労働委員会命令データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[命令一覧に戻る]
概要情報
事件番号・通称事件名  愛媛県労委令和6年(不)第1号
愛媛県母子寡婦福祉連合会不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y一般財団法人(法人) 
命令年月日  令和7年9月12日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、法人(本件係属中に解散し、清算結了)が、①令和5年4月以降、組合員A2に対し、特別手当を増額しなかったこと、②同月以降、A2に対し、会計システム処理特別手当を不支給としたこと、③令和6年3月31日付けでA2を解雇したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 愛媛県労働委員会は、①及び③について労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、文書交付を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 法人は、組合に対し、本命令書写しの交付の日から10日以内に、次の文書を交付しなければならない。
 年 月 日
X組合
 執行委員長 A1様
Y法人        
代表清算人 B1
 当法人は、令和5年4月以降、組合員A2に対する特別手当の増額を行わなかったこと及び令和6年3月31日付けで同人を解雇したことが、愛媛県労働委員会において不当労働行為と認定されたことについて真摯に受け止めます。

2 組合のその余の申立ては、これを棄却する。 
判断の要旨  1 法人の被申立人適格について

 法人は、令和6年3月31日に解散し、同年7月31日、清算結了登記が行われている。しかし、本件が法人解散前から当委員会に係属し現在も係属している以上、清算事務は未だ終了しておらず、法人は、なお清算法人として存続していると考えるべきであるから、法人には当事者能力があり、法人に被申立人適格を認めるのが相当である。

2 法人が、令和5年4月以降、組合員A2に対する特別手当の増額を行わなかったこと(以下「本件増額不履行」)は、労働組合法第7条第1号の不利益取扱いに該当するか(争点1-1)。また同行為は、労働組合法第7条第3号の支配介入に該当するか(争点1-2)。

(1)特別手当決裁文書の有効性について
 会長印がないことを理由に文書の有効性を否定する法人の主張は相当でなく、その記載内容については会長も了解し、法人における意思決定があったとみるのが相当であることなどから、当該文書は有効な文書というべき。

(2)特別手当の増額合意の成否について
 法人においては、令和2年12月23日付け決裁文書においてA2への特別手当の新設〔令和3年4月1日から4,000円〕が決定された後、令和5年4月1日からの11,000円の増額が予定され、A2は、これに対する合理的期待を有していたとみるのが相当。

(3)本件増額不履行の不利益性について
 本件増額不履行は、特別手当の増額について合理的期待を有していたA2の労働条件の不利益変更に当たり、A2の同意が必要であるから、法人は、財政状況が厳しいなどという後発的な事情によって特別手当を増額できないと判断したのであれば、A2に丁寧に説明し、同意を得なければならない。
 しかし、法人は、本件増額不履行について検討中であったのに、第1回団体交渉では言及せず、その後も、令和5年3月22日に本件増額不履行の決定がなされるまでの間に、その理由をA2に丁寧に説明したという事情は見当たらない。よって、本件増額不履行は、A2の同意を得ることなくなされた労働条件の不利益変更に当たり、その不利益性を否定できない。

(4)不当労働行為意思について
 令和5年4月から扶養手当の10,000円減額が予定されていたA2にとっては、合理的期待を有していた特別手当の増額が実際に履行されるか否かは大きな関心事と推認されるが、本件増額不履行決定前に行われた唯一の団体交渉であり、A2も出席していた同年3月15日の第1回団体交渉において、事務長B2が、すでに検討中であった本件増額不履行に言及せず、その直後の3月22日に法人が本件増額不履行を決定したことは、団体交渉軽視、組合軽視の姿勢の表れといわざるを得ない。
 また、第2回以降の団体交渉におけるやり取りをみるに、①法人における、団体交渉における自らの発言に責任を持たず、組合との団体交渉を軽視する姿勢や、②特別手当の増額に係る法人の主張には一貫性がないこと等が認められる。
 このような法人の対応からは、本件増額不履行の理由について真摯に説明して理解を得ようとする姿勢は認められず、法人は、団体交渉を軽視していたといわざるを得ない。

(5)以上のとおり、本件増額不履行の不利益性や、法人の組合軽視の姿勢を踏まえると、これは、組合員である故をもってA2に不利益な取扱いをしたもので、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に該当する。

(6)また、本件増額不履行は、①A2が法人に属する唯一の組合員であること、②増額されなかった特別手当の額は小さいとはいえず、この点を団体交渉によって解決しようとしたA2の組合に対する信頼を動揺させるのに十分な影響力を有していること、③法人には組合軽視の姿勢がうかがわれ、本件増額不履行の前後を通して誠実な団体交渉がなされたとは言い難いことをも総合的に考慮すると、法人には、組合との団体交渉が継続されているにもかかわらず一方的に特別手当の増額を行わないことで、組合の活動に介入しようとする意図が認められる。
 よって、法人の行為は、組合に対する支配介入に当たり、労働組合法第7条第3号の不当労働行為にも該当する。

