労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委令和6年(不)第29号
ベルリッツ・ジャパン不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和7年12月16日 
命令区分  却下・棄却 
重要度   
事件概要   本件は、①令和5年5月9日以降、組合と会社との間で団体交渉が開かれていないこと、②会社が、組合員A(語学講師)に対し、出勤停止の懲戒処分(以下「本件懲戒処分」)を通知したこと、③会社の人事部長からAに対する書面の送付、④会社が、AをNセンターからSセンターへ異動させたこと、⑤Aのレッスンに会社の従業員が同席したこと、⑥会社が、労働委員会から組合宛ての郵便物(以下「本件郵便物」)を取り次がなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、③及び④について申立期間を徒過した不適法なものとして却下し、その余の申立てを棄却した。
 
命令主文  1 令和5年2月28日の書面送付及び同年6月18日付けの人事異動に係る申立てを却下する。

2 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 令和5年5月9日以降、組合と会社との間で団体交渉が開かれていないことは、団体交渉拒否及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否か(争点1)

(1)組合との連絡窓口について

 会社は、組合が、組合結成直後に、当時の社長B1らに対して、(組合の結成を通知するとともに、会社に対して団体交渉を申し入れる旨を記載した)令和3年7月29日付メールを送信したときから、「労働組合に関連する事項の対応窓口は会社の人事部長〔当時B2〕である」として、組合に対して人事部長への連絡を求めている。
 この点、会社が、組合からの団体交渉の申入れや団体交渉の日程調整について、人事部長に対応を一任し、組合に対して人事部長を窓口として案内することについては、不合理な対応とはいえない。しかし、組合は、会社の求めに従わずに会社社長への連絡を継続しており、会社は、その後も一貫して、人事部長への連絡を求めている。

(2)スケジュールのブロックの申請について

 もっとも、上記(1)のような組合の対応がありながらも、会社は、組合の団体交渉に関連する要求や連絡を無視することはせずに、令和3年10月7日及び5年5月9日の2回にわたって団体交渉を開催している。
 また、会社は、第2回団体交渉後も、組合からの社長に対する連絡に対し、人事部長B2から返信を行うなどの対応を取っており、実際に、組合との間で、令和5年6月13日及び11月14日の2度にわたり、団体交渉を行う具体的な日程について合意している。
 それにもかかわらず、団体交渉が開催に至らなかったのは、Aを始めとする組合の組合員が、(会社がレッスンのスケジュール編成の都合上求めている)開催予定日の前日の午後3時までのスケジュールのブロックの申請を行わなかったことを理由として、団体交渉の開催がキャンセルされたからである。
 会社が求めるスケジュールのブロックの申請は、会社が各ランゲージセンター(以下「センター」)において翌日のスケジュールを編成する都合上必要となる事務処理であり、これを団体交渉に出席する組合の組合員に求めることは、会社として必要かつ合理的な対応であったとみるのが相当である。また、会社は、事前に、組合に対し、「期限までにスケジュールがブロックされない場合は、団体交渉を開催できない」旨を繰り返し明確に伝えている一方、組合が会社の求めに対して異議を示すといった事情は見当たらない。

(3)以上のとおり、会社は、連絡窓口についての会社の求めに応じない組合の対応がありながらも、組合からの団体交渉の申入れ等の連絡に対して応ずる姿勢を明確に示しており、実際に、令和5年5月9日の後も、2度にわたり、組合との間で団体交渉の具体的な開催日時についての合意に至っている一方で、組合が、会社の求める、団体交渉に出席する組合員のスケジュールのブロックの申請という所要の事務処理に合理的な理由もなく応じなかった結果、団体交渉が開催されなかったのであるから、団体交渉が開催に至らなかった原因は、専ら組合にあるといわざるを得ない。
 これらから、令和5年5月9日以降、組合との団体交渉が開かれていないことは、正当な理由のない団体交渉拒否及び組合の運営に対する支配介入には当たらない。

2 令和6年5月26日、会社が組合員Aに対して本件懲戒処分を通知したことは、組合員であること又は組合活動を行ったことを理由とする不利益な取扱いに当たるか否か(争点2)

 会社が、本件懲戒処分の理由とする事由は、大別すると、①顧客に対する身体的接触行為(以下「懲戒事由①」)、②会社スタッフに対する不適切な言動(以下「懲戒事由②」)、③住所の不届け(以下「懲戒事由③」)の三つであるところ、以下、会社が、各懲戒事由の基となる事実を認識し、懲戒事由に該当すると判断した経緯を検討する。

(1)懲戒事由①について

 この点、組合員Aがレッスンを担当した異なる女性顧客3名から、会社への「お客様の声」として、Aから、頭を触られる、目隠しをされる、腕をもまれるなどの身体的接触行為を受けて嫌悪感を抱いた旨及び今後Aのレッスンを受講したくない旨が、それぞれ投稿され、会社がこれを把握するに至っている。

