概要情報
| 事件番号・通称事件名 |
福岡県労委令和6年(不)第5号
仰星学園不当労働行為審査事件 |
| 申立人 |
X組合(組合) |
| 被申立人 |
Y学校法人(法人) |
| 命令年月日 |
令和7年11月6日 |
| 命令区分 |
全部救済 |
| 重要度 |
|
| 事件概要 |
本件は、法人が、①組合員A2を解雇したこと、②A2に対し、令和6年度夏期賞与を通常の支給日に支給しなかったこと、③同賞与を何の説明もなく前年度よりも減額して支給したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
福岡県労働委員会は、①について労働組合法第7条第1号及び第3号、②及び③について同条第1号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、(ⅰ)A2に対する解雇の撤回及び原職復帰、(ⅱ)解雇がなければ得られたであろう賃金相当額の支払、(ⅲ)A2に対する令和6年度夏期賞与に係る支給されるべきであった金額と支給済みの金額との差額の支払、(ⅳ)文書の交付及び掲示を命じた。 |
| 命令主文 |
1 法人は、組合の組合員A2に対する令和6年7月7日付け解雇を撤回し、原職に復帰させなければならない。
2 法人は、組合の組合員A2に対し、解雇の日の翌日から原職復帰までの間に同人の解雇がなければ得られたであろう賃金相当額として、月額398,143円を基に算定した金員を支払わなければならない。
3 法人は、組合の組合員A2に対し、令和6年度夏期賞与について同人に支給されるべきであった金額と支給済みの金額との差額として、430,000円を支払わなければならない。
4 法人は、本命令書写しの交付の日から10日以内に、下記内容の文書(A4判)を組合に交付するとともに、A2判の大きさの白紙(縦約60センチメートル、横約42センチメートル)全面に下記内容を明瞭に記載し、法人の事務室の見やすい場所に14日間掲示しなければならない。
令和 年 月 日
X組合
執行委員長 A1殿
Y法人
理事長 B1
当法人が行った下記の行為は、福岡県労働委員会によって労働組合法第7条に該当する不当労働行為と認定されました。
今後このようなことを行わないよう留意します。
記1 貴組合の組合員A2氏を令和6年7月7日付けで解雇したこと。
2 貴組合の組合員A2氏に対し、令和6年度夏期賞与を通常の支給日に支給しなかったこと。
3 貴組合の組合員A2氏に対し、令和6年度夏期賞与を何の説明もなく前年度よりも減額して支給したこと。 |
| 判断の要旨 |
1 法人が、本件解雇を行ったことは、労働組合法7条1号及び3号に該当するか。(争点1)
(1)不当労働行為意思について(本件解雇がA2が組合員であるが故に行われたか否か)
ア 本件解雇の検討開始時期
法人は、「組合から法人に対するA2の組合加入通知(令和6年5月7日)よりも前の令和6年2月中旬には、本件解雇の検討を開始した」と主張する。
しかし、①どのように本件解雇の検討を行ったのか、その方法や内容について法人から疎明がなく、さらに、②法人の主張する本件解雇検討開始時期の前後で、法人が事務局職員へ意見聴取を行ったり、代理人弁護士らへ相談及び解雇の検討依頼等を行ったりした事実もないことから、法人の主張は直ちに採用できない。
イ A2の組合加入通知後の同人に対する法人の対応等
A2の組合加入通知後、法人は同人に対し、令和6年5月10日から22日にかけて、①事務室入口近くにある誰も使っていない席への移動の指示、②A2だけが法人から与えられていた木製の本棚の使用を禁止、③ETCカードを配付されていた2名のうちA2だけに返却を指示、④事務局職員のうちA2だけに理事会への出席及び当日の出勤は必要ない旨を伝達、⑤小口現金及び経理関係資料の取扱い並びに会計システムへのログインの禁止の対応を行った。
法人は、「上記の対応はA2が事務長でなくなったための措置である」と主張する。しかし、A2の事務長解任は令和5年9月25日であったが、なぜ法人は、6年5月7日のA2の組合加入通知直後の同月10日以降に上記措置をとったのか、疎明がない。法人のいうA2が事務長でなくなったための措置としては、対応時期が極めて不自然といえる。
