労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  熊本県労委令和7年(不)第1号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y学校法人(法人) 
命令年月日  令和7年11月20日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①法人が、組合の質問等に対する回答を第2回及び第3回の団体交渉の前日に行ったこと、②a法人が、第5回団体交渉を組合の不規則発言後すぐに一方的に終了したこと、b組合からの団体交渉再開の申入れを受けた後の法人の対応、③法人が、団体交渉に議題の要となる人物を参加させず、代理人弁護士、学長及び副学長の3名で対応したこと、④団体交渉への組合の上部団体の出席について、開始5分前から終了5分後までと制限したこと、⑤組合に対し、学内での会議等を認めなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 熊本県労働委員会は、②及び③(団体交渉における教職員の給与の改善及び長期貸付金に係る対応)について労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、(ⅰ)組合が申し入れた団体交渉に応じなければならないこと、(ⅱ)文書交付等を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 Y法人は、本命令書交付の日から14日以内に、X組合が令和6年12月17日に申し入れた団体交渉に応じなければならない。

2 Y法人は、本命令書交付の日から14日以内に、次の文書をX組合に交付しなければならない。
令和 年 月 日
X組合
 代表者 執行委員長 A1 様
Y法人          
代表者 理事長 B1
 当法人が、令和6年10月22日の第5回団体交渉を一方的に終了したこと、令和6年12月17日の貴組合からの団体交渉再開の申入れに対して団体交渉に応じなかったこと並びに教職員の給与の改善及び長期貸付金に係る当法人の団体交渉における対応は、熊本県労働委員会において労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為と認定されました。
 今後は、労働組合の存在意義を理解し、開催条件に固執することなく団体交渉に応じ、交渉に当たっては、説明の根拠となる資料を提示するなどしつつ、誠意を尽くして合意形成に努めるようにします。

3 Y法人は、第1項及び第2項を履行したときは、速やかに当委員会にその履行状況を文書で報告しなければならない。
 なお、第2項の履行状況については、当該交付した文書の写しを添付するものとする。

4 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 法人が、下記各回答を各団体交渉の前日にしたことは、労働組合法第7条第2号及び第3号に当たるか。(争点1)
・令和6年7月29日付け「第2回団体交渉に向けた事前回答」((第1回団体交渉での質問事項に係るもの。以下「回答①」)
・令和6年9月2日付け「第3回団体交渉に向けた事前回答」(第2回団体交渉での質問事項に係るもの。以下「回答②」)
・令和6年9月2日付け「2024年7月30日付け要求書(以下「6.7.30要求書」)に係る回答」(以下「回答③」)

(1)組合は、「組合からの要求書や質問等に対して速やかに回答する努力をせずに、団体交渉前日に回答する行為は、誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する義務に反し、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するとともに、回答の吟味をする時間もないまま団体交渉に臨まざるを得ない状況にさせ、交渉力を抑制するもので、同条第3号の支配介入に該当する」と主張するので、以下検討する。

(2)法人は、組合に対し、回答①、回答②及び回答③について、それぞれ第2回団体交渉及び第3回団体交渉の前日(7月29日、9月2日)に回答している。
 一般に労働組合が団体交渉申入れに当たり、使用者に文書による事前の回答を求め、使用者が応じることはあり得るし、団体交渉の円滑な進行に資する面はあるとは思われる。しかし、労使間で合意されている場合等は別として、当然に使用者に文書による事前の回答が義務付けられるわけではないし、文書での回答をするかどうか、いつ回答するかは、団体交渉ルールの設定の問題として、事前折衝や団体交渉の中で決められるべきであり、この点、本件においては、法人が要求事項等を事前に組合に回答する合意があるとは認められない。

(3)これらから、第2回団体交渉及び第3回団体交渉に当たって、法人が団体交渉の前日に文書で回答したことは、誠実交渉義務に反するとは言えないから、労働組合法第7条第2号の不当労働行為には該当せず、また、組合の交渉力を抑制する支配介入を行ったとも認められないから、同条第3号の不当労働行為に該当しない。

2 法人が、第5回団体交渉を組合の不規則発言後すぐに一方的に終了したことは、労働組合法第7条第2号及び第3号に当たるか。(争点2-1)

(1)法人は、「組合の執行委員長A1(以下「委員長A1」)の不規則発言後、すぐに一方的に終了した理由は、①その直前の状況(上部団体Cユニオンの執行委員A2が声を荒げたことなど)、②暴言の内容・態様、③これまでの経過等を踏まえれば、強い危険を感じさせ、法人側出席者の安全等を確保できないと認識させるに十分なものであったため」と主張するところ、これらが、団体交渉を拒否する正当な理由になるか否かについて、以下、検討する。

