01/04/12 女性の年金の在り方に関する検討会第5回議事録 「女性のライフスタイルの変化等に対応した年金の在り方に関する検討会(第5回)」 議  事  録 厚 生 労 働 省 年 金 局 年 金 課 「女性のライフスタイルの変化等に対応した年金の在り方に関する検討会(第5回)」                議事次第 日 時 平成13年4月12日(木)10:00〜12:00  於  全国都市会館 3階 第2会議室 1.開  会 2.委員出席状況報告等 3.議  事   委員のレポートとそれに基づく協議 ・ 弁護士            住 田 裕 子 委 員 ・ 御茶の水女子大学助教授    永 瀬 伸 子 委 員 4.閉  会 ○袖井座長  全員おそろいになりましたので、ただいまから「女性のライフスタイルの変化等に対 応した年金の在り方に関する検討会」を開催いたします。本日は大変お忙しい中をお集 まりいただきまして誠にありがとうございます。  それでは、まず事務局より委員の出席状況を報告していただきます。 ○中原企画官  本日の委員の出欠状況についてご報告を申し上げます。本日は翁委員と佐藤委員が所 用のため欠席されておられます。その他の委員は全員出席されております。  以上でございます。 ○袖井座長  それでは、まず議事に入る前に、前回おいでいただけなかった辻年金局長にご挨拶い ただきます。 ○辻年金局長  前回失礼いたしました。辻でございます、どうぞよろしくお願い申し上げます。 ○袖井座長  それでは議事に入りたいと思いますが、その前に、本日の資料の中に、前回の検討会 の補足資料として、60年改正の際に基礎年金額が5万円になった理由について事務局に まとめていただいたものと、前回の検討会で堀委員からお話のありました国民年金法の 改正に係る判例を参考につけております。一番後ろの方にございますので、ご参照くだ さい。  それでは、早速本日の議事に入りたいと思います。本日はご案内のとおり、住田委員 から、主に法律面からのレポート、永瀬委員から、主に女性労働面からのレポートをそ れぞれお願いしております。大体おひとり20分から30分程度でご報告いただき、その後 で皆さんからご質問等をお受けして、報告時間をおひとりにつき1時間程度ということ でお願いしたいと考えておりますのでよろしくお願いいたします。  それでは早速、住田委員からレポートをお願いいたします。 ○住田委員  弁護士の住田でございます。法律面ですが、まず私は「男女共同参画社会基本法」の 答申案に携わりましたので、「全体的な女性像」というものを1つご説明した後、民法 の視点から、それから、前回申し上げました「年金権」という権利の性質、そういうも のについて主に3つからお話ししたいと思います。レジュメを3枚用意しておりますの で、それに基づきまして説明させていただきます。  パンフレットお手元にあると思いますが、「男女共同参画社会の実現を目指して」と いうこのパンフレットを広げて、この表を見ながらご説明したいと思います。  まずレジュメの1ページ目ですが、この検討会の発足のいきさつといたしましては、 平成10年10月の年金審の意見として、現在の年金制度は伝統的な女性の役割を反映した 世帯単位の考え方を基本としている、というふうに書いてございます。これに対して、 これが妥当かどうかという視点でこの検討会が設置されたと思っておりますので、それ に基づきまして、この伝統的な女性の役割とは何かということから私の考えを述べさせ ていただきたいと存じます。  言うまでもなく伝統的な女性の役割とはというのは、恐らく男は仕事、女は家庭で、 主に専業主婦を念頭に置いているものと思います。最近は新伝統的な役割といいます と、男は仕事、女は仕事も家庭もということだと思いますけど、少なくとも家事労働は 女性がするということを念頭に置いているということ。専業主婦である場合は、夫が働 き、女性は家庭内労働、無償労働に従事していると、そういう想定だと思います。それ は恐らく性別の役割分担を前提にしたものでありまして、こういうふうな役割分担につ いてどう考えるかということがまず国民の意識として重要だろうと思います。  昨年の総理府世論調査結果を見ますと、ここにございますように、それに対して「同 感する」率は、男性がこのぐらい、女性がこのぐらいと。「同感しない」率が半数には 至っておりません。女性は半数を超えていますけれども、全国民合わせますと48.3%が それに反対しているということです。これは非常に日本の特殊的な状況でございまし て、欧米先進諸国を見ますと大体8割、9割が、これには「同感しない」というような ものでありまして、かなり意識の差が日本と欧米諸国とは違いがあるということが出て おります。  それがどういう具体的なあらわれになっているかというのを表に基づいてご説明した いと思います。まず2ページ、左側の表の上のものでございますが、我が国の男女含め ての人間開発指数というのがございます。人間の能力がどこまで伸びたかをはかるもの でして、これは日本は世界の中で第4位という非常に高位のレベルにございます。基礎 的な能力、教育水準を含めて、日本は非常に高いものがあるということで胸を張ってい い状況と思います。  一方、これに対して右の方のGEM(ジェンダー・エンパワーメント測定)でござい ますが、このときは38位でございます。その後、実を言いますと落ちております。この GEMといいますのは、女性が積極的に経済界や政治生活に参加し意思決定に参加でき るかどうかをはかるもので、具体的にはということで、このGEMの説明がこの中ほど に書いてあるとおりですが、所得、専門職、技術職に占める女性の割合、また行政職、 管理職に占める女性の割合、国会議員に占める女性の割合を用いて算出しております。 ご承知のとおり先進国で日本は最下位でございます。どれ1つをとりましても、とても 先進国と言えるような数値は出ておりません。また、日本よりも下でありました国が今 どんどんいろいろな法律や制度を整備しておりますので、ますます差がつき引き離され るのではないかというふうな見方をしております。我が国の女性は能力がありながら、 それが活用されていない。女性の地位としては先進国の中で最下位である、先進国とは 言えないという実態がこの表からも明らかであると思います。  また、具体的な性別役割分担のあらわれといたしまして、下の表の「年齢階級別労働 力率」を見ていただければと思います。これもこの会で以前ご説明あったものでござい ますけど、ほかの国と色刷りで比較しているのを見て顕著なように、日本の場合の赤線 は、30歳から34歳のところで大きくへこんでおります。アルファベットのM字型になっ ているというようなことで、先進国としても非常に特異でございます。世界的に見まし ても非常に特異でございまして、日本の場合はこの年齢層が結婚、育児等のため、一 時、労働市場から撤退しているというようなことが出ております。  また、性別役割分担の具体的なあらわれとして、次のページをめくっていただきまし て、4ページの中の「夫婦の生活時間」という表がございます。共働き世帯と専業主婦 の世帯でそれぞれの生活時間帯が調査の結果出ているものでございますけれども、「2 次活動」、ピンク色ですけれども、家事労働はどのぐらいの時間をやっているかといい ますと、最も多いのが専業主婦で7時間5分でございます。共働き世帯は4時10分、男 性はそれぞれ21分とか26分でございまして、世界的に比較しましても、我が国の男性は 家事労働に従事する割合が比較にならないほど低いということが出ております。  また、1つ悲惨なのは、共働きの世帯の妻ですけれども、黄色の「3次活動」、余暇 時間、その他、自由時間が非常に少ない。また「1次活動」の睡眠時間等も少ないとい うことで、働きながら生活している女性にとっては非常に重い負担がかかっているとい うことが言えるかと思います。  さて、この専業主婦でございますけれども、この会で何回か申し上げましたのは、私 の年齢層前後が非常に多くなっておりまして、ただ、現在はそれが徐々に低下しており まして、3号の該当者は、一番近いところでは33%程度まで低下したというふうに聞い ております。以前、専業主婦は、多数派・主流派であったというのがどんどん今減少傾 向になっているということです。また、専業主婦が戦後多数派・主流派となった原因と しましては、産業構造の変化、家庭内労働から職住分離のサラリーマンにみんななって いった。そして、その中で女性が専業主婦として家庭を守るというような状況になって きたことが原因として挙げられております。  今後の見通しでございますが、少子高齢化が顕著である。これは皆様よくご承知と思 いますが、3ページの一番上の表でございます。我が国はほかの国とは比較にならない ぐらい少子高齢化が急速に本当に凄まじい勢いで進展しておりまして、生産年齢人口 が、このグリーンの表がどんどん下がっていきますが、それに反比例するような形で、 老年人口、特に後期の老年人口が飛躍的に伸びているという状況でございます。そうし ますと割合として生産年齢人口がどんどん減っていく。逆に言えば、将来においては労 働不足が顕著になり、女性また高齢者の労働市場への進出が絶対的に必要であるという ことは言うまでもないと思います。  そして女性の考え方ですが、女性の就労意欲はどうかということになりますと、その 同じ表の真ん中の表を見ていただきたいと存じます。真ん中のブルーのラインが実際に 就業している率でM字型でございます。一番下の茶色の点線、これは就業希望率です。 実際働いていないけれども、働きたいという希望率をとるとこういった表になっており ます。実際に働いている人、今働いていないけれども、働きたい人を合わせたのが一番 上の藤色の点線になります。これが女性の潜在有業率ということになりまして、本当は 働きたい、実際に働いている、両方合わせますと、先進国とほぼ同じ台形型(山型)に なるということがおわかりになると思います。実際には働いていないけど、働きたいと いう就業希望率がこれだけあるにもかかわらず、実際には女性は働く環境にないがため に家庭にいるという数がいかに多いことかここでおわかりいただけると思います。です から今後環境が整備されますと、恐らく女性の労働力率は先進国並みに近づいてM字型 のカーブが徐々になだらかになっていくのではないかというような予測がされておりま す。  そこで男女共同参画社会基本法をつくったときの背景としまして、「男女共同参画社 会の実現の必要性」ということを調べましたところ、4ページの一番下にさまざまな理 由が出ております。その中で最も支持が多いものは、「男性も女性も多様な生き方を選 択できるようにするため」というのがどの層でも非常に高位にございます。今、働きた いけど働けない女性というのは、恐らくこの多様な生き方を選択できるということが阻 害されているという1つであると思います。  その阻害の要因としまして、7ページの第4条、8ページの 2を見ていただきたいと 思います。