」です。臨床の実践の中でいちばん大事なことは、日 常生活の援助ができるということです。ベッドサイドケアが安全であるために、知識、 技術、態度を身に付けることを、到達のいちばん大切なところに据えております。  次は、チームメンバーの役割と責任が果たせる。3点目は、院内教育と看護実践を通 して看護の知識を深めることができる。最後は、院内研究発表会に参加する。これも先 ほどのラダーの実践の側面、管理の側面、教育の側面、研究の側面に全部対比させてい ます。 ☆スライド11  次は、「新人ナースの1カ月目の研修」です。特に、報告・連絡・相談の必要性に力 を入れています。いずれのレベルでも重要ですが、これが不十分であるためにリスクが 回避できないことが多くありますので特に強調しています。そしてそのために対等にコ ミュニケーションを行う能力をトレーニングするプログラムをおいています。  私どもの病院は大変オープンな組織風土を持っており、各職種間、あるいは部門間、 年代を超えて自由に話し合う雰囲気を育んでまいりました。そういう雰囲気に早く慣れ て自由に報告・連絡・相談ができるような文化をつくる人間になっていくのだという教 育をしています。そのほか、麻薬・向精神薬の基礎知識がないために、トラブルが発生 することがありますので、基礎知識、あるいは管理の重要性を指導していきます。  また、器械等の取り扱いも大変難しくなっていますので、具体的な使用・管理方法な どを指導しています。  感染症は、基礎知識、あるいは針刺し予防、正しい手洗いの仕方といったものも教え てまいります。心肺蘇生法は、救命救急センターに認定の救命救急認定看護師がいます ので、そういう専門家から効果的な指導を、まず1回聞くということです。 ☆スライド12  次は、「新人ナースの3カ月目研修」ですが、リアリティーショックのいちばん大き いときで、このときには、いまどういう気持でいて何が分からないのかをよく出し合っ て、強化項目を明らかにしてまいります。  当院では、北里看護業務量測定システムを用いて、リリーフ体制をとったり、人が非 常に少なくなっている所や、危険な所は、夜勤婦長が人を回すということを行っていま す。そのためにリアルタイムに忙しさを全部入力していますので、システムの全容も含 めて、そういったことも教えています。  次は、専門家を頼んで、医療人として社会人としてのビジネスマナーを身に付けても らっています。  最後に書いてあるTA-PACKシステムというのは、交流分析のエゴグラム理論に基づい た性格分析のシステムです。事故の傾向を知って、チームの中でいかに自分が発揮でき るかということのために便利に行うものです。 ☆スライド13  次は、「新人ナースの6カ月目のメンバーシップ研修」です。自分が所属している職 場の目標を理解しながら、チーム活動の中で必要なメンバーシップを発揮できるように ということと、チームメンバーとしての自己の課題が明らかになることを狙って進めて まいります。 ☆スライド14  次は、今度は個別の病棟で行われる教育です。これは「プリセプター制度」を入れて おります。1人のプリセプター、つまり指導者はレベルIIIの中堅を当てていますが、 その中堅者が1人の新人、プリセプティーを教育するということで、プリセプターの固 定期間は4月の入職時に配属してから2週間ぴったり、夜勤に入るときに2週間ぴった り、随時1年間にプリセプターとプリセプティーが相互に安全を確認しながら業務を遂 行します。 ☆スライド15  次は、「新人ナースたちに特徴的なインシデントは何か」ですが、3つあって、報告 ・連絡・相談のミスが多いのです。これは患者さんを見ても、報告していいかどうかが 分からない、優先度も分からない。それをそのままにしておく危険があるため、プリセ プターとか先輩たちがそれを見て、幾重にもそこを押さえて安全を管理していくわけで す。  点滴管理のミスというのは、器械の管理や、複数のルートを管理できない、また体位 交換をすると逆流をしたり、滴下速度が変わりますが、そういったことでインシデント を起こす。もう1つは、針刺し事故です。患者さんに処置をした後の針には、もう一度 キャップをすると危険なので、戻さないようにということで、廃棄用の用具を持ってい くわけです。ところが非常に不器用ですので、この針を自分に刺してしまう。そうした ことが起こらないように教育しています。 ☆スライド16  「新人ナースの医療事故の背景」ですが、大きくはAに書いてありますように、知識 の不足。