(2)弁護士B2が団体交渉を終了する発言を行うまでに委員長A1は、「おい、ちゃんと聞かんかい、こら。」、「何が怖いの、こら。」などの不規則発言を行っている(以下「本件不規則発言」)。
 これらは、不穏当な言動であり、交渉態度として必ずしも是認されるものではない。しかし、利害が大きく対立する関係にある労使の交渉において、ある程度厳しい応酬や交渉態度が出現することもやむを得ないと言うべきところ、本件においては、不規則発言に至った背景として、組合と法人のかみ合わない議論が続いたことに触発されたという事情も認められる。
 そして、これら発言は、法人側出席者に対して暴力等の行使を示唆するものでなく、実際に有形力の行使は一切行われておらず、法人に強い危険を感じさせ、出席者の安全等を確保できないと認識させるに十分なものとは認め難い。さらには、本件不規則発言の後も、団体交渉が継続できないような喧噪状態とまではなっておらず、暴力にエスカレートするような具体的兆候はうかがわれないことから、当該発言により団体交渉が継続できない程度の支障が生じていたとは認められない。

(3)これらから、本件不規則発言は、組合として自省すべき点はあるが、法人がそれを理由として団体交渉を終了したことに正当性は認められず、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。また、法人の当該行為は、組合に対する支配介入と言わざるを得ず、同条第3号の不当労働行為に該当する。

3 令和6年12月17日に組合からの団体交渉再開の申入れを受けた後の次の文書による法人の対応は、労働組合法第7条第2号及び第3号に当たるか。(争点2-2)
・令和6年12月19日付け「ご連絡」(以下「連絡①」)
・令和6年12月24日付け「ご連絡」(以下「連絡②」)
・令和7年1月8日付け「ご連絡」(以下「連絡③」)

(1)法人は、〔団体交渉を再開するに当たり、会社として特に問題視する組合員及び上部団体の役員の言動について、今後行わないことの書面での確約等を求める旨の〕連絡①を発出した理由として、「組合の言動1ないし言動5〔注〕については、いずれも優に受忍限度を超えた正当性のない行為であり、単独でも法人に強い恐怖を感じさせ、安全の確保ができないため」と主張する。
 また、その後、〔これら言動に係る組合の認識についての回答を求める旨の〕連絡②及び〔(上部団体ではなく)組合名での確約を求める旨の〕連絡③を発出した理由として、「①組合が回答した内容からは、これら行為が繰り返されるおそれが高いと判断せざるを得ないこと、②言動1ないし言動4を問題と思っているか、何が問題であるかの記載がなかったため」と主張する。
 よって、これらが、団体交渉を拒否することができる正当な理由になるか否かについて、以下検討する。

〔注〕それぞれ、第1回団体交渉終了後の、上部団体役員から学長に対する「教師根性捨てなっせ」などの発言(言動1)、令和6年4月17日、学校での団体交渉はしないと連絡を受けた後の、執行委員A2による「学校で待っている」との発言(言動2)、第2回団体交渉において、組合員が机を叩いたり、「無駄な時間過ごした」と言って退出したこと(言動3)、第3回団体交渉において、A2がメールアドレスを書いた紙を一方的に法人側の机上に置いたことなど(言動4)、同じく、委員長A1による「おい。ちゃんと聞かんか。こら。」などの発言(言動5)のこと。

(2)言動1ないし言動5を行ったこと自体は組合も概ね認めており、これらは、団体交渉における組合の言動としては適切とは言い難い面もあるが、いずれも法人側出席者に対して暴力等の行使を示唆するものでなく、また、団体交渉が継続できない程の暴言や行為とは評価できない。
 さらには、言動1ないし言動4は第3回団体交渉までのものであるところ、第4回までの団体交渉は概ね平穏に行われていたことなどからすると、法人側出席者に強い恐怖を抱かせ、身体の安全が確保できず、団体交渉の実施ができないような言動とは認められない。言動5についても同様である。
 また、法人が主張する、「繰り返されるおそれが高い」などの理由については、①執行委員A2から弁護士B2への、言動5についての謝罪(令和6年12月17日)、②「Cユ二オンA2」名での、言動1ないし言動5を今後行わないことに係る確約書の提出(同年12月20日)、③組合の執行委員長名での確約書の提出(令和7年1月6日)などから、組合は自らの言動について反省していることが見て取れる。
 それにもかかわらず、法人は、組合が言動1ないし言動4を問題と思っているか、言動1ないし言動5について何が問題であるかの確約書への記載を求め続け、それを団体交渉の再開の条件とすることに固執し、団体交渉に一切応じようとしない。これらは、組合の適切とは言い難い面がある言動を奇貨として交渉を拒否していると言わざるを得ず、組合が確約書等の求めに異議を述べずに応じていたとしても、団体交渉を拒否する正当な理由とは認められない。

