概要情報
| 事件番号・通称事件名 |
神奈川県労委令和5年(不)第15号
テクノウエーブ不当労働行為審査事件 |
| 申立人 |
X組合(組合) |
| 被申立人 |
Y会社(会社) |
| 命令年月日 |
令和7年8月29日 |
| 命令区分 |
全部救済 |
| 重要度 |
|
| 事件概要 |
本件は、令和5年4月25日に実施された団体交渉における会社の対応及びその後の組合からの団体交渉申入れに対する会社の対応が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
神奈川県労働委員会は、労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、文書交付を命じた。 |
| 命令主文 |
会社は、本命令受領後、速やかに下記の文書を組合に交付しなければならない。
記
貴組合からの令和5年2月21日付け団体交渉申入れに対する、同年4月 25日に実施された団体交渉における当社の対応及びその後の貴組合からの団体交渉申入れに対する当社の対応が、労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為であると、神奈川県労働委員会において認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
令和 年 月 日
X組合
執行委員長 A1殿
Y会社
代表清算人 B |
| 判断の要旨 |
○組合の令和5年2月21日付け要求書(以下「5.2.21要求書」)に対する(3回目の団体交渉(以下「5.4.25団体交渉」)が行われた)同年4月25日以降の会社の対応が、労働組合法第7条第2号に規定される誠実交渉義務に反するものであるか否か。また、かかる会社の対応が、同条第3号に規定される組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。(争点)
1 不当労働行為の成否
(1)使用者は、自己の主張を相手方が理解し、納得することを目指して、誠意をもって団体交渉に当たらなければならず、労働組合の要求及び主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示するなどし、また、結局において労働組合の要求に対し譲歩することができないとしても、その論拠を示して反論するなどの努力をすべき義務があるのであって、合意を求める労働組合の努力に対しては、上記のような誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する義務がある。
(2)組合は、「5.4.25団体交渉以降の会社の一連の対応が、誠実交渉義務に反する」と主張しているので、当該団体交渉における会社の対応と、その後の会社の対応に分けて以下検討する。
ア 5.4.25団体交渉における会社の対応について
5.4.25団体交渉では、売上高の減少状況を解消するための方針及び営業計画の進捗状況に関する事項として、主として「必要なスキルに関する事項」及び「夏季休暇に関する事項」に係るやり取りが行われた。
(ア)必要なスキルに関する事項
会社は、(令和5年4月4日に開催された団体交渉において)組合に対して、必要なスキル(開発レベルのスキル、ネットワークの専門知識、サーバー、PCの専門知識(カスタマーサポートレベル))について確認すると約束している以上、回答を用意する義務があり、その義務は、社内の担当者から回答を得られなかったことのみを理由として免責されるものではない。そして、仮にそのような事情があるならば、代表取締役B自らが、既存の取引先に対して、必要なスキルに関するヒアリングを行う等の対応を取り、期限までに回答を用意するよう努力すべきであったといえるが、そのような対応を行ったことは認められない。したがって、本件における会社の対応は、誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する義務を果たしているとはいえず、誠実交渉義務に反するといえる。
この点、会社は、「必要なスキルに関する事項は、そもそも義務的団体交渉事項に該当しないから、会社が回答しなかったとしても、誠実交渉義務に反することはない」と主張する。しかし、必要なスキルに関する事項は、昇給及び賞与の増額に関する議論が行われる中で、組合からの要求に応じるための前提条件となっていたと評価できる以上、当該事項は義務的団体交渉事項に該当するものと解するのが相当であり、会社の主張は採用できない。
