概要情報
| 事件番号・通称事件名 |
東京都労委令和2年(不)27号
ワットラインサービス(令和2年度工事個数)不当労働行為審査事件 |
| 申立人 |
X1組合・X2組合・X3組合(組合ら) |
| 被申立人 |
Y会社(会社) |
| 命令年月日 |
令和7年6月3日 |
| 命令区分 |
全部救済 |
| 重要度 |
|
| 事件概要 |
本件は、①会社の計器工事部長が、組合らの組合員である計器工事作業者(個人で請負契約を締結し、家庭用電気メーターの取替工事等に従事する作業者)に対し、a組合員による、先行事件に係る労働委員会の調査期日等への出席、裁判期日への出席、会社や親会社への要請に係る組合活動について、会社が回数を記録している、b会社への発注会社は、計器工事作業者ともめている会社には発注しない、との趣旨の発言をしたこと、②会社が、組合員に係る前記①aの組合活動の回数を記録することにより、組合員に対し、非組合員と比較して、令和2年度における工事個数の割当てにおいて不利益な取扱いを行ったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
東京都労働委員会は、①について労働組合法第7条第3号、②について同条第1号及び第4号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(i)組合員12名に対する金員(不利益な取扱いがなかった場合の請負金額との差額)の支払い、(ⅱ)文書の交付及び掲示等を命じた。 |
| 命令主文 |
1 Y会社は、X1組合、X2組合及びX3組合の組合員である別表1記載の12名に対し(ただし、組合員A4については同人の相続人A5に対し)、同表「支給すべき金員」欄記載の金員を支払わなければならない。
2 Y会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書をX1組合、X2組合及びX3組合に交付するとともに、同一内容の文書を55センチメートル×80センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に楷書で明瞭に墨書して、会社の各工事所内の計器工事の作業者の見やすい場所に10日間掲示しなければならない。
記
年 月 日
X1組合
中央執行委員長 A1殿
X2組合
執行委員長A2殿
X3組合
分会長A3殿
Y会社
代表取締役 B1
①当社の計器工事部長が、令和2年2月25日から同月27日までの間に、貴組合らの組合員に対し、㋐組合員の、労働委員会の調査期日又は審問期日への出席等の組合活動の回数を記録している、㋑当社への発注会社は計器工事作業者ともめている会社に発注しない、などの趣旨の発言をしたこと、②当社が、組合員に対し、2年3月21日から3年2月20日までの間の工事個数の割当てを減らしたことは、東京都労働委員会において、不当労働行為であると認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
3 Y会社は、第1項及び前項を履行したときは、当委員会に速やかに文書で報告しなければならない。 |
| 判断の要旨 |
1 個人で請負契約を締結し、家庭用電気メーターの取替工事等(以下「計器工事」)に従事する作業者(以下「計器工事作業者」)の労働組合法上の労働者性について
(1)計器工事作業者の労働組合法上の労働者性
労働組合法(第1条、第3条)の趣旨及び性質からすれば、同法上の労働者に当たるか否かについては、契約の名称等の形式のみにとらわれることなく、その実態に即して客観的に判断する必要があり、現実の就労実態に即して、①事業組織への組入れ、②契約内容の一方的定型的決定、③報酬の労務対価性、④業務の依頼に応ずべき関係、⑤広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束、⑥顕著な事業者性などの諸要素を総合的に考慮して判断すべきである。
(2)事業組織への組入れ
