労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  岐阜県労委令和6年(不)第6号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和7年11月6日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①組合員A2の2024年夏季賞与の支給等を議題とする団体交渉における会社の対応、②会社が、執行委員長A1が出席する団体交渉を拒否したこと、③組合に対し、A1以外の者を団体交渉の交渉担当者として団体交渉を申し入れるよう要求したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 岐阜県労働委員会は、①及び②について労働組合法第7条第2号、③について同条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)組合が申し入れた団体交渉への応諾、(ⅱ)組合が申し入れた団体交渉要求の項目のうち、「2024年夏季一時金(賞与)の件」について、会社の主張や回答の根拠を具体的に説明するなどして誠実に応じなければならないこと、(ⅲ)組合との団体交渉において、A1の出席を拒否し、交渉担当者の交代を求めるなど、組合の運営に支配介入してはならないこと、(ⅳ)文書交付等を命じた。 
命令主文  1 会社は、組合が令和6年10月9日及び同月15日付け書面で申し入れた団体交渉に応じなければならない。

2 会社は、組合が令和6年7月22日付けで申し入れた団体交渉要求の項目のうち、「2024年夏季一時金(賞与)の件」について、会社の主張や回答の根拠を具体的に説明するなどして誠実に応じなければならない。

3 会社は、組合との団体交渉において、A1執行委員長の出席を拒否し、交渉担当者の交代を求めるなど、組合の運営に支配介入してはならない。

4 会社は、本命令書写しの受領の日から10日以内に、組合に対して、下記の内容の文書を交付しなければならない。
 年 月 日
X組合
 執行委員長 A1様
Y会社        
代表取締役 B1
 当社が貴組合との団体交渉において、A1執行委員長が出席する団体交渉を拒否したこと等が、岐阜県労働委員会において、労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為であると認定されました。
 今後は、貴組合との団体交渉を誠実に行うとともに、不当労働行為を二度と繰り返さないことを誓約いたします。
以上

5 会社は、前項の文書交付義務を履行したときは、速やかに当委員会に対し、文書でその旨を報告しなければならない。 
判断の要旨  1 組合員A2の夏季賞与を議題とする第1回ないし第3回団体交渉における会社の対応が、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するか否か(争点1)

 組合は、夏季賞与を議題とする第1回ないし第3回団体交渉における会社の対応について、「組合からの質問に対し相手方の質問を聞くだけにして回答をしようとしない態度であったこと、ほかの従業員には夏季賞与を支給しているのに組合員A2のみ支給しないことについて明確な説明をしないことなどが、誠実交渉義務に違反している」と主張するので、以下検討する。

(1)第1回団体交渉について

ア 第1回団体交渉では、代表B1が弁護士B2からの「今回は回答しないようにして、後日回答する。」との指示に従い、組合からの質問等には答えられないとの姿勢を示し、交渉議題のうち「A2に対する時間外賃金に関する件」に関連して組合が質問した「労働時間の管理方法」についての回答を拒否し、もう一つの議題となっていた「2024年夏季一時金(賞与)の件」について、何ら具体的な交渉がなされなかった。
 これについて、組合は、「一切の質問を聞くだけにして回答しないようにとの弁護士B2の指示は、誠実交渉義務違反である」と主張する。

イ この点、弁護士B2の指示は、団体交渉に不慣れな代表B1が、経験豊富な組合を相手に1人で団体交渉に臨まなければならない状況におかれることが予想されるために、自身が出席できない第1回団体交渉に限ってなされたことを鑑みると、適切さを欠くものではない。また、代表B1が、自身が相談した弁護士B2の指示に沿った対応をすることも、経営者の判断として理解できなくはない。
 もっとも、会社には、合意を求める組合の努力に対し、誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する義務があるので、弁護士B2の指示を受けて組合との交渉に臨んだ代表B1が、誠実交渉義務を果たしていたかどうか検討する。

ウ まず、代表B1は、交渉の席で、回答できる質問であるかどうかの判断を保留しつつ、回答しない理由を、「今日は質問を聞くだけにして、聞かれたことに答えなくて良いと弁護士から指示を受けているためである」と明らかにしたうえで、回答できると判断したことには答える姿勢を示し、A1委員長の説明や質問を聞き分けて回答するなどしていた。
 このような代表B1の態度については、同代表が初めて団体交渉に出席したこと、次回以降、弁護士B2の同席を求めて団体交渉を継続する余地があったことに鑑みれば、この日をもって、合意達成の可能性を模索する態度がみられないとか、適切さを欠くとまではいえない。

