概要情報
| 事件番号・通称事件名 |
京都府労委令和7年(不)第1号
京都市立芸術大学不当労働行為審査事件 |
| 申立人 |
X組合(組合) |
| 被申立人 |
Y法人(法人) |
| 命令年月日 |
令和8年3月25日 |
| 命令区分 |
全部救済 |
| 重要度 |
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| 事件概要 |
本件は、法人に雇用されていた組合員Aが受けたとするハラスメント等に関し、①令和6年1月16日付けなど3回の団体交渉申入れに対する法人の対応、②同年6月13日付け団体交渉申入れに対する法人の対応が不当労働行為(それぞれ不誠実な団体交渉、正当な理由のない団体交渉拒否)に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
京都府労働委員会は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、(法人の)ハラスメント防止対策委員会等に係る手続に関する事項であることを理由として、Aのハラスメントに関する申立てについての組合との団体交渉を拒否してはならないことを命じた。
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| 命令主文 |
法人は、キャンパス・ハラスメント防止対策委員会及び不服申立委員会に係る手続に関する事項であることを理由として、組合員Aのキャンパス・ハラスメントに関する申立てについての組合との団体交渉を拒否してはならない。
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| 判断の要旨 |
1 第1回団体交渉申入れ、第2回団体交渉申入れ及び第3回団体交渉申入れに対する法人の対応は、不誠実な団体交渉に該当するか(争点1)
第1回団体交渉申入れ、第2回団体交渉申入れ及び第3回団体交渉申入れにより組合が法人に対して申し入れた事項は、(1)組合員Aに対するハラスメント問題と(2)Aの雇用問題に大別されるので、それぞれ分けて検討する。
(1)Aに対するハラスメント問題について
ア 団体交渉を申し入れた労働組合の構成員たる労働者の労働条件その他の待遇等に関する事項で使用者に処分可能なものは義務的団体交渉事項に当たるというべき。
イ 組合の要求事項は、大要①Aによるハラスメント被害の申立て(以下「本件被害申立て」)に関する大学の対応経過の説明、②本件被害申立てについて、ハラスメント認定できない旨の法人からの通知(以下「本件決定通知」)の結論に至る根拠の説明、③本件被害申立てに係る事案をキャンパス・ハラスメントと認定することであるが、これらの事項は、Aの職場環境に関するものであることから、「労働条件その他の待遇」に関するものといえる。
ただ、法人は、「防止対策委員会及び不服申立委員会で行われる諸手続は、法人からは独立して中立的な立場から行われるべき性質のものであるから、各委員会が適切にその役割を果たすためには、法人はこれら委員会の手続に関与することはできないため、これらの手続は法人に処分可能なものでない」ことを理由に「義務的団体交渉事項には当たらない」と主張する。
そこで検討するに、使用者は、職場環境配慮義務の一環としてハラスメントに関し、相談窓口の設置や迅速な対応のための仕組みを整備する必要があり、法人も、この観点から、本件規程の整備や防止対策委員会等の設置を行っているものと解される。ハラスメント行為の有無や判断について専門家を含めた委員会を設置することには合理性があるが、そのような委員会も法人の組織の一部であることに変わりはなく、そこにおけるAに対するハラスメント問題に関する審議・対応は法人自らのものにほかならないのであって、上記①ないし③が法人にとって処分可能でなかったとは到底いえない。また、本件規程の改廃や防止対策委員会等の運用は、法人が自らの権限と責任において行うことができるのであり、委員会の設置をもって組合との関係において、処分可能性がないとの主張は許されない。
確かに、設置された委員会の審査における議論の公正性を維持し、審査過程で扱われた個人のプライバシーを保護するために、一定の情報を秘匿する必要があると解され、かような観点から、労働組合に対して説明を拒んだとしても不誠実団体交渉と評価すべきではない。しかし、法人の上記主張は、秘匿事項を限定することもなく、防止対策委員会等の手続に関して一律に義務的団体交渉事項ではないとするものであり、到底採用することはできない。本件に関しては、少なくとも防止対策委員会の開催日程や調査委員会においてどのような根拠に基づきどのような事実を認定して結論を出したのかの説明は可能であったと解され、法人が秘匿する必要性は認められないからである。
ウ 上記のとおり、少なくとも対応経過の説明等は義務的団体交渉事項であるにもかかわらず、また、法人は、第1回団体交渉では対応経過をどこまで出せるか検討することを約束し、第2回団体交渉では防止対策員会の議事録等を確認することを約束し、第3回団体交渉でも防止対策委員会の委員長に確認すると約束したにもかかわらず、最終的に(令和6年6月20日)文書により対応経過の説明等を拒否したことからすれば、後日(同年5月16日)に経過資料の書面(以下「本件経過資料」)を提出したことを勘案しても、組合に対して誠実に対応していないといわざるを得ない。
