01/06/21 第2回医療安全対策検討会議事録 第2回医療安全対策検討会議議事録 日時 平成13年6月21日(木)    10:00〜 場所 経済産業省別館E11会議室 ○森座長  定刻になりましたので、第2回の医療安全対策検討会議を始めたいと思います。委員 の皆様にはお忙しい中ご出席いただきましてありがとうございます。前回に引き続いて 進行役と勤めさせていただきます。  今日はお忙しい中、両局長もお見えです。委員の出欠に関しては、5名の方から欠席 の通知をいただいております。岩村委員、岡谷委員、岸委員、辻本委員、矢崎委員で、 それぞれ公務のために欠席ということです。長谷委員からは若干遅れるという知らせを いただいております。  今回で第2回目になりますが、初めてご出席の委員の方が3名いらっしゃいますの で、私からご紹介させていただきます。まず東京大学大学院工学系研究科の教授であら れる飯塚悦功委員、日本ヒューマンファクター研究所所長の黒田勲委員、弁護士の児玉 安司委員です。  それから、大変残念なことですが、委員の1人でいらっしゃった、日本病院会の藤澤 副会長が6月12日に逝去されましたので、ここに哀悼の意を表したいと存じます。  それではまず本日の配布資料の確認をしていただけますか。 ○青木室長  本日の配布資料ですが、資料1が前回出した「当面の検討事項の改訂案」です。資料 2が「医療の安全確保に関する提言例」です。資料3が本日三宅委員より提出のあった 「武蔵野日赤病院における取組みの例」です。それに加えて、参考資料1として前回の 議事録と、参考資料2として今後予定しているヒューマンエラー部会の委員名簿を添付 してあります。 ○森座長  以上の資料、皆様に渡っておりますでしょうか。いま紹介のありました参考資料1 「第1回医療安全対策検討会議の議事録」ですが、一応改めてご覧いただき、もし訂正 すべき所があれば、申し出ていただきたいと思います。  議事に入ります。前回はそもそもこういう言葉をどういうふうに解釈するか、あるい はこれからこの検討会議をどのように進めていくかといったような全般的なことをご検 討いただきました。そのときの事務局からのお約束では、当面の検討事項について、皆 様方のご意見を十分に加味した上で、必要があれば修正を加え、次回お見せするという ことでした。  したがって、本日私どもの検討会議においてこれからいろいろと論議を進めていく上 で、どういう項目を検討すべきかという当面の検討事項について、元々の事務局案に加 え、前回の皆様方のご意見を元に、若干修正したものを提出いただいております。まず 事務局から説明していただけますか。 ○青木室長  それでは、本日の資料1です。「医療安全対策検討会議における当面の検討事項(改 訂案)」については、前回の皆様方のご意見を踏まえて、若干の修正を行っておりま す。修正点は3つです。まずIIの3ですが、「医療安全対策を推進するために必要な情 報を収集・分析する方策」と前回はなっておりましたが、何人かの委員の方々から、収 集したものをやはり医療機関にフィードバックするということが非常に大事ではないか というご指摘があり、「提供する」という言葉を入れさせていただいております。  9は新しいものですが、これもまた何人かの委員の方々から、医療事故や、いわゆる インシデント事例について、この原因等を分析して、医療機関に情報提供するための第 三者的な機関について検討してはいかがかというご指摘がございましたので、「医療安 全に資する第三者機関について」という事項を加えさせていただいております。  最後の10ですが、これについては人間が過ちを犯すというソフト面からの失敗をハー ド面からできるだけカバーすることが必要ではないか。例えばバーコードの導入等で、 そうしたものが可能ではないかというご指摘がございましたので、それを踏まえて、 「IT技術の応用による医療安全対策の推進について」という事項を加えさせていただ いております。 ○森座長  以上が資料1に関する説明ですが、何かご質問ございますか。 ○桜井委員  質問というよりも意見ですが、医薬品・医療用具等安全対策検討会が、昨年5月16日 から発足しておりますが、その冒頭に申し上げたものが2つあります。1つは、リスク 管理というのはハイテクノロジーを使わなければいけないだろうということです。これ は、ITを使うとか、いろいろ書いてあるので結構だと思うのですが、もう一つは、安 全はただではない、安全というのはコストがかかるんだということで、やはりこういっ たようなことを具現化するための裏付けとなるコストというものが、ギャランティされ ないと、結局、絵に描いた餅に過ぎなくなるということで、安全に対するコスト負担と いうか、経済的バックというか、その辺もやはり検討すべき課題ではないかと私は思う のです。 ○森座長  そのような問題は、あえて一つの項目として取り上げるというよりは、全体を通じて 基本的な流れといいますか、気持をもっている必要があろうということでよろしいです か。 ○桜井委員  それで結構なのですが、やはりどこかに文言として書いてないと、結局、影に隠れて 表に出てこないということで、特に日本では、安全と空気と水はただというような観念 が行き渡っていますから、安全は決してただではないということを明確にしておく必要 があると思います。 ○森座長  この検討事項というのは、何も、一旦決めると検討会議を通じてそのままの線で進む という性質のものではありません。折に触れて変更することは十分可能です。 ○三宅委員  前回、医薬安全局から、薬の形の説明で、トロンビンについて、大きく「注射禁」と いうようなことを書くというご説明があったのですが、私どもの経験からいうと、少な くとも静脈で使う薬と、内服で使う薬は、その形が見ても触っても分かるように区別し ていただきたい。  ですから、トロンビンだけではなくて、普通のアンプルでも、外用と内用が同じ形の アンプルで同じ色のアンプルに入っているものがたくさんあるわけです。ですから、私 は、例えば外用のものについては、すべて四角にするとか、そういうことを是非お願い したいと思います。  そういうことにかかるコストについては、前回の話では、経済的にそういう企業に支 援をしてもいいというふうなことが書かれておりましたので、是非きちっとわかるよう な形にしていただきたい。  もう一つ、1つのアンプルを1本使ってしまうと、致命的になるというような薬剤 は、こちらに薬剤の専門の方が何人かいらっしゃるので分かると思いますが、私は救急 医学会でそういう報告を聞いたのですが、約10本余りしかないのです。そういうものに ついては、これも本当は形を変える。あるいはアンプルに非常に特殊な色を付けると か、そういう、誰が見てもすぐにわかるという形にしていただきたいということをお願 いしたいと思います。  ですから、単に「飲まない」とか、そういうことだけでは、事故は防げないと思いま す。 ○森座長  ご指摘があった点は非常に重要なことだと思いますが、各論的な細かいことは、これ から順次・・・・・。 ○三宅委員  部会で検討していただければ結構です。 ○森座長  項目に関する限り、今日の段階では、5番目の「医薬品・医療用具に関連した医療安 全対策の推進について」の中に含めるということでよろしいでしょうか。 ○三宅委員  はい。医薬品・医療用具等対策部会での検討をお願いしたいということです。 ○森座長  はい、わかりました。そんなことでよろしいですね。ですから、いま三宅委員がおっ しゃった点もよく覚えておき、(5)を論じる際には、そういう件も十分考えましょ う、ということですね。あるいは、いまおっしゃった部会で特に・・・・・。 ○飯塚委員  私は実は医療の分野の専門ではなくて、産業分野の品質に、かなり長いこと興味をも っていたのですが、そこでの品質改善、あるいは安全を進めていくというときに、結構 重要なことが、「その気になる」ことなのです。関係者がその気になることで、そうい うスキームをつくっていく。あるいはドライビングコスト、インセンティブとか、そん なことを考えていかないと、いかに技術的に正しくても、それを具現化したマニュアル があったとしても、あるいはいろんな教育をしたとしても、進んでいかない部分があり ますので、運動論といいますか、いろんな人たちがその気になって進めていくような仕 掛けとして、どんなものが必要か。それは規制である場合もありますし、いろんな教育 をしていくということもあるかもしれませんが、とにかくその辺のことを考えておかな いと、マニュアルはあるけれども守らない、方法は分かっているけれどもどこも実施し ないということが起きるのではないかということを懸念しております。どこかに入って はいるのですが、考慮していただきたいと思います。 ○森座長  いまおっしゃった点も非常に重要なことですが、やや広く解釈すれば、この「検討す べき事項」の(4)の中に、当然入る事柄であろうかと思います。組織として様々な対 策を講じることと並行して、いまおっしゃった、もしかするとモラルなどより以前の、 「やる気」のような、あるいは本人の使命感のようなものも重要だと思います。 ○堺委員  2番目の「組織としての効果的な医療安全対策のあり方について」という文言です が、確かにすべてのものを包括していると思います。ただ、「効果的な」という言葉に ついて、何に対して効果的かということですが、これだけ見ると、医療安全対策実現に ついて効果的なというふうにも読み取れます。  先程来、何人かの委員の方がご指摘を踏まえますと、もしここに「効果的かつ総括 的」、あるいは「効果的かつ総合的」というような言葉を入れると、先ほどご指摘のあ りました、広い意味での経営的なこととか、組織の運営上の問題ということも含まれる かなという気もしますので、一応意見を申し上げました。 ○森座長  いまの段階ではご意見を伺ったという程度でよろしいですね。  他にいかがですか。よろしいですか。そうしますとこの資料1の「検討事項」は、こ れからも常に新鮮に保つ必要がありますから、その折々の議論、あるいはご意見を踏ま えて直していきましょう。  先程、桜井先生に、ご自分が関係しておられた委員会で、冒頭に2つのことをおっし ゃったというお話でした。私もそれに触発され、それから、飯塚委員、堺委員がおっし ゃった事柄とも関連して、この検討会議の出発に当たり、こんなことではどうかという 考えを簡単に申し上げておこうと思います。  1つは、先ほど飯塚先生のお話にもありましたように、いちばん大事なのは医療従事 者個人個人の、やる気・使命感というか倫理観というか、同時にそれは、知識の程度と か、その人がもっている技術の程度とも無関係ではあり得ないと思いますが、とにかく 医療従事者個人個人の、人間全体としての教養とか真面目さがいちばん大事なことだと 私は考えております。私自身は患者さんを診る立場ではありませんが、一応医師側です から、身内のこととして、また将来ともこの点を厳しく申していくつもりです。  しかし、他方、人間である以上、どうしても、どんなに注意しても、あるいはどんな に立派な教養をもち、使命感をもっている人でも、過ちを犯すことが決してないとは言 えない。  そうかといって、機械はご承知のように、覚えていることは極めて正確に、何の誤り もなくこなしますが、自分自身でチェックすることはしませんので、あまり機械だけに 頼ると例に出すと悪いですが、先日の国立大学の入学試験の判定といったようなことも 起こり得るのです。  個人個人の自覚、機械の正確さということは、いずれも必要不可欠ですが、それに全 面的に頼ることは難しいとすれば、そういうことも一方では大事にする反面、他方、組 織としての安全策を講じることも絶対に必要なのでしょう。