これらから、法人のこうした対応には、法人が主張するものとは異なる意図があり、下記ウに後述することからしても、A2の組合加入に対する報復ないし牽制として、法人が上記の各対応を行ったとみるのが相当である。
また、理事長B1は、①令和6年5月7日のA2の組合加入通知後、運送会社の関係者で労働組合に対応したことがある者に自ら連絡し、街宣車が来ることなどを聞いており、さらに、②同月25日の体育祭終了後、体育科の教職員らに、必要がないにもかかわらず、わざわざA2の組合加入を伝えている。
これらの事情を総合すると、法人は、A2の組合加入に対し、嫌悪感を抱いていたとみられる。
ウ 本件解雇の動機
令和6年5月29日の予備折衝において、A2は、これまでに受けた同僚らによる行為の一部について説明し、「理事長B1の行為が他の職員による差別等を助長させている」と述べ、組合加入通知後に複数の不当労働行為を受けていると主張している。
そして、令和6年6月3日、弁護士B2が理事長B1に予備折衝の経過を報告した際、B1は、A2が予備折衝で述べた内容を聞き、「あの子は嘘ばかり言っている」、「もう置いておけない」と発言し、併せて、解雇通知書の作成をB2に依頼している。
これらからすると、これまで自身の処遇について法人へ抗議の声を上げなかったA2が、正当な組合活動として予備折衝を通じて他の職員の行為や法人の不当労働行為を主張したことに対し、理事長B1は、嫌悪感を抱いていたことが認められる。
加えて、組合は、令和6年6月6日11時27分に、代理人弁護士らの事務所へ団体交渉申入書をファクシミリで送信しているが、このことは、当然同日の15時頃には法人へ出勤していた理事長B1へ伝えられていたと推認される。
その一方で、同日、法人は、弁護士B2が作成した解雇通知書案を了承する旨を回答し、これは理事長B1が了承したものと推認されるところ、この了承から間もないと思われる17時過ぎには、法人は、A2に対し本件解雇を予告している。
これらは、A2の組合加入通知後の経緯や、組合からの団体交渉申入れ当日という本件解雇予告の時期からすると、法人が組合嫌悪の意思をもって本件解雇を行ったからといわざるを得ない。
エ 小括
以上からすると、法人は、これまでA2を解雇することを具体的に検討していなかったものの、A2が組合へ加入したことから嫌悪感を抱き始め、正当な組合活動としての予備折衝に組合員として参加したA2の発言をきっかけとして、同人の解雇を決断したといえる。よって、法人は、A2が組合員であるが故に本件解雇を予告し、同人を解雇したといえる。
オ 本件解雇の理由の存否
法人は、本件解雇には合理的な理由があったと主張するので、念のため以下検討する。
法人が、就業規則第20条第2号「勤務成績又は勤務態度が著しく良くない場合」及び第3号「前二号に規定する場合のほか、その職務に必要な適性を欠く場合」に該当するとした、A2の解雇事由とする事由(以下「本件事由」)は34件である。
うち16件については、法人からこれら事実の存在を認めるに足る疎明はないから、解雇事由に該当する事実があったと直ちに認めることはできない。また、当委員会が認定した事実18件については、いずれも直ちに就業規則第20条第2号及び第3号に該当するとはいえない。
よって、法人の主張は採用できず、したがって、本件解雇に合理的な理由があったとはいえない。
(2)不当労働行為の成否について
以上のとおり、法人が、本件解雇を行ったことは、労働組合法7条1号の不当労働行為に該当する。
また、本件解雇は、法人が、唯一の分会員を解雇することにより組合の影響を法人から排除したものといえるので、併せて同条3号の不当労働行為にも該当する。
2 法人が、A2に対し、令和6年度夏期賞与を通常の支給日に支給しなかったことは、労働組合法7条1号に該当するか。(争点2)
(1)「不利益な取扱い」に当たるか否かについて
A2は、令和6年度夏期賞与について理事長B1による査定の結果支給額ゼロとなり、通常の支給日に同賞与を支給されなかった。
