労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  山梨県労委令和5年(不)第1号
末木組不当労働行為審査事件 
申立人  Xユニオン(組合) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和7年9月22日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①組合員A2を解雇したこと、②組合が申し入れた団体交渉に応じていないことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 山梨県労働委員会は、②について労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)A2の解雇処分、年次有給休暇、未払残業代、休業補償及び建設業退職金共済等についての団体交渉に誠実に応じなければならないこと、(ⅱ)文書交付等を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、組合が申し入れた、組合員A2の令和5年5月31日付け解雇処分、年次有給休暇、未払残業代、休業補償及び建設業退職金共済等についての団体交渉に誠実に応じなければならない。

2 会社は、組合に対し、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を交付しなければならない。
 年 月 日
Xユニオン
 執行委員長 A1殿
Y会社       
代表取締役 B
 当社が、貴組合の申し入れた、貴組合の組合員A2氏の令和5年5月31日付け解雇処分、年次有給休暇、未払残業代、休業補償及び建設業退職金共済等に関する団体交渉について、これに正当な理由なく応じなかったことは、山梨県労働委員会において労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないことを約束いたします。

3 会社は、前各項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。

4 組合のその余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 会社が、令和5年5月31日付け解雇通知書を組合員A2に通知し、A2を解雇したことは労働組合法第7条第1号の不利益取扱い及び同条第3号の支配介入に当たるか(争点1)

 令和5年5月31日に会社が組合員A2を普通解雇したこと(以下「5.31解雇」)、その時点でA2が組合員であったこと及び会社が組合加入を認識していたことは、認定のとおりである。
 そこで、不当労働行為意思の有無が問題となる。

(1)5.31解雇は、客観的合理性や社会通念上の相当性を有するものであるか

ア 当委員会は、私法上の権利義務を判断する機関ではないが、5.31解雇が客観的合理性や社会通念上の相当性を欠くものである場合には、不当労働行為意思が存在する可能性があるといえるため、まずこれを検討する。

イ 認定事実によると、①会社が、令和5年3月頃に業務量が十分に確保できていなかったこと、②同年3月16日にA2が職長を務める現場で元請業者とトラブルがあり、一時期、会社が現場への出入りを控えなければならない事態になったこと、③A2が、現場への出入りを控えなければならない事態になったことを直ちに会社には報告していないこと、④それ以前に、A2が元請業者の従業員の胸ぐらをつかんだこと、⑤会社が、その後にA2に職長・安全衛生責任者教育を受けさせていること、⑥A2が、年下の元請業者の現場監督に敬称を用いていなかったことが認められる。
 一方で、会社は、A2が、現場から金属くずなどの有価物を持ち去ったこと、前日の工程会議で決めた人数より多くの作業員を現場に連れてきたことなどを主張するものの、これら主張を明確に認定し得る証拠はない。
 さらに、会社は、5.31解雇を行うに先立って、A2から何ら事情聴取をすることもせず、弁明の機会さえ与えていないばかりか、本件救済申立て手続きにおいては、解雇通知書に明記していない内容を解雇理由として縷々主張するなど、5.31解雇は極めて稚拙で思慮に欠けた処分であり、客観的な合理性を有するとは認められない。
 また、①会社において過去に解雇された従業員はいないこと、②前述のとおり、会社が、5.31解雇を行うにあたってA2に対する事情聴取や弁明の機会の付与を行っていないこと、③A2が過去に懲戒処分を受けたことがないことが認められ、5.31解雇は社会通念上の相当性を有するとも認められない。

ウ よって、本件5.31解雇は客観的合理性や社会通念上の相当性を欠くことから、この場合、会社に不当労働行為意思が存在する可能性がないとはいえない。

(2)5.31解雇は、組合や組合活動に対する嫌悪の意思を決定的な動機として行われたものであるのか

ア 仮に、会社に、組合や組合活動に対する嫌悪の意思が認められたとしても、本件5.31解雇が不当労働行為意思に基づくものであると判断するためには、かかる嫌悪の意思を決定的な動機として行われたものであると認められる必要がある。
 そこで次に、この点について検討する。