おそらくこの委員会は、そ ういう組織として何ができるかというところに重点をおいて討議を進めることを目的と している、と私は理解しております。  第2点は、裏返せば第1点とほとんど同じことですが、やはり人間がやることには、 「絶対」とか、「100%」とか、「永遠に」といったことはなかなかないもののよう ですから、もし、医療に関して「安全神話」のようなものが社会に存在するとすれば、 それは誤りだと申し上げたい。それは望むべくもないことなのです。決してその点を医 療従事者の逃げ込み口にするわけではありませんし、責任をそちらに押しつけるわけで はありませんが、とにかくそういう、絶対安全、未来永劫に正確、といったことはあり 得ないという発想から万事出発するのがよろしかろうと、個人的には考えております。 後でいろいろと皆様方からご批判をいただきたいと思います。  そのようなことで、この検討項目の一覧表からいえば、2番目に記されているかと思 いますが、「組織としての効果的な医療の安全対策の在り方」というところに、最初の 2、3回、まず焦点を絞ることでよろしいでしょうか。  本日に関しては、何分にも実質的な議論の初日ということでもありますので、まず事 務局から、これまでに出されたいろいろな報告書その他から、関連したものを抜き書き して、資料として出していただきました。ですから、まずそれらについてご説明いただ き、その後、委員の方々に議論していただく。それが本日の前半です。後半は、日本の 中で、組織としての医療安全に大変深い関心をもっておられ、良心的な取り組みを、と いうことは同時に、いまの日本の中では先端的な取り組みということにもなるかもしれ ませんが、そういうことを実践しておられる、武蔵野日赤病院の副院長でいらっしゃる 三宅委員にお願いしたいと思います。私達にも分かりやすいように、若干のスライドを 使ってご説明いただいて、その後でいろいろと皆様方のご意見を頂戴するという段取り を考えております。何かご意見があれば伺いますが、こんなことでよろしいでしょう か。  それではご異論がないようでしたら、事務局から、資料についてご説明願います。 ○青木室長  それではお手元の資料2、「医療の安全確保に関する組織的方策の提言例」に、国内 の例が3例、国外、アメリカの例が1例ご紹介してございます。まず1番目ですが、 「患者誤認事故防止方策に関する検討会報告書」、これは平成11年5月に厚生省の研究 班で作ったものです。その中に、各論的な、誤認事故の防止の提言と併せて、総合的な リスクマネジメント構築のポイント等を記載してあって、それからの抜粋です。  まず「リスクマネジメントの構築のポイント」ということで、総論的事項として、7 つの事項が示されてあります。「管理者が事故防止に強い意志を示す」、2番目として 「リスクマネジメントの目的等について、明文化をしておく」、3番目として「事故や インシデントについてオープンに議論できる風土を形成する」、4番目として「事故、 インシデントに関する教育や研修を実施し、職員の理解と参加を得る」、5番目として 「リスクマネジメントに関する組織(専門的部署や委員会)を設けて、責任者の権限を 明確にしておく」、6番目として「事故防止に有用な情報を職員全員で共有する」、7 番目として「医療の質を向上させるための院内の諸活動、例えばQC活動とかTQMと いったものを想定していますが、これと連携して実施する」といったようなこと。そし て併せて、職種別の取組みとして、施設の管理者、これは具体的にはリーダーシップの 重要性等、また医師については、例えば明確な指示を出すといったようなこと。看護婦 として、最終的な行為者としての心構え等について記載がございます。  併せて、コミュニケーションの重要性というのが提言されていて、これには2つ、医 療チームの中におけるコミュニケーション、そして患者と医療従事者間のコミュニケー ションの重要性について指摘があります。  具体的な方策は、組織としての医療事故防止方策として「事故・インシデントの情報 収集」、2番目として「事故・インシデントの報告の内容及び分析の実施」、3番目と して「事故防止のための委員会の設置」、4番目として「事故防止のためのマニュア ル」、5番目として「職員研修」、6番目として「診療における責任の範囲の明確化」 といったようなことがございます。  続いて平成10年3月に出された、「医療におけるリスクマネジメントについて」とい う、日本医師会医療安全対策委員会より出されているものです。この中で、「医療事故 予防対策の提言」ということで、7つの指摘がありました。1番目として「医療事故及 び紛争に関する情報収集体制と組織の確立」、2番目として「院内に事故報告体制の組 織を整備する」、3番目として「安全対策マニュアルの作成と周知徹底」、4番目とし て「医療現場の意識改革」、5番目として「医療職の労働条件の改善」、6番目として 「生涯教育・啓蒙活動にリスクマネジメントを導入する」、7番目として「医学教育・ 医師養成のあり方に関する提言」ということでした。  続いて、「組織で取り組む医療事故防止」ということで、これは平成11年9月に出さ れた、日本看護協会のリスクマネジメント検討委員会からの提言の部分です。まず総論 的な事項として3つのポイントをご提言いただいております。1番目が「組織として事 故防止に取り組むこと」、2番目が「情報の共有化を図り、事故防止に役立てる」、3 番目が「事故防止のための教育システムを整え、教育を行う」という指摘がありまし た。  次に、各論的な事項として、8つの事項の指摘がございます。まず1番目として「組 織としての目標を設定する」、2番目が「リスクマネジメントに関する委員会の設 置」、3番目が「マニュアルの作成」、4番目が「各職種の責任範囲の明確化と連携の 推進」、5番目が「適切な労務管理と良い労働環境の提供」、6番目が「組織内の良好 なコミュニケーション」、7番目が「職員の教育・研修」、8番目が「リスクマネジメ ントに関する専門的な教育・訓練を受けた者の配置」ということです。以上が国内に関 するものです。  次の頁は、アメリカのIOMという組織、これは独立した組織ですが、その「医療の 質委員会」という所から出されております、『TO ERR IS HUMAN 』という、医療事故防 止のための総合的な提言がまとめられた本がありますが、その中で、1つの章を割いて 「医療機関において安全システムを構築する際の基本原則」ということで、5つの原則 が提言されています。これも併せてご紹介したいと思います。原則1として、まず 「リーダーシップの発揮」というもので、具体的には、「患者安全を組織の第1目標に 置く」、2番目が「患者安全を職員全員の責務にする」、3番目が「安全管理に対する 役割の明確化及び目標の設定を行う」、4番目が「エラー分析及びシステム再構築に対 する人的・経済的資源の投入を行う」、5番目が「安全に問題のある医療従事者を同定 し、処遇するための効果的な仕組みの構築を行う」、原則2が「人の能力の限界に配慮 した作業プロセスの設定をする」ということで、具体的には、「安全に配慮した職務計 画」、2番目として「記憶への依存の回避」、3番目として「危険回避のために、抑制 や強制機能を利用する」、具体的には、いろんなハードの面から、例えばフェールセー フ、フープウルフといったようなハードの面からの事故予防方策を利用するという趣旨 です。  4番目として「人的監視への依存の回避」、5番目として「重要なプロセスをできる だけ簡素化する」ということです。最後に、「作業プロセスを標準化する」。  原則の3は、「チーム機能を効果的に強化する」という提言で、具体的には、「チー ムで働くメンバーに対しては、個々の人ではなくて、チーム全体としてトレーニングを 行う」、2番目として「安全設計と医療提供プロセスへの患者の参加を求める」という ことです。原則4として「不測の事態に対する備え」ということで、1つ目が「事前ア プローチの採用」で、これは、「事故が発生する前に安全を脅す医療プロセスを分析 し、改善しておく」、2番目が「エラーが起きたとしても、それが修復できるようなシ ステムを構築しておく」、3番目が「正確でタイムリーな情報提供が行えるようなアク セス方法を改善しておく」ということです。  原則の5は、「学習を支援する環境の整備」ということで、1つ目として「可能な限 りシミュレーションを活用する」、2つ目として「エラー及び危険な事態に関する報告 の奨励を行う」、3番目として「エラー報告しても制裁を受けないことを保証する」、 4番目として「序列に捉われない自由なコミュニケーションの可能な職場文化の構築」 ということです。最後に、「エラーから学習し、フィードバックするシステムのチェッ クを行う」ということです。  本日お願いしている組織的な安全管理の取組みというものについては、具体的には、 個々の医療機関において安全管理をするための体制をどうつくっていくかという事項が 中心です。  本日お示ししたものの中には、それを越えた、例えば医療機関外の組織またはその教 育も含めた体制の検討もありますが、本日は第1回目ということで、少し幅広くご紹介 いたしました。 ○森座長  以上が事務局でピックアップしてくれた、今日までの組織的な方策に関するいろいろ な提言の例です。まず最初は、当時の厚生省から、平成11年に出されたものですが、何 か追加的にご説明になりますか、よろしいですか。  2番目が、第2頁、これは、日本医師会の医療安全対策委員会から出されています が、時期的には、平成11年の厚生省検討会報告よりはちょっと前のものです。小泉先 生、何か追加的におっしゃいますか。 ○小泉委員  これは、この医療安全対策委員会の前期の報告書の中での提言で、いまの時期からす ると、必ずしも即応したものでなくなった部分もありますが、当時こういう形でリスク マネジメントというコンセプトをできるだけ広めたいということで、それに基づいて安 全対策を立てることを提言したというところに主眼があったと思います。 ○森座長  その次の「日本看護協会」ですが、今日は残念ながら岡谷委員は欠席ですね。  それから最後に、アメリカのIOM、これについては、今日、絵葉書みたいな写真で もお見せしようかと思っていたのですが、準備が間に合いませんでした。  レポート全体の題としてここに書かれているように、TO ERR IS HUMAN というのは、 日本語で何と訳しますか。 ○青木室長  厚生労働省として定訳があるわけではありませんが、これはある雑誌社から、もうす でに和訳されていて、この場合は「人は誰でも間違える」、副題として「より安全な医 療システムを目指して」ということになっています。 ○森座長  いまご紹介がありましたように、人間とはそもそも間違いを犯すものだというふう に、私も理解しております。アメリカと日本は随分、万事違いますから、アメリカで起 こっていること、あるいはアメリカで考えていることをすぐ日本に、というわけにはい きません。しかし1例としてこの中には、私の記憶に間違いがなければ、アメリカでは 1年間に8万人くらいの患者さんが医療側の対応不十分で死を迎えているといいます か、死を招いているという記述もありますね。 ○青木室長  いろんな研究報告がありますが、一応この本の冒頭に示してある数字としては、低い 推測値で、毎年4万4,000人、高いほうの推測値で9万8,000人という数字がございま す。 ○森座長  私の記憶が定かではありませんでした。低い値として4万人、高い値として9万人く らいの人々にそういうことが起こったということです。これはアメリカの中でも、1つ のレポートにすぎないものではありますが、とにかくそういう例が示されております。  