労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委令和5年(不)第67号
グーグル不当労働行為審査事件 
申立人  X1組合・X2地方本部・X3支部(併せて「組合」) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和7年11月18日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①令和5年3月22日及び5月9日に行われた(組合員に対する退職勧奨及び解雇を行わないことなどを要求事項とする)団体交渉における会社の対応、②会社が、組合の5月9日付けの団体交渉申入れに応じなかったこと、③支部委員長A3に対し、(同人による社内メーリングリストへの投稿が社内ポリシーに違反する旨の)警告メールを送信したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、①(人員削減に至った経緯の情報提供(開示)及び対象者の選定方針等等についての会社の説明及び対応)及び②について、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)交渉に必要な資料を提示するなどして、団体交渉に誠実に応じなければならないこと、(ⅱ)文書の交付及び掲示等を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、X1組合、X2地方本部、X3支部が、令和5年5月9日付けで申し入れた団体交渉について、交渉に必要な資料を提示するなどして、誠実に応じなければならない。

2 会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を組合に交付するとともに、同一内容の文書を55センチメートル×80センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に楷書で明瞭に墨書して、同社本社内の従業員の見やすい場所に、10日間掲示しなければならない。
年 月 日
X1組合
 中央執行委員長 A1殿
X2地方本部
 執行委員長   A2殿
X3支部
 執行委員長   A3殿
Y会社           
代表社員 B1会社   
職務執行者 B2
 ①令和5年3月22日及び5月9日に貴組合らとの間で行われた団体交渉における、人員削減に至った経緯の情報提供(開示)及び対象者の選定方針等並びに産前産後休業・育児休業中の対象者の退職合意の撤回要求についての当社の説明及び対応、②貴組合らが令和5年5月9日付けで申し入れた団体交渉に当社が応じなかったことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
 今後このような行為を繰り返さないよう留意します。

3 会社は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。

4 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 令和5年3月22日の第1回団体交渉及び5月9日の第2回団体交渉(以下「本件団体交渉」)における会社の対応は、不誠実な団体交渉及び組合運営に対する支配介入に当たるか否か(争点1)

 組合の各要求事項はいずれも義務的団体交渉事項に該当するところ、これら要求事項に係る対応も含め、団体交渉における会社の対応について、以下判断する。

(1)要求事項①〔今後、解雇や退職勧奨(特に指名制のもの)を行わないこと、退職に同意しなかった該当者に対する不利益な取扱いの禁止及び職務変更等の際の事前協議要求〕について

ア 「今後、解雇や退職勧奨(特に指名制のもの)を行わないこと」について、当該退職勧奨が、米国法人C会社〔注会社はC会社の日本法人〕やその持株会社であるD会社が発表した、全世界の従業員のうち約12,000人の人員の削減(以下「本件人員削減」)というグローバルな意思決定に端を発することからすれば、会社が、現時点において、解雇や追加の退職勧奨は行っていないという事実を明確に伝えつつ、「今後について、現時点で会社として更なる人員削減措置を行わないことを約束することはできない」などとした上で、「会社として動きがあるときは通知を行い、組合の団体交渉申入れには対応する」旨を回答したことは、無理からぬことであった。

イ 「退職に同意しなかった該当者に対する不利益な取扱いの禁止及び職務変更等の際の事前協議要求」について、退職に同意しなかったX3支部副委員長A4(当時)らの異動につき、会社が、従業員の雇用を維持するために、一時的にせよビジネスニーズがあると判断したポジションへの配置転換(異動)を命ずることは、必ずしも不合理な対応とはいえない。そうすると、団体交渉における、「署名を行わなかった者に対して会社として違法不法な行動や言動を一切しない」旨の回答をもって、直ちに会社の対応が不誠実であったと断ずることはできない。

ウ したがって、要求事項①に係る会社の対応は、不誠実な団体交渉には当たらない。

(2)要求事項②〔人員削減に至った経緯についての透明性のある説明(会社の経営状況、人員削減の必要性、人員削減回避の経営努力、人員削減達成後の経営予測、人員削減の数値目標、退職勧奨の対象人数及び実際の署名者の人数)〕について