(3)以上のとおり、法人が主張する連絡①、連絡②及び連絡③を発出した理由については、いずれも団体交渉を拒否できる正当な理由とはならず、法人が、自らの求める団体交渉の開催条件に固執して、令和6年12月17日の組合からの団体交渉再開の申入れに応じようとしないことは、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。
 また、このような法人の対応は、組合に対する支配介入と言わざるを得ず、同条第3号の不当労働行為に該当する。

(4)なお、組合は、法人が連絡②において、組合が発出した2024年12月20日付け「ご連絡」について法人が「(Cユニオン)執行委員A2」名の回答を受け入れず、組合名での回答を求めたことは、上部団体と加盟組合の関係を無視した不当な介入であると主張する。
 しかし、上部団体が下部団体の事業の代理ができることは下部団体の組合員が行った行為の謝罪を上部団体の役員が行えることには必ずしもつながらず、かつ、法人が問題にしている組合の言動5点のうち2点は組合の組合員の言動が含まれていることからすると、法人が組合名で回答を求めたこと自体に、不当な支配介入があったとまでは認め難い。

4 法人が、団体交渉において、代理人弁護士B2、学長B3及び副学長B4の3名で出席して対応したことは、労働組合法第7条第2号及び第3号に当たるか。(争点3)

(1)「団体交渉に出席した3名では組合の質問に対して答えられず持ち帰ることになったことなどが団体交渉が進展しない要因にもなったため、団体交渉には、組合が要求する人物の出席が不可欠である」旨の組合の主張について

 一般に、当事者は、自由に団体交渉の担当者を選任でき、団体交渉の席に誰を出席させるかを自主的に定めることができる。法人側は、理事会の構成員かつ短大の学長である学長B3及び法人から委任を受けた弁護士B2を含む3名が出席しており、法人は、権限のある者を出席させていたとみることができ、組合が要求する人物が出席しないことをもって、法人の対応が不誠実とは言えない。

(2)「団体交渉に出席した3名は、具体性を欠く不十分な回答しかせず、法人は、合意を求める組合の努力に対して誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する義務(誠実団体交渉義務)を果たしたとは到底言えない」旨の組合の主張について

ア 法人は、令和6年3月8日に組合が提出した(短大が募集停止に至った理由の説明、募集停止を避けるためにどのような方策が取られたかの説明等を求める)要求書に対し、第1回団体交渉で学長B3から回答し、答えられない部分について組合が「次回までにできれば文書で事前に答えていただきたい」と求めたのに対して、弁護士B2が「はいもうできるだけ文書で」と回答した後、組合が同年4月10日に提出した「第1回団体交渉での質問事項」に対し、同年7月29日に回答①を組合に送付した上で、第2回団体交渉でそれを基に、B3が順に説明を行っている。
 また、第2回団体交渉で組合が質問した内容のうち、詳しく回答できなかった内容について、後日回答するよう組合から求められ、同年9月2日に回答②を組合に送付した上で、第3回団体交渉でそれを基に、学長B3が、Y市長に対する要望や訪問、Y市の大学設置の動き、貸借対照表等について順に説明している。
 さらに、6.7.30要求書で組合が要求した短大の公立大学法人化を含めた別法人による存続についても、第3回団体交渉で、要求には応じないこと及びその理由を説明し、これに対し、同年9月19日に組合が回答の根拠を回答するよう求める要求書を提出したことを受け、改めて第4回団体交渉で当該要求書の項目ごとに回答している。

