労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪府労委令和5年(不)第43号
不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和7年9月19日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、法人が、①組合加入直後の組合員A1に対し、業務における役割を与えなかったこと、②A1に賞与を支給せず、希望するグループ他社に転籍させなかったこと、③組合の宣伝活動に参加していた組合員らの写真を撮り、組合に宣伝活動を止めるよう求めたこと、④A1の労働条件に関する団体交渉において不誠実な対応をしたこと、がそれぞれ不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 大阪府労働委員会は、②について労働組合法第7条第1号及び第3号、④について同条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対して誠実団交応諾及び文書手交を命じ、その他の申立てを棄却した。

 
命令主文  1 法人は、組合の令和5年3月17日付け団体交渉申入書に記載された組合員A1に係る要求事項について、団体交渉に誠実に応じなければならない。
2 法人は、組合に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。
年 月 日
X組合
執行委員長 A2 様
Y法人       
代表理事 B1
当法人が行った下記の行為は、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条に
該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
(1) 令和5年4月5日に貴組合員A1氏をB2会社に転籍させなかったこと(1号及び3号該当)。
(2) 貴組合の令和5年3月17日付け団体交渉申入書に記載された貴組合員A2氏に係る要求事項について、令和5年3月8日及び同年6月7日の団体交渉において誠実に対応しなかったこと(2号該当)。
3 組合のその他の申立てを棄却する。
 
判断の要旨  1 本件の争点は次のとおりである。
(1) 以下の行為は、法人による、A1が組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるか。(争点1)
①A1に対し、事業所の鍵を渡さなかったこと並びに一度同人に渡した鍵を翌日に回収したこと
②A1に対し、ファッションショーの準備作業に係る指示を行わなかったこと及び、ファッションショー当日の役割分担表にA1の氏名を記載しなかったこと

(2) 法人の以下の行為は、A1が組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるか。(争点2)
①A1に対し、処遇改善ボーナスを支給しなかったこと
②A1を転籍させなかったこと

(3) 法人の以下の行為は、組合に対する支配介入に当たるか。(争点3)
①組合の宣伝活動に参加していた組合員らの写真を撮ったこと
②令和5年1月6日に組合員が行った宣伝活動について、法人が止めるよう求めたこと

(4) 令和5年3月8日及び同年6月7日の団体交渉における法人の対応は、不誠実団交に当たるか。(争点4)

2 争点1について
(1) A1は、鍵を回収され又は交付されないことにより、ビル又は執務室に入ることができなくなり、業務の遂行に支障が生じるのであるから、業務遂行上の及び精神的な不利益を与えるものとして、一見、不利益な取扱いに当たるように見える。しかし、所持している鍵によりビル又は執務室に入ることができることは、本来、C社又は法人の従業員が所持すべき鍵をA1が所持することから生じる反射的な効果にすぎないのであって、その鍵が回収され又は交付されなかったことは、不利益な取扱いに当たるとはいえない。
 また、組合は、法人による上記行為により、非組合員に対する萎縮効果が働き、労働組合の組織化への大きな障害となり組合活動の抑圧となるため支配介入にも当たる旨主張するが、組合員であるが故の不利益取扱いに当たらないのであるから、非組合員に対する萎縮効果が働くとはいえず、組合に対する支配介入には当たらない。

(2) 法人が、令和4年9月28日に先立って、A1に対して本件ファッションショーの準備を依頼していたとみることはできないし、そのほか、A1が本件ファッションショーの準備を依頼されていたと認めるに足る事実の疎明はない。また、組合は、A1以外の法人職員全員を集めて本件ファッションショーの準備を進めるよう指示を伝える一方で、A1にだけ指示がなかった旨主張するが、このことを認めるに足る事実の疎明はない。さらに、役割分担表にA1の氏名が記載されず差別的な取扱いがなされたことを認めるに足る事実の疎明はない。
 そうすると、これらが組合員であるが故の不利益取扱いにも組合に対する支配介入に当たるとはいえない。

3 争点2について
(1) 法人が処遇改善ボーナスを支給した時点において、法人がA1の組合加入を認識していたとはいえず、その余を判断するまでもなく、組合員であるが故の不利益取扱いにも組合に対する支配介入にも当たるとはいえない。

(2) B1代表は、令和5年4月5日にA1が転籍を求めた際には、転籍が困難な理由として組合との関係を挙げ、さらに、令和5年6月7日の第4回団交の場では、A1の転籍について、自分が転籍を打診される側であれば絶対断ると説明している。
 これらのことからすると、法人がA1を転籍させなかったのは、A1が組合員であるが故の不利益取扱いにも組合に対する支配介入にも当たる。

4 争点3について
(1) 写真撮影自体は直ちに宣伝活動を妨害するものとはいえない上、この写真撮影により、組合の宣伝活動に何らかの支障が生じたと認めるに足る事実の疎明はない。
したがって、この写真撮影が、組合の宣伝活動に対する妨害行為であるとまではいえず、組合に対する支配介入に当たるとはいえない。

(2) 令和5年1月6日宣伝活動当日に、法人が組合に宣伝活動を止めるよう求めたのは、組合が宣伝活動を終了してから3時間も後のことであり、宣伝活動を直接制止しようとしたものではない。
また、脅迫的言辞により組合の正当な組合活動に介入するものでもなく、法人が和解に消極的になることを避けるために法人代理人が行った申入れとみるべきであり、組合活動に対する妨害であるとも、組合の活動を萎縮させる効果を持つものとも認められない。
したがって、組合に対する支配介入には当たらない。

5 争点4について
(1) 組合が、賃金引上げ等を求める春闘要求について、経営状況についての資料の提示を、必要性を説明して要求したにもかかわらず、法人は、組合の提示要求に応じなかったばかりか、組合の団交拒否の指摘に対し、反論することも、態度を改めることもしていない。かかる法人の態度には、組合との協議に真摯に応じようとする姿勢はみられない。

(2) 令和5年3月8日の第3回団交は、法人側の指定により令和5年1月27日に開催が予定されていたところ、法人側の都合で同日開催に至らず、開催時期が更に1か月以上遅れたことが認められ、法人の対応は、組合との団交が継続するのを回避しようとしたものと言わざるを得ない。

(3) 令和5年6月7日の第4回団交における法人の発言は、労使対等の原則に則って組合との団交に臨む意思がないことを自ら表明したものであって、かかる法人の対応は、誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索するべき誠実交渉義務を果たそうとするものとは到底いえない。

(4) 以上のとおりであるから、第3回団交及び第4回団交における法人の対応は、不誠実団交に当たる。 
掲載文献   

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