労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  愛知県労委令和5年(不)第5号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和7年11月28日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、①会社による、組合執行委員長Aの令和5年1月末及び2月末支払分の賃金(以下「本件賃金」)の計算、②Aが申立外C会社にも就労することによって生じる令和5年1月末及び2月末支払分の割増賃金の不払、③Aが受講した特定化学物質及び四アルキル鉛等作業主任者技能講習(以下「本件講習」)の受講料及び講習日の賃金並びに同人が受験した損保代理店試験(以下「本件試験」)の受験料及び試験日の賃金の不払、④Aに対する解雇の告知、⑤会社代表取締役B1が、机を蹴った後に退室して団体交渉を終了させたこと、⑥Aに適応障害を発症させ、就労できなくさせたこと、⑦会社が、Aが申し立てた労働審判(以下「本件労働審判」)の第1回期日を欠席したこと、⑧本件労働審判を会社が訴訟に移行させたことにより生じた費用等をAが負担したこと、⑨会社が、令和6年3月6日付け団体交渉申入れに応じなかったこと、⑩同年6月13日及び22日付け団体交渉申入れに応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 愛知県労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 会社は、委員長Aの本件賃金について、環境整備に係る時間及び会社都合の休業により就労できなかった時間を就労時間に含めずに計算したか。計算した場合、当該行為は、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に該当するか。(争点1)

 会社が、委員長Aが組合の組合員であることを知ったのは令和5年3月22日であり、同年2月末までの賃金支払の時点で会社に不当労働行為意思が生じることはあり得ない。
 したがって、会社が、委員長Aの本件賃金について、環境整備に係る時間及び会社都合の休業により就労できなかった時間を就労時間に含めずに計算したか否かにかかわらず、当該行為は労働組合法第7条第1号の不当労働行為に該当しない。

2 会社が、委員長Aの本件賃金について、AがC会社にも就労することによって生じる割増賃金を支払わなかったことは、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に該当するか。(争点2)

 ①本件賃金に係る期間において、委員長Aの就労時間は、会社とC会社を合わせると週40時間を超えていたが、会社は、AからC会社での具体的な就労状況を伝えられなかったため、週40時間を超える時間分の割増賃金を支払わなかったこと、②会社は、組合が令和5年3月22日に送付した労働組合結成通知書を受領するまで、Aが組合員であることを知らなかったことが認められる。
 この点、委員長Aの割増賃金が支払われなかったのは、本人が必要な情報を伝えなかったことが原因であり、会社に積極的な不払の意図はなかったものといえ、かつ令和5年1月末及び2月末支払分の割増賃金を支払う時点では、そもそも会社はAが組合員であることを認識していなかったことから、会社に不当労働行為意思が生じることはあり得ない。
 したがって、会社が、委員長Aの本件賃金について、AがC会社にも就労することによって生じる割増賃金を支払わなかったことは、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に該当しない。

3 会社が、委員長Aに対し、①本件講習の受講料及び講習日の賃金、②本件試験の受験料及び試験日の賃金を支払わなかったことは、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に該当するか。(争点3)

 ①委員長Aの労働条件通知書には、「従事すべき業務の内容」として「自動車整備他」と記載されていたこと、②Aが、本件講習を受講し、本件試験を受験したこと、③本件講習及び本件試験は、Aが会社での業務を行うに当たり必要なものではなかったこと、④会社は、これらの費用並びに講習日及び試験日の就労時間分の賃金を支払わなかったことが認められる。
 組合は、「求人票に教育訓練の費用及び教育訓練実施日の賃金を会社が負担する旨明記していた」旨主張するが、会社の求人票には「業務上必要な資格の取得を費用負担等でバックアップします」と記載されていたところ、必要がないことについて当事者間に争いはないことから、会社は求人票の記載どおりに実行したにすぎず、不当労働行為意思に基づくものとはいえない。
 また、組合は、「会社が委員長Aに本件講習の受講及び本件試験の受験を命じた」と主張するが、命じたと認めるに足りる証拠はなく、会社があえて業務に必要のない本件講習の受講及び本件試験の受験を命じるとは考え難いため、組合の主張に合理性はない。
 したがって、会社が、本件講習の受講料及び講習日の賃金並びに本件試験の受験料及び試験日の賃金を支払わなかったことは、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に該当しない。

4 社長B1が、委員長Aに対し、令和5年4月末での解雇を告げたことは、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に該当するか。(争点4)

 社長B1が委員長Aに解雇を告げたことについて、Aは、自ら争点とすることを希望しながら、本件審査手続において、その具体的内容に係る主張及び立証をしていないことや、審問におけるAやB1の陳述などからすれば、会社がAに解雇を告げたという事実を認定することはできず、労働組合法第7条第1号の不当労働行為性を判断するまでもない。

5 令和5年3月31日、社長B1と委員長Aが行った面談(以下「本件面談」)は、団体交渉といえるか。団体交渉といえる場合、B1が机を蹴った後に退室して団体交渉を終了させたことは、労働組合法第7条第2号及び第3号の不当労働行為に該当するか。(争点5)