ア 「人員削減に至った経緯」のうち、「会社の経営状況」、「人員削減の必要性」、「人員削減の回避努力」及び「人員削減達成後の経営予測」について、会社は、Eグループの日本法人であり、今回の退職勧奨は、グローバルの経営陣による本件人員削減の意思決定に基づいて行われている。
 そして、会社は、判断の背景にあるグローバルなマーケットの状況を説明した上で、会社としての経費削減の努力を個々に説明している。また、本件人員削減の根拠資料として、会社がD会社全体のIR情報の参照を案内したことも、必ずしも不合理な対応とはいえない。さらに、人員削減達成後の経営予測について現時点で情報がないと回答したことも不合理とはいえない。
 これらから、会社の対応が不誠実であったとまではいえない。

イ 「人員削減に至った経緯」のうち、「人員削減の数値目標」及び「退職勧奨の対象人数及び実際の署名者の人数」について、Eグループ全体で「6%」の人員削減が打ち出されている当時の状況においては、今後、当該退職勧奨の進捗次第では、会社においても、整理解雇を含む更なる人員削減措置の開始も当然予想されたのであるから、組合として、全ての従業員の雇用契約上の地位という最も重要な労働条件に直結する内容として、会社の「人員削減の数値目標」を把握した上で、「退職勧奨の対象人数及び実際の署名者の人数」についての情報を求め、当該退職勧奨により会社における人員削減の数値目標が達成されているかどうかを確認することは、極めて高い必要性のある要求といえる。
 しかし、会社は、会社に降りてきている目標の存否について明確に回答しておらず、十分な回答を行っているとはいえない。
 また、会社の責任の下で行われている退職勧奨の手続において、退職勧奨の対象人数及び実際の署名者の人数は、会社として当然把握しているべき情報であり、開示に困難を伴うものではないはずである。
 会社は、「これらの数値が社外秘の情報で、開示する法的義務はない」旨を回答しているが、組合にとっての情報の必要性にも鑑みると、例えば組合との間で秘密の保持に係る特約等を交わした上で、可能な範囲での情報開示を行うことなどを検討したり、対応ができない場合も、開示による具体的な弊害や経営への支障などについて、組合の納得が得られるような具体的な説明を行うなどは可能であったとみられ、これらの努力がなされないまま開示を拒否した会社の対応は、不誠実といわざるを得ない。

(3)要求事項③〔退職勧奨の対象者の選定方針等についての説明(選定の基となったデータ(具体的な数値)及び該当者のうち産休・育休中の従業員の割合の情報開示)〕について

ア 「退職勧奨の対象者(該当者)の選定方針」については、当時、退職勧奨の進捗次第で、会社における整理解雇等の更なる人員削減措置の開始も当然予想され、従業員の雇用契約上の地位の喪失という最も重要な労働条件に直結する事項であった。
 したがって、会社は、該当者の選定方針について、Eグループ全体でのタウンホールで参考となる回答があったのであれば、団体交渉の場でも、具体的にその内容を引用した上で説明すべきであった。
 また、グローバルのトップによる全体的な経営判断が介在し、判断過程や理由等の説明が難しかったとしても、会社の従業員が関係する、再編後の会社組織の全容については、会社として一定程度明らかにすることが可能であり、それにより、「該当者の選定に当たって産休・育休中の従業員が狙い撃ちされているのではないか」という組合の問題意識の解消にもつながり得るものであった。
 以上のような対応こそが、組合が求める説明であったと捉えるのが自然であり、会社は、そのような説明を行う中で、質問に答えられない点などが出てくれば、持ち帰った上で、タウンホールでの説明内容の確認、C会社やD会社への問合せなど、可能な限りの回答を行う努力をすべきであった。

イ 「退職勧奨の対象者の選定の基となったデータ(具体的な数値)」について、会社は、当該ポジション内で人選が必要となる場合に用いたと主張するクライテリア(評価基準)について、「経験・スキル、生産性、パフォーマンスといった客観的な合理的データを用いた」と述べるものの、用いたデータを特定した上での具体的な説明を行っていないばかりか、「人事評価の数値は飽くまでも一つの数値であって、該当者を選定する上でそれが全てではない」などと、組合からの質問に正面から答えない回答を行っている。組合は、人選に用いられた具体的なデータや数値を特定した上での説明を求めており、また、人選については、「客観的な合理的データ」に基づく判断であり、ビジネス上の判断の中身ではないから、会社として、当然に説明が可能な部分であり、不明な点があれば、C会社やD会社に確認するなどして、可能な限りの回答を行う努力をすべきであった。