さて、この資料2について、いまの事務局からのご報告に関連して、何かご質問なり ご意見がございますか。 ○全田委員  薬剤師及び薬剤関連の委員も参加させていただいていますので、今日のこの資料がい わゆる医療の安全確保に関する組織的方策の提言の例としてお出しいただいたというこ とについて、若干コメントを加えさせていただきたます。例のアメリカのIOM、これ は例のクリントンの「医療事故をいかに少なくするか」という、大変な大きいプロジェ クトを含んだ中で出されたものであるということを、私たちは現実に昨年、アメリカに 行って視察してきまして、いろいろ話を聞いてきました。  何を申し上げたいかというと、このIOMの場合には、決して医師とか看護婦とか、 何々ということを限定しないのです。医療従事者そのものすべてが、医療に関係する人 たちすべての人が、どう対応して医療事故を少なくするかという表現を必ず使うので す。  ところが、今日、私は事務局に文句を言うつもりはありませんが、例えば厚生省の平 成11年というのは、横浜市立大学の誤認事故で、まだ医薬品に関する事故がそんなに明 らかにされなかった時期ですから、こういうことなのですが、いまご承知のように、医 療事故の川村先生のご報告にもございますが、医療事故の非常に多くのものが医薬品に 関係する。  そうすると、我々の立場から言わせていただくと、薬のプロたる薬剤師が、当然そこ に関与すべきであろうということなので、資料2に出していただいたのは、決してこれ が基本となるものではない。単なる例であるということです。ちょっとくどいようです が、結局、アメリカの場合、医療従事者すべて、決して医師、薬剤師、看護婦、何々と いうことではなくて、すべて関与する人たちが、いかに安全を確保するかという姿勢で 臨んでいるということを、私たちは視察で感じてきましたので、ちょっとコメントを加 えさせていただきます。 ○桜井委員  医療の効果的な安全対策ということで、意見を述べさせていただきたいのですが、ま ずいちばん大事なことは、やはりリスク管理というのは一体何なんだろうというコンセ プトといいますか、そういうことが非常に大事だと私は思います。リスク管理というの は、一言でいうと、やはり科学技術なのです。科学に基づいたテクノロジーであるとい うことで、これは決して倫理とかお説教とか、そういうことでものが済むわけではなく て、ちゃんとした科学に基づいたテクノロジーを確立しないと、際限性のあるリスク管 理、あるいは安全対策というのはできないということです。  ですから、そころところが一つ、この中で文言として明らかにはされていないという ことで、そういう技術を確立することだというようなスタンスがないと、これはやは り、何をしてもザルから水がこぼれるような始末になるということだと思います。  そうすると、一つの独立した科学的な技術のジャンルであるという認識に立てば、や はりそういう専門家を養成する、あるいは専門家がそこに存在するということが非常に 大事になってくるわけです。  アメリカでは1980年に、 American Society for Health Care Risk Management とい う協会みたいなものができたそうですが、もちろん日本にはそういうものはない。そう すると、ここで現れていないこととしては、例えば院長先生、副院長先生、あるいは看 護婦さん、婦長さんが責任をもつ、あるいは薬局長さんが責任をもつ。はっきり言っ て、これを片手間でやるわけです。それでは駄目なのです。やはり一つの確立した科学 技術として、例えば外科手術は外科医がやるというような形の、そういうちゃんとした エキスパートが必要で、そのエキスパートがいて、それが諸事万端、リスク管理をする というスタンスがないと、結局は、一時、いまリスク管理ということに熱が上がってい ますから、皆さん熱心ですが、私が10年くらい前に本を書いたときは、「医療にはリス クはないんだ」というスタンスで蹴飛ばされました。そういうことで、これまた2、3 年経って熱が冷めれば、それで終わってしまうのです。  そうではなくて、やはりこれは永続性のあるものでなければならないと思います。そ うするとやはり、一つの独立した科学的な技術としてのジャンルであるということ。そ してそのエキスパートがいて、それが面倒を見るというような、それがいちばん効果的 なやり方ではないかということで、その辺を議論していただければありがたいのではな いかと思います。 ○飯塚委員  先ほどの TO ERR IS HUMANという言葉の訳のことですが、非常に重要な概念なので、 私は、「間違い」と訳したら、実は間違いなのではないかと思っているのです。「人は あたかも他人から見れば間違いといわれるような行為をする動物である」というような 意味合いではないのでしょうか。我々は何かミスしたと思いますが、それは普通の人間 にとって普通の行為なのであって、それがある場面で、「間違い」と言われるものなん だというように読まないと、本当に、タイトルで言おうとしていることは表せないのか なと思います。  要するに、個人が様々な面でいろいろなことをするわけですが、それが実は個人を取 り巻く仕事の仕組みとか、知っていなければいけない技術とか、さまざまなことから、 誘因に引きずられて、何か起きてくるんだということを理解しない限りは、きっと減っ ていかないと思うわけです。そこで「間違い」という言葉を使った途端に、きっと個人 の追及に行く可能性があるわけです。そうではないんだということを強調するために も、その「ERR」という単語の訳は、非常に難しいと思います。  もう1点、ここに様々な提言があって、先ほど私が申し上げたことに戻ってしまうの ですが、基本的には、いま桜井先生からお話があったように、安全に関する技術という のは、いろんな分野で、そんなに体系化はされていないかもしれませんが、それなりに あるわけです。それを、例えば工場の安全などというときには、組織的にどういうふう にするかということに関してもあるわけです。  それを医療分野に持ち込んだときに、どういう難しさがあるかということについて、 きっちり検討しなければいけないと思うのです。要するに、やらなければいけないこと とか、何をすればいいかということがよくわかっている、それでいろいろ提言があると いうのは正しいと思うのです。しかし、それをどういうふうに進めていくか。それは2 つやらなければいけないと思うのですが、まず、個々の医療組織が、このようなことは やっていこうというようなこと、それが組織の運営・経営において、その目標の上のほ うにくるということを、国として創っていかなければいけないということが一つです。  もう一つは、現実にやる気になったときに、放ったらかしになったら進まないわけ で、どのように進めていくかというようなサポートの体制といった側面の検討も、いま やる必要があるのかなと思います。 ○森座長  いわゆるヒューマン・エラーといったようなファクターもどうですかね。 ○黒田委員  前回私は欠席しましたので、わからないのですが、リスクマネジメントという言葉は 大変ポピュラーになっているのですが、実はその内容が大変間違っているというか、コ ンフィーズして使われている点があるかと思うのです。リスクマネジメントというの は、一般産業においては、しっかりした、定量化のできるものを「リスク」と呼んでい て、それに対してどうしていくかという、予防関係のところに主体が置かれているので すが、いまの医療関係で使っている言葉の中には、2つの概念がコンフィーズされてい るのだろうという気がするのです。  それは、何か事故が起こった後始末というのと、事故が起きないようにするというの は、実は、いろいろな言葉の使い方があるのですが、リスク・コントロールと、クライ シス・コントロールといふうに分けて、我々は使っているのです。それを両方合わせて 「リスクマネジメント」という言葉を使うのです。後で三宅先生などからもお話がある と思いますが、起こった後で被害が大きくならないようにしていく。あるいは、それに 対してどういう問題があるかというコミュニケーション、リスク・コミュニケーション という言葉を含めたのが、クライシス・コントロールなのです。それを踏まえて、今度 はリスク・コントロールの「防止」にするためには、先程お話があった、大変科学的な アプローチがなくてはいけないのです。それで初めてつながるわけですが、いまの段階 では、起こったことは起こったことで、統計がとられる。統計がとられて、なぜ起こっ たのかという解析がなくて、それでリスク・コントロールをやろうとしているわけで す。ですから、どうしたって、倫理的な話とか、心掛けとか、注意という話になる。そ うではなくて、つながるのですが、そこがいま日本では、非常に弱いところなのです。  ですから、この提案の中に、その辺の位置づけを、きちっと分けた提案である必要が あると思うのです。  例えば2頁の、日本医師会のほうで出された、1と2は、これはクライシス・コント ロールなのです。起こった後どうするかということです。それから3、4、5、6とい う後ろのほうは、確かにリスク・コントロールなのですが、その2つをつなげていくと ころが、いまいちばん日本で弱いところです。  ですから、リスクマネジメントという言葉があちこちに出てくるのですが、どこをや るのか、どこに焦点を当てるのかという方法論が全く違うわけですから、その辺を区別 して、この提言を考えていただけると大変ありがたいという気がします。 ○森座長  非常に重要な点をご指摘いただいたと思います。日本人は、英語などの外国語をその まま使っておりますが、内容はネイティブの人たちが意味するところと随分違って使わ れていることが実際にありますね。日本人は、何となくカタカナ、横文字で言われる と、わかったような気持になりますが・・・。本当におっしゃるとおりだと思います。 ○井上委員  まさにいま言われたとおりで、計画のミスと行為のミスと、そこら辺の仕分けがきち んとされていない、ただ起こったことだけを騒いでも、組織がどういうふうに動いてい くのか、そのアプローチの仕方が正しかったのか、当該行動が計画されている段階で、 正しいのかどうかという検証ということも、非常に重要ではないかという気がしており ます。  それから、3頁にある3つの提言を見ると、IOMと日本の場合で最も違うのは、免 責のことで、日本の場合、医療事故が起こると、すぐ刑事事件という形で警察が入りま す。そうなると、証拠として取り上げられるものですから、医療関係者に、どうして事 故が起きたのか、すぐに公開されない。重要なことなのに、事故の原因が全く公開され ずに、裁判事項として取り上げられてしまうということがあります。やはり免責がない と、すぐに事故原因が事故現場にフィードバックされないということがあります。その 辺、日本の厚生省が抱えておられるのは、オープンに議論できる風土を形成することと いう、非常に日本的な表現になっていて、IOMでは、きちんと「免責をする」という ふうに書いてあります。これは、個人の責任を追及しないというような単純なことでは なく、事故報告事例をつくりながら社会的に事故原因が還元できるシステムづくりを、 さらに事故原因をオープンにできないということは、非常に社会的な損失を被っている のではないか。そこら辺もきっちりこのグランドデザインで示していく必要があるので はないかという気がしております。 ○森座長  おっしゃるとおりだと思います。いまご指摘があったことそのものかと思いますが、 実は前回、第1回のこの会でも、「免責」という言葉が、委員の中から出ておりまし た。