01/05/17 女性の年金の在り方に関する検討会(第6回)議事録 「女性のライフスタイルの変化等に対応した年金の在り方に関する検討会(第6回)」 議  事  録 厚 生 労 働 省 年 金 局 年 金 課 「女性のライフスタイルの変化等に対応した年金の在り方に関する検討会(第6回)」 議事次第                 日 時 平成13年5月17日(木)10:00〜12:08                 於  社会保険診療報酬支払基金9階第1会議室 1.開  会 2.委員出席状況報告 3.議  事   委員のレポートとそれに基づく協議    ・神戸大学大学院法学研究科教授 佐 藤 英 明 委 員    ・東洋大学経済学部助教授    駒 村 康 平 委 員 4.閉  会 ○袖井座長  定刻になりましたので、ただいまから「女性のライフスタイルの変化等に対応した年 金の在り方に関する検討会」を開催いたします。きょうはわかりづらいところで、皆様 大変だったと思うのですが、本日は大変お忙しい中をお集まりいただきまして誠にあり がとうございます。  それでは、事務局より委員の出席状況を報告していただきたいと思いますので、よろ しくお願いします。 ○中原企画官  本日の委員の出欠状況についてご報告を申し上げます。本日は藤野委員が所用のため 欠席しておられます。その他の委員は全員出席されております。 ○袖井座長  それでは議事に入りたいと思います。本日は前回に引き続きまして、委員からのレ ポートに基づく討議を行うということで、レポートを佐藤委員と駒村委員にお願いして おりますが、その前に前回ご報告いただいた住田委員と永瀬委員から、前回のレポート について若干の補足説明をしたいというご希望がございましたので、お2人からそれぞ れ5分以内でお願いいたします。お2人続けて報告いただいて、そして、もし何か委員 の方で質問がありましたら、質問ということにいたしたいと思います。  それでは住田委員からお願いいたします。 ○住田委員  お時間いただきまして恐縮でございます。実は私前回の補足といいますより、前回の 検討会を記事にいたしました4月13日付日経記事朝刊が非常に誤解に満ちて一般の方に 対してはよい影響を与えないと思われるようなものでしたので、その訂正をこの場でさ せていただきたいと考えております。今、こういう話をした途端にうなずいてくださる 方がたくさんいらしたので非常に心強い思いでおります。  と申しますのも、この記事の中身をまず申し上げますと、最後のところで、収入がな い専業主婦から保険料をとるという結論は簡単には得られそうにないとあり、続けて パートなどで、現在は収入が一定水準に達していないため保険料を免れている女性にあ る程度の負担を求めるなどの微調整で終わる可能性もあるということで、パートからも っと取ろうというような、そういうふうな憶測記事を書いたわけですが、これはこの場 では一切出ていなかった発言だと思います。しかも、もし、これを私に尋ねられました ら、今よりさらに低収入の就労調整が起こる可能性があるし、今働いていない方が、さ らに働こうとする意欲を阻害するという意味で、多様な選択肢をさらに狭めるというよ うな非常に問題のある解決策でありまして、このような危険な策を微調整という形で取 るということはおよそ考えられないと、私個人として思っております。このようなもの を出すことによって、今のパートの方に対しても多大な不安感を与えたということは間 違いないと思いまして、この場でこのような調整があるというような憶測記事を書くと いう、この記者の考え方に対して私は強く抗議をいたしたいと存じます。  2つ目でございますが、私自身はこの負担派という形できれいに色分けされました。 もちろん結果はそのとおりでございますが、私は負担ができる根拠として、民法的な法 律的な観点から、今まで議論されていなかったものですが、妻は夫に対して婚姻費用の 分担を求めることのできる請求権があるということをあげました。それから生活保持義 務として、夫婦は同等の生活を送るというような形で相互に扶養する義務があるという こともあげました。ですから専業主婦でも年金を負担することができ、年金受給額につ いても夫と妻同等であるべきというようなことを民法的な観点から申し上げたわけでし て、収入はないけれど負担はできるということをはっきり申し上げたのです。しかし、 このことについては一切触れられていない。これは私の前回の報告の一番の主要ポイン トでありまして、きのうも内閣府の別の研究会でこの話をしますと、初めて明快に説明 されたということで、その部分だけが大きくクローズアップされすぐ皆さんわかってい ただけるのですが、この記者だけは全くわからなかったようでございまして、わからな いなら私のところに取材に来るべきです。  それをどうも永瀬委員にも取材なく、私にも取材なく、あのような中途半端な、私か ら言うと、私の趣旨を記載する記事としては極めて不完全なものと言わざるを得ませ ん。そういう意味ではジャーナリストとして最低限の取材をしないで、不正確な書き方 をしたということについて、私は強く抗議をしたいと思います。  3つ目でございますが、専業主婦の保険料で激論と大見出しがございまして、その 後、弁護士の住田委員、御茶の水女子大の永瀬委員という形で2人の意見を書いており まして、2人を対立させております。永瀬委員もこの見出しが非常にショックでいらし たと思いますけれども、私自身もまた女の戦いをしているのかという受けとめ方をいろ んな方からされました。この書き方自身が女性の問題に対して、女が対立しているとい うことをおもしろくおかしく、ある意味では揶揄している。しかも会議の進行がおくれ ていると。私は進行も予定どおりだと思うんですが、進行がおくれている。それは女が 激論をして足を引っ張り合っているからという言わんばかりの論調だと受けとめた方が いらっしゃるんです。これは記者がそこまで考えたどうかわかりませんが、結果とし て、そういう受けとめ方をされました。  そういう意味で、私はジェンダーバイヤスになるおそれがある記事であり、この記者 の意識も感覚もおかしいと思っております。そういう意味でも私は強く抗議したいと思 っております。以上です。 ○袖井座長  どうもありがとうございました。それでは続いて永瀬委員お願いします。 ○永瀬委員  お時間をいただきまして、どうもありがとうございました。  私も、私自身が第3号の擁護論者のようにあそこの記事に書かれておりましたが、そ れは全く違いますので、その点だけははっきり申し上げたいと思います。私は今後の方 向について、こういう形が必ずいいというふうな強い主張を前回出したというよりは、 今のどういう問題点が現状についてあるのか、その実証的な研究成果をここでの共通の 理解を得たいと思いましてお示ししたのです。つまり何が問題であるのかということを お示ししたつもりです。  そして、私は第3号被保険者の制度が発足後15年以上たった今、矛盾が大変大きくな っているという、その姿をあの場では私としては示したつもりでありました。つまり一 方においては末子年齢が上昇した層での本格的就業を抑制して女性の就業に負の影響を 与えていると。これはもちろん社会保険料だけではなくて税もそうですけれども、家計 補助的に働くことを奨励することがパートの賃金水準を下げている。  ただし、その一方で、現在かなり大勢の女性の方が、子どもが幼いうちに離職して家 庭にいるという事実はあると。そのときにただ単純に3号を廃止することは出産抑制的 な効果を及ぼすというふうに私自身としては考える。そして幼い子どもを持ちつつ働く 環境が十分に整備されてない場合において、次世代育成を担っているという点に一定の 声を与えるべきである。また子どもを産み、ケアすることが年金上負にならない制度に すべきであるというようなことを申し上げたつもりです。いずれにしても、1号、2 号、3号と分ける現在の制度の矛盾は増しており、妻に限らず非正規労働者全体を含め た見直しが必要である。  その一方で、被用者、つまりサラリーマンの妻に限らず、幼い子どもや高齢者の無償 のケア活動に従事していることがあれば、これらを考慮する制度にすべきではないかと いうことを指摘したつもりです。出産に伴い第2号の身分を失うことの多い被用者の妻 について、現在の第3号の制度は一定の子育て支援を果たしているという見方もでき得 ますが、これは被用者の妻に限られており、現在増加しているフリーター、妻、母子世 帯といった子どものケア活動になっている者すべてを優遇しているわけではない。  一方、子どもが一定年齢が達した層で、高齢者ケアなど特段のケアをしてない家庭な ど、家庭にいることを選択している者については、第3号被保険者として保険料免除さ れる理由はないと私自身としては考えている。実際に夫の所得が高い層ほど第3号が多 く、社会保険料免除がある。反対に夫の所得が低い層に妻が第1号として年金負担をし つつ、しかも自分自身の年金給付、つまり2階建部分が増えない層が多く、こういった 逆進性があるということです。  つまり、ではどういった方向がいいのかということについて、前回、はっきりとした 形は申し上げませんでしたけれども、要するに今まで育児や介護といった、こういった 活動は、全く私的領域のものとして担われてきて、それは私的に負担されるもの。そう いう意味で第3号の制度等があったのでしょうけれども、現在そういったものが社会的 にある程度負担あるいは担われることが必要になりつつあるし、実際にその方向に介護 保険制度にしてもそうですし、そういった方向に常に動いているわけです。そういった 新しい状況に入っている。そして、またさらにその方向が進むだろうというふうに想像 される21世紀に向けては、もう一度、この第3号という制度は考え直して、新たに練り 直さなくてはいけない制度であろうというふうに私自身は考えておりますということを 前回お話したつもりなんですが、そのことがほとんど記事には反映されておりませず、 しかも私たくさんの反響を実はいただいてしまいまして、第3号を擁護している者とし て反響をいろんなところからいただいてしまいましたが、それは違うのであると。つま り私は大きな修正を必要だと考えているということを明確に申し上げたいと思います。 ○袖井座長  どうもありがとうございました。お2人のご報告について、何かご意見、ご質問あり ますでしょうか。よろしいですか。住田委員から非常に厳しい言葉がありましたけど、 きょうもたくさんジャーナリストの方が来ていらっしゃいますけれども、できました ら、できましたらではないですね。これは絶対にですけれども、ちゃんと取材をして書 いていただきたいと思いますし、それから議事録もずっとこれまでのも公開しておりま すので、そういうのも読んで正確に報道していただきたいと思います。  それでは、お時間も大分たちましたので、早速本日の議事に入りたいと思います。本 日はご案内のとおり、佐藤委員から主に税制面からのレポート、駒村委員からは主に社 会保障面からのレポートをそれぞれお願いしております。大体お1人20分から25分程度 でご報告いただいて、その後で皆さんからご質問をお受けしたいと思います。お1人の 報告に対して質疑という形でまいります。全体合わせまして、お1人について大体50分 程度の時間で進めたいと考えておりますので、よろしくお願いいたします。  それでは、早速佐藤委員からのレポートをお願いいたします。 ○佐藤委員  神戸大学法学研究科の佐藤です。私の専門は租税法でありまして、いわば税金に関す る法律を専門にしております。租税法と年金制度というのが正面からかかわるのは本当 は年金の3つの局面、拠出、運用、給付というようなものについて、例えば所得課税と いうのはどういうふうに扱うのかということが正面の問題になりますが、それでは、こ の会議の趣旨に沿いませんものですから、本日の私のお話は、まずこの検討会の課題に 若干関連しそうな話題を租税法の分野から3つ選んでご紹介をして、最後に検討会の課 題についての個人的な感想を若干お話しするという構成にいたしたいと存じます。  租税法の分野からは、第1に負担と給付の基本的な設計によく似た問題として課税単 位の問題。第2に女性の就業調整とのかかわりで所得控除、特に配偶者控除、配偶者特 別控除の問題、第3に夫婦の財産のとらえ方として相続及び離婚時の課税問題を取り上 げたいと思います。  最初に課税単位ということについてお話しします。