労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  岐阜県労委令和6年(不)第2号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和7年12月17日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①令和6年4月2日など3回の団体交渉(以下「本件団体交渉」)において、組合の要求(a支部長Aの役職変更に伴う給与手当額変更の撤回、b決定権者である代表取締役B1(以下「代表B1」)の出席、c組合活動に必要な印刷物の配布や掲示板の設置)に対し、具体的または合理的な理由を欠く回答に終始していたこと、②当初の本件申立て後に、Aに対し、愛知県N市のW支店から岐阜県岐阜市の本社への異動を命じたこと(以下「本件配転命令」)が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 岐阜県労働委員会は、①のうちa及びcに係るものについて労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、これらを議題とする団体交渉において、組合の要求や主張に対し、会社の主張や回答の根拠を具体的に説明するなどして誠実に応じなければならないことを命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、令和6年3月11日付けの組合支部長Aの役職変更及び組合活動に必要な印刷物の配布を議題とする団体交渉において、組合の要求や主張に対し、会社の主張や回答の根拠を具体的に説明するなどして誠実に応じなければならない。

2 組合のその余の救済申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 本件団体交渉における会社の対応が労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するか否か(争点1)

(1)本件団体交渉における交渉事項の義務的団交事項該当性について

 本件団体交渉における主な交渉事項は、支部長Aの役職及び給与の変更に関する事項であり、義務的団交事項に該当する。

(2)誠実交渉義務について

 使用者は、自己の主張を相手方が理解し、納得することを目指して、誠意をもって団体交渉にあたらなければならず、労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明し、必要な資料を提示するなどし、また、結局において労働組合の要求に対し譲歩することができないとしても、その論拠を示して反論するなどの努力をすべき義務がある。使用者には、合意を求める労働組合の努力に対し、このような誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する義務がある。
 そこで、本件団体交渉における会社の各対応が、誠実交渉義務を果たしているか否かについて、以下検討する。

ア 就業規則の開示について
 会社は、組合の就業規則の全文開示請求に対して提出を求めた(取扱い等に関する)誓約書を断念し、組合の要求事項に関連する就業規則の一部を無条件で開示するなど、組合に対する一定の譲歩をしている。更に、組合の支部長Aに対し、一部開示後の第2回団体交渉において、「Aが確認して過不足があるのであれば、会社に請求しても良い」と発言することで、組合に対し、更なる譲歩をしている。このような対応から、会社には、就業規則の開示に関し、組合との合意形成を模索する姿勢があったとみるのが相当であり、組合に対して就業規則を一部開示とした会社の対応自体が、直ちに不誠実であったとまでは認められない。

イ 令和6年3月11日付けの辞令による給与手当額変更について
 第1回団体交渉において、組合から会社に対して、当該給与手当額の変更に関し、「面談という場と称した場はあったが、中身は全然説明していない」との指摘がなされた。その後、会社は支部長Aに辞令の目的等を説明する面談の機会を設けようとしたが、Aから団体交渉の場での説明を求められ、会社内での面談での説明は実現しなかった。
 そこで、第2回団体交渉において、会社から支部長Aの給与手当額変更について議題としようとしたが、組合は就業規則の全文開示や代表B1の団体交渉への出席に議題を変更していった。その後も、会社は「(支部長Aは)N支店支店長を降職し、支店長手当2万円が廃止された。また、役職変更により、グループマネージャー手当8万円が廃止され、シニアエキスパート手当5万円が付与された。」等と説明をしたが、組合は「就業規則のどこに降職・解任が書いてあるか?」と質問するなど、議論は総じて平行線となっているものの、会社としては支部長Aの給与手当額変更を主な議題として団体交渉を進行しようとする意向は有していたと認められる。
 しかし、会社は、なぜ降職するに至ったのかについては、「人事考課規定は従業員への公開は現状していない」、「システムにあわせてやっている」等の説明に留まっている。その一方で、会社には、誠意をもって団体交渉に当たるべき義務があるから、会社は、組合の当該要求に応じられないとしても、人事考課の基準や、支部長Aの降職の理由(適性、勤務態度等)等の会社の主張に関する論拠をより具体的に説明することにより、組合の納得を得る努力をすべきであった。
 また、会社は、「人事評価の手続の中で評価の根拠についても説明していた」旨を主張し、支部長Aは説明を受けていた事実自体を否定するが、Aのみが会社から人事評価の根拠について何らの説明も受けていなかったとは認めがたい。
 しかし、支部長Aが人事評価の手続の中で、評価の根拠について一定の説明を受けていたとしても、Aはこれに納得できずに本件団体交渉に臨んでいるのであるから、会社としても、以前に説明して同支部長も理解しているであろうとの考えに拘泥することなく、誠実交渉義務に基づき、改めて人事考課の基準や、同支部長の降職の理由等の会社の主張に関する論拠をより具体的に分かりやすく説明することに努め、組合の納得を得る努力をすべきであった。
 これらから、支部長Aの給与手当額変更に関し、本件団体交渉における会社の対応は、誠実交渉義務を果たしていないと言わざるを得ない。

