概要情報
| 事件番号・通称事件名 |
東京都労委令和5年(不)第78号
アドバンテスト不当労働行為審査事件 |
| 申立人 |
Xユニオン(組合) |
| 被申立人 |
Y会社(会社) |
| 命令年月日 |
令和7年7月15日 |
| 命令区分 |
棄却 |
| 重要度 |
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| 事件概要 |
本件は、(組合員Aの時間外労働などの事項に関する回答や資料の提供に係る)組合からの要求などの事項について開催された団体交渉(以下「本件団体交渉」)における会社の対応が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
東京都労働委員会は、申立てを棄却した。 |
| 命令主文 |
本件申立てを棄却する。 |
| 判断の要旨 |
○本件団体交渉における会社の対応は、不誠実な団体交渉に当たるか否か(争点)
1 本件団体交渉までの経緯
組合と会社は、会社が参画していた内閣府の研究開発プログラムに係るプロジェクト(以下「本件プロジェクト」)のメンバー(以下「本件メンバー」)である組合員Aのプロジェクト期間中における時間外労働などの事項について断続的に団体交渉を行っていた。
令和6年1月22日、組合は会社に対し、平成29年4月から30年6月までの間に、A以外の本件メンバーが勤務時間外に送信したメールについて、①業務に関連するものについて、㋐本件プロジェクトのマネジメントを担当していたC1が送信先に含まれている件数及び㋑資料が添付されている件数の回答、②添付資料の有無、差出人、件名及び送信日時の一覧表の提供などを求める(以下、上記①及び②の要求事項を「本件組合要求」という)旨を記載した文書を送付し、団体交渉の申入れを行った。
令和6年2月28日、会社は、A以外の本件メンバーが勤務時間外に送信したメールの件数については回答を行うものの、本件組合要求には応じない旨の回答を行った。
令和6年3月1日、組合と会社とは、本件組合要求などの事項について本件団体交渉を行った。
2 本件団体交渉では、主に本件組合要求に関する協議が行われていたところ、会社は、本件組合要求を拒否する理由として、要旨、①A以外の本件メンバーは組合の組合員ではなく、C2、C3及びC4の就労状況は義務的団体交渉事項に該当しないこと、②A以外の本件メンバーが送信したメールの業務関連性の判断や、添付資料の作成時期の確認が困難であることを挙げていた。
(1)理由①(A以外の本件メンバーは組合の組合員ではなく、C2、C3及びC4の就労状況は義務的団体交渉事項に該当しないこと)について
非組合員である労働者の就労状況も、組合員の就労環境に関わるものとして義務的団体交渉事項に当たり得るものではあるが、組合は、「本件メンバーの業務、就労状況が相互に密接に関連する」と主張するにとどまり、本件メンバーの就労状況が組合員の労働条件とどのように関連しているのかを具体的には説明していない。
そして、㋐本件メンバー相互の連絡状況によれば、平成29年4月及び5月にC2、C3及びC4が勤務時間外に送信したメールのうち、Aが宛先に含まれていたものは、組合の主張によってもそれぞれ4月が30件中2件、5月が53件中18件であり、必ずしも多数であったとまではいい難いこと、㋑本件組合要求及び本件団体交渉の時点において、本件プロジェクトは既に終了していること、㋒本件メンバーにA以外に組合の組合員が存在しないことを考慮すると、会社が、本件組合要求を拒否する論拠として、自らの認識に基づいて、理由①を挙げたことには、相応の理由があったものと認められる。
加えて、会社は、本件団体交渉以前に、㋐A以外の本件メンバーが勤務時間外に送信したメールの件数について、組合からの対象期間の延長要求にも応じた上で回答を行っていたこと、㋑組合からの調査要求事項について本件メンバーにヒアリングを行い、その結果を回答し、団体交渉における合意事項を履行するなどの対応を執っており、会社は、A以外の本件メンバーの就労状況の調査について、組合の要求に一定程度応じた対応を執っていたといえる。
(2)理由②(A以外の本件メンバーが送信したメールの業務関連性の判断や、添付資料の作成時期の確認が困難であること)について
会社は、令和5年11月28日の団体交渉において「A以外の本件メンバーが勤務時間外に送信したメールの業務関連性の判断について、同メールの送信件数と異なり、メール本文については、確認すること自体に一定の技術的困難や工数が伴う」旨を述べるなどしていた。
本件組合要求の対象期間が本件組合要求の時点から6年以上前のものであることからすると、会社が、本件組合要求を拒否する論拠として、理由②を挙げたことには、相応の理由があったと認められる。
3 上記2のほか、本件メンバー間の連絡状況について、組合は、平成29年4月及び5月にC2、C3及びC4が勤務時間外に送信したメールのうち、Aが宛先に含まれていた件数を把握していたことからすると、㋐本件団体交渉の時点で、Aは、平成29年4月から30年6月までにC2、C3及びC4が勤務時間外に送信したメールのうち、Aの業務に関連する可能性のあるメールについて一定数を保有しているとみるのが相当であり、㋑実際に、組合は、令和5年11月28日の団体交渉において、C4のメールの写しを会社に提示して調査を依頼しているのであるから、本件組合要求について、必ずしも団体交渉を進展させるために会社が対応する必要性が高かったとまではいえない。
一方で、㋐本件組合要求は、令和5年11月28日の団体交渉の終了に際して当事者間で合意した会社の確認事項には含まれておらず、当事者間で本件組合要求について協議を行ったのは本件団体交渉が初めてであり、必ずしも本件組合要求に関する協議が尽くされたとまではいえないこと、㋑過去の団体交渉において、C1の団体交渉出席の要否を巡る協議を行った結果、C1の団体交渉出席の条件について当事者間で一定の合意が成立したことが認められ、また、㋒会社は、A以外の本件メンバーの就労状況が義務的団体交渉事項に当たらないという見解を維持しつつも、一定程度組合の要求に応じた対応を執っていたといえる。
そして、組合は、本件団体交渉の終了に当たり、再度団体交渉の申入れを行うことを示唆していたにもかかわらず、本件団体交渉以降に組合が団体交渉の申入れを行った形跡がみられない一方で、会社は、本件団体交渉において、組合との団体交渉を継続する姿勢を示していたと評価することができる。
4 以上のとおり、会社が、本件組合要求に応じられない根拠として、義務的団体交渉事項に当たらないことや、送信メールの業務関連性の判断、添付資料の作成時期の確認が困難であることを挙げたことには相応の理由が認められ、その中で、会社は、組合の要求に一定程度応じた対応を執り、組合との団体交渉を継続する姿勢を示していたことからすると、本件団体交渉における会社の対応は、不誠実な団体交渉には当たらず、労働組合法第7条第2号に該当しない。 |