本件において、通常の支給日である令和6年7月15日頃から、A2の催告を受けて再査定が行われ20,000円が支給された同年8月16日までの間、A2は、賞与の不支給という、労働者にとってその生活に直結する最も重要な給与面において経済的な不利益を被ったといえる。よって、法人の行為は、労働組合法7条1号にいう「不利益な取扱い」と認められる。
(2)不当労働行為意思について
ア A2の令和6年度夏期賞与が支給額ゼロとなったことの理由
給与規程には、法人における賞与は、6月1日及び12月1日にそれぞれ在職する職員に対し、学園経営その他事情が許す場合において支給することと定められていた。法人では、この「学園経営その他事情が許す場合」についての具体的な定めはないものの、事務局職員に対する賞与の支給に当たり、理事長による査定を経て支給額が決定されていた。
この点、①A2は令和6年6月1日に在職しており、②他の職員は令和6年度夏期賞与の支給を受けていたことからすると、A2は、令和6年度夏期賞与の支給対象者であったと認められる。なお、過去に、法人において賞与が不支給となった事例はなかった。
法人は、「A2の令和6年度夏期賞与が支給額ゼロとなったのは、同人の勤務態度があまりに悪く査定ができなかったため」と主張するので、まず、この法人の主張に合理的な理由があるといえるのか、以下検討する。
(ア)A2の勤務態度
法人は、あまりにもA2の勤務態度が悪かったとしており、具体的には、仕事をしていなかったなどと主張するが、①いつのどのような状態をもってA2が仕事をしていなかったと法人が判断したのかについては法人から疎明がなく、②A2の勤務態度が悪かったと評価された他の事実も具体的に示されていない。
してみると、法人は、A2が仕事をしていなかったなどとする事実等を客観的かつ具体的に特定し数量的にも把握することなく、同人が仕事をしていなかったなどと主観により決め付けたといわざるを得ない。
(イ)法人における査定の方法
理事長B1は、事務局職員に対する賞与支給の査定に当たり、事務室での自身による直接の目視の結果及び職員からの聴取内容によって評価していたが、①当該査定には客観的な基準はなく、正式な記録すら残されておらず、また、②どのような評価項目が評価できず支給額ゼロとなったのかなど、客観的な評価結果が法人から明らかにされることはなかった。
以上から、法人は、具体的な事実を特定した上でA2の勤務態度が悪かったと評価したとはいい難く、査定ができなかったというよりも、理事長B1が客観的な評価に基づかずA2の令和6年度夏期賞与を支給額ゼロと判断したといえる。
(ウ)支給額ゼロとしたことの相当性
A2の5年度夏期賞与は、前年度夏期賞与から30,000円の減額となった。また、令和6年度夏期賞与は査定の結果支給額ゼロとなったため、結果として前年度夏期賞与から450,000円の減額となった。
A2の令和6年度夏期賞与の査定において、本件解雇事由を考慮していたとしても、上記4年度夏期賞与から5年度夏期賞与の支給減額程度にとどまらず支給額ゼロとなるほど、A2の言動に問題があったとはいい難い。
したがって、A2の令和6年度夏期賞与の査定に当たって、本件事由が考慮されたとしても、支給額ゼロとされたことについては、相当性に欠けるといわざるを得ない。
(エ)結論
以上を併せ考えると、法人が、A2の令和6年度夏期賞与の支給に関し、支給額ゼロとしたことについて、A2の勤務態度が悪く査定ができなかったことは、合理的な理由とはいえない。
イ 不当労働行為意思を推認させる事情
上記1で判断したとおり、本件解雇は、法人の不当労働行為意思により行われた、労働組合法7条1号の不当労働行為に該当する。
本件解雇を予告する、A2に対する令和6年6月6日付け解雇通知も、当然に法人の不当労働行為意思に基づくものであるといえる中、この解雇通知に極めて近接した同月15日頃に行われた令和6年度夏期賞与に係る査定において、法人がA2の令和6年度夏期賞与を支給額ゼロとしたことが、不当労働行為意思に基づかなかったとする事情は見当たらない。
さらに、A2の組合加入通知後の法人の対応等から、法人はA2の組合加入に対し嫌悪感を抱いていたことからも、法人は、A2が組合員であるが故に同人の令和6年度夏期賞与を支給額ゼロとしたとみるのが相当である。