エ 次に、事実関係の質問である「労働時間の管理方法」への対応について、代表B1は、第1回団体交渉において回答可能であった事項も含め回答しなかった。
 この点、回答できない理由を説明したうえで後日回答するなどの対応も可能であったと考えられ、代表B1には合意達成に向けた努力が不足している点がみられなくもないが、そのような対応をすべきであったとも言い難く、直ちに誠実交渉義務違反とはいえない。

(2)夏季賞与を支給しない理由について

 会社は、第2回団体交渉後、A2への夏季賞与及び時間外賃金(以下「夏季賞与等」)の支払を求める組合からの要求に対し、「同組合員の勤務時間の中に不就労の時間があるなど勤務態度に問題があったのではないか」との疑問を抱き、同組合員の夏季賞与等の査定及び積算等をするに当たり、同組合員の勤務実態を確認するため使用していたパソコンのデータ(インターネットのアクセス履歴等)の復元を試みている。
 その後開催された第3回団体交渉において、A2の夏季賞与が支払われていない理由に関する組合からの質問に対し、会社は「査定が終わっていないから払えない」と説明し、パソコンのデータ復元に関する説明をしていない。更に、夏季賞与の査定期間に関する質問に対しても、代表B1は、「覚えていない。」などと曖昧な回答をするに留まっている。
 しかし、会社には、自らの主張を相手方が理解し、納得することを目指して、誠意をもって団体交渉に当たるべき義務がある。したがって、会社は、第2回団体交渉で決定した夏季賞与等の積算期限を延長することとなった要因について、パソコンデータの復元結果を組合に説明し、併せて今後の査定方針や支給可否の検討状況など、自らの主張に関する論拠を示すなどして、会社が夏季賞与を支払うことができない理由を具体的に説明する必要があった。

(3)パソコンデータの復元について

ア 会社は、第3回団体交渉の状況について、「交渉ではなくもはや喧嘩となっており、A2のパソコンデータの復元が不可能であると判明した事実について、説明するような状況ではなかった」旨主張している。
 そこで、当該交渉全体を通してみるに、労使双方がそれぞれ、相手側に不適切な交渉態度がみられるとの認識を持ち、互いの認識を前提として交渉に臨んでおり、冷静さを欠く態度がみられるものの、「もはや喧嘩となって」いたというものではない。労使の交渉等において、互いの認識の相違等により硬直的な姿勢が続くなどして、解決の方向性を見出し得なくなる時期が生じることもあり得るのであり、団体交渉による解決が困難になっていたというものでもない。
 また、時間外賃金の支払を訴訟で解決することで合意に至った経緯についても、両者に考え方の相違がみられ、話合いによる解決が困難になったとの認識を共にしているものでもない。
 従って、会社の主張を採用することはできず、会社には組合と誠実に団体交渉に当たる義務があった。

イ 会社は、組合から支払を求められた夏季賞与について、令和6年9月中下旬にはA2のパソコンデータの復元が不可能との認識に至っていたものの、同年10月1日に開催した第3回団体交渉において、このことを組合に説明しておらず、組合は、「重要な情報を隠蔽することになる会社の対応が、誠実交渉義務違反である」と主張する。
 そこで、夏季賞与の支払を議題とする労使交渉の経緯をみるに、不就労の確認調査に関し、データの復元が不可能になったとの認識を同代表があえて隠蔽しようとする意図はうかがえず、このことをもって直ちに誠実交渉義務違反であるとはいえない。
 しかし、①第3回団体交渉の時点で、ほかの従業員には査定をして夏季賞与の支払を済ませているにもかかわらず、A2のみ支払が遅滞していたこと、②データの復元が不可能であると判明した時点で査定を困難とする状況ではなくなっていたことを鑑みれば、代表B1は、データの復元が困難となった状況を組合に説明するなどして、夏季賞与の支給に関する議題に誠実に対応すべきものであった。