3 法人が、令和5年4月以降、A2に対する会計システム処理特別手当(以下「処理手当」)を不支給としたことは、労働組合法第7条第1号の不利益取扱いに該当するか(争点2-1)。また、同行為は、労働組合法第7条第3号の支配介入に該当するか(争点2-2)。

(1)法人が、A2に対して、事務分担の変更に伴う処理手当の不支給を伝えた時期について

ア A2は、令和3年度から、事務長の本来業務である会計システム入力処理(以下「入力処理」)を肩代わりして行う対価として、処理手当の支給を受けていた。
 事務長B2は、令和5年1月10日、同年2月からの事務分担の変更をA2に提案し、入力処理について職員Cに担当させると伝えた。
イ 法人において、経営状況が厳しく人件費カットを検討するなかで、システム処理に精通している職員Cに入力処理を任せることは不合理とはいえないことなどを総合的に考慮すると、法人が、同日までに(A2から職員Cへの)入力処理の担当変更を含む事務分担の変更を検討しており、また当該変更に一定の合理性があったと判断するのが相当である。
 したがって、上記事務長B2による事務分担の提案の時点で、A2は、事務分担が変更されれば、処理手当が不支給になることを認識していたといえる。
ウ また、組合が法人にA2の組合加入を通知したのは令和5年1月23日であることなどから、法人がA2に対し事務分担の変更を伝えた時点において、法人は、A2の組合加入を認識していなかったことが認められる。

(2)令和5年4月以降の事務分担について
 A2が職員Cに会計ソフトの入力方法を教授したのは令和5年6月22日で、その後も、少なくとも令和6年1月15日の第8回団体交渉までは、A2が入力処理を行っていた。

(3)処理手当の不支給の不利益性について
 法人が、入力処理がA2から職員Cに引き継がれることの確認や、事務分担の変更を実現させる努力を行うことなく、当該変更の決定後も、従前と変わらずA2が入力処理を行うことを看過していたのであれば、法人は、処理手当についても従前どおりA2に支給するべき。
 そして、実際に、A2は、令和5年4月以降も入力処理を行っており、法人が、従前どおりA2に処理手当を支給しなかったことは、A2の同意を得ることなくなされた労働条件の不利益変更に当たり、その不利益性を否定できない。

(4)不当労働行為意思について

 以前は事務長の本来業務であった入力処理を他の職員の本来業務とし、処理手当をなくすこと自体は、法人の指揮命令権や経営判断として尊重されるべき。
 入力処理を職員Cに担当させることについて、令和5年1月10日から一貫して法人が提案してきたことを考えると、法人は、A2の組合加入〔同年1月23日に会社に通知〕にかかわらず、同様の業務命令を出す方針であったと認められる。したがって、処理手当の不支給は、その正式決定が第1回団体交渉(同年3月15日)の直後であったとしても、直ちに、A2が組合員であることを理由にしてなされたとはいえない。
 加えて、第1回団体交渉において、少なくとも、組合は、事務分担の変更については法人内で決めるべきことを了承していたと認められ、法人が、団体交渉ないし組合を軽視して、あえて事務分担の変更に伴う処理手当の不支給を行ったとはいえない。

(5)以上のとおり、法人によるA2に対する処理手当の不支給に不利益性は認められるが、これが組合員である故をもってなされたとまでは認められないから、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に該当するとはいえない。

(6)また、法人が、団体交渉ないし組合を軽視して、あえてA2に処理手当を支給しなかったとは認められず、これによって組合活動に介入しようとする意図があったとはいえない。よって、法人の行為は、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に該当するともいえない。

4 法人が、令和6年3月31日付けでA2を解雇したことは、労働組合法第7条第1号の不利益取扱いに該当するか(争点3-1)。また、同行為は、労働組合法第7条第3号の支配介入に該当するか(争点3-2)。

(1)A2の解雇について
 本件解雇は、法人の解散に伴う解雇であり、法人が存続しつつ人員削減措置を取る整理解雇とは本来異なる。しかし、①法人解散後、清算手続のために一定期間法人が存続する過程において、A2のみ先に解雇されたこと、②法人が、当初の予定を前倒しして令和6年3月31日の時点で解散して人員を整理する必要があったかどうかについて、当事者間で争いがあることなどを考慮し、本件解雇については、整理解雇に準じるものとして、その有効性を、以下検討する。