次はBの技術の不足、Cがコミュニケーション能力の不足です。知識の不足に 関しては、たとえば疾患、治療・処置、使用されている薬も分からない。技術不足は、 特に点滴管理などは基本的なこともうまくできない。コミュニケーション能力の不足で すが、これは患者さんにいろいろなことを質問されても立ち往生して答えられない。い ずれも当然のことです。報告・連絡・相談も重要性が分かりません。そして分からない 者同士で、相談していますが、それは大変危険です。必ず上位者に相談をするようにと 指導をしています。 ☆スライド17  A、B、Cに対してプリセプターが押さえ、安全を確保していくわけですが、新人だ けが一生懸命なわけではなく、むしろ指導者側が大変な負担を強いられています。新人 をプリセプターが大きく支え、先輩ナースが支え、なおかつ、婦長・主任が支え、専門 看護婦が支えるということで、幾重にも幾重にも守って、患者さんに安全に医療・看護 を提供するようにという地道な努力をしております。  とにかくリスクの回避に非常に努力しておりますが、一刻の油断もできません。。 ☆スライド18  院内にはたくさんの専門看護婦がおります。修士卒のがん看護専門看護師とか、がん 看護を卒業した修士の人たちが専門性を深めております。救命救急の認定を受けた者、 あるいは重症の集中ケアの認定を受けた者、あるいはWOCというのは褥瘡とオストミ ー(人工肛門)、失禁(CONS)の認定を受けた者、北里独自でハートセンターをつ くっていますので、循環器の専門の看護婦、あるいは感染の看護婦、東病院にある神経 難病の専門看護婦というように、すべてカリキュラムを作って育てたものですが、院内 については、そのようにして専門看護婦が至る所に、要所要所に配置され、予測する問 題点を見付けながら、安全確保に努めています。 ☆スライド19  私どものOCNS(oncology clinical Nurse)は、がん看護専門看護師ですが、一 端をご紹介させていただきたいと思います。がん性疼痛のある患者の例でOCNSは何をし ているかですが、薬に関して、まず痛みの強さ、頻度、性質、時間、変化、リズム、あ るいは患者さんがその痛みをどのように表現しているかなどから、痛みのアセスメント をいたします。当然それらには裏付けとなる知識や視点が必要になってきます。鎮痛剤 のアセスメントも、薬剤の種類であったり量であったり、投与の経路は適切なのか。あ るいは服薬のアセスメントでは、剤形そのものは果たして適切なのか、あるいは服薬時 間、生活サイクルの関係は適切なのか。観察は、そのあとの効果はどうなのか、副作用 はないかなどを見ていきます。それと患者の治療への参加支援ということで、患者さん の力をもっと発揮してもらいながら、鎮痛薬に対する認識、あるいは信念、患者さんの お考えを伺いながら、参加してもらい、治療していきます。最後に掲げているのは、医 師も含めた医療チームの調整で、これはさまざまなチームメンバーの方針、意見、役割 、衝突を起こしますので、そういったものをマネジメントしたり、調節したりというこ とを行っています。  専門看護師たちはあらゆる場面で患者の安全を守るポイントをしっかり把握して、質 の高い看護の提供を行っています。情報提供をよくすることによって、患者さん、ある いは家族の満足度を高めることも可能になります。 ☆スライド20  最後に提言をさせていただきたいと思います。5点掲げてあります。まず1つは、卒 前(基礎教育)と卒後教育の連携です。 これは技術教育の中に臨床現場でいま行われ ている実践なども見たり聞いたりすることで、リアリティーショックが少なくて済むの かもしれませんが、いずれにせよ、卒前教育と卒後教育の連携が非常に大事になってき ます。  2つ目は、基礎教育に医療の安全に関する教育とかリスクマネジメントのことを取り 入れるという提言です。リスクマネジメントの講義をしますと、看護学部の学生たちは 非常に興味深く、大変質問も多く、活き活きとした授業展開になってきて、この力は何 なのだろうと思っています。レポートの提出をしてもらいますが、何かうれしく、喜び で活き活きと書いてくるという感想を持っています。リスクマネジメントと倫理的問題 は重なることが多くありますので、非常に興味深く聞いてもらえます。  次は、新人教育の指導者の確保です。実は私どももレベルIIIの中堅の者たちも、た くさんの厳しい業務を遂行しながら、新人教育を行っていくわけです。その負担は大変 大きく、苦労して安全を守っております。