労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  岐阜県労委令和6年(不)第3号
不当労働行為審査事件 
申立人  Xユニオン(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和7年11月28日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①組合が団体交渉を申し入れて会社と協議した際に議題となった組合員A2の雇用及び職場環境に関する事項について、その後回答を行わなかったこと、②組合との協議を行わずに、A2の試用期間を延長の上、本採用を拒否し、解雇したこと、③前記①の申入れに、団体交渉としてではなく和解協議として応じたこと、④その後の団体交渉申入れに応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 岐阜県労働委員会は、①及び②について労働組合法第7条第3号、④について同条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)④に係る団体交渉応諾、(ⅱ)組合との交渉を行うことなく、A2に対し、試用期間延長を通知したうえで本採用を拒否し、解雇するなどして、組合の運営に対する支配介入を行ってはならないこと、(ⅲ)文書交付等を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、組合が令和6年6月19日付け及び同月28日付けで申し入れた団体交渉に応じなければならない。

2 会社は、組合が組合員A2の雇用及び職場環境について交渉を求めているにもかかわらず、組合との交渉を行うことなく、同組合員に対し、試用期間延長を通知したうえで本採用を拒否し、解雇するなどして、組合の運営に対する支配介入を行ってはならない。

3 会社は、本命令書写しの受領の日から10日以内に、組合に対して、下記の内容の文書を交付しなければならない。

 年 月 日
X組合
 執行委員長 A1様
Y会社        
代表取締役 B1
 岐阜県労働委員会において、当社が令和6年5月27日の団体交渉後、貴組合に対し回答を行わなかったこと及び貴組合との交渉に応じないまま、貴組合の組合員A2に対して同年6月7日付けで試用期間を延長し、同月30日をもって本採用を拒否し解雇したことが労働組合法第7条第3号(支配介入)の不当労働行為に、また当社が貴組合からの団体交渉申入れに応じなかったことが労働組合法第7条第2号(団体交渉拒否)の不当労働行為にそれぞれ該当すると認定されました。
 今後は、二度とこのような行為を繰り返すことなく、健全な労使関係の構築及び確保に努めることを約束します。

4 会社は、前項の文書交付義務を履行したときは、速やかに、当委員会に対し、文書でその旨を報告しなければならない。

5 組合のその余の救済申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 会社が、令和6年5月27日の団体交渉〔注〕で議題となった組合員A2の雇用及び職場環境に関する事項について、その後組合に対し回答を行わなかったことが不当労働行為(団体交渉拒否、不誠実団体交渉及び支配介入)に該当するか否か(争点1)

〔注〕会社は、団体交渉ではなく和解協議であった旨主張するが、後述のとおり、団体交渉と認められることから、以下「本件団体交渉」という。

(1)団体交渉拒否について

ア 組合は、令和6年6月19日(以下「令和6年」の記載を省略)に会社に対し団体交渉申入れを行っていることから、当該申入れ以後の会社の対応については争点2において判断し、ここでは、当該申入れ前の会社の対応が団体交渉拒否に該当するか否かについて検討する。

イ 組合は、「組合員A2の雇用及び職場環境に関する事項について、5月27日の団体交渉において会社が組合に対し検討結果を後日回答すると約束したにもかかわらず、回答を行わなかったことが団体交渉拒否に該当する」旨主張する。
 しかし、組合は会社の検討結果について、団体交渉の場ではなく、文書により回答することを要求しており、また、組合は、本件団体交渉時及びその後の6月19日の申入れに至るまで、団体交渉の申入れを行っていないから、会社が団体交渉を拒否したとは認められない。

(2)誠実交渉義務について

 組合は、「組合員A2の雇用及び職場環境に関する事項について、会社が組合に対し検討結果を後日回答すると約束したにもかかわらず、本件団体交渉後に回答を行わなかったことが、誠実交渉義務に反している」旨主張するが、本件団体交渉後に会社との間で団体交渉が開催されていないことから、団体交渉の場における誠実な対応を会社に義務付ける誠実交渉義務に反しないことは明らかである。

(3)支配介入について

ア 支配介入の意思について
 組合は6月7日の会社への要請において、本件団体交渉で誓約した回答が未了であることを指摘し、その後複数回に渡り、会社に回答を求めていることなどから、会社は、組合の回答要請に応じないことが、組合の団体交渉権を消失させ、その結果組合の弱体化をもたらすことを容易に認識し得たと認められ、会社は支配介入の意思を有していたと推認できる。

