概要情報
| 事件番号・通称事件名 |
千葉県労委令和4年(不)第6号
日本航運不当労働行為審査事件 |
| 申立人 |
X組合(組合) |
| 被申立人 |
Y会社(会社) |
| 命令年月日 |
令和7年9月16日 |
| 命令区分 |
棄却 |
| 重要度 |
|
| 事件概要 |
本件は、会社が組合員Aを解雇したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
千葉県労働委員会は、申立てを棄却した。 |
| 命令主文 |
本件申立てを棄却する。 |
| 判断の要旨 |
○会社が、令和4年8月31日をもって、組合員Aを解雇したことは、労働組合法第7条第1号の不当労働行為(労働組合の組合員であることを理由とする不利益取扱い)に該当するか。(争点)
組合員Aが組合員であることに争いはなく、また、解雇が労働者にとって不利益であることは自明であるため、組合員Aが「組合員であることの故をもって」解雇されたのかが論点となる。
1 会社が、組合員Aが組合員である事実を認識した時点について
会社は、令和4年8月22日付けの組合員通知を8月23日に受領し、8月25日付けで組合員Aに対し解雇通知書を交付している。
会社がAの解雇を決定した時点で、Aが組合員であることの認識がなければ、不当労働行為意思を持つことはなく、「組合員であることの故をもって」の解雇には該当しないことから、まず、会社がAが組合員である事実を認識した時点について判断する。
(1)M営業所の所長B1が同年8月23日に組合員通知を受領し管理部長B2に報告したことなどから、会社は、組合員通知を受領した同日には、Aが組合員である事実の認識があったと認められる。
(2)会社が同年8月23日よりも前にAが組合員である事実を認識していたかについて、組合は、「Aがアンケート用紙に組合勧誘の付箋を貼り付け、同年8月に署名活動と並行して組合勧誘活動を行っていたため、会社は組合員通知の受領以前から組合員であることに気づいていた」旨主張する。しかし、署名活動の際にアンケート用紙に組合勧誘の付箋が貼られていたと認めるに足りる証拠はないことなどから、組合の主張は採用できない。
(3)以上より、会社が同年8月23日より前にAが組合員である事実を認識していたとはいえず、会社は、組合員通知を受領した同日に組合員Aが組合員である事実を初めて認識したものと認められる。
2 会社の不当労働行為意思について
次に、会社が組合員Aを「組合員の故をもって」解雇したかどうかについて判断する。
(1)組合員通知の受領前の解雇意思について
まず、上記1の時点、すなわち令和4年8月23日より前に解雇を決定していたのであれば、「組合員の故をもって」解雇したとはいえないのであるから、以下検討する。
ア Aの勤務態度や業務遂行能力(以下「勤務態度等」という。)について、会社に入社してからの経過は、以下のとおりである。
①会社は、Aの入社から1か月を過ぎた同年7月頃から、組合員Aの勤務態度等に問題があると考えていた。
②会社は、Aに対し同年8月5日に勤務態度等への改善指導を行ったが、Aは指導内容に納得していなかった。
③同年8月5日に会社が作成したAの評価票には、「全くできていない」ことを表す「×」評価が4つあった。また、評価票には、「再教育を行うため、試用期間を1か月延長し、本採用をするかどうかを見極めたい」旨の記載がされていた。
④Aは、同年8月9日にも、指導内容に納得していない旨をM営業所従業員B3に伝えていた。
イ 次に、会社が同年8月15日にAに手交した試用期間延長通知には、「延長期間中において貴職に改善が認められない場合には、貴職との雇用契約は自動的に終了することとなります。」と記載されていた。
ウ さらに、会社が同年8月22日に作成した「社員Aについて」と題する書面には、①Aが同年8月5日や15日の面談時の改善指導に対し威圧的に反論していたこと、②試用期間の延長に合意しなかったこと、③8月18日に指導書を手交した際に所長の話を十分に聞かず大きな声で反抗し、声を荒らげるなどの行為を行ったことにより、他の従業員が怖くなって震えていたこと及び④指導書に署名をしなかったこと等が記録されていた。
エ これらの事情から、会社は、同年8月15日及び18日の時点では、(入社日である6月1日から3か月間の)試用期間を9月30日まで延長し、Aの勤務態度等が改善されない場合には、同日をもって解雇する意思を有していたことが認められる。
また、一方で、同年8月5日以降、会社は、Aが会社の指導に従わず、勤務態度等に改善が見られないと認識していたことが認められる。
なお、Aが試用期間延長通知への署名を拒否したことから、試用期間延長の合意が成立していたとはいえない。
オ 客観的にみて、業務に係る改善指導に納得せず、再三指導を行っても改善に向けて努力する様子が見られない従業員について、使用者が、試用期間の満了後に本採用はできないと考えたことは相当性があると認められる。