(4)以上のとおり、会社の一連の対応からは、誠意をもって説明し、組合を納得させようとする姿勢をうかがうことができず、A2に対し夏季賞与を支給していない理由についても何ら具体的な説明がなされていないことから、会社が組合との合意形成に向けて努力する意思があったとは認めがたい。よって、夏季賞与の支給を議題とする団体交渉における会社の一連の対応は、不誠実であったと言わざるを得ず、誠実交渉義務に反していることから、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。

2 会社が、委員長A1が出席する団体交渉を拒否したことが、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するか否か(争点2)

 会社は、「委員長A1の不適切な交渉態度によって正常な団体交渉を行うことができず、今後についても同委員長との団体交渉では問題解決が不可能と判断した」として、同委員長との団体交渉を拒否し、交渉担当者の変更を申し入れた。
 会社は、「組合との団体交渉を拒否し、あるいは交渉担当者の変更を求めたのは、第1回団体交渉及び第3回団体交渉における委員長A1の交渉態度が不適切であり、交渉担当者としての適格性を有しないのであるから、正当な理由がある」と主張するので、以下検討する。

(1)第1回団体交渉での態様

ア 代表B1へ執拗に質問を続けたとの主張について
 第1回団体交渉では、委員長A1が組合員A2への時間外賃金等の支払要求に関連し、労働時間の管理方法や未払理由等について質問し、これに代表B1が、「弁護士の指示に従い、回答することができない」旨の回答を何度も繰り返している。そして、委員長A1が、代表B1が弁護士から受けた指示の内容を確認したところ、同代表は「今日聞かれたことに対しては答えなくていい、答えないでくださいというふうに止められてるので。」などと回答した。
 会社は、「弁護士B2の当該指示を委員長A1が尊重すべきであるにもかかわらず、それを無視して執拗に質問を続けていることから、同委員長の交渉態度は不適切であり、交渉担当者としての適格性を欠くものである」旨主張している。
 しかし、代表B1が、弁護士B2からの指示を受けて、交渉の場でいかに対応するかについては、会社の最高経営責任者である同代表が、自身で判断することである。また、委員長A1が、弁護士B2による指示を受けた代表B1を相手方として、いかに対応するかについては、同委員長がその場で判断することであり、同弁護士の指示を必ずしも尊重しなければならないものではない。
 また、委員長A1の質問内容についても、①第1回団体交渉の議題であったA2への時間外賃金等の支払要求に関連した労働時間の管理方法、②過去の同組合員に対する時間外賃金支払の有無及び未払の理由、更には③代表B1が今日聞かれたことに対しては答えられないという態度を示した理由に関連するものであり、これに同代表が自らの判断で、答えられることには答える姿勢を示していたのであるから、特段大きな問題は認められない。
 以上により、会社の主張は採用できない。

イ 不当労働行為、裁判、労働基準監督署と述べたことについて
 会社は、「第1回団体交渉における代表B1の対応は、不当労働行為に該当するケースでないのにもかかわらず、回答を強要するために『不当労働行為』、『裁判』、『労働基準監督署』との言葉を使っていることから、委員長A1の交渉態度は不適切であり、交渉担当者としての適格性を欠くものである」旨主張する。
 まず「不当労働行為」という言葉について、委員長A1は、A2への時間外賃金が支払われていない理由を質問しても、代表B1が回答を拒むことが、不当労働行為に該当すると評価して、このことを同代表に指摘したものと認められ、会社からの回答を強要するために「不当労働行為」という言葉を使ったとは認められない。
 また、「裁判」及び「労働基準監督署」という言葉については、委員長A1が、A2への時間外賃金の未払について、労働基準法の規定に抵触するおそれがあることを指摘したうえで、会社の対応如何によっては、組合として裁判所への提訴や労働基準監督署への通報などを行わざる得なくなることについて代表B1に認識させ、会社側の頑なな態度を改めさせることを意図したものと認められ、組合が会社からの回答を強要したものとは認められない。
 よって、会社の主張は採用できない。