この法律では、「男女共同参画社会の形成に当たっては、社会における制度 又は慣行が、性別による固定的な役割分担等を反映して、男女の社会における〜」とい うような形で、社会的な制度、慣行が中立的でなくてはならないと書いておりますが、 その中立的でないということに対して問題視されておりますのが、8ページ 2に書いて おりますように、「税制、年金など、女性の活動や生活に大きな影響を与えるものにつ いては、女性の社会進出、家族、就労形態の変化・多様化、諸外国の動向等を踏まえて 〜」ということで、「広く議論されることが期待されている」ということで、年金も1 つの大きな問題であると認識しておりまして、男女共同参画社会基本法、また審議会に おいても、この問題は非常に重要なものであると認識して、私も本日きょう参っている わけでございます。  そこで次の3号被保険者問題について申し上げたいと存じます。  まず「専業主婦への優遇策」、非常に言葉は悪いのですけど、「ただ乗り」というよ うな言い方をされてまして、それに対しての不公平感、批判が現在あちらこちらで出て いるというのが現実であるかと思います。  私自身は、専業主婦がこれまでの多数・主流派であったと。戦後の高度経済成長の中 でそれなりの役割分担で我が国はここまで来たという意味ではプラス、マイナス含めて その功績や実績については評価したいと存じておりますが、しかしながら、今後それが 多数派・主流派でなくなるということについてはいろいろな統計等から明らかであろう かと思います。少数派になったときに、それを優遇することについての合理性、政策的 な正当性があるかということになりますと、それに対しては、逆に女性の多様な生き方 を阻害するものであるという反対論が強いのは先ほど申し上げたとおりでございます。 標準的世帯を優遇する。夫婦と子ども2人の世帯を専業主婦と夫、そしてその間の子ど も2人の世帯を1つのモデルとして、それを優遇しているという考え方は今や4人世帯 が20%を切り、夫婦2人、子ども2人の世帯が15%程度という状況になると、今や少数派 でございまして、それに対して共働き世帯が48.3%、専業主婦の世帯がいろいろな数字 を見ますと30数%ということになりますと今逆転しております。  そういうことからしますと、少数派に対してなぜに優遇するかということについて、 きちんとした説明が必要である。それがないならば、政策的な公平性、平等性というの が優位に来るべきものではないかと考えております。  2番目、「現在、専業主婦にならざるを得ない現状」というのは、先ほどの潜在有業 率の差がある部分です。働きたいけれども、働けない層、希望しているという茶色の点 線の方々の考え方ですが、それにつきましては、なぜ働けないかといいますと、固定的 役割分担意識の下、保育・介護環境等の未整備、長時間労働等による仕事と家庭との両 立困難という極めて重い現実があるわけです。  しかしながら、今後どうなるかといいますと、両立支援策の整備が今後進められると 期待しております。働く意欲・意思のある女性が労働市場に一層進出することはほぼ間 違いないと思います。  また、それに伴いまして、どういう方々が今後専業主婦として残るかということにな りますと、夫の一定以上の収入を背景に、家庭内労働、地域活動・余暇活動等に充実感 や必要性を求める層がいらっしゃいまして、そういう方々が残ることは多分間違いない と思います。それは世界的に見ても、専業主婦がどういう方々がいらっしゃるかという のはすぐ念頭に浮かぶとおりのものでございます。  次からが、いよいよ私のあと5分いただいた時間で申し上げたいことでございます。  「専業主婦の年金保険料負担能力はゼロか、強制加入は不可能か」というテーマでご ざいます。現在こういう制度でありますが、制度的な不均衡がまず言われます。  無収入の学生に強制していることとの制度的不均衡、自営業者の妻との不均衡でござ います。  それから、前回ご説明ございましたように、昭和60年改正前に任意加入制度がござい まして、8割近い、7割以上の加入者があったというようなこともあります。現実に多 数派としては任意でも入っていたという現実があるわけです。負担能力があったという 実績があるというわけです。  これに対して法律的にどういうふうに意味づけるかということを申し上げますと、ま ず夫の収入に対しては、家事労働と無償労働で寄与しており、結婚が終了する際、つま り別れるとき、死別するときには清算して、その2分の1が別れるときには財産分与、 死別のときには相続として取得する。これは法律的に固まった概念でございます。婚姻 共同体の間は、清算の必要はないですけれども、こういう形で潜在的な持分権があると いうのを法律的には考えております。夫婦別産性はこれとは別の問題でございます。  次に 5ですが、妻は婚姻費用を夫と共有しており、そこに、妻にも負担能力があると いえる理由が1つ挙げられます。まず民法に「夫婦協力義務」というものが定められて おりまして、その一環として、働いて収入のある夫に婚姻費用分担義務がありまして、 その出された費用は、夫婦の共有になるという考え方でございます。  しかも夫婦には、協力義務の中で、特に重い生活保持義務というのがございます。こ れは親戚に対して余っているものを差し上げるという単なる扶養義務とは違いまして、 夫婦、親子は同一水準、同等レベルの生活水準を送るだけの費用を出す義務があるとい うものでございます。ですから年金受給も夫婦同額とするのが同じ世帯である以上は自 然であります。そのための支払う保険料を婚姻費用に含んで考えれば、夫が全額拠出 し、妻が無償労働で寄与することによって同額の保険料を出し、同額の年金を受給する というのが民法の理念からしてちっとも不思議でない。逆に生活保持義務からして当然 の考え方であると考えます。  つまり、妻に夫の収入の2分の1の潜在的持分権があることを前提として、具体的な 支払保険料額を算出し、これを婚姻費用から支出するという考え方であります。これは 一種の賃金分割の考え方だと思いますが、これは専業主婦のみならず、現在の共働き妻 についても適用が可能であると考えます。  その理由としましては、まず実態として女性の賃金水準が男性の約6割と低い。低い 理由というのは、結婚、出産のために、一たん労働市場から撤退して、戻ったときに パート等、非正規労働になるがゆえの賃金水準の低さ、それから我が国の固定的役割分 担意識の下、これまでは女性に対しては、雇用・採用、昇進いろいろな面で不平等がご ざいまして、その結果のあらわれで、その調整が家庭内では必要であろうということ。  1つ大きいのは、共働き妻が家事労働をしていて、男性は21分、26分しか寄与してい ない。それをきちんとした形で夫婦内で生活保持レベルから調整するとしたらば、それ を勘案すれば、共働き妻においても半分にするのが当然だろうという考え方でありま す。  その次のページにまいりまして、離婚による年金分割にも同様の説明が可能であると いうことでございます。  現在、夫の報酬比例部分に対応する年金受給分について、妻の寄与分が考慮されず、 妻に受給権がございません。ただ、離婚清算時にその潜在的持分権を具体化して妻に渡 すということについて法律的な考えは可能でございます。  この前、年金の一身専属性から反対するとおっしゃる意見がございましたが、一身専 属性とはその人の最低限の生活レベルのものであるから、それを冒してはならないとい う考え方でありますが、そもそも夫婦は一体として、全財産について2分の1の潜在的 持分権を有しているわけでございます。婚姻生活共同体の中で生計同一者であって、し かも生活保持義務を有する妻にはこの理由で排除するのは逆に不当でございます。これ を認めるというのが当然視されておりまして、実際にたくさんの裁判例がこういうもの を認めているわけでして、今現在、離婚によっての年金分割についても、裁判で認めら れている以上、法律上それを何らかの手当てをすることは過渡的措置としては私は可能 であると考えております。  最後のテーマでございます。前回申し上げましたように、年金受給権というものにつ いて、権利性について大きな2つの流れがあって、今のものと改正前のものとは違うと いうことを簡単に申し上げたいと存じます。  現在、専業主婦は年金保険料を支払っておりません、負担がありません。それでもも らえるというのは社会保障の中での2つの原理の1つに当てはまるという考え方で、扶 助原理であります。この扶助原理といいますのは生活保護と同質の公的扶助でありま す。それは本来ですと資力調査をして、だれにもお金をもらっていない、本当に生活に 困っているかわいそうな方々であるという方に対して、憲法で認められた最低限度の生 活水準を維持させるという理念に基づいて支給をされるというものに由来しておりま す。実際扶助原理というのはこういうところが源にあるという考え方であります。  ただ、改正前、過去は、任意加入の制度では当然負担しておられました。これは現実 的に保険原理に基づくものでありまして、対価的関連、支払ったからそれに基づいて受 給するということで自助の理念によるものでありまして、拠出に対して反対給付を求め ることが契約法上も当然にできる権利ということで、恩恵的に受ける権利と当然に受け る権利とで、これだけ受給権において差があるというような考え方であります。昭和60 年の改正でこのように権利の質として大きなところで変容を来していると。国民皆保険 のために専業主婦は、生活保護レベルの受給権をもらうことになったということになっ ております。  これはこれで今まで1つの考え方があったということについて、私は全面的に反対す るものではございませんが、今後この検討会で考えるに当たって、残る専業主婦、将来 的な専業主婦はどういうものかという像を1つ想定いたしますと、一定程度の水準の、 夫の収入があることを背景にして、それぞれの生き方をなさる方々で、そういう方に対 して、こういう扶助原理に基づく受給権がふさわしいかというと、私はふさわしくない と思っております。  ということで、私の報告をとりあえず締めさせていただきます。 ○袖井座長  どうもありがとうございました。短い時間で簡潔にまとめていただいて、問題が非常 にクリアーになっているかと思われます。ただいまのご報告につきまして、ご質問とか ご意見ございましたらどうぞ。堀委員。 ○堀委員  いろんな点で同意できる点もあるのですが、こういうご主張が正しいのかどうか疑問 があります。あるいは意見の相違になるのかわかりませんけど、全面的というのか全般 的に異論があります。  2ページの1、(ただ乗り)と書いてあるのですが、基本的にサラリーマングループ は世帯単位で夫婦の年金の保険料を応能負担で払うという考えだと思うんですね。応能 負担というのは負担能力、すなわち賃金に比例して負担する。したがって、受益者が2 人いようが1人であろうが、負担額は同じになる。そういうことで、妻は払っていない わけではなくて、世帯単位で負担しているというように考えるべきではないか。  それから、専業主婦が少数派か否かという問題ですが、「専業主婦」という言い方が やや誤解を招く。実際、第3号被保険者は専業主婦ではなくて被扶養配偶者なんです ね。パートで働いていてもそれだけでは生活できない。そういう人も第3号被保険者で す。