カ 以上を踏まえて総合的に判断すると、会社は、Aの勤務態度等を理由として本採用しないことを、遅くとも組合員通知の受領前の同年8月22日までには、事実上決定していたことが推認できる。
キ また、組合は、「会社の主張する解雇理由は、不当労行為意思に基づく不当な解雇を正当化するためのものであり、事実の確認もあいまいで噂レベルのものばかりである」旨主張するが、解雇通知書に記載された解雇理由は、同年8月15日に試用期間延長通知書を手交した際に口頭で指導した内容及び8月18日の指導書に記載されていた内容を踏まえて記載されており、組合員通知受領(8月23日)後に不当な解雇を正当化するためになされたものとはいえない。
(2)組合員通知の受領後の反組合的意図ないし動機について
会社は、Aの勤務態度等の改善が見られないため、遅くとも組合員通知の受領前の同年8月22日までには、解雇を事実上決定していたことが推認できる。
しかし、会社は組合員通知の受領後に当初の試用期間満了日である同年8月31日をもって解雇することを8月25日にAに通知しており、組合員通知と解雇通知とが時間的に近接している。また、組合は、「会社が通知の受領から一転して試用期間の延長を撤回し解雇を強行した」旨を主張する。
このため、組合員通知の受領後に反組合的意図ないし動機が生じ、そのことが原因となってAを当初の試用期間の満了をもって解雇したのか、以下判断する。
ア 会社は、組合員通知を受領した後、弁護士B4に、組合員通知が届いた旨及び今後の対応について相談する旨のメールを送信した。これを受け、B4は、「試用期間の延長の有効性を争われる可能性があることから、当初の試用期間内に最終的な判断をすることも考える必要があると思う」旨会社に返答した。
この点、組合は、「会社が弁護士B4の助言を受けて不当労働行為意思が強化され、試用期間の延長を撤回し解雇を強行した」旨主張する。
しかし、会社が弁護士から受けた上記助言は、「Aが試用期間の延長に同意していないため、会社が一方的に試用期間延長を行うことはできず、当初の試用期間内に最終的な判断をすることも考える必要があると思う」旨伝えたものと認められる。
よって、弁護士B4の助言を受けて不当労働行為意思が強化されたとの組合の主張は採用できない。
イ 同年8月15日のAとの面談において、所長B1は、「Aが勤務態度等を改善すれば、本採用して一緒にやっていきたい」旨を伝えている。
この点、組合は、「会社は組合員通知を受領する前は、Aに、試用期間の延長は解雇を目的としたものではないと説明していたにもかかわらず、組合員通知を受けて一転して試用期間の延長を撤回し解雇を強行した」旨主張する。
しかし、所長B1の陳述書には、「Aに対し、本採用の可能性を完全には排除しない旨を伝えた理由は、『解雇』という言葉を使うと、Aが他の従業員に『自分は解雇されるんだ』と言いふらし、社内環境を悪化させる可能性が極めて高かったからである」と記されている。
また、同年8月18日におけるAと会社のやり取りの中で、Aが、「自分は会社を解雇されようとしている」旨述べていることから、A自身も、解雇される可能性を認識しており、解雇されることを全く予期していなかったとはいえない。
これらの事情から、会社は、Aとのトラブルを避けるために伝え方に留意しながらAに対する説明を行ったと認められ、会社が、Aの勤務態度等が改善されない場合には解雇することを前提として試用期間の延長を提案したことと、Aに対して「試用期間の延長は、解雇を目的としたものではない」と説明したこととは矛盾するものではない。
よって、「会社が組合員通知を受けて一転して試用期間の延長を撤回し解雇を強行した」旨の組合の主張は採用できない。
ウ 以上より、Aを当初の試用期間満了である同年8月31日をもって解雇したのは、Aについて事実上解雇を決定していた会社が、弁護士の助言を受けたことによるものであって、組合員通知の受領後に反組合的意図ないし動機が生じたためであるとは認められない。
なお、会社が組合員通知を受領してから解雇を行うまでの期間が2日程度と短期間であり、その間に目立った組合活動もなく、組合嫌悪があったという立証もないことから、この期間に会社が一挙に組合嫌悪を醸成したとは認められない。
(3)小括
上記を総合的に判断すると、会社は、Aについて勤務態度等に改善が見られないことから、解雇することを遅くとも同年8月22日までには事実上決定しており、また、その後反組合的意図または動機が生じたことにより解雇したものとは認められない。
よって、会社が組合員Aを「組合員の故をもって」解雇したとは認められない。
3 これらから、会社が組合員Aを解雇したことは、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に該当しない。 |
|