(2)第3回団体交渉での態様

ア 委員長A1が喧嘩腰であったとの主張について

(ア)会社は、「第3回団体交渉が開始して間もなく、委員長A1が喧嘩腰になり、このように不必要な攻撃的態度をとることが、交渉担当者としての適格性を有しないことは明らかである」旨主張している。
 そこで検討するに、会社が、委員長A1が喧嘩腰になったと主張する部分の主なやり取りにおいて、同委員長が大声で威嚇する、机を叩くなどの暴力的な言動を行った様子は認められない。また、人格の否定や誹謗中傷に当たるような発言もなく、委員長A1の「話合いに来た。」との発言もあることから、同委員長が喧嘩腰になったとの会社の主張は認められない。
 ところで、利害が大きく対立する関係にある労使の交渉等においては、ある程度厳しい応酬や交渉態度が出現することもやむを得ないというべきである。その一方で、団体交渉において、労働組合が暴力を行使したり、使用者側の出席者を脅迫、監禁したりするなどの態様に至った場合や将来行われる団体交渉においても同様の行為が続く可能性がある場合には、労働組合が当該行為をしない旨を約束しない限り、使用者側が団体交渉を拒否しても正当な行為であると認められることもある。しかし、第3回団体交渉において、組合がこのような態様に至ったとは認められず、委員長A1が喧嘩腰になった行為も認められず、団体交渉の継続が困難となるような支障が生じたとも認められない。よって、会社の主張は採用できない。

(イ)また、会社は、「委員長A1と代表B1が喧嘩となり、交渉で問題を解決できるような状態ではなくなった」旨主張している。
 第3回団体交渉の状況については、労使双方がそれぞれ相手側に不適切な交渉態度がみられるとの認識を持ちながら交渉に臨んでいるために、冷静さを欠く態度がみられるものの、会社が主張する「もはや喧嘩となって」いたというものでもない。よって、会社の主張は採用できない。

イ 訴訟による解決とすることを決定した後の対応について
 会社は、「訴訟による解決を図るとの方向性が決まった後も、委員長A1が時間外賃金に関する質問を続けたことは、不適切な交渉態度であり、交渉担当者としての適格性を有しないことを示すものである」旨主張している。
 しかし、本件のように、訴訟による解決とすることを合意した場合や、仮に訴訟が係属中であったとしても、組合員の賃金その他待遇の争いについて、労使双方が自主的に団体交渉で解決を図ることは可能であり、労使の自主交渉によって、争いが解決されることが望ましいというべきである。また、会社には、団体交渉に応じる義務があるのだから、訴訟による解決に合意したことを理由として、直ちに団体交渉を拒否したり、形式的に行ったりするのではなく、誠実に対応すべきである。
 よって、会社の主張は採用できない。

(3)これらから、同委員長が出席する団体交渉を拒否したことは、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。

3 会社が、令和6年10月10日付けで、委員長A1以外の者を交渉担当者として団体交渉を申し入れるように要求したことが、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に該当するか否か(争点3)

(1)支配介入の意思について
 支配介入の要件として、支配介入の意思を要するか否かについては、学説上の争いがあるが、当委員会としては、組合の弱体化を直接の目的としていなくても、当該行為が組合の弱体化や運営・活動を妨害する結果をもたらすことを認識していながらあえて当該行為を行おうとする意思があれば、この要件を満たすものと判断する。
 この点、会社は、同委員長が組合代表者の地位にあり、団体交渉の経験が複数あることを認識していることから、組合の代表者である同委員長を交渉担当から外すことは、団体交渉における組合の交渉能力を低下させ、ひいては組合の弱体化に繋がることも当然認識していたと認めるのが相当であり、会社は組合に対する支配介入の意思を有していたものと推認できる。
 また、会社が、委員長A1との団体交渉を拒否したことは、積極的に同委員長を団体交渉から排除しようとするものであって、会社に反組合的意図があったと認めざるを得ない。

(2)交渉担当者の変更を申し出る行為について
 そもそも、誰を組合の交渉担当者として選任するかは、組合の固有の内部手続によるものである。正当になされた組合の交渉担当者の選任について、使用者側である会社が介入できるものではなく、このような会社の介入は、これに正当な理由がない限り、組合の運営に対する支配介入となる。とりわけ、組合の執行委員長である交渉担当者の人選に介入することは、組合活動への妨害にほかならず、支配介入そのものである。

(3)これらから、会社が、委員長A1以外の者を交渉担当者として団体交渉を申し入れるように要求したことは、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に該当する。 

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