 令和5年3月22日の団体交渉申入書における「日時」に係る記載や、面談の冒頭におけるやりとりからすれば、本件面談は、3.22団体交渉申入書に挙げられた候補日ではなく、組合が開催を希望した日曜日でもない同日に、団体交渉を行うことを予定していない中で始まったものといえ、社長B1に当該面談が団体交渉であるとの認識はないといえる。
 また、そもそも団体交渉とは、労働者がその代表者を通じて使用者と労働条件その他の待遇や労使関係上のルールについて労働協約の締結その他の取決めを目標として交渉を行うことである。この点、当該面談は、委員長Aが、会社の維持発展、社会的信用に関すること、社会保険労務士の職務に関すること等について持論を述べたにすぎず、労働条件その他の待遇や労使関係上のルールについて労働協約の締結その他の取決めを目標として交渉を行ったと評価することはできない。
 したがって、本件面談は、団体交渉と評価することはできず、労働組合法第7条第2号及び第3号の不当労働行為性を判断するまでもない。

6 委員長Aが適応障害を発症し、令和5年4月1日から就労できなかったことは、会社による労働組合法第7条第1号の不当労働行為に該当するか。(争点6)

 〔組合が発症の原因として主張する〕本件面談におけるやりとりなどの事実に照らせば、当該面談におけるB1の言動〔注「Aさんの存在が無かったら此れだけのことには成らない」などと述べた後、「ハア~!」と言って机を蹴り「ア~!」と言って退室したこと〕は、委員長Aとの間で口論のような状態が続いた上、Aの発言を受け、興奮のあまり生じたものにすぎず、当該面談後、(2階の事務所に戻って来たB1に対し)Aが一方的にまくしたて、B1がほとんど言葉を発することはなかったことからしても、Aに対する威嚇があったとはいえず、不利益な取扱いがあったとは認められない。
 したがって、委員長Aが適応障害を発症し、同年4月1日から就労できなかったことは、会社による労働組合法第7条第1号の不当労働行為に該当しない。

7 会社が、本件労働審判の第1回期日を欠席したことは、労働組合法第7条第4号の不当労働行為に該当するか。(争点7)

 令和5年8月29日、本件労働審判の第1回目の手続が開催され、委員長Aが出席し、会社側は欠席している。この点、当委員会から組合に対し、不利益に関する具体的な立証を促したものの得られなかった。
 したがって、会社が、本件労働審判の第1回期日を欠席したことは、不利益性が認められず、労働組合法第7条第4号の不当労働行為に該当しない。

8 本件労働審判が訴訟に移行したことにより生じた費用等を委員長Aが負担したことは、会社による労働組合法第7条第1号の不当労働行為に該当するか。(争点8)

 組合は、「会社が係争期間の引き延ばしを目的として、本件労働審判を訴訟に移行させた」旨主張する。
 この点、本件労働審判は3回期日が開催され(令和5年8月29日、10月31日、11月14日)、第2回目及び第3回目の期日は会社も出席し、和解協議が行われたが不調となったこと等から、裁判所が労働審判法第24条第1項の規定により「労働審判手続を行うことが紛争の迅速かつ適正な解決のために適当でないと認め」て終了し、同条第2項が準用する同法第22条第1項により訴訟に移行したものであって、当該手続中に会社の作為が入る余地はなく、会社が係争期間の引き延ばしを図ったという事実は認められない。
 したがって、本件労働審判が訴訟に移行したことにより生じた費用等を委員長Aが負担したことは、会社による労働組合法第7条第1号の不当労働行為に該当しない。

9 令和6年3月6日付けの団体交渉申入れに対する会社の対応は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するか。(争点9)

 組合は会社に対し、令和6年3月6日付け「第2回目団体交渉日程の依頼」と題する文書を送付し、団体交渉を申し入れ、その後、会社は組合に対し、団体交渉の開催場所を確認したものの、組合から返答がなく、団体交渉が開催されなかった。
 そうすると、会社が回答しなかったとする組合の主張は前提を欠くことから、同日付けの団体交渉申入れに対する会社の対応は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当しない。

10 組合からの令和6年6月13日付け及び6月22日付けの団体交渉申入れに係る会社の対応は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するか。(争点10)

 組合は会社に対し、令和6年6月13日付け団体交渉申入書により団体交渉を申し入れ、具体的な回答期限を示さずに書面での返答を求め、6月22日付け団体交渉申入書により再度団体交渉を申し入れ、書面での返答を求めたところ、①6月26日、弁護士B2は組合に対し、「社長B1、社労士B3及び弁護士B2の予定を調整の上、具体的な日時が決定次第連絡する」旨メールで送信したこと、②会社は、その後、具体的な日時を決定せず、組合に連絡しなかったこと、③本争点に係る申立てがなされた令和7年3月6日まで、組合から会社に対する問合せや団体交渉申入れはなかったことが認められる。
 これらの経緯からすると、会社は、これら団体交渉申入書により申入れのあった団体交渉に応じる意思を表明したものといえ、団体交渉の開催を拒む意図は認められない。その後、会社は、日時を決定して組合に連絡しなかったものの、組合もまた会社に対し、団体交渉の開催について問合せ等をしなかったことからすれば、会社が意図的に組合に連絡しなかったとは認められず、「団体交渉に応じないという意向はない」旨の会社の主張は首肯できる。
 したがって、令和6年6月13日及び22日付けの団体交渉申入れに係る会社の対応は、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当しない。 

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