(イ)夏季休暇に関する事項
本件において、会社は、夏季休暇の日数を5日から3日へ変更する根拠として、他の協力会社との足並みをそろえることを挙げている以上、会社には、当該協力会社の夏季休暇の状況について説明することが求められている。
この点、会社は、「他の協力会社の夏季休暇の状況については、会社が調査できるものではない」旨主張する。しかし、仮に調査ができない又は他の協力会社に開示を拒まれるといった事情があったとしても、会社は、組合に対して、その旨を説明すべきであった。そのような対応をせず、組合に対して、「そちらで調べてください」等とのみ回答した会社の対応は、自己の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示するなどの努力を果たしていると評価することはできず、誠実交渉義務に反する。
イ 5.4.25団体交渉後における会社の対応について
いわゆる誠実交渉義務には、団体交渉の日程調整を行う際に、使用者において、団体交渉の議題に応じて合理的な期間内に団体交渉日を設定するよう努力することが含まれる。
一連の団体交渉の議題に、「令和5年の昇給及び賞与に関する事項」が含まれていることを踏まえれば、会社は、速やかに団体交渉を再開する必要があったといえる。そうすると、組合からの団体交渉申入れに対し、代表取締役B自身が、団体交渉に出席して説明及び交渉をすることができないとしても、会社は、他の従業員へ交渉権限を委譲するなり、外部の弁護士等の専門家へ委任するなどの対応を取り、速やかに団体交渉が開催されるよう努めるべきであった。しかし、会社は、組合の1回目(令和5年5月15日付け)、2回目(同月23日付け)及び3回目(同年6月5日付け)の団体交渉申入れに対して、Bが体調不良であることを説明しているものの、その後の団体交渉開催に係る具体的な見通しについては何らの説明もしていない。そして、同年6月20日付けで行われた組合からの4回目の団体交渉申入れに対して、会社は、団体交渉日を4か月以上も先の日付である同年10月31日として回答しているが、前述のとおり、団体交渉の議題に「令和5年の昇給及び賞与に関する事項」が含まれていることを踏まえれば、この日付はあまりに時機を逸したものといわざるを得ない。
したがって、5.4.25団体交渉後における会社の対応は、団体交渉の議題に応じて合理的な期間内に団体交渉日を設定したものとは認められず、誠実交渉義務に反する。
ウ 小括
以上のとおり、5.4.25団体交渉〔及びそれ〕以降の会社の一連の対応は、労働組合法第7条第2号に規定される誠実交渉義務に反するといえる。
(3)また、5.4.25団体交渉〔及びそれ〕以降の会社の一連の対応は誠実交渉義務に反するところ、このような会社の交渉態度は、組合の交渉力に対する組合員の不信を醸成し、組合内部の結束力を弱める効果を招来し得るものであるから、労働組合法第7条第3号に規定される組合の運営に対する支配介入に当たる。
2 救済利益の存否
(1)会社は、会社が令和6年6月20日付けで解散決議をしており、会社と組合員らは退職合意書を作成した上で、同合意書に定めるほかは、何らの債権債務が存在しないことを相互に確認していることを理由として、救済の利益は失われていると主張する。
しかし、会社は、令和6年6月20日付けで解散決議をしてもなお、現在も清算の目的の範囲内で存続している以上、会社が清算を結了するまでの間にあっては、未だ回復すべき集団的労使関係秩序が失われているとまではいえず、それは、会社と組合員との間に退職合意書が締結されていたとしても変わるところではないから、救済の利益は失われたとはいえず、会社の主張は採用できない。
(2)また、会社は、「代表取締役Bの体調不良により、団体交渉の延期を申し入れたことが誠実交渉義務違反に該当するとしても、令和5年10月31日以降に実施したいずれの団体交渉においても、会社は誠実に交渉に応じていることを踏まえれば、正常な集団的労使関係秩序は既に回復しており、救済の利益は失われている」とも主張する。
確かに、令和5年10月31日以降、組合と会社は、合計7回の団体交渉を実施している。しかし、会社は、組合からの昇給及び賞与の増額要求を拒む理由として、会社の解散に伴う退職金の支払い等多額の支出が見込まれる旨を説明してはいるものの、その具体的な金額等については一切説明していないことを踏まえれば、会社による誠実交渉義務が果たされ、正常な集団的労使関係秩序が回復しているとは評価できず、救済の利益が失われたとはいえないから、会社の主張は採用できない。 |