できればここに指導者を各看護単位に1人ぐ らい確保できるような予算化の検討をしていただければ、なお有難いということで提言 させていただきたいと思います。なお、指導者の確保では、看護学部の教員と継続教育 について協力し合っていくという姿も今後検討していかなければならないと思っていま す。。  4点目は、専門看護婦の診療報酬上の評価です。いわゆる専門看護婦については、ま だ診療報酬上で評価をいただいておりません。雇用のためには診療報酬上の評価をいた だくことが、とても重要になってきます。専門看護婦の導入は、ひいては患者さんの安 全を守る看護の質の向上、あるいは医療の質の向上に寄与することに結び付いていくの ではないかと、日ごろ強く思っております。  最後の提言ですが、科学的根拠に基づいた卒後の継続教育システムを構築することだ と思います。そのシステムを活かしながら、継続教育のプログラムの徹底を図っていく ということで、その中には安全教育がしっかりと組み込まれていることが大事だろうと 思います。  最後に私どもの継続教育に関するガイドブックを持ってまいりましたので、もしよろ しければご覧にいただきたいと思います。ご清聴ありがとうございました。 (スライド終了) ○森座長  ありがとうございました。大変興味深いお話を頂戴いたしました。それでは、最後に なりますが、昭和大学病院の薬剤部長でいらっしゃる村山さんからお願いいたします。 ○村山参考人  本日は「医療安全に関わる薬剤師の研修教育」ということでお話をいたします。最近 のマスコミ等で医薬品にかかわる医療事故は、大体30%ぐらいという報道が多いと思い ます。その防止を薬剤師の卒後研修に焦点を当てお話させていただければと思います。  その根本として、薬剤師が医療人としての知識・技能・態度を、日常の業務の中で、 いかに自己研鑽するような意識向上を図るか。それを目的として研修を進めているのが 現状です。 (スライド開始) ☆スライド1、2  現在の薬剤師の卒後研修をお示しします。まず、日本薬剤師会、病院薬剤師会による 薬剤師の研修会が、年1回、あるいは2回ありますが、地方では、ほとんど毎月やって いるという現状です。各医療機関独自の実務研修制度。3番目に厚生労働省が行ってい る卒後薬剤師実務研修制度で、Aコースとして病院10カ月、薬局2カ月、Bコースとし て病院2カ月、薬局10カ月で1年間の実務研修です。この中に実際の医療事故に関する 教育も最近は取り入れています。 ☆スライド3  薬剤師研修会の内訳ですが、まず第1番目に、日本薬剤師会です。本研修は薬局、病 院薬剤師会の指導者研修会を行っています。基本的には生涯学習研修委員会がかかわっ ており、日本薬剤師研修センターが実施しています。日本病院薬剤師会には生涯研修委 員会があり、こちらも病院・薬局実務研修会を毎年1度、必ず行っています。それぞれ の研修会の内容は、全国で伝達講習会と言って、各病薬、あるいは日薬で共同、あるい は単独で講習会を開催して各会員に伝えています。さらに国・公・私立大学病院薬剤師 実務研修会もあります。  これらの3つの研修会の共通点は、行政から見た薬剤師の業務を伝える、自分で考え 参加するワークショップを行っている、研修内容の自己評価が可能である、という3点 です。 ☆スライド4  これは昨年日本病院薬剤師会主催で行われた実務研修会の内容を示したスライドです 。研修対象者は、全国から参加した病院、診療所勤務薬剤師です。全国から参加します 。研修期間は3日間です。取り上げた内容は、最近の医療の安全性を確保するために、 「医療事故防止対策における薬剤師の役割」ということで、医薬安全対策課長の黒川先 生に講演をお願いし、大変好評でした。 ☆スライド5  ワークショップとしては、薬剤業務上のリスクマネジメントを取り上げ、ワークショ ップ項目として、院外処方関連、薬剤管理指導業務、調剤、製剤、薬品管理、医薬品情 報管理という項目について、150人の参加者を、15グループに分かれて6時間討論した のち、結論を出していただきました。 ☆スライド6  こちらはそのときのワークショップの進行手順です。主にKJ法をこちらで応用した 。川喜田二郎先生が考案されたKJ法ですが、医療機関における現状の問題点をカード で示し、共通する問題点をまとめて重要項目として取り上げる。対応策を講じている医 療機関があれば示す。提言に関してグループ討論をする。こうすれば、リスクは生じな いという標準業務手順を作成する。