そういうパートを含めて多数か少数かを判断する必要がある。これは後で永瀬さん からご報告があると思います。  2のところですけれども、確かに女性、特に子を持った主婦が働けない現状があると いうのはそのとおりで、私もそれを直す必要があると思います。それが、年金制度の仕 組みあるいは税制の仕組みからきているのかそれとも社会全体の雇用慣行などの仕組み からきているのかどちらの影響が強いのか。これは後で永瀬さんからご報告あると思い ますけれども、社会の仕組み全体からきているのではないかという感じがしておりま す。  負担能力はゼロか、あるいは強制加入は不可能かという3のところですけれども、(1) で無収入の学生に加入を強制していると述べられている。この問題は学生に保険料を払 わせる方がおかしいと私は思っています。  (2)の自営業者の妻との不均衡の問題ですが、これは現行の年金制度では1号と2号、 3号は負担の考え方、基本原則が全く違うんですね。1号は応益負担で、2号、3号は 応能負担ということで、1号の自営業者、2、3号のサラリーマンの負担とは比較にな らない。  それから、(4)、(5)あるいは離婚ところです。現実に、例えば専業主婦はパートもし てないという場合にはお金がないわけですね。夫に所得があって、妻が無償労働してい るから、その分は妻のものだ、共有あるいは潜在的持分があるという考えですけれど も、これに対してもいろいろな考え方がある。専業主婦の場合、現金収入はないんです ね。あるのは夫の収入で、夫は応能負担で妻の分を含めて保険料を払っている。妻の持 ち分として、夫の賃金の半分に保険料をかけるとすると、夫の保険料は半分になるんで すね。結局変わりない。これは応能負担だからそういうふうになるんですね。  今の第3号被保険者制度は、むしろ、実際には賃金分割を制度化したものなんです ね。例えば、40万円夫の収入があって妻がゼロだとすると、賃金分割すると、20万円、 20万円で40万円の場合と保険料額は同じですね。年金はどうかというと、1階部分の基 礎年金は分割前と全く同じです。2階部分は夫は半分になるが、妻が半分もらうように なる。賃金分割しても1階部分は同じだということですね。賃金分割をした場合2階部 分が変わるだけ。これは、基礎年金は応能負担で定額というところからきている。賃金 分割をしても基礎年金は今の第3号被保険者と同じになる。  潜在的持分とか財産分与の2分の1とかいう話ですが、これも住田さんは専門家なの で書いてあるとおりかもしれません。しかし、潜在的持分というのは、権利ではないん ですね。権利として認められるのは、死亡相続のときと離婚のときだけですね。そうで ない時に潜在的持分があるから、妻が夫に対して2分の1よこせと裁判所に訴えてもこ れは認められないです。だから潜在的持分というのは権利ではないですね。財産分与の 2分の1ということも、あるいは共有かどうか、潜在的持分があるかどうかというの も、いろんな学説、判例があって、ここに書いてあることがすべての考えかどうか。例 えば昭和36年の最高裁の判決は、夫婦で所得を分割して、所得税を納めさせてくれと訴 えたのに対して、棄却しているんですね。夫婦の所得は共有ではない、分割はできない とういう判決もあります。昭和48年の判決では、専業主婦の場合は夫の財産は夫婦の共 有財産にならないとしています。  一昨年、横浜地裁の相模原支部が非常におもしろい判決を出しました。夫の年金額と 妻の年金額の差額の4割を妻に財産分与として認めるというものです。これは私の研究 した限りでは初めて年金分割的な判決を下したものです。それ以前の判決は、夫の年金 額を財産分与の際に考慮するというだけのもので、完全に年金を分割する、そういうも のではない。財産分与の際の考慮事項というのか計算の基礎にするというだけで、年金 分割とは全く違う。年金分割というのは、社会保険庁が元の妻に年金を支給するという ものです。  夫婦の財産は共有かというと必ずしもそうでもない。星野英一先生(東大の民法の先 生だった方ですが)の書かれた『民法講義7』では、婚姻中に夫婦の一方がその名義で 得た財産はその者の単独所有となり、夫が婚姻中に取得した財産は、たとえ財産取得に 妻の寄与があっても夫の財産になる、これが通説判例だとしています。それから、鈴木 禄弥さんは、婚姻期間中取得した財産は共有であるというのは基本的に意味がないと述 べています。 それは先ほど言いましたように、権利として行使できないからです。そういう学説もあ ります。  そもそも潜在的持ち分があるから、共有だから保険料負担能力があるのか。それはま た違う話ではないか。先ほど言った世帯単位の応能負担と考えれば、現行制度でも合理 性はあるという感じがします。  それから、3ページの4のところなんですが、扶助原理、保険原理というのは、私が 専門とするところです。理論的には、社会保障を行う方式として社会扶助方式と社会保 険方式がある。一方、私的なものとして私的保険がある。だから社会扶助、社会保険、 私的保険というように社会扶助と私的保険の間に社会保険がくる。社会扶助は扶助原理 に私的保険は保険原理に基づいている。社会保険は扶助原理と保険原理に基づいてい る。  住田さんのレジュメに扶助原理として書いてあるのは、社会扶助方式のものです。61 年改正前の制度は保険原理に基づき、61年改正後は扶助原理に基づくと住田さんは述べ ましたが、基礎年金はそもそも保険原理だけではなく扶助原理に基づいているのです。 というのは、応能負担で定額年金をしているからですね。保険原理なら、払った保険料 に応じた年金額を支給すべきなんですね。そういう意味で基礎年金自体が保険原理と扶 助原理の混合です。改正前と改正後で原理が違うというものではない。確かに改正前は 保険料を払わなければ年金をもらえない、そういう意味では保険原理に基づいているの ですが、社会保険というのは応能負担でニーズに応じた給付を行うもので、したがっ て、扶助原理にも基づいている。だから社会保険に扶助原理に基づく部分があるのは当 然なんですね。以上です。ちょっと長くなりまして申し訳ありません。 ○袖井座長  ありがとうございました。住田委員何かございますか。 ○住田委員  多岐にわたるお話で、私が25分お話して10分お話されたので、これをまた10分やると 長くなってしまいますので、コメントだけさせていただきますと、夫婦別算性の話しは 教科書的に書いたのはそのとおりでございまして、財産法的な考え方で取引の安全のレ ベルで言えば、夫が働いて得た収入は夫の名義のものにするというのは当たり前です。 潜在的持分権があるというのは民法の先生方に聞いていただいても、それがどういう権 利がどうかはともかくとしてあるということ、それは否定されることないと思います。  私は今回支払いをする根拠として具体的に提示したのが婚姻費用の分担という義務が あるということで、それについては今一切お話されませんでしたが、これは具体的な支 払い根拠になると考えております。これを夫は全額拠出し、それに対して、妻はある共 有の中で必要な費用については支払っていく。その中に年金支払料というのも当然含ま れるだろうと。それについての、今お話が一切出なかったのは、これまで年金制度を考 えられる上において、婚姻費用について一切考えておられなかったことが今明らかにな ったかと思います。  これは日常家事代理権として、妻は生活費用の中で、夫の意向を聞くことなく、当然 の代理権として支払う権利を持っていると、それのあらわれでございます。ですから夫 婦別産性というよりも、どちらかというと、その潜在的持分権に基づいてもあります が、夫婦が生活を保持する義務の中で、そのお金を支払うことができる当然の根拠があ ると申し上げているわけであります。  あと扶助原理と保険原理については、究極的に整理しただけでございまして、今現在 税金もかなり入っておりましたので、その境目はあいまいでございますけど、だから社 会保険原理として両方が入っているという言い方ではなく、改正前後においてやはり負 担しているか負担していないかで大きな差はあるだろうと考えております。  今、私は初めてお聞きしたのですが、今の制度は賃金分割の考え方が入っているとお っしゃるのであれば、逆に主婦がきちんと支払ったことによって、主婦の権利として支 払った上での賃金分割、そして、それは主婦の自分の名義に基づいての受給権という形 でやる方が、今の世の中においては、私は「ただ乗り」論という批判を免れるのではな いかと思います。以上です。 ○ 藤野委員  女性として実に興味深く、かつわかりやすくお聞きしました。私は、法律とか民法と か全く詳しくないので。私は10年程、専業主婦をいたしまして、子供達が中学にあが る頃から仕事を始めた訳ですが、社会人としての意識が芽生え始め、社会のしくみとい うものに目を向けはじめたのは、仕事を持つようになってからだという気が致します。 生活のあらゆること、年金のことにしましても、すべて夫がやってくれる、という、か なり依存的な専業主婦でしたので。それが仕事をすることによって、それこそ、年金も 保険も自分でやらなくてはいけないし、そしてこのような会にも参加させて頂くように もなりましたし、自分で自分の生活に責任を持たなくちゃいけないという意識がだんだ ん出てきた訳です。先ほど、先進国等のお話をしていらっしゃいましたが、女性も男性 も21世紀に大きく変わっていくのではないかと思っています。特に女性のライフスタ イルに伴って、夫婦、母子家庭などの形も変わってくると思います。20世紀の専業主 婦という概念は様変わりしていくことは確かです。単位が個人になる時代というような 気もします。そういった意味で、私は主婦であっても年金は個人負担していくことが自 然のように思います。それから、もうひとつ。主婦といいますと、無償労働のイメージ が強く、それでは何か社会の中にあって、その価値を認められていないようで、社会人 の後ろめたさのようなものを感じてしまうことがあります。よく、「私はただの主婦で すから。」とか、「ただの主婦だけで終わりたくない。」とか言う方もいる。主婦とい う存在価値が家庭の中でも、かつ社会的にも認められるべきで、その為にも、私は社会 の一員として、主婦が労働している証としても、個人負担をした方がいいと思います。 私が専業主婦でいた間、家の中だけにいて、社会に目を向けようとしなかった。もし、 自分で年金を負担していたら、そういうこともなかったかもしれない。年金制度そのも のの問題上も個人負担がいいと思いますし、専業主婦が「自分も社会の一員である」と いう意識を持つといった意味でも必要のような気が、自分を振り返ってみてしておりま す。 社会が主婦の仕事というものを、「心も体も健全な人を育てる」という意味で、非常 に価値があるものとしてある程度認める。男女共同参画も、年金も、健康な働き手がい ることが大前提です。青少年犯罪や、若い母親の幼児虐待、引きこもりなどが増加する のも問題です。家庭で、社会生活に適応する、健康な成人を育てあげるのがどれほど意 義のあることかを、社会的に明確にするということは大切なことと思います。