イ 認定事実によると、①令和5年4月4日にA2が組合員になり、組合が会社に通知したこと、②同年4月18日に第1回団体交渉が行われたこと、③会社が、同年5月8日の第2回団体交渉で、同年3月31日付け解雇通知が無効であることを認めたこと、④5.31解雇の時点でA2は会社で唯一の組合員であったことが認められ、このような一連の労使関係の中で、会社が組合や組合活動を快く思っていなかったであろうこと、あるいは、組合や組合活動に対する嫌悪の念を抱くこともあろうことは想像できないことではない。
 しかし、組合が〔会社が嫌悪したと〕主張する「A2が5.31解雇の前に行ったとされる同僚などへの(電話での)仲間づくりの活動」は、具体的な主張や立証がなく、当該事実を認定するまでには至らない。加えて、「A2が労働基準監督署に未払賃金の申告を行った」のは、令和5年5月29日頃であり、その頃、会社が、かかる事実を知っていたかどうかは証拠上明らかでなく、そのためこのことが5.31解雇へ直ちに影響したとは言えない。
 また、組合が主張する「A2や組合に対する誹謗中傷またはけん制する社長Bの発言」〔注「A2さんについている人たちがあまりいい人たちでない。真に受けると会社がおかしくなる。A2さんにあまり引っ張られてもらいたくない」〕は、令和5年8月22日の本件救済申立てや同年9月1日の(雇用契約上の地位確認等に係る)民事訴訟が提起された後である同年11月頃の組合やA2と会社との労使関係に基づいてなされた発言であると認められ、その発言の意図や趣旨を5.31解雇当時の会社の認識として、そこまでさかのぼらせて認めることはできない。
 さらに、A2の組合加入から5.31解雇までの間に、社長Bをはじめとする会社関係者から組合や組合活動を嫌悪する趣旨の発言等は認められない。
 ところで、5.31解雇に先行して行われた令和5年3月31日付けA2の解雇(以下「3.31解雇」)は、①社長Bが、同年3月31日のA2との数時間に及ぶ話し合いの中で、ただでさえ仕事が少なくなっている状況で休業補償や年次有給休暇等を要求され、②A2が職長として派遣されていたT学校工事現場への出入りを一時的にではあるが控えなければならない状況となり、社長Bとしては、会社の存続のためにはA2を排除するしかないという決意に基づき、十分に検討することなく行われたものと認められ、その後、同年5月8日の第2回団体交渉で3.31解雇を撤回するものの、5.31解雇に至るまでの会社のA2を排除するという意思は、強固な、かつ、一貫していたものといえる。しかもかかる意思は、A2が組合に加入する前から生じたものである。
 確かに5.31解雇に合理性や相当性が認められないことは前述のとおりである。しかし、本件において、会社のA2を会社から排除しようとする当初からの強固なかつ一貫した意思と比べ、組合や組合活動を嫌悪する会社の意思のほうがはるかに優越し、組合や組合活動に対する嫌悪の意思が本件5.31解雇を行うに至らしめた決定的な動機であったと認めるには、なお、客観的、具体的根拠が十分ではないと言わざるを得ない。

(3)そうだとすると、5.31解雇につき会社に組合や組合活動に対する嫌悪の意思があったとしても、それだけをもって5.31解雇を不当労働行為意思によるものとはいえず、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に該当するとは認められない。
 同様に、5.31解雇は、A2が組合に加入する前から生じ、強固なかつ一貫した、A2を排除しようとする意思から行われたものであり、組合を弱体化させ、組合の運営に介入するとまではいえず、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に該当するとは認められない。

2 会社が、令和5年5月19日付け、同年6月7日付け、6月20日付けで組合が申し入れた団体交渉に応じていないことは、労働組合法第7条第2号の団体交渉拒否及び同条第3号の支配介入に当たるか(争点2)