課税単位というのは、所得課税に おいて、どの範囲の人の所得を1つと見て課税するかということであります。考え方と しては個人を単位とする個人単位主義と共同で消費する単位を単位とする消費単位主義 とがあり、消費単位主義にはさらに夫婦を単位とするもの、夫婦に未成熟子を加えた家 族を単位とするもの、より大きな同居の家族等を単位とするものなどが考えられます。  ここには単位を決めるというだけではなく、さらにその税額の計算をどのように行う かという問題もあります。例えば夫婦の所得を合算して、素直に税率表を当てはめる夫 婦合算非分割方式であるとか、夫婦の所得を合算するが、その半分ずつを夫と妻のそれ ぞれの所得と考えて税率表を適用する夫婦合算均等分割方式、いわゆる二分二乗方式が その例であります。  これに加えて課税単位を納税者が選べる選択制であるとか、資産所得と勤労所得とを 分けて課税単位を構成する制度など現実の制度にはさまざまなバリエーションがあり得 ます。課税単位の問題は原理的には累進的な所得税制の下で異なる立場の納税者、例え ば独身者、片稼夫婦、共稼夫婦、配偶者と死別ないし離別して未成熟子を育てている男 性または女性、そういう人たちの間の租税負担の公平をどのようにして実現するかとい う問題でありますが、他方でそれが女性の家庭外での労働や男女の婚姻などを促進し、 または阻害するという問題。少子化問題への対応等々の租税法にとっては外概的な、し かし社会的には重要な問題ともかかわっていることが認識されてきました。  そして現在では累進的な所得税の下では2つの要請、すなわち等しい所得の夫婦には 等しい税負担を求めるという要請と、2人の独身者が結婚することによって税負担に変 更はないというような要請とを同時に満たすことはできないという認識が一般化してい ると言えます。  ここで主要な国々について課税単位の在り方をごく簡単にご紹介しておきましょう。  まずアメリカの連邦所得税においては、もともと個人単位主義であったものが1948年 から夫婦を単位とする消費単位主義となり、二分二乗ですが、そして51年、69年の改正 を経て、独身者、夫婦等々のステータスに応じて別々の税率表を適用する複数税率の制 度となっております。  ドイツは西ドイツ時代に夫婦合算非分割方式の所得税を採用しておりましたところ、 これがボン基本法における婚姻の保護条項に違反して違憲であるとの裁判所の判断がく だされたことから、1958年にいわゆる二分二乗方式に移行して現在に至っております。  フランスは第2次世界大戦後、人口増加を税制面からサポートするために、子どもの 数が増えると世帯当たりの税額が減少するような家族単位主義を採用してきました。  イギリスでは長く妻の所得は夫の所得に合算するという制度が採用されてきましたが 女性の社会的立場の強化等の観点から、1990年に個人単位主義へと変更されました。  日本では戦後かなり徹底した個人単位主義が採用され、特に同居の家族等の資産性の 所得を合算する資産合算と呼ばれる制度が昭和63年の改正で削除されましたことから、 その傾向は強まっているということができます。  このような個人単位主義をとった所得税制については、憲法24条が定める両性の平等 に違反しているのではないかという疑いが主張されたことがありますが、最高裁判所は 昭和36年の大法廷判決で個人単位主義を採用した所得税法は合憲であり、二分二乗方式 は憲法上の要請ではない旨の判断を示しました。  我が国を含め各国における制度の在り方はしばしばその国特有の沿革あるいは偶然に よって決定されている要素が強いために議論を一般化することは困難でありますが、次 のような理解、すなわち個人単位主義が近代的個人的主義の高度に発達した社会に対応 し、消費単位主義が近代的個人主義の成熟度の低い社会に対応するという単純な図式が 必ずしも妥当しないという理解が一般的であることはご紹介しておく必要があろうと思 います。  課税単位の問題は、さきにお示ししましたようにどの範囲の人を1つの単位とするか ということと、それぞれの単位にどのような負担を求めることが公平かという2つの問 題に分解されます。前者については、共同で消費を行う単位、しばしば所得をプール・ アンド・シェアする範囲と呼ばれますが、そのような単位を課税単位とするのがすぐれ ていると考えるのが古典的・伝統的な理解であり、通常は夫婦を単位とすることが考え られております。  これに対して、近年は個人単位主義の優越を説く意見も見れますが、そこには多くの 場合、租税法以外の社会における女性の地位の問題、労働であるとか婚姻であるとか、 そういうものが強く影響しているように思われます。  負担の水準についての議論は非常に多岐にわたりますが、ここでは簡単に2点を指摘 するにとどめましょう。第1に合計所得が等しい場合、片稼夫婦は共稼夫婦よりも負担 能力が大きいと考えられております。その理由としては、片稼夫婦は家庭内にいる配偶 者の家事労働から発生する帰属所得を得ていること。反対に共稼夫婦は食事や子育てを お金を払って家庭外から調達する必要性が大きいことなどが挙げられます。  第2に、伝統的には夫婦が生活する場合には規模の利益が働くので、合計所得が等し い独身者2人よりも夫婦の方が負担能力が大きいと考えられてきました。この点は負担 のみならず給付をも視野に入れて制度設計を行う必要がある年金制度には一定の示唆を 与えるもののように思われます。ただし、ここで、すなわち課税単位に関連して扱われ ている問題は、所得控除であるとか、あるいは税率表の在り方であるとか、そういう別 の問題とあわせて問題点に対処されることが多く、課税単位の選び方だけで片づく問題 ではないこと。また、こういう議論は累進的でそして多くの場合は相当程度包括的な所 得税との関連でなされており、基本的に料率が定率でかつ勤労所得しか対象としていな い2号被保険者の問題等への示唆は限定的に考えられるべきであることを特に申し添え させていただきたいと存じます。  課税単位の問題が長くなっておりますので、次の所得控除の問題は簡単にご紹介をい たします。  所得控除というのは税率を適用する前に所得から差し引く控除のことで女性の問題に 直接かかわるのは現行法上は配偶者控除と配偶者特別控除だと思われます。夫が主たる 所得稼得者である場合、夫が得られる配偶者控除は定額の38万円で、妻の所得が38万円 以下の場合に適用があります。この妻が給与所得を得ている場合、給与収入が65万円以 下であれば給与所得控除の適用によって課税所得が発生しない仕組みになっております ので、65万円+38万円の 103万円までは、妻が給与収入を得ていても、夫がこの妻につ いて配偶者控除を受け、かつ妻本人が所得税の納税義務を負わないということになりま す。この場合、この妻は自分の基礎控除と夫の配偶者控除の2つの控除を同時に適用さ れていることになる点には注意が必要であり、私個人としては問題が大きい制度だと認 識しております。  さて、このように配偶者控除は適用が「ある」か「ない」かのどちらかであります が、配偶者特別控除は夫が受けられる控除額38万円から出発し、妻の所得が増えるごと に控除額が減額され、配偶者控除の適用がなくなっても、その後、妻の収入が 141万円 に至るまでなだらかに夫が受けられる控除額が減少するような制度であります。このこ とはお配りした資料に載せた図でご確認ください。 このような制度の適用の切れ目あたりで何らかの就業調整が行われ、その意味で俗に 103万円の壁と言われるような社会的事実があるかといえば、租税法上あらわれる幾つか の問題事例等から推測して私はあると考えております。ただ、それが税制自体ないし税 制独自の効果によるものなのかどうかについては疑問なしとはしません。 例えばこの検討会の第2回に配付されました資料2の27ページというところの表を見 ますと、配偶者の収入金額によって配偶者手当の支給制限をしている企業は約半数であ り、そのうち4分の3は何らかの理由で 103万円というのを支給制限額としております が、このように税制上の金額が別のところでも用いられ、それらと相まって扶養されて いる妻、あるいはそういう者の所得額についての一種の相場感をつくり出しているので はないか。したがって、そのあたりで就業調整しないと税制に限らず、さまざまな面で デメリットが大きい仕組みになっているのではないかとも想像され得るわけでありま す。 なお、こういう「壁」問題については、以下のような意見が出されることがありま す。すなわちこの問題を解くために、いろんな課税単位、所得控除というようなものを 緻密に扱うというような難しいことを言わずに、多くの人、特に就業調整をしているよ うなパートタイム労働者が障害と感じない程度まで壁の金額を引き上げれば済むではな いかそういう意見であります。もちろんこれは私個人も決して望ましい解決策と思って おりません。しかしながらこれは実用的な発想ではあって、制度の基本構造とか理念と かにこだわって前に進めなくなるとこういう解決策が出てくるかもしれないという自戒 を込めてご紹介する価値があろうと思います。  第3に、夫婦の財産と課税の問題です。さきに引用いたしました昭和36年の最高裁判 決も、民法には別に財産分与請求権、相続権、扶養請求権等の権利が規定されており、 結局において夫婦間に実質上の不平等が生じないよう立法上の配慮がなされていると判 示しておりました。この問題について、本当は夫婦生活継続中のことも視野に入れる必 要がありますが、とりあえず本日は夫婦関係が終了するとき、すなわち死別と離婚のこ とを念頭に置いてお話ししたいと思います。  まず現行の相続税法の下では、配偶者が相続する場合、課税価格のうち最低で1億 6,000万円を超えても民法に定める法定相続分までは相続税がかかりません。このような 制度は夫婦間の相続は同一世代間の財産移転であること。長年共同生活が営まれてきた 妻の座に対する配慮、遺産の維持形成に対する配偶者の貢献の考慮というようなものを 根拠とするとされてきておりまして、特に法定相続分以内であれば非課税となる金額に 限度がないという現行法に直接つながる昭和63年の改正におきましては、バブル期にお ける居住用不動産の評価額の高騰にかんがみて、残された配偶者の生活の安定への配慮 という点が重要な考慮要素とされたものでありますが、逆にそれ以前の制度において は、配偶者の非課税限度を遺産の一定割合としたり、金額的に上限を設けたりして高額 資産層に利益が及び過ぎないようにする措置などもなされておりまして、必ずしも法定 相続分はすべて非課税という発想が貫かれてきたわけではないように思います。 次に離婚の際に、これまで通常は夫から妻に財産分与がなされてきたわけであります が、例えば居住用不動産などを分与する場合は、それを時価による譲渡ととらえて、譲 渡所得が発生するとするのが現在の判例及び課税実務の立場です。私は個人的にはこの 判例は現行法の解釈としては正しい、しかし立法論としては、この場合には課税の繰延 べを行うべきであると考えておりますが、それはともかく婚姻期間中に夫の所得から夫 の名義で取得した資産を妻に分与する場合に、その全体を譲渡と考えるということは、 ここではそのような資産について、潜在的であるにせよ、ないにせよ、妻の持ち分は観 念されていないと考えざるを得ません。学説は早くから財産分与には、妻の潜在的な共 用持ち分の顕在化という部分があり、実質的には共有物の分割であるから、その部分は 譲渡所得の発生原因である譲渡には該当しないという有力な批判を行ってきましたが、 現在まで裁判所の入れるところとはなっておりません。 なお、財産分与を受けた妻の側については、合理的な範囲であれば、特に課税関係は 発生しないとするのが課税実務ですが、理論的には一時所得として課税すべきものであ り、ただ、通常財産分与を受ける側の経済的な立場が弱いということにかんがみて、立 法によって特別な高額な控除を設けるべきだと個人的には考えております。 以上で、租税法の分野における関連する議論のご紹介を終わることにいたしまして、 最後に、この検討会に与えられた課題について若干の感想を申し上げさせていただきま す。申し上げたいことは3点ございます。  まず第1に、この会が検討すべき問題は3号被保険者問題、離婚時の扱い、保険料の 徴収方法と就業調整の問題、はては個人単位化の是非等々と多岐にわたっており、かつ それぞれについて広く見解が異なり得るものが多数含まれております。  他方でこれらの問題は決してばらばらなものではなく、一定程度相互に関連する性格 を有していると考えます。