①会社は、計器工事部の主な業務である計器工事のほとんどを自社の従業員ではなく、請負契約により実施しており、会社は、計器工事を行う労働力を確保する目的で、計器工事作業者及び請負法人との間で請負契約を締結していたといえるところ、令和3年度は計器工事作業者とは請負契約を締結していないものの、平成30年12月時点では個人の計器工事作業者が計器工事作業者等(①請負法人の作業者と②計器工事作業者を併せたもの)の約69%、令和元年度は約55%、令和2年度は約41%を占めていること、②会社は、計器工事作業者を仕様書等による指示に基づき作業に従事させ、その進捗状況についても工事施工率を把握して、計画工事個数の92%を下回る場合にはリカバリープランの提出を求めて管理し、組織の一部を構成する労働力として位置付けていたこと、③会社は、ヘルメット等の装備品や名刺等において、計器工事作業者が会社の組織の一部と認識されるよう、顧客等に表示していること、④実態として、同業他社と兼業している計器工事従事者はほとんどいないことからすれば、計器工事作業者は、会社の事業の遂行に不可欠かつ枢要な労働力を恒常的に提供するものとして会社の事業組織に組み入れられていたといえる。
(3)契約内容の一方的・定型的決定
①会社と計器工事作業者との請負契約書は、会社が作成し、②計器工事については、会社から示された仕様書等、標準作業手順などにより、詳細なルールや手順を遵守して施工することとされるなど、会社は、例外的な工事個数の変更などの一部を除き、契約内容を一方的・定型的に決定しており、計器工事作業者が契約条項を個別に交渉して変更を加える余地はなかったと認めるのが相当である。
(4)報酬の労務対価性
計器工事作業者に対する報酬は、①基本的には、「工事単価×工事数量(工事個数)」で算出される出来高払制で、計器工事の完成に対する報酬であるものの、一方で、その完成には一定の労働力の投入が必要であることから、労務供給に対する対価という側面を有していたと評価できること、②年度単位でみても、より多くの作業を実施することで出来高を大幅に増大させることが可能となるようなものではなく、前年度の労務供給の実態・評価が次年度の工事計画件数に反映され、年間報酬に影響する仕組みがとられており、労務供給と報酬の連動性が認められること、③再訪問や新人のOJTの担当など計器工事の完成とは直接に関係しない労務の供給に対する手当や会社事業の貢献に対する対価として報奨金等が支払われていたことからすれば、実質的には労務供給への対価という性格が強いものと認められる。
(5)業務の依頼に応ずべき関係(諾否の自由)
計器工事作業者が年間に施工すべき工事計画件数は契約によって定められているが、具体的にどのエリアのどの顧客について工事を実施するかは、会社が、作業者別の工事残数に応じて、顧客の住所や計器工事の種類等の詳細を記載した「付託票」を交付し、具体的な作業を指示又は依頼している。
そして、会社は、各計器工事作業者に対し、年度当初に計器工事の月間・年間の稼働日数及び工事計画件数を示して、月間・年間にそれぞれこの工事計画件数の92%以上の施工を指示している。各計器工事作業者は、月間の計画工事個数の92%を下回った場合にはリカバリープランの提出を求められ、年間の工事計画件数との差が1%以上の場合は、報奨金の支給基準とされる評価点も低くなるという不利益が生ずる。したがって、計器工事作業者は、「付託票」を通じた業務の指示又は依頼について応じざるを得ない立場にあったといえる。
(6)広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束
ア 広い意味での指揮監督下の労務提供
会社は、仕様書等及び標準作業手順において、作業時の装備品、顧客対応、具体的な作業手順や禁止事項等を詳細に定め、「作業チェック表」の携行とチェックを指示して、計器工事作業者にこれらマニュアルやルールの遵守を求めている。
