概要情報
| 事件番号・通称事件名 |
群馬県労委令和7年(不)第1号
有限会社さくらネット不当労働行為審査事件 |
| 申立人 |
X組合(組合) |
| 被申立人 |
Y会社(会社) |
| 命令年月日 |
令和8年3月12日 |
| 命令区分 |
全部救済 |
| 重要度 |
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| 事件概要 |
本件は、会社が、組合員Aの処遇等に係る事項を議題とする団体交渉の申入れに応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
群馬県労働委員会は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、組合が申し入れた団体交渉を拒否してはならず、これに速やかに応じなければならないことを命じた。 |
| 命令主文 |
会社は、組合が令和7年3月27日付けで申し入れた団体交渉を拒否してはならず、これに速やかに応じなければならない。
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| 判断の要旨 |
1 組合員Aは、労働組合法上の労働者に該当し、組合は、労働組合法第7条第2号の使用者が雇用する労働者の代表者に該当するか(争点1)
(1)労働組合法第3条にいう「労働者」は、労働契約法や労働基準法上の労働契約によって労務を供給する者のみならず、労働契約に類する契約によって労務を供給して収入を得る者で、労働契約下にある者と同様に使用者との交渉上の対等性を確保するための労働組合法の保護を及ぼすことが必要かつ適切と認められる者をも含む、と解するのが相当である。
(2)会社は、「組合員Aは障害福祉サービスの利用者であり、Aの作業は訓練活動であって雇用契約に基づく労務の提供ではない」旨主張する。
確かに、Aは、桐生市から就労継続支援B型のサービスの支給決定を受け、会社と利用契約を締結し、サービスを受けていた。このような利用者の立場で行った生産活動や訓練への従事は、障害福祉サービスの受給であり、労務の提供とはいえず、労働組合法上の労働者性は否定される。
しかし、組合は、「Aは令和6年5月1日から会社と雇用関係にあった」と主張している。そこで、同日以降についてAが純然たる障害福祉サービスの利用者であったといえるか否か、また、Aと会社の関係について労務供給関係と評価できる実態があるかという点を含めて検討し、Aが労働組合法上の労働者に該当するか判断する。
(3)まず、Aの週間計画表には、午前8時からの4時間又は5時間は就労継続支援B型、その後の3時間又は2時間は雇用と記載されているものがある。また、Aに関するモニタリング報告書には、本件事業所から聞き取った内容として、令和6年5月以降は、午前8時から正午までは就労継続支援B型のサービスの利用、それ以降は短時間雇用という記載がある。さらに、精神科訪問看護計画書には、「同年3月頃に雇用の打診があり、同年5月から利用者兼パートとして働くこととなった」旨の記載がある。
これらは、Aが利用者として本件事業所を利用しつつ、会社と雇用関係にあった可能性を示すものである。
(4)そして、令和6年5月以降、Aに対して、ほぼ毎月2種類の明細書が交付されるようになった。そのうちの一方によると、Aには「通勤費」が支給され、また、Aは社会保険の被保険者となり、社会保険料が控除され、一部期間においては雇用保険料も控除されていた。
本件事業所の利用契約書や重要事項説明書に、利用者に対して「通勤費」を支給する旨の規定はない。会社における「通勤費」の支給の有無、その根拠や内容は必ずしも明らかでないが、通常は、通勤に要する費用を支弁するために支給される手当を指すと解され、労働基準法上の「賃金」の一部として整理されるものである。また、健康保険法及び厚生年金保険法は「適用事業所」等に使用される者を、雇用保険法は事業主が雇用する労働者を被保険者とする旨定めている。
さらに、Aが行った作業には、本件事業所の重要事項説明書の「生産活動の機会の提供」に記載がないものがあり、また、本件事業所の求人票に記載されている仕事内容と同じものがあった。
工賃は生産活動に従事した利用者に対して支払われるが、上記事情を踏まえると、5月以降に会社からAに対して支払われた金額全てを工賃と評価することはできない。上記(3)と併せ考えても、Aは、会社に対して利用者とは異なる立場として労務を提供し、その対価を含む金額を受領していたと解さざるを得ない。
(5)上記(4)の明細書に関して、会社は「誤って『給料形式の様式』を用いた時期があったが、支払ったものはあくまで工賃である」と主張する。しかし、この様式の明細書の交付が令和6年5月から令和7年1月までの9か月もの間続いていることから、この主張は採用できない。