それで、今日の会議を始める直前に、前回の会議で出た「免責」という言葉が新し い検討項目の中に一つも表れていないのは何故か、と事務局に申しました。事務局とし ても、十分、内容的には理解しているということでしたので、今、井上委員からご指摘 いただいた事項も、将来は十分含めて考えるだけの用意はあると思います。 ○小泉委員  先ほど黒田委員がご指摘になった、日本医師会のリスクマネジメントの報告書の関連 ですが、現在、日本医師会の中には、医事紛争に関した紛争処理の対策室という、事務 的なセクションと同時に、患者の安全確保対策室というセクションと、2つ設けてあり まして、その両者を混同しないようにということで、会員にも広くそれを周知している ところです。  それから、先程来、ご意見が出ていることですが、今日の前の議題で、座長がご提言 になった、当面の検討事項の1番目が、概念整理で、そういう点で先ほどから議論があ りますが、この中でも、いくつかのキーワード、ことにリスクマネジメントについては ご議論がありましたが、事故あるいはアクシデント、インシデントということのコンセ プトをはっきりさせること。それと、特にIOMの報告にあるような、ERR というの が、カタカナで「エラー」と訳されていますが、このエラーという概念は、お互いに、 少なくともこの会議の間だけでも、委員の間で、共通の理解をもっていないと、議論が 噛み合わなくなるのではないかということを感じて申し上げました。 ○森座長  その辺になると、だいぶ難しい点があるかもしれませんが、おっしゃることはよくわ かりました。 ○児玉委員  2点ほど意見を述べさせていただきます。1つは、先程の全田委員のご発言に関連す る部分で、たまたま今回資料2で、「組織的方策の提言例」の中に、日本病院薬剤師会 の消毒剤の誤注射事故に関する提言が含まれていませんが、私は、さまざまな提言を読 ませていただいている中で、消毒剤誤注射事故に関する日本病院薬剤師会の提言という のは、非常に早い時期に、2つの非常に重要な点を指摘したものというふうに理解して おります。  1つは、デバイスの問題を解決しない限り、本質的な安全は図れないということ。2 つ目は、院内の職務分掌、つまりどの職種にどういう権限と責任があるのか。ジョブデ ィスクリプションの問題を指摘されたということを、非常に重要な点だと思っておりま す。  ともすれば、医師、看護婦の側に、こういった病院薬剤師会の非常に重要な提言が、 必ずしもこれまで伝わってこなかったのではないかという恨みがありますので、その 点、あえて指摘させていただきたいと思います。  2つ目は、産業界のノウハウの導入という視点です。IOMレポートでも、また1991 年のJCHOの「医療の質改善入門」、Intraction to Quality Inprovement の中で も、産業界のノウハウ、特に日本の産業界と名指しして、そのノウハウを医療界に導入 すべきだというようなご指摘がされて、10年も経っているわけですが、いま飯塚先生の ご指摘にもありましたとおり、どこまで産業界でのノウハウを医療に導入し得るのか。 そして、どこが困難が生じているのかという議論が、おそらく各論の中でなされていか なくてはいけないと思うのですが、今日は2点、先生方に前提としてお尋ねもしたい し、また議論もしたいと思っております。  1つは、そもそも安全とは何かということです。医療事故ゼロが安全だとするなら、 それはおそらく、産業界で捉えられている安全という考え方とは違う考え方だろうと思 います。私が理解する限り、産業界で一般的な安全と言われているのは、社会的な許容 範囲内のリスクに、そのリスクを抑えるということが、安全というふうに捉えられてい るのではないか。これは釈迦に説法ですので、専門の先生方からご発言をいただきたい のですが、一体何を目指すのか。何をもって安全というのかというところを、ひとつ確 認させていただきたいと思います。  2つ目は、安全に至る実現方法の問題で、これは、例えばISO12100などで、「階層 的実現方法」という言い方がされていて、4つの階層に分ける。1つ目は「本質安 全」、つまりプロセスそのものの安全、2つ目は「防護対策」、3つ目が「マニュア ル」、4つ目が「教育訓練」、こういう階層的な実現方法があるというような考え方が 示されているようにお聞きしておりますが、それで正しいのか、またそういうことが医 療の世界でどういうふうに捉えられていくべきなのか。実現方法についても議論してい ただきたいように思います。 ○森座長  何をもって安全とするか、何をもって公平、平等とするかといったことは難しいです ね。おそらく医療の世界でも、先ほども申し上げたように、「絶対安全」というのはな いのでしょうね。ですから私は、「より安全に」という程度のことかと思いますが、そ のためには、間違いの発生を少なくするとか、一旦起こってしまったときには、できる だけ被害を少なくするとかという、その辺の漠然とした気持しかもっておりません。先 生がおっしゃることはよくわかりました。皆様方、これから注意してくださると思いま す。 ○梅田委員  私どもとしては、前回も申し上げましたが、「PSA関係団体のこれまでの取組状 況」の中で2点のみしか掲載されていないわけですが、それは、事務局のほうにこの前 もお詫びしましたが、当方から提出していなかったということです。  やはり安全ということに関しては、予防というものがいちばん大事ではないかという ことで、調べてみたら、4点ほど、すでに会員教育のマニュアルを出しております。そ れで、これを基本にして、生涯研修の中で、安全に対する、私どもとしては予防を。と いうのは、大学病院とか、大きな病院と違って大体90数パーセントが診療所ですから、 その診療所の中で事故を起こした場合には大変なことになりますので、事故を起こさな いようにいま努力しているわけです。今回、当面の検討事項が出てきましたので、これ をどういうふうに伝達していくか。この伝達というのは非常に大事だと思いますので、 的確にさせていただきたいと思っております。  いちばん心配しているのは、事故が起こったときはどうするか。起こさないためには どうするかという、いま座長が言われたようなことに的を絞っていただきたいと思って おります。 ○森座長  まだご意見をいただきたい方が何人もおられますが、いま大体、時間の半分を経過し て、あと1時間ございます。いかがでしょうか。この辺で三宅委員からご発表を願って は。おおよそ30分くらいの見当でよろしいかと思いますので、その後の30分、三宅委員 に対する質問も含めて、再び自由な討論ということで、よろしいでしょうか。  それではそのようにいたします。 ○三宅委員  武蔵野赤十字病院の三宅ですが、私どもの取組についてお話させていただきます。解 説的なことも含めて話をしろということですので、皆さんご存じのこともたくさん含ま れているかもしれませんが、一応ご了承いただきたいと思います。  私どもの取組と、今日の資料にも随分入っていますが、組織的に取組をどうすればい いかというお話と、最後に私の個人的な考えも述べさせていただきたいと思います。 (スライド開始) ☆スライド1  先ほどもお話がありましたが、アメリカにおけるヘルスケアリスクマネジメントとい う言葉は、本来この3つを含んでいると言われています。病院という組織の資産を守る ということと、患者さんの安全を守る、職員の安全を守る。それから組織体を法的に守 るという、3つのファクターが含まれていると思います。現在日本で主に言われている ことは、この患者の安全を守るということに重点が置かれて使われているように思いま す。これは、ひいては組織を守るということにもつながりますので、どちらかという と、この上の2つに重点が置かれていると思います。 ☆スライド2  これは事故が起きたときの基本的な考え方です。先ほどもどなたかがおっしゃってい ましたが、まず事故が起きたときは、その事実関係をきちっと押さえるということが第 1かと思います。従来は誰がしたのか、そして、その責任者を追及して、処罰をして一 件落着という考え方で進んできたと思いますが、こういうことでは次の発展はないとい うことで、どうして起きたのか、どうすればいいのか、今後の対策は何なのかという原 因指向型に考えると、次の予防に発展していくということです。 ☆スライド3  これは私どもの経過を簡単にお話いたしますが、私どもの病院は過去に保険会社から ワースト1とかワースト2と言われたぐらい事故の多い病院でした。ここに書いていま すように、昭和63年から平成4年までの5年間に、5つの大きい事故を経験し、そこに 多額の和解金を支払ったという経過があります。平成4年に私は副院長になり、平成5 年に私どもが入っている保険会社の部長が院長に会いにまいりました。院長がおりませ んでしたので私が代わりにお会いして、それからこういうことにかかわったわけです が、その時にいろいろ言われた言葉の中で、私に非常に重く響いた言葉が幾つかありま した。それを簡単にお話しますと、「保険会社の目から見ていますと、一般の企業では 同じ企業で同じ事故はほとんど再発しません。例えば1つの企業で事故が起きた、ある いは火災が起きたとしますと、その企業はあらゆる手段を講じて原因を究明いたしま す。ですから、保険会社から見ていますと、同じ企業が同じ事故はほとんど起こしませ ん。ところが医療界では、同じ病院で同じ事故が同じような頻度で発生しています。こ れはどうしてでしょうか。この医療界という世界には学習効果というものはないのでし ょうか」とこう言われたのです。これが私にはいちばんこたえた言葉でして、これは何 とかしなければいけないということで、この保険会社から、「病院という組織で、何と か事故防止対策が組織的に取れませんか」という強い要請があったことが1つありま す。  それから、病院医療とか組織医療とは何なのか。現実に病院にはたくさんの診療科が ありますが、組織を横断的に医療の質をコントロールするという仕組みに欠けているの ではないか、ということを私はずっと思っていましたので、それを含めてこういう取組 を始めたわけです。最初に考えたことは、第一線で働いている医療従事者の意識をいか に高めるかということです。これについてはQC活動から始めようということで、QC 活動を始めました。当時私どもは本当にお尻に火がついたような状態でしたので、本来 はQC活動はボトムアップ方式がいいとされておりますが、トップダウン方式で、医療 事故防止という観点から、テーマを選んで取り組んでくださいということで、11の職場 単位に11のグループを作りまして、係長クラスの方にリーダーになっていただいて取組 を始めたわけです。 ☆スライド4  私どもの看護婦は以前からこういう事故防止への取組をしておりまして、報告制度を 取り入れていました。私どもの取組と機を一にして、報告用紙のフォーマットを変える とか、看護部内に事故防止委員会を作るというようなことを始めまして、約1年半で 「事故防止対策」というマニュアルを作りました。このマニュアルを作った段階で、 「お医者さんはどうしますか」ということで、私に詰め寄られたわけです。今日ご出席 の黒田先生のご助言をいただいて、航空機のリスクマネージメントに学んで、医師のほ うでもインシデントレポーティングシステムを取り入れようということで、報告制度を 始めたわけです。  このインシデントレポートを検討する委員会が必要だということで、この医療評価委 員会というのを作ったわけです。これについては後で、もう1回お話いたします。  その次に取り組んだことが危険予知システムを作りましょうということで、各科の部 長さん、あるいは副部長さんに、その科で想定される頻度の高い事故リストをまず書き 上げてください。