ウ 「退職勧奨の対象者のうち産休・育休中の従業員の割合の情報開示」について、上記ア及びイの要求について会社から十分な説明を受けられない状況においては、組合が、「該当者のうちの産休・育休中の従業員の割合が示す全体の傾向が、該当者の選定に当たって産休・育休の取得という考慮は一切入っていないとする会社の主張と整合したものになっているかどうかの確認」を行うことは、検証手法として合理的といえる。よって、組合が求めたデータは、組合にとって、必要性の高い情報といえる。
 他方、会社は、開示を行わない理由について抽象的な説明にとどまっており、上記(2)イの第4文において述べたことが当てはまる。
 したがって、会社の対応が十分なものであったとはいえない。

(4)要求事項④〔産休・育休中の該当者の取扱いについて(退職勧奨の対象にしないこと、退職に同意しなかった者及び退職に同意した者のうち撤回を望む者を元の職種・職位に戻すこと、撤回を望まない者に対して代償措置を講ずること)〕について

ア 産休・育休中の従業員を「退職勧奨の対象にしないこと」及び「元の職種・職位に戻すこと」について、会社の説明を前提とすれば、今回の退職勧奨の該当者の選定は、基本的にはポジションの削減がベースにあり、産休・育休中の該当者についても、他の該当者と同様に、元のポジションは既に消滅していることになるから、会社の立場からすれば、産休・育休中の従業員について、一律に該当者から除外したり、産休・育休中の該当者に限って元の職種・職位に戻すといった、特別の対応を採ることは現実的ではなく、会社が応じられないとしたこともやむを得ないとみるのが相当で、その旨を団体交渉の場で説明した会社の対応が不誠実とはいえない。

イ 「撤回を望まない者に対して代償措置を講ずること」について、使用者は、団体交渉において、譲歩して労働組合と合意することまでを義務付けられているわけではないところ、会社が、これらの者について、「①退職条件について合意が有効に締結されたものとして取り扱い、②合意された退職条件を上回る措置を求める組合の要求には応じられない」と回答したことが不誠実とまではいえない。

ウ 「撤回を希望する者についての退職合意の撤回要求」については、退職合意書の署名に至るまでの状況も考慮して判断する必要があるところ、①組合の要求書についての会社の確認が遅れた結果、退職勧奨の内容の詳細などを明らかにするための団体交渉を行えないまま署名期限が経過しており、また、②会社は、自らが作出した不透明かつ切迫した状況の下で退職勧奨を行っており、特に該当者が退職合意書に署名を行わなかった場合の処遇については、署名期限までに組合に対して十分な説明の機会を設けておらず、また、該当者に対する個別の説明においても、十分な説明がなされていたかどうかが明らかとなっていない。
 こうした状況を考慮すれば、退職合意書の署名のみによって、問題なく退職合意の効力が発生しているといえるかにつき、当事者から疑義が呈されることもあり得る。会社は、退職合意の撤回を希望する該当者との関係においては、団体交渉の場で、合意が有効と考える根拠を具体的に説明するなどして、組合の納得を得るための努力をすべきであった。

(5)要求事項⑤〔会社内での組合活動を妨害せずに他のクラブ活動と同様に取り扱い、組合に会社施設等の利用を認めること〕について
 会社は、組合活動とクラブ活動との差異について一定の回答を行っていることなどから、会社が、「会社施設の管理権者として、組合の要求する、包括的な形での事前の利用許可を行うことはできない」旨を団体交渉で回答したことが不誠実な対応とはいえない。

(6)会社の主張について
 会社は、組合が要求事項②及び③で要求した情報について開示できない理由として、組合が「外部労組」であり、団体交渉に会社の従業員以外の組合員が多数参加していたことも追加で主張する。しかし、X3支部の組合員が会社の従業員らで構成されていることに争いはなく、会社の従業員である組合員の労働条件に関する事項については、上部団体らも含めて、当然に、団体交渉の当事者となり、また、組合にとっての当該情報の高度な必要性に比して、会社側で、可能な範囲での開示の検討や不開示の具体的理由の提示の努力がなされたとはいえないから、会社の主張は採用できない。
 また、会社は、組合が想定していた産休・育休中の特定の組合員について、調停で解決していることをもって、救済の利益がない旨を主張するが、この要求事項は義務的団体交渉事項に含まれるから、一部の組合員と会社との間での調停の成立のみをもって、直ちに救済利益が欠如することにはならない。

(7)支配介入について
 組合は、「会社の対応が支配介入にも当たる」と主張するが、会社が組合の存在を殊更に無視したり、組合弱体化を企図して不誠実な対応を行ったとまでは認められない。

