概要情報
| 事件番号・通称事件名 |
東京都労委令和3年(不)第73号
日本郵便不当労働行為審査事件 |
| 申立人 |
Xユニオン(組合) |
| 被申立人 |
Y会社(会社) |
| 命令年月日 |
令和7年11月4日 |
| 命令区分 |
棄却 |
| 重要度 |
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| 事件概要 |
本件は、会社による、①計5回の団体交渉における対応、②第5回団体交渉におけるスキル評価に係る管理者用マニュアルの不開示、③組合員Aに係る令和3年度上期及び下期のスキル評価が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
東京都労働委員会は、申立てを棄却した。 |
| 命令主文 |
本件申立てを棄却する。 |
| 判断の要旨 |
1 令和3年3月25日から9月30日にかけての5回の団体交渉(以下「本件団体交渉」)における会社の対応について
(1)組合は、「会社が定期評価マニュアルを改ざんし、不正なスキル評価の運用を行っているにもかかわらず、会社は本件団体交渉において、『定期評価マニュアルどおりに正当に運用している』と虚偽の説明をしており、こうした会社の対応は不誠実な団体交渉である」と主張する。
組合は、その主張の根拠として、①S郵便局におけるスキル評価が、「評価期間に入る前に評価結果を決める。」などという社会通念上あり得ない運用を行っていること、②会社が説明することは定期評価マニュアルには記載されていないことを挙げている。
そこでまず、組合員Aを含む時給制契約社員を対象とした会社の評価制度、特にスキル評価制度がいかなるものであるかを検討した上で、組合の各主張を検討する。
(2)会社の評価制度
組合員Aを含む時給制契約社員を対象とした会社の評価制度については、「時給制契約社員評価実施要綱」(以下「実施要綱」)、「期間雇用社員雇用事務の手引き」(以下「手引き」)及び「時給制契約社員定期評価・雇用契約更新マニュアル」(以下「定期評価マニュアル」)で定められている。
それらの記載からすれば、会社の時給制契約社員のスキル評価は、CランクからAランクまでの担当事務(評価項目)について上期又は下期の評価期間における被評価者の仕事を見てその習熟度を評価するもので、その評価結果に基づき次の評価期間におけるスキルランク及び時給を決定し、そのスキルランクの評価項目は、あらかじめ社員(被評価者)に明示するといった仕組みとなっていることが客観的に認められる。
(3)組合は、S郵便局におけるスキル評価が、「評価期間に入る前に評価結果を決める。」という社会通念上あり得ない運用を行っていると主張し、当該評価期間の前にスキルランクを決めることを「評価期間に入る前に評価結果を決める。」と主張するようである。
しかし、手引きや定期評価マニュアルの客観的記載からすれば、時給制契約社員のスキル評価制度は、AランクからCランクまでの担当事務(評価項目)をあらかじめ被評価者に明示して、次の評価期間における被評価者の仕事を見てそのスキルランクごとに習熟度を評価する制度であるといえる。したがって、当該評価期間の前にスキルランクを決めるという意味は、次の評価期間に被評価者にどのスキルランクの仕事を任せるかを指示するにとどまり、評価は飽くまで当該評価期間における各評価項目について、正確かつ迅速にできるまでに至っているかの習熟度について評価する制度と認められる。
本件団体交渉において、会社は、「組合の理解には誤解がある」として、上期の場合はどのランクの仕事をやらせるかは2月に決まっている旨、上期の評価は8月に評価する旨を説明し、また、「被評価者のスキルランクを決めたら、次の評価期間の間はそのスキルランクの評価項目に対してどうであったかという評価をしている」と説明し、さらに、組合員Aを例にして、「令和3年度(以下「令和」の表記を省略)上期の、『B有』〔注Bランクで習熟度有り〕としての仕事ぶりを見て、次はAランクの仕事を任せられるという判断をしたということであり、次期評価期間の評価実施時期である来年(4年)2月にはAランクの『担当事務に〇印』欄に全て〇を付けたスキルアップシートにより自己評価することになる」と説明している。
以上からすると、S郵便局におけるスキル評価制度の運用は、「評価期間に入る前に評価結果を決める」制度とはなっておらず、また、会社もそのことについて、本件団体交渉において「組合が誤解している」と指摘し、手引きや定期評価マニュアルの記載も踏まえて組合の誤解を解くために制度の説明を行っているといえるから、組合の主張は採用できない。
(4)組合は、「会社が説明することは定期評価マニュアルには記載されていない」と主張し、会社がスキル評価のマニュアルを改ざんし、S郵便局では不正な運用を行っていることの根拠としている。
確かに、会社は、スキル評価の制度の説明をする中で、「上期の評価をしたときが、下期に次のステップをやってもらうと動機付けするタイミングである」などと説明しているところ、このような表現は手引きや定期評価マニュアルには記載がなく、動機付けの記載があるとした管理者用マニュアルについては、会社は開示を拒否している。
そして、次期評価項目の明示をどのように行うかについては、組合が入手していた実施要綱や定期評価マニュアルには具体的な記載はないことから、組合が「S郵便局は会社が定めた評価制度と異なった運用をしているのではないか」との疑念を抱いたことにも一応の理由があったといえる。
