労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  岐阜県労委令和6年(不)第1号
不当労働行為審査事件 
申立人  Xユニオン(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和7年11月21日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①令和6年3月29日に開催された組合員A2の割増賃金を議題とする団体交渉(以下「本件団体交渉」)において、組合の質問にその場で回答することなく、後日文書で回答する旨を表明したこと、②A2に対し、岡山県に所在する本社への異動を命令したこと(以下「本件配転命令」)、③A2との間の労働契約を自己都合退職扱いとして終了したこと(以下「本件退職処理」)が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 岐阜県労働委員会は、①について労働組合法第7条第2号、②及び③について同条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)A2の割増賃金に関わる要求を交渉事項とする組合との団体交渉において、組合の要求や主張に対し、会社の主張や回答の根拠を具体的に説明するなどして誠実に応じなければならないこと、(ⅱ)文書交付等を命じるとともに、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、組合員A2の割増賃金に関わる要求を交渉事項とする組合との団体交渉において、組合の要求や主張に対し、会社の主張や回答の根拠を具体的に説明するなどして誠実に応じなければならない。

2 会社は、本命令書写しの受領の日から10日以内に、組合へ次の内容を記載した文書を交付しなければならない。

年 月 日
Xユニオン
 執行委員長 A1様

Y会社        
代表取締役 B1
 当社が貴組合に対して行った以下の行為は、岐阜県労働委員会において、労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為であると認定されました。
 今後再び、以下のような不当労働行為を行わないことを約束いたします。
(1)令和6年3月29日の団体交渉において、Xユニオンの問いに対し、後日文書で回答する旨を表明し、団体交渉において自身の見解を示さなかったこと。

(2)令和6年6月27日付けで組合員A2に対し、岡山県所在の本社への配転を命令したこと。

(3)令和6年7月7日付けで組合員A2との間の労働契約を自己都合退職扱いとして終了したこと。
以上


3 会社は、前項の文書交付義務を履行したときは、速やかに、当委員会に対し、文書でその旨を報告しなければならない。

4 組合のその余の救済申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 本件団体交渉における会社の対応が労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するか否か(争点1)

(1)誠実交渉義務について
 誠実交渉義務は、使用者が労働組合と面談して協議する過程で果たされ得るものであり、面談して協議すべき義務を含んでいるから、書面のみの往復による協議は、使用者と労働組合の合意に基づくものでない限り誠実交渉義務を尽くしたことにはならない。

(2)本件団体交渉について
 会社は、本件団体交渉について、「①会社の立場を事前に書面で提示し、②組合の希望に配慮して会社の出捐により会場を手配しており、会社に本件団体交渉を拒否する意思はなかった」などと主張するが、会社には、実際に団体交渉に応ずるだけでなく、誠実に団体交渉に当たる義務があり、採用できない。
 会社は、①「団体交渉前に組合から具体的な質問事項や資料の徴求がなく、会社として正確を期すため、団体交渉期日に受けた質問について、持ち帰って後日書面で回答したいという意向を説明したにすぎないから、団交拒否にあたらない」、②「各種資料に基づいた正確な回答がなされることなどにより、かえって本件団体交渉が円滑に進む可能性も否定できない」旨主張する。
 しかし、本件団体交渉は、令和5年12月に、組合がA2の割増賃金に関する過去3年分の計算、その明細の提示及び支払を要求事項とする団体交渉を申し入れたことにより開催され、当該要求事項が交渉議題となっており、組合が質問した「A2の労働時間の把握方法」や「A2の労働時間を把握しているか否か」については、その場での回答が十分可能であった。
 これらから、会社の対応は、誠実交渉義務に反し実質的な団交拒否に当たり、「かえって本件団体交渉が円滑に進む」との主張も認められない。

(3)組合が本件団体交渉を打ち切ったことについて

ア 会社は、「本件団体交渉を打ち切ったのは組合であり、本件団体交渉を正当な理由なく拒否していない」旨を主張する。そこで、組合が本件団体交渉を打ち切ったことに、やむを得ない事情があったといえるか否か検討する。