(8)以上のとおり、組合の要求事項のうち、(ⅰ)要求事項②「人員削減に至った経緯」(「人員削減の数値目標」及び「退職勧奨の対象人数及び実際の署名者の人数」の情報開示)、(ⅱ)要求事項③「退職勧奨の対象者の選定方針等」(選定方針の説明、人選の基準となったデータ及び「退職勧奨の対象者のうち産休・育休中の従業員の割合」の情報開示)、(ⅲ)要求事項④「産休・育休中の該当者の取扱い」(退職に同意した者のうち撤回を希望する者についての退職合意の撤回要求)についての、本件団体交渉における会社の説明及び対応は、不誠実な団体交渉に該当する。

2 組合の令和5年5月9日付けの団体交渉申入れに対し、会社が応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否及び組合運営に対する支配介入に当たるか否か(争点2)

(1)組合が、会社に対し、令和5年5月9日付けの要求書(以下「5.5.9要求書」)で提示した質問事項は、①退職勧奨の該当者数、②産休・育休中の従業員数及びそのうち該当者となった従業員数及び退職に同意した従業員数、③退職勧奨の該当者のうち、退職に同意しなかった従業員数及び異動を命じた(予定を含む)従業員数であり、要求事項は、(ⅰ)該当者全員に、従業員の自由な意思を阻害する方法での退職強要や解雇はしないこと及び退職に同意しなかったことで不利益に扱わないことを説明し、改めて退職に同意する意思を再確認すること(2週間以上の熟慮する時間の確保)、(ⅱ)5月31日の退職日の延期である。

(2)会社は、団体交渉に応じなかった理由として、「組合の各要求事項に関する団体交渉が行き詰まりの状況に達し、これ以上の交渉の余地がない状態となっていた」旨を主張する。しかし、組合の要求事項の一部についての会社の説明や対応は不誠実と認められ、少なくとも当該要求事項に関する内容については、更なる説明や対応が求められ、交渉が行き詰まりに至っていたとはいえない。
 そして、組合が5.5.9要求書で提示した質問事項は、本件団体交渉における組合の要求事項②の「退職勧奨の対象人数及び実際の署名者の人数」及び要求事項③の「該当者のうち産休・育休中の従業員の割合」と重複する内容であるところ、これらの情報開示についての会社の対応は、いずれも不誠実といえる。
 また、組合が5.5.9要求書で提示した要求事項については、本件団体交渉における組合要求事項④のうち、退職合意の撤回要求に係る内容であり、この点についての会社の説明は不十分といえるから、会社としては、団体交渉の場で、産休・育休中以外の該当者も含めて、退職合意を有効と考える根拠をより具体的かつ詳細に説明すべきであった。
 加えて、組合が、会社の非協力的な対応により、退職日到来までの間に交渉を重ねる機会を失っている経緯も踏まえると、交渉が行き詰まりに至っていたとはいえず、会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。

(3)なお、組合は、「会社の行為が、支配介入行為にも該当する」旨を主張するが、会社は、組合との間で2回の団体交渉を行い、また新たな議題などについては、組合との間で継続的な団体交渉を行っていることから、会社が組合の存在を殊更に無視したり、組合弱体化を企図していたとまでは認められない。

3 令和6年2月21日に、会社が、X3支部の委員長A3に対し、同人が社内メーリングリストにメールを投稿したこと(以下「本件投稿」)が社内ポリシーに違反する旨を警告するメールを送信したことは、組合運営に対する支配介入に当たるか否か(争点3)

 本件投稿は、多くの会社の従業員が登録するメーリングリストに投稿され、不特定多数の登録者に向けて発信された。その内容は、職場におけるあらゆる事項について組合への直接連絡を促し、多くの対象者が組合に対して相談可能であることを殊更に周知している。これらから、会社が、「本件投稿は、社内外の組織である組合が、社内のメーリングリストを利用して、組合の活動を勧誘、宣伝したもので、社内ポリシーに違反する」と判断したことは、不合理とまではいえない。
 また、会社の注意の態様も、担当者からのメール送信にとどまり、その内容も、委員長A3に対し、改めて社内ポリシーの存在を知らせ、今後の遵守を依頼するという穏当な内容にとどまるから、不相当なものとはいえない。
 以上から、会社の対応が、組合の運営に対する支配介入とはいえない。 

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