したがって、これらの問題それぞれについて両論併記すると いうような形ではなくて、何らかの具体的な結論を得ようとするのであれば、幾つかの 基本的な考え方を立てて、それぞれの考え方の下で個別の問題がどのように解決される べきかというパッケージを幾つかつくるということが考えられます。例えば制度を個人 単位化する場合としない場合、しない場合について、現行制度を大きく変える場合と余 り変えない場合というように、最低2つ、恐らく3つのパッケージを想定することがで きるのではないでしょうか。このような複数の解決の方向を具体的に提示するというこ とは、その後のこれらの問題についての議論に大きく貢献するものと考えております。  第2に、特定の基本的な考え方の下での問題解決方法のパッケージの作成について は、そこで採用されている理念をどのようにして具体的な制度として設計するかという ことを十分に考える必要があります。私が専門としております租税法のように、複雑に 理念と利害が絡み合って、かつ制度が多分に技術的な分野においては、立派な理念がい ざ制度になると、もとの考え方とは似ても似つかないようなものになってしまう例がし ばしばあります。年金制度についても同じことが指摘できそうに思っております。  例えば離婚時の年金分割ということを例にとってみましょう。私も離婚時の年金分割 というのは1つのあり得るべき解決方法だとは考えます。しかし現実にそれを制度化す る場合には、今後離婚、再婚というようなものが増えることを予想するならば、個々の 被保険者のいわば婚姻ステータスというようなものを継続的に把握することができるの かということを考えておく必要があります。例えばある人の最初の妻は専業主婦で、2 番目の妻は2号被保険者で、3番目の妻はまた専業主婦だったけれども、年金受給開始 前5年ぐらいのところで離婚したというような場合には、女性の側だけではなくて、男 性の側の年金額の計算も正確にやろうとすれば相当複雑なものになるはずです。  そこで年金分割はいいことだからやろうということだけ先に決めてしまうと、こうい う把握がもしもできなければ、結局のところ、離婚して老齢基礎年金以外に独自の年金 がない人、多くの場合、女性ということにこれからしばらくなるのでしょうが、そうい う人については、婚姻歴において、一定の加給をしましょうというようなものになりか ねない。これは負担に対応する給付、すなわち年金権というものを分割するという当初 の年金分割の考え方とは全然異なる制度が誕生する危険性もないとはいえないと危惧し ます。そして、そのような具体的な制度設計を見据えることによって、逆にどのよう な、“基本的な考え方”であれば、そこそこ問題を解決しつつ理念を変質させないのか ということも明らかになるのではないかと考えております。  最後にここで考えられるべき解決策の基本的な性格をどのように理解するかという点 について申し上げます。この検討会で検討している問題との関連でいえば、現在の我が 国の社会状況は非常に流動的だと考えます。そして公的年金制度というものが長年にわ たる非常に多数にのぼる関係者、特に被保険者・受給者を有していて、いわば慣性が大 きな制度であるということを考慮しますと、現在考えられなければならない制度という のは、その流動化している状況そのものに対応する性質を持たねばならないのではない でしょうか。例えば非常に図式的に言いますと、仮に私がそう信じているというのでは なくて、話の前提として仮にそうならばということでありますが、仮に専業主婦が大部 分を占めた社会に対応した制度がかつてあって、将来のいつかの時点で専業主婦が一部 の人々のいわばぜいたくとみなされるような社会が来ると考えるとするならば、今ここ で考えるべきは、その将来の社会状況に対応した制度ではなくて、従来の制度が対応し ていた人々と新しい制度で対応すべき人々が入り交じった状況を前提として、その比率 がだんだん変わっていくと、そういう状況を前提とした制度であろうと思います。その 意味では壮大な経過措置、全体が経過措置としての、あるいは過渡期に対応したという ような制度を構想することが求められているというのが私の個人的な意見であります。  したがって、それは1つの明瞭な理念では割り切れない性格を含む可能性があり、見 た目は悪いかもしれませんが、現実に対応してうまくワークするということを最優先の 課題として考えるべきであろうということを最後に申し上げて、私の話を終わらせてい ただきます。ご清聴ありがとうございました。 ○袖井座長  どうもありがとうございました。それでは、ただいまのご報告について、何かご質問 とかご意見のある方はどうぞ。 ○高島委員  質問ですけど、ここに各国の制度として、アメリカ、ドイツ、フランス、イギリス、 日本の制度が出してありますけど、北欧の例が出してないのですけど、北欧の例につい て説明していただけませんでしょうか。 ○佐藤委員  北欧はたしかもとが資産性所得の合算と勤労所得の個人単位主義化があった後で、そ んなに古くない時期に個人単位化していると思います。ついでに申し上げると、イタリ アも個人単位主義ですね。参考文献の人見、木村編に詳しく出ておりますので、どうぞ ご参照ください。 ○高島委員  私がデンマークの人たちと話していたときに、税金を変えましたと。そのときに個人 単位化にしましたという説明で、個人単位化とはどういうことかという説明のときに、 いや、働いている、働いてないにかかわらずすべて成人は基礎控除がありますというこ とで、基礎控除をもし収入がなければ、一緒に暮らしている人のところにくっつけるこ とができますと。ですから子どものときは児童手当の権利、大人になると基礎控除の権 利、年を取ると年金の権利ですということで生涯保障されていますと、そういう説明を 受けたのですね。  そうすると、形としては日本の配偶者控除と同じなんですけど、概念が全然違うのだ なと思ったのですけど、そういう理解でよろしいですか。 ○佐藤委員  私、デンマークのことは自分で調べたことがありません。今おっしゃった個人単位化 ということと、片稼夫婦の場合であれば、自分個人の基礎控除を働いている方の配偶者 にくっつけることができるというのは必ずしも両立しない制度のように思いますが、全 体としては、確かに我が国とほぼ同じ形であると思います。 ○高島委員  結果としてはね。だけど考え方が全く違うのだと思ったのです。 ○佐藤委員  考え方が違うとおっしゃるのはどういうことですか。日本流にいえば、1人当たり38 万円は国税の負担能力を持たないということをどういうふうに仕組むかの問題だと思い ますが。 ○高島委員  収入があるから税金ですが、負の税金もある。税金も基本的に1人ひとり位置づけ、 基礎控除という形で国の制度の中にすべて位置づけられている。大人であれば全部基礎 控除があると。その所得の概念と基礎控除の概念というのはどういうふうに考えたらい いのかなと、そのとき思ったんですけど。 ○佐藤委員  所得税というのは所得がないときには相手にしないというのが基本ですから、ご質問 の意味を受けとりかねているのですが、個人単位化というのは、所得控除などを含めて 本当に個人を基礎に、所得の大きさというか税負担能力の大きさをはかっていこうとい う話であり、それと全然別のところで所得控除という制度があるわけではないというこ とは確かだと思います。 ○袖井座長  高島委員よろしいですか。 ○袖井座長  参考文献を読んでください。では住田委員。 ○住田委員  3ページの最高裁判決の考え方で、これは課税と民法との考え方、あと社会保障につ いてどう考えるかということについて意見を申し述べさせていただきたいと存じます。 と申しますのは、この課税の問題がありますと、年金もこれで同じではないかという考 え方で引っ張ってこられるのを私はおそれるがゆえに意見を申し述べたいわけですけれ ども、もし私の理解が間違っていたらぜひご指摘いただきたいと思います。  まず民法については、実際は共有財産の分割であって資産の譲渡に当たらないと解さ れるという部分というのは割合民法的には普通の考え方であろうかと思います。ただ、 課税をする場合に当たっては、資産の保有と移転、ストックとフローのどこかの時点を 捕捉して、そこに対して課税していこうという、そういう発想があるかと思います。そ うしますと財産分与といいますのも、実質はこうであっても実際にお金が顕在化して動 くというところをとらまえるわけですから、それを譲渡というか何と言うかともかくと して、財産分与も資産の移転として課税をするのは、一つの解釈として私自身は全く構 わないと思うのです。ですから年金については潜在的持ち分権がないのだからというよ うな発想につながることをおそれております。  逆に年金は実質論を考えるべきだと思っております。大体社会保障関係といいますの は、実質的に見ておりまして、結婚も法律婚だけでなくて事実婚をかなり認めて、それ に対していろいろな保障をしているわけです。そうしますと実質は共有財産の分割であ るということに関していえば、妻と夫は1つの財産について、それぞれ共有物としての 認識をし、かつそれが死別、離別の際に清算されるのだという考え方を、前回、私が妻 にも負担能力があるという根拠として引用させていただきたいと思います。 ○佐藤委員  恐らく住田委員は誤解されてないと思いますが、誤解のないように1点だけ繰り返さ せていただきます。夫が自分の名義で不動産を持っているときに、その不動産を財産分 与して、自分にはもちろん収入が全然ないわけですが、その収入のない夫の側が時価で 売ったものとして課税をされるというのがこの最高裁の趣旨であって、今誤解を招くか と思ったのは、一時所得か何かとおっしゃいましたが、私は一時所得だと思っています が、財産分与を受ける妻は現行法では課税をされていないということです。 1,000万円 で買ったマンションが、今本当は下がっているでしょうが、仮に 3,000万円になってい るとして、それをただで財産分与すると名義人の夫は 2,000万円について納税義務を負 いますよというのが、この50年の判決の趣旨であって、そう考えると、この50年の判決 を論理的に見れば、先ほど申し上げたように、夫の名義になっているものが財産分与と して渡されて夫が売ったということになるのであれば、もらう側にはそこに潜在的な持 ち分があったとは解されないという紹介をさせていただいただけであります。以上で す。 ○袖井座長 よろしいですか、住田委員、大丈夫ですか。何か反論とかありますか。 ○住田委員 課税と年金とは別だという趣旨です。潜在的持ち分の考え方については、民法上はあ るということでありまして、それを年金にはより重視して考えるべきであろうというこ とを私は申し上げたかったわけです。 ○佐藤委員  よろしいですか。 ○袖井座長 はい、どうぞ。 ○佐藤委員 前回、欠席して大変失礼をいたしておるのですが、民法において潜在的な持ち分があ るというのが確立した法状況あるいは法理解であるのかということについてなんですが 最上級審の判決が果たしてあるのでしょうか。私が見聞した限りでは、先端的な下級審 においては潜在的持ち分があり、かつその持ち分は2分の1であるという理解のようで すが、上級審において確立した考え方であるのかどうかというのと、民法学説において 通説といえるのかどうかということについて、いつかをお教えをいただければと思いま すけれども。 ○住田委員  このお話は、前、堀委員にも随分、本当に2分の1ですかと。逆に民法は今回2分の 1のルールをつくって改正をしようとしたのですけれども、つぶされたのは2分の1 ルールに対しても否定的な見解が強かったからではないですかというご疑問をこの間い ただいたので、少しだけコメントさせていただきます。  2分の1ルールにつきましては、実は私法制審議会にずっと関与しておりまして聞い ておりましたところ、法律学者においては異論はございませんでした。それを原則とす るのか、それとも今回の書き方のように、寄与の程度が明らかでない場合について2分 の1とするという書き方をするのか、若干齟齬がございましたけれども、まず妻と夫と 相互の共同生活を営んでいる限りは、2分の1ルールというのは、名前としても十分に 学者の間では定着しておりました。ただ、それが判例がどうかということになります と、財産分与の実質において、正直なところそれほど財産がないときに妻に財産分与が 来る金額というのは、ご承知のとおりたかだかわずかなものですから、全体からしてど うかということになると非常に厳しいものがあるかと思います。  