(3)不当労働行為の成否について
以上のとおり、法人が、A2に対し、令和6年度夏期賞与を通常の支給日に支給しなかったことは、労働組合法7条1号の不当労働行為に該当する。
3 法人が、A2に対し、令和6年度夏期賞与を何の説明もなく前年度よりも減額して支給したことは、労働組合法7条1号に該当するか。(争点3)
(1)「不利益な取扱い」に当たるか否かについて
A2は、4年度夏期賞与は480,000円、5年度夏期賞与は450,000円の支給を受けた中で、何の説明もないまま令和6年度夏期賞与の支給額は20,000円となったのであるから、給与面における経済的な不利益を被ったといえる。
よって、法人が、A2に対し、令和6年度夏期賞与を何の説明もなく前年度よりも減額して支給したことは、労働組合法7条1号にいう「不利益な取扱い」と認められる。
(2)不当労働行為意思について
ア 法人がA2の令和6年度夏期賞与を前年度よりも減額したことの理由
(ア) 法人は、「A2の令和6年度夏期賞与を前年度よりも減額したのは、A2から催告書が提出され、やむを得ず最低限の査定を行い、令和6年度夏期賞与20,000円を支給するに至ったため」と主張するので、この主張に合理的な理由があるか検討する。
法人は、「A2の仕事量、進捗状況、勤務態度等を総合的に評価して査定を行った結果である」と主張する。
しかし、法人はもともとA2の令和6年度夏期賞与を支給額ゼロとしていたのであるが、なぜ再度査定をすると20,000円の支給額となるのか、再査定のきっかけがA2からの催告という点からしても、極めて不自然といわざるを得ない。法人からも、当初と異なる手法や基準を用いて査定したのか、疎明はない。
また、A2が、法人に対し令和6年度夏期賞与支給の催告を行ったのは、労基署へ相談した結果、A2は同賞与の支給要件を満たしているので内容証明付きで催告を行うよう助言を受けたためである。そうして法人へ提出されたA2からの催告書には、夏期賞与の支給がない場合は労基署へ通告等の措置をとること等が記載されていた。
また、A2の令和6年度夏期賞与については、理事長B1が客観的な評価に基づかず支給額ゼロと判断したものである。
これらを併せ考えると、法人は、A2へ令和6年度夏期賞与を支給しなかったことに違法性があるかもしれないと考え、労基署の介入を避けるために、とりあえず支給額を20,000円としたものといわざるを得ない。
(イ)さらに、過去に、法人において職員の賞与を減額した事例があるが、これは教職員の事例であって、A2を含む事務局職員とは賞与査定の方法が異なっている。
この事例では、始末書提出事案と業務指示不服従という、明らかな非違行為を理由としていることが認められ、前年度から85,000円の減額支給となっている。
これらからすると、上記の過去の賞与減額事例と比較しても、査定方法が異なるとはいえ、明らかにA2の夏期賞与の前年度支給額からの減額規模の方が大きく、相当性を見出し難い。
以上を併せ考えると、法人の行為については、客観的な評価に基づいていたとはいえず、合理的な理由がないといえる。
イ 不当労働行為意思を推認させる事情
①A2の組合加入通知後における法人のA2に対する対応等から、法人がA2の組合加入に対し嫌悪感を抱いていたことが認められ、②上記1及び2でみたとおり、法人が本件解雇を行ったこと及びA2に対し令和6年度夏期賞与を通常の支給日に支給しなかったことは、不当労働行為に該当し、さらに、③上記の不当労働行為と法人がA2に対し令和6年度夏期賞与を前年度よりも減額して支給した行為との時期が近接しており、この間の労使関係に特段の変化は認められないことからすると、法人の行為が不当労働行為意思に基づかなかったとする事情は見当たらない。
(3)不当労働行為の成否について
以上のとおり、法人が、A2に対し、令和6年度夏期賞与を何の説明もなく前年度よりも減額して支給したことは、労働組合法7条1号の不当労働行為に該当する。 |
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