当然のこ とながら、夫も妻の家事労働、育児教育等に相応の評価をするということも含めまし て、賃金というのも変ですが、ペイするというか、専業主婦の仕事は無償ではないと認 めるべきではないかと思っております。そうしますと、ただ乗りみたいなことでなく、 どういう形で算出するかわかりませんが、当然という気持ちで自己負担ができると思い ます。自分の専業主婦時代のことを振り返ってみましても、それが望ましい方向だとい う気がします。 ○袖井座長  どうもありがとうございました。 ○住田委員  意識という問題で申し上げますと、無償労働は社会的には無償ですけれども、この賃 金分割の考え方ないしは夫の収入について、婚姻費用の中でとりあえず具体化される権 利というものは、夫との関係では有償性として評価されるものであると考えておりま す。これは専業主婦に限らず、家事労働している共働き妻に関して賃金分割の考え方を とるときも同様のものです。  それは今の国民意識と乖離しているのではないかというお話がよくございますが、財 団法人家計経済研究所が発表した「現代核家族調査」というのを私新聞報道で見まし た。それによりますと、実際夫名義の資産に帰属させていることは間違いないわけです が、そういうものについても、夫は、「夫婦のもの」と7割以上の人が考えております し、2割の人は「夫のものだが、妻も使う権利がある」ということで、9割の方が夫名 義にたまたましているとしても、それは夫婦のものであるという意識があるというのが 今の国民の意識だろうと思います。そういう意味では、妻と夫というのは、実際婚姻共 同生活の中で形成した財産については、共有意識を持っているというのが今の日本の制 度だと思います。  また、専業主婦の調査をしたのが日経新聞でございました。その内助の功を金額に換 算した場合、「夫の収入の何割程度に相当するか」と思うか、という問いに対して、 「専業主婦の妻の内助の功」、家事労働に関していえば、5割くらいが32%で最も多 く、それ以上も10%あったということですから、これも今の専業主婦の気持ちとして5 割ぐらい、それ以上の意識があり、また夫もそれに対して評価しているということは私 は言えるかと思います。以上です。 ○堀委員  すいません、2分で終わります。賃金分割にするとおっしゃっているのは、世帯単位 の考え方でおっしゃっていると思うんですが、個人単位化は主張されるのかどうか、そ れが1点目ですね。  2点目は、先ほどの議論に戻るのですが、婚姻費用を分担する分夫の所得は下がるん ですね。妻に回された所得に応能負担で保険料を課しても、夫の所得が減ると夫の保険 料も減る。応能負担の考え方では結局、負担額は同じになる。 ○住田委員  給付設計、年金の給付、水準を設計するというのは、理念が決まった後で、理念を現 実化する話ですので、今の数字をいじくって、減るから損ですよ、得ですと言い方は私 はしていただきたくないなと思うんですね。新しい制度ができるとしたら、その段階 で、どういうふうな支払い保険料にして、どのような受給権にするかということを次に 決めればいいわけでして、そういう技術的、事務的な制約の問題を理念に反映して理念 をゆがめるようなことだけはぜひしていただきたくないと思っております。 ○下村委員  専業主婦が、今いわゆる特権的な存在では決してなくて、高度経済成長期にはそれな りにそれは機能していましたけれども、その役割はもう果たしたと私は考えるわけです ね。今のような低成長の時代にあっては、逆に高収入の夫を持つ人だけが、先ほどの話 にもありましたように専業主婦として残っていくだろうということで、結局今まで 1,200万人というふうに言われていましたけれども、実質最新のデータでは専業主婦 (3号)は 1,161万人に減じているわけです。ですからこれも私は共働き世帯でなけれ ばやっていけなくなってきている反映だと私は思っています。それと先ほどの潜在的に 働きたい意欲とその数字が重なり合ってきているのではないかと私は読んでいるのです ね。 ○駒村委員  ここで不公平感という話も出てきて、また、もう一つは理念という話が出てくるわけ ですけれども、公平性という話もどういう意味で使われるかによって随分意味が違って きまして、保険料を負担したのに対して給付がもらえると、こういう対応関係をきちん とすべきである。より言うと民間保険のように収益みたいな話になってくると。こうな ってくると個人単位の話なんですけど、もう一個、不公平感、払ったからもらえるとい う話と、もう一つ、不公平感というのは所得の再分配をするという意味での不公平感と いうのもあるんですね。そうなってくると、理念のところ、政策目標のところにかかっ てくるわけなんですけれども、私も堀先生と同様で、現行制度が扶助制度になってしま ったというよりは、改正後に保険料の負担については世帯単位の応能負担になってしま っているという理解で、そこである一定の再分配が行われているという、この政策効果 もあるわけですね。だから、そのどっちの公平感をとるのかということによって、理念 というのですか、その結果も変わってきますので、その辺はどっちの公平感を議論すべ きなのか。また社会保険としてどうなのだろうかということは疑問として思いました。  それから、ここでは年金保険料の話ですが、2ページ目に出てくるさまざまな費用負 担も夫婦間で分割せよという話になってきますと、年金だけでなくて、ほかの社会保険 も同じで、介護保険、医療保険も同様、とこういうことに当然なってくるだろうかとい う点について教えていただきたいということですね。  この点は疑問を持ったわけですけれども、年金分割に関しては、私は住田先生の意見 は関心がありまして、年金分割大変結構なものではないかと思っていますけれども、年 金受給権というのは、裁判所でいろいろとコントロールできるような権利なのか、それ とも政府が付与した権利であるから、そう簡単には裁判所では分けたりするようなこと はできない権利なのか、年金受給権という権利は一体どういう性格のものなのだろうか というのはかねてから疑問には思っておりました。ただ、年金という形で分割するのと 一時金という形で分割する、または財産分与として分割するのでは全然意味が違いまし て、年金で分割すれば、生きている間はずっともらえるということが出てきますので、 これは少し性格が違うと思うんですね。一時金でもらえば、一定割合を現金でそのまま あげておしまいだということですから、より公共政策として年金の意味を持たすならば 年金分割が必要になってくると。これに私的財産権の制約がかかってくるのか、それと も政府が付与した権利なのだから立法で分割することが認められるのか、これについて は教えてもらいたい。  カナダ、イギリス、スウェーデン、ドイツ、これは事務局で調べていただければわか るかと思うんですが、カナダ、スウェーデン、ドイツ、ドイツは特別立法つくったよう ですけれども、イギリスでも最近は分割法ということで検討されている。もう動いてい るかもしれませんけれども、海外では報酬比例部分に当たるのでしょうか、これの分割 についてはどういう動きになっているのか、この辺は教えてもらいたいと思っていま す。以上です。 ○袖井座長  それでは、まず住田委員に。 ○住田委員  年金分割の考え方ですが、私自身、個人的な権限が明確に受給権として妻にも認めら れた場合には、いずれ必要でなくなる過渡期的な制度だと今回は位置づけてみました。 そうしますと今現在については、今まで支払ってきた部分について、本来受け取れるべ き部分があるとしたらば、それについての原資として年金を、これは確実に支払われる わけですから、年金受給権を財産分与の一環として考慮することについては極めて現実 的であろうと思います。  ただ、それを行政的に最初から分割するという制度にするかどうか、これはまたひと 工夫もふた工夫も要ることであろうかと思いますが、少なくとも年金権の一部を妻が取 得する、それは潜在的持分権でも何でもなく具体的権利としてあり得るだろうと。裁判 所もそれを正面から肯定しているのであろうと理解しているわけでございます。 ○袖井座長  堀委員、何かありますか。その受給権のことについては。 ○堀委員  外国では、余り年金分割している国はないですね。しているのはドイツで分割割合は 2分の1です。財産分与自体が2分の1という考えで、それを年金権に及ぼした。 あとはカナダで制度の仕組みは忘れましたけれども、年金分割をしている、あとは余り ないと思います。  離婚するときの財産分与についてですが、その割合を2分の1にするというのが国民 の合意になっているのかどうか。年金が先走って、財産分与の前に2分の1を決めるこ とがいいのかどうか。法制審議会で2分の1にする民法改正案を出した。これは夫婦別 姓の問題もあって国会を通ってないんですね。別姓の問題で通ってないのか、2分の1 の問題もひっかかっているのか、そこはわかりません。これは住田委員にお聞きしたい んですけど、社会全体としそのことについての合意がまだなされていないのではない か。合意がなされれば、2分の1の年金分割は可能だと思います。私は年金分割するこ とは、基本的には今の状況では賛成です。ただし、将来女性も完全に男性と同様に働 く、賃金も男性と同じになれば、年金分割する必要はないですね。  それともう一つは、年金分割をした場合に経過的に非常に難しい問題が生ずる。例え ば、過去の分も分割するのか将来分だけにするのか非常に難しい問題が生じる。こうい う技術的な問題は解決できないことはないと思うのですが、基本的に2分の1で分割す ることについて国民の合意が得られるかという問題はあります。 ○永瀬委員  年金分割に関してどう考えるべきかということについては私の考えはまだまとまって いないことをあらかじめ申し上げます。ただ、懸念を持つことをお話します。現在、多 くの女性が年金の報酬比例部分を失うきっかけは出産あるいはこれに先立つ結婚です。 年金分割は結婚相手の所得に依存して年金権を半分もらえるという制度です。  子どもを持つ時点で報酬比例部分の年金権を失う現状があるとき、この制度を導入す ると何が起こるかというと所得の高い男性でないと結婚しないということが起こる。男 女の性別役割分業をむしろ強化する方向の政策になり得るという気がします。例えば、 現在の制度は40年の就業年数を想定していますが、女性に10年間の出産離職期間がある と、報酬比例部分はそれだけでも4分の3に低下してしまいます。更に再就職のときの 賃金が例えば半分に下がっていれば、その人の報酬比例部分は4分の3の更に2分の1 になってしまうということで、出産によって、その人は報酬比例部分が8分の3に下が ってしまう。  それを上げるための方法が賃金の高い人と結婚することであるという制度枠組みが私 はどうも納得できない。そうではなくて、例えば出産事由で報酬比例の加入期間が短く なってしまった場合に限って乗率を上げるとか、今度 0.007125となりましたが、例えば それを倍に、出産期間を続けたのと同じぐらいの乗率に引き上げてあげると、そういう 形の変更であれば、本人が自分で仕事をすることで報酬比例部分を得ることができる。 