しかし、会社は、次のランクに進むことや新たな担当事務をフィードバック時に被評価者に指示することを「動機付け」と表現しているものとみられ、定期評価マニュアル等に明記されていない評価項目を明示する時期ややり方について、本件団体交渉の中で補足して説明しようとしていたといえる。そして、会社が説明する内容は、実施要綱、手引き及び定期評価マニュアルで記載内容から客観的に認められるスキル評価の仕組みに沿うものであるし、実際に、組合員Aは、3年度上期のフィードバック時に、「次回のスキル評価からAランクの作業をしてほしい」と会社から「動機付け」がなされており、会社が説明したとおりにスキル評価が運用されていることがうかがえる。
したがって、会社の説明は、手引きや定期評価マニュアルの趣旨に沿うものであり、明記されていないことについて、組合の理解を得ようと補足して具体的に説明をしているとみられるから、会社が説明で用いた表現そのものが手引きや定期評価マニュアルに記載がなかったとしても、そのことにより、会社がスキル評価のマニュアルを改ざんし、S郵便局では不正な運用を行っていたことの根拠にはなり得ない。
(5)以上のとおり、会社が本件団体交渉でスキル評価制度について虚偽の説明を行っているという事実は認められず、むしろ会社はS郵便局において手引きや定期評価マニュアルのとおりにスキル評価を行っていることについて組合が理解できるよう繰り返し説明を行っていたといえるから、本件団体交渉における会社の対応が不誠実であるとはいえない。
2 管理者用マニュアルの不開示について
(1)組合は、「会社が本件団体交渉において管理者用マニュアルを開示しなかったことは不誠実な団体交渉に当たる」と主張し、その理由として①スキル評価制度について社会通念上あり得ない運用をしていること、②会社が説明の中で用いた表現が定期評価マニュアルに記載がないことを挙げ、詰まるところ「管理者用マニュアルを開示することにより、本件団体交渉において、会社が『マニュアルどおりに運用している。』との虚偽の説明を行っていることが明らかになる」と主張する。
しかし、本件団体交渉において会社がスキル評価制度について虚偽の説明をしているとはいえないから、組合が会社に管理者用マニュアルの開示を求める理由はその前提を欠く。
(2)会社は、管理者用マニュアルについて、「指導上の注意事項とかが載っている、管理者が評価をしっかり行うためのものである」旨を説明しており、人事考課に関わる内部資料であることが容易に推測できるところ、組合は上記(1)の理由のほかに管理者用マニュアルを開示すべき必要性については何ら説明をしていない。
また、会社は、「評価制度の基本的なことはオープンになっている方のマニュアル(定期評価マニュアル)に書いてある」と述べ、実施要綱、手引き及び定期評価マニュアルに明記されていないことについては組合が理解できるように補足説明を行っている。さらに会社は、「管理者用マニュアルは、手引きの記載と評価期間や、自己評価、フィードバックなどについて記載内容は同じである」と説明している。
(3)そうすると、本件団体交渉において、管理者用マニュアルの開示が不可欠であったとは認められず、管理者用マニュアルを開示しなければ協議が進展しなかったとはいえないから、会社がこれを組合に開示しなかったことが、不誠実な団体交渉に当たるとはいえない。
3 組合員Aのスキル評価について
(1)3年度上期のスキル評価が「A無」〔注Aランクで習熟度なし〕とされなかったことについて
組合員Aは、前期の2年度下期のスキル評価(「B有」)を踏まえて、3年度上期については引き続きBランクの担当事務を指示されていた。
会社の実施要綱及び定期評価マニュアルによれば、スキル評価は担当する事務についての習熟度を評価するものであるから、2年度下期に「B有」とされた組合員Aが、3年度上期にAランクの担当事務を指定されず、「A無」と評価されなかったことは、会社のスキル評価制度にのっとった評価結果であるというほかない。
会社は、第2回団体交渉で、「『B有』になってもAランクに進む人と進まない人がいる」旨を説明し、第4回団体交渉において、組合員Aについて、「2年度下期の段階で、もう半年しっかり見極めようと判断した」との説明をしているところ、平成31年度上期、元年度下期及び2年度上期と「B無」であった組合員Aが、2年度下期で初めて「B有」となったのであるから、会社が、同人に対し、3年度上期では引き続き様子を見てBランクの仕事を任せることにしたことも、あながち不自然な判断とはいえない。
(2)3年度下期のスキル評価が「A有」とされなかったことについて
組合員Aは、3年度下期(4年2月)の評価において、「他の時給制契約社員に対して、指示・指導ができる」の評価項目が「習熟度無し」と評価されているところ、同人自身も団体交渉で、会社が指摘した事実を自認している。そうすると、スキルアップシートの記載例に「一つでも△があれば、習熟度(無)となります。」と記載されていることも併せて考えれば、4年2月末の組合員Aのスキル評価が「A無」となったことに特段不自然な点は認められない。
(3)組合は、「Aが組合員であることを嫌悪して、会社が不利益な取扱いを行った」と主張する。
しかし、この主張を裏付ける具体的事実の疎明はなされておらず、むしろ、組合員Aが3年1月に組合に加入し、会社がこの事実を1月15日付けの組合加入通知書で認識して以降、同人のスキル評価が上がっていることからすれば、同人が組合加入により不利益な取扱いを受けたとはいえない。
(4)以上のとおり、3年度上期及び3年度下期の組合員Aのスキル評価において、特段不自然な点は認められず、手引きや定期評価マニュアルから逸脱した運用が組合員Aに対しなされたとはいえない。また、組合員Aが組合に加入して以降、同人のスキル評価が下がるなどして不利益な取扱いを受けた事実も認められない。
したがって、会社が、組合員Aのスキル評価について、3年度上期に「A無」、3年度下期に「A有」としなかったことは、同人が組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとはいえない。 |