労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  愛知県労委令和6年(不)第3号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和8年1月28日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①組合が令和5年11月26日に申し入れた団体交渉の開催日を令和6年2月17日とし、同日の団体交渉において、配送先までの距離及び宿泊の有無に応じて食品ローリー部門の乗務員に支給する金額(「その他支給」(旅費・宿泊費))は賃金ではないと虚偽の説明を行ったこと、②組合が同日に申し入れた団体交渉の開催日を同年5月11日とし、同日の団体交渉において、当該金額に係る割増賃金の支払を約束し、支払時期や計算式まで確認したのに、これに反する計算資料を組合に送付し、かつ、計算した金額を支払わないことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。

 愛知県労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 組合が令和5年11月26日に申し入れた団体交渉の開催日を令和6年2月17日とし、同日の団体交渉(以下「6.2.17団体交渉」)で「その他支給」(旅費・宿泊費)(以下、単に「その他支給」と表記)は労働基準法第11条に規定する賃金ではないと説明したことについて(争点1)

(1)団体交渉が行われた令和6年2月17日という期日は、令和5年11月26日付け団体交渉申込書により組合の希望した範囲内の期日(「12月23日(土)10時、あるいは労使の都合のよい2か月以内の日時」)から著しく遅れたとまではいえず、また、組合が異議を述べたり早期の開催を要請したとの主張及び証拠もない。

(2)会社は、6.2.17団体交渉で、「その他支給」について、労働基準法第11条に規定する賃金ではないと説明している。
 使用者は、団体交渉において、労働組合の要求や主張に対し、その具体性や追求の程度に応じた回答や主張を行い、合意達成の可能性を模索する義務(誠実交渉義務)があるが、団体交渉において使用者が労働組合と異なる事実認識や見解を明らかにしたからといって、使用者があえて虚偽の発言をして合意の達成を妨げようとしたものとして、直ちに不当労働行為が成立するわけではない。
 組合は、「『その他支給』は労働基準法第11条に規定する賃金ではないとの6.2.17団体交渉における会社の説明が、合意達成の回避を目的とした虚偽であり、誠実交渉義務に違反する」旨主張するので、以下検討する。

(3)①令和3年3月まで、会社は、会社の食品ローリー部門の乗務員に対し、長距離の配送業務に伴って発生する外食費の補填等を目的とする「飯代」を支給していたこと、②「飯代」は源泉徴収の対象とされていなかったこと、③同年4月以降、会社は、当該部門の乗務員に対し、配送先までの距離及び宿泊の有無に応じた金額を「その他支給」として支給していること、④「その他支給」は会社の賃金規程には規定されていないこと、⑤会社は、6.2.17団体交渉で、「その他支給」について、実費相当額として支給している旨などを述べたことが認められる。
 これらの事実を踏まえると、会社は、「その他支給」が、「飯代」から引き続き実費弁償の性質を持つものであるとして、労働基準法第11条に規定する賃金ではないと認識し、当該認識を述べたと解するのが相当である。

(4)組合は、会社が令和3年4月以降、「その他支給」を給与明細に記載し、賃金台帳にも「その他手当」として記載して、源泉徴収を行っていることをもって、「会社が同月以降『その他支給』を賃金として扱ってきたことは明らかである」旨主張する。
 この点、給与明細には実費弁償も記載されうることを除いても、「その他支給」は、賃金台帳に記載され、源泉徴収の対象とされていることから、組合が主張するとおり形式上は賃金として取り扱われている。
 しかし、会社は、6.2.17団体交渉で、「源泉徴収することとなった経緯を確認中であり、課税すべきでないという結論になれば、これまでの源泉徴収額を返還する」旨述べており、「その他支給」を課税対象と明確に認識して取り扱っていたとはいえないから、会社の実際の認識と形式上の取扱いが必ずしも一致していたとはいえず、団体交渉において会社が虚偽を述べようと意図したとまではいえない。
 また、会社は、6.2.17団体交渉で、「その他支給」を労働基準法第11条に規定する賃金ではないと述べた理由を、「実費相当額として支給させていただいている」と説明したことから、会社は一定の根拠をもって回答を準備し、団体交渉で説明を行ったといえる。

(5)さらに、組合は、会社の代理人弁護士の陳述書における記載から、「会社が2021年4月以降『その他支給』を賃金として扱ってきたことを認めている」とも主張する。
 しかし、同人が、本件申立ての約5か月後に会社の代理人となった者で、6.2.17団体交渉には出席していないことなどからすると、当該陳述書の記載をもって、会社があえて虚偽の発言をして合意の達成を妨げようとしたと認めることはできない。

(6)その他、「その他支給」について、6.2.17団体交渉において、会社があえて虚偽の発言をして合意の達成を妨げようとするといった不誠実性を認めるに足る証拠はない。

2 組合が令和6年2月17日に申し入れた団体交渉の開催日を同年5月11日とし、同日の団体交渉(以下「6.5.11団体交渉」)で「その他支給」に係る割増賃金について、「その他支給」を173で割って1.25を掛けて計算することを確認したか。確認した場合、同年6月28日に会社の計算した資料を送付し、その後、会社の計算した金額を支払っていないことについて(争点2)