また、①一週間分の工事予定日等の計画の報告、施工時における情報のハンディターミナルやモバイル端末への入力による労務の提供過程の把握、②工事記録写真の撮影・提出の指示による施工状況の確認、③1日の工事終了後における工事伝票と記録写真、電気メーターの倉入れ・倉出し、倉出入管理表についての内勤者によるチェックによる施工完了の確認、④月に一回の夕礼等への参加指示、一年に一回の安全対策等を内容とする研修への参加義務付けによる知識、技能の習得、⑤仕様書等の諸規定に抵触する行為などに対する特別研修の受講、作業停止、契約解除等の制裁による工事の品質管理及び災害防止等の担保により、会社の定めたマニュアルやルールを厳格に遵守させるなど、会社は極めて具体的で詳細な標準作業手順を作成し、その設定する工事品質の維持等のための詳細な指示も与えており、それらは、計器工事作業者が全てそのとおりに遵守すべき事項という意味での「指示」というべきである。
よって、計器工事作業者は、その作業実施に関して会社の相当に具体的な指示を受けて労務を提供しており、広い意味で会社の指揮監督の下に計器工事を施工していたことが認められる。
イ 一定の時間的場所的拘束
計器工事作業者は、会社が指定した作業日等において、原則として午前8時30分から午後5時までの時間帯の中で計器工事を施工することが求められ、また、施工先や施工期間は、担当する稼働エリア内で会社が「付託票」により指定することにより決定されており、労務提供について一定の時間的場所的な拘束を受けていたといえる。
(7)顕著な事業者性
ア 自己の才覚で利得する機会
計器工事作業者は、計器工事の施工に関係のない営業活動を禁止されており、会社の業務を遂行する過程において自己の才覚により利得する機会は存在しない。また、実態として、同業他社と兼業している者はほとんどいなかった。
イ 業務における損益の帰属
計器工事作業者は、会社と締結した請負契約により、計器工事の施工に関する工事遅延を回避するための措置、会社からの支給・貸与品等の毀損等及び瑕疵担保責任等に関する費用の負担、損害の賠償又は必要な処置を負担すると定められているが、想定外の利益が計器工事作業者に帰属することもないことを考慮すると、上記各条項の存在をもって、事業者性が顕著であるとまでは認められない。
ウ 他人労働力の利用可能性及び実態
会社は、計器工事作業者が計器工事の施工において補助者を利用することを禁止していないが、補助者を使用した計器工事作業者がいたとは認められない。
エ 業務に必要な機材・費用等の負担
計器工事作業者は、移動手段として使用する車両を用意し、燃料代も負担するが、ほかに負担するのは消火具、踏台、テジタルカメラや電動ドライバー等の汎用性のある器具類であり、計器工事に必須かつ高額な機材その他役務提供に必要な装備品や経費等の費用を負担しているのはむしろ会社であるといえる。
オ 確定申告、持続化給付金
計器工事作業者が確定申告をしていること及び持続化給付金を受給していることは、労働組合法上の労働者性の判断に当たって決定的な事情とはならない。
カ 上記アからオまでの事情は、いずれも顕著な事業者性を示すものとはいえない。
(8)以上のとおり、①計器工事作業者は、会社の計器工事の施工に不可欠ないし枢要な労働力として、会社の事業組織に組み入れられ、②会社が請負契約の中核となる契約内容を一方的・定型的に決定しており、③計器工事作業者に支払われる報酬は、労務供給の対価性を有すると解される。
また、④計器工事作業者は、提供すべき業務とその量について、あらかじめ契約によって工事計画件数として定められているが、その具体的内容は会社から交付される付託票による指示ないし依頼によって特定され、その指示ないし依頼には基本的に応ずべき関係にあり、⑤契約された工事計画件数を施工するに当たっては、広い意味で会社の指揮監督の下に労務の提供を行っており、また、一定の時間的場所的拘束が認められる一方、⑥顕著な事業者性は認められない。
これらの事情を総合的に勘案すれば、計器工事作業者は労働組合法上の労働者に当たるといえる。
2 令和2年2月25日から27日までの間の計器工事部長の発言について
(1)計器工事部長が、令和2年2月25日から27日までの間に、①組合員が、調査期日等に出席すること、裁判期日に出席すること、会社に対して団体交渉に応ずるよう要請行動を行うこと及び会社の親会社に対して会社が団体交渉に応ずるよう指導することを要請することについて、会社は、それらの組合活動の回数を記録している、②会社への発注会社は、計器工事作業者ともめている会社には発注しない、との趣旨の発言をしたことが認められる。