イ 組合からの回答要請に応じない行為について
 本件団体交渉後、組合への返答を行わないまま、6月7日にA2に対し試用期間延長を通知したことについて、会社は、「A2が復職後も何ら反省せず、指示した仕事も十分にしていなかったことから、働く姿勢が変わるか確認するために試用期間の延長を通知したのであって、本件団体交渉で組合と誓約した検討結果は回答している」と主張する。
 そこで検討するに、本件団体交渉の結果、会社が、①4月8日付け解雇(以下「4.8解雇」)を撤回し、雇用関係の継続を認めること、②A2の就労場所及び業務内容を4.8解雇前と同じ状態に戻すこと、③謝罪文の交付を求める組合の主張を会社で検討し、何らかの解決策を6月6日までに回答することについて、合意がなされているところ、仮にA2の勤務態度に改善が見られず、会社として試用期間延長を決定したとしても、当該検討結果について、会社は、組合の合意を得るために努力する義務があった。しかし、A2への通知の事前又は事後に、会社から組合に対し、試用期間延長について説明や交渉を行ったと認めるに値する証拠は存在しない。
 加えて、組合は6月14日の要請文書により、(試用期間の延長に同意できない旨を記載の上で)本件団体交渉で誓約した回答を速やかに行うよう求めており、この時点において会社は、6月12日の会社回答の内容が不十分であることを容易に認識でき、自らの主張について、組合に対する説明を一層尽くすべきであった。しかし、6月12日の会社回答以降、会社は組合からの要請や団体交渉申入れに一切応じておらず、自らの検討結果について、組合の合意を得るために努力した様子は認められず、会社の対応が、組合の団体交渉権を尊重した誠実なものであったとはいえない。
 以上の経過によれば、会社は、組合が複数回に渡り、本件団体交渉で誓約した回答の履行を求めたのに対し、これを正当な理由なく無視し続けたのであって、当該会社の対応は、組合の存在を殊更に軽視し、労働組合との交渉意義を失わせる行為であり、労働組合法第7条第3号の組合の運営に対する支配介入に当たる。

2 会社が組合との協議を行わずに、6月7日にA2の試用期間を延長し、6月25日に本採用を拒否し、6月30日をもって解雇したことは不当労働行為(団体交渉拒否、不誠実団体交渉及び支配介入)に該当するか否か(争点2)

(1)試用期間の延長を巡る労使間のやり取り

 6月7日に組合が会社に対し、試用期間延長の撤回とA2に対する謝罪を求めて以降の経過から、組合は一貫してA2の試用期間延長に反対し、会社に対し引き続き交渉を求めていたと認められる。

(2)組合の団体交渉申入れに対する会社の対応

 会社は、6月19日の組合からの団体交渉申入れに応じないまま、6月25日、A2に対し直接本採用拒否通知書を交付し、6月30日に解雇した。そこで、会社が、組合からの団体交渉申入れに応じなかったことに正当な理由があるといえるか、以下検討する。

ア 組合が、法適合組合であることを示さなかったことについて
 会社は、「①組合がホームページを保有しておらず、②労働組合として登記もされていないことから、誠実交渉義務を負う法適合組合に当たるか否か、判断することができなかったため、団体交渉としてではなく和解協議として協議を開始した」旨主張する。
 そこで、会社が、組合が労働組合法に適合する組合であることを示さなかったことを理由に団体交渉に応じないことが、団体交渉拒否の正当な理由となるか否かについて検討するに、前記①及び②が、労働組合法第2条及び第5条第2項各号のうち、いかなる要件に疑いを生じさせたのか、会社から具体的な主張は何ら行われていないし、団体交渉の申入れ時や交渉中に確認することも可能であるところ、会社は、組合の法適合性に一切言及していない。
 また、労働組合法第6条が認める使用者等との交渉権限については必ずしも同法第5条第2項に適合する組合であることは要しないから、そもそもいわゆる法適合組合でない限り団体交渉の権限がないかのような会社の主張は理由がない。
 さらに、組合は、6月22日の団体交渉申入れにおいて、上部組織を明らかにしたうえで、自らが「労働組合法に基づく団体」である旨を記載するなど、少なくとも団体交渉権を有する労働組合法上の労働組合であることを示して、団体交渉の申入れを行っている。
 したがって、会社が、組合が法適合組合であることを示さなかったことを理由に団体交渉に応じないことは、正当な理由のない団体交渉拒否に該当する。

イ 組合が個別労働紛争に関与することが弁護士法違反に当たるか否かについて
 労働組合が組合員のために、その使用者と団体交渉等を行って和解を成立させることは、みだりに他人の法律事務に介入する行為とはいえないことなどから、弁護士法第72条所定の「法律事務を取り扱」うことには当たらない。
 したがって、会社が、組合が個別労働紛争に関わることが弁護士法違反に当たるとして、団体交渉に応じないことは、正当な理由のない団体交渉拒否に該当する。

ウ 義務的団体交渉事項に当たるか否かについて
 会社は、組合が6月19日及び6月28日の団体交渉申入れにより会社に申し入れた交渉事項は、「いずれもA2の個別労働紛争に当たるところ、個別労働紛争は本来訴訟等により解決を図るべきで、義務的団体交渉事項には当たらない」と主張する。
 しかし、団体交渉と訴訟手続とは、その機能・目的を異にし、仮に団体交渉申入れ時において、別訴係属中であったとしても、団体交渉によって自主的に解決する余地がある以上、たとえ会社に訴訟で解決を図る意向があったとしても、団体交渉を拒否できない。これらから、会社が、組合が申し入れた交渉事項は義務的団体交渉事項には当たらないとして、団体交渉に応じないことは、正当な理由のない団体交渉拒否に該当する。