イ 会社は、本件団体交渉の開始から終了に至るまで、組合からのあらゆる質問に対し、何も回答を行わず、「後日書面で回答する」との態度を一貫してとり続けており、誠実交渉義務を果たしていないと評価せざるを得ない。
 組合が、繰り返し、「不誠実であり団体交渉を行う意味がなくなっているのではないか」と指摘した上で、「労使が面談により協議し合意形成に向け努力していく方式にすべき」との趣旨の意見を表明したことに対しても、会社は、従前の対応方針を変えなかった。
 このような会社の対応は、団体交渉の場において面談により実質的な協議を行うことを拒否し、組合との協議により合意形成を模索していく努力を放棄していると言わざるを得ないもので、誠実交渉義務を果たしていないと評価せざるを得ない。
 そして、本件団体交渉の終了間際に、会社は、今後の団体交渉においても、こうした対応を継続する方針を表明している。
 更に、その後に組合が会社に送付した「団体交渉に関わる要請」に対する会社の回答書にも、本件団体交渉における組合の質問に対する回答と評価できるものは全く存在しなかった。
 かかる会社の対応も併せて考慮すれば、組合が、不当労働行為の救済申立てを行うこととして本件団体交渉を打ち切ったことは、やむを得ない事情があったといえる。

(4)以上のとおり、本件団体交渉における会社の対応は、労働組合法第7条第2号が禁止する不当労働行為に当たる。

2 会社が、本件配転命令をしたことが、労働組合法第7条第3号及び第4号の不当労働行為に該当するか否か(争点2-1)

(1)本件配転命令が報復的不利益取扱いに該当するか否か

ア 判断枠組みについて
 会社は、本件配転命令について、「①会社には配転命令権があり、②業務上の必要性があり、不当な動機・目的をもってなされたものでなく、③労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものでなく、④人選の合理性もあるから、配転命令権の濫用とはいえず、有効であり、報復的不利益取扱いには該当しない」旨主張する。
 しかし、本件配転命令が、労働組合法第7条第4号の要件に該当するか否かと、会社の配転命令権の濫用により私法上違法、無効とされるものか否かは別個の問題である。従って、私法上の効力の判断基準を同号の不当労働行為の成否の判断の基準として用いるのは相当とはいえない。
 よって、本件配転命令が報復的不利益取扱いに当たるか否かを判断するに当たっては、①当該命令がA2にとって不利益な取扱いであったか否か、②当該不利益取扱いが組合への報復的な不当労働行為意思に基づくものであるか否かを判断することとする。
 なお、その際に本件配転命令の合理性についても判断する。

イ 本件配転命令の不利益性について
 「生活上の不利益」についてみるに、本件配転命令は、愛知県内の事業所から岡山県内の本社への異動を命ずるもので、通常転居等を伴うことなどから、不利益な取扱いに該当する。
 また、「組合活動上の不利益」についてみるに、①本件配転命令は、組合が、本件団体交渉における会社の対応につき、令和6年6月7日に当委員会に(当初の)不当労働行為救済申立て(以下「先行申立て」)を行った後の6月27日付けで発出されており、②A2は当該申立てに係る審査期日の都度、審査手続への参加が必要になると思われるところ、直接対面での組合との事前打合せ等が極めて困難となると予想されるなど、組合活動上の不利益が生じる。

ウ 本件配転命令に係る不当労働行為意思について
 本件配転命令が、組合への報復的な不当労働行為意思に基づくものであるか否かを検討するに、①先行申立てに至るまでの労使関係について、本件団体交渉における会社の対応を中心にみるに、組合嫌悪の感情やそれに基づく積極的な組合活動妨害の意図は認められず、②業務上の必要性及び人選の合理性が認められ、③本件配転命令の決定日と先行申立てに関する調査開始通知書の受領日が近接してはいるが、仮に先行申立てがなくても同様の決定をしたと推認でき、会社が組合への報復的な不当労働行為意思を有するとはいえないから、当該命令が労働組合法第7条第4号の報復的不利益取扱いに該当するとは認められない。