(2)この発言が支配介入に当たるか否かを検討するに、組合が、計器工事作業者が労働者であると主張し、会社に団体交渉を申し入れ、複数の不当労働行為救済申立てを行うなどしていた当時の労使関係を考慮すると、これら計器工事部長の発言は、組合員らに、組合加入及び組合活動を行うことについて動揺をもたらす発言といえ、会社が、組合の会社に対する影響力が高まることを懸念し、組合加入及び組合活動を抑制し、組合の会社における影響力を減殺することを狙ったものとみざるを得ず、組合の弱体化を企図した支配介入に当たる。
よって、令和2年2月25日から27日までの間の会社の計器工事部長の組合員に対する発言は、労働組合法第7条第3号に該当する。
3 令和2年度工事個数の割当てについて
(1)令和2年度の工事個数について
一人当たりの工事個数でみると、令和2年度の全計器工事作業者等の一人当たりの工事個数は2,932個、組合員らの一人当たりの工事個数は2,409個である。組合員らの平均は全体の平均の82.6%であり、令和2年度の一人当たりの工事個数だけをみても、不利益性があるといえる。
さらに、令和元年度の工事個数に対する令和2年度の工事個数をみると、①計器工事者等にあっては元年度は一人当たり4,768個、2年度は2,932個で、元年度の61.49%に減少しているのに対し、②組合員19名の一人当たりの工事個数は、元年度は5,569個、2年度は2,409個で、元年度の43.26%に減少している。
組合員らは、元年度には会社から概して高く評価されて多い工事個数を割り当てられていたともいえるが、令和2年度に割り振られた工事個数は少なく、元年度から2年度の計器工事個数の減少率という観点でみると、不利益の程度は更に大きいといえる。
(2)令和2年度の工事個数を提示し契約締結に至るまでの労使関係について
ア 計器工事作業者らの一部は、X1組合に加盟して分会を結成し、平成30年12月に組合が令和元年度の請負契約について団体交渉を申し入れたが、会社はこれを拒否し、組合が、東京都労働委員会に不当労働行為救済申立てを行った(30不93号事件)。また、組合は、令和元年9月には、会社が令和2年度の請負契約についての団体交渉に応じないとして、当委員会に不当労働行為救済申立てを行い(元不68号事件)、2年3月6日に30不93号事件の救済命令が交付されるなど、労使関係の対立が深まっていたことがうかがわれる。
イ 令和2年度の工事個数を提示し契約締結した頃の労使関係は、労使の対立が深まっており、令和2年2月25日から同月27日までの間に、計器工事部長は、支配介入に当たる発言をしていることからすれば、当時の労使関係は相当程度緊迫していたことがうかがわれる。
上記の状況下において、計器工事作業者の中でも高く評価されていた組合員らの令和元年度から2年度の計器工事個数の減少率が、非組合員である計器工事作業者の減少率より大きくなったことは不自然であるし、計器工事部長の発言を考慮すると、電力会社からの会社の受注件数が減少する状況下において、組合員らが分会を結成し、組合が、計器工事作業者が労働者であると主張して団体交渉を申し入れ、複数の不当労働行為救済申立てを行い、組合員らが、調査期日等や裁判期日に出席し、会社や親会社に要請を行ったことについて、それらを会社が記録していたことは、組合員らが活発な組合活動を行ったことに危機感を抱いた会社が、組合員らの活発な組合活動を把握するためであるといえ、その影響力を減殺するために組合員らの工事個数を減らすという不利益取扱いを行ったと認められる。
よって、会社が、組合員に対し、令和2年度(令和2年3月21日から3年2月20日までの間)の工事個数の割当てを減らしたことは、労働組合法第7条第1号及び第4号に該当する。
4 救済方法について
本件の救済としては、主文第1項のとおり、組合員らの令和2年度の工事個数を全計器工事作業者等と同等の減少率(元年度の61.49%)で割り当てたものとして取り扱い、既に支払った請負金額との差額の支払を命ずることとする。 |