イ 他方、6.7.30要求書で組合が要求した要求内容のうち、教職員の給与の改善、教職員への賞与の支給、退職金の増額支給、再就職の斡旋について、第3回から第5回までの団体交渉における法人の対応を見ると、組合からの要求に対して、団体交渉の場で答えられなかった部分について、書面を送付した上で、次の団体交渉で説明を行っている事項もあるものの、べースアップについては、団体交渉時に行わない旨の回答を繰り返すのみで、組合からその理由を求められたにもかかわらず、回答の根拠資料を提示して説明する等の組合側の理解や納得を引き出すための努力を尽くしたとは言い難い。
 さらに、組合が、令和6年10月17日に改めて回答の根拠資料を直ちに提示するよう求める要求書を提出し、12月20日に回答の催促をした後も、法人は、事前回答の合意がないこと及び団体交渉時に回答する予定であることを理由に回答に応じていないが、法人は、正当な理由なく団体交渉を拒否しており、自ら団体交渉開催に応じずにいながら、団体交渉が開催されないことを理由に組合への回答を行わないことは、適切な対応とは言えない。
 併せて、(当時の)理事長B5への3千万円の長期貸付金についても、(①組合が、第3回団体交渉において、法人が経営状況等を理由に(短大での)学生募集停止を決定したことに関連して、令和4年度に長期貸付を行っている事実について質問したことは、少なくとも団体交渉における交渉事項に関する説明要求としては相当なものというべきであり、また、②決算書類に記載されている長期貸付金の事実の確認や理事会議事録内容の確認等、法人内にある書類の確認を求める組合からの要求については、過度な要求ではなく、法人も容易に対応できると考えられるところ)、法人は、(組合に対して「検討します」と回答した第3回団体交渉の次の)第4回団体交渉では、「本日は回答できない」「事実の確認ができていない」等の回答を繰り返し、どうして答えられないの理由さえ具体的に説明しておらず、およそ組合の納得を得るような説明や努力をしているとは認められない。
 また、その後の第5回団体交渉でも組合に対する回答を準備していないことがうかがわれることからも、法人の対応は、組合の納得を得るような努力をし、組合に対して誠意をもって説明を尽くそうとしているとは到底認められない。

(3)以上のとおり、団体交渉における「教職員の給与の改善」及び「長期貸付金」についての法人の対応は不誠実であり、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。また、これらの法人の対応は、組合に対する支配介入であると言わざるを得ず、同条第3号の不当労働行為に該当する。

5 法人が、団体交渉に上部団体が出席することについて、「団体交渉開始の5分前から」「団体交渉終了後の5分後まで」と制限したこと(以下「本件時間制限」)は、労働組合法第7条第3号に当たるか(争点4)
 法人が、組合に対し、学内での会議等を行うことを認めなかったこと(以下「本件学内会議等禁止」)は、労働組合法第7条第3号に当たるか(争点5)

(1)組合は、「①本件時間制限は、組合内部の意思疎通を極度に制限し団結を阻害する行為であり、②本件学内会議等禁止は、組合内部の意思疎通及び意思決定を図る上で大きな障害となっており、組合活動の自由を制限し、団結を阻害する行為である」などと主張するので、以下検討する。

(2)労働組合が当然に法人施設を利用する権利を保障されているとはいえず、利用の必要性が大きいからといって、法人施設を法人の許諾なしに組合活動のために利用し得る権限を取得し、また、法人において利用を受忍する義務を負うとすべき理由はなく、労働組合による法人施設の利用は、本来、団体交渉等による合意に基づいて行われるべき。

(3)これについて、第1回団体交渉で組合が提案した組合の会議への適当な学内施設の貸与について、令和6年6月18日、弁護士B2が「施設管理権を理由に拒否する」旨を伝えたのに対し、執行委員A2が、異議を唱えるなどした事実は認められない。また、同年7月25日、B2が本件時間制限及び本件学内会議等禁止についてA2に電話で伝えたのに対し、A2は明示的に合意したと認められる。
 当該合意に関して、組合は、「団体交渉の遅れへの懸念から、議論を避けて承諾した」と主張する。しかし、少なくともこれらの制限等に係る理由を法人に確認し、必要な意見を述べることなどはできたはずで、法人と交渉する余地が全くなかったとは言い切れない。
 組合は、「当該合意後の団体交渉に関し、①組合会議や上部団体との打合せや法人回答の分析等もできないまま臨まなければならず、このことが団体交渉の進行を一層遅らせた、②法人の回答が団体交渉前日になることが初めから分かっていたら、了承していなかった」などとも主張する。
 しかし、法人からの施設の利用を制限する申出に対し、組合が、自ら交渉等することなく合意し、その後も特段異議を唱えたり、交渉を要求することなどなく当該合意を概ね遵守し、団体交渉を継続している事情の下では、法人による支配介入があったとは断じ得ない。

(4)したがって、その余を判断するまでもなく、本件時間制限及び本件学内会議等禁止をもって直ちに労働組合法第7条第3号の不当労働行為に当たるとは言えない。 

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