(1)①6.2.17団体交渉の冒頭、組合が団体交渉を申し入れ、会社が開催日として令和6年5月11日を提案したこと、②組合が、土曜日以外での早期の開催を提案することなく、「あなた〔注会社の代理人弁護士〕の土曜日の空いてるのが5月11日で、これはこれでやりますけど」と述べたこと、③6.5.11団体交渉が行われたことから、会社が、組合が6.2.17団体交渉で申し入れた団体交渉の開催日を同日としたことは、組合も一応は受け入れていたといえる。

(2)6.5.11団体交渉における、「その他支給」に係る割増賃金の計算方法についての組合と会社のやりとりから、会社は、当該団体交渉では「その他支給」に係る割増賃金について、「その他支給」を173〔注 1か月の所定労働時間〕で割って1.25を掛けて計算することを確認したとみることができる。
 また、会社は、同年6月28日に、本件資料(「その他支給」を出来高給とした上で、組合員の令和3年4月から6年4月までの分に係る割増賃金を計算した資料)を送付し、会社の計算した「その他支給」に係る割増賃金を令和7年5月26日まで支払わなかった。

(3)団体交渉があくまでも交渉である以上、使用者も労働組合も相手の主張やその他の団体交渉外の事情に応じて主張を変遷させることは許されるものであり、確定的に合意した事項に相反する主張でない限り、新たな主張や意見を述べることは制限されないと解される。組合は、「会社が令和6年6月28日に本件資料を送付したことが、団体交渉の形骸化・組合の無力化を目的とする不当労働行為である」旨主張するので、以下検討する。

(4)6.5.11団体交渉における組合と会社のやりとりを踏まえると、会社は、当該団体交渉の時点で、組合が示した計算方法〔注当該団体交渉において、組合は、「173で割って1.25かけて、割増賃金計算ですね」などと発言している〕を確約したものではなく、持ち帰ったうえで改めて検討し直し、本件資料を作成したといえる。
 6.5.11団体交渉において、会社と組合との間に割増賃金の計算方法について確定的な合意があったとは認められない以上、会社が本件資料をもって新たな意見を述べることは制限されないといえる。

(5)また、組合は、「会社の代理人弁護士が労働基準法第24条違反を指摘してもなお、会社が令和7年5月26日まで『その他支給』に係る割増賃金を支払わなかったことは、組合の無力化を目的とする不当労働行為である」旨主張する。
 この点、令和6年7月8日付け「ご連絡」と題する会社から組合に対する文書、同年8月30日に組合の組合員らが会社を被告として提起した訴訟において「その他支給」に係る割増賃金の計算方法が争点となったこと、同年11月9日の団体交渉における会社の発言を踏まえると、割増賃金の計算方法について確定的な合意がない中で、会社は、本件資料の金額を組合の求める「一部支払い」として支払うことには応じられないとしたのであり、割増賃金の計算方法が争点となった訴訟を踏まえ、慰謝料も含め確定した金額を支払う意向であったといえる。
 したがって、会社が令和7年5月26日まで「その他支給」に係る割増賃金を支払わなかったことは、仮に労働基準法上の問題があったとしても、組合の無力化を目的とした行為であるとまでは評価できない。

(6)その他、会社が、団体交渉の形骸化・組合の無力化を目的としていたと認めるに足る証拠はない。

3 1及び2の会社の一連の対応について

 6.2.17団体交渉及び6.5.11団体交渉の開催について、申入れから開催までの期間がそれぞれ約3か月かかったのは事実であるが、組合の団体交渉申入れに対する会社の提案を組合も一応は受け入れており、会社が団体交渉を遅延させて解決を遅らせようとしていたと認めることはできない。
 また、会社が、6.2.17団体交渉で「その他支給」は労働基準法第11条に規定する賃金ではないと説明したことは、「その他支給」を課税対象と明確に認識して取り扱っていたとはいえず、会社の実際の認識と形式上の取扱いが必ずしも一致していたとはいえない状況において、当時の会社の認識を述べたものにすぎず、虚偽を述べようと意図したとまではいえない。
 さらに、会社は、6.2.17団体交渉で「その他支給」は労働基準法第11条に規定する賃金ではないと説明した理由についても述べており、6.2.17団体交渉における会社の対応が不誠実であったとまではいえない。
 加えて、会社が本件資料を送付したことは、割増賃金の計算方法について確定的な合意があったとはいえない中で、検討し直した結果を伝えたものであり、そのこと自体は制限されないといえる。本件資料の送付は、6.5.11団体交渉時点での組合の見解と異なるものを具体的な説明をすることなく団体交渉外で提示するもので、丁寧さに欠ける対応であったとはいえるものの、団体交渉の形骸化・組合の無力化を目的とするものであったとまではいえない。
 そして、令和7年5月26日まで「その他支給」に係る割増賃金を支払わなかったのは、本件資料の金額を組合の求める「一部支払い」として支払うのではなく、慰謝料も含め確定した金額を支払いたいとの意向に基づき行ったものであって、仮に組合の指摘するような労働基準法上の問題があったとしても、組合の無力化を目的とするものであったとはいえない。
 労働基準法及び労働基準法施行規則の解釈適用の問題が難しいとの会社の主張には首肯できる部分もあり、「その他支給」の問題が結論に至るには、一定程度時間を要することは避けられないと考えられる。
 以上の経緯等に照らして総合的に考慮すると、会社の一連の対応は、誠実交渉義務に違反しているとも支配介入をしているともいうことはできず、労働組合法第7条第2号及び第3号の不当労働行為に該当しない。
 

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