概要情報
| 事件番号・通称事件名 |
大阪府労委令和5年(不)第74号
不当労働行為審査事件 |
| 申立人 |
X組合(組合) |
| 被申立人 |
Y会社(会社) |
| 命令年月日 |
令和7年10月3日 |
| 命令区分 |
一部救済 |
| 重要度 |
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| 事件概要 |
本件は、会社による①春闘賃上げに関する団体交渉における対応、②組合の支部長に対して、正しく計算した賃金を払わなかったこと、③管理職3名の支部長に対する言動、④賃上げ及び一時金に関する協定書を締結しなかったこと、がそれぞれ不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
大阪府労働委員会は、①について労働組合法第7条第2号、②及び③の一部について同条第1号及び3号、④について同条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対して誠実団交応諾及び文書手交を命じ、その他の申立てを棄却した。
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| 命令主文 |
1 会社は、令和5年2月1日付けで組合から申入れのあった令和5年春闘賃上げに関する団体交渉に、誠実に応じなければならない。
2 会社は組合に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。
記
年 月 日
X組合
執行委員長 A1 様
Y会社
代表取締役 B1
当社が行った下記の行為は、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
記
(1) 令和5年6月13日の団体交渉において、令和5年春闘賃上げに関する協議に誠実に応じなかったこと(2号該当)。
(2) 令和5年6月13日の団体交渉において、同年3月24日付け和解協定書に違反する行為を行ったこと(3号該当)。
(3) 令和5年10月25日まで貴組合員A2氏に対し、正しく計算した未払賃金を支払わなかったこと(1号及び3号該当)。
(4) 令和5年9月27日における、当社管理職3名の貴組合員A2氏に対する言動(1号及び3号該当)。
(5) 令和3年及び同4年の賃上げに関する協定書並びに同5年夏季一時金及び同年冬季一時金に関する協定書を締結しなかったこと(3号該当)。
3 組合のその他の申立てを棄却する。
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| 判断の要旨 |
1 本件の争点は次のとおりである。
(1) 令和5年3月3日、同年5月23日及び同年6月13日の団体交渉における会社の対応は、不誠実団体交渉に当たるか。(争点1)
(2) 令和5年3月3日、同年5月23日及び同年6月13日の団体交渉における会社の対応は、組合に対する支配介入に当たるか。(争点2)
(3) 会社が、令和5年10月25日まで組合の支部長であるA2に対して、正しく計算した賃金を支払わなかったことは、組合員であるが故の不利益取扱い及び不当労働行為救済申立てを行ったことを理由とする不利益取扱いに当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるか。(争点3)
(4) 令和5年9月27日における、会社管理職3名によるA2に対する言動は、組合員であるが故の不利益取扱い及び不当労働行為救済申立てを行ったことを理由とする不利益取扱いに当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるか。(争点4)
(5) 令和3年及び同4年の賃上げに関する協定書並びに同5年夏季一時金及び同年冬季一時金に関する協定書が締結されなかったことは、組合に対する支配介入に当たるか。(争点5)
2 争点1について
(1) 3.3団交における会社の対応が不誠実であるとは認められない。
(2) 5.23団交及び6.13団交において、定昇制廃止に組合が同意しなければ、組合員に提案の最低額の賃上げすら行わないとした会社の発言は、組合及び組合員に不当に圧力をかけることにより、定昇制廃止に同意するよう迫るものであり、かかる会社の対応は、不誠実団交に該当する。
(3) 会社は、5.23団交において、賃上げの検討のための参考として開示を求められた情報を虚偽の理由を挙げて、開示しなかったというべきであって、かかる行為は、協議において誠意を欠いた対応をしたと認められる。
(4) 会社が、6.13団交において、別組合の委員長が開示を拒否しているとして別組合の賃上げ平均額の開示を拒んだことは、誠意を欠いた対応であり、実質的な協議に応じなかったものとして、不誠実団交に該当する。
3 争点2について
(1) 会社が5.23団交及び6.13団交において、組合が一律支給や定昇維持を求めるのであれば、別組合の組合員らと差別して不利益取扱いをすると脅したとは認められない。
(2) 会社の6.13団交における対応は、本件和解協定書に違反しており、本件和解協定書に係る組合との同意を軽視ないしは無視したものといえる。こうした会社の対応は、組合員に対し組合が無力であるとの印象を与え、組合への信頼を低下させるものであることから、組合を弱体化するものと認められる。
(3) したがって、かかる会社の対応は、組合の運営に対する支配介入に当たり、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為と認められる。
4 争点3について
(1) A2には正しく計算した賃金が支払わなかったことが認められる。このことについては、賃金が本来支払われるべき期日までに支払われなかったのであるから、不利益があることは明らかである。
(2) 組合と会社は依然として緊張関係にあり、当時、会社が組合や組合員を嫌悪していたことを推認することができる。
(3) A2への遡及払いの遅れや計算の誤りは、単なる人為的なミスによるものではなく、会社が、期限を順守して遡及払いを正確に行おうとしなかったことによって生じたものと認められる。このことと当時の労使関係を併せ考えると、令和5年10月25日まで、A2に対し、正しく計算した未払賃金が支払われなかったことは、A2が組合員であることを理由とするものと認められる。
(4) このことは組合の運営に対する支配介入であるとも判断され、労働組合法第7条第3号に該当するが、同条第4号に該当するとは認められない。
5 争点4について
(1) 9.27面談における管理職3名の言動は、A2をかなり精神的に圧追するものであり、精神的な不利益をもたらすものであると認められる。
(2) 当時、会社が組合やA2を嫌悪していたことを推認することができる。
(3) 指導員以外の業務に就けることを検討しなければならないような業務上の問題がA2にあったとはいえない。
(4) 以上のとおりであるから、9.27面談における管理職3名のA2に対する言動は、A2が組合員であることを理由とする不利益取扱いに当たり、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。
(5) このことは組合の運営に対する支配介入であるとも判断され、労働組合法第7条第3号に該当するが、同条第4号に該当するとは認められない。
6 争点5について
(1) 団交を経て労使が賃金に関して合意に達した際に、労働組合が求めたにもかかわらず使用者が協定書の締結に応じなければ、特段の事情がない限り、労働組合や労働組合との合意に至る協議を軽視ないしは無視したものとして、労働組合の運営に対する支配介入に該当すると判断される。
(2) 本件賃上げ等協定書が締結されなかったことについて、特段の事情は認められず、組合の運営に対する支配介入に当たると認められる。また、このことは本件和解協定書に係る組合との同意を軽視ないしは無視したという点においても、組合の運営に対する支配介入に当たると認められる。
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| 掲載文献 |
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