エ 和解の可能性の有無について
 会社は、組合からの団体交渉申入れに応じないまま、6月25日、A2に対し直接本採用拒否通知書を交付し、6月30日に同組合員を解雇したことについて、「和解の可能性が無くなった時点で、個別労働紛争であることは明らかであることから、これに応じなかった」と主張する。
 しかし、6月12日の会社回答の内容は、単にA2の就労態度を理由として、試用期間延長を一方的に通知したものであり、これに対し組合は延長に同意できないことを繰り返し明らかにしていたのに、会社はこれに対し何ら説明等を行っていないから、会社には、なお組合との交渉を継続する必要性があった。
 これらから、会社が和解の可能性がなくなったことを理由に、組合からの団体交渉申入れに応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。

(3)会社の行為は支配介入に該当するか否か

ア 支配介入の意思について
 組合は、6月7日の会社への要請などにおいて、「会社が組合を介さずに、直接A2に働きかけたことは、正常な団体交渉を阻害することになる」旨を伝え、同組合員の雇用に関することは組合を窓口とするよう求めている。したがって、会社は組合を介さずに、A2に直接回答等を行うことが、組合の団体交渉権を事実上、失わしめ、その結果組合の弱体化をもたらすことを認識していたと認められ、会社は組合に対する支配介入の意思を有していたと推認できる。

イ 組合を介さずに組合員に直接回答する行為について
 本件団体交渉において労使間の交渉は決裂に至ってはおらず、その後も組合は繰り返し団体交渉の申入れをしており、会社が交渉に応じていれば、そこで合意に至った可能性は否定できなかったから、この間も組合と会社との間で交渉が継続していたと評価される。しかるに会社は、組合を差し置いて組合員に直接回答したものであって、かかる行為は組合の存在を殊更無視し、組合との交渉意義を失わせ、組合の交渉力について組合員の不信を醸成するなど組合の弱体化を招来する結果となるから、組合の組織・運営に関する支配介入に当たる。

(4)よって、会社の行為は、労働組合法第7条第2号の正当な理由のない団体交渉拒否及び同条第3号の支配介入に該当する。

3 会社が、組合が5月6日の団体交渉申入れに際し労働組合法に適合する労働組合であることを示さなかったことを理由に、本件団体交渉に団体交渉ではなく和解協議として応じたことは、不当労働行為(団体交渉拒否)に当たるか否か(争点3)

(1)本件団体交渉は和解協議であったとする会社の主張について

ア 本件団体交渉に至るまでの経過及び本件団体交渉における会社の交渉態度
(ア)本件団体交渉は、団体交渉として開始されており、その後の交渉経過において、和解協議として取り扱うことに組合が同意したとは認められない。
(イ)ところで、使用者が、明白に団体交渉ではないという留保を付したうえで説明や質疑応答を行った場合には、労働組合の団体交渉権は否定されているわけであり、それらの「話合い」で団体交渉に応じたとは評価できない。
 しかるに会社は、本件申立て後に初めて、本件団体交渉に和解協議として応じた旨の主張を明らかにしており、開催前及び交渉中には、明白に団体交渉ではないとの立場を示していないから、たとえ会社が、団体交渉ではないという認識のもと交渉を行っていたとしても、本件団体交渉時の会社の対応は、労働組合の団体交渉権を否定する行為とまでは評価できない。

イ 会社の対応が団体交渉拒否に当たるか否かについて
 本件団体交渉における具体的な交渉経過は、組合が5月6日の団体交渉申入れにより要求したA2の4.8解雇の撤回、職場環境及び業務内容の変更等に関することを議題として、組合と会社が合意を目指して交渉していたもので、会社側の主観的な認識がどうであれ、団体交渉としての実質を有するものであった。
 したがって、仮に会社が、和解協議であるという認識のもとで本件団体交渉に応じていたとしても、結果的に団体交渉として成立していたと評価できるから、会社の当該行為は団体交渉拒否には該当しない。

ウ 会社の対応が誠実交渉義務に違反しているか否かについて
 本件団体交渉においては、組合が5月6日の団体交渉申入れにより要求した5つの交渉事項について、やり取りがあった。
 具体的には、会社は、本件団体交渉において、組合からの質問や要求に対し、その時点におけるできる限りの回答と会社の見解を説明し、その場で回答できず、検討を要する事項についても、すぐに拒否するのではなく、会社と検討する姿勢を示している。特に、対立が大きいA2に対する4.8解雇の有効性及び謝罪文の交付について、会社は、お互いの歩み寄りによる解決を提案するなど、解決を模索している様子がうかがえる。
 したがって、これら会社の一連の対応は、会社が、和解協議という認識のもと本件団体交渉に応じていたとしても、誠実交渉義務に反していたとは認められない。

(2)よって、本件団体交渉は、団体交渉としての実質を有するものであったと認められ、労働組合法第7条第2号の団体交渉拒否に当たらない。

4 組合の6月19日及び6月28日の団体交渉申入れに対し、会社が義務的団体交渉事項に該当しないとして団体交渉に応じなかったことは、不当労働行為(団体交渉拒否)に該当するか否か(争点4)

 会社の行為は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たると認めるのが相当であって、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。 

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