(2)本件配転命令が支配介入に該当するか否か

ア 組合活動への影響について
 会社は、「オンライン出席などの方法によって、本件申立ての審査や組合との打合せ等への参加が可能であり、支配介入の不当労働行為は成立しない」旨主張するが、組合が、A2の異動前と全く同様の活動を行うことは困難で、一定の制限を受けることから、採用できない。

イ 組合活動への影響に関する会社の認識について
 本件配転命令に伴い、A2の勤務地(岡山市)と組合事務所の所在地(岐阜市)間の距離や公共交通機関での所要時間などから、会社は、当該命令の結果として組合活動が制限されることに係る認識を有していたと推認できる。

ウ (組合の弱体化を直接の目的としていなくても、当該行為が組合の弱体化や運営・活動を妨害する結果をもたらすことを認識しながらあえて当該行為を行おうとする意思があれば、支配介入の要件を満たすと判断されるところ)本件配転命令は、業務上の必要性及び人選の合理性が認められるなど、組合の弱体化を直接の目的としていたとは認められず、また、報復的な不当労働行為意思を有していたとも推認できないが、会社は、本件配転命令の結果として組合活動の制限につながるとの認識を持つなど、支配介入の意思を有していたと推認できるから、本件配転命令は、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に該当する。

(3)救済の利益について
 A2は令和6年9月10日から別の使用者に就職しており、組合は、救済内容として原職復帰を請求していないから、本件配転命令を撤回する救済の利益は存しないというべき。

3 会社が本件退職処理をしたことが、労働組合法第7条第3号及び第4号の不当労働行為に該当するか否か(争点2-2)

(1)本件退職処理が報復的不利益取扱いに該当するか否か

ア 本件退職処理はA2にとって不利益な取扱いであったか否かについて
 会社は、令和6年7月7日付けで、A2との間の労働契約を自己都合退職扱いとして終了しているところ、A2が会社に退職の意思表示をしたのか否かについては労使に争いがある。よって、A2の退職の意思について先行して検討した上で、本件退職処理がA2に対する不利益な取扱いであるか否かを判断する。

(ア)A2が配転後の労務の提供に応じようとしなかったこと
 会社は、「①令和6年7月5日のB1との電話(以下「6.7.5電話」)でのやり取りの中で、A2が配転後の労務の提供に応じようとしなかったこと、②同年7月6日に「7月8日に出社しない場合は、退職の意思表示があったと判断する」旨を伝えていた(以下「6.7.6会社通知」)にもかかわらず、A2が本社に出社しなかったことをもって、自己都合による退職とみなした」旨主張している。
 しかし、A2は、6.7.5電話において退職の意向を示すような発言をしておらず、7月8日は雇用継続のうえ年次有給休暇の取得を望んでいたと認められるから、A2が、6.7.6会社通知前に退職の意思を表明していたとはいえない。
 そうすると、6.7.6会社通知は、A2が雇用の継続を望んでいたにもかかわらず、7月8日に本社に出社することのみを条件として、会社の一方的な意思により、雇用契約を終了させることを予告するもので、実質的な停止条件付き解雇予告通知と解される。しかも、当該通知は、その2日後に異動前の勤務地から陸路で300キロメートル以上離れた本社への出社を命ずるもので、転居を伴い、更にA2は、当該日について有効である可能性のある年次有給休暇の時季指定を行っていたのであるから、客観的な合理性を欠き、社会通念上相当でないことは明らかである。
 従って、会社の主張は採用できない。

(イ)本件退職処理後のA2の対応
 会社は、①A2が会社を退職後、間もなく他社への就労を開始していること、②退職後に年次有給休暇の買取りを打診したこと、③失業保険の申請について問合せをしたことを踏まえても、退職の意思があったことは明らかである旨主張する。
 しかし、これらは、退職後の労働者が、一定の収入を確保することで自身の生計を維持するために、いずれも必要な行為であるといえ、会社の主張は採用できない。

(ウ)以上のとおり、本件退職処理は、A2が雇用の継続を望んでいたにもかかわらず、会社の一方的な意思により雇用関係を終了させたもので、実質的な解雇に相当し、従って、不利益な取扱いといえる。

