労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京都労委令和2年(不)第30号・第93号
シェーンコーポレーション・シェーンコーポレーション(団体交渉拒否等)不当労働行為審査事件 
申立人  X1組合・X2支部(組合ら) 
被申立人  Y会社(会社) 
命令年月日  令和7年6月3日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①会社が、先行事件に係る東京都労働委員会の救済命令に従い、組合らに(有期雇用契約のパートタイム講師である組合員A3に対する業務の依頼回数を減らしたこと等に係る)文書(以下「本件文書」)の交付を行った後、A3との間に雇用契約関係がないと組合らに回答し、A3に対し業務を依頼しなかったこと、②人事総務課長B2がA3に対し、契約を締結する際は労働委員会の提訴取り下げも同時にお願いする旨のメール(以下「本件B2メール」)を送信したこと、③Administrative Sales Director B3がカウンセラーに対し、組合員A4への対応について注意喚起する内容のメール(以下「本件B3メール」)を送信したこと、④Area Manager B4がカウンセラーCに対し、「A4にありえないくらいのプレッシャーかけちゃってください」との文面を含む社内メール(以下「本件B4メール」)を送信したこと、⑤会社が組合員A5に対し、雇止め理由を示し、次年度の契約不更新を確認する契約確認書(以下「本件確認書」)を交付したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 東京都労働委員会は、②について労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(ⅰ)A3との雇用契約を締結するときに、同人に対し、組合らが申し立てた不当労働行為救済申立事件の取下げを要請してはならないこと、(ⅱ)文書交付等を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 会社は、組合らの組合員A3との雇用契約を締結するときに、同人に対し、組合らが申し立てた不当労働行為救済申立事件の取下げを要請してはならない。

2 会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を組合らに交付しなければならない。
 年 月 日
X1組合
 執行委員長 A1殿
X2支部
 執行委員長 A2殿
Y会社       
代表取締役B1
 当社の人事総務課長が、令和2年7月15日、貴組合らの組合員A3氏に対して送信した電子メールにおいて、同氏が当社との雇用契約を締結する際に、貴組合らが申し立てた不当労働行為救済申立事件の取下げを要請したことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。

3 会社は、前項を履行したときは、当委員会に速やかに文書で報告しなければならない。

4 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 会社が、令和元年9月30日に本件文書を交付した後、令和2年2月4日の回答書により、組合員A3との間に雇用契約関係がないと組合らに回答し、A3に対し業務の依頼を行わなかったことは、正当な組合活動を行ったことを理由とする不利益取扱い及び組合らの運営に対する支配介入に当たるか否か(争点1)

(1)契約更新手続について
 組合員A3は、会社との間で、平成26年3月を始期とし契約期間を6ヶ月とする契約を締結して以降、有期雇用契約を複数回締結しており、(平成28年2月末の契約終了後、契約書の取り交わしがないまま一定期間就労していたが、これは、当時、会社と申立外L社との講師派遣契約(A3が担当)の契約期間が終了していなかったという特定の状況における対応であったとみられ、それ以外には)雇用契約書が取り交わされていない期間にA3が就労していた事実は認められない。
 そして、会社は令和元年9月に契約更新の意思を示す文書をA3に送付したことがうかがわれ、また、令和7年1月5日に人事総務課長B2がA3に送信した本件B2メールでも、解雇はしておらず契約は保留中であると回答している。

(2)仕事の依頼について
 雇用契約書及び会社の運用によれば、会社は、パートタイム講師があらかじめ仕事が可能な日時を指定して要望した場合に授業を調整しているところ、A3は、無期転換申請書の受領確認を求めるメールを複数回送信していたものの、平成31年4月21日や令和元年8月31日の会社へのメールには仕事の依頼を要求する記載はなく、また、令和2年2月4日の団体交渉までにA3が会社に対して送ったメールのうち、仕事の依頼を要求する記載があるものは令和元年10月9日のメールのみであり、その記載も、「教育(講師)の仕事を受けることが可能なので、仕事の依頼を求める」旨の内容であって、具体的な候補日時の記載はなかった。