しかし、年金分割という形ですと、むしろ役割分業をそのまま温存するか、あるいは所 得の高い夫に出会わなければ、結婚しない、出産しないということを奨励すると思うん です。出産をしないことが、この10年間の財政再計算を大きく狂わせてきた原因です。 出産が減ったのは出産によって失うものが大きくなったからでしょう。女性の賃金が上 昇するほど出産によって失うものが大きくなる。そのことによって出産が起こらなくな る。 今までの公平性の議論の中では保険料支払いに対する給付が議論されてきましたが、 出産は語られてこなかった。しかし、厚生年金であっても賦課方式の色彩は大変強い。 過去債務のうちの積立金を除いた部分のどのくらいを後世代が負担しているのかを計算 してみると厚生年金でも75%ぐらいが後世代負担、つまり、賦課方式になっているわけ ですね。ですから出産がどのくらい起こるかに年金財政は大きく依存する制度である。 一方で出産をして子どもを育てるということは、その人の年金を下げるのが現在の制度 ですが、実はそれは非常に大きな実物としての年金制度上への出資をしていることに当 たるのです。しかし、保険料や給付にそれが全く考慮されていない。それを年金分割と いう形で考慮するのが、果たして維持可能な年金制度としていい形なのかどうか若干の 疑問がある。もう少し別の方法で主婦役割を果たしてきた人の年金を引き上げることを 考え得るのではないか。私はその方法をすぐ明確に今ここで提示できるというわけでは ありませんが、そういう懸念もあるということを一言申し上げたいと思います。 ○榮畑年金課長  事務局から恐縮なんですけれども、住田先生の3ページ目のレポートの、年金受給権 の権利性のところで、制度上今どうなっているかということだけお話しさせていただき ますと、現在、3号被保険者の方は確かに3号被保険者個人からはご負担、保険料をい ただいておりませんけれど、3号被保険者の方に基礎年金を出すときに、基礎年金につ いて、ここで書かれているような、その方の状況、お金あるか資力等々を調査して生活 困窮状態にある方に対して出しているというようなことは全然ございませんでして、そ こは全く給付として出すときに、むしろ下の保険原理ということで、資力、財産に関係 なく3号被保険者には給付しているということは、現行の制度としてこうなっていると いうふうなことをご説明させていただきます。  あと一つ、よくわからないのですが、先ほど住田先生おっしゃられた中で、特に2 ページ目の3の 5のところにかかわってくるのでしょうけど、妻は婚姻費用を夫と共有 しているということなんですけれども、婚姻費用の中に年金の保険料とか、更に言うと 税金を払うこととか健康保険とか、先ほども駒村先生からもお話出ましたけれど、医療 保険、介護保険、いわば税、社会保険料を払うということも入っておって、それがかつ 判例とかそういうものから確立しておるのかどうか、その辺、私全く知らないものです から、お教えいただければと思うのですが。 ○袖井座長  そもそも時間がなくなりましたので、住田委員にその点、先ほどの駒村委員からの質 問も混ぜてちょっとお答えください。 ○住田委員  まず婚姻費用についてどういうものを含むかといいますと、婚姻共同生活を営む上で 必要な費用、そういう定義づけをしますと、当然最低限必要な税金、社会保険料である とか、そういうのを含むということは十分考えられると思います。  2つ目の、今、専業主婦が年金を受給する際に資力調査をしてないということについ ては私はそのとおりだと思います。そのような、本来生活保護であれば資力調査をし て、本当に生活困窮者かどうかを確認した上で支払うべきものを、一切調査もせずに支 払うこと自体がどういうような考え方に基づくか、その逆に不公平感を私は指摘してい るわけでございます。  それから、最後に制度を改正するときに、国民の意識がどうなっているか、コンセン サスが得られていないのではないかという反対論が常にございます。夫婦別姓もそうで ございます。ただ夫婦別姓の法制審議会は、何十年も前から学者の間また有識者の間で は全く異論がなかったものが、国会情勢の中で出せないだけでございます。今現在また 国民世論を動向調査するためのアンケート実施が始まっておりまして、またそれによっ て立法化するため国会に提出するかどうかということになろうかと思います。  法務省民事局で夫婦別姓等の法制審議会に関与していた経験から申し上げますと、反 対するときの理由というのは1つ、国民意識、もう一つは制度的な制約でございます。 戸籍制度が夫婦別姓のために対応しきれないということから随分昔反対したと、国会で もそういう議論が出たということはございましたけれども、私は戸籍をこういうふうに やれば当然できますということで、それは難なくクリアーできるものであるにもかから わず、手続的、技術的制約からできませんというのは、やはりやりたくないときの一種 の方便のように思えてなりません。  そういう意味で言いますと、やはり給付設計のときにこういう理念でもってこういう ふうに平等にできるのだということを、逆に工夫するのが事務局の方々の私はお知恵と 力ではないかと思っています。その点については信頼しておりますので、まず理念を決 めていただいて、その理念の中でどういうふうにするかということがその後の仕事だと 思います。理念と技術的なものと混同されないようにと心から願っております。 ○袖井座長  どうもありがとうございました。 ○山口委員  すいません、一言だけ。今の改正前後で権利性に相違があるというのは非常に感情的 な問題だなと。法律的にどういう違いがあるのかというのは、今でなくても結構だと思 いますけど、一度ご説明をいただきたいと思います。 ○袖井座長  はい。それでは、時間も押してまいりましたので、次の永瀬委員の報告に移りたいと 思います。 ○永瀬委員  きょうはいろいろ資料をつくってまいりましたのですが、考えてみますと、これを20 分で全部説明するのはなかなか大変なことでございます。そこで、現状の年金制度の持 つ問題を女性の就業選択に与える影響を中心に実証的に明らかにし、制度の問題点につ いて、OHPを中心にお話ししたいと思います。                 (OHP映写) ◎ 税制・社会保険料など全体の社会保障の在り方が、結果としての女性の就業行動にど のくらい影響しているかについて、数字を示したいと思います。その規模の大きさに驚 かれると思います。一般に、賃金の分布を棒グラフにして書きますと、なだらかな山形 になっています。低賃金の人の度数が多く、高賃金の人は少ないため、、山のピークは 少し左に寄っていますが、形状はなだらかです。これが就業調整をしていないときの賃 金分布であります。 ◎ところがある所得までは稼ぐが、それ以上はやめようという行動を非常に多くの人が とるとすると、本来であれば、なだらかな賃金分布のはずが、その人たちが労働時間を 調整する結果、本来だったら得た所得を得なくなる。つまり、働く時間を減らす調整の 結果、賃金分布に大きなゆがみが出てくるというふうに考えられます。 ◎今、日本の女性の就業がどの程度そういうゆがみがあるのかというのについて、これ は総務庁「全国消費実態調査」の特別集計をしたものを示します。お手元の資料の5 ページが図になっております。「全国消費実態調査」というのは、全国の家計簿を集め たものです。これは勤労者世帯つまりサラリーマンの世帯だけで見たものです。サラ リーマンの世帯で妻が雇用者である世帯だけをとったものですけれども、妻の月収にど のくらいそういうゆがみがあるかを見たものです。私がピンクで塗った最初の内側の線 は、税金がかからない、大体月間8万円ぐらいかなというラインです。外側のもう一つ の線が、これより低ければ、社会保険料がかからないだろうという月収の線です。  一番下が全体のグラフです。大きなゆがみが見られます。次に夫の月収別にみると、 特に夫の月収の高い層で非常に大きなゆがみが見られているというのが明白に示されて います。  では、夫の月収が25万円以下、つまり夫の収入が高くない層はどうかというと、これ はほとんどゆがみが見られないことが図からわかります。まさに最初にお話した山型に なっているわけです。これは、妻が一定収入以上を超えるコストが制度上あまりに大き い、特に夫が高収入ほど大きいからです。 ◎その点については、「日本労働研究雑誌」2001年4月号60-61ページに説明いたしまし た。「パートの壁とは」という段落のところを見ていただきたいと思うのですが、本人 年収への課税、加えて夫の配偶者控除と配偶者特別控除がなくなることがあります。そ れから、企業の制度ですが、企業が支給する配偶者手当が打ち切られることが多いこ と。次に本人の社会保険料が年収 130万円を超えるとかかってくること。かかってくる のがこれまでは年金保険料、健康保険料だけだったのですけど、今度は介護保険料もあ りますので、更に壁は厚くなりました。ちょっと計算をしてみると、社会保険料に関し ては年間25万円程度(これは自治体によって違いますけれども)。それでも勤め先の厚 生年金に入れるのだったらば、多少は老後に受け取る年金(報酬比例部分)を得られる という楽しみもありますけれども、労働時間が一般労働者の4分の3未満の場合、また はいろんな事情で企業の厚生年金に加入させてもらえない場合は、第1号として保険料 を新たに払わなくてはならず、老後年金上のメリットはひとつもなく負担だけが増える わけです。そして配偶者控除や配偶者特別控除が減るわけですね。  ターゲットとすべき年収は、 103万の方もいますし、夫の配偶者手当がそこでカット されないとしたら130万ぐらいの方もあるでしょうが、大体これを超えたら 170〜 180万 は取らないと手取りが増えた実感がないと言われています。これは時給 800円で計算す ると、103 万円内で働くとしたら、 103万割る 800円で計算しますと週25時間の労働に なるのです。一方年収 180万を得るには同じ時給で週43時間の労働です。週25時間がい いのかこれを超えると週43時間というのは、物すごく大きな労働時間の差です。多くの 方が就業調整をして、週25時間を選ぶという行動をとるのは合理的なことだろうと思わ れます。ただし、これだけにとどまりません。この問題はパートの低賃金を助長すると いうより大きい問題と関わります。もちろん、パートが低賃金であるのは、その他の要 因もございますが。私は去年、労働省の通称「ものさし研」というところでパートと正 社員の賃金の均等の在り方を考える研究会にかかわりました。しかし、短時間パートの 4割という多くの方たちが就業調整をしている中で「均等」というのはなかなか語れま せん。パート賃金は今大体女性の正社員の6割、ボーナス込みで、ボーナスを除くと7 割ぐらいと非常に低いのです。しかも、それが時系列で見ても趨勢的に落ちていること が問題になっている。しかも、女性のパート化はどんどん進んでいる。労働省の就業形 態の多様化の調査によりますと、女性の雇用者の半数がパートです。そこの賃金が非常 に低いということがございます。  では、なぜ就業調整が低賃金を助長するのか。例えばとてもよく働く従業員の賃金を 雇い主が時給 800円から 1,000円に引き上げたとする。