(1)①組合が、令和5年5月19日にA2に関する休業補償などについて団体交渉を要求していること、②組合が、同年6月7日に5.31解雇の撤回などについて団体交渉を要求していること、③会社が、同年6月19日に5.31解雇などについて組合に文書で回答したこと、④組合が、同年6月20日に解雇などについて団体交渉を要求したこと、⑤会社が、同年12月20日に賃金明細や離職票の発行について組合に文書回答したこと、⑥会社が、同年6月22日に一定の金銭をA2に支払ったこと、⑦会社が、同年5月8日の第2回団体交渉の後に組合と団体交渉を行っていないことは、認定のとおりである。

(2)そこで、会社が団体交渉を行っていないことについて正当な理由があるかについて、以下検討する。

ア 会社は、「組合の要求事項に対して書面で回答することで、実質的に応じており、団体交渉を拒否している事実はない」と主張する。
 しかし、団体交渉については、当事者間に書面によって交渉するとの合意があるなど特段の事情が認められない限り、直接労使が面会して話し合う方式によることが原則であるところ、本件については、かかる特段の事情が一切認められない。したがって、会社が書面により回答したからといって、それで使用者の団体交渉応諾義務を尽くしたということにはならない。

イ 会社は、「5.31解雇の有効性の点について当初より対立しており、令和5年9月1日付けで民事訴訟が係属している。このような状況下では、合意できる交渉を想定しえず、双方の合意達成の可能性はない。故に、団体交渉を拒否する正当な理由がある」と主張する。
 しかし、一般に、当事者の交渉により将来の関係を視野に入れて紛争の解決を目指す団体交渉は、権利義務関係を確定する訴訟とは機能も目的も異なることから、団体交渉事項につき別件民事訴訟が係属していることは、団体交渉を拒否する正当な理由になりえない。

ウ 以上を総合すれば、会社が、組合の行った団体交渉申し入れに対して、文書で回答するのみで団体交渉に応じていないことは、正当な理由なく団体交渉を拒否していると評価でき、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。

エ また、そもそも、①会社が、第2回団体交渉(令和5年5月8日)以降、本件救済申立て(同年8月22日)に至るまでの間、組合からの再三にわたる団体交渉の申し入れに対して、日程の延期を求めることも団体交渉に応じられない理由も説明せず申し入れを無視していること、②会社の代理人弁護士が残業代や退職金について調査や回答を団体交渉や書面で約束したにもかかわらず、約束を反故にして回答していないこと、③会社が、令和5年5月8日の第2回団体交渉で3.31解雇の撤回を認めたにもかかわらず、団体交渉でA2の行状について何ら説明することなく、しかも、組合に事前に通告することもなくいきなり5.31解雇を行ったこと、④一度撤回した3.31解雇後に行われた5.31解雇に対して、組合が具体的に事実関係を示した上で詳細に反論し解雇撤回を求めたのに対して、会社は何ら理由を説明して再反論することなく解雇を撤回しないとの1文のみの回答であることが認められ、極めて不誠実な対応であるという他ない。

オ さらに、会社は(本件救済申立て手続における)令和5年12月22日提出の準備書面で「被申立人としては、今後、団体交渉に応じる方針である」と主張しているが、令和7年6月2日の結審までの約1年半もの間に団体交渉を行っていない。従前、組合からは団体交渉の申し入れがなされているのであるから、団体交渉に応じる意思があるのであれば、会社としては直ちに組合との間で団体交渉の機会を設け、速やかに団体交渉を行い、その事実を当委員会に主張立証すべきである。

(3)以上から、会社の対応は、組合との交渉をことさらに軽視し、組合をないがしろにするものであり、組合員の組合に対する信頼を失墜させることで、組合の弱体化を図るというべき行為であると評価できる。
 よって、会社が、組合の行った団体交渉申し入れに対して、文書で回答するのみで団体交渉に応じていないことは、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に該当する。 

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