(3)これらの事実に照らせば、会社は、A3と雇用契約書を取り交わすことを拒否していないといえる。
 また、パートタイム講師の働き方は、自らの都合に合わせて業務を行うものであり、会社は、各講師の具体的に勤務可能な日時が不明であれば、仕事を調整できないのであるから、A3は、具体的に勤務可能な日程を提示する必要があったといえるし、パートタイム講師の稼働率をみても、令和2年の最繁忙期とされる11月において、登録のみで稼働していない講師も5割程度おり、業務を要望しない講師に対して会社が個別に連絡をしていないことも不自然ではない。
 そうすると、会社が①組合らに対し、令和2年2月4日の回答書によりA3との間に雇用契約関係がないと回答したことは、会社の認識する事実を答えたものであり、また、②A3に対し業務の依頼を行わなかったことは、同人との雇用契約がないこと及び同人が勤務可能な日程を会社に提示しなかったことによるものであって、A3が組合員であるが故に、同人に対し、仕事が依頼されなかったとみるのは困難である。
 したがって、これらの会社の行為は、同人が正当な組合活動を行ったことを理由とする不利益取扱いにも、組合らの運営に対する支配介入にも当たるとはいえない。

2 令和2年7月15日、人事総務課長B2が組合員A3に対し本件B2メールを送信したことは、正当な組合活動を行ったことを理由とする不利益取扱い、組合らの運営に対する支配介入及び不当労働行為救済申立てをしたことを理由とする不利益取扱いに当たるか否か(争点2)

(1)本件B2メールには、会社はA3を解雇はしておらず契約が保留中であること、A3が雇用契約を締結するには法人営業部との手続が必要であることの説明にとどまらず、「その際には労働委員会の提訴取り下げも同時にお願いいたします」との記載もある。
 この記載について、会社は、「A3が改めて仕事を希望し、雇用契約を締結するのであれば、紛争の目的がなくなるため、その点を記載しただけであり、取下げを強制するものではない」と主張する。
 しかし、この記載は、労働委員会への不当労働行為救済申立てを行っている組合らの組合員にとっては、雇用契約締結には当該申立ての取下げが必要であると受け止め得るものであり、A3の組合活動意思が萎縮し、組合活動一般に対して制約的効果が及ぶようなものといえる。
 そして、組合らは、会社からA3の業務依頼回数が削減されたとして、その回復を求めているのであるから、A3と会社との雇用契約が締結されたとしても、会社がA3に対して適切な回数の業務を依頼しない限り、組合らの不当労働行為救済申立ての目的は達成しない。そうすると、会社の主張は、組合らの申立ての目的を理解せず、A3の業務依頼回数の削減問題が未解決のまま、その問題に係る申立てを取り下げることを、A3との雇用契約締結の際に要請したものとみざるを得ない。
 これらから、本件B2メールは、不当労働行為救済制度を通じて組合員の労働問題の解決を図ろうとした組合らの運営に対する支配介入に該当する。

(2)組合らは、「本件B2メールは、A3に関連する請求事項を取り下げることを条件に、A3の復職を認めるものであり、組合らが取下げをしなかったため、会社はA3の復職を認めず、業務の依頼をしなかったのであって、これは、正当な組合活動及び不当労働行為救済申立てを理由とする不利益取扱いに該当する」と主張する。
 しかし、本件B2メールの送信後に、A3が会社との間で雇用契約締結の手続をとったとの疎明はなく、そのため、A3が当該手続をとったにもかかわらず、組合らが不当労働行為救済申立ての取下げをしていないことを理由に、会社がA3の復職を拒んだと認めるに足りる疎明もないことから、B2メールの送信が不利益取扱いに当たるとまではいえない。

3 令和2年4月2日、Administrative Sales Director(ASD)B3がカウンセラーに対し、本件B3メールを送信したことは、組合らの運営に対する支配介入に当たるか否か(争点3)