すると、103万円超えないために はこの従業員は労働時間を減らしちゃうのです。つまり一生懸命働くと、賃金が上が る、するとやる気が出てもっと働くという通常の行動は起こらない。雇い主にとってす ごく残念なことに、賃金を上げると働く時間が直に減る。それならば、賃金を余り上げ たくないということになってしまう。 もう一つは、先ほどこの図でも示されたように、就業調整の壁が高いのは夫の所得が 高い層です。そこには実は潜在的に優秀な女性労働力がいます。そこが自主的に調整を してしまう。これは私はパート市場を考える上でとても大きい問題なのではないかと思 っております。 ◎次に配付資料の7ページあたりをご覧下さい。専業主婦優遇はよくずるいといわれま す。夫の所得が高い方が専業主婦が多いのに保険料を負担しないでずるいと。それは 「ある意味」では事実だが重要な例外があると思うんです。ここでお見せしているの は、高山憲之先生が座長だった「日本労働研究機構」のプロジェクト「年金制度の改革 が就業・引退行動に及ぼす影響に関する研究II-就業行動基本調査による分析」の中の 研究成果の一つなんですが、夫の年収階層が高いほど無業の妻は増え、低いほど無業の 妻は少なくなっています。しかし、重要なのは同時に末子年齢で随分違うという点で す。末子が未就学であると、夫の所得が 250万未満でも大体妻の4〜5割ぐらいが働い てないんです。この4〜5割というのは、例えば末子年齢が小・中学生になったときの 女性でいうと、夫の年収が 700万ぐらいの層に当たりますし、末子年齢が15歳以上にな ったときで見ますと、夫の年収が 1,000万から 1,500万ぐらいの層に当たるわけです。 そういうわけで、確かに夫の年収が上がるほど女性が専業主婦化することは「就業構造 基本調査(92年の特別集計)」から明らかに見られる。ただし、では専業主婦がすべて 社会保険料を負担できるかという点に関しては、末子年齢が低い層では夫年収がとても 低くても、その半数近くが専業主婦であることを考えますと、むずかしい。働けない事 由があるかどうかを考えるべきです。選択として、つまり働ける環境があっても働かな いという選択行動の場合に免除する必要はないのではないかと思うわけです。 ◎次のグラフをご覧下さい。こちらが第3号、100 万未満の収入のある就業者です。幼 い子どもを持つ人たちの場合、夫の所得が低い層にこのような家計補助が見られます。 しかし、末子年齢が一定以上になりますと、所得には関係なく見られます。先ほど言い ました就業調整の働き方というのが、4割ですから、既婚女性の一般的な働き方になっ ているというのがここで示されています。 ◎では夫婦そろって第2号、つまり夫も雇用者、妻も雇用者と思われる夫婦はどういう 層か。夫の年収が低い層で多いかなと予想されるかもしれませんが、実はそうではない のですね。どこで多いかというと、夫の年収が中間層です。つまり2人分の保険料を払 って2人分の報酬比例年金を世帯として得る層は夫の年収が 400〜 500万ぐらいの層に なります。もちろん子どもの年齢が上がるほど、そういう働き方を選択する人が増えて はいきますが、夫の所得が中間層の妻の場合に増えるのです。  学歴別に見ますと、特に学歴が高い妻で夫の所得が中間層で突出するという形の傾向 が見られます。 ◎今度はその下のグラフをごらんください。これが保険料負担はするが給付が増えない 一番かわいそうな第1号の妻でございます。ただし、夫が低収入の層はもしかしたら夫 は2号ではなく雇用者であっても第1号(アルバイトなど)なのかもしれません。詳し いところまではわかりませんが、妻が 100から 150万の年収があると就業構造基本調査 で示されている層であります。実際は130万以上か未満か、つまり、社会保険料を払って いるかどうかはわかりません。課税はされているはずです。ただ、定義から言うと第1 号になっていてもよいだろうと思われる層を示したものです。この夫婦は2人分の保険 料を払っていますが、妻の給付の方は先ほどの第3号と同じ、つまり基礎年金部分しか もらえません。  そして、それはどういう層かというと、実は所得の低い層なんですね。かなり所得の 低い層で、就業調整ということを言っている間もなく一生懸命働いていると、そういう 女性が1号になっているということが1つ示されております。 ◎このグラフは末子年齢がどのくらいになったら働くのだろうかというのを見たもので す。棒グラフはサンプル数です。子ども年齢が上がるに従って急速に非就業の妻は減っ ていく。子ども年齢が4〜5歳になると妻の実に半分以上は就業者になっていく。その 間、第3号だけど家計補助的にちょっと働くという妻がぐっと増える。では本格的に働 くというのはどのくらい増えるかというと、確かに増えてはいるのですが、それほど急 速には増えていない。  どうして、それほど急速に増えないのかということなんですが、就業調整がある。時 間の都合もありレジュメどおりに話をしてこなかったのですがレジュメをご覧下さい。 Iの3「既婚女性の側の就業調整行動がパートの低賃金化に及ぼす影響」というところの 1は、先ほどお話したように、現在の既婚女性の就業行動に年金制度が非常に大きなゆが みを生じさせていたということです。  次に2の、将来の年金受給はどうかという点です。子どもが育ってくると、今ずっとお 示ししましたように、大勢の女性たちがやがて仕事に出て行くんですね。仕事に出て行 くのだけれども、だんだん労働時間も増やして年収も増え、そして3号が1号になる壁 にまずぶつかる。1号になっても、年金給付の増加はないのです。子どもも大きくなっ たし、もっと働こうと思ったときに、1号になっても保険料は増えるけど給付の増加は ないと。  では、子が大きくなったので、2号になるという選択は得かどうか。つまり、厚生年 金に入れる雇用者になる場合ですが、私はもう少しよくていいのではないかと思うので すが、計算してみると得られる年金は非常に低いんですね。月収15万で10年間働いた ケースを考えてみましょう。中途の再就職で月収15万得るというのは本当にフルタイム の労働ですが、その場合には納める保険料は 月々1.3万円です。もちろんこれは厚生年 金だけですから、そのほかに税金とか他の保険料等を納めます。それでどのくらいの報 酬比例部分がのってくるかというと、先ほどもお話しましたけど、報酬比例部分の乗率 を下げてきているということが1つ、長い年数仕事をしない人には不利であるというこ とが1つ。 もう一つは、全く賃金比例になっている。つまり、賃金が3倍高ければ3倍、賃金が 3分の1なら3分の1となっているということから、この方は 1.1万円の報酬比例部分 が増えるのみです。つまり、働かなくても6万7,000円の基礎年金。10年間そうやって働 き、税・保険料負担したことで増えるのがほんの1.1 万円に過ぎないということ。この 点を少し皆さんに考えてみて頂きたいと思います。もう少し上に乗ってくるような仕組 みになっていれば、もう少し本格的な就業が起こる可能性はある。 3のパート労働市場の賃金構造に与える影響ということで、2ページ目にいきますけ れども、本格的に働かないことが最も有利な状況が制度的につくられている。このため 主婦労働が低賃金補助的。本格的に働く必要のある人も低賃金になっている。  次にもう余り時間もありませんが、ざっとレジュメの1頁の一番上のところから話し ます。女性の就業と出産の現状ですが、育児休業制度ができましたし、また女性の高学 歴化も進んでいる。いろんな援護射撃があるので、育児中の就業も増えているだろうと 皆さん思われていると思うのですが、実際にはほとんど増えていない。いや、むしろ下 がっているぐらいで出産そのものが減っている。結婚そのものが減り、出産そのものが 減るけれども、出産はいまだに女性の就業と代替的である。つまり女性が賃金を一時的 に放棄する、あるいは年金権でも第2号から外れることを伴って、今の日本の出産が起 こっているということを認識頂きたい。大体7割ぐらいが第一子出産時には専業主婦に なっているのですけれども、大都会、例えば東京あたりですとそれが8割5分ぐらいが 専業主婦になっております。 ◎次にM字型労働を年金制度からみるとどうなるか。(資料の2ページになります。)こ のオレンジの線がM字型の労働力率を示しています。出産で落ち込んで、また大きく増 えている。ところが年金制度上で見ると、落ち込んだままなのです。日本の女性の第1 号、第2号、第3号の割合を計算すると労働力率と随分違います。女性の場合学卒後大 体8割ぐらい正社員に、(最近落ちていますけれども)なっていたのです。つまり、2 号となるがそれが結婚を機に4割ぐらいが、それから続けた人も出産を機に専業主婦に なる人が増え落ち込む。その後、働く人は増えるのですけど、第2号は中年期にはほと んど増えていないのです。第1号は、50歳代に増えますが、夫が定年になるために第 3号から外れて自分で払うようになるためと思います。労働力率はこうですけれども、 年金保険を負担している層は1号と2号のみで両者は乖離します。そして報酬比例部分 を持つのは2号だけであって、さらに乖離し、基礎年金だけの部分は1号と2号の部分 ということになります。図のレンズ型の部分は、働いているけれども、第3号である女 性です。つまり就業調整をして働くが保険料を払わない層ということになります。この 図は97年について事業年報からつくったのですけれども、88年と比べてどういう変化が あったかを見てみますと、社会保険料を負担している層は、(皆さんのレジュメに載っ ているのは、40から44歳層ですが、)第1号が減少した分だけ減少しておりまして、労 働力率は上がったのに、保険料負担者は88年は54%、97年は49%に下がっております。 社会保険料を負担しない有業者というのが88年13%、97年22%と増加しております。つ まりこの85年当時に導入した第3号の制度、当時はそれなりの意義があったのでしょう が、それから15年ぐらい近くたってみて非常に矛盾が拡大した。つまり被扶養内での就 業を促進するような形の矛盾をつくり出しているということです。ただし、私自身の考 えとしては、子どもを出産した時期に働くか自分で育てるかということは本人が選べる べきだと思うのです。なので子どもを出産し、自分でケアしている者の社会保険料が免 除されることは、社会保障として良いと思う。子どもをケアする活動の評価として第3 号があるかというと、そうでもない。一部のみである。例えば失業者の妻であれば免除 はされない。フリーターの妻であれば免除はされない。母子世帯であれば免除はされな い。子どもをケアしていて働けないから払わなくていいというのはないんですね。そう ではなくてサラリーマンの妻であれば払わなくていいと、そういうことになっているこ とがいろんな矛盾を生んでいるのではないだろうかということを申し上げたいと思いま す。  時間を過ぎているかもしれませんが、レジュメの2ページの4番に行きたいと思いま す。先ほど厚生年金でも75%ぐらいが後世代負担であると言いました。つまり世代間連 帯あるいは後世代が扶養するという形になっている。