ア 法人は、「収益事業であるグリルの閉店や会員数の減少に歯止めがかからないことなどにより経営状況が厳しく、運営経費試算表を作成したところ、令和5年度末には赤字になることが判明したため、令和6年3月31日での解散を決めた」旨主張する。
 しかし、令和4年度の公益目的支出計画実施報告書における記載などからすると、グリルの閉店をもって、法人が同日で解散する必要があったとすることはできない。また、会員数の減少を明らかにする的確な証拠はないほか、それが法人の経営状況にどの程度の影響を及ぼすものであるかの疎明もない。
 確かに、法人の存廃については法人自身の経営判断として決せられるべきで、その判断にある程度の裁量の余地があることは否定できない。しかし、法人が、令和7年3月31日までは公益目的支出計画の実施を遂行できると自ら宣言している以上、これより早期での法人解散を合理的に根拠付けるには相応の根拠が必要というべきである。ところが、令和6年1月15日に開催された第8回団体交渉におけるA2の指摘により、令和5年12月の臨時理事会で法人が提示した運営経費試算表の不備が明らかになったにもかかわらず、法人が、当該団体交渉の翌日付けでA2に解雇を通知していることからすると、法人が、解散の方針や人員整理の必要性について再度検討を行ってはいないことが強く推認される。
 これらからすると、仮に法人の収益性が悪化状態にあったとしても、法人が、当初の予定を前倒しして令和6年3月31日の時点で解散して人員を整理する必要があったとは、にわかに考え難い。
イ また、法人は、「清算業務には専門的な知識は必要なく、経費面からもA2の継続雇用はできないと判断し、A2を被解雇者として選定した」と主張する。しかし、経費面からA2を雇用できないのであれば、パートへの変更の可否についての打診も検討すべきであるが、法人は、これをしていない。加えて、法人は、解散する必要があることを認識したのは令和5年10月頃としているところ、当該認識と同時に、A2を解雇することを決めていたことが強く推認される。
 したがって、法人が、A2を被解雇者として選定したことに合理的理由があるとは言い難いし、解雇前に相当な解雇回避措置を講じていたともいえない。
 さらに、法人は、A2に対する解雇理由の説明を怠っていることから、解雇手続自体にも問題がある。
ウ 以上の事実を総合すると、本件解雇は、その有効性について大いに疑問があるといわざるを得ない。

(2)不当労働行為意思について

ア 法人は、特別手当の増額不履行などの未払賃金の支払を求める組合からの団体交渉に応じているところ、組合と合意するには至っていないが、法人は団体交渉に誠実に対応しておらず、また、団体交渉が行き詰まっていると評価できる事情も見当たらない。さらに、第8回団体交渉では、A2の解雇が初めて交渉議題とされ、法人は、A2と組合に誠意をもって解雇理由などについて説明しなければならない状況であった。
 それにもかかわらず、法人は、解散を理由に団体交渉をやめてほしいとの態度に終始している。このような行為は、組合に対する、今後も団体交渉に誠実に応じるつもりはないという態度の表れであり、実際、これにより、組合は団体交渉による解決を諦め、その結果、不当労働行為救済申立てを行ったと認められる。
イ A2の解雇についても、法人は、第8回団体交渉において、組合がA2の継続雇用を強く求めているにもかかわらず、これに応じずA2を解雇する方針に固執するのみならず、A2だけを解雇しなければならない理由について真摯に説明して理解を得ようともしていない。このような態度は、組合が求めた団体交渉に誠実に応じたものとは言い難い。
 これに加えて、第6回団体交渉(令和5年8月30日)の頃からの労使間の対立の激化なども併せ考えると、法人は、組合の力を得て団体交渉で法人を追及しようとするA2を疎ましく思い、A2を解雇しようとしていたといわざるを得ない。
ウ 以上のとおり、A2に対する解雇は、その有効性に大いに疑問があることに加え、当該解雇やその前提とされている法人の解散に関して組合が求めた団体交渉に誠実に応じることなく行われたことをも併せ考えると、A2が組合員であることを理由としてなされたと推認するのが相当である。

(3)よって、法人が、令和6年3月31日付けでA2を解雇したことは、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に該当する。

(4)また、A2は法人における唯一の組合員であり、A2が解雇されると、組合は法人への関与の接点を失うことになる。このことは、組合の運営に一定の動揺を及ぼすおそれのある事実であり、法人は、このおそれについての認識があった。よって、法人の行為は、組合に対する支配介入に当たるもので、労働組合法第7条第3号の不当労働行為にも該当する。

5 救済方法

 「法人の清算手続と救済利益の関係について」、法人は、清算結了登記を経てもなお清算法人として存続していると考えるべきであるが、清算法人の存続は清算の目的の範囲内に限られる以上、清算の目的の範囲を超える救済を求める申立ては、実現不可能な救済を求めるもので、救済の利益を欠くものとして棄却せざるを得ない。そのため、組合が求める各救済内容について、実現可能性の有無を踏まえて救済利益の存否を、以下検討する。
①「原職復帰」について、法人は令和6年7月31日をもって事務所を退去し、今後、事業再開の見込みはないと認められるから、この点に関する組合の請求は棄却するのが相当である。
②「バックペイの支払」について、法人は、現時点において財産を有していないから、事実上は実現可能性がなく、この点に関する組合の請求は棄却せざるを得ない。
③「謝罪文の掲示及び交付」について、法人の事務所は既に存在しないことから、謝罪文の掲示は事実上の実現可能性を欠き、この点に関する組合の請求は棄却することが相当である。一方、「謝罪文の交付」については、法令上のみならず事実上も実現可能性が認められ、法人の責任を明確にするという観点から、これを命ずることが相当である。 

[先頭に戻る]
 
[全文情報] この事件の全文情報は約471KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。