ウ 代表B1の団体交渉への出席について
 本件団体交渉における会社側の出席者のうち、①取締役B2及びグループマネージャーB3は、本件団体交渉事項に密接に関連する人事・管理担当者であり、本件団体交渉においても、「代表B1には本件団体交渉の内容の報告をしているだけで、自らで決めている」旨を明らかにし、実際に組合の要求に対しその場で明確に拒否する等の対応を取っており、会社の役員ないし上席の管理職として相応の権限と責任を持って本件団体交渉に臨んでおり、②弁護士B4も、同様に相応の権限と責任を持って本件団体交渉に臨んでいた。
 よって、本件団体交渉に代表B1が出席しなかったことにより、実質的な協議が進行できなかったとは認めがたく、B1が本件団体交渉に出席しなかったことは誠実交渉義務違反には該当しない。

エ 組合活動に必要な印刷物の配布及び掲示板の設置について
 印刷物の配布及び掲示板の設置については、令和6年5月9日付け「要求書」において組合が要求し、5月16日付け「回答書」により、会社が「当社に施設管理権があるので認められない」と回答している。その後、令和6年5月24日付け「団体交渉申入書」において、印刷物の配布が認められない合理的な理由の説明を組合が要求し、実際に第3回団体交渉において議題として協議されたが、会社は同様に施設管理権を理由として組合の要求を拒否している。
 この点、会社は、「支部長Aが代表B1に手渡した『X組合N支部結成のお知らせ』と題する文書の記載内容に整合性が取れていない部分を確認したため、第3回団体交渉において、組合の文書公開ポリシーについての考えを求めたが、組合から具体的な説明がなく、必要性が明らかでないためにこれを拒否した」旨、「組合に加入している従業員数が不明なため、ビラ配りや掲示物の掲示が、組合員に対する伝達の手段としての意味や必要性を有するものなのか図ることができない」旨主張する。また、「印刷物等の内容の品質及び文書の正当性が確認できない場合、当該文書が従業員の注意を逸らし、業務時間中に混乱や対立を引き起こすことを懸念している」旨も主張している。
 しかし、会社は、本件団体交渉においては、「会社に施設管理権があるため認められない、必要がない」とする趣旨の回答に尽き、第3回団体交渉後の令和6年6月19日付け「回答書」も組合に同様の回答をしており、団体交渉の中で、組合に対し、具体的な説明をしたとは認められない。会社には、自らの主張を相手方が理解し、納得することを目指して、誠意をもって団体交渉に当たるべき義務があるのだから、本件団体交渉の時点で、せめて上記主張と同程度に具体的な説明をした上で、より具体的な合意達成の可能性を模索するべきであった。
 なお、そもそも、会社が主張する支部長Aの文書の記載内容に整合性が取れていない部分の具体的内容は、会社側出席者の所属部署及び役職名の誤記といった極めて形式的な内容に留まり、会社が懸念するリスクを具体的に想起させる程度の内容とは到底評価できない。更に、会社は、第3回団体交渉において「文書内容が正しいかどうかリーガルチェックを行う必要がある。」などと指摘したことを主張し、組合作成の文書の添削を示唆しているが、これは労働組合法第7条第3号が禁止する支配介入に該当する可能性があり、組合の要求を拒否する理由として不適切である。
 以上より、組合活動に必要な印刷物の配布及び掲示板の設置に関し、本件団体交渉における会社の対応は、誠実交渉義務を果たしていないと言わざるを得ない。

オ 以上のとおり、本件団体交渉における会社の各対応のうち、上記イ及びエにかかる部分については、労働組合法第7条第2号が禁止する不当労働行為であると評価せざるを得ない。

2 本件配転命令が労働組合法第7条第4号の不当労働行為に該当するか否か(争点2)