(1)本件B3メールの内容等について

 本件B3メールの内容は、組合員A4が組合の中心人物であることを伝え、同人との会話に注意するよう指示し、組合らの情報収集がなされた場合には消極的な対応を求めるものとなっており、組合らの情報収集活動を抑制する意図をうかがうこともできるなど、不適切なものといわざるを得ない。
 しかし、一方で、全体の趣旨としては組合らの情報収集活動を積極的に遮断することを指示するものなどではなく、A4と直接接することのあるカウンセラーらが無自覚又は不用意な形で会社の情報を不必要に漏洩したりすることのないよう注意喚起するという程度のものであるから、このメールによって、直ちに組合らの情報収集活動等が阻害されたり、ひいては組合らの弱体化等の影響が生じることは考え難く、実際、このメールにより組合らの組合活動に具体的な影響があったと認めるに足りる疎明はない。

(2)本件B3メールの態様等について

 B3は、スクール第1運営部に属するP運営課のASDであり、組織図上は「課長」や「地区責任者」と記載される、P地区のリーダーである。B3は、講師らの勤務状況を把握する役割を有し、人事作用へ事実上の影響を有する立場にあるとみることができ、同人が担当地区のカウンセラーに対して送信した本件B3メールは、その職責に基づく業務上の指示といえるから、会社の行為といえる。

(3)これらを踏まえると、本件B3メールは、(A4のX2支部執行委員長就任時期の約3週間後に送信されており、当時、組合らと会社は対立的な労使関係にあったこともうかがわれ、その内容は、組合らの情報収集活動を抑制する意図も推察され、また、組合らの印象を悪くする不適切な表現を含むものでもあるが)全体の趣旨としては、A4と直接接することがあるカウンセラーに対し、無自覚又は不用意な形で会社の情報を不必要に漏洩したりすることのないよう注意喚起するものであり、かつ、組合らの具体的な情報収集活動を想定したものではないから、実質的に組合活動影響を与えるおそれがあったとまではいえない。
 さらに、本件B3メールは、受信者が非組合員であるカウンセラー3名に限定されており、組合員に向けたメッセージではない。当時、カウンセラーには支部の組織化が及んでいなかったことも考慮すると、組合の組織運営に直接影響を与えるおそれがあったとまではいえない。
 以上からすれば、本件B3メールは、組合らの運営や活動に影響を与えるものであるとまではいえない。
 よって、B3がカウンセラーに対し、本件B3メールを送信したことは、組合らの運営に対する支配介入には当たらない。

4 令和2年8月5日、Area Manager B4がカウンセラーCに対し、本件B4メールを送信したことは、組合らの運営に対する支配介入に当たるか否か(争点4)

(1)本件B4メールについて、組合らは、「カウンセラーCから、A4のストライキに伴う授業キャンセルについて相談を受けたB4が、X2支部執行委員長である同人にストライキをやめさせるために、A4にプレッシャーを掛けるよう指示している内容である」と主張する。
 しかし、本件B4メールは、カウンセラーCからの、同じ生徒に対する2回目のA4の授業のキャンセルの説明が無事済んだことの報告等を記載したメールに対する返信である。B4はCの上司であるものの、業務の前任者であり、Cに引継ぎを行うなど、一定の親しい間柄であることを踏まえると、やや砕けた表現は親密な間柄ならではのものであり、表現自体は適切さを欠くところがあるものの、メールの趣旨は、「これ以上、生徒へ授業のキャンセルの連絡をするような事態とならないよう努力する」というCを励まそうというものであって、前任者と後任者のやり取りにとどまるものであり、A4にストライキをやめさせるよう指示したとみることはできず、組合活動に影響を及ぼすものであるとはいえない。