それに対する予防対策を文章で書いて提出してくださいということ で、それを集めて、「事故防止マニュアル」というのを作ったわけです。これを作るの に約8カ月かかりました。 ☆スライド5  これは産業界で有名な話で、「ハインリッヒの法則」です。1つの大きい事故が起き る背景には、330件の事故がある。29件の軽い事故と事故は起きないけれども、いろいろ な問題、トラブルが300件あると言われているわけです。 ☆スライド6  これは航空業界ではいわゆるチェーン・オブ・イベントと言われており、大きい事故 の前にはインシデントのチェーンが連鎖して起きているのだということが言われていま す。そのインシデントを早く集めて、それを断ち切っていくというのが航空機のリスク マネジメントというふうに聞いております。これが私どもが扱っているインシデント・ アクシデントレポートです。 ☆スライド7  このインシデントレポートには幾つかの問題があります。インシデントレポートとい うのはまずそういう事故の起きる手前のヒヤリ・ハットというふうなものを集める。そ して、それを分析して事故の再発を未然に防ぐということです。この問題点は先ほども 何人かの方がおっしゃっていましたが、法的に保護されていないということです。です から、このインシデントレポートの管理が現在では非常に厳重にされなければいけない ということと、そこには反省文を書いてはいけないとか、名前を書くか書かないかとい ういろいろな問題が発生しています。それでは誰が書くのかということについては、当 事者が当然書くわけですが、現在は発見者が書くのも大事かと思っております。どうい う方式があるかというと、これもいろいろな議論があって、いろいろなことが言われて いますが、速報型と記述型の2種類ということも言われています。 ☆スライド8  これが看護婦が作った事故防止マニュアルです。 ☆スライド9  これができた時点で私のほうに「お医者さんはどうするのですか」という問いかけが あったわけです。従来、言われてみると、医療事故を検討する際に、医師の医療行為に 立ち入って検討するということはタブー視されてきたきらいがあります。ですから、医 療事故はかなり不透明な部分を残して処理されてきたということもまた事実かと思いま す。こういう姿勢を続けていると、チーム医療のリーダーとして働かなくてはいけない 医師の信頼を失っていくのではないか。ですから、もっと医療事故のいろいろな問題を 明るい場所で客観的に評価をし直しましょう。そうすれば、たとえ小さな事故でも、病 院全体の共有財産にすることができるではないかということです。医師の問題は医師集 団の中で、自分たちの手で解決していくという自浄作用が働くようなシステムが病院の 中には必要なのだと。ですから、そういうシステムが病院の中で常時動いていれば、事 故そのものも減ってくるのではないかということで、この医療評価委員会というのを作 りましょうということを、当時の病院管理会議に私が提案して、了承を得まして、部長 会でも私が説明をして、院内のコンセンサスを得たということであります。 ☆スライド10  どういうことをやるのかといいますと、これはメンバーは11の科から1人ずつ選ばれ た11人のドクターで構成しております。これは全部部長ではありません。6人の部長と 5人の副部長で構成しております。常識的判断できるドクターで構成するということで す。そして、どういうことをやるかというと、インシデントレポートを毎月ここで検討 しているわけです。検討する内容は、医療技術上の問題はなかったか、判断上の問題は なかったか、労働条件はどうだったか、そのときの心理的背景はどうだったか、最も力 を入れていることは、一見個人の事故のように見えても、その背景を探っていきます と、病院のシステムに問題があるということが決して少なくはありません。ですから、 システムの中に問題はなかったのか、チェック機能が十分に働いていたかどうか、とい う点に最も重点を置いて検討しております。  こういうことをやっておりますと、患者さんのほうにも問題があるなということも見 えてまいりました。そして、そういうことで医療行為を取り巻くいろいろな問題をここ で検討しましょうということでやっているわけです。  立ち上げの段階から、この委員会がメディカル・オーディットとして機能してほしい ということで、CPCとか、ディスカンファレンスもここでやる予定でしたが、いざ立 ち上げようとしますと、いろいろ院内の事情がありまして、従来どおりCPCは病院の 主催でやっております。ただ、メディカル・オーディットとしても、ある程度私はいま は機能してきているのではないかと思っております。 ☆スライド11  改善事例としては、こういう抗生物質の過量投与があって、伝票の書き方を院内で統 一したとか、手術患者のマーキングを決めたとか、いろいろな伝票を分かりやすい形に 変えたとか、いろいろございます。 ☆スライド12  ここからは先程も資料にありましたが、リスクマネジメントをどういうふうに構築す るかというお話をさせていただきます。 ☆スライド13  まず、統括責任者としての病院の責任者を決める必要があるだろうと思います。それ は先ほどお話しているように、いろいろ病院のシステムをいじりますので、責任ある病 院管理者が担当する必要があるだろうということで、院長とか副院長という立場の方が いいのではないかと思っております。各部署の部長さんとか婦長さん、課長さんとか、 そういう責任ある立場の方に、あなたはこの部署のリスクマネージャーですよという意 識付けをしていくということが必要かと思います。それから情報をどう集めるかという ことについては、このインシデントレポーティングシステムがいいのではないかと現在 は思っております。このインシデントレポートを検討する委員会が必要だということ で、私どもは医療評価委員会というのでスタートいたしましたが、リスクマネジメント 委員会という名前に変えまして、今年からは「医療安全推進委員会」というふうに名前 を変えておりますが、いずれにしてもこういう検討会が必要だということです。そし て、その検討結果をフィードバックするということが最も大事なことで、これではじめ て病院の財産になっていくと思っております。フィードバックの方法としては、いまは 2つの方法があると思っています。システムの変更とか、職員全体に知らせなければい けないことについては、武蔵野日赤新聞という院内新聞に、私が原稿を書いて、プライ バシーを保護するような形で加工して書いておりますが、そういう形でフィードバック しております。  個々の各科に特徴的な問題があります。それについては私がリスクマネジメントレ ターという形で、この事例についてはこういうことがこの委員会では検討されました、 改善策としてはこういうものが提案されました、ということをレターとしてお送りし て、文章で検討した結果を返してくださいというような形で、2通りのフィードバック をしております。  こういう委員会が常時院内で行われているということは、1つの事例を11人の目で再 評価されるということが常時行われておりますので、同じ医療行為をしても、より慎重 になっていくという効果があると思います。それを院内の第三の目と呼んでいます。そ ういった意味でメディカル・オーディットと言っているわけです。 ☆スライド14  もうひとつ、これは言うは易く行うは難しなのですが、事実に基づいた正しい記録を していくということです。私どもはこれはうるさく言っておりますが、なかなか実効は 上がっておりませんが、やはり正しい記録、法律家の方がよくおっしゃることは、思考 過程がよく分かるような記録を書いてくださいと言われますが、いずれにしても正しい 記録をするということが大事かと思います。  医療の標準化、これは標準化することで、医療行為の中に含まれるいろいろなリスク をヘッジすることができると思います。これについてはいまクリティカルパスというの がどんどん広まっておりますので、これは経済的効果だけではなくて、こういうリスク をヘッジするという意味でも非常に意味があることだ、というふうに思っております。  危険予知システムについては先ほどお話したこのマニュアルの作成ですが、これにつ いては2、3年に1回、改訂していくということが大事だと思います。これはただ1回 作ればいいということではなくて、2、3年に1回リスクマネージャーという方が、自 分たちがいま背負っているリスクは何なのか。それに対する予防対策は何なのかという ことを改めて、文章で書くことで認識を新たにしていくという、そのプロセスが大事だ と思っております。  今日の資料の中にも入っておりますが、マニュアルの冒頭に「事故防止の原則」とい うのを書いております。これは医師のマナーについて書いておりまして、この点が私は 非常に重要なことになってきていると思っております。  院内に幾つかのチェックシステムを導入するということは大事かと思います。現在私 どもの病院では、このチェックシステムとして機能していただいているのは、看護部と 薬剤部だろうと思っています。  それから院内の医療従事者の教育ということが大切かと思います。こういういろいろ な機会に、私がマニュアルを配って、原則の話をしているということです。 ☆スライド15  個人についての問題ですが、これについては私どもは最初のトップダウン方式でやっ たQC活動は2年弱で失敗しましたが、現在はボトムアップ方式で再度立ち上げており ます。このQC活動というのは非常に有効なツールだと思います。職員の意識改革、仕 事への取組方という意味では、非常に有効な方法の1つだと思います。インシデントレ ポートの記入ということについては、後でも触れるかと思いますが、決して懲罰的な意 味で書いてもらうのではなく、自分が働いているシステムの不備を修正する材料を提供 するのだ、という意識で書いていただくということと、これに書き込むということ自体 が、事故に対する意識付けをしていくということになるかと思います。  ここについては全部お話いたしました。マナーについてもお話いたしました。コミュ ニケーションについては航空機会社では awareness (気づき)を非常にうるさく言って おりますが、これはコミュニケーションの基本だと言われています。もう1つ大事なこ とは医療従事者の間のコミュニケーションです。これは医師と看護婦、医師と技術者、 看護婦と技術者という職種間に、未だに上下関係があると思います。これをできるだけ 並列な、水平な人間関係に作り変えていく必要があると思います。これは決して私ども の病院がこうなっているということではありません。こういうふうにしていくことが大 事だということです。それはどうしてかというと、いわゆる度忘れとか勘違いとか、そ ういうヒューマンエラーというものを防げる唯一の方法は、自分の最も身近な人に注意 をしてもらうことだと言われています。そして、その注意に対して、それを謙虚に受け 止める心、この2つがあれば、たとえヒューマンエラーが発生しても大きい事故にはつ ながらない、発展しないで済むと言われています。これがエラートレラントな組織だと 言われているわけです。ですから、エラートレラントな組織を作る最もベースに必要な のは、注意がし合えるような人間関係ということです。そういった意味では、こういう コミュニケーションを作っていく必要があると思います。これは航空業界のCRMから 学んだことです。 ☆スライド16  医事紛争には幾つかの特徴的なことがあります。これは法律家の方がよくおっしゃる ことですが、半分は経済裁判ですが、残り半分は人格裁判だということです。