概要情報
| 事件番号・通称事件名 |
東京都労委令和2年(不)第96号
日本アクリル化学不当労働行為審査事件 |
| 申立人 |
X1組合・X2地方本部・X3支部(「3労組」又は「組合ら」) |
| 被申立人 |
Y会社(会社) |
| 命令年月日 |
令和7年10月21日 |
| 命令区分 |
棄却 |
| 重要度 |
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| 事件概要 |
本件は、会社が、①団体交渉において(組合員に対する特別退職金及び3労組に対する解決金に係る)第一次提案及び(金額を上乗せした)第二次提案を撤回し、団体交渉を打ち切ったこと、②その後、3労組が申し入れた争議を解決するための団体交渉を拒否したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
東京都労働委員会は、申立てを棄却した。 |
| 命令主文 |
本件申立てを棄却する。 |
| 判断の要旨 |
1 会社が、令和4年8月26日の第5回団体交渉で3年10月19日の第一次提案及び4年7月20日の第二次提案〔注〕を撤回し、団体交渉を打ち切ったことは、X3支部の組合員に対する不利益取扱い及び3労組の弱体化を図る支配介入に当たるか否か(争点1)
〔注〕それぞれ、X3支部の組合員に対する特別退職金及び3労組に対する解決金としてし、合計8,084万7,460円、1億1,966万460円を支払うとの提案
会社は、第5回団体交渉において、これ以上和解協議を続けても成果は得られないなどと述べて団体交渉を打ち切っている。
この点、組合らは、「第二次提案は申立外C労組(以下「別組合」)の組合員との差別を解消する趣旨の提案であるにもかかわらず、会社がこれを事実上撤回したことで差別的取扱いが維持され、その結果、X3支部の組合員に不利益が生じた」旨を主張するので、以下、検討する。
(1)3労組と別組合に対する対応の経緯について
3労組と別組合への対応の経緯について、会社は、①N工場閉鎖の前後を通じて早期退職制度の受入れを3労組に繰り返し働き掛けていること、②第二次提案において、X3支部の組合員と別組合の組合員が受け取る特別退職金等の差異を全て解消し、同提案を第5回団体交渉の開始まで維持していること、③第一次提案及び第二次提案において、「貴組合らへの解決金」として組合事務所に関する解決金などの支払を提案しており、3労組に対し、別組合よりも更に有利な条件を提示していた部分もあることに鑑みると、会社は、3労組と別組合の双方に対して特別退職金等を支給することによる解決を目指してきており、解決金の内容について両者に不合理な差を付けようとしたとは認められない。
そうすると、N工場の閉鎖前から第5回団体交渉に至るまで、会社が3労組と別組合とを差別的に取り扱う意思を有していたと評価することは困難である。
(2)団体交渉における協議の経緯について
組合らが第2回団体交渉で第一次提案に別組合との差別があると指摘したことを受け、会社が第二次提案で別組合と差があった部分を全て解消したのに対し、組合らは、第5回団体交渉において、差別が解消されたとの認識を示したものの、第二次提案については、組合代理人が受入れを拒否している。
また、第二次提案は、令和3年1月31日付けで退職扱いとすることを条件とする提案であり、それは、別組合との合意と同じであったところ、組合らは、第5回団体交渉に至るまで一貫して和解成立時点までのバックベイの支払を要求しており、X3支部の組合員が同日付けで退職扱いとなることを受け入れなかった。
加えて、組合らは、第5回団体交渉において、退職金の計算に定年退職の割増率を適用することや、雇用を確保できないことに係る損害金といった、会社と別組合との合意にはない要求も維持していた。
以上の交渉経緯からすると、会社が別組合の和解条件と差があった部分を解消すべく対応したにもかかわらず、組合らが更に有利な条件の獲得を目指し続けたことにより、第二次提案に基づいて合意に向けた交渉を行うことが困難な状況に至り、組合らと別組合との交渉結果に差が生じたものと評価せざるを得ない。
(3)結論
以上の経緯に加え、会社が、団体交渉において会社提案について組合の質問や要望に具体的に回答するとともに、決算書などの資料提供を通じて可能な限り説明を尽くそうとする姿勢を示していたことなどの事情にも鑑みると、会社が、第一次提案及び第二次提案を第5回団体交渉で撤回し、団体交渉を打ち切ったことは、X3支部の組合員に対する不利益取扱いには当たらず、3労組の弱体化を図る支配介入に当たるともいえない。
2 会社が第5回団体交渉後、3労組が申し入れた争議を解決するための団体交渉を拒否しているのは、正当な理由のない団体交渉拒否及び3労組の弱体化を図る支配介入に当たるか否か(争点2)
(1)第5回団体交渉の打切りについて
令和4年8月26日の第5回団体交渉において、会社が団体交渉を打ち切っているところ、会社は、「3労組が全面解決要求書に基づく要求をし続けたことにより、双方の協議の進展の見通しが立たなくなって和解協議が決裂したのであり、団体交渉の打切りには正当な理由がある」と主張するので、以下、検討する。
ア 労使双方の主張の隔たりについて
和解の解決金について、会社が第二次提案で約1億2,000万円を提示したのに対し、組合らは3億6,000万円程度を要求しており、両者の提示額には約2億4,000万円もの差が生じていた。
また、会社が早期退職制度と同様の枠組みで一定の特別退職金等の支払を提案したのに対し、組合らは、別組合と同条件での特別退職金等にとどまらず、和解時点までのバックベイや定年退職時までの雇用保障又はそれに代わる損害金、更には争議経費までを会社の残余財産の範囲で支払うよう要求しており、双方の解決に対する考え方は金額の問題にとどまらす根本的に異なっていた。