(2)懲戒事由②について

 会社スタッフに対する不適切な言動については、直接の証拠は存在しないが、会社が、「令和6年3月30日の面談において、会社従業員からの苦情に関する事実確認を行うつもりであったが、それができなかった」と4月22日付(Aあて)メールに記載している。
 また、会社は、(Aあて)5月9日付メール及び5月26日付通知書に、①Sセンターの女性スタッフから、組合員Aから「〇〇Angel」〔注〇〇は会社名〕と呼び掛けられることを不快に思っているとの申出があったこと、②会社は、3月30日の面談において、人事部長B2が、組合員Aに対し、女性スタッフへ「〇〇Angel」と呼び掛けてはならない旨を指導したこと、③上記の指導を受けたにもかかわらず、Aが、再度、Sセンターの女性スタッフに、「〇〇Angel」は何も悪くないから、などと述べたり、「ありがとう、『〇〇Angel』」などと述べたこと、④会社は、Aが、注意を受けているにもかかわらず、このような言動を繰り返していることが重大な問題であると認識していることを記載している。

(3)弁明の機会の付与について

 会社は、上記(1)(2)の会社が把握し認識している内容をそのまま事実として認定しているわけではなく、令和6年3月30日の面談においてAに対して事実確認を試みており、また、4月22日付メール及び5月9日付メールにより、Aに対して弁明の機会を付与しており、これに対してAは回答を行わなかった。

(4)懲戒事由③について

 会社は、Aの届出住所に送付した郵便物が「配達不能」として返送されたことを受けて、Aに対して正しい住所の届出を求めたが、Aは、組合事務所の所在地(Sセンターの所在地と同一)に送付してほしい旨を述べるのみであり、会社が、「Sセンターに送付された組合宛てのいかなる文書も差出人に返送される」旨を伝えた上で再度住所の届出を求めたにもかかわらず、会社が延長した期限までに住所の届出を行わなかった。

(5)以上のとおり、会社は、懲戒事由①及び②について、会社が把握し認識した懲戒事由に該当し得る内容について直ちにそのまま事実として認定せずに、必要な事実調査を試みるとともに、Aに対して弁明の機会を付与しているにもかかわらず、Aは期限までに何ら回答を行わず、自ら弁明の機会を放棄したものといえるところ、会社が、会社の把握し認識した内容について、事実として認定した上で就業規則違反であると判断したことについて不合理あるいは不自然な点は見当たらない。
 また、懲戒事由③について、Aは、会社からの繰り返しの求めにもかかわらず、正しい住所を届け出なかったのであるから、会社が就業規則違反であると判断したことについて不合理あるいは不自然な点は見当たらない。
 そして、そのほかに、会社が、本件懲戒処分を、不当労働行為意思をもって行ったことを基礎付けるに足りる事実の疎明もない。
 したがって、会社が行った本件懲戒処分は、会社の就業規則に基づく従業員の規律違反行為に対する制裁であったことは疑いようがなく、Aがストライキその他の組合活動を行ったことなどを理由とするものということはできないため、組合員であること又は組合活動を行ったことを理由とする不利益な取扱いには当たらない。

3 令和5年2月28日、会社の人事部長(B2)が、組合員Aに対し、正当性が認められないような態様等で争議行為が行われた場合には、懲戒処分を行う可能性がある旨を記載した書面を送付したことは、組合員であること又は組合活動を行ったことを理由とする不利益な取扱いに当たるか否か(争点3)及び令和5年4月から6月頃、会社が、組合員Aを(NセンターからSセンターに)異動させたことは、組合員であること又は組合活動を行ったことを理由とする不利益な取扱いに当たるか否か(争点4)

 本件申立ては、令和6年7月17日に行われたところ、争点3については、令和5年2月28日の会社の行為に係る申立てであり、また、争点4については、会社が、組合員Aに対し、同年6月14日付けのメールで6月18日付けのSセンターへの異動を命じているため、いずれも、本件申立てから1年以上前の行為に係る申立てであるといえる。
 また、組合は、「継続する行為」(労働組合法第27条第2項)に該当する旨の具体的な主張もしていない。
 したがって、争点3及び4に係る申立てについては、申立期間を徒過した不適法なものとして、却下せざるを得ない。

4 令和6年2月3日及び2月10日、会社の従業員(B3)が、組合員Aのレッスンに同席したことは、組合の運営に対する支配介入に当たるか否か(争点5)