これはど ういうことかというと、この医者が憎いから訴える、この看護婦が憎いから訴えるとい うことで、私どももそういうことを経験しておりますが、ここで大事なことは医療従事 者のマナーということがいかに大事かということです。これはアメリカで報告されてい ることですが、医事紛争の70%は医療過誤がないのに発生しているということがアメリ カで言われています。その原因は医療従事者と患者さんとのコミュニケーションの不足 だと言われています。コミュニケーションというとインフォームドコンセントというふ うに言葉の問題と思う方が大部分なのですが、実はそうではなくて、患者さんというの は医療従事者の目の動き、表情、そぶりとか、そういう中に医療従事者への不信の芽を 持つようになると言われています。そういう不信の芽が一旦発生してしまうと、その 次々に行われる医療行為の中で、この不信の芽がどんどん膨らんでいって、結局医療過 誤がないのに紛争にまで発展してしまう。ですから、いかにマナーの問題が大事か。こ れは突き詰めていえば、医療従事者の心の問題ということになるかと思っています。  現実の問題をいろいろと処理していく中では、組織の問題は非常に重要なのですが、 一方では個人の性格、素養、技術的な問題というのも問題になることは事実としてあり ます。 ☆スライド17  これは医療事故発生の仕組みということで、絵にしたものです。結局1つのアクシデ ントが起きた場合、事故が発生すればアクシデントです。事故が起きない場合はインシ デントということで理解されていますが、そういうものが起きる現場には、ある不安定 な状況があるわけです。そういうものを作り出しているもっと大元の原因、これはルー トコースと言われていることなのですが、根本原因があるわけです。そこにはそういう 背景としての管理の問題とか、そういった背景因子を修正しないと、再発は防げないと 思っているわけです。 ☆スライド18  これは航空業界がヒューマンファクターの分析でよく使うSHELモデルです。この SHELモデルの考え方は、この真ん中のLはライフウェア、人間なのですが、この真 ん中の人が働くということは、この人がかかわるソフトウェアがあります。それからこ の人がかかわるハードウェアがあります。この人が働く環境があります。それからこの 人が仕事の上で付き合う大勢の人たちがあります。ですから、1人の人が働くというこ とは、常にこの4つのファクター、システムの中で働いているということになります。 事故というのはこの真ん中のLと、この4つのファクターとのすり合わせ、インターフ ェイスがうまくいかないときに発生すると言われています。ですから事例を分析すると きに、この4つのファクターを常に考えながら分析していくと、自ずから問題点が見え てきます。そうすると、そこに解決方法も見えてくるということで、私はこのSHEL モデルというのは非常に有効な分析方法の1つだと思っております。 ☆スライド19  どこの病院に行ってもお医者さんが動かないということが常に言われるわけですが、 これは昨年のあるワークショップで話題になったことを出したのですが、これはお医者 さんの意識を変える意外にないわけです。ですけれども、ではどうやって意識を変える かというと、先ほどのSHELモデルではありませんが、事故は自分たちが働いている システムの不備の中で誘発されるという意識を持っていただく、ということだと思いま す。ですから、いつ自分が当事者になるかもしれないという危機感を持っていただくこ とはもう当然なのですが、ドクターはシステムの中で働いているという意識が乏しいと いうように思います。ですから、そういうシステムの中で働いていて、自分が経験した インシデントとか、アクシデントというものをレポートするということは、自分が働い ているシステムの不備を改善する材料を提供するということです。ですから、結果的に は自分が働きやすいシステムに変わっていくということでありまして、そういうふうに 意識が変わってくると、レポートも出てくるのではないかと思います。 ☆スライド20  ただ、このレポートが出るにはいろいろな問題があります。ですから出やすい環境を 整備するということが必要だと思います。それは先ほどからも話題になっていますよう に、医師は常に不安を持って仕事をしております。ですから、何かそういうアクシデン トが起きたときに、報告をするということには大きい不安を持っております。ですか ら、その報告書に対して法的保護がないと、正直な報告は出てこないだろうというふう に思います。その報告書はそれぞれの施設の中で検討して改善策を作るのも当然なので すが、私は後でも触れますが、今日の資料にもありましたが、国家的な中立な第三者機 関を作って、そこにその報告をする。そして、そこで公正な判断、ということは、本当 にその事故が医療過誤なのか、不可抗力の事故なのか。アメリカの報告などには、事故 のうちの20%ぐらいは不可抗力だということが言われていますが、そういうものかどう かということを公正に判断する必要がある。それで医療側に責任がある場合は医療側で 保障する。だけども不可抗力のものについては、私はそれに遭遇した患者さんは非常に 不幸ですが、それにかかわった医師、看護婦も非常に不幸なわけで、それを公的に私は 救済するシステムが必要だと思います。これは私は医療界の一種の労災保険のようなも のだと思っておりますが、こういうものがあって、はじめて医療従事者は正直に報告す るようになると思います。正確なデータが得られれば、それだけいい改善策が出せるわ けでして、医療従事者も安心して働けるようになってくるのではないかと思っておりま す。 ☆スライド21  これは先ほどちょっとお話しました航空業界のCRMです。これは Cockpit Resource Management というのがもともとの言葉ですが、現在はクルーリソースマネージメント というふうに広く解釈されております。ここでは5つの能力を訓練すると言われていま すが、その中のコミュニケーションのところだけを拾い上げますと、先ほどお話したよ うに、こういうコックピットという限られた空間の中には3人の人が乗っているわけで す。過去においては機長が絶対的権力を持っているために、ほかの人が注意ができない ということで事故につながったことが多かったと言われています。これをできるだけ並 列な人間関係にして、お互いにヒューマンエラーを注意をし合うということで、エラー トレラントな組織に作り換えようということです。機長の役目は責任あるマネージメン トというふうに私は聞いております。 ☆スライド22  これを医療業界に置き換えるとどうなるかと言いますと、患者さんの治療ということ について医師はキュアーでかかわり、看護婦さんはケアでかかわる。いろいろな技術者 はその技術を提供するということでかかわる。事務の方とか医療従事者の方は、それぞ れの知識や能力を提供して、患者さんの医療というものが成立しているわけで、それぞ れが役割分担であるというふうに意識を変えて、人間としてはできるだけ並列な人間関 係を構築することが、お互いに注意をし合える人間関係を作って、ヒューマンエラーを 防げる。エラートレラントの組織にすることができるのではないかと考えているわけで す。 ☆スライド23  これも先ほど来お話が出ておりましたが、リスクマネジメントの手法としては、エ ラーレジスタント、フールプルーフとも言われていますが、いろいろなシステムをエ ラーが起きないような構造的な仕組みを作るということが1つです。それからエラート レラントというのは、たとえエラーが発生しても大きな事故には発展しないような仕組 み作り、この2つがあると言われています。 ☆スライド 医師の世界には、従来はシミュレーターというのがありませんで、すべて がOJTでやられていたわけです。ところが、これも今日ご出席の桜井先生のご講演を 先日伺って、その後、テレビで岐阜医大でこういうことが行われているというのを聞い て、非常に大事なことだと思ったのです。このシミュレーションができないと私どもは 思っておりましたが、いま Virtual Reality (VR)というのが非常に発達してきており ますので、これを利用することで医療界のシミュレーターが作れるのではないかと思い ます。このいまの資料のIOMの報告の中にもありましたが、このシミュレーターを作 ることで、かなりのことが習得できる。そして、事故を未然に防ぐことができるのでは ないかと思っております。 ☆スライド24  現在求められていることは医療の透明性を高めるということで、この4つに大体集約 されるかと思います。正確な事実の記載ということで Documentation、説明義務責任と いうことで Accountability、患者中心の医療を作っていくということと情報の公開とい うことだと思います。 ☆スライド25  こういう活動はどういう成果があるのかとよく言われるのですが、これは航空業界で も同じことを言っておりましたが、loss prevention、あるいはloss control と言われ ておりまして、実際損失を防いだものを、どうやってデータとして出すかというのは、 非常に難しいということが言われています。ただ、私どもの病院の経過から言います と、現在も証拠保全を受けているケースがあるのですが、大きい紛争は減ってきた。払 われる和解金が減ってきたという、非常に下世話なことですが、こういうことがありま す。  では本当に事故は減ったのかといいますと、報告の数からいうと決して減っていると は思いません。ただ、事故に対する関心が高まってきたように思います。看護婦さんか ら最も報告例は多いですが、ドクターからも薬剤師からも検査技師からも、放射線技師 からもいまはレポートが出るようになっています。 ☆スライド26  これは私がこういうことを始めた段階で、こういうものは5年、10年単位でしか評価 できないということを言っておりまして、昨年がちょうどまる5年を迎えましたので、 何で評価するかということで、非常にお恥ずかしい話ですが、「和解金の変遷」という ことでやったのです。昭和56年からのデータですが、こういうふうに棒が立っておりま して、これが最も多額な1億1,000万円を払った和解金ですが、この年は2つあったわけ です。翌年は小さいながら3つありました。平成7年から取組を始めて、翌年小さい事 故がありまして、まあまあうまくいっていたかなと思いましたら、一昨年の12月にちょ っと思わしくない事故がありまして、こういう棒がここに立ったわけです。現在も証拠 保全を受けているものがありますので、ここにもう1本棒が立つのではないかというこ とで心配をしております。 ☆スライド27  これは現在の組織図です。一旦医事紛争が発生しますと、医事相談会というのを開き ます。これは院長、副院長、看護部長、事務部長、庶務課長で構成されています。こち らが予防的なことで、現在私がこのジェネラルリスクマネージャーをやっております。 私の下に、いまリスクマネジメント委員会というのがありまして、医師、薬剤師、検査 技師の方、事務の方、リスクマネージメントナースということで、今年から医師を13人 に増やしまして、全部で17人でやっています。 ☆スライド28  これはまとめのような話ですが、基本的には事故はシステムの不具合の中で誘発され るのだということです。病院のシステムを医師中心の考え方から、お医者さんに都合が いいシステムは結構たくさんあると思いますが、これを患者さん中心に作り換えていく ということが大事かと思います。それはどういうことかというと、患者さんに最も近い 所で働いているのは看護婦さんですので、看護婦さんが働きやすいような仕組みを作っ ていくということだと思います。それから、システムはできるだけ単純化することが大 事だと思います。