項目2で必要と思われる事項についてグループ討論 し、バリアンスとして標準業務に組み込むか、または重要な参考事項として記載してお きます。 ☆スライド7  これは検討課題ですが、「実際の日常業務の中で、どのようなリスクが考えられるか 。リスクが生じないようにする方策と実施方法を提案する。リスクが生じた場合の対応 、インシデント、アクシデントの捉え方。この評価をはっきりさせる。リスク発生後の 改善方法の実施と部署内外への周知徹底実施方法を提示する。リスクを最小限にするた めの具体的な薬剤師の教育を検討する」ということで検討します。 ☆スライド8  これがグループ討議のまとめです。薬剤師自身がリスクを起こさないよう、日常取り 扱う医薬品に関して熟知することはもちろんですが、グループで医療のあり方を討論し 、研鑽することの重要性が共通認識された。これは非常に意義のあることだと思います 。  また以下の点につき、行政への要望として、リスクマネジメントということがよく言 われますが、各薬局・病院内での医薬品の確認をしっかりするようにといったことをお っしゃっていただければと思います。処方箋記載方法の統一化、散剤の用法・用量、力 価で書くのかグラムで書くのか統一されておりません。ですから、この辺も統一すべき ではないかという意見があります。副作用情報収集の具体的方法ですが、今回、市販直 後調査が行われましたので、こちらのほうはたぶん具体的になってくるかと思います。  お薬手帳については、患者さんが自分の情報をいかに理解し、それを活用するか。そ の有用性を国民にいかにアピールするか。これは非常に大事な点だと思います。  それから、今回体験したグループ研修会の方法と結果を、各都道府県薬剤師会で伝達 講習会にて提案・実行していただきたい。このような結論が出されました。 ☆スライド9  これが地方伝達講習会の1例です。10時から始まり、中央で行われた講習内容を薬剤 師が2人で伝達をします。その後、13時10分から17時30分まで、患者さんへの情報提供 、医薬品の適正な管理、調剤過誤防止といったことに焦点を当てて話し合われました。 出てきた結論が、告知の問題をはじめ、ここに載せてある内容でまとまりました。 ☆スライド10  これは、各医療機関での取組ということで、昭和大学病院の薬剤部の例です。3つほ どやっております。1つは、薬剤部内のカンファレンスです。これは2週間に1度病院 内で開かれます。さらに疑義のあった処方は薬物療法セミナーにその処方を持ってきて 、参加者全員で検討会を行う。城南地区薬剤師セミナーというのは、年に2回地域の病 院の薬剤部が中心になって連携している勉強会です。 ☆スライド11  これが処方監査の例です。実際の処方例を新任の薬剤師、あるいはベテランの薬剤師 に実地教育をするわけです。これを繰り返していないと勘が鈍ります。ここでの薬の間 違いを発見できないこともあります。ここでは、ちなみにメソトレキセート1Tab が7 日間分。この処方内容からですと、リウマチの処方になるわけです。メソトレがそ7日 分出ていて、しかもベネシッド、プロベネシドがあれば、相互作用によって間質性肺炎 が起きる。こういうことを指摘できるかどうか。こういうことをできるようになるまで 徹底的に経験豊かな薬剤師が教育します。 ☆スライド12  処方箋以外にも各危機管理がありますので、部内でワークショップを行います。病院 内で起きている医薬品にかかわるリスクを、薬剤部、看護部への事例アンケートで調査 し、その調査内容をもとに、薬剤部職員を8つのグループに分けて若い人をリーダーに します。「グループごとに抽出した事柄についてリスク対策の手段、および方法」を検 討し、実施します。 ☆スライド13  これはアンケート結果の解析ですが、製品上に問題点があるということが分かりまし た。薬品名の表示法、製品の形状。これは看護部からの非常に強い意見でした。医療ス タッフが間違える理由として、色・形で認識している。最初の2文字以上が同じ、薬剤 規格の表現の違いがばらばらである。同種・同効薬の薬剤部からの払い出し方法、処方 あるいは指示の出し方などに問題があり、これにより間違える。 ☆スライド14  対策です。薬剤部内業務を見直す。病棟在庫薬品の整理と写真付き医薬品の提示表を 作って提供する。院内医薬品流通運用の見直し、薬品口座の見直し。看護部との協力体 制ですが、これは非常に大事です。1つの部署だけでリスクを回避しようと思っても無 理ですので、多く医療職の方々がお互いに具体的に実現可能なことを観察しあう姿勢が 大事かと思います。