ただ、理念として2分の1ということについて、法律学者においては少数説ではない ということだけは申し添えたいと存じます。 ○袖井座長  堀委員どうぞ。 ○堀委員  幾つかあるのですが、1つは女性と年金の問題で税法との関係で論じられているの は、年金分割です。日本の税法は個人単位課税であって二分二乗課税をしてないのに、 年金について夫婦で2分の1に分割するのはどうかという議論です。それから財産分与 についても2分の1に決定されてないのに、年金だけ2分の1分割を先行するのはどう か、こういう議論がある。これについて税法と年金は関係ないという議論もあるでしょ うし、いや、そうではない、今の国民がどう考えているかということで関係あるのだと いう議論があるかと思います。それについての佐藤先生のご意見を伺いたいと思いま す。  2点目なんですが、前回の報告では、第3号被保険者にも負担能力があるとする論拠 として、潜在的持ち分ということを言われた。本日の冒頭の話では、婚姻費用分担だけ 話されて、潜在的持ち分は話さなかったのでもう取り消されたのかとも思うんですが、 基本的に社会保険、特に被用者保険については負担能力というのは賃金にだけ着目す る。国保などでは資産に着目することはあるのですが、被用者保険ではフローとしての インカムだけを負担能力の判断基準にしている。潜在的な持ち分というのは資産だと思 うんですが、それが負担能力とどういうふうなかかわり方をしてくるのか。 資産を持 ち出してくると、社会保険料を課する際、貯金が幾らあるとかそういう問題が出てくる のではないかと思うのです。  あとはきょうの報告についてですが、資料の3ページに金子先生が潜在的持ち分の議 論をされているのですが、例えば固定資産税は本人名義のものは本人が払うわけです ね。金子先生は固定資産税について、潜在的持ち分については、持ち分権利者が払う と、そこまで徹底されているのでしょうか。これは質問です。  それからもう一点は、配偶者控除についてですが、ある財政学者に言わせると、これ はむしろ自営業者とのバランスでつくられた。というのは自営業者は夫婦で基礎控除を 2つもらえる。そういうような議論から配偶者控除が制度化されたということを読んだ ことあるのですが、それについてのご意見をうかがいたい。 ○袖井座長  2番目のは住田委員への質問ですか。全部佐藤委員ですか、質問は。 ○堀委員  佐藤委員で結構です。 ○袖井座長  お願いします。 ○佐藤委員  年金分割と二分二乗というお話ですが、これは基本的には私は関係ないと思っており ます。特に税金の方でどういう考え方をとったから、年金がどうでないといけないとい う関係にはないというのが私の考え方です。特にきょう申し上げましたように、課税単 位というのは所得税の構造の問題でありますから、その一部にしか当たらない年金につ いて決定的な影響があるというような相互に問題ではないと思います。  2つ目ですが、これはご質問というか、フローに着目して分割できるのかというご質 問でありましょうか。 ○堀委員  いいです。私の意見です。 ○佐藤委員  そのように伺いましたが、1点、今、出典を思い出せないのですが、東京地方裁判所 の判決で、夫婦財産契約を婚姻前に結んで、2分の1ずつの共有にしておいて、それか ら今度は結婚した後で給与所得を分割できるかということが争われた事例で、それはで きないのだと。夫婦財産契約というのは入ってきたものを2人で分けるという話であっ て、そこで契約したから、夫を雇用している雇用主との関係で給与が分割される。いわ ば妻が当然に半分もらえるという形にはならないという判決が租税の方では出ておりま すので、若干フローということに着目すると興味深いものがあるかもしれません。  3つ目は固定資産税ですが、金子先生のご意見で、固定資産税についてこういう見解 なさっているものはありません。少なくとも私は存じません。しかし、それは2つ側面 があって、固定資産税というのは基本的に台帳課税方式であって実質を問わないわけで すよね。年度途中で譲渡されても、それは当事者間で解決すると、そういう仕組みの問 題でありますから、やや仕組みが違うのではないかということと、前回ご議論があった ような婚姻費用の分担の問題として、恐らく内部的に解決されるべき問題だろうと思い ます。  配偶者控除については、自営業者云々というよりは、きょうメモを持ってこなかった のですが、もともと配偶者について扶養控除とは違うのではないか。子女は普通に夫の 所得稼得に寄与しないで、ただ養われるのに対して配偶者はそうではない面があるとい うことから、むしろ配偶者控除を増額し、今度は控除水準の問題で、配偶者控除より劣 っていた扶養控除を引き上げた結果、ある時期から今のような形になっていると私は理 解をしております。  よろしゅうございましょうか。 ○袖井座長  この辺のところは、何か。 ○堀委員  それは『週刊 社会保障』という雑誌にそういう論文が載った。後で事務局に教えま す。 ○ 袖井座長  私もそういうのをちょっと読んだような記憶があるので、どうぞ住田委員。 ○住田委員  先ほどの2分の1ルールを補足させていただきますと、私自身が法制審議会で加藤一 郎先生と星野英一先生もいらっしゃいまして、相続分が妻が2分の1と改正がなって、 これは当然のごとくに財産分与も2分の1であると、そういう理解でございました。で すから法律改正でそれが定着して、国民意識としても固まっていったということで、も し裁判で争われた場合、理念として2分の1ということについては、寄与度、争いがな い限りは多分通るのではないかと理解しております。  よろしいですか、別の話しても。 ○袖井座長  はい、どうぞ。 ○住田委員  きょうの最後の3つの今後の問題の立て方について、私も非常に同感をもちます。私 が申し上げていたのとさらに整理していただいたのでありがたく思っております。例え ば遺族年金を廃止するというのは1つの脅しになっているわけですね。実際今の年齢で 必要な方、今後就労して自ら収入を得られない方に関しては過渡期的な措置としての遺 族年金は必要であろうと思います。  ただ、今後、私たちの年齢よりも若い方は、就職をして自らの収入を得るという可能 性がある限りにおいては、今後はそれがなくなるのですということをきちんとした形で お示しすることによって、1つの新しい21世紀の中での少子高齢化の中で生きる力とい う選択肢を示すというようなことも必要だと思っています。  そういう意味では、今回の検討会は、この目指すべき制度の性格と現在の過渡期的な 対応した制度、常に2つを見据えながらお話しをしないと、どうも将来のことを言うこ とによって、今の方に対する多大の不安を巻き起こすという議論がまま見受けられます ので、私はこれを常に区別してお話しいただければと思います。逆にただ、非常に制度 設計は難しいのだろうなという技術的な困難性は、今おっしゃったように理解はしてお ります。 ○袖井座長  どうもありがとうございました。 ○佐藤委員  すいません、よろしいですか。 ○袖井座長  はい、どうぞ。 ○佐藤委員  賛成をしていただいたのにいらないことを言わない方が賢いのですけれども、恐らく 大枠では、しかし住田委員と問題の認識自体は変わらないと思いますが、レジュメの3 ページは、お話の中で申し上げたように、ゴールというのはあるにしても、ここで考え るのは、そっちのゴールではないのだよということを申し上げたかった意味で、この目 指すべきというのは、今目指すべきというふうに書き加えてください。そうすると30年 後ではなくて、今ここで扱うべき問題は過渡期に対応した制度であるというふうにはっ きりすると思いますので、その点だけ、私は社会がどう動いていって、最後に目指すべ き制度が出てくるなんていうことは考えていない方なんでありまして、常に過渡期だと 思っておりますが、その過渡期を対応にした制度ということで考えようではないかとい う点では恐らく一致できるのだろうと思います。失礼しました。 ○袖井座長  よろしいですか。 ○大島委員  この目指すべき制度のところで、現実に対応してうまくワークする制度というのをお っしゃいまして、それから、前回のときに社会保障は経済社会の動きの後追いをするも のだというようなご意見があったんですけれども、私は今この時期にこの検討会が設け られたということは、男女共同参画社会ということが視野にあってのことではないかと 思うんですね。ですから、この検討会も男女共同参画社会を目指しての女性と年金の検 討会というような名称にしていただくと、目指す方向性というのが非常にはっきりした のではないかと思いますので、できれば、現状は現状としてあるとしまして、やはり年 金制度によっても、現状を変えていくという1つの動機になるような結論が出るような ものにしていきたいなというふうに私は思っております。 ○袖井座長  どうもありがとうございました。大変にご示唆で確かにそういうことだろうと思いま すが。 ○中田委員  1点だけ質問ということで確認だけさせていただきたいのですが、2ページの上のと ころにコメントがありまして、それの2つ目のポツのところで「伝統的には消費単位 (≒所得をプール・アンド・シェアする範囲)主義が有力」と掲げてあり、その下に 「負担能力」ということで、所得が同額の場合、共稼夫婦より片稼夫婦あるいは独身者 二人より夫婦の方が負担能力が高いと書かれているのですが、上の方のプール・アン ド・シェア(二分二乗方式とかそういうものだと思うんですけれども)と下の片稼夫婦 の負担能力が高いということと両立する制度はなかなか難しいと考えてよろしいのです か。 ○佐藤委員  お答えします。必ずしもそうではありません。消費単位をとるということは、夫婦を 単位にして税金を取ろうというだけの話でありまして、その中でどういう制度を仕組む かによっては、この負担能力のところ、このぐらいまでのところは、例えば複数税率で 片稼夫婦の場合こう、夫婦が共同で暮らしている場合はこう、ただ、共稼夫婦がばらば らに申告するときはこういう、結婚してない独身者がこうで、結婚していないけれど も、未成熟子を育てている人はこうというような複数の税率表をつくって、その負担水 準をにらんでいくことによって、これぐらいのことは割合やろうと思えばできるだろう と思います。特に二分二乗だと共稼夫婦と片稼夫婦はイコールになりますから、消費単 位主義をとるとしても、二分二乗方式は望ましくないと言われるのはここに大きく依存 しています。 ○袖井座長  先ほどのアメリカの複数税率というのはそういうことですか。 ○佐藤委員  そうです。もちろん完全な制度ではありませんが、そのとおりです。 ○袖井座長  基礎税率表というのはこういう世帯の在り方を考慮したのをつくっているわけです か。 ○佐藤委員  そういうことです。 ○袖井座長  そうですか。そういうことも可能なわけですね。 ○佐藤委員  さらに言えば、夫婦で今度は共稼夫婦と片稼夫婦をどうするかというと、セコンダ リーワーカーの所得の一定水準までについては、消失控除を設けるというようなことを すると、夫婦で独身者が結婚をして1つの単位になっても、なお、2人目が働いている ということを考慮するというような制度がつくれなくはないはずなんですが、かなり複 雑になります。 ○袖井座長  何か質問ありませんでしょうか。私が質問したいのですが、アメリカの場合、自己申 告ですよね。自分で選んでやるんですか。 ○佐藤委員  夫婦はジョイントリターンを選ぶかどうか決めることができます。しかし、圧倒的に 普通はジョイントリターンをするわけですね。 ○袖井座長  そうすると日本の税金の取られ方というか、在り方そのものまで少し考えないといけ ないかと思うのですが、そろそろ時間もまいりましたが、何かご質問とかご意見ありま すでしょうか。今、佐藤委員、住田委員、大島委員から大変基本的なご提案をいただき まして、これからのまとめについてもいろいろ参考になるかと思います。確かに目指す べきというのはうんと先の方の目指すべきと今目指すべきといろいろあるので、その辺 のターゲットも幾つか置きながら考えていくということが必要ではないかということと それから、佐藤委員がおっしゃった、確かに理念に振り回されないということも重要な ので、その辺のところも考慮しながら、これからの進め方も考えていきたいと思いま す。  それでは時間もまいりましたので、次の報告に移りたいと思います。駒村委員よろし くお願いします。 ○駒村委員  東洋大学の駒村です。私の報告をさせていただきます。私の資料は5ページ以降で す。きょうお話しする内容は大きく5つに分けております。最初の5ページには一番先 頭に1から5。まず、問題意識、この問題をどうやってとらえているか。この制度改革 について、どういう判断基準を持って議論をすべきか。制度改正における制約、どうい う制約があるか。また考え方、事実認識、提言ということで考えております。  最初に、女性と年金の問題については大きく3つの問題があると思っております。 3号被保険者問題、離婚女性の年金の問題、それは年金分割です。 それから、先ほど永瀬委員からあった子育ての支援との絡み、こういうふうに3つある のではないかと思っております。  経済学のアプローチで考えていきますと、制度が正しいかどうかという評価は、その 制度が個人の選択や家計の選択、企業の選択に対して中立的な制度であるか、また効率 的な制度であるかどうかということです。もう一つは公平性を改善しているかどうかで す。公平性にも幾つかの考え方がありまして、1つは私的保険的な公平性の考え方。つ まり拠出に応じて給付をもらえると。この収益率は等しくなっておかなければならない という考え方です。確かに3号被保険者制度はそういう意味での公平性は保障してない と思います。  しかしながら、社会保険の公平性というのは再分配の機能はある。所得の垂直的再分 配という言葉を使ってもいいかもしれませんが、能力に応じて負担して、必要に応じて 給付をすると。この意味では被用者保険が応能負担の原則であるために、所得なしの3 号被保険者の負担ないのはある意味で当然だろう。しかし、所得があるにもかかわらず 130万未満の配偶者は応能負担の対象外になっておる。これは応能負担の例外の水準とし て、この高い水準を認めていいのだろうかどうかというのはやはり考えていかなければ ならない。 次に制度の制約、制度改正のための制約だという点についてですが、1つ目は被用者 保険との整合性、ほかの被用者保険との整合性はどう考えるのかということです。  私は整合性が必要ではないかと思っております。  なお、次にもう一個、制約条件としては実効性がある。例えば未納者を増やさない方法 というのは1つ重要である。しばらくはこの3号の問題を中心にお話ししたいと思うん ですけれども、3号から直接取るといった場合、確かに85年以前は取れていて7割近く 払っていた。                 (スライド映写)  しかし、その時点と現在で可処分所得に占める1万 3,300円の負担がどのぐらい違っ てくるかということを見たのが図1(勤労者可処分所得に対する国民年金保険料の大き さ)です。こういうぐあいに、勤労者世帯にとっては、可処分所得に対する国民年金の 保険料の負担は、この間に、1.8 倍、1984年の 1.4倍まで上がってきている。 過去に未納者がいなかったから、今後も負担できるのかということも必ずしも言い切れ ないのではないかと思っております。 それから、もう一つ、制約条件は、財政的な持続可能性というのも大事です。 また、新しく社会的目標として、先ほど議論があった男女共同参画社会を実現しようと いうのがある。これは大変大事な政策目標だと思っています。ただし、年金改革をした から、男女共同参画社会を実現するのだ、というわけではなくて、男女共同参画社会の 実現を阻害しないような年金制度にしなければいけないのだろうと思っております。 そのほかの関連で考えていることは、そこに書いておりますので、7ページ目の方に 進めさせていただきます。  次にこの3号制度を中心に議論します。これが現実にはどうなっているのだろうか、 どういう影響をもたらしているのだろうかということです。家計は消費や労働供給を世 帯単位で行っているのか、個人単位で行っているのかというのは実は大事な話ではない か。実際には世帯単位で行っていて、消費とか労働供給の決定は世帯単位で行ってい る。そういうふうに仕向けるように年金や租税制度がきいているのかどうかというの は、私はまだよくわかってはいません。  それと関連して、3号制度は家計の、特に女性の働き方の選択に中立でないという議 論。これは先週永瀬委員がその分布を見て、何らかの影響を与えているはずだというこ とを証明されたと思っております。  次に、公平性の議論でありますけれども、先ほどもお話した公平性の議論で、3号の 負担は最終的にはだれに帰着しているのかという問題が1個あるわけですけれども、前 のページの6ページ目の図2で3号の説明をした概念図があるわけですけれども、3号 の保険料の負担は、厚生年金の一部が回るという形で負担をしているということなんで すけれども、そうするとここで試算をしてみたわけです。これが『週刊 社会保障』の 私の論文の17ページにある図であります。 図1の根拠は、今使っている資料が収入と可処分所得が乖離するかというのは、13 ページ、14ページ、15ページに、厚生労働省、旧労働省の労働白書と中小企業白書の根 拠がありますが、それを使って計算をしております。ただ、図1が屈折していますの は、ここは企業の配偶者手当を考慮していますので、それがなければ、これはなだらか に上がっていて、屈折するところは 130万円の手前だけになります。  下のパートタイマーの分布は、これはこの検討会で以前配られた資料を少し集計した だけなので全く同じです。 今議論しているのは表1でありますけれども、現行制度においては、専業主婦世帯 の、これは平均標準報酬月額、これは専業主婦がいる2号の平均の標準報酬月額という のは、こちらの検討会で報告されている40万 2,000円であるということです。だから40 万 2,000円に一定割合を掛けたのが、現時点で専業主婦世帯が負担している保険料とい うことになるわけです。これは全部平成10年の社会保険事業年報から独自に私がつくっ ているものです。ボーナスとか、本当は考えなければならないところですけれども、 ボーナスとか事業主負担はひとまずここでは考えていません。ほぼ比例的な変化なの で、余り大きい問題にならないはずだと思います。 そこで現時点で専業主婦世帯が平均的には幾らぐらいの負担をしているかというと、 1月2万 7,135円、2人分の基礎年金の保険料を払っていると考えると、1万 3,568円 ということです。これは女性の2号の保険料負担が基礎年金に相当する部分は、現時点 で1万4,783 円ですから、女性の2号に対してそれほど大きく負担をかけているという ことではないのですけれども、むしろ大きな負担を受けているのは共働の世帯の2号が 専業主婦世帯の方の負担を引き受けている部分もあるのではないかと思うわけです。  そういうことで、ここに☆2つ書いてありますけれども、平均には専業主婦世帯もそ れなりの負担はしているということを言っておきます。  ただ、現行制度、これはあくまでも平均的な議論ありますから、これは果たしてこの 制度が分布全体で見るとどうなっているのかという点を少し考えていかなければならな いと。つまり現行制度が公平性の議論を考えるときには「ジニ係数」という経済学の言 葉を使っているのですけれども、ジニ係数というのは説明を入れておきましたけれど も、所得の集中度です。これが大きければ大きいほど所得が集中していると。小さけれ ば小さいほど所得がフラットに、分布が垂直的公平性が改善されていることを意味して いるわけです。  ここで次の問題、8ページ目に入るのですけれども、ジニ係数を推計するためには、 3号被保険者がどこにどの所得階層に分布しているのだろうかというのがわからないと 実はどうしようもない。定率で負担して定額でもらうのだけれども、定額でもらうとき に2人分もらう、3号がどこの所得階層に張りついているのかというのがわからない と、この制度が垂直的公平性を改善しているかどうかというのがわからない。実は所得 の低い方は3号は少ないのではないかと。そうなってくると、果たして現行制度がどの 程度公平性を改善しているかというのがまた分かれてくる。  このデータというのは事業年報には報告されていない。そこで間接的に推計をするし かなかったわけです。その推計方法が10ページ目に簡単に書いてある。10ページの図3 です。黒い◆の点は2号の男性の分布です。■が2号の女性の分布です。そして、この (―)は3号の分布を推計したものです。これは婚姻率とかパートタイマー率、そうい ったものから計算をしてみました。ただ、この計算法が合っているかどうか、念のため に民間所得の実態調査を使った資料で再チェックをしてみました。それが11ページの分 布図です。これは民間給与の実態調査を使ってチェックをしてみました。似た分布をし ているのですけれども、500 万か 600万のところに少しずれがありますけれども、これ は厚生労働省の方がもっとよりいいデータを持っていると思います。こういう分布をし ているのだというのがわかった上で、その後、制度改革をやると、公平性が改善される のかどうかということを実験してみたわけです。 その結果が表4になるわけです。表の4で、これはどう再分配なんていう議論を、ま た公平性が改善されているかどうか、どの時点で見ていいかというのが考え方が分かれ るのですけれども、まず負担だけの時点でどうなるか。当初所得のジニ係数というの が、これは1から0の間にジニ係数があるのですけれども、 0.245、これが当初所得で す。  標準報酬月額の幅ですから9万 2,000円から59万の間でやっていますので、それほど 散らばりは大きくない。世の中の全体のジニ係数が0.37ぐらいでしょうから、それより も小さいのです。現行制度は比例でとっていますので0.245 のままになります。 これで2つやり方を計算をしてみました。下の方に、次のページの10ページ目の一番 上に書いてあるのが、定額負担と厚生年金の保険料を16%ぐらいに下げて、そのかわ り、3号世帯に定額で負担をしてもらうというケースです。この場合、ジニ係数は 0.246で若干悪化をします。ただ、(注)で書いてありますように、この計算はデータ の制約上かなり簡易な計算をせざるを得ないので、もう少し大きくなる可能性ももちろ んあると思います。それから、厚生省が以前この検討会でも報告していただいた2通り の保険料率を設定する。厚生省の計算だと、つまり3号、専業主婦がいるサラリーマン から取る保険料は19.3%、共働きの世帯の勤労労働者から取る保険料は16%として、そ れをやるとどうなるかというのが、負担のみで考えると 0.241ということで、若干先ほ どの世帯構造で税率を変えるみたいな話ではないですけれども、差をつけると、実はこ ういう3号の分布の影響もあるんです。定率の方がジニ係数は改善している。つまりよ り公平性は高まっているというのがわかったというわけです。  ただ、これは負担のみの話でありますので、これに給付を加えるとどうなるかという のが、その隣の、現行制度では0.195 、差をつける差を定率負担では 0.192、次のペー ジの3号に定額で負担してもらうという方法は 0.196、現行と3号に負担をしてもらう という形のどっちが公平性が高いかというのはかなり際どいところでは確かにありま す。  こういうぐあいに、1つ、現状把握をしてみました。これから私の改革への考え方を 8ページ以降述べさせていただきたいと思います。  まず大事なのは個人や世帯の選択に対して中立的な制度でなければならないと思いま す。ただし、中立的な制度は個人単位化以外ないのかというとそうでもないだろう。も う一つ、今私がお話したような、要するに 130万円の壁を取り払う方法としてはほかに も方法はあるのではないか、ほかの方法も考えてみましょう。公的年金は再分配効果は ある程度期待されているとまず考えておきます。 もう一つ、考え方として考慮しなければならないのは、高齢化社会でも維持できる制 度として、基礎的社会保障給付はなるべく多くの人が負担をしてもらうという考え方。 つまり私のペーパーの18ページの図3というところで、現在の社会保険の考え方を簡単 に整理してみましたけれども、要するに少しでも多くの人から負担をしてもらうという ことで、少しは応益性の基準の割合も高めていく必要があるのではないかと思っており ます。  8ページから9ページの表2は時間がないので最後に時間が余ったらご説明させてい ただくことにして、9ページ目には、今申し上げた2つの案が、中立性と公平性でまた 実効可能性でどうなのだろうかということで○、×で評価をしてみました。