先ほどお話した医療従事者間の人間関係を変えていくということで す。監査よりもシステムの改善に重点を置いたほうがいいと思います。航空業界で言わ れていることですが、自律した職業人としての教育ということが必要かと思います。  こういう取組はそれぞれ病院によって経営母体も違いますし、いろいろな地域的な状 況、環境も違いますので、それぞれの病院がその病院の中で取り組みやすいような方法 で、こういう取組をする必要があるというふうに思います。  ただ基本的に大事なことは、やはり自分たちの問題は自分たちで解決していくとい う、責任がある自浄作用が働くような仕組み作りということに尽きると思います。やり 方はそれぞれの病院で、その病院に合った方法でやっていただくというのがいいのでは ないかと思います。 ☆スライド29  国家的な取組をということで、ちょっとお話をさせていただきますが、現実にこうい う会が行われておりますので、厚生省としてはもう国家的な取組を始めていただいてい るわけですから、余計なことはもうこれ以上申しませんが、私の希望としては、ある程 度医療資源、スタッフのレベルの揃ったところというところで、私は厚生省の研修病院 が適当かと思っておりますが、そういう病院群で同じようなシステムで情報収集して、 それを先ほど来お話しているような第三者機関で、その成果を全国の医療機関に発信し ていくというようなことが大事なのではないかと思います。そういう病院に対しては、 ある程度経済的な支援もしていただきたいということです。  それから先ほど来お話しているような法的保護が必要だということです。 ☆スライド30  第三者機関については、先ほどもお話しております。これは今日の議論の主題からは ちょっとずれると思いますが、そういう不可抗力の事故についての何らかの救済システ ムというものも必要なのではないかと思っております。 (スライド終了) ということで、ご清聴ありがとうございました。 ○森座長  どうもありがとうございました。それでは残っております時間で、三宅委員に対する ご質問も含めて、何なりとご議論いただきたいと思います。私から非常に簡単な質問を 2つさせていただきます。ごく簡単にお答えいただければ結構です。いろいろなインシ デントを報告するシステムについて論じられ、その中で、報告した人が社会に対しては 十分、病院で機密保持などなさって保護されているというお話でした。しかし他方、院 内ではその報告された人が不利にならないのか病院の上層部の方々にそれだけの度量が あるのか、それが1点です。  もう1つは、MRM活動の成果ということをお述べになりましたが、それによって患 者さんの満足度は上昇したのか、より満足されるようになるのかということです。難し いかもしれませんが、そういう調査があるかないか。その2つについて極めて簡単にお 答えいただければと思います。 ○三宅委員  院内でも報告された人が不利益にならないということはもう原則にしています。です から、いわゆる懲罰の対象にしない、昇進昇給とかに影響を与えないということは明言 しております。ただ、これはいろいろなレベルの問題がありまして、医者として基本的 にどうしてもこれは注意をしなければいけないというような問題があります。そういう 場合は一応カウンセリングということにしておりますが、私は直接そのご本人と面談を して、責めるわけではなくて、基本的な問題としてこういうことは必要であるというお 話をするようなことはあります。これはもう本当に年に1回ぐらいしかありません。 ○森座長  決して大きな不利にはつながらないわけですね。 ○三宅委員  それはありません。それから、患者さんの満足度という点からいいますと、私どもの 病院にもCS委員会という満足度を調査する委員会がありまして、退院する患者さんに も、まだ定期的には全部行われていませんが、いわゆる患者満足度調査というのをやっ ております。そういうものからこういうものがどこまで評価されるかというふうなこと は調べておりませんが、そういう取組はしております。 ○森座長  ありがとうございました。それではどうぞ皆様、何なりとどうぞ、ご質問なりご意見 をいただければと思います。 ○井上委員  やはりどうしてもコストパフォーマンスの問題が出てくると思うのです。先生の病院 でこの委員会を、例えば通常の業務時間外にやられると、職員の残業手当の問題とか、 さまざまなことが出てまいりますね。調剤報酬とか診療報酬を上げてくれとか、そんな 議論ではなくて、精神力でやるというわけにもいかないものですから、安全とコストパ フォーマンスとの関係というのを、先生は何か資料をお作りになっておられますか。そ ういう評価をされていらっしゃいますか。 ○三宅委員  いいえ、それは何もやっていません。実際は時間外についても、はっきり言えばサー ビス残業というのが大部分だと思います。ですから、いまの診療報酬体系の中で、こう いう医師、看護婦の時間外を本当に全部付けたら、人件費は莫大な額になるというのが 現実です。ですから、これは医療関係の方はご存じかと思いますが、現実には病院の医 者というのは非常な過重労働をしています。ですから、時間外を正確に付ければ100時間 を超えるようなドクターはざらにいます。しかし、それを全部払っていくわけにはいか ないというのが、病院経営上やむを得ないというのが事実です。 ○井上委員  難しい問題ですね。 ○三宅委員  難しい問題です。 ○森座長  ありがとうございました。それではほかにどうぞ。 ○川村委員  武蔵野日赤病院のお話は、ある意味ではスキルを持ったリーダーシップをとられる先 生がいらっしゃったということが取組を軌道に乗せられたポイントだと思うのです。私 は今、2つの自治体病院でこの組織体制の確立に向かってアドバイスをさせていただく 立場で入っているのですが、この問題の重要性を認識して、何かやらなければならない と思っていても、その実践を阻む問題が幾つかあると思います。1つは三宅先生のよう なスキルを持ったリーダーがいないということ、それから、いろいろな対策が考えられ てくるのですが、それが本当に効果的かという裏付けがないですし、さらにいろいろ効 果的な対策が考えられたとしても、時間的、経済的な制約の中で困難な問題が多すぎる ということ、それから先程医師の問題がいろいろ出てきましたが、職能間の意識隔差が 埋められないということです。つまり同じ土俵に立てない、1つの部門で起きたことは その部門で解決すべき問題だという意識から抜けられないということが、多くの病院で 共通した問題だと思います。その問題に対して、病院外の職能団体、教育機関や行政が どうサポートするのかということが、効果的にこの体制を進めていく1つのポイントだ と思うのです。いままでも、それぞれ何かがなされてきたと思うのですが、必ずしも有 機的に連携しあって有効な効果を上げる形になっていなかったと思います。  この問題は時間を待てない重要な問題ですから、検討会議の限られた時間の中で病院 が効果的にこの取組をしていくためのサポート体制固めていただきたいと思います。 ○森座長  どうもありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。望月先生いかがですか。 ○望月委員  いまのお話の中で、MRMという委員会組織が、かなり有効に機能しているというお 話をお聞きしまして、1つ確認させていただきたいのが、その委員会、最初は11人の医 師だけで立ち上げられたということなのですが、いま現在はほかの医療従事者も入れた 形になっていると先ほど説明をお聞きしたように思うのですが、その辺りはいかがでし ょうか。 ○三宅委員  私どもは原則としては職種単位にやってくださいということでやっています。ですか ら、看護婦は看護部でやっています。ですから、私は看護部の細かいことはあまりよく 知りません。例えば薬剤師は薬剤部でやっています。ただ、やはりお互いに関係するこ とはいろいろたくさんあります。初めの3年余りは医師だけでやっていたわけです。そ して、最も問題なのはやはり医師なのです。ですから医師の問題をきちっとやろうとい うことでスタートしたのです。ただ、薬剤の問題とか看護婦さんの問題とか、そういう お互いに共通する、あるいは絡み合う問題がありますので、そのトップといいましょう か、部門の長の人にはやはり入ってもらって、横でつないでやっています。ただ、メイ ンの議論はいまでもやはり医師の問題です。ただ、そこで例えば薬剤の問題がありまし たら、そこで薬剤部のほうでどういうふうに取り組んでいただけますかというふうな問 いかけは、私どものほうからしているわけです。 ○望月委員  最終的に横のつながり、医療従事者間のコミュニケーションという意味では、それぞ れの中から上がってきた問題を、最終的には総合的に討論する場というのが設けられて いるという仕組みは、とても重要な仕組みではないかと思います。  それから、分析結果や討議内容のフィードバックについてですが、今回の資料2のほ うで、幾つかの検討会からの提言が上げられておりました。その中で1つ足りないと感 じましたのが、レポートが上がってきました。分析をいたしました。その結果をどうい う形で提供していくか、あるいはどういう形で活用させるのかという言葉が、この中に は盛り込まれていないなという気がしましたので、そこをこの検討会議の方からの提言 の中には入れていただく必要があるかなということを思いました。  もう1点確認させていただきたいのですが、先生の施設ではインシデントのレポート について免責という形で取り扱われているということなのですが、アクシデントになっ てしまったものに関するレポートの取り扱いというのは、どのような形で取り扱われて いるのでしょうか。 ○三宅委員  アクシデントというのも大きいアクシデントと小さいアクシデントがあります。小さ いものについてはインシデントと同じレベルで検討しています。大きいアクシデントと いうのは紛争になる可能性があるとか、患者さんからクレームが付いたような問題とい うことについては、私ども赤十字というのは本社がありまして、本社に報告することに なっていますので、それについては保険会社が決めたフォーマットがあります。非常に 詳細な時系列で全部書くようなフォーマットがありまして、それで全部報告を出しても らうようにしています。それが本社へいって、本社の検討会にかかるというふうになっ ています。 ○森座長  インシデントとアクシデントというのは、ことに役所などでは、かなり分けています ね。日本的な解釈では、結果からみれば明らかに違うでしょうし、社会問題になる、な らない、お金を伴う、伴わないという意味でも大きな違いでしょうが、それらは、あく までも結果としてのことですね。むしろ私の考えとしては、予防という立場からすれ ば、あまり厳密に分けないほうがいいと思いますがいかがでしょうか。 ○三宅委員  それもよく言われていて、私はインシデントというのは被害の及んでいないものをイ ンシデント、被害の及んだものをアクシデントと言っていますが、どうもアメリカでは 先ほどのハインリッヒの法則のところの下の部分、小さいアクシデントから下は全部イ ンシデントというふうにアメリカでは言っているようです。ですから大きい事故をアク シデントと言っているようです。 ○森座長  ありがとうございました。長谷川先生いかがでしょうか。 ○長谷川委員  お聞きしていまして、素晴らしい取組というふうに感激しながら聞いたのですが、特 に歴史的にいろいろな事件を上手にお使いになって、それを力にしながらシステムを作 ってこられたということがよく分かりました。