さらに、仮処分決定後〔注〕の第5回団体交渉に至っても、組合らは「会社が有する貸付金残高である約3億6,000万円の範囲内で」とは述べつつも、どの程度までの譲歩が可能かという具体的な提案はしていない。組合らは、この額は要求する上限額を示したものと主張するが、①もとより会社の保有額を超える和解は通常は困難であり、組合らが改めて上限額を言明することの意味が判然としないこと、②組合らが主張するところの上限額以内である第二次提案に応じられないと主張しており、それを超える水準を求めていると解されること、③組合らの要求額がおおむね3億6,000万円前後であることなどを併せて考量すると、客観的には組合らが当該上限額と同等額とはいえないまでも、それに近い水準を求め続けているものと受け止められ得る。また、組合らが組合事務所に関する会社の対応を執ように糾弾する姿勢であったことからも、組合らと会社との主張の隔たりは大きく、それが解消する可能性も乏しかったとみざるを得ない。
〔注〕令和2年10月7日、X3支部の組合員10名は、名古屋地方裁判所に対し、会社を債務者として、地位保全及び賃金仮払仮処分申立事件を申し立てていたところ、4年7月20日、同裁判所は、これら10名の解雇の有効性を認める判断を示した上で、申立てを却下した。
イ 和解を模索してきた経緯について
組合らと会社とは、工場閉鎖の案が浮上してから通算19回にわたり団体交渉を重ね、和解を模索してきた経緯がある。その中で、会社は、第一次提案及び第二次提案において、解決金の内訳を項目ごとに示した上で、団体交渉においても組合らからの質問や要望に対して、具体的に回答を行うなど、自らの提案を根拠づけるために十分な情報提供を行うよう努めている。
加えて、会社は、①第1回団体交渉における組合らの求めに応じ、謝罪条項に関する文書や令和2年度の決算書を送付し、②第3回団体交渉における組合らの求めに応じ、令和3年度の決算書を提供するなど、組合らの要求に対しても可能な限り譲歩をしたり説明を尽くそうとする姿勢が見受けられる。
一方、組合は、第3回団体交渉で「仮処分決定が出ると和解協議がやりにくくなる」旨を述べ、第4回団体交渉では、仮処分決定が近いことを引き合いに出して、和解による早期解決を図ることを示唆していることから、労使双方が、仮処分決定前までに和解交渉を成立させるべきものと認識していたことがうかがわれる。こうした状況にあって、会社が、第二次提案において第一次提案の約1.5倍に当たる金額を提示したのに対し、組合の8月18日付要求書には、会社の提案に歩み寄った記載はみられなかった。
ウ 結論
以上の経過によれば、①双方の主張の隔たりが大きく組合らが第二次提案の受入れを拒否したことから、既に議論がこう着しており和解協議を継続しても進展はなかったとみざるを得ないし、②会社が組合らへの説明に努め新たな提案も行っていたことなどからして、会社の対応が不誠実であったと評価することもできない。
さらに、労使双方が仮処分決定前を和解交渉成立のタイミングと認識していた中で、会社が大幅な譲歩案を提示したにもかかわらず、組合らが柔軟な対応を示さなかったという経緯も踏まえると、会社が正当な理由なく第5回団体交渉を打ち切ったとは認められない。
(2)会社が令和4年11月1日に団体交渉を拒否したことについて
令和4年10月14日、組合らは、会社に対し、組合員の解雇が昭和56年協定に違反しており無効であることや組合事務所の使用妨害が違法な行為であることを主張し和解協議の再開を申し入れた。
しかし、その際、会社提案への歩み寄りはなく、組合の要求や解決に対する考え方が第5回団体交渉終了時点から変化しているとはいえないから、仮に団体交渉を再開しても和解に向けた協議が進展する可能性があったと評価することは困難である。
したがって、会社が11月1日に組合に対して和解交渉を再開しないと回答したことには相応の理由があったといわざるを得ない。
(3)会社が令和5年3月2日に団体交渉を拒否したことについて
令和5年2月28日に至って、組合らは、「2022年7月20日付回答書に基づく和解交渉を再開すること。」として団体交渉を再開することを要求したが、会社はこれを拒否している。
この点、組合らは、「会社が3労組の求めに応じて団体交渉を再開しなかったことは、従来の団体交渉の内容と経過を無視した正当な理由のない団交拒否である」と主張する。
しかし、組合らと会社とは、工場閉鎖の案が浮上して以降、通算19回にわたり団体交渉を重ね、和解を模索してきた経緯があり、①会社にとって第二次提案は、裁判所の判断が下される前の段階で紛争を早期に解決するために提案したものであったところ、名古屋地裁判決で会社の主張が全て認められ、組合らの請求が棄却されるという状況の変化があったことや、②組合らが、協議の進展が見込まれるような具体的な和解案の提案を行っていないことを考慮すると、会社が、もはや第二次提案をベースにした協議を再開する必要はないと判断したのもやむを得ない。
このほか、上記の団体交渉申入れをもって会社が団体交渉の再開に応ずべき事情が生じたと評価することは困難であるといわざるを得ないから、組合らの主張は採用できない。
(4)結論
以上のとおり、会社が、正当な理由なく第5回団体交渉を打ち切ったとはいえず、その後、3労組が申し入れた団体交渉を拒否していることにも相応の理由があるといえる。 したがって、会社が第5回団体交渉後、3労組が申し入れた争議を解決するための団体交渉を拒否していることは、正当な理由のない団体交渉拒否には当たらず、また、3労組の弱体化を図る支配介入にも当たらない。 |
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