イ 当該不利益取扱いは、不当労働行為の救済申立てをしたことに対する組合への報復的な不当労働行為意思に基づくものであったか否かについて
 本件配転命令以降の一連の経過をみると、会社は、6.7.5電話の終了時点まで、A2の退職について何ら言及せず、「本社に出勤しない場合は給料を支給しない」旨伝えていたものが、6.7.6会社通知においては、「A2が7月8日に本社に出社しない場合は自己都合退職扱いとする」旨を伝えており、この会社方針の急激な変化は、唐突な印象を受けざるを得ない。
 そこで、改めて経過を子細にみると、6.7.5電話の終了時点においては、A2は、組合に相談して判断することを前提に、本件配転命令に同意するか否かについて態度を保留している。
 〔当該電話において、A2が7月8日の年休取得を申し出、代表B1が時季変更を依頼しているところ〕その後同日に、6.7.5組合申入れ及び有給休暇申請書(以下、併せて「6.7.5組合申入れ等」)が会社あて送信されたが、会社にとって人員不足が大きな懸案になっていた中で、その内容が、本件配転命令の撤回要求という実質的な配転拒否に相当し、時季変更依頼を真っ向から拒否するものであったことから、会社にとっては到底受け入れ難いものであったと思われる。そして、その翌日に6.7.6会社通知が発出されたことからすると、6.7.5組合申入れ等の会社への送信が(雇用関係を継続した上での配転から、配転後の指定日に出社しない場合の自己都合退職処理という)会社の方針転換の直接の原因になったと推認できる。
 更に、会社の立場からすれば、A2が本件配転命令への対応を決めかねていたのに、実質的な異動拒否といえる6.7.5組合申入れ等が送信されたのは、組合が関与したためと認識することは、自然といえることなどから、6.7.6会社通知に際し、会社は反組合的な意思を有していたと推認できる。

ウ よって、本件退職処理は、会社が「本件配転命令に同意するか否かのA2の判断に組合が関与したことが原因となって、同人が異動を拒否した」旨認識したため行ったと推認できる。従って、組合が正当な組合活動をしたことの故による不利益取扱いであると判断する余地はあるものの、組合が当委員会へ不当労働行為の救済申立てをしたことが理由となっているとはいえず、本件退職処理が労働組合法第7条第4号の不当労働行為に該当するとはいえない。

(2)本件退職処理が支配介入に該当するか否か
 本件退職処理は、A2に雇用継続の意向がありながら、会社の一方的な意思により雇用関係を終了させるもので、実質的な解雇に相当する。そして、異動前の勤務地から陸路で300キロメートル以上離れた本社に、指定した日に出社しないことのみを理由として退職扱いとするものであり、客観的な合理性を欠き、社会通念上相当とはいえず、更に、反組合的な意思を有しながら行ったと推認できる。
 また、本件退職処理は、会社に所属していた唯一の組合員であるA2を、結果的に会社から排除するものであり、A2の組合活動を妨げ、組合の弱体化をもたらすことから、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に該当する。

(3)救済の利益について
 本件退職処理は、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に該当する。
 しかし、A2は令和6年9月10日に別の使用者に雇用されており、更に原職復帰を求めていないから、現時点で会社に復帰する見込みはない。
 よって、組合が請求する①本件退職処理をなかったものとして取り扱い、令和6年7月8日から同年9月7日までA2と会社との間で雇用関係が継続していた取扱いとすること及び②同期間にA2が受け取るはずであった賃金相当額等を支払うことが、不当労働行為により損なわれた組合の自主性や団結力及び組織力等を回復させるとは認めがたく、本件退職処理をなかったものとする救済の利益は存しないというべき。

4 以上から、本件団体交渉において、会社が何ら正当な理由なく誠実に応じなかったことは労働組合法第7条第2号に、本件配転命令及び本件退職処理は同条第3号に、それぞれ該当する。
 なお、本件配転命令の撤回及び本件退職処理をなかったものとすること並びにバックペイについては、救済の利益が存しないというべきであるから、これを要しないと判断した。 

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