(2)よって、B4がカウンセラーCに対し、本件B4メールを送信したことは、組合の運営に対する支配介入に当たるとはいえない。

5 会社が組合員A5に対し、令和2年12月23日付け本件確認書を交付したことは、組合員であること又は正当な組合活動を行ったことを理由とする不利益取扱い及び組合らの運営に対する支配介入に当たるか否か(争点5)

(1)A5の雇止め理由について

ア 欠勤時の診断書の不提出
 会社が病欠した講師に対し、診断書の提出を求めることができることは、就業規程第18条に規定されているところ、会社が診断書提出の必要性を複数回説明し、説得を試みたにもかかわらず、A5はこれに応じておらず、同条に違反する。
 会社は、診断書の不提出について、業務遂行上の対応として問題視したものであるといえ、会社が就業規程違反であると判断したことは、不合理とはいえない。

イ 新型コロナウイルスに関連した執ような問合せ
 Q校に新型コロナウイルス感染症のり患者が発生した際に、A5が、上司及び同校スタッフと複数回のやり取りを行った事実が認められる。これらの行為が直ちに会社の業務を妨害すると認定するには疎明が十分とはいえないが、会社がこれを業務運営上の支障と捉えたことや、A5の行動を職場内のコミュニケーションや連携において調和を欠くと評価したことも不合理とまではいえない。

ウ 担当クラスの授業遅延
 会社が問題視した点は、A5による授業の遅延それ自体よりも、遅延発生後における同人の対応であり、A5には、ペーシング(授業の進度)の維持のために、会社が通知したカリキュラム方針に従わず、独自にペースを早めたり、飛ばしたユニットへ戻ったりする行為があった。
 さらに、A5がストライキによって欠勤すること自体は労働者としての正当な権利であるものの、カリキュラム方針に従わず、ペーシングを乱した結果、会社の担当者が代行講師を配置する際に調整が困難になる状況が生じていた。
 このようなA5のペーシングの乱れや独自の業務進行は、生徒に悪影響を与えたり、他の講師や代行講師を配置する者にとって負担であると評価し得るから、会社がこれを雇止めの一因として問題視することが不合理であるとまではいえない。

エ これらの事情に照らすと、会社が、A5が診断書の提出を拒んだ行為を業務命令違反であると判断したこと、Q校で新型コロナウイルス感染症のり患者が出た際の問合せが多かったこと及び授業のペーシングの遅延について、同人の行為や言動を職場内における柔軟性や協調性に欠けるものと評価し、雇止め理由としたことは、業務運営上の必要性に基づくものとみるべきである。

(2)組合らの主張について

ア 組合の中心人物としての認識と雇止めの理由
 組合らは、「会社がA5を組合らの中心人物として認識し、これを標的として雇止めを行った」旨を主張するが、A5が支部の書記長に就任したのが、A5に係る雇止めに係る通知の到達時期よりも後であることなどを踏まえると、組合らの主張は、採用できない。
 これらから、会社によるA5の雇止めが組合員であることを理由とした不利益取扱いに基づくものであると認めることはできない。

イ 紛争解決交渉における取下げ条件について
 組合らは、「A5の雇止めは、その撤回を交換条件として会社が裁判所等に係属している全ての事件の取下げなど、組合らに不利な対応を強いるために行われた」と主張する。
 確かに、会社が団体交渉においてA5の雇止め撤回の条件を提示したことは認められるものの、それは、組合らがA5の雇止めを撤回することは可能かと尋ねたのに対して答えたものであり、裁判所等に係属している全ての事件の取下げを含む紛争の全面的解決に利用するために、会社がA5の雇止めを先行して行ったと認めるに足りる具体的な疎明はない。

(3)これらを踏まえると、A5の雇止め理由は、同人の業務遂行態度や柔軟性、協調性の欠如を理由とするものとみるほかなく、その他に、反組合的な意図をもって契約更新を拒んだといえる事情も認められない。
 したがって、会社がA5を雇止めしたことは、同人が組合員であること又は正当な組合活動を行ったことを理由とする不利益取扱い及び組合らの運営に対する支配介入に該当しない。 

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