エ また、組合は、「法人が、説明に必要な資料を提示しないことも不誠実団体交渉の理由」と主張する。①本件被害申立てから本件決定通知までに約2年の期間を要したこと、②Aが本件被害申立てが放置されているのではないかと考えていたこと、③本件決定通知には、本件被害申立てに係る事案がキャンパス・ハラスメントと認定されなかった根拠が示されていなかったことからすれば、組合が、当時の資料を提示した上での説明を求めることには相応の理由があると解される。その上で、組合が防止対策員会の議事録の開示や本件決定通知の結論に至る根拠の説明を団体交渉において求めたにもかかわらず、これらの要求に応えず、説明等を拒否した法人の対応は、団体交渉における誠実交渉義務を果たしたものとはいえない。
オ この点に関し、法人は、「防止対策委員会及び不服申立委員会には守秘義務があり、法人が資料を開示する場合には、個人情報保護法及び京都市情報公開条例等の法令にのっとる必要がある」と主張する。
確かに、法人に適用がある個人情報保護法第78条第1項各号は、開示請求があった場合に、不開示とできる情報を列挙しており、これらの情報提供自体を拒否することには正当な理由があるとも解される。
しかしながら、本件において組合が説明を求めた事項は、必ずしも、これらに該当するものとは解されないし、少なくとも、これらに該当しない範囲内で、団体交渉において労働組合に資料を提供することは可能であった。また、京都市情報公開条例は一般的な情報公開請求の制度を定めるものであるが、これに定める手続によらない情報提供を禁止しているものではないことから、法人の主張に理由はない。
カ また、組合は、「説明できる者を団体交渉に出席させていなかったことも不誠実団体交渉の理由」と主張する。しかし、①法人は、職員の勤務条件に関する事務を所掌し、また、防止対策委員会に関する事務も所掌する総務課の課長Bを出席させていたこと、②同人は、防止対策委員会の委員であったこと、③団体交渉において同人が組合の発言に対応していたことからすれば、法人としては、交渉権限を有する者を出席させていたと評価でき、組合の主張は採用できない。
(2)Aの雇用問題について
組合の要求事項は、大要①Aの勤務時間が削減された理由の説明、②Aの再雇用である。これらの事項が義務的団体交渉事項であることについて、当事者間に争いはないが、組合は、「法人が根拠を示さずに要求を拒否し、適切な説明をしなかった」と主張する。
この点、第1回団体交渉では、法人は、回答書を準備し、要求事項①については、課長Bが確認を行うこととなり、要求事項②については、法人は、「雇用がなくなるのは、大学の移転に伴う工房の共有化や、所属専攻全体の授業計画の変更、見直しによるものである」と説明した。
また、第2回団体交渉では、法人は、回答書を準備したが、不服申立てに関するやり取りに大部分の時間が割かれ、Aの雇用問題についてはほとんどが議論されず、同回答書のうち雇用問題の内容についてやり取りされることはなかった。
更に、第3回団体交渉においても、法人は、回答書を準備したが、防止対策委員会の資料の開示や本件決定通知の発出者名などのやり取りに時間を要し、Aの雇用問題の内容についてやり取りされることはなかった。
これらの団体交渉においては、組合の求めに応じて法人が説明する形で交渉が進められており、第2回団体交渉及び第3回団体交渉で、Aの雇用問題について法人から説明がされなかったのは、組合の団体交渉の進め方により時間切れとなったことが大きな要因と解される。
このことからすれば、第2回団体交渉及び第3回団体交渉において、法人が、Aの雇用問題について説明しなかったことをもって、不誠実な団体交渉とすることはできない。
2 第4回団体交渉申入れに対する法人の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に該当するか(争点2)
(1)組合の要求事項は、①本件経過資料の説明及び②Aが相談や申立てを続けてきたことに対する大学の認識の説明であるが、これらの事項は、Aの職場環境に関するものであることから、「労働条件その他の待遇」に関するものといえる。また、防止対策委員会等に係る事項についても、少なくとも防止対策委員会の開催日程や調査委員会においてどのような根拠に基づきどのような事実を認定して結論を出したのかの説明は、法人において処分可能なものであることから、上記要求事項は義務的団体交渉事項に当たる。
特に、上記要求事項にある本件経過資料に関しては、組合が団体交渉において一貫して説明を求めてきた本件被害申立てに関する大学の対応経過に関するものであるが、その内容は、令和3年9月17日に調査委員会が開催されて以降、1年以上経過した令和4年12月20日に防止対策委員会に報告されるまでの間の経過について、「専門家への意見聴取」や「事情聴取内容の整理、検証」等、具体性のない事項が列挙されているだけで、いつ誰によりどのような手続が進められたのかが一切不明であり、そのような本件経過資料について説明を求めるとする組合の要求には、相応の理由があると解される。
(2)これに対して、法人は、申入れ事項が交渉事項に馴染まないこと等を理由に団体交渉を拒絶する内容のファックスを組合に送信しており、法人は正当な理由なく団体交渉を拒否したといわざるを得ない。
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