それにもかかわらず、出産をどう して明示的に年金制度の中で考えないのだろうか。世代間扶養を支えている出産という 行動は、年金制度の中では、今までお話しましたように、女性の年金の受給額の大幅な 低下につながっているのですね。では、どういう新しい方向に行くべきなのかというこ とを考えたときには、年金だけではできないだろうと。例えばもっと保育園の充実をす るですとか、働き方はもう少し育児時期に多様性を増すですとか、そこの変化を同時に 起こさないと難しいのではないか。  ここは年金に関する検討会ですけど、同じ厚生労働省ですので、前から言いたいと思 っていたので申し上げたいと思うのですが、添付資料をばらにしていきますと、最後の 私の論文幾つかついております。「新福祉経済社会の構築(2001)大林書店」169頁〜 193頁は、最後に説明したグラフをどうつくったかというのも説明してあるものです。 「ESP/2001年4月号」の論文の29ページをごらんください。  これは児童に占める保育園入園児の比率を見たものです。上がスウェーデンで下が首 都圏のある自治体でございますけれども、1975年当時はスウェーデンとこのA自治体と は保育園入園率とはほとんど変わってなかったのですね。それがスウェーデンはどうし てこんなに急速に充実できたのかなと思うわけですけれども、90年、2000年と非常に急 速に拡大しておりますが、日本の場合は、90年から2000年、少子化対策といろいろ言わ れたこの時期にほとんど増えてはいないわけです。ですから年金だけでは語れない部分 があると。もう少し社会政策全体の中で出産と女性の就業の在り方を考えなくてはいけ ないということがあると思います。レジュメの下に離婚女性のことを書きました。もし も今後も離婚の増加を見越すとすれば、離婚女性が子どもを持ち自立できるような環境 整備も必要だろうということ。つまり第3号に対して、母子世帯の社会保険料は子が幼 くとも免除されないことの矛盾。 ◎未婚女性の年金受給の問題もあります。未婚女性が今非常に大きく増えているのです けれども、未婚女性は報酬比例部分をちゃんととれるのか。つまり一人でしっかり生き ていけるぐらいの年金をもらえるのかという点です。この図は未婚女性の労働力率で す。これは1992年において未婚女性は年齢が上がるにつれて労働力率が下がるというこ とが示されています。内訳を見ると、年齢が上がるに従って、さらに未婚女性でも非正 規労働が増えていきます。ですから生涯独身でも報酬比例部分を持たない女性がこのま ま非正規労働を報酬比例の枠外とすると大変増えていくだろうことが予想されます。  では子どもを持った女性の労働力率はどうかというと、子どもを生んだ直後はがくっ と落ちるんですけれども、実は40代になるころにはだんだん上がっていって、子を持た ない既婚女性とほとんど差がなくなるほど、就業率は上がっていっているのです。それ は子どものための、例えば教育費とかいろんな目的があるかもしれませんが女性が働く ことはかなり一般的となっています。 ◎レジュメのIIIの2にいきます。非正規労働が現在、急速に若年に増えている問題。つ まり、基礎年金しかない未婚男性・女性が増加している。24歳以下では、学生を除いて も女性の4人に1人が非正規労働です。基礎年金でさえ満額でない女性の予備軍が増え ているとも言える。男性でもそういうフリーターは増えていますので、つまり老後2人 分(妻の分)の年金を設計する厚生年金に入れない男性も増えている。 ◎社会保障の中で育児と就業をどう考えるのか。これは年金だけでは十分ではない。も う少し保育や児童手当など全体を含めて考える必要がある。どういう形であれば、21世 紀の安心と公平、維持可能性、政策的な実効性を担保できるのか。それはこの委員会で 一緒に考えなくてはいけないことであるのですが、現状のこういう状況にあるという、 私自身のこれまで5〜6年間の研究の中からいろんな官庁データを特別集計して見てき たこと、制度の問題点をこの場で共有できればと思ってお示ししました。 ◎結論としてはケア活動を担う者が不利にならないこと。  一方、働ける環境にある者については就業することが抑制されない。就業することは それなりの見返りがあるものであるという、そういう枠組みが必要なのではないかとい うことです。 ◎そういうことで、出産と年金というのはすごく関係しているのですけれども、最後に 家計調査の95年の特別集計を簡単に説明します。これは、総務庁委託通称「統計的マッ チング研究会」(座長 吉澤 正)の研究プロジェクトの成果です。税金に比べて社会 保険料がすごく高いんですね。税金は扶養控除などがありますから、税金は子どもが多 い世帯では減っているのです。しかし、年金というのはまさに子供を育てたことのある 程度の見返りなわけですけど、社会保険料は子ども数に全く依存せずに決まっている。 しかも税金に比べて倍くらい高い。そして、おまけに、今の年金が賦課方式であると言 いましたけれども、国立社会保障人口問題研究所の推計によれば、女性が子どもを持た ない割合、1980年生まれの、今20歳の若い女性は、中位推計で4人に1人、低位推計で (今までいつも低位推計が当たってきたんですが)、今の20歳の人たちの何と30%が子 どもを持たないだろうと推計されている。これだけ出生率が下がってきたのは、経済学 を学んだ者としては理由があると考えています。つまり子どもが育てにくいような政策 が意図的にではないにしろ、実行されてきたのではないだろうかと。人々の選好が意味 なく変わって、子どもを持つことに対する喜びを感じなくなったために、子どもが減っ ているというばかりではないのではないかと思います。  以上です。 ○袖井座長  どうもありがとうございました。大変たくさん資料を提供していただきまして、多分 皆様方、後でもう少しじっくりお読みにならないとわからない点もあるかもしれません が、今のご報告に対してご質問とかご意見ありましたらどうぞ。堀委員どうぞ。 ○堀委員  私ばかりで申しわけない、今回は短くします。  こういった実証研究で実態を分析するのは大変いいことではないかと思います。こう いったことを今後もやっていただきたい。結論も、年金だけでなく雇用労働の問題や家 庭の問題も考慮する必要がある、こういうことも妥当ではないか。  3点ばかり私の意見を申し上げますと、関係の資料全部読ませていただいたのです が、女性の雇用調整の問題あるいは女性の賃金の問題について、1つ抜けているのでは ないかと思うのは、男性の年功賃金がどれだけそこにかかわっているのかということで す。男性の賃金が上がっていくと、妻は余り働く必要がなくなる。これは世帯賃金とか 家族賃金と言われているのですが、就労調整の問題、賃金額の問題がどれだけかかわっ ているのか、そこを少し研究していただけたらと思います。  年金制度や、税制の問題があるから働かない、あるいは就労調整するのか。それとも 家族で夫が協力しないから、雇用が女性が働ける環境にないからか、そのどちらなのか という、そこら辺も、いろいろデータは出していただいたのですがもう一つ納得できな い面があります。  年金制度が影響するのは、女性が就労するか否かではない。 130万円を超えて働くか どうか、そこの就労調整だけです。そこの就労調整がどれくらいあるかということが問 題だと思います。それが1点目です。 2点目は、所得が高い層に第3号被保険者が多いから逆進的であると、こういうふうに おっしゃっているのですが、実は基礎年金というのは所得が高い者ほど損をするシステ ムなんですね。 例えば10万円の給与の人と50万円の給与の人との間に、5倍の保険料 の格差がありますが年金額は同じなんですね。従来、共働きも片働きも世帯の給料が同 じであれば保険料も同じ、年金も同じというのは、そこが相殺し合っているんですね。 金持ちというか所得が高い方が損するということと、第3号被保険者制度で得をするこ とが相殺し合って同じになる。だから逆進的だとか所得の高い層が第3号被保険者制度 で得をしているとかは必ずしもいえない。そこはもう少し、応能負担で定額給付である ことを考慮することが必要です。  3番目は、今の年金の75%が後代負担になっているから年金制度が子どもの扶養を考 える必要があるという問題です。少子化に対し、年金制度だけでなくていろんな施策を 講ずる必要がある。それはそのとおりです。年金制度に限っていいますと、積立方式の 基本的考え方は、若いときに貯蓄したものを取り崩すということです、これは子どもの 扶養と関係ありません。賦課方式の考えは若いとき高齢者を扶養したから老後になって 若い人から扶養してもらうというものです。若いときに子どもを扶養したか否かは、一 応今の制度では関係ないんですね。それを関係あるようにするという仕組みはできると 思いますけれども、一応今の考え方はそういうことです。 ○袖井座長  永瀬委員何かありますか。 ○永瀬委員  就業調整はなぜ起こっているかというのは、私は明らかに税制及び社会保険、その両 方。実態として見ると税制のところで調整している人が多いですけれども、それは独立 のものではなくて、国の政策、つまりそこで被扶養ということを妻に対して権利として 認める、ある一定の優遇を認めるということが引き起こしていることだろうと思いま す。25時間働くか43時間働くかという選択に直面したら、主婦でしたら、43時間はどう も長すぎると思う人は多い。そう簡単に25時間からぽんとは移れない。25時間か30時 間かといった選択ならば移りやすいですけれども。 ○堀委員  それは主婦が家事を専門に負っているからじゃないですか。それは社会慣行じゃない ですか。 ○永瀬委員  それはそういう社会慣行があるからだろうと思います。ただ、今現在の年金を考える に当たって、そういう慣行があることを全くないものとして考えることもなかなかでき ないのです。今現在の慣行の下では現行の制度はそういう大きな影響を就業行動に現実 に与えていると思います。大体社会保険料の28万円というのはパートにしてみると3カ 月分の労働ですよね。そうするとやっぱり考えるのではないかと思います。 ○袖井座長  ほかにどなたか、質問とかご意見ありますか。今、何が決め手かというと、そういう のは労働経済で見つけられるんですか。多分全部総合的にかかわってくると思うんです よね。慣行なのか税なのか年金なのか、その辺はどうでしょうか。 ○永瀬委員  それこそ総合的な政策として一体的に新しい方向に移るべきだろうと思います。そし て、それは多くの国では既にしていますよね。今の日本のように世帯主モデル、すなわ ち世帯主の雇用を保障し、世帯主を通じて無償の労働をしている妻の生活費を賄うとい うのはかなり古いタイプの夫婦モデルであります。多くの国ではそれではうまくいかな くなった。なぜかというと、年金などが充実してくる一方で、介護や保育などいろんな ものが外部化されていく。老人の扶養や介護が家庭内で行えないようになっていく中 で、女性も労働市場に参加していく中で人口の再生産が行なわれる仕組みを作らないと 社会が成り立たなくなっていった。それで、新しいタイプの社会保障モデルに変わって いっているのです。ただ、その変わり方は国によってかなり差があるのは事実です。