(1)会社の主張によれば、従業員B3の主要な業務は組合員Aを含む各講師のレッスンのモニター及びプロフェッショナル・デベロップメント・セッション(レッスンのモニターに基づくフィードバック等の各講師の能力向上に向けた各種取組の総称、以下「PDS」)を行うことであったとのことであるが、B3の所属する部署及び役職(インストラクション&フィールドサポート部に所属するタレント・デベロップメントユニットのシニアスペシャリスト)からみても、同人の業務についての会社の主張に、特に不合理あるいは不自然な点はない。
 そして、令和6年2月3日については、会社は、「ICレコーダーでのレッスンの録音をAが拒否したため、結果としてレッスンのモニター及びPDSは行っておらず、B3がAのレッスンに同席した事実はない」旨を主張しており、これに対して組合は具体的な反論をしておらず、同日、B3がAのレッスンに同席した事実を認めるに足りる具体的な疎明がない。
 そうすると、2月3日にB3がAのレッスンに同席した事実があったということは困難であるから、同日の会社の行為に係る(Sセンターでのストライキの可能性に介入するため、組合員であるAのレッスンを密かに監視したとの)組合の主張は認められない。

(2)また、令和6年2月10日のレッスンにおいては、B3がAのレッスンに同席した事実が認められるが、これは、会社が主張するように、2月3日のレッスンの際にAがICレコーダーでのレッスンの録音を拒否したためにレッスンのモニター及びPDSを実施できなかったことを受けて、レッスンのモニター及びPDSを完遂するために、やむなくレッスンに同席したとみるのが自然である。
 この点、組合からは、こうした会社の主張を覆す具体的な主張はなく、また、そもそも、B3が2月10日のレッスンに同席する前に、組合がストライキの通告を行っていたことについての疎明もない。
 さらに組合は、2月10日のレッスンの際に、組合のストライキを受けてB3及びSセンターのスタッフが当該レッスンを非組合員の代替講師に実施させるよう手配をしたことを捉えて「ストライキに介入するものである」と主張するようであるが、B3及びスタッフの行為は、会社の従業員として、突然の組合によるストライキを受け、専ら受講者に迷惑が掛からないようにするための行動であることは疑いようがなく、組合のストライキに介入するものとはいえない。

(3)以上のとおり、令和6年2月3日にB3がAのレッスンに同席した事実を認めることはできず、2月10日のSセンターにおけるB3及びスタッフの行為は、まさに会社の従業員として、自身の職務責任を全うしようとしたものにすぎず、組合に対する何らかの干渉や、弱体化を図るものであったとはいえないため、組合の運営に対する支配介入には当たらない。

5 令和6年4月から5月頃、会社が、Sセンターに届いた本件郵便物を組合に取り次がなかったことは、組合の運営に対する支配介入に当たるか否か(争点6)

(1)会社の対応方針について

 組合は、Sセンターと同一の所在地を、正式に登録された組合の組合事務所の所在地として主張する一方、会社は、「いずれの労働組合との関係においても、労働組合の所在地として会社の本社又は各センターの所在地を使用することは一切認めていない」旨を主張している。
 このように、当事者間の主張に争いはあるものの、会社は、会社施設の管理権者として、4月18日付メールにおいて、組合(組合員A)に対し、「Sセンターの所在地は明らかに組合の組合事務所の所在地ではない」旨を伝えた上で、Sセンター宛てに送られてきた組合宛ての郵便物は全て差出人に返送するという会社の対応方針を事前に伝えている。
 このような会社の認識及び対応方針の事前伝達を前提とすれば、会社が、その後に会社に届いた組合宛ての郵便物を、組合に取り次がずに差出人に返送したとしても、会社の対応に不合理な点はなく、仮に、過去にSセンターのスタッフにより組合宛ての郵便物が事実上取り次がれたことがあったとしても、それは会社として承認していた状況とはいえないとみるのが相当である。

(2)本件郵便物に係る会社の対応について

 会社は、「令和4年9月以降、本社とSセンターとが同一の所在となったことから、『本社』宛ての郵便物と、『Sセンター』宛ての郵便物とを仕分けして管理しており、本件郵便物についても仕分けをする中で、人事部長B4がその存在に気が付き、Sセンターの所在地を組合の所在地として使用することは認めないとする会社の対応方針に基づき、本件郵便物を開封せずに、そのまま一回り大きい封筒に入れた状態で当委員会に返送した」旨を主張する。
 そして、会社の主張は、当委員会が把握する認定事実と整合するものであり、不合理あるいは不自然な点はなく、加えて、当委員会からの郵便物は開封されることなく返送されてきており、組合が主張する、会社が本件郵便物を改ざんしたというような事実は認められない。

(3)以上のとおりであるから、本件郵便物に対する会社の対応が、組合の運営に干渉したり、組合の弱体化を図るものであったということはできず、組合の運営に対する支配介入には当たらない。 

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