そして、差 をつける定率性というのが、○は私の判断では多いということになりますが、最後に企 業負担に若干の結婚形態と配偶者の就業形態によって企業負担に差が出ますので、これ については少し工夫が必要になってくるのではないかと思っております。  先ほどの政策で公平性と中立性及び改善する政策として必要なわけですが、(図5) 現行をAとすると3号から取るという選択肢は若干公平性を悪化させながら、個人の選 択に関しては完全に中立になるはずなんですね。AからBへの動きというふうに説明で きるだろう。  それに対して定率で差をつける方法は、中立性も改善しながら公平性も改善できる方 法であって1個の選択肢ではないかと思っております。差をつける方法を整理します と、横軸に標準報酬月額、縦軸に保険料の負担を見ますと、要するに傾きに差をつける ということです。そして、この差がここは応能負担の原則を持ちながら、ここを専業主 婦世帯は2人分使っているのでメリット性というか応益負担の部分を加味すると。  これは(図6)、先ほどの制度の改革の制約条件にもう一個入ってくるんですね。ほ かの社会保険制度の整合性という議論でも、ほかの医療保険でもこの考え方は使える話 になってくると思います。したがって、私は割といい考え方かと思っております。  最後に今3号だけの話をしましたけれども、12ページから先ですけれども、先ほどか ら出ているそのほか報酬比例部分の年金分割。これには離婚妻の老後は老齢基礎年金し かないわけですから、離婚妻の貧困について公共政策として何かやる必要はあるのでは ないか。内助の功などを評価していくのは、内助の功を受けたのは夫なのだから、夫婦 間で解決すべきであって、先ほど佐藤先生からありました、ここは実効性です。何回も 離婚、再婚をしている人をどうするかという問題あると思うのですけれども、何らかの 夫婦間での分割方法を工夫できないだろうか。ここは本当にクエスチョンマークが多い ので、気持ちはあるのですけれども、どう具体的にやるべきなんだというのは迷ってい ます。  それから、3番目に子育て世帯に対する優遇措置。これは財政的な面ですけれども、 賦課方式の年金では子どもの存在が持続可能性の根拠になるわけですから、共働きか専 業かにかかわらず子どもを扶養しているような世帯に対しては軽減措置、メリット性、 貢献原理を導入する。今まで応能負担一本でやっていたのに対して応益負担の発想を入 れて、さらに年金財政に対する貢献原理みたいなものも入れていくべきではないか。こ れらの政策はパッケージで行っていって、特定の世帯だけが負担が急激に増えるような ことは避けたいとこういうふうに思っています。  すいません、早口でご説明しました。私の報告は以上です。 ○袖井座長  どうもありがとうございました。たくさん資料があって、時間がなくて全部ご説明に なられなかった部分もありますが、何か質問ありますでしょうか。 ○下村委員  いろいろとご説明いただきましてありがとうございます。私は今実感的には、多分3 号は専業主婦が圧倒的に多い。男性も少なからずいらっしゃいますけれども、一応専業 主婦が多い現実から言いまして、現在専業主婦でいらっしゃる方々、いわゆる当事者抜 きの論議で、それはそれで私も非常に参考になるといったら、大変勉強させていただい ていますけれども、ほとんど現実には3号の主婦の方々は、こういうことを全くご存じ ないというか、だから当事者の声をいつどのように反映させて、こういうことも論議で きるのかというのが1つありまして、特に次回、大沢さんがいらっしゃるそうですけれ ども、9ページには、駒村さん×つけていらっしゃいますけれども、税方式で一挙に開 始しようという論議もありますが、そういった情報が現に専業主婦世帯や、あるいはそ ういう当事者たちに果たして情報としてどのくらい届いているかなということを抜きに して、本当にここら辺で何かの方向性が見出せるのか、ちょっと疑問に思ってます。 ○大島委員  私は3号を経験しているということでここにいるんですけれども、現役3号ではあり ませんので、今現役3号の方の意見をとりたいと思いまして、個人的にですけれども、 アンケートの項目、座長さんにもチェックしていただきましてとりつつあります。個人 的ですので、数はそう多くはとれないかと思うんですけれども、そして、また結果が賛 成になるか反対になるかわからないのですけれども、主婦の就労と年金についてという ことで、一応6月末ぐらいまでで集めてみたいと思ってますので、その結果が出ました ら、また報告させていただきたいと思っています。 ○袖井座長  どうもありがとうございました。一応3号の方につきましては、一度ヒアリングをし たいということで計画しておりますし、今大島委員がおっしゃったようにセンター、ご 利用になっている専業主婦の方に簡単なアンケート調査をしていらっしゃいますので、 その結果などもご報告いただきたいというふうには考えております。今のはご意見でし たが、駒村委員のご報告に何か質問。堀委員の次、宮武委員、そちらからどうぞ。 ○堀委員  資料の17ページの表1です。『週刊 社会保障』の論文なんですが、この表1はきょ うの報告のポイントになるものだと思うのですが、これを見ますと専業主婦世帯2号の 平均標準報酬月額は40万 2,000円で本人負担保険料は2万 7,135円。共働き世帯2号の 平均標準報酬月額は一人26万 8,000円ですから、夫婦合計すると53万円ぐらいになる。 その本人負担保険料は両方合わせて1万 8,000円ということですね。 ○駒村委員 違います。 ○堀委員 3万 6,000円ですね。 ○駒村委員 計算根拠を出していませんけれども、ちょっと複雑なんですけれども、3万 6,000円 です。 ○堀委員 これを見ると共働き世帯2号の本人負担保険料3万 6,000円と比べて、専業主婦世帯 2号の2万 7,000円が低いと、こういう説明だと思うんですが、厚生年金というのは応 能負担ですから、共働き世帯の所得が高い以上、負担が高くなるのは当たり前だと私は 思います。しかも、保険料負担が共働き世帯の方が高いから、専業主婦世帯の保険料 を、1人当たり1万 3,560円から1万 7,960円にしたらどうか、こういうことですね。  この提案は定額負担にするということでしょうか。先ほど説明があった定率負担とは 違って定額負担にするのでしょうか。定額負担とするならば、それぞれの世帯類型ごと に所得の低い世帯もあれば高い世帯もあるんですね。1人当たり保険料というのは平均 の話であって、それぞれの世帯をとると、所得によって低い場合もあるし高い場合もあ るんですね。そういう低い場合も高い場合も込めて定額負担にするのか。最後の説明で 定率負担の方が望ましいと述べられましたが、その結論とこの表1の保険料とはどうか かわるのか。これが2点目ですね。  あと1点ですけれども、定率負担を課すというのは1つの解決方法ではあると思うん ですが、その場合に、だれを定率にするのですか。夫に定率負担を課す場合と、自ら1 号として定額保険料を払う場合との区別はどうするんですか。現在は年収が 130万円以 上、妻に収入がある場合には1号になる。提案している制度では年収が 130万円以上あ ってもパートである場合には夫に定率負担を課すのか、1号として負担させるのか。そ の辺、考えをお聞かせください。 ○駒村委員  ちょっと説明がわかりづらかったと思うんですけれども、私が主張したいことは、現 在応能負担だけである。しかし、被扶養者認定の 130万円というのは水準としては高過 ぎるのではないか。それが個人の労働供給に対して非中立的な影響を与える。さらに応 能負担を現行のままだと、公平性はどうなっているかというのは、さっきのジニ係数で 見ましたけれども、それよりも中立性に、個人の行動に非中立的な影響を与えていると いうものも、これも注意しなければならない。それを解消するためには、1つは応能負 担を修正する部分で、基礎的社会保障の受給に対しては応益的な部分の要素を入れてい くと、保険料に差額が出てくるよという説明をいたしました。 これを踏まえて、先生のご質問は、今1〜2点は答えたんだと思うんです。最後の分 布の問題は、どういうふうに3号が分布しているのか。平均の議論はわかったんだけれ ども、分布が違うのではないかというのは、私は10ページ目の図の3で答えているつも りです。一応政策的なシミュレーションは、負担の増減というところで、定率に差をつ けることをやると、増減がこのくらい出ますよということを出しまして、それから、そ れがジニ係数という形の公平性に与える影響は10ページ目の上の表のジニ係数の動きで 説明して、現行よりはそういう定率に差をつけることによるジニ係数の改善度はよりい いはずだという計算を出します。  それから、先生がおっしゃった定率を差をつける保険料率にしたときも、専業主婦は どうやって定義するのかという問題は、私もなかなか迷って、例えば簡単にパートタイ マーの雇用保険の90万がいいのかなとかいろいろ思ってはいるのですが、ただ、夫の所 得が高い女性、これは年齢も高くて子育て期間を終えている可能性も高いのですけれど も、この人は働かないとデメリットが大きくなるという仕組みにはなっています。だか ら、そこをどこで専業主婦と定めるかというのはちょっとまだ迷っていますが、現行で もいいだろうが、それは働かない方が、夫の所得が高くて働かないと、3%の部分、夫 が負担をしてしまうわけですから、高所得者の妻ほど損をする制度になります。 ○堀委員  いいですか。 ○袖井座長  はい、どうぞ。 ○堀委員  私が聞いたのは、 130万円という区分が残るのかということです。残るとすれば就労 調整の問題が残るのではないかというのが1点です。  17ページの表1で、現行と改革とあって、専業主婦世帯2号については、保険料を1 人当たり1万 7,960円にしますと、こういう提案、改革案がありますね。だけど、専業 主婦世帯の標準報酬月額の平均は40万円なんですが、10万円の世帯もあれば 100万円の 世帯もある。そういう状況の下で一人当たり1万 7,960円の定額保険料を課すのかと、 そういう質問です。 ○袖井座長  これは定額ではないんですね。 ○駒村委員  私は定率で取ればいいという話をしております。それから、非中立的な影響を与える だろう、確かにかなり際どくなってくるんです。夫の所得も変わってきますから、働か ない場合のメリットというのは高所得者ほどデメリットは大きくなるわけです。ジニ係 数の計算というのは、本当に1時点でやっていいか、給付を考えてやっていいか、多分 高所得者の奥さんというのは、子育て期間も終わっているだろうしというのを考えれ ば、それほど非中立的な影響を持たないのではないかと思っております。働かない方が これはデメリットが発生します。以上です。 ○袖井座長  130 万はどうですか。 ○駒村委員 どこかで、本人負担か夫の定率負担か分ける壁の部分は残ります。 ○袖井座長 それは取り払ってしまうわけですか。 ○駒村委員 働いても働かなくても取られちゃうわけですから、夫の比例で、意味がなくなるわけ ですね。 ○袖井座長 堀委員よろしいですか。 ○堀委員 全部定率にするわけね。 ○駒村委員  全部定率です。 ○宮武委員  同じような質問ですが、ただ、前提条件として、まだこの論文の方をきちんと読まな いので理解ができてないかのかもしれませんけれども、堀先生と同じように17ページの 表1のことで、基本的なことを聞きたいのですが、これは厚生年金は 17.35%を労使折 半で負担をするわけですが、ここの部分は基礎年金に限った保険料として計算されてい ますね。それはどういう計算の仕方なんですか。 ○駒村委員 それは社会保険事業年報の中から、財政のやりとりをして、それを頭割りにしていけ ば出てくるものなんです。労使折半にはまだしていません。ただ、これを2で割れば、 ほぼそれと同じ額になります。簡単に掛けていけば。 ○宮武委員  基礎年金勘定に対する拠出で、それと割られたわけですね。そういうことですね。 ○駒村委員  そういうことです。 ○宮武委員  そうすると、駒村さんの計算によっても、現在は専業主婦の2号の人たち、1人当た り1万 3,568円というのが目安として出てくるわけですね。 ○駒村委員 この程度は。 ○宮武委員 そういうことですね。逆にいえば、今の自営業の方たちの夫、妻の負担は定額で1万 3,300円ですから、すべての被用者の負担よりも、1号の方たちの方が低いわけですね。 そういうことも言えるわけですね。 ○駒村委員  ボーナスを入れてないとか財政の細かい出し入れの部分が抜けていますので、1万 3, 300円を 200円高くなっているか、この辺の端数の部分、 500円ぐらいの話は何とも言え ない部分ですけれども、イメージ的には1万 3,000円ぐらい負担しているのではないだ ろうかと、平均的にはと。 ○宮武委員 だから、自営業者の人たちの方は1万 3,300円ですから、被用者の側の方がずっとみ んな高いんですね。 ○駒村委員 そういうことですね。この計算は、厚生労働省が2回目のときに出している計算とか なり近いんです。本来はそれと一緒になればいいのですけれども、財政的なデータが手 元には必ずしもないので、こういう形になりました。これはそういう意味での注は必要 です。 ○坂本数理課長  今の関係で、事務局からこういうことを言わせていただくのも大変失礼かと思います が、先生の推計では国庫負担の扱いはどういうふうになっているのでございましょう か。 ○駒村委員  国庫負担は抜いているはずです。 ○坂本数理課長  基礎年金拠出金の。 ○駒村委員  基礎年金拠出金の中から国庫負担を抜いて計算している。 ○坂本数理課長  抜いて、この。 ○駒村委員  特会のデータから国庫負担を抜く必要があります。 ○坂本数理課長  そうでございますか。 ○駒村委員  ちょっと確認してみます。問題が確認できれば再計算します。  それから、40万 2,000円という計算をしましたが、きょう配りました資料の方で見ま すと、ちょうど標準報酬月額の分布から、これも3号のいる世帯の標準報酬どのくらい なんだろうかということは逆算できたので説明しておきますと、大体40万ぐらいになり ますので、厚生労働省が前に。 ○袖井座長  それはどれですか。 ○駒村委員  これは図3を使うと3号がいる世帯の標準報酬月額は計算できるのですね。合計して 割ればいいですから、大体40万ぐらいになるので、以前、こちらの方で発表された40万 2,000円、それにほぼ近い感じになってますので、分布としては、それほど歪みがあるよ うな推計はしてないと思います。 事務局からご質問があった件について見てみますけれども、多くなってますか。 ○坂本数理課長 大変失礼なんですが、感覚的にちょっと多いような、宮武先生のご指摘で、1号の保 険料水準から比べますと少し多いような感じがいたしますので。 ○駒村委員  ただ、1号が今1万 3,300円というのは税の援助を受けた後のあれですから、それと バランスとれていればちょうどいいということではないのでしょうか。頭割りをすると みんなほぼ同じ額を負担すればいいんです、1号、2号、3号も頭割りをすると。 ○坂本数理課長  ただ、1号は、それ全体が即基礎年金に回っているわけではございませんので、ちょ っと比較が難しいかと思いますが。 ○駒村委員  再計算します。 ○吉武審議官  非常に大まかなことで申し上げますと、年金白書にも何回も出しているのですが、い わゆる厚生年金の過去勤務債務を確定した部分、これが四百幾らでしたか。 ○坂本数理課長  450 兆でございます。 ○吉武審議官 450 兆のうちの基礎年金部分が 120兆と言われています。330 兆は報酬比例部分と言 われているので、ただ、現在の基礎年金の拠出金は賦課方式でやっていますので、そこ とは違うのですが、大まかに申し上げれば、基礎年金のウエイトというのは、450 兆に 対して百数十兆、厚生年金というのは報酬比例部分が非常にウエイトが高い。端的に申 し上げますと、私も今頭で計算しただけなんですが、平均標準報酬月額40万円に対し て、今17.35 が保険料率ですので、本人が 17.35の2分の1ですから。 ○駒村委員  8.675 。 ○吉武審議官  ぐらいなんですね。それを40万で掛けますと3万数千なんです。それに対して、基礎 年金部分が2万 7,000円というのはどう考えても高過ぎる。 ○駒村委員 これは労使折半をした数字ではない。だから、労使折半の数字出すために半分に割れ ばいいので、労使折半をした数字ではありません。 ○吉武審議官 事業主負担も入っている数字ですか。 ○駒村委員  そうです。だから、2で割ればいいんです。労使折半がどっちに帰着するかという問 題もありますから、ひとまず載せてみただけなんです。これを労使折半にするためには 全部2で割ればいいだけです。 ○吉武審議官  17.35 で計算しているのですね。 ○駒村委員 そうです。 ○袖井座長 住田委員どうぞ。 ○住田委員 今、この表につきまして、細かいところでの疑義がおありなようですから、私ども素 人としましては、いろんな要素を加えたジニ係数というものを1つの尺度にすることに していろいろなものをつくっていただくと、第三者が見てわかりやすい説得のできるよ うな説明が可能になるのだということをきょう初めて示していただいたような気がしま す。実際私自身もいろんな仲介の調停とか仲介役やりますときに、コンピュータでいろ んなシミュレーションいたしまして、ここは最も合理的な幅であろうというようなとこ ろを示して当事者を納得させるということが多いわけでして、ですから、きょうのお話 はジニ係数を用いて、国民に対する説明もできるのではないかなという気はしておりま す。 抽象的に不公平だ、ずるいというような話ではなくして、ジニ係数という1つの尺度 を用いられるとしたら、それは1つの説得材料ですので、ぜひそのあたりも専門の先生 方で、別の尺度がもしおありだったら、それもかみ合わせて、こういった制度設計があ るということを見せていただくと非常にありがたいと思います。 前提ですが、定率負担というときには、専業主婦世帯においても、専業主婦について は負担をするということで、その根拠としては、前回申し上げたような形で、婚姻費用 分担請求権、分担義務があるということを前提としているというふうに考えてよろしい のでしょうか。 ○駒村委員 私のアプローチは、要するに社会保険の被用者保険の応能原理を高齢化社会でだれも が利用する部分について、応益原理という要素を強めていくということなんです。法律 上の説明というところまでは私は頭に入っておりません。すいません。 ○住田委員 そうしますと、どうもこの話は、私が初めて言い出したことらしいので、法律、特に 民法学で、実はこの話をするときに法務省の担当の参事官とも話ししまして、2分の1 ルール及び婚姻費用の分担請求権についてはいいのではないかという話を実はしてきた んですけれども、それをより広範な形でいろんな形で納得していただけるような議論を これから進めておきたいと思います。ですからぜひ経済学者の先生方には、その部分に ついてのご議論を深めていただければと存じます。 ○佐藤委員  2つご質問を申し上げます。1つは、ご報告の中身ですが、11ページの図なんですけ れども、B点とC点の上下方向というのは今話題になっていた9ページの表4に対応し ていて、縦方向は非常にシビアな定性的のみならず定量的な結論であるということはよ くわかっているのですが、B点とC点の横軸方向というのが一致するというのは、これ は定性的な話なのか定量的な話なのか、私理解が行き届きませんでしたので、もう一度 ご説明いただければ幸いです。それが1点。  もう一点は、よりアバウトな話でして、消費と労働供給というのは世帯単位で行って いるだろうというお考えで、私も賛成ですが、先ほど申しましたように、租税法では伝 統的にはそういうふうに言ってきたのですが、女性に経済力がつく。それから離婚率が 上がるという2点をとらえて、その見解そのものに疑義を呈する、個人単位化を主張す るというのが世界的にも潮流になりつつあるように思いますけれども、それとの関係 で、労働供給と消費決定が今後とも世帯単位でされると私は考えているのですけれど も、駒村委員はどのようにその点を見通すかということについて、若干感想をいただけ ればと思います。 ○駒村委員  図5なんですけれども、概念的に公平性はA点から見て、BとCではBの方がより悪 くなっている。つまり定額負担の方が少し悪くなる。Cの方がよくなると。これは縦の 動きなんですね。横の動きは中立性、要するに3号という制度がなくなるわけですか ら、働き方に対して制度は中立になると言っているわけですけれども、ご指摘のとお り、C点はもしかしたらもう少し内側に入って、さっき堀先生がおっしゃったように、 働き方によって損得が残ってしまうわけですから、もしかしたら内側に入ってくる可能 性はあります。B点は完全にニュートラルというか、3号制度そのもので縮小するわけ ですから、Cの横の動きはもしかしたら出るかもしれないと思います。  それから労働供給、消費決定がどういうふうになっていくかというのは、実証的にど うなのかという点なんですけれども、これはたまらないので、永瀬委員、この辺の研 究、先行研究を教えていただいて、逃げたいと思っております。お願いします。 ○袖井座長  永瀬委員どうですか。突然矢が飛んでいきましたが。 ○永瀬委員  私は個人的にはかなり世帯単位で動いている部分はあるのではないかと思います、消 費及び労働供給ですね。ただ、多くの国でシングルで子どもを生む方ですとか、あるい は離婚の増加ですとか、そういうことが起こっていますが、日本はそれがほとんど起こ ってない、かなり特異な国でありますね。そのかわり結婚が起こらない、出産が起こら ないという形の歪みが出ております。現行の制度が今のような世帯単位を日本では強化 している側面があります反面、実際の生活上でやはり世帯で生活しているという事実は あると思います。もちろん、制度がかなり選択を強化している側面があって、しかも、 その垣根が非常に高いのでAかBかという場合、例えばBが起こりにくいとか、そういっ たデメリットがあるのではないかと感じてはおります。  ちなみに、きょう報告するつもり全然なかったのでよく覚えてないんですけど、スウ ェーデンとドイツの女性の労働供給、あともう1カ国調べたシブ・グスタフーノンの ペーパーを思い出しますけれども、税制や社会保険料等の仕組みが非常に女性の労働供 給に影響を与えているという事実を示しているんですね。スウェーデンで労働供給が高 いというのは、先ほどく高島委員からご指摘がありましたけれども、私はそのことをそ れほど詳しく知っているわけではありませんが、単に税制だけではなくて、雇用保険で すとか年金とかすべてを含めた社会的な仕組みの中で、比較的一人前に働くことを奨励 する制度であるかどうかということが総合的に選択を変えるのではないか。そして、 ヨーロッパ諸国で国の諸制度を比較し、それが女性の労働供給もしくは家族形成にどの ように影響を与えているかという実証研究は最近幾つも行われていますけど、すべてそ れらは非常に大きな影響を与えているという結論を得ているので、どちらが先かという ことに関しては、影響し合っているということ、そしてその影響力は強いということを 申し上げておきます。 ○袖井座長  よろしいでしょうか。 ○永瀬委員  質問なんですが、よろしいですか。理解が足りませんので質問しますが、12ページの ところで、19.2%と16%というふうに定率で分けてあるのですけれども、これは、例え ば専業主婦世帯が増えるとか、共働き世帯が増えるとか、そういうことでちょうどうま く均衡するようにこの率は変えていくんですかということが1つ。  それから、あともう一つは、年金受給面に関しては、つまりこれは基礎年金部分のみ を考えた差異と思ってよろしいわけなんですか。 ○駒村委員  この16、19.2というのは、私の計算とは違い、これは厚生労働省が前に発表した数字 です。これは基礎年金だけの話の差が出てくると思うんですね。だから 3.2%部分はそ の差です。 それから、動く可能性は多分あると思います。ただ、それは財政再計算というのがあ るわけですから、5年に一度動きます。男女共同参画社会が実現していけば、この差が 小さくなってくる可能性もありますよね。以上です。 ○袖井座長  そちらで説明してください。 ○坂本数理課長  今、駒村先生ご指摘のとおりでございまして、当面、今3号に保険料を付加するとす るとどうなるかという計算をしただけのものでございまして、将来ともこの率で均衡が 保たれるという結果ではございません。 ○度山年金課補佐  もう一つ、報酬比例部分のご説明を申し上げます。年金の計算上、保険料率と年金額 は関係しなくて、標準報酬月額に乗数を掛けて期間を掛けて年金が計算をされる仕組み になっていますので、19.2%と16%というふうに率を分けた場合の率の違いは報 酬比例の年金額には影響しないという形で設計されていると考えます。 ○翁委員  非常に興味深い試算で大変おもしろく伺いました。少しアバウトな話ですが、個人単 位化という定義にもよると思うんですけれども、きょうお話になったこの2つの定額負 担と異なる定率による負担という話は、今まで専業主婦世帯3号だった方にある一定の 負担が加わるという意味においては個人単位化と、制度の変更としては同じ意味を持つ ように思うんですね。しかし、新たな男女共同参画社会に向けて個人単位化に変えてい くという大きな方向転換による、女性全体に対する職業の選択とか、婚姻の選択とか、 いろいろな選択肢が広がることに伴う制度全体の効率性とか、今定義されていた中立性 のメリットということを比べますと、さっきまさに佐藤先生がご質問された点にもある のですけれども、図5の公平性と中立性という観点で個人単位化に伴う、中立性とか効 率性へのメリットはかなり大きい可能性もあるのではないかという気がするんですね。  表3のところでも、同じ○、中立性、公平性、実効性というところで比較されていま すけれども、個人単位化ということに伴う中立性の効果の程度の差が若干違ってくるの ではないかというようなことを感覚的に思うのですけれども、その点についてはどのよ うにお考えでしょうか。個人単位化だけではないというご指摘があったのですけれど も、個人単位化ということの位置づけ、特に効率性に与える影響についてどのように考 えておられるか。 ○駒村委員  個人単位化しなければいけないとか、そういう政策基準というのは私の頭になくて、 中立性を改善すれば、それはどういう方法でもいいのだろう。保険料率に差をつけて も、女性の就業率が高まれば、最終的には余り変わらなくなるのではないかと思うんで す。料率が動いていって、もしかしたらほとんど差がなくなるのかもしれないです。た だ、ご指摘のとおり、11ページの図5で、BとCで、もしかしたらCの方が中立性がよ り小さい可能性もあると思います。そうするとBとC、どっちをとるかというのは、ま さに社会的な判断しかなくなってくるわけですね。これはBとCの関係だったら、どう 見てもCの方が中立性が同じで効率性が高ければ公平性が高い方がいいに決まるわけで すけれども、中立性は片方が高くてという形になると、Cが内側に来ると、中立性をと るか公平性をとるかという選択に迫られると思います。その場合、どう考えるのかとい う点はある。ただ、料率変えることによって、行き着く先はそれほど差がないのかもし れないと思います。以上です。 ○中田委員  3点ほどご質問させていただきたいのですが、1つは9ページのジニ係数の関係なん ですが、ジニ係数が、例えば 0.245から 0.241とか、動きが非常に微妙なんですが、ジ ニ係数動いた場合に、どのぐらい動いたら意味があるかというのを読むのは非常に難し いと思います。特に今回の場合は推計がかなり入っているので、恐らく推計誤差も入っ ているということで非常に難しいと思うのですが、その点はどうお考えなのかというこ と。それから、ジニ係数の場合は、所得が中位のところにウエイトがかかるというふう に通常言われていると思うんですけれども、年金の負担の場合ですと、低所得者が実際 上は問題になるので、必ずしもジニ係数という指標がいいのかどうか、という問題があ るのではないかと思いますが、その辺はどうお考えなのでしょうか。 それから、ジニ係数ですと、全体の指標ですので、それぞれの動きがなかなかわから ないので、使うとしてもジニ係数だけでなくて、そのもとになるそれぞれの世帯の分布 に合わせて見てみないと、ジニ係数だけから判断するのは危険ではないかと思います。  ジニ係数について先ほど住田委員からご意見がありましたけれども、ジニ係数を評価 の指標として使う場合の有効性についてどうお考えなのかというのをお聞きしたいと思 います。 それから2番目の質問ですが、12ページですが、先ほど専業主婦と共働き世帯と保険 料を変えた場合に、それが将来動くのではないかというお話がございましたけれども、 その部分だけではなくて、婚姻行動自体にも影響を与える可能性があると思います。例 えばかつてスウェーデンで年金制度が変わったときに1989年の婚姻率が非常に上がった ということがありますので、そういう婚姻行動自体にも影響を与えるのではないかと思 うんですが、その点はどう考えたらよろしいのでしょうか。  それから、3点目なんですが、12ページのその下の「報酬比例部分の年金分割」とい う点ですけれども、日本の場合は非常に協議離婚が多くて、ほとんど90%ぐらい協議離 婚だと思うのですが、そういった協議離婚の場合と法廷で離婚する場合と同じように扱 っていいのかどうかという問題です。外国ですとほとんど法廷離婚だと思いますし、イ ギリスでは州によって協議離婚の場合も認める州と認めない州とあります。そういうこ ともあって、協議離婚でも法廷離婚と同じように扱っていいかどうか、その3点ほどお 伺いしたいと思います。 ○袖井座長  よろしいですか。だんだん苦しくなってきましたか。 ○駒村委員  難しい質問ですね。ジニ係数の動きをどう評価するか、確かに難しいと思います。こ の計算は、個別の表を使えるわけではなくてかなり簡易な計算をしてますので問題はあ ると思います。ただ、計算のプロセスで、Bのジニ係数が大きくなる可能性はありま す。Aのジニ係数、Cのジニ係数は簡単に計算できるのですけれども、Bは定額の発生 を張りつけていかなければならないプロセスがありますので、本当はこれはある意味で は個別表みたいなデータがなければ厳密にはできないと思います。ただ、もっと大きく なる可能性はあります。  ジニ係数の評価そのもの、これだけ際どいのだからどうなんだということなんですけ れども、もう少し厳密にすればもっと差が出てくるかもしれませんし、差がなくなるの かもしれません。再分配の意味、どっちとっても余り意味がないのかもしれない。要す るに定額負担になるかもしれない低所得者に3号が余りいなかったということになって いけば、それほど問題ないのかもしれない。ただ、それでもおっしゃるように、世帯所 得階層別に変化の動きを見るというのは必要なのかもしれないと思います。  ジニ係数は確かに並べ替える形によって面積の計算ですから、同じ値なのに分布の形 が違っているという問題はあるようです。ただ、それは多くのものがジニ係数で評価し ていますので、それを別の尺度というのはいろいろあるようなんですけれども、1個の 尺度として使ったらいかがということです。  それから、結婚によって変わるという発想は、そこまで考えておりませんでした。す いません。カナダの年金分割で離婚事由によってどうなのかということなんですけど、 私は離婚事由によって変える必要は別にないのではないかと思っていますけれども、そ こも詰まってはおりません。年金分割に関しては、外国の民法とか制度などはもうちょ っと勉強していきたいと思っていますし、事務局にも資料の収集をお願いしたいと思っ ております。以上です。 ○住田委員  我が国は協議離婚制度が非常に多いんですけれども、それが法律上の裁判離婚制度と どう違うかというと、全然それは変わりません。年金分割において、およそ影響がある 問題ではないとまず考えております。ただ、問題は、年金分割がどういう制度で、今後 未来永劫あるかどうかといいますと、とりあえずは過渡的には必要でしょうけど、個人 の年金権が確立した主婦においても、もし確立したとしたらば、いずれは必要なくなる 制度かもしれないという前提でお話したいと思います。  そうしますと、今年金分割で必要なのは、財産分与の取り決めの中身に集約されるか と思います。そういうときに、その原資として年金を使うということが許されるかどう かということで、事実上払うのか、それとも年金を当てにして、そこからきちんと行政 庁にお願いして、そこら辺で支払っていく、そのあたりのこと、ないしは大体財産分与 のときに支払いの悪い男性が多いわけですから、それに対して差し押さえをして許され るかどうか、そういうシビアな話になるというだけのことかと思います。 ○袖井座長  中田委員。 ○中田委員  2点あるのですが、1つはジニ係数の話ですが、申し上げたかったのは、ローレンツ カーブがクロスする場合という話ではなくて、ジニ係数は、計算のときのウエイトのか かり方が中所得者にウエイトがかかった数値になっているのではないかということで す。したがって、今回の計算ですと、恐らく中所得者は余り大きな変更がない。低所得 者は多分保険料が大きく変わっていると思うんですが、中所得者のところは恐らく変わ ってないので、結果として同じような数字になってきている可能性があるのではないか ということです。  それから、もう一点ですが、離婚の関係で、外国で年金分割をすると、そのためにか えって離婚しにくくなると言われているという話を読んだことがあります。夫は年金分 割をするのであれば、離婚するのは嫌です。そういうことで離婚しにくくなることがあ るというのを読んだことがあるのですが、恐らく法廷離婚のようなきちんとした離婚で ないとなかなか年金分割はうまくいかないということがあるのかなという感じがしたの ですが、その辺はいかがですか。 ○袖井座長  それは結構なんじゃないですか。 ○住田委員  制度があれば、それをどういうふうな形で運用するかというのは常に年金があるから 離婚しない女性がたくさんいるのと同様な話だと思います。 ○堀委員  時間がないので返事は結構です。意見だけ2点言います。先ほどの質問と関連するの ですが、夫の標準報酬に対して妻分の定率負担をする、こういう提案があって、 130万 円という基準をなくすということなんですが、だけど、妻が自営業者で何百万円の収入 がある場合に、サラリーマンの妻というだけで、サラリーマンの夫に保険料負担を頼る という制度はどうかなと思います。したがって、何か収入の基準は必要ではないか。 2点目なんですが、妻の分について、夫の賃金に対して定率負担を課すという提案に ついて、定額保険料なら定額給付ということはわかるんですが、定率保険料だとそこに 所得比例給付というのが出てこないとむしろ不公平にならないか、そういう面がある。  何が公平かという考えにもよると思うんですが、基本的に厚生年金は応能負担で定額 給付と所得比例給付です。所得比例給付である程度保険料に見合う給付をやっているわ けですね。ところが妻の上乗せ分については所得比例給付はない。夫の保険料への定率 負担は平均的には基礎年金分しか含まれていないから、そういうことなんですが、た だ、高所得者に関して言えば、随分損をしているということになるわけですね。 ○駒村委員  高所得者に高い基礎年金保険料を負担していただくということです。 ○堀委員  今の制度は。 ○駒村委員  再分配ということでいいんじゃないでしょうか。定率負担、定額給付の基礎年金の部 分は再分配効果あってよろしいと。要するに公平性の話が時どき変わってはまずいわけ で、再分配の公平性を基礎年金でやるというのは、それでいいのではないでしょうか。  ただ、前半のお話は、確かに4万人ほど3号の男性もいるんです。サラリーマンの妻 で1号という人もいますので、この辺は計算には一切できなかったんですね。それはも しかしたら何かしなければならないのかもしれない。 ○堀委員  いや、計算ではなくて制度をつくるとき。 ○駒村委員  制度のときにはやる必要はあるかもしれません。 ○袖井座長  時間も過ぎまして、大変議論が白熱しましたが、これはまた今後もいろいろ続けてい きたいと思います。本日、佐藤委員、駒村委員、大変ありがとうございました。さぞお 疲れのことと思いますので、御苦労さまでした。  それでは、本日の意見交換はこれで終了させていただきます。次回以降の開催につい て、事務局からお願いいたします。 ○中原企画官  次回の検討会につきましては、既にご案内のとおり、6月7日の火曜日を予定させて いただいております。後日、開催のご案内を送付申し上げますので、よろしくお願いい たします。次回は東京大学の大澤眞理教授と慶應義塾大学の樋口美雄教授からそれぞれ ご意見をちょうだいすることといたしておりますので、よろしくお願いいたします。以 上でございます。 ○ 袖井座長  それでは本日の検討会はこれで終了いたします。本日はお忙しいところ、どうもあり がとうございました。         (照会先) 厚生労働省年金局年金課 課長補佐     度山 企画法令第3係長 三浦 電話03-5253-1111(内3338) 03-3591-1013(夜間)