例 えば女性の無償労働を前提として、そこに年金権を付与するような形、あるいは女性が 働くことを前提として、なるべく介護や保育を社会化するという形で進む形と、図によ って方向は違ってはおりますけれども、でも昔のモデルをこのまま続けるという選択は どうにも難しいのではないかと思います。 ○袖井座長  どなたか。今、永瀬委員が先ほどご提案になった、ケアの部分をどう社会保障に反映 させるかということですが、これはまた外国の制度かなんかでありますよね。事務局に ご紹介いただけますか。 ○度山年金課長補佐  これまでの議論の中でもご要請がありますので、外国の制度のレポートを事務局から できるように考えておりまして、今細かい部分でわからない部分などについていろいろ 照会をしたりして、夏までの日程の最後のあたりできちんとご報告をしたいと思います けれども、1つはっきりわかっておりますのは、永瀬先生のお話の中にもありましたけ れども、ドイツについては、いわゆる第3号被保険者のような仕組みですとか、配偶者 の加給という仕組みは全くない、純粋な報酬比例の給付と負担の構造の年金制度となっ ておりますが、その中で子どもを3歳まで育児をしたということを、平均賃金で働いた というふうにみなして年金制度では記録をし、自分が老齢になったときに、その記録を 根拠にして年金を受け取るという仕組みとなっております。近年行われた改正でそうい う制度をとったといった情報は得ております。  今日のところは、次世代を育てるということを年金制度上考慮した年金制度の設計は 実際にとられているということだけ、ご報告させていただきます。 ○袖井座長  どうぞ、住田委員。 ○住田委員  今、3歳児のお話が出たので、それにちょっとつけ加えて申し上げたいと思います。 3歳児神話というものを恐らく日本はもう否定しつつあると思いますが、ドイツはそれ が非常に強く、よい母親は家にいるものという、そういう前提でつくり上げた制度です ので、我が国は習うべきかどうか、また我が国独自に考えるべきだと思います。  ただ、育児をすることがいろんな意味で不利益になってはならない。それが母親であ ろうが社会的なものであろうが、不利益を負ってはいけない多様な選択肢が保障される と、そういう前提でぜひお考えいただきたいと思います。 ○袖井座長  よろしいですか。 ○堀岡委員  ちょっとよろしいですか。 ○袖井座長  どうぞ。 ○堀岡委員  企業といいますか、会社にいる中で実感として感じるようなところを少しお話しした いと思うのですが、確かに最初のお話の中で、男女の共同参画社会ということで、企業 の中も、特に我々電機業界についても少子高齢化ということに対応するためにエージレ スだとか男女、いわゆる全く労働条件も関係なく機会は均等に与えようと、こういうこ とでずっと取り組んできてまして、まさにこれからの労働市場を考えると、新たなそう いう労働市場もできるだろうし、人の流動性も出てくるだろうし、あるいは個人の価値 観が高まっていっていろんな選択肢が出てくるだろうということで、いろんな選択肢を 用意して、1人ひとりが自立して1人ひとりが責任を持つと、そういう体制にしていこ うというのが企業なんですけれども、その中で先ほどから出ている女性のライフスタイ ル云々というのは、当然価値観はいろんなものがあるものですから、企業の中でも年齢 に関係なく家庭に入られる人もいますし、収入のために働くという方もいらっしゃる し、自分がどこかでその価値観を発揮するために働くという方もいらっしゃいますしい ろんな物の考え方の人がいらっしゃるので、いちがいに損だ得だという、この生き方が いいとか悪いとかという概念は余りない方がいいのではないか。  むしろより選択肢を、住田先生がおっしゃったように、選択肢を広げていく努力を年 金だけではなくて、いろんなインフラを整備していかなければいけない、これは大賛成 なんですが、堀先生がおっしゃるように、その問題と応能負担という年金制度、これも 前回私的年金と公的年金ということがあって、企業の方の年金については、私的年金の 一部である企業年金と個人の年金、自分の将来は自分できちんと準備していきましょう と、そういう私的年金と、では一方、公的年金というのは何だというと、先ほど出ます 社会保障的な社会保険という概念の下、いわゆる扶助的な部分といわゆる応能負担に基 づく年金システム、こういう中ですから、少し議論が、今の公的年金制度そのものに不 備があるという部分も少しあるのだと思いますが、それが女性のライフスタイルに直結 して年金制度を変えなければいけないというのはちょっと違うのではないかというのが 正直なところ感じております。  それと例えば公的年金についての個人の負担と、一方、我々からすると企業にも負担 が来ますので、例えばどれほど企業が負担しなければいけないかという部分について も、余り個人中心に考えられていますけれども、企業からすると公的年金という場合 に、個人が負う部分と企業が負う部分と国が負う部分というのを明確にしていただかな いと、個人の理屈だけで全体が回るのはなかなか厳しいのではないかというのは感じて おります。 ○永瀬委員  年金財政について、お願いしてみたいと思うことがあります。女性の2号、1号、3 号の割合というのは女性の選択によって非常にフレキシブルに変わるんですね。しかも 誰が1号で、どこが3号で2号なのか、これは定義の問題なんですよ。130 万なのか 100万なのか、50万なのか 200万なのか。定義によって年金保険料収入や年金給付はす ごく変わってくるわけです。 私は優遇をすべきなのはケア活動している者だけでいいのではないか、それ以外から は徴収していいのではないかと個人的には思っております。 定義を変更した場合に年金財政上どういう変化があるのかという計算はこれまでされ たことがないんです。されたことがなく、パートが厚生年金に加入すると厚生年金は悪 化するというようなことがまことしやかに言われている。実は3号だった人が2号にな るときには、基礎年金も負担してなかった人が、負担をしかつ報酬比例部分ももてると いう2つの変化が出ます。そのやり方も乗率上や加入期間計算でいくつかのケースが考 えられる。例えば、出産離職を優遇するようなケースです。しかし、全く計算はされた ことがない。以前、厚生省が示した「5つの選択肢」というのも、女性がどういうふう に働くか、それをどう制度上とらえるかは全く選択肢の中に入ってなかったと思いま す。その辺を入れた財政再計算をしていただければと思います。 ○堀委員  3号から2号になったとか、そういう場合のデータについてですが、財政計算の問題 ではないのですが、女性がずっと1号でいった場合、2号でいった場合、3号でいった 場合の生涯の収支計算はありますね。もらった賃金、年金から払った保険料、税金の生 涯の差引き計算はありますね。 ○永瀬委員  その計算は、個人が、有利さを見つつ、1号、2号、3号を選ぶという選択の側面は とらえてません。別に1号になったら、一生1号で行かなくちゃならないわけではなく て、人は好きな方に行けるんです。反対に言えば、制度のあり方が人の選択を左右しす ぎている。 ○堀委員  その結論を言いますと、生涯にもらった賃金、年金から払った保険料、税金を引く と、2号として働いた方が得だと、こういう結論は出ています。  余り時間ないですが、ちょっと1点だけつけ加えさせていただきますが、労働省の調 査によると、女性がパートとか時間調整するというのは家事との両立だという、そうい う調査があるということと、それから出産・育児終わった後に仕事を見つけようとして もないと、そういう調査もある。だから、そこら辺、きょうのご報告とどうあれするの か。  それは将来直していく、変えていくべきだと、それはわかるのですが、社会とか経済 を変えるたびに年金制度を変えるという考えでは、年金制度というのは社会経済を後追 いして行くべきものではないかというふうに私は思います。 ○永瀬委員  大きなゆがみの部分はどうお考えになるのでしょうか。既に大きな就業調整のゆがみ が非常に大きく現実にあるということがあるんですが、そこはどうなんでしょうか。 ○中原企画官  旧労働省でパート対策の責任者だった立場から申しますと、税制あるいは企業の扶養 手当制度に加えて年金制度を考慮した就業調整行動というものは当然ある、ということ を前提にいろいろ女性・少年問題審議会においても検討、関係省庁に対する建議がなさ れたという事実はございます。 ○袖井座長  パートの問題などにつきまして、今後のヒアリングでももう少し詳しくお話しいただ けると思いますので、きょうは時間もありませんので、この辺できょうの意見交換は終 わらせていただきたい。  もう一つ、ちょっと感じたのは、永瀬委員がケアの部分を非常に尊重すると言ってら っしゃいまして、私もそれは賛成なんですけど、ただ、ドイツの場合に非常に手厚くし ても出生率は日本より低いんですね。だから、また出生率の低下というのは、またほか のファクターもあるのではないかというふうにも思っております。  それでは、一応これで本日の意見交換は終わらせていただきます。次回の予定は、ま た事務局からご報告いただきますが、その前に、皆様からのご要望もありまして、有識 者の方のヒアリングをお願いしたいということがございまして、何人かご推薦いただき ました。その中から東京大学の大澤眞理先生と慶應大学の樋口美雄先生にお願いするこ とになりましたのでご報告申し上げます。両先生につきましては、次々回の検討会、6 月にお願いしたいと思います。  それでは、次回以降の開催について、事務局からご説明をお願いいたします。 ○中原企画官  資料の中に「女性と年金検討会」今後の日程と議事(案)という資料をつけてござい ますので、ご参照いただきながらお聞きいただきたいのでございますが、次回検討会に つきましては、既にご案内しておりますとおり、5月17日(木曜日)を予定しておりま す。後日、開催の案内をご送付申し上げますのでよろしくお願いいたします。  また、次回検討会では、今回に引き続き、委員からのレポートにより議論を深めてい きたいと考えておりますが、次回は駒村委員と本日都合により欠席されております佐藤 委員にお願いしております。よろしくお願いいたします。  なお、6月以降の日程につきましては、6月7日、7月13日、7月26日の3回を予定 しております。6月7日はただいまお話もありましたように、大澤眞理教授、樋口美雄 教授からのヒアリング、7月13日は堀委員、中田委員からのレポート、7月26日には主 婦の方からのヒアリングまたは外国制度などこれまでの議論の中で事務局にご要請のあ りました事項のご説明という内容で考えておりますので、よろしくお願いをいたしま す。 ○袖井座長  本日の検討会はこれで終了させていただきます。住田委員と永瀬委員は大変ありがと うございました。次回の報告者の方、また御苦労をおかけしますけど、よろしくお願い いたします。  どうもありがとうございました。 照会先  厚生労働省年金局年金課   課長補佐     度山   企画法令第3係長 三浦 電話03-5253-1111(内3338) 03-3591-1013(夜間)