ただ、先生のやっておられることを他の 病院にどう活かしていったらいいのだろうかということをずっと考えながら聞いていた ような次第です。おそらく先生がおられるからできる部分と、そういうのは駄目で、先 生がお作りになったシステムが一般的にほかの病院にも応用できることを、今後考えて いかなければならないのかと。そう考えますと、幾つかこれからは感想めいた話になり ますが、この委員会でも検討すべきことがあるのかなと。病院全体のシステムについて はすごく上手に使っておられると思うのですが、冒頭におっしゃられた、起こってから の対応でなく、未然に防ぐということになりますと、ある程度危険領域を決めて、そこ でどういうふうにしたらおっしゃっておられるプールプルーフみたいなものを作ってい けるかということを想定していって、どこの病院でもできるような一種のパッケージみ たいなもの、システムみたいなものを作っていく必要があるのかなという感じがいたし ました。  さらに、1つの病院だけで解決できる問題でないことをだいぶご提案になったと思う のですが、特に先生のようなリーダーシップを持って、歴史もあるような所ではできて も、一般の病院でやるとなると、周りからいろいろと、先ほど申し上げたアドバイス、 パッケージ、開発もそうでしょうけれども、先ほど話題になっています教育の問題です とか、情報収集の問題、病院の周りに、つまり日本国全体でそれぞれの関係者がそれぞ れ役割を持ってやっていくということが必要かなと。  3つ目に概念的に少しいろいろと混乱しているところもあるのかなという感じがしま した。つまり、リスクマネジメントと、患者安全の問題とか、あるいは計画のミス、実 行のミス、そういうことを少し分けて、前回ご提案があったけれども、時間がなかった のであまり議論されていないみたいですが、それを整理をして分かりやすくすると、他 の病院でも使えるのかなと、そんなふうな感想を持ちました。 ○森座長  ありがとうございました。まだ若干時間がございます。どうぞ。 ○黒田委員  三宅先生の初めのころから、私はいろいろ見せていただいて、大変な努力をされてい るのですが、いま出てきた幾つかの航空の方法論があるのですが、これはまともに成功 したわけではないのだということを、是非とも付言をしてみたいと思います。CRMと いうのがあります。それはコックピット今はクルー、あるいはコーポレートとまでに広 がってきているのですが、リソースマネージメントでして、MRMのRは同じなのです が、リスクとリソースと全く違うわけです。これをやり始めたのが1980年なのですが、 日本航空が雄巣鷹山で520人が亡くなった航空事故の実に大変な損害というものから、各 航空会社が始めたのが1980年代なのです。要するにリフレッシュ訓練なのです。心理的 ないろいろな問題を含めた訓練を1週間ぐらい地上でやりまして、その後、ロフトとい う訓練をやるのです。シミュレーターに乗りまして、その訓練を受けた連中が、ライ ン・オリエンティッド・フライト・トレーニングというのをラクなのですが、実際にト ラブルをコックピットの中で起こさせながらビデオで撮って、それをまたリプレイする という方式なのです。ですから、地上教育とシミュレーターの中で実際に自分がこう思 っていることと、思っている自分が全く違う状態で反応するのだというようなことを、 デモンストレーションするわけです。ただし、この訓練の非常に大切なことは、パイロ ットもそうでしょうし、お医者さんもそうでしょうが、大変プライドの高い方々です。 それは評価には決して使わないという厳然たるルールがあります。ビデオは訓練が終わ った後、必ず全部消すことになっています。個人の評価ではなくて、本人のリソースを 高めるためであるという大原則が、きちっと守られていなければいけないということで す。  もう1つ、インシデントレポートシステムというのは、ディスカッションされていま すが、これも大失敗をやっているのです。エビエーション・セーフティリポーティン グ・システムというのは、アメリカはFAAという連邦航空局に出すようなシステムを 作ったのですが、連邦航空局は処罰権を持っているわけです。その処罰権を持っている ところへ、私はこういうことをしましたと出して、平和にいくわけはないのでつぶれて しまったのです。結局は処罰権を持っていない公正中立なニュートラルな所、それはN ASAなのです。NASAの航空宇宙局に出すようになっていて、大きなシステムがそ こにできているのです。そこにはエクスパートがたくさんおりまして、そのレポートに 対していろいろな処置をするのですが、この状態においても、大変注意をしていること はプライバシー、免責項目に関しては、大変厳重なシステムを持っております。レポー トを出していただいたら、お前のレポートをいただきました、どうもありがとうという 手紙が必ずまいります。その後、処理をし終わりましたら、その人の名前の所だけは切 り取って返してまいります。そのレポートに関して処置が終わりましたら、「あなたの レポートに対してこういう処置をいたしました」という手紙がまたまいります。そうい うような、要するに非常に高い技術者でしかも誇り高い方のグループが、こういうこと にアプローチしていくためには、1つの礼儀作法があると思うのです。これを忘れては 必ずつぶれていくであろうという気がいたします。いずれにしても、雄巣鷹山の事故以 来、日本の航空会社は15年間、少なくとも死亡事故は起こしていないのです。これは大 変珍しいことです。それまでは5年に1回ごとに事故が起こっていたのに、起こしてい ないのです。どこが変わったかというと、先ほど三宅先生のほうからお話がありました エクスパートでもって、すごく誇り高い技術者なのですが、自分たちも必ず事故を起こ すであろうということに、頭の中が変わってきたことだと思うのです。それをやらなけ ればいけないし、しかも2年以内の中に、全員がそれを受けなければいけないという、 ボチボチやっている話ではないのです。そういうシステムがついていかないと、なかな か効果が出ないだろう。もちろんそれが医療関係に通用するかどうかは分かりません が、よほどのシステムデザインをした結果動かないと、ボチボチ絆創膏当て程度のもの になるのならともかく、そうではないある1つのシステムを動かそうと思うと、その辺 のものの考え方を、よほど練ってからシステムを考えていかないといけないなという感 じがいたします。三宅先生のお話を聞いていて、三宅先生は大変ご苦労なさっていると 思うのです。そういうことをどうやってカバーしていくのかということを含めたシステ ムづくりを考えないといけないなという感じがして、そういうことがいま急速に求めら れているわけです。  ですから、具体的にどう動かしていくのかということで大変難しい面があると思いま すが、こういう検討会議でしっかりと検討していただけるとありがたいと思います。 ○森座長  ありがとうございます。礼儀作法、これは簡単なようで難しいことです。三宅先生な どは尽くしておられると思いますが、私には痛い言葉で、役所にもだいぶ痛い言葉です ね。 ○全田委員  先生のご努力は我々医療人にとっては、大変に参考になりますし、学ばなければいけ ないのですが、先ほど座長がおっしゃった患者に対する満足度で、患者数は増えている のでしょうか。 ○三宅委員  いまの医療状況ですので、私どもはいま再来患者をどんどん減らすようにしています が、新患患者は増えています。ですから、トータルとしては患者数は減っていないとい う状況です。 ○堺委員  先にコメントを申し上げて、次にそれに関連する質問を三宅先生にお尋ねしたいと思 います。リスクコントロールというのは日本語では「安全確保」ということかなと私は 理解していますが、それを実現するための組織として、院内のメディカルリスクマネジ メントを作るというのは、大変有効な手段だと考えております。このメディカルリスク マネジメントの今後を考えますと、私は2つの局面があると思うのです。1つは長谷川 委員がご指摘の、どうやって国内に広めていくかということがあろうかと思います。も う1つは、どうしたらより良いシステムを構築できるかということではないかと思って おります。より良いシステム構築のために必要なことをちょっと申し上げて、それに関 連した質問をさせていただきたいと思います。私はより良いシステムを作るためには、 ベンチマークとピュアレビュー、この2つが必要だと考えておりまして、ベンチマーク は現在では自分の病院内で作るしかないと思っております。三宅先生は先ほど和解金の 額をお出しになりましたが、自分の病院を超えてベンチマークが作れるだろうかという ことが1つです。それからもう1つはピュアレビューなのですが、なかなか将来的には 患者さんにも評価していただきたいと思っておりますが、現時点では全国的に第三者的 な患者さんの組織というものも、必ずしも構築されていないように思っておりまして、 外部の目を得るために、第三者機関といってしまえば、それで何となく分かったような 気分になりますが、外部からの目の評価というものをどのように、今後お考えか、この 2つをよろしくお願いいたします。 ○三宅委員  ベンチマークについては私はおそらく幾つかの病院群を作れば、お互いの中でいろい ろな情報を共有していくと、ベンチマークというのは作れるのではないかと思っており ます。それから外部の目を入れるということですが、こういうお話をすると報道関係の 方とか一般の方から、どうして検討会に外部の目を入れないのかと言われますが、これ は初めから外部の目を入れると議論が全然進まなくなってしまうのです。先ほどちょっ と望月さんからもお話がありましたが、最初、他の職種を入れることも私どもがしなか ったのは、ドクターの中でかなり激しい議論をするというのには、むしろクローズドで やったほうがいいということで、私どもはスタートしたわけです。それで、ある程度成 熟した段階で、ほかの部門とつないだということがあります。ですから、ほかの目を入 れるということについては、私もそういった意味では、今度は国立大学がほかの病院ご とにお互いに検討し合うという、そういうことを始めて、あれも非常に面白いシステム だと思いますが、私はそういった意味からすれば、そういう第三者機関みたいなところ へそれを持ち込んで、そしてほかの人の目で検討していただくというほうがいいのかな と。ピュアレビューというのは、アメリカでやられているピュアレビューは、日本の風 土に合うかなというと、ちょっと抵抗があるのではないかというのが私の実感です。 ○森座長  ありがとうございました。まだいろいろとご意見を伺いたいと思いますが、実は次回 も「組織としての効果的な医療安全対策の在り方」という、同じテーマで続けてまいり たいと思いますので、今日はすでに時間を超過しておりますし、これで終わりにいたし ましょう。その前にご報告が2つございます。前回、部会を2つ作るということでお許 しをいただき人選その他は事務局にお任せいただけるかと申してこれもお許しいただい たと思います。そのうちの1つ、ヒューマンエラー部会については参考資料2にござい ますようなメンバーで、実際に6月28日に第1回の会合をもつことになっておりま す。もう1つの、「モノ」にかかわる部分については、現在部会の成立を目指して事務 局で努力中ですので、もうちょっとお待ちいただきたいと思います。  最後に事務局からは次回のこと、あるいはほかに何かございますか。 ○青木室長  次回の日程につきましては、現在皆様方からいただきましたスケジュール表を基に調 整中でございますので後日ご連絡いたします。 ○森座長  それではこれで閉会します。どうも皆様方ありがとうございました。 紹介先 医政局総務課医療安全推進室 宮本、石原 内線 2579、2580