(1)本件配転命令の目的について

ア 組合は、本件配転命令の目的について、「支部長Aを本社の監視下に置くこと、人間関係を切り離し、他の社員と接点を持たせたくないとの意図がある」、「本社内で支部長Aに対するネガティブキャンペーンが行われており、このような状況下にある本社へAを異動させることで、精神的に耐えがたい状況に追い込み、Aを退職させようとする意図が明確である」旨主張するので、以下検討する。

イ 「Aを本社の監視下に置くことが本件配転命令の目的である」旨の組合の主張について
 会社は、支部長Aが基本的に本件配転命令前と同様にW支店へ直行直帰して勤務することを許可しており、実際に、同支部長は週に一度、16時頃から17時頃まで行う常務B5との業務に関する面談のためにのみ、本社へ自家用車で出社していた。
 かかる勤務実態に照らせば、Aは、正規の勤務時間の大半は、本社で勤務せずに過ごしていたとみることができることなどから、組合の主張には理由がない。

ウ 「人間関係を切り離し、支部長Aと他の社員との接点を持たせなくすることにより組合の活動を阻害しようとした」旨の組合の主張について
 令和6年11月11日付けで、W支店に勤務する支部長A以外の営業職員全員についても、Aと同様に本社に異動を命じられている。
 そして、日常的にAと他の社員とのコミュニケーションを妨げるような具体的事実の疎明はなく、また、業務上のコミュニケーションについても、取締役B6から日常的に普段の業務メール等の送信がなされている。
 以上の事実関係に鑑みれば、W支店に勤務していた営業職員は、所属するグループこそ異なるものの、全員が本社の営業本部内に所属しており、社員同士で意思疎通を図り、組合活動を行うことは十分に可能な状況にあると認められ、組合の主張は認められない。

エ 「本社全体で支部長Aに対するネガティブキャンペーンが行われている」旨の組合の主張について
 組合により疎明された具体的事実は、代表B1が特定の社員1名に対して、「Aが教育をしながら携帯電話で株価ばかり見ている」旨指摘したことのみである。これら状況において、組合の主張は採用できない。

(2)不当労働行為意思について

 本件配転命令に関する組合の一連の主張が認められないとしても、本件配転命令を正当化するに足りる業務上の必要性及び人選の合理性が認められない場合には、会社の不当労働行為意思が推認されることがあると解されるので、以下検討する。

ア 業務上の必要性について
 本件配転命令の目的について、会社は、「W支店の業績が悪化しており、業績を回復させるための手段として、支部長Aを含む同支店の営業職員全員を本社のしかるべき部署に配置し、経験豊富な社員の元で能力を向上させる目的があった」と主張する。
 W支店の業績は、第76期まで7期連続で赤字となっており、特に、本件配転命令直前の第76期は、粗利実績が前期比で約40%減少し、過去3期に比しても明らかに業績が悪化している。そして、当該業績は、他の支店と比べても低下している状況にあった。
 かかるW支店の業績に鑑みれば、会社には、同支店全体の営業戦略を見直すための人的、物的な対応を検討すべき合理的理由が存し、検討の結果として、支部長Aを含む営業職員全員を本社に異動させることとした本件配転命令には、一定の業務上の必要性があったと認められる。

イ 人選の合理性について
 W支店全体の業績の回復を目指すための人事異動として、支部長Aだけでなく営業職員全員を本社に異動させて、各々の課題を踏まえた指導監督を受けさせることとしてなされた人選には、一定の合理性が認められる。

ウ 以上のとおり、本件配転命令には、これを正当化するに足りる業務上の必要性及び人選の合理性が認められ、会社の不当労働行為意思を推認することはできない。

(3)不利益性について

 組合は、支部長Aが本社へ異動することにより生じる不利益として、週1回程度W支店から本社に(常務B5との面談のため)自家用車で移動する際の交通費が支給されていないことを主張する。
 しかし、自家用車の使用禁止に関する規則が会社内に有効に存在していたことは疑い難く、支部長Aは、本来、自宅への直帰ではなく、一旦社用車でW支店に戻るべきであったといえ、業務への自家用車の使用を正当化することはできない。
 これらも考慮すると、交通費の不支給は、本件配転命令を直接の要因として被った不利益というよりは、本来禁止されている自家用車を使用したことにより被った不利益と言わざるを得ない。

(4)以上のとおり、本件配転命令には会社の不当労働行為意思を推認できず、当該命令により支部長Aが具体的に不利益を被っているとも認められない。よって、本件配転命令は、労働組合法第7条第4号が禁止する不当労働行為には当たらない。 

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