労働委員会命令データベース

[命令一覧に戻る]
概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委令和6年(不)第30号
Rfield不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
会社  Y会社(会社) 
命令年月日  令和7年6月17日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、業務委託契約(以下「本件契約」)に基づき会社の経営する飲食店(以下「本件店舗」)で勤務していた組合員Aに係る未払賃金等を議題とする計2回の団体交渉(以下併せて「本件団体交渉」)における会社の対応が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  ○本件団体交渉における会社の対応が不誠実な団体交渉に当たるか

1 本件団体交渉において、組合は、「組合員Aと会社との間では、本件契約締結時に、令和5年8月及び9月の賃金支給について、所定の時給単価に1,000円を加算する旨の口頭合意が成立していた」旨を述べたところ、会社は、上記口頭合意の存在を否定しており、当事者間においてAの時給単価の加算に関して、見解の相違があったことが認められる。
 この点、本件契約書及び規約書には、上記口頭合意の存在を推認させる記載はないことからすると、組合が、団体交渉の場で上記口頭合意の存在を前提とする賃金支給を求めるのであれば、まずは、組合において上記口頭合意が存在することの根拠を提示する必要があったというべきである。
 しかし、組合は、令和6年3月26日の団体交渉において、上記口頭合意を証する根拠として、Aと会社との間の会話を録音した音声データが存在することを示唆したにもかかわらず、その後、同年4月16日の団体交渉を含め、会社に対し、かかる音声データ又はこれに代わる上記口頭合意が存在することの根拠を提示していなかったのであるから、本件団体交渉において、組合は、Aの時給単価の加算に関する議論を進展させる材料を提示しなかったものとみざるを得ない。
 加えて、①会社は、本件団体交渉において、上記口頭合意の存在を否定するとともに、「Aとの間で、令和5年8月及び9月に時給単価の加算を行うのであれば出勤回数を週3日とする調整を行うことになる旨を提示し、Aがこれを断ったため、時給単価の加算に関する合意には至らなかった」とする経緯を述べており、一定程度上記口頭合意の存在を否定する論拠を提示していたものとみるのが相当であること、②組合は、上記口頭合意の存否について会社との間で見解に相違があることを認識した上で、上記口頭合意の存否に関する議論が平行線である旨を述べており、上記口頭合意の存在に関して、より具体的な根拠に基づく主張を行っていたとまではいえず、これによりAの時給単価の加算に関する議論が進展しなかったと考えられることを併せて考慮すれば、本件団体交渉における、Aの時給単価の加算に関する会社の対応が不誠実であったとまではいえない。

2 本件団体交渉において、組合は、「令和5年9月17日付けで会社とAが交わした業務委託契約解約書にはAと会社との契約期間が令和5年10月17日までである旨が明記されているにもかかわらず、会社は、9月17日付けで本件契約を即日終了させた」旨を述べたところ、会社は、9月17日付けで本件契約を即日終了させたことを否定するとともに、同日以降Aが自主的に出勤を行わなかった旨を述べており、Aの退職経緯について、当事者間に見解の相違があったことが認められる。
 本件団体交渉において、会社は、組合に対し、本件契約の解約に際してAが退職の意思を示したことを裏付ける資料として、Aと本件店舗の店長との会話を録音した音声データを開示しており、上記音声データによれば、本件店舗の店長が、Aに対し、「基本時給の加算分が支給されないことを第三者に相談した行為は本件店舗に対する不利益行為に該当し、規約書違反になる」旨を述べた後にAが、本件店舗の店長に対して「私はいつ辞めるのかっていうその退職のやつを書くために判子持ってきたんで、その書類出してください。私はこの状態で1か月もいたくないんです。いいかげん早く辞めたいのでいつ辞めるのかを知りたい。」と述べ、その後、令和5年9月17日付けで業務委託契約解約書が作成されていることが認められるのであって、かかる経緯に照らせば、会社は、Aの退職経緯について、具体的な根拠を示す資料を提示しながら一定程度会社の見解を述べていたものと評価することができる。
 加えて、①組合が、会社に対し、令和5年9月17日付けで会社が本件契約を即日終了させたことの根拠として提示したLINE(同年9月14日に会社がAに送信したもの)には、同年9月18日までのAの勤務シフトが記載されていたものの、会社が録音した音声データ(令和5年9月17日にAと本件店舗の店長とが行った会話に係るもの)によれば、上記LINEの送信時点で、Aと会社との間で本件契約を解約することは想定されていなかったとみるのが相当であり、上記LINEは同年9月17日付けで会社が本件契約を即日終了させたとする組合の主張を直接的に裏付ける根拠になるとまでは認め難く、また、組合も、同年9月17日付けで会社が本件契約を即日終了させたことについて、上記LINE以外に組合の主張を裏付ける具体的な根拠はない旨を述べていたこと、②組合は、会社との間でAの退職経緯について見解に相違があることを認識した上で、Aの退職経緯に関する議論が平行線である旨を述べており、Aの退職経緯に関して、より具体的な根拠に基づく主張を行っていたとまではいえず、これによりAの退職経緯について議論が進展しなかったと考えられることを併せて考慮すれば、本件団体交渉における、Aの退職経緯に関する会社の対応が不誠実なものであったとまでは認めることができない。

3 上記1及び2に加え、①会社は、本件団体交渉において、本件会社発言〔注「譲歩の余地」の有無に係る会社と組合のやりとりにおいて、「どのくらいの金額になるのかによる」などの組合の発言に対し、会社が、「金額によるというのでは分からない、金額は計算できるはずであり計算できないのであれば、会社からするとただのたかりである」旨を述べたこと〕を行っており、これは組合に対する不穏当な発言であると認められるが、かかる発言により本件団体交渉の円滑な進行が妨げられたとまでは評価することができないこと、②会社が、Aに対し、本件契約締結時に規約書の一部を交付していなかった点は、会社として決して望ましい対応であったとはいえないが、本件団体交渉では、規約書のうちAに交付していなかった部分を提示しながら、会社が認識する、Aの時給単価について説明を行っていたこと、③会社は、令和6年3月26日の団体交渉終了後、速やかにAの支払調書を組合に送付しており、本件団体交渉における合意事項を履行しているといえること、④会社は、組合からの解決案の提示要求について、同年3月26日の団体交渉では、前提事実の認識を理由として組合との間で合意達成に消極的な姿勢を見せていたものの、同年4月16日の団体交渉においては一定の譲歩の姿勢を示しており、本件団体交渉を通じて組合との間で合意達成を模索する姿勢を欠いていたとまではいえないことがそれぞれ認められる。

4 以上のことから、本件団体交渉における会社の対応は不誠実な団体交渉に当たるとまではいえない。 

[先頭に戻る]