会社は、「Aの社会保険の加入希望を叶えるために、令和6年5月から『2時間分の工賃』をAに支払い、社会保険に加入させた」旨も主張する。しかし、令和6年5月ないし7月分の明細書は、「2時間分の工賃」の支払という会社の主張を裏付けるものとはいえない。また、会社は、令和7年9月25日付け答弁書において、「利用者でも2時間までの一般就労が可能」であり、「一般の金額を給料として与えた」とか、Aが「無断欠勤をした」などと主張し、その後、同年12月5日付け準備書面においてこれらを訂正し、「社会保険については2時間訓練を延長することで加入できると制度を誤認した」と主張した。このような主張の変遷からみても、会社の主張は認められない。
さらに、会社は、「Aを雇用保険に加入させておらず、本人負担分は誤って控除した」旨主張するが、誤って控除したとされる金額について会社がAに返還を申し出たのは本件申立てから6か月を経過した令和7年12月であり、Aが令和6年5月に雇用保険の被保険者資格を取得したと認識したとしても無理からぬ状況があったといえる。
(6)令和6年5月までの経緯について、Aの妻は、当委員会に対して提出した陳述書において、「同年春頃に、医師からAの就労継続支援A型への移行を提案され、このことを会社に伝えたところ、社長からAを会社で従業員として雇用すると提案され、午前8時から正午までを訓練作業とし、正午から午後4時までを従業員として雇用されることとなった」と記載している。
就労継続支援A型は、雇用契約の締結等による就労の機会の提供等を行うものである。上記(3)から(5)までに加え、令和5年11月から令和6年4月までのAの生産活動への参加状況や工賃の推移からしても、この記載は不自然とはいえない。
そうすると、会社は、就労継続支援A型のサービスを提供する別の事業所にAが移行する可能性が生じた段階で雇用を打診したことになり、上記(4)のAの作業の内容からしても、会社には、Aを労働力として確保する目的があったと推認できる。
(7)会社は、令和6年6月4日に、Aの報酬月額を記載した社会保険の被保険者資格取得届を提出した。同年5月分については一部異なる明細書もあるが、5月ないし7月分については、課税対象額と届け出た報酬月額が一致する。しかし、同年8月分以降は、課税対象額は時給×2時間×日数で計算され、その金額は届け出た報酬月額の半額を下回っている。時給単価や通勤費の日額も一定でない。
このような変動について、何らかの交渉がもたれたとか、すり合わせがなされたことを裏付けるものはない。そもそも障害福祉サービスを利用する立場でもあるAが交渉を行えたかは疑わしく、このことは、令和6年5月にAが利用者でありながら会社に労務を提供する立場となった時点においても同様と考えられる。
そうすると、Aの労務提供の対価として支払われる金額を会社が一方的に決定し、変動させていると評価せざるを得ない。
(8)Aは毎月20日以上本件事業所に赴き、午前8時から午後4時又は5時頃まで滞在しており、これは週間計画表及びモニタリング報告書並びにAの妻の陳述書と一致している。実態としてサービスの利用と労務の提供の時間が1日のうちで明確に分けられていたかは明らかでないが、Aが業務を断ったり、令和7年1月9日以外にAが途中で帰宅したといった事実は会社から主張されておらず、Aは定められた時間、サービス利用と労務の提供を行っていたといえる。
(9)上記(2)から(8)までの事情を総合的に勘案すれば、少なくとも令和6年5月以降については、Aを純然たる障害福祉サービスの利用者であったと評価することは困難である。Aは、1日のうちのある一定の時間において会社の組織内で会社の決定した条件のもと労務を提供し、労務の提供に対する対価としての性格を有する金銭の支払を受けていた状況が認められ、また、業務の依頼を拒否したり、労務を提供する日時や場所に裁量の余地があったといった事情も認められないことから、Aは、労働組合法上の労働者にも当たると解するのが相当である。
(10)そして、Aと会社の間で紛争が生じてから、Aが組合に加入して組合が本件団体交渉申入れを行うまでの経緯及びその申入れ事項がAと会社の雇用関係を前提としたAの退職や未払賃金、社会保険などに関する事項であったことからしても、組合は、労働組合法第7条第2号の使用者が雇用する労働者の代表者に当たるといえる。
2 組合が令和7年3月27日付けで会社に団体交渉を申し入れたことに対し、会社が応じなかったことが労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するか(争点2)
上記1のとおり、Aは労働組合法上の労働者に当たり、組合は労働組合法第7条第2号の使用者が雇用する労働者の代表者に当たるといえる。本件団体交渉申入れに係る団体交渉申入書は会社に到達しており、会社には団体交渉に応じる義務があったといえる。しかし、会社は、何の理由も示さずに本件団体交渉申入れに応じなかった。
したがって、会社が団体交渉に応じなかったことに正当な理由があったとは認められないことから、本件団体交渉申入れに対する会社の対応は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。 |