ここでは手術室における医薬品の管理。看護部との協力でやっと実 現することができるようになりました。 ☆スライド15  新たに薬剤部で実施したことです。まず、薬剤部職員全員参加でリスク回避へ取組み その結果、薬剤部職員全員でリスクマネジメントの必要性の共通認識ができました。そ れと業務上のリスクのある医薬品の見直し、院内薬事委員会への提言、調剤業務の見直 しですが、特に保守的な薬剤師の考え方を斬新に鍛え直すことが大事だと思います。だ んだん変わってきています。院内製剤容器の変更と、表示の工夫、他部署との連携によ るリスク回避の検討と実施。このようなことに重点を置いて進めております。 (スライド終了) ○村山参考人  以上述べさせていただきましたが、薬剤師の学生時代の臨床教育が非常に少ないとい ったご意見があります。昭和大学病院で本年、9月から大学院の薬剤部内の実習があり ます。そのときの病棟に関する実習について、薬剤部の職員と薬学の教員が相協力し、 各病棟ごとの特徴や医薬品に関する取り扱いを正しく大学院のときに理解してもらうた めに、カリキュラムを作りました。これは本邦初公開です。  医療のリスクに関しては、医薬品にかかわることが多いことから、1病棟に1薬剤師 は必須ではないかと考えます。以上ですが、このような機会を与えていただきました厚 生労働省の諸先生はじめ、関係諸氏の方々に感謝申し上げます。ありがとうございまし た。 ○森座長  以上で4名の講師の方々から、それぞれ大変蘊蓄を傾けられたお話を伺い、ありがと うございました。私は、講師の方々からいろいろお話を伺うことも大事ですが、同時に 委員の方々からご質問を頂戴したり、あるいはご意見をいただくことも同じぐらいに大 切だと思っておりますので、与えられた時間の半分ぐらいは後者に当ててほしいという ことを事務局の担当者には厳しく繰り返し申しているつもりです。しかし今日はやや欲 張ってしまったと申しますか、プログラムミスで現実には残されている時間は5分程度 かと思います。委員の方々、あるいは講師の方々にも大変失礼いたしました。あまり活 発な質疑応答は期待できないかと思いますが、残っているわずかな時間、どんなことで も結構です。いかがでしょうか。 ○全田委員  小島先生にコメントしていただかなくても結構ですが、先生の資料3−1の2頁です が、「新人ナース1カ月目の研修」で、新人ナースの項目の2番目に、「麻薬・向精神 薬の基礎知識、管理」と書いてあります。これは本来は薬剤師の仕事なのです。ところ が、それを現実にはナースの新人に、ましてや1カ月研修でこれを課さなければいけな い。ましてや北里大学というのは、クリニカル・ファーマシーの最も進んだ所であり、 東病院というのは、その次の「輸液管理」ですが、各病棟でミキシングした日本で第1 番目の病棟です。そういう所でさえ、麻薬・向精神薬の基礎知識だけでなく、管理まで 教育せざるを得ないという現実は、是非、先生方にも分かっていただきたいのです。こ の間の「病院における薬剤師の人員配置基準に関する検討会」のときにも、いま村山先 生が言われたように、とにかく病棟に薬剤師を1人置いてくれと言ったのです。それか ら北陵の事件があったのは、看護婦さんがいたにもかかわらず、ああいうことが起こっ ている。やはり薬剤師がいないからなのです。ですから、こういうことを教育せざるを 得ないという現実だということを、この委員会だからこそ、私はあえてしつこいぐらい 申し上げたいと思います。  輸液の管理にしてもそうです。本来は薬剤師がやるべきことで、もし病棟に薬剤師が 1人いれば、すべてができるとは限りませんが、安全性は相当確保できるだろうという ことで、今日のご出席の委員の先生方にご理解いただきたいということで、コメント申 し上げたいと思います。 ○森座長  コメントを求めるつもりはないと言われましたが、何かございますか。 ○小島参考人  私ども1年生の管理のところは、たくさんの麻薬・向精神薬を使いますので、その空 アンプルをなくさないようにとか、そのようなことを、まず1年生は基本としてよく教 えていますので、そういった意味合いが強いのです。 ○全田委員  麻薬そのものを管理するということではなく、回収したアンプルですか。 ○小島参考人  特に私どもの薬剤部は、そういうことはよく連携してやっていただいておりますので 。 ○全田委員  北里は非常によくやっております。 ○小島参考人  これは空アンプルの管理といった側面です。 ○森座長  ほかにいかがでしょうか。 ○三宅委員  全体的な話になるかもしれませんが、石川先生が言われた聖路加の非常にいい教育の システムのお話を伺って参考になったのですが、私どもも業務の難しい中で、いろいろ な教育の工夫はしております。いろいろなマニュアルを作ったりして教育に役立てたい と思っていますが、私どもが提供しているいろいろな材料や教育を、どこまで現場の人 たちが、ちゃんと熟知し、実行しているか。そういう評価をすることがどうもなされて いないような気がします。そこがいちばんこういう問題のネックになっているのではな いかと思います。私どもは先月初めてやったのですが、院内的な監査などでそれを評価 する。そういう作業をしないと、こういう教育というものは徹底しないのではないかと いう気がしていますが、いかがでしょうか。 ○森座長  評価結果をどのように活かすか、あるいは取り扱うかは別として、それは次の問題と して、とにかく評価そのものについてのご質問かと思います。 ○石川参考人  全く同じ問題を抱えています。現実にはこういったリスクマネジメントの教育の評価 というのは、これだけという形ではできていません。研修医評価の中に、基礎的な能力 、技能以外に、情意面といった面での評価は少しはありますが、まだまだこれからの課 題ではないかと思いますし、確かにいくら我々が講義して熱く言っても、彼らは、特に 前期の研修医は自分の研修、知識、技能のほうに非常に集中していきますので、大きな 問題だと思います。 ○森座長  それでは、最後にどうぞ。 ○黒田委員  大変素晴らしいレポートを聞かせていただきました。医師関係と看護婦さんと薬剤師 で同じ言葉を使っているのですが、大変内容が違うのです。それは「リスク」という言 葉です。リスクマネジメントというのは、石川先生の厚生省の資料の2頁の所にも書い てありますが、ほかの一般産業で使っているリスクマネジメントの発想と随分違う感じ がするのです。他の産業では、事故が起こった後と事故が起こる前とで使っている言葉 を変えています。医療では、事後の対策をリスクマネジメントと言うのか、予防しよう としているのをリスクマネジメントとしているのか、その辺の状態がはっきりしないの です。今までいろいろな所で話を聞いたり話をしたりしているのですが、リスクという のは、発生確率と結果を出していて、生命に関するグレードは、ちゃんとグレードを付 けなければいけないわけです。そういう評価をして、これだけはどうしてもやめなけれ ばいけないという評価の状態がよく見えてこないのです。  1つのインテグレートされたシステムとして医療は動いているわけですから、その辺 のものの定義と自分たちのやっている位置をしっかりとしないと、ありとあらゆるもの に機関銃掃射をやっているような感じがして、大変努力が焦点が絞られてこないのでは ないかという心配を持っています。これは厚生労働省のほうにもお願いしたいと思いま すが、ハウ・セイフ・イズ・セイフではなく、医療というのはリスク・リスクのトレー ドをやっているわけですから、線の引き方は大変難しいと思いますが、その辺の大きな 哲学、基本的なものの考え方をしっかり作り上げてから進まなければいけないのではな いかという気がいたしました。 ○森座長  ありがとうございました。これはおそらくリスクについてだけではなく、いろいろな 所で起こっている問題かと思います。最近気が付いたこととしては、サービスという言 葉ひとつでも、日本人が言うサービスと英米人が言うサービスとでは内容がかなり違う ということを身をもって体験しました。この種の問題は、そのうち、言葉の整理という ことも含めて考えることにいたしましょう。  それでは、今日はちょっと残念ですが、時間もまいりましたので、これで終わること にいたします。 ○新木室長  次回の日程については、かねてからお知らせのとおり、11月25日から1週間予定して おります医療安全推進週間に合わせて、11月30日(金)の10時から12時30分まで国立大 阪病院の講堂において、「医療と安全文化に関するシンポジウム」として、原子力、航 空機など多産業の取組み、患者さんの視点からのご意見、医療分野の取組みなどについ て、プレゼンテーションおよび意見交換を行う予定です。 ○森座長  それでは、これで閉会いたします。どうもありがとうございました。 (照会先) 医政局総務課医療安全推進室企画指導係 電話 03-5253-1111(内線2579)